IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 佳勝科技股▲ふん▼有限公司の特許一覧

<>
  • 特開-液晶ポリマーフィルムの製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059548
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】液晶ポリマーフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240423BHJP
   C08G 63/78 20060101ALI20240423BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20240423BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
C08G63/78
B29C48/08
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088056
(22)【出願日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】63/379,903
(32)【優先日】2022-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】112113510
(32)【優先日】2023-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】514209308
【氏名又は名称】佳勝科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】李 弘榮
【テーマコード(参考)】
4F071
4F207
4J029
【Fターム(参考)】
4F071AA43X
4F071AA45X
4F071AA48
4F071AA84
4F071AF12
4F071AF62
4F071AG02
4F071AG28
4F071BB06
4F071BB12
4F071BC01
4F071BC12
4F207AA27
4F207AG01
4F207AR06
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK12
4J029AA01
4J029AB07
4J029AC02
4J029AD01
4J029AD09
4J029AE03
4J029BA03
4J029BB04B
4J029BB05A
4J029BB10A
4J029BC06A
4J029CB06A
4J029EB05A
4J029HA01
4J029HB01
4J029KD02
4J029KE12
4J029KE15
4J029KF05
4J029KF07
4J029LB05
4J029LB10
(57)【要約】
【課題】液晶ポリマーフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】液晶ポリマーフィルムの製造方法は、融点がTm1であり、平均重合度が10~100である液晶オリゴマーを受容する操作と、第1加熱温度がTm1より大きい第1加熱プロセスを実行して液晶オリゴマーを溶融する操作と、押出プロセスを実行して、液晶オリゴマーを第1フィルムにするように製造する操作と、第2加熱温度を有する第2加熱プロセスを実行して第1フィルムを加熱する操作であって、第1フィルム内の液晶オリゴマーが重合反応を起こして、液晶ポリマーを含む第2フィルムを形成する操作と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマーフィルムの製造方法であって、
第1融点がTm1であり、平均重合度が10~100である液晶オリゴマーを受容する操作と、
第1加熱温度が前記Tm1より大きい第1加熱プロセスを実行して前記液晶オリゴマーを溶融する操作と、
押出プロセスを実行して、前記液晶オリゴマーを第1フィルムにするように製造する操作と、
第2加熱温度を有する第2加熱プロセスを実行して前記第1フィルムを加熱する操作であって、前記第1フィルム内の前記液晶オリゴマーが重合反応を起こして、液晶ポリマーを含む第2フィルムを形成する操作と、
を備える液晶ポリマーフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第2加熱プロセスの前記第2加熱温度はTm1-30℃~Tm1+10℃である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2加熱プロセスの加熱時間は1時間~60時間である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2加熱プロセスの昇温速度は0.1℃/分~200℃/分である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
