(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059537
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】無機フィラー分散液、超疎水性絶縁耐摩耗塗料及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20240423BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20240423BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20240423BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240423BHJP
【FI】
C09D17/00
C09C3/08
C09D183/04
C09D7/61
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000595
(22)【出願日】2023-01-05
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】202211269719.6
(32)【優先日】2022-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】523006170
【氏名又は名称】天津大呂電力科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】TIANJIN DALV ELECTRIC POWER TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】8A03-04, Building A, Baoneng Chuangye Center, 157 Guangrong Road, Hongqiao District, Tianjin 300000, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】楊雲涛
(72)【発明者】
【氏名】王濱
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA11
4J037AA22
4J037AA27
4J037CB23
4J037CC06
4J037CC25
4J037CC26
4J037CC28
4J037DD05
4J037DD23
4J037FF11
4J037FF18
4J038DL031
4J038GA03
4J038HA266
4J038HA376
4J038HA446
4J038KA03
4J038KA06
4J038NA11
4J038NA21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】絶縁性及び耐摩耗性を有する塗料を得るための無機フィラー分散液、該塗料およびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】無機フィラー分散液はまず、ナノ及びサブミクロン無機フィラーの混合物を疎水性シランカップリング剤で一次改質し、次に一次改質されたマイクロナノ無機フィラーと疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤及び触媒とを有機溶媒内で反応させ、二次改質された無機フィラー分散液を得る。当該二次改質された無機フィラー分散液とヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン等の成分とを研磨した後に塗料前スラリーを得て、補強成分として潜在性硬化剤等の成分及び溶媒と均一に混合し、単一成分の超疎水性絶縁耐摩耗塗料を得る。当該二次改質された無機フィラー分散液で製造された塗料は優れた超疎水性、絶縁性及び耐摩耗性を有し、研磨後も優れた超疎水性を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラー分散液であって、ナノ無機フィラーとサブミクロン無機フィラーとの混合物であるマイクロナノ無機フィラーを含み、
ここで、前記ナノ無機フィラーはシリカ、二酸化チタン、酸化亜鉛、珪藻土及びアタパルジャイトのうちの少なくとも1つを含み、前記ナノ無機フィラーの粒径は5nm~50nmであり、前記サブミクロン無機フィラーはシリカ、二酸化チタン、酸化亜鉛、珪藻土及びアタパルジャイトのうちの少なくとも1つを含み、前記サブミクロン無機フィラーの粒径は100nm~500nmであり、前記マイクロナノ無機フィラーにおいて、前記ナノ無機フィラーの質量百分率は25%~50%であり、前記サブミクロン無機フィラーの質量百分率は50%~75%であり、
