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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059436
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】評価装置、評価方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01H 9/00 20060101AFI20240423BHJP
   G01W 1/02 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
G01H9/00 E
G01W1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167111
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】河野 航
(72)【発明者】
【氏名】美島 咲子
(72)【発明者】
【氏名】樋野 智之
(72)【発明者】
【氏名】松下 崇
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AB02
2G064AB23
2G064BA02
2G064BC02
2G064BC12
2G064BC33
2G064CC02
2G064CC17
2G064CC35
2G064CC46
2G064DD08
2G064DD14
(57)【要約】
【課題】風向を検知することが可能な評価装置、評価方法、及びプログラムを提供すること。
【解決手段】本開示に係る評価装置(20)は、柱間を架空する光ファイバ上で発生した振動の時空間データをセンサから取得する取得部(21)と、所定の分析区間毎に、振動の時空間データに基づいて、その分析区間での風速及び風の伝搬速度を評価し、評価された風速及び風の伝搬速度に基づいて、その分析区間での風向を評価する評価部(22)と、を備える。
【選択図】図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱間を架空する光ファイバ上で発生した振動の時空間データをセンサから取得する取得部と、
所定の分析区間毎に、前記時空間データに基づいて、当該分析区間での風速及び風の伝搬速度を評価し、評価された風速及び風の伝搬速度に基づいて、当該分析区間での風向を評価する評価部と、を備える、評価装置。
【請求項2】
前記評価部は、
前記所定の分析区間毎に、前記時空間データに基づいて、当該分析区間の前後2つの隣接区間の間の振動の到来時間差を評価し、評価された到来時間差に基づいて、当該分析区間での風の伝搬速度を評価する、
請求項1に記載の評価装置。
【請求項3】
前記所定の分析区間は、前記柱間の区間である、
請求項2に記載の評価装置。
【請求項4】
前記評価部は、
前記時空間データに基づいて、前記光ファイバ上の各位置毎に、振動が発生した時間と、振動の振動強度と、を表す、振動の時空間分布を導出し、
前記所定の分析区間毎に、当該分析区間での前記時空間分布の直線の傾きを評価し、評価された傾きに基づいて、当該分析区間での風の伝搬速度を評価する、
請求項1に記載の評価装置。
【請求項5】
前記所定の分析区間は、前記柱のうちクロージャを含む前記柱間の区間である、
請求項4に記載の評価装置。
【請求項6】
前記評価部は、
前記所定の分析区間毎に、前記時空間データに基づいて、当該分析区間での振動の振動強度を評価し、評価された振動強度に基づいて、当該分析区間での風速を評価する、
請求項1に記載の評価装置。
【請求項7】
評価装置により実行される評価方法であって、
柱間を架空する光ファイバ上で発生した振動の時空間データをセンサから取得する取得ステップと、
所定の分析区間毎に、前記時空間データに基づいて、当該分析区間での風速及び風の伝搬速度を評価し、評価された風速及び風の伝搬速度に基づいて、当該分析区間での風向を評価する評価ステップと、を含む、評価方法。
【請求項8】
前記評価ステップでは、
前記所定の分析区間毎に、前記時空間データに基づいて、当該分析区間の前後2つの隣接区間の間の振動の到来時間差を評価し、評価された到来時間差に基づいて、当該分析区間での風の伝搬速度を評価する、
請求項7に記載の評価方法。
【請求項9】
前記所定の分析区間は、前記柱間の区間である、
請求項8に記載の評価方法。
【請求項10】
