IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ハイデルベルガー ドルツクマシーネン アクチエンゲゼルシヤフトの特許一覧

特開2024-59596低摩耗性付着防止被覆材を製造するための粒子含有組成物
<>
  • 特開-低摩耗性付着防止被覆材を製造するための粒子含有組成物 図1
  • 特開-低摩耗性付着防止被覆材を製造するための粒子含有組成物 図2
  • 特開-低摩耗性付着防止被覆材を製造するための粒子含有組成物 図3
  • 特開-低摩耗性付着防止被覆材を製造するための粒子含有組成物 図4
  • 特開-低摩耗性付着防止被覆材を製造するための粒子含有組成物 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059596
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】低摩耗性付着防止被覆材を製造するための粒子含有組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240423BHJP
   C09D 183/06 20060101ALI20240423BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240423BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D183/06
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023178646
(22)【出願日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】22202057
(32)【優先日】2022-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】390009232
【氏名又は名称】ハイデルベルガー ドルツクマシーネン アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Heidelberger Druckmaschinen AG
【住所又は居所原語表記】Kurfuersten-Anlage 52-60, D-69115 Heidelberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マリーナ クラフト
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DL051
4J038HA036
4J038HA446
4J038KA20
4J038MA14
4J038PA19
4J038PB11
4J038PC02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、印刷機シリンダーまたは印刷機シリンダーパッキング用の、付着防止性および耐摩耗性を示す粒子含有被覆材を製造するための組成物を提供する。
【解決手段】組成物は、少なくとも1つのゾル-ゲル前駆体化合物と、一方では1.0μm~2.0μm、他方では1.0μm未満のザウター径d32を有する炭化ケイ素のような硬質固体粒子の混合物とを含み、これら2種類の硬質固体粒子の混合比は、1.5:1~1:1.5の範囲である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子含有被覆材を製造するための組成物であって、前記組成物は、以下の成分:
A)少なくとも1つのゾル-ゲル前駆体化合物、および
B)動的光散乱法により測定された1.0μm~2.0μmの範囲のザウター径d32を有する固体粒子P1)、および動的光散乱法により測定された1.0μm未満のザウター径d32を有する固体粒子P2)
を含み、前記固体粒子P1)と前記固体粒子P2)との量比は、1.5:1~1:1.5の範囲である、組成物。
【請求項2】
前記成分A)が、加水分解性および/または縮合性である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記成分A)が、元素B、Si、Al、ZrおよびTiのうちの少なくとも1つを含む、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
