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特開2024-59699IAPアンタゴニスト及び抗PD-1分子による併用抗癌療法
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  • 特開-IAPアンタゴニスト及び抗PD-1分子による併用抗癌療法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059699
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】IAPアンタゴニスト及び抗PD-1分子による併用抗癌療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/08 20060101AFI20240423BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 31/395 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
A61K45/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/06
A61K31/395
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024019886
(22)【出願日】2024-02-14
(62)【分割の表示】P 2020532019の分割
【原出願日】2018-12-21
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2017/001595
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520117994
【氏名又は名称】デバイオファーム インターナショナル エス.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ビューアーニオー,グレゴワール
(72)【発明者】
【氏名】ウィーデマン,ノルバート
(72)【発明者】
【氏名】ガビエ,ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】シルダーゲマジン アルトマン,セルジオ エイドリアン
(57)【要約】
【課題】癌治療の効能を増強させるために又は癌患者をそのような癌治療に適格にするために併用療法を改善する必要性が今もなおある。
【解決手段】
抗PD-1分子によるその後の治療が抗癌応答をもたらす可能性を増強させるために又は抗PD-1分子によるその後の治療に対する対象の癌の応答性を増強させるために、癌と診断されたヒト対象を前治療するためのIAPアンタゴニストの使用が開示される。IAPアンタゴニストによる対象の前治療及び抗PD-1分子による対象のその後の治療を含む、対象の癌の治療のための方法もまた、包含される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象において癌を治療するための方法における使用のためのアポトーシスタンパク質阻害剤(IAP)アンタゴニストであって、前記方法が、
(i)導入期の間に前記IAPアンタゴニストを投与することであって、前記導入期の継続時間は、抗PD-1分子の第1の投与の1から48日前の範囲から選択されることと、これに続いて
(ii)前記導入期の終了後に抗PD-1分子を投与することと、
を含む、
使用のためのアポトーシスタンパク質阻害剤(IAP)アンタゴニスト。
【請求項2】
前記ヒト対象が、1から28日間の導入期の間に前記IAPアンタゴニストを投与され、これに続いて前記抗PD-1分子が投与される、請求項1に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項3】
前記ヒト対象が、5から28日間の導入期の間に前記IAPアンタゴニストを投与され、これに続いて前記抗PD-1分子が投与される、請求項1又は2に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項4】
前記IAPアンタゴニストが、前記導入期の間の1又はそれ以上の日、投与されない、請求項1から3のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項5】
前記IAPアンタゴニストの投与が、前記抗PD-1分子による投与がスタートした後、継続されるか、又は
別のIAPアンタゴニストが、前記抗PD-1分子と同時に投与される、請求項1から4のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項6】
前記癌が、10%以上の治療患者において抗PD-1分子による治療に対して応答性であることが知られている癌である、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項7】
前記癌が、頭頸部癌、黒色腫、尿路上皮癌、非小細胞肺癌、原発部位がわからない高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI)腫瘍、又は腎臓癌である、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項8】
前記癌が、抗PD-1分子による治療に対する奏効率が10%以下、好ましくは5%以下である癌である、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項9】
前記癌が、膵癌、結腸直腸癌、多発性骨髄腫、小細胞肺癌、肝臓がん、又は卵巣癌である、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項10】
前記癌が、免疫原性が不十分であると判断されている、請求項1から9のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項11】
前記判断が、前記導入期の前に採取された患者の生物学的サンプルにおける免疫原性のマーカーの分析、及びマーカーの存在、発現レベル、又は導き出されたスコアが所定の閾値に到達しないという所見からなる、請求項10に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項12】
前記マーカーが、癌細胞及び/又は免疫細胞上に発現されるPD-L1である、請求項11に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項13】
前記マーカーが、腫瘍浸潤リンパ球、好ましくはCD8+細胞又は腫瘍中の遺伝子変異量である、請求項11に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項14】
導入期の間の前記IAPアンタゴニストの投与が、前記癌が高免疫原性であることが判断されるまで継続される、請求項1から13のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項15】
前記判断が、前記導入期の後に採取された患者の生物学的サンプルにおける免疫原性のマーカーの分析、及びマーカーの存在、発現レベル、又は導き出されたスコアが所定の閾値を超えるという所見からなる、請求項14に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項16】
前記マーカーが、癌細胞及び/又は免疫細胞上に発現されるPD-L1である、請求項15に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項17】
前記マーカーが、腫瘍浸潤リンパ球、好ましくはCD8+細胞又は腫瘍中の遺伝子変異量である、請求項15に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項18】
前記生物学的サンプルが、腫瘍又は液体生検材料である、請求項11から13及び15から17のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項19】
前記抗PD-1分子が、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、PDR001、IBI-308、セミプリマブ、カムレリズマブ、BGB-A317、BCD-100、JS-001、JNJ-3283、MEDI0680、AGEN-2034、TSR-042、Sym-021、PF-06801591、MGD-013、MGA-012、LZM-009、GLS-010、ゲノリムズマブ、BI 754091、AK-104、CX-072、WBP3155、SHR-1316、PD-L1阻害剤ミラモレキュール、BMS-936559、M-7824、LY-3300054、KN-035、FAZ-053、CK-301、又はCA-170である、請求項1から18のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項20】
前記抗PD-1分子が、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、PDR001、又はBI 754091である、請求項19に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項21】
前記抗PD-1分子が、PD-1又はPD-L1に対する抗体である、請求項1から19のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項22】
前記抗PD-1分子の投与が、別の免疫療法、放射線療法、化学療法、化学放射線療法、腫瘍溶解性ウイルス、血管新生抑制療法、及び/又は標的癌療法を含む、1つ又はそれ以上の他の癌療法と組み合わせられる、請求項1から21のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項23】
前記IAPアンタゴニストが、第2ミトコンドリア由来カスパーゼ活性化因子(SMAC)ミメティックである、請求項1から22のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項24】
前記導入期の間に投与される前記IAPアンタゴニストが、Debio 1143、GDC-917/CUDC-427、LCL161、GDC-0152、TL-32711/ビリナパント、HGS-1029/AEG-40826、BI 891065、ASTX-660、又はAPG-1387であり、好ましくは、前記IAPアンタゴニストは、Debio 1143、LCL161、又はビリナパントである、請求項1から23のいずれか1項に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【請求項25】
前記IAPアンタゴニストが、Debio 1143である、請求項24に記載の使用のためのIAPアンタゴニスト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、抗PD-1分子による対象の治療の前に対象の癌の微小環境の免疫原性を増強させるためのIAPアンタゴニストの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
多くの癌のタイプには、外因性又は内因性の細胞死経路の構成要素が遺伝子改変されている症例が含まれる。これには、FAS-associated via death domain(FADD)若しくはアポトーシスタンパク質阻害剤(IAP)の過剰発現又は機能的カスパーゼの発現の欠如を含むことができる。結果として、癌の特徴である細胞死抵抗性となり得る。Hoadley et al. (2014) Cell 158: 929-44;The Cancer Genome Atlas Network (2015) Nat 517: 576-82;Eytan et al. (2016) Cancer Res 76: 5442-54;Hanahan and Weinberg (2011) Cell 144: 646-74。
【0003】
外因性及び内因性の死経路についての簡潔な説明は、Derakhshan et al. (2017) Clin Cancer Res 23: 1379-87において見つけられる。手短かに言えば、外因性の経路は、細胞表面受容体で始まる。外因性の経路は、Fasリガンド(FasL)、TNFα、又はTRAILなどのような死リガンドの、細胞外側のそれらのそれぞれの受容体(すなわちFas、TNFR1、TRAILR1/DR4、TRAIL2/DR5)への結合によって起こされる。結果として、FADDは、細胞内側の受容体に結合し、プロカスパーゼ8は、受容体結合FADDに結合して、death-inducing signaling complex(DISC)を構成する。これに、カスパーゼ8、次いでカスパーゼ3の活性化が続き、アポトーシスに至る。外因性の経路はまた、FADD、RIPキナーゼ、及びmixed lineage kinase domain-like protein(MLKL)を伴う、ネクロトーシスによる死をも引き起こし得る。
【0004】
内因性の経路は、シトクロムc及び第2ミトコンドリア由来カスパーゼ活性化因子(second mitochondria-derived activator of caspases、SMAC)などのようなアポトーシス促進タンパク質の細胞質への放出をもたらすミトコンドリアに対する攻撃から始まる。シトクロムcは、アポトーシスプロテアーゼ活性化因子(APAF1)に結合し、アポトソーム複合体を形成する。この複合体は、プロカスパーゼ9に結合し、プロカスパーゼ9は活性化され、次にプロカスパーゼ3を活性化する。SMACは、cellular IAP1(cIAP1)、cellular IAP2(cIAP2)、及びX-linked IAP(XIAP)を含むIAPファミリータンパク質に結合し、その分解又は阻害を引き起こす。
【0005】