前記マイクロナノ無機フィラーを疎水性シランカップリング剤で順に一次改質し、及び有機溶媒において疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤で二次改質して、無機フィラー分散液を形成し、
ここで、前記疎水性シランカップリング剤はイソオクチルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのうちの少なくとも1つとトリデカフルオロオクチルトリエトキシシランとの組み合わせであり、前記有機溶媒は高沸点溶媒及び低沸点溶媒の混合溶媒であり、前記高沸点溶媒の沸点は120℃~250℃であり、前記低沸点溶媒の沸点は70℃~110℃であり、前記疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤はヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシ末端ポリブタジエンポリウレタン又はヒドロキシ末端ポリプロピレングリコールである、ことを特徴とする無機フィラー分散液。
【請求項2】
前記疎水性シランカップリング剤の添加量は前記マイクロナノ無機フィラーの質量合計の0.5%~3.0%であり、
前記疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤の添加量は前記一次改質されたマイクロナノ無機フィラーの質量合計の5%~20%である、ことを特徴とする請求項1に記載の無機フィラー分散液。
【請求項3】
無機フィラー分散液の製造方法であって、前記製造方法は請求項1~2のいずれか一項に記載の無機フィラー分散液を製造するために用いられ、
前記マイクロナノ無機フィラーをエタノール内に分散し、アンモニア水を加えて体系pHを8~10に調整し、さらに前記疎水性シランカップリング剤を加え、60℃~70℃で2.5~3.5時間撹拌し、固液分離し、得られた固体を乾燥して、一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを得るステップS1と、
前記一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを前記有機溶媒内に分散し、前記疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤及び触媒を加え、115℃~125℃で2.5~3.5時間撹拌して、二次改質された無機フィラー分散液を得るステップS2と、を含み、
ここで、前記触媒はジブチルスズジラウレート、2-エチルヘキサン酸第一スズ又はジブチル錫ジアセテートのうちのいずれか1つである、ことを特徴とする無機フィラー分散液の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒の添加量は前記一次改質されたマイクロナノ無機フィラーの質量合計の5~7倍である、ことを特徴とする請求項3に記載の無機フィラー分散液の製造方法。
【請求項5】
超疎水性絶縁耐摩耗塗料であって、質量配合比で、
固形分が10%~20%である、350~360部の請求項1~2のいずれか一項に記載の無機フィラー分散液、
55~70部のヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、
45~60部の炭酸カルシウム、
15~35部の硫酸バリウム、
10~15部の気相シリカ、
0.4~0.7部の消泡剤、
1.5~2.5部の分散剤、
40~50部の潜在性硬化剤、
0.8~1.5部の基材湿潤剤、
2~3部の付着力促進剤、及び
10~15部の溶媒を含む、ことを特徴とする超疎水性絶縁耐摩耗塗料。
【請求項6】
超疎水性絶縁耐摩耗塗料の製造方法であって、前記製造方法は請求項5に記載の超疎水性絶縁耐摩耗塗料を製造するために用いられ、
設計量の前記ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、前記炭酸カルシウム、前記硫酸バリウム、前記気相シリカ、前記消泡剤及び前記分散剤を秤量して前記無機フィラー分散液内に加え、撹拌して均一に分散させ、研磨し、塗料前スラリーを得るステップS1と、
前記潜在性硬化剤、前記基材湿潤剤、前記付着力促進剤、前記溶媒を前記塗料前スラリー内に加え、撹拌して均一に分散させ、超疎水性絶縁耐摩耗塗料を得るステップS2と、を含む、ことを特徴とする超疎水性絶縁耐摩耗塗料の製造方法。
【請求項7】
S1内の前記塗料前スラリーの平均粒径は25ミクロン以下であり、