前記成分A)が、少なくとも1つのアルコキシドを含む、請求項1から3までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記成分A)が、少なくとも1つの有機ケイ素化合物を含む、請求項1から4までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
前記成分A)が、少なくとも1つのケイ素酸化物ゾルを含む、請求項1から5までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
前記成分A)が、式(I)
Si(R4-a (I)
[式中、
aは、1、2または3を表し、
は、互いに独立して、1~20個のC原子を有する飽和または不飽和の炭化水素基を表し、前記炭化水素基は、1つ以上の二重結合および/または三重結合を有していてもよく、かつ置換されていてもよいし、置換されていなくてもよく、
は、互いに独立して、H、ハロゲンまたはORを表し、ここで、Rは、1~20個のC原子を有する飽和または不飽和の炭化水素基を表し、前記炭化水素基は、1つ以上の二重結合および/または三重結合を有していてもよく、かつ置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい]の有機ケイ素化合物ならびにその加水分解生成物および縮合生成物から選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項1から6までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
前記成分A)が、請求項7記載の式(I)[式中、
は、互いに独立して、C~C20アルキル、C~C20アルケニル、C~C20アルキニル、C~C14アリール、C~C20アリールアルキル、C~C20アルキルアリール、C~C20アリールアルケニル、C~C20アルケニルアリール、C~C20アリールアルキニルまたはC~C20アルキニルアリールを表し、基Rは、1つ以上の置換基を有することができ、前記置換基は、ハロゲン、および任意に置換されたアミノ基、アルデヒド基、ケト基、C~C20アルキルカルボニル基、カルボキシ基、メルカプト基、シアノ基、ヒドロキシ基、C~C20アルコキシ基、C~C20アルコキシカルボニル基、スルホン酸基、リン酸基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、エポキシ基およびビニル基から選択され、
は、互いに独立して、H、ハロゲン、C~C20アルコキシ、C~C14アリールオキシまたはC~C20アルコキシ-C~C20アルコキシを表す]の化合物ならびにその加水分解生成物および縮合生成物から選択される少なくとも1つの化合物を含む、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
前記成分A)の量が、前記組成物全体に対して20~80重量%の範囲である、請求項1から8までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
前記固体粒子P1)および前記固体粒子P2)がそれぞれ、7以上のモース硬度を有する、請求項1から9までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
前記固体粒子P1)および前記固体粒子P2)がそれぞれ、互いに独立して、石英粒子、コランダム粒子、炭化ケイ素粒子、ダイヤモンド粒子およびそれらの混合物から選択され、特に炭化ケイ素粒子から選択される、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
前記成分B)の量が、前記組成物全体に対して5~30重量%の範囲である、請求項1から11までのいずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
金属表面、セラミック表面、プラスチック表面、ガラス表面、石材表面、木材表面およびそれらの組み合わせを被覆するための、請求項1から12までのいずれか1項記載の組成物の使用。
【請求項14】
印刷機用の被覆された物品であって、前記物品は、印刷工程中に少なくとも一時的に被印刷物と接触面で接触し、前記接触面は、少なくとも部分領域において請求項1から12までのいずれか1項記載の組成物で被覆されている、物品。
【請求項15】