IAPは、1から3個のバキュロウイルスIAPリピート(BIR)ドメインの存在によって定義されるタンパク質である。ヒト細胞は、8つの異なるIAPを発現し、このうちXIAP、cIAP1、及びcIAP2は、カスパーゼ誘発性のアポトーシス及びRIPキナーゼ媒介性のネクロトーシスを阻害することが示された。Salvesen and Duckett (2002) Nat Rev Mol Cell Biol 3: 401-10。後者のIAPのうち、XIAPだけが、カスパーゼに直接結合し、それらの機能を阻害することができる。Derakhshan et al. (Clin Cancer Res. 2017 Mar 15;23(6):1379-1387. doi: 10.1158/1078-0432.CCR-16-2172. Epub 2016 Dec 30)。cIAP1、cIAP2、及びXIAPは、E3ユビキチンリガーゼ活性を有するいわゆるRINGドメインを含有する。cIAP1及びcIAP2の抗アポトーシス効果は、それらのユビキチンリガーゼ活性によって媒介される。
【0006】
SMACは、そのアミノ末端にペプチド配列Ala-Val-Pro-Ile(AVPI)を含有する二量体タンパク質であり、この配列は、IAPのBIRドメインへのこのタンパク質の結合を媒介している。後者のペプチド配列を模倣し、それによってXIAP、cIAP1、及びcIAP2に結合するSMACの能力を再現するペプチドミメティックが開発された(本明細書において「SMACミメティック」と呼ばれる)。SMACミメティックは、XIAPがカスパーゼと相互作用するのを妨げる。cIAP1及びcIAP2に関しては、SMACミメティックは、IAPのE3ユビキチンリガーゼ活性を活性化し、それらの自己ユビキチン化及びプロテアソーム分解による排除を引き起こす。
【0007】
アポトーシスに対するIAPの阻害効果に加えて、IAPはまた、炎症、免疫、細胞遊走、及び細胞生存にとって重要な遺伝子の発現を駆動するNF-κB転写因子の活性化を調節するユビキチン依存性シグナル伝達現象などのような、多くの他の細胞プロセスにも影響を及ぼす。Gyrd-Hansen and Meier (2010) Nat Rev Cancer 10: 561-74。cellular IAPは、NF-κB活性化の古典的経路において決定的な意味を持つ。Derakhshan et al. (2017)。TNFR1へのTNFαの結合は、TNF receptor 1-associated via death domain(TRADD)及びTNF受容体関連因子2(TRAF2)のTNFR1への動員をもたらす。RIP1及びcIAP1/2は、次いで、その活性複合体に動員される。RIP1のcellular IAP媒介性のユビキチン化は、最終的に、NF-κB阻害剤キナーゼIKKβのリン酸化をもたらし、これにより、阻害性NF-kBサブユニットIkβがリン酸化される。Ikβは、次いで、分解され、NF-kBサブユニットp50及びRELAを遊離し、これらは組み合わさって、活性転写因子NF-κBを形成する。TNFR1のこの関与は、そのアポトーシス又はネクロトーシスシグナル伝達を妨げる。NF-κBシグナル伝達経路のIAP依存性の調節は、免疫系の機能に多大な影響を有し、自然免疫及び適応免疫の両方に影響を与える。Beug et al. (2012) Trends Immunol 33: 535-45。このように、IAPは、抗原提示細胞、リンパ球、及びナチュラルキラー細胞を含む抗腫瘍免疫応答に関係があるいくつかの免疫細胞型の機能を調節することが実証されてきた。
【0008】
cellular IAPはまた、NF-κB誘発性キナーゼNIKのユビキチン化を担い、そのプロテアソーム分解をもたらす。Derakhshan et al. (2017)。IAPの非存在下において、すなわち、SMACミメティックなどのようなIAPアンタゴニストの存在下において、NIKは、蓄積して、IKKαをリン酸化し、これは、不活性なNF-κBサブユニットp100をリン酸化する。このサブユニットは、切断されて活性サブユニットp52になり、これは、RELBと組み合わさって、活性なNF-kB転写因子を形成する。NF-kBのこの非古典的活性化は、サイトカイン産生による自然免疫及び適応免疫の調整に必要不可欠である。Chesi et al. (2016) Nat Med, 22:1411-20及びその中で引用される参考文献。IAP阻害剤LBW242は、初代T細胞受容体刺激の状況下でT細胞の増殖及び共刺激を誘発することによって抗腫瘍免疫応答を増加させ、T細胞活性化の増加及び予防癌ワクチンモデルにおける効能の増強をもたらすことが示された。Dougan et al. (2010) J Exp Med 207: 2195-206。IAP阻害剤BV6及びビリナパントは、たとえば、樹状細胞成熟を誘発することによって又は腫瘍促進性の(pro-tumoral)II型マクロファージを炎症促進性のI型マクロファージに変換することによって抗原提示細胞の機能を調整することが示された。Muller-Sienerth et al. (2011) PLoS One 6: e21556;Knights et al. (2013) Cancer Immunol Immunother 62: 321-35;Lecis et al. (2013) Cell Death Dis 4: e920。そのうえ、IAP阻害は、ナチュラルキラー細胞媒介性の又はT細胞媒介性のエフェクター機構であるグランザイムB及びパーフォリンに対する腫瘍細胞の感受性を増加させる。Brinkmann et al. (2014) Leuk Lymphoma 55: 645-51;Nachmias et al. (2007) Eur J Immunol 37: 3467-76。そのうえ、IAP阻害剤はまた、免疫細胞上の免疫チェックポイント分子の発現を調整することによって、免疫系の調節に寄与し得る。Knights et al. (2013);Pinzon-Ortiz et al. (2016) Cancer Res 76 (14 Suppl): abstract 2343。IAPの非存在下において、すなわち、SMACミメティックなどのようなIAPアンタゴニストの存在下において、TNFR1は、もはや古典的NF-kB活性化に関与せず、細胞をTNFα媒介性のアポトーシスの影響を受けやすくすることが注目される。
【0009】
典型的に、腫瘍細胞の免疫破壊は、非効率的である。今のところ、これは、癌患者が、腫瘍を破壊することができるT細胞を大量には貯蔵していないから及び/又は適応免疫及び自然免疫系の細胞が抑制されているから又はそれらの活性化若しくはそれらのエフェクター機能を阻害する経路によって中和されているからであると思われる。この抑制において手段となっているのは、いわゆる免疫チェックポイント分子である。いくつかのそのようなチェックポイント分子が、過去20年にわたって同定された。このタイプのプロトタイプとなる分子は、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)である。この分子の遮断は、マウスモデルにおいて腫瘍縮小をもたらすことがわかった。Leach et al. (1996) Science 271: 1734-36。CTLA-4は、活性化T細胞、主にCD4細胞に発現し、マスターT細胞共刺激分子CD28の活性に干渉することによって、T細胞応答を制限する。CTLA-4及びCD28は、リガンドCD80及びCD86を共有し、それによって、CTLA-4は、後者のリガンドに対するそのより高い親和性によりCD28にまさる。Linsley et al. (1994) Immunity 1: 793-801。
【0010】
CTLA-4のように、免疫チェックポイント分子PD-1は、活性化T細胞上に発現される。Parry et al. (2005) Mol Cell Biol 25: 9543-53。それはまた、ホスファターゼSHP2及びPP2Aをも活性化する。PD-1の関与は、TCR媒介性のエフェクター機能に直接干渉し、T細胞遊走を増加させると考えられる。チェックポイント分子は、主として腫瘍微小環境においてその機能を発揮すると考えられるのに対して、CTLA-4は、主として二次リンパ組織において作用する。Wing et al. (2008) Science 322: 271-5;Peggs et al. (2009) J Exp Med 206: 1717-1725。PD-1の2つの既知のリガンドは、PD-L1及びPD-L2である。Dong et al. (1999) Nat Med 5: 1365-9;Latchman et al. (2001) Nat Immunol 261-8;Tseng et al. (2001) J Exp Med 193: 839-46。リガンド分子は相同性を共有するが、多様に調節される。PD-L1は、IFNγ(活性化されたT細胞及びナチュラルキラー細胞によって産生される)によって、活性化された造血細胞及び上皮細胞において誘発される。PD-L2は、活性化樹状細胞及びいくつかのマクロファージにおいて誘発されることがわかっている。誘発は、主にIL-4によるものであり得る。PD-1ノックアウトマウスは、遅発性の器官特異的炎症を呈する。Nishimura et al. (1999) Immunity 11: 141-51;Science 291: 319-22 (2001)。この表現型は、CTLA-4ノックアウトマウスにおいて観察されるものよりもはるかに重症ではない。同様に、抗PD-1療法の臨床上の免疫に関係する効果は、抗CTLA-4療法に関連するものよりもゆるやかな傾向がある。PD-L1は、多くの固形腫瘍において発現され、PD-L2は、B細胞リンパ腫のある種のサブセットにおいて発現される。PD-1は、腫瘍浸潤リンパ球において高度に発現される。Dong et al. (2002) Nat Med 8: 793-800;Ansell et al. (2015) N Engl J Med 372: 311-9;Amadzadeh et al. (2009) Blood 114: 1537-44;Sfanos et al. (2009) Prostate 69: 1694-1703。
【0011】
抗PD-1療法の第1のヒト臨床試験は、Bristol-Myers Squibb/Ono Pharmaceuticalsの完全ヒトIgG4抗体であるモノクローナル抗体ニボルマブを用いた。最先端の治療をした難治性NSCLCについて17%、RCCについて20%、及び黒色腫について31%の客観的奏効率が、立証された。これらの応答の多くは、長く続いた。全生存期間は、それぞれ9.9、22.4、及び16.8か月であった。Topalian et al. (2012) N Engl J Med 366: 2443-54;J Clin Oncol 32: 1020-30 (2014)。現在までのところ、ニボルマブは、切除不能又は転移性黒色腫の、腎癌(RCC)、転移性又は再発性頭頸部扁平上皮癌(SCCHN)、転移性非小細胞肺がん(NSCLC)、及びホジキンリンパ腫についての治療について米国、日本、及び欧州において承認されている。Iwai et al. (2017) J Biomed Science 24: 36;Balar and Weber (2017) Cancer Immunol Immunother 66: 551-64。尿路上皮癌についてのFDAの承認もまた、得られている。Merckのヒト化IgG4抗体、モノクローナル抗PD-1抗体ペンブロリズマブもまた、転移性黒色腫、転移性NSCLC(米国、日本、及び欧州)、並びに頭頸部癌及び原発部位がわからない高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI)腫瘍(microsatellite instability (MSI) high tumors from agnostic primary site)(米国)について承認されている。Roche/GenentechのIgG1タイプの別の抗体、アテゾリズマブは、リガンドPD-L1を阻害する。アテゾリズマブは、尿路上皮癌(膀胱癌)及び転移性NSCLCについてFDAの承認を得た。2つのさらなるPD-L1抗体が、最近市場に現われた。デュルバルマブは、局所的に進行した又は転移性尿路上皮癌についてFDAにより承認されている、Medimmune/AstraZenecaのヒトIgG1k抗体である。アベルマブは、転移性メルケル細胞癌及び尿路上皮/膀胱癌の治療についてFDAによって承認されているMerck Serono/PfizerのヒトIgG1抗体である。PD-1に対して特異的なさらなる分子は、治験を通して進展している。これらには、Novartisのヒト化IgG4抗体PDR001、Innovent Biologicsのモノクローナル抗体IBI-308、Regeneronの完全ヒト化モノクローナル抗体セミプリマブ(REGN-2810)、Jiangsu Hengrui Medicineのヒト化IgG4モノクローナル抗体カムレリズマブ(SHR-1210)、BeiGeneのBGB-A317モノクローナルヒト化抗体、Biocadのモノクローナル抗体BCD-100、Shanghai Junshi Biosciencesのヒト化IgG4K組換え抗体JS-001、Johnson & JohnsonのJNJ-3283(JNJ-63723283)モノクローナル抗体、Amplimmune(現在Medimmune[AstraZenec])のモノクローナル抗体AMP-514(現在「MEDI0680」と呼ばれている)、AgenusによるAGEN-2034、AnaptysBio and Tesaroのヒト化モノクローナル抗体TSR-042、Symphogenのヒト化モノクローナル抗体Sym-021、PfizerのPF-06801591抗体、Macrogenicsの二重特異性四価ヒト化DART(dual-affinity re-targeting)分子MGD-013、MacrogenicsのMGA-012ヒト化モノクローナル抗体、Livzon Pharmaceuticalの組換えヒト化抗体LZM-009、Gloria Pharmaceuticalsのヒト組換え体モノクローナル抗体GLS-010(AB-122)、Walvax BiotechnologyのIgG4ヒト化モノクローナル抗体ゲノリムズマブ(genolimzumab)(CBT-501)、Boehringer Ingelheimのモノクローナル抗体BI 754091、及びAkeso Biopharmaの二重特異性モノクローナル抗体AK-104が含まれる。PD-L1に対して特異的なさらなる分子もまた、治験を通して進展している。これらには、CytomX Therapeuticsのモノクローナル抗体CX-072、CStone Pharmaceuticalsの完全ヒト化組換えIgGモノクローナル抗体WBP3155(CS-1001)、Atridiaのヒト化IgG4モノクローナル抗体SHR-1316、Bristol-Myers SquibbのPD-L1阻害剤ミラモレキュール(millamolecule)、Bristol-Myers SquibbのヒトIgG4抗体BMS-936559(MDX1105)、Merck KGaAのPD-L1モノクローナル抗体及びTGFβを標的にする二機能融合タンパク質M-7824(MSB0011359C)、Eli Lillyのモノクローナル抗体LY-3300054、Alphamabのナノボディ(nanobody)KN-035、Novartisのモノクローナル抗体FAZ-053、TG TherapeuticsのIgG1抗体CK-301、Aurigene DiscoveryのPD-L1及びT細胞活性化のVドメインIgサプレッサー(V-domain Ig suppressor of T cell activation)(VISTA)を標的にする経口小分子CA-170が含まれる。2015年の時点で、抗PD-1/PD-L1療法についての客観的奏効率は、黒色腫について17から40%、肺癌について10から30%、腎臓癌について12から29%、膀胱癌について25%、卵巣癌について6から23%、頭頸部癌について14から20%、胃癌について22%、結腸直腸癌について24%、トリプルネガティブ乳癌について18%、中皮腫についての24%、及びホジキンリンパ腫について87%であることが報告された。Lejeune (2015) Melanoma Res 25: 373-375。ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、及びデュルバルマブの奏効率のより最近の更新については、Balar and Weber (2017)及びIwai et al. (2017)を参照されたい。