S2内の前記潜在性硬化剤はビニルトリス(メチルエチルケトキシミノ)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン又はフェニルトリス(メチルエチルケトキシミオ)シランである、ことを特徴とする請求項6に記載の超疎水性絶縁耐摩耗塗料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機フィラー及び超疎水性絶縁耐摩耗塗料の技術分野に関し、具体的には無機フィラー分散液、超疎水性絶縁耐摩耗塗料及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特別高圧、高圧送電線路の建設はグリッドの発展、エネルギー輸送及び経済発展等の面で重要な意義を持ち、送電変電設備の正常運転はさらに電力システムの安全安定を維持する重要な前提である。しかし、送電変電設備は長期にわたって複雑で変化が多い自然環境に暴露し、各種の安全事故を頻発させる。例えば、工業汚物、大気塵埃、鳥類糞等の汚染物は碍子表面に付着して汚染フラッシュ事故を引き起こしやすく、凍雨が送電線路、鉄塔表面に凝固すると送電線路の断線、鉄塔の倒壊等の問題を引き起こしやすい。
【0003】
以上の問題を解決するために、そのうち非常に効果的な方法の1つは送電変電設備表面の疎水性を向上させ、送電変電設備が外部汚染物の影響を受けにくいようにすることである。例えば、送電変電設備の表面を超疎水表面に形成させる。超疎水表面とは、水接触角が150°より大きく、ロール角が10°より小さい表面を意味する。水滴が超疎水表面にある時に迅速に転がり滑り落ちることができ、同時に超疎水表面の各種汚染物を洗い流して溶出することができ、超疎水表面の清浄度を向上させる。凍雨、氷等の物質も超疎水表面に安定的に付着しにくく、それは重力作用で超疎水表面から極めて滑り落ちやすい。
【0004】
送電変電設備にとって、その表面に超疎水表面を形成するだけでなく、その材料の絶縁性及び耐摩耗性や耐食性に優れることが要求される。従来市販の疎水性材料は、送電変電設備の要求を満たすことが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これに鑑みて、本発明の実施例の目的は無機フィラー分散液、超疎水性絶縁耐摩耗塗料及び製造方法を提供することであり、サブミクロン無機フィラーとナノ無機フィラーの混合物を二次改質して無機フィラー分散液を得て、この無機フィラー分散液を補強成分として塗料に加え、得られた塗料は優れた超疎水性、絶縁性及び耐摩耗性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記発明の目的を達成するために、本発明の実施例の第1の態様により提供される無機フィラー分散液は、ナノ無機フィラーとサブミクロン無機フィラーとを混合してなるマイクロナノ無機フィラーを含み、前記ナノ無機フィラーはシリカ、二酸化チタン、酸化亜鉛、珪藻土及びアタパルジャイトのうちの少なくとも1つを含み、前記サブミクロン無機フィラーはシリカ、二酸化チタン、酸化亜鉛、珪藻土及びアタパルジャイトのうちの少なくとも1つを含み、ここで、前記マイクロナノ無機フィラーを疎水性シランカップリング剤で順に一次改質し、及び有機溶媒において疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤で二次改質して、無機フィラー分散液を形成し、前記有機溶媒は高沸点溶媒及び低沸点溶媒の混合溶媒であり、そのうち、前記高沸点溶媒の沸点は120℃~250℃であり、前記低沸点溶媒の沸点は70℃~110℃である。
【0007】
無機フィラーに対して疎水改質を行う方法は従来の技術に既に報告されているが、実験検証により、一方では、改質後の無機フィラーは全ての塗料体系に適用するものではなく、異なる塗料体系において生成可能な疎水効果は同じではなく、例えば、樹脂体系に適用し且つ塗膜に疎水性を備えさせることができる改質無機フィラーはシリコーン塗料体系に適用する場合、疎水性能が低下する場合があり、他方では、改質疎水フィラーを含有する塗料は、実際には良好な超疎水性と耐摩耗性とを両立させることができない。
【0008】
本発明は、疎水性シランカップリング剤及び疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤を利用してマイクロナノ無機フィラーを改質し、疎水性シランカップリング剤はマイクロナノ無機フィラーに低表面エネルギーを付与し、それが自己凝集を発生する確率を低下させることができ、また、それと塗料体系との非相溶性を向上させ、製造された無機フィラー分散液内の二次改質された無機フィラー分散液を塗膜体相と界面に濃化させ、さらに塗膜表面に超疎水マイクロナノ構造を形成させることができる。疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤を利用して一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを二次改質し、一方では、得られた二次改質された無機フィラー分散液の疎水性を向上させることができ、他方では、疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤はさらに、その後の超疎水塗料の製造に用いられる潜在性硬化剤と反応することができ、それにより、二次改質された無機フィラー分散液を硬化反応に関与させることで、塗膜表面に効率よく担持され、安定した超疎水性耐摩耗マイクロナノ塗膜を形成することができる。
