(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059620
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】可変拡散浸炭法
(51)【国際特許分類】
C23C 8/22 20060101AFI20240423BHJP
C21D 9/32 20060101ALI20240423BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240423BHJP
C22C 38/04 20060101ALI20240423BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C23C8/22
C21D9/32 A
C22C38/00 301N
C22C38/04
C21D1/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024009125
(22)【出願日】2024-01-25
(62)【分割の表示】P 2021559997の分割
【原出願日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】62/833,407
(32)【優先日】2019-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507341356
【氏名又は名称】ジーケーエヌ シンター メタルズ、エル・エル・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】レンハート デイヴィッド イー.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】2つ以上の浸炭ステップを含む粉末金属部品の浸炭方法を提供する。
【解決手段】鍛造前浸炭ステップにおいて、鍛造前浸炭プロファイルを確立するために完全密度未満の粉末金属部品を浸炭する。鍛造前浸炭ステップの後に粉末金属部品を鍛造し、粉末金属部品の密度を増大させ、鍛造前浸炭プロファイルを鍛造時浸炭プロファイルに変換する。鍛造するステップに続く鍛造後浸炭ステップにおいて、粉末金属部品を再び浸炭し、これにより、鍛造時浸炭プロファイルからの粉末金属部品内への炭素のさらなる拡散と、粉末金属部品の表面における粉末金属部品内への炭素のさらなる導入との両方をもたらす。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造前浸炭ステップにおいて、鍛造前浸炭プロファイルを確立するために完全密度未満の粉末金属部品に対して浸炭を行うことと、
前記鍛造前浸炭ステップの後に前記粉末金属部品を鍛造し、前記粉末金属部品の密度を増大させ、前記鍛造前浸炭プロファイルを鍛造時浸炭プロファイルに変換することと、
鍛造後浸炭ステップにおいて、前記鍛造するステップ後に前記粉末金属部品の浸炭を行い、これにより、前記鍛造時浸炭プロファイルからの前記粉末金属部品内への炭素のさらなる拡散と、前記粉末金属部品の表面における前記粉末金属部品内への炭素のさらなる導入との両方がもたらされる、粉末金属部品の浸炭方法。
【請求項2】
前記鍛造前浸炭ステップの後の、前記粉末金属部品の密度を増大させるよう構成された前記粉末金属部品を鍛造するステップにおいて、前記粉末金属部品を鍛造して前記粉末金属部品を有効完全密度にする、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項3】
前記有効完全密度は理論完全密度の98%超である、請求項2に記載の浸炭方法。
【請求項4】
前記鍛造するステップの前の前記完全密度未満の前記粉末金属部品の密度は、理論完全密度の95%未満である、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項5】
前記粉末金属部品を焼結加工することをさらに含み、
前記鍛造前浸炭ステップを、前記粉末金属部品の前記焼結加工中に実行する、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項6】
前記焼結加工の前の前記粉末金属部品の密度は、前記粉末金属部品の理論完全密度の90%未満である、請求項5に記載の浸炭方法。
【請求項7】
前記粉末金属部品のベース炭素パーセンテージは、前記鍛造前浸炭ステップの前において前記粉末金属部品の0.1重量パーセントから0.3重量パーセントである、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項8】
前記鍛造前浸炭プロファイルにおける浸炭された領域内の炭素の割合は、前記鍛造前浸炭ステップの後において、炭素が0.5重量パーセントから0.6重量パーセントである、請求項7に記載の浸炭方法。
【請求項9】
前記鍛造後浸炭ステップの後、前記粉末金属部品の前記表面に最も近い領域内の炭素の割合は、炭素が0.7重量パーセントから0.9重量パーセントである、請求項8に記載の浸炭方法。
【請求項10】
前記鍛造前浸炭プロファイルを鍛造時浸炭プロファイルに変換することは、
前記粉末金属部品の前記表面に対して均一な深さを有する鍛造前浸炭プロファイルから開始し、前記粉末金属部品を鍛造して前記鍛造時浸炭プロファイルが前記粉末金属部品の前記表面に対してばらつきのある深さを有するようにすること含む、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項11】
前記粉末金属部品は鉄を含む、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項12】
前記鍛造するステップ前の前記粉末金属部品のポロシティにより前記粉末金属部品の体積内への炭素のより深い侵入のための非拡散ベースの経路が提供されることから、前記鍛造前浸炭ステップによって、完全密度を有する同様の組成の同等の粉末金属部品と比べて