【0012】
上記に挙げられるデータが示すように、抗PD-1/PD-L1療法は、大多数の患者において印象的な客観的奏効をもたらしていない。免疫調節薬(たとえば共刺激分子のアクチベーター又は免疫チェックポイント分子の阻害剤)を、IAP阻害剤、TORキナーゼ阻害剤、HDM2リガーゼ阻害剤、PIMキナーゼ阻害剤、HER3キナーゼ阻害剤、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、Janusキナーゼ阻害剤、FGF受容体阻害剤、EGF受容体阻害剤、c-MET阻害剤、ALK阻害剤、CDK4/6阻害剤、PI3K阻害剤、BRAF阻害剤、CAR T細胞(たとえばCD19を標的にするCAR T細胞)、MEK阻害剤、又はBCR-ABL阻害剤(国際公開第2016/054555号)などのような第2の作用物質と組み合わせることによる多くの併用療法が、提唱された。最近の報告は、IAP阻害剤が、免疫適格マウス同系癌モデルにおいて免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1の効果を増強させることを示し、IAP阻害剤が、癌の治療のための免疫療法との併用に好適な候補となることを示した。Chesi et al. (2016);Pinzon-Ortiz et al. (2016);Beug et al. (2017) Nat Commun. Feb 15; 8. doi: 10.1038/ncomms14278。
【0013】
同様に、IAPアンタゴニストの投与による癌の治療が、提唱されてきたが、そのようなIAPアンタゴニスト単独の投与は、ある種の癌を治療するのに不十分であるように思われる。免疫賦活性剤又は免疫調節剤とSMACミメティック化合物を併用する考え方は、癌の治療においてSMACミメティックの効能を増強させる目的で提唱されてきた(国際公開第2017/143449号)。
【0014】
アベルマブと組み合わせたDebio 1143(ClinicalTrials.gov識別名:NCT03270176)、ペンブロリズマブと組み合わせたビリナパント(ClinicalTrials.gov識別名:NCT02587962)、及びPDR001と組み合わせたLCL-161(ClinicalTrials.gov識別名:NCT02890069)を含む治験は、現在進行中である。さらに、Bo (2017) 「Role of Smac in Lung Carcinogenesis and Therapy」doi: 10.1371/journal.pone.0107165は、Debio1143及び抗PD-1抗体の同時の投与を開示する。しかしながら、先行技術において提供される治療法のどれも、本明細書において記載される導入療法の使用を開示していない。
【0015】
癌治療の効能を増強させるために又は癌患者をそのような癌治療に適格にするために併用療法を改善する必要性が今もなおある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の概要
本発明者らは、患者の腫瘍微小環境の免疫原性を増強させるために腫瘍を有する患者をSMACミメティックなどのようなIAPアンタゴニストにより前治療することができることを提唱する。前治療は、腫瘍に対する免疫応答を引き起こすための抗PD-1分子による治療の有効性を増強させる。
【0017】
したがって、一態様では、本発明は、ヒト対象において癌を治療するための方法であって、(i)導入期の間にIAPアンタゴニストを投与すること、これに続いて(ii)導入期の終了後に抗PD-1分子を投与することを含む方法を提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、ヒト対象において癌を治療するための方法において使用するためのIAPアンタゴニストであって、方法は、(i)導入期の間にIAPアンタゴニストを投与すること、これに続いて(ii)導入期の終了後に抗PD-1分子を投与することを含むIAPアンタゴニストを提供する。
【0019】
さらなる態様では、本発明は、ヒト対象において癌を治療するための方法において使用するための抗PD-1分子であって、方法は、(i)導入期の間にIAPアンタゴニストを投与すること、これに続いて(ii)導入期の終了後に抗PD-1分子を投与することを含む抗PD-1分子を提供する。
【0020】
別の態様では、本発明は、ヒト対象において癌を治療するための方法において使用するためのIAPアンタゴニスト及び抗PD-1分子であって、方法は、(i)導入期の間にIAPアンタゴニストを投与すること、これに続いて(ii)導入期の終了後に抗PD-1分子を投与することを含むIAPアンタゴニスト及び抗PD-1分子を提供する。
【0021】
下記に記載される本開示、実施形態、及び態様は、上記の態様のいずれか1つに適用可能である。
【0022】
IAPアンタゴニストによる前治療は、抗PD-1分子との同時の投与にまさる、いくつかの異なる利点を有することが期待される。前治療は、腫瘍微小環境を改変し、抗PD-1分子がまさに最初に投与される前に、腫瘍を抗PD-1分子に対して感受性にする。これは、IAPアンタゴニスト及び抗PD-1分子による同時治療と比較した場合、抗PD-1分子治療の効能を増加させ得る。前治療はまた、抗PD-1分子治療に関係する応答を観察するために必要とされる時間をも低下させ得る。抗PD-1分子の有効性が、前治療によって増加し得るので、患者は、より短い期間にわたって、より少ない抗PD-1分子を投与される必要があるだけになり得る。
【0023】
したがって、本開示は、抗PD-1分子によるその後の治療が抗癌応答をもたらす可能性を増強させるために、癌と診断された対象を前治療するためのIAPアンタゴニスト(の使用)からなる導入療法に関する。そのうえ又はその代わりに、IAPアンタゴニストの使用、すなわち導入療法は、抗PD-1分子によるその後の治療に対する対象の癌の応答性を増強させることが意図される。出願人らは理論によって束縛されることを望まないが、IAPアンタゴニストの効果の増強は、おそらく、対象の腫瘍微小環境の免疫原性を増加させるこの分子の能力によるものであろう。
【0024】
特定の実施形態では、癌に罹患している対象は、1から48日間、好ましくは1から28日間、より好ましくは5から28日間の導入期又は前治療期の間に、IAPアンタゴニストにより前治療され、これに続いてその後の抗PD-1分子治療が開始される。当然、これは、抗PD-1分子が導入期の間に投与されないことを意味する。導入期は、IAPアンタゴニストが投与されない1又はそれ以上の日(オフ日)を含んでいてもよい。たとえば、導入期の間のIAPアンタゴニストの最後の投与と抗PD-1分子の第1の投与との間に、1又はそれ以上のオフ日があってもよい。IAPアンタゴニストが使用され、毎日投与される場合、導入期は、IAPアンタゴニストが投与されない1又はそれ以上の日を含んでいてもよい。
【0025】
原則として、任意のIAPアンタゴニストを、導入療法において使用することができる。しかしながら、好ましいIAPアンタゴニストは、Debio 1143、GDC-917/CUDC-427、LCL161、GDC-0152、TL-32711/ビリナパント、HGS-1029/AEG-40826、BI 891065、ASTX-660、及びAPG-1387を含む。好ましくは、IAPアンタゴニストは、SMACミメティックであり、最も好ましいIAPアンタゴニストは、Debio 1143である。
【0026】
導入期において、様々な用量及びスケジュールが、選択されるIAPアンタゴニストについて使用される。選ばれる用量及びスケジュールは、癌のタイプ、患者の特徴、及び対象が受け得る他の療法などのような様々な因子に依存していてもよく、臨床医の判断及び経験に従ってもよい。たとえば、経口的に毎週1回500mg、経口的に毎週1回1200mg、経口的に毎週1回1500mg、経口的に毎週1回1800mgを含む毎週1回500から1800mgの間の経口用量が、LCL-161について使用されてもよい。ビリナパントは、28日間のサイクルのうち1、8、及び15日目に(2から7、9から14、及び16から28日目はビリナパントオフ日とする)13から47mg/mの間の、たとえば47mg/mの又は4週間のうち3週間、毎週2回13mg/mの用量で使用されてもよい。Debio 1143は、約100から約1000mg、好ましくは約100から約500mg、最も好ましくは約100から約250mgの1日量で、28日以下の期間に毎日又は5から14日の間の連続投与、これに続く16から5日間のDebio 1143オフ日、21日毎に5日間の連続投与、21日毎に14日間の連続投与、若しくは14日毎に7から10日間の連続投与を含むサイクルで、経口的に投与される。
【0027】
別の実施形態では、癌患者は、抗PD-1分子治療の前だけでなく、それと同時にIAPアンタゴニストが投与される。IAPアンタゴニスト治療は、抗PD-1分子が投与される全期間の間に継続させることができる。その代わりに、IAPアンタゴニストの同時投与は、抗PD-1分子治療の完了の前に終了させることができる又はIAPアンタゴニストの投与は、抗PD-1分子治療の完了以降、継続させることができる。
【0028】
導入療法、すなわち、抗PD-1分子による治療の前に癌患者を前治療するためのIAPアンタゴニストの使用は、患者が罹患している癌種によって制限されない。特定の実施形態では、癌は、かなりの割合の治療患者において抗PD-1分子による治療に対して応答性であることが知られている種類のものである。これは、治療のために選択される抗PD-1分子が認可されている又は推奨されている癌の種類を含むが、これらに限定されない。その特定の実施形態では、癌は、頭頸部癌、黒色腫、尿路上皮癌、非小細胞肺癌、原発部位がわからない高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI)腫瘍、又は腎臓癌である。いくつかの実施形態では、癌は、抗PD-1分子による治療に対する応答者の割合が、10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上である癌である。別の実施形態では、癌は、抗PD-1分子による治療に応答することが示された患者のパーセンテージが低く(たとえば5%以下)且つ本発明による導入療法が、奏効率を改善すると思われる種類のものである。これは、治療のために選択される抗PD-1分子が(まだ)認可されていない又は推奨されていない癌の種類を含むが、これらに限定されない。その特定の実施形態では、癌は、膵癌、結腸直腸癌、多発性骨髄腫、小細胞肺癌、肝臓がん、又は卵巣癌である。
【0029】
原則として、任意のIAPアンタゴニストを、使用することができる。しかしながら、好ましいIAPアンタゴニストは、Debio 1143、GDC-917/CUDC-427、LCL161、GDC-0152、TL-32711/ビリナパント、HGS-1029/AEG-40826、BI 891065、ASTX-660、及びAPG-1387を含む。好ましくは、IAPアンタゴニストは、SMACミメティックであり、最も好ましいIAPアンタゴニストは、Debio 1143である。
【0030】
IAPアンタゴニストが抗PD-1分子治療の間に継続される場合、導入期と同じ又は異なる、好ましくは同じIAPアンタゴニストが、使用されてもよい。IAPアンタゴニストの好ましい例は、Debio 1143、GDC-917/CUDC-427、LCL161、GDC-0152、TL-32711/ビリナパント、HGS-1029/AEG-40826、BI 891065、ASTX-660、及びAPG-1387を含む。好ましくは、IAPアンタゴニストは、SMACミメティックであり、最も好ましいIAPアンタゴニストは、Debio 1143である。用量及びスケジュール(サイクル)もまた、臨床医の判断及び経験に従って、導入期と同じであってもよい又は異なっていてもよい。症状の悪化がない、RECIST/iRECISTガイドラインによって客観的に評価されるように疾患進行がない、及び容認できない毒性がないといった臨床上の有益性が観察される限り又は治療のアプローチの変更が臨床上必要になるまで、サイクルは、反復されてもよい。
【0031】
