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  • 特開-古紙パルプ原料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059449
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】古紙パルプ原料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21B 1/32 20060101AFI20240423BHJP
   D21C 5/02 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
D21B1/32
D21C5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167129
(22)【出願日】2022-10-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開の事実 頒布日:令和3年10月21日(発行日 令和3年11月4日) 刊行物:第64回-2021年紙パルプ技術協会年次大会「紙パルプ産業の新たな飛躍・・・イノベーションの推進と加速する変革へのチャレンジ」講演要旨集 発行所:紙パルプ技術協会
(71)【出願人】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】川頭 勇太
(72)【発明者】
【氏名】榎本 幸典
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA11
4L055AC09
4L055AG07
4L055BA11
4L055CA10
4L055EA07
4L055EA08
4L055EA20
4L055EA31
4L055FA07
(57)【要約】
【課題】 本開示は、ラミネート古紙から当該古紙に含まれる古紙原料となるパルプ成分を回収するにあたり、回収されるパルプ成分へのダメージを抑制しつつ、十分な離解率を保持した状態で、ラミネート加工されたプラスチックフィルムの剥離効率を向上可能な方法を提供する。
【解決手段】 本開示は、一態様として、古紙パルプ原料の製造方法であって、紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙を含む古紙原料を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で離解処理を行うこと、及び前記離解処理により前記ラミネート古紙から分離した前記紙基材のパルプを回収することを含み、前記処理液のpHが7.0~8.5である方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
古紙パルプ原料の製造方法であって、
紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙を含む古紙原料を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で離解処理を行うこと、及び
前記離解処理により前記ラミネート古紙から分離した前記紙基材のパルプを回収すること、を含み、
前記処理液のpHが7.0~8.5である、方法。
【請求項2】
前記離解処理は、前記ラミネート古紙の紙基材とプラスチックフィルムとを分離することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記離解処理により得られたパルプスラリーから前記プラスチックフィルム由来成分を除去することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記離解処理における処理液の温度は、20℃~65℃である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
古紙原料からパルプ成分を回収する方法であって、
前記古紙原料は、紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙を含み、
該方法は、
前記古紙原料を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で離解処理を行うこと、及び
前記離解処理後に前記紙基材由来のパルプ成分を回収すること、を含み、
前記処理液のpHが7.0~8.5である、方法。
【請求項6】
紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙から、前記プラスチックフィルムの剥離を促進する方法であって、
前記ラミネート古紙を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で攪拌することを含み、
前記処理液のpHが7.0~8.5である、方法。
【請求項7】
モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を有効成分とする、ラミネート古紙における紙基材から該基材を覆うプラスチックフィルムの剥離を促進するための剥離促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ラミネート古紙を含む古紙原料から古紙パルプ原料を製造する方法、該古紙原料からセルロース成分を回収する方法、及びラミネート古紙の離解を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙は様々な加工がなされており、古紙パルプの原料となる古紙には様々な物質が含まれている。その一つとして、ミルクカートンをはじめとする液体用紙パック原料や、工程紙といったラミネート紙がある。ラミネート紙は、パルプ繊維を主体とする紙基材の一方の面又は両方の面にプラスチックフィルムがラミネート加工することによって、耐水性や防湿性などが付与されている。通常、このようなラミネート紙は、全体の80~90重量%程度を紙基材が占めている。この紙基材となる紙の原料は、白色度の高い針葉樹の晒クラフトパルプが多くを占めており、有効な処理方法があれば利用価値の高いパルプとすることができる。
【0003】
このため、ラミネート古紙からパルプを回収して再利用するための様々な方法が提案されている。特許文献1は、微細に断裁されたラミネート古紙を離解し、パルプ濃度10重量%以上に濃縮した後、70℃以上の温度下において機械的な剪断力を加えることを開示する。特許文献2は、セルロースを分解可能な酵素の水溶液中にラミネート紙(カートン材)を浸漬し、攪拌処理することを含むラミネート紙から紙基材とラミネート材料(プラスチックフィルム)とを分別回収する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-96182号公報
【特許文献2】特開2011-120962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法では、紙基材とラミネート材料(プラスチックフィルム)との十分な分離と、紙基材の十分な離解との双方を実現しつつ、ラミネート古紙から良質なパルプを回収することが難しいという問題がある。
【0006】
本開示は、ラミネート古紙から当該古紙に含まれる古紙原料となるパルプ成分を回収するにあたり、回収されるパルプ成分へのダメージを抑制しつつ、十分な離解率を保持した状態で、ラミネート加工されたプラスチックフィルムの剥離効率を向上可能な方法、及びそれに用いる薬剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様として、古紙パルプ原料の製造方法であって、紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙を含む古紙原料を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で離解処理を行うこと、及び前記離解処理により前記ラミネート古紙から分離した前記紙基材のパルプを回収すること、を含み、前記処理液のpHが7.0~8.5である方法に関する。
【0008】
本開示は、その他の態様として、古紙原料からパルプ成分を回収する方法であって、前記古紙原料は、紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙を含み、該方法は、前記古紙原料を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で離解処理を行うこと、及び前記離解処理後に前記紙基材由来のパルプ成分を回収することを含み、前記処理液のpHが7.0~8.5である方法に関する。
【0009】
本開示は、その他の態様として、紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙から、前記プラスチックフィルムの剥離を促進する方法であって、前記ラミネート古紙を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で攪拌することを含み、前記処理液のpHが7.0~8.5である方法に関する。
【0010】
本開示は、その他の態様として、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を有効成分とする、ラミネート古紙における紙基材から該基材を覆うプラスチックフィルムの剥離を促進するための剥離促進剤に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、回収されるパルプ成分へのダメージを抑制しつつ、十分な離解率を保持した状態で、ラミネート加工されたプラスチックフィルムの剥離効率を向上可能な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例(ミルクカートン離解処理試験)の結果の一例であって、該試験における離解率を示すグラフである。
図2図2は、実施例(ミルクカートン離解処理試験)の結果の一例であって、該試験におけるフィルム剥離率、及び得られた古紙パルプ原料を用いて作製した紙の比引張強さを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、ミルクカートンといったラミネート紙から、パルプ成分を回収するにあたり、離解率とフィルムの剥離率とに着目し研究を重ねた。その過程で、モノクロラミンを含む処理液のpHを高アルカリ(例えば、pH10.5以上)とすると、離解率及びフィルム剥離率の双方が大きく向上するという知見を得た。一方で、得られたパルプ成分を用いて抄紙したところ、紙の強度が大幅に低下するという問題を見出した。そこで、さらに研究を重ねた過程で、モノクロラミンを含む処理液のpHを7.0~8.5、好ましくは7.0~8.0とすることにより、十分な離解率を維持しつつフィルム剥離率を向上し、かつ良好な引張強度を有する紙を抄紙可能なパルプ成分を得られることを見出した。なお、本開示の処理液におけるpHの範囲(7.0~8.5)は、次亜塩素酸ナトリウムといった酸化漂白剤の漂白効果が好適に発揮されるpH範囲よりも低いpHである。