第3加熱プロセスを実行して前記第2フィルムを加熱する操作をさらに含み、前記液晶ポリマーの第2融点はTm2であり、前記液晶ポリマーのガラス転移温度はTであり、前記第3加熱プロセスの第3加熱温度はT~Tm2である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第3加熱プロセスの加熱時間は1分~180分である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第3加熱プロセスを実行して前記第2フィルムを加熱した後、第4加熱プロセスを実行して前記第2フィルムを加熱する操作をさらに含み、前記第4加熱プロセスの第4加熱温度はTm2-40℃~Tm2である請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記第4加熱プロセスの昇温速度は0.1℃/分~30℃/分である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第4加熱プロセスの加熱時間は10分~900分である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記押出プロセスの押出温度は前記第1加熱プロセスの前記第1加熱温度と前記Tm1との間にある請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は液晶ポリマーフィルムの製造方法に関し、特に液晶オリゴマーによる液晶ポリマーフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマーフィルムは優れた低吸湿性、耐熱性、耐薬品性及び誘電特性を有する。液晶ポリマーフィルムを回路基板の誘電体層として使用すると、抵抗容量遅延(resistance-capacitance delay;RC delay)による悪影響を低減することができる。しかしながら、液晶ポリマーフィルムを製作する場合に、膜厚ムラが問題になるおそれがある。したがって、現在、上記問題を解決する液晶ポリマーフィルムの製造方法の開発が急務となっている。
【発明の概要】
【0003】
本開示は、液晶ポリマーフィルムの製造方法であって、第1融点がTm1であり、平均重合度が10~100である液晶オリゴマーを受容する操作と、第1加熱温度がTm1より大きい第1加熱プロセスを実行して液晶オリゴマーを溶融する操作と、押出プロセス(extrusion process)を実行して、液晶オリゴマーを第1フィルムにするように製造する操作と、第2加熱温度を有する第2加熱プロセスを実行して第1フィルムを加熱する操作であって、第1フィルム内の液晶オリゴマーが重合反応を起こして、液晶ポリマーを含む第2フィルムを形成する操作と、を備える液晶ポリマーフィルムの製造方法を提供する。
【0004】
幾つかの実施形態において、第2加熱プロセスの第2加熱温度はTm1-30℃~Tm1+10℃である。
【0005】
幾つかの実施形態において、第2加熱プロセスの加熱時間は1時間~60時間である。
【0006】
幾つかの実施形態において、第2加熱プロセスの昇温速度は0.1℃/分~200℃/分である。
【0007】
幾つかの実施形態において、方法は、第3加熱プロセスを実行して第2フィルムを加熱する操作をさらに含み、液晶ポリマーの第2融点はTm2であり、液晶ポリマーのガラス転移温度はTであり、第3加熱プロセスの第3加熱温度はT~Tm2である。
【0008】
幾つかの実施形態において、第3加熱プロセスの加熱時間は1分~180分である。
【0009】
幾つかの実施形態において、方法は、第3加熱プロセスを実行して第2フィルムを加熱した後、第4加熱プロセスを実行して第2フィルムを加熱する操作をさらに含み、第4加熱プロセスの第4加熱温度はTm2-40℃~Tm2である。
【0010】
幾つかの実施形態において、第4加熱プロセスの昇温速度は0.1℃/分~30℃/分である。
【0011】
幾つかの実施形態において、第4加熱プロセスの加熱時間は10分~900分である。
【0012】
幾つかの実施形態において、押出プロセスの押出温度は第1加熱プロセスの第1加熱温度とTm1との間にある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
以下の実施形態の詳しい説明を読みながら、図面を参照することによって、本開示をより全面的に理解することができる。
図1】本開示の各種実施形態による液晶ポリマーフィルムの製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に合わせて本開示の複数の実施形態を開示する。明らかに説明するために、多くの実務上の細部を下記叙述で併せて説明する。しかしながら、理解すべきなのは、これらの実際的な細部は本開示を制限するためのものではない。即ち、本開示の一部の実施形態において、これらの実務上の細部は、必要ではない。
【0015】