導入期の後に投与される抗PD-1分子は、任意の抗PD-1分子とすることができる。使用することができる特定の抗PD-1分子は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、PDR001、IBI-308、セミプリマブ、カムレリズマブ、BGB-A317、BCD-100、JS-001、JNJ-3283、MEDI0680、AGEN-2034、TSR-042、Sym-021、PF-06801591、MGD-013、MGA-012、LZM-009、GLS-010、ゲノリムズマブ、BI 754091、AK-104、CX-072、WBP3155、SHR-1316、PD-L1阻害剤ミラモレキュール、BMS-936559、M-7824、LY-3300054、KN-035、FAZ-053、CK-301、及びCA-170を含む。好ましい分子は、PD-1又はPD-L1に対する抗体である。導入期の後に治療のために選択される抗PD-1分子は、医療現場でよく使用される量及び投与スケジュールで投与される。特定の実施形態では、導入期の後に投与される抗PD-1分子は、他の免疫療法(抗CTLA4抗体を含むが、これらに限定されない他の免疫チェックポイント阻害剤、IDO阻害剤、細胞療法、癌ワクチン、他の免疫調節物質)、放射線療法、化学療法、化学放射線療法、腫瘍溶解性ウイルス、血管新生抑制療法(VEGFR阻害剤など)、及び/又は標的癌療法を含むが、これらに限定されない、1つ又はそれ以上の他の癌療法と組み合わせられてもよい。
【0032】
特定の実施形態では、本発明の導入療法は、癌微小環境の免疫原性が不十分であるという判断を条件としてなされる又はその判断の後にのみ推奨される。よって、いくつかの実施形態では、患者は、その癌の免疫原性が不十分であると判断された後に、導入療法に適格であると見なされる。いくつかの実施形態では、癌は、免疫原性が不十分であると判断されている。たとえば、いくつかの実施形態では、癌は、本明細書において下記に提供される定義のうちの1つに従って、免疫原性が低いと判断されたかもしれない。判断は、典型的に、IAPアンタゴニストによる前治療の前に採取された癌生検材料(液体生検材料を含む)などのような患者の生物学的サンプルにおける免疫原性のマーカーの分析、及びマーカーの存在、発現レベル、又は導き出されたスコアが所定の閾値に達しないという所見を含む。好ましいマーカーは、癌細胞及び/又は免疫細胞上に発現されるPD-L1である。他の好ましいマーカーは、腫瘍浸潤リンパ球及び/又は腫瘍中の遺伝子変異量(tumor mutation burden)を含む。
【0033】
別の特定の実施形態では、抗PD-1分子による患者の治療は、癌が導入期、すなわちIAPアンタゴニストによる前治療の終了時に免疫原性であるという判断を条件としてなされる又はその判断の後にのみ推奨される。いくつかの実施形態では、導入期の終了時の癌は、本明細書において下記に提供される定義のうちの1つに従って、免疫原性が高いと判断されたかもしれない。判断は、典型的に、IAPアンタゴニストによる患者の前治療の後に採取された癌生検材料(液体生検材料を含む)などのような患者の生物学的サンプルにおける免疫原性のマーカーの分析、及びマーカーの存在、発現レベル、又は導き出されたスコアが所定の閾値を超えるという所見を含む。好ましいマーカーは、癌細胞及び/又は免疫細胞上に発現されるPD-L1である。他の好ましいマーカーは、腫瘍浸潤リンパ球及び/又は腫瘍中の遺伝子変異量を含む。
【0034】
さらに別の特定の実施形態では、導入治療の間に、放射線療法、化学療法、腫瘍溶解性ウイルス、標的癌療法、癌ワクチン、細胞療法、及び/又は血管新生抑制療法などのような1つ又はそれ以上の他の癌療法が、使用されてもよい。任意の癌共同療法を、抗PD-1分子療法を除いて、導入期の間に使用することができる。したがって、抗PD-1分子は、導入期の間に投与されない。
【0035】
本発明はまた、IAPアンタゴニストによる対象の前治療及び抗PD-1分子による対象のその後の治療を含む対象の癌の治療の方法にも関する。
【0036】
導入期において、様々な用量及びスケジュールが、選択されるIAPアンタゴニストについて使用される。選ばれる用量及びスケジュールは、癌のタイプ、患者の特徴、及び対象が受け得る他の療法などのような様々な因子に依存していてもよく、臨床医の判断及び経験に従ってもよい。たとえば、経口的に毎週1回500mg、経口的に毎週1回1200mg、経口的に毎週1回1500mg、経口的に毎週1回1800mgを含む毎週1回500から1800mgの間の経口用量が、LCL-161について使用されてもよい。ビリナパントは、28日間のサイクルのうち1、8、及び15日目に(2から7、9から14、及び16から28日目はビリナパントオフ日とする)13から47mg/mの間の、たとえば47mg/mの又は4週間のうち3週間、毎週2回13mg/mの用量で使用されてもよい。Debio 1143は、約100から約1000mg、好ましくは約100から約500mg、最も好ましくは約100から約250mgの1日量で、28日以下の期間に毎日又は5から14日の間の連続投与、これに続く16から5日間のDebio 1143オフ日、21日毎に5日間の連続投与、21日毎に14日間の連続投与、若しくは14日毎に7から10日間の連続投与を含むサイクルで、経口的に投与される。
【0037】
IAPアンタゴニストが抗PD-1分子治療の間に継続される場合、前治療期と同じ又は異なる、好ましくは同じIAPアンタゴニストが、使用されてもよい。IAPアンタゴニストの好ましい例は、Debio 1143、GDC-917/CUDC-427、LCL161、GDC-0152、TL-32711/ビリナパント、HGS-1029/AEG-40826、BI 891065、ASTX-660、及びAPG-1387を含む。好ましくは、IAPアンタゴニストは、SMACミメティックであり、最も好ましいIAPアンタゴニストは、Debio 1143である。用量及びスケジュールもまた、臨床医の判断及び経験に従って、導入期と同じであってもよい又は異なっていてもよい。症状の悪化がない、RECIST/iRECISTガイドラインによって客観的に評価されるように疾患進行がない、及び容認できない毒性がないといった臨床上の有益性が観察される限り又は治療のアプローチの変更が臨床上必要になるまで、サイクルは、反復されてもよい。
【0038】
投与される抗PD-1分子は、任意の抗PD-1分子とすることができる。使用することができる特定の抗PD-1分子は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、PDR001、IBI-308、セミプリマブ、カムレリズマブ、BGB-A317、BCD-100、JS-001、JNJ-3283、MEDI0680、AGEN-2034、TSR-042、Sym-021、PF-06801591、MGD-013、MGA-012、LZM-009、GLS-010、ゲノリムズマブ、BI 754091、AK-104、CX-072、WBP3155、SHR-1316、PD-L1阻害剤ミラモレキュール、BMS-936559、M-7824、LY-3300054、KN-035、FAZ-053、CK-301、及びCA-170を含む。好ましい分子は、PD-1又はPD-L1に対する抗体である。抗PD-1分子は、医療現場でよく使用される量及び投与スケジュールで投与される。特定の実施形態では、抗PD-1分子は、他の免疫療法(抗CTLA4抗体を含むが、これらに限定されない他の免疫チェックポイント阻害剤、IDO阻害剤、細胞療法、癌ワクチン、他の免疫調節物質)、放射線療法、化学療法、化学放射線療法、腫瘍溶解性ウイルス、血管新生抑制療法(VEGFR阻害剤など)、及び/又は標的癌療法を含むが、これらに限定されない、1つ又はそれ以上の他の癌療法と組み合わせられてもよい。
【0039】
本発明の好ましい実施形態では、Debio 1143は、導入期において(又は前治療として)及びその後の抗PD-1分子治療の間に使用される。前記その後の治療の間、好ましい抗PD-1分子は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、PDR 001、又はBI-754091である。本発明の特に好ましい実施形態では、Debio 1143は、5から28日間の導入期において(又は前治療として)及びその後の抗PD-1分子治療の間に、頭頸部癌、黒色腫、尿路上皮癌、非小細胞肺癌、原発部位がわからない高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI)腫瘍、腎臓癌、膵臓癌、結腸直腸癌、多発性骨髄腫、小細胞肺癌、肝臓がん、又は卵巣癌のための治療に使用される。前記その後の治療の間、好ましい抗PD-1分子は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、PDR 001、又はBI-754091である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図面の簡単な説明
図1図1は、実施例1のとおり、Debio 1143治療が、ヒト頭頸部癌患者(患者n=12)の腫瘍においてcIAP1の分解を誘発することを示す図である。統計分析に、対応のあるt検定及びP値=0.045を使用した。
図2図2は、実施例1のとおり、Debio 1143治療が、頭頸部癌患者(患者n=12)の腫瘍においてCD4+(A)及びCD8+(B)Tリンパ球の数を増加させることを示す図である。統計分析に、対応のあるt検定を使用した。図2(A)についてのP値=0.511及び図2(B)についてのP値=0.020。
図3図3は、実施例1のとおり、Debio 1143が、頭頸部癌患者(患者n=12)の腫瘍においてPD-1+免疫細胞(A)並びにPD-L1+免疫(B)及び腫瘍(C)細胞の数を増加させることを示す図である。統計分析に、対応のあるt検定を使用した。図3(A)についてのP値=0.002、図3(B)についてのP値=0.004、及び図3(C)についてのP値=0.129。
図4図4は、腫瘍量の中央値によって測定されるように、Debio 1143による前治療が、抗PD-L1抗体によるその後の治療に対してMC38腫瘍を感作することを示す図である。最適なT/Cの日(18日目)に:Debio 1143前治療のみ対ビヒクルについてp<0.05();Debio 1143前治療、次いでPD-L1対ビヒクルについてp<0.0001(**);Debio 1143前治療、次いでcombo対ビヒクルについてp<0.0001(**);student t検定(両側、独立、等分散)によって決定される。18日目のビヒクルについてのn=6を除いてグループ当たりマウスN=8。注:combo=Debio 1143+抗PD-L1。
図5図5は、腫瘍量の中央値によって測定されるように、ビリナパントによる前治療が、抗PD-L1抗体によるその後の治療に対してMC38腫瘍を感作することを示す図である。最適なT/Cの日(15日目)に:ビリナパント前治療のみ対ビヒクルについてp>0.05;ビリナパント前治療、次いでPD-L1対ビヒクルについてp<0.05();ビリナパント前治療、次いでcombo対ビヒクルについてp<0.001(**);student t検定(両側、独立、等分散)によって決定される。グループ当たりマウスN=8。注:combo=ビリナパント+抗PD-L1。
図6図6は、腫瘍量の中央値によって測定されるように、LCL161による前治療が、抗PD-L1抗体によるその後の治療に対してMC38腫瘍を感作することを示す図である。最適なT/Cの日(15日目)に:LCL161前治療のみ対ビヒクルについてp<0.05();LCL161前治療、次いでPD-L1対ビヒクルについてp<0.05();LCL161前治療、次いでcombo対ビヒクルについてp<0.001(**);student t検定(両側、独立、等分散)によって決定される。グループ当たりマウスN=8。注:combo=LCL161+抗PD-L1。
図7図7は、腫瘍量の中央値によって測定されるように、Debio 1143による前治療が、抗PD-1抗体によるその後の治療に対してCT26腫瘍を感作することを示す図である。最適なT/Cの日(17日目)に:Debio 1143前治療のみ対ビヒクルについてp>0.05;Debio 1143前治療、次いでPD-1対ビヒクルについてp<0.05();Debio 1143前治療、次いでcombo対ビヒクルについてp<0.0001(**);student t検定(両側、独立、等分散)によって決定される。17日目のビヒクルについてのn=7を除いてグループ当たりマウスN=8。注:combo=Debio 1143+抗PD-1。
【発明を実施するための形態】
【0041】
発明の詳細な説明
定義
用語「アンタゴニスト」及び「阻害剤」は、区別なく使用され、もう一方の生理学的作用に干渉する又はそれを阻害する物質を指す。いくつかの実施形態では、用語「アンタゴニスト」及び「阻害剤」は、最先の優先日、すなわち2017年12月21日に当業者によって理解されるものと同じ意味を有し、最先の優先日の時点での当業者の共通の一般知識を念頭に置く。
【0042】
用語「抗体」は、特定の抗原に結合する、すなわち免疫学的に反応を示す、少なくとも1つの免疫グロブリンドメインを含む分子を指す。この用語は、抗体全体及び任意の抗原結合部分又はその単鎖及びその組み合わせを含む。用語「抗体」は、特に、二重特異性抗体を含む。
【0043】
典型的なタイプの抗体は、ジスルフィド結合によって相互に連結した少なくとも2つの重鎖(「HC」)及び2つの軽鎖(「LC」)を含む。
【0044】
それぞれの「重鎖」は、「重鎖可変ドメイン」(「VH」と本明細書において略される)及び「重鎖定常ドメイン」(「CH」と本明細書において略される)を含む。重鎖定常ドメインは、典型的に、3つの定常ドメイン、CH1、CH2、及びCH3を含む。
【0045】
それぞれの「軽鎖」は、「軽鎖可変ドメイン」(「VL」と本明細書において略される)及び「軽鎖定常ドメイン」(「CL」と本明細書においてされる)を含む。軽鎖定常ドメイン(CL)は、カッパ型又はラムダ型とすることができる。VHドメイン及びVLドメインは、「フレームワーク領域」(「FW」)と称される、より保存された領域が点在する相補性決定領域(「CDR」)と称される超可変性の領域にさらに細分することができる。
【0046】
それぞれのVH及びVLは、以下の順でアミノ末端からカルボキシ末端に配置される3つのCDR及び4つのFWから構成される:FW1、CDR1、FW2、CDR2、FW3、CDR3、FW4。本開示は、特に、VH配列及びVL配列並びにCDR1、CDR2、及びCDR3に対応するサブ配列を提供する。
【0047】
