(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059583
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】二酸化炭素吸収剤及び二酸化炭素分離回収方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240423BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240423BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20240423BHJP
B01D 53/96 20060101ALI20240423BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240423BHJP
B01J 20/22 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 100
B01D53/14 220
B01D53/62 ZAB
B01D53/82
B01D53/96
B01J20/34 F
B01J20/34 H
B01J20/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023174323
(22)【出願日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2022166979
(32)【優先日】2022-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023113723
(32)【優先日】2023-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉矢 正
(72)【発明者】
【氏名】古井 恵里
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G066
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC01
4D002AC10
4D002BA03
4D002CA07
4D002DA18
4D002DA31
4D002DA70
4D002EA08
4D002FA01
4D002GA01
4D002GB11
4D002GB12
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA30
4D020BB01
4D020BB07
4D020BC01
4D020CA05
4D020DA03
4D020DB06
4G066AA05C
4G066AA20C
4G066AA22C
4G066AA30C
4G066AA61C
4G066AA63C
4G066AA64C
4G066AA72C
4G066AA73C
4G066AB10B
4G066AB13B
4G066AB19B
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA22
4G066BA36
4G066CA35
4G066DA01
4G066GA01
4G066GA06
4G066GA32
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二酸化炭素吸収量が多く、且つ、吸収剤再生時の二酸化炭素放出が容易なイオン性液体を使用した二酸化炭素吸収剤を提供すること。
【解決手段】少なくとも多孔質担体と、該多孔質担体に担持されているイオン性液体と、からなり、該イオン性液体が、下記一般式(1):
(式中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基又は環状アルキル基を表し、mは1以上10以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す。A1
n-はアニオンを表す。)で表されるホスホニウム系イオン性液体であること、を特徴とする二酸化炭素吸収剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも多孔質担体と、該多孔質担体に担持されているイオン性液体と、からなり、
該イオン性液体が、下記一般式(1):
【化1】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基又は環状アルキル基を表し、mは1以上10以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す。A1
n-はアニオンを表す。)で表されるホスホニウム系イオン性液体であること、
を特徴とする二酸化炭素吸収剤。
【請求項2】
前記多孔質担体が、活性炭、シリカゲル、層状珪酸塩、メソポーラスシリカ、ゼオライト、アルミノケイ酸塩、バーミキュライト、モレキュラーシーブ、多孔質シリカ、珪藻土、多孔性樹脂、多孔性繊維、多孔性金属有機構造体、多孔質アルミナ、多孔質セラミック、ポーラスコンクリート、活性白土又は粘土鉱物であることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素吸収剤。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるA1n-が、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、リン酸イオン、メタノールアミンリン酸イオン、エタノールアミンリン酸イオン、プロパノールアミンリン酸イオン、ブタノールアミンリン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン、ベンゾトリアゾレートイオン、アラニンイオン、β-アラニンイオン、グリシンイオン、L-(+)-リジンイオン、D-(-)-リジンイオン又はDL-リジンイオンであることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素吸収剤。
【請求項4】
水蒸気による接触処理が施されたものであることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素吸収剤。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、該二酸化炭素吸収剤に、該混合ガス中の二酸化炭素を吸収させることにより、該混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程と、
該二酸化炭素分離工程で二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を、40℃以上150℃以下の温度で加熱して、該二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素を脱離させることにより、該二酸化炭素吸収剤を再生させると共に、脱離させた二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程と、
を有することを特徴とする二酸化炭素分離回収方法。
【請求項6】
請求項1~4の何れか1項に記載の二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、該二酸化炭素吸収剤に、該混合ガス中の二酸化炭素を吸収させることにより、該混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程と、
該二酸化炭素分離工程で二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を、水蒸気に接触させて、該二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素を脱離させることにより、該二酸化炭素吸収剤を再生させると共に、脱離させた二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程と、
を有することを特徴とする二酸化炭素分離回収方法。
【請求項7】
前記二酸化炭素回収工程を行い得られる再生二酸化炭素吸収剤を、前記二酸化炭素分離工程において前記二酸化炭素を含む混合ガスを接触させる前記二酸化炭素吸収剤として用いることにより、前記二酸化炭素分離工程及び前記二酸化炭素回収工程を、2回以上繰り返し行うことを特徴とする請求項6記載の二酸化炭素分離回収方法。
【請求項8】
前記二酸化炭素回収工程を行い得られる再生二酸化炭素吸収剤の含水率を下げる含水率低減工程を行い、含水率を低減させた再生二酸化炭素吸収剤を、前記二酸化炭素分離工程において前記二酸化炭素を含む混合ガスを接触させる前記二酸化炭素吸収剤として用いることを特徴とする請求項7に記載の二酸化炭素分離回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン性液体が担持されている二酸化炭素吸収剤及び二酸化炭素分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業活動による石油、石炭などの化石燃料の消費増大や森林の伐採により、大気中の二酸化炭素やメタンといった温室効果ガスの濃度が増加し続けており、地球規模で気温が上昇する地球温暖化が進行している。このまま温暖化が進行すると、地表の砂漠化や海面の上昇、生態系の変化など、様々な面で深刻な影響が現れると考えられている。