以下では、一連の操作又は工程を用いてここで開示する方法を説明するが、これらの操作又は工程で示される順序は、本開示を制限するものと解釈されるべきではない。例えば、ある操作又は工程は異なる順序で行ってもよく、及び/又は他の工程と同時に行われてもよい。なお、本開示の実施形態を達成するために全ての示される操作、工程及び/又は特徴を実行する必要はない。なお、ここで述べた各操作又は工程は複数のサブ工程又は動作を含むことができる。
【0016】
本開示は液晶ポリマーフィルムの製造方法を提供する。図1を参照されたい。図1は本開示の各種実施形態による液晶ポリマーフィルムの製造方法を示すフローチャートである。方法100は操作110、操作120、操作130、操作140、操作150及び操作160を含む。
【0017】
操作110では、液晶オリゴマーを受容し、液晶オリゴマーの第1融点はTm1であり、平均重合度は10~100、例えば10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100である。平均重合度は液晶オリゴマーの分子鎖に含まれる繰り返し単位数の平均値である。幾つかの実施形態において、液晶オリゴマーは、サーモトロピック液晶ポリマー(thermotropic liquid crystal polymer)を調製するための複数のモノマーによって合成されるため、サーモトロピック液晶オリゴマーとも呼ばれる。後続のプロセスでは、この液晶オリゴマーによりサーモトロピック液晶ポリマーを合成する。幾つかの実施形態において、液晶オリゴマーの重量平均分子量は2900~44000、例えば2900、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、10000、12000、14000、16000、18000、20000、22000、24000、26000、28000、30000、32000、34000、36000、38000、40000、42000又は44000である。
【0018】
幾つかの実施形態において、サーモトロピック液晶オリゴマーを合成するための成分は、成分(1)、成分(2)及び成分(3)を含む。成分(1)は芳香族ジカルボン酸と脂環族ジカルボン酸のうちの少なくとも1種の成分である。成分(2)は芳香族ジオール、脂環式ジオール及び脂肪族ジオールのうちの少なくとも1種の成分である。成分(3)は芳香族ヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種の成分である。サーモトロピック液晶オリゴマーは、以下の組成物(A)~(C)のうちのいずれかによって合成される。組成物(A)は成分(1)と成分(2)を含む。例えば、芳香族ポリエステル系のサーモトロピック液晶オリゴマーは、芳香族ジカルボン酸及び成分(2)により調製することができる。例えば、芳香族ポリエステル系のサーモトロピック液晶オリゴマーは、成分(1)及び芳香族ジオールにより調製することができる。組成物(B)は成分(3)を含み、芳香族ポリエステル系のサーモトロピック液晶オリゴマーを調製することができる。組成物(C)は成分(1)、(2)及び(3)を含み、芳香族ポリエステル系のサーモトロピック液晶オリゴマーを調製することができる。
【0019】
例えば、芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸(terephthalic acid;TA)、4,4’-ジフェニルジカルボン酸(4,4’-diphenyldicarboxylic acid)、4,4’-トリフェニルジカルボン酸(4,4’-triphenyldicarboxylic acid)、2,6-ナフタレンジカルボン酸(2,6-naphthalenedicarboxylic acid)、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸(diphenyl ether-4,4’-dicarboxylic acid)、ジフェノキシエタン-4,4’-ジカルボン酸(diphenoxyethane-4,4’-dicarboxylic acid)、ジフェノキシブタン-4,4’-ジカルボン酸(diphenoxybutane-4,4’-dicarboxylic acid)、イソフタル酸(isophthalic acid)、ジフェニルエーテル-3,3’-ジカルボン酸(diphenyl ether-3,3’-dicarboxylic acid)、ナフタレン-1,6-ジカルボン酸(naphthalene-1,6-dicarboxylic acid)、上記化合物の誘導体又はその組み合わせを含んでよい。誘導体は、例えばクロロテレフタル酸(chloroterephthalic acid)、ジクロロテレフタル酸(dichloroterephthalic acid)、ブロモテレフタル酸(bromoterephthalic acid)、メチルテレフタル酸(methylterephthatic acid)、ジメチルテレフタル酸(dimethylterephthalic acid)、エチルテレフタル酸(ethylterephthalic acid)、メトキシテレフタル酸(methoxyterephthalic acid)又はエトキシテレフタル酸(ethoxyterephthalic acid)である。例えば、脂環族ジカルボン酸は、トランス1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(trans-1,4-cyclohexanedicarboylic acid)、シス1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(cis-1,4-cyclohexanedicarboxylic acid)、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸(1,3-cyclohexanedicarboxylic acid)又はその組み合わせを含んでよい。
