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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059733
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】複合材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20240423BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240423BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 A
C01B25/14
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024022635
(22)【出願日】2024-02-19
(62)【分割の表示】P 2023545812の分割
【原出願日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2022028735
(32)【優先日】2022-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮下 徳彦
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン電池の性能を高めることが可能な材料を好適に製造し得る方法を提供すること。
【解決手段】Li、S及びM元素(Mはリン等である。)を含み、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む化合物Aを準備し、化合物A及び導電材を混合し、両者が複合化した複合材料を得る。化合物AのXRDパターンにおいて2θ=29.7°±1.00°に観察されるピークAの強度をIとし、複合材料のXRDパターンにおいて2θ=29.7°±1.00°に観察されるピークBの強度をIとしたとき、100×(I-I)/Iで得られる無定形化度Nが97%以上となるように混合を行う。化合物Aに含まれるリン(P)元素に対するハロゲン(X)元素の原子数比が1.0未満であることが好適である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム(Li)元素、硫黄(S)元素、及びM元素(Mは、リン(P)元素、ゲルマニウム(Ge)元素、アンチモン(Sb)元素、ケイ素(Si)元素、スズ(Sn)元素、アルミニウム(Al)元素、チタン(Ti)元素、鉄(Fe)元素、ニッケル(Ni)元素、コバルト(Co)元素及びマンガン(Mn)元素のうちの少なくとも1種である。)を含み、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む化合物Aを準備する準備工程と、
前記化合物A及び導電材を混合し、両者が複合化した複合材料を得る混合工程と、を含み、
前記化合物Aに含まれるM元素が、少なくともリン(P)元素を含み、
前記化合物Aに含まれるリン(P)元素に対するハロゲン(X)元素の原子数比が1.0未満であり、
前記化合物Aに含まれるリン(P)元素に対するリチウム(Li)元素の原子数比が5.0以上9.0以下であり、
前記導電材が炭素材料であり、
CuKα1線を用いたX線回折装置によって前記化合物Aを測定したときのX線回折パターンにおいて2θ=29.7°±1.00°の位置に観察される回折ピークをピークAとし、
CuKα1線を用いたX線回折装置によって前記複合材料を測定したときのX線回折パターンにおいて2θ=29.7°±1.00°の位置に観察される回折ピークをピークBとし、
前記ピークAの強度をIとし、前記ピークBの強度をIとしたとき、下記式(1)で得られる無定形化度Nが97%以上となるように前記混合工程を行う、複合材料の製造方法。
無定形化度N(%)=100×(I-I)/I (1)
【請求項2】
前記化合物Aに含まれるリン(P)元素に対するハロゲン(X)元素の原子数比が0.8以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記化合物Aに含まれるリン(P)元素に対するリチウム(Li)元素の原子数比が6.0以上9.0以下である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合材料及びその製造方法に関する。本発明の複合材料は、電池材料として好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が大きく、小型化及び軽量化が容易であることから、ノート型パソコン、携帯電話機等の携帯型電子機器などの電源として広く用いられている。また、最近では、電気自動車やハイブリッド電気自動車などに搭載される高出力、高容量のリチウムイオン電池の開発が進められている。
【0003】
例えば特許文献1には、硫化銀バナジウム結晶構造型の硫化物電解質と導電性炭素材料とを乾式ボールミル混合して製造された複合正極材料が提案されている。更に非特許文献1には、硫化物固体電解質であるLiPSガラスと炭素系導電助剤を複合化させた正極活物質が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】CN109256555A
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Power Sources 293 (2015) 721-725
【発明の概要】
【0006】
本発明者は、リチウムイオン電池の性能の向上を目的とした検討を進めた。その結果、リチウムイオン電池の更なる性能向上を目的としたとき、より優れた正極活物質が求められているという課題を見出した。
したがって本発明の課題は、リチウムイオン電池の性能を高めることが可能な材料及びその製造に好適な方法を提供することにある。
【0007】
本発明は、リチウム(Li)元素、硫黄(S)元素、及びM元素(Mは、リン(P)元素、ゲルマニウム(Ge)元素、アンチモン(Sb)元素、ケイ素(Si)元素、スズ(Sn)元素、アルミニウム(Al)元素、チタン(Ti)元素、鉄(Fe)元素、ニッケル(Ni)元素、コバルト(Co)元素及びマンガン(Mn)元素のうちの少なくとも1種である。)を含み、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む化合物Aを準備する準備工程と、
前記化合物A及び導電材を混合し、両者が複合化した複合材料を得る混合工程と、を含み、
CuKα1線を用いたX線回折装置によって前記化合物Aを測定したときのX線回折パターンにおいて2θ=29.7°±1.00°の位置に観察される回折ピークをピークAとし、
