(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000598
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】設計支援装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/10 20200101AFI20231226BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20231226BHJP
【FI】
G06F30/10 100
G06F30/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099354
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】519366237
【氏名又は名称】NatureArchitects株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134094
【弁理士】
【氏名又は名称】倉持 誠
(72)【発明者】
【氏名】須藤 海
(72)【発明者】
【氏名】新谷 国隆
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DC01
5B146DC04
5B146DC05
5B146EA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】異なる複数の流路を互いに隔てる隔壁構造を含む構造体を設計する設計支援装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】設計支援装置100は、構造体の設計空間を指定する設計空間情報を取得することと、設計空間内に形成する複数の流路の各々の流路の特徴形状を指定する流路特徴形状情報を取得することと、設計空間情報及び流路特徴形状情報に基づいて、複数の流路を互いに隔てる境界面を設計空間内に生成することと、を実行する制御部130を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流路を互いに隔てる隔壁構造を含む構造体を設計する設計支援装置であって、該装置は、
前記構造体の設計空間を指定する設計空間情報を取得することと、
前記設計空間内に形成する前記複数の流路の各々の流路の特徴形状を指定する流路特徴形状情報を取得することと、
前記設計空間情報及び前記流路特徴形状情報に基づいて、前記複数の流路を互いに隔てる境界面を前記設計空間内に生成することと、
を実行するように構成された制御部を有する、設計支援装置。
【請求項2】
前記境界面を生成することは、前記境界面を表す陰関数を前記流路特徴形状情報に基づいて生成し、前記陰関数に基づいて前記境界面を生成することを含む、請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項3】
前記境界面を生成することは、各々の前記特徴形状からの距離を示す関数によって特定される位置に前記境界面を生成することを含む、請求項2に記載の設計支援装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記境界面に厚みを付与することをさらに実行するように構成されている、請求項2に記載の設計支援装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記隔壁構造の周囲面の少なくとも一部に壁部を生成することをさらに実行するように構成されている、請求項2に記載の設計支援装置。
【請求項6】
制御部を有する装置を用いて、複数の流路を互いに隔てる隔壁構造を含む構造体を設計する設計支援方法であって、
前記方法は、
前記構造体の設計空間を指定する設計空間情報を取得することと、
前記設計空間内に形成する前記複数の流路の各々の流路の特徴形状を指定する流路特徴形状情報を取得することと、
前記設計空間情報及び前記流路特徴形状情報に基づいて、前記複数の流路を互いに隔てる境界面を前記設計空間内に生成することと、
を含む方法。
【請求項7】
複数の流路を互いに隔てる隔壁構造を含む構造体を設計する設計支援方法をコンピュータの制御部に実行させるプログラムであって、
前記方法は、
前記構造体の設計空間を指定する設計空間情報を取得することと、
前記設計空間内に形成する前記複数の流路の各々の流路の特徴形状を指定する流路特徴形状情報を取得することと、
前記設計空間情報及び前記流路特徴形状情報に基づいて、前記複数の流路を互いに隔てる境界面を前記設計空間内に生成することと、
を含むプログラム。
【請求項8】
制御部を有する装置を用いて、複数の流路を互いに隔てる隔壁構造を含む構造体を製造する方法であって、
前記方法は、
前記構造体の設計空間を指定する設計空間情報を取得することと、
前記設計空間内に形成する前記複数の流路の各々の流路の特徴形状を指定する流路特徴形状情報を取得することと、
前記設計空間情報及び前記流路特徴形状情報に基づいて、前記複数の流路を互いに隔てる境界面を前記設計空間内に生成することと、
前記境界面に厚みを付与して前記隔壁構造を生成することと、
前記生成した隔壁構造の造形処理を造形装置に実行させることと、
を含む、構造体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は設計支援装置及び方法に関し、より詳しくは、所望の流路構成を備えた構造体を設計するための設計支援装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、それぞれ、各種周期極小曲面によって隔てられた2つの流路を有する熱交換器が開示されている。特許文献1,2に開示された構造によれば、2つの流路を隔てる隔壁に周期極小曲面を用いてその比表面積を大きくすることで、熱交換効率の向上を図ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0033070号明細書
【特許文献2】米国特許第10704841号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各種周期極小曲面に基づいて熱交換器の流路を形成することにより、種々の構造体を設計することが可能である。その一方で、そのような構造体は各々の周期極小曲面の形状に依存するため、設計できる構造体は周期極小曲面の種類に制限されることから、流路構成の設計の自由度は低い。
