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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059821
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】自律神経障害の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20240423BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 15/10 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 1/10 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 13/06 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 1/06 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 7/02 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 9/02 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 17/04 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 5/14 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240423BHJP
   C07K 14/33 20060101ALI20240423BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240423BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240423BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
A61K38/16 ZNA
A61P25/00
A61P43/00 105
A61P21/00
A61P11/00
A61P29/00
A61P13/02
A61P1/04
A61P9/00
A61P13/08
A61P15/10
A61P13/10
A61P1/10
A61P1/12
A61P13/06
A61P1/06
A61P7/02
A61P9/06
A61P9/02
A61P9/12
A61P15/00
A61P17/00
A61P1/02
A61P27/02
A61P17/10
A61P17/04
A61P11/02
A61P11/06
A61P27/16
A61P3/10
A61P5/14
A61P3/00
A61P3/06
A61P25/16
A61P25/28
C07K14/33
C07K19/00
C12N15/31
C12N15/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026296
(22)【出願日】2024-02-26
(62)【分割の表示】P 2022165316の分割
【原出願日】2018-12-20
(31)【優先権主張番号】17306840.4
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】517340507
【氏名又は名称】イプセン バイオファーム リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IPSEN BIOPHARM LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラップ,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】マグネル-ルドル,ジャッキー
(72)【発明者】
【氏名】ピグノル,バーナデット
(57)【要約】      (修正有)
【課題】自律神経障害の治療用途の医薬を提供する。
【解決手段】ヒト患者の自律神経障害の治療用途の医薬であって、当該医薬はBoNT/B由来のHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒を含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者の自律神経障害の治療の用途の医薬であって、当該医薬はBoNT/B由来のHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒を含み、かつ、前記クロストリジウム神経毒のHCCドメインは、配列番号2のアミノ酸残基1082乃至1291、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。
【請求項2】
前記BoNT/BのHCCドメインは、天然のBoNT/BのHCCドメインと比較して、ヒトSyt II受容体に対するその結合親和性を少なくとも50%増加させる少なくとも一つのアミノ酸残基の変異を含み、前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、1118M、1183M、1191M、1191I、1191Q、1191T、1199Y、1199F、1199L、1201V、1191C、1191V、1191L、1191Y、1199W、1199E、1199H、1178Y、1178Q、1178A、1178S、1183C、1183P、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、請求項1記載の医薬。
【請求項3】
前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、二つのアミノ酸残基の変異1191M及び1199Yからなる、請求項2記載の医薬。
【請求項4】
ヒト患者の自律神経障害の治療の用途の医薬であって、当該医薬はBoNT/F由来のHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒を含み、かつ、前記クロストリジウム神経毒のHCCドメインは、以下を含む:
a. 配列番号6のアミノ酸残基1088乃至1278、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列;又は
b. 配列番号11のアミノ酸残基1077乃至1268、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列。
【請求項5】
前記BoNT/FのHCCドメインは、天然のBoNT/FのHCCドメインと比較して、一つ以上のガングリオシドに対するその結合親和性を増加させる少なくとも一つのアミノ酸残基の変異を含み、前記ガングリオシドは、GD1a及び/又はGM1aから選択され、及び/又は前記アミノ酸残基の変異は、1241Kである、請求項4記載の医薬。
【請求項6】
前記クロストリジウム神経毒は、キメラ神経毒である、請求項1乃至5の何れかに記載の医薬。
【請求項7】
前記キメラ神経毒は、BoNT/BのHCドメインとBoNT/AのLHNドメインとを含む、請求項6記載の医薬。
【請求項8】
請求項6記載の医薬:ここで、
キメラ神経毒のHCドメインは、配列番号2のアミノ酸残基860乃至1291、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、かつ、キメラ神経毒のLHNドメインは、以下を含む:
a. 配列番号1のアミノ酸残基1乃至872、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列; 又は
b. 配列番号2のアミノ酸残基1乃至859、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列。
【請求項9】
キメラ神経毒のHCドメインは、配列番号2のアミノ酸残基860乃至1291、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、かつ、キメラ神経毒のLHNドメインは、配列番号1のアミノ酸残基1乃至872、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項6記載の医薬。
【請求項10】
前記キメラ神経毒は、第一のBoNT/F亜型由来のLHNドメインと第二のBoNT/F亜型由来の活性化ループとを含み、前記第二のBoNT/F亜型は、前記第一のBoNT/F亜型と異なる、請求項6記載の医薬。
【請求項11】
前記LHNドメインは、BoNT/F7のLHNドメインであり、且つ/又は前記活性化ループは、BoNT/F1活性化ループである、請求項10記載の医薬。
【請求項12】
請求項6記載の医薬:ここで、
キメラ神経毒のHCドメインは、以下を含み:
a. 配列番号6のアミノ酸残基866乃至1278、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列; 又は
b. 配列番号11のアミノ酸残基863乃至1268、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列;
かつ、キメラ神経毒のLHNドメインは、以下を含む:
a. 配列番号6のアミノ酸残基1乃至865、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列; 又は
b. 配列番号11のアミノ酸残基1乃至862、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列。
【請求項13】
キメラ神経毒のHCドメインは、配列番号11のアミノ酸残基863乃至1268、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、かつ、キメラ神経毒のLHNドメインは、配列番号11のアミノ酸残基1乃至862、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項6記載の医薬。
【請求項14】
請求項1乃至3又は6乃至9の何れかに記載の医薬:ここで、
前記クロストリジウム神経毒は、以下を含む:
a. 配列番号2のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列;
b. 配列番号9のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列; 又は
c. 配列番号10のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列。
【請求項15】
請求項4乃至6又は10乃至13の何れかに記載の医薬:ここで、
前記クロストリジウム神経毒は、以下を含む:
a. 配列番号12のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列;
b. 配列番号13のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列; 又は
c. 配列番号6のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列。
【請求項16】
前記クロストリジウム神経毒は二鎖クロストリジウム神経毒である、請求項14又は15記載の医薬。
【請求項17】
前記自律神経障害は、平滑筋障害、過剰分泌障害、呼吸器障害、自律神経要素を伴う炎症性障害、神経内分泌障害、又は中枢神経障害に直接関連する他の自律神経障害から選択される、請求項1乃至16の何れかに記載の医薬。
【請求項18】
前記平滑筋障害は、尿障害、胃腸障害、血管又は心血管障害、前立腺障害、又は性障害から選択される、請求項17記載の医薬。
【請求項19】
a. 前記尿障害は、神経性排尿筋過活動(NDO)、過活動膀胱(OAB)、特発性OAB(iOAB)、膀胱痙攣、排尿筋-括約筋失調(DSD)、尿失禁、尿閉、夜間頻尿、切迫性尿失禁、又は頻尿から選択される;
b. 前記胃腸障害は、オッディ括約筋機能不全、食道痙攣、腸痙攣、アカラシア、胃不全麻痺、痙性大腸炎、裂肛、便秘、時折の下痢、嚥下障害、中咽頭嚥下障害、又は飲み込み障害から選択される;
c. 前記血管又は心血管障害は、レイノー病、吻合血栓症、心臓手術後の心房細動、起立性低血圧、又は血圧障害から選択される;
d. 前記前立腺障害は、良性前立腺肥大症(BPH)、前立腺炎、前立腺痛、又は前立腺肥大から選択される; 又は
e. 前記性障害は、勃起不全、持続勃起症、射精障害、又は膣痙から選択される、
請求項18記載の医薬。
【請求項20】
a. 前記過剰分泌障害は、多汗症、唾液分泌過多、味覚性発汗、過度の流涙、ワニの涙症候群、過度の粘液分泌、臭汗症、胃酸分泌、又はざ瘡から選択される;
b. 前記呼吸器障害は、鼻漏、慢性鼻炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、気管支過敏症、喘鳴、不随意性の息切れ、又は無呼吸エピソードから選択される;
c. 前記自律神経要素を有する炎症性障害は、中耳炎、かゆみ、そう痒症、又は炎症性腸症候群から選択される;
d. 前記神経内分泌障害は、糖尿病、高インスリン症、高グルカゴン血症膵臓障害、甲状腺障害、低カルシウム血症、甲状腺機能亢進症、代謝障害、又は過剰な脂肪分解から選択される; 又は
e. 前記中枢神経障害に直接関連する他の自律神経障害は、パーキンソン病又は小脳/錐体機能から選択される、
請求項17記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経毒による自律神経障害の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストリジウム属のバクテリアは、非常に強力且つ特異的なタンパク質毒素を産生し、これらは、送達された神経細胞及び他の細胞を害する可能性がある。このようなクロストリジウム毒素の例には、C.tetani(TeNT)及びC.botulinum(BoNT)血清型A乃至Gにより産生される神経毒、並びにC.baratii及びC.butyricumにより産生されるものが含まれる。
【0003】
