(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059803
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】タンパク質凝集性疾患を治療及び/又は予防するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/37 20060101AFI20240423BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240423BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240423BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240423BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240423BHJP
A61K 31/4375 20060101ALI20240423BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20240423BHJP
A61K 31/27 20060101ALI20240423BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20240423BHJP
A61K 31/13 20060101ALI20240423BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
A61K31/37
A61P25/16
A61P25/28
A61P43/00 111
A61P25/14
A61P43/00 121
A61K31/4375
A61K31/445
A61K31/27
A61K31/55
A61K31/13
A61K31/198
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024025631
(22)【出願日】2024-02-22
(62)【分割の表示】P 2020571600の分割
【原出願日】2019-06-19
(31)【優先権主張番号】18382439.0
(32)【優先日】2018-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】520497612
【氏名又は名称】ウニベルシダ パブロ デ オラビデ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムニョス マヌエル ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】カリオン アンヘル エム.
(72)【発明者】
【氏名】ペレス-ヒメネス メルセデス エム.
(57)【要約】 (修正有)
【課題】タンパク質凝集性疾患の治療及び/又は予防に使用されるスルファターゼ阻害剤を含む組成物を提供する。
【解決手段】スルファターゼ阻害剤が下記式で表わされる化合物である、組成物による。
(式中、(d)R
1~R
6は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、スルファメート、アルキル及びそれらの塩から独立して選択され、(e)R
1~R
6の少なくとも1つがスルファメート基であり、2つ以上のR
1~R
6が連結して、追加の環状構造を形成する)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質凝集性疾患の治療及び/又は予防に使用されるスルファターゼ阻害剤を含む組成物であって、患者及び/又は動物において、アミロイド及び/又はオリゴマーが除去され、及び/又はそれらの形成が予防され、
前記スルファターゼ阻害剤が、式(I):
【化1】
(式中、
(d)R
1~R
6は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、スルファメート、アルキル及びそれらの塩から独立して選択され、
(e)R
1~R
6の少なくとも1つがスルファメート基であり、
2つ以上のR
1~R
6が連結して、追加の環状構造を形成する)の化合物である、組成物。
【請求項2】
前記スルファターゼ阻害剤がタンパク質凝集性疾患におけるタンパク質毒性を治療及び/又は予防する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記スルファターゼ阻害剤が、タンパク質凝集体の形成を阻害することによってタンパク質凝集性疾患の進行を遅らせる、及び/又は前記スルファターゼ阻害剤がタンパク質凝集体の形成を阻害することによってタンパク質凝集性疾患の発症を遅延する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記タンパク質凝集性疾患が中枢神経系局在型タンパク質凝集性疾患である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記アミロイド及び/又はオリゴマーの形成がアルツハイマー病、パーキンソン病又はハンチントン病の患者において予防されるか、又は前記タンパク質凝集性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病又はハンチントン病である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
R1及びR2が3個~10個の炭素を含む追加の環状構造を形成する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
R6がOSO2NH2である、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記スルファターゼ阻害剤が式(II):
【化2】
の化合物である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、請求物1~8のいずれか一項に記載のスルファターゼ阻害剤と、薬学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤とを含む医薬組成物である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が経口投与される、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
0.01mg/kg~100mg/kg、好ましくは0.01mg/kg~10mg/kg、より好ましくは0.05mg/kg~1mg/kgの用量が前記患者に投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物がドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン、レボドパ、カルビドパ及び/又はテトラベナジンとの併用療法で使用される、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
タンパク質凝集性疾患の治療及び/又は予防に使用される薬剤であって、該薬剤が、(i)スルファターゼ阻害剤と、(ii)薬学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤とを備えるキットを用いて製造され、
前記スルファターゼ阻害剤が、式(I):
【化3】
(式中、
(c)R
1~R
6は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、スルファメート、アルキル及びそれらの塩から独立して選択され、
(d)R
1~R
6の少なくとも1つがスルファメート基であり、
2つ以上のR
1~R
6が連結して、追加の環状構造を形成する)の化合物であり、
前記患者及び/又は動物において、アミロイド及び/又はオリゴマーが除去され、及び/又はそれらの形成が妨げられる、薬剤。
【請求項14】
前記スルファターゼ阻害剤が式(II):
【化4】
の化合物である、請求項13に記載の薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の分野に包含され、タンパク質凝集性疾患の治療及び/又は予防に使用される組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
生物の中で器官及び細胞が適切に機能することは、タンパク質の適切な機能に依拠している。タンパク質は、一次アミノ酸配列と、タンパク質ドメインを形成し、そして最重要なことにαヘリックス及びβシートを含む二次構造と、ポリペプチド鎖骨格及びアミノ酸側鎖の相互作用を伴う三次元のペプチド鎖の複雑な折り畳みの結果である三次構造とを有する生物学的実体である。一部のタンパク質はマルチサブユニット複合体ではたらき、複数のタンパク質を四次構造に配置することがそれらの適切な機能に重要となる。
【0003】
タンパク質が正しい三次元構造に折り畳まれないと、プロテオパチー(proteopathies
)と呼ばれる疾患(タンパク質凝集性疾患、タンパク質ミスフォールディング疾患、タンパク質症(proteinopathies)又はタンパク質立体構造障害と称されることもある)につ
