(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059455
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】電磁アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H01F 7/14 20060101AFI20240423BHJP
H01F 7/08 20060101ALI20240423BHJP
F16D 27/118 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
H01F7/14 E
H01F7/08 B
F16D27/118
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167137
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒井 義康
(72)【発明者】
【氏名】山盛 元康
【テーマコード(参考)】
5E048
【Fターム(参考)】
5E048AB10
(57)【要約】
【課題】設置サイズ及びコストの増大を抑制しながらも、移動部材の移動量を大きくすることが可能な電磁アクチュエータを提供する。
【解決手段】電磁アクチュエータ2は、電磁コイル20と、電磁コイル20を保持するヨーク3と、電磁コイル20が発生する磁力によって所定の動作を行う動作部41、及び動作部41と一体的に連動するレバー部42を有するプランジャ4と、レバー部42の動きによって移動するシフトカラー7と、を備える。レバー部42は、動作部41側の基端部421の移動量よりも動作部41と反対側の先端部422の移動量が大きく、シフトカラー7は、レバー部42の先端部422に連動して移動する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁コイルと、
前記電磁コイルを保持するヨークと、
前記電磁コイルが発生する磁力によって所定の動作を行う動作部、及び前記動作部と一体的に連動するレバー部を有するプランジャと、
前記レバー部の動きによって移動する移動部材と、を備え、
前記レバー部は、前記動作部側の基端部の移動量よりも前記動作部と反対側の先端部の移動量が大きく、
前記移動部材は、前記レバー部の前記先端部に連動して移動する、
電磁アクチュエータ。
【請求項2】
複数の前記プランジャを保持する保持部材を備え、
前記保持部材が前記移動部材を囲む環状に形成されており、
複数の前記プランジャが前記移動部材の外周側の複数箇所に配置されている、
請求項1に記載の電磁アクチュエータ。
【請求項3】
前記プランジャは、前記動作部が前記電磁コイル及び前記ヨークの周方向に沿う揺動軸を中心として揺動自在であり、前記レバー部が前記動作部から前記移動部材側に向かって突出している、
請求項2に記載の電磁アクチュエータ。
【請求項4】
前記ヨークは、前記電磁コイルを保持する保持部と、前記保持部から前記プランジャ側に突出した突出部とを有し、
前記プランジャは、前記ヨークの前記突出部に吸引される磁石を前記動作部に有している、
請求項3に記載の電磁アクチュエータ。
【請求項5】
前記移動部材は、その外周面に周方向の溝が形成されており、
前記プランジャは、前記レバー部の前記先端部が前記溝に係合している、
請求項2乃至4の何れか1項に記載の電磁アクチュエータ。
【請求項6】
前記ヨークは、前記突出部が、前記電磁コイルの径方向に並ぶ第1突出部及び第2突出部からなり、
前記磁石は、前記電磁コイルに供給される電流の向きに応じて前記第1突出部及び前記第2突出部の何れかに吸引される、
請求項4に記載の電磁アクチュエータ。
【請求項7】
前記ヨークは、前記電磁コイルの軸方向に並ぶ一対の前記突出部を有しており、
前記磁石は、前記電磁コイルに供給される電流の向きに応じて前記一対の前記突出部の何れかに吸引される、
請求項4に記載の電磁アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁力によって機械的な動作を生じさせる電磁アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電磁力によって機械的な動作を生じさせる電磁アクチュエータが、例えば車両に用いられている。特許文献1には、車両のディファレンシャル装置のデフケースとサイドギヤとの連結を断続する断続部材をデフケース及びサイドギヤの軸方向に移動させるアクチュエータが記載されている。
