(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059835
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に真核細胞を含む移植可能な細胞組成物、その調製方法、及びナノフィブリルセルロースの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240423BHJP
A61K 35/545 20150101ALI20240423BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240423BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240423BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20240423BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240423BHJP
C12N 5/0775 20100101ALN20240423BHJP
C12N 5/0789 20100101ALN20240423BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20240423BHJP
A61P 27/16 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/545
A61K9/10
A61K47/38
A61K35/30
C12N5/10
C12N5/0775
C12N5/0789
A61P35/00
A61P27/16
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026825
(22)【出願日】2024-02-26
(62)【分割の表示】P 2021577187の分割
【原出願日】2019-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】514158855
【氏名又は名称】ユー ピー エム キュンメネ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヌオッポネン、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】キウル、トニー
(57)【要約】 (修正有)
【課題】移植可能な細胞製剤を調製する方法の提供。
【解決手段】真核細胞を、細胞が合体して細胞凝集体を形成することが可能な条件で培養すること、ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に細胞凝集体を供して、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルマトリックス中に真核細胞を含む移植可能な細胞組成物、及び移植可能な細胞製剤を得ることを含む方法。また、治療方法に使用するための移植可能な細胞組成物、及び移植可能な細胞組成物を調製するためのナノフィブリルセルロースの使用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞移植を必要とする対象の体内において幹細胞が前記対象に生着する起点となるニッチを形成するためにマトリックス中の幹細胞を前記対象に注射により投与することを含む治療方法において使用するための、注射可能及び移植可能な幹細胞組成物を調製する方法であって、前記方法は
真核幹細胞が、幹細胞スフェロイド(cell spheroid)を形成可能な条件で、真核幹細胞を培養することと、
前記幹細胞スフェロイドをナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に与えるか、及び/又は前記幹細胞スフェロイドをナノフィブリルセルロースヒドロゲルと組み合わせることにより、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルマトリックス中に真核幹細胞スフェロイドを含む注射可能及び移植可能な幹細胞組成物を得ることと、
を含み、
前記注射可能及び移植可能な幹細胞組成物中のナノフィブリルセルロースは、フィブリルの平均径が1~200nmであり、
前記注射可能及び移植可能な幹細胞組成物中のナノフィブリルセルロースの濃度は1.3~2.2%(w/w)の範囲であり、
前記組成物は他のタイプの細胞由来材料を含まない、及び/又は、前記組成物は動物由来物フリー(animal origin free)、ゼノフリー(xeno-free)及び/又はフィーダーフリー(feeder-free)である、注射可能及び移植可能な幹細胞組成物を調製する方法。
【請求項2】
前記幹細胞スフェロイドを前記ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に与える、及び/又は、前記幹細胞スフェロイドをナノフィブリルセルロースヒドロゲルと組み合わせる前に、ろ過する、遠心分離する、及び/又は他のタイプの細胞由来材料を含まないか、及び/又は動物由来物フリー、ゼノフリー及び/又はフィーダーフリーである培地で前記幹細胞スフェロイドを洗浄することにより、細胞培養培地を除去することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記真核幹細胞を、他のタイプの細胞由来材料を含まないか、及び/又は動物由来物フリー、ゼノフリー及び/又はフィーダーフリーである細胞培養培地中で培養することを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記真核幹細胞を、濃度が0.8~3%(w/w)の範囲であるナノフィブリルセルロースヒドロゲル中で、培養することを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記注射可能及び移植可能な幹細胞組成物中の細胞密度は、1×104細胞/ml~1×108細胞/mlである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノフィブリルセルロースを水に分散した場合、前記ナノフィブリルセルロースは、22℃±1℃の水性媒体中で0.5%(w/w)の濃度(consistency)で回転式レオメータにより測定したとき、5000~50000Pa・sの範囲のゼロせん断粘度、及び3~50Paの範囲の降伏応力を与える、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノフィブリルセルロースを水に分散した場合、前記ナノフィブリルセルロースは、25℃、周波数10rad/s、歪み2%で、0.001~100Paの範囲でせん断応力を徐々に増加させながら応力制御回転型レオメータにより測定したとき、350~5000Paの範囲の貯蔵弾性率、及び25~300Paの範囲の降伏応力を与える、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記幹細胞スフェロイドの平均径が80~700μmである、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
対象の体にマトリックス中の幹細胞を生着させるための、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルマトリックス中に平均径が80~700μmである真核幹細胞スフェロイドを含む注射可能及び移植可能な幹細胞組成物であって、
前記注射可能及び移植可能な幹細胞組成物中のナノフィブリルセルロースの濃度は1.3~2.2%(w/w)の範囲であり、
前記ナノフィブリルセルロースは、フィブリルの平均径が1~200nmであり、
前記注射可能及び移植可能な幹細胞組成物中の細胞密度は、1×104細胞/ml~1×108細胞/mlであり、
前記組成物における他のタイプの細胞由来材料の含有量は0.5%(w/w)未満である、及び/又は前記組成物は動物由来物フリー、ゼノフリー及び/又はフィーダーフリーである、
前記注射可能及び移植可能な幹細胞組成物。
【請求項10】
前記ナノフィブリルセルロースを水に分散した場合、前記ナノフィブリルセルロースは、22℃±1℃の水性媒体中で0.5%(w/w)の濃度(consistency)で回転式レオメータにより測定したとき、5000~50000Pa・sの範囲のゼロせん断粘度、及び3~50Paの範囲の降伏応力を与える、及び/又は
前記ナノフィブリルセルロースを水に分散した場合、前記ナノフィブリルセルロースは、25℃、周波数10rad/s、歪み2%で、0.001~100Paの範囲でせん断応力を徐々に増加させながら応力制御回転型レオメータにより測定したとき、350~5000Paの範囲の貯蔵弾性率、及び25~300Paの範囲の降伏応力を与える、
請求項9に記載の注射可能及び移植可能な幹細胞組成物。
【請求項11】
細胞移植を必要とする対象の体内において幹細胞が前記対象に生着する起点となるニッチを形成するために、前記対象にマトリックス中の幹細胞を注射により投与することを含む治療方法において使用するための、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルマトリックス中に真核幹細胞スフェロイドを含む、注射可能及び移植可能な幹細胞組成物であって、
前記注射可能及び移植可能な幹細胞組成物中のナノフィブリルセルロースの濃度は1.3~2.2%(w/w)の範囲であり、前記ナノフィブリルセルロースは、フィブリルの平均径が1~200nmであり、
前記組成物における他のタイプの細胞由来材料の含有量は0.5%(w/w)未満である、及び/又は前記組成物は動物由来物フリー、ゼノフリー及び/又はフィーダーフリーである、前記注射可能及び移植可能な幹細胞組成物。
【請求項12】
前記注射可能及び移植可能な幹細胞組成物中の細胞密度は、1×104細胞/ml~1×108細胞/mlである、請求項11に記載の注射可能及び移植可能な幹細胞組成物。
【請求項13】
前記幹細胞スフェロイドの平均直径が80~700μmである、請求項11又は請求項12に記載の注射可能及び移植可能な幹細胞組成物。
【請求項14】
前記幹細胞が、間葉系幹細胞、多分化性成人前駆細胞、人工多能性幹細胞、及び造血系幹細胞から選択される、請求項11~請求項13のいずれか1項に記載の注射可能及び移植可能な幹細胞組成物。
【請求項15】
前記幹細胞が、胚を破壊することなく得られた、非胚性細胞及び胚性細胞から選択されるヒト幹細胞である、請求項11~請求項14のいずれか1項に記載の注射可能及び移植可能な幹細胞組成物。
【請求項16】
前記ナノフィブリルセルロースが化学修飾されていない(chemically unmodified)ナノフィブリルセルロースを含む、請求項11~請求項15のいずれか1項に記載の注射可能及び移植可能な幹細胞組成物。
【請求項17】
前記ナノフィブリルセルロースが、アニオン性修飾ナノフィブリルセルロース、酸化ナノフィブリルセルロース及びTEMPO酸化ナノフィブリルセルロースから選択される化学修飾ナノフィブリルセルロースを含む、請求項11~請求項16のいずれか1項に記載の注射可能及び移植可能な幹細胞組成物。
【請求項18】
前記注射可能及び移植可能な幹細胞組成物中のナノフィブリルセルロースの濃度は1.5~2.0%(w/w)の範囲である、請求項11~請求項17のいずれか1項に記載の注射可能及び移植可能な幹細胞組成物。
【請求項19】
前記ナノフィブリルセルロースを水に分散した場合、前記ナノフィブリルセルロースは、22℃±1℃の水性媒体中で0.5%(w/w)の濃度(consistency)で回転式レオメータにより測定したとき、5000~50000Pa・sの範囲のゼロせん断粘度、及び3~50Paの範囲の降伏応力を与える、請求項11~請求項18のいずれか1項に記載の注射可能及び移植可能な幹細胞組成物。
【請求項20】
前記ナノフィブリルセルロースを水に分散した場合、前記ナノフィブリルセルロースは、25℃、周波数10rad/s、歪み2%で、0.001~100Paの範囲でせん断応力を徐々に増加させながら応力制御回転型レオメータにより測定したとき、350~5000Paの範囲の貯蔵弾性率、及び25~300Paの範囲の降伏応力を与える、請求項11~請求項19のいずれか1項に記載の注射可能及び移植可能な幹細胞組成物。
【請求項21】
請求項9~請求項20のいずれか1項に記載の注射可能及び移植可能な幹細胞組成物を調製するためのナノフィブリルセルロースの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルマトリックス中に真核細胞を含む移植可能な細胞組成物、及びその調製方法に関する。また、本願は、治療方法に使用するための移植可能な細胞組成物、及び当該移植可能な細胞組成物を調製するためのナノフィブリルセルロースの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、がんの治療、又は特定の細胞若しくは組織の再生を必要とするその他の治療などの医学的治療においては、幹細胞の移植が必要となる場合がある。しかし、移植された幹細胞を所定の位置に保持し、細胞間のシグナル伝達を局在化することが可能な、移植可能な細胞に好適な環境及び組成物を得ることは困難である。組織において、細胞外マトリックス(ECM)は、細胞から分泌され、組織内で細胞を取り囲んでいる。ECMは、組織に特徴的な特徴(characteristics features)を有する細胞を構造的に支えるものである。ECMは、単に受動的で機械的な支持体ではなく、様々な生物学的活性分子を含む複雑な足場(scaffold)であり、高度に制御され、それを取り囲む細胞の作用及び運命を決定するのに重要な役割を果たしている。しかし、このようなマトリックスは、様々な生物学的分子及び構造が含まれているため、レシピエントの体に拒絶反応又はその他の望ましくない反応を引き起こす可能性があり、ほとんどの移植用途には使えない。
【0003】
場合によっては、哺乳類由来のコラーゲン等のマトリックスは、哺乳類組織に存在する局所的な環境の手がかりとなるため、使用されることもある。しかし、それらは不安定であり、例えば生体内の酵素分解に弱く、長期間のニッチを作ることは困難である。したがって、対象に細胞を供給するための、耐久性があり、適合性のある移植可能な組成物及び方法を見つけることが望まれている。
【発明の概要】
【0004】
本願では、望ましくない凝集を低減し、アポトーシスを引き起こす可能性のある注入せん断力(injection shearing forces)から細胞を隔離するために、どのようにしてナノフィブリルセルロースヒドロゲルを、細胞移植において幹細胞由来のスフェロイド等の幹細胞とともに使用することが可能であるかが開示される。ナノフィブリルセルロースヒドロゲル由来のマトリックス材料は、インビボでの応用に大きな可能性を示している。
【0005】
本願は、
真核細胞が細胞凝集体を形成可能な条件で(好ましくは少なくとも3日間)、上記真核細胞を培養することと、
上記細胞凝集体をナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に与えるか、及び/又は上記細胞凝集体をナノフィブリルセルロースヒドロゲルと組み合わせることにより、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルマトリックス中に真核細胞を含む移植可能な細胞組成物を得ることと、