ながる可能性がある。この失敗は、タンパク質の遺伝子における1つ以上の突然変異、又は酸化ストレス、アルカローシス、アシドーシス、pHシフト及び浸透圧ショック等の環境因子に起因する場合がある。タンパク質のミスフォールディングは、疾患を悪化させる可能性のあるアミロイドプラーク又はフィブリルへのクランピング(clumping)又は凝集につながることがある。プロテオパチーは、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病におけるハンチンチン等のポリグルタミン病、プリオン病);他の非神経系タンパク質(なかでもI1-アンチトリプシン、免疫グロブリン軽鎖及び重鎖、ラクタドヘリン、アポリポタンパク質、ゲルゾリン、リゾチーム、フィブリノゲン、心房性ナトリウム利尿因子、ケラチン、ラクトフェリン及びβ-2ミクログロブリン等)のアミロイドーシス;鎌状赤血球病;白内障;嚢胞性線維症;網膜色素変性症;並びに腎性尿崩症を含む幅広い苦痛を包含する。
【0004】
アミロイドーシスは、コンゴレッド親和性で緑色の複屈折性のフィブリル形態のタンパク質の病理学的沈着を指し、コンゴレッドで染色された場合、分散しているか、又は局在性アミロイドーマの形態である。かかる沈着物は、幾つかの疾患、例えばアルツハイマー病、炎症関連アミロイド(inflammation-associated amyloid)、II型糖尿病、ウシ海
綿状脳症(BSE)、クロイツフェルト-ヤコブ病(CJD)、スクレイピー及び原発性アミロイドーシスの症状である。
【0005】
アミロイドーシスは、一般的に、主要な全身性アミロイドーシス、主要な限局性アミロイドーシス、及び種々の(miscellaneous)アミロイドーシスの3つの群に分類される。
主要な全身性アミロイドーシスとしては、慢性炎症状態(例えば、結核、骨髄炎等);若年性関節リウマチ、強直性脊椎炎及びクローン病等の非感染性の状態;家族性地中海性熱、形質細胞異常増殖症(原発性アミロイドーシス)及び様々な家族性ポリニューロパチー及び心筋症が挙げられる。主要な限局性アミロイドーシスとしては、透析関連アミロイドーシス、アルツハイマー病、ダウン症候群、遺伝性脳出血(ダッチ)及び高齢者の非外傷性脳出血が挙げられる。種々のアミロイドーシスとしては、家族性ポリニューロパチー(アイオワ)、家族性アミロイドーシス(フィンランド)、遺伝性脳出血(アイスランド)、CJD、甲状腺の髄様癌、心房性アミロイド(atrial amyloid)及び糖尿病(インスリノーマ)が挙げられる。他のアミロイドーシスとしては、非特許文献1に参照されているものが挙げられる。
【0006】
CJD及びゲルストマン-ストロイスラー-シャインカー(GSS)病を引き起こす伝播性海綿状脳症は、非特許文献2によって、及び非特許文献3に記載されている。これらの疾患の多くは、感染性タンパク質であるプリオンによって媒介される可能性が高い。非特許文献4及びそこに含まれる参考文献を参照されたい。
【0007】
特定のフィブリルを排除しようとすることは、アミロイドーシスに関する重要な研究の目的であったが、成功はしていない。アミロイドーシスの現在の治療は、化学療法剤、又はメルファラン及びデキサメタゾン等のステロイドを含む。しかしながら、かかる治療は全ての患者に適したものではなく、特異性の欠如のために多くの場合に有効ではない(特許文献1)。同様に、アミロイドの形成に必ずしも関連していない他のプロテオパチーの治療の成功も限られていた。そのため、プロテオパチーを安全で効果的に治療又は予防することができる代替手段に対するニーズは大きい。
【0008】
本発明の発明者らは、この複雑な生物学的プロセスの理解を向上させるために、老化の遺伝的制御を支配する新たな要素を解明することに当初関心を持っていた。この目的のため、本発明者らは耐熱性突然変異体を単離し、不活性化点突然変異を含むsul-2遺伝子(カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)スルファターゼファミリーの3つの成員のうちの1つをコードする遺伝子)のアレルを同定した。本発明者らは、不活性化バージョンのsul-2遺伝子を保有するワーム(worms)が野生型よりも
長生きすることを見出した。
【0009】
スルファターゼは、種々の生物学的プロセスに関与する大きなタンパク質ファミリーであり、広い範囲の基質に影響を与える。スルファターゼ系統樹におけるsul-2のコロケーションは不確かである。しかしながら、哺乳動物のスルファターゼと比較すると、sul-2クラスターは、おそらく共通の祖先遺伝子に由来するH型、F型、E型、D型のアリールスルファターゼ及びC型ステロイドスルファターゼに近いものである。本発明者らは、sul-2は、硫酸化ステロイドホルモンを修飾することによって、その活性を発揮する可能性があると仮定した。
【0010】
ステロイドホルモンスルファターゼは、ホルモン依存性癌の増殖を刺激する等、種々のプロセスに関与する保存タンパク質である(非特許文献5)。このタイプの酵素に特異的な阻害剤が生成されており、その一つがSTX64である(非特許文献6)。STX64は、ホルモン依存性癌の患者を治療するために使用されている(非特許文献7)。本発明者らは、STX64で野生型ワームを処理し、sul-2突然変異体と同様の長寿効果を観察した。STX64はsul-2欠失突然変異体の長寿を更に増加させることはなかったが、STX64が長寿を増加させるメカニズムは、SUL-2のスルファターゼ活性を阻害することによるものであることを示した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2017/075540号
【特許文献2】国際公開第2014/154927号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Cecil's Textbook of Medicine 1504-6 (W.B. Saunders & Co., Philadelphia, Pa.; 1996のLouis W. Heck, "The Amyloid Diseases"
【非特許文献2】FIELD'S VIROLOGY 2845-49 (3rd Edition; Raven Publishers, Philadelphia, Pa.; 1996)のB. Chesebro et al., "Transmissible Spongiform Encephalopathies: A Brief Introduction"
【非特許文献3】FIELDS VIROLOGY (1996)のD. C. Gajdusek, "Infectious amyloids: Subacute Spongiform Encephalopathies as Transmissible Cerebral Amyloidoses," 2851-2900
【非特許文献4】FIELDS VIROLOGY 2901-50 (1996)のS. B. Prusineri, "Prions"
【非特許文献5】Mueller et al., 2015. Endocr Rev. 36(5):526-63
【非特許文献6】Nussbaumer & Billich, 2004. Med Res Rev. 24(4):529-76
【非特許文献7】Stanway et al., 2006. Clin Cancer Res. 12(5):1585-92
【発明の概要】
【0013】
驚くべきことに、本発明者らは、STX64が、C.エレガンス(C. elegans)パーキンソン病モデル、C.エレガンスハンチントン病モデル及びC.エレガンスアルツハイマー病モデルにおけるオリゴマー及び/又はアミロイドの形成を治療又は予防し得ることを見出した(
図1~
図6を参照されたい)。パーキンソン病、ハンチントン病及びアルツハイマー病において、病態形成は、タンパク質凝集体の産生及び/又は沈着によって駆動される(Murphy & Levine, 2010. J Alzheimers Dis. 19(1):311、Stefanis, 2012. Cold Spring Harb Perspect Med. 2(2): a009399、Daldin et al., 2017. Sci Rep. 7(1):5070
)。そのため、これらのモデルにおける凝集体種の治療又は予防は、STX64がこれらのタンパク質凝集性疾患の治療及び/又は予防に使用することができることに真実味を持たせている。STX64がβ-アミロイドプラークの形成を減少させ、β-アミロイドオリゴマーの海馬内投与によって及びアルツハイマー病のトランスジェニックマウスモデルにおいて誘発される認知障害を、元の状態に戻すことがわかったアルツハイマー病のマウスモデルで、これを確認した(
図7を参照されたい)。
【0014】
さらに、スルファターゼ遺伝子の不活性化突然変異を含むC.エレガンスは、同様に有害な凝集体を形成する傾向が低く、この効果がSTX64に関連するだけでなく、任意のスルファターゼ阻害剤に当てはめられることに真実味を持たせている。この予防/治療の効果が、有毒なタンパク質が筋細胞又はニューロン細胞で発現した3つの異なるタンパク質凝集性疾患のモデルで得られたという事実は、スルファターゼ阻害剤を任意のタンパク質凝集性疾患の治療及び/又は予防に使用することができることに真実味を持たせている。
【0015】
したがって、第1の態様において、本発明は、好ましくは患者及び/又は動物において、タンパク質凝集性疾患の治療及び/又は予防に使用されるスルファターゼ阻害剤を含む組成物を提供する。
【0016】
