(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005972
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】樹脂組成物、フィルム、積層体、包装体、および包装体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/12 20060101AFI20240110BHJP
C08L 23/04 20060101ALI20240110BHJP
C08K 5/51 20060101ALI20240110BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08L23/12
C08L23/04
C08K5/51
B32B27/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106481
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 雄太
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AK01A
4F100AK07B
4F100AL01B
4F100AL01J
4F100AL03B
4F100AL03J
4F100AL05B
4F100AL05G
4F100BA02
4F100CB03B
4F100CB03G
4F100GB17
4F100GB18
4F100JL12
4F100JL16
4J002BB031
4J002BB051
4J002BB081
4J002BB122
4J002BB132
4J002BB142
4J002DJ046
4J002DJ056
4J002EC056
4J002EG016
4J002EW046
4J002FD206
4J002GG00
(57)【要約】
【課題】例えば被接合物と接合させる温度により、イージーピール性およびタイトシール性といった異なる接合状態が接合後からより早く発現できる樹脂組成物、フィルム、積層体、包装体、および包装体の製造方法を提供すること。
【解決手段】樹脂組成物であって、成分(A):前記組成物全量に対して2.5質量%以上11.0質量%未満のポリプロピレン重合体と、成分(B):前記成分(A)とは異なる重合体と、成分(C):前記組成物全量に対して0.05質量%以上1質量%未満の造核剤と、を含有する、樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物であって、
成分(A):前記組成物全量に対して2.5質量%以上11.0質量%未満のポリプロピレン重合体と、
成分(B):前記成分(A)とは異なる重合体と、
成分(C):前記組成物全量に対して0.05質量%以上1質量%未満の造核剤と、
を含有する、樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物において、
前記成分(C)の造核剤は、リン酸エステル金属塩を含有する、
樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物において、
前記成分(A)のポリプロピレン重合体は、ポリプロピレンランダムコポリマーである、
樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の樹脂組成物において、
前記成分(B)の重合体は、エチレン・メタクリル酸共重合体および低密度ポリエチレン共重合体のいずれか1種以上である、
樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の樹脂組成物において、
前記成分(A)のポリプロピレン重合体の溶解パラメータと、前記成分(B)の重合体の溶解パラメータとが異なる、
樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の樹脂組成物において、
前記成分(A)のポリプロピレン重合体の溶解パラメータと、前記成分(B)の重合体の溶解パラメータとの差の絶対値が、0.7以上1.2以下である、
樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の樹脂組成物において、
前記成分(A)が島構造を示し、かつ前記成分(B)が海構造を示し、
前記海構造を示す前記成分(B)の重合体のメルトフローレート(190℃、2160g荷重下)(JIS K7210:1999)に対し、前記島構造を示す前記成分(A)のポリプロピレン重合体のメルトフローレート(230℃、2160g荷重下)(JIS K7210:1999)の割合の絶対値が、0.1以上2.6以下である、
樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の樹脂組成物において、
前記成分(A)のポリプロピレン重合体の融点と、前記成分(B)の重合体の融点との差の絶対値が、35以上70以下である、
樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の樹脂組成物を原料とする、
フィルム。
【請求項10】
基材層と、
前記基材層に積層された請求項9に記載のフィルムと、
を具備する、積層体。
【請求項11】
請求項10に記載の積層体が重ね合わされて一部がヒートシールされてなる包装体であって、
前記ヒートシールする温度の上昇に対してヒートシール後のシール強度が飽和する第一関係において、前記温度の範囲で前記積層体がヒートシールされて形成された第一ヒートシール部と、
前記第一関係より高い温度の範囲で、下記関係式(1)の値が最大となるヒートシール温度において、下記関係式(2)を満たす第二関係において、当該温度の範囲で前記積層体がヒートシールされて形成された第二ヒートシール部と、
を具備する、包装体。
(ヒートシールする温度でのヒートシール後のシール強度)-(前記ヒートシールする温度-10℃の温度でのヒートシール後のシール強度)・・・(1)
(ヒートシールする温度でのヒートシール後のシール強度)-(前記ヒートシールする温度-10℃の温度でのヒートシール後のシール強度)>1.3・・・(2)
【請求項12】
請求項11に記載の包装体において、
