(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059503
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】芳香族ジアミン、ポリイミド前駆体およびポリイミド、ならびに、それらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 217/90 20060101AFI20240423BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240423BHJP
C07C 213/02 20060101ALI20240423BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
C07C217/90 CSP
C08G73/10
C07C213/02
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167198
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】木下 尚文
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
4J043
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB46
4H006AB84
4H006AC52
4H006BA25
4H006BA55
4H006BE20
4H006BJ50
4H006BP60
4H039CA71
4H039CB40
4J043PA01
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB01
4J043TA22
4J043TA71
4J043UA132
4J043UA171
4J043UA231
4J043UB011
4J043UB141
4J043UB402
4J043VA022
4J043VA031
4J043VA041
4J043VA062
4J043XA16
4J043YA06
4J043ZA12
4J043ZA23
4J043ZA33
4J043ZA35
4J043ZA43
4J043ZA52
4J043ZB11
4J043ZB21
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】溶媒可溶性、高透明性および低誘電率特性を有するポリイミドを提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される芳香族ジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とを重合させることによりポリイミド前駆体を得る。得られるポリイミド前駆体を環化反応させて、ポリイミドを得る。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
で表される芳香族ジアミン。
【請求項2】
下記式(2):
【化2】
で表される芳香族ジニトロ化合物を還元して、請求項1に記載の芳香族ジアミンを得る、芳香族ジアミンの製造方法。
【請求項3】
下記式(3):
【化3】
[式(3)中、Aは、テトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を取り除いた残基を表す。]
で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体。
【請求項4】
請求項1に記載の芳香族ジアミンを含むジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを重合して請求項3に記載のポリイミド前駆体を得る、ポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項5】
下記式(4):
【化4】
[式(4)中、Aは、テトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を取り除いた残基を表す。]
で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
【請求項6】
請求項3に記載のポリイミド前駆体を環化反応させて、請求項5に記載のポリイミドを得る、ポリイミドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ジアミン、ポリイミド前駆体およびポリイミド、ならびに、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、耐熱性、耐薬品性、耐放射線性、電気絶縁性、機械強度などに優れる。このため、ポリイミドは、現在、フレキシブルプリント配線回路用基板、テープオートメーションボンデイング用基材、半導体素子の保護膜、集積回路の層問絶縁膜などの材料として、様々な電子デバイスに広く利用されている。
【0003】
しかし、従来から使用されている汎用ポリイミドは、有機溶媒に難溶であり、透明性が低く、誘電率が高いなど、近年開発されている高機能電子デバイス用途として利用するには不利な特性を有している。
【0004】
