IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフトの特許一覧

<>
  • 特開-歯科用多色ブランク 図1
  • 特開-歯科用多色ブランク 図2
  • 特開-歯科用多色ブランク 図3
  • 特開-歯科用多色ブランク 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059829
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】歯科用多色ブランク
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/083 20060101AFI20240423BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20240423BHJP
   A61C 13/09 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
A61C13/083
A61C5/70
A61C13/09
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024026597
(22)【出願日】2024-02-26
(62)【分割の表示】P 2020568529の分割
【原出願日】2019-08-02
(31)【優先権主張番号】18187024.7
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】501151539
【氏名又は名称】イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL-9494 Schaan Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン ゼーガー
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド ビュールク
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン クロリコフスキ
(72)【発明者】
【氏名】フランク ロスブラスト
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159DD01
4C159GG04
4C159GG15
4C159RR15
4C159SS01
4C159SS02
(57)【要約】
【課題】 歯科用ブランクを提供すること
【解決手段】 本発明は、互いに独立して、ガラス、ガラスセラミックまたはセラミックをベースとする第1および第2の層を有する歯科用ブランクであって、第1の層および第2の層が、色が異なり、境界面を形成し、境界面が斜めに延びる、歯科用ブランクに関する。上記に関連して、「をベースとする」という用語は、ブランクの第1および第2の層が、層のすべての構成成分の合計の質量に対して、主にガラス、ガラスセラミックまたはセラミックを含有することを意味する。第1および第2の層が、互いに独立して、ガラス、ガラスセラミックまたはセラミックからなることが好ましい。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用ブランクであって、それを用いて天然歯材料の光学的特性を非常に良好に模倣することができ、その特性のために非常に良好な機械的特性を有する、審美的要求が厳しい歯科用修復物の簡潔な生産に特に好適である、歯科用ブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科技術の分野での使用のための、種々の要求を満たすブランクを開発することは大きな課題である。そのようなブランクは、容易に生産されなければならないだけでなく、簡潔に所望の形状寸法に成形され、それでも高強度の修復物をもたらさなければならない。最後に、ブランクは、その後の修復物の複雑なベニアリングを省略することができるように、天然歯材料のものに近くなる外観を既に有していなければならない。
【0003】
象牙質から歯のエナメル質にかけての色および透光性の勾配を再現する多色ブロック、および歯科技術におけるそれらの使用が、最新技術から公知である。例えば、EP 0 870 479 A2は、歯科用修復物へとさらに加工される多色成形体の生産のための方法であって、粉末または粒状材料の形態である、少なくとも2種の異なる色の出発原料をプレスダイに充填し、プレスして多色成形体を形成する方法について記載している。
【0004】
それらの慣例的なさらなる焼結による加工のために焼結ブロックとも称される、そのような成形体の場合、色の勾配は、異なる色の出発原料を押出ダイに順次導入することにより、比較的簡潔に達成することができる。しかし、天然の歯の色および透光性の勾配を可能な限り正確に模倣するために、2つよりも多くの層を重ねて配置することが通常必要である。さらに、一軸プレスされたブロックの場合、2つまたはそれよりも多くの層は、通常、実質的に水平に重ねてプレスすることしかできない。これは、分離した層の場合、最終的な修復物において、それらの界面が依然として視認可能なままであるというさらなる欠点を有する。天然の色および透光性の勾配を再現し得るように、臼歯の置換の場合、少なくとも3つの層を重ねて積層することが通常必要である。基本的に、以下が当てはまる:層間の界面はそれほど認識可能でなく、より多くの層が互いに積層される。したがって、個々の層間の移行部を完全に排除するために、焼結ブロックの場合、少なくとも象牙質から切縁にかけての移行部を連続的にすることが一般的に必要である。しかし、これに関して、例えばWO2013/067994A1に記載されるように、複雑な充填デバイスが通常必要とされる。
【0005】
一軸プレスされた焼結ブロックの生産のための上述の方法では、臼歯は非常に良好に模倣することができる。しかし、前歯の再現は一般的により困難であり、これは、水平に積層されるブロックが、半透明のエナメル質層が歯頸-切端方向で実質的に歯の全域にわたって、より濃い色の象牙質の芯を覆う天然の前歯のように構築されないためである。
【0006】
このため、異なる色の層の実質的に水平な配置に加え、異なる色の層間の境界面が放物線の形状をとるブロックも公知である。例えば、WO2015/051095A1は、そのようなブランクおよび義歯の生産のためのその使用について記載している。
【0007】
しかし、酸化ジルコニウムのブロックなどの、公知の粉末または粒状材料層の多色ブロックの場合、個々の層間の境界層の軌道とは独立して、歯科用修復物に不可欠な高強度を達成するため、歯科用修復物の成形後に焼結ステップが依然として必要とされる。しかし、この焼結は、複雑な拡大金型の使用によって考慮されなければならない、著しい収縮を伴う。このため、焼結プロセスの結果として、適合の問題が生じ得る。