クロストリジウム神経毒は、末梢神経系、特に神経筋接合部におけるコリン作用性伝達を阻害することで筋肉麻痺を引き起こすため、致命的となる場合がある。自然界において、クロストリジウム神経毒は単鎖ポリペプチドとして合成され、タンパク質切断事象により翻訳後に修飾されてジスルフィド結合により互いに結合した二つのポリペプチド鎖を形成する。切断は、鎖間ジスルフィド結合を提供するシステイン残基の間に位置する、活性化部位と呼ばれることが多い特定の切断部位において生じる。この二鎖型が、毒素の活性型となる。二本の鎖は、分子量略100kDaの重鎖(H鎖)及び分子量略50kDaの軽鎖(L鎖)と呼ばれる。H鎖は、N末端トランスロケーション成分(HNドメイン)及びC末端ターゲティング成分(HCドメイン)を含む。切断部位は、L鎖とHNドメインとの間に位置する。
【0004】
クロストリジウム神経毒の作用機序は、次の5つの個別のステップに依存する: (1)HCドメインのその標的神経細胞の細胞膜との結合、その後の(2)エンドソームを介した細胞内への結合毒素のインターナリゼーション、(3)HNドメインによるエンドソーム膜を介したサイトゾル内へのL鎖のトランスロケーション、(4)無細胞毒性プロテアーゼ機能を提供するL鎖によるSNAREタンパク質として知られる細胞内輸送タンパク質のタンパク質切断、及び(5)標的細胞からの細胞分泌の阻害。
【0005】
この連続して生じる事象において、SNAREタンパク質(Soluble N-ethylmaleimide-Sensitive Factor Attachment protein REceptor可溶性N-エチルマレイミド感受性因子付着タンパク質受容体)は、細胞内小胞の融合、したがって、細胞からの小胞輸送を介した分子の分泌に不可欠である。神経細胞に存在するSNAREタンパク質の例には、特に、SNAP-25、VAMP、又はシンタキシンが含まれる。一方、L鎖の無細胞毒性プロテアーゼ機能は、SNAREタンパク質に対して高い基質特異性を示す亜鉛依存性エンドペプチダーゼ活性である。したがって、神経標的細胞に送達されると、クロストリジウム神経毒の無細胞毒性プロテアーゼは、その基質SNAREタンパク質を切断することにより、神経伝達物質の放出を阻害し、結果として、神経麻痺につながる。
【0006】
その独特な特性のため、ボツリヌス毒素等のクロストリジウム神経毒は、幅広い治療用途において、特に運動障害及び自律神経障害等に対して、例えば亢進した神経末端の活動を正常なレベルに戻すための利用において成功を収めてきた。これまで少なくとも7つの抗原性が異なるBoNT血清型、即ちBoNT/A、BoNT/B、BoNT/C、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/Gが記述されている(Rossetto, O. et al., "Botulinum neurotoxins: genetic, structural and mechanistic insights." Nature Reviews Microbiology 12.8 (2014): 535-549)。こうした多様性にも関わらず、BoNT/Aが、依然として治療で選択される血清型であり、三種類の一般的に入手可能な市販製剤(Botox(登録商標)、Dysport(登録商標)、及びXeomin(登録商標))がある一方、市販されているBoNT/B製品は一種類のみである(Neurobloc(登録商標)/Myobloc(登録商標))。これまで、これらのBoNT/A及びBoNT/B製品は、クロストリジウム株から精製された毒素であって、ヒトでの使用が規制当局により承認されている二種類のみのBoNT血清型であり、その用途は、特に、痙縮、膀胱機能障害、多汗症(BoNT/Aについて)(例えば、出典を明記することによりその開示内容全体を本願明細書の一部とするhttps://www.medicines.org.uk/emc/medicine/112、https://www.medicines.org.uk/emc/medicine/870、 https://www.medicines.org.uk/emc/medicine/2162参照)から、頸部ジストニア(BoNT/Bについて)(例えば、出典を明記することによりその開示内容全体を本願明細書の一部とするhttps://www.medicines.org.uk/emc/medicine/20568, herein incorporated by reference in its entirety参照)までの用途である。
【0007】
しかしながら、これらの治療的使用において現在見られる制約には、患者における中和抗体の生成があり、これにより将来の治療が無効となる。Neurobloc(登録商標)/MyoBloc(登録商標)について抗原性の問題の報告は、殆ど無いが、このような抗体反応は、これまで主に、依然として一般に選択されるボツリヌス毒素であるBoNT/A製品で報告されている。これらの免疫学的反応は、毒素の投与量と直接的に相関していることが確認されている(Lange, O., et al., Neutralizing antibodies and secondary therapy failure after treatment with botulinum toxin type A: much ado about nothing? Clin Neuropharmacol, 2009, 32, 213-218)。身体の他の領域への毒素の拡散により副作用が生じる恐れもあり、毒素の拡散の可能性は、注入量に直接関連する。
【0008】
中和抗体の生成と毒素の拡散との両方が注入量に直接関係しているため、当該技術分野には、より少ない投与量で同レベルの治療効果を達成可能な、代替BoNT血清型等の製品により患者を治療する必要性が存在する。
【0009】
これに関連する課題は、様々なBoNT血清型の運用方法の違いであり、これは、同じ障害に対する治療効果の違いになると思われる。
【0010】
実際、臨床活性を発揮するために、ボツリヌス毒素は、その標的細胞の神経末端に入り込む必要がある。そうするために、BoNTは、文献に明確に定義されている受容体結合ドメイン(BoNT-HC)を介して、その特定の受容体に結合することにより、神経細胞を標的として侵入する(Schiavo, G., Matteoli, M. & Montecucco, C. Neurotoxins affecting neuroexocytosis, Physiol Rev, 2000, 80, 717-766)。受容体結合は、一般に、神経細胞を認識するBoNTの有効性及び特異性を決定する。BoNT/B、D-C、及びGは二つの相同なシナプス小胞タンパク質シナプトタグミンI及びII(Syt I/II)を受容体として共有する一方、BoNT/A、E、D、及びFは、別のシナプス小胞タンパク質SV2を用いる。これに関して、タンパク質受容体に対するBoNT血清型の結合親和性は、種によって異なる場合があることに留意するべきであり、例えば、BoNT/D-C及び/Gは、齧歯類の運動神経終末ではSytIよりもSytIIに対して遙かに高い親和性を示すが、ヒトでは、SytIIよりもSytIに対して、より高い親和性を有し、この違いは、齧歯類及びヒトのSytII配列間の独特なアミノ酸の変化によるものである。このアミノ酸の変化の結果、ヒトSytIIは、マウスSytIIと比較して、BoNT/B、/D-C及び/Gの侵入を仲介する効率が大幅に低い。これは、ヒトにおいて、BoNT/B、/D-C、及び/Gに対する高親和性受容体が、少なくとも運動神経細胞において、マイナーな受容体SytIに限定されていると思われることを意味する。こうした全ての知見は、(異なる受容体と結合する)BoNT/Aより遙かに高投与量のBoNT/Bが、頸部ジストニア患者において同レベルの治療効果を達成するために必要であるという臨床的観察に対する説明となり得る(Brashear A. et al., Safety and efficacy of NeuroBloc (botulinum toxin type B) in type A-resistant cervical dystonia, 1999, Neurology 53, 1431-1438、Pappert, E.J. & Germanson, T. Botulinum toxin type B vs. type A in toxin-naive patients with cervical dystonia: Randomized, double-blind, noninferiority trial, 2008 Mov Disord 23, 510-517)。特に、神経筋接合部での使用について、BOTOX(登録商標)とMyoBlocTMとの間の転換比として1:40が示唆されている(Dressler et al., Botulinum toxin type B for treatment of axillar hyperhidrosis., 2002, J. Neurol. 249,1729-1732; Comella et al., 2005)。
【0011】
タンパク質受容体に加えて、全てのBoNT血清型には、神経細胞表面に豊富に存在し、血清型間で異なる場合がある脂質共受容体ガングリオシドを必要とし、異なるSNAREタンパク質基質を切断することから、標的とする細胞の種類に応じて治療効果に更に影響を与え得る。実際、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/F、及びBoNT/GのL鎖プロテアーゼは、VAMPを切断する一方、BoNT/A及びBoNT/EのL鎖プロテアーゼは、SNAP25を切断し、BoNT/CのL鎖プロテアーゼは、SNAP25及びシンタキシンの両方を切断する。
【0012】
ボツリヌス神経毒の初期の治療的使用は、ジストニア及び痙縮等の神経筋状態を治療するために、骨格筋の神経筋接合部でのアセチルコリン放出の阻害に依存していたが、これらの神経毒は、自律神経終末でのアセチルコリン放出を阻害することにより、腺及び平滑筋に対しても効果的であり、したがって、多汗症、流涎、過活動膀胱等、様々な自律神経障害の治療に使用する可能であることが後に判明している。
【0013】
多汗症を治療するためのBotox(登録商標)(Onabotulinumtoxin Aとしても知られる)の推奨投与量は、腋窩当たり50単位であり(https://www.medicines.org.uk/emc/medicine/112)、これは、150kD BoNT/A毒素として約0.365ngの投与量である。Neurobloc(登録商標)/Myobloc(登録商標)(Rimabotulinumtoxin Bとしても知られる)は、多汗症の治療に承認されていないが、2000単位乃至4000単位の範囲の投与量、即ち150kD BoNT/A毒素として約4乃至40ngの範囲の投与量が文献に開示されている。しかしながら、このような高投与量には、口内乾燥、嚥下障害、胸やけ等の局所及び全身レベルの両方で、副作用が存在しない訳ではない(Dressler D. and Eleopra R., Clinical use of non-A botulinum toxins: botulinum toxin type B., Neurotoxicity research 9.2-3 (2006): 121-125、Tintner R. et al., Autonomic function after botulinum toxin type A or B: a double-blind, randomized trial., Neurology 65.5 (2005): 765-767、Birklein F. et al. Botulinum toxin type B blocks sudomotor function effectively: a 6 month follow up., Journal of investigative dermatology 121.6 (2003): 1312-1316)。それにも関わらず、低投与量の毒素で自律神経障害の治療効果に到達可能かについては研究されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、毒素に対する中和抗体の産生、及び局所的及び/又は全身的副作用等、現在患者に見られる臨床問題を回避する、自律神経障害の改善された治療を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
[態様1]
ヒト患者の自律神経障害の治療の用途のクロストリジウム神経毒であって、BoNT/B、BoNT/F、BoNT/D、BoNT/D-C、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含み、前記患者に投与すべき前記クロストリジウム神経毒の投与量は、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量と同等以下である、クロストリジウム神経毒。
[態様2]
ヒト患者における自律神経障害を治療するための薬物の製造におけるクロストリジウム神経毒の使用であって、前記クロストリジウム神経毒は、BoNT/B、BoNT/F、BoNT/D、BoNT/D-C、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含み、前記患者に投与すべき前記クロストリジウム神経毒の投与量は、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量と同等以下である、使用。
[態様3]
必要とするヒト患者の自律神経障害を治療する方法であって、BoNT/B、BoNT/F、BoNT/D、BoNT/D-C、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒を、前記患者に対して、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量と同等以下の投与量で投与することを含む、方法。
[態様4]
前記クロストリジウム神経毒の投与量は、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約1.1分の1乃至約100分の1であり、前記投与量は、好ましくはナノグラム単位で定量化される、態様1記載の用途のクロストリジウム神経毒、態様2記載の使用、又は態様3記載の方法。
[態様5]
前記クロストリジウム神経毒の投与量は、約0.00025ng乃至約3ngの範囲である、先行態様の何れかに記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様6]
前記自律神経障害は、平滑筋障害、過剰分泌障害、呼吸器障害、自律神経要素を伴う炎症性障害、神経内分泌障害、及び中枢神経障害に直接関連する他の自律神経障害から選択される、先行態様の何れかに記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様7]