前記評価ステップでは、
前記時空間データに基づいて、前記光ファイバ上の各位置毎に、振動が発生した時間と、振動の振動強度と、を表す、振動の時空間分布を導出し、
前記所定の分析区間毎に、当該分析区間での前記時空間分布の直線の傾きを評価し、評価された傾きに基づいて、当該分析区間での風の伝搬速度を評価する、
請求項7に記載の評価方法。
【請求項11】
前記所定の分析区間は、前記柱のうちクロージャを含む前記柱間の区間である、
請求項10に記載の評価方法。
【請求項12】
前記評価ステップでは、
前記所定の分析区間毎に、前記時空間データに基づいて、当該分析区間での振動の振動強度を評価し、評価された振動強度に基づいて、当該分析区間での風速を評価する、
請求項7に記載の評価方法。
【請求項13】
コンピュータに、
柱間を架空する光ファイバ上で発生した振動の時空間データをセンサから取得する取得手順と、
所定の分析区間毎に、前記時空間データに基づいて、当該分析区間での風速及び風の伝搬速度を評価し、評価された風速及び風の伝搬速度に基づいて、当該分析区間での風向を評価する評価手順と、を実行させるプログラム。
【請求項14】
前記評価手順では、
前記所定の分析区間毎に、前記時空間データに基づいて、当該分析区間の前後2つの隣接区間の間の振動の到来時間差を評価し、評価された到来時間差に基づいて、当該分析区間での風の伝搬速度を評価する、
請求項13に記載のプログラム。
【請求項15】
前記所定の分析区間は、前記柱間の区間である、
請求項14に記載のプログラム。
【請求項16】
前記評価手順では、
前記時空間データに基づいて、前記光ファイバ上の各位置毎に、振動が発生した時間と、振動の振動強度と、を表す、振動の時空間分布を導出し、
前記所定の分析区間毎に、当該分析区間での前記時空間分布の直線の傾きを評価し、評価された傾きに基づいて、当該分析区間での風の伝搬速度を評価する、
請求項13に記載のプログラム。
【請求項17】
前記所定の分析区間は、前記柱のうちクロージャを含む前記柱間の区間である、
請求項16に記載のプログラム。
【請求項18】
前記評価手順では、
前記所定の分析区間毎に、前記時空間データに基づいて、当該分析区間での振動の振動強度を評価し、評価された振動強度に基づいて、当該分析区間での風速を評価する、
請求項13に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、評価装置、評価方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバセンシングと呼ばれる技術により、光ファイバ上の任意の区間で生じる振動を検知することが可能である。具体的には、光ファイバセンシングでは、光ファイバセンサは、コヒーレントなパルス光を光ファイバに入力し、そのパルス光の後方散乱光を光ファイバから受信する。このとき、光ファイバセンサは、光ファイバ上の2点でそれぞれ発生した後方散乱光の位相差を検知することで、その2点間の区間である位相差評価区間(ゲージ長区間)において光ファイバ上で発生する振動を検知する。このような光ファイバセンサは、位相感知OTDR(Phase-Sensitive Optical Time Domain Reflectometer)又はDAS(Distributed Acoustic Sensor)等によって実現されるが、以下では、光ファイバセンサがDASであるものとして説明する。
【0003】
また、光ファイバを含む既設の通信用光ファイバケーブルは、地表から離れた部分に敷設されている場合がある。そのような通信用光ファイバケーブルの例としては、電柱や鉄塔等の柱間を架空する光ファイバケーブル、OPGW(Optical Ground Wire。光ファイバ複合架空地線)等が挙げられる。
【0004】
また、DASは、光ファイバ上で発生した振動を示す情報に基づいて、光ファイバ周辺の環境や異常を検知することが可能である。光ファイバ周辺の環境の例としては、雨や落雷等が挙げられる。また、異常の例としては、異常音等が挙げられる。
【0005】
ところで、風向や風速等の風の情報は、気象情報のうち最も重要な指標の1つである。
そのため、光ファイバセンサによって、柱間を架空する光ファイバを利用して、風向や風速を評価することができれば、一部の気象変化に由来する環境変化のモニタリングが、広範囲かつ高密度に実施可能となる。
【0006】