【0009】
第1の態様と結び付けて、前記疎水性シランカップリング剤はイソオクチルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのうちの少なくとも1つとトリデカフルオロオクチルトリエトキシシランとの組み合わせである。ここで疎水性シランカップリング剤は、弱アルカリ性(例えばpH8~10)、60℃~70℃の環境において、マイクロナノ無機フィラーの表面を修飾するために用いられてもよい。前記疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤はヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシ末端ポリブタジエンポリウレタン又はヒドロキシ末端ポリプロピレングリコールである。
【0010】
第1の態様と結び付けて、前記疎水性シランカップリング剤の添加量は前記マイクロナノ無機フィラーの質量合計の0.5%~3.0%であり、前記疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤の添加量は前記一次改質されたマイクロナノ無機フィラーの質量合計の5%~20%であり、前記疎水性シランカップリング剤及び前記疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤の添加量はさらに改質効果に応じて調整されてもよい。
【0011】
第1の態様と結び付けて、前記ナノ無機フィラーの粒径は5nm~50nmであり、前記サブミクロン無機フィラーの粒径は100nm~500nmであり、前記マイクロナノ無機フィラーにおいて、前記ナノ無機フィラーの質量百分率は25%~50%であり、前記サブミクロン無機フィラーの質量百分率は50%~75%である。異なる粒径のサブミクロン無機フィラーとナノ無機フィラーとの組み合わせはワニス被膜表面にマイクロナノ構造を有する超疎水表面を形成することに有利であり、さらに塗膜に超疎水性能を付与する。
【0012】
本発明の実施例の第2の態様により提供される上記無機フィラー分散液の製造方法は、
前記マイクロナノ無機フィラーをエタノール内に分散し、アンモニア水を加えて体系pHを8~10に調整し、さらに前記疎水性シランカップリング剤を加え、60℃~70℃で2.5~3.5時間撹拌し、固液分離し、得られた固体を乾燥して、一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを得るステップS1と、
前記一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを前記有機溶媒内に分散し、前記疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤及び触媒を加え、115℃~125℃で2.5~3.5時間撹拌して、二次改質された無機フィラー分散液を得、ここで、前記触媒はジブチルスズジラウレート、2-エチルヘキサン酸第一スズ、ジブチル錫ジアセテートのうちのいずれか1つであるステップS2と、を含む。
【0013】
当該無機フィラー分散液は二次改質された三重修飾を経た無機フィラー分散液であり、良好な超疎水性及び絶縁性を有する。当該無機フィラー分散液を補強成分としてシリコーン樹脂、他の顔料フィラー、塗料助剤及び有機溶媒と共に用いて塗料の通常の製造方法により製造することによって、単一成分の超疎水性絶縁耐摩耗塗料を得ることができる。本発明の実施例の製造方法が簡単で、マイクロナノ無機フィラーを十分に改質することができる。
【0014】
本発明の第2の態様と結び付けて、前記有機溶媒の添加量について具体的に限定せず、前記一次改質されたマイクロナノ無機フィラーが有機溶媒内に十分に溶解されることができることを確保すればよい。好ましくは、前記有機溶媒の添加量は前記一次改質されたマイクロナノ無機フィラーの質量合計の5~7倍である。
【0015】
高沸点有機溶媒と低沸点有機溶媒の組合せを選択して無機フィラー分散液溶媒体系を構成し、後続の塗料製造プロセスにおいて、低沸点有機溶媒の揮発速度が速く、塗膜体相における二次改質された無機フィラー分散液が塗膜表面に移行することに有利であるが、高沸点有機溶媒の揮発速度が遅く、塗料の成膜速度を遅くすることに有利であり、二次改質された無機フィラー分散液が塗膜表面に移行する時間を延長し、さらに塗膜表面に大量の二次改質された無機フィラー分散液を含有させ、塗膜の超疎水性能を向上させる。
【0016】
第3の態様では、本発明の実施例により提供される超疎水性絶縁耐摩耗塗料は、質量配合比で、
固形分が10%~20%である、350~360部の上記無機フィラー分散液、
55~70部のヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、