また、第2の態様において、本発明は、(i)スルファターゼ阻害剤と、(ii)薬学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤とを備える、タンパク質凝集性疾患を治療及び/又は予防する薬剤の製造に使用されるキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ステロイドホルモンスルファターゼ(STS)活性の低下は、C.エレガンスパーキンソン病モデル株NL5901(Van Ham et al., 2010. Cell 142: 601-612)におけるタンパク質毒性の症状を改善する。筋細胞にα-シヌクレインを発現する線虫は、老化するにつれて運動性(虫の頭部が体長軸を横切る1分あたりの回数(ピッチ(pitches))として測定される)の低下を起こすが、(A)線虫がsul-2(gk187)アレルを含む場合、及び(B)線虫がSTX64で処理される場合、その速度が低下する。n=20;
***はp<0.001を表す。
【
図2】ステロイドホルモンスルファターゼ(STS)活性の低下は、α-シヌクレインがC.エレガンスパーキンソン病モデル株NL5901(Van Ham et al., 2010.Cell 142: 601-612)で凝集する方法を変化させる。グラフは、YFPに融合したα-シヌクレインを発現する線虫、及び不活性sul-2アレル、すなわち、sul-2(gk187)を更に含む同じα-シヌクレインコンストラクトを発現する線虫の(A)凝集体の総数、(B)3μm以上の大きさの凝集体の数、及び(C)1μm以下の大きさの凝集体の数を示す。n=20;
***はp<0.001を表し、
*はp<0.05を表す。
【
図3】ステロイドホルモンスルファターゼ(STS)活性の低下は、α-シヌクレインがC.エレガンスパーキンソン病モデル株NL5901(Van Ham et al., 2010. Cell 142: 601-612)で凝集する方法を変化させる。グラフは、DMSOで処理されたYFPに融合したα-シヌクレインを発現する線虫、及びSTX64で更に処理された同じα-シヌクレインコンストラクトを発現する線虫の(A)凝集体の総数、(B)3μm以上の大きさの凝集体の数、及び(C)1μm以下の大きさの凝集体の数を示す。n=20;
***はp<0.001を意味し、
*はp<0.05を表す。
【
図4】ステロイドホルモンスルファターゼ(STS)活性の低下は、C.エレガンスパーキンソン病モデル株UA44(Cooper et al., 2006. Science 313: 324-328)におけるタンパク質毒性の症状を改善する。(A)ヒトα-シヌクレインを発現するGFP標識ドーパミン作動性ニューロンの生存率は、線虫が不活性なsul-2(gk187)アレルを含む場合に増加する。グラフは、線虫が野生型sul-2アレル又は不活性sul-2(gk187)アレルを含む場合、6日目の線虫において生存しているニューロンの数を表す。(B)9日目の野生型sul-2アレルを含む線虫、及び不活性sul-2(gk187)アレルを含む線虫の代表的な画像である。黒色矢印は、生存しているドーパミン作動性ニューロンを指し示す。n=37;p<0.0001。
【
図5】ステロイドホルモンスルファターゼ(STS)活性の低下は、C.エレガンスハンチントン病モデル株AM140(Morley et al. 2002. PNAS. 99: 10417-10422)におけるタンパク質毒性の症状を改善する。線虫はYFPに融合した35ポリグルタミンリピートを発現するように改変されており、成虫期の5日目に蛍光凝集体の数を数えた。(A)グラフは、sul-2の野生型アレルを含む線虫と、sul-2の不活性突然変異型アレルを含む線虫との比較を示す。(B)グラフは、sul-2の野生型アレルを含む線虫と、STX64で更に処理されたsul-2の野生型アレルを含む線虫との比較を示す。n=20;
***はp<0.001を表す。
【
図6】ステロイドホルモンスルファターゼ(STS)活性の低下は、C.エレガンスアルツハイマー病モデル株CL2006(Link, 1995. PNAS. 92: 9368-9372)におけるタンパク質毒性の症状を改善する。筋細胞でβ-アミロイドを発現する線虫は、老化するにつれて麻痺を起こすが、(A)線虫がsul-2(gk187)アレルを含む場合、及び(B)線虫がSTX64で処理される場合にはその速度が低下する。n=50;p<0.001。
【
図7】STX64治療は、アルツハイマー病マウスモデルにおけるβ-アミロイド沈着及び認知障害を緩和した。(A)海馬にβ-アミロイドオリゴマーを注射した野生型マウスの受動的回避試験におけるSTX64の海馬内投与及び経口投与の効果。各群のマウスの数は5匹より多かった。(B)代表的なβ-アミロイド免疫反応性画像を、3週間~4週間のビヒクル又はSTX64(飲用水中0.005mg/ml)の摂取後の15ヶ月齢を超えるAPP-PS1マウスの前頭皮質及び海馬で評定した。(C)~(E)、3週間~4週間にわたりSTX64又はビヒクルを経口投与した後の15ヶ月齢を超えるAPP-PS1マウスの前頭皮質及び海馬におけるβ-アミロイド面積のパーセント(C)、沈着密度(D)及び平均プラークサイズ(E)の定量。1群あたりn=4のマウス。(F)APP-PS1マウスにおけるβ-アミロイド沈着の経時変化、並びに前頭皮質及び海馬のβ-アミロイド面積に対する3週間~4週間のSTX64経口治療の効果。使用される顕微鏡写真の数はマウス1匹あたり3枚超であった。(G)15ヶ月齢を超えるAPP-PS1マウスにおけるSTX64による経口投与の効果、及び受動的回避試験における15ヶ月齢を超えるAPP-PS1マウスと野生型マウスとの比較。各群のマウスの数は5匹より多かった。組織学的解析において、
*は、ビヒクル及びSTX64を投与したAPP-PS1マウス間の統計学的有意差を表す。行動試験では、
*は、同じ実験群における、短期及び長期の記憶セッション(それぞれSTM及びLTM)と訓練セッションとの間の統計学的有意差を表し、+は、各実験群とβ-アミロイド群との間のSTM及びLTMのセッション間の統計学的有意差を表す。記号1つはp<0.05を表し、2つの記号の繰り返しはp<0.01を表し、3つの記号の繰り返しはp<0.001を表す。
【
図8】STX64は、ハンチントン病のマウスモデルにおける運動活性の悪化を予防した。1ヶ月齢のR6/1マウスを、STX64を含む飲用水又はビヒクルそれ自体で毎日治療した。2ヶ月齢の時点でマウスの運動活性を試験した。1群あたりのマウスn>5。結果は平均±SEMを表す。
*、p<0.05。
【
図9】アルツハイマー病モデル、すなわちGMC101株のC.エレガンス(McColl et al., 2012. Mol Neurodegener. 7:57)におけるSTX64とEMATEとの比較。(A)sul-2(gk187)欠失のバックグラウンドでは、麻痺したワームの数が減少した。グラフは、3つの生物学的複製物で得られた総数を示す(ワームn=100)。カイ二乗、両側、p値=0.0161。(B)1μg/mlのSTX64で処理すると、麻痺したワームの数が減少した。グラフは、3つの生物学的複製物で得られた総数を示す(ワームn>120)。カイ二乗、両側、p値=0.0014。(C)1μg/mlのEMATEで処理すると、麻痺したワームの数が減少した。グラフは、3つの生物学的複製物で得られた総数を示す(ワームn>117)。カイ二乗、両側、p値=0.0091。
【発明を実施するための形態】
【0018】
定義
「個体」、「患者」又は「被験体」という用語は、ヒトを特定するために本出願において区別なく使用され、決して限定することを意図するものではない。「個体」、「患者」又は「被験体」は、任意の年齢、性別及び身体状態であってもよい。本出願で使用される「動物」という用語は、ヒトではない任意の多細胞真核生物従属栄養体を指す。好ましい実施形態では、動物は、ネコ、イヌ、ブタ、フェレット、ウサギ、スナネズミ、ハムスター、モルモット、ウマ、ワーム、ラット、マウス、ウシ、ヒツジ、ヤギ、アルパカ、ラクダ、ロバ、ラマ、ヤク、キリン、ゾウ、ミーアキャット、キツネザル、ライオン、トラ、カンガルー、コアラ、コウモリ、サル、チンパンジー、ゴリラ、クマ、ジュゴン、マナティー、アザラシ及びサイからなる群から選択される。
【0019】
本明細書で使用される場合に、「薬学的に許容可能な担体」又は「薬学的に許容可能な希釈剤」は、医薬品投与と適合可能な任意の全ての溶剤、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤を意味する。「薬学的に許容可能な賦形剤」という用語は、医薬品の有効成分と一緒に配合される任意の物質を指し、長期安定化を目的として含まれ、強力な有効成分を少量含む固形製剤を増量するか、又は薬物吸収促進、粘度の低下若しくは溶解性の向上等の最終剤形において有効成分に治療の強化を与える。賦形剤は、製造プロセスにおいても有用であり得て、予想される貯蔵寿命にわたる変性又は凝集の防止等のin vitro安定性の補助に加えて、粉体の流動性又は非粘着性を促進すること等の関係する活性物質の取扱いを補助する。医薬品活性物質用のそのような媒体及び作用物質の使用は、当該技術分野でよく知られている。許容可能な担体、賦形剤又は安定剤は、使用される投与量及び濃度でレシピエントに対して非毒性であり、本発明の範囲を限定するものではないが、追加の緩衝剤、保存剤、共溶媒、アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤、EDTA等のキレート化剤、金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体)、ポリエステル類等の生分解性ポリマー、ナトリウム、多価糖アルコール等の塩形成対イオン、アラニン、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、リジン、オルニチン、ロイシン、2-フェニルアラニン、グルタミン酸及びトレオニン等のアミノ酸、ラクチトール、スタキオース、マンノース、ソルボース、キシロース、リボース、リビトール、ミオイニシトース(myoinisitose)、ミオイニシトール(myoinisitol)、ガラクトース、ガラクチトール、グリセロール、シクリトール類(例