前記被覆された物品が、輪転印刷機のウェブ搬送シリンダー用の交換可能なシリンダーパッキングまたは輪転印刷機のウェブ搬送シリンダーである、請求項14記載の印刷機用の被覆された物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子含有被覆材を製造するための組成物、表面を被覆するための該組成物の使用、および該組成物で被覆された印刷機用物品に関する。
【0002】
製版、印刷および印刷仕上げ用のグラフィック産業の様々な機械では、被印刷物、例えば紙、厚紙またはフィルムが搬送され、処理される。印刷機における被印刷物の搬送は、回転式シリンダーにより行うことができ、このシリンダーは、この目的で被印刷物接触面を有しており、この被印刷物接触面は、被覆されたシリンダーの形態で、またはシリンダーパッキングもしくは「ジャケット」とも呼ばれるシリンダー用の交換可能なパッキングの形態で存在する。この被印刷物接触面には、通常は2つの特性が望まれ、すなわち、一方では、付着防止性、すなわち撥インク性、撥ラッカー性および防汚性が望ましく、他方では、これらの面は、交換がほとんど必要ないように、可能な限り耐摩耗性であることが望ましい。被印刷物接触面用の公知の表面被覆材は、通常は平滑ではなく、一定の粗さを有している。これは特に、被印刷物の印圧面積を減少させ、前述の付着防止性および耐摩耗性に関する表面特性をより効果的なものとすることを目的としている。
【0003】
原則的に、先行技術では、印刷機シリンダー用の耐摩耗性付着防止表面を製造するための様々な方法が説明されている。ガルバニック法、エンボス法、レーザ法、溶射法およびそれらの組み合わせに加えて、特にゾル-ゲル法も使用できる。
【0004】
ケイ素酸化物ゾルを使用し、硬質固体粒子を混和するゾル-ゲル技術に基づいて印刷機シリンダー用の耐摩滅性付着防止被覆材を製造するための組成物は、先行技術に原理的に記載されている。
【0005】
独国特許出願公開第102012004278号明細書には、ゾル-ゲル法に基づく印刷機シリンダー用の耐摩滅性付着防止表面被覆材が記載されている。
【0006】
独国特許出願公開第102011010718号明細書には、ゾル-ゲル技術を用いた印刷機シリンダー用の耐摩滅性付着防止被覆材を製造するための組成物が記載されており、被覆された表面は、硬質微粒子を含む。
【0007】
硬質固体粒子を含む組成物であって、該組成物により、印刷機シリンダー上の表面被覆材または印刷機シリンダー用のシリンダーパッキング上の表面被覆材を製造することができ、その付着防止性に加えて、より低い摩滅性、したがってより高い耐摩耗性を示す組成物が、依然として必要とされている。
【0008】
したがって、本発明の課題は、硬質固体粒子を含み、かつ実用に適した付着防止性を示しつつ、特に耐摩耗性を示す被印刷物接触面を製造することができる組成物を提供することである。
【0009】
驚くべきことに、今般、一方では1~2μmの粒径、そして他方では1μm未満の粒径を有する硬質固体粒子を含むケイ素酸化物ゾルの混合物から被覆材を製造し、サイズの異なるこれら2種類の固体粒子をほぼ同じ混合比で使用した場合、この被覆材が、付着防止性で、かつ特に耐摩滅性を示すことが見出された。このような粒子含有被覆材は、実用に特に適した粗さパラメータ、特に最適なRp値およびRk値を有する。
【0010】
本発明による組成物を用いることで、その付着防止性および特に低摩耗性ゆえに摩損せずに特に多数回の印刷工程に耐える、被印刷物と接触する粒子含有被覆材を製造することができる。この組成物により、印刷機シリンダー上の被覆材および印刷機シリンダー用の被覆されたシリンダーパッキングを比較的容易に、かつ低コストで製造することができる。手間がかかり、かつ高コストであるガルバニック法、エンボス法およびレーザ法、ならびに溶射法を用いる必要はない。
【0011】
したがって、本発明の第1の態様は、粒子含有被覆材を製造するための組成物であって、該組成物は、以下の成分A)およびB):
A)少なくとも1つのゾル-ゲル前駆体化合物、および
B)動的光散乱法により測定された1.0μm~2.0μmの範囲のザウター径d32を有する固体粒子P1)、および動的光散乱法により測定された1.0μm未満のザウター径d32を有する固体粒子P2)
を含み、固体粒子P1)と固体粒子P2)との量比は、1.5:1~1:1.5の範囲である、組成物に関する。
【0012】
好ましい一実施形態において、固体粒子P1)は、動的光散乱法により測定された1.0μm~2.0μmの範囲のザウター径d32を有し、固体粒子P2)は、動的光散乱法により測定された0.5μm未満のザウター径d32を有する。特に好ましい一実施形態において、固体粒子P1)は、動的光散乱法により測定された1.1μm~1.8μmの範囲、好ましくは動的光散乱法により測定された1.2μm~1.6μmの範囲のザウター径d32を有し、固体粒子P2)は、動的光散乱法により測定された0.5μm未満のザウター径d32を有する。