CuKα1線を用いたX線回折装置によって前記複合材料を測定したときのX線回折パターンにおいて2θ=29.7°±1.00°の位置に観察される回折ピークをピークBとし、
前記ピークAの強度をIとし、前記ピークBの強度をIとしたとき、下記式(1)で得られる無定形化度Nが97%以上となるように前記混合工程を行う、複合材料の製造方法を提供することによって前記の課題を解決したものである。
無定形化度N(%)=100×(I-I)/I (1)
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例1で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図2図2は、実施例2で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図3図3は、実施例3で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図4図4は、実施例4で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図5図5は、実施例5で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図6図1は、比較例1で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図7図7は、実施例2で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図8図8は、参考例1で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図9図9は、実施例1で作製した正極活物質を用いた電池の充放電カーブである。
図10図10は、実施例3で作製した正極活物質を用いた電池の充放電カーブである。
図11図11は、比較例1で作製した正極活物質を用いた電池の充放電カーブである。
図12図12は、比較例2で作製した正極活物質を用いた電池の充放電カーブである。
図13図13は、参考例1で作製した正極活物質を用いた電池の充放電カーブである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明は複合材料の製造方法に関する。この複合材料は、後述する化合物Aと導電材との複合材料である。この複合材料は、電池の活物質として特に好適に用いられる。
本発明の製造方法は、以下の工程(1)及び(2)に大別される。
(1)化合物Aを準備する工程(以下「準備工程」ともいう。)。
(2)化合物A及び導電材を混合し、両者が複合化した複合材料を得る工程(以下「混合工程」ともいう。)。
以下、それぞれの工程について説明する。
【0010】
〔準備工程〕
本工程においては、化合物Aを用意する。化合物Aは、リチウム(Li)元素、硫黄(S)元素、及びM元素を含んで構成されることが好ましい。M元素は、例えばリン(P)元素、ゲルマニウム(Ge)元素、アンチモン(Sb)元素、ケイ素(Si)元素、スズ(Sn)元素、アルミニウム(Al)元素、チタン(Ti)元素、鉄(Fe)元素、ニッケル(Ni)元素、コバルト(Co)元素及びマンガン(Mn)元素のうちの少なくとも1種であることが好ましい。特にM元素が少なくともリン(P)元素を含むことが好ましく、更にはM元素がP元素のみであることが好ましい。これによって本製造方法によって得られる複合材料を活物質として用いた電池の放電容量を一層高めることができる。
【0011】
Li元素、S元素及びM元素を含む化合物としては、例えばLi元素、S元素及びM元素のみを含む化合物であるLiPS、Li7+3x(P5+ 1-xFe2+ )S、Li7+x(P5+ 1-xSi4+ )Sなどが挙げられる(式中、xは0.1以上1.0以下の数を表す。)。また、Li元素、S元素及びM元素を含む化合物としては、これらの3種類の元素に加えて他の元素を含むものを用いることもできる。当該他の元素としては例えばハロゲン(X)元素が挙げられる。Li元素、S元素及びM元素に加えてX元素を含む化合物を用いることで、本製造方法によって得られる複合材料の、活物質としての特性を一層高めることができる。X元素としては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)及びヨウ素(I)から選ばれる少なくとも1種の元素を用いることができる。
【0012】
Li元素、S元素、M元素及びX元素を含む前記化合物は、組成式(1)LiMS(式中、Mは、P、Ge、Sb、Si、Sn、Al、Ti、Fe、Ni、Co及びMnのうちの少なくとも1種の元素である。Xは、F、Cl、Br及びIから選ばれる少なくとも1種の元素である。)で表されることが、本製造方法によって得られる複合材料の、活物質としての特性が一層高くなる点から好ましい。
【0013】
前記の組成式(1)においては、リチウムイオン伝導性を向上させる観点から、aは、好ましくは3.0以上、更に好ましくは3.5以上である。一方、aは、好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.0以下である。特にM元素がPである場合、Pに対するLiの原子数比、すなわちaの値が、例えば5.0以上であることが好ましく、中でも5.5以上であることが好ましく、特に6.0以上であることが好ましい。一方、aは、例えば8.0以下であることが好ましく、中でも7.8以下であることが好ましく、特に7.5以下であることが好ましい。aが前記範囲内であることにより、化合物Aと導電材との複合化を円滑に進行させることができる。
また、bは、好ましく4.0以上、更に好ましくは4.5以上、更に一層好ましくは5.0以上である。一方、bは、好ましくは7.5以下、更に好ましくは7.0以下、更に一層好ましくは6.5以下である。
更に、cは、好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.2以上である。一方、cは、好ましくは1.0未満、更に好ましくは0.8以下、更に一層好ましくは0.6以下である。bが前記範囲内であることにより、化合物Aと導電材との複合化を円滑に進行させることができ、非晶質の化合物Aを好適に得られる。特に、M元素がPである場合、Pに対するXの原子数比が上述の範囲内であると、化合物Aの非晶質化が首尾よく生じるので好ましい。
【0014】
特に前記の組成式(1)におけるM元素はP元素、Ge元素、Sb元素、Sn元素及びSi元素のうちの少なくとも一種であることが好ましく、特にP元素が含まれていることが好ましく、更にはP元素のみであることが好ましい。これによって本製造方法によって得られる複合材料を電池の活物質として用いたときに、電池の放電容量を高めることができる。