前記HCCドメインは、BoNT/BのHCCドメイン又はBoNT/FのHCCドメインである、先行態様の何れかに記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様8]
前記BoNT/BのHCCドメインは、天然のBoNT/BのHCCドメインと比較して、ヒトSyt II受容体に対するその結合親和性を少なくとも50%増加させる少なくとも一つのアミノ酸残基の変異を含む、先行態様の何れかに記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様9]
前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、1118M、1183M、1191M、1191I、1191Q、1191T、1199Y、1199F、1199L、1201V、1191C、1191V、1191L、1191Y、1199W、1199E、1199H、1178Y、1178Q、1178A、1178S、1183C、1183P、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、態様8記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様10]
前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、二つのアミノ酸残基の変異1191M及び1199Yからなる、態様8又は9記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様11]
前記BoNT/FのHCCドメインは、天然のBoNT/FのHCCドメインと比較して、一つ以上のガングリオシドに対するその結合親和性を増加させる少なくとも一つのアミノ酸残基の変異を含む、態様1乃至7の何れかに記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様12]
前記ガングリオシドは、GD1a及び/又はGM1aから選択され、及び又は前記アミノ酸残基の変異は、1241Kである、態様11記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様13]
前記クロストリジウム神経毒は、BoNT/B神経毒である、態様1乃至10の何れかに記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様14]
前記クロストリジウム神経毒は、BoNT/F神経毒である、態様1乃至7、11又は12の何れかに記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様15]
前記クロストリジウム神経毒は、キメラ神経毒である、先行態様の何れかに記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様16]
前記キメラ神経毒は、BoNT/BのHCドメインとBoNT/AのLHNドメインとを含む、態様15記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様17]
前記キメラ神経毒は、第一のBoNT/F亜型由来のLHNドメインと第二のBoNT/F亜型由来の活性化ループとを含み、前記第二のBoNT/F亜型は、前記第一のBoNT/F亜型と異なる、態様15記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様18]
前記LHNドメインは、BoNT/F7のLHNドメインであり、且つ/又は前記活性化ループは、BoNT/F1活性化ループである、態様17記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様19]
前記クロストリジウム神経毒は、配列番号2乃至13の何れかから選択されるアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%の配列同一性、好ましくはこれに対して少なくとも90%又は95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、先行態様の何れかに記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法。
[態様20]
前記クロストリジウム神経毒は、以下を含む、先行態様の何れかに記載の用途のクロストリジウム神経毒、使用、又は方法:
a.配列番号13のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%の配列同一性、好ましくはこれに対して少なくとも90%又は95%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又は
b.配列番号9のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%の配列同一性、好ましくはこれに対して少なくとも90%又は95%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又は
c.配列番号12のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%の配列同一性、好ましくはこれに対して少なくとも90%又は95%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又は
d.配列番号10のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%の配列同一性、好ましくはこれに対して少なくとも90%又は95%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又は
e.配列番号6のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%の配列同一性、好ましくはこれに対して少なくとも90%又は95%の配列同一性を有するアミノ酸配列。
一態様において、本発明は、ヒト患者の自律神経障害の治療に使用するためのクロストリジウム神経毒であって、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含み、患者に投与すべきクロストリジウム神経毒の投与量は、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量と同等以下である、クロストリジウム神経毒を提供する。換言すれば、本発明は、必要とするヒト患者の自律神経障害を治療する方法であって、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒を、前記患者に対して、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量と同等以下の投与量で投与するステップを備える方法に関する。より正確には、本発明は、ヒト患者における自律神経障害の治療用の薬物を製造するための、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒の使用であって、患者に投与すべきクロストリジウム神経毒の投与量は、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量と同等以下である、使用に関する。
【0016】
特定の一態様において、本発明は、ヒト患者の自律神経障害の治療に使用するためのクロストリジウム神経毒であって、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含み、患者に投与すべき前記クロストリジウム神経毒の投与量は、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約1.1分の1乃至約100分の1、好ましくは約1.3分の1乃至約90分の1である、クロストリジウム神経毒を提供する。換言すれば、本発明は、必要とするヒト患者の自律神経障害を治療する方法であって、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒を、前記患者に対して、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約1.1分の1乃至約100分の1、好ましくは約1.3分の1乃至約90分の1の投与量で投与するステップを備える方法に関する。より正確には、本発明は、ヒト患者における自律神経障害の治療用の薬物を製造するための、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒の使用であって、患者に投与すべき前記クロストリジウム神経毒の投与量は、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約1.1分の1乃至約100分の1、好ましくは約1.3分の1乃至約90分の1である、使用に関する。前記投与量は、好ましくはナノグラム単位で定量化される。
【0017】
更に、特定の一態様において、本発明は、ヒト患者の自律神経障害の治療に使用するためのクロストリジウム神経毒であって、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含み、約0.00025ng乃至約3ngの範囲の投与量の前記クロストリジウム神経毒を前記患者に投与すべきである、クロストリジウム神経毒を提供する。換言すれば、本発明は、必要とするヒト患者の自律神経障害を治療する方法であって、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒を、前記患者に対して、約0.00025ng乃至約3ngの範囲の投与量で投与するステップを備える方法に関する。
【0018】
より正確には、本発明は、ヒト患者における自律神経障害の治療用の薬物を製造するための、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒の使用であって、患者に投与すべき前記クロストリジウム神経毒の投与量は、約0.00025ng乃至約3ngの範囲である、使用に関する。
【0019】
本発明は、第一に、BoNT/Bがヒト平滑筋組織に対して、少なくともBoNT/Aと同様の効果があるという発明者らによる予想外の発見に基づいている。
【0020】
この発見が予想外であるのは、上述したように、BoNT/A(例えば、Botox(登録商標))と比較して、遙かに高投与量のBoNT/B(Neurobloc(登録商標)/Myobloc(登録商標))が、骨格筋障害の治療に必要なためである。BoNT/A(例えば、Botox(登録商標))よりも高投与量のBoNT/B(Neurobloc(登録商標)/Myobloc(登録商標))のみが、例えば平滑筋に関与する多汗症の治療について、これまでに試験され、文献で報告されているのは、この臨床観察に基づいていると思われる。
【0021】
これら二つの組織における、このBoNT/Bの効力の違いは、平滑筋及び骨格筋の障害が、実際には同じ神経経路に依存していないという事実によると仮定される。平滑筋収縮は、確かに自律神経系により駆動されるが、骨格筋収縮は、体性神経系により駆動される。頸部ジストニア、及び痙縮等のボツリヌス神経毒により治療される他の多くの障害は、骨格筋の過度の収縮により生じるが、過活動膀胱(overactive bladder, OAB)又は神経性排尿筋過活動(neurogenic detrusor overactivity, NDO)等の他の障害は、平滑筋の過剰収縮により生じる。
【0022】
体性神経系(somatic nervous system, SoNS又は随意神経系)は、体動の骨格筋随意調節に関連する末梢神経系の一部である。SoNSは、求心性神経及び遠心性神経からなる。SoNS求心性神経は、身体から中枢神経系(CNS)に感覚を中継することに関与し、SoNS求心性神経は、CNSから身体に命令を送り、筋肉の収縮を刺激することに関与しており、これらには、骨格筋及び皮膚に接続された全ての非感覚神経細胞が含まれる。
【0023】
自律神経系(autonomic nervous system, ANS)は、末梢神経系の別の構成要素であり、求心性神経及び遠心性神経からなる。ANSは、交感神経系(sympathetic nervous system, SNS)及び副交感神経系(parasympathetic nervous system, PNS)の二つの支系により構成されている。SNSは、心拍数及び血圧の上昇等、より活発な反応を制御する。ANSは、平滑筋に加えて、汗、唾液、涙等の分泌物も制御する。
【0024】
平滑筋は、泌尿器系内(例えば、膀胱、尿管)、消化器系内(例えば、胃壁、胃腸管、腸、オッディ括約筋、肛門括約筋、気管、胆管)、生殖器系内(例えば、前立腺、子宮)、気道内、血管系内(例えば、血管壁、大動脈、動脈、細動脈、静脈)、及び眼の虹彩内に見られる。平滑筋の収縮は、膀胱からの尿の放出、消化管を通る食物の移動、肺の気流の調節、動脈及び静脈の血圧の調節、瞳孔の大きさの縮小等、多数の身体機能に関与する。
【0025】
エクリン汗腺、唾液腺、及び涙腺を供給するコリン作動性神経細胞のシナプス神経末端は、ボツリヌス神経毒で標的にすることができる。発汗又は分泌活動亢進に関連する神経性障害には、多汗症、特に手掌、腋窩、又は足の限局性多汗症、味覚性発汗(フライ症候群)、摂食中の流涙増加(ワニの涙症候群)、唾液分泌過多(流涎、唾液流出)等が含まれる。
【0026】
理論に拘束されることを望むものではないが、自律神経系に対して体細胞系においてBoNT/AとBoNT/Bとの間で観察された効力の違いは、BoNT/A及びBoNT/Bが、そのタンパク質受容体(それぞれSV2及びSyt I/II)及び/又はその標的SNARE(それぞれSNAP25及びVAMP)に関して異なるという事実に関連すると仮定される。
【0027】
この仮定に基づいて、更に、Bont/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G等、Syt I/IIをタンパク質受容体として用い及び/又はVAMPを切断する他のBoNT血清型は、BoNT/Bと同様の効力を、より良好な効力ではないとしても、平滑筋/自律神経系に対して、少なくともヒトにおいて示すであろうと仮定されている。
【0028】