45~60部の炭酸カルシウム、
15~35部の硫酸バリウム、
10~15部の気相シリカ、
0.4~0.7部の消泡剤、
1.5~2.5部の分散剤、
40~50部の潜在性硬化剤、
0.8~1.5部の基材湿潤剤、
2~3部の付着力促進剤、及び
10~15部の溶媒を含む。
【0017】
本発明の第4の態様により提供される上記超疎水性絶縁耐摩耗塗料の製造方法は、
設計量の前記ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、気相シリカ、消泡剤、分散剤を前記無機フィラー分散液内に加え、撹拌して均一に分散させ、研磨し、塗料前スラリーを得るステップS1と、
前記潜在性硬化剤、基材湿潤剤、付着力促進剤、溶媒を前記塗料前スラリー内に加え、撹拌して均一に分散させ、超疎水性絶縁耐摩耗塗料得るステップS2と、を含む。
【0018】
第4の態様と結び付けて、S1内の前記塗料前スラリーの平均粒径は25ミクロン以下であり、
S2内の前記潜在性硬化剤はビニルトリス(メチルエチルケトキシミノ)シラン(Vinyltris(methylethylketoximino)silane)、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン(Methyltris(methylethylketoxime)silane)又はフェニルトリス(メチルエチルケトキシミオ)シラン(Phenyltris(methylethylketoximio)silane)である。メチルエチルケトンオキシムシラン系硬化剤及びヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサンは、単一成分の塗料基体樹脂系を構成し、両者は空気中の水蒸気の作用で迅速に架橋硬化でき、塗膜の表面付着力を向上させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の実施例では、得られた無機フィラー分散液とヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン等の成分を研磨した後に補強成分として、潜在性硬化剤等の成分及び溶媒と混合した後、単一成分の超疎水性絶縁耐摩耗塗料を製造することができる。本発明により提供される二次改質された無機フィラー分散液を利用して製造した超疎水絶縁耐摩耗塗料はシリコーン体系に属し、その塗膜は優れた超疎水性、絶縁性及び耐摩耗性を有し、水接触角が155°より大きく、ロール角が5°より小さく、体積抵抗率が1.0×1012Ω・mより大きく、且つ研磨した後に依然として優れた超疎水性を有し、ガラス、セラミック、金属基材等の分野に広く適用することができ、特に高圧設備等の分野において、送電変電設備の表面に本発明の実施例における塗料を塗布し、設備表面に超疎水の構造を形成し、凍雨、氷等の物質も超疎水表面に安定的に付着しにくく、それは重力作用で超疎水表面から極めて滑り落ちやすく、関連事故の発生を大幅に低減させる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の目的、技術案及び利点をより明確にするために、以下は本発明についてさらに詳細に説明する。ここで説明された具体的な実施例は本発明を解釈するのみに用いられ、本発明を限定するものではないと理解すべきである。本明細書で値の範囲が開示される場合、上記の範囲は連続的であると見なされ、当該範囲の最小値及び最大値、ならびに最小値と最大値との間の各値を含むことが理解される。さらに、範囲が整数である場合、当該範囲の最小値と最大値との間の各整数を含む。
【0021】
以下の実施例において使用される消泡剤の型番はTego Airex 931であり、分散剤の型番はTego Dispers 650であり、付着力促進剤は、三衆友SY 5620を選択し、基材湿潤剤の型番はTego270である。
(実施例1)
【0022】
本実施例により提供される無機フィラー分散液の製造方法は以下のとおりであり、
(1)35部の(重量部、以下同じ)のナノシリカ(平均粒径10nm)、65部のサブミクロン二酸化チタン(平均粒径250nm)を1000部のエタノール内に加え、電動撹拌をオンにし、さらに濃アンモニア水を加えて体系pHを8.5まで調整し、1.8部のトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン及び1.2部のイソオクチルトリエトキシシランを順に加え、60℃まで昇温し、3時間反応させ、6000回転/分の条件で体系を30分間遠心分離し、沈殿物を収集し、且つ沈殿物を105℃のオーブンで5時間乾燥させ、一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを得、
