(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059490
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】信号光伝達部材
(51)【国際特許分類】
G02B 6/32 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
G02B6/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167183
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000133227
【氏名又は名称】株式会社タムロン
(74)【代理人】
【識別番号】100129919
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 信二
(74)【代理人】
【識別番号】100170139
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 直樹
(72)【発明者】
【氏名】長野 秀樹
【テーマコード(参考)】
2H137
【Fターム(参考)】
2H137AB01
2H137BA01
2H137BA16
2H137BC02
2H137BC07
2H137BC71
2H137BC73
2H137BC76
2H137CA12A
2H137CA12C
2H137CB06
2H137CB22
2H137CC03
2H137CD13
2H137DB04
2H137DB08
(57)【要約】
【課題】光通信での信号光の伝達において光学素子間での信号光の損失を抑制可能な信号光伝達部材を実現する。
【解決手段】信号光伝達部材(10)は、AR膜付きレンズ(12)、光透過部(14)および光ファイバー(13)を有する。光透過部(14)の屈折率は、光ファイバー(13)のコア材(131)の屈折率に対する特定の関係を有する。AR膜付きレンズ(12)のレンズ(121)と光透過部(14)との界面部分には反射防止膜(122)が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈折率n1を有し、信号光をコリメートするレンズと、
前記レンズを収容している収容部と、
光透過性を有するとともに前記n1よりも小さい屈折率n2を有し、前記収容部に充満している光透過材で構成されて前記レンズを包埋している光透過部と、
信号光が通る光ファイバーであって、前記収容部に挿入されているとともに前記収容部内における前記レンズの光軸上にて端部が前記レンズに対向する位置で前記光透過部によって固定されている光ファイバーと、
前記レンズと前記光透過部との界面における少なくとも前記信号光の光路の部分に形成されている反射防止膜と、
を有し、
前記光ファイバーのコア材の屈折率をn4としたときに、以下の式(1)を満足する、信号光伝達部材。
n4-0.14≦n2≦n4+0.14 (1)
【請求項2】
下記式(2)を満足する、請求項1記載の信号光伝達部材。
n1-n2≧0.19 (2)
【請求項3】
前記反射防止膜は、少なくとも無機微粒子で構成されている単層膜である、請求項1に記載の信号光伝達部材。
【請求項4】
前記反射防止膜の平均屈折率をn3としたときに、下記式(3)を満足する、請求項3に記載の信号光伝達部材。
【数1】
【請求項5】
前記反射防止膜は、
アンチモン粒子、またはアンチモン粒子とシリカ粒子との混合粒子、と、
前記アンチモン粒子または前記混合粒子を結着するバインダー成分硬化剤と、
前記アンチモン粒子または前記混合粒子と前記バインダー成分硬化剤との隙間に充満している前記光透過材と、
によって構成されている、請求項3に記載の信号光伝達部材。
【請求項6】
前記単層膜からなる前記反射防止膜は、前記界面の全面に形成されている、請求項3に記載の信号光伝達部材。
【請求項7】
前記レンズは、ボールレンズである、請求項1に記載の信号光伝達部材。
【請求項8】
前記収容部は、一端が開口している本体部と、前記一端を塞ぐ透明窓と、前記収容部を他の前記信号光伝達部材の収容部に連結する連結部と、を有し、
前記連結部は、前記透明窓が前記他の信号光伝達部材の透明窓に対向し、かつ平行になるかまたは密着するように、前記他の信号光伝達部材の収容部に連結する、請求項1に記載の信号光伝達部材。
【請求項9】
前記本体部は、光軸に沿ってみたときに平面方向に配列している複数の凹部を有し、前記凹部のそれぞれに前記レンズおよび前記光透過部が配置され、かつ前記光ファイバーが接続されている、請求項8に記載の信号光伝達部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号光伝達部材に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信技術において、光ファイバー同士を接続して一方の光ファイバーから出力される信号光を他方の光ファイバーに伝達するための信号光伝達部材は、光通信網の構築および光信号の入出力装置の設営に不可欠である。このような信号光の伝達では、アダプターを用いて、光ファイバーの中心先端部分同士を圧着することで、光ファイバーの信号伝達を行う方法が一般的である。しかしながら、この方法は、光ファイバーの中心先端部分がミクロンオーダーでもズレが生じると、光信号の伝達効率が極端に下がる欠点を持つ。また、塵埃等により信号品質が著しく低下することが、広く知られている。その欠点を補う技術の一つとして、レンズを用いたビーム拡張型光コネクタが知られている。
【0003】
ところで、光通信用途において、局所的な屈折率差により生じる反射戻り光は、発光素子の誤作動またはノイズ発生の原因になることがあり、通信信号強度の減衰または信号品質の低下をもたらすことがある。そのため、光通信に用いられるレンズ表面には、反射光を低減させるための反射防止膜を施すことが望まれる。しかしながら、ビーム拡張型光コネクタは、完全な反射防止を施すことが難しく、光信号の接続に際して無視できないレベルの反射減衰、即ちリターンロスが生じるという欠点を有する傾向がある。
【0004】
この欠点を補う方法の一つとして、例えば、光コネクタハウジングを構成する筒状の光ファイバー接続スリーブと、ポリウレタン系またはポリエステル系のエラストマからなる光透過性の円柱状に形成される本体と、この本体の内部に収納される球状の導光レンズからなる導光部材と、を備えたレンズ入り光コネクタが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、光通信技術では、信号光の損失の抑制が求められている。特許文献1に記載のコネクタでは、コネクタ内での信号光の伝達の際に信号光の損失が発生することがある。このように、従来の技術では、コネクタ内での信号光の損失を抑制する観点から検討の余地が残されている。
【0007】
本発明の一態様は、光通信の信号光の損失を抑制可能な信号光伝達部材を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る信号光伝達部材は、
屈折率n1を有し、信号光をコリメートするレンズと、
前記レンズを収容している収容部と、
光透過性を有するとともに前記n1よりも小さい屈折率n2を有し、前記収容部に充満している光透過材で構成されて前記レンズを包埋している光透過部と、
信号光が通る光ファイバーであって、前記収容部に挿入されているとともに前記収容部内における前記レンズの光軸上にて端部が前記レンズに対向する位置で前記光透過部によって固定されている光ファイバーと、
前記レンズと前記光透過部との界面における少なくとも前記信号光の光路の部分に形成されている反射防止膜と、
を有し、
前記光ファイバーのコア材の屈折率をn4としたときに、以下の式(1)を満足する。
n4-0.14≦n2≦n4+0.14 (1)
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、光通信の信号光の損失を抑制可能な信号光伝達部材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態1に係る信号光伝達部材の構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る信号光伝達部材の製造方法における第一の状態を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係る信号光伝達部材の製造方法における第二の状態を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る信号光伝達部材の製造方法における第三の状態を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の実施形態1に係る信号光伝達部材の製造方法における第四の状態を模式的に示す図である。
【
図6】本発明の実施形態1に係る信号光伝達部材における光学的な特徴を説明するための図である。
【
図7】本発明の実施形態2に係る信号光伝達部材の構成を模式的に示す図である。