【0008】
潜在的な適合の問題を回避するために、焼結ブロックに加え、ガラスおよびガラスセラミックブロック、ならびに歯科用修復物の生産のためのそれらの使用も一般的に公知であり、これらは、固体ガラス技術によって、すなわち、好適な出発成分を溶融し、溶融物を好適な金型で鋳造し、次に必要に応じて加熱処理することによって生産される。これらのブロックの場合、成形後の焼結するステップを省略することができる。しかし、ケイ酸リチウムガラスセラミックのブロックなどのそのようなガラスセラミックブロックは、通常単色であり、結果として、歯科技術者によって前歯領域に使用される場合、天然の歯の色の勾配を可能な限り良好に模倣するために、積層材料を付与しなければならない。積層材料の付与は、複雑かつ費用がかかるプロセスである。さらに、積層材料の強度などの機械的特性は、フレームワーク材料のものより総じて低く、結果として、積層材料は、歯科用修復物の臨床的欠陥の原因になることが多い。したがって、象牙質領域および切端領域が、色および透光性のみが異なるがその他の点では同一の材料からなる、均質なモノリシックの高強度ガラスセラミック材料が一般的に望ましい。
【0009】
異なる色のガラス層を有する固体ガラスブロックは、異なる様式で確実に生産することができる。例えば、WO2014/124879A1は、ケイ酸リチウムガラスまたはケイ酸リチウムガラスセラミックの2つまたはそれよりも多くの異なる色の層を有し、溶融物の形態のモノリシック層を、異なる色の別のモノリシック層に付与することによって得ることができる、歯科用ブランクについて記載している。しかし、固体ガラスブロックの場合、見かけ上連続的な色および透光性の勾配を達成するために、8層またはそれよりも多くの層などの非常に多くの層を互いに接合することが一般的に必要である。
【0010】
したがって、公知の多色ブランクの場合、複数の異なる色の層、またはさらには連続的な色の勾配の使用が、天然の歯の色および透光性の勾配を可能な限り忠実に模倣し、個々の層間の視認可能な境界面を回避するために必要である。しかし、複数の異なる色の層を設けることは、特に固体ガラス技術によって生産されたブロックの場合、複雑でありほとんど経済的でない。粉末または粒状材料層から作製された多色ブランク、いわゆる焼結ブロックの場合、必要な焼結によって、歯科用修復物の成形後に適合の問題が生じ得るというさらなる問題が存在する。焼結ブロックから生産される歯科用修復物はまた、一般的に強度が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0870479号明細書
【特許文献2】国際公開第2013/067994号
【特許文献3】国際公開第2015/051095号
【特許文献4】国際公開第2014/124879号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によると、上述の問題が回避される。本発明の目的は特に、生産が簡潔であるブランクであって、それを用いて天然歯材料の外観を非常に良好に模倣することができ、所望の歯科用修復物の形状を機械加工によって簡潔に与えることができ、成形後に、異なる層間の境界面が視認可能でない精密かつ高強度の歯科用修復物に、実質的な収縮を伴わずに変換することができる、ブランクを提供することである。
【0013】
この目的は、請求項1~18に記載のブランクによって達成される。本発明の対象はまた、請求項19~21に記載のブランクの生産のための方法、請求項22~26に記載の歯科用修復物の生産のための方法、および請求項27に記載のブランクの使用である。
【0014】
本発明による歯科用ブランクは、互いに独立して、
ガラス、
ガラスセラミック、または
セラミック
をベースとする第1および第2の層を有し、
第1および第2の層が、色が異なり、境界面を形成し、境界面が斜めに延びていることを特徴とする。
【0015】
上記に関連して、「をベースとする」という用語は、ブランクの第1および第2の層が、層のすべての構成成分の合計の質量に対して、主にガラス、ガラスセラミックまたはセラミックを含有することを意味する。第1および第2の層が、互いに独立して、ガラス、ガラスセラミックまたはセラミックからなることが好ましい。
【0016】
第1および第2の層の両方は、好ましくはいずれもガラスをベースとする、いずれもガラスセラミックをベースとする、またはいずれもセラミックをベースとする。第1および第2の層の両方が、いずれもガラスから、いずれもガラスセラミックから、またはいずれもセラミックからなることがさらに好ましい。
【0017】
「色の差」は、狭義の色調の差および/または透光性、乳白光もしくは蛍光の差を意味する。「透光性」という用語は、光の透過率を説明する。色は、特に、そのLab値によって、または歯科産業で慣例のシェードガイドによって特徴付けることができる。さらに、ブランクの第1および第2の層の色の差は、ヒトの目で認識可能である必要はない。むしろ、色調および/または透光性の差は、焼結するステップまたは加熱処理後に初めて視認可能になってもよい。
【0018】
したがって、本発明によるブランクは、特に、所望の色の勾配が2つの異なる色の層のみで既にもたらされており、結果として、天然の歯、特に前歯の色および透光性の勾配が、その後の義歯において、層間の境界面が視認可能のままであることなく模倣され得ることを特徴とする。これは、驚くべきことに、一軸プレスされた焼結ブロックの場合と異なり、第1と第2の層の間の境界面が水平にではなく、斜めに延びることによって達成される。これにより、切端層を模倣することを意図したより半透明な層を、象牙質層を模倣することを意図した、より不透明かつより濃い色の層の上に斜めに配置することが可能であり、結果として、層間の分断境界線が認識可能になることなく、天然の歯、特に前歯の色の勾配が模倣され得、移行部が連続的に見える。
【0019】
本発明によると、さらなる層の存在は排除されない。しかし、ブランクが含む層が少ないほど、ブランクの生産のための準備の手間が少なくなる。したがって、本発明によるブランクは、第1および第2の層に加えたさらなる層を有さないことが好ましい。
【0020】
好ましくは、第1および第2の層によって形成される体積区域は非同心円状である。これは、ブランクのこれらの体積区域が、同じ重心を有さないことを意味する。
【0021】
ブランクの挿入軸に平行に延びる、ブランクを通る第1の断面平面において、第1と第2の層の間の境界面は、挿入軸に垂直に延びないことがさらに好ましい。