したがって、当業者は、FW1、FW2、FW3、及びFW4の配列が等しく開示されることを理解するであろう。特定のVHについて、FW1は、VHのN-末端とH-CDR1のN-末端との間のサブ配列であり、FW2は、H-CDR1のC-末端とH-CDR2のN-末端との間のサブ配列であり、FW3は、H-CDR2のC-末端とH-CDR3のN-末端との間のサブ配列であり、FW4は、H-CDR3のC-末端とVHのC-末端との間のサブ配列である。同様に、特定のVLについて、FW1は、VLのN-末端とL-CDR1のN-末端との間のサブ配列であり、FW2は、L-CDR1のC-末端とL-CDR2のN-末端との間のサブ配列である。FW3は、L-CDR2のC-末端とL-CDR3のN-末端との間のサブ配列であり、FW4は、L-CDR3のC-末端とVLのC-末端との間のサブ配列である。
【0048】
重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、抗原と相互作用する領域を含有し、抗原と相互作用するこの領域はまた、「抗原結合性部位」又は「抗原結合部位」とも本明細書において呼ばれる。抗体の定常ドメインは、免疫系の様々な細胞(たとえばエフェクター細胞)及び古典的補体系の第1の構成成分(C1q)を含む宿主組織又は宿主因子への免疫グロブリンの結合を媒介することができる。本開示の例示的な抗体は、定型抗体、それだけではなく、scFvなどのようなその断片及び変形物並びにその組み合わせもまた含み、たとえば、scFvは、定型抗体の重鎖及び/又は軽鎖のN-末端に共有結合される(たとえばペプチド結合若しくは化学的リンカーを介して)又は定型抗体の重鎖及び/又は軽鎖に挿入される。さらに、本開示の例示的な抗体は、二重特異性抗体を含む。
【0049】
本明細書において使用されるように、用語「抗体」は、インタクトなポリクローナル抗体、インタクトなモノクローナル抗体、抗体断片(Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片など)、単鎖可変断片(scFv)、ジスルフィド安定化scFv、二重特異性抗体などのような多重特異性抗体(multispecific antibody)、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体の抗原決定部分を含む融合タンパク質、並びに抗原結合部位を含む任意の他の修飾免疫グロブリン分子を包含する。
【0050】
抗体は、それぞれアルファ、デルタ、イプシロン、ガンマ、及びミューと呼ばれるそれらの重鎖定常ドメインの特徴に基づく5つの主要なクラスの免疫グロブリン(アイソタイプ)のいずれかとすることができる:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM又はそのサブクラス(たとえばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)。異なるクラスの免疫グロブリンは、異なる、よく知られているサブユニット構造及び三次元立体配置を有する。抗体は、ありのままのものとすることができる又は治療剤若しくは診断剤などのような他の分子にコンジュゲートされ、免疫複合体を形成することができる。いくつかの実施形態では、用語「抗体」は、最先の優先日、すなわち2017年12月21日に当業者によって理解されるものと同じ意味を有し、最先の優先日の時点での当業者の共通の一般知識を念頭に置く。
【0051】
用語「抗癌応答」、「応答」、又は「応答性」は、RECIST v1.1判定基準を使用して判断される客観的放射線的及び臨床的改善に関する(Eur. J. Cancer 45; 2009: 228-247)。RECISTは、癌患者が治療の間に改善する(「応答する」)、変わらない(「安定している」)、又は悪化する(「進行」)を客観的に定義する、正式に発表されている一連のルールである。RECIST 1.1は、最近、免疫療法剤の評価用に適合されたiRECIST 1.1。(Seymour, L., et al., iRECIST: Guidelines for response criteria for use in trials testing immunotherapeutics. Lancet Oncol, 2017. 18(3): p. e143-e152)。本発明では、患者は、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、若しくは安定病態(SD)と又は無増悪生存期間若しくは全生存期間の状況によって判定されるように応答若しくは疾患安定の継続期間の増加を有すると判断されるRECISTv1.1に従う患者についての任意の臨床上の有益性がある場合、所定の治療に対して応答すると見なされる。
【0052】
用語「抗PD-1分子」は、PD-1阻害剤及びPD-L1阻害剤を指す。これらの阻害剤は、PD-1又はPD-L1を標的にする抗体を含むが、これらに限定されない。抗PD-1分子は、CA-170などのような小分子であってもよい(たとえばJ.J. Lee et al., Journal of Clinical Oncology 35, no. 15_suppl, DOI: 10.1200/JCO.2017.35.15_suppl.TPS3099において記載されるAUPM-170、Curis、Aurigene)。PD-1/PD-L1相互作用のさらなる小分子阻害剤は、本発明にとって有用であり、国際公開第2018/195321A号において記載される。
【0053】
「癌」は、一般に、転移性であっても、非転移性であってもよい悪性新生物を指す。たとえば、胃腸管及び皮膚などのような上皮組織から発症する癌の非限定的な例は、非黒色腫皮膚癌、頭頸部癌、食道癌、肺癌、胃がん、十二指腸癌、乳癌、前立腺癌、子宮頸癌、子宮体癌(cancer of endometrial uterine body)、膵癌、肝癌、胆管癌、胆嚢癌、結腸直腸癌、結腸癌、膀胱癌、及び卵巣癌を含む。筋肉などのような中胚葉起源を有する非上皮組織(間質)から発症する肉腫の非限定的な例は、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、消化管間質性腫瘍(GIST)、及び血管肉腫を含む。外胚葉(神経堤の個体発生)に由来する腫瘍の非限定的な例は、脳腫瘍、神経内分泌腫瘍などを含む。さらに、造血器官に由来する血液癌の非限定的な例は、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫を含む悪性リンパ腫、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病を含む白血病、並びに多発性骨髄腫を含む。癌の最後の例はまた、本明細書において癌種とも呼ばれる。
【0054】
用語「癌」及び「腫瘍」(悪性腫瘍を意味する)は、本明細書において区別なく使用される。
【0055】
用語「同時療法」、「同時治療」、又は「共同療法」は、IAPアンタゴニスト及び抗PD-1分子の両方の同一時間の又は同時の投与を指す。いくつかの実施形態では、用語「同時療法」又は「同時治療」は、抗PD-1分子が投与される前に、腫瘍の微小環境の免疫原性能力を増強させるのに十分な時間、IAPアンタゴニストが与えられない治療を指す。いくつかの実施形態では、用語「同時治療」、「共同療法」、及び「同時療法」は、最先の優先日、すなわち2017年12月21日に当業者によって理解されるものと同じ意味を有し、最先の優先日の時点での当業者の共通の一般知識を念頭に置く。
【0056】
IAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子の「有効量」は、臨床医が求める生物学的又は医学的抗癌応答を誘起する化合物の量を意味する。
【0057】
句「腫瘍の微小環境の免疫原性能力を増強させる」は、刺激されていない免疫系と比較して免疫応答の増加をもたらす、腫瘍微小環境における免疫系の刺激を指す。本件では、免疫系は、IAPアンタゴニストによって刺激されてもよい。刺激は、癌の免疫原性を増加させてもよい、刺激は、腫瘍微小環境でエフェクター細胞の量を増加させてもよい、及び/又は刺激は、がん細胞に対する、腫瘍微小環境中に存在する免疫エフェクター細胞の感応性を増加させてもよい。いくつかの実施形態では、句「腫瘍の微小環境の免疫原性能力を増強させる」は、最先の優先日、すなわち2017年12月21日に当業者によって理解されるものと同じ意味を有し、最先の優先日の時点での当業者の共通の一般知識を念頭に置く。
【0058】
本明細書において使用される抗PD-1分子の「第1の投与」という用語は、抗PD-1分子が患者に初めて投与されることを明示する。いくつかの実施形態では、患者は、以前に抗PD-1分子により治療されたことがない。いくつかの実施形態では、患者は、抗PD-1分子により治療されたことがあるが、患者は再発した又は抗PD-1分子療法は効果がなかった。これらの実施形態では、血清中の以前に投与された抗PD-1分子レベルは、本発明の導入療法がスタートされる前に、十分に、たとえば95%、低下している。いくつかの実施形態では、以前に投与された抗PD-1分子の最後の投与と本発明の導入療法のスタートとの間の時間は、規制当局によって承認される又は医学界によって認められる少なくとも1又は2の投与間隔(反復投与の間の時間)を示す。いくつかの実施形態では、対象は、導入期のスタート前の少なくとも1、2、3、4、又は6週間、抗PD-1分子を投与されていない。
【0059】
腫瘍微小環境に関して本明細書において使用される用語「免疫原性の」及び「免疫原性」は、免疫応答を引き起こすこと又はもたらすことを意味する。いくつかの実施形態では、免疫原性は、患者の癌細胞を免疫染色することによって明らかにされるPD-L1の発現レベルを決定することによって判断される。
【0060】
いくつかの実施形態では、免疫原性は、癌サンプル中のCD8+細胞のレベルをマーカーと見なすことによって判断される。この判断は、下記の実施例1の材料及び方法を使用して実行されてもよい。
【0061】
いくつかの実施形態では、癌サンプルは、前述のマーカーを組み合わせて考慮することによって低及び高免疫原性として判断され、分類されてもよい。よって、いくつかの実施形態では、免疫原性は、癌サンプルにおいてCD8+細胞のレベルとPD-L1マーカー発現レベルの組み合わせを考慮することによって判断される。いくつかの実施形態では、導入期の間にIAPアンタゴニストによる治療が、たとえば抗体22c3 pharmDx(Dako,Inc.)などのような適した抗体を使用する免疫組織化学アッセイにおいて、たとえばPD-L1について染色(任意の強度の)を呈する癌サンプルの細胞の割合に換算して少なくとも1、2、3、又は4%、患者の癌細胞上のPD-L1の発現レベルを増加させる場合、治療は、IAPアンタゴニストによるものであり、腫瘍の微小環境の免疫原性能力を増強させると見なされる。同様に、免疫原性能力の増強は、いくつかの実施形態において、下記の実施例1の材料及び方法を使用して決定される場合、少なくとも1、2、3、又は4%の、癌サンプル中のCD8+細胞のレベルの増加によって同定されてもよい。
【0062】
本明細書において使用されるIAPアンタゴニスト又は阻害剤は、アポトーシスタンパク質阻害剤(IAPと略される)に対して親和性を有する化合物を意味する。この化合物は、IAPの阻害剤又はアンタゴニストである。いくつかの実施形態では、IAPアンタゴニストは、IAPアンタゴニスト並びにcIAP1及び/又はcIAP2の間の相互作用が、これらのタンパク質の分解及びその後のNF-κBの調整をもたらすという特徴を示す。いくつかの実施形態では、この効果は、IAP阻害活性について化合物をテストするために使用することができ、インビトロにおいてcIAP1及び/又はcIAP2と有望なIAPアンタゴニストを接触させ、IAP阻害剤について、ウエスタンブロット分析を含むが、これらに限定されない適した技術により効果を分析する場合、cIAP1に対する効果は、10μM未満、好ましくは<1μMの濃度で観察されるべきである。いくつかの実施形態では、用語「IAP阻害剤」及び「IAPアンタゴニスト」は、最先の優先日、すなわち2017年12月21日に当業者によって理解されるものと同じ意味を有し、最先の優先日の時点での当業者の共通の一般知識を念頭に置く。
【0063】
一般に、用語「導入療法」は、後に投与される別の薬剤の有効性を強める、患者における応答を誘発するために、ある薬剤が患者に投与される一種の治療を指す。本発明に関して、導入療法は、「前治療」を含む。「前治療」又は「導入」は、抗PD-1分子の第1の投与の前の、ある一定の時間のIAPアンタゴニストの投与を指す。IAPアンタゴニストが投与される期間は、「導入期」又は「前治療期」と呼ばれる。腫瘍の微小環境の免疫原性能力が増強される限り、導入期は、特に制限されない。いくつかの実施形態では、導入期は、1から48日間、好ましくは1から28日間、より好ましくは5から28日間の範囲から選択される継続期間を有する。いくつかの実施形態では、導入期は、腫瘍の微小環境の免疫原性能力を増強させるのに十分に長い。いくつかの実施形態では、抗PD-1分子治療の効能は、IAPアンタゴニストによる導入療法なしの同時治療と比較して増加する。抗PD-1分子は、次いで、導入期の後に、すなわち、腫瘍の微小環境の免疫原性能力が増強した後に、投与される。免疫系がIAPアンタゴニストによって予備刺激されたので、これは、抗PD-1分子の能力の増加をもたらす。いくつかの実施形態では、用語「導入療法」、「前治療」、「導入」、「導入期」、及び「前治療期」は、最先の優先日、すなわち2017年12月21日に当業者によって理解されるものと同じ意味を有し、最先の優先日の時点での当業者の共通の一般知識を念頭に置く。
【0064】
「SMACミメティック」は、IAPの治療的阻害のための小分子阻害剤を意味し、この小分子阻害剤は、内在性SMAC配列N末端の4アミノ酸ストレッチを模倣し、少なくとも部分的に、非ペプチド性要素から構成される。内在性SMACのN末端配列は、Ala-Val-Pro-Ile(AVPI)であり、IAPへの結合に必要とされる。
【0065】
用語「対象」は、哺乳類動物、好ましくは人間に関する。ヒト対象はまた、「患者」とも呼ばれる。
【0066】
導入療法
本発明者らは、患者の腫瘍微小環境の免疫原性を増強させるために腫瘍を有する患者をSMACミメティックなどのようなIAPアンタゴニストにより前治療することができることを提唱する。続いて、患者は、抗PD-1分子により治療される。前治療は、患者の腫瘍が抗PD-1分子による治療に対して応答する可能性を増加させる及び/又は抗PD-1分子に対する腫瘍の応答の有効性を増強させる。IAPアンタゴニストは、既に(2017年12月21日の時点のように)承認されている又は現在臨床開発中であるものの中から、特に以下のものの中から選択されてもよい:
Debio 1143(Debiopharm、CAS RN:1071992-99-8)、GDC-917/CUDC-427(Curis/Genentech、CAS RN:1446182-94-0)、LCL161(Novartis、CAS RN:1005342-46-0)、GDC-0152(Genentech、CAS RN:873652-48-3)、TL-32711/ビリナパント(Medivir、CAS RN:1260251-31-7)、HGS-1029/AEG-408268(Aegera、CAS RN:1107664-44-7)、BI 891065(Boehringer Ingelheim)、ASTX-660(Astex/Otsuka、CAS RN:1605584-14-2)、APG-1387(Ascentage、CAS RN:1802293-83-9)、又はそれらの医薬品の許容され得る塩のいずれか。好ましくは、IAPアンタゴニストは、SMACミメティックであり、最も好ましいIAPアンタゴニストは、Debio 1143である。
【0067】
IAPアンタゴニストによる前治療は、患者の腫瘍微小環境の免疫原性が不十分であるという所見に依存してなされてもよい。免疫原性は、前治療の前に採取された腫瘍生検材料(液体生検材料を含む)などのような患者の生物学的サンプルにおいて判断されてもよい。用いられてもよい免疫原性についての判定基準は、癌生検材料中に存在するがん細胞において又はすべての細胞において発現されるPD-L1のレベルを含む。それはまた、検出可能な量のPD-L1を発現する腫瘍細胞及び/又は免疫細胞のパーセンテージであってもよい。免疫原性についての閾値は、医学界、分析に使用される抗PD-1分子のメーカー/販売者、又は治療している医師によって定義されてもよい。たとえば、ペンブロリズマブによる治療についての閾値は、第一選択療法については、癌の細胞の50%超が抗体22c3 pharmDx(Dako, Inc.)を使用する免疫組織化学アッセイにおいてPD-L1について染色される(任意の強度で)、第二選択療法については、1%超の細胞がPD-L1について染色されるとして、メーカー(Merck)によって定義されている。よって、この例では、PD-L1発現細胞の頻度が低い癌を有する患者は、IAPアンタゴニストによる前治療に適格であると見なされるであろう。いくつかの実施形態では、IAPアンタゴニストによる前治療は、PD-L1発現細胞及び/又はCD8+細胞の頻度が高免疫原性についての前述の閾値を超えるまで実行されてもよい。さらなる判定基準は、ベースライン生検材料又はサンプル中に存在するリンパ球又はCD8+T細胞又はCD4+T細胞のパーセンテージを含んでいてもよい。免疫原性の他の適した判定基準が、医学界による承諾を得てもよい(たとえば、樹状細胞の数/パーセンテージ、調節性T細胞に対するCD8+T細胞の比率、腫瘍中の遺伝子変異量など)。適格性はまた、複数の判定基準に基づいて判断されてもよい。
【0068】
特定の理論に拘束されないが、導入期の後の癌細胞上のPD-L1マーカーの発現の増加は、腫瘍微小環境の免疫原性能力が増強したというサインであると考えられる。これは、免疫原性能力の増加が、癌細胞が生き残るために免疫系を回避する必要性の増加に関連するはずだからである。PD-L1の過剰発現は、癌細胞が免疫系の目を逃れることができるメカニズムであると考えられる。したがって、PD-L1発現のレベルの増加は、腫瘍細胞が腫瘍微小環境で免疫系の増強に直面しているというサインである。
【0069】
方法はまた、IAPアンタゴニストによる前治療の終了時の患者の癌微小環境の免疫原性に基づいて、抗PD-1分子による治療のための患者を選択するために変更してもよい。免疫原性は、前治療の終了時に採取された腫瘍生検材料(液体生検材料を含む)などのような患者の生物学的サンプルにおいて判断されてもよい。免疫原性を判断する及び閾値を定義するための判定基準は、前の段落において記載されたものに類似していてもよい。免疫原性の選択マーカーが所定の閾値を上回る癌を有する患者は、抗PD-1分子による治療のために選択されてもよい。
【0070】
癌生検材料における免疫原性を判断するための方法
原則として、任意の適した方法が、用いられてもよい。免疫組織化学的検査及びフローサイトメトリーに基づく手順が、最もよく使用される。
【0071】
免疫組織化学的検査:免疫組織化学的検査(IHC)は、組織切片中のタンパク質の存在及び場所を示すことができる方法である。免疫組織化学的検査は、無傷の組織に関するプロセスの観察を可能にする。IHCプロトコールの基本的なステップは、以下のとおりである:組織の固定及び包埋、切片のカット及びマウント、切片の脱パラフィン及び再水和、抗原賦活化プロセスの適用、免疫組織化学的染色、並びに顕微鏡下で染色を見る。例のプロトコールでは、免疫染色は、4μmパラフィン包埋組織切片に対して実行した。手短かに言えば、スライドをキシレン中で脱パラフィンし、一連の段階的なエタノールを利用して脱水し、内在性ペルオキシダーゼを3%過酸化水素により遮断した。エピトープ賦活化の後、スライドを、0.1%(vol.)Tween 20/5%(vol.)正常ヤギ血清を有するTRIS緩衝食塩水により洗浄し、遮断した。一次抗体とのインキュベーションを4℃で一晩実行し、これに続いて室温で30分間二次抗体とインキュベーションした。切片を0.1%(vol.)Tween 20を有するTRIS緩衝食塩水で3回洗浄し、ジアミノベンジジン(DAB)で染色し、ヘマトキシリンで対比染色した。Guancial et al. (2014);Redler, A. et al. (2013) PLoS One. 8: e72224。手順は、手作業で実行されてもよい又は部分的に若しくは完全に自動化されてもよい。特定のIHC法もまた、下記の実施例の部において記載される。
【0072】
フローサイトメトリー:フローサイトメトリーは、細胞のカウント、細胞選別、バイオマーカー検出、及びタンパク質工学において用いられる、レーザーに基づく生物物理学的技術であり、液体の流れの中に細胞を浮遊させること及び電子検出装置のそばを細胞に通過させることを含む。それは、毎秒何千にも及ぶ粒子の物理的及び化学的特徴の同時のマルチパラメトリック解析を可能にする。タンパク質に特異的な抗体を使用すると、フローサイトメトリーは、細胞表面の発現、ある場合には、複雑な細胞の集団又はプロセスを理解するために使用される細胞質内マーカー又は核マーカーに関する情報を提供することができる。Yan, D. et al. (2011) Arthritis Res.Ther. 13: R130。
【0073】
IAPアンタゴニストを含む医薬組成物及びそれらの投与
IAPアンタゴニストを含む医薬組成物は、経口的に、非経口的に、吸入噴霧剤によって、局所的に、直腸に、経鼻的に、頬側に(buccally)、腟に(vaginally)、又は植込み貯蔵器を介して、好ましくは経口投与又は注射による投与によって、投与されてもよい。しかしながら、二量体のSMACミメティックは、典型的に静脈内に投与されることに注意される。医薬組成物は、任意の従来の無毒性の薬学的に許容され得るキャリヤ、補助剤、又はビヒクルを含有してもよい。ある場合には、製剤のpHは、活性剤又はその送達形態の安定性を増強させるために、薬学的に許容され得る酸、塩基、又はバッファーにより調整されてもよい。標準的な医薬キャリヤ及びそれらの製剤は、非限定的に、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PA, 19th ed. 1995において記載される。本明細書において使用される非経口的という用語は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液包内、胸骨内(intrasternal)、髄腔内、病巣内、及び頭蓋内注射又は注入技術を含む。
【0074】
経口投与のための液体投薬形態は、薬学的に許容され得るエマルション、マイクロエマルション、水剤、懸濁剤、シロップ、及びエリキシル剤を含む。活性剤(SMACミメティックなどのようなIAPアンタゴニスト)に加えて、液体投薬形態は、たとえば、水又は他の乳化剤、可溶化剤、並びにエチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に綿実油、ピーナッツ油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、及びゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、並びにソルビタンの脂肪酸エステルなどのような溶媒並びにその混合物などのような、当技術分野においてよく使用される不活性希釈剤を含有してもよい。不活性希釈剤に加えて、経口組成物はまた、湿潤剤、乳剤及び懸濁剤、甘味剤、香味料、並びに芳香剤などのような補助剤を含むこともできる。
【0075】
注射用調製物、たとえば滅菌注射用水性又は油性懸濁剤は、適した分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を使用し、既知の技術に従って製剤されてもよい。滅菌注射用調製物はまた、無毒な非経口的に許容され得る希釈剤又は溶媒中の滅菌注射用水剤、懸濁剤、又はエマルション、たとえば1,3-ブタンジオール中の水剤であってもよい。用いられてもよい許容され得るビヒクル及び溶媒の中には、水、リンゲル液、U.S.P.、並びに等張食塩水及びデキストロース溶液がある。そのうえ、滅菌不揮発性油は、溶媒又は懸濁化媒体として従来から用いられている。この目的のために、合成モノ又はジグリセリドを含む、任意の、刺激がない不揮発性油を用いることができる。そのうえ、オレイン酸などのような脂肪酸は、注射液の調製において使用される。
【0076】
注射用製剤は、たとえば、細菌保持フィルターによる濾過、電離放射線によって、又は使用の前に滅菌水若しくは他の滅菌注射用媒体中に溶解する若しくは分散させることができる滅菌固体組成物の形態をした活性剤を組み込むことによって滅菌することができる。用いられる特定のIAPアンタゴニストの化学的性質に依存して、滅菌はまた、オートクレーブ又は乾熱によるものであってもよい。
【0077】
活性剤の効果を延ばすために、皮下又は筋肉内注射からの活性剤の吸収を遅らせることが望ましいことが多い。これは、不十分な水溶解性を有する結晶又はアモルファス材料の液体懸濁剤の使用によって達成されてもよい。それゆえ、活性剤の吸収速度は、その分解速度に依存し、これはさらには結晶サイズ及び結晶形態に依存し得る。その代わりに、非経口的に投与される薬剤形態の吸収遅延は、油ビヒクル中に活性剤を溶解する又は懸濁することによって達成される。注射用デポー形態は、ポリラクチド-ポリグリコライドなどのような生分解性ポリマー中に活性剤をマイクロカプセル化することによって作製される。ポリマーに対する活性剤の比率及び用いられる特定のポリマーの性質に依存して、活性剤の放出の速度を制御することができる。他の生分解性ポリマーの例は、ポリ(オルトエステル)及びポリ(無水物)を含む。デポー注射用製剤はまた、体組織と適合性のリポソーム又はマイクロエマルション中に活性剤を封入することによっても調製される。
【0078】
経口投与のための固体投薬形態は、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、及び顆粒剤を含む。そのような固体投薬形態では、活性剤は、クエン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウムなどのような少なくとも1つの不活性で薬学的に許容され得る賦形剤若しくはキャリヤ及び/又はa)デンプン、ラクトース、セルロース、スクロース、グルコース、マンニトール、及びケイ酸などのような充填剤若しくは増量剤、b)たとえばカルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロース、及びアラビアゴムなどのようなバインダー、c)グリセロールなどのような保湿剤、d)寒天、炭酸カルシウム、クロスカルメロース、クロスポビドン、カルボキシメチルセルロース、ジャガイモ若しくはタピオカデンプン、アルギン酸、ある種のシリケート、及び炭酸ナトリウムなどのような崩壊剤、e)パラフィンなどのような溶解遅延剤、f)第四級アンモニウム化合物などのような吸収促進剤、g)たとえばセチルアルコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びモノステアリン酸グリセロールなどのような湿潤剤、h)カオリン粘土及びベントナイト粘土などのような吸収剤、及び/又はi)滑石、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、及びその混合物などのような潤滑剤と混合される。カプセル剤、錠剤、及び丸剤の場合、投薬形態はまた、緩衝剤を含んでいてもよい。
【0079】
同様のタイプの固体組成物もまた、ラクトース又は乳糖並びに高分子量ポリエチレングリコール及びその他同種のもののような賦形剤を使用して、軟又は硬ゼラチンカプセルにおいて充填剤として用いられてもよい。
【0080】
錠剤、糖剤、カプセル剤、丸剤、及び顆粒剤の固体投薬形態は、腸溶コーティング及び医薬製剤技術においてよく知られている他のコーティングなどのような、コーティング及びシェルを用いて調製することができる。それらは、任意選択で、乳白剤を含有してもよく、活性剤のみを放出する又は優先的に腸管のある部分で、任意選択で遅延方式で、活性剤を放出する組成物からできていてもよい。使用することができる包埋組成物の例は、ポリマー物質及びワックスを含む。
【0081】
単一の投薬形態を産生するために薬学的に許容され得る賦形剤又はキャリヤと組み合わせられてもよい活性剤の量は、選ばれる特定のIAPアンタゴニスト、投与の特定のモード、及び場合により治療される対象に依存して変動するであろう。典型的な調製物は、1%から95%の活性剤(w/w)を含有するであろう。その代わりに、そのような調製物は、20%から80%の活性剤を含有してもよい。上記に詳述されるものよりも低い又は高い用量が必要とされてもよい。任意の特定の対象についての特定の投薬及び治療レジメンは、年齢、体重、体表面積、一般的な健康状態、性別、食事、投与の時間、排泄率、IAPアンタゴニスト、薬剤の組み合わせ、疾患の重症度及び経過、状態又は症状、疾患、状態、又は症状に対する対象の素因、並びに治療している医師の見解を含む様々な因子に依存するであろう。