(2)180部のキシレン、120部のジクロロエタン、50部の一次改質されたマイクロナノ無機フィラー、4.0部のヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン及び0.1部のジブチルスズジラウレートを反応釜内に置き、均一に撹拌した後に120℃まで昇温し、3時間反応させ、二次改質された無機フィラー分散液を製造した。
(実施例2)
【0023】
本実施例により提供される無機フィラー分散液の製造方法は以下のとおりであり、
(1)32部のナノシリカ(平均粒径10nm)、68部のサブミクロン珪藻土(平均粒径400nm)を1000部のエタノール内に加え、電動撹拌をオンにし、さらに濃アンモニア水を加えて体系pHを8.8まで調整し、1.4部のトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン及び0.7部の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを順に加え、65℃まで昇温し、3時間反応させ、6000回転/分の条件で体系を30分間遠心分離し、沈殿物を収集し、且つ沈殿物を105℃のオーブンで5時間乾燥させ、一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを得、
(2)150部の200番溶媒油、150部のジオキサン、50部の一次改質されたマイクロナノ無機フィラー、6.2部のヒドロキシ末端ポリブタジエンポリウレタン及び0.1部の2-エチルヘキサン酸第一スズを反応釜内に置き、均一に撹拌した後に120℃まで昇温し、3時間反応させ、二次改質された無機フィラー分散液を製造した。
(実施例3)
【0024】
本実施例により提供される無機フィラー分散液の製造方法は以下のとおりであり、
(1)37部のナノシリカ(平均粒径25nm)、63部のサブミクロンアタパルジャイト(平均粒径350nm)を1000部のエタノール内に加え、電動撹拌をオンにし、さらに濃アンモニア水を加えて体系pHを9.0まで調整し、1.9部のトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン及び1.0部のイソオクチルトリエトキシシランを順に加え、60℃まで昇温し、3時間反応させ、6000回転/分の条件で体系を30分間遠心分離し、沈殿物を収集し、且つ沈殿物を105℃のオーブンで5時間乾燥させ、一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを得、
(2)166部のイソパラフィン、134部のジクロロエタン、50部の一次改質されたマイクロナノ無機フィラー、5.0部のヒドロキシ末端ポリプロピレングリコール及び0.1部のジブチル錫ジアセテートを反応釜内に置き、均一に撹拌した後に120℃まで昇温し、3時間反応させ、二次改質された無機フィラー分散液を製造した。
(実施例4)
【0025】
本実施例により提供される超疎水性絶縁耐摩耗塗料の製造方法は以下のとおりであり、
(1)実施例1で得られた358部の無機フィラー分散液、60部のヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、55部の炭酸カルシウム、20部の硫酸バリウム、15部の気相シリカ、0.6部のシリコーン消泡剤及び2.0部の分散剤を順に混合し、撹拌して均一に分散させた後、横型サンドミルで分散体系を25ミクロン未満の微細度に粉砕し、塗料前スラリーを得、且つ塗料前スラリーを封止ワニス製造タンクに移し、
(2)ワニス製造タンクを真空引き、窒素ガスを充填し、3回繰り返し、さらにワニス製造タンク内に45部のビニルトリス(メチルエチルケトキシミノ)シラン、1.0部の基材湿潤剤、2.5部の付着力促進剤、13部の鉄赤色スラリー及び10部のキシレンを順に加え、均一に撹拌した後、排出、密封保存して単一成分の超疎水性絶縁耐摩耗塗料を製造した。
(実施例5)
【0026】
本実施例により提供される超疎水性絶縁耐摩耗塗料の製造方法は以下のとおりであり、
(1)実施例2で得られた355部の無機フィラー分散液、70部のヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、50部の炭酸カルシウム、18部の硫酸バリウム、12部の気相シリカ、0.5部の消泡剤及び1.8部の分散剤を順に混合し、撹拌して均一に分散させた後、横型サンドミルで分散体系を25ミクロン未満の微細度に粉砕し、塗料前スラリーを得、且つ塗料前スラリーを封止ワニス製造タンクに移し、
(2)ワニス製造タンクを真空引き、窒素ガスを充填し、3回繰り返し、さらにワニス製造タンク内に47部のビニルトリス(メチルエチルケトキシミノ)シラン、1.0部の基材湿潤剤、2.5部の付着力促進剤、13部の鉄赤色スラリー及び12部の200番溶媒油を順に加え、均一に撹拌した後、排出、密封保存して単一成分の超疎水性絶縁耐摩耗塗料を製造した。
(実施例6)
【0027】
本実施例により提供される超疎水性絶縁耐摩耗塗料の製造方法は以下のとおりであり、