例えば、風向や風速の評価ができれば、台風等の強風を検知した場合に、強風発生箇所に対して局所的にアラートを送出することが可能となる。この場合、アラートの送出先は、例えば、強風発生箇所を走行する車両や鉄道、該当箇所付近を飛行する航空機等である。
【0007】
また、風向や風速の評価ができれば、送電線の状態監視に寄与し得る。例えば、送電線に雪や氷が付着した状態で強風を検知した場合には、送電線を管理する管理者に対してギャロッピング現象を警戒するアラートを送出することが可能となる。また、ドローンを使用して送電線の保全監視をする場合には、風向や風速の情報は参照情報になり得る。
【0008】
そのため、最近は、光ファイバを利用して、風の検知や測定を行う技術も提案されている。例えば、特許文献1に記載の技術では、光ファイバ、低抵抗金属線、及び高抵抗金属線を有し、切れ込み及び接続金具が設けられた特殊な光ファイバケーブルを使用する。光ファイバケーブルは、低抵抗金属線へ電力が供給されると発熱する。このとき、光ファイバ内で発生する後方散乱光に含まれるラマン散乱光の強度の経時変化を基に温度の経時変化を測定し、測定された温度の経時変化を基に風速を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011-085540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載の技術は、風速を検知することはできるものの、風向を検知することができないという問題がある。
【0011】
そこで本開示の目的は、上述した課題を鑑み、風向を検知することが可能な評価装置、評価方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様による評価装置は、
柱間を架空する光ファイバ上で発生した振動の時空間データをセンサから取得する取得部と、
所定の分析区間毎に、前記時空間データに基づいて、当該分析区間での風速及び風の伝搬速度を評価し、評価された風速及び風の伝搬速度に基づいて、当該分析区間での風向を評価する評価部と、を備える。
【0013】
一態様による評価方法は、
評価装置により実行される評価方法であって、
柱間を架空する光ファイバ上で発生した振動の時空間データをセンサから取得する取得ステップと、
所定の分析区間毎に、前記時空間データに基づいて、当該分析区間での風速及び風の伝搬速度を評価し、評価された風速及び風の伝搬速度に基づいて、当該分析区間での風向を評価する評価ステップと、を含む。
【0014】
一態様によるプログラムは、
コンピュータに、
柱間を架空する光ファイバ上で発生した振動の時空間データをセンサから取得する取得手順と、
所定の分析区間毎に、前記時空間データに基づいて、当該分析区間での風速及び風の伝搬速度を評価し、評価された風速及び風の伝搬速度に基づいて、当該分析区間での風向を評価する評価手順と、を実行させる。
【発明の効果】
【0015】
上述した態様によれば、風向を検知することが可能な評価装置、評価方法、及びプログラムを提供できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】1次元方向に並んだ柱間を架空する光ファイバを用いたセンシングシステムの構成例を示す図である。
図2】振動の時空間分布の例を示す図である。
図3】実施の形態1に係る評価装置の構成例を示すブロック図である。
図4】実施の形態1に係る評価装置が適用されるセンシングシステムの構成例を示す図である。
図5】実施の形態1に係る評価装置で得られる、光ファイバ上で発生した振動の時空間分布の例を示す図である。
図6】実施の形態1に係る評価装置で得られる、光ファイバ上で発生した振動の時空間データ及び時空間分布の例を示す図である。
図7】実施の形態1に係る評価装置で得られる、光ファイバ上で発生した振動の時空間データ及び時空間分布の例を示す図である。
図8】実施の形態1に係る評価装置で評価される風向の例を示す図である。
図9】実施の形態1に係る評価装置で評価される風向の例を示す図である。
図10】実施の形態1に係る評価装置により出力される画面の例を示す図である。
図11】実施の形態1に係る評価装置の概略的な動作の流れの例を示すフローチャートである。
図12】実施の形態2に係る評価装置で得られる、光ファイバ上で発生した振動の時空間分布の例を示す図である。
図13】実施の形態3に係る評価装置の構成例を示すブロック図である。