【0003】
このような中、地球温暖化を防ぐために、温室効果ガス削減を目的として二酸化炭素排出を抑制すると共に、二酸化炭素を回収する技術が注目されている。二酸化炭素を回収する技術としては、化学吸収法、物理吸収法、固体吸収法、膜分離法等があるが、幅広い濃度に対応できる方法として、主に化学吸収法が使用されている。この化学吸収法は、二酸化炭素を化学反応によって液体に吸収させ、その吸収液を加熱することにより二酸化炭素を放出させて回収するものである。
【0004】
二酸化炭素を吸収させる際に使用する液体として一般的に使用されているのはアミン系水溶液であるが、二酸化炭素を吸収させた液体を加熱して二酸化炭素を脱離させる際、アミンが大気中に放散するため環境への影響が懸念されている。このため、アミン系水溶液に代わる液体として、実質的に蒸気圧の無いイオン性液体にアミンを導入した二酸化炭素吸収剤の研究が行われている。例えば、特許文献1には、アルキルイミダゾリウムカチオンやアルキルホスホニウムカチオン等の1種又は2種以上のカチオンからなり、該カチオン中に少なくとも1個以上の一級アミン基(-NH2)が存在するイオン液体を使用することが記載されている。また、特許文献2では、二酸化炭素吸収剤として有機アミン及び官能化イオン液体の混合水溶液を提案しており、該官能化イオン液体は、アミノ基を含むイオン液体であることを開示している。さらに特許文献3では、カチオンに1以上の1級又は2級アミノ基、及びエチレンジアミン又はプロピレンジアミン骨格を有するアミニウムを有するイオン液体を二酸化炭素吸収剤として開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-36950号公報
【特許文献2】特表2015-507526号公報
【特許文献3】特開2016-10760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載の二酸化炭素吸収剤は、イオン性液体を使用しているため、吸収剤再生時の二酸化炭素放出に要するエネルギーを低減できるが、二酸化炭素の吸収性能には改善の余地がある。また、アミノ基を有するイオン性液体とアミン系化合物の混合体を二酸化炭素吸収剤として使用している特許文献2及び特許文献3は、イオン性液体とは別にアミン系化合物を含有しているため、吸収剤再生時の加熱によりアミン系化合物が放散してしまい、二酸化炭素吸収剤のロスが生じる他、環境への悪影響も懸念される。このように、イオン性液体を使用した二酸化炭素吸収剤に関連する技術は、未だ開発途上であり、研究すべき課題が残されている。
【0007】
従って、本発明の目的は、二酸化炭素吸収量が多く、且つ、吸収剤再生時の二酸化炭素の脱離が容易なイオン性液体を使用した二酸化炭素吸収剤を提供すること、及び本発明の二酸化炭素吸収剤を使用した二酸化炭素分離回収方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ホスホニウム系のイオン性液体において、化学的に二酸化炭素を吸収できるイオン性液体を、多孔質担体に担持した二酸化炭素吸収剤は、従来よりも二酸化炭素吸収能が高くなり、且つ、再生の際に二酸化炭素を容易に脱離させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明(1)は、少なくとも多孔質担体と、該多孔質担体に担持されているイオン性液体と、からなり、該イオン性液体が、下記一般式(1):
【0010】
【0011】
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基又は環状アルキル基を表し、mは1以上10以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す。A1n-はアニオンを表す。)で表されるホスホニウム系イオン性液体であること、
を特徴とする二酸化炭素吸収剤を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、上記本発明(1)の二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、該二酸化炭素吸収剤に、該混合ガス中の二酸化炭素を吸収させることにより、該混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程と、
該二酸化炭素分離工程で二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を、40℃以上150℃以下の温度で加熱して、該二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素を脱離させることにより、該二酸化炭素吸収剤を再生させると共に、脱離させた二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程と、
を有することを特徴とする二酸化炭素分離回収方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(3)は、上記本発明(1)の二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、該二酸化炭素吸収剤に、該混合ガス中の二酸化炭素を吸収させることにより、該混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程と、
該二酸化炭素分離工程で二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を、水蒸気に接触させて、該二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素を脱離させることにより、該二酸化炭素吸収剤を再生させると共に、脱離させた二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程と、
を有することを特徴とする二酸化炭素分離回収方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、二酸化炭素吸収量が多く、且つ、吸収剤再生時の二酸化炭素の脱離が容易なイオン性液体を使用した二酸化炭素吸収剤を提供すること、及び本発明の二酸化炭素吸収剤を使用した二酸化炭素分離回収方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の二酸化炭素吸収剤は、少なくとも多孔質担体と、該多孔質担体に担持されているイオン性液体と、からなり、
該イオン性液体が、下記一般式(1):
【0016】
【0017】
(式中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基又は環状アルキル基を表し、mは1以上10以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す。A1n-はアニオンを表す。)で表されるホスホニウム系イオン性液体であること、
を特徴とする二酸化炭素吸収剤である。
【0018】
本発明の二酸化炭素吸収剤は、少なくとも多孔質担体と、多孔質担体に担持されているイオン性液体と、からなる。そして、本発明の二酸化炭素吸収剤では、イオン性液体が、多孔質担体の細孔内に取り込まれて物理的に吸着されることにより、イオン性液体が、多孔質担体に担持されて存在している。
【0019】
本発明の二酸化炭素吸収剤に係る多孔質担体は、内部に細孔を多数有する多孔質構造であり、且つ、内部の細孔にイオン性液体を取り込み、イオン性液体を物理的に吸着して細孔内に保持することができるものであれば、特に制限されない。多孔質担体としては活性炭、シリカゲル、層状珪酸塩、メソポーラスシリカ、ゼオライト、アルミノケイ酸塩、バーミキュライト、モレキュラーシーブ、多孔質シリカ、珪藻土、多孔性樹脂、多孔性繊維、多孔性金属有機構造体、多孔質アルミナ、多孔質セラミック、ポーラスコンクリート、活性白土又は粘土鉱物等が挙げられ、一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体の担持量を多くすることができる点で、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、モレキュラーシーブ、アルミノケイ酸塩が好ましい。また、二酸化炭素吸収剤から吸収した二酸化炭素を脱離させるときに水蒸気を用いる場合に、多孔質担体が、細孔内に水を保持することができる多孔質体、例えば、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、モレキュラーシーブ、アルミノケイ酸塩等であることにより、多孔質体の細孔に適量保持された水分に二酸化炭素が吸収され、水蒸気との接触後の二酸化炭素吸収剤の二酸化炭素の吸収性能が高くなる点で、好ましい。細孔内に水を保持することができる多孔質体は、細孔内に水を保持することができるものであれば、特に制限されないが、例えば、5~30質量%、好ましくは10~25質量%の含水率で含水することができるものが挙げられる。
【0020】