【0014】
本開示における「ラミネート古紙」は、紙基材の少なくとも一方の面に樹脂組成物がラミネート加工されたラミネート紙をいう。紙基材は、一又は複数の実施形態において、パルプ繊維を主体とする。本開示におけるラミネート古紙は、一又は複数の実施形態において、パルプ繊維を主体とする紙基材と、前記紙基材の少なくとも一方の面に積層されたプラスチックフィルムを含む。プラスチックフィルムの材質としては、一又は複数の実施形態において、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、エチレン酢酸ビニル共重合体、及びポリ塩化ビニル等が挙げられる。プラスチックフィルムは、一又は複数の実施形態において、バイオマス由来のポリオレフィン樹脂組成物からなるバイオマスポリオレフィンフィルムであってもよい。
紙基材の材質は、一又は複数の実施形態において、晒化学パルプ、未晒化学パルプ、晒機械パルプ、未晒機械パルプ、古紙パルプ(DIP)及びブロークパルプ等が挙げられる。晒化学パルプ及び未晒化学パルプとしては、クラフトパルプ(KP)及びサルファイトパルプ(SP)等が挙げられる。晒機械パルプ及び未晒機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)及びサーモメカニカルパルプ(TMP)等が挙げられる。
ラミネート古紙としては、一又は複数の実施形態において、ミルクカートン等の飲料容器用ラミネート紙、ポリエチレンコート防湿紙、及びプリントラミネート紙等が挙げられる。
ラミネート古紙は、一又は複数の実施形態において、80重量%~90重量%程度の紙基材と、10重量%~20重量%程度の樹脂組成物(プラスチックフィルム)とで構成されている。
【0015】
本開示において「モノクロラミン」とは、結合塩素(結合型残留塩素)の一種であって、N NH2Clで表される化合物(アンモニアの水素原子のうち1つを塩素原子で置き換えた化合物)をいう。本開示において「モノブロマミン」とは、結合臭素の一種であって、NH2Brで表される化合物(アンモニアの水素原子のうち1つを臭素原子で置き換えた化合物)をいう。モノクロラミン及びモノブロマミンは、OCl-(Br-)+NH4 +→NH2Cl(Br)+H2Oのような反応で生成される。一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸塩とアンモニウム化合物とを混合することによりモノクロラミンを生成できる。次亜塩素酸塩としては、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム及び次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。アンモニウム化合物としては、一又は複数の実施形態において、硫酸アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化アンモニウム、及びスルファミン酸アンモニウムが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合せて使用してもよい。
【0016】
モノクロラミン及び/又はモノブロマミンを含むスライムコントロール剤としては、一又は複数の実施形態において、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム又は次亜塩素酸カルシウムの次亜塩素酸塩の水溶液と、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、硫酸アンモニウム若しくは硝酸アンモニウムの水溶性の無機アンモニウム塩の水溶液又はアンモニア水とを混合することにより生成した薬剤等が挙げられる。
次亜塩素酸塩とアンモニウム塩とのモル比は、一又は複数の実施形態において、全残留塩素量と窒素とのモル比として、1:1~1:2、1:1.1~1:2、1:1.2~1:2、又は1:1.2~1:1.6である。
【0017】
本開示において「全残留塩素」とは、遊離残留塩素(HOCl,OCl-)と結合残留塩素(クロラミン)とを合わせたものであり、本開示において「全残留塩素量」とは、遊離残留塩素と結合残留塩素との合計量であり、本開示において「全残留塩素濃度」とは、遊離残留塩素濃度と結合残留塩素濃度との合計を意味する。全残留塩素濃度は、実施例に記載の方法より測定できる。
【0018】
[古紙パルプ原料の製造方法]
本開示は、一態様において、ラミネート古紙を含む古紙から古紙パルプ原料を製造する方法に関する。本開示の古紙パルプ原料の製造方法は、紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙を含む古紙原料を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で離解処理を行うこと、及び前記離解処理により前記ラミネート古紙から分離した前記紙基材を回収することを含み、前記処理液のpHが7.0~8.5である。
【0019】
本開示の製造方法において、処理液に含まれる古紙原料は、一又は複数の実施形態において、ラミネート古紙以外の古紙を含んでいてもよいし、実質的にラミネート古紙からなっていてもよい。ラミネート古紙以外の古紙としては、一又は複数の実施形態において、新聞紙、段ボール、及び印刷古紙等が挙げられる。
【0020】
