(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059441
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】等方圧加圧装置および等方圧加圧方法
(51)【国際特許分類】
B30B 5/02 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
B30B5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167117
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】中井 友充
(72)【発明者】
【氏名】前川 明紀
【テーマコード(参考)】
4E090
【Fターム(参考)】
4E090AA07
4E090AB02
4E090BA01
4E090BB06
4E090CA06
4E090DA02
4E090DB02
4E090HA10
(57)【要約】
【課題】超高圧下においても広い処理空間を確保しつつ、被処理物に等方圧加圧処理を施すことが可能な等方圧加圧装置および等方圧加圧方法を提供する。
【解決手段】HIP装置100は、圧力容器1と、ヒータエレメント6と、圧力容器1の処理空間1Sをガス源の圧力から目標圧力よりも低い中間圧力まで昇圧することが可能な第1圧縮機10Aと、ピストン12の1行程の移動に伴って、処理空間1Sを前記中間圧力から前記目標圧力まで昇圧することが可能な第2圧縮機10Bと、第1圧縮機10Aと第2圧縮機10Bと圧力容器1の処理空間1Sとを直列的に接続するガス供給路101と、ガス供給路101のうち第2圧縮機10Bと処理空間1Sとの間の部分を開閉可能な第1高圧塞止弁9と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧媒ガスを用いて所定の目標圧力で被処理物に対して等方圧加圧処理を行う等方圧加圧装置であって、
前記被処理物を収容することが可能な処理空間を有する圧力容器と、
前記圧力容器の外部に配置され、前記処理空間をガス源の圧力から前記目標圧力よりも低い中間圧力まで昇圧することが可能な第1圧縮機と、
シリンダと当該シリンダに対して相対移動可能なピストンとを含み、前記シリンダに対する前記ピストンの1行程の移動に伴って、前記処理空間を前記中間圧力から前記目標圧力まで昇圧することが可能な第2圧縮機と、
前記圧媒ガスの流路であって前記第1圧縮機と前記第2圧縮機と前記圧力容器の前記処理空間とを直列的に接続する第1流路と、
前記第1流路のうち前記第2圧縮機と前記処理空間との間の部分を開閉可能な第1開閉弁と、
を備える、等方圧加圧装置。
【請求項2】
前記圧媒ガスの流路であって、前記第2圧縮機を迂回して前記第1圧縮機と前記圧力容器の前記処理空間とを接続する第2流路と、
前記第2流路のうち前記第1圧縮機と前記処理空間との間の部分を開閉可能な第2開閉弁と、
を更に備える、請求項1に記載の等方圧加圧装置。
【請求項3】
前記被処理物に対する前記目標圧力における加圧処理の後に、前記第1流路のうち少なくとも前記第2圧縮機から前記第1開閉弁までの領域の圧力を保持するように、前記第1開閉弁を閉じる制御部を更に備える、請求項1または2に記載の等方圧加圧装置。
【請求項4】
前記被処理物に対する前記目標圧力における加圧処理の後に、前記ピストンを初期位置に移動させ、更に、前記シリンダの内部および前記第1流路のうち少なくとも前記第2圧縮機から前記第1開閉弁までの領域の圧力を保持するように、前記第1開閉弁を閉じる制御部を更に備える、請求項1または2に記載の等方圧加圧装置。
【請求項5】
圧媒ガスを用いて所定の目標圧力で被処理物に対して等方圧加圧処理を行う等方圧加圧方法であって、
前記被処理物を収容することが可能な処理空間を有する圧力容器に前記被処理物を収容することと、
前記圧力容器の外部に配置された第1圧縮機を用いて、前記処理空間をガス源の圧力から前記目標圧力よりも低い中間圧力まで昇圧することと、
前記圧媒ガスの流路において前記第1圧縮機と前記圧力容器との間に配置されシリンダと当該シリンダに対して相対移動可能なピストンとを含む第2圧縮機を用いて、前記シリンダに対する前記ピストンの第1方向への1行程の移動に伴って前記処理空間を前記中間圧力から前記目標圧力まで昇圧することと、
前記目標圧力で前記被処理物を加圧処理することと、
前記被処理物に対する加圧処理の後に、前記ピストンを前記第1方向とは反対の第2方向に移動させることと、
前記圧媒ガスの流路における前記第2圧縮機と前記処理空間との間の部分を第1開閉弁によって閉止することと、
前記処理空間を大気圧に開放し、前記処理空間から前記被処理物を取り出すことと、
を備える、等方圧加圧方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等方圧加圧装置および等方圧加圧方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HIP法(Hot Isostatic Pressing法:熱間等方圧加圧装置を用いたプレス方法)では、数10~200MPa程度の高圧の処理圧力に設定された雰囲気の圧媒ガスのもと、焼結製品(セラミックス等)や鋳造製品等の被処理物が、その再結晶温度以上の高温に加熱され処理される。当該方法では、被処理物中の残留気孔を消滅させることができるという特徴がある。
【0003】