多孔質担体のBET比表面積は、好ましくは1.0×101~5.0×103m2/g、好ましくは1.0×102~2.0×103m2/gである。また、多孔質担体のガス吸着法による細孔容積は、好ましくは0.1~2.0mL/g、好ましくは0.3~1.5mL/gである。
【0021】
多孔質担体の形状は、例えば、粒状、粉末状、繊維状、板状、円柱状、ハニカム状等を挙げることができる。これらのうち、二酸化炭素を含む混合ガスとの接触性や、カラム、塔などの充填設備への充填性の観点から、粒状又は粉末状であることが好ましい。
【0022】
多孔質担体の中では、取り扱いの容易さ、イオン性液体を容易に担持できる観点から、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、モレキュラーシーブ、アルミノケイ酸塩が好ましく、活性炭、シリカゲルであることが特に好ましい。
【0023】
活性炭としては、種々の活性炭を使用することができ、例えば、木材、ヤシ殻、石炭、石油ピッチ、コークス、コールタール等を原料とする活性炭が挙げられる。本発明において用いられる活性炭としては、前記した多孔質担体の特性に加えて、JIS K1474(活性炭試験方法)により測定した物性値として、乾燥減量が0.1~5.0%であり、強熱残分が0.1~5.0%であり、充填密度が0.25~0.85g/mlであり、アセトン吸着性能が14.0~41.0%であり、ヨウ素吸着性能が600~2600mg/gであり、硬さが90.0~100.0%であることが好ましい。
【0024】
シリカゲルとしては、種々のシリカゲルが挙げられ、例えば、酸化珪素を99質量%以上、特に99.9質量%以上含むものが好ましい。また、シリカゲルは、前記した多孔質担体の特性に加えて、走査型電子顕微鏡により測定される平均粒子径が0.01~10mmであることが好ましく、乾燥減量が10%以下であることが好ましい。
【0025】
ゼオライトとしては、種々のゼオライトを使用することができ、例えば、LTA型ゼオライト、FER型ゼオライト、MWW型ゼオライト、MFI型ゼオライト、MOR型ゼオライト、LTL型ゼオライト、FAU型ゼオライト、BEA型ゼオライト等が挙げられる。本発明において用いられるゼオライトとしては、前記した多孔質担体の特性に加えて、走査型電子顕微鏡により測定される平均粒子径が0.01~15mmであることが好ましい。
【0026】
本発明の二酸化炭素吸収剤において、多孔質担体には、下記一般式(1):
【0027】
【0028】
で表されるホスホニウム系イオン性液体が担持されている。つまり、本発明の二酸化炭素吸収剤において、多孔質担体に担持されているイオン性液体は、一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体の1種又は2種以上である。
【0029】
一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体は、カチオンと、アニオンと、で構成されている。一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体を構成するカチオンは、P原子に結合している基を4つ有し且つ該P原子に結合している基のうちの少なくとも1つがアミノ基を有する基であるホスホニウムカチオンである。
【0030】
一般式(1)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して炭素数1以上10以下、好ましくは2以上8以下の直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基又は環状アルキル基を表し、mは1以上10以下の整数を表し、nは1以上3以下の整数を表す。R1、R2及びR3は、それぞれ同一でもよく、異なってもよいが、合成上の観点から同一であることが好ましい。A1n-はアニオンを表す。
【0031】
一般式(1)中のR1、R2及びR3で表される炭素数1以上10以下の直鎖状のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0032】
一般式(1)中のR1、R2及びR3で表される炭素数1以上10以下の分岐鎖状のアルキル基としては、具体的には、イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、s-ペンチル基、t-ペンチル基、イソヘキシル基、s-ヘキシル基、t-ヘキシル基、エチルヘキシル基等が挙げられる。
【0033】
一般式(1)中のR1、R2及びR3で表される炭素数1以上10以下の環状アルキル基としては、具体的には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2-メチルシクロペンチル基、3-メチルシクロペンチル基、シクロヘプチル基、2-メチルシクロヘキシル基、3-メチルシクロヘキシル基、4-メチルシクロヘキシル基、シクロオクチル基、2-メチルシクロヘプチル基、3-メチルシクロヘプチル基、4-メチルシクロヘプチル基、5-メチルシクロヘプチル基等が挙げられる。
【0034】
一般式(1)中、リン原子に結合するR1、R2及びR3以外の置換基、すなわち、アミノ基を有する基は、炭素数1以上10以下、好ましくは1以上8以下のアルキルアミノ基である。該アルキルアミノ基としては、具体的には、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、n-ヘプチルアミノ基、n-オクチルアミノ基等が挙げられる。
【0035】
一般式(1)中のA1n-はアニオンを示し、A1n-としては、一般式(1)のホスホニウムカチオンと対になってイオン性液体を形成するものであれば、特に制限されないが、例えば、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)等のハロゲン化物イオン、リン酸イオン(H2PO4
-、HPO4
2-、PO4
3-)、メタノールアミンリン酸イオン(NH2CH2OPO3
2-)、エタノールアミンリン酸イオン(NH2C2H4OPO3
2-)、プロパノールアミンリン酸イオン(NH2C3H6OPO3
2-)、ブタノールアミンリン酸イオン(NH2C4H8OPO3
2-)、ジエチルジチオリン酸イオン((C2H5)2O2PS2
-)、ジメチルリン酸イオン((CH3)2PO4
-)、ジエチルリン酸イオン((C2H5)2PO4
-)等のリン酸基含有アニオン、メチルスルホン酸(CH3SO3
-)、フルオロメチルスルホン酸(CF3SO3
-)、ベンゼンスルホン酸(C6H5SO3
-)等のスルホン酸基含有アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF3SO2)2N-)、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン((FSO2)2N-)等のイミド基含有アニオン、イミダゾレートイオン((C3H3N2)-)、ベンゾイミダゾレートイオン((C7H5N2)-)、ベンゾトリアゾレートイオン((C6H4N3)-)等の窒素複素環含有アニオン、酢酸イオン(CH3COO-)、ギ酸イオン(HCOO-)、プロピオン酸イオン(C2H5COO-)、シュウ酸イオン((COO)2
2-)、マレイン酸イオン(C2H2(COO)2
2-)、マロン酸イオン(CH2(COO)2
2-)等のカルボン酸基含有アニオン、グリシンイオン((NH2)CH2COO-)、アラニンイオン(((NH2)C2H4COO-)、β-アラニンイオン((NH2)C2H4COO-)、イソロイシンイオン(CH3CH2(CH3)CH(NH2)CHCOO-)、ロイシンイオン((CH3)2CHCH2(NH2)CHCOO-)、メチオニンイオン(CH3SC2H4(NH2)CHCOO-)、バリンイオン((CH3)2CH(NH2)CHCOO-)、フェニルアラニンイオン(PhCH2(NH2)CHCOO-)、トリプトファンイオン(INDOLE-CH2(NH2)CHCOO-)、チロシンイオン(p-HO-PhCH2(NH2)CHCOO-)、アスパラギンイオン(H2NCOCH2(NH2)CHCOO-)、システインイオン(HSCH2(NH2)CHCOO-)、グルタミンイオン(H2NCOC2H4(NH2)CHCOO-)、セリンイオン(HOCH2(NH2)CHCOO-)、スレオニンイオン(CH3(OH)CH(NH2)CHCOO-)、アスパラギン酸イオン(HOCOCH2(NH2)CHCOO-)、グルタミン酸イオン(HOCOC2H4(NH2)CHCOO-)、アルギニンイオン(H2N(HN)=CNHC3H6(NH2)CHCOO-)、ヒスチジンイオン(IMID-CH2(NH2)CHCOO-)、L-(+)-リジンイオン(H2NC4H8(NH2)CHCOO-)、D-(-)-リジンイオン(H2NC4H8(NH2)CHCOO-)、DL-リジンイオン(H2NC4H8(NH2)CHCOO-)、プロリンイオン(Pyl-COO-)等のアミノ酸系アニオン、テトラフルオロボレート(BF4
-)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6
-)等が挙げられる。なお、これらのアニオンがキラル中心を有する場合、光学異性体であってもラセミ体であってもよい。これらの中、合成の容易性の観点から、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、リン酸イオン(H2PO4