M元素がPである場合、Pに対するXの原子数比であるcの値が、例えば0.10以上であることが好ましく、中でも0.2以上であることが好ましい。一方、cの値が、例えば1.0未満であることが好ましく、中でも0.8以下、特に0.6以下であることが好ましい。cの値が前記範囲内であることで、化合物Aと導電材との複合化を円滑に進行させることができ、非晶質の化合物Aが好適に得られる。また、M元素がPである場合、Pに対するLiの原子数比は、例えば5.0以上であることが好ましく、中でも5.5以上であることが好ましく、特に6.0以上であることが好ましい。一方、Pに対するLiの原子数比は、例えば、9.0以下であることが好ましく、中での8.0以下であることが好ましく、7.5以下であることがより一層好ましい。Pに対するLiの原子数比が前記範囲内であることで、化合物Aと導電材との複合化を円滑に進行させることができる。なお、M元素がP元素とそれ以外の元素を含む場合には、Pに対するLiの原子数比は、例えば、20.0以下であってもよく、15.0以下であってもよく、9.0以下であってもよい。
【0015】
化合物Aは、特に、組成式(2)Li7-dMS6-dで表されることが、本製造方法によって得られる複合材料の、活物質としての特性が更に高くなる点から好ましい。M元素がPである場合、Pに対するXの原子数比であるdの値は、上述した組成式(1)のcの値と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。また、M元素がPである場合、Pに対するLiの原子数比についても、上述した組成式(1)と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0016】
上述した組成式(1)におけるM元素が、互いに異なるM1元素及びM2元素であるとき、化合物AはLi(M11-yM2)Sで表すことができる。また、組成式(2)におけるM元素が、互いに異なるM1元素及びM2元素であるとき、化合物AはLi7-d(M11-yM2)S6-dで表すことができる。yは、好ましくは0.010以上、更に好ましくは0.020以上、更に一層好ましくは0.050以上である。一方、yは、好ましくは0.70以下、更に好ましくは0.40以下、更に一層好ましくは0.20以下である。なお、M1元素及びM2元素は、組成式(1)で説明したM元素と同じとすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0017】
化合物Aにおける各元素の組成は、例えばICP発光分光分析法によって測定できる。
【0018】
化合物Aは、上述した各元素を含むことに加えて、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含むことが好ましい。これによって、本製造方法で得られる複合材料の、活物質としての特性を一層高めることができる。本発明者の検討の結果、化合物Aが上述した各元素を含む場合であっても、化合物Aが非晶質である場合、具体的にはアルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含まない場合には、該化合物Aを導電材と複合化して得られた複合材料は、これを電池の活物質として用いても性能が向上しにくいことが判明している。特に化合物Aは、立方晶又は直方晶アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含むことが好ましい。アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含むか否かは、X線回折法やX線全散乱法によって本発明の活物質を分析することで判断できる。X線回折法における線源としてはCuKα線、例えば、CuKα1線を用いることができる。
【0019】
化合物Aが立方晶アルジロダイト型結晶構造を有する場合、CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=25.19°±1.00°及び29.62°±1.00°の位置にピークを有することが好ましい。
【0020】
化合物Aが立方晶アルジロダイト型結晶構造を有する場合、CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=25.19°±1.00°及び29.62°±1.00°の位置に加えて、2θ=15.34°±1.00°、17.74°±1.00°、30.97°±1.00°、44.37°±1.00°、47.22°±1.00°及び51.70°±1.00°から選択される1又は2以上の位置にピークを有することが更に好ましく、2θ=25.19°±1.00°及び29.62°±1.00°の位置に加えて、2θ=15.34°±1.00°、17.74°±1.00°、30.97°±1.00°、44.37°±1.00°、47.22°±1.00°及び51.70°±1.00°のすべての位置にピークを有することが更に一層好ましい。
【0021】
また化合物Aが直方晶アルジロダイト型結晶構造を有する場合、CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=25.38°±1.00°に2本及び29.77°±1.00°の位置に4本のピークを有することが好ましい。
【0022】
また化合物AがCuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、直方晶アルジロダイト型結晶構造を有する場合、2θ=25.38°±1.00°に2本及び29.77°±1.00°の位置の4本と加えて、2θ=15.40°±1.00°に2本、17.86°±1.00°に2本、31.25°±1.00°に2本、44.40°±1.00°に4本、47.20°±1.00°に4本及び52.00°±1.00°に2本から選択される1又は2以上の位置にピークを有することが更に好ましく、2θ=25.38°±1.00°に2本及び29.77°±1.00°の位置の4本と加えて、2θ=15.40°±1.00°に2本、17.86°±1.00°に2本、31.25°±1.00°に2本、44.40°±1.00°に4本、47.20°±1.00°に4本及び52.00°±1.00°に2本のすべての位置にピークを有することが更に一層好ましい。
【0023】
なお、上述したピークの位置は、中央値±1.00°で表されているが、中央値±0.800°であることが好ましく、中央値±0.500°であることが更に好ましい。
【0024】