【0020】
例えば、芳香族ジオールは、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(4,4’-biphenol)、ヒドロキノン(hydroquinone)、レゾルシノール(resorcinol)、4,4’-ジヒドロキシジフェニル(4,4’-dihydroxydiphenyl)、4-4’-ジヒドロキシトリフェニル(4-4’-dihydroxytriphenyl)、2,6-ナフタレンジオール(2,6-naphalenediol)、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル(4,4’-dihydroxydiphenyl ether)、ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)エタン(bis(4-hydroxyphenoxy)ethane)、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル(3,3’-dihydroxydiphenyl ether)、1,6-ナフタレンジオール(1,6-naphthalenediol)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(2,2-bis(4-hydroxyphenyl)propane)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(1,1-bis(4-hydroxyphenyl)methane)又はその組み合わせを含んでよい。例えば、脂環式ジオールは、トランス-1,4-シクロヘキサンジオール(trans-1,4-cyclohexanediol)、シス-1,4-シクロヘキサンジオール(cis-1,4-cyclohexanediol)、トランス-1,4-シクロヘキサンジメタノール(trans-1,4-cyclohexanedimethanol)、トランス-1,3-シクロヘキサンジオール(trans-1,3-cyclohexanediol)、シス-1、2-シクロヘキサンジオール(cis-1、2-cyclohexanediol)、トランス-1,3-シクロヘキサンジメタノール(trans-1,3-cyclohexanedimethanol)又はその組み合わせを含んでよい。例えば、脂肪族ジオールは、例えばエチレングリコール(ethylene glycol)、1,3-プロパンジオール(1,3-propanediol)、1,4-ブタンジオール(1,4-butanediol)、ネオペンチルグリコール(neopentyl glycol)などの直鎖と分岐鎖脂肪族ジオール又はその組み合わせを含んでよい。
【0021】
例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸は、パラヒドロキシ安息香酸(p-hydroxybenzoic acid;HBA)、3-ヒドロキシ安息香酸(3-hydroxybenzoic acid)、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(6-hydroxy-2-naphthoic acid)、6-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸(6-hydroxy-1-naphthoic acid)、上記化合物の誘導体又はその組み合わせを含んでよい。誘導体は、例えば3-メチル-4-ヒドロキシ安息香酸(3-methyl-4-hydroxybenzoic acid)、3、5-ジメチル-4-ヒドロキシ安息香酸(3、5-dimethyl-4-hydroxybenzoic acid)、2,6-ジメチル-4- ヒドロキシ安息香酸(2,6-dimethyl-4-hydroxybenzoic acid)、3-メトキシ-4-ヒドロキシ安息香酸(3-methoxy-4-hydroxybenzoic acid)、3、5-ジメチル-4-ヒドロキシ安息香酸(3、5-dimethoxy-4-hydroxybenzoic acid)、6-ヒドロキシ-5-メチル-2-ナフトエ酸(6-hydroxy-5-methyl-2-naphthoic