より深い深さへの浸炭がもたらされる、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項13】
前記粉末金属部品は歯車である、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項14】
前記鍛造後浸炭ステップの後、前記粉末金属部品は最終浸炭プロファイルを有し、
前記最終浸炭プロファイルは、前記粉末金属部品の前記表面から前記体積内への炭素勾配が、シングルステップで浸炭が施される完全密度の部品に対する浸炭により得られる勾配よりも、緩やかである、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項15】
前記鍛造するステップと前記鍛造後浸炭ステップとの間において、前記粉末金属部品を機械加工することをさらに含む、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法によって作成される、焼結粉末金属部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の相互参照>
本出願は、2019年4月12日に出願された「可変拡散浸炭法」と称する米国仮特許出願第62/833,407の利益を主張し、当該仮特許出願はあらゆる目的のために参照によりその全内容が本明細書に盛り込まれているかのように本明細書に盛り込まれているものとする。
【0002】
<連邦政府による資金提供を受けた研究又は開発の記載>
該当せず。
【背景技術】
【0003】
本開示は粉末金属部品の浸炭方法に関する。
【0004】
高応力鉄系部品の多くは、その表面近傍において高い強度を有し、延性のあるコア領域がより高い靭性を有するように設計されている。例えば、多くの従来の歯車は歯についてそのような設計を利用しており、これにより、歯の表面を強くするとともにコアも同等の延性を有するものにして、歯の機能に基づく機械的材料特性間の適切なバランスを提供するように構成されている。
【0005】
鉄系部品の表面とコアとの間の材料特性のそのような違いを得るための一般的な方法は、部品の浸炭を行うことによるものである。典型的な浸炭中、部品は炭素ベアリング材料の存在下で熱処理され、部品の表面に炭素が導入され吸収される。次いで、この炭素が、部品の本体の体積内に内向きに拡散する。典型的には、部品は、注意深く制御された炭素含有ガス雰囲気中で熱処理されるが、部品はそれ以前に炭素を提供するために木炭などの炭素リッチ材料と接触してパックされている場合もある。
【0006】
浸炭された部品はその後、たいていの場合は急冷され、部品中にマルテンサイト相が形成される。マルテンサイトの形成は表面層の強度及び硬度を増大させるが、マルテンサイトもまた非常に脆い。部品における脆性をいくらか軽減するために焼き戻しなどのさらなる熱処理を用いることができる。
【0007】
このような浸炭は拡散ベースの処理であることから時間及び温度の両方に依存し、この依存性は、マイクロ構造的、マクロ構造的及び経済的な影響を及ぼす可能性がある。例えば、鋼は拡散速度が遅いことから、高炭素含有表面層と、炭素を含有するとすればわずかにしか含有しない元の母材と、の間において、炭素含有量(即ち材料特性)の明確で比較的鋭い遷移が生じることが多い。このことは、明確な浸炭層が加えられた負荷を支持するのを助けることができる一方で、(コアは前述の靭性及び延性を提供することができるにもかかわらず)浸炭層で高負荷を支持することがほとんどない延性コアに迅速に遷移することを意味する。さらに、時間と温度の両方を処理変数とすると、浸炭は潜在的に非常に高価でありかなりのエネルギーと設備スループットの両方を必要とする。このようなインプットのコストは、特定の部品ラインの浸炭の処理パラメータの選択時に所望の結果プロファイル(例えば深さや炭素含有量など)と共に考慮される。
【発明の概要】
【0008】
本明細書において開示されるのは、粉末金属部品の浸炭を行う改良された方法である。これらの浸炭方法は、完全密度未満(less than full density)の粉末金属部品の浸炭を行い(場合によっては、焼結浸炭処理の一部として行う)、次にこの部品に対し鍛造を行
い粉末金属部品の密度を増大させ、その後、粉末金属部品に対し再度浸炭を行うことで、粉末金属部品を順次処理することを含む。鍛造前浸炭ステップによって、焼結及び/又は鍛造により細孔が閉じられる前の処理の初期における粉末金属部品の細孔ネットワークを介する炭素含有ガスによる炭素輸送の能力を利用することで、完全密度の鍛造部品と比較して、同様の時間・温度・大気条件下において、初期において炭素がより深い深さに侵入することを助けることができる。これにより、完全密度の部品の場合に必要となり得るように輸送メカニズムとして固体拡散だけに依存することなく、鍛造ステップ後に部品の外表面となるところに比較的深く初期炭素プロファイルを効果的に「ドープ」することができる。鍛造後、鍛造部品に高温で再び浸炭を施すことができるが、鍛造粉末金属部品の外表面からの深さにおいて一部の閉じ込められた炭素がすでに予め確立されていることから、この初期に導入された炭素は熱処理中に部品内にさらに拡散し、同時に新しい炭素が部品の表面に導入され、これによりこの表面においてより多くの炭素含有量を作り出すことができる。この多段階処理はより複雑かつ緩やかな炭素勾配を作り出すことができ、この炭素勾配は、異なる処理パラメータにバリエーションを持たせることで所望の硬化層プロファイルを有するように幅広く変更及び設計することができる。
【0009】
鍛造ステップは、硬化された硬化層とコアとの間に鋭くない遷移を提供することに加えて、初期閉じ込め炭素プロファイル(initially locked-in carbon profile)を成形するように特に設計され得る。例えば、鍛造ステップ中に部品の材料の可変な流れを作り出すことによって(これは、鍛造後のフォームに比例しない寸法を有するように鍛造前のプリフォームを設計することによって達成できる)、初期炭素プロファイルの断面を厚く及び/又は薄くするあるいは伸ばす及び/又は圧縮することで、後続の浸炭ステップの前に初期炭素層の厚さをばらつかせることができる。このようにして、かなり洗練された、状況に応じて調整された浸炭プロファイルを生成することができる。