【0003】
特許文献1に記載のアクチュエータは、電磁石と、電磁石の内径側に配置された可動部材とを有している。可動部材は、磁性材料から形成された環状のプランジャと、プランジャの内周に一体に固定されたリング部材とを有している。プランジャは、微小なエアギャップをもって電磁石の内径側に配置されている。リング部材は、デフケースの壁部に形成された軸方向孔内で断続部材と当接する押圧部を有している。断続部材は、サイドギヤとの間に配置された付勢部材により、サイドギヤから離れる方向に付勢されている。サイドギヤの背面、及び断続部材におけるサイドギヤ側の軸方向端面には、それぞれ複数の噛み合い歯が形成されている。電磁石に通電されると、プランジャに作用する電磁力によって可動部材がサイドギヤ側に移動してリング部材の押圧部が断続部材をサイドギヤ側に押圧し、複数の噛み合い歯同士が噛み合わされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のアクチュエータは、サイドギヤの背面に形成された噛み合い歯と断続部材の軸方向端面に形成された噛み合い歯とを噛み合わせるものであるため、可動部材の軸方向の移動距離が噛み合い歯の歯丈程度の僅かな距離であるが、電磁アクチュエータの用途によっては、移動部材をより長い距離で移動させる必要がある場合がある。また、移動部材の移動距離を長くするために、例えばねじ機構や歯車機構を用いると、設置サイズが増大すると共に部品数の増加によってコストが増大してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、設置サイズ及びコストの増大を抑制しながらも、移動部材の移動量を大きくすることが可能な電磁アクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するため、電磁コイルと、前記電磁コイルを保持するヨークと、前記電磁コイルが発生する磁力によって所定の動作を行う動作部、及び前記動作部と一体的に連動するレバー部を有するプランジャと、前記レバー部の動きによって移動する移動部材と、を備え、前記レバー部は、前記動作部側の基端部の移動量よりも前記動作部と反対側の先端部の移動量が大きく、前記移動部材は、前記レバー部の前記先端部に連動して移動する、電磁アクチュエータを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電動アクチュエータによれば、設置サイズ及びコストの増大を抑制しながらも、移動部材の移動量を大きくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係る電磁アクチュエータを有する駆動力伝達機構の構成例を示す断面図である。
【
図2】
図1における電磁アクチュエータの周辺部を拡大して示す拡大図である。
【
図3】電磁アクチュエータの外観を示す斜視図である。
【
図5】ヨーク、リテーナ、及びキャップの一部を複数のプランジャと共に示す斜視断面図である。
【
図6】リテーナの一部を拡大して示す斜視断面図である。
【
図7】(a)及び(b)は、プランジャをそれぞれ別の角度から見た斜視図である。(c)は、プランジャの断面図である。
【
図8】リテーナの保持孔にプランジャが保持された状態を示す構成図である。
【
図9】(a)及び(b)は、電磁アクチュエータにおけるプランジャの動作状態を示す断面図である。
【
図10】(a)及び(b)は、変形例に係る電磁アクチュエータにおけるプランジャの動作状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図9を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態及び変形例は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係る電磁アクチュエータ2を有する駆動力伝達機構1の構成例を示す断面図である。駆動力伝達機構1は、駆動源として電動モータ101を有する車両に搭載され、電動モータ101から減速機102及び差動装置103を介してシャフト11に出力される駆動力を車輪104側に伝達する。減速機102は、電動モータ101の出力軸の回転を減速してトルクを増幅し、差動装置103は、減速機102によって増幅された電動モータ101のトルクを車両の左右輪側に差動を許容して配分する。