前記第一ヒートシール部における前記ヒートシール後のシール強度が、少なくとも30℃以上の温度幅となる領域において、2N/25mm幅以上15N/25mm幅以下であり、
前記第二ヒートシール部における前記ヒートシール後のシール強度が、17N/25mm幅以上である、包装体。
【請求項13】
請求項10に記載の積層体を重ね合わせて一部をヒートシールし包装体を製造する製造方法であって、
前記ヒートシールする温度の上昇に対してヒートシール後のシール強度が飽和する第一関係において、前記温度の範囲で前記積層体をヒートシールする工程と、
前記第一関係より高い温度の範囲で、下記関係式(1)の値が最大となるヒートシール温度において、下記関係式(2)を満たす第二関係において、当該温度の範囲で前記積層体をヒートシールする工程と、
を実施する、包装体の製造方法。
(ヒートシールする温度でのヒートシール後のシール強度)-(前記ヒートシールする温度-10℃の温度でのヒートシール後のシール強度)・・・(1)
(ヒートシールする温度でのヒートシール後のシール強度)-(前記ヒートシールする温度-10℃の温度でのヒートシール後のシール強度)>1.3・・・(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、フィルム、積層体、包装体、および包装体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、包装用のフィルムとして、ヒートシールにて封止した箇所が、比較的に弱い力でも剥離できる箇所(いわゆるイージーピールとなる箇所)と、比較的に強い接合強度の箇所(いわゆるタイトシールとなる箇所)との異なる特性を示す構成が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
特許文献1に記載のフィルムは、(1)メルトフローレートが0.5~6g/10分のエチレン・α,β-不飽和カルボン酸共重合体、およびそのアイオノマーからなる群から選択される少なくとも1種と、(2)メルトフローレートが10~30g/10分のエチレン・α,β-不飽和カルボン酸共重合体、およびそのアイオノマーからなる群から選択される少なくとも1種と、(3)プロピレンの単独重合体およびプロピレンと、プロピレンを除く1種以上のα-オレフィンとの共重合体からなる群から選択される少なくとも1種と、を含有する樹脂組成物からなるフィルムである。
また、特許文献2に記載のフィルムは、溶解パラメータが異なる少なくとも2種の重合体と、造核剤と、が配合されてなる樹脂組成物からなるフィルムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/152324号
【特許文献2】特開2018-199744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および特許文献2に記載のような従来のフィルムでは、求められるシール特性が発現するまでの時間について、さらなる短縮が望まれている。求められるシール特性が発現するまでに時間を要すると、例えば製品の品質管理を直ちにできないという課題がある。
【0005】
本発明は、例えば被接合物と接合させる温度により、イージーピール性およびタイトシール性といった異なる接合状態を接合後より早く発現できる樹脂組成物、フィルム、積層体、包装体、および包装体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、樹脂組成物であって、成分(A):前記組成物全量に対して2.5質量%以上11.0質量%未満のポリプロピレン重合体と、成分(B):前記成分(A)とは異なる重合体と、成分(C):前記組成物全量に対して0.05質量%以上1質量%未満の造核剤と、を含有する、樹脂組成物が提供される。
【0007】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記成分(C)の造核剤は、リン酸エステル金属塩を含有してもよい。
【0008】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記成分(A)のポリプロピレン重合体は、ポリプロピレンランダムコポリマーであってもよい。
【0009】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記成分(B)の重合体は、エチレン・メタクリル酸共重合体および低密度ポリエチレン共重合体のいずれか1種以上であってもよい。
【0010】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記成分(A)のポリプロピレン重合体の溶解パラメータと、前記成分(B)の重合体の溶解パラメータとが異なってもよい。
【0011】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記成分(A)のポリプロピレン重合体の溶解パラメータと、前記成分(B)の重合体の溶解パラメータとの差の絶対値が、0.7以上1.2以下であってもよい。
【0012】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記成分(A)が島構造を示し、かつ前記成分(B)が海構造を示し、前記海構造を示す前記成分(B)の重合体のメルトフローレート(190℃、2160g荷重下)(JIS K7210:1999)に対し、前記島構造を示す前記成分(A)のポリプロピレン重合体のメルトフローレート(230℃、2160g荷重下)(JIS K7210:1999)の割合の絶対値が、0.1以上2.6以下であってもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る樹脂組成物において、前記成分(A)のポリプロピレン重合体の融点と、前記成分(B)の重合体の融点との差の絶対値が、35以上70以下であってもよい。
【0014】
本発明の一態様によれば、前記樹脂組成物を原料としてなるフィルムが提供される。
【0015】
本発明の一態様によれば、基材層と、前記基材層に積層された前記フィルムと、を具備する積層体が提供される。
【0016】