【0005】
また、ある周期極小曲面に基づいて形成された構造体をトポロジー最適化手法を用いて変形させることで、元の構造体とは異なる流体的特性を有する構造体を生成することも可能であるが、この場合も流路の基本構成は元の周期極小曲面に依存するので、所望の構造体について自由度の高い設計を可能にするものではない。
【0006】
本開示の1つの目的は、所望の流路構成を容易に設計することを可能にする設計支援装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様によれば、複数の流路を互いに隔てる隔壁構造を含む構造体を設計する設計支援装置が提供される。この装置は、構造体の設計空間を指定する設計空間情報を取得することと、設計空間内に形成する複数の流路の各々の流路の特徴形状を指定する流路特徴形状情報を取得することと、設計空間情報及び流路特徴形状情報に基づいて、複数の流路を互いに隔てる境界面を設計空間内に生成することと、を実行するように構成された制御部を有する。
【0008】
本開示の他の特徴事項および利点は、例示的且つ非網羅的に与えられている以下の説明及び添付図面から理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る設計支援装置の機能ブロック図である。
【
図2】本実施形態の設計支援装置による構造体の設計支援方法を示すフローチャートである。
【
図3】
図2に示すフローチャート中のステップS10において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】本実施形態において各設計要件として指定される幾何形状の例を示す図である。
【
図5】
図2に示すフローチャート中のステップS30において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6A】本実施形態において生成される構造体に関する構成を示す図である。
【
図6B】本実施形態において生成される構造体に関する構成を示す図である。
【
図7A】実施例1において各設計要件として指定される幾何形状の例を示す図である。
【
図7B】実施例1において生成される構造体に関する構成を示す図である。
【
図8A】実施例2において各設計要件として指定される幾何形状の例を示す図である。
【
図8B】実施例2において生成される構造体に関する構成を示す図である。
【
図9A】実施例3において各設計要件として指定される幾何形状の例を示す図である。
【
図9B】実施例3において生成される構造体に関する構成を示す図である。
【
図10A】実施例4において各設計要件として指定される幾何形状の例を示す図である。
【
図10B】実施例4において生成される構造体に関する構成を示す図である。
【
図11】構造体の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に、本発明の一実施形態に係る構造体の設計支援装置の概要について説明する。
【0011】
本実施形態に係る設計支援装置100(
図1等参照)は、概して、ユーザが設計したい所望の流路構成を成す隔壁構造を含む構造体の設計要件(構造体を形成する設計空間、流路の特徴形状等)を受け付ける機能と、その流路構成を備える構造体を上記設計要件に基づいて生成する機能とを備える。
【0012】
設計支援装置100は、構造体の設計要件に関するユーザ入力を受け付ける。ユーザは、例えば、設計支援装置100の入力部を操作して種々の設計要件について数値を入力したり、あるいは、入力部を操作してプリミティブな形状要素(点、線、立体形状等)を選択し、それらの形状、大きさ、配置位置を指定する操作を行ったりすることで、構造体の設計要件を入力することができる。さらに、設計支援装置100は、このように入力された構造体の設計要件に基づき、指定された形状や大きさを有する流路構成を、指定された設計空間内の指定された配置位置に形成するように生成する。
【0013】
本実施形態の設計支援装置100によれば、形成したい流路の構成と、その流路を形成する設計空間とを入力することにより、所望の配置・形状の流路を有する流路構成を設計することができるので、流路構成の設計の自由度を高めることができる。
【0014】
次に、本発明の一実施形態に係る設計支援装置100の構成について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る設計支援装置の機能ブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係る設計支援装置100は、通信部110と、記憶部120と、制御部130と、入出力部140とを備えている。
【0016】
通信部110は、通信ネットワークを介して設計支援装置100とは異なる端末(不図示)と通信を行うための通信インタフェースであり、例えばTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)等の種々の通信プロトコルを採用することが可能である。
【0017】
記憶部120は、OS(Operating System)プログラム、各種制御処理や制御部130に本実施形態で説明する動作を実行させるための種々のコンピュータ・プログラム、入出力部140からの入力データ、制御部130での処理により生成された生成データ、他の端末との通信内容等を記憶する。記憶部120は、構造体の設計要件(構造体の設計空間、流路の特徴形状等)の入力に用いるプリミティブな形状要素(点、線、角柱・角錐・円柱・円錐・球体等の立体形状等)が予め記憶されていてもよい。
【0018】
記憶部120は、設計支援装置100の電源がオフにされても記憶状態が保持される不揮発性の記憶媒体を備えていることが好ましく、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)、固体記憶装置(SSD)、コンパクトディスク(CD)・ディジタル・バーサタイル・ディスク(DVD)・ブルーレイディスク(BD)等の光学ディスクストレージ、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、EPROM(Rrasable Programmable Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の不揮発性ストレージを備えている。なお、記憶部120はスタティックランダムアクセスメモリ(SRAM)等の揮発性ストレージをさらに備えていてもよいが、少なくとも上述したコンピュータ・プログラムは記憶部120のうち不揮発性の(非一時的な)記憶媒体に記憶される。