【0022】
「ブランクの挿入軸」という用語は、歯頸-切端方向の軸を指し、特にクラウンがブランクから生産される場合に関して、ブランクから生産される義歯の模型に対する挿入方向を説明する。したがって、一般的に、ブランクの挿入軸は、それから生産される義歯の歯の長手方向軸に実質的に一致する。したがって、挿入軸は、それぞれの患者の状態を指す
。ブロックまたは立方体の形態のブランクの場合、挿入軸は、好ましくは、ブランクの2つの対向する側面、特に歯頸-切端方向で対向する2つの側面の重力の中心を通過する直線になる。円板または円筒の形態のブランクの場合、挿入軸は、好ましくは、円板の表面に垂直に延びる。一実施形態によると、ブランクが、CAD/CAMデバイスのホルダーなどの加工デバイスのホルダーを有する場合、以下により詳細に記載されるように、ブランクの挿入軸は、好ましくは、ホルダーの回転軸に垂直に延びる。
【0023】
特に、第1の断面平面の境界面が実質的に真っすぐに延びることが好ましい。したがって、好ましい実施形態では、本発明によるブランクは、第1の断面平面における第1および第2の層の境界面が実質的に真っすぐに延び、挿入軸に対して90°とは異なる角度であることを特徴とする。
【0024】
第1の断面平面における第1および第2の層の境界面が、挿入軸に対して20~80°、好ましくは30~80°の角度であるブランクが特に好ましい。そのような境界面の軌道の場合、前歯の天然の色の勾配が特に良好に模倣され得る。
【0025】
別の実施形態では、第1の断面平面における第1および第2の層の境界面は円弧状に延びる。この実施形態でも、第1の断面平面における第1および第2の層の境界面が、ブランクの挿入軸に対して90°とは異なる角度であることが好ましい。特に好ましくは、前歯の色の勾配を特に良好に模倣することができるように、第1の断面平面における境界面の線を通る最良適合線は、ブランクの挿入軸に対して20~80°、好ましくは30~80°の角度である。
【0026】
第1の断面平面における第1および第2の層の境界面が実質的に真っすぐにまたは円弧状に延びるかにかかわらず、ブランクは、第1および第2の領域を有し、第1の領域は、境界面の1つの側、例えば、境界面の上方に位置付けられ、ブランクから生産される歯科用修復物において、歯の切縁を模倣するよう働き、第2の領域は、境界面の反対側、例えば、境界面の下方に位置付けられ、ブランクから生産される歯科用修復物において、歯の象牙質を模倣するよう働く。
【0027】
さらに、ブランクの回転軸は、ブランクの挿入軸に実質的に垂直に延びることが好ましい。特に好ましくは、第1の断面平面における回転軸と挿入軸の間の角度は90°である。さらなる実施形態では、第1の断面平面における回転軸と挿入軸の間の角度は、好ましくは70~110°、特に80~100°、特に好ましくは約90°である。「ブランクの回転軸」という用語は、所望の歯科用修復物の成形のための機械加工中に、ブランクが回転する中心である軸を指す。ブランクが、例えば、CAD/CAMデバイスのホルダーを有する場合、ブランクの回転軸は、ホルダーの回転軸に一致する。
【0028】
したがって、第1の断面平面における第1および第2の層の境界面が、回転軸に対して10~70°、好ましくは10~60°の角度であるブランクが好ましい。第1および第2の層の境界面と回転軸の間のそのような角度は、歯科用修復物の設計およびブランクにおけるその載置のより大きい自由度を提供し、結果として、ブランクの複雑な5軸機械加工を回避することができることが見出された。
【0029】
さらに、第1および第2の層の境界面は円弧状に延び、特に、第1の断面平面に垂直に延びる第2の断面平面におけるブランクを通って凸状に湾曲して延びることが好ましい。「凸状に湾曲する」という用語は、透光性がより低く、したがって、置換される歯の象牙質層を模倣することを意図した層に関する。これは、透光性がより低い層が、第2の断面平面において「外方に」、すなわち、透光性がより高い層の方向に湾曲することを意味する。また、第1と第2の層の間のこの軌道の境界面によって、前歯の天然の色の勾配が特
に良好に模倣され得る。特に、前歯のクラウンの再現の際、象牙質層に関する凸状湾曲により、象牙質と切縁の間の、切端的のみならず近心的および遠心的に見かけ上連続的な移行部が可能になる。
【0030】
天然の前歯の場合、切端領域の象牙質は、切縁結節構造で突出している。したがって、前歯を特に忠実に模倣するために、本発明によるブランクの場合、第2の断面平面における第1および第2の層の境界面は、切縁結節構造を有することが好ましい。「切縁結節」という用語は、小さな突起またはこぶを指す。したがって、切縁結節構造はへこみを有する。特に、切縁結節が歯頸方向に突出していることが有利である。さらに、切縁結節が切端方向で先細りすることが有利である。したがって、好ましい実施形態によると、第2の断面平面では、境界面は好ましくは、その概して凸状に湾曲した軌道から開始して、複数のへこみを有する。好ましくは、へこみは、幅および深さが互いに異なり、結果として、不規則な切縁結節構造が存在することが好ましい。さらに、切縁結節構造は、好ましくは、へこみの深さが2mm以下、好ましくは0.1~0.5mmであるように設計される。一実施形態では、切縁結節構造のへこみの1つまたはすべての深さは一定ではなく、第2の断面平面に垂直に延びる境界面の広がりに沿って減少する。本発明によるブランクが、前歯の修復用のクラウンの製造に使用される場合、境界面は、好ましくは2つまたは3つの切縁結節を有する。
【0031】
さらに、第1の層が、第2の層の屈折率とは0.1以下で異なる屈折率を有するブランクが好ましい。この実施形態は、層間の分断境界面が視覚的に知覚可能でないという特定の利点を有する。屈折率は、屈折率液を用いる浸漬法、またはいわゆるアッベ屈折計によって決定されてもよい。ケイ酸リチウムガラスセラミックをベースとするブランクの場合、第1および第2の層の屈折率の間の上記の好ましい差は、二ケイ酸リチウム状態に関する、すなわち、二ケイ酸リチウムを形成するための加熱処理後、第1の層の屈折率は、第2の二ケイ酸リチウム層の屈折率とは0.1以下異なる。当業者に公知のように、ガラスまたはガラスセラミックの屈折率は、その化学組成および/または存在し得る結晶相に依存する。例えば、SiO/CaO/MgO/NaO/Al/KOをベースとするガラスにおけるSiOの割合の増加により、屈折率の減少がもたらされる。
【0032】