化合物Aは、必要に応じて他の材料や他の成分を含んでいてもよい。したがって化合物Aは、アルジロダイト型結晶構造の結晶相から構成される単一相からなるものであってもよく、あるいは当該相に加えて他の相を含んでいてもよい。例えば化合物Aは、アルジロダイト型結晶構造の結晶相に加えて、LiS相、LiPS相、Li相、LiCl又はLiBr相などを含んでいてもよい。特に、化合物Aがアルジロダイト型結晶構造の結晶相に加えてLiS相を含んでいると、本製造方法によって得られる複合材料の該活物質としての容量が一層高まる点から好ましい。尤も化合物Aは、Li元素、S元素、M元素及びX元素を含み、且つアルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む化合物を主材料とすることが好ましい。また化合物Aは、上述した他の材料や他の成分のほかに、本発明の効果に悪影響の少ない程度、例えば5質量%未満、中でも3質量%未満程度の不可避不純物を含んでいてもよい。
【0025】
化合物Aは粒子の形態を有するものであり、その粒径D1は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D50で表して、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることが更に好ましく、0.5μm以上であることが一層好ましい。またD1は、20.0μm以下であることが好ましく、10.0μm以下であることが更に好ましく、5.0μm以下であることが一層好ましい。
【0026】
化合物Aは公知の方法によって製造することができる。化合物Aが例えばLi元素、P元素、S元素、Cl元素及びBr元素を含む場合には、硫化リチウム(LiS)粉末と、五硫化二リン(P)粉末と、塩化リチウム(LiCl)粉末と、臭化リチウム(LiBr)粉末とを混合し、焼成することで、前記化合物の粒子を得る。これらの粉末の混合方法としては、例えばボールミル、ビーズミル、ホモジナイザー等を用いることが好ましい。
【0027】
前記のように混合した後、必要に応じて乾燥させ、次いで、不活性雰囲気又は硫化水素ガス(HS)流通下で混合粉末を焼成し、必要に応じて解砕粉砕し、分級することによって化合物Aを得ることができる。硫化水素ガスを含有する雰囲気下で焼成する場合の焼成温度は、例えば350℃以上であることが好ましく、450℃以上であることが更に好ましい。一方、前記焼成温度は、例えば650℃以下であることが好ましく、600℃以下であることが更に好ましく、500℃以下とであるが一層好ましい。一方、不活性雰囲気下で焼成する場合の焼成温度は、例えば350℃以上であることが好ましい。一方、前記焼成温度は、例えば550℃以下であることが好ましく、500℃以下であることが更に好ましく、450℃以下とすることが一層好ましい。
【0028】
化合物Aは、メカニカルミリング法によって原料粉末を非晶質化させ、非晶質化した原料粉末を熱処理し結晶化させることでも製造できる。この場合、原料粉末を十分混合且つ非晶質化できさえすれば、処理装置及び処理条件には特に限定されない。特に遊星ボールミルを用いると、原料粉末を充填する容器が高速で自公転するので、原料粉末とともに容器内に入れる粉砕メディアであるボールとの間に高い衝撃エネルギーが発生し、効率的に且つ均一に原料粉末を非晶質化することが可能である。メカニカルミリング法は乾式及び湿式のいずれでもよい。
【0029】
メカニカルミリング法による処理条件は、使用する処理装置に応じて適宜設定でき、例えば0.1時間以上100時間以下の処理時間とすることができる。処理時間が前記範囲内であることで、一層効率的に且つ均一に原料粉末を非晶質化できる。粉砕メディアとしてのボールはZrO、Al、Si(窒化ケイ素)又はWC(タングステンカーバイド)製が好ましく、ボール径は例えば0.2mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0030】
メカニカルミリング処理によって非晶質化した原料粉末を、前記と同様の焼成条件によって熱処理し結晶化させることで化合物Aを得ることができる。メカニカルミリング処理を行った原料粉末は、通常の粉砕混合で得られた原料粉末よりも均一に混合された状態となっているので、熱処理温度を一層低温化させることが可能である。
【0031】
化合物Aは有機溶媒を用いた液相法によっても製造できる。この場合、化合物Aの原料となる硫化物やハロゲン化物をテトラヒドロフランやエタノールなどの溶媒に溶解させ、溶媒を反応場として化合物Aを析出させることで得ることができる。また事前に別の手法で化合物Aを合成し、エタノールなどの溶媒に溶解させた後、再析出させることでも化合物Aを得ることができる。このような液相法は他の手法よりも短時間且つ少ないエネルギーで化合物Aを製造することが可能であり、また該粒子を小粒径化することも比較的容易である。
【0032】
このようにして化合物Aの粒子が得られたら、この粒子を適切なサイズの粒径に整えることが好ましい。化合物Aの好ましい粒径は上述した内容と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0033】
〔混合工程〕
本工程においては、上述した化合物Aと導電材とを混合し、両者が複合化した複合材料を得る。化合物Aとともに用いられる導電材としては、電子伝導性を有する材料を特に制限なく用いることができる。導電材としては、例えば各種金属材料及び導電性非金属材料が挙げられる。金属材料及び導電性非金属材料は、これらのうちのいずれか一方を用いてもよく、あるいは両者を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
前記金属材料としては、各種貴金属元素、例えば、金(Au)元素、銀(Ag)元素、白金(Pt)元素、パラジウム(Pd)元素、ロジウム(Rh)元素、イリジウム(Ir)元素、ルテニウム(Ru)元素及びオスミウム(Os)元素などが挙げられる。また、各種遷移金属元素、例えば銅(Cu)元素、鉄(Fe)元素及びスズ(Sn)元素などが挙げられる。これらの金属元素は一種を単独で用いてもよく、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。前記導電性非金属材料としては、例えば炭素材料を用いることができる。その例としては、グラファイト、アセチレンブラック、カーボンブラック、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、ナノグラフェン及びフラーレンナノウイスカなどが挙げられる。これらの炭素材料は一種を単独で用いてもよく、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの炭素材料のうち、カーボンブラックを用いると、本製造方法で得られる複合材料を活物質として用いた電池の初期容量及び放電レート特性を一層高めることができる。この利点を一層顕著なものとする観点から、カーボンブラックとしてファーネスブラックを用いることが好ましく、中でもオイルファーネスブラックを用いることが好ましく、特にケッチェンブラックを用いることが好ましい。