を含む、移植可能な細胞調製物を調製する方法を提供する。
【0006】
本願は、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルマトリックスを含む移植可能な組成物を提供する。
【0007】
本願は、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルマトリックス中に真核細胞を含む、移植可能な細胞組成物を提供する。この細胞組成物は、上記の移植可能な細胞調製物を調製する方法を用いて得てもよい。
【0008】
本願は、対象に細胞を投与することを含む治療方法に使用するための移植可能な細胞組成物を提供する。
【0009】
本願は、移植可能な細胞組成物を調製するためのナノフィブリルセルロースの使用を提供する。
【0010】
主な実施形態は、独立項において特徴付けられる。様々な実施形態は、従属項に開示されている。特許請求の範囲及び明細書に記載された実施形態及び実施例は、特に明示しない限り、相互に自由に組み合わせ可能である。
【0011】
ヒドロゲルとして存在するナノフィブリルセルロースは、細胞のための親水性間質マトリックスを形成し、このマトリックスは非毒性で生体適合性があり、また生分解性である。上記マトリックスは、例えばセルラーゼを添加することにより、酵素的に分解することが可能である。一方、ヒドロゲルは生理的条件下で安定であり、追加の薬剤を使用して架橋する必要はない。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルの特性(例えば透過性(permeability))は、ナノフィブリルセルロースの化学的及び/又は物理的な特性を調整することによって制御することが可能である。
【0012】
ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルの有利な特性として、柔軟性、弾性(elasticity)、及び再成形性(remouldability)が挙げられ、例えば体内の様々なターゲットにヒドロゲルを注入することを可能としている。また、ヒドロゲルは水を多く含むため、分子について良好な透過性を示す。また、本実施形態のヒドロゲルは、高い保水性及び分子拡散性速度が得られる。
【0013】
本明細書に記載のナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、ナノフィブリルセルロースを含む材料が生体物質と接触する、医療及び科学的な用途に有用である。本明細書に記載のナノフィブリルセルロースを含む製品は、生体物質との生体適合性が高く、いくつかの有利な効果を提供する。特定の理論に拘束されるわけではないが、非常に高い比表面積、つまり高い保水能力を有する非常に親水性のナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを、細胞に対して適用すると、この細胞と上記ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルとの間に好ましい湿潤環境が得られると考えられている。ナノフィブリルセルロース中の多量の遊離水酸基が、ナノフィブリルセルロースと水分子との間に水素結合を形成し、ゲル形成及びナノフィブリルセルロースの高い保水性を可能にしている。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、多量の水を含み、流体及び/又は薬剤の移動も可能とする。
【0014】
ナノフィブリルセルロースは、細胞のマトリックスとして使用することが可能であるため、細胞を保護し、その生存能力を維持するための環境を提供することが可能である。形成されたマトリックスは、間質マトリックスと呼ばれ、ECMに類似しており、不均一な孔径を有する網目状マトリックスを提供する。セルロースナノフィブリルのネットワークの寸法は、コラーゲンナノフィブリルの天然ECMネットワークに非常に近い。これは、細胞を構造的に支持し、効率的な細胞移動及び細胞への栄養伝達のための相互接続された細孔のネットワークを提供する。さらに、ナノフィブリルセルロースは非動物由来材料であるため、ゼノフリー(xeno-free)であり、疾患移転又は拒絶反応の危険性がない。特
に、ヒトの細胞を検討した場合、製剤は、セルロース及びおそらく微量の添加物に加えて、ヒト由来の成分のみから構成されるため、外来の動物又は微生物種の材料は全く含まれないこととなる。
【0015】
セルロースナノフィブリルは、蛍光バックグラウンドが無視できるほど小さい。本願の材料を用いると、細胞のための透明で多孔質のマトリックスを得ることができ、その取り扱いは代替品と比較して容易である。セルロースナノフィブリルヒドロゲルは、最適な弾性、剛性、せん断応力、機械的接着力、及び多孔性を有しており、3D及び2Dの細胞保存又は培養マトリックスとして使用することも可能である。
【0016】
ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、注射可能及び移植可能であるため、幹細胞等の細胞を所望の対象に送達することが可能である。ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、擬塑性(pseudoplastic)材料であるため、注入時に押出し剪断力が大きく粘度が低下し、注入後、剪断力を取り除くと形状が安定するため、容易に注入することができる。注入又は移植された場合、細胞は活性状態で対象中に残る。ナノフィブリルセルロースを間質マトリックスとして使用することで、細胞又は細胞スフェロイドの望ましくない凝集が抑制又は減少される。
【0017】
セルロースは、異物反応が(ある場合であっても)穏やかであるため生体適合性を有し、毒性がなく、幹細胞の応用においても安全である。また、生体耐性でもある。つまり、細胞はセルロースの分解に必要なセルラーゼを合成できないため、セルロースの吸収は遅く、そのため、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは局在したままとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、GrowDex(商標)を用いて生成したhESC由来のONPスフェロイドの共焦点顕微鏡写真の一例を示している。スケールバー=250μm。
【
図2】
図2は、GrowDex-T(商標)を用いて生成したhESC由来のONPスフェロイドの共焦点顕微鏡写真の一例を示している。スケールバー=250μm。
【
図3】
図3A:ヒトPSC由来のONPは、2% GrowDex-T(商標)を用いて3次元培養環境下でスフェロイドを形成することができる(エクスビボ及びインビボの生存率を高めると考えられる)。βIIIT(βIII-チューブリン)及びMAP2はヒトONPマーカーである。スケールバー=100μm。
図3B:ヒトPSC由来のAN前駆細胞は、ヒドロゲルで作成した幹細胞ニッチにおいて神経分化させることができる。白い矢印は神経細胞の結合を示す。スケールバー=20μm。
図3C:ヒトPSC由来ANを、RFP(CP:細胞質で発現)及び核(N:核)で識別できる。PAX2:対比染色。スケールバー=20μm。
図3D:1.5% GrowDex(商標)を用いて移植したヒトhESC由来のONPスフェロイドは、内耳(マウス)でも抗ヒト核抗体STEM101(ST101)で識別可能である。hPSC由来のONPを移植した後、内耳の3室のうちの1室である中央階(scala media)(SM)にSTEM101陽性細胞が認められることに注意。TOTO3(TOTO3ヨウ化物):対比染色。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において、百分率(%)の値は、特に断りのない限り、重量(w/w)を基準とする。また、数値の範囲が記載されている場合、その範囲には上限値及び下限値も含まれる。また、オープンな用語である「含む(comprising)」は、クローズド用語である「からなる(consisting of)」を選択肢の1つとして含む。
【0020】
本明細書に記載される材料及び製品は、ライフサイエンス材料及び製品等の、医学的及び/又は科学的材料及び製品であってもよく、本明細書に記載されるような、生細胞及び/又は生物活性材料若しくは物質を用いる方法及び用途に使用してもよい。上記の材料又は製品は、細胞移植、細胞培養、細胞保存及び/又は細胞研究の材料又は製品であってもよいか又は関連していてもよく、医療又は科学的目的のために細胞を移植、培養、保存、維持、輸送、提供、改変、試験及び/又は使用する方法、又は他の関連する適用可能な方法に使用してもよい。
【0021】
本願は、ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に細胞を含む組成物を提示する。この組成物は移植可能であり、すなわち、細胞移植物を提供又は形成するために、対象に細胞を安全に送達又は投与することを可能にする形態である。細胞移植物が、対象において拒絶反応又は疾患を引き起こすことは望ましくない。本願はまた、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルマトリックスを含む移植可能な組成物を提供する。このような組成物は、細胞を含んでも含まなくてもよく、中間生成物又は原料として提供されてもよく、保存、輸送及び/又は使用のために適切な密封パッケージで包装されてもよい。
【0022】
移植可能な組成物は、特定の化学物質含有量(chemical content)、乾燥含量、及びマトリックス材料の種類を有することが好ましい。移植可能な組成物、又は当該組成物中のナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、細胞培養培地又は細胞培養培地由来の材料等の、他のタイプの細胞由来材料を含まないことが好ましいか、又はそのような材料を微量でのみ含んでもよい。細胞由来材料としては、移植可能な細胞以外を由来とする細胞、細胞小器官、ホルモン、抗原、タンパク質、ペプチド、核酸及び/又は脂質を挙げることができる。組成物又はナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、他のタイプの細胞由来材料を全く含まないか、又は微量しか含まないことが好ましい。「微量」とは、0.5%(w/w)未満、0.1%(w/w)未満、0.05%(w/w)未満、若しくは0.01%(w/w)未満であるか、又は、免疫学的方法等の、特定の生体化合物を検出又は特定するための一般的方法を用いて検出できない量であってよい。組成物、及び/又は当該組成物中のナノフィブリルセルロースヒドロゲルは、動物由来物フリー(animal origin free)、ゼノフリー(xeno-free)、及び/又はフィーダーフリー(feeder-free)であることが好ましい。フィーダーフリーとは、フィーダー細胞(feeder cell)が存在しない細胞培
養培地及び/又は条件、例えば、フィーダー細胞層が存在しない状態で細胞が培養されることをいう。
【0023】
上記組成物は、注射可能な組成物又は移植可能な組成物であってもよい。上記組成物は、シリンジ、マイクロピペット、又は他の好適なアプリケータ等の、好適な形態で提供されてもよい。一実施形態では、シリンジ又はマイクロピペットに充填された移植可能な細胞組成物が提供される。シリンジは、任意の好適なシリンジであってよく、注入針を含んでいてもよい。一実施形態では、シリンジは、組成物を対象に移植するための注入針を含む。シリンジ及び針は、本明細書に記載される治療方法、例えば細胞移植において、また移植可能な細胞組成物を保管、輸送及び提供するために使用されてもよい。本願はまた、移植可能な細胞組成物を含むシリンジを提供し、このシリンジは、組成物を対象に移植するための注入針を含むことが好ましい。マイクロピペットは、細胞移植に好適な任意のマイクロピペット、例えば細胞移植用マイクロピペットであってもよい。本明細書に開示されるアプリケータは、インジェクタ又はポンプ等の、圧力ベース又は容量ベースの器具を使用して操作されてもよく、操作可能であってよい。組成物は、シリンジ若しくはマイクロピペット等のアプリケータ、又はマイクロピペットチップに充填されるなど、用量として提供されてもよい。用量は、500μl以下、例えば10~500μlの範囲、10~200μlの範囲、又は20~200μlの範囲等、の体積を有していてもよい。
【0024】
また、この組成物は、移植可能な細胞組成物の保存、輸送、及び提供に使用され得る、チューブ(密閉可能な試験管等の任意の好適なチューブであってもよい)に充填されてもよい。一例では、本明細書に記載の移植可能な細胞組成物を含んでいることが好ましい、ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中の細胞を含むインプラントが提供される。より詳細には、移植可能な細胞組成物は、1つ又は複数の補強部を含むインプラントに含まれてもよい。ナノフィブリルセルロースは、注射可能な組成物について開示された濃度(1~3%(w/w)の範囲等)でインプラントに存在してもよく、又はインプラントは、より高い濃度(例えば、1~10%(w/w)の範囲、4~10%(w/w)の範囲、5~10%(w/w)の範囲、又は3.5~8%(w/w)の範囲等の10%以下)のナノフィブリルセルロースを含んでいてもよい。これにより、インプラントがその形態を維持し移植を容易にすると考えられる。
【0025】
本明細書において使用される場合、「移植(transplantation)」とは、身体機能の回
復を目的として、ドナーからレシピエントに細胞を移植(生着)することを指す。異種間(例えば動物からヒトへ)の移植は、異種移植(xenotransplantation)と呼ばれる。ドナーはレシピエントと同一であっても異なっていてもよい。移植は自家移植であっても同種移植であってもよい。
【0026】
細胞、特に真核細胞は、例えば対象から得られる、ヒト又は動物の体から生じた又は誘導された細胞等の、幹細胞又は分化した細胞であってもよい。細胞は、自己細胞であってもよく、この場合、細胞は、治療において細胞を受容することになる同じ対象から取得される。これは、例えば、幹細胞の移植である自家幹細胞移植(autogenous, autogeneic or autogenic stem cell transplantationとも呼ばれる)において実施することができ、
幹細胞を対象から取り出し、保存し、後にその同じ対象に戻すというものである。したがって、細胞のドナーとレシピエントは、ヒト等の同じ対象又は個人である。自己細胞は、対象から取り出された後、対象に戻される前に処理及び/又は改変されている場合がある。自己幹細胞移植の一例として、化学療法及び/又は放射線によるがん治療等、体内から細胞を破壊する治療の前に対象自身の細胞を除去又は採取し、採取した細胞を例えば冷凍保存した後解凍し、最終的に体内に戻す方法がある。このような移植は、主に白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫等の治療時に行われ、精巣がん及び神経芽腫等の他のがんや、小児のがんの治療にも用いられることがある。