さらに、本発明によるブランクは、CAD/CAMデバイスによって認識され、それを用いて、第1および第2の層の境界面の位置が、特に0.1mmの精度で決定され得る印を有することが好ましい。そのような印の設計は自由に選択することができる。例えば、印は、刻み目または突出部の形態で、ブランクの縁または側面に施されてもよい。一実施形態によると、印は、第1および第2の層の境界面に直接施される刻み目である。代替的に、刻み目は、境界面から間隔をあけて配置されてもよい。これに関連して、例えば、象牙質と切縁層の所望の割合を達成するために、CAD/CAM装置によって、境界面から正確な距離に修復物が載置されるように、境界面からの刻み目の距離の再現性が重要である。ブランクの機械加工の際、刻み目の形態の印は、触覚的な方法によって認識され得る。刻印または色付き印の形態の印の場合、印は、カメラまたはスキャナーによって取り込まれ得る。印との関連における第1と第2の層の間の境界面の位置の説明は、スキャンされるQRコード(登録商標)またはデータマトリックスコードにも組み入れることができる。CAD/CAM装置は、ブランクにおける修復物の最適な位置を計算することができる。代替的に、特に、ブランクにおける層の軌道がCADソフトウェアで表される場合、使用者は、CADソフトウェアを利用して修復物の位置をブランクの所望の領域に手動で移動させることもできる。
【0033】
特に好ましい実施形態では、本発明によるブランクは、上述の好ましい特色の2つまたはそれよりも多くの組合せを有する。特に、ブランクは、
- 第1の断面平面における第1および第2の層の境界面が実質的に真っすぐまたは円
弧状に延び、挿入軸に対して90°とは異なる角度であり、第1の断面平面における挿入軸に対する、第1の断面平面における境界面、または境界面の軌道を通る最良適合線の角度が20~80°、好ましくは30~80°であること、
- 第1の断面平面におけるブランクの回転軸が、挿入軸に対して実質的に垂直に延び、第1の断面平面における回転軸と挿入軸の間の角度が、好ましくは70~110°、特に80~100°、特に好ましくは90°であること、
- 第1の断面平面における第1および第2の層の境界面が実質的に真っすぐまたは円弧状に延び、回転軸に対して90°とは異なる角度であり、第1の断面平面における回転軸に対する、第1の断面平面における境界面、または境界面の軌道を通る最良適合線の角度が10~70°、好ましくは10~60°であること、
- 第1および第2の層の境界面が円弧状に延び、特に、第1の断面平面に垂直に延びる第2の断面平面におけるブランクを通って凸状に湾曲して延びること、
- 第2の断面平面における第1および第2の層の境界面が切縁結節構造を有し、切縁結節構造が、好ましくは、少なくとも境界面の一部において、切縁結節構造のへこみの深さが2mm以下、好ましくは0.1~0.5mmであるように設計されること、
- 第1の層が、第2の層の屈折率とは0.1以下異なる屈折率を有すること、ならびに
- 本発明によるブランクが、CAD/CAMデバイスによって認識され、それを用いて、第1および第2の層の境界面の位置が、特に0.1mmの精度で決定され得る印を有すること
を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】例えば、図1は、色が異なり、境界面7を形成する第1の層3および第2の層5を有する、本発明による多色ブランク1の概略図を示す。境界面7は、挿入軸8に平行に延びる第1の断面平面において延び、図1において、縁11および13によって形成されるブランクの側面15として挿入軸8に対して角度16で表される。第1の断面平面15における挿入軸8は、ブランクの回転軸9に垂直に延びる。第1の断面平面15における境界面7は、回転軸9に対して角度17で延びる。図1において、縁19および21によって形成される側面23によって表される第2の断面平面では、境界面7は凸状に湾曲して延び、へこみ27を有する切縁結節構造25を有する。ブランク1は、CAD/CAMデバイスへの固定のためのホルダー29、ならびにCAD/CAMデバイスによって認識され得る印31aおよび31bをさらに有し、結果として、境界面7の軌道は、CAD/CAMデバイスによって認識され得る。
【0035】
図2図2は、断面平面15における第1の層3と第2の層5の間の境界面7が、完全に真っすぐに延びず、少なくとも部分的に円弧状に延びる、多色ブランク1のさらなる実施形態による概略図を示す。
【0036】
図3図3は、第2の断面平面23における、図1による多色ブランク1を通る断面を示す。第1の層3と第2の層5の間の境界面7の、概して凸状に湾曲した軌道を見ることができる。この円弧状の軌道には、個々のへこみ27を有する切縁結節構造25が重なり合う。
【0037】
図4図4は、挿入軸8がホルダー29の回転軸に垂直に延びる、本発明によるブランク1のさらなる実施形態の概略図を示す。さらに、ブランク1から生産される歯科用修復物33の位置がブランク1に表され、修復物33の一部、すなわち、修復物33の前領域の切縁を模倣することを意図した部分は、境界面7の上方にあり、修復物33の別の部分、すなわち、主に象牙質層を模倣することを意図した部分は、境界面7の下方にある。
【発明を実施するための形態】
【0038】
さらなる実施形態では、境界面は、色彩効果を用いて設計されてもよい。これにより、ブランクから生産される歯科用修復物のその後の着色が回避され得る。色彩効果は、例えば、エナメル質亀裂、エナメル質斑または別の特徴を模倣することができる。そのような色彩効果は、ブランクの生産中に実現することができ、そこで色彩効果は、第2の層が第1の層に付与される前に第1の層に施される。3D粉末印刷方法も色彩効果を実現するために好適であり、効果がブランクに印刷され、ブランクはその後焼結される。
【0039】
本発明によるブランクの材料に関して、ガラス、ガラスセラミックまたはセラミックは、ケイ酸リチウムガラス、ケイ酸リチウムガラスセラミック、二酸化ケイ素ガラス、二酸化ケイ素ガラスセラミックおよび/または酸化ジルコニウムから選択されることが好ましい。
【0040】
第1の態様によると、本発明によるブランクの層は、ケイ酸リチウムガラス、核を有するケイ酸リチウムガラス、もしくはメタケイ酸リチウムガラスセラミックをベースとする、またはこれらからなることが好ましい。比較的低い強度のために、そのようなブランクには、機械加工によって特に簡潔に所望の歯科用修復物の形状を与えることができる。代替的な実施形態によると、本発明によるブランクの層は、二ケイ酸リチウムガラスセラミックをベースとする。
【0041】
特に好ましくは、ケイ酸リチウムガラス、核を有するケイ酸リチウムガラス、メタケイ酸リチウムガラスセラミックまたは二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、以下の成分:
【表1】
の少なくとも1つを、好ましくはすべてを示される量で含有し、成分の量は、ガラスおよびガラスセラミックの場合に一般的であるように、酸化物として計算される。