【
図8】本発明の実施形態3に係る信号光伝達部材の構成を模式的に示す図である。
【
図9】
図8の信号光伝達部材をXZ平面で切断した断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
〔実施形態1〕
[構成の概要]
図1は、本発明の実施形態1に係る信号光伝達部材の構成を模式的に示す図である。
図1に示されるように、信号光伝達部材10は、収容部11、AR(Anti Reflection)膜付きレンズ12、光ファイバー13および光透過部14を有する。
【0013】
信号光伝達部材10および信号光伝達部材10’は、それぞれのカバーガラス15、15’が向かい合った状態で接続可能に構成されている。
【0014】
信号光伝達部材10および信号光伝達部材10’を互いに接続されることによって光ファイバー13、13’同士が信号光を伝達可能に接続される。このように、信号光伝達部材10および信号光伝達部材10’は、それぞれ、光ファイバー13、13’を接続するための光通信用コネクタである。以下、信号光伝達部材10の構成をより詳細に説明する。
【0015】
[収容部]
収容部11は、AR膜付きレンズ12を収容している。収容部11は、開口形状を有する本体部111と、本体部111に形成されている孔112と、本体部111の開口端部を塞ぐカバーガラス15とを有している。孔112は、後述する溝部111Bおよび111Cで構成されており、孔112には、光ファイバー13が挿通されている。なお、カバーガラス15は、各主面上に、反射防止のための膜を有していてもよい。当該膜は、同じ組成を有していてもよいし、異なる組成を有していてもよい。このように、収容部11は、一端が開口している本体部111と、当該一端を塞ぐ透明窓(カバーガラス15)とを有している。そして、光ファイバー13は、収容部11内において、カバーガラス15の表面の法線方向に沿って配置されている。このように、光ファイバー13における光通信のための接続部分の端が、本体部111の開口部の方向に向けて、他端から本体部111の内部に挿入されている。
【0016】
[レンズ]
AR膜付きレンズ12は、信号光をコリメートする。AR膜付きレンズ12は、信号光をコリメートするレンズ121と、反射防止膜(AR膜)122とによって構成されている。レンズ121は、屈折率n1を有する。
【0017】
レンズ121の材料は、信号光をコリメート可能な範囲から適宜に選ばれ得る。レンズ121の材料は、好ましくは、光学的な均質性と、光通信に用いられる光の波長における光透過性が高いこと、とが特性として求められる。レンズ121の材料の例には、硝材、半導体および樹脂が含まれる。
【0018】
レンズ121用の硝材の例には、珪酸塩ガラス、ホウケイ酸ガラス、リン酸塩ガラス、セレン化亜鉛(ZnSe)、フッ化カルシウム(CaF2)、およびサファイア(Al2O3)ガラスが含まれる。レンズ121用の半導体の例には、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、が含まれる。レンズ121用の樹脂の例には、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリビニリデンクロライド、変性シリコーン樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、非晶性ポリエステル樹脂、非晶フッ素系樹脂、シクロオレフィン樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂および脂環式アクリル樹脂が含まれる。
【0019】
レンズ121の形態は、後述の屈折率の条件を満たし、かつ信号光をコリメート可能であればよい。レンズ121の例には、ボールレンズ、半ボールレンズ、および非球面レンズが含まれる。光ファイバーからの出射光を光軸方向における短い距離でコリメートすることを可能とする観点から、レンズ121はボールレンズであることが好ましい。
【0020】
レンズ121は、市販の硝材製レンズまたは樹脂製レンズそのものであってもよいし、市販のレンズにさらに加工を施した加工品であってもよい。レンズ121の加工方法の例には、硝材製レンズの場合では、研磨およびガラスモールド法が含まれる。シリコンレンズのような半導体材料のレンズの場合では、研磨およびエッチング法による加工法、が含まれる。樹脂製レンズの場合では、射出成型、押出成形、圧縮成形および注型成型などによる成型法、ならびに切削、研磨加工による加工法、が含まれる。
【0021】
<反射防止膜>
レンズ121は、その界面に、反射防止膜122を有している。反射防止膜122は、信号光の損失低減の観点から、レンズ121の界面のうちの少なくとも信号光が通過する界面部分に形成される。
【0022】
信号光伝達部材10内部における光学要素同士の界面での信号光の反射は、信号光の損失以外にも、発光素子の誤作動およびノイズの発生を発生させることがあり、信号品質の低下の原因となることがある。このような信号品質の低下を抑制する観点から、AR膜付きレンズ12は、レンズ121と光透過部14との界面における少なくとも信号光の光路の部分に形成されている反射防止膜122を有している。このように、AR膜付きレンズ12は、レンズ121と光透過部14の界面に介在している。なお、本実施形態では、AR膜付きレンズ12は、レンズ121と光透過部14の界面の全面に反射防止膜122を有している。
【0023】
反射防止膜122には、信号光の光透過性と低拡散性とが求められる。このような所期の特性を有する範囲において、反射防止膜122は、単層膜であってもよいし、多層膜であってもよい。反射防止膜122は、特定の一波長のみに特化した反射防止膜の場合は、単層膜および多層膜のいずれにも限定されない。
【0024】
単層膜である反射防止膜は、少なくとも無機微粒子で構成され得る。より詳しくは、単層から成る反射防止膜122は、上記の所期の特性を発現する材料によって形成することが可能であり、例えば無機酸化物微粒子と、無機酸化物微粒子を結着するバインダー成分硬化剤とによって構成され得る。無機酸化物微粒子の例には、シリカ粒子、アンチモン粒子、チタニア粒子、アルミナ粒子、酸化ニオブ粒子、酸化スズ粒子、これらの混合粒子およびこれらの複合粒子が含まれる。バインダー成分硬化剤の例には、エポキシ系硬化剤、アクリル系硬化剤、ウレタン系硬化剤、エン・チオール系硬化剤、シアノアクリレート系硬化剤、シリコーン系硬化剤、硬化剤、シランカップリング剤および硬化剤が含まれる。
【0025】
当該無機微粒子による単層膜の反射防止膜は、当該粒子間の空隙を含む。この空隙には後述の光透過材が含浸し得る。よって、上記の反射防止膜は、上記の粒子と、それを結着する上記のバインダー成分硬化剤と、それらによって形成される上記の空隙に充満している光透過材と、によって構成され得る。
【0026】
一方、複数の通信規格(例えば波長1310nmの信号光と波長1500nmの信号光)に対応する反射防止膜の場合、反射防止膜122は、複数の波長における各波長の信号光に対する光透過性と低拡散性とを有する層の多層膜であることが好ましい。
【0027】
[反射防止膜の作製方法]
反射防止膜122は、レンズ121の表面に、公知の技術を利用して作製することが可能である。レンズ121の表面に反射防止膜122を作製する方法は、コーティングによる加工が望ましい。当該コーティングの方法は、本発明の効果が得られる範囲において、乾式および湿式のいずれでもよい。
【0028】
また、本実施形態では、反射防止膜122に代えてMoth-eye加工のようなレンズ121の表面形状による反射防止構造を適用することも有効である。
【0029】
<乾式法>
乾式のコーティング方法の例には、物理気相成長に分類される真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法およびイオンビーム蒸着法、または、化学気相成長に分類される原子層堆積法およびプラズマCVD法、が含まれる。
【0030】
乾式のコーティング方法に用いられる無機材料としては、屈折率が1.35以上2.5以下の透明無機材料を用いることが好ましい。このような透明無機材料の例には、Al2O3、ZrO2+Al2O3、SiN、SiC、SiO、MgO、La2O3+Al2O3、Y2O3、In2O3+SnO2、La2Ti2O7、SnO2、Ta2O5、HfO2、ZrO2、CeO2、WO3、ZrO2+TiO2、Ta2O5、Ta2O5+ZrO2、Ta2O5+TiO2、Ti3O5、Ti4O7、TiPr6O11+TiO2、TiO、TiO2、Nb2O5、TiO2+La2O3、Pr6O11+TiO2、SiO2、SiOxNy、CeO2、MgF2、ZnSおよびYF3が含まれる。
【0031】
<湿式法>
湿式のコーティング方法の例には、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、Layer-By-Layer法(交互積層法)およびインクジェット法が含まれる。
【0032】