【0027】
代替として、細胞は同種細胞であってもよく、この場合、細胞は、移植又は他の治療において細胞を受容することになる対象(レシピエント)とは異なる対象(ドナー)から取得される。
【0028】
幹細胞は、凝集していない単一又は別々の幹細胞であってもよく、幹細胞由来のスフェロイド等の幹細胞スフェロイドであってもよい。一実施形態では、幹細胞はヒト幹細胞である。
【0029】
細胞スフェロイドとは、細胞外マトリックスによって結合された多細胞の凝集体を指し、この場合はナノフィブリルセルロースマトリックスによって結合された多細胞の凝集体である。スフェロイドは、細胞-細胞間、細胞-マトリックス間の動的な相互作用により、独立した細胞として存在する単一細胞よりも複雑であり、インビトロで生体内組織の微小環境を再現するための重要なツールである。細胞スフェロイドは、細胞をマトリックス材料中で培養し、多細胞凝集体又はスフェロイドを含む三次元細胞培養系を形成することにより形成することができる。マトリックス材料は好適なゲル材料(好ましくは、アガロースゲル又はナノフィブリルセルロースゲル等のヒドロゲル)であってもよい。ナノフィブリルセルロースをマトリックス材料として使用した場合、培養又はインキュベーションの3日後には細胞スフェロイドを得ることができた。一般的に、細胞スフェロイドの直径は様々であり、数十マイクロメートルからミリメートル以上の範囲であり得る。しかし、本明細書では、培養及びマトリックス形成材料及び条件を制御及び調整することで、移植目的に好適な直径に制御された細胞スフェロイドを得ることができた。
【0030】
移植プロセスにおいて、フィブリルセルロースネットワークによって安定化された多細胞凝集体が、対象の細胞の活性、増殖、及び分化を促進することが判明したため、細胞スフェロイドは好ましい。ナノフィブリルセルロースマトリックスは、このような細胞凝集体に対して、移植目的に最適な条件を作り出したのである。本明細書に開示される方法で形成された細胞凝集体は、細胞スフェロイドの形態であってもよく、細胞凝集体が細胞スフェロイドを形成してもよい。
【0031】
本願は、
真核細胞が細胞凝集体を形成可能な条件で、上記真核細胞を培養することと、
上記細胞凝集体をナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に与えることにより、ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に真核細胞を含む移植可能な細胞組成物を得ることと、を含む、移植可能な細胞調製物を調製する方法を提供する。
【0032】
一実施形態では、上記方法は以下を含む:
真核細胞が細胞凝集体を形成可能な条件で、上記真核細胞を培養すること、
上記細胞凝集体をナノフィブリルセルロースヒドロゲルと組み合わせることにより、ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に真核細胞を含む移植可能な細胞組成物を得ること。
【0033】
上記方法は、細胞が合体可能な条件で上記細胞を培養することを含んでいてもよい。この条件には、合体及び/又は凝集体の形成を可能にする好適な時間が含まれる。この条件には、液体培地及び/又はゲル培地等の、好適な培養培地が含まれ得る。培養は、培養皿若しくはプレート、又はマルチウェルマイクロプレートで実施してもよい。細胞は、好ましくは液体培養培地を含む、ナノフィブリルセルロース(NFC)ヒドロゲル等のヒドロゲル中で培養されてもよい。NFCヒドロゲルを用いることで、所望の大きさの細胞スフェロイドを得ることが容易になり得る。NFC等のゲルマトリックス材料の濃度が高すぎると、特に多能性幹細胞等の幹細胞でスフェロイド形成が妨げられることがあるため、ヒドロゲルの濃度は高すぎないようにする必要がある。ヒドロゲルの濃度は3%(w/w)以下、又は2.5%(w/w)以下であることが好ましい。例えば、細胞は約1%(w/w)NFCヒドロゲル中、約1.5%(w/w)NFCヒドロゲル中、又は約2%(w/w)NFCヒドロゲル中で培養される。上記方法は、0.8~3%(w/w)の範囲、1.3~2.2%(w/w)の範囲、0.8~2%の範囲、1~2%(w/w)の範囲、例えば0.8~1.5%(w/w)の範囲、又は約1%(w/w)、約1.5%(w/w)又は約2%(w/w)の濃度を有するナノフィブリルセルロースヒドロゲル内で真核細胞を培養することを含んでいてもよい。細胞は、1×105細胞/ml~1×107細胞/mlの密度(例えば、1×106~5×106細胞/mlの密度)で細胞培養に播種又は供されてもよい。
【0034】
細胞スフェロイドとなり得る細胞凝集体は、80~700μm(
図1、
図2及び
図3Aに示すように、例えば80~300μm)の平均直径を有していてもよい。約2%(w/w)の濃度を有するNFCで生成された(例えば、NFCで培養された及び/又はNFCと組み合わされた等)細胞スフェロイドは、より低い濃度のNFCで生成された細胞スフェロイドよりも小さい平均直径(例えば、80~250μm)を有しているように見受けられる。直径を維持することもできた。これにより、エクスビボ及びインビボでの細胞の生存率が向上し、効率的かつ生存可能な移植可能な細胞調製物を提供でき得る。また、形成された又は形成した細胞スフェロイドの直径を調整することも可能であり、例えば、EDTA溶液等の試薬を添加することにより、細胞の直径を減少させることも可能である。
【0035】
本方法はまた、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルを提供することを含んでいてもよく、これは、移植可能な細胞組成物を培養及び/又は形成するためのものであってもよい。細胞凝集体は、ヒドロゲル中に供されてもよく、及び/又はヒドロゲルと組み合わされてもよい。ヒドロゲルは、細胞及びヒドロゲルの均一な分布を得るために、そして細胞又は細胞スフェロイドの破損を避け、泡の形成を避けるために、好ましくはピペットチップ又は同様のツールを用いて穏やかに混合されてもよい。
【0036】
移植可能な細胞又は細胞スフェロイドを得るために、細胞は、レシピエントに拒絶反応若しくは他の免疫学的反応を引き起こす可能性がある、又は疾患のリスクをもたらす可能性がある化合物(例えば、他のタイプの細胞由来材料等)を含まない細胞培養培地で培養してもよく、及び/又は、動物由来物フリー、ゼノフリー及び/又はフィーダーフリーである細胞培養培地で培養してもよい。このような培地は、幹細胞培養等の、所望の細胞培養に必要な必須細胞培養化合物のみを含むことが好ましい。また、細胞培養中に、最後の段階、すなわち、最終的なナノセルロース系マトリックスに細胞を供給又は移送する前に、培養培地をこのような培地に変更してもよい。
【0037】
代替的に、又は追加的に、細胞培養物から細胞を得た後、例えば、好適な緩衝培地若しくは溶液、及び/又は任意の好適な動物由来フリー、ゼノフリー及び/又はフィーダーフリーである培地若しくは溶液を使用して、上記細胞を洗浄してもよい。洗浄培地は、他のタイプの細胞(例えば、他の動物細胞又は微生物細胞等の他のタイプの細胞)に由来する化合物等、移植において問題を引き起こす可能性のある望ましくない化合物を含まないものである。場合によっては、そのような化合物は、細胞を培養するために使用される細胞培養培地中に存在し得る。一般的に、緩衝化合物と、任意選択として塩、界面活性剤、可塑剤、乳化剤等の化合物とのみを含む水性媒体が、移植可能な組成物において使用され得る。塩類、緩衝剤等は、細胞にとって好適な生理的条件を得るために提供されてもよい。このような媒体の一例としては、緩衝液、特に緩衝塩-溶液、例えばリン酸緩衝生理食塩水等の等張緩衝液が挙げられる。最も単純な場合、緩衝液は、1つ以上の緩衝剤と、任意選択としての1つ以上の塩とのみを含む。緩衝液はまた、1つ以上の浸透圧/オンコチック安定剤、フリーラジカル捕捉剤/酸化防止剤、イオンキレーター、膜安定剤及び/又はエネルギー基質を含んでもよい。培地は、本明細書に開示される成分の水溶液から構成されてもよい。一般的に、緩衝液は、弱酸とその共役塩基、又はその逆の混合物を含む水溶液である。緩衝液は、pHを実質的に又はほぼ一定の値に維持するために使用されてもよい。緩衝液のpHは、6~8の範囲、例えば7~8の範囲、例えば7.0~7.7の範囲であってよい。特に幹細胞は、pH7.4付近、例えばpH7.2~7.6の範囲、を必要とする場合がある。
【0038】
生物学的用途に有用な緩衝剤の例としては、TAPS([トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパンスルホン酸)、ビシン(2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)酢酸)、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)若しくは(2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール)、トリシン(3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、TAPSO(3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンタンスルホン酸)、TES(2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸)、MOPS(3-(N-モルフォリノ)プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸))、カコジル酸(ジメチルアルセン酸)、及びMES(2-(N-モルフォリノ)エタンスルホン酸)が挙げられる。
【0039】
一般的な緩衝液の具体例としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられ、通常、pHは約7.4である。これは、リン酸水素二ナトリウム、塩化ナトリウム、及び一部の製剤では塩化カリウムとリン酸二水素カリウムを含む水性塩溶液である。溶液の浸透圧とイオン濃度が人体のそれと一致するため、等張となる。
【0040】
一般的に、緩衝液は1つ以上の緩衝剤を含む。一例では、緩衝液は、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)等の双性イオン緩衝剤を含む。緩衝剤(複数可)は、好ましくは、pKa値が6~8であるべきである。緩衝液中の緩衝剤の含有量は、100mM未満、例えば10~50mMの範囲、又は20~30mMの範囲、例えば20~25mMの範囲であってよい。一例では、緩衝液は、HEPES緩衝液(例えば、10mM HEPES、150mM NaCl、10mM EDTA、pH7.4)である。
【0041】
一実施形態では、上記方法は、細胞又は細胞凝集体をナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に与える、及び/又は細胞又は細胞凝集体をナノフィブリルセルロースヒドロゲルと組み合わせる前に、濾過、遠心分離及び/又は他のタイプの細胞由来材料を含まないか、及び/又は動物由来フリー、ゼノフリー及び/又はフィーダーフリーである培地で細胞又は細胞凝集体を洗浄すること等により、細胞培養培地を除去することを含む。より詳細には、細胞又は細胞凝集体を濾過及び/又は遠心分離して、望ましくない培地及び任意に他の材料を除去してもよい。濾過は真空で補助されてもよい。
【0042】
形成された多細胞の集合体である細胞凝集体を、本明細書では、細胞スフェロイドと呼ぶ。培養は、少なくとも3日間、例えば、3~14日間、又は3~7日間行ってよい。特に、上記方法は幹細胞に対して好適である。凝集体の形成後、細胞を採取して好適な培地又は緩衝液で洗浄してもよく、及び/又は、好適な培地又は緩衝液、例えば先に開示したようにpH6~8の緩衝液又は培地に懸濁させてもよい。その後、細胞凝集体は、NFCヒドロゲルに移されてもよい。NFCヒドロゲルは、細胞凝集体の間に間質マトリックスを形成し、このマトリックスは構造を補強し、細胞を固定化するが、マトリックスにもかかわらず薬剤の流れを可能にし、これにより例えば細胞シグナル伝達、栄養素の流れ及び他の重要な機能が可能になる。本実施形態のマトリックスとは、細胞を取り囲み、多孔質の三次元格子を形成するマトリックスを指し、細胞外マトリックスに見られる間質マトリックスと機能的に類似しており、組織である。マトリックスは、組成物中及び/又は細胞間に均一に分布していてもよい。マトリックスは、細胞がマトリックス中に少なくとも6時間、少なくとも12時間、又は少なくとも24時間等の好適な期間存在した後に、形成及び/又はさらに発達してもよく、すなわち、NFCは細胞と反応してマトリックスを形成してもよい。細胞は、使用前に数日間又は数週間さえもナノフィブリルセルロースヒドロゲル中で保存及び/又はインキュベートされてもよい。
【0043】
別の例では、細胞は、細胞培養液を含み得るナノフィブリルセルロースヒドロゲル中で培養される。細胞は収穫され、別のナノフィブリルセルロースヒドロゲルに移されてもよいか、又は、培養されたのと同じヒドロゲルのまま移植に供されてもよい。この場合、細胞を洗浄すること、及び/又はヒドロゲルの濃度を所望の範囲に調整することが必要な場合がある。そのような場合、細胞をナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に与えることにより、真核細胞をナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に含む移植可能な細胞組成物が得られ、特に別の供給源から細胞を移植する必要はない。
【0044】
化学的に非修飾であるか、又は化学的に修飾(特にアニオン修飾)したナノフィブリルセルロースが、細胞スフェロイドの形成を促進し、安定化させることを見いだした。この細胞スフェロイドは、例えば、注射又は移植によって、細胞を対象に投与することを含む移植等の方法に使用することが可能である。特に幹細胞スフェロイドに使用されるNFCヒドロゲルは、細胞の更なる凝集を抑え、細胞移植の際の注入せん断力から細胞を隔離することが可能である。移植後の細胞は、NFCヒドロゲル内で所望の細胞型に分化することが可能である。
【0045】
ヒドロゲル中の(好ましくは最終的な移植可能な組成物中の)ナノフィブリルセルロースの濃度は、1~3%の範囲であってよく、これは注射可能な組成物に好適である。濃度は、1~2.5%(w/w)の範囲、又は1.3~2.2%(w/w)の範囲、例えば1.5~2.0%(w/w)の範囲であってもよい。これらの濃度は、細胞スフェロイドを所望の及び/又は得られたサイズ及び形状に維持することを容易にすることが見出された。1%(w/w)以下、又は1.5%(w/w)以下の濃度では、ヒドロゲルの粘度が低すぎる場合があるため、これより低い濃度であってはならないことが判明した。一方、5%(
w/w)以上、3%(w/w)以上、2.5%(w/w)以上では、ヒドロゲルマトリックス中の薬剤の流れが悪くなったり、阻害される可能性があるので、あまり高い濃度にしないことである。また、濃度が高すぎると、細胞スフェロイドに支障をきたす場合がある。移植可能な細胞組成物中の細胞密度は、1×104細胞/ml~1×108細胞/mlであり、例えば、1×105細胞/ml~1×107細胞/mlであってもよい。