離解処理における処理液のpHは、十分な離解率を維持しつつフィルム剥離率を向上し、かつ、得られる紙の比引張り強さを向上させる点から、7.0以上、7.1以上、7.2以上、7.3以上、7.4以上、又は7.5以上である。同様の点から8.5未満、8.4以下、8.3以下、又は8.2以下である。pHは、実施例の記載の方法により測定できる。
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、離解処理における処理液のpHが7.0~8.5となるように、処理液のpHを調整することを含んでいてもよい。本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、離解処理における処理液のpHが7.0~8.5となるように、処理液にアルカリ剤を添加することを含んでいてもよい。アルカリ剤の添加は、一又は複数の実施形態において、モノクロラミン及びモノブロマミンの添加前であってもよいし、モノクロラミン及びモノブロマミンの添加後であってもよいし、モノクロラミン及びモノブロマミンの添加と同時であってもよい。
【0021】
離解処理の処理液における古紙原料の濃度は、一又は複数の実施形態において、1重量%~30重量%である。十分な離解率及びフィルム剥離率を維持する点から、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、又は10重量%以下である。
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、処理液に古紙原料を添加することを含んでいてもよい。本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、処理液中の古紙原料が1重量%~30重量%となるように処理液に古紙原料を添加することを含んでいてもよい。古紙原料は、一又は複数の実施形態において、裁断して処理液に添加してもよいし、裁断することなく処理液に添加してもよい。
【0022】
離解処理の処理液におけるパルプ濃度は、一又は複数の実施形態において、1重量%~30重量%である。十分な離解率及びフィルム剥離率を維持する点から、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、又は10重量%以下である。
【0023】
離解処理の処理液におけるモノクロラミン及び/又はモノブロマミンの濃度(モノクロラミン及びモノブロマミンの両方を含む場合はその合計の濃度)は、処理液中の全残留塩素濃度(モノブロマミンの場合は全残留塩素濃度換算値として)が、一又は複数の実施形態において、0.5mg/L~30mg/Lである。十分な離解率を維持しつつフィルム剥離率を向上し、かつ、得られる紙の比引張り強さを向上させる点から、一又は複数の実施形態において、1mg/L以上、1.5mg/L以上、2mg/L以上、5mg/L以上又は10mg/L以上である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、25mg/L以下、24mg/L以下、20mg/L以下又は15mg/L以下である。
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、離解処理の処理液における全残留塩素濃度が0.5mg/L~30mg/Lとなるように当該処理液にモノクロラミン及び/又はモノブロマミンを添加することを含んでいてもよい。モノクロラミン及び/又はモノブロマミンの添加は、一又は複数の実施形態において、アルカリ剤の添加前であってもよいし、アルカリ剤の添加後であってもよいし、アルカリ剤の添加と同時であってもよい。
【0024】
離解処理における処理液の温度は、一又は複数の実施形態において、20℃~65℃である。処理液の温度は、十分な離解率を維持しつつフィルム剥離率を向上し、かつ得られる紙の比引張り強さを向上させる点から、一又は複数の実施形態において、25℃以上、30℃以上又は35℃以上である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、64℃以下、63℃以下、62℃以下、61℃以下、60℃以下、59℃以下、58℃以下、57℃以下、56℃以下、55℃以下、50℃以下、50℃未満、49℃以下、48℃以下、47℃以下、46℃以下、45℃以下、44℃以下、43℃以下、42℃以下又は41℃以下である。処理液の温度は、実施例の記載の方法により測定できる。
【0025】
離解処理は、一又は複数の実施形態において、ラミネート古紙を含む古紙原料を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液を所定の時間攪拌することを含む。ラミネート古紙を含む古紙原料を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液を所定の時間攪拌することにより、一又は複数の実施形態において、前記ラミネート古紙の紙基材とプラスチックフィルムとを分離することができる。離解処理は、一又は複数の実施形態において、離解機(パルパー)によって行うことができる。
【0026】
離解処理における攪拌(パルパー)の回転数は、一又は複数の実施形態において、100rpm~2000rpmである。回転数は、十分な離解率を維持しつつフィルム剥離率を向上し、かつ、得られる紙の比引張り強さを向上させる点から、一又は複数の実施形態において、150rpm以上、200rpm以上、300rpm以上、400rpm以上又は500rpm以上である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、1800rpm以下、1600rpm以下、1500rpm以下、1400rpm以下、1300rpm以下、1200rpm以下、1100rpm以下又は1000rpm以下である。