-)、メタノールアミンリン酸イオン(NH2CH2OPO3
2-)、エタノールアミンリン酸イオン(NH2C2H4OPO3
2-)、プロパノールアミンリン酸イオン(NH2C3H6OPO3
2-)、ブタノールアミンリン酸イオン(NH2C4H8OPO3
2-)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン((CF3SO2)2N-)、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン((FSO2)2N-)、ベンゾトリアゾレートイオン((C6H4N3)-)、アラニンイオン(((NH2)C2H4COO-)、β-アラニンイオン(((NH2)C2H4COO-)、グリシンイオン((NH2)CH2COO-)、L-(+)-リジンイオン(H2NC4H8(NH2)CHCOO-)であることが好ましい。
【0036】
一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体の25℃粘度は、好ましくは10~5000cP、特に好ましくは15~3500cPである。一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体の25℃粘度が上記範囲にあることにより、多孔質担体の細孔にイオン性液体を効果的に保持することができるので、二酸化炭素の吸収率が高くなる。
【0037】
なお、本発明の二酸化炭素吸収剤において、多孔質担体に2種以上の一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体が担持されている場合、2種以上のイオン性液体が混合された混合液の状態で担持されていてもよいし、あるいは、2種以上のイオン性液体のそれぞれが、多孔質担体の別の部分に担持されていてもよい。つまり、例えば、2種のイオン性液体を多孔質担体に担持する場合、2種のイオン性液体を先に混合しておき、得られる混合液を多孔質担体の細孔内に取り込ませて担持させてもよいし、あるいは、先に、2種のイオン性液体のうちの1種を、多孔質担体の細孔内に取り込ませ、次いで、もう1種のイオン性液体を、多孔質担体の細孔内に取り込ませて、2種のイオン性液体を担持させてもよい。3種以上のイオン性液体を多孔質担体に担持する場合も同様である。
【0038】
本発明の二酸化炭素吸収剤は、上記本発明の二酸化炭素吸収剤に、水蒸気による接触処理が施されたものであってもよい。つまり、本発明の二酸化炭素吸収剤としては、少なくとも多孔質担体と、該多孔質担体に担持されているイオン性液体と、からなり、イオン性液体が、前記一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体である二酸化炭素吸収剤であり、水蒸気に接触させてなるものが挙げられる。言い換えると、本発明の二酸化炭素吸収剤としては、少なくとも多孔質担体と、該多孔質担体に担持されているイオン性液体と、からなり、イオン性液体が、前記一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体である二酸化炭素吸収剤に、水蒸気を接触させることにより、含水させたものが挙げられる。
【0039】
本発明の二酸化炭素吸収剤は、二酸化炭素を含む混合ガスから、二酸化炭素ガスを分離回収することができる。前記混合ガスは、二酸化炭素を含むガスであれば、その他の成分は特に限定されない。前記その他の成分としては、例えば、酸素、窒素、一酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、五酸化二窒素、一酸化硫黄、二酸化硫黄、三酸化硫黄、リン酸、硫酸、硝酸、塩酸、水等が挙げられる。
【0040】
本発明の二酸化炭素吸収剤では、多孔質担体に担持されているものが、化学的吸着が可能な一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体であるので、0℃から40℃未満程度の低温且つ常圧(絶対圧:1.013MPa)程度の条件で二酸化炭素吸収率が高く、且つ、二酸化炭素の脱離が容易であるため、二酸化炭素吸収剤の再生が容易である。
【0041】
次いで、本発明の二酸化炭素吸収剤を用いた二酸化炭素分離回収方法について説明する。
【0042】
本発明の第一の形態の二酸化炭素分離回収方法は、本発明の二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、該二酸化炭素吸収剤に、該混合ガス中の二酸化炭素を吸収させることにより、該混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程(A)と、
該二酸化炭素分離工程で二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を、40℃以上150℃以下の温度で加熱して、該二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素を脱離させることにより、該二酸化炭素吸収剤を再生させると共に、脱離させた二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程(B1)と、
を有することを特徴とする二酸化炭素分離回収方法である。
【0043】
本発明の第二の形態の二酸化炭素分離回収方法は、本発明の二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスを接触させて、該二酸化炭素吸収剤に、該混合ガス中の二酸化炭素を吸収させることにより、該混合ガスから二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離工程(A)と、
該二酸化炭素分離工程で二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を、水蒸気に接触させて、該二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素を脱離させることにより、該二酸化炭素吸収剤を再生させると共に、脱離させた二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程(B2)と、
を有することを特徴とする二酸化炭素分離回収方法である。
【0044】
本発明の第一の形態の二酸化炭素分離回収方法と本発明の第二の形態の二酸化炭素分離回収方法では、二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を分離する工程は、いずれも二酸化炭素分離工程(A)であり、同様である。
【0045】
二酸化炭素分離工程(A)は、本発明の二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスを接触させることにより、本発明の二酸化炭素吸収剤に、混合ガス中の二酸化炭素を吸収させる工程である。
【0046】
二酸化炭素分離工程(A)としては、例えば、本発明の二酸化炭素吸収剤が充填されている吸収剤充填カラム又は吸収剤充填塔に、二酸化炭素を含む混合ガスを供給して、二酸化炭素吸収剤に混合ガスを接触させて、二酸化炭素吸収剤に、混合ガス中の二酸化炭素を吸収させることにより、混合ガスから二酸化炭素を分離する形態が挙げられる。この形態の二酸化炭素分離工程(A)では、吸収剤充填カラム又は吸収剤充填塔に、混合ガスを供給することにより、混合ガスと二酸化炭素吸収剤を接触させ、また、吸収剤充填カラム又は吸収剤充填塔内で、二酸化炭素吸収剤と接触させた後の混合ガスを、吸収剤充填カラム又は吸収剤充填塔から排出する。また、吸収剤充填カラム又は吸収剤充填塔における、本発明の二酸化炭素吸収剤の充填方法は、特に制限されず、大気圧下又は減圧下で行うことができる。
【0047】
二酸化炭素分離工程(A)における二酸化炭素吸収剤の温度は、二酸化炭素吸収剤がその機能を発現できれば制限されないが、0℃以上40℃未満、特に5℃以上35℃以下であることが、効率的に二酸化炭素を吸収できる観点から好ましい。
【0048】
二酸化炭素分離工程(A)における圧力(絶対圧)は、特に制限されず、大気圧下で行うことができる。
【0049】
そして、二酸化炭素分離工程(A)では、二酸化炭素吸収剤に、二酸化炭素を含む混合ガスが接触することで、本発明の二酸化炭素吸収剤に、混合ガス中の二酸化炭素が吸収され、混合ガスから二酸化炭素を分離することができる。また、二酸化炭素分離工程(A)では、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤が得られる。
【0050】
本発明の第一の形態の二酸化炭素分離回収方法と本発明の第二の形態の二酸化炭素分離回収方法では、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から、二酸化炭素を脱離させる工程が、前者は、二酸化炭素回収工程(B1)であるのに対し、後者は、二酸化炭素回収工程(B2)である点で相違するので、各二酸化炭素回収工程について、説明する。
【0051】