湿式のコーティング方法にてコートされる材料は、粒径100nm以下の無機酸化物微粒子、粒径100nm以下の樹脂製微粒子、あるいはそれらの混合粒子、が望ましい。
【0033】
無機酸化物微粒子の材料の例には、シリカ、アンチモン、チタニア、アルミナ、酸化ニオブ、酸化スズおよびこれらの複合材料、が含まれる。
【0034】
樹脂製微粒子の材料の例には、ポリスチレン、ポリメタクリレート(メタクリル樹脂)、ポリアミン、ポリイミド、ポリカーボネートおよびポリエチレンなどが挙げられる。当該材料の一つの例示として、Micromod Partikeltechnologie社製のmicromer(品名)が含まれる。この樹脂製微粒子は、粒径25nmのポリメタクリレートから成る単分散微粒子である。
【0035】
湿式のコーティング方法で形成される反射防止膜は、単層、もしくは乾式コーティング法による無機層との重層コートであることが現実的であるが、湿式のコーティング方法でレンズ界面に多層膜を形成しても、本発明の主旨を妨げるものではない。
【0036】
湿式のコーティング方法で形成される単層コートは、例えば、上記無機酸化物微粒子がバインダー成分硬化剤により結着されてなる層である。本実施形態における一例として、単層コートの構成成分として、屈折率が1.32から2.55の微粒子を主たる成分としてレンズ上に製膜し、その粒子間に挟在する硬化前のバインダー成分硬化剤を重合させる。このようにして、上記微粒子による単層コートの屈折率を、光透過部14屈折率n2とレンズ121の屈折率n1との中間の屈折率n3に調整することが可能である。
【0037】
バインダー成分硬化剤は、レンズ材料と単層コートを構成する微粒子に対する結着性が良好で、光通信に用いられる波長の光を実質的に吸収しないこと、が好ましい。具体的には、バインダー成分硬化剤の例には、微粒子に対して結着性の良いエポキシ系硬化剤、アクリル系硬化剤、ウレタン系硬化剤、エン・チオール系硬化剤、シアノアクリレート系硬化剤およびシリコーン系硬化剤が含まれる。また、バインダー成分硬化剤には、シランカップリング剤およびテトラエトキシシラン(TEOS)のようなシラン化合物も有効である。
【0038】
[光ファイバー]
光ファイバー13には、信号光が通る。光ファイバー13は、収容部11に挿入されているとともに収容部11内におけるAR膜付きレンズ12の光軸上に光透過部14によって固定されている。たとえば、光ファイバー13は、その端部が当該光軸上においてAR膜付きレンズ12に対向する位置となるように、光透過部14によって固定されている。
【0039】
光ファイバー13は、コア材131と、その外周面を覆うクラッド材132とを有している。光ファイバー13は、コア材131の内部を信号光が通過するように構成されている。光ファイバー13は、シングルモードであってもよいし、マルチモードであってもよい。
【0040】
[光透過部]
光透過部14は、光透過性を有するとともに前述のn1よりも小さい屈折率n2を有する。光透過部14は、収容部11に充満してAR膜付きレンズ12を包埋している。
【0041】
光透過部14は、光透過性の材料である光透過材で構成され得る。光透過材は、AR膜付きレンズ12を収容部11内において包埋し得る材料、すなわちAR膜付きレンズ12を収容部11内において固定し得る材料であればよく、例えば樹脂であり得る。樹脂は、AR膜付きレンズ12および光ファイバー13の位置を固定可能である観点から、硬化樹脂であることが好ましい。硬化樹脂は、硬化性の樹脂材料の高分子化によって硬化する樹脂である。硬化樹脂の例には、光重合による樹脂、熱硬化による樹脂、二液硬化による樹脂、および、室温で硬化してなる樹脂、が含まれる。樹脂の種類の例には、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリアリル樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂およびメラミン樹脂が含まれる。
【0042】
光透過部14は、その特性向上の観点から樹脂以外の他の成分をさらに含有していてもよい。たとえば、光透過部14は、樹脂の諸特性向上の観点から、信号光の波長以下の大きさの無機粒子を含有する有機-無機ハイブリッド複合材料で構成されてもよい。また、光透過部14は、より好ましい特性をさらに有していてもよい。たとえば、光透過部14は、レンズ121の線熱膨張率に近い線熱膨張率を有することが、長期安定性の観点から好ましい。
【0043】
[信号光伝達部材の製造方法]
信号光伝達部材10は、
図2~
図5に示されるような製造方法によって製造することが可能である。
【0044】
一例として、レンズを収容する収容部11の本体部111は、複数のパーツによって構成される。本体部111は、例えばアルミニウム製の板材で構成され、一例として、本体部111は、底板1111、中板1112~1114、上板1115~1117、1115’~1117’およびカバー111E、111Fで構成される。本体部111にはAR膜付きレンズ12が載置される。AR膜付きレンズ12のレンズ121はボールレンズであり、AR膜付きレンズ12は、レンズ121の表面の全面に反射防止膜122を有している。
【0045】
図2に示されるように、底板1111上に中板1112~1114を配置する。中板1112~1114は、底板1111の長手方向に沿って一端側から順に配置され、それぞれ適当な厚さを有している。中板1113は、中板1112に対して底板1111の長手方向において隙間を有して配置される。
【0046】
中板1112の上には上板1115、1115’が配置され、中板1113の上には上板1116、1116’が配置され、中板1114の上には上板1117、1117’が配置される。
【0047】
上板1115、1115’は、それぞれ一側部にレンズ保持部111Aを有している。レンズ保持部111Aは、上板の厚さ方向に沿って延在する断面円弧状の溝である。当該円弧は、AR膜付きレンズ12の直径と同じ直径を有する円弧である。上板1115、1115’は、それぞれのレンズ保持部111Aが対向し、かつ底板1111の短手方向において中央部に隙間を有して並んで配置される。当該隙間の大きさは、対向するレンズ保持部111AによってAR膜付きレンズ12が保持される程度の距離であり、例えば対向するレンズ保持部111Aの最深部間の距離がAR膜付きレンズ12の直径と同じになる距離である。
【0048】
上板1116、1116’は、いずれも平面視したときに矩形の板材であり、底板1111の短手方向において中央部に隙間を有して並んで配置される。当該隙間の大きさは、後述の光ファイバー13の芯線が収容可能な程度の距離である。また、上板1117、1117’も、上板1116、1116’と同様に、いずれも平面視したときに矩形の板材であり、底板1111の短手方向において中央部に隙間を有して並んで配置される。当該隙間の大きさは、後述の光ファイバー13の保護スリーブが収容可能な程度の距離である。
【0049】
図3に示されるように、底板1111、中板1112~1114および上板1115~1117、1115’~1117’を上記の配置で専用の接着剤で接着する。その結果、上板1115、1115’間にレンズ保持部111Aが対向する最も広い溝と、上板1116、1116’間に最も狭い溝111Bと、上板1117、1117’間に溝111Bよりもやや広い溝111Cとを長手方向に沿って有し、上板1115、1115’と上板1116、1116’との間に短手方向に沿う溝111Dと、を有するベース部が形成される。
【0050】
次いで、当該ベース部における上板1115側の一端面に、、レーザー光を透過するガラス板であるカバーガラス15を接着する。なお、接着剤には光透過部14を構成する光透過材を用いることが望ましいが、光透過部14となる空隙部に接着剤が入り込まないのであれば、当該接着剤は光透過材と同一でなくとも構わない。
【0051】
次いで、上板1115、1115’間の溝における対向するレンズ保持部111Aの部分にAR膜付きレンズ12を押し込み、固定する。これにより、AR膜付きレンズ12がレンズ保持部111Aに応じた特定の位置に挟持される。
【0052】
次いで、
図4に示されるように、溝111Dには、光ファイバー13の向きを微調整するための薄板ガラス16がはめ込まれる。薄板ガラス16には、光ファイバー13の芯線が収容されるスリット16Aが形成されている。スリット16Aは、光ファイバー13を動かし易くしてその位置を調整するための溝である。スリット16Aに代えて貫通孔が設けられていてもよいが、薄板ガラス16は、このようなスリット16Aまたは貫通孔を有していなくてもよい。
【0053】
光ファイバー13は、先端部が芯線(コア材およびクラッド材)となっており、それ以外の部分は保護スリーブをさらに有している。光ファイバー13の先端側の芯線は、光透過部14となる空隙部、スリット16Aおよび溝111Bに収容され、それより後ろの保護スリーブの部分は溝111Cに収容される。
【0054】
次いで、
