(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005950
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 5/24 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
H02K5/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106443
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三津橋 直也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 泰行
【テーマコード(参考)】
5H605
【Fターム(参考)】
5H605AA01
5H605AA04
5H605AA05
5H605AA07
5H605CC01
5H605DD01
5H605DD07
5H605GG04
(57)【要約】
【課題】部品点数を増価させることなく回転電機の放射音を低減できる。
【解決手段】回転電機は、ロータと、ロータに所定の離間距離を介して対向する円環状のステータと、ステータが保持されるハウジングと、を備え、ハウジングは、ハウジングの径方向における内面を保持する内壁と、内壁に対して径方向に対向する外壁と、内壁および外壁を接続する接続部と、を備え、内壁、外壁、および接続部により冷媒が流通可能な冷媒流路を形成し、内壁は、ステータと対向しており接続部に対して径方向に少なくとも一部が重なる面とステータとの間に空隙を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、
前記ロータに所定の離間距離を介して対向する円環状のステータと、
前記ステータが保持されるハウジングと、を備え、
前記ハウジングは、
前記ハウジングの径方向における内面を保持する内壁と、
前記内壁に対して前記径方向に対向する外壁と、
前記内壁および前記外壁を接続する接続部と、を備え、
前記内壁、前記外壁、および前記接続部により冷媒が流通可能な冷媒流路を形成し、
前記内壁は、前記ステータと対向しており前記接続部に対して前記径方向に少なくとも一部が重なる面と前記ステータとの間に空隙を有する回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記ハウジングは前記接続部を複数備え、
前記空隙は、前記複数の前記接続部の全てに対して前記径方向に重なる位置に設けられる回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記ステータは、焼き嵌めによって前記ハウジングに保持される回転電機。
【請求項4】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記ステータの外径は、前記接続部と前記径方向に重なる位置の少なくとも一部で、前記内壁の内径より小さい回転電機。
【請求項5】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記内壁は、前記接続部と前記径方向に重なる位置の少なくとも一部で、前記ステータの外径より大きい回転電機。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の回転電機であって、
前記外壁の肉厚が、前記内壁の肉厚より厚い回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転電機の稼働時に発生する放射音の低減が課題となっている。回転電機の放射音の発生源の一つとして、ステータとロータの間の空間に生じる電磁加振力によって発生する、ステータの径方向の円環振動が挙げられる。その中でも特に、ステータが径方向に膨張する固有振動モードである円環0次振動に起因して、放射音が大きくなることが知られている。
【0003】
振動の低減は、一般的に加振力での対策と伝達系での対策の2つが考えられる。モータを対象とする加振力での対策は、電磁加振力を低減させることであるが、モータの主性能への影響を考慮する必要があり対策に限度がある。また伝達系での対策は、円環0次振動の場合には一般的に、肉厚増加やリブによりハウジングを高剛性化し、振動を抑えることが考えられる。
【0004】
ここで、ハウジングにステータを保持する方法について挙げると、たとえば、焼き嵌めにより、ステータ外周面とハウジング内周面を密着させ、保持する方法がある。焼き嵌めにより、ハウジングにステータを保持した場合は、ステータとハウジングが密着しているため、円環0次振動は、ステータとハウジングが一体となって径方向に膨張する振動モードとなる。このような振動モードに対し、肉厚増加やリブによるハウジングの高剛性化で、振動を抑える対策は効果が小さく、目標の性能に到達させるには多くのリブや肉厚が必要になり、多くの重量を要する場合がある。
