(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059473
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びホース
(51)【国際特許分類】
C08L 77/00 20060101AFI20240423BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20240423BHJP
C08L 79/04 20060101ALI20240423BHJP
F16L 11/06 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L23/00
C08L79/04
F16L11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167160
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】畑中 宏太
【テーマコード(参考)】
3H111
4J002
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA12
3H111BA15
3H111BA25
3H111CA03
3H111CB07
3H111CB14
3H111CC12
3H111DA09
3H111DB09
3H111EA04
4J002BB05X
4J002BB07X
4J002BB15X
4J002CL01W
4J002CL03W
4J002CL05W
4J002CM01Y
4J002CM02Y
4J002FD03Y
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】ゴム部材との接着性及び耐油性が良好であり、耐久性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリアミドと、オレフィン系エラストマーと、ピペリジン構造を有する化合物と、を含み、前記ピペリジン構造を有する化合物は、ピペリジン構造を含む繰り返し単位を有し、分子量が1000~5000であり、前記ピペリジン構造を有する化合物の含有量は、前記ポリアミド及び前記オレフィン系エラストマーの合計含有量100質量部に対して、0.1~6質量部であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドと、オレフィン系エラストマーと、ピペリジン構造を有する化合物と、を含み、
前記ピペリジン構造を有する化合物は、ピペリジン構造を含む繰り返し単位を有し、分子量が1000~5000であり、
前記ピペリジン構造を有する化合物の含有量は、前記ポリアミド及び前記オレフィン系エラストマーの合計含有量100質量部に対して、0.1~6質量部であることを特徴とする、樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミドと前記オレフィン系エラストマーの含有比率(ポリアミド/オレフィン系エラストマー)が、80/20~40/60であることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記オレフィン系エラストマーは、エチレン・ブテン共重合体、EEA、EPR及びEPDMからなる群及びそれらの誘導体より選択される少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ピペリジン構造を有する化合物は、前記ピペリジン構造中に、4つ以上のメチル基を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ピペリジン構造を有する化合物は、前記ピペリジン構造中に、2,2,6,6-テトラメチルピペリジンを少なくとも含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ピペリジン構造を有する化合物が、前記繰り返し単位中にトリアジン構造をさらに含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
ホースの最内面層として用いられることを特徴とする、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記ホースが、冷媒輸送用ホースであることを特徴とする、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を含むことを特徴とする、ホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷媒輸送用ホースは、車両用エアコン等に用いられている部材である。冷媒輸送用ホースは、内部にフッ素系冷媒や潤滑油が流れるため、性能面、環境面から高いガスバリア性が要求されている。そのため、最内層を構成する材料には、ガスバリア性に優れ、耐インパルス性能など振動耐久性にも優れるポリアミド樹脂層を配し、その上に内管ゴム層を設け、その上にPET等の有機繊維よりなる補強糸層を設け、さらにその上に耐候性を有するEPDM等のゴム層を配した構造が用いられている(特許文献1等)。