本発明の一態様によれば、前記積層体が重ね合わされて一部がヒートシールされてなる包装体であって、前記ヒートシールする温度の上昇に対してヒートシール後のシール強度が飽和する第一関係において、前記温度の範囲で前記積層体がヒートシールされて形成された第一ヒートシール部と、前記第一関係より高い温度の範囲で、下記関係式(1)の値が最大となるヒートシール温度において、下記関係式(2)を満たす第二関係において、当該温度の範囲で前記積層体がヒートシールされて形成された第二ヒートシール部と、を具備する包装体が提供される。
(ヒートシールする温度でのヒートシール後のシール強度)-(前記ヒートシールする温度-10℃の温度でのヒートシール後のシール強度)・・・(1)
(ヒートシールする温度でのヒートシール後のシール強度)-(前記ヒートシールする温度-10℃の温度でのヒートシール後のシール強度)>1.3・・・(2)
【0017】
本発明の一態様に係る包装体において、前記第一ヒートシール部における前記ヒートシール後のシール強度が、少なくとも30℃以上の温度幅となる領域において、2N/25mm幅以上15N/25mm幅以下であり、前記第二ヒートシール部における前記ヒートシール後のシール強度が、17N/25mm幅以上であってもよい。
【0018】
本発明の一態様によれば、前記積層体を重ね合わせて一部をヒートシールし包装体を製造する製造方法であって、前記ヒートシールする温度の上昇に対してヒートシール後のシール強度が飽和する第一関係において、前記温度の範囲で前記積層体をヒートシールする工程と、前記第一関係より高い温度の範囲で、下記関係式(1)の値が最大となるヒートシール温度において、下記関係式(2)を満たす第二関係において、当該温度の範囲で前記積層体をヒートシールする工程と、を実施する、包装体の製造方法が提供される。
(ヒートシールする温度でのヒートシール後のシール強度)-(前記ヒートシールする温度-10℃の温度でのヒートシール後のシール強度)・・・(1)
(ヒートシールする温度でのヒートシール後のシール強度)-(前記ヒートシールする温度-10℃の温度でのヒートシール後のシール強度)>1.3・・・(2)
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、例えば被接合物と接合させる温度により、イージーピール性およびタイトシール性といった異なる接合状態が接合後からより早く発現できる樹脂組成物、フィルム、積層体、包装体、および包装体の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態における積層体を示す断面概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態における包装体を示す平面図である。
【
図3】実施例1におけるシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図4】実施例2におけるシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例3におけるシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図6】実施例4におけるシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例5におけるシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図8】実施例6におけるシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図9】実施例7におけるシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図10】比較例1におけるシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【
図11】比較例2におけるシール温度とシール強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照等しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0022】
〔第一実施形態〕
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、下記の成分(A)と、成分(B)と、成分(C)と、を含有する。
成分(A):樹脂組成物全量に対して2.5質量%以上11.0質量%未満のポリプロピレン重合体
成分(B):成分(A)とは異なる重合体
成分(C):樹脂組成物全量に対して0.05質量%以上1質量%未満の造核剤
以下、各成分について説明する。
【0023】
・成分(A)
本実施形態に係る樹脂組成物が含有する成分(A)は、ポリプロピレン重合体である。ポリプロピレン重合体としては、例えば、ホモポリプロピレン(HPP)、ポリプロピレンランダムコポリマー、およびポリプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。後述する重合体のうちの他の1種である成分(B)として、好適に用いられるエチレン・メタクリル酸共重合体およびポリエチレン共重合体との適度な相溶性と、包装体においてタイトシール性を示す部位(後述の
図3における第二ヒートシール部15)を形成するための温度領域の観点から、成分(A)はポリプロピレンランダムコポリマーが好適である。なお、ホモポリプロピレンおよびポリプロピレンブロックコポリマーは、融点が160℃付近である。このことから、第二ヒートシール部15におけるタイトシール性が発現する温度が高めとなるので、被包装物および用途等により、高い温度に対応する場合には、成分(A)としてのポリプロピレンランダムコポリマーが有効である。
【0024】
成分(A)の配合量の下限は、樹脂組成物全量に対して2.5質量%以上である。成分(A)の配合量が樹脂組成物全量に対して2.5質量%より少なくなると、いわゆる島構造の割合が少なくなって、イージーピール性が発現できなくなるおそれがある。成分(A)の配合量の下限は、3.0質量%以上であることが好ましく、3.5質量%以上であることがより好ましく、4.0質量%以上であることがさらに好ましい。