【0046】
ナノフィブリルセルロースは、所望の特性及び効果が得られるように、十分なフィブリル化度(degree of fibrillation)を有することが好ましい。一実施形態では、ナノフィブリルセルロースは、フィブリルの平均直径は1~200nmであり、及び/又は、水に分散させた場合、25℃、周波数10rad/s、歪み2%で、0.001~100Paの範囲でせん断応力を徐々に増加させながら応力制御回転型レオメータにより測定したとき、350Pa以上(例えば350~5000Paの範囲、好ましくは350~1000Paの範囲)の貯蔵弾性率、及び25Pa以上(例えば25~300Paの範囲、好ましくは25~75Paの範囲)の降伏応力を与える
【0047】
ナノフィブリルセルロースは、組成物中の唯一の高分子材料等、組成物中の唯一のマトリックス材料であってよい。しかしながら、NFCに加えて他の高分子材料、例えばヒアルロナン、ヒアルロン酸及びその誘導体、ペプチド系材料、タンパク質、他の多糖類、例えばアルギン酸、ポリエチレングリコールを含めることも可能である。半貫通ネットワーク(semi-IPN)を形成する組成物を得ることができ、ナノフィブリルセルロースは構造安定性を提供する。全組成物中の他の高分子材料の乾燥重量としての含有量は、20~80%(w/w)の範囲、例えば40~60%(w/w)の範囲、又は10~30%(w/w)の範囲若しくは10~20%(w/w)の範囲であってよい。
【0048】
細胞及び細胞スフェロイドは、NFCヒドロゲルの光学的特性により、例えば顕微鏡を使って視覚的に調べることができる。また、マトリックスが分子物質の流れを可能にするため、細胞がヒドロゲルマトリックス内にある間に他のテストを実施することもできる。細胞又は細胞スフェロイドは、例えば1つ以上のセルラーゼ酵素を用いてヒドロゲルを酵素的に分解することにより、NFCヒドロゲルから放出させることが可能である。
【0049】
「細胞培養」又は「細胞の培養」という用語は、細胞又は組織の維持、輸送、単離、培養、増殖、継代、及び/又は分化を指す。細胞は、個体、単層、細胞クラスタ、スフェロイドな等、どのような配列であってもよく、また組織としてでもよい。
【0050】
<細胞>
本発明の方法及び製品において、細胞が提供される。細胞は、真核細胞であってもよい。真核細胞は、植物細胞、酵母細胞、又は動物細胞であってもよい。真核細胞の例としては、幹細胞等の移植可能な細胞が挙げられる。本方法において、細胞は、動物細胞又はヒト細胞であることが好ましい。細胞は、先に説明したように、凝集体として存在してもよい。
【0051】
細胞の具体例としては、幹細胞、未分化細胞、前駆細胞、並びに完全に分化した細胞及びそれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの例では、細胞には、角化細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、上皮細胞及びそれらの組み合わせからなる群より選択される細胞型が含まれる。いくつかの例では、細胞は、幹細胞、祖先細胞(progenitor cells)、前駆細胞(precursor cells)、結合組織細胞、上皮細胞、筋肉細胞、ニューロン細胞、内皮
細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト、平滑筋細胞、間質細胞、免疫系細胞、造血細胞、樹状細胞、毛包細胞、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。細胞は、トランスジェニック細胞、シスジェニック細胞、ノックアウト細胞等の遺伝子組換え細胞、又は病原性細胞であってもよい。このような細胞は、例えば、創薬研究又は治療に使用することができる。特に、幹細胞は、例えば患者に提供される等、治療用途に使用することができる。
【0052】
真核細胞は、哺乳類細胞であってもよい。哺乳類細胞の例としては、ヒト細胞、マウス細胞、ラット細胞、ウサギ細胞、サル細胞、ブタ細胞、ウシ細胞、ニワトリ細胞等を挙げることができる。
【0053】
一実施形態では、細胞は、全能性(omnipotent)幹細胞、多能性(pluripotent)幹細胞、多分化性(multipotent)幹細胞、少能性(oligopotent)幹細胞又は単能性(unipotent)幹細胞等の幹細胞である。幹細胞は、細胞分裂によって自己を更新することができ
、多系統の細胞に分化することができる細胞である。これらの細胞は、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、及び成体幹細胞(組織特異的幹細胞又は体性幹細胞とも呼ばれる)に分類される場合がある。幹細胞は、ヒト幹細胞であってもよく、成体幹細胞のような非胚由来のものであってもよい。これらは、分化後の体中に存在する未分化な細胞である。臓器の再生などに関与し、多能性又は多分化能の状態で分裂し、分化した細胞系列に分化する能力を有する。幹細胞は、例えばCell Stem Cell (2008 Feb 7;2(2):113-7)に記載されているような、胚を破壊せずに作製されたヒト胚性幹細胞株であってもよい。幹細胞は、骨髄、脂肪組織、血液等の自己の成体幹細胞の供給源から得られてもよい。
【0054】
幹細胞の例としては、間葉系幹細胞(MSC)、多分化性成体前駆細胞(MAPC(登録商標))、人工多能性幹細胞(iPS)、造血系幹細胞等が挙げられる。
【0055】
ヒト幹細胞の場合、細胞は非胚細胞であっても、胚を破壊せずに得られたhESC(ヒト胚性幹細胞)等の胚性細胞であってもよい。ヒト胚性幹細胞の場合、細胞は、ヒト胚を破壊しないように、寄託された細胞株から、又は未受精卵、すなわち「パルテノン」卵若しくは単為生殖的に活性化された卵子から作られたものであってもよい。
【0056】
一実施形態では、細胞は、間葉系幹細胞(MSC)である。間葉系幹細胞(MSC)は、ヒト及び動物、例えば哺乳類から単離することが可能な成体幹細胞である。間葉系幹細胞は、骨芽細胞、軟骨細胞、筋細胞及び脂肪細胞を含む様々な細胞型に分化することが可能な多能性間質細胞である。間葉系幹細胞自体は、中胚葉に由来する胚性結合組織であり、造血組織と結合組織に分化する。しかし、間葉系幹細胞は造血系細胞に分化することはない。間葉系幹細胞及び骨髄間質細胞という用語は、長年にわたって同じ意味で使われてきたが、どちらの用語も十分に説明できるものではない。ストローマ細胞は結合組織細胞であり、組織の機能細胞が存在する支持構造を形成している。これはMSCの1つの機能としては正確な表現であるが、この用語は、組織の修復において比較的最近発見されたMSCの役割を伝えることができていない。この用語は、胎盤、臍帯血、脂肪組織、成体筋肉、角膜間質、乳歯の歯髄等、他の非脊髄組織から得られた多能性細胞を包含するものである。これらの細胞には、臓器全体を再生させる能力はない。
【0057】
国際細胞治療学会は、MSCを定義するための最低限の基準を提唱している。これらの細胞は、(a)可塑性接着を示さなければならず、(b)特定の細胞表面マーカー、すなわち分化クラスタ(CD)73、D90、CD105を有し、CD14、CD34、CD45及びヒト白血球抗原DR(HLA-DR)を発現せず、(c)インビトロで脂肪細胞、軟骨細胞及び骨芽細胞に分化可能である。これらの特徴は、様々な組織由来から分離されたMSCではほとんど差がないが、全てのMSCに有効である。また、MSCは胎児組織だけでなく、多くの成体組織にも例外なく存在する。骨髄からは効率的な造血幹細胞の集団が報告されている。脂肪組織、羊水、羊膜、歯牙組織、子宮内膜、四肢芽、月経血、末梢血、胎盤・胎膜、唾液腺、皮膚・包皮、羊膜下臍帯内膜、滑液、ワートンゼリー(Wharton's jelly)からMSCの特徴を示す細胞が単離されている。
【0058】
ヒト間葉系幹細胞(hMSC)は、非常に高い可塑性を示し、骨髄を中心にほぼ全ての臓器に存在している。hMSCは間葉系細胞の再生可能な供給源として、適切な刺激によりインビトロで骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、骨格及び心筋細胞、内皮細胞並びにニューロン等の複数の細胞系列に分化する多能性を有し、移植後のインビボでも分化することが知られている。
【0059】
一例では、細胞は多分化性成体前駆細胞(MAPC)であり、これは骨髄、筋肉、脳から採取できる原始的な細胞集団に由来している。MAPCは間葉系幹細胞よりも原始的な細胞集団であり、胚性幹細胞の特徴を模倣する一方で、細胞治療における成体幹細胞の可能性を保持している。MAPCは、インビトロでは、脂肪細胞、骨細胞、神経細胞、肝細胞、造血細胞、筋細胞、軟骨細胞、上皮細胞、内皮細胞への幅広い分化能が確認されている。MAPCの大きな特徴は、その表現型を失うことなく、インビトロで大きな増殖能を示すことである。MAPCは、虚血性脳卒中、移植片対宿主病、急性心筋梗塞、臓器移植、骨修復、骨髄異形成等、さまざまな疾患の治療に使用され得る。また、MAPCは、骨形成の促進、新生血管の促進、免疫調節効果も有している。
【0060】
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、成体細胞から直接作製できる多能性幹細胞の一種である。実質的に無限に増殖することができ、神経細胞、心臓、膵臓、肝臓等、体内のあらゆる種類の細胞を生み出し得る。人工多能性幹細胞は、成人の組織から直接誘導することができ、患者に適合した方法で作ることができるため、免疫拒絶反応のリスクなしに移植を行うことが可能である。ヒトの人工多能性幹細胞は特に興味深いもので、例えば、ヒト繊維芽細胞、ケラチノサイト、末梢血細胞、腎臓上皮細胞、その他の適切な細胞タイプから生成することが可能である。
【0061】
造血幹細胞は、血液幹細胞とも呼ばれ、白血球、赤血球、血小板等のあらゆる種類の血液細胞に成長することが可能である細胞である。造血幹細胞は、末梢血と骨髄に存在する。造血幹細胞は、骨髄系及びリンパ系の両方の血球を生み出す。骨髄系及びリンパ系はともに樹状細胞の形成に関与している。骨髄系細胞には、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球から血小板までが含まれる。リンパ系細胞には、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞等がある。造血幹細胞移植は、がん及びその他の免疫系疾患の治療に使用されることがある。
【0062】
一般的に、細胞はヒドロゲル内で培養することが可能であり、その中に保存することも可能である。ヒドロゲル上で、又はヒドロゲル中で細胞を維持及び増殖させることが可能であり、細胞外に由来する動物又はヒト由来の薬剤又は培地は不要である。細胞は、ヒドロゲル上又はヒドロゲル中に均一に分散していてもよい。
【0063】
最初に別の培養培地で前培養し、細胞を回収して新しい培地(上記の培養培地と類似していても異なっていてもよい)に移し替えてもよい。細胞懸濁液が得られる。この細胞懸濁液又は別の細胞懸濁液を、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲル等のナノフィブリルセルロースと組み合わせるか及び/又は混合して、細胞系又は細胞組成物を得る又は形成することが可能である。細胞が細胞系で培養される場合、細胞培養物が形成される。細胞系又は培養は、2次元系若しくは培養であってもよいし、3次元系若しくは培養であってもよい。2D系又は培養とは、膜状及び/又は層状の系又は培養をいう。3D系又は培養とは、ナノフィブリルセルロース中での系又は培養を指し、ここでは、細胞は3次元全てで増殖及び/又は相互作用することが可能となる。NFCヒドロゲルマトリックスは、天然の細胞外マトリックス構造を模倣し、栄養分、ガス等の効率的な輸送を提供します。一例として、細胞系は3D細胞系である。
【0064】
<ナノフィブリルセルロース>
ヒドロゲルを形成するための出発物質は、ナノセルロースとも呼ばれるナノフィブリルセルロースであり、セルロース原料に由来する孤立したセルロースフィブリル又はフィブリルバンドル(繊維束)を指す。ナノフィブリルセルロースは、自然界に豊富に存在する天然高分子をベースにしている。ナノフィブリルセルロースは、水中で粘性を有するヒドロゲルを形成する機能を有している。ナノフィブリルセルロースの製造技術は、パルプ繊維の水性分散液を粉砕してナノフィブリル化セルロースを得る等、繊維状原料を崩壊させることに基づいてもよい。粉砕又は均質化工程の後、得られたナノフィブリルセルロース材料は、希薄な粘弾性のヒドロゲルである。
【0065】
得られた材料は、通常、崩壊条件により比較的低濃度で水中に均一に分散して存在する。出発物質は、0.2~10%(w/w)の範囲、例えば0.2~5%(w/w)の範囲、の濃度の水性ゲルであってもよい。ナノフィブリルセルロースは、繊維状原料の崩壊から直接得てもよい。市販のナノフィブリルセルロースヒドロゲルの例としては、UPM社製のGrowDex(登録商標)が挙げられる。
【0066】
ナノフィブリルセルロースは、そのナノスケール構造により、従来の非ナノフィブリルセルロースでは実現できなかった機能性を可能にするユニークな特性を有する。従来のセルロース系材料を用いた製品とは異なる特性を示す材料及び製品を調製することが可能である。しかし、ナノフィブリルセルロースは、そのナノスケール構造のため、難易度の高い素材であることも事実である。例えば、ナノフィブリルセルロースの脱水又は取り扱いが困難な場合がある。
【0067】
ナノフィブリルセルロースは、植物由来のセルロース原料から調製されてもよく、また、特定のバクテリア発酵プロセスから得られるものであってもよい。ナノフィブリルセルロースは、植物原料から作られることが好ましい。原料は、セルロースを含有する任意の植物材料をベースとすることができる。一例では、フィブリルは、非実質性(non-parenchymal)植物材料から得られる。そのような場合、フィブリルは二次細胞壁から得られて
もよい。このようなセルロースフィブリルの豊富な供給源の1つは、木材繊維である。ナノフィブリルセルロースは、化学パルプであってもよい木材由来の繊維状原料を均質化することにより製造することが可能である。セルロース繊維を解繊して、平均直径が数ナノメートル、ほとんどの場合200mm以下しかないフィブリルを生成し、水中にフィブリルの分散液が得られる。二次細胞壁に由来するフィブリルは、本質的に結晶性であり、結晶化度は55%以上である。このようなフィブリルは、一次細胞壁に由来するフィブリルとは異なる特性を有する場合があり、例えば、二次細胞壁に由来するフィブリルの脱水はより困難である場合がある。一般的に、テンサイ(sugar beet)、ジャガイモ塊茎(potato tuber)、及びバナナ果皮(banana rachis)等の一次細胞壁からのセルロース源では
、ミクロフィブリルは木材からのフィブリルよりも繊維マトリックスから解放しやすく、分解に必要なエネルギーはより少ない。しかし、これらの材料はまだ幾分不均一で、大きなフィブリル束から構成されている。
【0068】