本発明の第一の形態の二酸化炭素分離回収方法に係る二酸化炭素回収工程(以下、二酸化炭素回収工程(B1)とも記載する。)では、二酸化炭素分離工程(A)で二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を加熱することにより、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から、二酸化炭素を脱離させる。
【0052】
二酸化炭素回収工程(B1)としては、例えば、二酸化炭素分離工程(A)を行った後、吸収剤充填カラム又は吸収剤充填塔に充填されている二酸化炭素吸収剤を加熱することにより、二酸化炭素吸収剤を再生させると共に、脱離させた二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程(B1)が挙げられる。
【0053】
二酸化炭素回収工程(B1)において、二酸化炭素吸収剤の加熱温度は、40℃以上150℃以下、好ましくは45℃以上120℃以下である。一般的には加熱温度が高ければ高いほど、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素が脱離し易くなるが、本発明の二酸化炭素吸収剤は、40℃以上150℃以下、好ましくは45℃以上120℃以下で、且つ、二酸化炭素分離工程(A)の温度よりも若干高い温度で、二酸化炭素の脱離が可能である。
【0054】
二酸化炭素回収工程(B1)では、圧力(絶対圧)は、特に制限されず、大気圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。減圧下で行う場合の圧力(絶対圧)は、二酸化炭素吸収剤から効率よく二酸化炭素を脱離する観点から、0.1kPa以上100kPa以下、特に0.5kPa以上50kPa以下であることが好ましい。
【0055】
本発明の第一の形態の二酸化炭素分離回収方法では、二酸化炭素回収工程(B1)を行い得られる再生二酸化炭素吸収剤を、二酸化炭素分離工程(A)において二酸化炭素を含む混合ガスを接触させる二酸化炭素吸収剤として用いることにより、二酸化炭素分離工程(A)及び二酸化炭素回収工程(B1)を、2回以上繰り返し行うことができる。例えば、二酸化炭素分離工程(A)及び二酸化炭素回収工程(B1)を2回繰り返す場合は、「二酸化炭素分離工程(A)→二酸化炭素回収工程(B1)→二酸化炭素分離工程(A)→二酸化炭素回収工程(B1)」とのように行う。そして、二酸化炭素の吸収活性が持続する限りにおいて、二酸化炭素分離工程(A)及び二酸化炭素回収工程(B1)を繰り返すことができる。
【0056】
本発明の第二形態の二酸化炭素分離回収方法に係る二酸化炭素回収工程(以下、二酸化炭素回収工程(B2)とも記載する。)では、二酸化炭素分離工程(A)で二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤を水蒸気に接触させることにより、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から、二酸化炭素を脱離させる。
【0057】
二酸化炭素回収工程(B2)としては、例えば、二酸化炭素分離工程(A)を行った後、吸収剤充填カラム又は吸収剤充填塔に充填されている二酸化炭素吸収剤を水蒸気に接触させることにより、二酸化炭素吸収剤を再生させると共に、脱離させた二酸化炭素を回収する二酸化炭素回収工程が挙げられる。二酸化炭素回収工程(B2)は、二酸化炭素吸収剤に、水蒸気を、直接接触させるので、二酸化炭素吸収剤から、吸収した二酸化炭素を短時間且つ熱効率良く脱離させることができ、また、二酸化炭素を脱離させた後、二酸化炭素と水蒸気の混合気体を冷却して、水蒸気を凝縮させることで二酸化炭素と水の分離ができるので、二酸化炭素の回収が容易である。
【0058】
二酸化炭素回収工程(B2)において、二酸化炭素吸収剤に接触させる水蒸気の温度は、60℃以上150℃以下、好ましくは100℃以上120℃以下である。一般的には水蒸気の温度が高ければ高いほど、二酸化炭素吸収剤の加熱温度が高くなり、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素が脱離し易くなる。
【0059】
二酸化炭素回収工程(B2)では、吸収剤充填カラム又は吸収剤充填塔内の圧力(絶対圧)は、水が水蒸気として存在する圧力であれば、特に制限されないが、例えば、0.02MPa以上0.48MPa以下、好ましくは0.10MPa以上0.20MPa以下である。
【0060】
本発明の第二の形態の二酸化炭素分離回収方法では、二酸化炭素回収工程(B2)を行い得られる再生二酸化炭素吸収剤を、二酸化炭素分離工程(A)において二酸化炭素を含む混合ガスを接触させる二酸化炭素吸収剤として用いることにより、二酸化炭素分離工程(A)及び二酸化炭素回収工程(B2)を、2回以上繰り返し行うことができる。例えば、二酸化炭素分離工程(A)及び二酸化炭素回収工程(B2)を2回繰り返す場合は、「二酸化炭素分離工程(A)→二酸化炭素回収工程(B2)→二酸化炭素分離工程(A)→二酸化炭素回収工程(B2)」とのように行う。そして、二酸化炭素の吸収活性が持続する限りにおいて、二酸化炭素分離工程(A)及び二酸化炭素回収工程(B2)を繰り返すことができる。
【0061】
本発明の第二の形態の二酸化炭素分離回収方法のうち、本発明の二酸化炭素吸収剤として、多孔質担体が、細孔内に水を保持することができる多孔質体、例えば、活性炭、シリカゲル、層状珪酸塩、メソポーラスシリカ、ゼオライト、アルミノケイ酸塩、バーミキュライト、モレキュラーシーブ、多孔質シリカ、珪藻土、多孔性樹脂、多孔性繊維、多孔性金属有機構造体、多孔質アルミナ、多孔質セラミック、ポーラスコンクリート、活性白土又は粘土鉱物、好ましくは活性炭、シリカゲル、層状珪酸塩、メソポーラスシリカ、ゼオライト、アルミノケイ酸塩、バーミキュライト、モレキュラーシーブであるものを用いる形態は、二酸化炭素分離工程(A)に用いる本発明の二酸化炭素吸収剤が、「少なくとも細孔内に水を保持することができる多孔質体と、多孔質担体に担持されているイオン性液体と、からなり、イオン性液体が、前記一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体である二酸化炭素吸収剤」であり、該二酸化炭素吸収剤を用いて、二酸化炭素分離工程(A)及び二酸化炭素回収工程(B2)を行う形態である(以下、本発明の第二の形態の二酸化炭素分離回収方法(I)とも記載する。)。本発明の第二の形態の二酸化炭素分離回収方法(I)では、二酸化炭素回収工程(B2)を行い得られる再生二酸化炭素吸収剤を、二酸化炭素分離工程(A)において二酸化炭素を含む混合ガスを接触させる二酸化炭素吸収剤として用いることにより、二酸化炭素分離工程(A)及び二酸化炭素回収工程(B2)を、2回以上繰り返し行うことができる。そして、多孔質担体が細孔内に水を保持することができる多孔質体である本発明の二酸化炭素吸収剤は、水蒸気と接触することにより、多孔質体の細孔に適量保持された水分に二酸化炭素が吸収され、二酸化炭素吸収剤の二酸化炭素の吸収率が高くなる。そのため、本発明の第二の形態の二酸化炭素分離回収方法(I)では、二酸化炭素分離工程(A)及び二酸化炭素回収工程(B2)の2回目以降の繰り返しのときの二酸化炭素分離工程(A)での二酸化炭素の吸収率が高くなる。
【0062】
本発明の第二の形態の二酸化炭素分離回収方法(I)において、二酸化炭素回収工程(B2)を行い得られる再生二酸化炭素吸収剤の含水率を下げる含水率低減工程を行い、含水率を低減させた再生二酸化炭素吸収剤を、二酸化炭素分離工程(A)において二酸化炭素を含む混合ガスを接触させる二酸化炭素吸収剤として用いることができる。多孔質担体が細孔内に水を保持することができる多孔質体である本発明の二酸化炭素吸収剤は、水蒸気と接触し、含水率が高くなるに従い、二酸化炭素の吸収率が高くなっていくが、含水率が高くなり過ぎると、反対に、二酸化炭素の吸収率が低くなってしまう。そこで、含水率低減工程を行うことにより、多孔質担体が細孔内に水を保持することができる多孔質体である本発明の二酸化炭素吸収剤の含水率を、高い二酸化炭素の吸収性能を発揮できる含水率に調節することができる。なお、どの程度の含水率であれば、高い二酸化炭素の吸収性能を発揮できるかは、担体である多孔質体の諸物性、例えば、平均細孔径、細孔容積、BET比表面積等により異なるため、二酸化炭素吸収剤毎に、適切な含水率となるように、含水率低減工程を行い、含水率を調節する。
【0063】
含水率低減工程を行う方法としては、例えば、二酸化炭素吸収剤に60~100℃に加熱した空気、窒素などを直接接触させる方法や、二酸化炭素吸収剤を減圧下で加熱する方法が挙げられる。
【0064】
本発明の第二の形態の二酸化炭素分離回収方法(I)では、本発明の二酸化炭素吸収剤に、水蒸気を接触させる水蒸気接触工程を行い、水蒸気に接触させた二酸化炭素吸収剤を、二酸化炭素分離工程(A)において二酸化炭素を含む混合ガスを接触させる二酸化炭素吸収剤として用いることができる。
【0065】
水蒸気接触工程では、本発明の二酸化炭素吸収剤に、水蒸気を接触させることにより、本発明の二酸化炭素吸収剤を含水させる。
【0066】
水蒸気接触工程としては、例えば、本発明の二酸化炭素吸収剤が充填されている吸収剤充填カラム又は吸収剤充填塔に水蒸気を供給して、二酸化炭素吸収剤に水蒸気を接触させて、二酸化炭素吸収剤を含水させることにより、二酸化炭素吸収剤に水蒸気を接触させる水蒸気接触工程が挙げられる。
【0067】