また、成分(A)の配合量の上限は、11.0質量%未満である。成分(A)の配合量が樹脂組成物全量に対して11.0質量%以上になると、後述の第二温度領域でのヒートシールの際に、成分(A),(B)双方の融着が阻害され、タイトシール性が発現しなくなるおそれがあるためである。成分(A)の配合量の上限は、10.0質量%以下であることが好ましく、9.0質量%以下であることがより好ましく、8.0質量%以下であることがさらに好ましく、5.0質量%未満であることがさらにより好ましい。
【0025】
・成分(B)
本実施形態に係る樹脂組成物が含有する成分(B)は、成分(A)とは異なる重合体である。
成分(B)の共重合体は、具体的には、エチレン・メタクリル酸共重合体およびポリエチレン共重合体等が挙げられる。
ポリエチレン共重合体としては、低密度ポリエチレン共重合体等が挙げられる。低密度ポリエチレン共重合体は、成分(A)のポリプロピレン共重合体と、イージーピール性およびタイトシール性発現に好適な海島構造を形成できる。
本実施形態の樹脂組成物における成分(B)の共重合体は、エチレン・メタクリル酸共重合体および低密度ポリエチレン共重合体のいずれか1種以上であることが好ましい。
【0026】
成分(B)の共重合体の配合量は、成分(A)の配合量と成分(B)の配合量と成分(C)の配合量の合計が100質量%となる量とすればよい。
タイトシール性発現の観点から、成分(B)の共重合体の配合量の下限は、成分(A)~(C)の合計量(100質量%)に対して88.00質量%以上であることが好ましい。成分(B)の共重合体の配合量の下限は、90.40質量%以上であることがより好ましく、91.60質量%以上であることがさらに好ましい。
また、イージーピール性発現の観点から、成分(B)の共重合体の配合量の上限は、成分(A)~(C)の合計量に対して97.45質量%以下であることが好ましい。成分(B)の共重合体の配合量の上限は、96.40質量%以下であることがより好ましく、95.85質量%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
・成分(C)
成分(C)の造核剤は、例えば、リン酸エステル金属塩、脂肪酸金属塩、カルボン酸金属塩、ロジン金属塩、タルク、マイカ、およびソルビトール誘導体等が挙げられる。成分(B)としてエチレン・メタクリル酸共重合体およびポリエチレン共重合体を用いる場合、これらの共重合体の均一な結晶形成を促進させる観点から、成分(C)の造核剤としては、リン酸エステル金属塩、脂肪酸金属塩、およびカルボン酸金属塩のいずれか一種以上であることが好ましく、リン酸エステル金属塩がより好ましい。特に、リン酸エステル金属塩は、成分(A)のポリプロピレン共重合体の結晶化速度向上によるタイトシール性の経時変化抑止効果(24時間後と直後の各シール温度に対応するシール強度を近づける)が期待できる。
【0028】
成分(C)の配合量の下限は、樹脂組成物全量に対して0.05質量%以上である。成分(C)の配合量が樹脂組成物全量に対して0.05質量%より少なくなると、造核作用が不十分であるためにヒートシール後の結晶化の速度が遅くなり、特にイージーピール性の発現に時間を要するおそれがある。成分(C)の配合量の下限は、樹脂組成物全量に対して0.07質量%以上であることが好ましく、0.10質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。
また、成分(C)の造核剤の配合量の上限は、樹脂組成物全量に対して1質量%未満である。成分(C)の配合量が樹脂組成物全量に対して1質量%以上になっても、造核作用としては飽和しており、造核剤の添加量の増加に伴ってコストが増大するおそれがあるためである。成分(C)の造核剤の配合量の上限は、0.80質量%以下であることが好ましく、0.60質量%以下であることがより好ましく、0.40質量%以下であることがさらに好ましい。
このように、造核剤(成分(C))の配合量により、シール特性の経時変化を制御できる。
なお、本明細書における成分(C)の造核剤の配合量は、マスターバッチ中の正味量である。
【0029】
本発明の一態様に係る樹脂組成物には、後述の基材フィルム製膜時および包装体の製造等の二次加工における作業性の向上のために、必要に応じて、例えば滑剤およびアンチブロッキング剤等からなる群から選択される少なくとも1種をさらに添加することが可能である。また、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、本発明の効果を失わない範囲で、その他の成分を含んでもよい。
【0030】
本実施形態の樹脂組成物は、成分(A)のポリプロピレン共重合体の溶解パラメータ(Solubility Parameter:δ、以下、「sp値」ということもある)((cal/cm3)1/2)と、成分(B)の重合体の溶解パラメータとが異なることが好ましい。
例えば、2種の重合体のうち一方の成分(A)が島構造、他方の成分(B)が海構造をとる当該樹脂組成物からなるフィルムをヒートシールする際、所定の温度領域(以下、「第一の温度領域」という)でヒートシールした場合には、非溶融状態である島構造の成分(B)が、溶融状態である海構造の成分(A)の融着を阻害する。このことにより、ヒートシールした箇所はシール強度が比較的に弱いいわゆるイージーピール性を示す。第二温度領域でヒートシールした場合には、溶融した成分(A)および成分(B)の双方の融着により、ヒートシールした箇所はシール強度が比較的に強いいわゆるタイトシール性を示す。ヒートシール後は、造核剤により直ちに結晶化が進行し、ヒートシールした箇所のシール特性が短時間で発現される。
このように、sp値が異なる重合体と造核剤とを配合することで、例えばフィルムの接合直後から、イージーピール性およびタイトシール性のシール特性を発現できる。さらに、温度と層構成との関係から、第一温度領域と第二温度領域とが明確に差別化でき、当該樹脂組成物を用いた物品におけるイージーピール性と、タイトシール性とを容易に発現させることができる。
【0031】
ここで、海島構造とは、非相溶の樹脂の混合状態を示す相構造で、一方の樹脂中に島のように非相溶の他方の樹脂が点在する状態である。
また、例えば当該樹脂組成物からなるフィルムの接合としては、ヒートシールに限らず、超音波による溶着等も含まれるものである。