【0082】
抗PD-1分子を含む医薬組成物及びそれらの投与
抗PD-1分子は、典型的に静脈内注入によって投与される。
【0083】
ニボルマブは、「OPDIVO」という商品名で販売されている。ニボルマブは、ニボルマブ抗体、マンニトール、ペンテト酸、ポリソルベート80、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、及び水を含む10mg/mlの液剤として売っている。投与のために、ニボルマブは、0.9%塩化ナトリウム又は5%デキストロース中に希釈される。ペンブロリズマブは、「KEYTRUDA」という商品名で販売されている。ペンブロリズマブは、50mgの抗体並びに非活性成分L-ヒスチジン、ポリソルベート80、及びスクロースを含む固形組成物として提供される。投与のために、この組成物は、0.9%塩化ナトリウム中に懸濁される。アテゾリズマブ(販売名:「TECENTRIQ」)は、氷酢酸、ヒスチジン、スクロース、及びポリソルベート20を含有するIV液剤(1200mg活性/20ml)として提供される。投与のために、この液剤は、0.9%NaClにより希釈される。デュルバルマブ(「IMFINZI」)は、L-ヒスチジン、L-ヒスチジン塩酸塩一水和物、α,α-トレハロース二水和物、ポリソルベート80、及び注射用水、USP中500mg/10ml又は120mg/2.4ml液剤として売っている。アベルマブ(「BAVENCIO」)は、マンニトール、酢酸、ポリソルベート20、水酸化ナトリウム、及び水を含有する200mg(活性)/10mlの注射用の液剤として市販されている。0.45%又は0.9%NaCl中での希釈の後に、適切な用量が、60分間、注入によって投与される。
【0084】
チェックポイント阻害剤の適した用量は、臨床において使用される用量である。ニボルマブの適した用量は、3mg/kg体重である。この用量は、60分間の期間、静脈内注入によって投与される。ペンブロリズマブの適した用量は、2mg/kg体重である。この用量は、30分間の期間、静脈内注入によって投与される。アテゾリズマブの成人用量は、60分間の期間にわたって注入される1200mgである。デュルバルマブについて推奨される用量は、60分間にわたって静脈内注入によって投与される10mg/kg体重である。アベルマブの適した用量は、10mg/kg体重である。これらの用量は、医療現場において認められる変更と同時進行で変更されてもよい。ニボルマブの投薬は、典型的に2週間毎に反復され、ペンブロリズマブは3週間毎、アテゾリズマブは3週間毎、デュルバルマブは2週間毎、アベルマブは2週間毎に反復される。
【0085】
抗PD-1分子の投与の投薬量及びスケジュール(投与間隔を含む)は、規制当局によって承認されるとおりになるであろう。医学界によって認められる用量及びスケジュールの任意の調整もまた、ここで記載されている療法に適用されるであろう。
【0086】
一態様では、本発明は、下記に列挙される項目を含む。これらの項目は、上記の態様又は実施形態のいずれかと組み合わせられてもよい。
1.抗PD-1分子によるその後の治療が抗癌応答をもたらす可能性を増強させるために又は抗PD-1分子によるその後の治療に対する対象の癌の応答性を増強させるために、癌になったヒト対象を前治療するためのIAPアンタゴニスト。
2.ヒト対象は、1から28日間、好ましくは5から28日間の前治療期の間に、IAPアンタゴニストにより前治療され、前記前治療期に続いて、前記その後の抗PD-1分子治療が開始される、項目1に記載のIAPアンタゴニスト。
3.前記前治療期は、IAPアンタゴニストが投与されない1又はそれ以上の日を含む、項目2に記載のIAPアンタゴニスト。
4.前記IAPアンタゴニスト又は異なるIAPアンタゴニストはまた、抗PD-1分子による前記その後の治療の間にも投与される、項目1から3のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト。
5.前記IAPアンタゴニストの投与は、抗PD-1分子による前記その後の治療の全期間の間に継続されるか、又は抗PD-1分子による前記その後の治療の完了の前に終了する又は抗PD-1分子による前記その後の治療の完了以降、継続される、項目4に記載のIAPアンタゴニスト。
6.前記癌は、かなりの割合の治療患者において抗PD-1分子による治療に対して応答性であることが知られている種類のものである、項目1から5のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト。
7.前記癌は、頭頸部癌、黒色腫、尿路上皮癌、非小細胞肺癌、原発部位がわからない高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI)腫瘍、又は腎臓癌である、項目6に記載のIAPアンタゴニスト。
8.前記癌は、抗PD-1分子による治療に応答することが示された患者のパーセンテージが低い(たとえば5%以下)種類のものである、項目1から5のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト。
9.前記癌は、膵臓癌、結腸直腸癌、多発性骨髄腫、小細胞肺癌、肝臓がん、又は卵巣癌である、項目8に記載のIAPアンタゴニスト。
10.前記前治療は、癌の免疫原性が不十分であるという判断を条件とする、項目1から9のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト。
11.前記判断は、前治療の前に採取された患者の生物学的サンプルにおける免疫原性のマーカーの分析、及びマーカーの存在、発現レベル、又は導き出されたスコアが所定の閾値に到達しないという所見からなる、項目10に記載のIAPアンタゴニスト。
12.前記マーカーは、癌細胞及び/又は免疫細胞上に発現されるPD-L1である、項目11に記載のIAPアンタゴニスト。
13.前記マーカーは、腫瘍浸潤リンパ球又は腫瘍中の遺伝子変異量である、項目11に記載のIAPアンタゴニスト。
14.抗PD-1分子による前記その後の治療の開始は、癌が前治療の終了時に免疫原性であるという判断を条件とする、項目1から13のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト。
15.前記判断は、IAP阻害剤による前治療の後に採取された患者の生物学的サンプルにおける免疫原性のマーカーの分析、及びマーカーの存在、発現レベル、又は導き出されたスコアが所定の閾値を超えるという所見からなる、項目14に記載のIAPアンタゴニスト。
16.前記マーカーは、癌細胞及び/又は免疫細胞上に発現されるPD-L1である、項目15に記載のIAPアンタゴニスト。
17.前記マーカーは、腫瘍浸潤リンパ球又は腫瘍中の遺伝子変異量である、項目15に記載のIAPアンタゴニスト。
18.前記患者の生物学的サンプルは、腫瘍又は液体生検材料である、項目11から13及び15から17のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト。
19.前記抗PD-1分子は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、PDR001、IBI-308、セミプリマブ、カムレリズマブ、BGB-A317、BCD-100、JS-001、JNJ-3283、MEDI0680、AGEN-2034、TSR-042、Sym-021、PF-06801591、MGD-013、MGA-012、LZM-009、GLS-010、ゲノリムズマブ、BI 754091、AK-104、CX-072、WBP3155、SHR-1316、PD-L1阻害剤ミラモレキュール、BMS-936559、M-7824、LY-3300054、KN-035、FAZ-053、CK-301、又はCA-170である、項目1から18のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト。
20.抗PD-1分子は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、アベルマブ、PDR001、又はBI 754091である、項目19に記載のIAPアンタゴニスト。
21.前記抗PD-1分子は、PD-1又はPD-L1に対する抗体である、項目1から19のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト。
22.抗PD-1分子による前記その後の治療は、別の免疫療法、放射線療法、化学療法、化学放射線療法、腫瘍溶解性ウイルス、血管新生抑制療法、標的癌療法を含む、1つ又はそれ以上の他の癌療法と組み合わせられる、項目1から21のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト。
23.1つ又はそれ以上の他の癌療法は、抗PD-1分子による治療を除外して、前記前治療期の間に使用される、項目1から22のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト。
24.前記IAPアンタゴニストは、Debio 1143、GDC-917/CUDC-427、LCL161、GDC-0152、TL-32711/ビリナパント、HGS-1029/AEG-40826、BI 891065、ASTX-660、又はAPG-1387である、項目1から23のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト。
25.前記IAPアンタゴニストは、SMACミメティックである、項目24に記載のIAPアンタゴニスト。
26.前記IAPアンタゴニストは、Debio 1143である、項目25に記載のIAPアンタゴニスト。
【実施例0087】
実施例
実施例1:頭頸部の切除可能な扁平上皮細胞癌を有する患者におけるシスプラチン(CDDP)あり又はなしのDebio 1143の術前ウィンドウ・オブ・オポチュニティ試験(EUDRACT 2014-004655-31)
本治験のために、Debio 1143は、その遊離塩基で使用し、デンプンと共に製剤し、硬カプセル内に充填した。
【0088】
本治験の主な目的は、頭頸部の扁平上皮細胞癌を有する患者において、単独の又はシスプラチンと組み合わせたDebio 1143の薬力学的活性を調査することであった。多数の副次的な目的の中で、免疫シグナル伝達に対する可能性として考えられる効果についても検討した。
【0089】
試験には、口腔、中咽頭、下咽頭、又は喉頭の新たに診断された組織学的に検証済みの扁平上皮細胞癌を有する成人患者を登録した。2週間のスクリーニング期間(-14から-1日目)の間に、腫瘍生検材料を採取し、分析した。治療は、1日目から15日目(+/-2日)とし、200mg Debio 1143の毎日のp.o.投与からなった(1アームにおいて)。この治療期間の終了時に、第2の腫瘍生検材料を採取し、分析し、患者は手術を受けた。
【0090】
生検材料は、免疫組織化学的方法によって分析した。cIAP1についての染色は、Dako自動染色装置(autostainer automaton)(Agilent)を使用して実行した。EPR4673マウスmAb(Abcam)を1/100希釈で利用し、組織スライドを20分間抗体に曝露した。スライドの前処理は、EnVision FLEX Target Retrieval Solution, Low pHにより行い、EnVision FLEXシステム(クロモゲン:DAB)をシグナルの可視化のために使用した。EnVision Flexシステム及び試薬は、Agilentからのものであった。同じプロトコールをPD-L1染色に適用した。E1L3NウサギmAb(Cell Signaling Technology)を1/500希釈で使用した。
【0091】
T細胞は、Ventana RocheからのCD3ウサギmAb 2GV6(すぐに使える溶液として提供される)を使用して同定した。スライドは、Ventana Benchmark Ultra自動装置で処理した。抗体への曝露は20分間とした。スライドの前処理(64分間)は、cell conditioning solution CC1(Ventana)により行い、Optiviewシステム(Ventana)(クロモゲン:DAB)をシグナルの可視化のために用いた。CD8及びCD4 T細胞の染色は、同じプロトコールにより行った。CD8抗体はSP57ウサギmAbとし、CD4抗体はSP35ウサギmAbとした。両方の抗体はVentana Rocheからのものであり、すぐに使える溶液として提供された。PD-1検出のために選択した抗体は、これもまたすぐに使える溶液として提供されるNAT105マウスmAb(Cell Marque)とした。PD-1検出のためのプロトコールは、抗体曝露及び前処理の時間をそれぞれ16分間とした以外は、CD3染色に使用したものと同じとした。
【0092】
12人の評価可能な患者から得られたデータについて考察する。図1からわかるように、Debio 1143による治療は、ほとんどの患者の腫瘍においてcIAP1のレベルを低下させ(対応のあるt検定を使用して0.045のp値)、SMACミメティックの有効腫瘍濃度に届いたことを実証した。治療はまた、腫瘍微小環境におけるCD4+及びCD8+T細胞の数が治療の結果として上昇したという所見によって証拠づけられるように、腫瘍浸潤リンパ球の実質的な増加をももたらした(図2)。データの統計分析は、CD8+及びCD4+ T細胞の数の平均値が、ともに増加したことを明らかにし、CD8+ T細胞数の増加は、有意であった(対応のあるt検定により0.020のp値)(図2(B))。PD-1又はPD-L1を発現する免疫細胞のパーセンテージは、治療した腫瘍において有意に増加した(図3(A)、0.002のp値及び(B)、0.004のp値)。ほとんどの腫瘍において、PD-L1発現細胞の頻度もまた増加した(図3(C))。全体として、データは、Debio 1143による治療が、ヒト患者における腫瘍微小環境の免疫原性を増強させることを強く示唆する。
【0093】
実施例2:IAP阻害剤Debio 1143による動物試験