【0019】
さらに、記憶部120は、入出力部140のディスプレイ142上に表示される画面を構成する選択項目等のグラフィック表現を行うためのデータ、その画面を構成する各情報を表示するために必要なテキストデータ、画面のレイアウトを決定するためのレイアウト決定用データ、入力内容を基に記憶情報を更新するプログラム等、各種データまたはプログラムを格納することができる。
【0020】
制御部130は、記憶部120に記憶されているコンピュータ・プログラムを実行することにより、設計支援装置100の全体の動作を制御するものであり、特に、
図2、
図3、
図5及び
図11を参照して説明するような設計支援装置100の機能を実現するように動作する。制御部130は、例えば、中央演算処理装置(CPU)、グラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)、GPGPU(General Purpose Computing on GPU)、特定用途向け集積回路(ASIC)、組込みプロセッサ、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ(DSP)、あるいはそれらの組み合わせで構成される。制御部130は、1又は2以上のプロセッサで構成されていてもよい。
【0021】
入出力部140は、出力部としてのディスプレイ142と、入力部としての入力デバイス144とを含む。ディスプレイ142には、ディスプレイ・モニター、コンピュータ・タブレット装置(タッチパネル式のディスプレイを備えたものを含む)、プロジェクター等の任意の形態の表示装置を用いることができる。入力デバイス144は、例えば、キーボード、マウスやジョイスティック等のポインティングデバイス、タッチパネル、又は、それらの組合せで構成することができる。ディスプレイ142がタッチパネル式のディスプレイ・デバイスである場合には、そのタッチパネルを入力デバイス144としても用いることができる。
【0022】
次に、
図2等を参照して、本実施形態の設計支援装置100による構造体の設計支援方法について説明する。
図2は、本実施形態の設計支援装置による構造体の設計支援方法を示すフローチャートである。
【0023】
本実施形態の設計支援装置100による構造体の設計支援方法においては、設計支援装置100の制御部130は、最初に、ユーザ入力による構造体の設計要件に関する情報を取得する(ステップS10)。
【0024】
ステップS10において、設計支援装置100の制御部130は、入出力部140のディスプレイ142に、ユーザが入出力部140の入力デバイス144を用いて構造体の設計要件に関する入力を受け付けるユーザ・インターフェース(UI)画面を表示し、入力デバイス144を用いたユーザによる入力を受け付ける。設計支援装置100の制御部130は、構造体の設計要件として一例として以下に示す設定項目を、ディスプレイ142上に表示するUI画面内にプルダウンメニューの形式等で提示する。ユーザは、UI画面内に提示された設定項目の中から所望の設定項目を選択することで、選択した設定項目に関する入力を行うことができる。
(1)構造体の設計空間
(2)流路の特徴形状
(3)隔壁構造の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数
(4)隔壁構造の周囲に形成する壁部の特徴形状
(5)壁部の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数
【0025】
ここで、構造体の設計要件に関する各設定項目について説明する。
【0026】
「構造体の設計空間」は、2以上の互いに異なる流路同士もしくは流路空間を隔てる隔壁を成す隔壁構造を含む構造体の設計空間を指定するための設計要件項目である。この「構造体の設計空間」項目は、構造体を形成する空間を画定する情報(例えば、設計空間の立体形状、立体形状の各部寸法)を含む。構造体の設計空間は、例えば、設計支援装置100の制御部130がディスプレイ142上に表示するUI画面内において、入力デバイス144を介したユーザ入力により所望の形状・大きさを有する立体形状を描画することによって指定することが可能である。このような立体形状の描画は、例えば、制御部130がディスプレイ142上にプリミティブな立体形状要素(円柱・角柱、錐体、球等)の選択肢を表示し、ユーザが入力デバイス144によって所望の立体形状要素を選択することで可能である。さらには、立体形状の描画は、ユーザが入力デバイス144によって複数選択した立体形状要素の各々の大きさ・形状等を、制御部130がディスプレイ142上に表示するUI画面内で適宜修正し、それらを組み合わせることで、任意のより複雑な設計空間を描画することも可能である。あるいは、ユーザが入力デバイス144を用いてUI画面上で、所望の立体形状を定める関数を記述して、設計空間を画定することも可能である。
【0027】
「流路の特徴形状」は、設計空間内に形成する各流路の形状を指定するための設計要件項目である。流路の特徴形状の指定は、例えば、制御部130がディスプレイ142上にプリミティブな立体形状要素(点、各種線、各種面、各種立体形状等)の選択肢を表示し、ユーザが入力デバイス144によって所望の立体形状要素を選択することで可能である。あるいは、ユーザが入力デバイス144を用いてUI画面上で、流路の所望の特徴形状を定める関数を記述して、流路の特徴形状を指定することも可能である。
【0028】
「隔壁構造の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数」は、指定した構造体の設計空間内に形成する隔壁構造の生成領域と、異なる流路間を隔てる隔壁の厚さとを指定するための設計要件項目である。これらの要件は、パラメータが予め定められている場合にはそのパラメータ値をユーザが入力デバイス144によってディスプレイ142上のUI画面で入力して指定することが可能である。あるいは、パラメータ又は関数を選択又は記述して指定することも可能であり、その場合は、設計支援装置100の記憶部120に選択可能な関数を記憶させておき、ユーザが入力デバイス144によってディスプレイ142上のUI画面で所望の関数を選択して指定するか、あるいは、ユーザが入力デバイス144を用いてUI画面上で関数を記述して指定する等の手法を採り得る。
【0029】