えば、イノシトール)、ポリエチレングリコール等の有機糖類又は糖アルコール、尿素、
グルタチオン、チオクト酸、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリセロール、α-モノチオグリセロール及びチオ硫酸ナトリウム等の硫黄含有還元剤、ヒト血清アルブミン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン又は他の免疫グロブリン等の低分子量タンパク質、並びにポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーが挙げられる。Remington: The Science and Practice of Pharmacy 22nd edition, Pharmaceutical press (2012), ISBN-13: 9780857110626に記載されるようなその他の薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は安定剤が含まれて
いてもよい。
【0020】
本出願で使用される「治療」及び「療法」という用語は、疾患及び/又は症状を治癒及び/又は緩和する目的と共に健康上の問題の改善を目標として使用される一連の衛生的手段、薬理学的手段、外科的手段及び/又は物理的手段を指す。「治療」及び「療法」という用語には、予防法及び治癒法が含まれる。それというのも、両者とも個体又は動物の健康の維持及び/又は回復に向けられるからである。症状、疾患及び廃疾の原因にかかわらず、健康上の問題を軽減及び/又は治癒するために適した医薬の投与は、本出願の文脈内の治療又は療法の形として解釈されるべきである。
【0021】
本出願で使用される「予防」という用語は、疾患及び/又は症状の始まり及び/又は発症を予防するために使用される一連の衛生的手段、薬理学的手段、外科的手段及び/又は物理的手段を指す。「予防」という用語は、これらが動物又は個体の健康を維持するために使用されることから、予防的方法を包含する。
【0022】
「スルファターゼ阻害剤」という用語は、硫酸エステルの加水分解を触媒するエステラーゼクラスの酵素の活性を低下させることができる任意の物質を指す。この物質は、次の要素:スルファターゼ酵素をコードする遺伝子、該遺伝子の転写因子、該遺伝子の発現産物のいずれか、例えば、これらに限定されるものではないが、メッセンジャーRNA又はスルファターゼ酵素のいずれかに結合する分子であって、それが結合する分子の発現及び活性、及び/又はその細胞内若しくは細胞外シグナル伝達を低下させる又は阻害することで、スルファターゼ酵素の活性の完全阻害又は部分的阻害をもたらす分子であり得る。阻害剤は、これらに限定されるものではないが、スルファターゼ酵素に対する拮抗剤(好ましくは化学物質(chemical))、サイレンシングRNA又はスルファターゼ酵素に対する特異的抗体(好ましくは、抗体はモノクローナルである)からなる一覧から選択することができ、本発明では、この抗体は、スルファターゼ酵素の効果に対する中和抗体として定義され得る。スルファターゼ酵素の活性の化学的阻害剤の例は、これらに限定されるものではないが、2-(ヒドロキシフェニル)インドールスルフェート(2-(hydroxyphenyl) indol sulfate)の一連のもの等の代替の基質、5-アンドロステン-3β,17β-ジ
オール-3スルフェート等のSTSに対して阻害活性を示す合成若しくは天然のステロイド、E1-MTP若しくはEMATE等の競合阻害剤、DU-14(CAS番号:186303-55-9)、COUMATE(4-メチルクマリン-7-O-スルファメート)若しくはSTX64(すなわち、式(II)の化合物)等の非エストロゲン性阻害剤、又はスルファターゼ酵素に対するIC50が様々な研究(Purohit & Foster, 2012, J. Endocrinol., 212(2):99-110)で求められているKW-2581若しくはSTX213等の
その他のものである。
【0023】
「ステロイドホルモンスルファターゼ」(「STS」)という用語はステロイドの代謝に関与する任意のスルファターゼ酵素を指す。特に、該酵素は、硫酸化ステロイド前駆物質の遊離ステロイドへの変換を触媒する。ヒトに見られる例示的なSTSは配列決定され、特性評価されて、データは、アクセッション番号P08842でUniProtKBデータベースに寄託されている。「ステロイドホルモンスルファターゼ阻害剤」という用語は、ステロイドホルモンスルファターゼの活性を低下させることができる任意の物質を指す。該物質は、次の要素:STS酵素をコードする遺伝子、該遺伝子の転写因子、該遺伝
子の発現産物のいずれか、例えば、これらに限定されるものではないが、メッセンジャーRNA又はSTS酵素のいずれかに結合する分子であって、それが結合する分子の発現及び活性、及び/又はその細胞内シグナル伝達を低下させる又は阻害することで、STS酵素の活性の完全阻害又は部分的阻害をもたらす分子であり得る。阻害剤は、これらに限定されるものではないが、STS酵素に対する拮抗剤(好ましくは化学物質)、サイレンシングRNA又はSTS酵素に対する特異的抗体(好ましくは、抗体はモノクローナルである)からなる一覧から選択することができ、本発明では、この抗体は、STS酵素の効果に対する中和抗体として定義され得る。STS酵素の活性の化学的阻害剤の例は、これらに限定されるものではないが、2-(ヒドロキシフェニル)インドールスルフェート(2-(hydroxyphenyl) indol sulfate)の一連のもの等の代替の基質、5-アンドロステン-
3β,17β-ジオール-3スルフェート等のSTSに対して阻害活性を示す合成若しくは天然のステロイド、E1-MTP若しくはEMATE等の競合阻害剤、DU-14、COUMATE(4-メチルクマリン-7-O-スルファメート)若しくはSTX64(すなわち、式(II)の化合物)等の非エストロゲン性阻害剤、又はスルファターゼ酵素に対するIC50が様々な研究(Purohit & Foster, 2012, J. Endocrinol., 212(2):99-110)で求められているKW-2581又はSTX213等のその他のものである。
【0024】
「タンパク質凝集性疾患」、「プロテオパチー」、「タンパク質症」又は「タンパク質ミスフォールディング疾患」という用語は、或る特定のタンパク質が構造に異常をきたし、それによって身体の細胞、組織及び器官の機能を妨害する任意の疾患を指す。多くの場合、タンパク質は正常な形状に折り畳むことができず、このミスフォールドされた状態では、タンパク質は何らかの形で有毒になるか、又は正常な機能を失う可能性がある。タンパク質凝集性疾患の非限定的な例としては、全身性ALアミロイドーシス、アルツハイマー病、2型糖尿病、パーキンソン病、伝播性海綿状脳症、例えばウシ海綿状脳症、致死性家族性不眠症、ハンチントン病、甲状腺の髄様癌、心臓不整脈、アテローム性動脈硬化症、関節リウマチ、大動脈中膜アミロイド、プロラクチノーマ、家族性アミロイドポリニューロパチー、遺伝性非神経障害性全身性アミロイドーシス、透析関連アミロイドーシス、フィンランドアミロイドーシス、格子状角膜ジストロフィー、脳アミロイド血管症、脳アミロイド血管症(アイスランド型)、散発性封入体筋炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、クロイツフェルト・ヤコブ等のプリオン関連又は海綿状の脳症、レビー小体を伴う認知症、パーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症、脊髄小脳失調症、脊髄小脳失調症、球脊髄性筋萎縮、遺伝性歯状核赤核-淡蒼球ルイ体萎縮症、家族性英国認知症、家族性デンマーク認知症、II型糖尿病等における非神経障害性限局性疾患(Non-neuropathic localized diseases)、甲状腺の髄様癌、心房アミロイドーシス、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血、下垂体プロラクチノーマ、注射限局性アミロイドーシス(Injection-localized amyloidosis)、大動脈中膜アミロイドーシス、遺伝性格子状角膜ジストロフィー、睫
毛乱生に関連する角膜アミロイドーシス、白内障、歯原性石灰化上皮腫、肺胞タンパク症、封入体筋炎、皮膚苔癬アミロイドーシス、及びALアミロイドーシス、AAアミロイドーシス、家族性地中海熱、老人性全身性アミロイドーシス、家族性アミロイドポリニューロパチー、血液透析関連アミロイドーシス、ApoAIアミロイドーシス、ApoAIIアミロイドーシス、ApoAIVアミロイドーシス、フィンランド遺伝性アミロイドーシス、リゾチームアミロイドーシス、フィブリノゲンアミロイドーシス、アイスランド遺伝性脳アミロイド血管症、家族性アミロイドーシス等の非神経障害性全身性アミロイドーシス、及び軽鎖アミロイドーシス等の複数の組織で起こる全身性アミロイドーシス、並びに他の様々な神経変性障害が挙げられる。
【0025】