【0013】
さらなる好ましい一実施形態において、固体粒子P1)は、動的光散乱法により測定された1.0μm~2.0μmの範囲のザウター径d32を有し、固体粒子P2)は、動的光散乱法により測定された0.01μm~0.5μmの範囲、好ましくは動的光散乱法により測定された0.05μm~0.5μmの範囲のザウター径d32を有する。特に好ましい一実施形態において、固体粒子P1)は、動的光散乱法により測定された1.1μm~1.8μmの範囲、好ましくは動的光散乱法により測定された1.2μm~1.6μmの範囲のザウター径d32を有し、固体粒子P2)は、動的光散乱法により測定された0.01μm~0.5μmの範囲、好ましくは動的光散乱法により測定された0.05μm~0.5μmの範囲のザウター径d32を有する。
【0014】
ザウター径d32は、当業者に原理的に知られている。これは、考慮される個々の固体粒子P1)またはP2)の集合体の総体積を、考慮される個々の固体粒子P1)またはP2)の集合体と同一の体積および同一の表面積を全体として有する同一のサイズの球体に数学的に変換することによって得られる仮想的な球体の直径算出値を表すものである。ザウター径d32は、例えば動的光散乱法によりDIN ISO 13320に準拠して求めることができる。
【0015】
固体粒子P1)およびP2)はそれぞれ、好ましくは5:1未満、特に好ましくは3:1未満、非常に特に好ましくは2:1未満のアスペクト比を有する。好ましい一実施形態において、固体粒子P1)およびP2)はそれぞれ、ほぼ球状の構造を有する。
【0016】
本発明によれば、成分B)において、固体粒子P1)と固体粒子P2)との量比は、1.5:1~1:1.5の範囲であり、好ましくは1.3:1~1:1.3の範囲であり、特に好ましくは1.1:1~1:1.1の範囲である。ここでいう量比とは、数値的な量比のことである。換言すれば、成分B)において、特に好ましくは固体粒子P1)および固体粒子P2)がほぼ同数存在し、2つの固体粒子P1)またはP2)のうちの一方の数値的過剰は、せいぜいわずかにしか存在しない。
【0017】
粒子含有被覆材を製造するための本発明による組成物は、固体粒子P1)を、組成物全体に対して好ましくは1~40重量%の範囲、特に好ましくは2~30重量%の範囲、非常に特に好ましくは5~20重量%の範囲の量で含み、固体粒子P2)を、組成物全体に対して好ましくは0.5~35重量%の範囲、特に好ましくは1~25重量%の範囲、非常に特に好ましくは2~20重量%の範囲の量で含む。
【0018】
好ましい一実施形態において、成分B)の量、すなわち固体粒子P1)の量に固体粒子P2)の量を加えた量は、組成物全体に対して2~50重量%の範囲、好ましくは3~40重量%の範囲、特に好ましくは5~30重量%の範囲である。
【0019】
本発明による組成物で使用される固体粒子P1)およびP2)は、硬質固体粒子である。好ましい一実施形態において、固体粒子P1)および固体粒子P2)はそれぞれ、7以上のモース硬度を有する。
【0020】
固体粒子P1)は、すべて同一の材料からなっていても、異なる材料の混合物であってもよい。さらに、固体粒子P2)は、すべて同一の材料からなっていても、異なる材料の混合物であってもよい。好ましい一実施形態において、固体粒子P1)は、すべて同一の材料からなる。さらなる好ましい一実施形態において、固体粒子P2)は、すべて同一の材料からなる。特に好ましい一実施形態において、固体粒子P1)および固体粒子P2)の双方は、すべて同一の材料からなる。
【0021】
好ましい一実施形態において、固体粒子P1)および固体粒子P2)はそれぞれ、互いに独立して、石英粒子、コランダム粒子、炭化ケイ素粒子、ダイヤモンド粒子およびそれらの混合物から選択される。特に好ましい一実施形態において、固体粒子P1)および固体粒子P2)はそれぞれ、炭化ケイ素粒子から選択される。
【0022】
本発明による組成物は、成分A)として少なくとも1つのゾル-ゲル前駆体化合物を含む。ゾル-ゲル法のための前駆体化合物は、当業者に原理的に知られている。これは、ゾル-ゲル法の出発化合物である。これは、通常は加水分解および/または縮合によって架橋し、ゲルを形成する化合物である。先行技術に原理的に記載されているさらなる処理工程により、次いで、得られたゲルから乾燥表面被覆材を製造することができる。