特許文献1には、被処理物を収容する処理空間を含む圧力容器と、当該圧力容器に摺動可能に内嵌されたピストンと、を備えるHIP装置が開示されている。HIP処理時には、前記ピストンを前記圧力容器内にワンプッシュで挿入することで、前記圧力容器内が処理圧力まで昇圧される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたようなワンプッシュ型の等方圧加圧装置では、広い処理空間を確保しつつ、300MPaを超える高圧下で被処理物に対して等方圧加圧処理を施すことが難しいという問題があった。具体的に、特許文献1のような従来の技術では、圧力容器内に被処理物を収容する処理空間に加え、ピストンを受け入れる空間を確保する必要がある。一方、300MPaを超える高圧に耐えるためには、圧力容器に高強度材料を用いる必要があるが、このような材料を用いて製造可能な圧力容器のサイズには限界がある。
【0006】
そこで、前記ピストンの代わりに圧力容器の外部から往復動式圧縮機を用いて、前記圧力容器に対して高圧ガスを供給することで、圧力容器からピストンを受け入れるための空間を省いて、処理空間を拡張することが考えられる。
【0007】
しかしながら、この場合、往復動式圧縮機におけるピストンの往復動毎に圧縮機内(特にピストンを収容するシリンダ内)が吸入圧力から吐出圧力まで変動し、更にその変動が等方圧加圧処理毎に100~1000回発生するため、圧縮機を構成する部品に大きな疲労損傷が発生しやすくなる。このように、従来の等方圧加圧装置では、広い処理空間を確保しつつ、300MPaを超える高圧下で等方圧加圧処理を行うことが困難であった。
【0008】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、超高圧下においても広い処理空間を確保しつつ、被処理物に等方圧加圧処理を施すことが可能な等方圧加圧装置および等方圧加圧方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一の局面に係る等方圧加圧装置は、圧媒ガスを用いて所定の目標圧力で被処理物に対して等方圧加圧処理を行う等方圧加圧装置であって、前記被処理物を収容することが可能な処理空間を有する圧力容器と、前記圧力容器の外部に配置され、前記処理空間をガス源の圧力から前記目標圧力よりも低い中間圧力まで昇圧することが可能な第1圧縮機と、シリンダと当該シリンダに対して相対移動可能なピストンとを含み、前記シリンダに対する前記ピストンの1行程の移動に伴って、前記処理空間を前記中間圧力から前記目標圧力まで昇圧することが可能な第2圧縮機と、前記圧媒ガスの流路であって前記第1圧縮機と前記第2圧縮機と前記圧力容器の前記処理空間とを直列的に接続する第1流路と、前記第1流路のうち前記第2圧縮機と前記処理空間との間の部分を開閉可能な第1開閉弁と、を備える。
【0010】
本構成によれば、圧力容器の処理空間を中間圧力まで昇圧する機能と、前記中間圧力から目標圧力まで昇圧する機能とを第1圧縮機および第2圧縮機にそれぞれ分担させることで、各圧縮機が受ける圧力変動を抑えることが可能になる。特に、被処理物に対する加圧処理後に第1開閉弁を閉じることで、第1流路のうち第2圧縮機から第1開閉弁までの間の領域と、第1開閉弁から圧力容器の処理空間までの領域とを遮断することができる。このため、被処理物の取り出しのために圧力容器が大気圧に開放されても、次の処理時に、第1流路のうち第2圧縮機側の領域の圧力が大気圧まで低下することが抑止され、その圧力変動を小さくすることができる。この結果、第2圧縮機および第1流路が受ける損傷を抑止することができる。
【0011】
上記の構成において、前記圧媒ガスの流路であって、前記第2圧縮機を迂回して前記第1圧縮機と前記圧力容器の前記処理空間とを接続する第2流路と、前記第2流路のうち前記第1圧縮機と前記処理空間との間の部分を開閉可能な第2開閉弁と、を更に備えるものでもよい。
【0012】
本構成によれば、処理空間に対する被処理物の挿入、取り出しが繰り返される場合でも、第1圧縮機および第2流路を利用して処理空間を大気圧から中間圧力まで復帰させた後に、開閉弁を開けて第1流路を圧力容器に連通させることができるため、第2圧縮機および第1流路が受ける圧力変動量を更に小さく抑えることができる。
【0013】
上記の構成において、前記被処理物に対する前記目標圧力における加圧処理の後に、前記第1流路のうち少なくとも前記第2圧縮機から前記第1開閉弁までの領域の圧力を保持するように、前記第1開閉弁を閉じる制御部を更に備えるものでもよい。
【0014】
本構成によれば、被処理物に対する加圧処理後に、処理空間が大気圧に晒されても、次の加圧処理時に第1流路が受ける圧力変動の大きさを抑えることができる。
【0015】
上記の構成において、前記被処理物に対する前記目標圧力における加圧処理の後に、前記ピストンを初期位置に移動させ、更に、前記シリンダの内部および前記第1流路のうち少なくとも前記第2圧縮機から前記第1開閉弁までの領域の圧力を保持するように、前記第1開閉弁を閉じる制御部を更に備えるものでもよい。
【0016】
本構成によれば、被処理物に対する加圧処理後に、処理空間が大気圧に晒されても、次の加圧処理時に第2圧縮機のシリンダおよび第1流路がそれぞれ受ける圧力変動の大きさを抑えることができる。
【0017】