「タンパク質凝集体」という用語は、異常に折り畳まれたタンパク質の任意の蓄積を指し、タンパク質凝集性疾患の負の進行(negative progression)を引き起こす及び/又はそれに関連している。
【0026】
「アミロイド」という用語は、凝集体がコンゴレッドを結合する分岐していない線維を形成し、次いで交差した偏光子間を見た場合に緑色の複屈折を示すタンパク質凝集体の形態を指す(例えば、Eisenberg & Jucker, 2012. Cell. 148(6):1188-203及びSipe et al., 2012. Amyloid. 19(4):167-70を参照されたい)。
【0027】
「オリゴマー」という用語は、異常に折り畳まれたタンパク質の任意の蓄積を指し、タンパク質凝集性疾患の負の進行を引き起こし及び/又はそれと関連しており、アミロイドの定義を満たさない。例えば、ポリグルタミンオリゴマーがハンチントン病の負の進行を引き起こし及び/又はそれと関連する(Hoffner & Dijan, 2014. Brain Sci. 4(1): 91-122を参照されたい)。
【0028】
組成物及びキット
第1の態様において、本発明は、タンパク質凝集性疾患の治療及び/又は予防に使用されるスルファターゼ阻害剤を含む組成物を提供する。
【0029】
第2の態様において、本発明は、(i)スルファターゼ阻害剤と、(ii)薬学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤とを備える、タンパク質凝集性疾患を治療及び/又は予防する薬剤の製造に使用されるキットを提供する。好ましい実施形態では、キットは、薬学的に許容可能な賦形剤を更に含む。
【0030】
本発明のキット及び組成物に好ましい実施形態が以下に提供される。
【0031】
スルファターゼ阻害剤
好ましい実施形態では、スルファターゼ阻害剤は、ステロイドホルモンスルファターゼ阻害剤である。好ましくは、ステロイドホルモンスルファターゼ阻害剤は、2-(ヒドロキシフェニル)インドールスルフェート(2-(hydroxyphenyl) indol sulfate)、DU-
14、5-アンドロステン-3β,17β-ジオール-3スルフェート、E1-MTP、EMATE、COUMATE、STX64、KW-2581、STX213、モルホリン、サイレンシングRNA及びSTS酵素に対する特異的抗体からなる一覧から選択される。
【0032】
好ましい実施形態では、スルファターゼ阻害剤又はステロイドホルモンスルファターゼ阻害剤は、式(I):
【化1】
(式中、
(a)R
1~R
6は、水素、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素又はアスタチン)、ヒドロキシル、スルファメート(OSO
2NH
2)、アルキル及びそれらの塩から独立して選択され、
(b)R
1~R
6の少なくとも1つがスルファメート基であり、
2つ以上のR
1~R
6が連結して、追加の環状構造を形成する)の化合物である。
【0033】
好ましい実施形態では、R1及びR2は、3個~10個の炭素を含む追加の環状構造を形成する。好ましい実施形態では、R6はOSO2NH2である。好ましい実施形態では
、アルキルは、C1~C6アルキルである。
【0034】
好ましい実施形態では、スルファターゼ阻害剤は、式(II):
【化2】
の化合物である。
【0035】
上記式(I)及び式(II)の化合物の合成方法は、国際公開第97/30041号に開示されている。
【0036】
タンパク質凝集性疾患
アミロイド及びオリゴマー等のタンパク質凝集体は、多くの疾患と関連付けられている。場合によっては、これらのタンパク質凝集体は有毒になり、細胞及び組織に重大な損傷を引き起こす可能性がある。この毒性は、タンパク質凝集性疾患の病態を引き起こす及び/又はそれに寄与する寄与要因の一つであると考えられている。
【0037】
さらに、タンパク質凝集性疾患につながるタンパク質の異常なプロセシング及び折り畳みは、タンパク質凝集性疾患の外見的な症状を観察することができる数十年前に開始している可能性がある(Jack et al., 2010. Lancet Neurol. 9(1):119-28)。そのため、好
ましい実施形態では、本発明の組成物のいずれか1つを投与した結果として患者及び/又は動物において、アミロイド及び/又はオリゴマーが除去され、及び/又はそれらの形成が予防される。さらに、好ましい実施形態では、スルファターゼ阻害剤はタンパク質凝集性疾患におけるタンパク質毒性を治療及び/又は予防する。「タンパク質毒性」という用語は、タンパク質のミスフォールディングによって引き起こされる細胞機能の任意の機能障害を指す。
【0038】
タンパク質凝集体の形成を直接標的とすることにより、本発明の組成物及びキットは、タンパク質凝集性疾患の初期段階にあるが、まだ何らの外見上の症状も示していない患者及び/又は動物においてタンパク質凝集性疾患を治療及び/又は予防することができる。さらに、本発明の組成物及びキットはまた、実施例2、並びに
図7F及び
図7Gに示されるように、進行期のタンパク質凝集性疾患を治療する。
【0039】
好ましい実施形態では、患者及び/又は動物は、タンパク質凝集を引き起こす病態生理学的変化を経たが、外見上の症状が観察可能な疾患の段階にまだ達していない。言い換えれば、患者及び/又は動物は疾患の初期段階にある。「外見上の症状」という用語は、任意の非侵襲的な手法を用いて医師が観察することができる任意の症状を指す。
【0040】
好ましい実施形態では、スルファターゼ阻害剤が、タンパク質凝集体の形成を阻害することによってタンパク質凝集性疾患の進行を遅らせる、及び/又はスルファターゼ阻害剤が、タンパク質凝集体の形成を阻害することによってタンパク質凝集性疾患の発症を遅延させる。
【0041】
好ましい実施形態では、タンパク質凝集性疾患は、全身性ALアミロイドーシス、アルツハイマー病、2型糖尿病、パーキンソン病、伝播性海綿状脳症、例えばウシ海綿状脳症
、致死性家族性不眠症、ハンチントン病、甲状腺の髄様癌、心臓不整脈、アテローム性動脈硬化症、関節リウマチ、大動脈中膜アミロイド、プロラクチノーマ、家族性アミロイドポリニューロパチー、遺伝性非神経障害性全身性アミロイドーシス、透析関連アミロイドーシス、フィンランドアミロイドーシス、格子状角膜ジストロフィー、脳アミロイド血管症、脳アミロイド血管症(アイスランド型)、散発性封入体筋炎、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、クロイツフェルト・ヤコブ等のプリオン関連又は海綿状の脳症、レビー小体を伴う認知症、パーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症、脊髄小脳失調症、脊髄小脳失調症、球脊髄性筋萎縮、遺伝性歯状核赤核-淡蒼球ルイ体萎縮症、家族性英国認知症、家族性デンマーク認知症、II型糖尿病等における非神経障害性限局性疾患、甲状腺の髄様癌、心房アミロイドーシス、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血、下垂体プロラクチノーマ、注射限局性アミロイドーシス、大動脈中膜アミロイドーシス、遺伝性格子状角膜ジストロフィー、睫毛乱生に関連する角膜アミロイドーシス、白内障、歯原性石灰化上皮腫、肺胞タンパク症、封入体筋炎、皮膚苔癬アミロイドーシス、及びALアミロイドーシス、AAアミロイドーシス、家族性地中海熱、老人性全身性アミロイドーシス、家族性アミロイドポリニューロパチー、血液透析関連アミロイドーシス、ApoAIアミロイドーシス、ApoAIIアミロイドーシス、ApoAIVアミロイドーシス、フィンランド遺伝性アミロイドーシス、リゾチームアミロイドーシス、フィブリノゲンアミロイドーシス、アイスランド遺伝性脳アミロイド血管症、家族性アミロイドーシス等の非神経障害性全身性アミロイドーシス、及び軽鎖アミロイドーシス等の複数の組織で起こる全身性アミロイドーシス、並びに他の様々な神経変性障害からなる一覧から選択される。好ましくは、タンパク質凝集性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病及びハンチントン病からなる一覧から選択される。好ましい実施形態では、タンパク質凝集性疾患は、アルツハイマー病及び/又は癌の一種ではない。
【0042】
好ましい実施形態では、タンパク質凝集性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病及びハンチントン病からなる一覧から選択される。好ましい実施形態では、アルツハイマー病、パーキンソン病又はハンチントン病の患者において、アミロイド及び/又はオリゴマーが除去され、及び/又はそれらの形成が予防される。
【0043】
好ましい実施形態では、タンパク質凝集性疾患は中枢神経系局在型タンパク質凝集性疾患である。好ましい実施形態では、タンパク質凝集性疾患は神経変性疾患でもある。「神経変性疾患」という用語は、ニューロンの死を含むニューロンの構造又は機能の進行性喪失を特徴とする任意の障害を指す。例えば、アルツハイマー病はタンパク質凝集性疾患の一例であり、神経変性疾患の一例である。
【0044】
スルファターゼ阻害剤とタンパク質凝集性疾患との組み合わせの実施形態
好ましい実施形態では、スルファターゼ阻害剤は、2-(ヒドロキシフェニル)インドールスルフェート(2-(hydroxyphenyl) indol sulfate)、5-アンドロステン-3β、
DU-14、17β-ジオール-3スルフェート、E1-MTP、EMATE、COUMATE、STX64、KW-2581、STX213、モルホリン、サイレンシングRNA及びSTS酵素に対する特異的抗体からなる一覧から選択されるか、又はスルファターゼ阻害剤は、式(I):