【0012】
駆動力伝達機構1は、電磁アクチュエータ2と、等速ジョイント8と、ハブユニット9とを有している。電磁アクチュエータ2は、等速ジョイント8とハブユニット9との間に配置され、車両の制御装置100から供給される電流により等速ジョイント8とハブユニット9との連結を断続可能である。
【0013】
等速ジョイント8は、シャフト11の一端部に相対回転不能に連結された内側継手部材81と、内側継手部材81を収容する椀型のカップ部821及び軸状のステム部822を有する外側継手部材82と、内側継手部材81と外側継手部材82との間に配置された複数のボール83と、複数のボール83を転動可能に保持するケージ84と、外側継手部材82の開口を覆う蛇腹状のブーツ85とを有している。
【0014】
図1では、複数のボール83のうち一つのボール83を図示している。ボール83は、内側継手部材81のボール溝81a及び外側継手部材82のボール溝82aを転動し、内側継手部材81と外側継手部材82との間で駆動力を伝達する。なお、
図1では、内側継手部材81及び外側継手部材82の中心軸が一致したジョイント角ゼロの状態を示しているが、車両の走行時には内側継手部材81及び外側継手部材82が例えば10~50°のジョイント角をもって等速で回転する。
【0015】
ハブユニット9は、懸架装置のナックル15に取り付けられる外方部材91と、車輪104がブレーキロータ105と共に複数のハブボルト106によって取り付けられる内方部材92と、外方部材91と内方部材92との間に配置される複数の転動体93と、複数の転動体93を保持する保持器94と、内方部材92と一体に回転する噛み合い部材95とを有している。
【0016】
外方部材91は、円筒状の筒部911、及び筒部911から外方に突出してナックル15に取り付けられるフランジ部912を一体に有している。筒部911の内周には、転動体93を転動させる第1及び第2の外側軌道面911a,911bが周方向に沿って形成されている。フランジ部912には、ナックル15に設けられたねじ穴15aに螺合するボルト107を挿通させるボルト挿通孔912aが形成されている。
【0017】
内方部材92は、ハブ輪921及び環状の内方部材922からなり、ハブ輪921の外周に第1の外側軌道面911aと対向する第1の内側軌道面921aが形成され、内方部材922の外周に第2の外側軌道面911bと対向する第1の内側軌道面922aが形成されている。ハブ輪921には、ハブボルト106が圧入固定される複数の圧入孔921bが形成されている。ハブボルト106は、車輪104のホイールに形成された挿通孔104a、及びブレーキロータ105に形成された挿通孔105aに挿通され、先端部にホイールナット108が螺合する。
【0018】
内方部材922及び噛み合い部材95は、ハブ輪921における等速ジョイント8側の端部に外嵌され、ハブ輪921に形成された加締め部921cによってハブ輪921に対して相対回転不能に加締め固定されている。
【0019】
ハブ輪921には、その中心部を軸方向に貫通する軸孔920が設けられている。この軸孔920には、等速ジョイント8の外側継手部材82のステム部822が挿通されると共に、一対の転がり軸受12,13が収容されている。ステム部822の先端部には、雄ねじ部822aが設けられており、この雄ねじ部822aにナット14が螺合している。ナット14は、一対の転がり軸受12,13に予圧を付与している。なお、
図1では、一対の転がり軸受12,13が玉軸受である場合を図示しているが、転がり軸受12,13として円錐ころ軸受を用いてもよい。
【0020】
ハブユニット9の内方部材92及び噛み合い部材95、ならびに等速ジョイント8の外側継手部材82は、共通の回転軸線O1を中心として回転する。以下、回転軸線O1に平行な方向を軸方向という。
【0021】
電磁アクチュエータ2によって等速ジョイント8とハブユニット9との連結が遮断された状態での車両走行時には、電動モータ101、減速機102、差動装置103、シャフト11、及び等速ジョイント8の回転を停止させても、ハブユニット9の内方部材92を車輪104と共に円滑に回転させることができる。これにより、車輪104からの逆入力トルクによって電動モータ101及び減速機102が回転することによる動力ロスが低減される。次に、電磁アクチュエータ2の構成について説明する。