【0003】
ただし、上述したポリアミド樹脂は、冷媒であるフロンやコンプレッサーからのオイルによる劣化の問題があった。この劣化は、最内層を構成する材料としてオレフィン系エラストマーを用いた場合であっても解決されず、耐久性の点でさらなる改善が望まれている。
例えば、エアコンシステム内に微量でも酸性成分が存在する場合、高温/ 高圧の実使用条件下では、ポリアミド樹脂組成物がこの酸性成分により著しく劣化し、使用に耐えなくなる場合がある。この酸性成分としては冷媒と共に封入されるコンプレッサーオイルに含まれる極圧剤などが考えられる。このため、エアコンに使用されるオイルの種類や環境条件によっては、従来の冷媒輸送用ホースでは実用的な耐久性が得られず、使用不可能となる場合もある。
【0004】
このような、彡による劣化を防止し、最内層の耐久性を高めることを目的として、ポリアミド樹脂組成物中に、無機系受酸剤を添加する技術が開発されている。
例えば特許文献1には、ポリアミド樹脂組成物よりなるガスバリア層を有する冷媒輸送用ホースにおいて、ポリアミド樹脂組成物に、2価若しくは3価の金属の水酸化物、酸化物及び炭酸塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の金属化合物を含有させる技術、が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-15245号公報
【特許文献2】特開2010-249316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の技術によれば、冷媒やコンプレッサーオイルによるガスバリア層の劣化を防止し、冷媒輸送用ホースの耐久性を高めるが可能となる。
しかしながら、特許文献1の技術では、最内面層を構成する樹脂組成物中に無機系受酸剤を含有させるため、樹脂組成物における無機系受酸剤の不均一な分散による成形加工性が低下するという問題や、内管ゴムとの接着性が低下するという問題があり、さらに、受酸剤が酸捕捉時に水を発生し、加水分解抑制効果が十分に発揮できないおそれもあり、耐久性についてもさらなる改善が望まれていた。また、受酸剤として有機系の受酸剤を用いる技術も考えられるが、この場合、最内面層の耐油性が低下するおそれがあった。
【0007】
そのため、本発明の目的は、ゴム部材との接着性及び耐油性が良好であり、耐久性に優れた樹脂組成物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、最内面層と内管ゴムとの接着性及び耐油性が良好であり、冷媒やオイルによる劣化が抑制された、耐久性に優れるホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意研究を行った結果、樹脂組成物中に、ポリアミド及びオレフィン系エラストマーに加えて、特定のピペリジン構造を有する化合物を含有させるとともに、その含有量を一定の範囲に限定することで、ゴム部材との接着性を良好に維持しながら、酸を補足し、加水分解を抑えることができるため、優れた耐久性を実現でき、耐油性についても向上できること、を見出した。
【0009】
上述した課題を解決するための、本発明の要旨は以下の通りである。
本発明の樹脂組成物は、ポリアミドと、オレフィン系エラストマーと、ピペリジン構造を有する化合物と、を含み、
前記ピペリジン構造を有する化合物は、ピペリジン構造を含む繰り返し単位を有し、分子量が1000~5000であり、
前記ピペリジン構造を有する化合物の含有量は、前記ポリアミド及び前記オレフィン系エラストマーの合計含有量100質量部に対して、0.1~6質量部であることを特徴とする。
上記構成を具えることによって、ゴム部材との接着性及び耐油性が良好であり、優れた耐久性を実現できる。
【0010】
また、本発明の樹脂組成物では、前記ポリアミドと前記オレフィン系エラストマーの含有比率(ポリアミド/オレフィン系エラストマー)が、80/20~50/50であることが好ましい。バリア性と、柔軟性及び耐衝撃性とのバランスを両立できるためである。
【0011】
さらに、本発明の樹脂組成物では、記オレフィン系エラストマーは、エチレン・ブテン共重合体、EEA、EPR及びEPDMからなる群及びそれらの誘導体であることが好ましい。バリア性や他の性能を低下させることなく、柔軟性や耐衝撃性をより向上できるためである。
【0012】
また、本発明の樹脂組成物では、前記ピペリジン構造を有する化合物は、前記ピペリジン構造中に、4つ以上のメチル基を有することが好ましい。より優れた耐久性及び耐油性を実現できるためである。
【0013】
さらに、本発明の樹脂組成物では、前記ピペリジン構造を有する化合物は、前記ピペリジン構造中に、2,2,6,6-テトラメチルピペリジンを少なくとも含むことが好ましい。より優れた耐久性及び耐油性を実現できるためである。
【0014】
さらにまた、本発明の樹脂組成物では、前記ピペリジン構造を有する化合物が、前記繰り返し単位中にトリアジン構造をさらに含むことが好ましい。より優れた耐久性及び耐油性を実現できるためである。
【0015】
また、本発明の樹脂組成物では、ホースの最内面層として用いられることが好ましく、該ホースが、冷媒輸送用ホースであることがより好ましい。耐久性及び耐油性の向上効果が、顕著に発揮されるためである。