また、本発明によって提供されるのは、圧媒ガスを用いて所定の目標圧力で被処理物に対して等方圧加圧処理を行う等方圧加圧方法である。当該等方圧加圧方法は、前記被処理物を収容することが可能な処理空間を有する圧力容器に前記被処理物を収容することと、前記圧力容器の外部に配置された第1圧縮機を用いて、前記処理空間をガス源の圧力から前記目標圧力よりも低い中間圧力まで昇圧することと、前記圧媒ガスの流路において前記第1圧縮機と前記圧力容器との間に配置されシリンダと当該シリンダに対して相対移動可能なピストンとを含む第2圧縮機を用いて、前記シリンダに対する前記ピストンの第1方向への1行程の移動に伴って前記処理空間を前記中間圧力から前記目標圧力まで昇圧することと、前記目標圧力で前記被処理物を加圧処理することと、前記被処理物に対する加圧処理の後に、前記ピストンを前記第1方向とは反対の第2方向に移動させることと、前記圧媒ガスの流路における前記第2圧縮機と前記処理空間との間の部分を第1開閉弁によって閉止することと、前記処理空間を大気圧に開放し、前記処理空間から前記被処理物を取り出すことと、を備える。
【0018】
本方法によれば、圧力容器の処理空間を中間圧力まで昇圧する機能と、前記中間圧力から目標圧力まで昇圧する機能とを第1圧縮機および第2圧縮機にそれぞれ分担させることで、各圧縮機が受ける圧力変動を抑えることが可能になる。特に、被処理物に対する加圧処理後に第1開閉弁を閉じることで、第1流路のうち第2圧縮機から第1開閉弁までの間の領域と、第1開閉弁から圧力容器の処理空間までの領域とを遮断することができる。このため、被処理物の取り出しのために圧力容器が大気圧に開放されても、次の処理時に、第1流路のうち第2圧縮機側の領域の圧力が大気圧まで低下することが抑止され、その圧力変動を小さくすることができる。この結果、第2圧縮機および第1流路が受ける損傷を抑止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、超高圧下においても広い処理空間を確保しつつ、被処理物に等方圧加圧処理を施すことが可能な等方圧加圧装置および等方圧加圧方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る熱間等方圧加圧装置の側断面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る熱間等方圧加圧装置における圧力の推移を示すグラフである。
【
図3】本発明の第2実施形態に係る熱間等方圧加圧装置の側断面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る熱間等方圧加圧装置における圧力の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態に係るHIP装置100(熱間等方圧加圧装置)について説明する。HIP装置100は、圧媒ガス(昇圧されたアルゴンガスや窒素ガス)を用いて所定の目標圧力で処理品8(被処理物)に対して等方圧加圧処理(熱間等方圧加圧処理)を行う。
図1は、本実施形態に係るHIP装置100の側断面図である。
【0022】
HIP装置100は、装置本体100Hを備える。装置本体100Hは、圧力容器1と、ヨークフレーム4と、断熱層5と、ヒータエレメント6と、基台7と、第1高圧塞止弁9と、を備える。
【0023】
圧力容器1は、熱間等方圧加圧処理を行うために処理品8を収容する。圧力容器1は、圧力容器胴1Aと、上蓋1Bと、下蓋1Cと、を備える。圧力容器胴1Aは、上下方向に沿った中心軸CL回りに円筒状に形成されている。上蓋1Bは、圧力容器胴1Aの上側の開口を塞ぎ、下蓋1Cは、圧力容器胴1Aの下側の開口を塞ぐ。
図1に示すように、上蓋1Bには、圧媒ガスの流路が形成されている(後記のガス供給路101)。圧力容器1の内部には外部から気密的に隔離された処理空間1Sが形成されている。圧力容器1は、当該処理空間1Sに処理品8を収容する。圧力容器1の圧力容器胴1Aは、超高圧処理に耐えるために、多層構造とされている。特に、圧力容器胴1Aの最内層に予圧縮応力を与えた構造とすることで、圧力容器胴1Aの寿命を長く維持することができる。一例として、圧力容器1には、高強度の鍛造材、工具鋼などが用いられる。
【0024】
なお、圧力容器1には、不図示の開放バルブが配置されている。当該開放バルブは、通常は閉止されており、圧力容器1内から圧媒ガスを排出する際に開放される。
【0025】
ヨークフレーム4は、圧力容器1の上蓋1Bおよび下蓋1Cを圧力容器胴1Aに対して上下から押さえる機能を有する。
図1におけるヨークフレーム4を横方向に移動することで、下蓋1Cが降下可能となり、大気圧下で処理空間1Sに対する処理品8の出し入れが可能になる。この際、第1高圧塞止弁9は予め閉止される。したがって、処理空間1S内が大気圧となっても、後記のガス供給路101を高圧に保持することができる。
【0026】
断熱層5は、処理品8を囲むように配置される逆コップ状の部材である。断熱層5には、例えばガス不透過性の耐熱材料が用いられる。なお、当該断熱層5には、カーボンファイバを編み込んだ黒鉛質材料やセラミックファイバなどの多孔質材料、繊維質材料などが充填されてもよい。
【0027】
ヒータエレメント6(加熱装置)は、処理空間1Sに配置され、発熱することで処理空間1S(圧媒ガス)を加熱(昇温)する。ヒータエレメント6の昇温も、処理空間1Sを昇圧する機能を有している。
【0028】
基台7は、処理空間1Sの下端部に配置され、処理品8を支持する。基台7は、下蓋1Cに保持されている。なお、基台7の構造および基台7上に支持される処理品8の形状、数は、
図1に示されるものに限定されない。
【0029】
第1高圧塞止弁9(第1開閉弁)は、上蓋1B内に配置され、後記の第2ガス供給路103の終端に配置される。第1高圧塞止弁9は、後記のコントローラ100Aから入力される指令信号に応じて第2ガス供給路103を開閉することが可能である。
【0030】
HIP装置100は、更に、圧縮機10と、ガス供給路101と、油圧ポンプ14と、タンク15と、ガスボンベ17と、を備える。
【0031】