【化3】
(式中、
(a)R
1~R
6は、水素、ハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素又はアスタチン)、ヒドロキシル、スルファメート(OSO
2NH
2)、アルキル及びそれらの塩から独立して選択され、
(b)R
1~R
6の少なくとも1つがスルファメート基であり、
2つ以上のR
1~R
6が連結して、追加の環状構造を形成する)の化合物であり、タンパク質凝集性疾患は、アルツハイマー病、ハンチントン病、及びパーキンソン病からなる一覧から選択される。
【0045】
好ましい実施形態では、スルファターゼ阻害剤はSTX64(すなわち、式(II)の化合物)であり、タンパク質凝集性疾患は、アルツハイマー病、ハンチントン病及びパーキンソン病からなる一覧から選択される。好ましい実施形態では、スルファターゼ阻害剤はSTX64であり、タンパク質凝集性疾患はアルツハイマー病である。好ましい実施形態では、スルファターゼ阻害剤はSTX64であり、タンパク質凝集性疾患はハンチントン病である。好ましい実施形態では、スルファターゼ阻害剤はSTX64であり、タンパク質凝集性疾患はパーキンソン病である。
【0046】
医薬組成物
好ましい実施形態では、組成物は、薬学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤を更に含む医薬組成物である。好ましくは、医薬組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤を更に含んでもよい。
【0047】
本明細書に記載される医薬組成物は、その他の物質も含有し得る。これらの物質としては、限定されるものではないが、凍結保護剤、凍結乾燥保護剤、界面活性剤、増量剤、酸化防止剤及び安定剤が挙げられる。幾つかの実施形態では、医薬組成物は凍結乾燥されていてもよい。
【0048】
本明細書で使用される「凍結保護剤」という用語は、凍結誘導ストレスに対して組成物に安定性を与える作用物質を含む。凍結保護剤は、一次乾燥及び二次乾燥並びに長期産物貯蔵の間の保護も提供し得る。凍結保護剤の非限定的な例としては、スクロース、グルコース、トレハロース、マンニトール、マンノース及びラクトース等の糖類、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン及びポリエチレングリコール等のポリマー、ポリソルベート等の界面活性剤(例えば、PS-20又はPS-80)並びにグリシン、アルギニン、ロイシン及びセリン等のアミノ酸が挙げられる。生物系における毒性が低い凍結保護剤が一般的に使用される。
【0049】
1つの実施形態では、凍結乾燥保護剤が本明細書に記載される医薬組成物に添加される。本明細書で使用される「凍結乾燥保護剤」という用語は、凍結乾燥又は脱水過程(一次凍結乾燥サイクル及び二次凍結乾燥サイクル)の間に組成物に安定性を与える作用物質を含む。凍結乾燥保護剤は、凍結乾燥サイクルの間の産物の分解を最小限にして長期産物安定性を改善するのを助ける。凍結乾燥保護剤の非限定的な例としては、スクロース又はトレハロース等の糖類、グルタミン酸モノナトリウム、非結晶性グリシン又はヒスチジン等のアミノ酸、ベタイン等のメチルアミン、硫酸マグネシウム等のリオトロピック塩、三価以上の糖アルコール、例えばグリセリン、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール及びマンニトール等のポリオール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プルロニック(登録商標)類及びそれらの組み合わせが挙げられる。医薬組成物に添加される凍結乾燥保護剤の量は一般に、医薬組成物が凍結乾燥されたときに、許容することができない量の分解をもたらさない量である。
【0050】
幾つかの実施形態では、増量剤が医薬組成物に含まれる。本明細書で使用される「増量
剤」という用語は、医薬製品と直接的に相互作用せずに凍結乾燥産物の構造をもたらす作用物質を含む。薬学的に洗練されたケークを提供することに加えて、増量剤はまた、崩壊温度の変更、凍結融解保護の提供及び長期貯蔵にわたる安定性の向上に関して有用な品質を与えることもできる。増量剤の非限定的な例としては、マンニトール、グリシン、ラクトース及びスクロースが挙げられる。増量剤は結晶性(例えば、グリシン、マンニトール又は塩化ナトリウム)又は非晶質(例えば、デキストラン、ヒドロキシエチルデンプン)であってもよく、一般的に製剤中で0.5%~10%の量で使用される。
【0051】
Remington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed. (1980)又はRemington: The Science and Practice of Pharmacy 22nd edition, Pharmaceutical press (2012), ISBN-13: 9780857110626に記載されているもの等の他の薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は安定剤もまた、医薬組成物の所望の特徴に悪影響を与えない限り、本明細書に記載の医薬組成物に含まれ得る。
【0052】
固体医薬組成物には、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、滑石、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等を含む従来の非毒性固体担体を使用することができる。注射用溶液については、医薬組成物は凍結保護剤、凍結乾燥保護剤、界面活性剤、増量剤、酸化防止剤、安定剤及び薬学的に許容可能な担体を更に含んでいてもよい。エアロゾル投与については、医薬組成物は概して、界面活性剤及び噴射剤と共に微粉化形態で供給される。界面活性剤は、当然ながら非毒性でなくてはならず、概して噴射剤に可溶である。かかる作用物質の代表的なものは、カプロン酸、オクタン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸、オレステリン(olesteric)酸及びオレイン酸
等の6個~22個の炭素原子を含有する脂肪酸と脂肪族多価アルコール又はその環状無水物とのエステル又は部分エステルである。混合又は天然グリセリド等の混合エステルを用いることができる。例えば鼻腔内送達用のレシチンのように、担体が必要に応じて含まれていてもよい。坐剤については、従来の結合剤及び担体は、例えばポリアルカレン(polyalkalene)グリコール又はトリグリセリドを含み得る。
【0053】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、経口、舌下、頬側、鼻腔内、静脈内、筋肉内、腹腔内及び/又は吸入によって媒介される投与に対して調製される。
【0054】
投与
本発明の組成物は、当業者に知られている任意の経路を用いて投与され得る。好ましい実施形態では、本発明の組成物は、経皮、舌下、静脈内、鼻腔内、脳室内、動脈内、脳内、筋肉内、腹腔内、経口又は吸入によって投与される。
【0055】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、経皮、舌下、静脈内、腹腔内、経口又は吸入によって投与される。組成物が吸入によって投与される場合、組成物は、エアロゾル化され、例えば麻酔マスクを介して投与され得る。
【0056】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、経皮、舌下、静脈内、皮下、経口又は吸入によって投与される。好ましくは、組成物は経口又は舌下で投与される。
【0057】
好ましい実施形態では、組成物は、治療有効量のスルファターゼ阻害剤を含む。「治療有効量」という用語は、治療効果を有し、タンパク質凝集性疾患を治療及び/又は予防することができる組成物中のスルファターゼ阻害剤の量を指す。好ましい実施形態では、0.01mg/kg~100mg/kgの用量のスルファターゼ阻害剤が患者に投与される。好ましくは、0.01mg/kg~10mg/kgの用量が患者に投与される。より好ましくは、0.05mg/kg~1mg/kgの用量が患者に投与される。
【0058】
好ましい実施形態では、組成物は、タンパク質凝集性疾患の治療及び/又は予防に一般的に使用される任意の他の治療又は療法との併用療法で使用される。好ましい実施形態では、組成物は、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン、レボドパ、カルビドパ及び/又はテトラベナジンとの併用療法において使用される。
【0059】
本発明の組成物は、1回又は2回以上投与され得る。当業者は、患者に対して最も有効な投薬レジメンを確認することができる。例えば、最も有効な投薬レジメンは、組成物を1日2回、1日1回、3日に1回、週1回、月1回、3ヶ月に1回、6ヶ月に1回又は毎年1回患者に投与するものであり得る。
【0060】
以下の項が本発明に包含される。
[1]タンパク質凝集性疾患の治療及び/又は予防に使用されるスルファターゼ阻害剤を含む組成物であって、好ましくは、
(i)患者及び/又は動物において、アミロイド及び/又はオリゴマーが除去され、及び/又はそれらの形成が予防され、及び/又は、
(ii)上記スルファターゼ阻害剤がタンパク質凝集性疾患におけるタンパク質毒性を治療及び/又は予防する、組成物。