【0027】
離解処理における攪拌時間は、一又は複数の実施形態において、5分~60分である。攪拌時間は、十分な離解率を維持しつつフィルム剥離率を向上し、かつ、得られる紙の比引張り強さを向上させる点から、一又は複数の実施形態において、10分以上又は15分以上である。同様の点から、50分以下、45分以下、40分以下、35分以下又は30分以下である。
【0028】
離解処理は、一又は複数の実施形態において、ラミネート古紙を含む古紙原料と、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方とを含む処理液に、希釈水を添加することを含んでいてもよい。希釈水は、一又は複数の実施形態において、水であってもよいし、水は循環利用または再利用される白水であってもよい。添加される希釈水の温度は、一又は複数の実施形態において、20℃~65℃である。希釈水の温度は、十分な離解率を維持しつつフィルム剥離率を向上し、かつ得られる紙の比引張り強さを向上させる点から、一又は複数の実施形態において、25℃以上、30℃以上又は35℃以上である。同様の点から、一又は複数の実施形態において、64℃以下、63℃以下、62℃以下、61℃以下、60℃以下、59℃以下、58℃以下、57℃以下、56℃以下、55℃以下、50℃以下、50℃未満、49℃以下、48℃以下、47℃以下、46℃以下又は45℃以下である。希釈液の温度は、実施例の記載の方法により測定できる。
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、希釈水を添加することにより、離解処理の処理液の温度が20℃~65℃となるように調整することを含んでいてもよい。
【0029】
処理液に添加する希釈水は、一又は複数の実施形態において、アルカリ剤を含んでいてもよい。アルカリ剤としては、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び炭酸ナトリウム等が挙げられる。アルカリ剤を含む希釈液のpHは、一又は複数の実施形態において、7.0~8.5である。十分な離解率を維持しつつフィルム剥離率を向上し、かつ、得られる紙の比引張り強さを向上させる点から、7.0以上、7.1以上、7.2以上又は7.3以上である。同様の点から8.5未満、8.4以下、8.3以下、又は8.2以下である。pHは、実施例の記載の方法により測定できる。
【0030】
離解処理時の処理液は、一又は複数の実施形態において、脱墨剤を実質的に含有しない。
【0031】
本開示の方法によれば、一又は複数の実施形態において、良質なセルロース繊維としての古紙パルプ原料を製造できる。本開示の方法により得られた古紙パルプ原料を用いて得られる紙の比引張強さは、一又は複数の実施形態において、0.26N・m2/g以上であり、好ましくは0.277N・m2/g以上、又は0.28N・m2/g以上である。得られる紙の比引張強さは、一又は複数の実施形態において、0.35N・m2/g以下又は0.32N・m2/g以下である。比引張り強さは、実施例に記載の方法により測定できる。
【0032】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、離解処理により得られたパルプスラリーから前記プラスチックフィルム由来成分を除去することを含んでいてもよい。
【0033】
本開示の方法は、一又は複数の実施形態において、前記離解処理により得られた古紙原料を脱墨処理することを含んでいてもよい。脱墨処理は、古紙を離解して得られたパルプ液中のパルプに付着したインク成分をパルプから除去する処理のことをいう。本開示における脱墨処理は、一又は複数の実施形態において、脱墨剤及びアルカリ剤の存在下で行うことができる。本開示における脱墨処理は、一又は複数の実施形態において、フローテーション法によって行われてもよいし、フローテーション法によって行わなくてもよい。フローテーション法とは、パルプ液に空気を吹き込んでパルプ液中に気泡を形成し、その気泡の表面にパルプから剥離されたインク粒子を吸着浮上させてアルカリ剤および脱墨剤を使って分離除去する方法をいう。フローテーション法による脱墨工程は、一又は複数の実施形態において、フローテーターを用いて行うことができる。
【0034】
[古紙原料からのパルプ成分の回収方法]
本開示は、その他の態様として、古紙原料からパルプ成分を回収する方法であって、前記古紙原料は、紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙を含み、該方法は、前記古紙原料を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で離解処理を行うこと、及び前記離解処理後に前記紙基材由来のパルプ成分を回収することを含み、前記処理液のpHが7.0~8.5である方法に関する。
【0035】
本開示の回収方法によれば、十分な離解率を維持しつつフィルム剥離率を向上し、かつ、良好な引張強度を有する紙を抄紙可能なパルプ成分を回収することができる。本開示のパルプ成分の回収方法において、離解処理は本開示の製造方法と同様に行うことができる。
【0036】
[プラスチックフィルムの剥離促進方法]