圧縮機10は、圧力容器1の処理空間1S内を昇圧する。圧縮機10は、第1圧縮機10Aおよび第2圧縮機10Bを含む。
【0032】
第1圧縮機10Aは、圧力容器1の外部に配置され、処理空間1Sをガス源であるガスボンベ17の圧力から中間圧力(圧力P1)まで昇圧することが可能である。前記中間圧力は、熱間等方圧加圧処理を行うための目標圧力(圧力P2)よりも低く設定されている。本実施形態では、第1圧縮機10Aは、公知の往復動式圧縮機である。
【0033】
第2圧縮機10Bは、圧媒ガスの流路において、第1圧縮機10Aと圧力容器1との間に配置される。第2圧縮機10Bは、第1圧縮機10Aによって昇圧された処理空間1Sを更に昇圧する機能を有する。第2圧縮機10Bは、シリンダ本体11(シリンダ)と、シリンダ本体11に対して相対移動可能なピストン12と、油圧シリンダ13とを有する。油圧シリンダ13は、ヘッド室13Sとロッド室13Tとを有する。油圧ポンプ14によってタンク15の作動油が油圧シリンダ13のヘッド室13Sに供給されロッド室13Tから作動油が排出されると、ピストン12が
図1の下方向(第1方向)に移動する。一方、ヘッド室13Sから不図示の油路を通じて前記作動油が排出されるとともに、油圧ポンプ14からロッド室13Tに作動油が供給されると、ピストン12が
図1の上方向(前記第1方向とは反対の第2方向)に移動する。なお、ピストン12は、圧力容器1から戻される圧媒ガスの圧力によっても、上方向に移動することができる。
【0034】
第2圧縮機10Bは、シリンダ本体11に対するピストン12の下方向への1行程の移動に伴って、圧力容器1の処理空間1Sを前記中間圧力(圧力P1)から前記目標圧力(圧力P2)まで昇圧することが可能である。本実施形態では、前記目標圧力は、300MPaを超える圧力に設定される。また、第2圧縮機10Bは、圧力容器1の内容積の1/3以上1/2以下の内容積を有することが望ましい。更に、第2圧縮機10Bも、圧力容器1と同様の多層構造からなり、高寿命化が図られている。
【0035】
ガス供給路101(第1流路)は、ガスボンベ17から圧力容器1の処理空間1Sに至るまで配設された圧媒ガスの流路である。ガス供給路101は、第1圧縮機10Aと第2圧縮機10Bと圧力容器1の処理空間1Sとを直列的に接続する。ガス供給路101は、第1ガス供給路102と、第2ガス供給路103とを有する。
【0036】
第1ガス供給路102は、第1圧縮機10Aから第2圧縮機10Bに至るまで配設されている。第2ガス供給路103は、第2圧縮機10Bから処理空間1Sに至るまで配設されている。
【0037】
図1に示すように、シリンダ本体11の下端部には、圧縮機丸穴交差部18が配置されている。上蓋丸穴交差部19は、第1ガス供給路102と第2ガス供給路103とが繋がる部分である。また、圧縮機丸穴交差部18は、シリンダ本体11の内部空間11Sにも繋がっており、三又構造からなる。一方、第2ガス供給路103の終端には、前述のように第1高圧塞止弁9が配置されており、その直ぐ上流には、上蓋丸穴交差部19が配置されている。上蓋丸穴交差部19は、上蓋1Bの内部において、第2ガス供給路103が屈曲する部分である。このような構造を有する圧縮機丸穴交差部18および上蓋丸穴交差部19は、ガス供給路101の中でも相対的に強度が弱くなりやすい。
【0038】
HIP装置100は、コントローラ100Aと、バルブ21、22、23、24と、を更に備える。
【0039】
コントローラ100Aは、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを記憶するROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として使用されるRAM(Random Access Memory)等から構成されている。また、コントローラ100Aは、HIP装置100に含まれる各装置、各部材の動きを制御する。
【0040】
バルブ21は、第1ガス供給路102のうち第1圧縮機10Aと第2圧縮機10Bとの間の部分を開閉するバルブである。バルブ22は、ガス供給路101のうちガスボンベ17と第1圧縮機10Aとの間の部分を開閉するバルブである。バルブ23は、油圧ポンプ14とヘッド室13Sとの間の作動油の油路を開閉するバルブである。バルブ24は、油圧ポンプ14と第1圧縮機10Aとの間の油路を開閉するバルブである。なお、前述の第1高圧塞止弁9(
図1)(第1開閉弁)は、第2ガス供給路103(ガス供給路101)のうち、第2圧縮機10Bと圧力容器1の処理空間1Sとの間の部分を開閉可能なバルブということができる。
【0041】
なお、
図1では図示を省略しているが、第1圧縮機10Aおよび第2圧縮機10Bは、作動油をタンク15に戻すための戻り油路をそれぞれ有する。また、HIP装置100は、各圧縮機および圧力容器1から排出されるガスを受け入れる不図示のガスボンベを有する。更に、
図1では、このガスボンベから圧縮機を介さずに差圧で圧力容器1に圧媒ガスを充填するための流路の図示も省略している。
【0042】
次に、本実施形態に係るHIP装置100における、処理品8へのHIP処理手順について説明する。HIP処理に先立って、圧力容器1の圧力容器胴1Aから下蓋1Cが降下し、所定の作業現場において、下蓋1C上の基台7に処理品8が載置される。更に、基台7上にヒータエレメント6および断熱層5が被せられる。
【0043】
この状態で下蓋1Cが圧力容器胴1Aの直下に移動し、上昇することで、下蓋1Cが圧力容器胴1Aに装着される。この結果、処理品8が圧力容器1の処理空間1S内に配置される。なお、上記の下蓋1Cの移動には、専用のハンドリング装置が用いられることが望ましい。下蓋1Cが圧力容器胴1Aに装着された後、ヨークフレーム4が圧力容器1の上下に移動され、昇圧可能な状態とされる。