図14】各実施の形態に係る評価装置を実現するコンピュータのハードウェア構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。なお、以下の記載及び図面は、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされている。また、以下の各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。また、以下で示す具体的な数値等は、本開示の理解を容易とするための例示にすぎず、これに限定されるものではない。
【0018】
本開示の各実施の形態を説明する前に、各実施の形態の前提事項について説明する。
まず、図1を参照して、1次元方向に並んだ柱間を架空する光ファイバを用いたセンシングシステムの構成例について説明する。
図1に示されるセンシングシステムでは、電柱や鉄塔等である柱A~柱Cに既設の光ファイバが懸架されている。また、光ファイバの一端には、DASが接続されている。
【0019】
柱間を架空する光ファイバは、風によって揺らされるため、振動が発生する。DASは、光ファイバ上の各位置で発生した振動を検知する。このとき、既設の光ファイバ及び既設の光ファイバを含む既設の通信用光ファイバケーブルを使用できる。そのため、特許文献1に示されるような特殊な光ファイバケーブルを使用する必要は無い。
【0020】
また、DASからは、光ファイバ上で発生した振動の時空間データを取得し、取得された振動の時空間データに基づいて、風速及び風向を算出する。振動の時空間データは、光ファイバ上の各位置毎に、その位置で発生した振動の振動強度を時系列に表したデータである。
【0021】
続いて、図2を参照して、DASから取得された振動の時空間データから得られる、振動の時空間分布の例について説明する。図2に示される振動の時空間分布は、光ファイバ上の各位置毎に、振動が発生した時間と、その振動の振動強度と、を表したデータである。なお、図2において、線の濃淡は、振動強度を表し、線の濃度が高いほど、振動強度が高いことを示している。また、横軸は、DASからの光ファイバの長さを示し、縦軸は、DASによる測定時間を示している(後述の図5図6の上図、図7の上図、及び図12において同じ)。
【0022】
ここで、柱間を架空する光ファイバ上で発生する振動は、風速と相関がある。例えば、風が強い場合には、振動強度も大きくなる。
また、光ファイバを懸架する柱間を1スパンと定義すると、柱間(1スパン)では、瞬時的に振動が伝搬し、比較的長い時間で振動が緩和する。そのため、柱間での振動の伝搬時間差を評価することが可能である。
【0023】
また、図2に示されるような振動の時空間分布によって、風による振動軌跡を常時監視することが可能である。そのため、光ファイバの敷設方向に対する風向を評価することが可能である。
【0024】
以下で説明する本開示の各実施の形態では、上述した前提の下で、所定の分析区間(例えば、柱間のスパン)毎に、その分析区間での風速及び風向を評価する。
以下、本開示の各実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
<実施の形態1>
まず、図3を参照して、本実施の形態1に係る評価装置10の構成例について説明する。
図3に示されるように、本実施の形態1に係る評価装置10は、風速評価部11と、風向評価部12と、を備えている。
【0026】
風速評価部11は、DASから、光ファイバ上で発生し、DASにより検知された振動の時空間データを入力(取得)する。また、風速評価部11は、光ファイバの敷設情報又は光ファイバを懸架する柱の位置情報を入力(取得)する。そして、風速評価部11は、柱間のスパン毎に、そのスパンでの振動の振動強度に基づいて、そのスパンでの風速を評価する。また、風速評価部11は、柱間のスパン毎に、そのスパンの前後2つの隣接スパン間での振動の到来時間差に基づいて、そのスパンでの風の伝搬速度を評価する。
【0027】
風向評価部12は、柱間のスパン毎に、そのスパンでの風速及び風の伝搬速度に基づいて、そのスパンでの風向を評価する。また、風向評価部12は、光ファイバの敷設情報又は柱の位置情報と併せて、各スパンの風速及び風向等の情報を出力する。
【0028】
以下、本実施の形態1に係る評価装置10について、より詳細に説明する。
まず、図4を参照して、本実施の形態1に係る評価装置10が適用されるセンシングシステムの構成例について説明する。
【0029】