図5に示されるように、溝111B,溝111C、および空隙部に光透過材、例えばUV硬化性の樹脂材料、を充填する。次いで、充填した光透過材に空気が入らない様に注意しながら、上板1117、1117’および溝111Cをカバー111Eで上方から覆い、上板1115、1115’上板1116、1116’、空隙部、溝111Bおよび111Dをカバー111Fで覆う。溝111Cをカバー111Eで覆うことにより、孔112が形成される。
【0055】
次いで、AR膜付きレンズ12に対する光ファイバー13の位置調整を行う。たとえば、光透過材硬化前の上記のベース部を光ファイバーチェッカーに設置する。そして光ファイバー13に可視光レーザー光を通過させて当該チェッカーにおけるレーザー光の像を目視で確認しながら、光ファイバー13の先端のAR膜付きレンズ12に対する位置を決定する。この際、薄板ガラス16を上下左右に微調整し、光ファイバー13の芯線の位置を調整する。こうして、AR膜付きレンズ12に対する光ファイバー13の先端の位置をAR膜付きレンズ12の焦点位置になる位置に調整する。
【0056】
次いで、カバーガラス15およびカバー111Eを介して、上記の溝部111Cに充満する樹脂材料を、スポット型のLED紫外線照射装置を用いて紫外線照射し、光ファイバー13の前後位置を固定する。
【0057】
次いで、薄板ガラス16の位置を上下左右に微調整し、光ファイバー13位置を調整する。こうして、AR膜付きレンズ12に対する光ファイバー13の先端の位置を真っすぐ前方にレーザー光を照射する位置に合わせる。次いで、上記の空隙部および溝部111Bに充満する樹脂材料を紫外線で照射し、光ファイバー13の上下左右の位置を固定する。この紫外線の照射による樹脂材料の重合反応によって樹脂材料は硬化樹脂になる。その結果、AR膜付きレンズ12を包埋する硬化樹脂の光透過部14が形成され、光ファイバー13は上記のように調整された位置で固定される。こうして、信号光伝達部材10が得られる。
【0058】
上記の例は、光によるラジカル重合反応により樹脂材料から光透過部を生成する例に該当する。その他にも、樹脂材料の種類に応じて、エポキシ重合反応、ビニル重合反応、カルボニル縮合反応およびポリウレタン反応などの各種反応により、樹脂材料から光透過部を生成することが可能である。
【0059】
また、信号光伝達部材10を、必要に応じて樹脂製あるいは金属製の筐体で外包することで、ワンタッチコネクターとしての機能、あるいはマルチコネクターとしての機能、を付与することが可能となる。
【0060】
さらに、信号光伝達部材10の製造過程におけるベース部は、板材の接着以外の方法、例えば3Dプリンターでの製作、切削加工または射出成型などの他の方法で製造することも可能である。
【0061】
[光学的な特徴]
図6は、本発明の実施形態1に係る信号光伝達部材における光学的な特徴を説明するための図である。
図6では、信号光伝達部材10の光学的な構成を模式的に示している。以下の説明において、信号光はレーザー光とし、レンズはボールレンズとする。
【0062】
光ファイバー13から出射されるレーザー光は、光ファイバーの端面から広がり、AR膜付きレンズ12を通過して平行光として出射(コリメート)される。コリメートされた光は,受光側のAR膜付きレンズ12により,焦点位置近傍に位置する光ファイバー13のコア材131へ集光される。
【0063】
レーザー光は、出射側において、光ファイバーの端面、ボールレンズに入射する界面およびボールレンズから出射される界面の三か所の界面を通過する。受光側では、上記の面を逆の順で通過する。このように、光通信用のコネクタの形態では、レーザー光は、合計で6カ所の界面を通過する。
【0064】
ここで、AR膜付きレンズ12のレンズ121の屈折率をn1、光透過部14の屈折率をn2、とする。信号光伝達部材10では、レンズ121の屈折率n1は光透過部14の屈折率n2よりも小さい。そしてAR膜付きレンズ12と光透過部14の界面部分には、光通信に用いられている光の波長に対して、反射を抑制する反射防止膜122が形成される。これにより、上記の界面で大きく屈折させる場合の界面での反射が生じにくく、上記の屈折率の関係を有さない場合に比べて、レーザー光の損失が抑制される。
【0065】
光ファイバー13の端面から光透過部14中に出射されるレーザー光の反射または当該端面の欠けなどによる散乱を抑制する観点から、光透過部14の屈折率n2は、光ファイバー13のコア材131の屈折率に近いことが望ましい。コア材131が石英であり、かつ光ファイバー13のコア材131の屈折率をn4とすると、信号光伝達部材10は、上記の観点から、以下の式(1)を満足することが好ましい。
n4-0.14≦n2≦n4+0.14 (1)
【0066】
式(1)は、光ファイバー13のコア材の屈折率n4に対する光透過部14の屈折率n2の関係を規定している。信号光伝達部材10が式(1)を満たすことにより、光ファイバー13と光透過部14との界面における反射率が0.2%以下ないし0.1%以下となり、光ファイバー13から出射される光の損失を十分に少なくすることが可能である。
【0067】
屈折率n2が小さすぎると、光透過部14を構成する樹脂材料の選択肢が限られ、光学特性が、例えば線熱膨張係数や、ヘーズ値、レーザー光耐性などを満たすことが困難になることがある。
【0068】
屈折率n2が屈折率n4に対して大きすぎると、光ファイバー13と光透過部14との界面における反射率が大きくなる。従って光透過部14を構成する樹脂材料の観点から、n2はn4-0.14以上であることが好ましく、n4-0.10以上であることがより好ましい。
【0069】
また、光ファイバー13と光透過部14との界面における反射率の観点から、n2はn4+0.14以下であることが好ましい。
【0070】
また、屈折率n2はと屈折率n4の差、Δ(n2-n4)の値は、上述のレーザー光の反射または散乱を抑制する観点から小さいことが望ましい。
【0071】
そして、光透過部14と接するAR膜付きレンズ12がレンズとしての役割を十分に果たす観点から、レンズ121の屈折率n1と光透過部14の屈折率n2との屈折率差、即ちΔ(n1-n2)の値、は大きいことが望ましい。
【0072】
AR膜付きレンズ12がレーザー光をより大きくコリメートして制御する観点から、レンズ121の屈折率n1と光透過部14の屈折率n2との屈折率差、即ちΔ(n1-n2)の値、は大きいことが望ましい。
【0073】
また、信号光伝達部材10では、焦点距離EFLが短い方が好ましい。小型化の観点から有利であるという商品的価値もあるが、焦点距離が長いと光透過部14を通るレーザー光の光路長が長くなり、その結果、光信号の損失につながるため、焦点距離EFLが短い方が望まれる。
【0074】
そのためには、レンズ121の屈折率n1が高いことが有利であり、光透過部14の屈折率n2の屈折率が低いことが有利である。更にはレンズ121の屈折率n1と、光透過部14の屈折率n2との屈折率差、Δ(n1-n2)の値が大きいことが望ましい。上記のような観点から、信号光伝達部材10は、下記式(2)を満足することが好ましい。
n1-n2≧0.19 (2)
【0075】
上記の観点から、光透過部14の屈折率n2との屈折率差、Δ(n1-n2)の値は、0.25以上であることがより好ましく、0.42以上であることがさらに好ましい。
【0076】
反射防止膜122が単層膜である場合、その単層膜の平均屈折率n3は、レンズの屈折率n1より小さく光透過部の屈折率n2よりも大きいことが、信号光伝達部材10内の光学要素間における信号光の反射または散乱を抑制する観点から好ましい。n3が式(3)を満たさない場合では、反射防止膜122の反射防止能が低下し、光透過部14とレンズ121の界面での反射率が高くなる。反射防止膜122が単層膜である場合、本実施形態の信号光伝達部材は、上記の観点から、以下の式(3)を満足することが好ましい。
【0077】
【0078】
式(3)に示す関係は、AR膜付きレンズ12の反射防止膜122の界面反射率が実質的にゼロである場合に成立する。
【0079】
また、信号光伝達部材10は、目的とする光ファイバー13の開口数NAに基づいてレンズ121の好適な屈折率n1を選択することが好ましい。
【0080】
たとえば、光透過部14の屈折率n2が、光ファイバー13のコア材である石英の屈折率1.46と同じであるとした場合、
NAが0.52である場合の屈折率n1は1.82以上であることが好ましく、
NAが0.42である場合の屈折率n1は1.74以上であることが好ましく、
NAが0.32である場合の屈折率n1は1.66以上であることが好ましく、
NAが0.22である場合の屈折率n1は1.58以上であることが好ましく、
NAが0.12である場合の屈折率n1は1.52以上であることが好ましい。
【0081】
NAに対して屈折率n1が上記の関係を満たす場合では、ボールレンズによって拡大されるビーム径dがボールレンズの直径φの90%以下となる。このため、コネクタとしての接続による軸ずれなどの外乱的要因に対しても余裕のある設計が可能となり、上記の外乱的要因の有無に関わらず安定した性能を発現する観点から有利である。
【0082】