【0022】
図2は、
図1における電磁アクチュエータ2の周辺部を拡大して示す拡大図である。
図3は、電磁アクチュエータ2の外観を示す斜視図である。
図4は、電磁アクチュエータ2の分解斜視図である。電磁アクチュエータ2は、電磁コイル20と、電磁コイル20を保持するヨーク3と、電磁コイル20の磁力に応動する複数のプランジャ4と、プランジャ4を保持する複数の保持孔50が形成された保持部材としてのリテーナ5と、リテーナ5の複数の保持孔50を閉塞して複数のプランジャ4を抜け止めする抜け止め部材としてのキャップ6と、複数のプランジャ4の動作によって軸方向に移動する移動部材としてのシフトカラー7とを有している。ヨーク3は軟磁性体であり、リテーナ5及びキャップ6は非磁性体である。
【0023】
図5は、ヨーク3、リテーナ5、及びキャップ6の一部を複数のプランジャ4と共に示す斜視断面図である。
図6は、リテーナ5の一部を拡大して示す斜視断面図である。
図7(a)及び(b)は、プランジャ4をそれぞれ別の角度から見た斜視図である。
図7(c)は、プランジャ4の断面図である。
図8は、リテーナ5の保持孔50にプランジャ4が保持された状態を軸方向から見て示す構成図である。
図9(a)及び(b)は、電磁アクチュエータ2における一つのプランジャ4の動作状態を示す断面図である。
【0024】
電磁コイル20、ヨーク3、及びリテーナ5は、回転軸線O1を中心とする環状に形成されている。電磁コイル20及びヨーク3は、等速ジョイント8における内側継手部材81のカップ部821の外周に配置されている。リテーナ5は、電磁コイル20及びヨーク3と軸方向に並び、シフトカラー7の外周に配置されている。複数のプランジャ4は、シフトカラー7の外周側の複数箇所に配置されている。
【0025】
電磁コイル20は、
図2及び
図9に示すように、環状に巻き回されたエナメル線等の導線21を樹脂からなる封止材22によって封止して構成されており、周方向に対して垂直な断面の形状が矩形状である。電磁コイル20には、制御装置100から順方向及び逆方向の励磁電流が供給される。
【0026】
ヨーク3は、例えば鉄系金属等の磁性金属からなり、電磁コイル20を保持する円環状の保持部31と、保持部31から複数のプランジャ4側に突出した突出部32と、固定対象物への固定のための複数の固定部33とを一体に有している。本実施の形態では、複数のプランジャ4が電磁コイル20及びヨーク3と軸方向に並んで配置されており、保持部31が複数のプランジャ4側に向かって軸方向に開口し、突出部32が保持部31から軸方向に突出している。
【0027】
保持部31は、電磁コイル20の外周側にあたる第1円筒部311、電磁コイル20の内周側にあたる第2円筒部312、及び電磁コイル20の軸方向一方側で第1円筒部311と第2円筒部312とを接続する環状壁部313からなる。突出部32は、第1円筒部311に連続して軸方向に突出する第1突出部321、及び第2円筒部312に連続して軸方向に突出する第2突出部322からなる。第1突出部321及び第2突出部322は、電磁コイル20における複数のプランジャ4側の軸方向端面20aよりも複数のプランジャ4側に向かって軸方向に突出し、電磁コイル20の径方向に並んでいる。
【0028】
図7(a)及び(b)に示すように、プランジャ4は、機能的な構成として、電磁コイル20が発生する磁力によって所定の動作を行う動作部41と、動作部41と一体的に連動する軸状のレバー部42と、動作部41をリテーナ5に対して支持するための一対の支持部43とを有している。動作部41は、電磁コイル20及びヨーク3の周方向に沿う揺動軸O
2を中心として揺動自在である。一対の支持部43は、動作部41における揺動軸O
2方向の両側面41a,41bから揺動軸O
2に沿って突出した円柱状に形成されている。
【0029】