図4に示されるセンシングシステムでは、柱A~柱Eには、クロージャ(光ファイバの融着部及び余長部)が含まれている。光ファイバのクロージャ部分は、柱間を架空している部分と比較して、振動強度が弱く、振動パターンが大きく変化するという特徴がある。
【0030】
また、クロージャが含まれる柱とクロージャが含まれる柱の間(例えば、柱Aと柱Bの間)には、余長を含まない懸架方式で光ファイバを懸架する柱(図中、例えば、柱A-1等と表記)が設けられている。すなわち、このような柱A-1等の柱には、クロージャが含まれていない。
【0031】
以下では、本実施の形態1に係る評価装置10は、図4に示されるセンシングシステムに適用されると仮定する。
また、光ファイバの敷設情報又は柱の位置情報によって、全ての柱の空間座標は取得済みであると仮定する。
また、柱B付近から、柱A~柱Eが配置された全領域に対して一様に北風(風向0°)が生じると仮定する。
【0032】
続いて、図5を参照して、本実施の形態1に係る評価装置10で得られる、光ファイバ上で発生した振動の時空間分布の例について説明する。なお、図5の下図は、ある測定時間帯において、柱Eと終端の間で発生した振動の時空間分布を拡大したものである。
【0033】
図5に示されるように、柱B付近から他の柱に向けて風が吹くことで、光ファイバが振動する。
また、柱間(1スパン)では、瞬時的(例えば、1秒以内)に振動が伝搬し、比較的長い時間(例えば、10~60秒程度)で振動が緩和する。
【0034】
続いて、図6及び図7を参照して、風速評価部11の動作例について説明する。
図6の下図は、柱Eと柱E-1間の中心点に相当する光ファイバ上の位置で発生した振動の時空間データの例を示している。なお、図6の下図において、横軸は、DASによる測定時間を示し、縦軸は、振動強度を示している(後述の図7の下図において同じ)。また、図6の上図は、ある測定時間帯において、柱Eと終端の間で発生した振動の時空間分布の例を示している。
【0035】
風速評価部11は、柱間のスパン毎に、そのスパン内の光ファイバ上の各位置の振動強度を、空間方向に平滑化すると共に、時間方向に平滑化(移動平均)する。これにより、強度データ
を得る。なお、空間方向の平滑化と時間方向の平滑化(移動平均)は、順番を問わず、どちらの処理を先に行っても良い。
図6は、柱Eと柱E-1間のスパンの強度データを求める例である。
【0036】
ここで、強度データ
は、風速との間に強い相関がある。
【0037】
そこで、風速評価部11は、強度データ
を、風速指標に変換する。
【0038】
風速指標は、例えば、以下の数式を用いて、算出すれば良い。
上述した風速指標の例において、A及びBは共に、時不変なパラメータである。そのため、任意の時間において、対象とする測定点に最も近い位置にある風速計の値を用いて、A及びBを校正することが好適である。
【0039】
風速評価部11は、以上のようにして、全てのスパンでv1(≧0)を評価する。v1は、対象とするスパンでの風速に相当する。
ただし、v1だけでは、風向の情報は得られない。
そこで、風速評価部11は、さらに、以下の動作を行う。
【0040】
図7の下図は、柱Eと柱E-1間の中心点に相当する光ファイバ上の位置及び柱E-2と柱E-3間の中心点に相当する光ファイバ上の位置のそれぞれで発生した振動の時空間データの例を示している。また、図7の上図は、ある測定時間帯において、柱Eと終端の間で発生した振動の時空間分布の例を示している。
【0041】
風速評価部11は、柱間のスパン毎に、そのスパンの前後2つの隣接スパンを選択し、選択された2つの隣接スパン間での振動の到来時間差を評価する。振動の到来時間差は、例えば、相互相関法を用いて評価すれば良い。
【0042】
図7は、柱E-1と柱E-2間のスパンでの風の伝搬速度を評価する例である。ここでは、柱Eと柱E-1間のスパンと、柱E-2と柱E-3間のスパンと、が隣接スパンとして選択されている。また、2つの隣接スパンの各々の中心点で振動強度のピーク値が得られた時間の差分が、振動の到来時間差として評価されている。
【0043】
ここで、上記で選択された2つの隣接スパン間の距離は、光ファイバの敷設情報又は柱の位置情報によって、取得済みであると仮定する。2つの隣接スパン間の距離は、例えば、2つの隣接スパンの各々の中心点の間の距離とすることができる。
【0044】
そこで、風速評価部11は、柱間のスパン毎に、そのスパンについて評価された振動の到来時間差及びそのスパンについて選択された2つの隣接スパン間の距離に基づいて、そのスパンでの風の伝搬速度v2を評価する。