【0023】
したがって、本発明の好ましい一実施形態において、成分A)は、加水分解性および/または縮合性である。
【0024】
さらなる好ましい一実施形態において、成分A)は、元素B、Si、Al、ZrおよびTiのうちの少なくとも1つ、好ましくは元素SiおよびTiのうちの少なくとも1つを含む。特に好ましい一実施形態において、成分A)は、元素Siを含む。
【0025】
さらなる好ましい一実施形態において、成分A)は、少なくとも1つのアルコキシド、好ましくは1~20個のC原子を有するアルコキシド、特に好ましくは1~10個のC原子を有するアルコキシド、好ましくはエタノラート、プロパノラートまたはブタノラートを含む。
【0026】
好ましい一実施形態において、成分A)は、有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1つの化合物を含む。特に好ましい一実施形態において、成分A)は、加水分解性および/または縮合性の少なくとも1つの有機ケイ素化合物を含む。
【0027】
さらなる好ましい一実施形態において、成分A)は、少なくとも1つのケイ素酸化物ゾルを含む。ケイ素酸化物ゾルは、当業者に原理的に知られている。これは、例えばコロイド分散液から固体表面被覆材を製造するゾル-ゲル法において工業的に使用されるケイ素ベースのゾルである。ケイ素酸化物ゾルは、例えば独国特許出願公開第10004132号明細書、独国特許出願公開第19952323号明細書およびそこで挙げられた参照文献に記載されている。このようなケイ素酸化物ゾルは、例えばFEW Chemicals GmbH、ドイツ・ビターフェルト=ヴォルフェンから市販されている。
【0028】
さらなる好ましい一実施形態において、成分A)は、式(I)
Si(R4-a (I)
[式中、
aは、1、2または3を表し、
は、互いに独立して、1~20個のC原子を有する飽和または不飽和の炭化水素基を表し、該炭化水素基は、1つ以上の二重結合および/または三重結合を有していてもよく、かつ置換されていてもよいし、置換されていなくてもよく、
は、互いに独立して、H、ハロゲンまたはORを表し、ここで、Rは、1~20個のC原子を有する飽和または不飽和の炭化水素基を表し、該炭化水素基は、1つ以上の二重結合および/または三重結合を有していてもよく、かつ置換されていてもよいし、置換されていなくてもよい]の化合物ならびにその加水分解生成物および縮合生成物から選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0029】
特に好ましい一実施形態において、成分A)は、上記式(I)[式中、
は、互いに独立して、C~C20アルキル、C~C20アルケニル、C~C20アルキニル、C~C14アリール、C~C20アリールアルキル、C~C20アルキルアリール、C~C20アリールアルケニル、C~C20アルケニルアリール、C~C20アリールアルキニルまたはC~C20アルキニルアリールを表し、基Rは、1つ以上の置換基を有することができ、該置換基は、ハロゲン、および任意に置換されたアミノ基、アルデヒド基、ケト基、C~C20アルキルカルボニル基、カルボキシ基、メルカプト基、シアノ基、ヒドロキシ基、C~C20アルコキシ基、C~C20アルコキシカルボニル基、スルホン酸基、リン酸基、アクリルオキシ基、メタクリルオキシ基、エポキシ基およびビニル基から選択され、
は、互いに独立して、H、ハロゲン、C~C20アルコキシ、C~C14アリールオキシまたはC~C20アルコキシ-C~C20アルコキシを表す]の化合物ならびにその加水分解生成物および縮合生成物から選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0030】
非常に特に好ましい一実施形態において、成分A)は、上記式(I)[式中、
は、互いに独立して、3-アミノプロピル、3-グリシドキシプロピル、3-メタクリロキシプロピル、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル、3-メルカプトプロピル、3-イソシアナトプロピルおよび3-(C~C20アルキル)カルバマトプロピルから選択される]の化合物から選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0031】
さらなる非常に特に好ましい一実施形態において、成分A)は、上記式(I)[式中、