【0044】
HIP処理工程の第1段階として、圧力容器1の処理空間1Sが不図示の真空ポンプおよび排気流路を通じて、真空引きされる。当該真空引きの後、圧力容器1に対して前記ガスボンベからの差圧によって一定の圧力までガスが送気される。そして、当該ガスを抜くことで再び真空引きが行われ、再度、ガスが差圧で充填される。このような工程が繰り返され、処理空間1S内のガス置換が実行される。やがて、ガスボンベとの差圧充填によって、昇圧可能な圧力まで圧力容器1内が昇圧され、保持される。
【0045】
一方、第2圧縮機10Bに関して、上記の圧力容器1内への差圧によるガス充填前に、ピストン12がシリンダ本体11に対して最も下方の位置またはこれに近い位置に配置される。そして、圧力容器1内への差圧によるガス充填の際には、第1高圧塞止弁9が開き、ピストン12は圧力容器1内のガス圧によって最も上方の位置まで移動する。なお、圧力容器1内を大気圧に開放した後の昇圧時には、一旦、第2圧縮機10Bのシリンダ本体11内を真空引きした後に、上記の手順が実行される。
【0046】
次に、第1圧縮機10Aを作動させ、第2圧縮機10B(シリンダ本体11)及び圧力容器1内に圧媒ガスを充填し、圧力P1まで昇圧する工程を実行する。なお、この工程中、第2圧縮機10Bのシリンダ本体11内の圧力と圧力容器1内の圧力との間には、第2圧縮機10Bに設けられたチェック弁のクラッキング圧分だけ差が生じるが、微量な差であるため、第1圧縮機10Aによる昇圧中は、基本的には第2圧縮機10Bのシリンダ本体11内と圧力容器1内とは、ほぼ等しい圧力を保ちながら昇圧される。
【0047】
次に、圧力容器1内が圧力P1に達した時点で第1圧縮機10Aの作動を停止し、圧力容器1内のヒータエレメント6をONにすることで処理空間1S内の加熱を開始する。また、この加熱と同時に、第2圧縮機10Bのピストン12の下方への移動が開始され、第2圧縮機10Bによる昇圧が行われる。
【0048】
ヒータエレメント6による昇温と圧縮機2による昇圧とによって、最終的に、圧力容器1内の圧力がHIP処理に必要な圧力P2まで昇圧される。その後、処理空間1Sの圧力および温度を一定に保持する保持工程に入る。この際、圧力容器1内の温度分布変化等によって圧力変化が生じるため、コントローラ100Aが第2圧縮機10Bのピストン12の位置を制御することで、圧力容器1内の圧力が一定となる様に制御することが望ましい。
【0049】
圧力容器1内の温度および圧力を一定に保持しながらHIP処理が完了すると、コントローラ100Aは、ヒータエレメント6をオフするとともに、第2圧縮機10Bのピストン12を上昇させて、処理空間1S内の降圧処理を行う。やがて、第2圧縮機10Bのピストン12が上限位置まで達すると、第1高圧塞止弁9を閉じ、圧力容器1内に残ったガスを差圧でガスボンベに戻す操作を行う。圧力容器1の圧力とガスボンベの圧力とのバランスがとれると、圧力容器1内の圧力を大気に放出する処理を行う。圧力容器1内の圧力が大気圧付近まで降下すると、ヨークフレーム4が横方向に移動し、下蓋1Cが降下する。この結果、圧力容器1の処理空間1S内が大気に開放される。降下された下蓋1Cは、作業者が作業し易い位置まで横方向に移動し、断熱層5、ヒータエレメント6が取り外され、処理済の処理品8と次の処理品8との積み替えが行われる。
【0050】
なお、第2圧縮機10Bのピストン12の上昇に伴う降圧処理の完了後は、第1高圧塞止弁9が閉じられるため、第2圧縮機10B内には、ほぼ圧力P1のガスがシリンダ本体11内に残る。次のHIP処理を開始する際には、圧力容器1内が真空引きされた後、第1高圧塞止弁9を開いて、第2圧縮機10Bから圧力容器1内にガスを差圧で充填し、第2圧縮機10Bの圧力と圧力容器1の圧力との均衡をとる。この均衡がとれた際の圧力P1’は圧力P1よりも小さい。この後、第1圧縮機10Aによって第2圧縮機10Bおよび圧力容器1内の圧力をP1まで昇圧する。この動作の際に、第2圧縮機10Bのピストン12はガスの圧力によって最上部に戻る(押し上げられる)。この後の操作は、上記と同様である。
【0051】
なお、本実施形態では、HIP処理後のガスが圧力容器1から第2圧縮機10Bに戻るため、この手順を繰り返すと、やがてガスのコンタミネーションが増す。このため、複数の処理品8に対してHIP処理が順に繰り返される場合、所定の間隔で第2圧縮機10B内のガスが全て排出され、第1圧縮機10Aによる昇圧によって新しいガスで第2圧縮機10B内を置換することが望ましい。
【0052】
図2は、本実施形態に係るHIP装置100における圧力の推移を示すグラフである。
図2の上段のグラフは、圧力容器1の処理空間1Sの圧力の推移を示す。
図2の下段のグラフは、第2圧縮機10Bのシリンダ本体11内、更にシリンダ本体11から第1高圧塞止弁9までの流路内の圧力の推移を示す。また、
図2では簡略化のため、前述の「圧力0からボンベ圧力までの差圧充填」については、図示を省略している。
【0053】
図2において、繰り返される大きな山状のグラフの各々は、1回のHIP処理を意味する。また、ΔP1は第1圧縮機10Aによる圧力P1までの昇圧を意味し、ΔP2は第2圧縮機10Bとヒータエレメント6の加熱とによる圧力P2までの昇圧を意味する。ΔP3は圧力容器1への送気を意味し、ΔP1’は送気後の第1圧縮機10Aによる圧力P1’から圧力P1までの昇圧を意味する。また、ΔP4は第2圧縮機10Bからの差圧充填による圧力を意味する。
【0054】