【0005】
特許文献1には、ハウジングと、前記ハウジング内に収容される回転軸と、前記回転軸が回転することにより流体を圧縮する圧縮部と、前記回転軸と一体的に回転するロータ、及び前記ハウジングに固定されるステータを有するとともに前記圧縮部を駆動させる電動モータと、前記回転軸を前記ハウジングに対して回転可能に支持するベアリングと、を備える電動圧縮機であって、前記ハウジングは、前記電動モータを収容するとともに前記ステータが固定されるインナーハウジングと、前記ベアリングを保持するベアリングプレートと、前記インナーハウジングを収容するアウターハウジングと、前記圧縮部により圧縮された流体が吐出されるとともに前記圧縮部に固定される吐出ハウジングと、を有し、前記圧縮部は、前記インナーハウジングに固定されており、前記アウターハウジングは、前記吐出ハウジングに固定されており、前記インナーハウジングと前記ベアリングプレートとは、ボルトによって固定されており、前記アウターハウジングの内周面と前記インナーハウジングの外周面とが離間していることを特徴とする電動圧縮機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている発明では、部品点数が多く組み立て工数が増加する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様による回転電機は、ロータと、前記ロータに所定の離間距離を介して対向する円環状のステータと、前記ステータが保持されるハウジングと、を備え、前記ハウジングは、前記ハウジングの径方向における内面を保持する内壁と、前記内壁に対して前記径方向に対向する外壁と、前記内壁および前記外壁を接続する接続部と、を備え、前記内壁、前記外壁、および前記接続部により冷媒が流通可能な冷媒流路を形成し、前記内壁は、前記ステータと対向しており前記接続部に対して前記径方向に少なくとも一部が重なる面と前記ステータとの間に空隙を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、部品点数を増価させることなく回転電機の放射音を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】ステータが焼き嵌めされたハウジングの斜視図
【
図5】ハウジングの内壁とステータの外周面との接触面積の割合と、放射音の大きさとの関係を示す図
【
図8】ハウジングの内壁の肉厚と外壁の肉厚の比が、放射音の大きさに与える影響を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
―第1の実施の形態―
以下、
図1~
図7を参照して、回転電機の第1の実施の形態を説明する。
【0012】
図1は、本発明にかかる回転電機100の断面図である。回転電機100は、ステータ1と、ステータ1の内側に配置されるロータ2と、ロータ2と同期して回転するシャフト4と、ステータ1、ロータ2およびシャフト4を収納する円筒形のハウジング3とを備える。シャフト4は図示左右方向に伸びており、ハウジング3はシャフト4を中心とする円筒形である。本実施の形態では
図1の左右方向を軸方向J、
図1の上下方向を径方向Rと呼ぶ。
【0013】
回転電機100の稼働時には、ステータ1とロータ2との間の隙間に電磁加振力が生じる。この電磁加振力により、径方向Rに円環振動が発生し、その振動がハウジング3に伝搬して放射音となる。ステータ1の円環振動の中でも特に、変形する前の形状に対して、ステータ1が径方向Rに膨張する固有振動モードである円環0次振動に起因して放射音が大きくなる。以下では、回転電機100の詳細な構成、特にステータ1の円環0次振動低減に起因した回転電機100の放射音を低減する構成を説明する。
【0014】
非回転体であるステータ1と、回転体であるロータ2との間には回転を阻害しないように所定の隙間が存在しており、後述するように本願発明の課題を解決するためにステータ1とハウジング3の間にも隙間が存在している。以下では、後者であるステータ1とハウジング3との隙間、すなわち空隙について詳しく説明する。前者であるステータ1とロータ2との間の隙間については特に説明しない。両者を区別するために、ステータ1とハウジング3との隙間を「空隙」と呼び、ステータ1とロータ2との間の隙間を「所定の離間距離」と呼ぶ。
【0015】
図2は、ハウジング3の斜視図である。
図2の視点は
図1から約90度変化しており、図示上下方向が軸方向Jである。
図2では、円筒形のハウジング3における中心軸を通り軸方向Jと直交する方向が径方向Rである。さらに
図2では周方向Cを定義する。
【0016】