「隔壁構造の周囲に形成する壁部の特徴形状」は、隔壁構造の周囲の少なくとも一部に壁部を形成する場合に、その壁部の特徴形状を指定するための設計要件項目である。壁部の特徴形状の指定も、例えば、制御部130がディスプレイ142上にプリミティブな立体形状要素(点、各種線、各種面、各種立体形状等)の選択肢を表示し、ユーザが入力デバイス144によって所望の立体形状要素を選択することで可能である。あるいは、ユーザが入力デバイス144を用いてUI画面上で、壁部の所望の特徴形状を定める関数を記述して、壁部の特徴形状を指定することも可能である。
【0030】
また、「壁部の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数」は、隔壁構造の周囲に形成する壁部の生成領域と、壁部の厚さとを指定するための設計要件項目である。「壁部の生成領域・厚さを定めるパラメータ関数」についても、上述した「隔壁構造の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数」と同様に、ユーザが入力デバイス144を操作してパラメータ又は関数を入力したり選択したりすることで指定することができる。
【0031】
ここで、ステップS10の処理の一例として、螺旋状の2つの流路を隔てる螺旋構造からなる隔壁構造が中空円筒状の壁部内に収容された構造体を生成するための設計要件を指定する処理を、
図3に示すフローチャートを参照して説明する。
図3は、
図2に示すフローチャート中のステップS10において実行される処理の一例を示すフローチャートである。また、
図4は各設計要件として指定される幾何形状の例を示す図である。
【0032】
まず、
図3のステップS101において、設計支援装置100の制御部130は「構造体の設計空間」に関する情報を取得する。この例では、ユーザが入力デバイス144を用いてUI画面上で、「構造体の設計空間」を指定する立体形状として、
図4(a)に示すような円柱を指定するユーザ入力を行い、併せてその円柱の直径・高さの各寸法を入力することで設計空間が指定され、それを制御部130が取得する。これらの寸法の入力は、例えば、いわゆるバウンディングボックスの大きさや形状を調節するように、UI画面内に表示された円柱の或る辺を入力デバイス144(マウス等のポインタ)でドラッグした状態でそのポインタを移動させて、円柱の径や円柱の長さを変化させることで、円柱の直径・高さの各寸法を指定することができる。あるいは、円柱の直径・高さの各寸法に関するパラメータ及びパラメータ値を入力デバイス144で入力して指定することもできる。
【0033】
次に、ステップS102において、設計支援装置100の制御部130は「流路の特徴形状」に関する情報を取得する。この例では、ユーザが入力デバイス144を用いてUI画面上で、「流路の特徴形状」として、
図4(b)に示すような第1の螺旋状曲線(濃いグレーの線で示されている)と第2の螺旋状曲線(淡いグレーの線で示されている)との2つの螺旋状曲線が指定される。第1の螺旋状曲線は第1の流路の特徴形状を指定し、第2の螺旋状曲線は第2の流路の特徴形状を指定する。これらの螺旋状曲線の径・螺旋ピッチ・螺旋曲線同士の相対的な配置位置等は、例えば、それらの形状関数を入力デバイス144で入力して指定することもできる。
【0034】
次に、ステップS103において、「隔壁構造の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数」に関し、本例では、上記のように指定した円柱状の設計空間内に
図4(c)に示すように流路特徴形状が配置されるように、隔壁構造の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数が指定される。
【0035】
本例ではさらに、ステップS104において、「隔壁構造の周囲に形成する壁部の特徴形状」として、
図4(d)に示すような中空円筒が指定される。
【0036】
さらに、ステップS105において、「壁部の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数」が指定される。壁部の特徴形状の一例として、隔壁構造の設計空間を指定する円柱と径が同じであるが、上面及び底面が省略された円筒形状とすることができる。この場合は、例えば、壁部の厚さtとしてその円筒面から外側に一定距離の範囲内に壁部を生成するように壁部生成範囲パラメータ又は関数を定めることができる。壁部生成範囲としては、円筒面外側のうち少なくとも一部に任意の形状の壁部を生成するようにパラメータを定めてもよいし、また、壁部が変化するようにパラメータ又は関数を定めてもよい。あるいは、壁部の特徴形状の他の例として、隔壁構造の設計空間を指定する円柱と長さが同じであるが、それよりも径が大きい中空円筒としてもよい。後者の例では、パラメータ又は関数の指定は、隔壁構造の設計空間を指定する円柱と、壁部の特徴形状を指定する円筒とを互いに重なる同心円状の配置となるようにディスプレイ142上のUI画面でユーザが入力デバイス144を用いて操作することで指定することが可能である。この場合は、設計空間を指定する円柱と壁部の特徴形状を指定する円筒との径の差分が、壁部の厚さとして指定される。
【0037】
なお、
図3に示した処理フローにおける各処理の順序は、上記に示した順序に限定されるものではなく、互いの処理に支障をきたさない限りにおいて任意の順序とすることが可能である。
【0038】
次に、設計支援装置100の制御部130は、上記のように指定された各々の設計要件に関する形状関数及びパラメータ又は関数を生成する処理を実行し、生成した形状関数及びパラメータ又は関数を記憶部120に記憶させる(ステップS20)。
【0039】
形状関数としては、流路の特徴形状や壁部の特徴形状に関する関数が生成される。また、パラメータ又は関数としては、構造体の設計空間、隔壁構造の位置・厚さ、壁部の位置・厚さに関するパラメータ又は関数が生成される。なお、ディスプレイ142上のUI画面でユーザが入力デバイス144を用いて、流路や壁部の特徴形状に関する形状関数、パラメータ又は関数を入力することで各々の設計要件が指定されている場合には、入力されたそれらのパラメータ又は関数が記憶部120に記憶される。
【0040】
次に、設計支援装置100の制御部130は、上記のステップS20によって取得された、各設計要件を指定する形状関数及びパラメータ関数・パラメータ値に基づいて、構造体を生成する(ステップS30)。
【0041】