従来から使用されている汎用ポリイミドとしては、例えば、下記特許文献1に示されるようなp―フェニレンジアミン(PDA)や4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とを重合して得られるポリイミドなどが知られている。これらの汎用ポリイミドは、有機溶媒に難溶であり、その成形体は黄色に着色するため透明性が低く、また、比誘電率は3.5程度と比較的高い。
【0005】
そこで、上記の特性を改善するために、例えば、ポリイミドが有する芳香族骨格にフッ素置換基を導入すること(下記非特許文献1参照)や、ポリイミドが有する芳香族骨格を脂環族骨格に置き換えること(下記非特許文献2参照)などが検討されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Macromolecules,1991,Vol.24,No.18,p.5001-5005
【非特許文献2】Macromolecules,1999,Vol.32,No.15,p.4933-4939
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ポリイミドの優れた耐熱性や機械強度などの特性を維持しつつ、溶媒可溶性、高透明性および低誘電率特性を有するポリイミドを得ることは容易ではなく、このような特性を有し、近年開発されている高機能電子デバイス等の用途に実用し得るポリイミドは殆ど知られていない。
【0009】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、溶媒可溶性、高透明性および低誘電率特性を有するポリイミドを提供することを目的とする。
更に、本発明は、上記ポリイミドの製造に用いるポリイミド前駆体、および、上記ポリイミド前駆体の製造に用いる芳香族ジアミンを提供することを目的とする。
更に、本発明は、上記芳香族ジアミンを製造する方法、上記ポリイミド前駆体を製造する方法、および、上記ポリイミドを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、以下のようにして得られるポリイミドであれば、上記課題を解決出来ることを新たに見出し、本発明を完成させた。
具体的には、まず下記式(1)で表される芳香族ジアミン(BPF-P-AN)を、下記式(2)で表される芳香族ジニトロ化合物(BPF-P-NB)を還元させることにより得る。そしてBPF-P-ANをカルボン酸二無水物と重合させることにより、下記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体を得て、これを環化反応させて、下記式(4)で表される繰り返し単位を有するポリイミドを得る。このようにして得られるポリイミドは、溶媒可溶性、高透明性および低誘電率特性を有する。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供する。
【0012】
[1]下記式(1):
【化1】
で表される芳香族ジアミン。
【0013】
[2]下記式(2):
【化2】
で表される芳香族ジニトロ化合物を還元して、上記[1]に記載の芳香族ジアミンを得る、芳香族ジアミンの製造方法。
【0014】
[3]下記式(3):
【化3】
[式(3)中、Aは、テトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を取り除いた残基を表す。]
で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体。
なお、本明細書において、酸無水物基とは、カルボン酸2分子が分子内脱水縮合して得られた-CO-O-CO-基を指す。
【0015】
[4]上記[1]に記載の芳香族ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを重合して上記[3]に記載のポリイミド前駆体を得る、ポリイミド前駆体の製造方法。
【0016】
[5]下記式(4):
【化4】
[式(4)中、Aは、テトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を取り除いた残基を表す。]
で表される繰り返し単位を有するポリイミド。
【0017】
[6]上記[3]に記載のポリイミド前駆体を環化反応させて、上記[5]に記載のポリイミドを得る、ポリイミドの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、溶媒可溶性、高透明性および低誘電率特性を有するポリイミドを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1に記載のBPF-P-ANのプロトンNMRスペクトル図である。
【
図2】実施例1に記載のBPF-P-ANの示差走査熱量曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、以下に記載する実施形態は一例であり、本発明は、以下に記載する実施形態に限定されない。
【0021】
[芳香族ジアミン]
本発明の芳香族ジアミン(BPF-P-AN)は、下記式(1)で表される化合物である。
【0022】
【0023】
〈芳香族ジアミンの製造方法〉
本発明の芳香族ジアミン(BPF-P-AN)を製造する方法は、特に限定されないが、下記式(2):
【化6】
で表される芳香族ジニトロ化合物(BPF-P-NB)を還元して、BPF-P-ANを得る方法であることが好ましい。