ハウジング3の内側であって、ステータ1が収容される空間をステータ収容部30と呼ぶ。ハウジング3は、ステータ1の外周面と密着し、ステータ1を保持する内壁31と、内壁31と径方向Rに対向する外壁32とを備える。さらに、ハウジング3は、周方向Cに所定の間隔を持って接続部33が設けられており、ハウジング3の内壁31と外壁32が接続される。ハウジング3には、内壁31、外壁32、および接続部33によって、冷媒流路34が形成される。冷媒流路34は、ハウジング3の軸方向Jに渡って形成されており、冷媒がハウジング3の軸方向終端、たとえば、ギアボックスやインバータケースを循環可能となっている。
【0017】
図3は、ステータ1が焼き嵌めされたハウジング3の斜視図である。
図3では、
図2に示したハウジング3の内周側に、ステータ1が焼き嵌めされている。ステータ1の外径は、ハウジング3の内壁31の内径よりも大きくなっており、ハウジング3にステータ1を焼き嵌めすることにより、内壁31とステータ1の外周面とを密着させ、ステータ1を保持することができる。このとき、ステータ1の外径と、ハウジング3の内壁31の内径との差が、焼き嵌めにおける締め代となる。なお詳しくは後述するが、内壁31は一部のみがステータ1の外周面に密着するものであり、内壁31の全面にわたってステータ1の外周面に密着する構成ではない。
【0018】
ここで、焼き嵌めによりステータ1をハウジング3に保持する方法を説明する。まず、ハウジング3を所定の温度まで加熱する。これにより、ハウジング3が熱膨張し、ステータ収容部30の内径、すなわち内壁31が大きくなる。次に、熱膨張したハウジング3のステータ収容部30に、ステータ1を挿入する。最後に、ハウジング3を冷却することでハウジング3が収縮し、ステータ1の外周面がハウジング3の内壁31に密着するため、ステータ1がハウジング3に保持される。
【0019】
回転電機100は、ステータ1の外周面とハウジング3の内壁31とが密着してステータ1を保持する保持部51と、ステータ1の外周面と内壁31とが接しない空隙部52とを備える。空隙部52はハウジング3の内壁31が接続部33と径方向Rに重なる面に設けられ、保持部51はハウジング3の内壁31が接続部33と径方向Rに重ならない面に設けられる。
【0020】
図4は、空隙部52の構成を説明する概念図である。
図4において、斜線のハッチングで示す領域がハウジング3であり、ドットのハッチングで示す領域がステータ1である。ただし
図4では、作図の都合により本来は曲線となる周方向Cを直線状に示している。
図4の上部が回転電機100の外側であり、
図4の下部にはシャフト4が配される。ハウジング3の厚み方向中央部分は、接続部33または冷媒流路34が配される。保持部51では、ステータ1とハウジング3とが密着し、空隙部52ではステータ1とハウジング3とが接触しない。
【0021】
図4では、空隙部52をステータ1およびハウジング3の両方に跨るように記載しているが、ステータ1またはハウジング3の領域のみに存在してもよい。たとえば、ハウジング3の内壁31のみを凹ませて空隙部52を形成してもよいし、ステータ1の外周部のみを凹ませて空隙部52を形成してもよいし、ハウジング3の内壁31およびステータ1の外周部の両方を凹ませて空隙部52を形成してもよい。
【0022】
ハウジング3の内壁31を凹ませて空隙部52を形成する場合には、内壁31は接続部33と径方向Rに重なる位置の少なくとも一部でステータ1の外径より大きいと言える。ステータ1の外周部を凹ませて空隙部52を形成する場合には、ステータ1の外径は接続部33と径方向Rに重なる位置の少なくとも一部で内壁31の内径より小さいと言える。
【0023】
ハウジング3は、
図3に示したように接続部33を複数備えている。空隙部52は、複数の接続部33のそれぞれに対応するように設けられることが望ましいが、一部の接続部33に対してのみ設けられてもよい。さらに、複数の空隙部52のそれぞれで構成が異なってもよい。たとえば、ある空隙部52はハウジング3の内壁31を凹ませることにより形成され、別の空隙部52はステータ1の外周部を凹ませることにより形成されてもよい。
【0024】
ハウジング3の内壁31と接続部33が径方向Rに重なる面において、ステータ1の外周面と、内壁31の間に空隙部52を設ける効果について説明する。ハウジング3の内壁31とステータ1の外周面との間に空隙部52を設けることにより、ステータ1を起因とする振動の伝搬経路が、ステータ1、ハウジング3の内壁31、接続部33、外壁32の順になり、ハウジング3の内壁31の振動と、外壁32の振動との間に位相差が生じる。両者に位相差があることで外壁32の加振効率が悪くなり、音の放射面である外壁32の振動が低減するため、放射音を低減できる。
【0025】
仮にハウジング3の内壁31とステータ1の外周面が全周に渡って密着している場合は、接続部33においてハウジング3は単層壁とみなせるため、ステータ1の振動が直接に外壁32に伝わり、ステータ1とハウジング3が一体として同位相で振動する。この場合は、本実施の形態の構成に比べて振動が大きく、放射音も大きくなる。
【0026】
図5は、ハウジング3の内壁31とステータ1の外周面との接触面積の割合と、放射音の大きさとの関係を示す図である。