【0035】
導電材は粒子の形態を有するものであり、その粒径D2は、例えば1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、20nm以上であることが一層好ましい。またD2は、例えば500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることが更に好ましく、200nm以下であることが一層好ましい。導電材の粒径D2は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、粒子を直接観察することで測定されたフェレ径の平均粒径(100個以上の粒子の平均値)とすることができる。
【0036】
なお、例えば導電材が上述したカーボンナノチューブやカーボンナノファイバのように形状が繊維状である場合、粒径の代わりに繊維径を用いることができる。繊維径D3は、例えば50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることが更に好ましく、150nm以上であることが一層好ましい。またD3は、例えば10000nm以下であることが好ましく、5000nm以下であることが更に好ましく、2000nm以下であることが一層好ましい。
【0037】
導電材を化合物Aと首尾よく複合化させる観点から、導電材の大きさは、化合物Aの大きさよりも小さいことが好ましい。詳細には、導電材の粒径D2に対する化合物Aの粒径D1の比であるD1/D2の値は、例えば2以上であることが好ましく、5以上であることが更に好ましく、10以上であることが一層好ましい。一方、D1/D2の値は、例えば1000以下であることが好ましく、500以下であることが更に好ましく、10以上100以下であることが一層好ましい。
【0038】
また繊維状の導電材においても、その大きさは化合物Aの大きさよりも小さいことが好ましい。詳細には、導電材の繊維径D3に対する化合物Aの粒径D1の比であるD1/D3の値は、例えば1以上であることが好ましく、2以上であることが更に好ましく、5以上であることが一層好ましい。一方、D1/D3の値は、例えば1000以下であることが好ましく、500以下であることが更に好ましく、100以下であることが一層好ましい。
【0039】
化合物Aと導電材との複合化は、例えば化合物Aの粒子及び導電材の粒子に機械的エネルギーを付与することで達成される。この目的のために、化合物A及び導電材に対し、それらの混合状態下で圧縮・衝撃力を加えたり、剪断・摩擦力を加えたりすることが好ましい。
【0040】
混合状態にある化合物A及び導電材に対し、圧縮・衝撃力や剪断・摩擦力などの機械的エネルギーを付与して複合化を行うには、主に粉体を撹拌、混合、混練、造粒、粉砕、分散、及び/又は表面改質するとき等に用いられる装置を採用することが好ましい。例えば遊星ボールミル、ボールミル、ジェットミル、ビーズミル、撹拌型粉砕機、振動ミル、ハンマーミル、ローラーミル及びアトマイザーなどを用いることができる。これらの装置を用いて付与し得る主な機械的エネルギーの種類は各装置によって異なり、例えば遊星ボールミルを用いる場合には、混合状態にある化合物A及び導電材に対し、主として圧縮・衝撃力を加えることで、両者を複合化できる。装置回転時に得られる遠心加速度は、化合物Aと導電部とを複合化できる程度であれば特に限定されないが、例えば、10G以上であることが好ましく、15G以上であることが更に好ましく、18G以上であることが一層好ましい。また、前記遠心加速度は、例えば、40G以下であることが好ましく、30G以下であることが更に好ましく、25G以下であることが一層好ましい。遠心加速度が前記範囲内であることにより、本発明で得られる複合材料を電池の活物質として用いた場合に、電池の放電容量を一層高めることができる。
【0041】
化合物Aと導電材との混合は、化合物A100質量部に対して導電材を例えば1質量部以上とすることが好ましく、2質量部以上とすることが更に好ましく、5質量部以上とすることが更に好ましい。一方、化合物A100質量部に対して導電材を例えば50質量部以下とすることが好ましく、20質量部以下とすることが更に好ましく、10質量部以下とすることが一層好ましい。この範囲で化合物Aと導電材とを混合することで、本製造方法によって得られた複合材料を活物質として備えた電池は、高放電容量が顕著に発現するものとなる。
【0042】
化合物Aと導電材との複合化は、化合物Aの結晶性が低下するように行われることが好ましい。本製造方法によって得られる複合材料の、活物質としての特性を一層高めるができる。化合物Aの結晶性の低下の程度は、以下の式(1)で表される無定形化度Nによって評価することができる。
無定形化度N(%)=100×(I-I)/I (1)
【0043】
式中、IはピークAの強度を表す。ピークAは、CuKα1線を用いたX線回折装置によって化合物Aを測定したときのX線回折パターンにおいて2θ=29.7°±1.00°の位置に観察される回折ピークのことである。
一方、IはピークBの強度を表す。ピークBは、CuKα1線を用いたX線回折装置によって複合材料を測定したときのX線回折パターンにおいて2θ=29.7°±1.00°の位置に観察される回折ピークのことである。
無定形化度Nはその値が100%に近づくほど、結晶性が低下することを意味する。
【0044】
なお、化合物Aを測定したときのX線回折パターンにおいて2θ=29.7°±1.00°の位置に観察される回折ピークが2つ以上存在する場合、最もピーク強度が高い回折ピークをIとする。同様に、複合材料を測定したときのX線回折パターンにおいて2θ=29.7°±1.00°の位置に観察される回折ピークが2つ以上存在する場合、最もピーク強度が高い回折ピークをIとする。なお、複合材料においては結晶性が低下する場合、X線回折パターンの各回折ピークの半値幅が広がることから、複数の回折ピークが重なってしまうことがあるが、その場合においては重なった複数の回折ピークを1本の回折ピークと見なしてIとする。
【0045】
化合物Aと導電材との混合工程は、上述の無定形化度Nが、例えば97%以上となるように行うことが好ましく、中でも98%以上、更には99%以上となるように行うことが好ましい。無定形化度Nが前記範囲内であることにより、本発明で得られる複合材料を活物質として用いた電池の放電容量を高めることができる。