ここで、本例において上記のように指定された設計要件に基づいて、螺旋状の2つの流路を隔てる二重螺旋構造からなる隔壁構造と、その隔壁構造を収容する中空円筒状の壁部とを有する構造体を生成する処理を、
図5に示すフローチャートを参照して説明する。
図5は、
図2に示すフローチャート中のステップS30において実行される処理の一例を示すフローチャートである。また、
図6は、本実施形態において生成される構造体に関する構成を示す図である。
【0042】
まず、
図5のステップS301において、設計支援装置100の制御部130は、隔壁構造内の各流路を隔てる曲面を表す陰関数として、各流路の特徴形状s
i及び空間座標(x,y,z)を引数に持つ陰関数fを生成する。各流路の特徴形状s
iは、上記ステップS102において生成される各流路の形状特徴に関する陰関数で定義される。
【0043】
本例では2つの流路を有する隔壁構造を生成するため、例えば、2つの流路の各々について陰関数g1,g2を定義し、それらの差分をとることにより、それら2つの流路を隔てる曲面を表す陰関数f(x,y,z,s1,s2)を生成する。陰関数f(x,y,z,s1,s2)は、例えば下記の式(1)によって示される。
f(x,y,z,s1,s2)=g1(x,y,z,s1)-g2(x,y,z,s2)-d(x,y,z) …式(1)
【0044】
ここで、g1(x,y,z,s1)は、空間内の点(x,y,z)と、それに最も近い流路特徴形状s1上の点(closest point)との距離を表す陰関数であり、g2(x,y,z,s2)は、空間内の点(x,y,z)と、それに最も近い流路特徴形状s2上の点(closest point)との距離を表す陰関数であり、d(x,y,z)は、陰関数fにより生成される曲面の各特徴形状からの位置を定めるパラメータ関数である。
【0045】
上記式(1)におけるパラメータ関数d(x,y,z)についてより詳細に説明すると、d(x,y,z)=0であるときには、特徴形状s1を持つ第1の流路と特徴形状s2を持つ第2の流路との中間に曲面が生成される。これに対し、d(x,y,z)=0であるときに生成される曲面の位置に比べて、d(x,y,z)<0としたときに生成される曲面の位置は、特徴形状s1を持つ第1の流路の側に近づき、単位体積に占める第1の流路の体積が小さくなり、特徴形状s2を持つ第2の流路の体積が大きくなる。これに対し、d(x,y,z)>0としたときに生成される曲面の位置は、特徴形状s2を持つ第2の流路の側に近づき、単位体積に占める第1の流路の体積が大きくなり、特徴形状s2を持つ第2の流路の体積が小さくなる。このように、パラメータ関数d(x,y,z)の設定に応じて、陰関数fにより生成される曲面の位置を変えることができ、互いに隔てる各流路の単位体積に占める体積の比を変えることができる。パラメータ関数d(x,y,z)は、生成する隔壁構造の全体にわたって一定としてもよいし、隔壁構造の全体又は一部において連続的あるいは段階的に変化させてもよい。
【0046】
次に、ステップS302において、制御部130は上記のように生成した陰関数f(x,y,z,s1,s2)によって表現される曲面に厚みtを持たせて、その曲面をシェル化させる。シェル化された曲面は、以下の式(2)によって表される。曲面の厚みtは、上述したステップS103において指定された、隔壁構造の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数に基づいて定められる。
Shell(f(x,y,z,s1,s2),t(x,y,z))=|f(x,y,z,s1,s2)|-t(x,y,z) …式(2)
【0047】
このように、2つの流路の各特徴形状s
1,s
2から等距離に位置する点の集合からなる曲面がパラメータ関数dに従って修正されることにより、それら2つの流路を隔てる曲面がパラメータ関数dにより定められる位置に生成され、さらに、その曲面に対して厚みtを持たせることにより、それら2つの流路を隔てる隔壁構造が生成される。
図6A(a)に、以上の工程により制御部130により生成される本例の隔壁構造を示す。本例によれば、2つの螺旋状の流路を隔てる螺旋状の隔壁からなる隔壁構造が生成される。
【0048】
続いて、ステップS303において、制御部130は、隔壁構造の壁部を表す陰関数として、壁部の特徴形状g及び空間座標(x,y,z)を引数に持つ陰関数f(x,y,z,g)を生成する。壁部の特徴形状gは、上記ステップS20において生成される壁部の形状特徴に関する陰関数で定義される。本例では、壁部を表す陰関数f(x,y,z,g)は、例えば、隔壁構造の設計空間を指定する円柱の周囲面からの距離を表すものとすることができる。
【0049】
次に、ステップS304において、制御部130は、壁部を表す陰関数f(x,y,z,g)の値範囲を指定し、壁部を生成する空間的範囲を特定する。例えば、隔壁構造の設計空間を指定する円柱と同じ高さでその全周を囲むように壁部の生成範囲を指定したり、その一部のみを壁部の生成範囲を指定したりすることができる。壁部を表す陰関数f(x,y,z,g)の値範囲は、上述したステップS105において指定された、壁部の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数に基づいて定められる。
【0050】
最後に、ステップS305において、制御部130は、上記のように生成した隔壁構造に対して形成する壁部を生成し、隔壁構造とその壁部とを含む構造体を生成する。
図6A(b)に、以上の工程により制御部130により生成される本例の構造体を示す。本例の構造体は、上記のように生成された隔壁構造と、その周囲を囲む中空円筒状の壁部とを含んでいる。
図6B(a)は、
図6A(b)に示した構造体をその中心軸を通る平面に沿って切断した断面を示す図である。
図6B(a)に示されているように、本例の構造体では、隔壁構造とその周囲の壁部とによって、第1の螺旋状流路と、それとは隔てられた第2の螺旋状流路とが画定されている。
【0051】
また、
図6B(b)は、
図6A(b)及び
図6B(a)に示した隔壁構造及び壁部を有する構造体を生成するために指定したパラメータ又は関数とは異なるパラメータ又は関数に基づいて生成した構造体の断面図である。
図6B(b)に示す構造体は、
図6A(b)及び
図6B(a)に示した構造体と比較して、隔壁構造の中心軸付近が隔壁の配置位置から除外され、また、壁部の厚さが大きくなっている。
【0052】