本発明の芳香族ジアミン(BPF-P-AN)を製造する方法としては、例えば、9,9-ビス(4-(4-ヒドロキシフェノキシ)フェニル)フルオレンおよび4-クロロニトロベンゼンを縮合反応させて芳香族ジニトロ化合物(BPF-P-NB)を得る第一工程と、第一工程から得られた芳香族ジニトロ化合物(BPF-P-NB)を水素やヒドラジン等の還元剤を用いて還元する第二工程とからなる製造方法(A)が挙げられる。
【0024】
次に、芳香族ジアミン(BPF-P-AN)の製造方法(A)について、具体的に説明する。
なお、以下に記載の各化合物の使用量および量比は一例であり、各化合物の使用量および量比は下記に限定されるものではない。
まず、第一工程では、9,9-ビス(4-(4-ヒドロキシフェノキシ)フェニル)フルオレンα(αは任意の数値)molおよび4-クロロニトロベンゼン2×αmolを溶媒(A)に添加し、溶液を得る。この溶液に、2×αmolのアルカリ化合物を加え、攪拌しながら反応温度(A)まで昇温する。反応温度(A)まで到達後、一定時間加熱下で攪拌を行い、熟成を行う。熟成時間は、例えば、5~10時間である。熟成終了後、冷却し、沈殿物を濾別し、BPF-P-NBを含む溶液を得る。当該BPF-P-NBを含む溶液に対して、水を添加し、沈殿物を濾別することでBPF-P-NBの粉末を得る。
次に、第二工程では、上記BPF-P-NBの粉末および水素化触媒としてのパラジウム炭素を溶媒(B)に添加し、スラリーを得て、反応温度(B)まで昇温させる。反応温度(B)は、例えば70℃である。昇温後、前記スラリーに対して、ヒドラジン1水和物4×αmolを滴下し、還元反応を行う。なお、前記還元反応は、反応温度(B)を保持して行う。反応終了後、冷却し、溶媒(C)を加えて目的物であるBPF-P-ANを溶解させ、パラジウム炭素を濾別して反応液を得る。前記反応液から再結晶することでBPF-P-ANを含む粉末を得ることが出来る。また、前記反応液に対して、水を添加し、沈殿物を濾別することによっても、BPF-P-ANを含む粉末を得ることが出来る。BPF-P-ANを含む粉末は、水やアルコール等を用いてリパルプ洗浄した後、真空乾燥する。真空乾燥の際の温度は、50℃以上100℃以下が好ましい。真空乾燥する時間は、10時間以上30時間以下が好ましい。これにより、BPF-P-ANが高純度で得られる。
【0025】
第一工程で用いる溶媒(A)としては、特に限定されず、例えば、トルエン、キシレン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホオキシド、γ-プチロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらのうち、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミドなどが好ましい。
【0026】
第一工程における反応温度(A)は、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。反応温度(A)が上記下限値以上であれば、反応を十分に進行出来る。また、反応温度(A)が上記上限値以下であれば、副反応を抑制することが出来る。
【0027】
第一工程で用いるアルカリ化合物としては、特に限定されず、例えば、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの無機塩基等が挙げられる。これらのうち、炭酸カリウムが好ましい。
【0028】
第二工程で用いる溶媒(B)としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール溶媒や、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ジメチルスルホオキシド、γ-プチロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらのうちメタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール溶媒が好ましい。
【0029】
第二工程で用いる溶媒(C)としては、特に限定されず、溶媒(A)および溶媒(B)として用い得る上記溶媒と同様の溶媒が挙げられる。これらのうちN,N-ジメチルホルムアミドが好ましい。
【0030】
[ポリイミド前駆体]
本発明のポリイミド前駆体は、下記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体である。
【0031】
【0032】
上記式(3)中、Aは、テトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を取り除いた残基を表す。
テトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を取り除いた残基は、特に限定されないが、例えば、芳香族カルボン酸二無水物、脂環族カルボン酸二無水物、および鎖状脂肪族カルボン酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を取り除いた残基であることが好ましい。芳香族カルボン酸二無水物、脂環族カルボン酸二無水物、および鎖状脂肪族カルボン酸二無水物としては、例えば後述するものが挙げられる。
【0033】
〈ポリイミド前駆体の製造方法〉
本発明のポリイミド前駆体を製造する方法は、特に限定されず、公知のポリイミド前駆体の製造方法であり得るが、例えば、本発明の芳香族ジアミン(BPF-P-AN)を含むジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを重合させることにより、本発明のポリイミド前駆体を得る製造方法(B)であることが好ましい。