非木材としては、綿、トウモロコシ、小麦、オート麦、ライ麦、大麦、米、亜麻、麻、マニラ麻、サイザル麻、ジュート、ラミー、ケナフ、バガス、竹、葦等の農業残滓、草及び他の植物物質からであってもよい。セルロース原料は、セルロース生産性微生物に由来するものであってもよい。微生物は、Acetobacter属、Agrobacterium属、Rhizobium属、Pseudomonas属又はAlcaligenes属であり得、好ましくはAcetobacter属、より好ましくはAcetobacter xylinumor又はAcetobacter pasteurianusの種である。
【0069】
本明細書に記載された医療用又は科学用の製品には、木材セルロースから得られるナノフィブリルセルロースが好ましいことが判明した。木材セルロースは大量に入手可能であり、木材セルロースの調製方法を開発することにより、製品に適したナノフィブリル材料を製造することが可能である。植物繊維、特に木材繊維をフィブリル化して得られるナノフィブリルセルロースは、微生物から得られるナノフィブリルセルロースとは構造的に異なり、異なる特性を有している。例えばバクテリアセルロースと比較して、ナノフィブリル化木材セルロースは均質で、より多孔質で緩い物質であり、これは生きた細胞を含む用途において有利である。バクテリアセルロースは通常、植物セルロースのようなフィブリル化をせずにそのまま使用されるため、この点でも素材が異なる。バクテリアセルロースは、小さなスフェロイドを形成しやすい緻密な材料であるため、材料の構造が不連続であり、特に材料の均質性が要求される生細胞に関する用途では、このような材料の使用は望まれない。
【0070】
木材としては、トウヒ、マツ、モミ、カラマツ、ダグラスファー、ヘムロック等の針葉樹から、又はカバ、アスペン、ポプラ、ハンノキ、ユーカリ、オーク、ブナ、アカシアな等の広葉樹から、又は針葉樹と広葉樹との混合物から得てもよい。一例では、ナノフィブリルセルロースは、木材パルプから得られる。ナノフィブリルセルロースは、広葉樹パルプから得られてもよい。一実施例では、広葉樹はカバである。ナノフィブリルセルロースは、針葉樹パルプから得られてもよい。一例では、木材パルプは化学パルプである。化学パルプは、本明細書に開示される製品に所望され得る。化学パルプは純粋な材料であり、様々な用途で使用することが可能である。例えば、化学パルプは、機械パルプに存在するピッチ及び樹脂酸を欠いており、より無菌であるか、又は容易に滅菌可能である。さらに、化学パルプはより柔軟であり、例えば医療及び科学材料において有利な特性をもたらす。例えば、非常に均質なナノフィブリルセルロース材料は、過剰な処理、特定の装置及び手間のかかるプロセスステップの必要なく調製することができます。
【0071】
セルロースフィブリル及び/又はフィブリルバンドルを含むナノフィブリルセルロースは、高いアスペクト比(長さ/直径)を特徴とする。ナノフィブリルセルロースの平均長さ(フィブリル及びフィブリルバンドル等の粒子の中央値)は1μmを超える場合もあり、多くの場合、50μm以下である。素フィブリルが互いに完全に分離していない場合、絡み合ったフィブリルは、例えば1~100μmの範囲、1~50μmの範囲、又は1~20μmの範囲の平均全長を有していてもよい。しかし、ナノフィブリル材料が高度にフィブリル化されている場合、素状フィブリルは完全に又はほぼ完全に分離されていてもよく、平均フィブリル長は、例えば1~10μmの範囲又は1~5μmの範囲等、より短くなっている。これは特に、例えば化学的、酵素的、又は機械的に短縮又は消化されていないフィブリルのネイティブグレードに当てはまる。しかしながら、強く誘導体化されたナノフィブリルセルロースは、0.3~50μmの範囲、例えば0.3~20μmの範囲、例えば0.5~10μmの範囲又は1~10μmの範囲、の短い平均フィブリル長を有していてもよい。特に短くなったフィブリル、例えば酵素的若しくは化学的に消化されたフィブリル、又は機械的に処理された材料は、1μm未満、例えば0.1~1μmの範囲、0.2~0.8μmの範囲又は0.4~0.6μmの範囲、の平均フィブリル長を有してもよい。フィブリル長及び/又は直径は、例えばCRYO-TEM、SEM又はAFM画像を用いて、顕微鏡的に推定することが可能である。
【0072】
ナノフィブリルセルロースの平均直径(幅)は、1μm以下、又は500nm以下、例えば1~500nmの範囲であるが、好ましくは200nm以下、さらには100nm以下、50nm以下、例えば1~200nmの範囲、2~100nmの範囲、2~50nmの範囲であり、高度フィブリル化材料ではさらにおおよそ2~20nmの範囲である。本明細書に開示される直径は、フィブリル及び/又はフィブリル束を指す場合がある。最小のフィブリルは、初級フィブリルの規模であり、平均直径は、典型的には2~12nmである。フィブリルの寸法及びサイズ分布は、精製方法及び効率に依存する。高度に精製されたネイティブナノフィブリルセルロースの場合、フィブリル束を含む平均フィブリル直径は、2~200nmの範囲又は5~100nmの範囲であり、例えば10~50nmの範囲であってよい。ナノフィブリルセルロースは、比表面積が大きく、水素結合を形成する能力が高いことを特徴とする。水分散液中では、ナノフィブリルセルロースは、通常、淡色又は濁ったゲル状物質として現れる。繊維原料によっては、植物、特に木材から得られるナノフィブリルセルロースは、他の植物成分、特に木材成分、例えばヘミセルロースやリグニンを少量含むこともある。その量は、植物原料に依存する。
【0073】
一般的にセルロースナノ材料は、セルロースナノ材料の標準用語を定めたTAPPI W13021に従ってカテゴリー分けされることがある。これらの材料の全てがナノフィブリルセルロースというわけではない。大きく分けて、「ナノオブジェクト(Nano objects)」と「ナノ構造体(Nano structured materials)」の2つがある。ナノ構造体には
、直径10~12μm、長さ:直径比(L/D)<2の「セルロース微結晶(Cellulose microcrystals)」(CMCとも呼ばれる)、及び直径10~100nm、長さ0.5~
50μmの「セルロースミクロフィブリル(Cellulose microfibrils)」が含まれる。ナノオブジェクトには、直径3~10nm、L/D>5の「セルロースナノクリスタル(Cellulose nanocrystals)」(CNC)、及び直径5~30nm、L/D>50の「セルロ
ースナノフィブリル(Cellulose nanofibrils)」(CNF又はNFC)に分けられる「セルロースナノファイバー(Cellulose nanofibers)」が含まれる。
【0074】
ナノフィブリルセルロースの様々なグレードは、3つの主要な特性に基づいて分類することができる:(i)サイズ分布、長さ、直径;(ii)化学組成;及び(iii)レオロジー特性。グレードを完全に説明するために、これらの特性を並列に用いてもよい。異なるグレードの例としては、ネイティブ(化学的及び/又は酵素的に未修飾)NFC、酸化NFC(高粘度)、酸化NFC(低粘度)、カルボキシメチル化NFC、カチオン化NFC等が挙げられる。これらの主要グレードの中にも、例えば、極めて良好なフィブリル化vs中程度のフィブリル化、高度な置換度vs低置換度、低粘度vs高粘度等のサブグレードが存在する。フィブリル化技術及び化学的な前改質はフィブリルサイズ分布に影響を及ぼす。一般的に、非イオン性グレードは平均フィブリル径が広い(例えば10~100nmの範囲、又は10~50nmの範囲)のに対し、化学修飾グレードはかなり細い(例えば2~20nmの範囲)。また、化学修飾されたグレードでは、分布も狭くなる。ある種の修飾、特にTEMPO-酸化は、より短いフィブリルを生じる。
【0075】
原料源(例えば広葉樹パルプvs針葉樹パルプ)によって、最終的なナノフィブリルセルロース製品に異なる多糖類組成が存在する。一般的に、非イオン性グレードは漂白したバーチパルプから調製され、高いキシレン含有量(25重量%)を生じる。変性グレードは、広葉樹パルプ又は針葉樹パルプから調製される。これらの変性グレードでは、セルロースドメインと共にヘミセルロースも変性されている。ほとんどの場合、改質は均一ではなく、ある部分は他の部分よりも改質されている。したがって、改質された製品は異なる多糖構造の複雑な混合物であるため、詳細な化学分析は通常不可能である。
【0076】
水系環境下では、セルロースナノフィブリルの分散液は粘弾性ヒドロゲルネットワークを形成する。このゲルは、分散し水和した絡み合ったフィブリルによって、例えば0.05~0.2%(w/w)の範囲の比較的低い濃度で既に形成されている。NFCヒドロゲルの粘弾性は、例えば動的振動レオロジー測定で評価することができる。
【0077】
ナノフィブリルセルロースヒドロゲルは特徴的なレオロジー特性を示す。例えば、ずり流動化(shear thinning)又は擬塑性材料であり、これはチキソトロピー挙動の特殊なケースとして考えることができる。つまり、粘度は材料が変形する速度又は力に依存する。回転式レオメータで粘度を測定すると、せん断速度の増加による粘度の低下として、せん断薄層化挙動が見られる。ヒドロゲルは塑性挙動を示し、材料が容易に流動し始めるまでに一定のせん断応力(力)が必要であることを意味する。この臨界せん断応力は、しばしば降伏応力と呼ばれる。降伏応力は、応力制御レオメータで測定した定常フローカーブから求めることができる。粘度をせん断応力の関数としてプロットすると、臨界せん断応力を超えると粘度が劇的に低下することが分かる。ゼロせん断粘度と降伏応力は、材料の懸濁力を表す最も重要なレオロジーパラメータである。この2つのパラメータは、異なるグレードを極めて明確に分離するため、グレードの分類が可能になる。
【0078】
フィブリル又はフィブリル束の寸法は、例えば、原料、分解方法及び分解回数に依存する。セルロース原料の機械的崩壊は、精製機、粉砕機、分散機、ホモジナイザー、コロライダー、摩擦粉砕機、ピンミル、ロータ・ロータ分散機、超音波ソニケーター、マイクロフルイダイザー、マクロフルイダイザー等の流動化装置、流動化式均質機等の任意の適切な装置で実施され得る。崩壊処理は、繊維間の結合が形成されないように、水が十分に存在する条件で行われる。
【0079】
一例では、分解は、少なくとも2つのロータを有するロータ・ロータ分散機等の、少なくとも1つのロータ、ブレード又は同様の移動機械部材を有する分散機を使用することによって行われる。分散機では、分散中の繊維材料は、ブレードが回転速度と半径(回転軸までの距離)で決まる周速で反対方向に回転する際に、ロータのブレードやリブが反対方向から衝突して繰り返し衝撃を受ける。繊維材料は半径方向外側に移動するため、反対方向から高い周速度で次々とやってくるブレード、すなわちリブの広い面に衝突し、言い換えれば、反対方向から連続して複数の衝撃を受けることになる。また、ブレード(リブ)の広い面の縁では、隣のロータブレードの反対側の縁とブレードギャップを形成し、せん断力が発生し、繊維の分解やフィブリルの剥離に寄与している。衝撃周波数は、ロータの回転速度、ロータの数、各ロータのブレードの数、および装置を通過する分散液の流量によって決定される。
【0080】
ロータ・ロータ分散機では、繊維材料は、ロータの回転軸に対して半径方向外側に、異なる逆回転ロータの効果によって材料が繰り返しせん断力及び衝撃力を受け、それによって同時に繊維化されるように、逆回転ロータを通して導入される。ロータ・ロータ分散機の一例として、アトレックス装置がある。
【0081】
崩壊に適した装置の他の例として、多周式ピンミル等のピンミルが挙げられる。このような装置の一例は、ハウジングと、その中に、衝突面を備えた第1のロータ;第1のロータと同心で衝突面を備えた第2のロータであって、第2のロータは第1のロータと反対方向に回転するように配置されているか、又は第1のロータと同心で衝突面を備えたステータを含んでいる。この装置は、ハウジングに設けられ、ロータ又はロータとステータの中心に開口する供給オリフィスと、ハウジング壁に設けられ、最外周のロータまたはステータの外周に開口する排出オリフィスを含む。
【0082】
一例では、ホモジナイザーを用いて崩壊を行う。ホモジナイザーでは、繊維材料は、圧力の効果によって均質化に供される。繊維材料分散液のナノフィブリルセルロースへの均質化は、分散液の強制貫流によって引き起こされ、材料はフィブリルへと崩壊する。繊維材料分散液を所定の圧力で狭い貫流ギャップに通過させ、分散液の線速度の増加により分散液に剪断力と衝撃力を与え、繊維材料からフィブリルを除去するものである。繊維片は、フィブリル化工程でフィブリルに分解される。
【0083】
本明細書で使用する場合、「フィブリル化」という用語は、一般に、粒子に加えられる労力によって繊維材料を機械的に崩壊させることを指し、セルロースフィブリルが繊維又は繊維片から剥離されることを指す。この作業は、粉砕、破砕、剪断、又はこれらの組み合わせ等の様々な作用、又は粒子径を減少させる別の対応する作用に基づくことができる。「崩壊」又は「崩壊処理」という表現は、「フィブリル化」と互換的に使用することができる。
【0084】
フィブリル化の対象となる繊維材料分散液は、繊維材料と水との混合物であり、本明細書では「パルプ」とも呼ばれる。繊維材料分散液は、一般的に、全繊維、それらから分離した部分(断片)、フィブリル束、又は水と混合したフィブリルを指す場合があり、典型的には、水性繊維材料分散液はそのような要素の混合物であり、この場合、成分間の比率は、処理の程度又は処理段階、例えば繊維材料の同一バッチの処理を通じた実行又は「パス」回数に依存する。
【0085】
ナノフィブリルセルロースを特徴付ける1つの方法として、上記ナノフィブリルセルロースを含む水溶液の粘度を用いることができる。粘度は、例えば、ブルックフィールド粘度又はゼロせん断粘度であってもよい。本明細書に記載の比粘度により、ナノフィブリルセルロースを非ナノフィブリルセルロースと区別することができる。
【0086】
一例では、ナノフィブリルセルロースの見かけの粘度は、ブルックフィールド粘度計(Brookfield viscometer)又は別の対応する装置を用いて測定される。好適には、ベーンスピンドル(73番)が使用される。見かけの粘度を測定するために、いくつかの市販のブルックフィールド粘度計があるが、これらは全て同じ原理に基づいている。好適には、RVDVスプリング(Brookfield RVDV-III)が装置に使用される。ナノフィブリルセルロースの試料を水で0.8重量%の濃度に希釈し、10分間攪拌する。希釈した試料塊を250mlビーカーに加え、温度を20℃±1℃に調整し、必要に応じて加温し、混合する。回転数は10rpmの低速回転を使用する。一般にブルックフィールド粘度は、20℃±1℃、粘度0.8%(w/w)、10rpmで測定することができる。
【0087】
例えば上記方法において出発物質として提供されるナノフィブリルセルロースは、それが水溶液中でもたらす粘度によって特徴付けることができる。粘度は、例えば、ナノフィブリルセルロースのフィブリル化度合いを説明する。一例では、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散した場合、20℃±1℃、0.8%(w/w)の濃度(consistency)、10rpmで測定したとき、2000mPa・s以上、例えば3000mPa・s以上のブルックフィールド粘性を与える。一例では、ナノフィブリルセルロースは、水中に分散した場合、20℃±1℃、0.8%(w/w)の濃度(consistency)、10rpmで測定したとき、10000mPa・s以上のブルックフィールド粘度を与える。一例では、ナノフィブリルセルロースは、水に分散した場合、20℃±1℃、0.8%(w/w)の濃度、10rpmで測定したとき、15000mPa・s以上のブルックフィールド粘度を与える。ナノフィブリルセルロースを水に分散させた場合、20℃±1℃、0.8%(w/w)の濃度(consistency)、10rpmで測定したときのブルックフィールド粘度の範囲の例としては、2000~20000mPa・sの範囲、3000~20000mPa・sの範囲、10000~20000mPa・sの範囲、15000~20000mPa・sの範囲、2000~25000mPa・sの範囲、3000~25000mPa