【0042】
さらに、ケイ酸リチウムガラス、核を有するケイ酸リチウムガラス、メタケイ酸リチウムガラスセラミックまたは二ケイ酸リチウムガラスセラミックは、好ましくは、以下の成分:
【表2】
の少なくとも1つを、特にすべてを示される量で含有し、
ここで、MeIIOは、特にMgO、CaOおよび/またはSrOから選択される二価の酸化物である。
【0043】
ケイ酸リチウムガラス、核を有するケイ酸リチウムガラス、メタケイ酸リチウムガラスセラミックまたは二ケイ酸リチウムガラスセラミックのさらに好ましい組成は、EP 1
505 041 A1およびEP 1 688 398 A1に記載されている。
【0044】
特に、第1の層における、原子番号が19またはそれよりも大きい元素の酸化物の量が、第2の層における、原子番号が19またはそれよりも大きい元素の酸化物の量とは2wt.%以下、好ましくは1.5wt.%以下異なるような組成物が好ましい。
【0045】
驚くべきことに、前述の好ましい組成によって、特に、原子番号が19またはそれよりも大きい酸化物の量に関する前述の好ましい条件によって、色が異なるにもかかわらず、ほぼ同一の屈折率を有する第1および第2の層を提供することが可能であることが見出された。このようにして、層間に分断境界面が視認されないブランク、およびその後義歯も提供することが可能である。
【0046】
ケイ酸リチウムガラスは通常、好適な出発物質を溶融することによって生産される。このガラスは、加熱処理によって、核を有するケイ酸リチウムガラスに変換され得る。核は、メタケイ酸リチウムおよび/または二ケイ酸リチウムの結晶化に好適なものである。核を有するケイ酸リチウムガラスは、加熱処理によってメタケイ酸リチウムガラスセラミックに変換され得る。
【0047】
最後に、メタケイ酸リチウムガラスセラミックを、さらなる加熱処理によって高強度の二ケイ酸リチウムガラスセラミックに変換することが可能である。したがって、ケイ酸リチウムガラス、核を有するケイ酸リチウムガラス、およびメタケイ酸リチウムガラスセラミックは、二ケイ酸リチウムガラスセラミックの前駆体である。
【0048】
メタケイ酸リチウムガラスセラミックが、主結晶相としてメタケイ酸リチウムを含有し、特に、5vol.%よりも多く、好ましくは10vol.%よりも多く、特に好ましくは20vol.%よりも多くのメタケイ酸リチウム結晶を含有するブランクがさらに好ましい。「主結晶相」という用語は、他の結晶相に比べ、体積の割合が最も高い結晶相を指す。
【0049】
さらなる実施形態では、ケイ酸リチウム結晶相、特にメタケイ酸リチウムまたは二ケイ酸リチウム結晶相に加え、さらなる結晶相、好ましくは低温型石英などのSiO結晶相を含有する、ガラスセラミックをベースとするブランクが好ましい。特に好ましくは、そのようなブランクは、以下の成分:
【表3】
の少なくとも1つを、好ましくはすべてを示される量で含有し、
ここで、Me Oは、KO、NaO、RbO、CsOおよびこれらの混合物からなる群から選択され、MeIIOは、CaO、MgO、SrO、ZnOおよびこれらの混合物からなる群から選択され、MeIII は、Al、B、Y
、La、Ga、Inおよびこれらの混合物からなる群から選択される。
【0050】
そのようなガラスセラミックの場合、SiOのLiOに対するモル比は、好ましくは2.2~3.8の範囲である。さらに、ガラスセラミック中の二ケイ酸リチウムの含有量は、20wt.%よりも多い、好ましくは25~55wt.%であることが好ましい。また、低温型石英の含有量は、0.2~28wt.%であることが好ましい。ケイ酸リチウム結晶相に加えて低温型石英結晶相を含有する、さらに好ましいガラスセラミックは、EP 3 315 641に記載されている。
【0051】
好ましい実施形態では、本発明によるブランクは、ケイ酸リチウムガラスのモノリシック層、核を有するケイ酸リチウムガラスのモノリシック層、メタケイ酸リチウムガラスセラミックのモノリシック層、または二ケイ酸リチウムガラスセラミックのモノリシック層を有する。
【0052】
「モノリシック」という用語は、連続的であり、したがって、粒子の層、例えば、粉末または粒状材料層などの不連続層とは異なる層を指す。本発明によって使用されるモノリシック層は、ガラスおよびガラスセラミックの固体層とも称され得る。
【0053】
本発明の第1の態様によるブランクにおけるモノリシック層の存在はまた、実質的な収縮を伴わずに、加熱処理によって所望の高強度の歯科用修復物への変換が可能であるという事実に関与する。対照的に、粉末または粒状材料のプレスされた層などの、従来のブランクの場合に存在する不連続層は、最終的な歯科用修復物を生産するためにさらに高密度に焼結されなければならない。しかし、この高密度の焼結は、実質的な収縮をもたらす。したがって、正確に適合する歯科用修復物を生産するために、最初に拡大された形態の修復物が生産されなければならず、次にこの拡大された形態が高密度に焼結される。しかし、そのような手順は複雑であり、失敗しやすい。さらに、それぞれの場合において、最初に選択されるべき拡大率の精密な判断が必要であり、これは数ある中でも、精密な焼結条件および使用されるブランクの種類に依存する。
【0054】
第2の態様によると、本発明によるブランクの層は、二酸化ケイ素ガラス、核を有する二酸化ケイ素ガラス、もしくは二酸化ケイ素ガラスセラミックをベースとするか、またはこれらからなることが好ましい。特に、層が、二酸化ケイ素ガラスセラミックをベースとするか、またはこれからなるブランクが好ましい。そのようなブランクには、完全に結晶化した形態であっても、機械加工によって比較的簡潔に所望の歯科用修復物の形状を与えることができる。この場合、機械加工後の加熱処理はもはや必要ではなく、これによってそのようなブランクは特に有利である。
【0055】
特に好ましくは、二酸化ケイ素ガラス、核を有する二酸化ケイ素ガラス、または二酸化ケイ素ガラスセラミックは、以下の成分:
【表4】
の少なくとも1つを、好ましくはすべてを示される量で含有し、
ここで、Me Oは、特に、NaO、KO、RbOおよび/またはCsOから選択され;MeIIOは、特に、MgO、CaO、SrOおよび/またはZnOから選択され;MeIII は、特に、Al、B、Y、La、Gaおよび/またはInから選択され;MeIVは、特に、ZrO、GeO、CeO、TiOおよび/またはSnOから選択され;Me は、特に、V、Taおよび/またはNbから選択され;MeVIは、特に、WOおよび/またはMoOから選択される。
【0056】
特に好ましくは、二酸化ケイ素ガラスセラミックは、主結晶相としてSiO、特に低温型石英、クリストバライトまたはこれらの混合物を含有する。