【0034】
以下、上記製造方法(B)について述べる。
まず、本発明の芳香族ジアミン(BPF-P-AN)を含むジアミンβ(βは任意の数値)molを重合溶媒に溶解し、これにβmolのテトラカルボン酸二無水物の粉末を徐々に漆加し、メカニカルスターラー等を用いて撹拌し、重合を行う。これにより、本発明のポリイミド前駆体を含有する溶液が得られる。撹拌の際の温度は、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、100℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。撹拌時間は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、100時間以下が好ましく、50時間以下がより好ましい。
ポリイミド前駆体の重合度が高くなり、このようなポリイミド前駆体を用いることで可撓性を示すポリイミドが得られるという理由から、重合溶媒中のモノマー(芳香族ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物)の合計濃度は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。
【0035】
カルボン酸二無水物としては、ポリイミド前駆体の重合反応性、ポリイミド前駆体から得られるポリイミドの要求特性を著しく損なわない範囲であれば、特に限定されない。
カルボン酸二無水物としては、例えば、芳香族カルボン酸二無水物、脂環族カルボン酸二無水物、および鎖状脂肪族カルボン酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種のカルボン酸二無水物であることが好ましい。これらのうち、芳香族カルボン酸二無水物がより好ましい。
【0036】
芳香族カルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,2’,3,3’‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’‐ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6‐ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6‐ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10‐ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’‐スルホニルジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物等が挙げられる。これらを2種以上併用してもよい。
中でも、芳香族カルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が好ましい。
【0037】
脂環族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタ-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらを2種以上併用してもよい。
【0038】
鎖状脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、meso-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらを2種以上併用してもよい。
【0039】
重合溶媒は、モノマーである芳香族ジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物を溶解できればよく、その種類は特に限定されないが、プロトン性溶媒が好ましい。
具体的には、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトンなどの環状エステル溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート溶媒;トリエチレングリコールなどのグリコール系溶媒;m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノールなどのフェノール系溶媒;アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシド等が好適な例として挙げられる。
更に、その他の一般的な有機溶剤、具体的には、例えば、フェノール、o-クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2-メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソプチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。
【0040】
製造方法(B)においては、ジアミンは、本発明の芳香族ジアミン(BPF-P-AN)を含み、任意に他のジアミンを含んでいてもよい。
他のジアミンとしては、ポリイミド前駆体の重合反応性、ポリイミド前駆体から得られるポリイミドの要求特性を著しく損なわない範囲であれば、特に限定されない。具体的には、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、p-フェニレンジアミン(PDA)などが挙げられる。