【0010】
これらの改善された浸炭方法は、従来の方法に比べて多くの利点を提供することができる。一例として、上記の順序により、従来の硬化層浸炭処理(即ち、完全又はほぼ完全密度の部品(full or near full density part)での焼結浸炭及びガス浸炭)を使用して、結果として得られる部品において可変の硬化層深さを開発することが可能となるが、完全密度の鍛造部品の浸炭と比較して時間とコストを節約することができる。さらに、この順序により、既存の焼結浸炭技術だけでは製造できない可変な硬化層深さ及び形状の開発が可能となる。
【0011】
一側面によれば、粉末金属部品の浸炭を行う方法が提供される。鍛造前浸炭ステップにおいて、鍛造前浸炭プロファイルを確立するために、完全密度未満の粉末金属部品の浸炭が行われる。次に、鍛造前浸炭ステップ後に粉末金属部品を鍛造し、粉末金属部品の密度を増大させる。この鍛造により、鍛造前浸炭プロファイルが鍛造時浸炭プロファイル(as-forged carburization profile)に変換される。鍛造後浸炭ステップにおいて、鍛造ステップの後に粉末金属部品の浸炭が行われる。この鍛造後浸炭ステップにより、鍛造時浸炭プロファイルからの粉末金属部品内への炭素のさらなる拡散と、粉末金属部品の表面における粉末金属部品内への(浸炭雰囲気からの)炭素のさらなる導入との両方がもたらされる。
【0012】
上記方法のいくつかの形態では、鍛造ステップにおいて、粉末金属部品を鍛造して粉末金属部品を有効完全密度(effective full density)にする。当業者であれば、粉末金属部品の有効完全密度は鍛造後であっても理論完全密度より低く、ほぼ全ての内部ポロシティが除去されていることを含むことを理解するであろう。鉄系部品との関係では、有効完全密度は、例えば理論完全密度の98%以上とすることができると考えられる。但し、このような有効完全密度は、特定の材料についての金属粉末産業連盟(MPIF)規格を参照することによっても定めることができる。本願との関係での理論完全密度とは、細孔のない又はポロシティがゼロの完全に満ちた密度(完全密度)に対応する材料の真密度を指す。
【0013】
いくつかの形態では、鍛造ステップ前の完全密度未満の粉末金属部品の密度は、理論完全密度の95%未満である。再度になるが、このパーセンテージは単なる例であり、特定のパーセンテージは特定の材料組成の焼結性に依存する可能性があるが、いずれにせよ、第1の鍛造前浸炭ステップが施される粉末金属部品は完全密度未満であり、少なくともいくつかの形態では、粉末金属部品内で炭素の非固体状態又はガス状の移動が生じることを可能にするための結合した細孔からなるネットワークを有し、これにより、浸炭の深さは単に、完全密度の部品の場合のように主に時間と温度の関数ではない。
【0014】
上記方法のいくつかの形態では、上記方法は粉末金属部品の焼結加工を行うことをさらに含む。上記方法が焼結加工を行うことを含む場合、鍛造前浸炭ステップは、粉末金属部品の焼結加工中に実行されると考えられる(即ち、焼結浸炭処理でのように焼結加工と同時又は同時期に実行される)。このように、粉末金属部品は、その時点でグリーン成形体の形態で、理論完全密度よりも比較的低い密度を有してもよく、そして、粉末金属粒子を保持するバインダー又は潤滑剤が燃焼されると、グリーン成形体の残りの細孔ネットワークは、大気から成形体内への炭素のガス輸送のために少なくとも一時的に利用され得ると考えられる。例えば、焼結加工の前の粉末金属部品の密度は、粉末金属部品の理論完全密度の90%未満であってもよい。
【0015】
いくつかの形態では、粉末金属部品のベース炭素パーセンテージは、鍛造前浸炭ステップの前において粉末金属部品の0.1重量パーセントから0.3重量パーセントであってもよい。「ベース炭素パーセンテージ」とは、成形体又は焼結された形態の粉末金属の処理中に浸炭熱処理を行う前の材料中の炭素の量を意味する。そのようなベース炭素パーセンテージから開始すると、鍛造前浸炭プロファイルの浸炭領域内の炭素の割合は、鍛造前浸炭ステップの後において、炭素が0.5重量パーセントから0.6重量パーセントであってもよい。鍛造ステップ及び鍛造後浸炭ステップの後、粉末金属部品の表面に最も近い領域内の炭素の割合は、炭素が0.7重量パーセントから0.9重量パーセントであってもよい。
【0016】
上記方法のいくつかの形態では、鍛造前浸炭プロファイルを鍛造時浸炭プロファイルに変換することは、粉末金属部品の表面に対して均一な深さを有する鍛造前浸炭プロファイルから開始し、その後、粉末金属部品を鍛造して、鍛造時浸炭プロファイルが、鍛造後に、粉末金属部品の表面に対してばらつきのある深さを有するようにすることを含んでもよい。言い換えれば、鍛造することで、材料の流れが変化することにより鍛造処理中にプロファイルの幾何学的に変化が生じ得る。これは、処理において特別に設計することができ、例えばGKN Sinter Metals,LLCにより2013年8月27日付けで発行された「粉末鍛造差動歯車」と称する米国特許第8517884号明細書に記載されており、本特許出願は参照によりすべての目的のために全内容が本書内に盛り込まれているかのように盛り込まれているものとする。
【0017】
いくつかの形態では、粉末金属部品は鉄を含んでもよく、実際には、このような浸炭は鉄ベースの粉末金属粒子に対して行われる。
【0018】
上記方法のいくつかの形態では、鍛造前浸炭ステップによって、完全密度の同様の組成を有する同等の粉末金属部品と比較して、同等の時間・温度・大気露出条件下において、より深い深さまで浸炭を行うことができる。このより深い深さへの浸炭をもたらすことができるのは、鍛造ステップ前の粉末金属部品のポロシティにより、完全密度の部品と比べて粉末金属部品の体積内への炭素のより深い侵入のための非拡散ベースの経路が提供され