【0045】
風の伝搬速度(v2)は、例えば、以下の数式を用いて、算出すれば良い。
風速評価部11は、以上のようにして、全てのスパンでv2を評価する。v2は、対象とするスパンでの風の伝搬速度に相当する。
【0046】
続いて、図8図10を参照して、風向評価部12の動作例について説明する。
風向評価部12は、柱間のスパン毎に、そのスパンで評価された風速v1及び風の伝搬速度v2を用いて、v1/v2を算出する。
【0047】
ここで、v1/v2≒±1である場合には、風向評価部12は、図8に示されるように、風は、光ファイバに対して略平行に伝搬されていると評価する。
一方、v1/v2≒0である場合には、風向評価部12は、図9に示されるように、風は、光ファイバに対して略垂直に伝搬されていると評価する。
【0048】
風向評価部12は、以上のようにして、全てのスパンでv1/v2を評価する。v1/v2は、対象とするスパンでの風向に相当する。
そして、風向評価部12は、光ファイバの敷設情報又は柱の位置情報と併せて、各スパンでの風速v1、風の伝搬速度v2、及び風向v1/v2の情報を出力する。
【0049】
このとき、風向評価部12は、図10に示されるように、各スパンの中心の座標を起点として、光ファイバに沿ったベクトル(図中、破線の矢印で表記)を可視化した画面を作成し、この画面を出力しても良い。
【0050】
また、光ファイバの敷設形態によっては、図10の注目領域のように、光ファイバが略垂直に近い曲げられた領域が存在する場合がある。この場合、風向評価部12は、注目領域内のベクトルの足し合わせによって2次元的な風向を推定しても良い。
【0051】
続いて、図11を参照して、本実施の形態1に係る評価装置10の概略的な動作の流れの例について説明する。なお、ここでは、風速評価部11は、光ファイバの敷設情報又は柱の位置情報を取得済みであると仮定する。
【0052】
図11に示されるように、まず、風速評価部11は、DASから、光ファイバ上で発生した振動の時空間データを取得する(ステップS11)。
次に、風速評価部11は、スパン毎に、そのスパンでの振動の振動強度に基づいて、そのスパンでの風速を評価する(ステップS12)。
【0053】
次に、風速評価部11は、スパン毎に、そのスパンの前後2つの隣接スパン間での振動の到来時間差に基づいて、そのスパンでの風の伝搬速度を評価する(ステップS13)。
その後、風向評価部12は、スパン毎に、そのスパンでの風速及び風の伝搬速度に基づいて、そのスパンでの風向を評価する(ステップS14)。
【0054】
上述したように本実施の形態1によれば、風速評価部11は、DASから、光ファイバ上で発生した振動の時空間データを取得し、スパン毎に、そのスパンでの振動の振動強度に基づいて、そのスパンでの風速を評価すると共に、そのスパンの前後2つの隣接スパン間での振動の到来時間差に基づいて、そのスパンでの風の伝搬速度を評価する。また、風向評価部12は、スパン毎に、そのスパンでの風速及び風の伝搬速度に基づいて、そのスパンでの風向を評価する。そのため、風速だけでなく、風向を検知することも可能である。
【0055】
また、本実施の形態1によれば、風速及び風向を検知するに際して、特許文献1に記載されているような、特殊な光ファイバケーブル(光ファイバ、低抵抗金属線、及び高抵抗金属線を有し、切れ込み及び接続金具が設けられた光ファイバケーブル)を使用する必要が無い。そのため、既設の光ファイバ及び既設の通信用光ファイバケーブルを使用して、風速及び風向を検知することが可能である。
【0056】
<実施の形態2>
本実施の形態2は、上述した実施の形態1と比較して、構成自体は同様であるが、一部の動作が異なる。
具体的には、本実施の形態2は、風速評価部11において、各スパンでの風の伝搬速度v2を評価する動作が、上述した実施の形態1と異なる。
【0057】
そこで以下では、図12を参照して、本実施の形態2に係る風速評価部11において、各スパンでの風の伝搬速度v2を評価する動作の例について説明する。
図12は、本実施の形態2に係る評価装置10で得られる、光ファイバ上で発生した振動の時空間分布の例を示す図である。
【0058】
風速評価部11は、振動の時空間分布を時間方向及び空間方向に平滑化する。平滑化には、例えば、メディアンフィルタを用いることができる。
また、風速評価部11は、分析区間の区画分けを行う。ここでは、クロージャが含まれる柱とクロージャが含まれる柱の間(例えば、柱Aと柱Bの間)を1つの分析区間とし、分析区間I~VIに区画分けを行うと仮定する。