acid)、6-ヒドロキシ-5-メトキシ-2-ナフトエ酸(6-hydroxy-5-methoxy-2-naphthoic acid)、3-クロロ-4-ヒドロキシ安息香酸(3-chloro-4-hydroxybenzoic acid)、2、3-ジクロロ-4-ヒドロキシ安息香酸(2、3-dichloro-4-hydroxybenzoic acid)、3、5-ジクロロ-4-ヒドロキシ安息香酸(3、5-dichloro-4-hydroxybenzoic acid)、2、5-ジクロロ-4-ヒドロキシ安息香酸(2、5-dichloro-4-hydroxybenzoic acid)、3-ブロモ-4-ヒドロキシ安息香酸(3-bromo-4-hydroxybenzoic acid)、6-ヒドロキシ-5-クロロ-2-ナフトエ酸(6-hydroxy-5-chloro-2-naphthoic acid)、6-ヒドロキシ-7-クロロ-2-ナフトエ酸(6-hydroxy-7-chloro-2-naphthoic acid)、6-ヒドロキシ-5、7-ジクロロ-2-ナフトエ酸(6-hydroxy-5、7-dichloro-2-naphthoic acid)又はその組み合わせを含んでよい。
【0022】
例えば、サーモトロピック液晶ポリマーは、第1型(高耐熱型)、第2型(中耐熱型)及び第3型(低耐熱型)を含む。(1)高耐熱型サーモトロピック液晶ポリマーは、約330℃より大きい液晶状態転移(LC transition)温度を有する。高耐熱型のサーモトロピック液晶ポリマーは高い引張強度と高い弾性率を有し、また、耐薬品性に優れ、高温性能を必要とする環境に適するが、高耐熱型のサーモトロピック液晶ポリマーの加工性能はやや悪い。(2)中耐熱型の液晶ポリマーは約280℃~約320℃である液晶状態転移温度を有する。中耐熱型の液晶ポリマーは耐薬品性と加水分解安定性を有し、且つ優れた電気性及び難燃性を有し、且つ強い不浸透性を有し、総合性能に優れる。(3)低耐熱型の液晶ポリマーは低耐熱型であり、約240℃より小さい液晶状態転移温度を有する。低耐熱型の液晶ポリマーの耐熱性能がやや悪いが、加工性が良く、且つ価格がやすい。なお、液晶状態転移温度はサーモトロピック液晶ポリマー樹脂が加熱状態で固体から液晶状態に変化するある特定の温度である。理解できるように、異なるサーモトロピック液晶ポリマーはそのモノマー構造によって液晶状態転移温度が異なる。
【0023】
幾つかの実施形態において、液晶オリゴマーはパラヒドロキシ安息香酸(HBA)、テレフタル酸(TA)及び4,4’-ジヒドロキシビフェニル(4,4’-biphenol)により合成される。液晶オリゴマーは式(1)の繰り返し単位を有し、繰り返し単位数は例えば10~100である。この液晶オリゴマーは市販名称がXydar(登録商標)の高耐熱型のサーモトロピック液晶ポリマーの合成に用いることができる。
【化1】
【0024】
幾つかの実施形態において、液晶オリゴマーはパラヒドロキシ安息香酸(HBA)及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(6-hydroxy-2-naphthoic acid;HNA)により合成される。液晶オリゴマーは式(2)の繰り返し単位を有し、繰り返し単位数は例えば10~100である。この液晶オリゴマーは市販名称がVectra(登録商標)の中耐熱型サーモトロピック液晶ポリマーの合成に用いることができる。
【化2】
【0025】
幾つかの実施形態において、液晶オリゴマーはテレフタル酸(TA)、エチレングリコール及びパラヒドロキシ安息香酸(HBA)により合成される。液晶オリゴマーは、式(3)の繰り返し単位を有し、繰り返し単位数は例えば10~100である。この液晶オリゴマーは市販名称がXG(登録商標)の低耐熱型サーモトロピック液晶ポリマーの合成に用いることができる。
【化3】
【0026】
操作120では、第1加熱プロセスを実行して液晶オリゴマーを溶融する。第1加熱プロセスの第1加熱温度はTm1より大きい。幾つかの実施形態において、第1加熱プロセスの第1加熱温度とTm1との差は10℃以下である。差は例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10℃である。
【0027】
操作130では、押出プロセスを実行して、液晶オリゴマーを第1フィルムにするように製造する。幾つかの実施形態において、押出プロセスの押出温度は第1加熱プロセスの第1加熱温度とTm1との間にある。なお、一般的に、液晶ポリマーと比較して、液晶オリゴマーは狭い分子量分布範囲を有する。押出プロセスによって液晶ポリマーをフィルムに直接製造すると、液晶ポリマーは広い分子量分布範囲を有するため、膜厚と均一性を制御しにくい。押出プロセスによって本開示の液晶オリゴマーを第1フィルムにするように製造する場合、押出温度を容易に制御して、第1フィルムの膜厚と均一性を調整するようにする。液晶オリゴマーの平均重合度は10~100である。平均重合度が小さいほど、液晶オリゴマーの分子量分布範囲が狭くなり、第1フィルムの膜厚と均一性を容易に制御する。
【0028】