図2の上段のグラフに示すように、圧力容器1内ではHIP処理毎に0と圧力P2との間での圧力変動があり、これに応じた応力変動が発生しうる。本実施形態では、圧力容器1は、焼き嵌めまたは線巻き容器等の多層構造を採用している。このため、最も応力変動が大きい最内層に予圧縮応力を与えられることで、上記の応力変動による平均応力を小さく抑えることが可能になる。更に、圧力容器1は単純円筒構造からなり応力集中部がないため、疲労寿命として使用上問題ないように設定されている。
【0055】
なお、HIP装置100において疲労寿命で問題になりやすい箇所は応力集中部であり、本実施形態では
図1の圧縮機丸穴交差部18、上蓋丸穴交差部19の各丸穴交差部がこれに該当する。
図2の下段のグラフに示すように、1回のHIP処理中の各交差部の圧力はP1’とP2との間で変動するように設定されているため、圧力容器1内の圧力変動よりも変動量が小さく、各交差部における疲労寿命を長く維持することができる。
【0056】
以上のように、本実施形態では、装置の疲労損傷を防止しつつ、超高圧条件下でのHIP処理を行うことが可能になる。従来のHIP装置では、目標圧力まで昇圧するための圧縮機として、ピストン式あるいはダイヤフラム式圧縮機等の往復動式圧縮機が用いられていたが、往復動毎に圧縮機内の圧力が吸入圧力(=ボンベ圧力)から吐出圧力(=圧力容器内)まで変動する。そして、この圧力の変動回数がHIP処理1回当たり102から103回発生するため、この動作を圧力容器内が300MPa以上の超高圧に達するまで継続すると、圧縮機を構成する部品に大きな疲労損傷を与えることになる。
【0057】
一方、本実施形態では、圧力容器1の処理空間1Sを中間圧力まで昇圧する機能と、前記中間圧力から目標圧力まで昇圧する機能とを第1圧縮機10Aおよび第2圧縮機10Bにそれぞれ分担させることで、各圧縮機が受ける圧力変動を抑えることが可能になる。特に、処理品8に対する加圧処理後に第1高圧塞止弁9を閉じることで、ガス供給路101のうち第2圧縮機10Bから第1高圧塞止弁9までの間の領域と、第1高圧塞止弁9から圧力容器1の処理空間1Sまでの領域とを遮断することができる。このため、処理品8の取り出しのために圧力容器1が大気圧に開放されても、次の処理時に、ガス供給路101のうち第2圧縮機10B側の領域の圧力が大気圧まで低下することが抑止され、その圧力変動を小さくすることができる。この結果、第2圧縮機10Bおよびガス供給路101が受ける損傷を抑止することができる。
【0058】
更に、本実施形態では、第1圧縮機10Aとして公知の往復動圧縮機を用いたとしても、第1圧縮機10Aは、最終的な処理圧力P2よりも低い圧力P1までの昇圧を担っているため、往復動回数も比較的小さく抑えられ、部品の疲労損傷を抑止することができる。また、第2圧縮機10Bにおいてピストン12を一押しするだけで、処理空間1S内を圧力P1から処理圧力P2まで昇圧することが可能であり、この際の圧力変動はHIP処理1回あたり1回で済むため、第2圧縮機10Bを構成する部品およびガス流路(ガス供給路101)の疲労損傷も抑えることができる。
【0059】
更に、本実施形態では、従来の他のHIP装置のように、圧力容器1に昇圧用のピストンを直接挿入する構成と異なり、圧力容器1の寸法(軸方向長さ)にピストンの往復代を含める必要がなく、圧力容器1の長さが上記の他のHIP装置よりも小さくなる。本実施形態のような超高圧下で使用するHIP装置100では、引張強さが1200N/mm2を超える高強度材を圧力容器1の材料として用いるが、このような材料には製造可能なサイズに制限がある。しかしながら、本実施形態では、上記のように、圧力容器1の寸法を抑えることができるため、製造可能なサイズの範囲内で、従来の他のHIP装置と比較して大型の圧力容器1を製造することが可能となる。この結果、圧力容器1内の処理空間1Sが広く確保され、超高圧下で、従来よりも大きな処理品8または多くの処理品8を処理することが可能になる。例えば、円筒状に構成される処理空間1Sの内径を120mm以上とすることも可能であるし、更に250mm以上の内径を有する大型の圧力容器1とすることも可能である。
【0060】
また、複数回のHIP処理が繰り返し行われる際には、ガス供給路101のうち第2圧縮機10Bから第1高圧塞止弁9までの領域が、圧力P1’と圧力P2との間で変化するため(大気圧<P1’<P1<P2)、同領域が0と圧力P2との間で変化する場合と比較して、周囲の部品の損傷を抑止することが可能になる。
【0061】
上記について換言すれば、本実施形態では、コントローラ100A(制御部)が、処理品8に対する目標圧力における加圧処理の後に、ガス供給路101のうち少なくとも前記第2圧縮機10Bから第1高圧塞止弁9までの領域の圧力を保持するように、第1高圧塞止弁9を閉じる。この結果、処理品8に対する加圧処理後に、処理空間1Sが大気圧に晒されても、次の加圧処理時にガス供給路101が受ける圧力変動の大きさを抑えることができる。
【0062】
特に、コントローラ100Aは、処理品8に対する目標圧力における加圧処理の後に、ピストン12を初期位置(上端部)に移動させ、更に、シリンダ本体11の内部およびガス供給路101のうち少なくとも第2圧縮機10Bから第1高圧塞止弁9までの領域の圧力を保持するように、第1高圧塞止弁9を閉じる。このため、処理品8に対する加圧処理後に、処理空間1Sが大気圧に晒されても、次の加圧処理時に第2圧縮機10Bのシリンダ本体11およびガス供給路101がそれぞれ受ける圧力変動の大きさを抑えることができる。
【0063】