(1)実施例3で得られた355部の無機フィラー分散液、55部のヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、50部の炭酸カルシウム、34部の硫酸バリウム、11部の気相シリカ、0.6部の消泡剤及び1.9部の分散剤を順に混合し、撹拌して均一に分散させた後、横型サンドミルで分散体系を25ミクロン未満の微細度に粉砕し、塗料前スラリーを得、且つ塗料前スラリーを封止ワニス製造タンクに移し、
(2)ワニス製造タンクを真空引き、窒素ガスを充填し、3回繰り返し、さらにワニス製造タンク内に44部のメチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、1.0部の基材湿潤剤、2.5部の付着力促進剤、13部の鉄赤色スラリー、10部のイソパラフィンを順に加え、均一に撹拌した後、排出、密封保存して単一成分の超疎水性絶縁耐摩耗塗料を製造した。
(比較例1)
【0028】
100部のナノシリカを1000部のエタノール内に加え、電動撹拌をオンにし、さらに濃アンモニア水を加えて体系pHを8.8まで調整し、1.4部のトリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン及び0.7部の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランを順に加え、65℃まで昇温し、3時間反応させ、6000回転/分の条件で体系を30分間遠心分離し、沈殿物を収集し、且つ沈殿物を105℃のオーブンで5時間乾燥させ、一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを得、他のステップは実施例1及び実施例4と順に同じであり、最後に塗料を製造した。
(比較例2)
【0029】
比較例1を参照して超疎水性絶縁耐摩耗塗料を製造し、製造プロセスにおけるナノシリカをサブミクロン二酸化チタンに置き換え、他のステップは比較例1と同じである。
(比較例3)
【0030】
実施例1のステップ(1)を参照して一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを製造し、且つ50部の一次改質されたマイクロナノ無機フィラー、300部のキシレン、4.0部のヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン及び0.1部のジブチルスズジラウレートを反応釜内に置き、均一に撹拌した後に120℃まで昇温し、3時間反応させ、二次改質された無機フィラー分散液を製造し、他のステップは実施例4と同じであり、最後に塗料を製造した。
(比較例4)
【0031】
比較例3を参照して超疎水性絶縁耐摩耗塗料を製造し、比較例3に用いられるキシレンをジクロロエタンに置き換え、他のステップは比較例3の他のステップと同じである。
(比較例5)
【0032】
実施例2のステップ(1)を参照して一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを製造し、且つ50部の一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを150部の200番溶媒油及び150部のジオキサン内に分散させ、他のステップは実施例4を参照して超疎水性絶縁耐摩耗塗料を製造した。
(検査)
【0033】
実施例4~6及び比較例1~5で製造した塗料をガラス表面に塗布し、7日間室温で硬化させた後、得られたワニス被膜密着性、水接触角、ロール角、体積抵抗率、及び研磨後の水接触角及びロール角のデータを表1に示す(研磨条件は、800メッシュの研磨紙を用いて500kPaの圧力で100回研磨する)。
【0034】
なお、本発明の実施例における塗料は、セラミックス表面、金属基材表面等にも使用できる。上記の実験におけるガラス表面は、1つの適用シナリオに過ぎない。実施例4~6及び比較例1~5で製造した塗料を金属基材又はセラミック表面に塗布した場合、ガラス表面と同様の性能及び効果を有し、例えば高圧裸線上に塗布する場合、超疎水性の表面を実現することができる。
【0035】
【0036】
上記は、本発明の好適な実施例に過ぎず、本発明を限定することを意図するものではなく、本発明の精神と原則内で行われる任意の修正、同等の置換、及び改善等は、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機フィラー分散液であって、ナノ無機フィラーとサブミクロン無機フィラーとの混合物であるマイクロナノ無機フィラーを含み、
ここで、前記ナノ無機フィラーはシリカ、二酸化チタン、酸化亜鉛、珪藻土及びアタパルジャイトのうちの少なくとも1つを含み、前記ナノ無機フィラーの粒径は5nm~50nmであり、前記サブミクロン無機フィラーはシリカ、二酸化チタン、酸化亜鉛、珪藻土及びアタパルジャイトのうちの少なくとも1つを含み、前記サブミクロン無機フィラーの粒径は100nm~500nmであり、前記マイクロナノ無機フィラーにおいて、前記ナノ無機フィラーの質量百分率は25%~50%であり、前記サブミクロン無機フィラーの質量百分率は50%~75%であり、