・sの範囲、10000~25000mPa・sの範囲、15000~25000mPa・sの範囲、2000~30000mPa・sの範囲、3000~30000mPa・sの範囲、10000~30000mPa・sの範囲、15000~30000mPa・sの範囲が挙げられる。
【0088】
また、ナノフィブリルセルロースは、平均径(又は幅)、又は平均径とブルックフィールド粘度若しくはゼロせん断粘度等の粘度とによって特徴付けることができる。一例では、本明細書に記載の製品に使用するのに好適なナノフィブリルセルロースは、1~200nmの範囲、又は1~100nmの範囲の平均フィブリル径を有する。一例では、ナノフィブリルセルロースは、1~50nmの範囲の平均フィブリル径、例えば2~20nmの範囲又は5~30nmの範囲の平均フィブリル径を有する。一例では、ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースの場合等には、2~15nmの範囲の平均フィブリル径を有する。
【0089】
フィブリルの直径は、顕微鏡検査等、いくつかの手法で決定することができる。フィブリルの厚さ及び幅の分布は、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)、極低温透過電子顕微鏡(クライオTEM)等の透過電子顕微鏡(TEM)、又は原子間力顕微鏡(AFM)からの画像の画像解析によって測定することができる。一般的に、AFM及びTEMはフィブリル径分布の狭いナノフィブリルセルロースのグレードに適している。
【0090】
ナノフィブリルセルロース分散液のレオメータ粘度は、一例に従って、直径30mmを有する円筒形のサンプルカップに狭間隙ベーン形状(直径28mm、長さ42mm)を備えた応力制御回転レオメータ(AR-G2、TA Instruments、英国)を用いて22℃で測定することができる。サンプルをレオメータにロードした後、測定を開始する前に5分間静止させる。定常粘度の測定は、せん断応力を徐々に増加させながら(印加トルクに比例)、せん断速度(角速度に比例)を測定する。一定のずり応力における報告粘度(=ずり応力/ずり速度)は、一定のずり速度に達した後、又は最大2分後に記録される。せん断速度が1000s-1を超えるたら測定を停止する。この方法は、ゼロせん断粘度の測定に使用することができる。
【0091】
別の例では、ヒドロゲルサンプルのレオロジー測定を、20mmプレート形状を備えた応力制御回転レオメータ(AR-G2、TA instruments、英国)を用いて実施した。試料をレオメータに、1mmのギャップで、希釈せずにロードした後、測定を開始する前に5分間沈降させた。ストレススイープ粘度は、周波数10rad/s、歪み2%、25℃で、0.001~100Paの範囲で徐々にせん断応力を増加させて測定した。貯蔵弾性率、損失弾性率、及び降伏応力/破壊強度を求めることができる。
【0092】
その結果、ヒドロゲルが注入後に形状を保持するためには、最低限必要な粘度レベルがあることがわかった。これは、貯蔵弾性率が350Pa以上、降伏応力/破壊強度が25Pa以上であることが特徴であると考えられる。
【0093】
一例では、ナノフィブリルセルロース(例えば上記方法において出発材料として提供される)は、水中に分散した場合、22℃±1℃の水性媒体中、0.5%(w/w)の濃度(consistency)で回転レオメータにより測定したとき、1000~100000Pa・sの範囲、例えば5000~50000Pa・sの範囲のゼロせん断粘度(小さなせん断応力で一定の粘度の「プラトー」)、及び1~50Paの範囲、例えば3~15Paの範囲の降伏応力(せん断減粘開始時のせん断応力)を与える。また、このようなナノフィブリルセルロースは、平均フィブリル径が200nm以下、例えば、1~200nmであってもよい。
【0094】
懸度(turbidity)は、一般的には肉眼では見えない個々の粒子(全懸濁物質又は溶解物質)によって引き起こされる流体の濁り又はかすみを意味し得る。濁度の測定にはいくつかの方法があるが、最も直接的な方法は、水柱を通過する際の光の減衰(強度の減少)を測定する方法である。ジャクソン・キャンドル法(単位:ジャクソン濁度単位、JTU)は、水柱の長さを逆算して、ろうそくの炎を完全に見えなくするのに必要な長さを測定する方法である。
【0095】
懸度は、光学式濁度測定器を用いて定量的に測定することが可能である。濁度を定量的に測定するための市販の濁度計はいくつかある。本願で、ネフェロメトリーに基づく方法を用いる。校正されたネフェロメーターによる濁度の単位は、ネフェロメトリック濁度単位(NTU)と呼ばれる。測定装置(濁度計)は、標準校正試料で校正・管理され、その後、希釈されたNFC試料の濁度を測定する。
【0096】
ある濁度測定方法では、ナノフィブリルセルロース試料を水で、ナノフィブリルセルロースのゲル点以下の濃度に希釈し、希釈した試料の濁度を測定する。ナノフィブリルセルロース試料の濁度を測定する濃度は0.1%である。濁度の測定には、50mlの測定容器を有するHACH P2100 Turbidometerを使用する。ナノフィブリルセルロース試料の乾物量を求め、乾物量として算出した試料0.5gを測定容器に投入し、水道水を500gまで入れて約30秒間振とうして激しく混合した水性混合物を遅滞なく5つの測定容器に分割し、これを濁度計に挿入する。それぞれの容器で3回測定する。得られた結果から平均値及び標準偏差を算出し、最終的な結果をNTU単位で表示する。
【0097】
ナノフィブリルセルロースの特性を把握する一つの方法として、粘度及び濁度の両方を定義することができる。濁度が低いということは、フィブリルの直径が小さい等、フィブリルのサイズが小さいことを意味し、フィブリルが小さいと光の散乱が悪くなるためである。一般的に、フィブリル化度が高くなると粘度が高くなり、同時に濁度も低くなる。ただし、これはある時点までの話である。さらにフィブリル化を進めると、ついにフィブリルが壊れ始め、それ以上強固なネットワークを形成することができなくなる。そのため、この時点から濁度、粘度ともに低下し始める。
【0098】
一例では、アニオン性ナノフィブリルセルロースの濁度は、水性媒体中0.1%(w/w)の濃度で、ネフェロメータにより測定される場合、90NTUより低く、例えば3~90NTUの範囲、例えば5~60の範囲、例えば8~40の範囲である。一例では、ネイティブナノフィブリルの濁度は、20℃±1℃の水性媒体中、0.1%(w/w)の濃度でネフェロメトリにより測定される場合、200NTU以上であってもよく、例えば10~220NTUの範囲、例えば20~200の範囲、例えば50~200の範囲であってもよい。ナノフィブリルセルロースを特徴付けるために、これらの範囲は、ゼロせん断粘度、貯蔵弾性率及び/又は降伏応力等のナノフィブリルセルロースの粘度範囲と組み合わされてもよい。
【0099】
ナノフィブリルセルロースは、非修飾ナノフィブリルセルロースであってもよいし、非修飾ナノフィブリルセルロースからなるものであってもよい。非修飾ナノフィブリルセルロースの排水は、例えばアニオン性グレードよりも著しく速い。非修飾ナノフィブリルセルロースは、一般に、20℃±1℃、0.8%(w/w)の濃度、10rpmで測定したとき、2000~10000mPa・sの範囲のブルックフィールド粘度を与える。ナノフィブリルセルロースは、電量滴定によって決定される、0.6~1.4mmol COOH/gの範囲、例えば0.7~1.2mmol COOH/gの範囲、又は0.7~1.0mmol COOH/gの範囲又は0.8~1.2mmol COOH/gの範囲等、適切なカルボン酸含有量を有することが好ましい。
【0100】
崩壊した繊維状セルロース系原料は、改質された繊維状原料であってもよい。改質された繊維状原料とは、セルロースナノフィブリルが繊維からより容易に剥離するように、繊維が処理の影響を受けている原料を意味する。改質は、通常、液体中の懸濁液として存在する繊維状セルロース原料、すなわち、パルプに対して行われる。
【0101】
繊維の改質処理は、化学的、酵素的、物理的のいずれであってもよい。化学的改質では、セルロース分子の化学構造が化学反応によって変化する(セルロースの「誘導体化」)。セルロース分子の長さは影響を受けないが、ポリマーのβ-D-グルコピラノース単位に官能基が付加されるようにすることであることが好ましい。セルロースの化学修飾は、反応物の投与量と反応条件に依存するある変換度で行われ、原則として、セルロースがフィブリルとして固体状に留まり、水に溶解しないように完全には行われない。物理修飾では、アニオン性、カチオン性、非イオン性の物質、又はこれらの組み合わせがセルロース表面に物理的に吸着される。
【0102】
繊維中のセルロースは、改質後、特にイオン的に帯電している場合がある。セルロースのイオン電荷は、繊維の内部結合を弱め、後にナノフィブリルセルロースへの分解を促進させるであろう。イオン電荷は、セルロースの化学的又は物理的修飾によって達成することができる。繊維は、出発原料と比較して、改質後に高いアニオン性またはカチオン性の電荷を有することができる。アニオン性電荷を作るために最も一般的に用いられる化学修飾方法は、ヒドロキシル基をアルデヒド及びカルボキシル基に酸化する酸化、スルホン化及びカルボキシメチル化である。ナノフィブリルセルロースと生理活性分子との間の共有結合の形成に関与し得るカルボキシル基等の基を導入する化学修飾が望まれる場合がある。第四級アンモニウム基等のカチオン性基をセルロースに結合させるカチオン化によって、今度はカチオン電荷が化学的に生成されてもよい。
【0103】
ナノフィブリルセルロースは、アニオン変性ナノフィブリルセルロース又はカチオン変性ナノフィブリルセルロース等の化学変性ナノフィブリルセルロースを含んでいてもよい。一例では、ナノフィブリルセルロースは、アニオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースである。一例では、アニオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースは、酸化ナノフィブリルセルロースである。一例では、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、スルホン化ナノフィブリルセルロースである。一例では、アニオン変性ナノフィブリルセルロースは、カルボキシメチル化ナノフィブリルセルロースである。セルロースをアニオン修飾して得られる材料は、アニオン性セルロースと呼ばれることがあり、これは、非修飾材料と比較して、修飾によってカルボキシル基等のアニオン性基の量又は割合が増加した材料を意味する。また、セルロースには、カルボキシル基に代えて又は加えて、リン酸基又は硫酸基等の他のアニオン性基を導入することが可能である。これらの基の含有量は、本明細書においてカルボン酸について開示されているのと同様の範囲であってよい。
【0104】
セルロースは、酸化されていてもよい。セルロースの酸化では、セルロースの一級水酸基を複素環ニトロキシル化合物、例えばN-オキシル媒介触媒酸化、例えば一般的に「TEMPO」と呼ばれる2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシフリーラジカルによって触媒的に酸化してもよい。セルロース系β-D-グルコピラノース単位の一次水酸基(C6-水酸基)は、選択的にカルボキシル基へ酸化される。また、一次水酸基からアルデヒド基が生成することもある。酸化度が低いと効率的に十分なフィブリル化ができず、酸化度が高いと機械的破壊処理後にセルロースの劣化を与えるという知見について、セルロースは、酸化セルロース中のカルボン酸含量が0. 5~2.0mmol COOH/gパルプ、0.6~1.4mmol COOH/gパルプ、又は0.8~1.2mmol COOH/gパルプ、好ましくは1.0~1.2mmol COOH/gパルプの範囲で、電量滴定により決定する。このようにして得られた酸化セルロースの繊維を水中で崩壊させると、例えば幅3~5nmの個体化したセルロース繊維の安定な透明分散液が得られる。酸化パルプを出発媒体として、0.8%(w/w)の濃度で測定したとき、ブルックフィールド粘度が10000mPa・s以上、例えば10000~30000mPa・sの範囲であるナノフィブリルセルロースを得ることが可能である。
【0105】
本開示において「TEMPO」触媒が言及される場合はいつでも、「TEMPO」が関与する全ての措置及び操作は、TEMPOの任意の誘導体又はセルロースのC6炭素の水酸基の酸化を選択的に触媒することができる任意の複素環ニトロキシルラジカルに等しく、類似して当てはまることが明らかである。
【0106】
本明細書に開示されたナノフィブリルセルロースの修飾は、本明細書に記載された他のフィブリルセルロースグレードに適用することも可能である。例えば、高度精製セルロース又はミクロフィブリルセルロースも、同様に化学的又は酵素的に修飾することができる。しかしながら、例えば材料の最終的なフィブリル化度には違いがある。
【0107】
一例では、そのような化学的に修飾されたナノフィブリルセルロースは、水に分散した場合、20℃±1℃、0.8%(w/w)の濃度、10rpmで測定したとき、10000mPa・s以上のブルックフィールド粘度を与える。一例では、そのような化学的に修飾されたナノフィブリルセルロースは、水に分散した場合、20℃±1℃、0.8%(w/w)の濃度、10rpmで測定したとき、15000mPa・s以上のブルックフィールド粘度を与える。一例では、そのような化学的に修飾されたナノフィブリルセルロースは、水中に分散した場合、20℃±1℃で0.8%(w/w)の濃度、10rpmで測定したとき、18000mPa・s以上のブルックフィールド粘度を与える。使用されるアニオン性ナノフィブリルセルロースの例は、フィブリル化の程度に応じて、13000~15000mPa・sの範囲又は18000~20000mPa・sの範囲、又は最大25000mPa・sのブルックフィールド粘度を有する。
【0108】
一例では、ナノフィブリルセルロースは、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースである。それは、低濃度で高い粘度を提供し、例えば、20℃±1℃、0.8%(w/w)の濃度、10rpmで測定したとき、20000mPa・s以上、さらには25000mPa・s以上のブルックフィールド粘度を与える。一例では、TEMPO酸化ナノフィブリルセルロースは、20℃±1℃、0.8%(w/w)の濃度、10rpmで測定したとき、20000~30000mPa・sの範囲、例えば25000~30000mPa・sの範囲のブルックフィールド粘度を与える。