【0016】
本発明のホースは、上述した本発明の樹脂組成物を含むことを特徴とする。
上記構成を具えることによって、最内面層と内管ゴムとの接着性及び耐油性が良好であり、冷媒やオイルによる劣化を抑制でき、耐久性にも優れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ゴム部材との接着性及び耐油性が良好であり、耐久性に優れた樹脂組成物を提供できる。
また、本発明によれば、最内面層と内管ゴムとの接着性及び耐油性が良好であり、冷媒やオイルによる劣化が抑制された、耐久性に優れるホースを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のホースの一実施形態を模式的に示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。また、本発明では、2以上の実施形態を任意に組み合わせることができる。
【0020】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物は、ポリアミドと、オレフィン系エラストマーと、ピペリジン構造を有する化合物と、を含む。
以下、本発明の樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0021】
(ポリアミド)
本発明の樹脂組成物は、ポリアミドを含む。
主成分として前記ポリアミドを含有することによって、ガスや冷媒に対するバリア性を高めることができる。
【0022】
前記ポリアミドについては、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸を主たる構成成分とするポリアミド樹脂である。これらの構成成分の具体例を挙げると、ε-カプロラクタム、エナントラクタム、ω-ラウロラクタムなどのラクタム、ε-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などのアミノ酸、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス-p-アミノシクロヘキシルメタン、ビス-p-アミノシクロヘキシルプロパン、イソホロンジアミン等のジアミン、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ゼバシン酸、ドデカン2酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ダイマー酸などのジカルボン酸がある。これらの構成成分は単独あるいは2種以上の混合物の形で重合に供され、得られるポアミド樹脂はホモポリマー、コポリマーのいずれであっても良い。
【0023】
好適なポリアミド樹脂としては、例えば、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド共重合体(ナイロン66/6T)、ポリカプラミド/ポリヘキサメチレンアジパミド共重合体(ナイロン6/66)が挙げられる。これらのポリアミド樹脂は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0024】
なお、前記ポリアミドの重合度については特に制限はなく、1重量%濃度の硫酸溶液の25℃における相対粘度(以下、単に「相対粘度」と称す場合がある。)が1.5~5.0の範囲内にあるものを任意に用いることができる。
また、前記ポリアミドは、その末端基がモノカルボン酸化合物及び/又はジカルボン酸化合物あるいはモノアミン化合物及び/又はジアミン化合物の1種以上を任意の段階でポリアミドに添加することにより末端基濃度が調節されていてもよい。
【0025】
なお、本発明の樹脂組成物における前記ポリアミドの含有量は、特に限定されず、要求される性能に応じて適宜調整することができる。例えば、樹脂組成物のバリア性を高める観点からは、本発明の樹脂組成物全体のうち、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましい。
【0026】
(オレフィン系エラストマー)
本発明の樹脂組成物は、ポリアミドに加えて、オレフィン系エラストマーをさらに含む。オレフィン系エラストマーを含有することにより、バリア性だけでなく、柔軟性や耐衝撃性を付与することができる。
【0027】
ここで、前記オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン・ブテン共重合体、EPR(エチレン-プロピレン共重合体)、変性エチレン・ブテン共重合体、EEA(エチレン-エチルアクリレート共重合体)、変性EEA、変性EPR、変性EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)、アイオノマー、α-オレフィン共重合体、変性IR(イソプレンゴム)、変性SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、ハロゲン化イソブチレン-パラメチルスチレン共重合体、エチレン-アクリル酸変性体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、それらの酸変性物、それらを主成分とする混合物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