上記のNAに対するレンズの屈折率n1は、屈折率n2の光透過部14から入射する、レンズがボールレンズであるAR膜付きレンズ12へのレーザー光の入射角θ1、当該AR膜付きレンズ12への入射箇所におけるレーザー光の屈折角θ2、当該AR膜付きレンズ12から光透過部14へのレーザー光の出射角θ3、および当該AR膜付きレンズ12からの出射箇所におけるレーザー光の屈折角θ4を、スネルの法則に基づいて算出することにより求めることが可能である。
【0083】
信号光伝達部材10における、レンズがボールレンズであるAR膜付きレンズ12の焦点距離EFLは式(4)より求めることができる。また、信号光伝達部材10における光ファイバー13の開口数NAは、式(5)より求めることができる。「θmax」は、光ファイバー13から、屈折率n2の光透過部14への出射光におけるビームの最大角を示す。また、「φ」はボールレンズの直径を示す。
EFL=n1・φ/4(n4-n2) (4)
NA=n2・sinθmax (5)
【0084】
[光学的特徴の具体的な計算例]
フレネルの公式に基づき,光透過部14からAR膜付きレンズ12への屈折率差および入射角を用いて、界面部で発生する反射率を算出し、信号光伝達部材10における界面反射による全損失を計算した。仮定として、光ファイバー13のコア材131を屈折率1.46の石英とし、光ファイバーに接する光透過部の屈折率を1.46とし、AR膜付きレンズ12のレンズがボールレンズであり、、ボールレンズの硝材の屈折率を1.94とし、レーザー光がガウシアン分布している、とした。
【0085】
当該AR膜付きレンズ12の界面の反射防止膜122によって、光透過部14との界面での入射角0°における正反射率が0.1%以下に抑制されている場合では、出射光に対してほぼ100%のレーザーの光が受光側の光ファイバーに届く計算結果が得られる。
【0086】
[対比例1]
当該AR膜付きレンズ12が反射防止膜122(すなわちレンズ121のみから構成されている)を有さない場合では、光透過部14とレンズ121との界面で約2.4%の反射が生じる。そのため,受光側の光ファイバーに届くレーザー光は、出射光に対して91%程度となる。
【0087】
[対比例2]
特許文献1のコネクタについて、同様の計算を行う場合を説明する。特許文献1では、光透過部に該当する樹脂の屈折率が1.5、ボールレンズの屈折率が1.7以上と記載されていることから、コア材の屈折率が1.5の光ファイバーは、プラスチックファイバーであることが推測される。しかしながら、スネルの法則により、レンズと樹脂の界面での屈折がかなり小さくなる。光の屈折が小さいと樹脂中のレンズは、レンズとしての役割を殆ど果たせなくなる。
【0088】
前述の式(5)を適用して、式(5)のn2に1.5を代入した場合、NA=0.5の光ファイバーから樹脂中へ放出されるレーザー光の広がり角θmaxは、光ファイバーと樹脂との界面で屈折が生じないため、およそ20°となる。
【0089】
以上より、樹脂の屈折率が1.5,ボールレンズの屈折率が1.7で構成される特許文献1に記載のビーム拡張型光コネクタは、光をコリメートさせるにはレンズと光ファイバーの距離が離れすぎており、光信号の半分以上を損失する、との結果が得られる。
【0090】
[主な作用効果]
信号光伝達部材10は、屈折率n1のレンズ121、屈折率n2の光透過部14および反射防止膜122を有している。よって、光学素子間での信号光の反射による損失が抑制され、光透過部14を有さない場合または反射防止膜122を有さない場合に比べて、信号光伝達部材10における、信号光の損失の抑制に加えて、信号品質の低下を抑制するのに有利である。
【0091】
また、光ファイバー13の屈折率4が前述の式(1)を満たすことにより、信号光伝達部材10における信号光の損失がより一層抑制される。
【0092】
また、信号光伝達部材10、10’がいずれもカバーガラス15、および15’を有することから、コネクタとして使用する際に光透過部14間のエアーギャップがガラスで実質的に置き換えられた構成が実現する。このため、光透過部14とエアーギャップとの表面におけるレーザー光の光散乱の発生が抑制され、信号品質の向上の観点から有利である。
【0093】
また、カバーガラス15は、各主面に反射防止のための膜を有しており、カバーガラス15の表面、および界面で信号光の反射による損失を低減させる観点から有利である。
【0094】
〔実施形態2〕
図7は、本発明の実施形態2に係る信号光伝達部材の構成を模式的に示す図である。本実施形態の信号光伝達部材は、半導体レーザーモジュールと光ファイバーとを接続するための部材であり、実施形態1における一方の信号光伝達部材が半導体レーザーモジュールに置き換えられた構造と実質的に同じである。説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0095】
図7に示されるように、信号光伝達部材10は、半導体レーザーモジュール31に対向して配置されている。半導体レーザーモジュール31から出射されたレーザー光は、AR膜付きレンズ12においてコリメート光となり、レンズから出射して光ファイバーの13のコア材131に向けて集束する。
図7の形態では、信号光伝達部材10は、半導体レーザーモジュール31から出射された信号光を、1つのレンズで受光側の光ファイバー13の端部へ収光させる。このため、信号光伝達部材10の小型化の観点から、焦点距離EFLが短い方が好ましく、そのためレンズ121の屈折率n1は高いことが好ましい。たとえば、レンズ121の屈折率n1は1.9以上であることが好ましい。
【0096】
〔実施形態3〕
図8は、本発明の実施形態3に係る信号光伝達部材の構成を模式的に示す図であり、
図9は、
図8の信号光伝達部材をXZ平面で切断した断面を模式的に示す図である。本実施形態の信号光伝達部材は、一体で複数のAR膜付きレンズ12を有するアレイ構造を有しており、それ以外は前述した実施形態1の信号光伝達部材と同様の構成を有している。説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0097】
図8に示されるように、信号光伝達部材40および信号光伝達部材50は、連結可能に構成されている。すなわち、信号光伝達部材40の収容部11は、その開口部が信号光伝達部材50の収容部11’の開口部に外嵌可能に構成されている。そして、収容部11’の側部には凹部413が形成されており、収容部11の開口の側縁部には、収容部の外嵌時に凹部413へ着脱可能に係合する爪部414が突出している。各信号光伝達部材において、凹部413および爪部414は、収容部11を信号光伝達部材50の収容部11’に連結する連結部を構成している。このような連結構造を有することにより、信号光伝達部材40の収容部11は、透明窓が信号光伝達部材50の透明窓に対向し、かつ平行になるように、あるいは互いの透明窓が密着するように、信号光伝達部材50の収容部11’に連結する。信号光伝達部材40および信号光伝達部材50は、いずれも、一体の部材に複数(例えば15個)のAR膜付きレンズ12を有しており、上記の連結構造以外は実質的には同じ構造を有している。
【0098】
信号光伝達部材40は、
図9に示されるように、本体部411は、光軸(X方向)に沿ってみたときに平面方向に配列している複数の凹部412を有している。本体部411は、X軸に沿ってみたときに、Z方向に3個、Y方向に5個の計15個の凹部412を有している。各凹部412の形状は、例えば四角柱状であり、凹部412のそれぞれにはAR膜付きレンズ12が配置され光透過部14に包埋されている。また、各凹部412の底部には光ファイバー13が接続されている。なお、カバーガラス15の各主面には、反射防止用の膜が形成されている。
【0099】
本実施形態によれば、一つの信号光伝達部材に複数の光ファイバー13およびそれに対応するAR膜付きレンズ12を介して複数の信号光を同時に伝達することが可能である。
【0100】
〔単層から成る界面反射防止膜を有するレンズの製造方法〕
[概要]
本発明の実施形態において使用されるレンズ界面での反射防止膜を有するレンズ(以下、「AR膜付きレンズ」とも言う)は、交互積層法を利用して用意することが可能である。以下の記載は、交互積層法を利用するAR膜付きレンズの製造方法に関する。本発明による単層の反射防止膜は、樹脂とレンズの界面での反射防止を目的としている。
【0101】
従来、電子機器の表示装置には、シート状の反射防止素子が使用されているものがある。このような光学素子の製造技術の一例として、交互積層法による反射防止膜を作製する技術がある(例えば特開2010-217935号公報参照)。
【0102】
本発明の実施形態によれば交互積層法によりレンズ上に反射防止膜を形成する事で、3次元形状を有するレンズに対しても、均質な反射防止膜を有する製造技術を提供する。
【0103】
本発明の実施形態におけるAR膜付きレンズの製造方法は、レンズを高分子電解質溶液に浸漬する第一の工程と、前記高分子電解質溶液に浸漬した前記レンズを反射防止膜の材料粒子のゾルに浸漬する第二の工程と、を含み、前記第一の工程と前記第二の工程とを繰り返して前記材料粒子の層を含む反射防止膜を前記レンズの界面に形成するAR膜付きレンズの製造方法であって、前記レンズが通液性の容器に収容した状態で使用される。この製造方法によれば、均質な反射防止膜を有するレンズを製造することができる。以下、当該製造方法についてより詳しく説明する。