は、互いに独立して、塩素、C~C10アルコキシ、C~C10アルコキシ-C~C10アルコキシおよびC~C10アリールオキシから選択される]の化合物から選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0032】
好ましい一実施形態において、本発明による組成物は、成分A)を、組成物全体に対して10~99mol%の範囲、好ましくは20~90mol%の範囲の量で含む。
【0033】
さらなる好ましい一実施形態において、本発明による組成物は、成分A)を、組成物全体に対して10~99重量%の範囲、好ましくは20~80重量%の範囲の量で含む。
【0034】
さらなる好ましい一実施形態において、本発明による組成物は、成分C)
C)式(II)
M(OR (II)
[式中、
nは、2、3または4を表し、
Mは、B、Al、Si、TiまたはZrを表し、
は、互いに独立して、C~C20アルキル、C~C14アリール、C~C20アシルまたはC~C20アルコキシ-C~C20アルキルを表す]の少なくとも1つの化合物、ならびにそれらの加水分解生成物および縮合生成物
から選択されるさらなる成分を含む。
【0035】
特に好ましい一実施形態において、式(II)の少なくとも1つの化合物は、テトラ-C~C20アルコキシシランから選択される。非常に特に好ましい一実施形態において、式(II)の少なくとも1つの化合物は、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランおよびテトラ-i-プロピルシランから選択され、特にテトラエトキシシランである。
【0036】
好ましい一実施形態において、本発明による組成物は、成分C)を、組成物全体に対して0.1~90mol%の範囲、好ましくは1~80mol%の範囲の量で含む。
【0037】
さらなる好ましい一実施形態において、本発明による組成物は、成分C)を、組成物全体に対して1~90重量%の範囲、好ましくは10~70重量%の範囲の量で含む。
【0038】
さらなる好ましい一実施形態において、本発明による組成物は、成分D)
D)フッ素含有ポリエーテルと、少なくとも1つのフッ素含有側鎖を有する有機ケイ素化合物とから選択される、少なくとも1つのフッ素含有有機化合物、ならびにそれらの加水分解生成物および縮合生成物
から選択されるさらなる成分を含む。
【0039】
特に好ましい一実施形態において、成分D)は、少なくとも1つのフッ素含有側鎖と、炭化水素鎖を介して連結された少なくとも1つの加水分解性シリル基とを有する少なくとも1つの有機ケイ素化合物を含む。さらなる特に好ましい一実施形態において、成分D)は、テトラフルオロエチレンオキシド単位およびヘキサフルオロプロピレンオキシド単位から選択される構造単位を含むフッ素含有ポリエーテルを含む。非常に特に好ましい一実施形態において、成分D)は、テトラフルオロエチレンオキシド単位およびヘキサフルオロプロピレンオキシド単位から選択される構造単位と、炭化水素鎖を介して連結された少なくとも1つの加水分解性シリル基とを含むフッ素含有ポリエーテルを含む。
【0040】
好ましい一実施形態において、本発明による組成物は、成分D)を、組成物全体に対して0.05~20mol%の範囲、好ましくは1~10mol%の範囲の量で含む。
【0041】
さらなる好ましい一実施形態において、本発明による組成物は、成分D)を、組成物全体に対して0.1~60重量%の範囲、好ましくは5~50重量%の範囲の量で含む。
【0042】
本発明による組成物は、例えば、成分A)および固体粒子P1)を含む第1の組成物と、成分A)および固体粒子P2)を含む第2の組成物とを提供し、第1の組成物および第2の組成物を、例えば撹拌によって一緒に混合することによって製造することができる。
【0043】
本発明のさらなる主題は、金属表面、セラミック表面、プラスチック表面、ガラス表面、石材表面、木材表面およびそれらの組み合わせを被覆するための、本発明による組成物の使用である。該被覆は、ゾル-ゲル被覆の先行技術において原理的に記載されている、例えば噴霧、浸漬、キャスティングなどの方法によって行うことができる。
【0044】
本発明のさらなる主題は、印刷機用の被覆された物品であって、該物品は、印刷工程中に少なくとも一時的に被印刷物と接触面で接触し、該接触面は、少なくとも部分領域において本発明による組成物で被覆されている物品である。好ましい一実施形態において、本発明による印刷機用の被覆された物品は、輪転印刷機のウェブ搬送シリンダー用の交換可能なシリンダーパッキングまたは輪転印刷機のウェブ搬送シリンダーである。