水蒸気接触工程において、二酸化炭素吸収剤に水蒸気を接触させる時間は、特に制限されないが、5分間以上60分間未満、特に10分間以上15分間未満であることが、過剰な水分が多孔質担体に吸収されることを防ぐ観点から好ましい。
【0068】
そして、多孔質担体が細孔内に水を保持することができる多孔質体である本発明の二酸化炭素吸収剤は、水蒸気接触工程で水蒸気と接触することにより、多孔質体の細孔に適量に水分が保持され、保持された水分に二酸化炭素が吸収されるので、二酸化炭素吸収剤の二酸化炭素の吸収率が高くなる。そのため、本発明の第二の形態の二酸化炭素分離回収方法(I)では、水蒸気接触工程を行うことにより、1回のみ二酸化炭素分離工程(A)を行う場合は、その二酸化炭素分離工程(A)での二酸化炭素の吸収率が高くなり、また、二酸化炭素分離工程(A)及び二酸化炭素回収工程(B2)を2回目以上繰り返す場合は、1回目の二酸化炭素分離工程(A)での二酸化炭素の吸収率が高くなる。
【0069】
本発明の第一の形態の二酸化炭素分離回収方法及び本発明の第二の形態の二酸化炭素分離回収方法では、化学的吸収に優れた一般式(1)で表されるホスホニウム系イオン性液体が担持されている本発明の二酸化炭素吸収剤を、二酸化炭素の吸収に用いるため、混合ガス中の二酸化炭素の除去効率を高めることができる。
【実施例0070】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
〔合成例1〕
還流管、温度計、撹拌機を備えた1L四口フラスコを窒素置換して、トリブチルホスフィン80.9g(0.4モル)を仕込み、2-ブタノール500mlに懸濁させた3-ブロモプロピルアミン臭化水素酸塩のスラリー87.6g(0.4モル)を窒素気流中で添加した。これを、2-ブタノールの還流温度近傍である温度97~108℃ほどまで加熱して、8時間反応させて反応液を得た。室温まで冷却後、二硫化炭素による発色試験により、トリブチルホスフィンが残留していないことを確認した。
この反応液に、20%ナトリウムエチラート136.1g(0.4モル)を加え、ハイフロスーパーセル(富士フイルム和光純薬株式会社製)でセライト濾過することにより、析出した臭化ナトリウムを濾別した。得られた黄色の濾液をエバポレーターで濃縮した後、純水300ml及びジクロロメタン200mlを加えて抽出洗浄した。その後、水相を分離し、エバポレーターで濃縮後、エタノール300mlを加えてエタノール溶液とし、無水硫酸マグネシウムを加えて一昼夜脱水処理した。脱水処理後、ハイフロスーパーセル(富士フイルム和光純薬株式会社製)でセライト濾過したエタノール溶液をエバポレーターで濃縮することにより、粘度(25℃)1722cPの無色透明粘性液体125.9g(粗収率92.5%)を得た。得られた無色透明液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;34.10ppm
1H-NMR;0.98ppm(t,9H,-CH3),1.51~1.89ppm(m,14H,-CH2-),1.54~1.59ppm(m, 2H, -CH2-)2.37~2.65ppm(m,8H,P-CH2-),2.92ppm(t,2H,-CH2-NH2),7.35ppm(s,2H,-NH2)
この結果、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイドであることが確認された。
【0072】
〔合成例2〕
合成例1で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイド34.0g(0.1モル)を純水100mlに溶解した水溶液と、カリウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド31.9g(0.1モル)を純水100mlに溶解した水溶液を、室温で撹拌混合した。ここにジクロロメタン200mlを加えて撹拌し、純水を加えてジクロロメタン相を洗浄した。エバポレーターで減圧濃縮することで、粘度(25℃)307cPの無色透明粘性液体46.4g(粗収率85.9%)を得た。得られた無色透明液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;34.33ppm
1H-NMR;0.98ppm(t,9H,-CH3),1.46~1.76ppm(m,14H,-CH2-),2.08~2.26ppm(m,8H,P-CH2-),2.53ppm(s,2H,-NH2),2.84ppm(t,2H,-CH2-NH2)
この結果、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドであることが確認された。
【0073】
〔合成例3〕
還流管、撹拌機、温度計を備えた1L四つ口フラスコに、合成例1で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイド34.0g(0.1モル)を純水200mlに溶解した水溶液を用意した。ここに、1,2,3-ベンゾトリアゾール11.9g(0.1モル)及び水酸化ナトリウム4.8g(0.12モル)を純水200mlに溶解した水溶液を常温で添加した。50~55℃で3時間加熱し、冷却後、1-ブタノール300mlを加えて撹拌し、さらに純水300mlを2回加えて1-ブタノール相を洗浄した。エバポレーターで減圧濃縮して1-ブタノールを留去させることで、粘度(25℃)3351cPの黄色粘性液体33.2g(粗収率87.6%)を得た。得られた黄色粘性液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;33.75ppm
1H-NMR; 0.88ppm(t,9H,-CH3),1.15~1.38ppm(m,14H,-CH2-),1.71~1.85ppm(m,8H,P-CH2-),2.67ppm(t,2H,-CH2-NH2)7.08~7.12ppm(m,2H,aromatic),7.37ppm(s,2H,-NH2),7.84~7.87ppm(m,2H,aromatic)
この結果、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ベンゾトリアゾレートであることが確認された。
【0074】
〔合成例4〕
イオン交換樹脂(オルガノ社製、アンバーライトIRA400(OH)HG)を直径5cmのガラスカラムに400ml充填し、純水200mlをSV=1.0の速度で上方からチューブポンプを用いて流した。
次いで、合成例1で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイド34.0g(0.1モル)を純水400mlに溶解した水溶液を、カラムの上方からSV=1.0の速度で流し、さらに純水300mlを流して、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液680mlを得た。
得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液600mlと、エタノールアミンリン酸6.0g(0.042モル)を純水100mlに溶解した水溶液を、室温で撹拌混合した。得られた混合水溶液を、エバポレーターで減圧濃縮後、濃縮液をメタノールと混合したメタノール溶液を無水硫酸マグネシウムで一昼夜脱水し、脱水したメタノール溶液をエバポレーターで減圧濃縮することで、粘度(25℃)538cPの無色透明粘性液体26.3g(粗収率95.0%)を得た。得られた無色透明粘性液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;4.20ppm(s,PO4),34.13ppm(s,P+)
1H-NMR;0.97ppm(t,18H,-CH3),1.49~1.57ppm(m,24H,-CH2-CH2-),1.82~1.90ppm(m,4H,-CH2-),2.31~2.40(m,12H,P-CH2-),2.50~2.59ppm(m,4H,P-CH2-),3.00~3.12ppm(m,4H,-CH2-NH2),3.37ppm(m,10H,-O-CH2-CH2-,-NH2)
この結果、ビス(トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム)・エタノールアミンリン酸であることが確認された。
【0075】
〔実施例1〕
合成例1で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイド5.10gを、メタノール(東京化成工業株式会社製)100mlに溶解させ、粒子サイズ4~8メッシュの粒状活性炭白鷺G2c(大阪ガスケミカル株式会社製)45.60gに室温(25℃)で加えた。エバポレーターで回転させながら、徐々に真空度を上げて、重量が恒量となるまでメタノールを完全に留去して、活性炭にトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイドが担持された二酸化炭素吸収剤50.80gを得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0076】
〔実施例2〕