【0104】
[AR膜付きレンズの製造方法の実施の態様について]
上記のAR膜付きレンズの製造方法は、レンズを高分子電解質溶液に浸漬する第一の工程と、前記高分子電解質溶液に浸漬した前記レンズを反射防止膜の材料粒子のゾルに浸漬する第二の工程と、を含む。
【0105】
レンズには、前述したレンズ本体を用いることができる。レンズの形状によらずに均質な反射防止膜を形成可能であることから、レンズにボールレンズを用いることが好ましい。
【0106】
第一の工程では、レンズを高分子電解質溶液に浸漬する。高分子電解質溶液における高分子電解質は、レンズの界面と静電的な相互作用により付着する成分から適宜に選ばれる。レンズの界面が負の静電作用を呈する場合には、高分子電解質は、正の電荷を含む高分子化合物から選ぶことができる。高分子電解質の例には、ポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)、ポリアリルアミンおよびポリエチレンイミン等が含まれる。
【0107】
第二の工程では、高分子電解質溶液に浸漬したレンズを反射防止膜の材料粒子のゾルに浸漬する。材料粒子の材料は、反射防止膜としての所望の屈折率を発現するとともに、レンズ上の高分子電解質に静電的な相互作用により付着する成分から適宜に選ばれる。高分子電解質が正の静電作用を呈する場合には、材料粒子は負の電荷を含む無機または有機の微粒子から選ぶことができる。当該材料粒子の材料の例には、シリカ、アルミナ、チタニア、アンチモン、酸化スズおよび酸化ニオブ等が含まれる。当該材料は、一種でもそれ以上でもよい。
【0108】
上記の製造方法では、第一の工程と第二の工程とを繰り返して材料粒子の層を含む反射防止膜をレンズの界面に形成する。第一の工程と第二の工程との繰り返し数は、反射防止膜の所望の厚さに応じて適宜に決めることが可能である。繰り返し数が多いほど反射防止膜を厚くすることが可能である。
【0109】
上記の製造方法では、レンズが通液性の容器に収容した状態で使用される。このため、レンズに接触せずに異なる処理液への浸漬を繰り返すことが可能である。通液性の容器は、レンズを上記の液に浸漬可能であればよいが、通液性、強度および安定性の観点から、金属製メッシュの籠であることが好ましい。当該籠の材料である金属は、第一の工程および第二の工程における浸漬において安定な材料であればよく、当該容器材料の例には、ステンレス鋼およびセラミックが含まれる。当該容器材料は、化学的安定性、および加工性の観点からステンレス鋼であることが好ましい。
【0110】
上記の製造方法は、当該製造方法の効果が得られる範囲において、第一の工程および第二の工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。たとえば、上記の製造方法は、材料粒子の層を有するレンズを硬化剤材料溶液に浸漬する第三の工程をさらに含んでいてもよい。
【0111】
硬化剤材料溶液の硬化剤材料および硬化剤材料溶液は、一種でもそれ以上でもよい。第三の工程は、二種以上の硬化剤材料溶液への浸漬であってもよい。硬化剤材料溶液への浸漬は、一回のみでもよいし、二回以上であってもよい。第三の工程を含むことにより、反射防止膜において材料粒子が硬化剤によって結着され得る。よって第三の工程をさらに含むことは、反射防止膜の耐久性を高める観点から好ましい。硬化剤材料の例には、各種のシランカップリング剤およびアルキルシリケートが含まれる。
【0112】
また、上記の製造方法は、硬化剤材料溶液に浸漬したレンズを加熱して硬化剤を生成する加熱工程をさらに含んでもよい。加熱工程における加熱温度は、少なくとも80℃以上であることが望ましいが、硬化剤の反応機構、レンズの膨張率、または、成膜される反射防止膜のヤング率などの外的制約によって最適化されることが望ましい。
【0113】
また、上記の製造方法は、材料粒子の層に硬化樹脂の硬化性モノマーを含浸させる工程と、材料粒子の層に含浸した硬化性モノマーを重合させて硬化樹脂を含む反射防止膜を生成する工程と、をさらに含んでもよい。硬化樹脂は、前述した光透過部の硬化樹脂であってよい。硬化性モノマーは、重合反応によって当該硬化樹脂を生成する化合物であればよく、硬化樹脂および重合反応の種類に応じて適宜に決めることが可能である。硬化性モノマーは、必要に応じて重合開始剤と併用されてもよい。
【0114】
当該硬化性モノマーを材料粒子の層に含浸させる方法は、当該硬化性モノマーが当該材料粒子の層における空隙に十分に充填され得る方法から適宜に選択される。このような方法には、硬化性モノマーを樹脂粒子の層を有するレンズの表面(樹脂粒子の層)に塗布する方法、および樹脂粒子の層を有するレンズを硬化性モノマーまたはその溶液中に浸漬する方法、が含まれる。硬化樹脂は、前述の光透過材用の樹脂であってよく、信号光伝達部材の収容部にAR膜付きレンズを包埋する光透過材と同じであってもよいし、異なっていてもよい。このように樹脂粒子の層に硬化性モノマーを含浸させた上で当該硬化性モノマーを重合させることにより、樹脂粒子の層の空隙に硬化樹脂が充満した反射防止層が形成され得る。このように、本実施形態では、硬化樹脂で充満した状態が規定の屈折率となるよう、微粒子組成と硬化剤成分とをチューニングする。
【0115】
レンズと光透過材との界面に形成される、微粒子組成と硬化剤成分と硬化樹脂からなるAR膜の屈折率は、反射率が低すぎるため直接的な測定法では難しい場合もある。この場合には、例えば、同様の組成からなるAR膜をシリコンウェハ上に成膜し、エリプソメーター等による光学評価を行うことにより、形成されるAR膜の屈折率を概算することもできる。
【0116】
また、上記の製造方法は、第一の工程に先立ってレンズを洗浄する洗浄工程をさらに含んでいてもよい。洗浄工程は、交互積層法における最初の電解質高分子のレンズ界面への付着を安定させる観点から好ましい。レンズがガラスである場合では、アルカリ性のレンズ洗浄液での洗浄が表面清浄化、およびレンズ表面の親水化の観点から好ましい。
【0117】
また、上記の製造方法は、異なる液にレンズを浸漬させる前に、過剰に付着した成分を予め除去する水洗工程をさらに含んでいてもよい。当該水洗は、純水を収容する純水槽へ、レンズを収容している前述の籠を浸し、レンズを純水に浸漬することで実施することが可能である。
【0118】
その他、上記の製造方法では、通液性の容器内におけるボールレンズの姿勢安定性を高める種々の構成を採用してよい。たとえば、レンズは、信号光の光路となる部分以外の一部が窪んでいてもよい。あるいは、通液性の容器に光路となる部分以外の部分でボールレンズを把持する把持部を配置し、ボールレンズを把持部で把持した状態で前述の製造方法を実施してもよい。あるいは、当該容器がレンズの移動および姿勢変更を規制する凹凸をさらに有していてもよい。当該凹凸は、例えばレンズの曲面に開口端縁で当接する一つに対して接する一つの凹部であってもよいし、一つのレンズに対して三点で支持する三つの凸部であってもよい。このような構成は。レンズにおいて信号光が通過する部分以外の部分でレンズを適切に支持することが可能であることから、均質な反射防止膜をレンズ界面により容易に作製するのに好適である。
【0119】
上記の製造方法によって得られるAR膜付きレンズは、コネクタのほか、光通信における信号光を伝達するための部材の接続または連結の用に、様々な形態で好適に用いられ得る。
【0120】
[AR膜付きレンズの製造方法のまとめ]
本発明の実施形態におけるAR膜付きレンズの製造方法の第一の態様は、レンズを高分子電解質溶液に浸漬する第一の工程と、高分子電解質溶液に浸漬したレンズを反射防止膜の材料粒子のゾルに浸漬する第二の工程と、を含み、第一の工程と第二の工程とを繰り返して材料粒子の層を含む反射防止膜をレンズの界面に形成するAR膜付きレンズの製造方法であって、レンズが通液性の容器に収容した状態で使用される。第一の態様によれば、均質な反射防止膜を有するレンズを製造することができる。
【0121】
AR膜付きレンズの製造方法の第二の態様は、第一の態様において、材料粒子の層を有するレンズを硬化剤材料溶液に浸漬する第三の工程をさらに含んでもよい。第二の態様は、反射防止膜の耐久性を高める観点からより効果的である。
【0122】
AR膜付きレンズの製造方法の第三の態様は、第二の態様において、硬化剤材料溶液に浸漬したレンズを加熱して硬化剤を生成する加熱工程をさらに含んでもよい。第三の態様は、反射防止膜の耐久性を高める観点からより一層効果的である。
【0123】
AR膜付きレンズの製造方法の第四の態様は、第一の態様から第三の態様のいずれかにおいて、材料粒子の層に硬化樹脂の硬化性モノマーを含浸させる工程と、材料粒子の層に含浸した硬化性モノマーを重合させて硬化樹脂を含む反射防止膜を生成する工程と、をさらに含んでもよい。第四の態様は、反射防止膜の耐久性を高める観点および屈折率をさらに高める観点からより一層効果的である。
【0124】
AR膜付きレンズの製造方法の第五の態様は、第一の態様から第四の態様のいずれかにおいて、レンズにはボールレンズを用いてもよい。第五の態様は、均質な反射防止膜の作製が通常ではより困難なボールレンズにおいても、均質な反射防止膜を作製することが可能であり、より効果的である。