本開示は、その他の態様として、紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙から、前記プラスチックフィルムの剥離を促進する方法であって、前記ラミネート古紙を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で攪拌することを含み、前記処理液のpHが7.0~8.5である方法に関する。
【0037】
本開示の剥離促進方法によれば、ラミネート古紙から効率よくプラスチックフィルムを剥離することができる。本開示のプラスチックフィルムの剥離促進方法において、離解処理は本開示の製造方法と同様に行うことができる。
【0038】
[プラスチックフィルム剥離促進剤]
本開示は、その他の態様として、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を有効成分とする、ラミネート古紙における紙基材から該基材を覆うプラスチックフィルムの剥離を促進するための剥離促進剤に関する。
【0039】
本開示の古紙パルプ原料の製造方法の実施形態の一例を以下に説明する。下記の実施形態は、薬剤としてモノクロラミンを用いた形態を例にとり説明するが、これはあくまで一例であって本開示を限定するものではない。
【0040】
まず、パルパーに、ラミネート古紙、アルカリ剤及び水を投入する。パルパーに投入するラミネート古紙は、細かく裁断されていてもよいし、細かく裁断されていなくてもよい。アルカリ剤は、ラミネート古紙を含む水のpHが7.0~8.5、好ましくはpH7.1~8.4になるように投入する。使用するアルカリ剤は上記のとおりである。パルパーに投入する水の温度は、20℃~50℃であり、好ましくは20℃以上50℃未満である。パルパー内に投入する水の量は、パルパー内のラミネート古紙(固形分)の濃度が1重量%~30重量%となるようにする。
【0041】
次いで、ラミネート古紙、アルカリ剤及び水が投入されたパルパー内にモノクロラミンを投入する。モノクロラミンの量は、パルパー内のラミネート古紙(固形分)の濃度によって適宜決定できるが、例えば、0.5mg/L~30mg/Lである。
【0042】
次いで、パルパー内の備え付けられたローター等を回転させることによって攪拌することにより、離解を行う。離解時間は、パルパー内のラミネート古紙(固形分)の濃度によって適宜決定できるが、例えば、5分~60分である。離解時の回転数は、100rpm~2000rpmとすることにより行うことができる。ここで、離解時間は、攪拌を開始してから攪拌を終了するまでの時間をいう。
【0043】
このようにして、紙基材を覆うプラスチックフィルムが紙基材から剥離し、プラスチックフィルムと紙基材とが分離されるとともに、紙基材が離解される。分離したプラスチックフィルムは、パルパーの排出口等を通じて排出され、離解された紙基材(パルプ成分)を含むパルプスラリーはストレーナーを通じて貯留タンクに貯留される。また、スクリーン等によって、プラスチックフィルムと離解された紙基材(パルプ成分)とを分離してもよい。
【0044】
貯留タンクに貯留されたパルプスラリーは、スクリーン等で異物を除去(粗選)し、必要に応じてフローテーターにより脱墨処理を行ってもよい。その後、スクリーンによる精選、並びにシックナーにおいて濃縮及び脱水等が行われた後、回収タンクに回収される。
【0045】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
[1] 古紙パルプ原料の製造方法であって、
紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙を含む古紙原料を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で離解処理を行うこと、及び
前記離解処理により前記ラミネート古紙から分離した前記紙基材のパルプを回収すること、を含み、
前記処理液のpHが7.0~8.5である、方法。
[2] 前記離解処理は、前記ラミネート古紙の紙基材とプラスチックフィルムとを分離することを含む、[1]記載の方法。
[3] 前記離解処理により得られたパルプスラリーから前記プラスチックフィルム由来成分を除去することを含む、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記離解処理における処理液の温度は、20℃~65℃である、[1]から[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 古紙原料からパルプ成分を回収する方法であって、
前記古紙原料は、紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙を含み、
該方法は、
前記古紙原料を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で離解処理を行うこと、及び
前記離解処理後に前記紙基材由来のパルプ成分を回収すること、を含み、
前記処理液のpHが7.0~8.5である、方法。
[6] 紙基材の少なくとも一方の面にプラスチックフィルムが積層されたラミネート古紙から、前記プラスチックフィルムの剥離を促進する方法であって、
前記ラミネート古紙を、モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を含む処理液中で攪拌することを含み、
前記処理液のpHが7.0~8.5である、方法。
[7] モノクロラミン及びモノブロマミンの少なくとも一方を有効成分とする、ラミネート古紙における紙基材から該基材を覆うプラスチックフィルムの剥離を促進するための剥離促進剤。