操作140では、第2加熱プロセスを実行し、第1フィルム内の液晶オリゴマーは重合反応を起こして、液晶ポリマーを含む第2フィルムを形成し、液晶ポリマーの第2融点はTm2である。幾つかの実施形態において、第2加熱プロセスの第2加熱温度はTm1-30℃~Tm1+10℃である。第2加熱温度は例えばTm1-30、Tm1-25、Tm1-20、Tm1-15、Tm1-10、Tm1-5、Tm1、Tm1+5又はTm1+10℃である。第2加熱温度がTm1-30より低く、又はTm1+10℃より高いと、第2フィルムの外観、厚み、機械的性質、熱的性質又は電気的性質に悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、第2加熱温度がTm1+10℃より高いと、第2フィルムの厚みが変化して、目標厚みに維持することができない可能性がある。幾つかの実施形態において、第2加熱プロセスの加熱時間は操作130の押出プロセスの押出時間より長く、このように、液晶オリゴマーは十分な重合反応時間を有し、重合反応後に、第2フィルムは第1フィルムより高い機械的強度を備えることができる。幾つかの実施形態において、第2加熱プロセスの加熱時間は1時間~60時間である。加熱時間は例えば1、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55又は60時間である。加熱時間が1時間より小さいと、液晶オリゴマーが完全に反応できなくなり、換言すれば、十分な液晶ポリマーを形成できないので第2フィルムの物性に影響を与える。加熱時間が60時間より大きいと、第2フィルムの外観、厚み、機械的性質、熱的性質又は電気的性質に悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、第2フィルムの機械的強度が低下し、複数の第2フィルムを圧着する場合、接着不良の問題が発生する可能性がある。幾つかの実施形態において、第2加熱プロセスの昇温速度は0.1℃/分~200℃/分である。昇温速度は例えば0.1、0.5、1、5、10、20、40、60、80、100、120、140、160、180又は200℃/分である。昇温速度は、第2フィルムの物性に影響を与えることがあり、昇温速度が0.1℃/分より低いと、第2フィルムの融点が高くなり過ぎて、目標融点が得られなくなる可能性がある。幾つかの実施形態において、操作140は、不活性雰囲気下で行い、例えば、不活性雰囲気中の不活性ガスは窒素ガス、アルゴンガス又はその組み合わせである。
【0029】
操作150では、第3加熱プロセスを実行して、第2フィルムの熱膨張係数(coefficient of thermal expansion;CTE)を調整する。より詳しくは、第3加熱プロセスを実行して第2フィルムを加熱し、液晶ポリマーの第2融点はTm2であり、液晶ポリマーのガラス転移温度はTであり、第3加熱プロセスの第3加熱温度はT~Tm2である。第3加熱プロセス過程では、第2フィルム内のポリマーは再配列することによって、第2フィルムの熱膨張係数(CTE)を約17ppm/℃~20ppm/℃、例えば17、18、19又は20ppm/℃に調整することができる。本開示の第2フィルムである液晶ポリマーフィルムは、回路基板の誘電体層として機能することができる。一般的に、回路基板内の導電素子は銅製であり、銅のCTEは約16.5ppm/℃~約18ppm/℃の範囲である。操作150によって、本開示の第2フィルムのCTEが17ppm/℃~20ppm/℃の範囲内に収まることができ、第2フィルムと第2フィルム内に嵌設される銅導電素子とは近いCTEを持たせることができ、これにより、両者を容易に剥離することができない。幾つかの実施形態において、第3加熱プロセスの加熱時間は1分~120分である。加熱時間は例えば1、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120分である。幾つかの実施形態において、第3加熱プロセスの昇温速度は20℃/分~200℃/分、例えば20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は200℃/分である。幾つかの実施形態において、操作150は、不活性雰囲気下で行い、例えば、不活性雰囲気中の不活性ガスは窒素ガス、アルゴンガス又はその組み合わせである。
【0030】
操作160では、第4加熱プロセスを実行して、第2フィルムの融点を調整する。幾つかの実施形態において、第4加熱プロセスを実行して第2フィルムを加熱し、第4加熱プロセスの第4加熱温度はTm2-40℃~Tm2である。第4加熱温度は例えばTm2-40、Tm2-35、Tm2-30、Tm2-25、Tm2-20、Tm2-15、Tm2-10、Tm2-5又はTm2℃である。第4加熱プロセス過程では、第2フィルム内のポリマーは再配列することにより、より整然として配列し、これにより、第4加熱プロセスによって処理された第2フィルムの融点が上昇する。融点の上昇によって、第2フィルムが良い耐熱性を有し、多層の第2フィルムを圧着して積層板を形成する場合、圧着の品質に優れた。