そして、sp値(δ)は、Fedorsによって提案された算出方法に従い算出される。具体的には、「Polym.Eng.Sci.,14(2),147-154(1974)」中に記載された表中のEv(蒸発エネルギー)と、V(モル体積)とを求め、以下の式(S1)に基づいて算出する。
δ=(Ev/V)1/2…(S1)
なお、成分(A)をポリプロピレンランダムコポリマーとした場合のsp値は、8.0である。
【0032】
成分(A)のsp値と、成分(B)のsp値との差の絶対値が、0.7以上1.2以下であることが好ましい。
ここで、成分(A)のsp値をsp(A)とし、成分(B)のsp値をsp(B)としたとき、|sp(A)-sp(B)|が0.7以上であれば、成分(A)と成分(B)との相溶性が高くなりすぎることがなく、求められるシール特性を発現するための適度な分散状態を形成できる。一方、|sp(A)-sp(B)|が1.2以下であれば、成分(A)と成分(B)との相溶性が低くなりすぎることがなく、求められるシール特性を発現するための適度な分散状態を形成できるとともに、両成分の分散状態の安定さから、例えば当該樹脂組成物からなる基材フィルムの製膜性も安定する。例えば、ポリプロピレンとナイロン12(SP値=9.9)とを、樹脂組成物における重合体として用いた場合、相溶性が著しく悪くなり製膜性が不安定となるおそれがある。したがって、成分(A)と成分(B)のsp値の差の絶対値は、0.7以上1.2以下に設定することが好ましい。例えば、成分(A)としてポリプロピレン(SP値=7.9)、成分(B)としてエチレン・メタクリル酸共重合体(SP値=9.1)および低密度ポリエチレン(SP値=8.6)等を用いた場合でも、イージーピール性とタイトシール性とを明確に提供できる。
【0033】
また、各成分の融点およびメルトフローレートは、被包装物および用途等、目的とするシール特性に応じて適宜設定される。
例えば、成分(A)が島構造をとり、成分(B)が海構造をとる場合、海構造をとる成分(B)の重合体のメルトフローレート(Melt Flow Rate:MFR)に対する、島構造をとる成分(A)のメルトフローレートの割合の絶対値が、0.1以上2.6以下であることが好ましい。すなわち、成分(A)と成分(B)のMFRをそれぞれMFR(A)とMFR(B)とした場合、MFR(A)とMFR(B)との関係が、0.1≦|MFR(A)÷MFR(B)|≦2.6であることが好ましい。
ここで、|MFR(A)÷MFR(B)|が0.1以上であれば、海島構造のうち島の部分が大きくなりすぎることがなく、求められるシール特性を発現するための適度な分散状態を形成できる。一方、|MFR(A)÷MFR(B)|が2.6以下であれば、海島構造のうち島の部分が小さくなりすぎることがなく、求められるシール特性を発現するための適正な分散状態を形成できる。
より早く求められるイージーピール性およびタイトシール性を発現しつつ、かつタイトシール強度が発現するシール温度が低くなるため実用上包装体にダメージを与えずに加工できるため、成分(B)のメルトフローレートに対する、成分(A)のメルトフローレートの割合の絶対値は、0.3以上2.5以下であることがより好ましく、0.4以上2.4以下であることがさらに好ましい。
なお、本明細書における成分(A)および成分(B)のメルトフローレートは、JIS K7210:1999に準拠して、成分(A)は230℃、2160g荷重下で、成分(B)は190℃、2160g荷重下で、測定した値である。
【0034】
また、成分(A)の融点と成分(B)の融点(Melting Point:MP)との差の絶対値が、35以上70以下であることが好ましい。すなわち、成分(A)と成分(B)の融点をそれぞれMP(A)とMP(B)とした場合、MP(A)とMP(B)との関係が、35≦|MP(A)-MP(B)|≦70であることが好ましい。
|MP(A)-MP(B)|が35以上であれば、イージーピール性を発現するためのヒートシールする第一温度領域が狭くなりすぎることがなく、シール温度の制御も容易となるため、求められるシール特性を安定して発現できる。一方、|MP(A)-MP(B)|が70以下であれば、当該樹脂組成物から製造したフィルムをシーラント層とし、このシーラント層と基材層と積層させた基材フィルムを用いてヒートシールした場合、基材層として用いられるポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の融点と、第二温度領域とが近くなりすぎることがなく、ヒートシール時のシールバーへの付着並びに基材フィルムからなる包装体の第二ヒートシール部の収縮およびしわ等の外観不良を防ぐことができる。
成分(A)の融点と成分(B)の融点との差の絶対値は、38以上70以下であることがより好ましく、40以上70以下であることがさらに好ましい。例えば、成分(A)としてポリプロピレン(融点135℃以上160℃以下)を用い、成分(B)としてエチレン・メタクリル酸共重合体(融点99℃)およびエチレン・酢酸ビニル共重合体(融点89℃)等を用いた場合でも、イージーピール性とタイトシール性とを明確に提供できる。
なお、本明細書における各成分の融点は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)により測定できる。
【0035】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、各成分を任意の方法で溶融混練することによって製造できる。
【0036】
[フィルム]
次に、本発明の一態様に係るフィルムについて説明する。
本実施形態に係るフィルムは、上述の樹脂組成物を原料としてなる。上述の樹脂組成物を原料として用いることで、例えばヒートシールする箇所として、イージーピール性とタイトシール性との異なるシール特性を、ヒートシール直後から発現できる。さらに、第一温度領域と第二温度領域とが明確に差別化できることから、イージーピール性とタイトシール性との異なるシール特性に、容易に設定できる。
【0037】
(フィルムの製造方法)
本発明の一態様に係るフィルムは、インフレーション法により製造する他、カレンダー法等、各種方法を適用できる。さらに、共押出に限らず、例えばシーラント層に対応するフィルムと、基材層に対応するフィルムとを貼り合わせて積層させる等してもよい。