るからである。
【0019】
いくつかの形態では、上記方法により作成される粉末金属部品は歯車であってもよい。差動歯車の場合、特に小さい差動歯車は、鍛造前に表面においてかなり硬化層の硬化がなされた時に例えば内径ピンホール又はスプライン内で鍛造することができないことが原因で従来の焼結浸炭法を用いて処理することができない特徴部を有する場合がある。ハイポイドリング歯車では、材料の流れにより、歯車基端部の深さの硬度を維持できない場合がある。小歯モジュールの平行軸歯車では、浸炭層が歯の厚さに対して深すぎる場合がある。
【0020】
いくつかの形態では、鍛造後浸炭ステップの後、粉末金属部品は最終浸炭プロファイルを有してもよい。最終浸炭プロファイルは、粉末金属部品の表面から体積内への炭素勾配が、同様の時間・温度・大気露出条件下でシングルステップで浸炭が施される完全密度の部品に対する浸炭により得られる勾配よりも、緩やかであってもよい。
【0021】
いくつかの形態では、この方法は、鍛造ステップと鍛造後浸炭ステップとの間において、粉末金属部品の機械加工(例えばソフトチューニング)を行うことをさらに含んでもよい。この時点で、部品は、いくらかの炭素だけ追加され全ての炭素は追加されていないものの、最終又はほぼ最終の形状を有し、鍛造後浸炭ステップの後よりもこの段階で粉末金属部品を鍛造する方が容易な場合がある。
【0022】
さらに、本明細書に記載のさまざまな方法から製造される粉末金属部品も本開示の範囲内であると考えられる。
【0023】
本発明の上記の及びさらに他の利点は、詳細な説明及び図面から明らかになるであろう。以下の記載は本発明のいくつかの好ましい実施形態についての単なる説明である。これらの好ましい実施形態が特許請求の範囲の唯一の実施形態であることは意図していないことから、本発明の全範囲の評価には特許請求の範囲を参照すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】(A)及び(B)は従来のガス浸炭法のみを使用して製造された鍛造部品の硬化層プロファイルの画像である。
【
図2】(A)及び(B)は、全ての浸炭が鍛造ステップ前に行われる従来の焼結浸炭法のみを使用して製造された粉末金属部品の硬化層プロファイルの画像である。
【
図3】(A)及び(B)は一連の焼結浸炭ステップ、鍛造ステップ及びガス浸炭ステップを含む多段階浸炭処理を使用して製造された粉末金属部品の硬化層プロファイルの画像である。
【
図4】粉末金属部品に対する段階的な焼結浸炭と、さまざまな領域のそれぞれにおける炭素量を示す概略図である。
【
図5】(A)は鍛造前浸炭及び鍛造が行われた後の歯車形状を描写する画像であり、(B)はさらなる最終浸炭ステップの後の同じ歯車形状を描写する画像である。
【
図6】
図4の概略図と同様の概略図であるが、鍛造ステップの後の最終ガス浸炭ステップを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
開示された方法及び従来技術に対するその改善を最も良く理解するために、従来のガス浸炭と従来の焼結浸炭の簡単な比較を説明する。浸炭のこれらのモードを理解することにより、新規の方法が、いかにして、両モードの側面(わずかに修正することができる)と中間鍛造ステップとを含み、低コストで作ることができる粉末金属部品におけるユニークな浸炭プロファイルに到達するかを理解することが可能となる。
【0026】
従来のガス浸炭では、完全密度(fully dense)鉄系製品は、ある期間にわたって炭素
含有ガスを含む加熱された雰囲気中に置かれ、これはこの雰囲気から鉄系製品への炭素の吸収をもたらすような条件下で行われる。温度を上げるとサイクルがより短くなり時間長さ当たりの炭素侵入深さがより深くなるが、一定の他の望ましくない冶金学的又は寸法的結果(例えば、粒子成長又は部品のたるみや反り)が生じ得る。よって従来のガス浸炭法は作業の熱量(即ち、温度)及びその温度における材料の拡散曲線によって制約される。したがって、最終的な結果は、ガス浸炭が施される材料に基づきその拡散曲線及び温度での時間に大きく応じたものとなる。
【0027】
完全密度鍛造材料では、浸炭された表面プロファイルは、典型的には、非常に低い炭素ゾーンの外側に非常に高い炭素ゾーンがあり、狭い遷移領域を含むものとして描写される。この処理方法により、部品における浸炭されたゾーンは、通常、露出表面全体にわたって非常に均一な厚さとなる。
【0028】
図1の(A)及び(B)は、鍛造されガス浸炭された歯車の歯の2つの画像におけるそのようなプロファイルの均一性を示しており、硬化層プロファイルは歯の表面にわたって非常に均一な厚さである。
図1の(A)は硬化層深さを示す顕微鏡写真であり、矢印は、歯の表面上のさまざまな位置における均一な硬化層深さを表す。
図1の(B)はさまざまな位置における歯のビッカース硬度数を示しており、この図から、歯は外表面層において硬度数が高い(最大786HV)が、コアにおいて硬度数がかなり低い(わずか435~500HV)ことが分かる。外層又は硬化された硬化層とコアとの間の遷移はかなり劇的であり鋭くなっている。
【0029】
商業的な鉄系部品に対する浸炭の大部分は、鍛造された部品又は完全密度を有する部品に対するガス浸炭に基づいている。何故なら、大半において、多くの部品は、鋳造や押出などの浸炭に先立つ製造モードによって、完全密度を有することになるためである。
【0030】
しかしながら、注目すべきことに、粉末金属部品に対する浸炭のタイプについては別のあまり一般的でない方法が存在し、これは焼結-浸炭又は「焼結浸炭(sinta carb)」と称され、より深い炭素プロファイルを生成するために使用することができる。
【0031】