【0046】
無定形化度Nが上述した値以上となるように化合物Aと導電材と混合して両者を複合化させる方法としては、例えば衝撃力を所定の範囲内に調整する方法が挙げられる。具体的な衝撃力は、例えば0.50N以上、特に0.70N以上、とりわけ0.90N以上であることが好ましい。なお、衝撃力とは、質量のある物体が衝突した際に生じる力のことであり、以下の式(2)で表される。
衝撃力(F)= m×G (2)
式中、mは衝突する物体の重さ(kg)、Gは加速度(m/s)であり、遊星ボールミルの場合では、化合物Aと導電材を入れた容器内に入れるボールの総重量がmであり、Gは遠心加速度である。
衝撃力が上述の値以上となるように化合物Aと導電材とを混合し、首尾よく両者を複合化させる方法としては、例えば両者の混合条件を調整する方法が挙げられる。例えば、化合物Aと導電材とを遊星ボールミルを用いて混合する条件として、装置の公転及び/又は自転回転数、ボールの直径、材質及び個数、並びに混合時間等を調整する方法が挙げられる。
【0047】
化合物Aが非晶質化するように該化合物Aと導電材とを複合化した場合、複合化の条件によっては、化合物Aに含まれる元素に由来して硫化リチウム(LiS)が生成することがある。硫化リチウムは、電池の正極活物質として機能し、電池の放電容量を高める作用を有することから、複合化の結果として硫化リチウムが生成することは望ましい。
【0048】
上述のとおり、混合工程においては化合物Aが非晶質化するように該化合物Aと導電材とを複合化した場合、導電材が非晶質化するか否かは特に限定されない。
【0049】
このようにして得られた複合材料は、化合物Aの粒子を含む主部と、該主部の表面及び/又は内部に分散しており且つ電子伝導性を付与する導電材を含む導電部とから構成される粒子であることが好ましい。特に導電部は、主部からリチウムが脱吸蔵する際、電子伝導パスの役割を担うため、表面や内部に均一に分散且つ密着していることが望ましい。
【0050】
本製造方法によって得られた複合材料のアルジロダイト生成比は、本発明の効果を奏する程度であれば特に限定されない。アルジロダイト生成比は、例えば40以下であることが好ましく、中でも30以下であることが好ましく、特に10以下、更には5以下であることが好ましく、0であることが最も好ましい。なお、アルジロダイト生成比については、後述する実施例の項に記載した内容と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0051】
本発明の方法に従い化合物Aと導電材とが「複合化」しているとは、主部の表面や内部に導電部が該主部と一体不可分に密着して分散している状態であることが好ましい。「複合化」している態様として例えば、化合物Aの粒子の表面及び/又は内部に導電材の粒子が分離不能に分散している態様や、主部を構成する化合物Aの粒子と導電部を構成する導電材の粒子とが化学的に反応して結合している態様が挙げられる。主部を構成する化合物の粒子の表面や内部に、導電材の粒子が分離不能に分散しているとは、例えば本製造方法によって得られた複合材料を、エネルギー分散型X線分光装置を備えた走査型電子顕微鏡(SEM-EDS)にて観察し、主部を構成する化合物Aの構成元素(例えば硫黄元素)と、導電部を構成する導電材の構成元素とをマッピングしたときに、主部を構成する化合物Aの構成元素と、導電部を構成する導電材の構成元素とが重なるように存在している状態であることをいう。あるいは、本製造方法によって得られた複合材料を活物質として用いた電池の正極層断面を観察したときに、活物質の表面や内部において、主部を構成する化合物Aの構成元素と、導電部を構成する導電材の構成元素とが重なるように存在している状態であることをいう。なお、主部と導電部とが化学的に反応して複合化していることは、例えば導電材が炭素材料である場合には、ラマン分光法や光電子分光法によるC-S結合の有無から確認することもできる。
【0052】
本製造方法によって得られた複合材料を活物質として用いた場合、該活物質においては、導電部を介して、活物質外と主部との間での電子の授受が円滑に行われるようになり、導電性を獲得するとともに、リチウムイオンの脱吸蔵機能を獲得する。更に、リチウムの含有量が多く、またリチウムイオン伝導性が高いアルジロダイト型結晶構造を有する化合物Aを主部に利用することで、本製造方法によって得られた複合材料を活物質として有する電池は、高放電容量を発現するものとなる。特に本製造方法によって得られた複合材料は、リチウムイオン電池の正極活物質として有用なものとなる。
【0053】
本製造方法によって得られた複合材料を活物質として用いる場合、該活物質は、これを電解質、導電材及びバインダー等と混合することによって電極合剤となすことができる。本製造方法によって得られた複合材料を正極活物質として用いた電極合剤は、正極層を構成する正極合剤となる。
【0054】
前記電解質は、例えば固体電解質であり得る。固体電解質はリチウムイオン伝導性などのイオン伝導性を有することが好ましい。具体的には、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等の無機固体電解質、ポリマー電解質等の有機高分子電解質が挙げられる。本発明の効果をより顕著なものにすることができる観点から、固体電解質は硫化物固体電解質であることが好ましい。硫化物固体電解質については、一般的な固体電池に用いられる硫化物固体電解質と同様とすることができる。硫化物固体電解質は、例えば、Li及びSを含みリチウムイオン伝導性を有するものであってもよい。
硫化物固体電解質は、結晶性材料、ガラスセラミックス、ガラスのいずれであってもよい。硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶構造を有していてもよい。このような硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-P-LiX(「X」は一種以上のハロゲン元素を示す。)、LiS-P-P、LiS-LiPO-P、LiPS、Li、Li10GeP12、Li3.25Ge0.250.75、Li11、Li3.250.95、LiPS(「X」は一種以上のハロゲン元素を示す。aは3.0以上9.0以下の数を表す。bは3.5以上6.0以下の数を表す。cは0.1以上3.0以下の数を表す。)で表される化合物などが挙げられる。このほかにも、例えば、国際公開第2013/099834号パンフレット、国際公開第2015/001818号パンフレットに記載の硫化物固体電解質が挙げられる。
【0055】