例えば、操作160を実行する前に、第2フィルムの融点は230℃~330℃であり、操作160によって第2フィルムの融点を280℃~350℃の範囲に調整することができる。操作160を実行した後、第2フィルムの融点は操作160を実行する前の第2フィルムの融点より高い。第3加熱プロセスの昇温速度は第4加熱プロセスの昇温速度より高い。幾つかの実施形態において、第4加熱プロセスの昇温速度は0.1℃/分~30℃/分である。昇温速度は例えば0.1、0.5、1、5、10、15、20、25又は30℃/分である。幾つかの実施形態において、第4加熱プロセスの加熱時間は10分~900分である。加熱時間は例えば10、20、40、60、80、100、200、300、400、500、600、700、800又は900分である。幾つかの実施形態において、操作160は、不活性雰囲気下で行い、例えば、不活性雰囲気中の不活性ガスは窒素ガス、アルゴンガス又はその組み合わせである。
【0031】
本開示の方法によって製造された液晶ポリマーフィルムは、以下の利点を有することができる。(1)本開示の多層の液晶ポリマーフィルムを圧着して積層板(laminate)を形成することができ、圧着温度が上昇すると、積層板の圧着品質も向上し、積層板中のこれらの液晶ポリマーフィルムが剥離しにくい。(2)この積層板にエッチングによって穴を形成し、導電層を充填することができる。一般的に、エッチング後に、液晶ポリマーは穴壁に残るドロスを形成する可能性があるため、ウェットエッチング(デスミアプロセス(desmear process))によってドロスを除去する必要がある。しかしながら、ウェットエッチングで使用される化学薬品は穴壁にエッチングバックする可能があるため、導電層を穴に充填した後、穴壁と導電層との間に間隙が形成され、構造全体の信頼性に悪い影響を与える。しかしながら、本開示の液晶ポリマーフィルムにより形成される積層板は、耐食性に優れ、ウェットエッチング時に穴壁がエッチングバックされにくいため、導電層を穴に充填した後に、穴壁と導電層との間に間隙が形成されず、積層板に良好な信頼性を持たせる。
【0032】
以下、実施例を参照し、本開示の特徴をより具体的に説明する。以下の実施例を説明したが、本開示の範囲を逸脱しない限り、用いられる材料、その量及び割合、処理細部及び処理フローなどを適切に変化することができる。このため、本開示は、以下で説明する実施例によって限定的に解釈されないものとする。
【0033】
実施例:液晶ポリマーフィルムの製造
【0034】
芳香族ポリエステル系を含む液晶オリゴマーの第1フィルムを受容し、液晶オリゴマーの第1融点は240℃である。加熱温度が235℃の加熱プロセスを実行して液晶オリゴマーを重合反応させて、液晶ポリマーを含む第2フィルムを形成し、液晶ポリマーの第2融点は260℃である。次に、100℃~200℃の範囲内で異なる膜厚がある複数の第2フィルムのCTEを測定し、機械方向(machine direction;MD)及び横方向(transverse direction;TD)に沿って測定することができ、これらの第2フィルムのCTE分布範囲を取得することができる。測定結果は、下記表1のCTE(MD)とCTE(CD)を参照されたい。次に、加熱温度が255℃、加熱時間が5分の加熱プロセスを実行して、実施例1及び実施例2の第2フィルムのCTEを調整する。結果は、下記表1の調整後CTE(MD)とCTE(CD)を参照されたい。
【表1】
【0035】
次に、加熱プロセスによって実施例1の第2フィルムの融点を調整して、下記表2の実施例3~実施例6に挙げられた融点を得る。加熱プロセスの昇温速度は5℃/分であり、加熱時間は800分である。実施例3~実施例6の加熱温度は下記表2を参照されたい。
【表2】
【0036】
以上のように、本開示は、押出プロセスを実行して液晶オリゴマーをフィルムにするように製造した後、加熱プロセスによってフィルム内の液晶オリゴマーを重合反応させ、これにより、液晶ポリマーフィルムを形成する液晶ポリマーフィルムの製造方法を提供した。液晶ポリマーと比較して、液晶オリゴマーは狭い分子量分布範囲を有するため、押出プロセスを実行する場合に、押出温度を容易に制御して、フィルムの膜厚と均一性を調整するようにする。このため、本開示の方法によって製造された液晶ポリマーフィルムは品質に優れ、多層の液晶ポリマーフィルムを圧着して積層板を形成する場合、フィルムが剥離しにくい。また、本開示の液晶ポリマーフィルムはウェットエッチングに対する耐食性に優れる。
【0037】
いくつかの実施形態を参照して本開示をかなり詳細に説明したが、他の実施形態もあり得る。したがって、添付の特許出願範囲の精神と範囲は、ここに含まれた実施形態の説明に限定されるべきではない。
【0038】
当業者であれば、本開示の範囲及び精神から逸脱しない限り、本開示の構造に様々な修正及び変更を行うことができることが明らかである。前述の内容を鑑みて、本開示は、添付の特許出願の範囲内にある本開示の修正及び変更をカバーすることを意図する。
【符号の説明】
【0039】
100 方法
110、120、130、140、150、160 操作
図1