レバー部42は、動作部41からシフトカラー7側に向かって突出している。シフトカラー7は、レバー部42の動きによって軸方向に移動する。レバー部42は、動作部41側の基端部421が円錐台形状であり、動作部41と反対側の端部である先端部422が球状である。動作部41が揺動軸O2を中心として揺動したとき、レバー部42は、基端部421の移動量よりも先端部422の移動量が大きい。シフトカラー7は、レバー部42の先端部422に連動して移動する。すなわち、レバー部42が動作部41からシフトカラー7側に向かって突出していることにより、動作部41の動きが増幅されてシフトカラー7に伝達される。
【0030】
動作部41は、
図7(c)に示すように、揺動軸O
2に対して垂直な断面における形状が八角形状であり、両側面41a,41bの間に、レバー部42が立設された内側端面41cと、内側端面41cの反対側にあたる外側端面41dと、電磁コイル20の軸方向端面2aに対向する電磁コイル側端面41eと、電磁コイル20とは反対側のキャップ側端面41fと、内側端面41cと電磁コイル側端面41eとの間の第1傾斜面41gと、電磁コイル側端面41eと外側端面41dとの間の第2傾斜面41hと、外側端面41dとキャップ側端面41fとの間の第3傾斜面41iと、キャップ側端面41fと内側端面41cとの間の第4傾斜面41jとを有している。
【0031】
また、プランジャ4は、構成材料として、
図7(c)に示すように、動作部41に埋め込まれた磁石401と、レバー部42に埋め込まれた金属製のシフトピン402と、磁石401及びシフトピン402を一体的に保持する樹脂部403とを有している。動作部41は、樹脂部403の一部及び磁石401によって構成されている。レバー部42は、樹脂部403の他の一部及びシフトピン402によって構成されている。一対の支持部43は、樹脂部403によって構成されている。樹脂部403の材料としては、硬質で強度が高いエンジニアリングプラスチックを好適に用いることができる。プランジャ4は、例えばインサート成型によって形成されている。
【0032】
磁石401は、例えばフェライト等の硬磁性体からなる永久磁石である。本実施の形態では、磁石401における電磁コイル20側の端部がN磁極401Nであり、その反対側の端部がS磁極401Sである。ただし、磁極がこの反対であってもよい。また、本実施の形態では、N磁極401Nの一部が動作部41の第1傾斜面41g及び第2傾斜面41hから露出し、S磁極401Sの一部が動作部41の第3傾斜面41i及び第4傾斜面41jから露出している。
【0033】
シフトピン402は、球状のボール部402aと、ボール部402aの直径よりも小さい直径の軸部402bとを一体に有している。ボール部402aは、軸部402bとの接続部分以外の部分が樹脂部403から露出し、レバー部42の先端部422を構成している。軸部402bは、その外周面が樹脂部403に覆われ、ボール部402aからレバー部42の基端部421に向かって延在している。
【0034】
リテーナ5は、一方の軸方向端面5aがヨーク3に接し、他方の軸方向端面5bがキャップ6に接している。リテーナ5には、プランジャ4の動作部41を保持する保持孔50が、軸方向端面5a,5bの間を軸方向に貫通して形成されている。また、リテーナ5には、プランジャ4の一対の支持部43を収容する凹溝51が軸方向の一部に形成されている。凹溝51は、リテーナ5の軸方向中央部付近からキャップ6側の軸方向端面5bにかけて軸方向に延在して形成されている。また、リテーナ5には、保持孔50からプランジャ4のレバー部42を導出する切り欠き溝52が形成されている。切り欠き溝52は、保持孔50と連通してリテーナ5の内周面5cに開口している。
【0035】
リテーナ5は、外周面5dにおけるヨーク3側の端部から突出した複数の固定部53を有しており、この固定部53がヨーク3の固定部33と共にボルト109(
図1参照)によってナックル15に固定される。ヨーク3及びリテーナ5の固定部33,53には、ボルト109を挿通させるボルト挿通孔33a,53aがそれぞれ形成されている。ボルト109は、ボルト挿通孔33a,53aに挿通されてナックル15に形成されたねじ穴15bに螺合する。なお、本実施の形態では、ヨーク3及びリテーナ5の固定対象物がナックル15であるが、ヨーク3及びリテーナ5の固定対象物としては、ナックル15に限らず、車体に対して非回転な部材を固定対象物として用いることが可能である。
【0036】
キャップ6は、リテーナ5の複数の保持孔50を一括して閉塞する円環板状の蓋部61と、蓋部61から軸方向に突出してリテーナ5の凹溝51内に収容される複数の突起部62とを一体に有している。プランジャ4は、支持部43が凹溝51内で突起部62の先端面62aに当接することで、リテーナ5に対して抜け止めされる。