【0057】
さらに好ましい二酸化ケイ素ガラス、核を有する二酸化ケイ素ガラス、または二酸化ケイ素ガラスセラミックは、WO2015/173394A1に記載されている。
【0058】
第2の態様によるブランクは、好ましくは、二酸化ケイ素ガラスのモノリシック層、核を有する二酸化ケイ素ガラスのモノリシック層、または二酸化ケイ素ガラスセラミックのモノリシック層を有する。
【0059】
第3の態様によると、本発明によるブランクの第1および第2の層は、未焼結酸化ジルコニウムまたは予備焼結酸化ジルコニウムを含有することが好ましい。
【0060】
特に好ましくは、第3の態様によるブランクは、以下の成分の少なくとも1つを、好ましくはすべてを示される量で含有する。
【表5】
【0061】
本発明の第1、第2および第3の態様によるブランクを含む、本発明によるブランクは、好ましくはブロック、立方体、円板、または円柱もしくは楕円形の底を有する円筒などの、円筒の形態で存在する。これらの形態では、それらはさらに、所望の歯科用修復物に特に簡潔に加工することができる。特に好ましくは、本発明によるブランクは、ブロックの形態で存在する。
【0062】
さらに好ましい実施形態では、本発明によるブランクは、加工デバイスに固定するためのホルダーを有する。ホルダーは、特に、フライス加工デバイスまたは研削加工デバイスなどの加工デバイスへのブランクの固定を可能にする。ホルダーは、通常はくぎの形態であり、ホルダーは好ましくは、金属またはプラスチックからなる。
【0063】
本発明はまた、本発明によるブランクの生産のための方法に関する。
【0064】
第1の態様による本発明によるブランク、すなわち、ケイ酸リチウムガラス、核を有するケイ酸リチウムガラスもしくはメタケイ酸リチウムガラスセラミックの層、特にモノリシック層を有するブランク、または第2の態様による本発明によるブランク、すなわち、二酸化ケイ素ガラス、核を有する二酸化ケイ素ガラスもしくは二酸化ケイ素ガラスセラミックの層、特にモノリシック層を有するブランクの生産のための方法は、
(a1)少なくとも6.6Pa・sの粘度を有する、ケイ酸リチウムガラス、核を有するケイ酸リチウムガラス、メタケイ酸リチウムガラスセラミック、二酸化ケイ素ガラス、核を有する二酸化ケイ素ガラスまたは二酸化ケイ素ガラスセラミックの第1の層を金型中に提供すること、
(b1)第1の層の表面を成形して、ブランクの第1および第2の層の境界面の所望の軌道をもたらすこと、ならびに
(c1)ケイ酸リチウムガラス、核を有するケイ酸リチウムガラス、メタケイ酸リチウムガラスセラミック、二酸化ケイ素ガラス、核を有する二酸化ケイ素ガラスまたは二酸化ケイ素ガラスセラミックの第2の層を、第1の層の表面に付与すること
を特徴とする。
【0065】
特に好ましくは、ステップ(a1)では、ガラス、特にケイ酸リチウムガラスまたは二酸化ケイ素ガラスの第1の層が金型中に提供される。
【0066】
ステップ(b1)で行われる第1の層の表面の成形は、好ましくは、構造化されたカウンターダイ、例えば、グラファイトから作製されたダイを用いてプレスすることによって達成されてもよい。ステップ(a1)、ステップ(b1)で好ましく使用されるガラスの強度が比較的低いため、所望の成形を達成するのに、例えば、10MPa未満のわずかなプレス力が十分である。
【0067】
さらに、ステップ(c1)では、成形された第1の層に、ガラス、特にケイ酸リチウムガラスまたは二酸化ケイ素ガラスの第2の層が被覆されることが好ましい。この被覆は、例えば、ガラスの鋳造を用いて行うことができる。
【0068】
境界面の成形と第2の層の材料によるコーティングとの間に、ブランクが結晶相を形成するための任意の加熱処理に供されないことがさらに好ましい。むしろ、ステップ(c1)に続き、完全なブランクが、例えば、メタケイ酸リチウムガラスセラミックまたは二酸化ケイ素ガラスセラミックなどの結晶相を形成するための加熱処理に供されることが好ましい。
【0069】
代替的な方法では、第1または第2の態様によるブランクは、粉末の形態の出発原料を、プレスダイに徐々に充填することによって生産されてもよい。
【0070】
第3の態様による本発明によるブランク、すなわち、酸化ジルコニウムの層を有するブランクの生産のための方法は、
(a2)未焼結または分散された酸化ジルコニウムの第1の層を金型中に提供すること、(b2)第1の層の表面を成形して、ブランクの第1および第2の層の境界面の所望の軌道をもたらすこと、ならびに
(c2)第1の層の表面に、未焼結または分散された酸化ジルコニウムの第2の層を被覆すること
を特徴とする。
【0071】
「分散された」という用語は、水性または有機溶媒などの、液体媒体中の懸濁液に均質
に分配された酸化ジルコニウムを指す。懸濁液の粘度は、ステップ(b2)の成形後に、表面の成形された形態が維持されるように高いことが好ましい。
【0072】
特に好ましくは、ステップ(c2)に続き、完全なブランクが加熱処理に供されて、予備焼結ブランクを提供し、したがって歯科用修復物の生産のための、その後の機械加工の場合の加工性および精密さを向上させる。
【0073】
それらの特性のために、本発明によるブランクは、歯科用修復物へのさらなる加工に特に好適である。
【0074】
したがって、本発明はまた、歯科用修復物の生産のための方法であって、
(d1)本発明の第1の態様によるブランクに、機械加工によって歯科用修復物の形状を与え、
(e1)少なくとも1種の加熱処理を行って、ケイ酸リチウムガラス、核を有するケイ酸リチウムガラスまたはメタケイ酸リチウムガラスセラミックを二ケイ酸リチウムガラスセラミックに変換し、
(f1)必要に応じて、得られた歯科用修復物の表面を仕上げる
または代替的な実施形態では、
(d2)本発明の第2の態様によるブランクに、機械加工によって歯科用修復物の形状を与え、
(e2)必要に応じて加熱処理を行って、二酸化ケイ素ガラスもしくは核を有する二酸化ケイ素ガラスを二酸化ケイ素ガラスセラミックに変換するか、または二酸化ケイ素ガラスセラミックの結晶含有量を増加させ、
(f2)必要に応じて、得られた歯科用修復物の表面を仕上げる
または代替的な実施形態では、
(d3)本発明の第3の態様によるブランクに、機械加工によって歯科用修復物の形状を与え、
(e3)少なくとも1種の加熱処理を行って、未焼結または予備焼結酸化ジルコニウムを、高密度に焼結された酸化ジルコニウムに変換し、
(f3)必要に応じて、得られた歯科用修復物の表面を仕上げる、
方法に関する。
【0075】