【0059】
また、風速評価部11は、分析区間I~VI毎に、その分析区間内の振動の時空間分布に対して直線群の傾きを算出する。例えば、分析区間I~VI毎に、以下のようにして、直線の傾きを算出する。まず、分析区間に含まれる、振動の時空間分布の各直線に対して、エッジ強調処理及びハフ(Hough)変換処理を行って、各直線の傾きを求める。そして、各直線の傾きを集計し、各直線の傾きの平均値、最大値、又は最小値を、その分析区間における、振動の時空間分布の直線の傾きとする。
【0060】
また、風速評価部11は、分析区間I~VI毎に、その分析区間について算出された傾きを速度に変換する。この変換された速度が、対象とする分析区間での風の伝搬速度v2に相当する。
以上のようにして、風速評価部11は、全ての分析区間I~VIのv2を算出する。
【0061】
ここで、本実施の形態2では、クロージャが含まれる柱間を1つの分析区間としているが、上述した実施の形態1では、クロージャの有無を問わず、柱間のスパンを1つの分析区間としている。
【0062】
そのため、分析区間I~VIの中には、複数のスパンが含まれる場合もある。この場合、例えば、複数のスパンの各々について算出された風速v1の平均値、最大値、又は最小値を算出し、得られた値を、対象とする分析区間での風速v1とすれば良い。
【0063】
このように、本実施の形態2では、風速評価部11は、分析区間I~VI毎に、その分析区間での風速v1及び風の伝搬速度v2を評価している。
そのため、風向評価部12も、分析区間I~VI毎に、その分析区間で評価された風速v1及び風の伝搬速度v2を用いて、その分析区間でのv1/v2を算出することになる。
【0064】
上述したように本実施の形態2によれば、風速評価部11は、クロージャが含まれる柱間を1つの分析区間とし、分析区間の区画分けを行う。また、風速評価部11は、分析区間毎に、その分析区間での振動の強度に基づいて、その分析区間での風速を評価すると共に、その分析区間での振動の時空間分布の直線の傾きに基づいて、その分析区間での風の伝搬速度を評価する。また、風向評価部12は、分析区間毎に、その分析区間での風速及び風の伝搬速度に基づいて、その分析区間での風向を評価する。そのため、上述した実施の形態1と同様に、風速だけでなく、風向を検知することも可能である。また、その他の効果も、上述した実施の形態1と同様である。
【0065】
<実施の形態3>
本実施の形態3は、上述した実施の形態1,2を上位概念化した実施の形態に相当する。
図13を参照して、本実施の形態3に係る評価装置20の構成例について説明する。
図13に示されるように、本実施の形態3に係る評価装置20は、取得部21と、評価部22と、を備えている。
【0066】
取得部21は、柱間を架空する光ファイバ上で発生した振動の時空間データをセンサから取得する。取得部21は、上述した実施の形態1,2に係る風速評価部11に相当する。また、センサは、位相感知OTDR又はDASに相当する。
【0067】
評価部22は、所定の分析区間毎に、振動の時空間データに基づいて、その分析区間での風速及び風の伝搬速度を評価し、評価された風速及び風の伝搬速度に基づいて、その分析区間での風向を評価する。評価部22は、上述した実施の形態1,2に係る風速評価部11及び風向評価部12に相当する。
【0068】
本実施の形態3は、上述のように構成されているため、風速だけでなく、風向を検知することも可能である。
【0069】
なお、評価部22は、所定の分析区間毎に、振動の時空間データに基づいて、その分析区間の前後2つの隣接区間の間の振動の到来時間差を評価し、評価された到来時間差に基づいて、その分析区間での風の伝搬速度を評価しても良い。この場合、所定の分析区間は、柱間の区間であっても良い。
【0070】
また、評価部22は、振動の時空間データに基づいて、光ファイバ上の各位置毎に、振動が発生した時間と、振動の振動強度と、を表す、振動の時空間分布を導出しても良い。また、評価部22は、所定の分析区間毎に、その分析区間での振動の時空間分布の直線の傾きを評価し、評価された傾きに基づいて、その分析区間での風の伝搬速度を評価しても良い。この場合、所定の分析区間は、柱のうちクロージャを含む柱間の区間であっても良い。
【0071】
また、評価部22は、所定の分析区間毎に、振動の時空間データに基づいて、その分析区間での振動の振動強度を評価し、評価された振動強度に基づいて、その分析区間での風速を評価しても良い。