そして、基材フィルムとして、基材層とシーラント層とを積層した積層構造に限らず、本発明の一態様に係る樹脂組成物にて形成された単層のフィルムとしてもよい。
【0038】
[積層体]
次に、本発明の一態様に係る積層体について説明する。
図1は、本実施形態に係る積層体30の断面概略図である。
本発明の一態様に係る積層体は、基材層20と、基材層20に積層されたフィルム10と、を具備する。フィルム10は、本発明の一態様に係るフィルムとすることができる。
【0039】
基材層20は、例えば、ポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等が用いられる。
ポリオレフィン樹脂としては、ホモポリプロピレン(HPP)、ランダムポリプロピレン(RPP)、およびブロックポリプロピレン(BPP)等のポリプロピレン樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)、および(直鎖状)低密度ポリエチレン((Linear)Low Density Polyethylene:LDPE)等のポリエチレン樹脂、並びに直鎖状エチレン-α-オレフィン共重合体等が用いられる。
ナイロン樹脂としては、ナイロン6、ナイロン8、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン6,12等を使用することができる。
また、基材層は、着色剤等の各種添加剤が、適宜添加可能である。
【0040】
本発明の一態様に係る積層体は、このように、イージーピール性とタイトシール性との異なる特性に容易に設定できるとともに、異なる特性をヒートシール直後から発現できるフィルムを積層している。このことから、求められるシール特性をヒートシール直後から安定して発現できるため、ヒートシール箇所の品質管理が容易となり、包装袋等の各種の包装等に良好に適用でき、汎用性を向上できる。
【0041】
(積層体の製造方法)
積層体は、例えばインフレーション法等の各種方法にて製造できる。
【0042】
[包装体]
本実施形態では、包装体として、二つの収納空間を有する袋状のものを例示するが、例えば容器と蓋とからなる形態等、各種形態を対象とすることができ、また収納空間も二つに限らず、複数設けた構成としてもよい。被包装物としては、食品以外の薬品、医療品、文具、雑貨等の各種物品を対象とすることができる。そして、積層体から包装体を形成する接合としてはヒートシールを例示するが、例えば超音波による溶着等を利用できる。
【0043】
本発明の一態様に係る包装体は、本発明の一態様に係る積層体が重ね合わされて一部がヒートシールされてなる包装体であって、前記ヒートシールする温度の上昇に対してヒートシール後のシール強度が飽和する第一関係において、前記温度の範囲で前記積層体がヒートシールされて形成された第一ヒートシール部と、前記第一関係より高い温度の範囲で、下記関係式(1)の値が最大となるヒートシール温度において、下記関係式(2)を満たす第二関係において、当該温度の範囲で前記積層体がヒートシールされて形成された第二ヒートシール部と、を具備する包装体である。
(ヒートシールする温度でのヒートシール後のシール強度)-(前記ヒートシールする温度-10℃の温度でのヒートシール後のシール強度)・・・(1)
(ヒートシールする温度でのヒートシール後のシール強度)-(前記ヒートシールする温度-10℃の温度でのヒートシール後のシール強度)>1.3・・・(2)
【0044】
本実施形態では、上述の積層体を重ね合わせて加熱によりヒートシールする際、第一関係となる温度範囲(第一温度領域)でヒートシールして形成された第一ヒートシール部は、イージーピール性を示す。また、第一関係より高い温度範囲の第二関係の温度範囲(第二温度領域)でヒートシールして形成された第二ヒートシール部は、タイトシール性を示す。これら異なるシール特性を有することで、例えば一つの包装体に異なる食材を収納させ、第一ヒートシール部を剥離させて異なる食材を混合させた後、第二ヒートシール部を剥離して混合した食品を取り出す調理等が容易にできる。
また、第二関係において、ヒートシールする温度に対するヒートシール後のシール強度の割合の最大値が、1.3N/25mm/℃より大きければ、第一関係において、ヒートシールする温度に対するヒートシール後のシール強度の割合との差が小さくなりすぎることがなく、ヒートシール後の判定も容易となる。
ここで、包装体としては、袋に限らず、容器本体と蓋とをヒートシールした容器等、各種形態を対象とすることができる。また、袋の構成についても、側部および底部に折り込みを設けたガゼットタイプ等も対象とすることができる。
そして、ヒートシールする温度の上昇に対してヒートシール後のシール強度が飽和するとは、ヒートシールする温度を上昇させても、ヒートシール後のシール強度にあまり変化がない実質的に一定の状態をいう。この状態では、他の温度領域におけるシール強度の変化の割合に対して明確に差別化される程度であれば、多少のシール強度のバラツキは含まれるものである。
なお、本明細書におけるシール強度は、後述の実施例に記載のシール強度の測定法に準じて測定できる。
また、第二温度領域は、第一温度領域より高い温度領域で、かつ、成分(A)と成分(B)との双方が溶融状態となる温度領域でもある。
【0045】
そして、本実施形態では、前記第一ヒートシール部における前記ヒートシール後のシール強度が、少なくとも30℃以上の温度幅となる領域において、2N/25mm幅以上15N/25mm幅以下であり、前記第二ヒートシール部における前記ヒートシール後のシール強度が、25N/25mm幅以上である構成とすることもできる。
第一ヒートシール部を所定のシール強度とし、第二ヒートシール部を所定のシール強度以上とすることで、包装体における第一ヒートシール部と第二ヒートシール部との機能を適切に発現できる。
より詳細には、第一ヒートシール部におけるシール強度が2N/25mm幅以上であれば、内容物を収納する包装袋の輸送中等に外力が作用することがなく、意図せず第一ヒートシール部が剥離することもない。一方、第一ヒートシール部におけるシール強度が15N/25幅以下であれば、第二ヒートシール部のシール強度との差が小さくなりすぎることがなく、第一ヒートシール部を選択的に剥離できる。