合成例2で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド4.99gを使用したこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、活性炭にトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが担持された二酸化炭素吸収剤48.90gを得た。このとき、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの添着率は10.2質量%であった。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0077】
〔実施例3〕
合成例3で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ベンゾトリアゾレート5.03gを使用したこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、活性炭にトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ベンゾトリアゾレートが担持された二酸化炭素吸収剤50.80gを得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0078】
〔実施例4〕
合成例4で得られたビス(トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム)・エタノールアミンリン酸5.10gを使用したこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、活性炭にビス(トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム)・エタノールアミンリン酸が担持された二酸化炭素吸収剤49.00gを得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0079】
〔比較例1〕
粒状活性炭白鷺G2c(大阪ガスケミカル株式会社製)を、エバポレーターで回転させながら、徐々に真空度を上げて、70℃で30分間減圧乾燥させた。得られた活性炭を、そのまま後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0080】
〔比較例2〕
トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート(日本化学工業株式会社製、ヒシコーリンPX-4MP)5.20gを、使用したこと以外は、実施例1と同じ操作を行い、活性炭にトリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェートが担持された二酸化炭素吸収剤49.60gを得た。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収・脱離試験で評価した。
【0081】
〔評価〕
(二酸化炭素吸収試験)
実施例及び比較例の二酸化炭素吸収剤を、内径19mmφ、長さ280mmのガラス製カラムに80ml充填し、空気を室温(25℃)下、100ml/分の流速で24時間流した。二酸化炭素濃度測定器(株式会社ガステック製、CD-1000)によりカラム入口及び出口の二酸化炭素濃度を測定した。二酸化炭素吸収率は、以下の式に基づいて算出した。結果を表1に示す。
二酸化炭素吸収率(%)=((カラム入口二酸化炭素濃度-カラム出口二酸化炭素濃度)/カラム入口二酸化炭素濃度)×100
【0082】
【0083】
<イオン性液体No.>
・イオン性液体1:トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイド
・イオン性液体2:トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド
・イオン性液体3:トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ベンゾトリアゾレート
・イオン性液体4:ビス(トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム)・エタノールアミンリン酸
・イオン性液体5:トリブチルメチルホスホニウム・ジメチルホスフェート
【0084】
表1に示した結果から、実施例1~4の二酸化炭素吸収剤は二酸化炭素吸収に優れていることが判る。一方、比較例1~2の二酸化炭素吸収剤は、各実施例と比べて二酸化炭素吸収性能に劣っていることが判る。
【0085】
(二酸化炭素脱離試験)
前記実施例1~4における二酸化炭素吸収試験後の充填カラムを、カラム出口の二酸化炭素濃度が300ppmを超えるまで空気を流して、二酸化炭素吸収剤を破過させた。その後、ダイヤフラムポンプで4.5kPaまで真空引きし、60~70℃で30分間、リボンヒーターで加熱した。冷却後、前記二酸化炭素吸収試験と同様の方法にて、空気を室温(25℃)下、100ml/分の流速で24時間流し、二酸化炭素濃度測定器(株式会社ガステック製、CD-1000)によりカラム入口及び出口の二酸化炭素濃度を測定した。その結果を表2に示す。
【0086】
【0087】
表2に示した結果から、二酸化炭素吸収剤を破過させた後であっても、真空下で加熱することにより、再び二酸化炭素を吸収できるようになることから、実施例1~4における二酸化炭素吸収剤から二酸化炭素が脱離したことが判る。
【0088】
〔実施例5〕
(水蒸気再生及び二酸化炭素吸収試験)
実施例2で得た二酸化炭素吸収剤に対し、二酸化炭素吸収試験を行った(初期)後、オイルバスで水蒸気を発生させ、二酸化炭素吸収剤に、15分間水蒸気を接触させて水蒸気再生を行った。
次いで、水蒸気に接触させた二酸化炭素吸収剤を、内径20mm、長さ300mmのガラス製カラムに90ml充填し、空気ポンプにて大気(室温25℃、CO2平均濃度:400ppm)を100ml/分の流速で連続通気する二酸化炭素吸収試験を行った。カラム出口の二酸化炭素濃度をデータロガー(株式会社ティアンドデイ製、TR-76Ui-S)で測定及び記録し、破過して二酸化炭素濃度が上昇し始める時間(破過時間)を求めた。含水率は、水蒸気接触により増加した重量に基づいて求め、通気させた大気容量から吸収したCO2モル数を求め、イオン性液体のモル当たりの吸収率を比較した。理論上、イオン性液体2モルで1モルのCO2を吸収するので、吸収率は最大で0.5となるため、理論吸収効率は、理論最大吸収率に対するイオン性液体のモル当たりの二酸化炭素吸収モル比として求めた。
水蒸気再生及び二酸化炭素吸収試験を4回繰り返した。その結果を表3に示す。
【0089】
【0090】
表3に示した結果から、初期の二酸化炭素吸収試験後の二酸化炭素吸収剤を、水蒸気と接触させた再生二酸化炭素吸収剤は、二酸化炭素を吸収する能力が復活し、二酸化炭素の吸収効率にも優れていることが判る。
【0091】
〔実施例6〕
(水蒸気再生及び二酸化炭素吸収試験)
トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの添着率を9.1質量%とすること以外は、実施例2と同様にして得た二酸化炭素吸収剤に対し、二酸化炭素吸収試験を行った後、オイルバスで水蒸気を発生させ、二酸化炭素吸収剤に、5分間水蒸気を接触させて再生を行った。
次いで、水蒸気に接触させた二酸化炭素吸収剤に対し、実施例5と同様の方法で、二酸化炭素吸収試験を行った。その結果を表4に示す。
水蒸気再生及び二酸化炭素吸収試験を3回繰り返した。その結果を表3に示す。
【0092】
【0093】
表4に示した結果から、初期の二酸化炭素吸収試験後の二酸化炭素吸収剤を、水蒸気と接触させた再生二酸化炭素吸収剤は、二酸化炭素を吸収する能力が復活し、二酸化炭素の吸収効率にも優れていることが判る。
【0094】
〔実施例7〕
(水蒸気再生、加熱空気脱水及び二酸化炭素吸収試験)
トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドの添着率を11.4質量%とすること以外は、実施例2と同様にして得た二酸化炭素吸収剤に対し、二酸化炭素吸収試験を行った後、オイルバスで水蒸気を発生させ、二酸化炭素吸収剤に、15分間水蒸気を接触させて再生を行った。2回目の再生時には、15分間水蒸気の接触の後に、80℃に加熱した空気を15分間流して、水分を気化させ含水率の上昇を抑えた。
次いで、水蒸気に接触させた二酸化炭素吸収剤に対し、実施例5と同様の方法で、二酸化炭素吸収試験を行った。その結果を表5に示す。
水蒸気再生及び二酸化炭素吸収試験を3回繰り返した。その結果を表5に示す。
【0095】
【0096】
表5に示した結果から、初期の二酸化炭素吸収試験後の二酸化炭素吸収剤を、水蒸気と接触させた再生二酸化炭素吸収剤は、二酸化炭素を吸収する能力が復活し、二酸化炭素の吸収効率にも優れていることが判る。また、水蒸気接触の後に加熱した空気を流して含水率を調整した再生二酸化炭素吸収剤も、二酸化炭素の吸収効率に優れていることが判る。
【0097】
〔合成例5〕
イオン交換樹脂(オルガノ社製、アンバーライトIRA400J Cl、交換容量1.4等量/樹脂容量L)をガラスカラム(内径65mmφ×長さ500mm)に1,500ml充填し、水酸化ナトリウム80g(2.0モル)を溶解した水溶液1,000mlをSV=1.0の速度で上方からチューブポンプを用いて流し、更に流出液が中性になるまで純水を流した。