したがって、本発明の一態様は、ヒト患者の自律神経障害の治療に使用するためのクロストリジウム神経毒であって、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含み、患者に投与すべきクロストリジウム神経毒の投与量は、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量と同等以下である、クロストリジウム神経毒を提供することである。換言すれば、本発明は、必要とするヒト患者の自律神経障害を治療する方法であって、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒を、前記患者に対して、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量と同等以下の投与量で投与するステップを備える方法に関する。より正確には、本発明は、ヒト患者における自律神経障害の治療用の薬物を製造するための、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒の使用であって、患者に投与すべきクロストリジウム神経毒の投与量は、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量と同等以下である、使用に関する。
【0029】
一実施形態において、本発明のクロストリジウム神経毒により治療される自律神経障害は、平滑筋障害、過剰分泌障害、呼吸器障害、自律神経要素を伴う炎症性障害、神経内分泌障害、及び中枢神経障害に直接関連する他の自律神経障害からなる群から選択される。
【0030】
このような自律神経障害の例には、制限なく以下が含まれる:
●平滑筋障害、特に、過剰、異常、及び/又は長期の筋収縮(痙性障害)により生じるもの、例えば、以下を含む、
○神経性排尿筋過活動(neurogenic detrusor overactivity, NDO)、過活動膀胱(overactive bladder, OAB)、特に特発性OAB(idiopathic OAB, iOAB)、膀胱痙攣、排尿筋-括約筋失調(detrusor-sphincter dyssynergia, DSD)、尿失禁、尿閉、夜間頻尿、切迫性尿失禁、頻尿等の尿障害、オディ括約筋機能不、食道痙攣、腸痙攣、アカラシア、胃不全麻痺、痙性大腸炎、裂肛、便秘、時折の下痢、嚥下障害、中咽頭嚥下障害、飲み込み障害等の胃腸障害、
○レイノー病、吻合血栓症、心臓手術後の心房細動、起立性低血圧、血圧障害等の血管及び心血管障害、
○良性前立腺肥大症(benign prostate hyperplasia, BPH)、前立腺炎、前立腺痛、前立腺肥大等の前立腺障害、及び
○性障害: 勃起不全、持続勃起症、射精障害、膣痙、
●過剰分泌障害、例として、多汗症(腋窩、手掌、足底多汗症、瀰漫性発汗、フライ症候群等)、唾液分泌過多(唾液流出、流涎)、味覚性発汗、過度の流涙、ワニの涙症候群、過度の粘液分泌、臭汗症、胃酸分泌、ざ瘡、
●過剰分泌及び/又は筋肉成分を有する呼吸器障害、例として、鼻漏、慢性鼻炎、喘息、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease, COPD)、気管支過敏症、喘鳴、不随意性の息切れ、無呼吸エピソード等の呼吸器障害、
●自律神経要素を有する炎症性障害、例として、中耳炎、かゆみ、そう痒症、炎症性腸症候群、
●神経内分泌障害: 糖尿病、高インスリン症、高グルカゴン血症膵臓障害、甲状腺障害、低カルシウム血症、甲状腺機能亢進症、代謝障害、過剰な脂肪分解、及び
●パーキンソン病及び小脳/錐体機能等、中枢神経障害に直接関連する他の自律神経障害。
【0031】
好適な実施形態において、本発明により治療される自律神経障害は、尿障害、胃腸障害、血管及び心血管障害、前立腺障害、及び性障害からなる群から選択される平滑筋障害である。
【0032】
本明細書で使用される「クロストリジウム神経毒」という用語は、神経細胞に侵入し、神経伝達物質の放出を阻害する任意のポリペプチドを意味する。このプロセスは、低又は高親和性受容体との神経毒の結合、神経毒のインターナリゼーション、神経毒のエンドペプチダーゼ部分の細胞質へのトランスロケーション、及び神経毒基質の酵素的修飾を含む。より具体的には、「神経毒」という用語は、神経細胞に侵入して神経伝達物質の放出を阻害する、クロストリジウムバクテリアにより産生される任意のポリペプチド(クロストリジウム神経毒)と、組換え技術又は化学手法により産生される、このようなポリペプチドとを含む。この二鎖型が、毒素の活性型となる。二本の鎖は、分子量略100kDaの重鎖(H鎖)及び分子量略50kDaの軽鎖(L鎖)と呼ばれる。好ましくは、クロストリジウム神経毒は、ボツリヌス神経毒(BoNT)である。
【0033】
BoNT血清型A乃至Gは、特異的中和抗血清による不活性化に基づいて識別可能であり、このような血清型による分類は、アミノ酸レベルでの配列同一性パーセンテージと相関する。所与の血清型のBoNTタンパク質は、更にアミノ酸配列同一性パーセンテージに基づいて異なる亜型に分類される。
【0034】
BoNT/A神経毒アミノ酸配列の例は、配列番号1(UniProt受託番号A5HZZ9)として提供される。BoNT/B神経毒アミノ酸配列の例は、配列番号2(UniProt受託番号B1INP5)として提供される。BoNT/C神経毒アミノ酸配列の例は、配列番号3(UniProt受託番号P18640)として提供される。BoNT/D神経毒アミノ酸配列の例は、配列番号4(UniProt受託番号P19321)として提供される。BoNT/E神経毒アミノ酸配列の例は、配列番号5(受託番号WP_003372387)として提供される。BoNT/F神経毒アミノ酸配列の例は、配列番号6(UniProt受託番号Q57236)又は配列番号11(UniProt/UniParc受託番号UPI0001DE3DAC)として提供される。BoNT/G神経毒アミノ酸配列の例は、配列番号7(受託番号WP_039635782)として提供される。BoNT/D-C神経毒アミノ酸配列の例は、配列番号8(受託番号BAM65681)として提供される。
【0035】
本明細書で使用される「HCドメイン」という用語は、標的細胞の表面上に位置する受容体への神経毒の結合を可能にする、分子量略50kDaの神経毒重鎖の機能的に明確な領域を示す。HCドメインは、二つの構造的に異なるサブドメインである「HCNサブドメイン」(HCドメインのN末端部分)及び「HCCサブドメイン」(HCドメインのC末端部分、HCCドメインとも呼ばれる)からなり、それぞれ略25kDaの分子量を有する。HCCドメインは、クロストリジウム神経毒タンパク質受容体に結合することができる。
【0036】
本明細書で使用される「LHNドメイン」という用語は、HCドメインとは異なり、エンドペプチダーゼドメイン(「L」又は「軽鎖」)とエンドペプチダーゼの細胞質内へのトランスロケーションに関与するドメイン(重鎖のHNドメイン)とからなる神経毒を示す。エンドペプチダーゼドメイン(「L」又は「軽鎖」)は、SNAREタンパク質を切断することができる。
【0037】
L、HN、HCN、及びHCCドメインの例を表1に示す。
【表1】
【0038】
上述した基準配列は、目安と考えるべきであり、亜血清型により僅かな変動が生じ得る。一例として、US2007/0166332(出典を明記することによりその開示内容全体を本願明細書の一部とする)では、僅かに異なるクロストリジウム配列が引用されている。
【0039】
「活性化ループ」という用語は、タンパク質切断部位を含むポリペプチドドメインを示す。神経毒の活性化ループは、当該技術分野において、WO2016156113(出典を明記することによりその開示内容全体を本願明細書の一部とする)等に記載されている。
【0040】
本発明の一実施形態において、クロストリジウム神経毒のHCCドメインは、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む:
- 配列番号2のアミノ酸残基1082乃至1291、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号4のアミノ酸残基1083乃至1276、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号6のアミノ酸残基1088乃至1278、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号11のアミノ酸残基1077乃至1268、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号7のアミノ酸残基1090乃至1297、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、及び
- 配列番号8のアミノ酸残基1092乃至1285、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列。
【0041】
本明細書全体での使用において、二つ以上のアミノ酸配列間の「配列同一性パーセント」という用語は、アライメントしたアミノ酸配列が共有する同一位置における同一アミノ酸の数の関数である。したがって、本明細書で使用される同一性%は、アライメント内の各位置における同一アミノ酸の数を、アライメントした配列内のアミノ酸の総数で除算したものに100を乗算して計算し得る。配列同一性%の計算では、ギャップ数と、二つ以上の配列のアライメントを最適化するために導入する必要がある各ギャップの長さとを考慮に入れてもよい。二つ以上の配列間の配列比較及び同一性パーセントの決定は、当業者によく知られている特定の数学的アルゴリズム、特にグローバルアライメント数学アルゴリズム(Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48(3), 443-453, 1972に記載のもの等)を用いて実施することができる。
【0042】
好適な実施形態において、HCCドメインは、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む:
- 配列番号2のアミノ酸残基1082乃至1291、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号6のアミノ酸残基1088乃至1278、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、及び
- 配列番号11のアミノ酸残基1077乃至1268、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列。
【0043】
好適な実施形態において、HCCドメインは、配列番号2のアミノ酸残基1082乃至1291に対応するアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む。
【0044】
好適な実施形態において、HCCドメインは、配列番号6のアミノ酸残基1088乃至1278に対応するアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む。
【0045】
好適な実施形態において、HCCドメインは、配列番号11のアミノ酸残基1077乃至1268に対応するアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む。
【0046】
一実施形態において、クロストリジウム神経毒は、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号11の何れかに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む。
【0047】
好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒は、配列番号2、配列番号6、配列番号11の何れかに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む。
【0048】
好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒は、配列番号2に対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む。
【0049】
好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒は、配列番号6に対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む。
【0050】
好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒は、配列番号11に対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む。
【0051】
より好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒は、BoNT/B神経毒である。好ましくは、BoNT/Bクロストリジウム神経毒は、配列番号2に対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む。
【0052】
より好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒は、BoNT/F神経毒である。好ましくは、BoNT/Fクロストリジウム神経毒は、配列番号6又は配列番号11に対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む。
【0053】
一実施形態において、クロストリジウム神経毒は、キメラ神経毒である。
【0054】
本明細書で使用される「キメラ神経毒」という用語は、第一の神経毒に由来する一つ以上のドメインと、第二の神経毒に由来する一つ以上のドメインとを含む神経毒を意味する。例えば、キメラ神経毒は、第一の神経毒血清型又は亜型に由来するLHNドメインと、第二の神経毒血清型又は亜型に由来するHCドメインとを含み得る。キメラ神経毒の別の例は、第一の神経毒血清型又は亜型に由来するLHNHCNドメインと、第二の神経毒血清型又は亜型に由来するHCCドメインとを含む神経毒である。キメラ神経毒の他の例は、第一の神経毒血清型又は亜型に由来するLHNドメインと、第二の神経毒血清型又は亜型に由来する活性化ループとを含む神経毒である。キメラ神経毒の例は、共に出典を明記することによりその開示内容を本願明細書の一部とするWO2017191315及びWO2016156113に記載されている。
【0055】