また、第一ヒートシール部における所定のシール強度の発現が、30℃以上の温度幅の領域である場合、例えば包装袋を形成する際のヒートシール条件が変動しても、第一ヒートシール部を所定のシール強度とすることができ、意図しない第一ヒートシール部の剥離を防止できる。また、第二ヒートシール部のシール強度との差が小さくなりすぎることがなく、第一ヒートシール部を選択的に剥離できる。
さらに、第二ヒートシール部におけるシール強度が17N/25mm幅以上であれば、例えば内容物を収納する包装体を加熱調理および加熱殺菌して内圧が高くなった場合にも、第二ヒートシール部の剥離を防止できる。このため、第二ヒートシール部のシール強度を17N/25mm幅以上とすることが好ましい。
【0046】
(包装体の構成)
図2に示すように、包装体1は、例えば三方製袋方法により形成され、積層体である基材フィルム11が重ね合わされ、その周囲等がヒートシールされた袋形状である。包装体1は、内部に第一収納空間12および第二収納空間13を区画する第一ヒートシール部14と、基材フィルム11の周囲がヒートシールされた第二ヒートシール部15とが形成されている。基材フィルム11として、上述の積層体を用いてもよい。なお、基材フィルム11は、二層に限らず、その他の各種中間層およびラミネート層等を適宜積層した多層構造としてもよい。
第一収納空間12には例えば調味液等が収納され、第二収納空間13には例えば食材等が収納される。
第一ヒートシール部14は、例えば内圧等の比較的に弱い力で剥離可能ないわゆるイージーピール性を示し、当該第一ヒートシール部14の剥離により、第一収納空間12と第二収納空間13とが連通し、調味液と食材とが混合される。第二ヒートシール部15は、例えば内圧等では剥離しない比較的強いシール強度のいわゆるタイトシール性を示す。
包装体1には、調味液が投入可能で、調味液の投入後に第二ヒートシール部15が形成されて封止される第一投入口16と、食材が投入可能で、食材の投入後に第二ヒートシール部15が形成されて封止される第二投入口17と、を備えている。
【0047】
[包装体の製造方法]
次に、包装袋の製造方法について説明する。
本発明の一態様に係る包装体の製造方法は、上述の積層体を重ね合わせて一部をヒートシールし包装体を製造する製造方法であって、前記ヒートシールする温度の上昇に対してヒートシール後のシール強度が飽和する第一関係において、前記温度の範囲で前記積層体をヒートシールする工程と、前記第一関係より高い温度の範囲で、下記関係式(1)の値が最大となるヒートシール温度において、下記関係式(2)を満たす第二関係において、当該温度の範囲で前記積層体をヒートシールする工程と、を実施する。
(ヒートシールする温度でのヒートシール後のシール強度)-(前記ヒートシールする温度-10℃の温度でのヒートシール後のシール強度)・・・(1)
(ヒートシールする温度でのヒートシール後のシール強度)-(前記ヒートシールする温度-10℃の温度でのヒートシール後のシール強度)>1.3・・・(2)
【0048】
包装体1の製造方法は、例えば三方製袋する製造装置を用いて製造され、基材フィルム11を送り出して重ね合わせるフィルム送出工程と、重なり合う基材フィルム11をヒートシールして第一ヒートシール部14を形成する第一ヒートシール工程と、重なり合う基材フィルム11をヒートシールして第二ヒートシール部15を形成する第二ヒートシール工程と、等を実施する。
フィルム送出工程では、巻取ロールに巻き取られた基材フィルム11を引き出し、シーラント層が互いに対向するように重ね合わせて、基材フィルム11を送り出す。
【0049】
第一ヒートシール工程では、第一温度領域に設定されたシールバーにより、重なり合う基材フィルム11をヒートシールし、イージーピール性を示す第一ヒートシール部14を形成する。この第一ヒートシール工程における第一温度領域では、シーラント層を構成する成分(A)がいわゆる島構造、成分(B)がいわゆる海構造となる層構成を示す。
この第一温度領域では、結晶化状態の成分(A)が、溶融状態の成分(B)による融着を阻害するような状態となり、比較的に弱いシール強度となるイージーピール性を示す。そして、この第一温度領域においては、シール強度はあまり変動しない、いわゆる温度に対してシール強度が飽和したような一定状態となる。
【0050】
ここで、第一ヒートシール部14のシール強度は、少なくとも30℃以上の温度幅となる領域において、一定のイージーピール性を発現することが好ましい。そして、そのシール強度が好ましくは2N/25mm幅以上15N/25mm幅以下、より好ましくは2N/25mm幅以上13N/25mm幅以下、さらに好ましくは2N/25mm幅以上10N/25mm幅以下に設定される。すなわち、第一ヒートシール部14のシール強度が、2N/25mm幅以上15N/25mm幅以下となるように、シーラント層の樹脂組成物の配合を設定する。具体的には、成分(A),(B)の配合量をそれぞれ増減させることで、シール強度が調整される。
【0051】
第二ヒートシール工程では、第二温度領域に設定されたシールバーにより、重なり合う基材フィルム11をヒートシールし、タイトシール性を示す第二ヒートシール部15を形成する。この第二ヒートシール工程における第二温度領域では、シーラント層を構成する成分(A)と成分(B)とが溶融状態となる層構成を示す。
この第二温度領域では、溶融した成分(A)および成分(B)の双方の融着により、比較的に強いヒート強度となるタイトシール性を示す。そして、この第二温度領域においては、ヒートシール温度に対するシール強度の割合の最大値が、1.3N/25mm/℃以上の関係を、第二関係と定義する。
このように、シーラント層が成分(A)および成分(B)の双方が溶融する第二関係の第二温度領域で、基材フィルム11をヒートシールすることで、タイトシール性の第二ヒートシール部15が形成される。
【0052】
ここで、第二ヒートシール部15のシール強度については、好ましくは17N/25mm幅以上、より好ましくは30N/25mm幅以上、さらに好ましくは35N/25mm幅以上である。
【0053】
第一ヒートシール工程および第二ヒートシール工程後、適宜切断し、第一ヒートシール部14および第二ヒートシール部15が形成された包装体1を切り出す。