上述したオレフィン系エラストマーの中でも、エチレン・ブテン共重合体、EEA、EPR及びEPDMからなる群及びそれらの誘導体であることが好ましい。バリア性や他の性能を低下させることなく、柔軟性や耐衝撃性をより向上できるためである。
【0028】
前記オレフィン系エラストマーとしては、特に、無水マレイン酸などの酸無水物、グリシジルメタクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル、エポキシ及びその変性体などで変性したものが、ポリアミド樹脂をベースポリマーとする微細なアロイ構造を得ることができ、好ましい。
【0029】
本発明の樹脂組成物中の前記オレフィン系エラストマーの含有量は、特に限定はされない。ただし、少な過ぎるとオレフィン系エラストマーによる柔軟性や耐衝撃性の改善効果を十分に得ることができず、多過ぎるとガスバリア性が低下するため、ポリアミド樹脂組成物中の含有率で10質量%以上であることが好ましく 、20質量%以上であることがより好ましい。
【0030】
また、本発明の樹脂組成物における、前記ポリアミドと前記オレフィン系エラストマーの含有比率(ポリアミド/オレフィン系エラストマー)は、質量比で、80/20~40/60であることが好ましく、75/25~50/50であることがより好ましく、70/30~55/45であることが特に好ましい。ポリアミド/オレフィン系エラストマーが、上記範囲となることで、バリア性と、柔軟性及び耐衝撃性とのバランスを高いレベルで両立できる。前記ポリアミドの含有比率が小さくなりすぎるとバリア性が低下し、前記オレフィン系エラストマーの含有比率が小さくなりすぎると柔軟性や耐衝撃性が低下するおそれもあることから、上記範囲を設定している。
【0031】
なお、オレフィン系エラストマーとして酸変性エラストマー等の変性エラストマーを用いた場合、混練り(分散)時に少ない比エネルギー及び高い混練り技術を必要としないという効果が得られるが、その配合量が多いと樹脂のゲル化を引き起こし、押出し時、肌荒れ等の外観不良(フィッシュアイ)を引き起こすため、オレフィン系エラストマーとして変性エラストマーを用いる場合、ポリアミド樹脂組成物中の変性エラストマーの含有量は40質量%以下、例えば5~40質量%とすることが好ましい。特に、本発明では、前記オレフィン系エラストマーのうちの40~100質量%を酸変性エラストマーとしたものを好適に用いることができる。
【0032】
また、前記ポリアミドと前記オレフィン系エラストマーとを相溶状態、即ち、良好な分散状態とするために、エラストマーの少なくとも一部が無水マレイン酸等により変性されていることが好ましく、良好な分散形態を得るために用いるエラストマーの全体の平均の酸価(酸変性率)は0.8mg-CH3ONa/g以上であることが好ましい。
【0033】
さらに、前記エラストマーの酸価は高いほど、分散形態は良好となるが、酸価の増大に伴って得られるポリアミド樹脂組成物の粘度が増大し、成形加工性が損なわれる。このため、この酸価の増大による粘度増加を低減するために、エラストマーの酸価は、良好な分散状態が得られる範囲において低い方が好ましく、用いるエラストマーの全体での平均酸価は7.5mg-CH3ONa/g以下であることが好ましい。
【0034】
さらにまた、同じ平均酸価であっても、用いるエラストマー中に含まれる変性エラストマーの酸価が高い場合、このような変性エラストマーを未変性エラストマーと混合することにより、平均酸価を下げても、押し出し時に局部的な過反応によると思われるゲル状の異物が発生してしまう。従って、用いる変性エラストマーの酸価は、15.0mg-CH3ONa/g以下であることが好ましい。
【0035】
このように、樹脂組成物中にオレフィン系エラストマーを配合することにより、柔軟性、耐衝撃性等は改善されるものの、ガスバリア性の低下は避けられない。しかしながら、ポリアミドとエラストマーとの微細なアロイ構造をとることにより、特に、ポリアミドの海相内にエラストマーの島相が分散すると共に、このエラストマーの島相内にポリアミド樹脂が散点状に分散した構造であることにより、エラストマーを配合したことによるガスバリア性の低下を抑制することができるため、好適である。
【0036】
(ピペリジン構造を有する化合物)
さらに、本発明の樹脂組成物は、上述したポリアミド及びオレフィン系エラストマーに加えて、ピペリジン構造を有する化合物を含む。
ここで、前記ピペリジン構造を有する化合物は、ピペリジン構造を含む繰り返し単位を有し、分子量が1000~5000である。
【0037】
このようなピペリジン構造を有する化合物は、酸を補足することができる。そのため、本発明の樹脂組成物は、加水分解が抑制され、優れた耐久性や耐油性を実現できる。また、前記ピペリジン構造を有する化合物は、樹脂組成物における分散性が高く、酸補足時に水を副生しないことから、無機系受酸剤を用いた場合よりも優れた耐久性が得られ、ゴム部材との接着性が低下することも防ぐことができる。