このように、本実施形態の設計支援装置100によれば、設計空間内に形成したい所望の2以上の流路を含む流路構成と、その生成に必要なパラメータ又は関数とを指定することにより、それらの2以上の流路を互いに隔てる隔壁構造を生成することができる。指定する流路構成の流路は任意の形状とすることができるので、従来技術のように既存の周期極小曲面に基づいて構造体を生成する場合に比べて、隔壁構造を含む構造体の設計自由度を高めることができる。そのため、生成する隔壁構造を例えば熱交換用途に用いる場合には、生成する隔壁構造の熱交換特性(圧力損失、熱伝達率等)を考慮して、所望の特性を備えるような構造体を高い自由度の下で設計することが可能となる。
【0053】
(実施例)
次に、本実施形態の設計支援装置100により他の構造体を生成する例を説明する。
【0054】
[実施例1]
実施例1は、
図6A及び
図6Bを参照して例示した螺旋状の隔壁構造を有する構造体の変形例として、
図6A及び
図6Bに示した構造体に対して、各流路への入口及び出口となる導管部を備えた構成の構造体を生成する例を示す。
図7Aは実施例1において各設計要件として指定される幾何形状の例を示す図であり、
図7Bは実施例1において生成される構造体に関する構成を示す図である。
【0055】
本実施例においても、設計支援装置100の制御部130は、上記のステップS10(ステップS101~S105)において、以下に示す構造体の設計要件に関するユーザ入力を取得する。
【0056】
「隔壁構造の設計空間」を指定する立体形状として、
図7A(a)に示すように、中央部の円柱と、中央部円柱から上方に2方向に延びる2つの円柱と、中央部円柱から下方に2方向に延びる2つの円柱とが指定される。
【0057】
「流路の特徴形状」として、
図7A(b)に示すような第1の螺旋状曲線(実線で示されている)と第2の螺旋状曲線(破線で示されている)との2つの螺旋状曲線が指定される。第1の螺旋状曲線は第1の流路の特徴形状を指定し、第2の螺旋状曲線は第2の流路の特徴形状を指定する。
図7A(b)に示す2つの螺旋状曲線は、その上方及び下方に、各流路への入口及び出口となる導管部を成す直線状の延長部を有している。
【0058】
「隔壁構造の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数」に関し、本例では、上記のように指定した設計空間内に、
図7A(c)に示すように流路特徴形状が配置されるように、隔壁構造の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数が指定される。
【0059】
さらに、「隔壁構造の周囲に形成する壁部の特徴形状」として、
図7A(d)に示すように、中央部の中空円筒と、中央部の中空円筒から上方に2方向に延びる2つの中空円筒と、中央部の中空円筒から下方に2方向に延びる2つの中空円筒とが指定される。これらの中空円筒はそれぞれ上面及び底面が省略されている。また、「壁部の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数」が指定される。壁部の特徴形状を構成する各円筒の径は、隔壁構造の設計空間を構成する各円柱のうち対応する円柱とそれぞれ同じとすることができる。この場合は、例えば、壁部の厚さtとして各々の円筒の円筒面から外側に一定距離の範囲内に壁部を生成するように壁部生成範囲パラメータ又は関数を定めることができる。
【0060】
本実施例では、上記のように入力された設計要件に基づき、設計支援装置100の制御部130は、上記ステップS20において各々の設計要件に関する形状関数及びパラメータ又は関数を生成する処理を実行するとともに、上記ステップS30(ステップS301~S305)において各設計要件を指定する形状関数及びパラメータ関数に基づいて構造体を生成する。
【0061】
図7B(a)は本実施例により生成される構造体の斜視図であり、
図7B(b)は
図7B(a)に示した構造体内に含まれる隔壁構造を示す斜視図である。
図7B(b)には、
図7A(b)に示すように指定された「流路の特徴形状」も重ねて示されている。
【0062】
本実施例によれば、
図7A(b)に示すように指定された「流路の特徴形状」に基づいて、
図7B(a)に示すように、2つの螺旋状の流路を隔てる隔壁構造の上下にそれぞれ各流路の入口及び出口となる導管を備えた構造体が生成される。本実施例の隔壁構造は、
図7B(b)に示すように、上下部分の隔壁が、螺旋状の各流路を上下の直線状の各流路に滑らかに接続するような形状に形成されている。
【0063】
[実施例2]
実施例2は、2つの流路が直線状に互いに交差する隔壁構造を有する構造体を生成する例を示す。
図8Aは実施例2において各設計要件として指定される幾何形状の例を示す図であり、
図8Bは実施例2において生成される構造体に関する構成を示す図である。
【0064】
本実施例においても、設計支援装置100の制御部130は、上記のステップS10(ステップS101~S105)において、以下に示す構造体の設計要件に関するユーザ入力を取得する。
【0065】
「隔壁構造の設計空間」を指定する立体形状として、
図8A(a)に示すように直方体が指定される。
【0066】
「流路の特徴形状」として、
図8A(b)に示すように、図示上手前側の流路空間と図示下奥側の流路空間とをそれぞれ指定する面及びそれらの間を連通する複数の第1の流路を指定する直線(実線で示されている)と、図示下手前側の流路空間と図示上奥側の流路空間とをそれぞれ指定する面及それらの間を連通する複数の第2の流路を指定する直線(破線で示されている)とが指定される。複数の第1の流路を指定する各直線と、複数の第2の流路を指定する各直線とは、互い違いに交差するように配置されている。
【0067】
「隔壁構造の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数」に関し、本例では、上記のように指定した設計空間内に、
図8A(c)に示すように流路特徴形状が配置されるように、隔壁構造の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数が指定される。
【0068】
さらに、「隔壁構造の周囲に形成する壁部の特徴形状」として、
図8A(d)に示すように、隔壁構造の設計空間を指定する直方体と外形寸法が同じであるが、図示手前側の面と奥側の面が省略された形状が指定される。また、「壁部の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数」が指定される。そのパラメータ又は関数の指定は、本例では一例として、壁部の厚さtとして壁部の特徴形状の各々の面から外側に一定距離の範囲内に壁部を生成するように壁部生成範囲パラメータ又は関数を定めることができる。