そして、得られた包装体1に、図示しない充填装置により、被包装物が第一投入口16および第二投入口17から所定量投入され、第一投入口16および第二投入口17に第二ヒートシール部15を形成して封止し、被包装物を充填する。
【0054】
[実施形態の作用効果]
本実施形態では、2種の重合体(そのうち1種はポリオレフィン重合体)および造核剤を含有する樹脂組成物において、ポリオレフィン重合体と、造核剤とを所定の配合量に設定することで、例えば当該樹脂組成物から製造したフィルムをヒートシールする際、ヒートシール直後から、求められるシール特性が安定して得られる。求められるシール特性が発現するまでの時間が短縮できれば、例えば、製品の品質管理を直ちに行うことができる。
【0055】
[変形例]
なお、本発明を実施するための最良の構成等は、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
したがって、上記に開示した材質、層構成等を限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではなく、それらの材質等の限定の一部若しくは全部の限定を外した名称での記載は、本発明に含まれる。
【0056】
例えば、包装体1を製造する製袋方法としては、三方製袋に限らず、例えば回転ドラム式、ピロー式等、各種の方法を利用できる。また、包装体としては、例えば被包装物を出し入れした後に再封可能に、ジッパーテープ等の咬合部材を備えた構成としてもよい。
また、基材フィルム11についても、インフレーション法により製造する他、カレンダー法等、各種方法を適用できる。さらに、共押出に限らず、例えばシーラント層に対応するフィルムと、基材層に対応するフィルムとを貼り合わせて積層させる等してもよい。
【0057】
そして、基材フィルム11として、基材層とシーラント層とを積層した積層構造に限らず、本発明の樹脂組成物にて形成された単層のフィルムとしてもよい。
さらに、樹脂組成物の原料の組成、配合量、成分(A),(B)のsp値、メルトフローレート、融点等についても、上記実施形態に限られるものではなく、適宜設定される。
【実施例0058】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。各例におけるフィルム構成、原料、試験片の作製、およびヒートシールによる接合強度の測定は、以下のような方法で実施した。
【0059】
[実施例1~7、比較例1~2]
以下の原料を用いて、インフレーション成形により、厚み7.5μmのシーラント層、厚み25μmの中間層、および厚み17.5μmのラミネート層を有する三層構造のフィルムを作製した。
なお、シーラント層および中間層は、予め原料をブレンドして各々樹脂組成物を製造し、当該樹脂組成物をインフレーション成形に用いた。
【0060】
<原料>
(シーラント層)
成分(A):プロピレン-エチレン共重合体(sp値:7.9、MFR(230℃、2160g荷重下):3.0g/10分、密度:0.900g/cm3、融点:142℃)
成分(B):エチレン・メタクリル酸共重合体(sp値:9.1、MFR(190℃、2160g荷重下):3.0g/10分、密度:0.930g/cm3、融点:99℃
)
成分(C-1):有機リン酸金属塩系造核剤(同成分を含有するマスターバッチとして株式会社ADEKA製 商品名:M-801(リン酸エステルアルミニウム塩を5質量%含有するポリプロピレンである。))
成分(C-2):脂肪酸金属塩系造核剤(同成分を含有するマスターバッチとして理研ビタミン株式会社製 商品名:リケマスターCN-002(ステアリン酸亜鉛を約2質量%含有する高密度ポリエチレンである。))
【0061】
(中間層)
直鎖低密度ポリエチレン(MFR(190℃、2160g荷重下)(JIS K7210:1999):1.9g/10分、密度:0.920g/cm3) 62質量%
低密度ポリエチレン(MFR(190℃、2160g荷重下)(JIS K7210:1999):2.0g/10分、密度0.922g/cm3) 38質量%
【0062】
(ラミネート層)
直鎖低密度ポリエチレン(MFR(190℃、2160g荷重下)(JIS K7210:1999):1.9g/10分、密度:0.920g/cm3) 100.00質量%
【0063】
<接合強度測定用の試験片の作製>
以下の表1および表2に示す配合に従って、インフレーション成形により三層構造のフィルムを作製した。
得られたフィルムのシーラント層同士を、熱傾斜試験機(株式会社東洋精機製作所製 商品名:HG-100-2)により各温度でヒートシールし、試験片を作製した。
【0064】
【0065】
【0066】
<シール強度>
株式会社島津製作所製の引張試験機(商品名:AGS-X)を用い、JIS K6854-3:1999のT形剥離の試験方法に準拠し、各例の試験片のヒートシール直後およびヒートシール後24時間静置後について、シール強度を測定した。シール強度は、各例の試験片について、MDおよびTDで200mm/分の引張速度でT形剥離させることで測定した。
実施例1の結果を表3および
図3に、実施例2の結果を表4および
図4に、実施例3の結果を表5および
図5に、実施例4の結果を表6および
図6に、実施例5の結果を表7および
図7に、実施例6の結果を表8および
図8に、実施例7の結果を表9および
図9に、比較例1の結果を表10および
図10に、比較例2の結果を表11および
図11に、それぞれ示す。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
<評価結果>
表3~11および
図3~11に示す測定結果からも明らかなように、比較例1に対して、実施例1~7ではヒートシール直後のシール強度と、ヒートシールから24時間静置した後のシール強度について、第一関係と第二関係とのグラフ形状の差が小さくなり、シール強度の経時変化が小さく、シール特性がヒートシール後から発現できることが確認された。また比較例2に対して、実施例1~7ではヒートシールから24時間静置した後のシール強度について、シール温度230℃までにタイトシール性(第二関係)が発現しており、実用上ヒートシール時の表基材への影響を小さくできる。
また、実施例4の結果と実施例7の結果との比較からわかるように、特に、成分(C)としてリン酸エステル金属塩を用いることで、タイトシール性の経時変化抑止効果により優れることが示された。