【0038】
前記ピペリジン構造を有する化合物の分子量が、1000~5000である理由としては、分子量を1000以上とすることで、前記ピペリジン構造を有する化合物の分子の一部が切断されたような場合であっても、上述した加水分解を抑制し、耐久性を向上させる効果を維持することができ、分子量を5000以下とすることで、樹脂組成物の加工性の低下を防ぐことができるためである。同様の観点から、前記ピペリジン構造を有する化合物の分子量は、1500~4000であることが好ましく、2000~3500であることがより好ましい。
【0039】
また、前記ピペリジン構造とは、ピペリジンは、シクロヘキサンが持つ6つのメチレン基のうちの1つが持つ炭素を窒素に置換して、水素を1つ外した構造であり、種々の置換基を有することができる。
前記ピペリジン構造を有する化合物は、前記ピペリジン構造を含む繰り返し単位を有しており、上述したポリアミドやオレフィン系エラストマーとともに用いることによって、優れた耐久性や耐油性を付与できる。
【0040】
ここで、前記ピペリジン構造を有する化合物は、前記ピペリジン構造中に、4つ以上のメチル基を有することが好ましい。ポリアミド末端のカルボン酸と反応してゲル化するのを抑制するためである。
4つ以上のメチル基を有するピペリジンとしては、例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、以下に示す化合物等が挙げられる。
【化1】
【0041】
また、前記ピペリジン構造を有する化合物は、前記繰り返し単位中にトリアジン構造をさらに含むことが好ましい。より優れた耐久性及び耐油性を実現できるためである。
【0042】
このような、繰り返し単位中にピペリジン構造及びトリアジン構造を含む化合物としては、例えば以下に示す化合物が挙げられる。
【化2】
【化3】
【0043】
本発明の樹脂組成物では、前記ピペリジン構造を有する化合物の含有量が、前記ポリアミド及び前記オレフィン系エラストマーの合計含有量100質量部に対して、0.1~6質量部である。前記ピペリジン構造を有する化合物の含有量が、前記ポリアミド及び前記オレフィン系エラストマーの合計含有量100質量部に対して、0.1質量部以上の場合には、耐久性向上効果を十分に得ることができ、6質量部以下の場合には、ゴム部材との接着性低下を抑えることができる。
同様の観点から、前記ピペリジン構造を有する化合物の含有量は、前記ポリアミド及び前記オレフィン系エラストマーの合計含有量100質量部に対して、0.3~5質量部であることが好ましく、0.4~4.5質量部であることがより好ましく、0.5~4質量部であることがさらに好ましい。
【0044】
(その他成分)
なお、本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、滑剤、帯電防止剤、老化防止剤、酸化防止剤、着色剤、結晶核剤、充填剤、補強材、耐熱剤、耐光剤等の添加剤(その他の成分)を、さらに含むこともできる。
【0045】
<ホース>
次に、本発明のホースについて説明する。
本発明のホースは、上述した本発明の樹脂組成物を含むことを特徴とする。
本発明の樹脂組成物からなる部材を備えることで、ゴム部材との接着性及び耐油性が良好であり、加水分解を抑えることができるため、耐久性も向上できる。
【0046】
そして、本発明のホースは、冷媒輸送用ホースであり、上述した本発明の樹脂組成物をホースの最内面層として用いることが好ましい。
最内面層と内管ゴムとの接着性及び耐油性を良好に維持することができるとともに、冷媒やオイルによる劣化を抑制でき、優れた耐久性を実現できるためである。
【0047】
ここで、
図1は、本発明の冷媒輸送用ホースの一実施形態を模式的に示した斜視図である。この冷媒輸送用ホース1の最内層2は、上述した本発明の樹脂組成物から構成され、その外周に内層ゴム層3が形成され、以下、順次に、第1補強糸層4、中間ゴム層5、第2補強糸層6及び外被ゴム層7が形成されている。ホース1の内径は、特に限定はされないが、通常6~20mm、特に8~19mm程度である。
【0048】
前記最内層2は、本発明の樹脂組成物よりなる。本発明の樹脂組成物の構成は、上述したとおりである。このような最内層2の膜厚は、ガスバリア性の点より、厚い方が好ましいが、膜厚が厚くなるとホースとしての柔軟性が低下する。そのため、最内層2の膜厚は、50~500μm、特に100~450μm程度にすることができる。
なお、本発明の冷媒輸送用ホースは、前記最内層2の内層に、さらに内側ゴム層(図示せず)を形成することも可能である。
【0049】
内層ゴム層3及び外被ゴム層7を構成するゴムとしては、一般にブチルゴム(IIR)、塩素化ブチルゴム(C1-IIR)、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、臭素化ブチルゴム(Br-IIR)、イソブチレン-ブロモパラメチルスチレン共重合体、EPR(エチレン-プロピレン共重合体)、EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)、CR(クロロプレンゴム)、水素添加NBR、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム(AEM)、これらのゴムの2種以上のブレンド物、或いは、これらのゴムを主成分とするポリマーとのブレンド物、好ましくはブチル系ゴム、EPDM系ゴムが用いられる。これらのゴムには、通常用いられる充填剤、加工助剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤等の配合処方を適用できる。