【0046】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例0047】
[調製例1] 次亜塩素酸ナトリウムと硫酸アンモニウムとの混合液によるモノクロラミン水溶液の調製
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(残留塩素量:140g/L)を脱イオン水で残留塩素量が2g/Lになるように希釈した後、30%硫酸アンモニウム水溶液(硫酸アンモニウム(キシダ化学(株)製)30gを脱イオン水で溶解し、全量を100gとしたもの)を混合し、残留塩素量と窒素とのモル比が1:1.2となるようにモノクロラミン水溶液を調製した。
[調製例2] 次亜塩素酸ナトリウムと硫酸アンモニウムとの混合液によるモノクロラミン水溶液の調製
残留塩素量と窒素とのモル比を1:1.6とした以外は、調製例1と同様に調製した。
[調製例3] 次亜塩素酸ナトリウムと塩化アンモニウムとの混合液によるモノクロラミン水溶液の調製
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(残留塩素量:140g/L)を脱イオン水で残留塩素量が2g/Lになるように希釈した後、20%塩化アンモニウム水溶液(塩化アンモニウム(キシダ化学(株)製)20gを脱イオン水で溶解し、全量を100gとしたもの)を混合し、残留塩素量と窒素とのモル比が1:1.2となるようにモノクロラミン水溶液を調製した。
[調製例4] 次亜塩素酸ナトリウムと臭化アンモニウムとの混合液によるモノブロマミン水溶液の調製
次亜塩素酸ナトリウム水溶液(残留塩素量:140g/L)を脱イオン水で残留塩素量が2g/Lになるように希釈した後、1%水酸化ナトリウム水溶液を30ml/L加え、30%臭化アンモニウム水溶液(臭化アンモニウム(キシダ化学(株)製)30gを脱イオン水で溶解し、全量を100gとしたもの)を混合し、残留塩素量と窒素とのモル比が1:1.2となるようにモノブロマミン水溶液を調製した。
【0048】
[ミルクカートン離解処理試験]
(1)3~5cm角に裁断したミルクカートン90gに水道水(温水60℃)2910gを加えて分散液を調製した。
(2)(1)で調製した分散液に48%NaOHを添加し、分散液のpHを下記表1に示す数値に調整して試料を調製した。
(3)(2)で調製した試料を離解機(パルパー)に入れ、800rpmで40分間撹拌した。なお、撹拌開始直後に、調製例1で調製したモノクロラミン水溶液を下記表1に示す残留塩素濃度(mg/L)となるように添加した。また、モノクロラミン水溶液添加後のパルパー内の処理液の温度は55℃であった。モノクロラミン水溶液添加後のパルパー内の処理液のpHは試料のpHとほぼ同じであった。
(4)離解後パルプスラリーをフラットスクリーン(スクリーンサイズ;8cut)に15分かけ、離解物、浮遊物及び未離解物に分離した。なお、離解物、浮遊物及び未離解物は以下の基準で分離・回収した。
離解物:フラットスクリーンを通過した繊維
浮遊物:フラットスクリーンを通過しなかった未離解分の内、比重が軽いもの(水中で浮遊しているもの)
未離解物:フラットスクリーンを通過しなかった未離解分の内、比重が重いもの(水中で沈殿しているもの)
(5)分離した離解物、浮遊物及び未離解物を105℃恒温槽にて一晩乾燥させ、重量を測定した。
(6)得られた重量を用いて下記式より離解率及びフィルム剥離率を算出した。その結果を下記表及び図1に示す。なお、下記式におけるミルクカートン中のパルプ重量及びフィルム重量は、実験に使用したミルクカートンにおけるパルプの割合が83%であり、フィルムの割合が17%であるとして算出した。
[離解率]=離解パルプの重量(g)/74.7(g)(ミルクカートン中のパルプ重量)×100
[フィルム剥離率]=剥離されたフィルム重量(g)/15.3(g)(ミルクカートン中のフィルム重量)×100
(7)得られた離解物を用いて下記方法により比引張強さを測定した。その結果を下記表1並びに図1及び2に示す。
【0049】
[pHの測定]
pHは、卓上型pHメーター(堀場製作所製P-52)を用いて測定した。pHの値は、pHメータの電極を分散液へ浸漬して1分後の数値である。
[温度の測定]
温度は、棒状アルコール温度計(久松計量器製)を用いて測定した。
[残留塩素量の測定]
残留塩素量は、ラボ用残留塩素計(笠原理化工業製DP-3Z)を用いて測定した。
【0050】
[比引張強さ]
得られた離解物を用いて紙を作製した。すなわち、離解物(20重量%~25重量%)を15g~18.75g(絶乾3.75g)量りとり、坪量60g/m2の紙を作製した。
作製した紙を用いて比引張強さの測定を行った。すなわち、作製した紙を15mm×150mmに裁断し、横型引張試験機KRK 2000-C(熊谷理機工業(株)製)にて
引張強さの測定を行なった。(JIS P 8113に準拠)測定した紙の引張強さと紙の坪量から、下記式を用いて比引張強さを算出した。
比引張強さ(N・m2/g)=引張強さ(N)/紙の坪量(g/m2
【0051】
【表1】
【0052】
上記表1並びに図1及び2に示すとおり、処理液のpHを8.0として離解処理した場合、処理液のpHが9.0の場合と同等以上のフィルム剥離率及び比引張強さを示した。また、処理液のpHが7.0及びpH8.0として離解処理した場合、モノクロラミンの添加に伴い離解率及びフィルム剥離率が向上し、かつ得られた紙の比引張強さ(強度)が増加し、得られたパルプの品質が向上したということが示された。
図1
図2