【0069】
本実施例では、上記のように入力された設計要件に基づき、設計支援装置100の制御部130は、上記ステップS20において各々の設計要件に関する形状関数及びパラメータ又は関数を生成する処理を実行するとともに、上記ステップS30(ステップS301~S305)において各設計要件を指定する形状関数及びパラメータ又は関数に基づいて構造体を生成する。
【0070】
図8B(a)は本実施例により生成される構造体の斜視図であり、
図8B(b)は
図8B(a)に示した構造体を破断した状態で示す斜視図である。
【0071】
本実施例によれば、
図8A(b)に示すように指定された「流路の特徴形状」に基づいて、
図8B(a),(b)に示すように、上下の各々の流路空間にそれぞれ連通する複数の第1の流路と複数の第2の流路とが直線状に互いに交差する隔壁構造を有する構造体が生成される。
【0072】
[実施例3]
実施例3は、
図7B(a)に示した構造体の変形例として、
図7B(a)に示した2つの流路を備える構造体とは異なり、3つの流路を備える構造体を生成する例を示す。
図9Aは実施例3において各設計要件として指定される幾何形状の例を示す図であり、
図9Bは実施例3において生成される構造体に関する構成を示す図である。
【0073】
本実施例においても、設計支援装置100の制御部130は、上記のステップS10(ステップS101~S105)において、以下に示す構造体の設計要件に関するユーザ入力を取得する。
【0074】
「隔壁構造の設計空間」を指定する立体形状として、
図9A(a)に示すように、中央部の円柱と、中央部円柱から上方に2方向に分岐するように延びる2つの円柱と、中央部円柱から下方に2方向に分岐するように延びる2つの円柱とが指定される。
【0075】
「流路の特徴形状」として、
図9A(b)に示すような第1の螺旋状曲線(破線で示す)と第2の螺旋状曲線(実線で示す)との2つの螺旋状曲線と、それらの2つの螺旋状曲線の中心軸に沿って延びる直線(一点鎖線で示す)が指定される。第1の螺旋状曲線は第1の流路の特徴形状を指定し、第2の螺旋状曲線は第2の流路の特徴形状を指定し、直線は第3の流路の特徴形状を指定する。
図8A(b)に示す2つの螺旋状曲線は、その上方及び下方に、各流路への入口及び出口となる導管部を成す直線状の延長部を有している。
【0076】
「隔壁構造の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数」に関し、本例では、上記のように指定した設計空間内に、
図9A(c)に示すように流路特徴形状が配置されるように、隔壁構造の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数が指定される。
【0077】
さらに、「隔壁構造の周囲に形成する壁部の特徴形状」として、
図9(d)に示すように、中央部の中空円筒と、中央部の中空円筒から上方に2方向に分岐するように延びる2つの中空円筒と、中央部の中空円筒から下方に2方向に分岐するように延びる2つの中空円筒とが指定される。これらの中空円筒はそれぞれ上面及び底面が省略されている。また、「壁部の生成領域・厚さを定めるパラメータ又は関数」が指定される。壁部の特徴形状を構成する各円筒の径は、隔壁構造の設計空間を構成する各円柱のうち対応する円柱とそれぞれ同じとすることができる。この場合は、例えば、壁部の厚さtとして各々の円筒の円筒面から外側に一定距離の範囲内に壁部を生成するように壁部生成範囲パラメータ又は関数を定めることができる。
【0078】
本実施例では、上記のように入力された設計要件に基づき、設計支援装置100の制御部130は、上記ステップS102において各々の設計要件に関する形状関数及びパラメータ又は関数を生成する処理を実行するとともに、上記ステップS30(ステップS301~S305)において各設計要件を指定する形状関数及びパラメータ関数に基づいて構造体を生成する。
【0079】
本実施例では、ステップS30中のステップS301において、設計支援装置100の制御部130が3つの流路を隔てる曲面を表す陰関数f(x,y,z,s1,s2,s3)を生成する。この陰関数fは、例えば下記の式(3)によって示される。
f(x,y,z,s1,s2,s3)=min(|g1-min(g2,g3)−d1(x,y,z)|,|g2-min(g1,g3)-d2(x,y,z)|) …式(3)
【0080】
ここで、g1(x,y,z,s1)は、空間内の点(x,y,z)と、それに最も近い第1の流路の特徴形状s1上の点(closest point)との距離を表す陰関数であり、g2(x,y,z,s2)は、空間内の点(x,y,z)と、それに最も近い第2の流路の特徴形状s2上の点(closest point)との距離を表す陰関数であり、g3(x,y,z,s2)は、空間内の点(x,y,z)と、それに最も近い第3の流路の特徴形状s3上の点(closest point)との距離を表す陰関数であり、d1(x,y,z),d2(x,y,z)は、それぞれ、陰関数fにより生成される曲面の各特徴形状からの位置を定めるパラメータ関数である。
【0081】
なお、このように3以上のn個の流路を有する複雑な構造体を生成する場合には、以下の式(4)に示すように一般化された陰関数fを生成して、構造体の生成に用いてもよい。
f(x,y,z,s1,s2,s3,・・・,sn)=min(|g1-min(g2,g3,・・・,gn)-d1|,|g2-min(g1,g3,・・・,gn)-d2|,・・・,|gn-1-min(g1,g2,g3,・・・,gn-2,gn)-dn-1|) …式(4)
【0082】
制御部130は次に、ステップS30中のステップS302において、このように生成した陰関数f(x,y,z,s1,s2,s3)によって表現される曲面に厚みtを持たせて、その曲面をシェル化させる。シェル化された曲面は、以下の式(5)によって表される。
Shell(f(x,y,z,s1,s2,s3),t(x,y,z))=|f(x,y,z,s1,s2,s3)|-t(x,y,z) …式(5)
【0083】
図9B(a)は本実施例により生成される構造体の斜視図であり、
図9B(b)は
図9B(a)に示した構造体内に含まれる隔壁構造を示す斜視図、
図9B(c)は
図9B(a)に示した構造体を破断した状態で示す斜視図である。
【0084】
本実施例によれば、