一実施形態において、クロストリジウム神経毒は、BoNT/B由来のHCドメインと、BoNT/A、BoNT/C、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/G、又はBoNT/D-C由来のLHNドメインとを含むキメラ神経毒である。
【0056】
本発明によるキメラ神経毒の一実施形態において、
HCドメインは、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む:
- 配列番号2のアミノ酸残基860乃至1291、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号4のアミノ酸残基864乃至1276、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号6のアミノ酸残基866乃至1278、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号11のアミノ酸残基863乃至1268、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号7のアミノ酸残基865乃至1297、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、及び
- 配列番号8のアミノ酸残基864乃至1285、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
かつ、LHNドメインは、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む:
- 配列番号1のアミノ酸残基1乃至872、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号2のアミノ酸残基1乃至859、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号3のアミノ酸残基1乃至867、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号4のアミノ酸残基1乃至863、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号5のアミノ酸残基1乃至846、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号6のアミノ酸残基1乃至865、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号11のアミノ酸残基1乃至862、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号7のアミノ酸残基1乃至864、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、及び
- 配列番号8のアミノ酸残基1乃至863、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するポリペプチド配列。
【0057】
好適な実施形態において、HCドメインは、配列番号2のアミノ酸残基860乃至1291に対応するアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含み、LHNドメインは、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む:
- 配列番号1のアミノ酸残基1乃至872、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号3のアミノ酸残基1乃至867、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号4のアミノ酸残基1乃至863、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号5のアミノ酸残基1乃至846、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号6のアミノ酸残基1乃至865、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号11のアミノ酸残基1乃至862、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号7のアミノ酸残基1乃至864、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、及び
- 配列番号8のアミノ酸残基1乃至863、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列。
【0058】
より好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒は、BoNT/B由来のHCドメインとBoNT/A由来のLHNドメインとを含むキメラ神経毒である。
【0059】
より好適な実施形態において、HCドメインは、配列番号2のアミノ酸残基860乃至1291に対応するアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含み、LHNドメインは、配列番号1のアミノ酸残基1乃至872に対応するアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0060】
一実施形態において、クロストリジウム神経毒は、BoNT/B由来のHCCドメインと、BoNT/A、BoNT/C、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/F、BoNT/G、又はBoNT/D-C由来のLHNHCNドメインとを含むキメラ神経毒である。
【0061】
本発明によるキメラ神経毒の一実施形態において、
HCCドメインは、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む:
- 配列番号2のアミノ酸残基1082乃至1291、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号4のアミノ酸残基1083乃至1276、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号6のアミノ酸残基1088乃至1278、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号11のアミノ酸残基1077乃至1268、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号7のアミノ酸残基1090乃至1297、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、及び
- 配列番号8のアミノ酸残基1092乃至1285、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
かつ、LHNHCNドメインは、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む:
- 配列番号1のアミノ酸残基1乃至1094、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号2のアミノ酸残基1乃至1081、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号3のアミノ酸残基1乃至1095、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号4のアミノ酸残基1乃至1082、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号5のアミノ酸残基1乃至1069、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号6のアミノ酸残基1乃至1087、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号11のアミノ酸残基1乃至1076、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号7のアミノ酸残基1乃至1089、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、及び
- 配列番号8のアミノ酸残基1乃至1091、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列。
【0062】
好適な実施形態において、HCCドメインは、配列番号2のアミノ酸残基1082乃至1291に対応するアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるか、又はこれを含み、LHNHCNドメインは、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるか、又はこれを含む:
- 配列番号1のアミノ酸残基1乃至1094、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号3のアミノ酸残基1乃至1095、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号4のアミノ酸残基1乃至1082、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号5のアミノ酸残基1乃至1069、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号6のアミノ酸残基1乃至1087、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号11のアミノ酸残基1乃至1076、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、
- 配列番号7のアミノ酸残基1乃至1089、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列、及び
- 配列番号8のアミノ酸残基1乃至1091、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有する配列。
【0063】
一実施形態において、クロストリジウム神経毒は、第一のBoNT/F亜型由来のLHNドメインと、第二のBoNT/F亜型由来の活性化ループとを含むキメラ神経毒であり、前記第二のBoNT/F亜型は、前記第一のBoNT/F亜型とは異なる。このようなBoNT/F亜型及びBoNT/Fキメラ神経毒は、当該技術分野において、WO2016156113(出典を明記することによりその開示内容全体を本願明細書の一部とする)等に記載されている。
【0064】
好適な実施形態において、前記LHNドメインは、BoNT/F7亜型LHNドメインであり、且つ/又は前記活性化ループは、BoNT/F1亜型活性化ループである。
【0065】
好適な実施形態において、前記活性化ループは、配列番号14のアミノ酸配列を含む(又は、これからなる)。
【0066】
好適な実施形態において、キメラ神経毒は、配列番号13のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(又は、これからなる)。
【0067】
クロストリジウム神経毒は、限定ではなく以下に記載したものを含む修飾神経毒及びその誘導体にすることができる。修飾神経毒又は誘導体は、天然型の神経毒と比較して修飾された一つ以上のアミノ酸を含み得る。このような修飾は、突然変異としても知られ、その例には、限定ではなく、アミノ酸残基の置換、付加、又は欠失が含まれる。本発明の文脈において、修飾クロストリジウム神経毒は、例えば、ネイティブのクロストリジウム神経毒のアミノ酸配列と比較して、一つ以上のドメインにおいて、修飾されたアミノ酸配列を有することができる。ネイティブ、未修飾、天然、自然発生、又は野生型という用語は、本明細書において相互に交換可能に使用することができる。
【0068】
このような修飾は、神経毒の機能的側面、例えば、生物活性又は持続性に影響を与え得る。しかしながら、本発明の文脈において、修飾神経毒は、機能を有するものとされる。換言すれば、本発明の修飾神経毒は、標的細胞上の低又は高親和性神経毒受容体に結合する能力、神経毒のエンドペプチダーゼ部分(軽鎖)を細胞質へのトランスロケートさせる能力、及びSNAREタンパク質を切断する能力から選択される神経毒の機能(群)を保持する。
【0069】
本発明による修飾神経毒は、重鎖(HCドメイン等)のアミノ酸配列に一つ以上の修飾を有してよく、前記修飾重鎖は、ネイティブの神経毒より高い又は低い親和性で標的神経細胞に結合する。HCドメインにおけるこうした修飾は、標的神経細胞のガングリオシドへの結合を変化させることが可能なHCCドメインのガングリオシド結合部位におけるアミノ酸残基の修飾、及び/又は標的神経細胞のタンパク質受容体に対する結合を変化させることが可能なHCCドメインのタンパク質受容体結合部位におけるアミノ酸残基の修飾を含むことができる。こうした修飾神経毒の例は、共に出典を明記することによりその開示内容全体を本願明細書の一部とするWO2006027207及びWO2006114308に記載されている。
【0070】
本発明による修飾クロストリジウム神経毒の一実施形態において、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G由来のHCCドメインは、前記BoNT血清型の天然のHCCドメインと比較して修飾されている。
【0071】
好適な実施形態において、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G神経毒由来のHCCドメインは、天然のBoNT/B、BoNT/D、BoNT/F、BoNT/G、又はBoNT/D-CのHCCドメインと比較して、ヒトSyt IIに対する前記HCCドメインの結合親和性を増加させる少なくとも一つのアミノ酸残基の変異を含む。本発明者らは、実際に、このようなアミノ酸残基の変異がヒト平滑筋に対する神経毒の効力を増大可能であることを発見した。
【0072】