図5の横軸は、ハウジング3の内壁31、またはステータ1の外周面の面積に対する、内壁31とステータ1の外周面の接触面積の割合である。縦軸は、接触面積の割合が100%の場合の放射音の大きさ、すなわち音響パワーを基準とした割合である。
【0027】
ハウジング3の内壁31とステータ1の外周面の接触面積を100%から80%、60%と小さくすると、音響パワーの割合は減少する。しかし、40%の場合が下限であり、さらに小さくした25%の場合には音響パワーの割合は増加している。この現象は次のように説明できる。すなわち、接触面積を減らしたことにより内壁31と外壁32の経路差が大きくなり、内壁31の振動と外壁32の振動の位相差が大きくなる。そして、ハウジング3の内壁31の振動と外壁32の振動の位相差が180°、すなわち逆位相となる場合に、音を放射する外壁32の振動が最小となり、放射音が最小となる。しかし、さらに位相差が大きくなると180度を超えるので振動が増加に転じると考えられる。
【0028】
放射音を小さくするためには、ハウジング3の内壁31と外壁32が逆位相で振動すればよく、内壁31と外壁32の経路差が、ステータ1の円環0次振動による、ハウジング3の曲げ波の波長の半分になっていればよい。つまり、ハウジング3の内壁31における空隙部52の開始位置から、接続部33を通り、外壁32に至るまでの長さが、上記の曲げ波の波長の半分となるように、接続部33を設ける間隔、接続部33の長さ、内壁31とステータ1の外周面の接触面積を設定するとよい。
【0029】
図5では、ハウジング3の内壁31とステータ1の外周面の接触面積が40%程度の時に、内壁31と外壁32の経路差が、ステータ1の円環0次振動によるハウジング3の曲げ波の波長の半分になるため、放射音が最小となっている。その一方で、ハウジング3の内壁31と、ステータ1の外周面の接触面積を小さくすると、ステータ1の振動を抑える力が弱まり、ステータ1の振動が大きくなる傾向にある。これら、ハウジング3の内壁31と外壁32の位相差による振動低減効果と、ステータ1の振動を抑える力との兼ね合いで、内壁31と、ステータ1の外周面の接触面積による放射音低減効果が現れている。
【0030】
図6および
図7は、空隙部52を形成する具体例を示す図である。
図6は、空隙部52を形成するステータ1の構造を示す図である。
図7は、空隙部52を形成するハウジング3の構造を示す図である。
【0031】
図6に示すステータ1は、ハウジング3の内壁31の内径よりも径が大きい保持形成部11と、内壁31の内径よりも径が小さい空隙形成部12を備える。ステータ1をハウジング3に焼き嵌めする際に、ステータ1の空隙形成部12が、ハウジング3の接続部33と径方向Rに重なる面に来るように配置することで、
図4の空隙部52を形成できる。
【0032】
図7に示すハウジング3は、ステータ1の外径よりも径が小さい保持形成部35と、ステータ1の外径よりも径が大きい空隙形成部36とを備える。
図7のハウジング3に、ステータ1を焼き嵌めすることにより、空隙部52を形成できる。上記のように、ステータ1と、ハウジング3のどちらかの形状で、空隙部52を形成してもよいし、ステータ1とハウジング3の両方で、空隙部52を形成してもよい。また、空隙部52の形成方法は上記に限定されず、切り欠きのような形状でもよいし、他の任意の形状を用いることができる。
【0033】
上述した第1の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)回転電機100は、ロータ2と、ロータ2に所定の空隙を介して対向する円環状のステータ1と、ステータ1が保持されるハウジング3と、を備える。ハウジング3は、ハウジング3の径方向Rの内面を保持する内壁31と、内壁31と径方向Rに対向する外壁32と、内壁31および外壁32を接続する接続部33と、を備える。内壁31、外壁32、および接続部33により冷媒が流通可能な冷媒流路34を形成する。内壁31は、ステータ1と対向し接続部33と径方向に少なくとも一部が重なる面とステータ1との間に空隙部52を有する。そのため、ハウジング3の内壁31の振動と外壁32の振動との間に位相差が生じることで外壁32の加振効率が悪くなり、音の放射面である外壁32の振動が低減し、放射音を低減できる。したがって、部品点数を増価させることなく回転電機の放射音を低減できる。
【0034】
(2)空隙部52は、ハウジング3が備える複数の接続部33の術江手に対して計公報に重なる位置に設けられる。そのため、内壁31と外壁32との位相差を確実に生じさせることができる。
【0035】
(3)ステータ1は、焼き嵌めによってハウジング3に保持される。
【0036】
(4)ステータ1の外径は、接続部33と径方向Rに重なる位置の少なくとも一部で、内壁31の内径より小さい。
【0037】
(5)内壁31は、接続部33と径方向Rに重なる位置の少なくとも一部で、ステータ1の外形より大きい。
【0038】