焼結浸炭がどのように作用するかを理解するには、まず粉末金属部品が一般的な意味でどのように作られるかを理解しなければならない。粉末金属部品の製造において、粉末金属粉末はバインダー、ワックス及び/又は潤滑剤と共に圧縮されて、最終的な所望の製品に非常に似た形状を有するグリーン成形体が形成される。その後、このグリーン成形体は、典型的には粉末金属の溶融温度に近いがこれよりもわずかに低い温度にて炉内で焼結される。グリーン成形体における限られた量が液相になるいくつかの焼結処理(液相焼結として知られている)もあるが、多くの焼結処理は、通常、一体化した焼結体を形成するために粉末金属粒子が互いにネックを形成する最中に燃焼されるバインダー、ワックス及び/又は潤滑剤を含む固相拡散のみに基づいている。焼結処理中、粒子間空間によって細孔ネットワークが提供される場合があるが、そのような細孔は焼結が続くにつれてサイズ減少して閉じてしまう。但し、焼結時のままの状態では焼結体中に多少のポロシティが残ることがある。
【0032】
焼結浸炭処理では、この細孔ネットワークの存在を利用して、焼結製造ステップ中に部品が既に高温になった状態で炭素を導入する。少なくとも焼結加工ステップの開始時に粉末金属粒子間に細孔ネットワークが存在することから、炭素含有ガスをこれらの細孔に流入させて、部品の本体のより深くまで、即ち少なくとも焼結加工後に部品の外表面を最終的に形成することになる深さを超える深さまで、炭素含有ガスのガス輸送を提供すること
が可能であり、これにより、炭素がこれらのより深い深さにて吸収され得る。細孔ネットワークを介するガス輸送は固相拡散ではなくガスの流れに主に基づくことから、この焼結浸炭技術を用いて、完全密度部品のガス浸炭の場合よりもより深い浸炭深さ及びより緩やかな勾配を迅速に得ることが可能である。したがって、焼結浸炭を用いて、たいていの場合は最終的な完全密度化鍛造処理の前に、密度の低い粉末金属部品を改良された拡散深さで効率的に浸炭することができる。
【0033】
図2の(A)及び(B)を参照すると、歯車の歯について
図1の(A)及び(B)と比較可能な浸炭プロファイルが示されているが、
図2の(A)及び(B)の歯車の歯はガス浸炭ではなく焼結浸炭によって製造されたものである。部品の細孔内へのガス拡散を考えると、高炭素エリアから低炭素エリアへのはるかに広い遷移ゾーンが存在することが分かる。粉末金属成形体中の密度のばらつきは異なる領域における異なる深さの炭素拡散をもたらすことができ、焼結浸炭後の鍛造もまた硬化層厚さのばらつきをもたらし得る。
図2の(A)の顕微鏡写真を見ると、炭素拡散深さは先端部において最も深く、歯の基端部に近づくにつれて浅くなることが分かる。334HVから714HVのビッカース硬度数を示す
図2の(B)を見ると、
図1の(B)の部品よりも炭素が歯のなかにより深く侵入しており、コアから表層への遷移がより緩やかであることが分かる。
【0034】
しかしながら、焼結浸炭処理であっても、焼結浸炭処理によって理想的とはいえない結果が得られる一定の条件及び製品がある。例えば、断面が薄い部品又はスプライン/歯車の高さが低いモジュールを有する部品では、焼結浸炭処理中の炭素材料の拡散速度が高いことから、これらの部品は完全に(又は十分に)硬化された状態を達成しなければ効果的に浸炭が行えないことが多い。最終的な結果として、硬化層深さ脆化により延性及び靭性を欠いた製品が得られる可能性があり、このような製品はそのような特徴の脆性に基づき冶金学的に適さない可能性がある。加えて、処理設計要件を満たさない製品は、鍛造作業中の過剰な材料薄化により硬化層深さが薄くなる可能性があり、結果として強度が低下する及び/又は衝撃力に対する耐性が低下する。
【0035】
本明細書に開示されているのは、中間鍛造ステップを伴う、浸炭の両方のモードの側面(即ち、完全密度未満の粉末金属部品の焼結浸炭と、十分又はほぼ完全密度の部品のガス浸炭)を組み込んだ方法である。この方法は、部品がまだ完全密度未満の状態である第1の浸炭ステップと、部品の密度を増大させるための鍛造ステップと、ほぼ十分又は完全密度の部品に対するガス浸炭を通常含む第2の浸炭ステップと、を連続して含む。
【0036】
この段階では、第1の浸炭ステップは焼結浸炭であってもよいことに留意されたい(また、焼結加工と第1の浸炭ステップを一緒に行うのが最も経済的である可能性が高い)。しかしながら、焼結加工と第1の浸炭ステップを別々に行う方法もあると考えられる。但し、このように焼結加工と第1の浸炭ステップを別々に実行することは注意深くかつよく考えて行わなければならない場合があり、何故ならば、焼結加工終了時にしばしば起こるように部品の細孔が閉じてしまうと炭素含有ガスを部品内に移動させることができるメカニズムが損なわれ弱まるからである。
【0037】
また、第1のステップは完全密度未満の部品に対する焼結浸炭を含み得るが、この焼結浸炭は、焼結浸炭が最終炭素プロファイルにおける全ての炭素を付与するために行わるものではないという点で、既知の焼結浸炭モードとは異なることに留意されたい。言い換えれば、この新規の方法では、焼結浸炭ステップ中においては最終硬化層プロファイルのほんの一部しか確立されないが、従来の焼結浸炭では、焼結浸炭は浸炭のための炭素を提供する最終のかつ唯一のステップである。
【0038】
開示された方法は、一般に可変拡散浸炭(又はVDCC)と称されることがあり、別々
の従来のガス浸炭処理及び焼結浸炭処理に対する改良であり、これらの別々の欠点の多くに対処する。両処理の側面を組み込むことにより、場合に応じた、可変な性質の深い硬化層深さを作り出すことが可能となると同時に、従来のガス浸炭処理と比較してコストインプットを削減することが可能となる。
【0039】
再度になるが、上位概念的には、この方法は、完全密度未満の部品に対する鍛造前浸炭ステップと、部分的に浸炭された部品の密度を増大させるとともに鍛造前浸炭プロファイルを鍛造時浸炭プロファイルに変換する鍛造ステップと、鍛造時浸炭プロファイルからの炭素の粉末金属部品内へのさらなる拡散と、粉末金属部品の表面への追加の炭素の導入とをもたらす鍛造後浸炭ステップと、を含む。これらのステップのそれぞれについてさらに詳細に説明する。
【0040】