より好適な実施形態において、BoNT/B神経毒由来のHCCドメインは、天然のBoNT/BのHCCドメインと比較して、ヒトSyt IIに対する前記HCCドメインの結合親和性を増加させる少なくとも一つのアミノ酸残基の変異を含む。更に、好ましくは、前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、天然のBoNT/BのHCCドメインと比較して、ヒトSyt IIに対する前記HCCドメインの結合親和性を少なくとも50%増加させる。
【0073】
BoNT/BのHCCドメインにおける、こうした適切なアミノ酸残基の変異は、当該技術分野において、共に出典を明記することによりその開示内容を本願明細書の一部とするWO2013180799及びWO2016154534に記載されている。
【0074】
特に、天然のBoNT/BのHCCドメインと比較して、ヒトSyt IIに対するBoNT/BのHCCドメインの結合親和性を少なくとも50%増加させるのに適した前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、1118M、1183M、1191M、1191I、1191Q、1191T、1199Y、1199F、1199L、1201V、1191C、1191V、1191L、1191Y、1199W、1199E、1199H、1178Y、1178Q、1178A、1178S、1183C、1183P、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、アミノ酸残基の置換、付加、又は欠失である。好ましくは、BoNT/BのHCCドメインにおける前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、1191M及び1199L、1191M及び1199Y、1191M及び1199F、1191Q及び1199L、1191Q及び1199Y、1191Q及び1199F、1191M及び1199W、1191M及び1178Q、1191C及び1199W、1191C及び1199Y、1191C及び1178Q、1191Q及び1199W、1191V及び1199W、1191V及び1199Y、又は1191V及び1178Qからなる群から選択される、二つのアミノ酸残基の置換、付加、又は欠失からなる。更に好ましくは、BoNT/BのHCCドメインにおける前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、三つのアミノ酸残基の置換、付加、又は欠失: 1191M、1199W、及び1178Qからなる。より好ましくは、BoNT/BのHCCドメインにおける前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、二つのアミノ酸残基の置換、付加、又は欠失: 1191M及び1199Yからなる。
【0075】
より好適な実施形態において、天然のBoNT/BのHCCドメインと比較して、ヒトSyt IIに対するBoNT/BのHCCドメインの結合親和性を少なくとも50%増加させるのに適した前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、V1118M、Y1183M、E1191M、E1191I、E1191Q、E1191T、S1199Y、S1199F、S1199L、S1201V、E1191C、E1191V、E1191L、E1191Y、S1199W、S1199E、S1199H、W1178Y、W1178Q、W1178A、W1178S、Y1183C、Y1183P、及びこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、アミノ酸残基の置換である。好ましくは、BoNT/BのHCCドメインにおける前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、E1191M及びS1199L、E1191M及びS1199Y、E1191M及びS1199F、E1191Q及びS1199L、E1191Q及びS1199Y、E1191Q及びS1199F、E1191M及びS1199W、E1191M及びW1178Q、E1191C及びS1199W、E1191C及びS1199Y、E1191C及びW1178Q、E1191Q及びS1199W、E1191V及びS1199W、E1191V及びS1199Y、又はE1191V及びW1178Qからなる群から選択される、二つのアミノ酸残基の置換からなる。更に好ましくは、BoNT/BのHCCドメインにおける前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、三つのアミノ酸残基置換: E1191M、S1199W、及びW1178Qからなる。更に好ましくは、BoNT/BのHCCドメインにおける前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、二つのアミノ酸残基の置換: E1191M及びS1199Yからなる。
【0076】
好適な実施形態において、修飾されるべきBoNT/BのHCCドメインは、配列番号2のアミノ酸残基1082乃至1291(天然のBoNT/BのHCCドメイン)、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列に対応する。
【0077】
より好適な実施形態において、本発明の修飾クロストリジウム神経毒は、配列番号9のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(又は、これからなる)。
【0078】
好適な実施形態において、BoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/G神経毒由来のHCCドメインは、天然のBoNT/B、BoNT/D、BoNT/D-C、BoNT/F、又はBoNT/GのHCCドメインと比較して、一つ以上のガングリオシドに対する前記HCCドメインの結合親和性を増加させる少なくとも一つのアミノ酸残基の変異を含む。
【0079】
より好適な実施形態において、BoNT/F由来の前記HCCドメインは、天然のBoNT/FのHCCドメインと比較して、一つ以上のガングリオシドに対する前記HCCドメインの結合親和性を増加させる少なくとも一つのアミノ酸残基の変異を含む。
【0080】
好適な実施形態において、前記ガングリオシドは、GD1a及び/又はGM1aから選択される。
【0081】
天然のBoNT/FのHCCドメインと比較して、GD1a及び/又はGM1a等のガングリオシドに対するBoNT/FのHCCドメインの結合親和性を増加させるのに適したアミノ酸残基の変異には、限定ではなく、アミノ酸の置換、付加、又は欠失等のアミノ酸変異1241Kが含まれる。より好ましくは、天然のBoNT/FのHCCドメインと比較して前記BoNT/FのHCCドメインの結合親和性を増加させる前記少なくとも一つのアミノ酸残基の変異は、アミノ酸置換H1241Kである。
【0082】
好適な実施形態において、修飾すべきBoNT/FのHCCドメインは、配列番号6のアミノ酸残基1088乃至1278又は配列番号11のアミノ酸残基1077乃至1268(天然のBoNT/FのHCCドメイン)、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列に対応する。
【0083】
好適な実施形態において、本発明のキメラクロストリジウム神経毒は、配列番号12のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列に対応する。
【0084】
一実施形態において、本発明のクロストリジウム神経毒は、上述したように、キメラであり且つ修飾される場合がある。例えば、好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒は、配列番号10のアミノ酸配列、又はこれに対して少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む(又は、これからなる)。
【0085】
本発明のクロストリジウム神経毒は、組換え技術を用いて生産することができる。したがって、一実施形態において、本発明のクロストリジウム神経毒は、組換えクロストリジウム神経毒である。
【0086】
一実施形態において、クロストリジウム神経毒は、無毒性の神経毒関連タンパク質(neurotoxin-associated proteins, NAP)としても知られるBoNT複合タンパク質に会合している。換言すれば、クロストリジウム神経毒は、BoNT複合タンパク質に付随して、又はこれと組み合わせて、ヒト患者に投与される。したがって、一実施形態において、クロストリジウム神経毒は、一つ以上のBoNT複合タンパク質と複合体化される。
【0087】
別の実施形態において、クロストリジウム神経毒は、BoNT複合タンパク質を含まない(又は会合していない、若しくは組み合わされていない)。換言すれば、クロストリジウム神経毒は、BoNT複合タンパク質と付随させることなく、又は組み合わせることなく、ヒト患者に投与される。
【0088】
好ましくは、クロストリジウム神経毒(例えば、本明細書に記載される使用のためのもの)は、少なくとも一つの医薬的に許容可能な担体と共に医薬組成物の一部となる。「医薬的に許容可能な担体」とは、本明細書において、医薬組成物の他の成分、特にクロストリジウム神経毒に適合しヒト患者にとって有害ではない任意の成分を意味する。医薬的に許容可能な担体は、標準的薬務に従い、所望の投与経路を基に選択することができ、限定ではなく、賦形剤、希釈剤、アジュバント、噴射剤、及び塩を含む。
【0089】
したがって、本発明は、更に、ヒト患者の自律神経障害の治療に使用するための医薬組成物に関し、前記組成物は、本発明のクロストリジウム神経毒と、少なくとも一つの医薬的に許容可能な担体とを含み、患者に投与すべきクロストリジウム神経毒の投与量は、上述した通りとなる。更に、 本発明の医薬組成物をヒト患者に投与することを含む、自律神経障害治療の対応する用途及び方法も含まれる。
【0090】
本発明のクロストリジウム神経毒は、経口、非経口(即ち注射)、持続注入、吸入、又は局所投与用に処方し得る。注射に適した組成物は、溶液、懸濁液、若しくは乳液の形態、又は使用前に適切な溶媒に溶解又は懸濁させる乾燥粉末にし得る。
【0091】
局所的に送達される神経毒の場合、神経毒は、クリーム(例えば、局所塗布用)として、又は皮下への注入用に処方し得る。
【0092】
局所送達手段は、エアロゾル又は他の噴霧器(例えば、ネブライザ)を含み得る。これに関して、神経毒のエアロゾル処方により、肺、及び/又は他の鼻及び/又は気管支又は気道の通路への送達が可能となる。
【0093】
本発明のクロストリジウム神経毒は、罹患臓器の神経支配に関与する脊髄分節のレベルでの、脊柱における髄腔内又は硬膜外注射により、患者に投与し得る。
【0094】
一実施形態において、クロストリジウム神経毒又は医薬組成物は、筋肉内、皮内、又は皮下投与用である。
【0095】
一実施形態において、クロストリジウム神経毒又は医薬組成物は、例えば点滴による局所投与用である。
【0096】
好適な投与経路は、筋肉内注射によるものである。
【0097】
但し、注射を用いることなくクロストリジウム神経毒を筋肉に投与することも可能である。例えば、尿障害を治療するために、クロストリジウム神経毒の液体又は半固形製剤を患者の膀胱に注入すること、クロストリジウム神経毒を含むゲル製剤を患者の膀胱の適切な場所に配置すること、クロストリジウム神経毒を含む噴霧製剤を患者の膀胱の適切な場所に噴霧すること、又は、出典を明記することによりその開示内容全体を本願明細書の一部とするWO2005053733の記載のように、後で膀胱内において膨らませて前記膀胱の壁に接触させるバルーンの外壁に付与又は塗布した、固体(例えば、凍結乾燥したもの)、半固体、又は液体のボツリヌス毒素製剤を局所投与することにより、クロストリジウム神経毒を膀胱に投与し得る。
【0098】
上述したように、自律神経障害を患うヒト患者において所望の治療効果を達成するのに適したクロストリジウム神経毒の投与量、又は、換言すれば、前記クロストリジウム神経毒の治療量は、同じ自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量と同等以下である。
【0099】
好ましくは、同じ自律神経障害を治療する前記BoNT/Aは、精製BoNT/Aである。本明細書での使用において、「精製BoNT/A」という用語は、ボツリヌス神経毒A型を自然産生するクロストリジウム株(自然発生クロストリジウム株)から精製されたボツリヌス神経毒A型を意味する。精製BoNT/Aは、複合タンパク質と会合していても、複合タンパク質を含まなくてもよい。市販の精製BoNT/Aの例には、Botox(登録商標)、Dysport(登録商標)、及びXeomin(登録商標)が含まれる。
【0100】
一実施形態において、ヒト患者の自律神経障害を治療するために投与されるクロストリジウム神経毒の投与量(治療量)は、前記自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約1.1分の1乃至約100分の1、好ましくは約1.3分の1乃至約90分の1である。
【0101】
好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒がBoNT/B由来のHCCドメインを含む場合、前記クロストリジウム神経毒の治療量は、同じ自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約1.1分の1乃至約20分の1、好ましくは約1.3分の1乃至約19.8分の1である。例えば、本発明のクロストリジウム神経毒が、配列番号2のアミノ酸配列の神経毒等、天然BoNT/B神経毒である場合、前記クロストリジウム神経毒の治療量は、同じ自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約1.1分の1乃至約1.5分の1、好ましくは約1.3分の1である。他の例として、本発明のクロストリジウム神経毒が、配列番号9のアミノ酸配列の神経毒等、(天然BoNT/Bと比較して)ヒトSytII受容体に対する結合親和性が増加した修飾BoNT/B神経毒である場合、前記クロストリジウム神経毒の治療量は、同じ自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約15分の1乃至約20分の1、好ましくは約19.8分の1である。更に、別の例として、本発明のクロストリジウム神経毒が、配列番号10のアミノ酸配列の神経毒等、ヒトSytII受容体に対する結合親和性が増加した修飾キメラBoNT/B神経毒である場合、前記クロストリジウム神経毒の治療量は、同じ自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約2分の1乃至約5分の1、好ましくは約3.5分の1である。