【0125】
AR膜付きレンズの製造方法の第六の態様は、第一の態様から第五の態様のいずれかにおいて、通液性の容器に金属製メッシュの籠を用いてもよい。第六の態様は、安定な容器にレンズを終始収容したまま反射防止膜を作製することが可能であることから、均質な反射防止膜を作製する観点からより一層効果的である。また、第六の態様は、AR膜をレンズの全面に容易に作製するのに好適である。
【0126】
[AR膜付きレンズの製造方法の具体例]
<例1>
(浸漬処理用の液1~4の調製)
横浜油脂工業社製セミクリーン(登録商標)20gを純水1Lに加えて、マグネチックスターラーで攪拌し、液1を得た。液1はアルカリ性ガラス洗浄液である。
【0127】
Polysciences、 Inc.のポリ(塩化ジアリルジメチルアンモニウム)28%水溶液20gを純水1Lに加えて、マグネチックスターラーで攪拌し、0.2ミクロンの親水性PTFEフィルターでフィルタリングし、ろ液を液2として得た。液2は高分子電解質水溶液である。
【0128】
日揮触媒化成社製五酸化アンチモンELCOM(登録商標)50gを純水1Lに加えて、マグネチックスターラーで攪拌し、0.2ミクロンの親水性PTFEフィルターでフィルタリングし、ろ液を液3として得た。液3はアンチモンゾル水分散液反射防止膜の材料粒子のゾルである。
【0129】
コルコート社製コルコートN103-X 20gを純水1Lに加えて、マグネチックスターラーで攪拌し、0.2ミクロンの親水性PTFEフィルターでフィルタリングし、ろ液を液4として得た。液4はエチルシリケート水溶液であり、硬化剤材料溶液である。
【0130】
(反射防止膜の作製)
後述の実施例1におけるボールレンズを用い、以下の手順により、アンチモン粒子によって構成される単層膜をボールレンズ上に成膜した。
(1)SUS製メッシュの籠の中にボールレンズを収容した。
(2)当該籠を液1に浸すことで、当該籠に入れたままボールレンズを液1に浸漬し、洗浄した。
(3)当該籠を水洗用の純水槽に浸すことで、当該籠に入れたままボールレンズを純水で濯ぎ、ボールレンズの界面に残ったアルカリ成分を除去した。
(4)当該籠に入れたままボールレンズを液2に浸漬した。
(5)当該籠に入れたままボールレンズを純水に浸漬して純水で濯ぎ、ボールレンズおよび籠に付着した余剰のポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウムを除去した。
(6)当該籠に入れたままボールレンズを液3に浸漬した。
(7)当該籠に入れたままボールレンズを純水に浸漬して純水で濯ぎ、ボールレンズ上の余剰のアンチモンゾルを除去した。
(8)(4)~(7)の工程を1サイクルとして、積層膜が目的の厚さとなるサイクル数まで上記工程のサイクルを繰り返した。
(9)当該籠に入れたままボールレンズをシランカップリング剤水溶液に浸漬した。
(10)当該籠に入れたままボールレンズを純水に浸漬して純水で濯ぎ、余剰のシランカップリング剤を除去した。
(11)当該籠に入れたままボールレンズを液4に浸漬した。
(12)当該籠に入れたままボールレンズを純水に浸漬して純水で濯ぎ、余剰のエチルシリケートを除去した。
(13)(9)~(12)の工程を1サイクルとして、2サイクル以上繰り返した。
(14)当該籠に入れたままボールレンズをIPAに浸漬して風乾した。ボールレンズ上の膜中の水分はIPAで置換され、IPAは風乾によって膜中から除去される。
(15)当該籠に入れたままボールレンズを籠ごとオーブンに入れ、200℃で3時間加熱した。
【0131】
以上の操作により、屈折率1.49のアンチモンゾルからなる単層膜を有するボールレンズを得た。当該単層膜の厚さは210nmであった。
【0132】
さらに、上記の単層膜にUV硬化樹脂のモノマーを含浸させ、UV照射によって当該モノマーを重合させることで、単層膜中の空隙にUV硬化樹脂を有するボールレンズを得た。このボールレンズの上記単層膜の平均屈折率はおよそ1.7となった。
【0133】
<例2>
(浸漬処理用の液5の調製)
日揮触媒化成社製Cataloid(登録商標) 50gを純水1Lに加えて、マグネチックスターラーで攪拌し、0.2ミクロンの親水性PTFEフィルターでフィルタリングした。当該フィルターを通した液であるシリカゾル分散液と前述の液3とを、シリカゾル/アンチモンゾルが1/3に比率になるように混合して液5を得た。液5は、アンチモンゾル/シリカゾル混合分散液である。
【0134】
(反射防止膜の作製)
後述の実施例3におけるボールレンズを用い、工程(2)で浸漬した状態で超音波洗浄し、工程(6)で液3に代えて液5を用い、工程(9)でシランカップリング剤水溶液に代えて液2を用い、工程(13)における繰り返し数を5以上とし、工程(15)における加熱温度を120℃に変更した以外は、前述の例1と同様にして、アンチモン/シリカ混合粒子によって構成される単層膜をボールレンズ上に成膜した。ボールレンズ上には、屈折率1.38のアンチモン/シリカ混合ゾルからなる単層膜が形成された、当該単層膜の厚さは210nmであった。
【0135】
さらに、例1と同様に、上記の単層膜にUV硬化樹脂のモノマーを含浸させ、UV照射によって当該モノマーを重合させることで、単層膜中の空隙にUV硬化樹脂を有するボールレンズを得た。このボールレンズの上記単層膜の平均屈折率はおよそ1.6となった。
【0136】
〔信号光伝達部材の変形例〕
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0137】
たとえば、前述の実施形態において、信号光伝達部材はカバーガラスを有さず、信号光を伝達すべき他方との間にエアーギャップが形成されてもよい。また、カバーガラスまたはエアーギャップのエアーに代えて、信号光の波長を実質的に散乱しない他の媒体(例えば、水、海水、オイル、真空、樹脂または無機物など)が他方との間に介在するように構成されていてもよい。このように介在する他の媒体によって、信号光伝達部材における信号光の伝達のための光学特性がチューニングされてもよい。
【0138】
また、前述の実施形態2において、光軸方向に二つ以上のAR膜付きレンズ12を並べて配置してもよい。この場合、いずれかのAR膜付きレンズ12を通過する光、または隣り合ういずれか二つのAR膜付きレンズ12間を通過する光がコリメート光になるように、信号光伝達部材の光学特性が好ましくは調整される。
【0139】
〔信号光伝達部材のまとめ〕
本発明の第一の態様に係る信号光伝達部材(10)は、屈折率n1を有し、信号光をコリメートするレンズ(121)と、レンズを収容している収容部(11)と、光透過性を有するとともにn1よりも小さい屈折率n2を有し、収容部に充満している光透過材で構成されてレンズを包埋している光透過部(14)と、信号光が通る光ファイバー(13)であって、収容部に挿入されているとともに収容部内におけるレンズの光軸上にて端部がレンズに対向する位置で光透過部によって固定されている光ファイバーと、レンズと光透過部との界面における少なくとも前記信号光の光路の部分に形成されている反射防止膜(122)と、を有し、光ファイバーのコア材(131)の屈折率をn4としたときに、以下の式(1)を満足する。第一の態様によれば、信号光伝達部材内での信号光の損失がより一層抑制されることから、光通信の信号光の損失を抑制可能な信号光伝達部材を実現することができる。
n4-0.14≦n2≦n4+0.14 (1)
【0140】
本発明の第二の態様に係る信号光伝達部材は、第一の態様において、下記式(2)を満足する。第二の態様は、信号光伝達部材の小型化の観点および信号光伝達部材内での信号光の損失を低減させる観点からより一層効果的である。
n1-n2≧0.19 (2)
【0141】
本発明の第三の態様に係る信号光伝達部材では、第一の態様または第二の態様において、反射防止膜が、少なくとも無機微粒子で構成されている単層膜である。第三の態様は、信号光伝達部材内での信号光の損失を低減させる観点からより一層効果的である。
【0142】
本発明の第四の態様に係る信号光伝達部材では、第三の態様において、反射防止膜の平均屈折率をn3としたときに、下記式(3)を満足する。第四の態様は、信号光伝達部材内での信号光の損失を低減させる観点からより一層効果的である。
【0143】
【0144】
本発明の第五の態様に係る信号光伝達部材では、第三の態様または第四の態様において、反射防止膜がアンチモン粒子、またはアンチモン粒子とシリカ粒子との混合粒子、と、アンチモン粒子または混合粒子を結着するバインダー成分硬化剤と、アンチモン粒子または混合粒子とバインダー成分硬化剤との隙間に充満している光透過材と、によって構成されている。第五の態様は、信号光伝達部材内での信号光の損失を低減させる観点からより一層効果的である。
【0145】
本発明の第六の態様に係る信号光伝達部材では、第三の態様から第五の態様のいずれかにおいて、単層膜からなる反射防止膜は、界面の全面に形成されている。第六の態様は、反射防止膜をより容易に形成可能であり、信号光伝達部材の製造の観点からより一層効果的である。