【0037】
リテーナ5及びキャップ6は、例えば射出成型された樹脂からなる。リテーナ5とキャップ6とは、例えば接着により固定される。なお、リテーナ5とキャップ6とを、一方に形成された凹部に他方に形成された凸部が係合するスナップフィットにより、あるいは超音波接合により、相互に固定してもよい。
【0038】
シフトカラー7は、等速ジョイント8の外側継手部材82の一部、及びハブユニット9の噛み合い部材95と共に駆動力伝達機構1の断続部10(
図1参照)を構成する。シフトカラー7、外側継手部材82、及び噛み合い部材95は、例えば炭素鋼等の鋼材からなる。シフトカラー7には、その外周面7aに周方向の係合溝70が全周にわたって形成されている。プランジャ4は、レバー部42の先端部422が係合溝70に係合している。シフトカラー7は、揺動軸O
2を中心とするプランジャ4の揺動によって、軸方向に進退移動する。
【0039】
シフトカラー7には、内周面7bに複数の内周スプライン突起71が形成されている。
図2に示すように、等速ジョイント8の外側継手部材82におけるカップ部821のハブユニット9側の端部の外周面821aには、シフトカラー7の複数の内周スプライン突起71に係合する複数の外周スプライン突起823が形成されている。また、噛み合い部材95の外周面95aには、シフトカラー7の複数の内周スプライン突起71に係合する複数の外周スプライン突起951が形成されている。
【0040】
シフトカラー7の内周スプライン突起71、外側継手部材82の外周スプライン突起823、及び噛み合い部材95の外周スプライン突起951は、軸方向に延在している。シフトカラー7の複数の内周スプライン突起71は、常に外側継手部材82の複数の外周スプライン突起823と係合しており、シフトカラー7は、この係合状態を保ちながら外側継手部材82に対して軸方向に移動可能である。
【0041】
シフトカラー7は、プランジャ4の揺動によってハブユニット9側に移動することにより、複数の内周スプライン突起71が噛み合い部材95の複数の外周スプライン突起951に係合する。この状態では、外側継手部材82と噛み合い部材95とがシフトカラー7によって相対回転不能に連結され、等速ジョイント8の外側継手部材82とハブユニット9の内方部材92との間でトルクが伝達される。なお、シフトカラー7の複数の内周スプライン突起71を噛み合い部材95の複数の外周スプライン突起951に係合させる際には、電動モータ101の制御により、等速ジョイント8の外側継手部材82とハブユニット9の内方部材92とが回転同期される。
【0042】
図9(a)及び(b)に示すように、プランジャ4の磁石401は、電磁コイル20に通電されたとき、電磁コイル20に供給される電流の向きに応じて、第1突出部321及び第2突出部322の何れかに吸引される。
図9(a)及び(b)では、電磁コイル20への通電によって発生する磁束200を破線で示し、電磁コイル20の導線21における電流の向きを符号201,202で示している。
【0043】
図9(a)は、電磁コイル20の導線21に順方向の励磁電流が供給されたときの動作状態を示し、
図9(b)は、電磁コイル20の導線21に逆方向の励磁電流が供給されたときの動作状態を示している。
【0044】
電磁コイル20の導線21に順方向の励磁電流が供給されたときには、
図9(a)に示すようにN磁極401Nが第2突出部322側に吸引され、動作部41の第1傾斜面41gが第2突出部322に当接する。この際、シフトカラー7がハブユニット9側に移動して、シフトカラー7の複数の内周スプライン突起71が噛み合い部材95の複数の外周スプライン突起951に係合する。
【0045】
また、電磁コイル20の導線21に逆方向の励磁電流が供給されたときには、
図9(b)に示すようにN磁極401Nが第1突出部321側に吸引され、動作部41の第2傾斜面41hが第1突出部321に当接する。この際、シフトカラー7がハブユニット9から離れる方向に移動し、シフトカラー7の複数の内周スプライン突起71と噛み合い部材95の複数の外周スプライン突起951との係合状態が解除される。これにより、外側継手部材82とハブユニット9の内方部材92と相対回転自在となる。
【0046】