次いで、合成例1で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ブロマイド140.0g(0.41モル)を純水500mlに溶解した水溶液を、カラムの上方からSV=1.0の速度で流し、さらに純水1,000mlを流して、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液1,550gを得た。1/10N塩酸滴定液で中和滴定し、濃度6.5%、収率89.0%であった。
得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液500g(0.12モル)にβ-アラニン10.7g(0.12モル)を室温で溶解させた。得られた混合水溶液を、エバポレーターで減圧濃縮後、濃縮液をメタノールと混合したメタノール溶液を無水硫酸マグネシウムで一昼夜脱水し、脱水したメタノール溶液をエバポレーターで減圧濃縮することで、粘度(25℃)288cPの無色透明粘性液体41.4g(粗収率99.0%)を得た。得られた無色透明粘性液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR; 34.34ppm
1H-NMR; 0.80ppm(t,9H,-CH3),1.31~1.45ppm(m,12H,-CH2-),1.54~1.59ppm(m,2H,-CH2-)2.03~2.08ppm(m,8H,P-CH2-),2.19ppm(t, 2H, -CH2-COO), 2.58, 2.69ppm(t,2H,-CH2-NH2),3.20, 3.21ppm(s,-NH2)
この結果、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・β-アラニンであることが確認された。
【0098】
〔合成例6〕
合成例5で使用したトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液500g(0.12モル)に、L-(+)-リジン17.5g(0.12モル)を室温で溶解させた。得られた混合水溶液を、エバポレーターで減圧濃縮後、濃縮液をメタノールと混合したメタノール溶液を無水硫酸マグネシウムで一昼夜脱水し、脱水したメタノール溶液をエバポレーターで減圧濃縮することで、粘度(25℃)506cPの無色透明粘性液体48.2g(粗収率99.0%)を得た。得られた無色透明粘性液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR; 34.45ppm
1H-NMR; 0.85ppm(t,9H,-CH3),1.24~1.61ppm(m,18H,-CH2-),2.10~2.12ppm(m,8H,P-CH2-), 2.54, 2.64ppm(t,2H,-CH2-NH2),3.10ppm(t, 1H, -CH-COO)3.24, 3.25ppm(s,-NH2)
この結果、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・L-(+)-リジンであることが確認された。
【0099】
〔合成例7〕
合成例5で使用したトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・ヒドロキシドの水溶液500g(0.12モル)に、グリシン9.0g(0.12モル)を室温で溶解させた。得られた混合水溶液を、エバポレーターで減圧濃縮後、濃縮液をメタノールと混合したメタノール溶液を無水硫酸マグネシウムで一昼夜脱水し、脱水したメタノール溶液をエバポレーターで減圧濃縮することで、粘度(25℃)580cPの無色透明粘性液体39.7g(粗収率99.0%)を得た。得られた無色透明粘性液体のNMR同定データは以下のとおりである。
(同定データ)
31P-NMR;34.34ppm
1H-NMR; 0.80ppm(t,9H,-CH3),1.31~1.60ppm(m,14H,-CH2-),1.98~2.10ppm(m,8H,P-CH2-), 2.59ppm(t,2H,-CH2-NH2),3.04ppm(s,-NH2)
この結果、トリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・グリシンであることが確認された。
【0100】
〔実施例8〕
合成例5で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・β-アラニン30.3g(0.086モル)を純水300mlに溶解し、シリカゲル(富士シリシア化学株式会社製Q-30、粒径1.70~4.00mm)70.0gを添加し、室温でシリカゲルが透湿するまで静置した。エバポレーターで減圧濃縮して、添加した水を完全に留去することで、シリカゲルにトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・β-アラニンが添着した二酸化炭素吸収剤100.9gを得た。添着率は30.0質量%であった。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収試験で評価した。
【0101】
〔実施例9〕
合成例5で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・β-アラニン30.2g(0.086モル)を純水300mlに溶解し、シリカゲル(富士シリシア化学株式会社製Q-30、粒径1.70~4.00mm)55.9gを添加し、室温でシリカゲルが透湿するまで静置した。エバポレーターで減圧濃縮して、添加した水を完全に留去することで、シリカゲルにトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・β-アラニンが添着した二酸化炭素吸収剤86.3gを得た。添着率は35.0質量%であった。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収試験で評価した。
【0102】
〔実施例10〕
合成例5で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・β-アラニン30.5g(0.087モル)を純水300mlに溶解し、シリカゲル(富士シリシア化学株式会社製Q-30、粒径1.70~4.00mm)45.9gを添加し、室温でシリカゲルが透湿するまで静置した。エバポレーターで減圧濃縮して、添加した水を完全に留去することで、シリカゲルにトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・β-アラニンが添着した二酸化炭素吸収剤76.9gを得た。添着率は40.0質量%であった。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収試験で評価した。
【0103】
〔実施例11〕
合成例6で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・L-(+)-リジン35g(0.086モル)を純水300mlに溶解し、シリカゲル(富士シリシア化学株式会社製Q-30、粒径1.70~4.00mm)81.6gを添加し、室温でシリカゲルが透湿するまで静置した。エバポレーターで減圧濃縮して、添加した水を完全に留去することで、シリカゲルにトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・L-(+)-リジンが添着した二酸化炭素吸収剤117.0gを得た。添着率は30.0質量%であった。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収試験で評価した。
【0104】
〔実施例12〕
合成例7で得られたトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・グリシン36.0g(0.108モル)を純水300mlに溶解し、シリカゲル(富士シリシア化学株式会社製Q-30、粒径1.70~4.00mm)66.8gを添加し、室温でシリカゲルが透湿するまで静置した。エバポレーターで減圧濃縮して、添加した水を完全に留去することで、シリカゲルにトリブチル(3-アミノプロピル)ホスホニウム・グリシンが添着した二酸化炭素吸収剤103.2gを得た。添着率は35.0質量%であった。得られた二酸化炭素吸収剤を、後述する二酸化炭素吸収試験で評価した。
【0105】
〔評価〕
(二酸化炭素吸収試験)
実施例8~11の二酸化炭素吸収剤を、内径20mm、長さ300mmのガラス製カラムに90ml充填し、空気ポンプにて大気(室温25℃、CO2平均濃度:400ppm)を100ml/分の流速で連続通気する二酸化炭素吸収試験を行った。カラム出口の二酸化炭素濃度をデータロガー(株式会社ティアンドデイ製、TR-76Ui-S)で測定及び記録し、破過して二酸化炭素濃度が上昇し始める時間(破過時間)を求めた。理論上、イオン性液体2モルで1モルのCO2を吸収するので、吸収率は最大で0.5となるため、理論吸収効率は、理論最大吸収率に対するイオン性液体のモル当たりの二酸化炭素吸収モル比として求めた。吸収能力は、シリカゲル吸着剤グラム当たりの二酸化炭素吸収量(mmol)として求めた。結果を表6に示す。
【0106】
【0107】
表6に示した結果から、実施例8~12で得られた二酸化炭素吸収剤は、二酸化炭素の吸収効率に優れていることが判る。