【0146】
本発明の第七の態様に係る信号光伝達部材では、第一の態様から第六の態様のいずれかにおいて、レンズがボールレンズである。第七の態様は、信号光伝達部材の光軸方向における小型化の観点からより一層効果的である。
【0147】
本発明の第八の態様に係る信号光伝達部材では、第一の態様から第七の態様のいずれかにおいて、収容部は、一端が開口している本体部と、一端を塞ぐ透明窓(カバーガラス15)と、収容部を他の信号光伝達部材の収容部に連結する連結部(凹部413および爪部414)と、を有し、連結部は、透明窓が前記他の信号光伝達部材の透明窓に対向し、かつ平行になるかまたは密着するように、他の信号光伝達部材の収容部に連結する。第八の態様は、光ファイバーを光学的に連結するためのコネクタを構成するのに好適である。
【0148】
本発明の第九の態様に係る信号光伝達部材では、第八の態様において、本体部が、光軸に沿ってみたときに平面方向に配列している複数の凹部(412)を有し、凹部のそれぞれにレンズおよび光透過部が配置され、かつ光ファイバーが接続されている。第八の態様は、複数本の光ファイバーを独立して接続するコネクタを構成するのに好適である。
【0149】
上記態様によれば、信号光の損失がより抑制される光通信網が実現可能であり、信頼性の高い光通信システムへの一助となることが期待される。
【実施例0150】
以下、本発明の実施例として、
図1に示すような構成を有する光通信用のコネクタを前述の通信光伝達部材の具体例として製造した。コネクタを1対として特性評価を行うため、以下の実施例および比較例の各例において、コネクタを2個以上作製した。
【0151】
〔実施例1〕
[レンズの準備]
表1の加工精度にて真球加工した直径2.0mmのボールレンズを準備した。ボールレンズの硝材は、日本電気硝子社製の硝材RH-21(n1530=1.962)である。
【0152】
【0153】
バレル式のスパッタリング装置を用いて、表2に示す組成の第一層、第二層および第三層を基材(レンズ)側からこの順で作製し、多層膜である反射防止膜をボールレンズの全面に形成した。こうして、反射防止膜を全面に有するボールレンズを用意した。
【0154】
【0155】
[光ファイバーおよびカバーガラスの準備]
ITU-TG.652のSCコネクタのパッチケーブルを、その片端を切り落として加工した。こうして光ファイバーを準備した。
【0156】
厚さ1mmのサファイアガラスを用意した。そして、蒸着成膜装置を用いて、サファイアガラスの一方の主面には表3に示す組成の第一層、第二層および第三層を基材(カバーガラス)側からこの順で作製し、もう一方の主面には表4に示す組成の第一層、第二層および第三層を基材(カバーガラス)側からこの順で作製した。こうして、両面に多層蒸着膜を有するカバーガラスを準備した。
【0157】
【0158】
【0159】
[コネクタの作製]
図2~
図5を用いて先に説明したような製造方法と同様に、以下の手順でコネクタ1を作製した。
【0160】
(1)ボールレンズの直径と同じ深さと直径の円筒形状の固定孔を有するアルミ板の当該溝部分にボールレンズを静置した。
(2)光ファイバーの位置を微調整するための薄板ガラスを光ファイバーの下に中ファイバーの向きと垂直となる向きにセットした。
(3)光ファイバーの保護する保護スリーブを残した光ファイバーを、溝部にセットする。
(4)コネクタの前面となる端縁に、前述のように用意したカバーガラスを、表3の組成の多層蒸着膜を空隙部分側、表4の多層蒸着膜を前方に向けて接着した。
(5)ボールレンズを囲む空隙部分、および光ファイバーを固定する溝部に、硬化後の屈折率が1.46となる透明なUV硬化樹脂モノマーを空気が入らないよう注意しながらゆっくり充填した。
(6)ボールレンズを囲む空隙部分、および光ファイバーを固定する溝部を完全に覆う、UV光を透過するガラス板、もしくは樹脂板で蓋をして、樹脂と光ファイバーとレンズを封止した。
(7)コネクタの前方に光ファイバーチェッカーを設置し、光ファイバーに可視光のレーザー光を通過させ、当該レーザー光の出力を目視しながら、前記の空隙部分における光ファイバーの先端部の位置を、ボールレンズの焦点位置になるように調整し、スポットのUV光を保護スリーブ部に照射し固定した。
(8)光ファイバーの位置を微調整するための薄板ガラスの位置を上下左右に微調整することにより、光ファイバーの位置を必要に応じて調整した。
(9)コネクタの上方からカバーを介して空隙部分内のモノマーをUV光で照射し、(6)の工程のカバーによって封入されたモノマーを重合させ、UV硬化樹脂による光透過部を生成した。
【0161】
〔実施例2〕
ボールレンズ界面の反射防止膜の組成が異なる以外は、実施例1と同様にしてコネクタ2を作製した。コネクタ2における反射防止膜は、「反射防止膜を有するレンズの製造方法」で前述した具体例1の方法で作製した。コネクタ2における反射防止膜は、アンチモンゾルからなる単層膜であり、その屈折率は1.49、膜厚は210nmである。コネクタ2において、上記の反射防止膜における平均屈折率がおよそ1.7となり、単層で十分な反射防止能を発現した。これは、空隙にモノマーが含浸し、当該空隙が硬化樹脂に置き換えられたため、と考えられる。
【0162】
〔実施例3〕
[レンズの準備]
Edmund Optics社製、直径2.0mmのSapphire(Al2O3)ボールレンズを用意した。使用したボールレンズの加工精度を表5に示す。
【0163】
【0164】
バレル式のスパッタリング装置を用い、表6に示す組成の第一層、第二層および第三層を基材(レンズ)側からこの順で作製し、多層膜である反射防止膜をボールレンズの全面に形成した。こうして、反射防止膜を全面に有するボールレンズを用意した。
【0165】
【0166】
反射防止膜付きボールレンズが異なる以外は、実施例1と同様にしてコネクタ3を作製した。なお、コネクタ3のサイズは、ボールレンズの焦点距離が異なるため、コネクタ1のサイズと異なっている。
【0167】
〔実施例4〕
ボールレンズ界面の反射防止膜の組成が異なる以外は、実施例3と同様にしてコネクタ4を作製した。コネクタ4における反射防止膜は、「反射防止膜を有するレンズの製造方法」で前述した具体例2の方法で作製した。コネクタ4における反射防止膜は、屈折率1.38のアンチモン/シリカ混合ゾルからなる単層膜であり、その膜厚は210nmである。コネクタ4において、上記の反射防止膜における平均屈折率は、コネクタ2と同様におよそ1.6となり、単層で十分な反射防止能を発現した。
【0168】
〔比較例1〕
実施例1で用意したボールレンズを、反射防止膜を作製せずに用いる以外は実施例1と同様にして、コネクタC1を作製した。
【0169】
〔比較例2〕
実施例3で用意したボールレンズを、反射防止膜を作製せずに用いる以外は実施例3と同様にして、コネクタC2を作製した。
【0170】
〔比較例3〕
実施例1で用意したボールレンズを、反射防止膜を作製せずに用い、さらに空隙部分にモノマーを充填しなかった以外は実施例1と同様にして、コネクタC3を作製した。
【0171】
〔比較例4〕
実施例3で用意したボールレンズを、反射防止膜を作製せずに用い、さらに空隙部分にモノマーを充填しなかった以外は実施例3と同様にして、コネクタC4を作製した。
【0172】
〔評価〕
実施例1~4および比較例1~4で作製した一対のコネクタ1~4およびC1~C4を、基準面を下にして精密ステージにそれぞれ固定し、カバーガラスを向かい合わせ1mm離して配置した。一方のコネクタを出射光側、他方の光コネクタを受光側とした。出射光側のコネクタを横川計測社製OTDR AQ7275に接続した。そして受光側のコネクタをEXFO社製光パワーメータ PPM-352Cに接続した。出射光側のOTDRから、1310nm発光モードで光信号を出力し、受光側のパワーメータで表示される光信号の強度を読み取りながら精密ステージを動かし、光信号の強度が最大となるときの数値を調べた。測定の結果を表7に示す。
【0173】
【0174】
表7の結果から、実施例1~4のコネクタ1~4は、いずれも、比較例1~4のコネクタC1~C4に比べて、光信号強度が大きく、またコネクタ内部における信号光の損失が小さいことが分かる。以上より、本発明によるビーム拡張型光コネクタによる光信号の伝達は、従来のビーム拡張型光コネクタに比べて低損失で可能であることが明らかである。
【0175】
10、10’40、50 信号光伝達部材
11、11’ 収容部
12、12’ AR膜付きレンズ
13、13’ 光ファイバー
14、14’ 光透過部
15、15’ カバーガラス
16 薄板ガラス
16A スリット
31 半導体レーザーモジュール
111、111’ 本体部
111A レンズ保持部
111B、111C、111D 溝
111E、111F カバー
112、112’ 孔
121、121’ レンズ
122、122’ 反射防止膜
131、131’ コア材
132、132’ クラッド材
411 本体部
412、413 凹部
414 爪部
1111 底板
1112~1114 中板
1115、1115’、1116、1116’、1117、1117’ 上板