実施形態では、超高圧条件下において処理品8に対して安定したHIP処理を実行するにあたって、製造上の制限を考慮しつつ圧力容器1の強度を高く維持するために、圧力容器1からピストンの往復代を取り除き、圧力容器1の外側に圧縮機10を配置することに着目したものである。この際、処理空間1Sを超高圧まで昇圧するためには、外部に配置した圧縮機10と圧力容器1とを接続するガス供給路101の損傷を防止する必要があるため、圧縮機10およびガス供給路101において発生する圧力変動を抑えることを、第1圧縮機10Aおよび第2圧縮機10Bによる処理空間1Sの段階的な昇圧と、HIP処理後のガス供給路101を大気圧よりも高い圧力P1’に保持することによって、実現するものである。
【0064】
また、本実施形態では、第1圧縮機10Aとして公知の往復動式圧縮機を用いることができるため、HIP装置100のコストを抑えることができる。なお、第1圧縮機10Aとして昇圧時の圧力変動が大きい往復動式圧縮機を用いた場合であっても、第1圧縮機10Aが目標圧力よりも低い中間圧力までの昇圧を担っているため、ガスの流路が大きな圧力変動を受けて損傷することを抑制できる。
【0065】
更に、本実施形態では、HIP処理のために処理圧力(目標圧力)を300MPa以上の超高圧に設定することで、例えば、GaN(窒化ガリウム)などの半導体材料を高品質で製造することができる。なお、HIP処理のための処理圧力(目標圧力)を500MPa以上、更には700MPa以上に設定することも可能である。
【0066】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態では、先の第1実施形態との相違点を中心に説明する。
図3は、本実施形態に係るHIP装置100の側断面図である。本実施形態では、先の第1実施形態と比較して、HIP装置100が第3ガス供給路110(第2流路)と、第2高圧塞止弁30(第2開閉弁)とを有する点で相違する。
【0067】
第3ガス供給路110は、圧媒ガスの流路であって、第2圧縮機10Bを迂回して第1圧縮機10Aと圧力容器1の処理空間1Sとを接続する。第2高圧塞止弁30は、第3ガス供給路110のうち第1圧縮機10Aと処理空間1Sとの間の部分を開閉可能なバルブである。特に、本実施形態では、第2高圧塞止弁30は、第3ガス供給路110の終端付近、処理空間1Sに入る直前の領域に配置されている。
【0068】
本実施形態では、ガス供給路101に対して独立した第3ガス供給路110を介して、第1圧縮機10Aが圧力容器1内を圧力P1まで昇圧することが可能となる。具体的に、最初のHIP処理工程において、処理空間1Sの圧力および温度を一定に保持する保持工程までは、第2高圧塞止弁30を閉じておくことで、先の第1実施形態と同様の手順で行うことができる。一方、第2高圧塞止弁30を開いた状態で同保持工程までの手順を行うことも可能である。この場合、ガス供給路101と第3ガス供給路110との両方の流路を通じて圧力容器1に並行してガスが送気され、圧力容器1内が昇圧される。ただし、第1圧縮機10Aによって圧力容器1の処理空間1Sが圧力P1まで昇圧された後は、第2高圧塞止弁30は閉じられる。
【0069】
そして、本実施形態においても、圧力容器1内の温度および圧力を一定に保持しながらHIP処理が完了すると、コントローラ100Aは、ヒータエレメント6をオフするとともに、第2圧縮機10Bのピストン12を上昇させて、処理空間1S内の降圧処理を行う。やがて、第2圧縮機10Bのピストン12が上限位置まで達すると、第1高圧塞止弁9を閉じ、圧力容器1内に残ったガスを差圧でガスボンベに戻す操作が行われる。圧力容器1の圧力とガスボンベの圧力の均衡がとれると、圧力容器1内の圧力を大気に放出する処理を行う。圧力容器1内の圧力が大気圧付近まで降下すると、ヨークフレーム4を横方向に移動させて、下蓋1Cを降下させる。この結果、圧力容器1の処理空間1S内が大気に開放される。降下された下蓋1Cは、作業者が作業し易い位置まで横方向に移動し、断熱層5、ヒータエレメント6が取り外され、処理済の処理品8と次の処理品8との積み替えが行われる。本実施形態では、上記の一連の作業が、第2高圧塞止弁30が閉じた状態で行われる。
【0070】
本実施形態においても、次のHIP処理に備えて、圧力容器1に対して前述のガス置換工程が必要な回数だけ繰り返される。このガス置換工程の完了後、圧力容器1内にガスボンベから差圧でガスが充填され、ガスボンベと処理空間1Sとが均衡した後、第2高圧塞止弁30が開かれる。この状態で、第1圧縮機10Aが圧力容器1内を圧力P1まで昇圧し、その昇圧後に第2高圧塞止弁30が閉じられる。一方、第2圧縮機10Bのシリンダ本体11およびシリンダ本体11から第1高圧塞止弁9までの領域は、圧力P1に維持されたままであり、この状態で第1高圧塞止弁9が開かれる。ただし、第1高圧塞止弁9の両側の圧力は予め均衡しているため、大きなガスの流れは生じない。その後、ヒータエレメント6がオンされ、同時に第2圧縮機10Bのピストン12の下降によって、処理空間1Sが圧力P2まで昇圧される。以後、先の第1実施形態と同様の工程が行われる。
【0071】
図4は、本実施形態に係るHIP装置100における圧力の推移を示すグラフであり、上下段の各グラフは、
図2と同様である。なお、
図4においても簡略化のため、圧力ゼロからボンベ圧力までの差圧充填の図示を省略している。
【0072】
本実施形態では、第2圧縮機10Bのシリンダ本体11および当該シリンダ本体11から第1高圧塞止弁9までの領域の圧力は、圧力P1と圧力P2との間で変化する。したがって、先の第1実施形態よりも圧力の変動幅が小さく、疲労寿命が長くなる。
【0073】
なお、先の第1実施形態(