【0102】
好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒がBoNT/F由来のHCCドメインを含む場合、前記クロストリジウム神経毒の治療量は、同じ自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約60分の1乃至約100分の1、好ましくは約61.2分の1乃至約90分の1である。例えば、本発明のクロストリジウム神経毒が、配列番号6又は配列番号11のアミノ酸配列の神経毒等、天然BoNT/F神経毒である場合、前記クロストリジウム神経毒の治療量は、同じ自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約60分の1乃至約65分の1、好ましくは約61.2分の1である。他の例として、本発明のクロストリジウム神経毒が、配列番号12のアミノ酸配列の神経毒等、(天然BoNT/Fと比較して)一つ以上のガングリオシドに対する結合親和性が増加した修飾BoNT/F神経毒である場合、前記クロストリジウム神経毒の治療量は、同じ自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約60分の1乃至約65分の1、好ましくは約61.2分の1である。更に、別の例として、本発明のクロストリジウム神経毒が、配列番号13のアミノ酸配列の神経毒等、キメラBoNT/F神経毒である場合、前記クロストリジウム神経毒の治療量は、同じ自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量の約85分の1乃至約100分の1、好ましくは約90分の1である。
【0103】
上述したように、自律神経障害を治療するBoNT/Aの投与量は、当該技術分野において周知である(https://www.medicines.org.uk/emc/medicine/112)。
【0104】
クロストリジウム神経毒の投与量は、本明細書において好ましくはナノグラム単位で測定される。
【0105】
本発明によるクロストリジウム神経毒の投与量は、活性二鎖クロストリジウム神経毒の投与量として、即ち、神経毒に関連させ得る複合タンパク質の量を含まないものと理解されるべきである。換言すれば、患者への投与が複合タンパク質に付随させて行われても、複合タンパク質なしで行われても、活性二鎖クロストリジウム神経毒の投与量を示す。当業者に周知であるように、活性二鎖クロストリジウム神経毒は、神経細胞受容体に結合し、軽鎖を細胞質にトランスロケートし、SNAREタンパク質を切断することが可能である一方、複合タンパク質は、このような生物活性を示さない(即ち、「活性」ではない)。ボツリヌス神経毒の場合、活性二鎖全体の大きさは、一般に約150kDである。
【0106】
実際、当業者に周知であるように、クロストリジウム神経毒の効力は、LD50(50%致死量)単位を達成するのに必要な神経毒の量(例えば、ナノグラム数)に関連し、1LD50単位は、致死腹腔内投与量の中央値として定義される(マウスにおいて測定)。しかしながら、現在市場に出ているBoNT医薬品では、150kDの神経毒が様々な量で含まれており、また、LD50単位も様々である。その上、これらの調製物において、神経毒は、複合タンパク質としても知られる無毒性の神経毒関連タンパク質(NAP)と会合させている(又は組み合わせている)場合と、そうでない場合とがある。換算を容易にするために:
- Botox(登録商標)(Onabotulinumtoxin Aとしても知られる)100単位には、約0.73ngの150kD BoNT/Aと複合タンパク質とが含まれる。
- Dysport(登録商標)(Abobotulinumtoxin Aとしても知られる)100単位には、約0.65ngの150kD BoNT/Aと複合タンパク質とが含まれる。
- Xeomin(登録商標)(Incobotulinumtoxin Aとしても知られる)100単位には、約0.44ngの150kD BoNT/Aが含まれ、複合タンパク質は含まれない。
- Neurobloc/Myobloc(登録商標)(Rimabotulinumtoxin Bとしても知られる)100単位には、約0.2ng乃至約1ngの150kD BoNT/Bと複合タンパク質とが含まれる。
【0107】
クロストリジウム神経毒の量は、タンパク質を好ましくはナノグラムレベルで定量化するために当該技術分野において従来使用されている方法により測定することが可能であり、これには、特に、同位体希釈質量分析等の質量分析(Munoz et al., Quantification of protein calibrants by amino acid analysis using isotope dilution mass spectrometry, Anal. Biochem. 2011, 408, 124-131)、又は蛍光アッセイ(Poras et al., Detection and Quantification of Botulinum Neurotoxin Type A by a Novel Rapid In Vitro Fluorimetric Assay, Appl Environ Microbiol. 2009 Jul; 75(13): 4382-4390)が含まれる。
【0108】
本明細書において値の範囲が提示された場合、文脈上明らかに別の意味を示す場合を除き、その範囲の上限と下限との間にある、単位の10分の1までの各介在値も、具体的に開示されると理解されたい。記載範囲内の任意の記載値又は介在値と、記載範囲内の他の任意の記載値又は介在値との間の、より小さな各範囲は、本開示に含まれる。更に、本明細書において「a乃至b」という表現で示される数値の任意の範囲は、aからbまでにわたる(即ち、厳密な終点a及びbを含む)数値の範囲を意味すると理解されたい。
【0109】
更に、「約」という用語は、本明細書において、それが使用された数の数値のプラス又はマイナス(±)5%、好ましくは±4%、±3%、±2%、±1%、±0.5%、±0.1%として理解されたい。
【0110】
好適な実施形態において、ヒト患者の自律神経障害を治療するために投与されるべき本発明のクロストリジウム神経毒の投与量(即ち、治療量)は、約0.00025ng乃至約3ngの範囲である。
【0111】
好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒の治療量は、約0.0003ng乃至約2ng、好ましくは約0.0004ng乃至約1.5ng、約0.0005ng乃至約1ng、更に好ましくは約0.0006ng乃至約0.5ngの前記クロストリジウム神経毒の範囲である。
【0112】
好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒は、BoNT/BのHCCドメイン又はBoNT/FのHCCドメインを含み、本明細書に記載の前記クロストリジウム神経毒の投与量の何れかでヒト患者に投与され、上述したように、自律神経障害の治療に用いる。
【0113】
より好適な実施形態において、クロストリジウム神経毒は、BoNT/BのHCCドメイン又はBoNT/FのHCCドメインを含み、本明細書に記載の前記クロストリジウム神経毒の投与量の何れかでヒト患者に投与され、上述したように、平滑筋障害の治療に用いる。より好ましくは、前記平滑筋障害は、尿障害、胃腸障害、血管及び心血管障害、前立腺障害、及び性障害からなる群から選択される。
【0114】
例えば、BoNT/BのHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒の治療量は、好ましくは約0.001ng乃至約2ngの範囲である。
【0115】
更に、例えば、BoNT/BのHCCドメインを含むクロストリジウム神経毒の治療量は、好ましくは約0.0003ng乃至約0.05ngの範囲である。
【0116】
但し、必要な投与量範囲は、クロストリジウム神経毒の正確な性質、自律神経障害、投与経路、製剤の性質、患者の年齢、患者の状態の性質、程度、又は重症度、存在する場合には禁忌、及び主治医の判断に応じて決まることは理解されよう。こうした投与レベルの変化は、最適化のための標準の経験的ルーチンを用いて調整することができる。
【0117】
参考として、一部の特定の自律神経障害を治療するための天然BoNT/A(配列番号1のアミノ酸配列を有する神経毒等)の適切な投与量の例を以下に示す。
- NDO(神経性排尿筋過活動): 排尿筋内への1.46ngの天然BoNT/A、
- OAB(過活動膀胱): 排尿筋内への0.73ngの天然BoNT/A、
- 腋窩多汗症: 各腋窩内への0.365ngの天然BoNT/A、
- 成人患者、特にパーキンソン病患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.146ngの天然BoNT/A、
- 小児脳性麻痺患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.073ngの天然BoNT/A。
【0118】
本発明による、上述した障害を治療するための天然BoNT/B(配列番号2のアミノ酸配列を有する神経毒等)の適切な投与量範囲の例は、以下の通りである。
- NDO(神経性排尿筋過活動): 排尿筋内への0.5ngから2ngの天然BoNT/B、
- OAB(過活動膀胱): 排尿筋内への0.25ng乃至1ngの天然BoNT/B、
- 腋窩多汗症: 各腋窩内への0.125ng乃至0.5ngの天然BoNT/B、
- 成人患者、特にパーキンソン病患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.05ng乃至0.2ngの天然BoNT/B、
- 小児脳性麻痺患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.025ng乃至0.1ngの天然BoNT/B。
【0119】
本発明による、上述した障害を治療するためのヒトSytII受容体に対する結合親和性が増加した修飾BoNT/B(配列番号9のアミノ酸配列を有する神経毒等)の適切な投与量範囲の例は、以下の通りである。
- NDO(神経性排尿筋過活動): 排尿筋内への0.025ng乃至0.2ngの修飾BoNT/B、
- OAB(過活動膀胱): 排尿筋内への0.0125ng乃至0.1ngの修飾BoNT/B、
- 腋窩多汗症: 各腋窩内への0.0075ng乃至0.05ngの修飾BoNT/B、
- 成人患者、特にパーキンソン病患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.0025ng乃至0.02ngの修飾BoNT/B、
- 小児脳性麻痺患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.001ng乃至0.01ngの修飾BoNT/B。
【0120】
本発明による、上述した障害を治療するためのヒトSytII受容体に対する結合親和性が増加したキメラ修飾BoNT/B(配列番号10のアミノ酸配列を有する神経毒等)の適切な投与量範囲の例は、以下の通りである。
- NDO(神経性排尿筋過活動): 排尿筋内への0.2ng乃至1ngのキメラ修飾BoNT/B、
- OAB(過活動膀胱): 排尿筋内への0.1ng乃至0.5ngのキメラ修飾BoNT/B、
- 腋窩多汗症: 各腋窩内への0.05ng乃至0.2ngのキメラ修飾BoNT/B、
- 成人患者、特にパーキンソン病患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.02ng乃至0.1ngのキメラ修飾BoNT/B、
- 小児脳性麻痺患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.01ng乃至0.05ngのキメラ修飾BoNT/B。
【0121】
本発明による、上述した障害を治療するための天然BoNT/F(配列番号6又は配列番号11のアミノ酸配列を有する神経毒等)の適切な投与量範囲の例は、以下の通りである。
- NDO(神経性排尿筋過活動): 排尿筋内への0.01ng乃至0.05ngの天然BoNT/F、
- OAB(過活動膀胱): 排尿筋内への0.005ng乃至0.025ngの天然BoNT/F、
- 腋窩多汗症: 各腋窩内への0.0025ng乃至0.01ngの天然BoNT/F;
- 成人患者、特にパーキンソン病患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.001ng乃至0.005ngの天然BoNT/F、
- 小児脳性麻痺患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.0005ng乃至0.0025ngの天然BoNT/F。
【0122】
本発明による、上述した障害を治療するための一つ以上のガングリオシドに対する結合親和性が増加した修飾BoNT/B(配列番号12のアミノ酸配列を有する神経毒等)の適切な投与量範囲の例は、以下の通りである。
- NDO(神経性排尿筋過活動): 排尿筋内への0.01ng乃至0.05ngの修飾BoNT/F、
- OAB(過活動膀胱): 排尿筋内への0.005ng乃至0.025ngの修飾BoNT/F、
- 腋窩多汗症: 各腋窩内への0.0025ng乃至0.01ngの修飾BoNT/F、
- 成人患者、特にパーキンソン病患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.001ng乃至0.005ngの修飾BoNT/F、
- 小児脳性麻痺患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.0005ng乃至0.0025ngの修飾BoNT/F。
【0123】
本発明による、上述した障害を治療するためのキメラBoNT/F(配列番号13のアミノ酸配列を有する神経毒等)の適切な投与量範囲の例は、以下の通りである。
- NDO(神経性排尿筋過活動): 排尿筋内への0.007ng乃至0.03ngのキメラBoNT/F、
- OAB(過活動膀胱): 排尿筋内への0.003ng乃至0.0015ngのキメラBoNT/F、
- 腋窩多汗症: 各腋窩内への0.001ng乃至0.007ngのキメラBoNT/F、
- 成人患者、特にパーキンソン病患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.0007ng乃至0.003ngのキメラBoNT/F、