[2]上記スルファターゼ阻害剤が、タンパク質凝集体の形成を阻害することによってタンパク質凝集性疾患の進行を遅らせる、及び/又は上記スルファターゼ阻害剤がタンパク質凝集体の形成を阻害することによってタンパク質凝集性疾患の発症を遅延する、項[1]に記載の使用のための組成物。
[3]上記タンパク質凝集性疾患が中枢神経系局在型タンパク質凝集性疾患である、項[1]又は[2]に記載の使用のための組成物。
[4]アルツハイマー病、パーキンソン病又はハンチントン病の患者において、アミロイド及び/又はオリゴマーが除去され、及び/又はそれらの形成が予防されるか、又は上記タンパク質凝集性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病又はハンチントン病である、項[1]~[3]のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
[5]上記スルファターゼ阻害剤が、式(I):
【化4】
(式中、
(a)R
1~R
6は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、スルファメート、アルキル及びそれらの塩から独立して選択され、
(b)R
1~R
6の少なくとも1つがスルファメート基であり、
(c)2つ以上のR
1~R
6が連結して、追加の環状構造を形成する)の化合物である、項[1]~[4]のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
[6]R
1及びR
2が3個~10個の炭素を含む追加の環状構造を形成する、項[5]に記載の使用のための組成物。
[7]R
6がOSO
2NH
2である、項[5]又は[6]に記載の使用のための組成物。
[8]上記スルファターゼ阻害剤が式(II):
【化5】
の化合物である、項[5]~[7]のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
[9]上記組成物が、項[1]~[8]のいずれか一項に記載のスルファターゼ阻害剤と、薬学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤とを含む医薬組成物である、項[1]~[8]のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
[10]上記組成物が経口投与される、項[1]~[9]のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
[11]0.01mg/kg~100mg/kg、好ましくは0.01mg/kg~10mg/kg、より好ましくは0.05mg/kg~1mg/kgの用量が上記患者に投与される、項[1]~[10]のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
[12]上記組成物がドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン、レボドパ、カルビドパ及び/又はテトラベナジンとの併用療法で使用される、項[1]~[11]のいずれか一項に記載の使用のための組成物。
[13](i)スルファターゼ阻害剤と、(ii)薬学的に許容可能な担体及び/又は希釈剤とを備える、タンパク質凝集性疾患を治療及び/又は予防する薬剤の製造に使用されるキット。
[14]上記スルファターゼ阻害剤が、式(I):
【化6】
(式中、
(a)R
1~R
6は、水素、ハロゲン、ヒドロキシル、スルファメート、アルキル及びそれらの塩から独立して選択され、
(b)R
1~R
6の少なくとも1つがスルファメート基であり、
2つ以上のR
1~R
6が連結して、追加の環状構造を形成する)の化合物である、項[13]に記載の使用のためのキット。
[15]上記スルファターゼ阻害剤が式(II):
【化7】
の化合物である、項[14]に記載の使用のためのキット。
【実施例0061】
sul-2(gk187)ノックアウトアレル(ワームベースID:WBVar00145594)を含むC.エレガンスを、C.エレガンス遺伝子ノックアウトコンソーシアム(The C. elegans Deletion Mutant Consortium, 2012. G3: GENES, GENOMES, GENETICS. 2(11):1415-1425)によって生成し、カエノラブディティス遺伝子センター(https://cbs.umn.edu/cgc/home)に寄託した。sul-2(gk187)アレルは、スルファターゼの触媒コアを含む131個のアミノ酸の欠失からなる。欠失はフレームシフトを生成し、元の配列の最初の4つのアミノ酸のみが保存されている。したがって、本発明者らは、sul-2(gk187)を、sul-2のヌル突然変異型アレルと見なしている。突然変異病変はワームベース(http://www.wormbase.org/species/c_elegans/variation/WBVar00145594#02-45-3)で利用可能である。
【0062】
実施例1:神経変性疾患の線虫モデルに対するSTX64の効果
パーキンソン病のC.エレガンスモデル:本発明者らは、sul-2突然変異又はDMSOに溶解した1μg/ml濃度のSTX64(Sigmaのカタログ番号S1950)治療
が、筋細胞におけるヒトα-シヌクレインの過剰発現によって引き起こされる症状を改善するかどうかを試験した(使用したモデルに関する情報については、以下の参考文献を参照されたい:van Ham et al., 2008. PLoS Genet. 4(3):e1000027、Gidalevitz et al., 2009. PLoS Genet. 5(3):e1000399、van Ham et al., 2010. Cell. 142(4):601-12)。具体的には、線虫を20℃で同期させ、2日毎にモニタリングした。モニタリングの各日に、線虫を1滴のM9バッファに入れ、30秒間適応させた後に、線虫の頭部が軸(axial axis)を横切るとピッチが起こると仮定して1分間のピッチの数を数えた。アッセイした各日及び条件に対してN=20(このプロトコルはVan Ham et al., 2010. Cell. 142: 601-612から適応させた)。
図1A及び
図1Bに見られるように、sul-2突然変異又はSTX64による治療は、運動性を有意に改善した。
【0063】
さらに、本発明者らは、sul-2欠失及びSTX64の投与がα-シヌクレインの凝集に及ぼす影響を試験した。凝集体を定量するため、2%アガロースを含むパッドに動物を移し、25mMレバミゾールを使用して固定した。α-シヌクレイン凝集体の数を、第1咽頭球(first bulb pharyngeal)から第2球まで、40倍の倍率で蛍光凝集体を数え
ることによって求めた。SUL-2の機能の喪失又は阻害は、α-シヌクレインのより大きな凝集体の数を増加させる一方で、より小さな凝集体の数を減少させ(
図2及び
図3を参照されたい)、このことは、STS活性が低下した動物におけるタンパク質凝集体のより良好な取り扱いを示唆した(Roberts & Brown, 2015. Biomolecules. 5(2):282-305、Moll et al., 2016. FASEB J. 30(4):1656-69)。
【0064】
GFP標識ドーパミン作動性ニューロンにおいてα-シヌクレインを発現するパーキンソン病の代替C.エレガンスモデルでは、α-シヌクレイン毒性のためにドーパミン作動性ニューロンが死滅することがわかった(Cooper et al., 2006. Science. 313(5785):324-8)。以前の知見と一致して、sul-2突然変異体はニューロン生存率の増加を示し
(
図4を参照されたい)、STS活性を低下させる神経保護作用を示す。
【0065】
ハンチントン病のC.エレガンスモデル:蛍光タンパク質に融合した35個のポリグルタミン(polyQ)リピートを発現するハンチントン病モデルにおいて、本発明者らは、sul-2突然変異及びDMSOに溶解した1μg/ml濃度のSTX64の投与の両方が凝集体の総数を減少させることを見出した(
図5を参照されたい)。凝集体を定量するため、2%アガロースを含むパッドに動物を移し、25mMレバミゾールを使用して固定した。polyQ凝集体の数を、第1咽頭球から第2球まで、10倍の倍率で蛍光凝集体を数えることによって求めた。
【0066】
アルツハイマー病のC.エレガンスモデル:本発明者らはまた、線虫が老化するにつれ
て麻痺を引き起こす筋細胞においてβ-アミロイドタンパク質を発現するアルツハイマー病モデルを試験した。線虫を20℃で同期させた。線虫を白金ピックで刺激した後に動きがなくなるかどうかを観察することにより、成虫期の1日目から麻痺をモニタリングした。加えて、麻痺した線虫を追跡するために、本発明者らは、麻痺が食物の移動を妨げることから、どの線虫が頭部の周辺に細菌ハローを持っていたかを視覚化した。本発明者らの以前のデータと一致して、sul-2突然変異及びSTX64治療は麻痺を遅らせた(
図6を参照されたい)。
【0067】
実施例2:神経変性疾患の哺乳動物モデルに対するSTX64の効果
マウス系統及び条件:この研究で使用された雄性のSwiss(CD1)及びAPP-PS1(Blanchard et al., 2003. Exp Neurol. 184(1):247-63)のマウスを、認定され