【0041】
可撓性を示すポリイミドが得られるという理由から、本発明のポリイミド前駆体の固有粘度は、0.1dL/g以上が好ましく、0.5dL/g以上がより好ましい。
一方、得られるポリイミドの有機溶媒に対する溶解性が良好になるという理由から、本発明のポリイミド前駆体の固有粘度は、8.0dL/g以下が好ましく、5.0dL/g以下がより好ましい。
【0042】
製造方法(B)において得られる本発明のポリイミド前駆体を含有する溶液は、必要に応じて、重合溶媒等を更に添加することで希釈して、後述するポリイミドの製造方法において用い得る。
また、ポリイミド前駆体を含有する溶液(以下、「ポリイミド前駆体溶液」ともいう)を、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下し、その後、濾過および乾燥することにより、粉末状態のポリイミド前駆体を得ることもできる。
【0043】
[ポリイミド]
本発明のポリイミドは、下記式(4)で表される繰り返し単位を有するポリイミドである。
【0044】
【0045】
上記式(4)中、Aは、テトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を取り除いた残基を表す。
テトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を取り除いた残基は、特に限定されないが、例えば、芳香族カルボン酸二無水物、脂環族カルボン酸二無水物、および鎖状脂肪族カルボン酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種のテトラカルボン酸二無水物から2つの酸無水物基を取り除いた残基であることが好ましい。芳香族カルボン酸二無水物、脂環族カルボン酸二無水物、および鎖状脂肪族カルボン酸二無水物としては、例えば前述したものが挙げられる。
【0046】
〈ポリイミドの製造方法〉
本発明のポリイミドを製造する方法は、特に限定されず、本発明のポリイミド前駆体を環化反応(イミド化反応)させる方法であることが好ましい。ポリイミド前駆体を環化反応させる方法は、公知の方法であってよい。環化反応は、本発明のポリイミド前駆体の態様が、フィルム、塗膜、粉末、成形体および溶液のいずれであっても実施できる。
【0047】
まず、ポリイミドの膜(以下、「ポリイミド膜」ともいう)を製造する方法について述べる。
ポリイミド前駆体溶液を、ガラス、鋼、アルミニウム、シリコン等からなる基板上に塗布し、オーブン中で加熱乾燥する。加熱乾燥の際の温度は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、210℃以下が好ましく、205℃以下がより好ましい。
こうして、ポリイミド前駆体の膜(以下、「ポリイミド前駆体膜」ともいう。)を得る。
上記で得られるポリイミド前駆体膜を、基板上で加熱乾燥する。これにより、ポリイミド前駆体の環化反応が生じて、基板上でポリイミド膜が得られる。
環化反応を充分に進行させる観点から、加熱乾燥の際の温度は、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。
一方、得られるポリイミド膜が着色することやポリイミド膜の一部が熱分解することを抑制する観点から、加熱乾燥の際の温度は、430℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。
環化反応を行う際の加熱乾燥は、得られるポリイミド膜が着色することやポリイミド膜の一部が熱分解することを抑制する観点から、真空中または窒素等の不活性ガス中で行なうことが好ましいが、加熱乾燥温度が350℃以下であるならば、空気中で行なってもよい。
【0048】
ポリイミド前駆体を環化反応させる方法は、ポリイミド前駆体膜を加熱する方法以外の方法によって行なうこともできる。例えば、少なくともピリジンやトリエチルアミン等の3級アミンおよび無水酢酸などの脱水剤を含有する溶液に、ポリイミド前駆体膜を浸漬することによって行なうこともできる。
【0049】
また、ポリイミド前駆体溶液をそのまま、または、上述した重合溶媒を用いて適度に希釈した後、150~200℃に加熱することにより、ポリイミドを含有する溶液(以下、「ポリイミド溶液」ともいう)を得られる。このとき、環化反応の副生成物である水等を共沸留去するために、ポリイミド前駆体溶液にトルエンやキシレン等を添加してもよい。また、触媒としてγ-ピコリン等の塩基をポリイミド前駆体溶液に添加してもよい。
【0050】
ポリイミド溶液を、大量の水やメタノール等の貧溶媒中に滴下した後、濾過および乾燥することにより、粉末状態のポリイミドを得ることもできる。
粉末状態のポリイミドを、上述した重合溶媒に再溶解して、ポリイミド溶液を得ることもできる。
ポリイミド溶液を基板上に塗布し、加熱乾燥することによってもポリイミド膜を形成できる。得られるポリイミド膜が着色することやポリイミド膜の一部が熱分解することを抑制する観点から、加熱乾燥する際の温度は、40℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、400℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。また、ポリイミド溶液を基板上で加熱乾燥する際は、得られるポリイミド膜が着色することやポリイミド膜の一部が熱分解することを抑制する観点から、真空中または窒素等の不活性ガス中で行なうことが好ましいが、加熱乾燥温度が350℃以下であるならば、空気中で行なってもよい。