上記方法は、例えば第1のステップとして鉄である完全密度未満の粉末金属部品又はビレットに対して穏やかな浸炭ステップを実行することによって開始してもよい。この完全密度未満の粉末金属部品は従来の粉末冶金圧粉技術を用いて成形されたグリーン成形体であってもよく、成形時の部品は、最終部品の最終幾何学的形状にかなり近似するが、部品の焼結加工からの収縮を考慮に入れるためにわずかにサイズが大きい。グリーン成形体としての粉末金属部品は例えば理論完全密度の90%未満の密度であってもよいと考えられる。
【0041】
この完全密度未満の粉末金属部品は、粉末金属粒子同士を冶金学的に結合させるために焼結加工され、これは粉末金属部品中のワックス、バインダー又は潤滑剤を燃焼させることも含んでもよい。上で説明したように、粉末金属の粒子が互いに結合してネックを形成すると細孔ネットワークが形成される。その後、高温で行われる焼結加工作業中、焼結雰囲気中の炭素濃度が炭素を鉄粉末金属成形体中に熱力学的に移動させるのに十分高いと仮定すると、粉末金属部品は焼結雰囲気から炭素を容易に受け入れることができる。
【0042】
焼結加工中における雰囲気からの炭素の追加は、初期浸炭プロファイルとしての制御された炭素含有量及び深さを作り出す焼結浸炭処理である。この初期浸炭プロファイルは、その後の鍛造ステップを鑑みて、鍛造前浸炭プロファイルとも称される。焼結浸炭処理について上で説明したように、粉末金属部品が完全密度未満であるという性質のために、拡散速度は非常に高く、したがって炭素は容易に部品内に侵入することができ、その結果、深い炭素プロファイルが得られる。
【0043】
第1の焼結浸炭ステップの具体例の1つを
図4に示す。
図4には、一番上の第1のブロックに示す0.10重量%から0.30重量%の炭素を有する鉄粉末金属部品から開始することが示されている。粉末金属部品中におけるいくらかの初期炭素量は低レベルではあるが適したものであり、何故ならこの処理の目標は硬化層浸炭層を生成することであり、0.10重量%から0.30重量%の炭素は多くの用途において典型的であるからである。但し、具体的な炭素の量は、結局のところ、材料のさまざまな位置におけるジョミニー曲線対所望硬度及び最終部品の製造に使用される急冷方法のタイプに依存する。
図4の中央の第2のブロックに示すように、焼結浸炭後、約0.50重量%から約0.60重量%の炭素を含む濃縮炭素層が生成される。一番下の第3のブロックは、追加の炭素拡散及び時間により、炭素プロファイルがかなりの範囲まで移動することができること、そして、炭素がより多い外表面層とコア(約0.10重量%から約0.30重量%の炭素に留まる)との間に十分広い勾配が生成されることを示す。これらの数字は例示的なものにすぎず限定的なものと見なされるべきではないことを理解されたい。
【0044】
再度になるが、本方法の大部分の形態において、第1の浸炭ステップは焼結加工ステップと同時に又は同時期に行われることが理解されるであろう。このようにして、完全密度
未満の部品の細孔ネットワークを介した炭素導入を最も容易に促進することができる。焼結加工と浸炭を組み合わせることはある程度の経済性を有するとともに、焼結加工のための部品の熱処理を炭素の拡散を促進するためにも用いることができる。但し第1の浸炭ステップは焼結加工とは別に行われることも考えられるが、しかしながらこれは、粒子が部分的に結合し細孔がまだ閉じていない状態でそのような別の浸炭が最も効率的となる場合に考えられるであろう。言い換えると、もし部品が焼結加工されてその後に続けて浸炭される場合、浸炭前に細孔が閉じてしまわないように処理を注意深く制御しなければ、焼結加工中に細孔の大部分が閉じてしまい浸炭の効果がなくなる可能性がある。
【0045】
次に、粉末金属部品を鍛造して、適切な材料の流れの条件下で密度を増大させる。いくつかの態様では、これは、密度を、例えばMPIF規格の有効完全密度とすることができる有効完全密度まで増大させることを含んでもよい。本開示の他の箇所で記載したように、有効完全密度は理論完全密度より小さいものの多くの場合は理論完全密度に近い。いくつかの形態では、この有効完全密度は理論完全密度の98%超えでもよく、鍛造前の完全密度未満の粉末金属部品の密度は理論完全密度の95%未満であってもよい。この鍛造ステップにより、鍛造処理によって粉末金属部品の表面炭素含有量が少し高くなる。さらに、鍛造時(鍛造直後)の粉末金属部品は、非急冷条件下に置かれて冷却してもよいと考えられる。
【0046】
これらの方法によって製造される部品の最終用途の多くにおいては、製品が、部品の密度即ち強度が鍛造を介して大幅に増大されるような鍛造によって得られる強度を有することが要求される。
【0047】
特に、鍛造処理は粉末金属部品の密度を増大させるだけでなく、鍛造前浸炭プロファイルを鍛造時浸炭プロファイルに変換することができる。この変換は単純にその部品を均一に緻密化することを含み、この処理では寸法及び硬化層プロファイルがわずかに変更されるだけである(これは、鍛造及び緻密化の結果として鍛造前の部品の深さと鍛造後の部品の深さが僅かに異なる場合であっても、鍛造前の粉末金属部品が均一な深さの鍛造前浸炭プロファイルを有するとともに鍛造前の粉末金属部品が均一な深さの鍛造時浸炭プロファイルを有する場合に、そうといえる)。しかしながら、より込み入った又は複雑な方法では、鍛造処理によって、鍛造型内の可変な材料流れが原因で浸炭プロファイルの断面が厚く及び/又は薄くなってもよい。浸炭層を変更又は変換するためにこのような可変鍛造をどのように採用するかについては、GKN Sinter Metals, LLCによる2013年8月27日発行の「粉末鍛造差動歯車」と称する米国特許第8,517,884号明細書に見出すことができ、当該特許の全内容はあらゆる目的のために本明細書に記載されているかのように盛り込まれているものとする。直近の例を挙げると、
図4の中央パネルに示すような浸炭プロファイルが、比較的均一な硬化層深さを有するプリフォームを鍛造することで基端部において硬化層深さを薄くしかつ先端部において硬化層深さを厚くすることによって、達成され得る。これには、プレフォーム(即ち、予め作られた粉末金属部品)をエンジニアリングし、工具及び型を鍛造時部品における最終外表面形状とばらつきのある硬化層深さとを達成するようにセットすることが含まれる。