【0109】
一例では、ナノフィブリルセルロースは、化学的に未修飾のナノフィブリルセルロースを含んでいる。一例では、そのような化学的に未修飾のナノフィブリルセルロースは、水中に分散した場合、20℃±1℃で、0.8%(w/w)の濃度、10rpmで測定したとき、2000mPa・s以上、又は3000mPa・s以上のブルックフィールド粘度を与える。
【0110】
ナノフィブリルセルロース分散液には、製造工程の強化又は製品の特性の改善及び調整のための助剤を含有させてもよい。このような助剤は、分散液の液相に可溶であってもよいし、エマルジョンを形成してもよいし、固体であってもよい。助剤は、ナノフィブリルセルロース分散液の製造時に既に原料に添加されていてもよいし、形成されたナノフィブリルセルロース分散液又はゲルに添加されていてもよい。また、助剤は、例えば、含浸、噴霧、浸漬、浸漬等の方法により、最終製品に添加してもよい。助剤は、通常、ナノフィブリルセルロースと共有結合していないので、ナノセルロースマトリックスから放出可能であってもよい。NFCをマトリックスとして使用する場合、このような薬剤の制御された及び/又は持続的な放出が得られる場合がある。助剤の例としては、治療(薬学)剤、及び製品の特性又は活性剤の特性に影響を与える他の薬剤、例えば緩衝剤、界面活性剤、可塑剤、乳化剤等が挙げられる。一例では、分散液は1つ以上の塩を含み、これは最終製品の特性を高めるため、又は製造工程で製品からの水分除去を容易にするために添加され得る。塩の例としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム等の塩化物塩が挙げられる。塩は、分散液中の乾燥物に対して0.01~1.0%(w/w)の量で含まれてもよい。また、最終製品は、塩化ナトリウムの溶液、例えば、約0.9%の塩化ナトリウムの水溶液に漬けても又は浸漬してもよい。最終製品中の所望の塩含有量は、湿潤製品の体積の0.5~1%の範囲、例えば約0.9%であってよい。塩、緩衝剤等の薬剤は、生理的条件を得るために提供されてもよい。
【0111】
ナノフィブリルセルロースの非共有結合の架橋を得るために多価カチオンを含有させてもよい。一例は、ナノフィブリルセルロース、特にアニオン変性ナノフィブリルセルロースと、多価金属カチオン、例えばカルシウム、バリウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、金、白金及びチタンのカチオンから選択される多価カチオンを含むナノフィブリルセルロース製品を提供し、ここでナノフィブリルセルロースは、多価カチオンによって架橋される。特にバリウム及びカルシウムは、生物医学的応用に有用であり、特にバリウムは、標識に使用されてもよく、注入されたヒドロゲルの検出に使用できる。多価カチオンの量は、ヒドロゲルの乾燥内容から計算して、例えば0.1~3%(w/w)の範囲、0.1~2%(w/w)の範囲であってよい。
【0112】
一例では、このようなヒドロゲルを調製する方法が提供され、この方法は、パルプを提供すること、ナノフィブリルセルロースが得られるまでパルプを崩壊させること、ナノフィブリルセルロースをヒドロゲルに形成することを含む。
【0113】
ナノフィブリルセルロースは、本明細書に記載されるような所望の特性を有するゲルを形成するように、所望のフィブリル化度にフィブリル化し、所望の水分量に調整し、又はその他の方法で修飾されてもよい。一例では、ヒドロゲル中のナノフィブリルセルロースは、アニオン的に修飾されたナノフィブリルセルロースである。
【0114】
医療用又は科学用のヒドロゲルとして使用するヒドロゲルは、均質であることが必要である。したがって、ヒドロゲルを調製する方法は、ナノフィブリルセルロースを含むヒドロゲルを、好ましくは本明細書に記載のもの等の均質化装置で均質化することを含むことができる。この好ましくは非フィブリル化均質化ステップにより、ゲルから不連続の領域を除去することが可能である。用途に対してより良い特性を有する均質なゲルが得られる。ヒドロゲルは、例えば熱及び/又は放射線を用いて、及び/又は抗菌剤などの滅菌剤を添加することによって、さらに滅菌されてもよい。
【0115】
本願は、移植可能な細胞組成物を調製するためのナノフィブリルセルロースの使用を提供する。ナノフィブリルセルロースは、本明細書に開示される任意の適切なナノフィブリルセルロースであってよく、調製された移植可能な細胞組成物は、本明細書に開示される任意の移植可能な細胞組成物であってよい。
【0116】
<組成物の使用>
本明細書に開示されるナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に真核細胞を含む組成物は、ヒト又は動物の対象等(例えば人)の対象に、組成物を送達、移植、注入、インプラント及び/又は他の方法で投与することを含む様々な方法で使用してよい。対象は、患者、特に、組成物に含まれる細胞を含む治療を必要とする患者であってもよい。上記方法は、ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に真核細胞を含む組成物を、注射可能な形態、インプラント可能な形態又は移植可能な形態等の好適な形態で提供することを含む。
【0117】
本願は、対象に細胞を投与することを含む治療方法に使用するための移植可能な組成物を提供する。本願は、細胞移植に使用するための移植可能な組成物を提供する。
【0118】
上記使用は、細胞を用いた治療(例えば幹細胞治療)等の治療方法において実施してもよい。上記方法は、本明細書に開示されるように、細胞移植法であってもよい。
【0119】
一例では、幹細胞療法を必要とする対象を治療する方法が提供され、上記方法は以下を含む:
幹細胞療法を必要とする対象を認識すること、
本明細書に開示されるナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に真核幹細胞を含む組成物を提供すること、
例えば注射又はインプラントによって、上記組成物を上記対象に投与又は送達すること。
【0120】
一例では、細胞移植を必要とする対象を治療する方法が提供され、上記方法は以下を含む:
細胞移植を必要とする対象を認識すること、
本明細書に開示されるナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に真核細胞を含む組成物を提供すること、及び
例えば注射又はインプラントによって、上記組成物を上記対象に移植すること。
【0121】
幹細胞が使用され得る治療方法は様々であり、例えば、組織再生、循環器疾患治療、パーキンソン病及びアルツハイマー病治療等の脳疾患治療、I型糖尿病等の細胞欠損治療、白血病、病細胞貧血、及びその他の免疫不全問題の治療のための造血幹細胞提供等の血液疾患治療等が挙げられる。
【実施例0122】
幹細胞スフェロイドに使用したNFCヒドロゲルにより、望ましくない凝集が抑制され、細胞移植の際の注入せん断力から細胞が隔離された。ヒト胚性幹細胞由来スフェロイド(hECM)をNFCヒドロゲル内で神経ネットワークに分化させることに成功したことが示された。hECMスフェロイドはNFC中でマウス内耳に移植され、移植後3週間は生存していた。
【0123】
以下の実験では、内耳の幹細胞補充療法に適した生化学的幹細胞ニッチの形成が開示される。
【0124】
<イントロダクション>
難聴は、有毛細胞(HC)の損失、及びそれに続く、脳との必須なつながりであるらせん神経節ニューロン(SGN)の損失から生じるのが一般的である。有毛細胞(HC)の損傷に続いて、脊髄神経節ニューロン(SGN)の変性が数週間から数年かけて起こり得る。ヒト及び多くの実験動物では、SGNの損傷は遠位から中心へと進行し、末梢のプロセスが先に変性する。このパターンは、人工内耳(CI)による聴覚回復にとって否定的な意味を持つ。末梢のプロセスがなく、SGN細胞体は電気的に興奮しないと推定されるため、人工内耳の電極の電気的対象は比較的離れた中枢(modiolar)プロセスになる。このような「電極-ニューロンギャップ」は、人工内耳電極の空間選択性を低下させ、有害なチャンネル間相互作用を増大させ、情報伝達を制限する可能性がある。
【0125】
階内(intra-scalar)細胞外マトリックス(ECM)のインプラントを行うと、階(scala)の扁平上皮との機械的足場を一体化させることで幹細胞ニッチを提供することができる。ECMは移植された幹細胞を所定の位置に保持し、細胞間のシグナル伝達を局在化させることができる。幹細胞由来のスフェロイドに使用することで、望ましくない凝集を低減し、アポトーシスを引き起こす可能性のある注入せん断力から細胞を保護することができる。従来、哺乳類由来のコラーゲンは、哺乳類組織に存在する局所環境の手がかりとなるため、一般的に使用されてきた。しかし、コラーゲンは生体内の酵素分解に弱く、長期
的なニッチ形成が困難であった。ナノフィブリルセルロース(NFC)ヒドロゲルは、幹細胞ニッチを形成する可能性を持っている。NFCヒドロゲルは、繊維の大きさ及び機械的特性において、天然の軟組織ECMを模倣している。NFCヒドロゲルは注射可能であるため、ヒト胚性幹細胞由来のスフェロイドを含む細胞を目的の被験者に送達することが可能である。NFCヒドロゲルは、押し出しせん断力が十分大きいため、注入時に粘度が低下し、せん断力を除去しても形状が保持されるため、容易に注入することができる。植物由来の材料であるため、キセノンフリーである。セルロースは、異物反応があったとしても中程度であるため生体適合性があり、幹細胞への応用にも安全で、hESCに対する毒性は知られていない。また、細胞はセルロースの分解に必要なセルラーゼを合成できないため、セルロースの再吸収は遅い。NFCヒドロゲルは局在性を保つことができ、例えばマウスでのインビボ薬物放出のための耐久性を有するキャリアとして機能する。NFCヒドロゲルを用いて、hESC由来のスフェロイドを三次元多細胞体としてマウスの内耳に移植し、神経細胞の分化、神経突起伸長、及びシナプス形成の促進を検討した。
【0126】
<プロトコル>
(hESCからのヒト耳介神経前駆細胞(ONPs)及びSGNの作製)
ヒトのONP及びSGNの発生段階を段階的に再現することで、HESCをSGNの運命に制御して分化させることが容易になる。ニワトリ、タコ、及びネズミの聴覚神経系で発現する拡散性リガンドのヒトアナログで処理し、hESC(H1、H7、及びH9;WiCell、WI、USA)からONP及びSGNを誘導するプロトコルが開発された。
【0127】
(hESCからのヒトONP及びSGNの作製)
Matsuoka AJ, Morrissey ZD, Zhang C, Homma K, Belmadani A, Miller CA, et al.の「ヒト胚性幹細胞のプラコード由来螺旋神経節様感覚神経への分化誘導」及びStem Cells
Transl Med. 2017 Mar;6(3):923-36に記載のプロトコルを用いてヒトESC由来のON
Pを作製し、EZSPHERE(商標)マイクロウェルに播種して、播種密度及び培養時間により直径を制御したスフェロイド凝集体を作製した。
【0128】
簡単に説明すると、上記方法は以下の通りである。
1.hESC由来の耳介神経前駆細胞(ONP)を、r-Laminin-511(iMatrix-511TM、Nacalai)でコーティングした従来の単層6ウェル組織培養プレートに播種し、弊社既知のONP維持培地を加えて2日間培養する。
2.ONPを単回懸濁し、微細加工三次元細胞培養装置(EZSPHERETM、Nacalai)に2×106細胞/mlの播種密度でプレートする。
3.マイクロウェルの中で細胞を合体させ、凝集塊を形成させる。3日間培養後、スフェロイドはGrowDexに移し替え可能となる。
4.移植前に、GrowDexをPBS(-/-)で希釈し、作業濃度を1%(v/v)とした。
5.96ウェルプレートに1%ネイティブグレードGrowDex又は1%アニオン性グレードGrowDex()を150μl添加した。
5a.GrowDexは、低粘着性のP200マイクロピペットチップを使用してウェルに移された。
5b.GrowDexを取り込み、気泡が発生しないようにゆっくりと分注した。取り込みが困難な場合は、ミニ遠心分離機でGrowDexをスピンダウンさせた。
6.スフェロイドを観察するために光学顕微鏡を使用し、広口P1000マイクロピペットチップを使用して培養物から1~2個のスフェロイドを取り出し、GrowDex上に分注し、ヒドロゲルに穏やかに混合した。
7.その後、100μlのONP維持培地をGrowDex上に注意深く置いた。
8.プレートは37℃、5% CO2で培養し、3日ごとにウェルの上部から培地を取り除き、2分の1の培地交換を行った(ゲルを乱さないように注意する)。その後、適切な量の培地及び成長因子をゲルの上に加えた。
【0129】
<聴覚障害及び聴覚評価>
P28-30齢のDTRマウスにジフテリア毒素(カタログ番号:D0564、Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)を50ng/g i.m.注射して難聴にさせた。注射直前と注射1週間後にトーンバースト聴性脳幹反応(ABR)を測定し、有効性を確認した。ABRは、75mg/kgのケタミン及び8mg/kgのキシラジンを用いてマウスを鎮静化した状態で、IACダブルウォール音響ブース内で収集した(i.p.)。刺激制御及び平均化は、テストポイントプラットフォームを使用して作成されたカスタムソフトウェアを使用して行った。トーンバーストは12ビット分解能で250,000サンプル/秒で生成され、刺激間間隔51msで提示された。正弦波は、1msの直線的な上昇ランプ、3msの平坦なプラトー、1msの直線的な下降ランプでウィンドウ処理された。ユニティゲインのアレシスRA150アンプでインピーダンス変換し、特注の鏡筒に取り付けたベイヤーDT-7700ドライバーでトランスダクションした後、鏡筒を外耳道の入口に設置する。皮下針電極は、ブレグマ(+入力)、乳様突起(-入力)、腹部(無関心グラウンド)上に挿入された。誘発電位はWPI ISO-80差動増幅器で増幅(10,000倍)し、Frequency Devices 901Pフィルターセット(8ポールButterworthハイパス、3dBカットオフ周波数300Hz;8ポールBesselローパス、3dB周波数:3kHz)でフィルタリングした。時間領域の平均化は、6dB以上の応答対雑音比が達成されるように行われるか、又は1024の平均が収集され、波形は25万サンプル/秒、12ビット分解能で保存された。アーチファクト除去により、マウスで比較的大きい心筋活動(すなわち、筋電図)による汚染を省略することができた。DTRマウス及び野生型C57/BL6J(Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME, U.S.A.)のABRの例示的な図を
図2に示す。
【0130】
<hESC由来聴覚神経細胞の内耳へのインビボトランスプラントの試み>
三次元培養装置で5日間培養した後、hESC由来のONPスフェロイドを96ウェルプレートに移し、1.5% GrowDex(商標)又は2% GrowDex-T(商標)に懸濁させた。ヒトESC由来ONPスフェロイドは、広口P1000マイクロピペットチップを用いて移し、泡が立たないようにGrowDex(商標)又はGrowDex-T(商標)に穏やかに混合した。NFCヒドロゲルに再懸濁した後、ヒドロゲル及びスフェロイドを35mm細胞培養ディッシュに再び移した。35mmディッシュは壁が低いので、細胞移植用マイクロピペットを適切な低い角度でディッシュに接近させることができる。