電極合剤に含まれる活物質は、本製造方法によって得られた複合材料のみであってもよく、該複合材料をその他の活物質と組み合わせて使用することもできる。その他の活物質としては、公知の硫黄単体や硫黄を含む活物質が挙げられる。電極合剤における複合材料の割合は、例えば20質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよい。一方、前記割合は、例えば70質量%以下であってもよく、60質量%以下であってもよい。
【0056】
本製造方法によって得られた複合材料を活物質として含む電池は、正極活物質を含む正極層、負極活物質を含む負極層、及び固体電解質を含む固体電解質層を備え、前記正極活物質が、本製造方法によって得られた複合材料であることが好ましい。電池は、例えば、前記のようにして作製した正極層、固体電解質層、及び負極層を3層重ねて加圧成型することによって作製できる。
【0057】
本製造方法によって得られた複合材料を活物質として有する電池は、リチウムイオン電池であることが好ましく、中でもリチウム硫黄電池であることが好ましい。ここでの電池としては、固体電解質層を有する固体電池、特に全固体電池が挙げられる。また、本製造方法によって得られた複合材料を活物質として有する電池は、一次電池であってもよく二次電池であってもよいが、中でも二次電池に用いることが好ましく、リチウム二次電池に用いることがとりわけ好ましい。「リチウム二次電池」とは、リチウムイオンが正極と負極の間を移動することで充放電を行う二次電池を広く包含する意である。
【0058】
固体電池は、正極層と、負極層と、正極層及び負極層の間の固体電解質層とを有する。本発明の活物質は正極層に含有されることが好ましい。「固体電池」とは、液状物質又はゲル状物質を電解質として一切含まない固体電池のほか、例えば50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下の液状物質又はゲル状物質を電解質として含む態様も包含する。
【0059】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下の複合材料の製造方法を開示する。
〔1〕
リチウム(Li)元素、硫黄(S)元素、及びM元素(Mは、リン(P)元素、ゲルマニウム(Ge)元素、アンチモン(Sb)元素、ケイ素(Si)元素、スズ(Sn)元素、アルミニウム(Al)元素、チタン(Ti)元素、鉄(Fe)元素、ニッケル(Ni)元素、コバルト(Co)元素及びマンガン(Mn)元素のうちの少なくとも1種である。)を含み、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含む化合物Aを準備する準備工程と、
前記化合物A及び導電材を混合し、両者が複合化した複合材料を得る混合工程と、を含み、
CuKα1線を用いたX線回折装置によって前記化合物Aを測定したときのX線回折パターンにおいて2θ=29.7°±1.00°の位置に観察される回折ピークをピークAとし、
CuKα1線を用いたX線回折装置によって前記複合材料を測定したときのX線回折パターンにおいて2θ=29.7°±1.00°の位置に観察される回折ピークをピークBとし、
前記ピークAの強度をIとし、前記ピークBの強度をIとしたとき、下記式(1)で得られる無定形化度Nが97%以上となるように前記混合工程を行う、複合材料の製造方法。
無定形化度N(%)=100×(I-I)/I (1)
〔2〕
前記化合物Aに含まれるM元素が、少なくともリン(P)元素を含む、〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕
前記化合物Aに含まれるリン(P)元素に対するハロゲン(X)元素の原子数比が1.0未満である、〔1〕又は〔2〕記載の製造方法。
〔4〕
前記化合物Aに含まれるリン(P)元素に対するリチウム(Li)元素の原子数比が5.0以上9.0以下である、〔1〕ないし〔3〕のいずれか一つに記載の製造方法。
〔5〕
前記導電材が、炭素材料又は金属材料である、〔1〕ないし〔4〕のいずれか一つに記載の製造方法。
〔6〕
〔1〕ないし〔5〕のいずれか一つに記載の方法で製造された複合材料。
【実施例0060】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0061】
〔実施例1〕
(1)準備工程
以下の表1に示す組成を有する化合物A及び導電材を用意した。
(2)混合工程
化合物A及び導電材を、表1に示す使用量で混合した。混合には遊星ボールミル(フリッチュ製、P-7)を用いた。使用したボールは直径5mmのジルコニア製のものであった。混合は、自転回転数500rpmで10時間行った。このときに加えられた衝撃力は表1に示すとおりであった。このようにして、化合物Aと導電材とが複合化した複合材料を得た。得られた複合材料を乳鉢で解砕し、目開き53μmの篩いで整粒して粒径D50が6.6μmの粒子を得た。
以上の操作はすべて、十分に乾燥されたArガス(露点-60℃以下)で置換されたグローブボックス内で実施した。
【0062】
〔実施例2〕
化合物A及び導電材として表1に示すものを用いた。それ以外は実施例1と同様にして複合材料を得た。なお本実施例において、表1に示す「X/P原子数比」とは、リン元素の原子数に対するX(ハロゲン)元素の原子数の比率を表している。また、「Li/P原子数比」とは、リン元素の原子数に対するLi元素の原子数の比率を表している。
【0063】
〔実施例3及び4〕
化合物Aとして表1に示すものを用いた。それ以外は実施例1と同様にして複合材料を得た。
【0064】
〔実施例5〕
化合物Aとして表1に示すものを用いた。また、直径10mmのジルコニア製ボールを用い、遊星ボールミルによる混合を、自転回転数600rpmで10時間行った。このときに加えられた衝撃力は表1に示すとおりであった。それら以外は実施例1と同様にして複合材料を得た。
【0065】
〔比較例1〕
化合物Aとして表1に示すものを用いた。また、直径10mmのジルコニア製ボールを用い、遊星ボールミルによる混合を、自転回転数600rpmで10時間行った。このときに加えられた衝撃力は表1に示すとおりであった。それら以外は実施例1と同様にして複合材料を得た。
【0066】
〔比較例2〕
化合物A及び導電材として表1に示すものを用いた。また、遊星ボールミルによる混合を、自転回転数300rpmで1時間行った。このときに加えられた衝撃力は表1に示すとおりであった。それら以外は実施例1と同様にして複合材料を得た。
【0067】
〔参考例1〕
化合物A及び導電材として表1に示すものを用いた。また、それ以外は実施例1と同様にして複合材料を得た。
【0068】
〔評価〕
実施例、比較例及び参考例において用いた化合物A、及び製造された複合材料についてXRD測定を行いピークA及びピークBの強度であるI及びIを測定し、無定形化度Nを算出した。その結果を表1に示す。また、XRDチャートを図1ないし8に示す。XRD測定の条件は以下のとおりとした。