前記マイクロナノ無機フィラーを疎水性シランカップリング剤で一次改質し、一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを有機溶媒において疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤で二次改質して、無機フィラー分散液を形成し、
ここで、前記疎水性シランカップリング剤はイソオクチルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランのうちの少なくとも1つとトリデカフルオロオクチルトリエトキシシランとの組み合わせであり、前記有機溶媒は高沸点溶媒及び低沸点溶媒の混合溶媒であり、前記高沸点溶媒の沸点は120℃~250℃であり、前記低沸点溶媒の沸点は70℃~110℃であり、前記疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤はヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシ末端ポリブタジエンポリウレタン又はヒドロキシ末端ポリプロピレングリコールである、ことを特徴とする無機フィラー分散液。
【請求項2】
前記疎水性シランカップリング剤の添加量は前記マイクロナノ無機フィラーの質量合計の0.5%~3.0%であり、
前記疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤の添加量は前記一次改質されたマイクロナノ無機フィラーの質量合計の5%~20%である、ことを特徴とする請求項1に記載の無機フィラー分散液。
【請求項3】
無機フィラー分散液の製造方法であって、前記製造方法は請求項1~2のいずれか一項に記載の無機フィラー分散液を製造するために用いられ、
前記マイクロナノ無機フィラーをエタノール内に分散し、アンモニア水を加えて体系pHを8~10に調整し、さらに前記疎水性シランカップリング剤を加え、60℃~70℃で2.5~3.5時間撹拌し、固液分離し、得られた固体を乾燥して、一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを得るステップS1と、
前記一次改質されたマイクロナノ無機フィラーを前記有機溶媒内に分散し、前記疎水性末端ヒドロキシル基封鎖剤及び触媒を加え、115℃~125℃で2.5~3.5時間撹拌して、二次改質された無機フィラー分散液を得るステップS2と、を含み、
ここで、前記触媒はジブチルスズジラウレート、2-エチルヘキサン酸第一スズ又はジブチル錫ジアセテートのうちのいずれか1つである、ことを特徴とする無機フィラー分散液の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒の添加量は前記一次改質されたマイクロナノ無機フィラーの質量合計の5~7倍である、ことを特徴とする請求項3に記載の無機フィラー分散液の製造方法。
【請求項5】
超疎水性絶縁耐摩耗塗料であって、質量配合比で、
固形分が10%~20%である、350~360部の請求項1~2のいずれか一項に記載の無機フィラー分散液、
55~70部のヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、
45~60部の炭酸カルシウム、
15~35部の硫酸バリウム、
10~15部の気相シリカ、
0.4~0.7部の消泡剤、
1.5~2.5部の分散剤、
40~50部の潜在性硬化剤、
0.8~1.5部の基材湿潤剤、
2~3部の付着力促進剤、及び
10~15部の溶媒を含む、ことを特徴とする超疎水性絶縁耐摩耗塗料。
【請求項6】
超疎水性絶縁耐摩耗塗料の製造方法であって、前記製造方法は請求項5に記載の超疎水性絶縁耐摩耗塗料を製造するために用いられ、
前記質量配合比で前記ヒドロキシ末端ポリジメチルシロキサン、前記炭酸カルシウム、前記硫酸バリウム、前記気相シリカ、前記消泡剤及び前記分散剤を秤量して前記無機フィラー分散液内に加え、撹拌して均一に分散させ、研磨し、塗料前スラリーを得るステップS1と、
前記潜在性硬化剤、前記基材湿潤剤、前記付着力促進剤、前記溶媒を前記塗料前スラリー内に加え、撹拌して均一に分散させ、超疎水性絶縁耐摩耗塗料を得るステップS2と、を含む、ことを特徴とする超疎水性絶縁耐摩耗塗料の製造方法。
【請求項7】
S1内の前記塗料前スラリーの平均粒径は25マイクロメートル以下であり、
S2内の前記潜在性硬化剤はビニルトリス(メチルエチルケトキシミノ)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン又はフェニルトリス(メチルエチルケトキシミオ)シランである、ことを特徴とする請求項6に記載の超疎水性絶縁耐摩耗塗料の製造方法。