た提供者(スペイン国、セビリア大学)から購入し、2週間~3週間(12時間の明暗サイクル、温度及び湿度)の標準的な動物飼育条件に慣らした。行動研究を、8週齢のSwissマウス、及び15ヶ月齢を超えるC57BlackバックグラウンドのAPP-PS1マウスを用いて行った。組織学的研究には、2ヶ月齢~15ヶ月齢を超える雄性APP-PS1マウスを使用した。全ての実験を欧州連合のガイドライン(2010/63/EU)及び慢性的な実験での実験動物の使用に関するスペインの規制(実験動物の飼育に関するRD53/2013:BOE08/02/2013)に従って行い、この研究の実施に先立ってパブロ・デ・オラヴィーデ大学動物飼育委員会の承認を得た。
【0068】
マウス局所薬物注入:マウスを4%抱水クロラール(10μL/体重kg、i.p.)で麻酔し、完全に麻酔されたら、マウスを定位フレームに置いた。海馬を傷つけるため、β-アミロイドオリゴマーの5μM溶液0.5μlを、次の定位座標でマウスの海馬背側の両側に注入した:十字縫合からAP=-2.2mm、ML=±1.5mm、V=-1.5mm。その後、マウスを少なくとも15日間回復させた。また、STX64を与えたそれらのマウスに、β-アミロイドオリゴマーを投与する20分前にSTX64の1mg/ml溶液0.5μlを投与した。STX64を、同じ海馬吻側の座標で注入した。STX64及びβ-アミロイドオリゴマーを、注射シリンジ(Hamilton)により0.2μl/分の速度で送達し、注入後2.5分間放置した。
【0069】
マウス経口STX投与:STX64を飲用水に0.005mg/mlで溶解した。マウスを3週間~4週間STX溶液に曝露し、治療中に毎日水の摂取量を登録した。STX64の推定1日用量は1mg/体重Kg~2mg/体重Kgであった。
【0070】
ステップスルー型受動的回避(PA)試験:マウスは、暗く閉鎖された環境に対して生得的な嗜好を持っている。馴化段階の間、マウスを取り扱い、1つの明及び1つの暗のコンパートメント(それぞれ28.5cm×18cm×26cmの大きさ)に対称に分割されたチャンバー(47cm×18cm×26cm、Ugo Basile製)で1分間自由に移動させた。訓練段階では、マウスを一時的に明コンパートメントに閉じ込め、次いで30秒後に、暗-明のコンパートメントを分離するドアを開いた。マウスが暗コンパートメントに入るとドアは自動的に閉じられ、マウスは、金属床を通して送達された電気刺激(Swissマウス及びC57Blackマウスに対してそれぞれ、0.5mA、5秒及び0.3mA、5秒)を受けた。指定の時点で行われた保持試験では、明コンパートメントに移したときに電気ショックの経験を思い出したマウスは、暗コンパートメントに入るのを避けたか、又はそこに入るのに少なくとも時間がかかった。そのため、暗コンパートメントに入るまでの待ち時間(逃避潜時(escape latency))は、訓練セッションの後にどれくらいの時間を経て試験が行われたかに応じた、情報学習又は記憶保持の尺度である。逃避潜時(秒)、訓練、短期及び長期記憶(それぞれSTM及びLTM)のセッションを表す。
【0071】
免疫組織化学及び組織学的分析:免疫組織化学では、β-アミロイドに対する抗体(1
:3000、Sigma-Aldrich)を用いた。抗体染色をH2O2及びジアミノベンジジンで
可視化し、ニッケルで増強した。変動を最小にするために、1匹のマウスにつき少なくとも5つの切片を、明視野DMRB RFY HC顕微鏡(Leica)下で分析した。各切片
において、β-アミロイドが占めるパーセント面積、β-アミロイド蓄積の密度及び平均サイズをImage-Jソフトウェア(パブリックドメイン:http://rsb.info.nih.gov/ij/download.htmlからフリーソフトウェアパッケージとしてダウンロード)を使用して定量した。
【0072】
結果:STX64は、C.エレガンス神経変性モデルにおいて有意な治療効果を示したことから、本発明者らは、急性アルツハイマー病(AD)マウスモデルである海馬内β-アミロイドオリゴマー注入によって誘発される認知の変化に対するこの薬物の効果を試験した(
図7A)。局所的及び全身的なSTX64治療はいずれも、β-アミロイドオリゴマーの海馬内投与によって誘発される認知障害を元の状態に戻した。
【0073】
慢性ADマウスモデルにおけるアミロイド病態に対するSTX64経口治療の効果を評価するため、本発明者らは、15ヶ月齢を超えるAPP-PS1マウスにおける新皮質(大脳皮質及び海馬)のアミロイド沈着に対する3週間~4週間のSTX64経口投与の効果を評価した(
図7B)。APP-PS1モデルの新皮質におけるアミロイド沈着の後期段階にも関連する15ヶ月齢より高齢でのβ-アミロイド免疫反応性面積、プラーク密度及びサイズの分析は、海馬におけるプラークサイズを除いて、STX64で治療されたマウスで有意な減少を明らかにした(
図7C~
図7E)。興味深いことに、本発明者らがSTX64で治療した高齢(15ヶ月齢超)のAPP-PS1マウスのβ-アミロイド沈着を未治療APP-PS1マウスの正常なアミロイド沈着率と比較したところ、本発明者らは、STX64が、10ヶ月齢~12ヶ月齢のAPP-PS1マウスで観察されたβ-アミロイド沈着に対して、15ヶ月よりも高齢のAPP-PS1マウスにおいてβ-アミロイド沈着を減少したことを観察した(
図7F)。
【0074】
これらの結果は全て、APP-PS1マウスにおけるSTX64治療がβ-アミロイド沈着を減少することを示した。組織学的改善が認知行動障害の改善と相関しているかどうかを評定するため、本発明者らは、3週間~4週間の間ビヒクル又はSTX64で治療された15ヶ月齢を超えるAPP-PS1マウスの認知能力を比較した。ビヒクル治療APP-PS1マウスは受動的回避試験で欠陥を示したが(
図7G)、STX64で治療されたそれらのマウスは認知障害を完全に元の状態に戻し、15ヶ月齢未満の野生型マウスと同様のレベルに達した。これらの結果は全て、STX64によって誘発されるβ-アミロイド代謝の変化が、急性及び慢性のADマウスモデルにおけるβ-アミロイド蓄積によって引き起こされる認知行動障害を減少させ、STX64及び他のスルファターゼ阻害剤がプロテオパチーを治療するために使用することができそうであることを示している。
【0075】
実施例3:ハンチントン病のマウスモデルに対するSTX64の効果
マウス系統及び条件:この研究で使用したR6/1マウス(Yi Li et al., 2005. NeuroRX. 2(3): 447-464、Mangiarini et al., 1996. Cell. 87(3):493-506)を、認定された提供者から購入し、2週間~3週間(12時間の明暗サイクル、温度及び湿度)の標準的な動物飼育条件に慣らした。2ヶ月齢のR6/1マウスで運動活性研究を行った。全ての実験は、欧州連合のガイドライン(2010/63/EU)及び慢性的な実験での実験動物の使用に関するスペインの規制(実験動物の飼育に関するRD53/2013:BOE08/02/2013)に従って行われ、この研究の実施に先立って、パブロ・デ・オラヴィーデ大学動物飼育委員会の承認を得た。
【0076】
マウス経口STX投与:STX64を飲用水に0.005mg/mlで溶解した。1ヶ月齢のマウスを1ヶ月間STX溶液に曝露し、治療の間、毎日水の摂取量を登録した。S
TX64の推定1日用量は1mg/体重Kg~2mg/体重Kgであった。
【0077】
運動活性試験:自発運動活性を、非ストレスオープンフィールド(56cm×40cm×40cm)で15分間試験した。マウスが移動した距離を、Smart video-trackingソフトウェア(Panlab)で推定した。
【0078】
結果:R6/1マウスは、2ヶ月齢で活性の低下を示す。この運動活性の低下は、STX64を1ヶ月齢に達したときに経口投与することで回避され得る(
図8を参照されたい)。この実施例は、本発明の組成物がタンパク質凝集性疾患の治療に適しているという更なる証拠を提供する。
【0079】
実施例4:アルツハイマー病のC.エレガンスモデルにおけるSTX64とEMATEとの比較
導入:タンパク質凝集におけるステロイドスルファターゼ(STS)の異なる阻害剤の効果を判断するために、本発明者らは、C.エレガンスのAD改良モデルであるGMC101株(McColl et al., 2012. Mol Neurodegener. 7:57)でEMATE(CAS番号:
148672-09-7)をアッセイした。エストロンスルファメートとも呼ばれるEMATEは、エストロンスルファターゼ(E1-STS)及びデヒドロエピアンドロステロンスルファターゼ(DHA-STS)の強力な不可逆的阻害剤であるが、強いエストロゲン活性を有する。
【0080】
株:GMC101、遺伝子型:dvIs100[pCL354(unc-54:DA-Aβ1-42)+pCL26(mtl-2):GFP)]。
【0081】
麻痺アッセイ:ワームをL4の若い成虫期に達するまで、16℃の非制限温度で成長させた。その後、温度を25℃にシフトした。麻痺及び非麻痺の動物の数を、25℃の制限温度で18時間のインキュベーションの後に数えた。
【0082】
統計学的分析:分割表で両側カイ二乗検定を使用して、データを分析した。統計分析をGraphPad Prismソフトウェア(バージョン7.00)を使用して実行した。
【0083】
結果:本発明者らは、異なるバックグラウンド及び条件における麻痺の温度依存性表現型をアッセイした。sul-2の不在はGMC101株における麻痺症状を改善する(
図9Aを参照されたい)。STX64(
図9Bを参照されたい)及びEMATE(
図9Cを参照されたい)でも同様の効果が見られた。しかしながら、STX64は最大の効果を有するようであった。