図2)と同様に、本実施形態においてもガスのコンタミネーションの問題を抑止するために、HIP処理の5回乃至10回に1度は、第2圧縮機10Bのシリンダ本体11内のガスを全て抜く操作を行うことが望ましい。当該操作を行った後の運転では、
図4の1回目の運転操作と同じ工程が行われる。この最初のバッチだけは、
図2および
図4のいずれの場合も、第2圧縮機10Bのシリンダ本体11内、およびシリンダ本体11と第1高圧塞止弁9との間の圧力は0と圧力P2との間で変化する。ただし、上記のように、HIP処理運転の5回乃至10回に1度の処置であるため、疲労損傷に与える影響は小さい。
【0074】
以上のように、本実施形態では、処理空間1Sに対する処理品8の挿入、取り出しが繰り返される場合でも、第1圧縮機10Aおよび第2ガス供給路103を利用して処理空間1Sを大気圧から中間圧力まで復帰させた後に、第1高圧塞止弁9を開けてガス供給路101を圧力容器1に連通させることができるため、第2圧縮機10Bおよびガス供給路101が受ける圧力変動量を更に小さく抑えることができる。特に、第2圧縮機10B内および第2圧縮機10Bから圧力容器1へのガス導入口までの流路内の圧力変動は圧力P1と圧力P2との間に収まり、その圧力変動範囲が小さくなるため、第2圧縮機10Bおよび第2圧縮機10Bから圧力容器1までの部品の疲労損傷を軽減することができる。特に、第1高圧塞止弁9および第2高圧塞止弁30などの交差部(曲がり部)における疲労軽減効果を大きく発揮することができる。
【0075】
<熱間等方圧加圧方法>
上記の各実施形態に係るHIP装置100は、以下の熱間等方圧加圧方法を実行するものである。当該方法は、圧媒ガスを用いて所定の目標圧力P2で処理品8に対して等方圧加圧処理を行う熱間等方圧加圧方法である。また、当該方法は、収容工程と、第1昇圧工程と、第2昇圧工程と、加圧工程と、ピストン移動工程では、閉止工程と、取り出し工程とを備える。収容工程では、処理品8を収容することが可能な処理空間1Sを有する圧力容器1に処理品8を収容する。第1昇圧工程では、圧力容器1の外部に配置された第1圧縮機10Aを用いて、処理空間1Sをガスボンベ(ガス源)の圧力から前記目標圧力よりも低い圧力P1(中間圧力)まで昇圧する。第2昇圧工程では、前記圧媒ガスの流路において第1圧縮機10Aと圧力容器1との間に配置され、シリンダ本体11と当該シリンダ本体11に対して相対移動可能なピストン12とを含む第2圧縮機10Bを用いて、シリンダ本体11に対するピストン12の下方向(第1方向)への1行程の移動に伴って処理空間1Sを圧力P1から圧力P2まで昇圧する。加圧工程では、処理空間1Sを加熱しながら、圧力P2で処理品8を加圧処理する。ピストン移動工程では、処理品8に対する加圧処理の後に、ピストン12を上方向(第1方向とは反対の第2方向)に移動させる。閉止工程では、前記圧媒ガスの流路における第2圧縮機10Bと処理空間1Sとの間の部分を第1高圧塞止弁9(第1開閉弁)によって閉止する。取り出し工程では、処理空間1Sを大気圧に開放し、処理空間1Sから処理品8を取り出す。
【0076】
本方法によれば、圧力容器1の処理空間1Sを第1圧縮機10Aおよび第2圧縮機10Bによって段階的に昇圧することができる。このため、各圧縮機が受ける圧力変動を抑えることで、その構成部品の疲労損傷を抑制することができる。また、処理空間1Sから処理後の処理品8を取り出す際には、予め第1高圧塞止弁9によって第2圧縮機10Bと処理空間1Sとの間の部分を閉止することで、第2圧縮機10Bと第1高圧塞止弁9との間の流路が大気圧近傍まで減圧されることがなく、以後のHIP処理において受ける圧力変動量を小さくすることができる。この結果、HIP処理が繰り返し実行される場合でも、各構成部品の疲労損傷を抑止することができる。なお、上記の熱間等方圧加圧方法は、先の第1実施形態および第2実施形態で説明した、その他の手順を含むことができる。
【0077】
以上、本発明の各実施形態に係るHIP装置100(熱間等方圧加圧装置)および等方圧加圧処理方法について説明したが、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。本発明に係る等方圧加圧装置として、以下のような変形実施形態が可能である。
【0078】
(1)上記の実施形態では、第2圧縮機10Bのピストン12の歪量によって、処理空間1Sを昇圧する態様にて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。歪量の代わりにピストン12の油圧によって、処理空間1Sを昇圧する態様でもよい。
【0079】
(2)また、上記の各実施形態では、圧力容器1が円筒形状を備える態様にて説明したが、圧力容器1の形状は円筒形状に限定されるものではない。また、圧力容器1はその中心線が鉛直方向を向くものに限定されない。
【符号の説明】
【0080】
1 圧力容器
10 圧縮機
10A 第1圧縮機
10B 第2圧縮機
100 HIP装置(等方圧加圧装置)
100A コントローラ
100H 装置本体
101 ガス供給路(第1流路)
102 第1ガス供給路
103 第2ガス供給路
11 シリンダ本体
110 第3ガス供給路(第2流路)
11S 内部空間
12 ピストン
13 油圧シリンダ
13S ヘッド室
13T ロッド室
14 油圧ポンプ
15 タンク
17 ガスボンベ
18 圧縮機丸穴交差部
19 上蓋丸穴交差部
1A 圧力容器胴
1B 上蓋
1C 下蓋
1S 処理空間
21、22、23、24 バルブ
30 第2高圧塞止弁(第2開閉弁)
4 ヨークフレーム
5 断熱層
6 ヒータエレメント
7 基台
8 処理品(被処理物)
9 第1高圧塞止弁(第1開閉弁)
CL 中心線