このように、プランジャ4は、ヨーク3の突出部32に吸引される磁石401を動作部41に有していることにより、電磁コイル20の導線21に供給される励磁電流の向きに応じて揺動する。
【0047】
(実施の形態の効果)
以上説明した実施の形態によれば、プランジャ4の動作部41が揺動することによってレバー部42の先端部422が軸方向に大きく移動し、この先端部422に連動してシフトカラー7が軸方向に移動するので、設置サイズ及びコストの増大を抑制しながらもシフトカラー7の移動量を大きくすることが可能となる。
【0048】
[変形例]
次に、
図10(a)及び(b)を参照して実施の形態の変形例に係る電磁アクチュエータ2Aについて説明する。
図10(a)は、電磁コイル20の導線21に順方向の励磁電流が供給されたときの電磁アクチュエータ2Aの動作状態を示し、
図10(b)は、電磁コイル20の導線21に逆方向の励磁電流が供給されたときの電磁アクチュエータ2Aの動作状態を示している。
図10(a)及び(b)において、上記の実施の形態と同様の構成要素については、
図9(a)及び(b)に付したものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0049】
上記の実施の形態では、ヨーク3とリテーナ5が軸方向に並んで配置された場合について説明したが、本変形例では、環状のヨーク3A及びリテーナ5Aが径方向に並び、ヨーク3Aの内側にリテーナ5Aが配置されている。リテーナ5Aには、プランジャ4Aを保持する保持孔50が径方向内方に開口して形成されている。リテーナ5Aの内側にはキャップ6Aが配置され、キャップ6Aによってプランジャ4Aが保持孔50から抜け止めされている。シフトカラー7は、キャップ6Aの内側に配置されている。
【0050】
ヨーク3Aは、固定対象物への固定のための固定部33と、電磁コイル20を保持する円環状の保持部34と、保持部34から複数のプランジャ4A側に突出した突出部35とを一体に有している。保持部34は、電磁コイル20の軸方向一側にあたる第1円盤部341、及び電磁コイル20の軸方向他側にあたる第2円盤部342と、電磁コイル20の外周側にあたる環状壁部343とを有している。突出部35は、第1円盤部341に連続して径方向内方に突出する第1突出部351、及び第2円盤部342に連続して径方向内方に突出する第2突出部352からなる。第1突出部351及び第2突出部352は、電磁コイル20における複数のプランジャ4A側の径方向端面20aよりも複数のプランジャ4A側に向かって径方向に突出している。
【0051】
プランジャ4Aは、レバー部42がヨーク3A及びリテーナ5Aの径方向における動作部41の内径側に設けられている。リテーナ5Aの保持孔50は、径方向内方に開口している。プランジャ4Aのレバー部42は、キャップ6Aに形成された開口部60からシフトカラー7側に向かって突出している。
【0052】
この変形例においても、プランジャ4Aが電磁コイル20の導線21に供給される励磁電流の向きに応じて揺動する。レバー部42は、動作部41側の基端部421の移動量よりも先端部422の移動量が大きく、シフトカラー7がレバー部42の先端部422に連動して移動する。これにより、上記の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
(付記)
以上、本発明を実施の形態及び変形例に基づいて説明したが、この実施の形態及び変形例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0054】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記の実施の形態では、等速ジョイント8とハブユニット9との間に電磁アクチュエータ2を噛み合いクラッチとして配置した場合について説明したが、電磁アクチュエータの配置位置や用途はこれに限らず、移動部材を移動させる様々な用途に本発明の電磁アクチュエータを用いることができる。
【符号の説明】
【0055】
2…電磁アクチュエータ 20…電磁コイル
3,3A…ヨーク 31…保持部
32…突出部 34…保持部
35…突出部 4,4A…プランジャ
401…磁石 41…動作部
42…レバー部 421…基端部
422…先端部 5,5A…リテーナ(保持部材)
7…シフトカラー(移動部材) 70…係合溝
O2…揺動軸