【0072】
<実施の形態に係る評価装置のハードウェア構成>
図14を参照して、上述した各実施の形態1,2,3に係る評価装置10,20を実現するコンピュータ90のハードウェア構成例について説明する。
【0073】
図14に示されるように、コンピュータ90は、プロセッサ91、メモリ92、ストレージ93、入出力インタフェース(入出力I/F)94、及び通信インタフェース(通信I/F)95等を備えている。プロセッサ91、メモリ92、ストレージ93、入出力インタフェース94、及び通信インタフェース95は、相互にデータを送受信するためのデータ伝送路で接続されている。
【0074】
プロセッサ91は、例えばCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理装置である。メモリ92は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等のメモリである。ストレージ93は、例えばHDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はメモリカード等の記憶装置である。また、ストレージ93は、RAMやROM等のメモリであっても良い。
【0075】
ストレージ93には、プログラムが記憶される。このプログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、上述した評価装置10,20における1又はそれ以上の機能をコンピュータ90に行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。上述した評価装置10,20における構成要素は、プロセッサ91がストレージ93に記憶されたプログラムを読み込んで実行することにより実現されても良い。また、上述した評価装置10,20における記憶機能は、メモリ92又はストレージ93により実現されても良い。
【0076】
また、上述したプログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されても良い。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、RAM、ROM、フラッシュメモリ、SSD又はその他のメモリ技術、CD(Compact Disc)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されても良い。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、又はその他の形式の伝搬信号を含む。
【0077】
入出力インタフェース94は、表示装置941、入力装置942、音出力装置943等と接続される。表示装置941は、LCD(Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、モニタのような、プロセッサ91により処理された描画データに対応する画面を表示する装置である。入力装置942は、オペレータの操作入力を受け付ける装置であり、例えば、キーボード、マウス、及びタッチセンサ等である。表示装置941及び入力装置942は一体化され、タッチパネルとして実現されていても良い。音出力装置943は、スピーカのような、プロセッサ91により処理された音響データに対応する音を音響出力する装置である。
【0078】
通信インタフェース95は、外部の装置との間でデータを送受信する。例えば、通信インタフェース95は、有線通信路又は無線通信路を介して外部装置と通信する。
【0079】
以上、実施の形態を参照して本開示を説明したが、本開示は上述した実施の形態に限定されるものではない。本開示の構成や詳細には、本開示のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。例えば、上述した実施の形態は、一部又は全部を相互に組み合わせて用いても良い。
【符号の説明】
【0080】
10 評価装置
11 風速評価部
12 風向評価部
20 評価装置
21 取得部
22 評価部
90 コンピュータ
91 プロセッサ
92 メモリ
93 ストレージ
94 入出力インタフェース
941 表示装置
942 入力装置
943 音出力装置
95 通信インタフェース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14