また、粉末状態のポリイミドを加熱圧縮することにより、ポリイミド成形体を製造できる。加熱圧縮の際の温度は、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましく、450℃以下が好ましく、430℃以下がより好ましい。
【0051】
本発明のポリイミドの製造方法において、ポリイミド前駆体を環化反応させる方法は、以下で示すような、ポリイミド前駆体をポリイソイミド化させてから環化させる方法であってもよい。ポリイミド前駆体溶液に、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミドやトリフルオロ無水酢酸などの脱水剤を添加し、攪拌して、反応させる。反応温度は、0℃以上が好ましく、100℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましい。これにより、ポリイミドの異性体であるポリイソイミドが生成し、ポリイソイミドの溶液(以下、「ポリイソイミド溶液」ともいう)が得られる。ポリイミド前駆体からポリイソイミドが得られる反応を、ポリイソイミド化ともいう。
ポリイソイミド溶液を、基板上に塗布し、加熱乾燥することで、ポリイソイミドの膜(以下、「ポリイソイミド膜」ともいう)を得ることが出来る。加熱乾燥の際の温度は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
また、脱水剤を含有する溶液中にポリイミド前駆体膜を浸漬することによって、ポリイソイミド化を生じさせて、ポリイソイミド膜を得ることも出来る。
ポリイソイミド膜を、加熱乾燥することにより、ポリイミド膜に変換できる。加熱乾燥の際の温度は、250℃以上が好ましく、270℃以上がより好ましく、450℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。
【0052】
上述したポリイミド溶液およびポリイミド前駆体溶液には、必要に応じて、酸化安定剤、フィラー、シランカップリング剤、感光剤、光重合開始剤、増感剤など添加物を加えることができる。
【実施例0053】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されない。
なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
【0054】
〈物性測定〉
以下の例において得られた芳香族ジアミンおよびポリイミド膜の物性測定は、次の方法により実施した。
【0055】
《プロトンNMRスペクトル》
芳香族ジアミンの分子構造を確認するために、卓上型NMR(Magritek社製、spinsolve 80 Carbon)を用いて、ジメチルスルホキシド-d6中でプロトンNMRスペクトルを測定した。
【0056】
《示差走査熱量分析(融点および融解曲線)》
芳香族ジアミンの融点および融解曲線は、示差走査熱量分析装置(島津製作所社製、DSC-60)を用いて、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。
【0057】
《全光透過率》
濁度計(日本電色工業製、HAZE METER NDH 5000)を用いて、ポリイミド膜の全光透過率を測定した。
【0058】
《弾性率、破断強度および破断伸び率》
引張試験機(島津製作所社製、オートグラフAGS-J)を用いて、ポリイミド膜の試験片(10mm×70mm)について、引張試験(延伸速度:102mm/分)を実施した。応力-歪曲線の初期の勾配から弾性率[GPa]を、膜が破断した時の荷重から破断強度[MPa]を、その時の伸び量から破断伸び率[%]を求めた。
【0059】
《ガラス転移温度:Tg》
動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製、DMAQ800)を用いて、動的粘弾性測定を実施して、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失ピークから、ポリイミド膜のガラス転移温度を求めた。
【0060】
《5%質量減少温度:Td5》
熱重量分析装置(島津製作所製、DTG-60)を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミド膜の初期質量が5%減少したときの温度(5%質量減少温度:Td5)を測定した。5%質量減少温度が高いほど、ポリイミド膜の熱安定性が高いことを表す。
【0061】
《線熱膨張係数:CTE》
熱機械分析装置(島津製作所製、TMA60)を用いて、熱機械分析を実施して、荷重1.6g/膜厚1μm、昇温速度10℃/分における試験片の伸びから、50~150℃の範囲での平均値として、ポリイミド膜の線熱膨張係数を求めた。
【0062】
《比誘電率および誘電正接》
マイクロ波信号発生器(Hittite Microwave Corporation社製、HMC-T2220)を用いて、空洞共振器法により、ポリイミド膜の1GHzおよび10GHzにおける乾燥条件下での比誘電率および誘電正接を25℃で測定した。
【0063】
《溶媒可溶性》
ポリイミド膜10質量部に対してN,N-ジメチルアセトアミド90質量部を25℃で加えて、ポリイミド膜が完溶した場合には、ポリイミド膜は溶媒可溶性が有る(+)と判定し、ポリイミド膜が完溶しなかった場合には、ポリイミド膜は溶媒可溶性が無い(-)と判定した。