- 小児脳性麻痺患者の流涎: 顎下腺及び/又は耳下腺あたり0.0003ng乃至0.0015ngのキメラBoNT/F。
【0124】
本開示は、本明細書に開示した方法及び材料の例により限定されず、本明細書に記載したものと類似する又は等価の任意の方法及び材料を、本開示の実施形態の実施又は試験に用いることができる。特に指示の無い限り、任意のアミノ酸配列は、それぞれアミノからカルボキシへの方向で左から右に書かれている。
【0125】
更に、本明細書及び添付特許請求の範囲での使用において、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかに別の意味を示す場合を除き、複数の指示対象を含むことに留意する必要がある。したがって、例えば、「クロストリジウム神経毒(a clostridial neurotoxin)」への言及は、複数のそのような候補作用剤を含み、「クロストリジウム神経毒(the clostridial neurotoxin)」への言及は、当業者に公知の一つ以上のクロストリジウム神経毒素及びその等価物への言及を含むなどとなる。
【0126】
次に、本発明を、単なる例として、以下の図及び実施例を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0127】
図1】1分間隔で3回の刺激を与え、その後3分の休息した後のEFS誘発収縮に対する膀胱条片収縮反応。
図2A】1、3、5、又は10nMのnBoNT/A、nBoNT/B、rBoNT/BMY、及びrBoNT/ABMYでの振幅に関する最大EFS収縮の50%抑制時間(T50)。
図2B】0.1、1、又は10nMのnBoNT/F、mrBoNT/F、及びmrBoNT/F7-1での振幅に関する最大EFS収縮の50%抑制時間(T50)。
図3】nBoNT/A、nBoNT/B、rBoNT/BMY、rBoNT/ABMY、nBoNT/F、及びmrBoNT/F7-1の濃度反応曲線。50%抑制時間(T50)を、ボツリヌス毒素タンパク質濃度に対してプロットし、対数関数をフィットさせて優れたR2値を得た。
【0128】
アミノ酸配列
【0129】
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【実施例0130】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を例示する役割を果たすものであり、特許請求の範囲に定める本発明の範囲を決して限定しない。
【0131】
実施例1: ヒト膀胱組織試料の研究
【0132】
簡単に説明すると、ヒト膀胱組織試料は、カルテにより膀胱機能障害が見られない膀胱癌のために膀胱全摘除術を受けた患者から取得し、組織及び他の試料の採取及び使用が、書面(データのプライバシ義務を記載したもの)での患者のインフォームドコンセントの取得を含め、全ての関連法、規制、及び行動規準と、患者の病歴と一致して実施されるようにした。
【0133】
外科的処置の後、試料を直ちに手術室から病理学施設に移送し、膀胱穹窿部の正常な断片、即ち、肉眼で見える腫瘍組織のないものを、実験のために選択した。除去後すぐに、組織試料を、ペニシリン(100IU/ml)及びストレプトマイシン(0.1mg/ml)を含むKrebs-HEPES緩衝液(以下のmM組成を有する: NaCl 118.0、KCl 4.7、MgSO4 1.2、KH2PO4 1.2、CaCl2 2.5、 NaHCO3 4.2、グルコース11.1、HEPES 20.8、pH7.4)中において4℃で保存して、使用(最長24時間以内)まで最適に保存し、研究施設に輸送した。
【0134】
条片を準備するために、尿路上皮を注意深く除去し、排尿筋の8つの切片(4×2×2mm)を、実験毎に各ドナーの膀胱から切除した。残りの膀胱組織の重さを量り、2本のクライオチューブに分け、直ちに液体窒素中で凍結し、後日の分析のために-80℃で保存した。
【0135】
Ex vivo実験は、37℃に維持すると共に95%O2及び5%CO2により連続的にバブリングしてpHを7.4に維持したKrebs-HEPES緩衝液で満たされた臓器室により構成された実験室フード(Captair Chem Filtair XL1346A)の下に配置したセットアップを用いて行った。膀胱条片を5mlの臓器チャンバーに吊り下げ、等尺性張力記録用の力トランスデューサー(force transducers)(Pioden controls Ltd,UK)に接続した。1gの初期張力を加えた。増幅に続いて、張力の変化は、Chart TM5ソフトウェア(AD Instruments Ltd)を用いて、Mac Lab TM/8によりデジタル化した。丹念に洗浄した後、条片は、条片の両側に位置し且つ刺激装置(Bionic System Nozay、フランス)に接続された二個のプラチナ電極を介して、電界刺激(electrical field stimulation, EFS)により収縮させた。
【0136】
張力は、60分の平衡期間中、1gの静止張力に到達するように調整し、その間、緩衝液は、15分毎に取り替えた。
【0137】
平衡期間に続いて、臓器槽にKCl(100mM、10分)、次にカルバコール(3.10-6M、10分)を順に添加して排尿筋平滑筋条片をプライミングし、各化合物添加の合間に洗浄ステップを挟んだ。その後、EFSトレインを付与する前に、0.5%のゼラチンを臓器槽に注入した。
【0138】
EFSトレイン(20Hz、パルス持続時間1ms、トレイン持続時間5s、300mA)は、1分間隔で付与した後、3分の休止期間が続く、3回の刺激群により継続的に行った(我々のヒト膀胱組織での経験に基づき、ヒト膀胱条片に強固且つ安定した収縮を与えるように選択された刺激の条件)。刺激は、安定した反応が得られるまで継続した(安定化期間中の直近三群のEFS収縮について計算された、EFS収縮の振幅(amplitude)の変動のパーセンテージが90%以上又は110%以下の場合、反応が安定していると見做した)。
【0139】
個々の条片を、溶媒(0.5%ゼラチンを含むKrebs)、0.1、1、3、5、又は10nMのボツリヌス神経毒と共にインキュベートし、EFS刺激を3時間継続した。実験の最後に、臓器槽にカルバコール(3.10-6M、10分)を添加してムスカリン受容体を直接活性化することにより、膀胱条片を収縮させた。ボツリヌス神経毒のインキュベーション前後でのカルバコール誘発条片収縮の比較は、実験中の条片の生死判別試験の役割を果たす。
【0140】
【表2】
【0141】
8種類の非複合ボツリヌス神経毒を試験した:
- nBoNT/A、List Boological Laboratories,Inc.から入手した天然ボツリヌス神経毒A型(配列番号1)、
- nBoNT/B、List Biological Laboratories,Inc.から入手した天然ボツリヌス神経毒B型(配列番号2)、
- rBoNT/BMY、HCドメインに二つの変異、E1191M及びS1199Yを含む組換えボツリヌス神経毒B型(配列番号9)、
- rBoNT/ABMY、HCドメインに二つの変異、E1191M及びS1199Yを含む組換えキメラボツリヌス神経毒(BoNT/A由来のLHNドメイン及びBoNT/B由来のHCドメイン)(配列番号10)、
- nBoNT/F、Metabiologics Inc.から入手した天然ボツリヌス神経毒亜型F1(配列番号6)、
- mrBoNT/F、HCCドメインに単一点変異、H1241Kを含む組換えボツリヌス神経毒亜型F1(配列番号12)、
- mrBoNT/F7-1、ネイティブのBoNT/F7活性化ループがBoNT/F1活性化ループに置換された組換え型ボツリヌス神経毒素亜型F7(配列番号13)。
【0142】
臓器槽でのボツリヌス神経毒のインキュベーションは、0.75μl、7.5μl、22.5μl、37.5μl、又は75μlのボツリヌス毒素原液(666nM)を、0.5%ゼラチンを含む5mlのKrebs-HEPES緩衝液に添加することにより、臓器槽の最終濃度として、それぞれ0.1、1、3、5、又は10nMとなるように行った。
【0143】
薬剤に対する収縮反応は、平均発生張力について定量化した。平均発生張力(mg、選択したトレーシングにおけるデータポイントの平均に対応)は、KCl又はカルバコール添加に続く各条片の安定した反応の前及び終わりに、1分のセクション中に測定した。
【0144】
EFS誘発収縮に対する収縮反応は、以下のように定量化された。要約すると、図1に示したように、3回の刺激を1分間隔で付与した後、3分の休止が続く。
【0145】
各EFS誘発反応は、2つの連続した刺激間の時間枠、即ち60秒の間に分析した。この分析は、刺激群毎に最後の二つの反応に対して3時間に亘り行った。
【0146】
刺激群毎に、最後の二つの反応(ピーク2及び3)において得られた値を平均した。
【0147】
EFS誘発反応を定量化するために、EFS誘発収縮の振幅(mg)は、刺激前の発生張力とEFSに対する反応中の最大発生張力との間の差、即ち選択された最大(Max)及び最小(Min)データポイント間の差として計算した。
【0148】
これらの振幅値は、ボツリヌス神経毒を添加する前の安定化期間中の刺激の最後のトレイン中に測定された最大EFS収縮に対応する値のパーセンテージとして表現した。
【0149】
ボツリヌス神経毒の抑制効果は、麻痺時間50(T50)(分)の値、即ち最大反応の50%を抑制するのに必要な時間を決定することにより評価した。この値は、GraphPad Prism 6.05の可変スロープモデルを用いて計算した(Y=Bottom+(Top-Bottom)/(1+10^((LogIC50-X)*HillSlope))。これは、4パラメータ用量反応ロジスティック曲線とも呼ばれる。
【0150】
結果を表3及び図2に示す。
【0151】
【表3】
【0152】
nBoNT/A、nBoNT/B、rBoNT/BMY、rBoNT/ABMY、nBoNT/F、mrBoNT/F、及びmrBoNT/F7-1は、振幅についてEFS誘発収縮反応の濃度依存性の抑制を示した。nBoNT/A及びnBoNT/Bは、同じ濃度でヒト膀胱条片のEFS誘発収縮に対する同等の抑制効果を誘導した。更に、全ての投与量で、rBoNT/BMY、rBoNT/ABMY、nBoNT/F、mrBoNT/F、及びmrBoNT/F7-1がもたらした膀胱条片EFS誘発収縮の減少は、nBoNT/A及び/又はnBoNT/Bの何れかと比較して、より高くなった。試験した全てのBoNT/F、並びにrBoNT/BMY及びrBoNT/ABMYでは、nBoNT/A又はnBoNT/Bと同じ収縮の低減を達成するために必要な濃度が低くなったと思われる。試験した全てのBoNTのうち、mrBoNT/F7-1は、最大の収縮減少をもたらすものとなった。
【0153】
上述した観察に基づいて、試験したボツリヌス毒素のヒト膀胱組織に対する効力を、Weisemann et al. が記述した方法(Generation and Characterization of Six Recombinant Botulinum Neurotoxins as Reference Material to Serve in an International Proficiency Test, Toxins, 2015, 7(12): 5035-5054; doi:10.3390/toxins7124861)により、特に、下の表4及び図3に示すように、ボツリヌス毒素タンパク質濃度に対してT50をプロットすることにより定量化し、対数関数をフィットさせて優れたR2値を得た。
【0154】
【表4】
【0155】
結果は、BoNT/Fの効力がヒトの膀胱組織に対して最も高く、BoNT/B、次にBoNT/Aが続くことを示している。特に、nBoNT/Bは、nBoNT/Aの約1.5倍の効力を、mrBoNT/Bは、nBoNT/Aの約20倍の効力及びnBoNT/Bの約15倍の効力、mrBoNT/ABは、nBoNT/Aの約4倍の効力及びnBoNT/Bの約3倍の効力、nBoNT/Fは、nBoNT/Aの約60倍の効力及びnBoNT/Bの約50倍の効力、mrBoNT/F7-1は、nBoNT/Aの約90倍の効力及びnBoNT/Bの約70倍の効力となった。更に、mrBoNT/Fは、1nM及び10nMでnBoNT/Fと同じT50値を示しており、mrBoNT/Fは、nBoNT/Fと同様の効力であると合理的に推測することができる。
【0156】
したがって、本明細書に開示した驚くべきデータに基づいて、BoNT/B及びBoNT/F神経毒と、BoNT/D、BoNT/D-C、又はBoNT/G等の同様の結合、取り込み、トランスロケーション、及び/又はSNARE切断特性を示すクロストリジウム神経毒とは、平滑筋障害、特に尿障害(NOD、OAB等)といった、ヒト自律神経系の障害を治療するために、同じ障害を治療するのに用いられる一種類のBoNT/Aと同等以下の投与量で使用することができる。特に、表4において確認された相対効力値に依拠して、前記対象に投与するBoNT/B、BoNT/F、BoNT/D、BoNT/D-C、又はBoNT/Gクロストリジウム神経毒の治療量を、同じ自律神経障害を治療可能なBoNT/Aの公知の投与量に基づいて決定することができる。
【0157】
上記明細書において言及した全ての刊行物は、出典を明記することにより本願明細書の一部とする。本発明の記載された方法及びシステムの様々な変形及び変更は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかとなろう。 本発明を、特定の好適な実施形態に関連して説明してきたが、請求項に係る発明は、このような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、生化学及び生命工学又は関連分野の当業者には自明な、記載された本発明を実施するための形態の様々な変形は、以下の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0158】
[図1]
Developped tension (mg): 発生張力(mg)
Peak 1: ピーク 1
Peak 2: ピーク 2
Peak 3: ピーク 3
1 min window of analysis: 1分の分析ウィンドウ
3 min: 3分
1st EFS stimulation: 第1のEFS刺激
2nd EFS stimulation: 第2のEFS刺激
3rd EFS stimulation: 第3のEFS刺激
3 min rest: 3分の休止
Zoom (figure 4): 拡大(図4)
図1
図2A
図2B
図3
【配列表】
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