【0048】
また、第1の浸炭ステップで炭素の一部のみが付与されることから(追加の炭素は鍛造後に与えられる)、粉末金属部品は、鍛造前に全ての炭素が導入される部品と比べて容易に鍛造することができ、何故なら重い浸炭は鍛造を不可能ではないにしろ困難にする硬く脆い硬化層を生成するからである。
【0049】
さらに、鍛造ステップは本明細書において粉末金属部品の密度を増大させるものとして記載されるが、ほとんどの場合、これは、粉末金属部品の有効完全密度(事実上、鍛造中にほぼ全ての細孔が閉じられる又は排除される状態である)まで粉末金属部品を鍛造する
ことを含んでもよい。それにもかかわらず、完全密度未満ではあるが緻密化はされた粉末金属部品が、第2の浸炭ステップに進むにはかなり閉じられたポロシティを有するシチュエーションもあると考えられる。
【0050】
この時点で、そして、鍛造後及び鋳造時粉末金属部品の制御された冷却後に、鍛造後浸炭ステップにおいて、鍛造時粉末金属部品(この時点で増大した密度又は有効完全密度を有する)に対して第2の浸炭が施されてもよい。この時点で、粉末金属部品が増大した密度又は有効完全密度を有した状態で、鍛造前の第1の浸炭ステップで導入された炭素により、粉末金属部品に対してより効率的なガス浸炭を施すことができる。したがって、この第2の浸炭ステップ中に、処理初期からの既存の又は「ドープされた」若しくは「チャージされた」炭素の両方が粉末金属部品内へ拡散し続けることができ、追加の炭素が粉末金属部品の表面に吸収されて、より炭素に富んだ外側領域即ち硬化層を作り出すことができる。第1の浸炭ステップから既にある予め存在している炭素により、第2のガス浸炭ステップは、炭素がシングルサイクル/ステップで導入されるような完全密度部品の純粋なガス浸炭ほど時間及び温度によって厳しく制限されず、よって、遅い拡散速度のかなりの部分が回避される。
【0051】
鍛造時部品へのこの炭素のドーピング又はチャージの利点を
図5の(A)及び(B)並びに
図6に示す。
図5の(A)では、歯車の歯の部品の外表面のプロファイルが、その下の炭素層とともに示されている。再度になるが、このパネルでは、粉末金属部品は鍛造後のものであり、したがって第1の浸炭ステップで付与された炭素層は歯の表面に対しばらつきのある深さを有し、即ち歯の先端部にてより厚い深さを有するとともに歯の基端部にてより薄い深さを有する。
図5の(B)は、第2の鍛造後浸炭ステップにおけるこの部品に対するさらなるガス浸炭により、元の硬化層プロファイル(ここでは破線で示す)が部品の本体内にほぼ均一にさらに進んだことを示す。
図6もこれを概略的に示している。
図6において、はじめの3つのパネルは
図4に関して上で説明したものと同様の処理を示し、その後の第2の鍛造後浸炭ステップにおける追加のガス浸炭の後、最も右にあるパネルのプロファイルが生成され、このプロファイルでは、表面炭素含有量は約0.70重量%から約0.90重量%の炭素まで増大可能であり、コアに到達する前に、炭素が0.5重量%から0.6重量%であるようなより高い炭素を有する別の領域への遷移がある。
【0052】
鍛造ステップによって分離される2つの浸炭ステップを含む方法によって得られるプロファイルは
図3の(A)及び(B)にも示されており、同図は、
図1の(A)及び(B)並びに
図2の(A)及び(B)からの画像に対する比較画像を提供する。
図3の(A)において、深くかつばらつきのある硬化層深さが生成されていることが分かり、特に、
図1の(A)及び(B)の鍛造処理とガス浸炭処理によって製造されたものとして示されている部品と比較して、また
図2の(A)及び(B)の焼結浸炭処理と鍛造処理と比較して、硬化した外表面とコアとの間の遷移ゾーンにかなりの炭素勾配が存在する。同様に、
図3の(B)は硬度の分布を示し、これは十分な勾配と滑らかな遷移を示す。
【0053】
改良された構造及び硬化層プロファイルとは別に、多くの処理上の利点もある。
【0054】
「ドープされた」状態又は予め浸炭された状態の鍛造部品を使用することによって、鍛造時(鍛造直後)の粉末金属部品は表面炭素含有量が、予め浸炭されてない粉末金属部品に対して、炭素含有量の半分未満だけしか増大していない可能性がある。したがって、鍛造後浸炭中に、高い炭素レベルでの浸漬時間をかなり短縮させることができる。同様に、大きい表面積を有する粉末金属部品の場合、即ち部品の表面に十分に迅速に炭素を供給する大気又は雰囲気の能力が速度制限のファクターとなる場合、このような部品はより迅速に処理することができ、何故なら導入される炭素の一部が鍛造前浸炭ステップからの部品内に既に存在するからである。
【0055】
さらに、この方法を使用すると、硬化層深さの大部分がすでに存在し粉末金属部品の表面近くにあるので、さらなる進展に必要な時間及びエネルギーの量が減少する。これにより、
図3の(A)及び(B)に示すように硬化層からコアへの遷移をより滑らかにすることができる(このことは、いかにして可変鍛造を使用してばらつきのある硬化層深さを作り出すことができるかも示している)。結局のところ、硬化層からコアへのこの滑らかにされた遷移により、製品の性能ニーズとマッチし得る進行性応力状態による内部せん断応力が低減される。
【0056】
さらに、この処理は、焼結浸炭/鍛造のみの処理では全体的な又は十分な硬化が懸念事項となり得るより低いモジュール、より薄い設計要素タイプの製品に適合させることができる。このような処理では、焼結浸炭から最終鍛造へというスタンダードな形は、幾何学的条件により不可能である(即ち、焼結浸炭した薄い要素を破砕なしに鍛造することはできない)。しかしながら、この2段階浸炭処理によれば、少量の炭素が予めチャージされた部品(これでも破砕なしに鍛造することができる)を効率的に鍛造でき、次いで鍛造後にこの部品に対してさらなる浸炭を施して、最終的所望硬度のための追加の炭素を得るという能力を提供することができる。