【0131】
DTRマウスは難聴の1週間後に無菌的手法で移植された。手術前にメロキシカム(2mg/kg)を投与し、同時麻酔で時々観察される呼吸困難の潜在的な合併症を最小限に抑えた。フォローアップ投与(1mg/kg)が1日1回3日間とPRNに付与された。
麻酔はイソフルランを3~4%で導入し、導入後1~2%に減圧し、O2ガスを0.3l/分で、N2Oガスを0.25l/分で供給した。動物の頭部は、ノーズコーンを介して麻酔ガスを供給する特注のヘッドホルダーに固定された。温熱療法は循環水ポンプで行い、不感蒸泄物の損失は0.1ml/10gで置換した。麻酔の手術面に到達したら、耳介後切開を行い、縫合糸タイダウンを用いて皮膚と筋肉を吻側と尾側に反映させた。耳介後の骨から出る顔面神経を可視化することで、0.5mmのダイヤモンドバリで丸窓の上にある側頭骨を薄くする目印となる(その点のすぐ後方で、剣状動脈を邪魔しないように注意しながら)。鼓室階(scala tympani)にアクセスするため、33Gの曲がった針で丸
窓の膜を切除した。マイクロピペットホルダー及びマイクロマニピュレーターは、マイクロピペットが円窓膜の縁に適切に接触するように調整された。このように、マニピュレーターを回転させ、ピペットの先端をエレベータースタンドに取り付けた細胞培養皿に移動させることで、ピペットの静水圧を保ちながら、不要な調整を最小限に抑えることができる。このようにして、細胞培養ディッシュを注入用マイクロピペットの高さまで上げ、圧力ベース(Xenoworks Digital Injector, Sutter Inc. Novato, CA, USA)又は体積移入ベース(Digital Microsyringe Pump, WPI, Inc., Sarasota, FL. USA)器具のいずれかにより、マイクロピペットによりスフェロイドを保持した。捕獲後、マイクロピペットをトランスプラント位置に戻し、スフェロイド又はオルガネラ(organelle)を蝸牛の基部回転に放出した。丸窓の欠損は筋膜で覆われ、ベットボンド接着剤で固定された。筋肉及び皮膚は層状に閉じられ、動物は温熱療法の助けを借りて回復することができた。術後は、痛みの予防的管理のためにブプレノルフィン-SR-Labを投与した。静かで視覚的に隔離されたケージでの回復は、一般的に刺激を減らし、ストレス軽減の助けとなる。術後合併症(手術創の感染など)が発生した場合は、抗生物質の外用投与を行い、獣医師と相談しながら疼痛管理を行った。
【0132】
<組織固定及び免疫組織化学>
移植後の生存期間終了後、各動物をCO2チャンバー内で安楽死させ、直ちに心内灌流を行った。胸腔を開き、右心房を切り、左心室の先端を25Gの針で刺し、灌流を行った。生理食塩水10mlを灌流した後、4%パラホルムアルデヒド10mlを灌流した。蝸牛は側頭骨から切り離し、5mlの16%EDTAに入れ、4℃で5日間連続回転させ、毎日溶液を交換した。組織は、ショ糖勾配を増加させながら(10%から30%)、3日間かけて凍結保護した。サンプルはOptimal Cutting Temperature Compound (F)に包埋し、-80℃で凍結した。次に組織をLeica CM3050 S cryostat(Leica Inc., Nussloch, Germany)で10μmのスライスに切り出し、ゼラチンでコートしたスライドにマウントした。染色前に、スライドは-80℃で保存された。抗原賦活は、0.001M EDTA(pH=9)中で120℃、30分間スライドを蒸し焼きすることにより行った。蒸煮後、サンプルをPBSで3回洗浄し、PBST中の10%正常ヤギ血清及び5%ウシ血清アルブミンの溶液で1時間ブロッキングした。サンプルを、マウス抗ヒト核抗体(1:100、STEM101、Takara Bio, Tokyo, Japan)と共に4℃で一晩インキュベートした。翌日、スライドをPBST中の1%正常ヤギ血清で洗浄してから、Alexa Fluor 405結合抗マウス二次抗体(1:500、Invitrogen、Waltham、MA、USA)で1時間(室温で、光から保護)インキュベーションした。スライドをPBST中の1%正常ヤギ血清で洗浄し、TOTO-3ヨウ化物核カウンターステイン(1:10,000、Thermo Fisher, Waltham, MA, U.S.A.)で15分間インキュベートした。サンプルは最後にPBSで洗浄し、次にProlong Gold Antifade Mountant(Thermo Fisher, Waltham, MA,
U.S.A.)で処理した。レーザー走査型共焦点画像は、Leica TCS SP5 顕微鏡(Leica, Inc.、Nussloch, Germany)を用いて行った。
【0133】
<結果>
未分化なhPSCからANへの段階的な神経細胞分化プロトコルが提供される。このプロトコルを用いて、2% GrowDex(商標)で作製したhESC由来のONPスフェロイドを
図1に示す。また、1.5% GrowDex(商標)で作製したhESC由来のONPスフェロイドを
図2に示す。2% GrowDex-T(商標)で培養したヒトESC由来ONPスフェロイドは、AN-タンパク質マーカー(MAP2及びβ-IIIチューブリン)を発現していることが免疫細胞化学的に証明されている(
図3A)。hESC由来のONPは、さらに成熟したニューロンへと分化させることができる。
図3Bでは、神経分化培地で14日間培養したhESC由来ONPが、互いに神経突起を伸ばし、神経回路網を形成していることが示されている。hESC由来ONPスフェロイドをインビボで同定するために、Evrogen TurboRFP ORF及びTurboGFP-2A-Blast(GE Healthcare, Chicago, IL, U.S.A.)を含むpLOCレンチウイルスベクターを用いて、核にGFP、細胞質にRFPを発現するhESC由来ONP(
図3C)を作製した。DTRマウス内耳に1.5% GrowDex(商標)を用いて
移植したヒトESC由来のONPスフェロイドは、抗ヒト核抗体STEM101(ST101)で識別することが可能である。4個のhESC由来ONPスフェロイドを移植して3週間後、内耳の3つの室のうちの1つである中央階(scala media)(SM)にSTEM101陽性細胞が確認されることに注目されたい。
本発明は下記の態様を含む。
<1> 真核細胞が、細胞凝集体、好ましくは細胞スフェロイド(cell spheroid)である細胞凝集体、を形成可能な条件で、前記真核細胞を培養することと、
前記細胞凝集体をナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に与えるか、及び/又は前記細胞凝集体をナノフィブリルセルロースヒドロゲルと組み合わせることにより、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルマトリックス中に真核細胞を含む移植可能な細胞組成物を得ることと、
を含む、移植可能な細胞製剤を調製する方法。
<2> 前記細胞凝集体を前記ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中に与える、及び/又は、前記細胞凝集体をナノフィブリルセルロースヒドロゲルと組み合わせる前に、ろ過、遠心分離及び/又は他のタイプの細胞由来材料を含まないか、及び/又は動物由来物フリー、ゼノフリー及び/又はフィーダーフリーである培地で前記細胞凝集体を洗浄すること等により、細胞培養培地を除去すること
を含む、<1>に記載の方法。
<3> 前記真核細胞を、他のタイプの細胞由来材料を含まないか、及び/又は動物由来物フリー、ゼノフリー及び/又はフィーダーフリーである細胞培養培地中で培養することを含む、<1>又は<2>に記載の方法。
<4> 前記真核細胞を、ナノフィブリルセルロースヒドロゲル中で、好ましくは濃度が0.8~3%(w/w)又は0.8~2%(例えば0.8~1.5%(w/w))の範囲又は約1%(w/w)であるナノフィブリルセルロースヒドロゲル中で、培養することを含む、<1>~<3>のいずれか1項に記載の方法。
<5> 前記ナノフィブリルセルロースが、フィブリルの平均径が1~200nmである、<1>~<4>のいずれか1項に記載の方法。
<6> 前記ナノフィブリルセルロースを水に分散した場合、前記ナノフィブリルセルロースは、22℃±1℃の水性媒体中で0.5%(w/w)の濃度(consistency)で回転式レオメータにより測定したとき、1000~100000Pa・sの範囲(例えば5000~50000Pa・sの範囲)のゼロせん断粘度、及び1~50Paの範囲(例えば3~15Paの範囲)の降伏応力を与える、<1>~<5>のいずれか1項に記載の方法。
<7> 前記ナノフィブリルセルロースを水に分散した場合、前記ナノフィブリルセルロースは、25℃、周波数10rad/s、歪み2%で、0.001~100Paの範囲でせん断応力を徐々に増加させながら応力制御回転型レオメータにより測定したとき、350Pa以上、好ましくは350~5000Paの範囲、より好ましくは350~1000Paの範囲の貯蔵弾性率、及び25Pa以上、好ましくは25~300Paの範囲、より好ましくは25~75Paの範囲の降伏応力を与える、<1>~<6>のいずれか1項に記載の方法。
<8> 前記細胞が幹細胞である、<1>~<7>のいずれか1項に記載の方法。
<9> 前記細胞凝集体、好ましくは細胞スフェロイド、の平均径が80~700μmの範囲、例えば804~300μmの範囲、例えば80~250μmの範囲、である、<1>~<8>のいずれか1項に記載の方法。
<10> ナノフィブリルセルロースヒドロゲルマトリックス中に真核細胞を含む移植可能な細胞組成物であって、
前記組成物は、好ましくは、他のタイプの細胞由来材料を含まないか若しくは微量でのみ含む、前記移植可能な細胞組成物。
<11> 前記細胞が幹細胞である、<10>に記載の移植可能な細胞組成物。
<12> 前記幹細胞が幹細胞凝集体であり、好ましくは幹細胞スフェロイドである、<11>に記載の移植可能な細胞組成物。
<13> 前記細胞凝集体の平均直径が80~700μmの範囲(例えば80~300μmの範囲、例えば80~250μmの範囲)である、<12>に記載の移植可能な細胞組成物。
<14> 前記幹細胞が、全能性(omnipotent)、多能性(pluripotent)、多分化性(multipotent)、少能性(oligopotent)又は単能性(unipotent)の幹細胞である、<11>~<13>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成物。
<15> 前記幹細胞が、間葉系幹細胞(MSC)、多分化性成人前駆細胞(MAPC(登録商標))、人工多能性幹細胞(iPS)、及び造血系幹細胞から選択される、<11>~<14>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成物。
<16> 前記幹細胞が、胚を破壊することなく得られた、非胚性細胞及び胚性細胞等のヒト幹細胞である、<11>~<15>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成物。<17> 前記細胞が分化した細胞である、<10>に記載の移植可能な細胞組成物。
<18> 前記ヒドロゲル中の前記ナノフィブリルセルロースの濃度が1~3%(w/w)の範囲、例えば1~2.5%(w/w)の範囲又は1.3~2.2%(w/w)の範囲である、<10>~<17>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成物。
<19> 前記ナノフィブリルセルロースが化学修飾されていない(chemically unmodified)ナノフィブリルセルロースを含む、<10>~<18>のいずれか1項に記載の移
植可能な細胞組成物。
<20> 前記ナノフィブリルセルロースが、アニオン性修飾ナノフィブリルセルロース及び/又は酸化ナノフィブリルセルロース(例えばTEMPO酸化ナノフィブリルセルロース)から選択される化学修飾ナノフィブリルセルロースを含む、<10>~<19>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成物。
<21> 前記ナノフィブリルセルロースにおけるフィブリルの平均直径が1~200nmの範囲である、<10>~<20>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成物。
<22> 前記ナノフィブリルセルロースを水に分散した場合、前記ナノフィブリルセルロースは、22℃±1℃の水性媒体中で0.5%(w/w)の濃度(consistency)で回転式レオメータにより測定したとき、1000~100000Pa・sの範囲(例えば5000~50000Pa・sの範囲)のゼロせん断粘度、及び1~50Paの範囲(例えば3~15Paの範囲)の降伏応力を与える、<10>~<21>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成物。
<23> ナノフィブリルセルロースを水に分散した場合、前記ナノフィブリルセルロースは、25℃、周波数10rad/s、歪み2%で、0.001~100Paの範囲でせん断応力を徐々に増加させながら応力制御回転型レオメータにより測定したとき、350Pa以上、好ましくは350~5000Paの範囲、より好ましくは350~1000Paの範囲の貯蔵弾性率、及び25Pa、好ましくは25~300Paの範囲、より好ましくは25~75Paの範囲の降伏応力を与える、<10>~<22>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成物。
<24> シリンジ(好ましくは、対象に前記組成物を移植するための注入針を備える)又はマイクロピペットに充填されている、<10>~<23>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成物。
<25> (任意選択的に1以上の補強部を備える)インプラントの形状である、<10>~<24>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成物。
<26> 前記組成物が、注入可能な(injectable)組成物又はインプラント可能な(implantable)組成物である、<10>~<25>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成
物。
<27> <10>~<26>のいずれか1項に記載の、ナノフィブリルセルロースヒドロゲルマトリックス中に真核細胞を含む移植可能な細胞組成物を含むインプラント。
<28> 対象に細胞を投与することを含む治療方法における、好ましくは細胞移植における、使用のための、<10>~<26>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成物、又は<27>に記載のインプラント。
<29> <10>~<26>のいずれか1項に記載の移植可能な細胞組成物、又は<27>に記載のインプラントを調製するためのナノフィブリルセルロースの使用。