所望の通り成形された歯科用修復物は、機械加工によって、本発明によるブランクから簡潔に削り出すことができる。本発明の第1の態様によると、特に、核を有するケイ酸リチウムガラスもしくはメタケイ酸リチウムガラスセラミックの層を有するブランク(ステップ(d1))、または、第2の態様によると、特に、二酸化ケイ素ガラスセラミックの層を有するブランク(ステップ(d2))、または、本発明の第3の態様によると、特に、予備焼結酸化ジルコニウムの層を有するブランク(ステップ(d3))がこれに使用される。
【0076】
機械加工は通常、材料除去プロセス、特に、フライス加工および/または研削加工によって行われる。機械加工は、コンピュータ制御フライス加工デバイスおよび/または研削加工デバイスを用いて行われることが好ましい。特に好ましくは、機械加工は、CAD/CAMプロセスの間に行われる。
【0077】
ステップ(e1)では、ブランクを加熱処理に供して、二ケイ酸リチウムの制御された結晶化、したがって、二ケイ酸リチウムガラスセラミックの形成をもたらす。加熱処理は、特に、750~950℃、好ましくは800~900℃の温度で行われる。加熱処理は、特に、1~30分、好ましくは2~15分の期間行われる。
【0078】
ステップ(e2)では、ブランクは、必要に応じて加熱処理に供される。しかし、二酸化ケイ素ガラスセラミックをベースとするブランクの場合、(e2)による加熱処理は行われないことが好ましい。そのような方法は特に簡潔かつ費用対効果が高く、したがって特に好ましい。
【0079】
ステップ(e3)では、ブランクを加熱処理に供して、高密度に焼結された酸化ジルコニウムセラミックの形成をもたらす。加熱処理は、特に、1050~1600℃、好ましくは1450~1550℃の温度で行われる。加熱処理は、特に、0~240分、好ましくは5~180分、特に好ましくは30~120分の期間行われ、「期間」という用語は、最大温度の保持時間に関する。
【0080】
ステップ(e1)または(e2)または(e3)を行うと、優れた機械的特性および高い化学安定性を有する二ケイ酸リチウムガラスセラミック、二酸化ケイ素ガラスセラミックまたは酸化ジルコニウムセラミックの層を有する歯科用修復物が生じる。さらに、異なる色の複数の層のために、歯科用修復物により、天然歯材料の光学的特性、例えば、象牙質から切縁にかけての色の勾配の優れた模倣が可能になる。最後に、ステップ(d1)~(f1)または(d2)~(f2)を利用すると、修復物はまた、実質的な収縮を伴うことなく本発明によるブランクから生産され得る。これは特に、第1および第2の態様による本発明によるブランクがモノリシック層を有し、粉末または粒状材料層などの不連続層を有さず、それにより成形後の焼結および付随する収縮を省くことができるという事実に起因する。したがって、本発明によるブランクを使用することによって、正確に所望の寸法を有する歯科用修復物を特に簡潔に生産することができる。第3の態様による本発明によるブランクの場合、ステップ(e3)で生じる焼結収縮の問題は、第1および第2の層が、ステップ(e3)の間、実質的に同一の総収縮率を有するという点で解決され得る。そのような総収縮率の設定は、加熱処理前後の開始および最終密度がいずれの場合にも両方の層で同一であるというために、行われ得る。特に、焼結の開始に関して、個々の層は、それらの組成によって、特に、焼結活性剤および/または阻害剤の添加によって互いに整合させることができる。第1および第2の層の境界面の斜めの軌道に起因して、生産される歯科用修復物の適合性は、特に、象牙質層を模倣し、かつ個々の層において生じ得る異なる焼結収縮挙動による影響を、水平な層配列を有する従来のブランクの場合よりもあまり強く受けない、本発明によるブランクの第1の層の適合性によって、したがって焼結収縮によって決定される。
【0081】
本発明によって生産される歯科用修復物は、好ましくは、クラウン、アバットメント、アバットメントクラウン、インレー、アンレー、ベニア、ファセットおよびブリッジ、ならびに、例えば、酸化物セラミック、金属または歯科用合金からなり得る多部品修復物のフレームワーク用の上部構造(overstructure)から選択される。
【0082】
必要に応じたステップ(f1)、(f2)および(f3)では、歯科用修復物の表面は、さらに仕上げられてもよい。特に、700~850℃の温度での釉焼を行うこと、または修復物を研磨することがさらに可能である。加えて、ガラスおよび/またはガラスセラミックから作製された積層材料を被覆することもできる。
【0083】
記載される本発明によるブランクの特定の特性のために、ブランクは、歯科用修復物を生産するために特に好適である。したがって、本発明はまた、歯科用修復物、特にクラウン、アバットメント、アバットメントクラウン、インレー、アンレー、ベニア、ファセットおよびブリッジ、ならびに上部構造の生産のためのブランクの使用に関する。前歯のクラウンなどの、前歯領域の義歯の生産のための本発明によるブランクの使用が特に好ましい。
【0084】
本発明の好ましい実施形態によれば、例えば、以下が提供される。
(項1)
互いに独立して、
ガラス、
ガラスセラミック、または
セラミック
をベースとする第1および第2の層を含む歯科用ブランクであって、
前記第1の層および前記第2の層が、色が異なり、境界面を形成し、前記境界面が斜めに延びている、ブランク。
(項2)
前記ブランクの挿入軸に平行に延びる、前記ブランクを通る第1の断面平面において、前記境界面が、回転軸に対して10~70°、好ましくは10~60°の角度を有する、上記項1に記載のブランク。
(項3)
前記ブランクの挿入軸に平行に延びる、前記ブランクを通る第1の断面平面において、前記境界面が前記挿入軸に対して垂直に延びない、上記項1または2に記載のブランク。
(項4)
前記第1の断面平面における前記境界面が実質的に真っすぐに延び、前記第1の断面平面における前記境界面が、前記挿入軸に対して好ましくは20~80°、特に好ましくは30~80°の角度である、上記項2または3に記載のブランク。
(項5)
前記第1の断面平面における前記境界面が円弧状に延び、前記第1の断面平面における前記円弧状の境界面を通る最良適合線が、前記挿入軸に対して好ましくは20~80°、特に好ましくは30~80°の角度である、上記項2または3に記載のブランク。
(項6)
前記第1の断面平面における前記ブランクの前記挿入軸と前記回転軸の間の角度が70~110°、好ましくは80~100°、特に好ましくは約90°である、上記項2から5のいずれか一項に記載のブランク。
(項7)
前記境界面が、前記第1の断面平面に垂直に延びる第2の断面平面におけるブランクを通って円弧状に延び、前記境界面が、好ましくは、前記第2の断面平面において凸状に湾曲して延びる、上記項2から6のいずれか一項に記載のブランク。
(項8)
前記第2の断面平面における前記境界面が切縁結節構造を有する、上記項7に記載のブランク。