5グループ(n=8)の成体雌C57BL/6Jマウス(Shanghai Lingchang Bio-Technology Co.から得た)の右下脇腹に1×10細胞の同系結腸癌細胞株MC38を接種した。平均腫瘍サイズが約50mmに届いたら(1日目)、動物は、表1に示されるように、100mg/kgの用量のp.o.SMACミメティックDebio 1143(Debiopharm)又はビヒクルからなる前治療を受けた。投薬は、7日間(1から7日目)毎日反復した。後日(8日目)、ビヒクル治療グループ及びDebio 1143前治療グループの動物に10mg/kgのコントロール抗体rIgG2b(クローン:LTF-2、BioXcell)をi.p.で与えた。コントロール抗体は、試験の終了まで毎週2回投与した。2つのグループ(ビヒクル及びDebio 1143前治療動物)の別のセットは、10mg/kgの抗PD-L1抗体(マウスサロゲート抗体、抗マウスPD-L1、クローン:10F.9G2、BioXcell)をi.p.で受けた。投与は、コントロール抗体の場合と同様に毎週2回反復した。Debio 1143前治療動物の最終グループは、抗PD-L1抗体を受け、毎日のDebio 1143も継続した。腫瘍量及び体重は、毎週2回判断した。腫瘍サイズは、キャリパーを使用して二次元で測定し、容積は、式:V=0.5a×b、a及びbは、それぞれ腫瘍の長径及び短径である、を使用してmmで表現した。
【0094】
実験の結果を図4に示す。Debio 1143単独による前治療(すなわち、これに続くコントロール抗体の投与)は、中程度の抗癌効果を有した(グループ2)。Debio 1143による前治療のないPD-L1抗体による治療は、本質的に腫瘍増殖を遅延させなかった(グループ3)。Debio 1143による前治療、これに続くPD-L1抗体による治療の組み合わせは、非常に大きな抗癌効果を有した(グループ4)。治療期間の間のDebio 1143の継続は、小さなさらなる有益性をもたらすように思われた(グループ5)。
【0095】
【表1】
【0096】
これらの動物試験は、抗PD-1分子によるその後の治療に対する抗腫瘍応答の可能性及び/又は大きさを増強させるための、IAPアンタゴニストによる前治療の有効性について直接的な証拠を提供する。
【0097】
実施例3:IAP阻害剤ビリナパント及びLCL161による前治療はMC38モデルにおいて抗PD-L1の効能を増強させる
72匹の成体雌C57BL/6Jマウス(Shanghai Lingchang Bio-Technology Co.から得た)の右下脇腹に0.1mlのPBS中1×10細胞の同系結腸癌細胞株MC-38を皮下接種した。腫瘍量は、キャリパーを使用して二次元で毎週3回測定し、容積は、式:V=(L×W×W)/2、Vは腫瘍量であり、Lは腫瘍長(最長の腫瘍寸法)であり、Wは腫瘍幅(Lに垂直な最長の腫瘍寸法)である、を使用してmmで表現した。動物はすべて、「Matched distribution」ランダム化法(StudyDirector(商標)ソフトウェア、バージョン3.1.399.19)に基づいて、52mmの平均腫瘍サイズを有する9つの異なる試験グループにランダムに割り当て、治療をスタートした(1日目とした)。投薬並びに腫瘍測定及び体重測定は、ラミナーフローキャビネットにおいて行った。
【0098】
1日目に、一部の動物は、表2に示されるように、隔週のスケジュールで、30mg/kgの用量のi.p.SMACミメティックビリナパント又はそのビヒクルからなる1週間の前治療を受けた。他の動物は、表2に示されるように、隔週のスケジュールで、75mg/kgの用量のp.o.SMACミメティックLCL161又はそのビヒクルからなる1週間の前治療を受けた。
【0099】
8日目に、ビヒクル又はSMACミメティック前治療動物を、隔週のi.p.の10mg/kgのコントロール抗体rIgG2b(クローン:LTF-2、BioXcell)又は隔週のi.p.の10mg/kgの抗PD-L1抗体(マウスサロゲート抗体、抗マウスPD-L1、クローン:10F.9G2、BioXcell)により、試験終了までその後さらに治療した。1週間のビリナパント前治療を受けた1グループの動物及び1週間のLCL161前治療を受けた1グループの動物は、試験終了まで抗PD-L1治療の期間の間、それぞれのSMACミメティックをそれぞれ継続した。
【0100】
実験の結果を、ビリナパントについては図5に及びLCL161については図6に示す。
【0101】
ビリナパント単独による前治療(すなわち、これに続くコントロール抗体の投与)は、中程度の抗癌効果を有した(グループ2)。ビリナパントによる前治療のない抗PD-L1抗体による治療は、腫瘍増殖を本質的に遅延させなかった(グループ3)。ビリナパントによる前治療、これに続く抗PD-L1抗体による治療の組み合わせは、有意な抗癌効果を有した(グループ4)。治療期間の間のビリナパントの継続は、小さなさらなる有益性をもたらすように思われた(グループ5)。
【0102】
LCL161単独による前治療(すなわち、これに続くコントロール抗体の投与)は、中程度の抗癌効果を有した(グループ7)。LCL161による前治療、これに続く抗PD-L1抗体による治療の組み合わせは、LCL161前治療単独に対して、小さなさらなる有益性を提供するように思われたのに対して(グループ8)、治療期間の間のLCL161の継続は、有意なさらなる有益性を提供した(グループ9)。
【0103】
これらの動物試験は、抗PD-L1分子によるその後の治療に対する抗腫瘍応答の可能性及び/又は大きさを増強させるための、任意のIAPアンタゴニストによる前治療の有効性について直接的な証拠を提供する。
【0104】
【表2】
【0105】
実施例4:3.Debio 1143導入はCT26モデルにおいて抗PD-1の効能を増強させる
5グループ(n=8)の成体雌BALB/cマウス(Shanghai Lingchang Bio-Technology Co.から得た)の右下脇腹に0.5×10細胞の同系結腸癌細胞株CT26を接種した。平均腫瘍サイズが約50mmに届いたら(1日目)、動物は、表3aに示されるように、100mg/kgの用量のp.o.SMACミメティックDebio 1143(Debiopharm)又はビヒクルからなる前治療を受けた。投薬は、7日間(1から7日目)毎日反復した。表3bに示されるように、後日(8日目)、ビヒクル治療グループ及びDebio 1143前治療グループの動物に試験終了まで経口ビヒクルを毎日与えた。2つのグループ(ビヒクル及びDebio 1143前治療動物)の別のセットは、10mg/kgの抗PD-1抗体(マウスサロゲート抗体、抗マウスPD-1、クローン:RMP1-14、BioXcell)をi.p.で隔週に受けた。Debio 1143前治療動物の最終グループは、抗PD-1抗体を受け、毎日のDebio 1143も継続した。腫瘍量及び体重は、毎週2回判断した。腫瘍サイズは、キャリパーを使用して二次元で測定し、容積は、式:V=0.5a×b、a及びbは、それぞれ腫瘍の長径及び短径である、を使用してmmで表現した。
【0106】
実験の結果を図7に示す。Debio 1143による前治療のない抗PD-1抗体による治療は、腫瘍増殖を本質的に遅延させなかった(グループ2)。Debio 1143単独による前治療(すなわち、これに続く経口ビヒクルの投与)は、中程度の抗癌効果を有した(グループ3)。Debio 1143による前治療、これに続く抗PD-1抗体による治療の組み合わせは、Debio 1143前治療単独に対して、小さなさらなる有益性を提供するように思われた(グループ4)。治療期間の間のDebio 1143の継続は、有意なさらなる有益性を提供した(グループ5)。
【0107】
これらの動物試験は、抗PD-1分子によるその後の治療に対する抗腫瘍応答の可能性及び/又は大きさを増強させるための、IAPアンタゴニストによる前治療の有効性について直接的な証拠を提供する。
【0108】
これらの動物試験は、任意のICI分子、特に抗PD-1分子又は抗PD-L1分子によるその後の治療に対する抗腫瘍応答の可能性及び/又は大きさを増強させるための、任意のIAPアンタゴニストによる前治療の有効性について直接的な証拠を提供する。
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
範囲及び均等性
本明細書における値の範囲の記述は、本明細書において別段の指示がない限り、範囲内にあるそれぞれの別々の値を個々に指すための省略表現の方法として果たすことが単に意図され、それぞれの別々の値は、あたかも個々に本明細書において詳述されるかのように、本明細書に組み込まれる。特に指定のない限り、本明細書において提供される厳密な値はすべて、対応する近似値の代表である(たとえば、特定の因子又は測定値に関して提供されるすべての厳密な例示的な値は、適切な場合、「約」によって修飾される、対応する近似の測定値をも提供すると考えることができる)。
【0112】
本明細書において提供される任意の及びすべての例又は例示的な表現(たとえば「などのような」)の使用は、単に本発明をより明らかにすることが意図され、別段の指示がない限り、本発明の範囲を限定するものではない。
【0113】
本明細書における特許文献の引用及び援用は、ただ便宜だけのために行っており、そのような特許文献の妥当性、特許性、及び/又は執行力のいかなる見方をも表すものではない。要素に関してなどのような用語を使用する本発明の任意の態様又は実施形態の本明細書における記載は、特に指定のない限り又は文脈によって明らかに否定されない限り、その特定の要素「からなる」、「から本質的になる」、又は「を実質的に含む」本発明の類似する態様又は実施形態への土台を提供することが意図される(たとえば、特定の要素を含むとして記載される組成物はまた、特に指定のない限り又は文脈によって明らかに否定されない限り、その要素からなる組成物を記載しているとして理解されるべきである)。
【0114】
本発明は、適用法によって許可される最大限まで本明細書において提供される態様又は請求項において詳述される主題の変形及び等価物をすべて含む。
【0115】
それぞれの個々の刊行物又は特許文書が参照によって組み込まれることが明確に、個々に示されるかのように、本明細書において引用される刊行物及び特許文献はすべて、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2024-03-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト対象において癌を治療するための方法における使用のためのアポトーシスタンパク質阻害剤(IAP)アンタゴニストであって、前記方法が、
(i)導入期の間に前記IAPアンタゴニストを投与することと、これに続いて
(ii)前記導入期の終了後に抗PD-1分子を投与することと、
を含む、
アポトーシスタンパク質阻害剤(IAP)アンタゴニスト。
【請求項2】
ヒト対象において癌を治療するための方法における使用のための抗PD-1分子であって、前記方法が、
(i)導入期の間にアポトーシスタンパク質阻害剤(IAP)アンタゴニストを投与することと、これに続いて
(ii)前記導入期の終了後に前記抗PD-1分子を投与することと、
を含む、
抗PD-1分子。
【請求項3】
前記IAPアンタゴニストが、第2ミトコンドリア由来カスパーゼ活性化因子(SMAC)ミメティックである、請求項1又は2に記載のIAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子。
【請求項4】
前記抗PD-1分子が、PD-1又はPD-L1に対する抗体である、請求項1~3のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子。
【請求項5】
前記対象が、前記導入期の前に免疫原性が不十分である癌を有すると判断されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子。
【請求項6】
免疫原性が不十分であるという前記判断が、前記導入期の前に採取された生物学的サンプルにおける癌細胞上のPD-L1の発現レベルが所定の閾値に到達しないという所見に基づく、請求項5に記載のIAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子。
【請求項7】
前記対象が、前記導入期の終了時に免疫原性である癌を有すると判断されている、請求項1~6のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子。
【請求項8】
免疫原性の前記判断は、前記導入期の終了時に採取された生物学的サンプルにおける癌細胞上のPD-L1の発現レベルが所定の閾値を超えるという所見に基づく、請求項7に記載のIAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子。
【請求項9】
前記導入期は5~28日間である、請求項1~8のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子。
【請求項10】
前記IAPアンタゴニストが、Debio 1143である、請求項1~9のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子。
【請求項11】
前記抗PD-1分子の前記投与が、別の免疫療法、放射線療法、化学療法、化学放射線療法、腫瘍溶解性ウイルス、血管新生抑制療法、及び/又は標的癌療法を含む、1つ又はそれ以上の他の癌療法と組み合わせられる、請求項1~10のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子。
【請求項12】
前記癌が、頭頸部癌、黒色腫、尿路上皮癌、非小細胞肺癌、原発部位がわからない高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI)腫瘍、腎臓癌、膵癌、結腸直腸癌、多発性骨髄腫、小細胞肺癌、肝臓がん、又は卵巣癌である、請求項1~11のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子。
【請求項13】
前記抗PD-1分子が、静脈内注入によって投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子。
【請求項14】
前記IAPアンタゴニストが、経口投与によって投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載のIAPアンタゴニスト又は抗PD-1分子。
【外国語明細書】