【0064】
〈実施例1〉
《芳香族ジアミンの製造》
ナスフラスコに、9,9-ビス(4-(4-ヒドロキシフェノキシ)フェニル)フルオレン50mmol、4-クロロニトロベンゼン100mmol、および溶媒としてのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)150mLを加えてDMF溶液を得た。得られたDMF溶液に炭酸カリウム100mmolを加え、攪拌しながら150℃に昇温した。150℃まで到達後、6時間加熱下で攪拌を行い、熟成を行った。熟成終了後、冷却し、沈殿物を濾別し、反応によって得られたBPF-P-NBを含むDMF溶液を得た。得られたBPF-P-NBを含むDMF溶液に対して、水300mLを添加し、沈殿物を濾別することでBPF-P-NBの粉末を得た。
次に、得られたBPF-P-NBの粉末、2-プロパノール150mL、および5%パラジウム炭素3gをナスフラスコに加えることでスラリーを得た後、70℃まで昇温させた。前記スラリーに対して、ヒドラジン1水和物200mmolを滴下し、還元反応を行った。なお、前記還元反応は、70℃を保持して行った。反応終了後、冷却し、DMF150mLを加えて目的物であるBPF-P-ANを溶解させた後、パラジウム炭素を濾別して反応液を得た。得られた反応液に対して、水300mLを添加し、沈殿物を濾別することでBPF-P-ANを含む粉末を得た。得られたBPF-P-ANを含む粉末を十分に水で洗浄し、100℃で24時間真空乾燥することでBPF-P-ANを82.9mol%の収率で得た。なお、得られたBPF-P-ANに対して、更にメタノールによるリパルプ洗浄を繰り返すことで、より高純度のBPF-P-ANを得ることができる。
得られたBPF-P-ANのプロトンNMRスペクトル、示差走査熱量曲線(融解曲線)を
図1および
図2にそれぞれ示した。
【0065】
《ポリイミド前駆体の製造》
よく乾燥した攪拌機付き密閉反応容器の中で、モノマーとしてのBPF-P-AN10mmolを、重合溶媒としてのN,N-ジメチルアセトアミドに溶解し、溶液を得た。得られた溶液に、モノマーとしての3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)10.0mmolを徐々に加え、メカニカルスターラーを用いて、25℃で22時間攪拌しながら重合反応を行なった。重合反応の際、重合溶媒(N,N-ジメチルアセトアミド)中のモノマー(BPF-P-ANおよびBPDA)の合計濃度は、20~30質量%とした。重合反応を行った後に、透明で粘稠なポリイミド前駆体溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体溶液をガラス基板に塗布して、100℃で30分、150℃で30分、および200℃で30分の条件での加熱乾燥を順次行い、ポリイミド前駆体膜を得た。得られたポリイミド前駆体膜は可撓性を示し、180°折り曲げ試験(完全に二つ折りにする簡易的試験)において目視できる破断が観察されなかった。これは、得られたポリイミド前駆体の重合度が充分に高いことを示している。
【0066】
《ポリイミド膜の製造》
得られたポリイミド前駆体膜を、ガラス基板上で、200℃で10分、250℃で30分、および350℃で30分の条件での加熱乾燥を順次行い、環化反応を行なった。こうして、膜厚50μm程度の可撓性のあるポリイミド膜を得た。得られたポリイミド膜は、可撓性を示し、180°折り曲げ試験において目視できる破断が観察されなかった。
【0067】
得られたポリイミド膜の物性は、以下のとおりであった。
弾性率は1.9GPa、破断強度は89MPa、破断伸び率は20%であった。
ガラス転移温度(Tg)は280℃であり、高い耐熱性を示した。
5%質量減少温度(Td
5)は565℃であり、高い熱安定性を示した。
線熱膨張係数(CTE)は44ppm/Kであった。
比誘電率および誘電正接は、1GHzで比誘電率3.17、誘電正接0.0034、10GHzで比誘電率3.09、誘電正接0.0045であった。
N,N-ジメチルアセトアミド90質量部に対してポリイミド膜10質量部を25℃で完溶させることができ、ポリイミド膜には溶媒可溶性が有る(+)と判定した。
上記評価結果は表1にも示すとおりである。
【0068】
〈比較例1〉
BPF-P-ANを用いずに、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミド膜を作製、評価を行った。評価結果は表1に示すとおりである。得られたポリイミド膜は、可撓性を示し、180°折り曲げ試験において目視できる破断が観察されなかった。
【0069】
【0070】
〈評価結果まとめ〉
実施例1の機械特性および熱特性は、比較例1よりも低いものもあったが、種々の産業分野で実用し得るレベルである。
また、実施例1のポリイミド膜は、溶媒可溶性、比較例1より高い透明性および低い誘電率を有している。
本発明のポリイミドは、例えば、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレー用基板や高周波回路用基板などに用いる材料として好適であり、種々の産業分野で利用できる。
また、本発明のポリイミドは、例えば、各種電子デバイスにおける電気絶縁膜、フレキシブルプリント配線基板、液晶ディスプレー用基板、電子ペーパー用基板、太陽電池用基板、感光材料などにおいて、好適に使用できる。