【0045】
本発明による被覆された物品、すなわち交換可能なシリンダーパッキングの製造は、例えば次の手順で行うことができる。厚さ0.5μm未満のステンレス鋼、プラスチック、真鍮またはアルミニウム製の平滑なベースプレートを準備し、表面体積を増加させることにより、上層のより良好な密着性を達成するために、ハンドグラインダーで研削して粗面化する。あるいは、機械研磨法、エッチング法および/またはレーザ法を用いることもできる。次いで、プライマーとも呼ばれる場合がある接着促進剤層を、例えば噴霧により施与して、上層の密着性を向上させる。その後、ケイ素酸化物ゾルと、P1)およびP2)としての炭化ケイ素粒子とを含む本発明による組成物を、例えば噴霧により施与する。その際、炭化ケイ素粒子P1)と炭化ケイ素粒子P2)とを、同一の数値量で、すなわち1:1の量比で使用する。次いで、噴霧した被覆材を、160~180℃の温度範囲で熱乾燥させる。その後、固体粒子が添加されていない1層以上のケイ素酸化物ゾル、好ましくは2層のケイ素酸化物ゾルを、例えば噴霧により施与する。これらの最上層により、シリンダーパッキングの耐摩耗性がさらに向上する。ケイ素酸化物ゾルの最上層に代えて、またはそれに加えて、1層以上のシリコーンを施与することもできる。施与された最上層も、160~180℃の温度範囲で熱乾燥させる。その結果、輪転印刷機用のシリンダーパッキングが得られるが、このシリンダーパッキングにおいて機械的摩損のために交換が必要となるのは、100万回を明らかに超える印刷工程を経た後である。
【0046】
あるいは、輪転印刷機用シリンダーを、シリンダーパッキングについてすでに述べたのと同様の工程によって、直接的に粗面化し、接着促進剤を施し、本発明による組成物で被覆し、1つ以上の最上層を設けることもできる。その結果、印刷ウェブを搬送するための印刷機シリンダーが得られるが、このシリンダーが摩損して印刷機から交換が必要となるのは、100万回を明らかに超える印刷工程を経た後である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】固体粒子P1)、すなわちザウター径d32が1.0μm~2.0μmの範囲にある炭化ケイ素粒子のみを含むケイ素酸化物ゾルを使用した場合のシリンダーパッキングの写真画像を示す図である。
図2】固体粒子P2)、すなわちザウター径d32が1.0μm未満の炭化ケイ素粒子のみを含むケイ素酸化物ゾルを使用した場合のシリンダーパッキングの写真画像を示す図である。
図3】炭化ケイ素粒子を含むケイ素酸化物ゾルを使用し、特に固体粒子P2)対固体粒子P1)=2:1の混合物を使用した場合のシリンダーパッキングの写真画像を示す図である。
図4図3に示すシリンダーパッキングであって、固体粒子を添加していないゾルゲル保護層でさらに被覆したものの写真画像を示す図である。
図5】本発明によるシリンダーパッキングの写真画像を示す図である。
【0048】
図1は、上述の方法で製造したシリンダーパッキングの写真画像を示す。この場合、固体粒子P1)、すなわちザウター径d32が1.0μm~2.0μmの範囲にある炭化ケイ素粒子のみを含むケイ素酸化物ゾルを使用した。この表面構造は、印刷機での実用には好適ではなかった。
【0049】
図2は、上述の方法で製造したシリンダーパッキングの写真画像を示す。この場合、固体粒子P2)、すなわちザウター径d32が1.0μm未満の炭化ケイ素粒子のみを含むケイ素酸化物ゾルを使用した。この表面構造は、印刷機での実用には好適ではなかった。
【0050】
図3は、上述の方法で製造したシリンダーパッキングの写真画像を示す。この場合、炭化ケイ素粒子を含むケイ素酸化物ゾルを使用し、特に固体粒子P2)対固体粒子P1)=2:1の混合物を使用した。この表面構造は、印刷機での実用には好適ではなかった。
【0051】
図4は、図3に示すシリンダーパッキングであって、固体粒子を添加していないゾルゲル保護層でさらに被覆したものの写真画像を示す。この表面構造は、印刷機での実用には好適ではなかった。
【0052】
図5は、上述の方法で製造した本発明によるシリンダーパッキングの写真画像を示す。この場合、炭化ケイ素粒子を含むケイ素酸化物ゾルを使用し、特に固体粒子P2)対固体粒子P1)=1:1の混合物を使用した。この本発明によるシリンダーパッキングはさらに、固体粒子を添加していない2つのゾル-ゲル保護層で被覆したものである。この表面構造は、印刷機での実用に非常に好適であった。
図1
図2
図3
図4
図5
【外国語明細書】