【0057】
この新規の方法の経済的な利益を理解するために、この新規の方法(鍛造前に炭素を粉末金属部品にドープ又はチャージする)は、炭素を予めドープ又はチャージせず粉末金属部品のガス浸炭のみを含む方法と比較して、鍛造後の後続のガス浸炭のコストを40%削減することが可能となると推定される。この例示的な40%のコスト削減は、浸炭のためのモードとして鍛造後ガス浸炭のみを用いて同程度又はより深い炭素侵入深さを満たすのに必要となるスループットの増大及び時間の短縮に基づいている。これとは別に、鍛造前に粉末金属部品を浸炭するための焼結浸炭ステップは、実行するために多くの付加的な資本的コストを伴わないとも認められる。従来の焼結浸炭、即ち全ての炭素がそのシングル処理で導入される方法と比較して、第1の鍛造前浸炭ステップは全ての炭素をシングルショット又は単回投与で付与するようには設計されておらず、したがって従来の焼結浸炭処理よりも実行コストが低く、ほとんどの場合スループットが高い。
【0058】
浸炭ステップの分離(即ち鍛造ステップの前及び後)により、鍛造処理からの焼入れ及び焼き戻しを直接行う選択肢又は利点はない。そのため、鍛造された製品とは、1つの定義として、最終的な幾何学的形状によって定められるようにソフトな機械加工を施すことができる非熱処理製品といえる。中程度から高度に機械加工された製品では、ソフトなチューニングはたいていの場合ハードなチューニングよりも安価であることから、コストを削減することもでき、同時にガス浸炭作業のコストのさらなる削減が実現される。
【0059】
本明細書に記載の方法はフル焼結浸炭のみよりも多くの処理ステップを含むが、この新規の方法は、従来のガス浸炭処理が焼結加工、鍛造及びガス浸炭を既に含むことから、従来のガス浸炭処理よりも多くのステップは含まない。したがって、本明細書に記載の方法はより良い経済性を提供し、同時にシングルステップ浸炭方法ではこれまで見られなかった高度に設計された硬化層プロファイルを得る機会を提供する。
【0060】
好ましい実施形態に対する他のさまざまな修正及び変形を本発明の精神及び範囲内で行うことができることを理解されたい。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されるべきではない。本発明の全範囲を確認するために以下の特許請求の範囲を参照すべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍛造前浸炭ステップにおいて、鍛造前浸炭プロファイルを確立するために完全密度未満の粉末金属部品に対して浸炭を行うことと、ただし、前記粉末金属部品のベース炭素パーセンテージは、前記鍛造前浸炭ステップの前において前記粉末金属部品の0.1重量パーセントから0.3重量パーセントであり、
前記鍛造前浸炭ステップの後に前記粉末金属部品を鍛造し、前記粉末金属部品の密度を増大させ、前記鍛造前浸炭プロファイルを鍛造時浸炭プロファイルに変換することと、
鍛造後浸炭ステップにおいて、前記鍛造するステップ後に前記粉末金属部品の浸炭を行い、これにより、前記鍛造時浸炭プロファイルからの前記粉末金属部品内への炭素のさらなる拡散と、前記粉末金属部品の表面における前記粉末金属部品内への炭素のさらなる導入との両方がもたらされ、ただし、前記鍛造前浸炭プロファイルにおける浸炭された領域内の炭素の割合は、前記鍛造前浸炭ステップの後において、炭素が0.5重量パーセントから0.6重量パーセントであり、
前記鍛造するステップ前の前記粉末金属部品のポロシティにより前記粉末金属部品の内部への炭素のより深い侵入のための非拡散ベースの経路が提供されることから、前記鍛造前浸炭ステップによって、完全密度を有する同様の組成の同等の粉末金属部品と比べてより深い深さへの浸炭がもたらされる、粉末金属部品の浸炭方法。
【請求項2】
前記鍛造前浸炭ステップの後の、前記粉末金属部品の密度を増大させるよう構成された前記粉末金属部品を鍛造するステップにおいて、前記粉末金属部品を鍛造して前記粉末金属部品を有効完全密度にする、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項3】
前記有効完全密度は理論完全密度の98%超である、請求項2に記載の浸炭方法。
【請求項4】
前記鍛造するステップの前の前記完全密度未満の前記粉末金属部品の密度は、理論完全密度の95%未満である、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項5】
前記粉末金属部品を焼結加工することをさらに含み、
前記鍛造前浸炭ステップを、前記粉末金属部品の前記焼結加工中に実行する、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項6】
前記焼結加工の前の前記粉末金属部品の密度は、前記粉末金属部品の理論完全密度の90%未満である、請求項5に記載の浸炭方法。
【請求項7】
前記鍛造後浸炭ステップの後、前記粉末金属部品の前記表面に最も近い領域内の炭素の割合は、炭素が0.7重量パーセントから0.9重量パーセントである、請求項1から6までのいずれか1項に記載の浸炭方法。
【請求項8】
前記鍛造前浸炭プロファイルを鍛造時浸炭プロファイルに変換することは、
前記粉末金属部品の前記表面に対して均一な深さを有する鍛造前浸炭プロファイルから開始し、前記粉末金属部品を鍛造して前記鍛造時浸炭プロファイルが前記粉末金属部品の前記表面に対してばらつきのある深さを有するようにすること含む、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項9】
前記粉末金属部品は鉄を含む、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項10】
前記粉末金属部品は歯車である、請求項1に記載の浸炭方法。
【請求項11】
前記鍛造するステップと前記鍛造後浸炭ステップとの間において、前記粉末金属部品を機械加工することをさらに含む、請求項1に記載の浸炭方法。