【0069】
〔XRD測定〕
実施例、比較例及び参考例で得られた複合材料を、十分に乾燥されたArガス(露点-60℃以下)で置換されたグローブボックス内で、大気非暴露型の気密ホルダーに充填し、XRD測定を行った。測定条件は以下のとおりとした。
・装置名: 全自動多目的X線回折装置 SmartLab SE(株式会社リガク製)
・線源:CuKα1
・管電圧:40kV
・管電流:50mA
・測定方法:集中法(反射法)
・光学系: 多層膜ミラー発散ビーム法(CBO-α)
・検出器:一次元半導体検出器
・入射ソーラースリット:ソーラースリット2.5°
・長手制限スリット:10mm
・受光ソーラースリット:2.5°
・入射スリット:1/6°
・受光スリット:2mm(オープン)
・測定範囲:2θ=10~120°
・ステップ幅:0.02°
・スキャンスピード:1.0°/min
【0070】
また、実施例、比較例及び参考例で製造された複合材料について以下の方法でアルジロダイト生成比を測定した。その結果を表1に示す。
〔アルジロダイト生成比〕
複合材料のX線回折パターンにおいて、化合物Aが立方晶アルジロダイト型結晶構造を有する場合は29.62°±1.00°に観測される回折ピークの強度をIとし、直方晶アルジロダイト型結晶構造を有する場合は29.77°±1.00°に観測される回折ピークの強度をIとする。また2θ=27.00°±1.00°の位置に観察される硫化リチウムの回折ピーク強度をIbとする。複合材料は、以下の式(3)で表されるアルジロダイト生成比によって評価することができる。
アルジロダイト生成比(%)=100×I/(I+I) (3)
なお、複合材料においては化合物A及び硫化リチウム以外の不純物相も確認されることがあるが、その生成比は僅かであることから、アルジロダイト生成比において不純物相の生成比は考慮しなくてもよい。
【0071】
更に、実施例、比較例及び参考例で製造された複合材料を正極活物質として用い固体電池セルを作製し、初期放電容量を以下の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0072】
<全固体電池セルの作製>
正極活物質として実施例、比較例及び参考例で製造した複合を用い、正極層及び固体電解質層に用いる固体電解質粉末としてアルジロダイト型結晶構造を有するLi5.4PS4.4Cl0.8Br0.8、負極層の負極活物質としてIn-Liメタルを用いて全固体電池を作製した。
(正極合剤の調製)
正極層用の正極合剤粉末は、実施例及び比較例で得られた複合材料の粉末と、固体電解質粉末とを質量比で60:40の割合で乳鉢混合することで調製した。
【0073】
(全固体電池セルの作製)
上下が開口したポリプロピレン製の円筒(開口径10.5mm、高さ18mm)の下側開口部を負極電極(SUS製)で閉塞し、その上に固体電解質粉末を載せ、正極電極(SUS製)で閉塞した後、200MPaにて一軸プレスすることで固体電解質層を形成した。次に、一旦正極電極を取り外し、固体電解質層の上に正極合剤粉末を載せて再び正極電極で閉塞した後、560MPaにて一軸プレスし正極層と固体電解質層を積層させた。その後、前記円筒を上下反転させ、一旦負極電極を外し、固体電解質層の上にIn-Li箔を載せて再び負極電極で閉塞し、最後にシャコ万力にて正負極電極間を6N・mの荷重にて挟み込むことにより、正極層、固体電解質層及び負極層が積層された全固体電池セルを作製した。なお、各層の厚みは正極層が約40μm、固体電解質層が約600μm、及び負極層は約400μmとなっている。全固体電池セルの作製は、露点温度-60℃のアルゴンガスで置換されたグローブボックス内で行った。作製した全固体電池を、25℃に保たれた環境試験機内において充放電測定装置に接続して電池特性評価した。なお、充放電時の電流2.0mAを1Cレートとした。
【0074】
〔初期容量〕
初回充放電(1サイクル目)では正極活物質内に含まれるリチウムイオンを効率的に脱吸蔵させる目的で、0.03Cで3.0VまでCC-CV方式で充電し、0.03Cで0.38VまでCC方式で放電した。2サイクル目では、0.1Cで3.0VまでCC-CV方式で充電し、0.1Cで0.38VまでCC方式で放電した。ここで、2サイクル目の充放電容量を初期充放電容量とした。実施例1及び3、比較例1及び2、並びに参考例1の測定結果を図9ないし13に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で製造された複合材料を正極活物質として用いた電池は、その初期放電容量が高くなることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上、詳述したとおり本発明によれば、リチウムイオン電池の性能を高めることが可能な材料を好適に製造し得る方法が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2024-02-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
図1図1は、実施例1で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図2図2は、実施例2で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図3図3は、実施例3で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図4図4は、実施例4で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図5図5は、実施例5で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図6】図は、比較例1で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図7図7は、比較例2で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図8図8は、参考例1で使用した化合物Aと導電材との複合材料のX線回折パターンである。
図9図9は、実施例1で作製した正極活物質を用いた電池の充放電カーブである。
図10図10は、実施例3で作製した正極活物質を用いた電池の充放電カーブである。
図11図11は、比較例1で作製した正極活物質を用いた電池の充放電カーブである。
図12図12は、比較例2で作製した正極活物質を用いた電池の充放電カーブである。
図13図13は、参考例1で作製した正極活物質を用いた電池の充放電カーブである。