(項9)
前記切縁結節構造が、深さが2mm以下、好ましくは0.1~0.5mmであるへこみを有する、上記項8に記載のブランク。
(項10)
前記第1の層が、前記第2の層の屈折率とは0.1以下異なる屈折率を有する、先行する上記項のいずれか一項に記載のブランク。
(項11)
CAD/CAMデバイスによって認識され、それを用いて、前記境界面の位置が、特に0.1mmの精度で決定され得る印を含む、先行する上記項のいずれか一項に記載のブランク。
(項12)
前記ガラス、前記ガラスセラミックまたは前記セラミックが、ケイ酸リチウムガラス、ケイ酸リチウムガラスセラミック、二酸化ケイ素ガラス、二酸化ケイ素ガラスセラミック、および/または酸化ジルコニウムから選択される、先行する上記項のいずれか一項に記載のブランク。
(項13)
前記第1および第2の層が、互いに独立して、
ケイ酸リチウムガラス、
核を有するケイ酸リチウムガラス、または
メタケイ酸リチウムガラスセラミック
をベースとし、
前記ケイ酸リチウムガラス、前記核を有するケイ酸リチウムガラス、または前記メタケイ酸リチウムガラスセラミックが、以下の成分:
【表6】

の少なくとも1つを、好ましくはすべてを示される量で含む、上記項12に記載のブランク。
(項14)
前記第1の層における、原子番号が19またはそれよりも大きい元素の酸化物の量が、前記第2の層における、原子番号が19またはそれよりも大きい元素の酸化物の量とは2wt.%以下異なる、上記項13に記載のブランク。
(項15)
前記第1および第2の層が、互いに独立して、
二酸化ケイ素ガラス、
核を有する二酸化ケイ素ガラス、または
二酸化ケイ素ガラスセラミック
をベースとし、
前記二酸化ケイ素ガラス、前記核を有する二酸化ケイ素ガラス、または前記二酸化ケイ素ガラスセラミックが、以下の成分:
【表7】

の少なくとも1つを、好ましくはすべてを示される量で含み、
ここで、Me Oは、特に、Na O、K O、Rb Oおよび/またはCs Oから選択され;Me II Oは、特に、MgO、CaO、SrOおよび/またはZnOから選択
され;Me III は、特に、Al 、B 、Y 、La 、Ga および/またはIn から選択され;Me IV は、特に、ZrO 、GeO 、CeO 、TiO および/またはSnO から選択され;Me は、特に、V 、Ta および/またはNb から選択され;Me VI は、特に、WO および/またはMoO から選択される、上記項12に記載のブランク。
(項16)
前記第1および第2の層がモノリシックである、上記項13から15のいずれか一項に記載のブランク。
(項17)
前記第1および第2の層が、互いに独立して、
未焼結酸化ジルコニウム、または
予備焼結酸化ジルコニウム
を含む、上記項12に記載のブランク。
(項18)
加工デバイスのホルダーを含み、前記ホルダーが、特に金属またはプラスチックからなる、先行する上記項のいずれか一項に記載のブランク。
(項19)
上記項1から18のいずれか一項に記載のブランクの生産のための方法であって、
(a)ガラス、ガラスセラミック、またはセラミックをベースとする第1の層を提供し、(b)前記第1の層の表面を成形して、前記ブランクの前記第1および第2の層の前記境界面の所望の軌道を提供し、
(c)ガラス、ガラスセラミック、またはセラミックをベースとする第2の層を、前記第1の層の表面に付与する、
方法。
(項20)
上記項13から16のいずれか一項に記載の、ケイ酸リチウムガラス、核を有するケイ酸リチウムガラス、メタケイ酸リチウムガラスセラミック、二酸化ケイ素ガラス、核を有する二酸化ケイ素ガラス、または二酸化ケイ素ガラスセラミックの層を有するブランクの生産のための方法であって、
(a1)少なくとも6.6Pa・sの粘度を有する、ケイ酸リチウムガラス、核を有するケイ酸リチウムガラス、メタケイ酸リチウムガラスセラミック、二酸化ケイ素ガラス、核を有する二酸化ケイ素ガラスまたは二酸化ケイ素ガラスセラミックの第1の層を金型中に提供し、
(b1)前記第1の層の表面を成形して、前記ブランクの前記第1および第2の層の前記境界面の所望の軌道を提供し、
(c1)ケイ酸リチウムガラス、核を有するケイ酸リチウムガラス、メタケイ酸リチウムガラスセラミック、二酸化ケイ素ガラス、核を有する二酸化ケイ素ガラスまたは二酸化ケイ素ガラスセラミックの第2の層を、前記第1の層の表面に付与する、
方法。
(項21)
上記項17に記載の酸化ジルコニウムの層を有するブランクの生産のための方法であって、
(a2)未焼結または分散された酸化ジルコニウムの第1の層を金型中に提供し、
(b2)前記第1の層の表面を成形して、前記ブランクの前記第1および第2の層の前記境界面の所望の軌道を提供し、
(c2)前記第1の層の表面に、未焼結または分散された酸化ジルコニウムの第2の層を被覆する、
方法。
(項22)
歯科用修復物の生産のための方法であって、
(d)上記項1から18のいずれか一項に記載のブランクに、機械加工によって前記歯科用修復物の形状を与え、
(e)必要に応じて、少なくとも1種の加熱処理を行い、
(f)必要に応じて、得られた前記歯科用修復物の表面を仕上げる、
方法。
(項23)
(d1)上記項13から14および16のいずれか一項に記載のブランクに、機械加工によって前記歯科用修復物の形状を与え、
(e1)少なくとも1種の加熱処理を行って、前記ケイ酸リチウムガラス、前記核を有するケイ酸リチウムガラス、または前記メタケイ酸リチウムガラスセラミックを二ケイ酸リチウムガラスセラミックに変換し、
(f1)必要に応じて、得られた前記歯科用修復物の表面を仕上げる、
上記項22に記載の方法。
(項24)
(d2)上記項17に記載の酸化ジルコニウムの層を有するブランクに、機械加工によって前記歯科用修復物の形状を与え、
(e2)少なくとも1種の加熱処理を行って、前記未焼結または予備焼結酸化ジルコニウムを、高密度に焼結された酸化ジルコニウムに変換し、
(f2)必要に応じて、得られた前記歯科用修復物の表面を仕上げる、
上記項22に記載の方法。
(項25)
前記機械加工が、コンピュータ制御されたフライス加工デバイスおよび/または研削加工デバイスを用いて行われる、上記項22から24のいずれか一項に記載の方法。
(項26)
前記歯科用修復物が、クラウン、アバットメント、アバットメントクラウン、インレー、アンレー、ベニア、ファセット、ブリッジおよび上部構造からなる群から選択される、上記項22から25のいずれか一項に記載の方法。
(項27)
歯科用修復物、特にクラウン、アバットメント、アバットメントクラウン、インレー、アンレー、ベニア、ファセット、ブリッジおよび上部構造の生産のための、上記項1から18のいずれか一項に記載のブランクの使用。
図1
図2
図3
図4
【外国語明細書】