(変形例1)
上述した実施の形態では、内壁31と外壁32の厚みを特定していなかった。しかし以下に示すように内壁31と外壁32の肉厚の比を規定してもよい。なおここではハウジング3の重量は一定とし、ハウジング3の外壁32の肉厚と内壁31の肉厚の大小関係を検討する。
【0039】
まず、ハウジング3の内壁31の肉厚を検討する。内壁31は保持部51においてステータ1の外周面と密着しており、ステータ1と一体として振動する。ハウジング3の材質は一般的にアルミニウムが用いられることが多く、ステータ1に用いられる電磁鋼板と比較してヤング率が3倍程度大きい。そのため、ハウジング3の内壁31の肉厚は、ステータ1と内壁31とが一体となった際に振動に与える影響は小さい。
【0040】
次に、ハウジング3の外壁32の肉厚を検討する。外壁32は、ステータ1や内壁31とは別体として振動する。そのため回転電機100は、ステータ1と内壁31が一体となった振動モードと、外壁32の振動モードの2つの振動モードを有する。換言すると、周波数とエネルギー強度のグラフでは、回転電機100は2つのピークを有する。本変形例では、ステータ1と内壁31が一体となった振動モードのピーク強度をP1、外壁32の振動モードのピーク強度をP2と呼ぶ。
【0041】
この2つのピーク強度は、ハウジング3の外壁32の肉厚が内壁31の肉厚より薄い場合には、外壁32のピークP2が、ステータ1および内壁31のピークP1よりも大きくなる。一方、ハウジング3の外壁32の肉厚を内壁31の肉厚より厚くした場合には、外壁32が高剛性化されて外壁32のピークP2が小さくなり、音を放射する外壁32の振動が小さくなる。そのため、ステータ1と内壁31のピークP1も小さくなり、全体として放射音を低減可能である。そのため、外壁32の肉厚は、内壁31の肉厚より厚くするほうが放射音低減に有利である。
【0042】
図8は、ハウジング3の内壁31の肉厚と外壁32の肉厚の比が、放射音の大きさに与える影響を示す図である。
図8の横軸は周波数、縦軸は放射音、すなわち音響パワーの大きさの割合を示しており、空隙無のハウジング3における音響パワーのピーク値を基準としている。また、
図8の凡例に示したハウジング3の内壁31の肉厚と外壁32の肉厚の比は、(外壁32の肉厚)/(内壁31の肉厚)で示している。すなわち比が1より大きい場合には内壁31よりも外壁32の方が肉厚が厚い。さらに
図8では、内壁31の肉厚と外壁32の肉厚以外の条件、たとえば冷媒流路34の径方向寸法は一定としている。
【0043】
図8において破線で示す比率「0.5」の場合には、符号62の位置に外壁32のピークP2が現れ、符号61の位置にステータ1と内壁31のピークP1が表れている。この場合には、5350[Hz]あたりに空隙無よりも大きなピークがあり、上記で説明したように外壁32の肉厚を薄くすることが好ましくないことがわかる。これに対して、一点鎖線および二点鎖線で示す特性では、空隙無よりもピークが小さくなっている。特に比率「2」の場合、すなわち内壁31に対して外壁32が2倍の厚みを有する場合にはピーク強度が0.5未満なので、空隙無に比べて半分以下となっている。
【0044】
図9は、本変形例におけるハウジング3の形状を示す図である。
図9に示すハウジング3は、内壁31よりも外壁32の方が肉厚が厚い。ハウジング3が
図9に示す形状を有することにより、回転電機100が発する放射音を低減できる。
【0045】
この変形例1によれば、次の作用効果が得られる。
(6)外壁32の肉厚が、内壁31の肉厚より厚い。そのため、回転電機100が発する放射音をさらに低減できる。
【0046】
(変形例2)
上述した実施の形態では、空隙部52は周方向Cにおいて接続部33と同一の幅を有しており、空隙部52と接続部33は径方向Rにおいて全体が重なっていた。しかし空隙部52は周方向Cにおいて接続部33と同一でなくてもよいし、空隙部52と接続部33は径方向Rにおいて少なくとも一部が重複すればよい。
【0047】
図10は、空隙部52のバリエーションを示す図である。
図10では作図の都合により空隙部52と接続部33以外の符号の記載を省略している。
図10(a)に示すように、空隙部52が接続部33と周方向Cにおいて同一の幅を有し、径方向Rにおいて空隙部52の一部が接続部33の一部と重なってもよい。
図10(b)に示すように、空隙部52の周方向Cの幅が接続部33よりも狭く、径方向Rにおいて空隙部52の全部が接続部33の一部と重なってもよい。
図10(c)に示すように、空隙部52の周方向Cの幅が接続部33よりも広く、径方向Rにおいて空隙部52の一部が接続部33の全部と重なってもよい。
【0048】
上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1 :ステータ
2 :ロータ
3 :ハウジング
31 :内壁
32 :外壁
33 :接続部
34 :冷媒流路
51 :保持部
52 :空隙部
100 :回転電機