【0050】
なお、前記内層ゴム層3のゴム種と外被ゴム層7のゴム種は同種のものであっても、異種のものであっても良い。
また、前記中間ゴム層5のゴムは、内層ゴム層2及び外被ゴム層7との接着性が良いものであれば良く、特に制限はない。
さらに、前記内層ゴム層3と前記最内層2との間には、接着剤を介することもできる。
【0051】
前記内層ゴム層3の厚さは、柔軟性の面から0.5~4mm程度とすることが好ましい。中間ゴム層5の厚さは0.1~0.6mm程度、外被ゴム層7の厚さは0.5~2mm程度とすることが好ましい。
【0052】
第1補強糸層4は、補強糸をスパイラル状に巻き付けたものであり、第2補強糸層6は、この第1補強糸層4とは逆方向にスパイラル状に補強糸を巻き付けたものである。
これら補強糸の材料についても、通常用いられるものであれば特に制限はない。一般的には、ポリエステル、全芳香族ポリエステル、ナイロン、ビニロン、レーヨン、アラミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート及びこれらの混撚り糸が用いられる。
【0053】
このような本発明の冷媒輸送用ホースは、常法に従って製造できる。例えば、マンドレル上にガスバリア層2と内層ゴム層3の材料を所定の厚さに押し出して積層し、補強糸層4を巻き付け、中間ゴム層5を押し出して積層し、補強糸層6を巻きつけ、次いで外被ゴム層7を押し出して積層し、その後140~170℃で30~120分間加硫することにより製造することができる。
【0054】
なお、本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【実施例0055】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。実施例において、配合量は、特に断らない限り、質量部を意味する。
【0056】
(サンプル1~13)
表1に示す配合に従い、東洋精機製作所製二軸混練り機を用いて、ポリアミド樹脂の融点以上である240℃で混練し、樹脂組成物の各サンプルを作製した。
なお、表1における各成分の含有量は、ポリアミド及びオレフィン系エラストマーの合計含有量100質量部に対する含有量(質量部)で示している。
【0057】
(評価)
得られた樹脂組成物の各サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果は表1に示す。
【0058】
(1)初期破断伸び(Eb)
各サンプルの樹脂組成物について、試験片を作製した後、島津製作所製引張り試験機を用いて、引張り速度200mm/minで伸長し、破断伸び(%)を測定した。
破断伸び(Eb)の測定結果については表1に示し、数値が大きい程、初期破断伸びに優れることを示す。
【0059】
(2)冷媒及びオイル試験後の破断伸び保持率(ΔEb)
サンプルの樹脂組成物について、試験片を作製した後、以下の条件で、冷媒及びオイル試験を実施した。
その後、島津製作所製引張り試験機を用いて、引張り速度200mm/minで伸長し、破断伸び(%)を測定した。測定後、初期破断伸び(Eb)に対する大きさを算出し(冷媒及びオイル試験後の破断伸び/初期破断伸び×100%)、冷媒及びオイル試験後の破断伸び保持率(ΔEb)とした。
冷媒及びオイル試験後の破断伸び保持率(ΔEb)の算出結果については表1に示し、耐久性及び耐油性に優れることを示す。
(冷媒及びオイル試験)
耐圧容器に厚さ0.35mmの引張試験片を入れた後、水分率を2000ppmに調製したポリアルキレングリコールを47g入れた。その後、耐圧容器を1時間冷凍した後、3分間耐圧容器を真空引きした。そして、冷媒としてR-134aを47g入れ、150℃で1週間放置した。
【0060】
【0061】
*1:少なくとも「UBEナイロン1011FB」を含むナイロン6総量
*2:三井化学株式会社製「タフマーMH7010」
*3:三井化学株式会社製「タフマーA-1050S」
*4:「アデカスタブAO-80」、「アデカスタブCDA-10」、「スミライザーTP-D」を含む老化防止剤総量
*5:BASFジャパン株式会社製「Chimassorb 2020 FDL」
*6:BASFジャパン株式会社製「Chimassorb 944 FDL」
*7:オキサゾリン基含有反応性ポリスチレン、日本触媒株式会社製「エポクロスRPS」
*8:カルボジライト、日清紡ケミカル株式会社製 「HMV-5CA-LC」
*9:大阪ガスケミカル株式会社製、「オグソールMF-11」
*10:共栄社化学株式会社製、「ライトアマイドWH-510K」
*11:丸菱油化工業株式会社製 「バル-7220」
【0062】
表1の結果から、実施例の各サンプルについては、比較例の各サンプルに比べて、冷媒及びオイル試験後の破断伸び保持率に優れることがわかる。