図9A(b)に示すように指定された「流路の特徴形状」に基づき、3つの流路の各特徴形状s
1,s
2,s
3から定義される、「特徴形状s
1」と「特徴形状s
2と特徴形状s
3を合わせた特徴形状」とから等距離な点からなる曲面がパラメータ関数d
1により修正されることと、「特徴形状s
2」と「特徴形状s
1と特徴形状s
3を合わせた特徴形状」とから等距離な点からなる曲面がパラメータ関数d
2により修正されることとにより、それら3つの流路を隔てる曲面がパラメータ関数d
1,2により定められる位置に生成され、さらに、その曲面に対して厚みtを持たせることにより、それら3つの流路を隔てる隔壁構造(
図9B(b)参照)が生成される。そして、その隔壁構造に対して壁部を付加的に生成することで、
図9B(a),(c)に示すように、2つの螺旋状の流路と、それらの中心軸に沿って延びる直線状の流路との3つの流路を備えた構造体が生成される。
【0085】
[実施例4]
本実施形態の設計支援装置100により生成する構造体の例について上述した各実施例を参照して説明したが、設計支援装置100により生成できる構造体は例示した構造に限られない。例えば、格子状に互い違いに配置された複数の流路が互いに仕切られるような構造体や、或る流路空間から任意の方向へ延びる複数の流路を備えたディストリビュータを成す構造体等の、より複雑な流路構成を有する構造体も本実施形態の設計支援装置100により生成することが可能である。
本実施例では、より複雑な流路構成を有する構造体として、複数の第1の流路と複数の第2の流路とを有する熱交換器を成す構造体を生成する例を説明する。
【0086】
この例では、上述のステップS10(ステップS101~S105)において、
図10A(a)に示す設計空間内に、
図10A(b)に示す特徴形状で指定される流路を形成する隔壁構造を
図10(b)に示す生成領域に生成するように設計要件が指定される。
図10A(b)に示す特徴形状は、互いに連通する複数の第1の流路(濃いグレーの線で示されている)と、互いに連通する複数の第2の流路(淡いグレーの線で示されている)とがそれぞれ線で指定され、複数の第1の流路を流れる流体を分配ないし集約する領域が面(濃いグレー)で指定され、複数の第2の流路を流れる流体を分配ないし集約する領域が面(淡いグレー)で指定され、それらの領域にそれぞれ連通する開口部が線(濃いグレーで示されている線ないし淡いグレーで示されている線)で指定されている。
【0087】
設計支援装置100の制御部130は、このように指定された設計要件に基づき、上述したステップS20及びS30(ステップS301~S305)の処理により、
図10B(a)ないし(b)の断面斜視図に示すような流路構成を有する熱交換器としての構造体が生成される。
図10B(a)は、
図10A(b)に示した流路特徴形状と生成された流路構成とを重畳して示し、
図10B(a)は、生成された流路構成のみを示している。この熱交換器によれば、複数の第1の流路に連通する一方の開口部から他方の開口部へ第1の流体を流し、複数の第2の流路に連通する一方の開口部から他方の開口部へ第2の流体を流すことで、第1の流体と第2の流体との間で熱交換を行うことができる。
【0088】
<他の実施形態>
本発明の他の実施形態について説明する。本発明の他の実施形態は、上述した実施形態において説明した設計支援装置によって設計された構造体を製造する方法に関する。本実施形態によれば、設計支援装置によって設計された構造体が、3Dプリンタ、射出成形機等の各種の成形装置や加工装置等の造形装置によって製造される。
【0089】
図11は、構造体の製造方法を示すフローチャートである。
【0090】
本実施形態における処理では、最初に、第1の実施形態において
図1を参照して説明した設計支援装置100を用いて、
図2、
図3及び
図5を参照して説明した設計支援方法を実行し、製造対象の構造体に関する情報を生成する(ステップS501)。
【0091】
製造対象の構造体に関する情報の生成は、例えば、製造対象の構造体の形状、各部寸法及び材料等を特定し、製造対象の構造体の三次元データ等を生成することを含む。製造対象の構造体に関する情報(三次元データ等)は、後述する造形装置が設計支援装置100から受信した場合に、造形装置がその構造体に関する情報に基づいて構造体を造形することができる形式のデータであることが好ましい。
【0092】
そして、設計支援装置100は、ステップS501で生成した製造対象の構造体に関する情報に基づいて、その構造体の造形を造形装置に実行させる(ステップS502)。
【0093】
設計支援装置100は通信部110を介して造形装置(不図示)と通信可能であり、設計支援装置100がステップS501で生成した製造対象の構造体に関する情報(三次元データ等)は通信部110から造形装置に送信される。造形装置は、通信部110から受信した製造対象の構造体に関する情報(三次元データ等)に基づいて、当該構造体の造形を実行する。
【0094】
造形装置による構造体の造形は、設計支援装置100から取得した構造体に関する情報を参照して任意の手法による造形を行うことを含む。手法は、例えば以下の少なくとも1つであってもよいが、これらに限定されない。
・切削
・モールド成形
・3Dプリント
・光硬化性樹脂を用いた光造形
・射出成形
・粉末圧縮成形
・レーザー加工
【0095】
なお、上記では設計支援装置100が製造対象の構造体の探索から造形までを実施する場合を例示して説明したが、設計支援装置100では製造対象の構造体の三次元データ等の生成処理を行い、他の情報処理装置が構造体の造形処理を行うようにしてもよい。この場合は、設計支援装置100で生成された製造対象の構造体に関する情報が任意の手段(通信ネットワークを介して、あるいは物理的な記憶媒体を介して)で、構造体を造形する造形装置(3Dプリンタ、各種の成形装置や加工装置等)に接続された他の情報処理装置に提供され、当該他の情報処理装置によりその構造体の情報に基づいて造形処理が行われ得る。
【0096】
以上、開示の実施形態及び変形例を通じて本開示を説明したが、上述の実施形態及び変形例は、請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、本開示の実施形態及び変形例の中で説明されている特徴を組み合わせた形態も本開示の技術的範囲に含まれ得る。
【手続補正書】
【提出日】2022-06-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流路を互いに隔てる隔壁構造を含む構造体を設計する設計支援装置。