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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005985
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】電縫鋼管製造用ロール装置
(51)【国際特許分類】
   B21C 37/08 20060101AFI20240110BHJP
   B21D 5/12 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B21C37/08 A
B21D5/12 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106503
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】522502680
【氏名又は名称】日鉄鋼管株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 大輔
【テーマコード(参考)】
4E028
4E063
【Fターム(参考)】
4E028CA02
4E028CA13
4E028CA20
4E063AA01
4E063BB06
4E063MA02
(57)【要約】
【課題】孔型ロールの位置調整が容易で、高品質の電縫鋼管を製造可能な電縫鋼管製造用ロール装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る電縫鋼管製造用ロール装置100は、管状に成形された板材からなる素管P’の両エッジを突き合わせて溶接することで電縫鋼管Pを製造するための装置である。電縫鋼管製造用ロール装置100は、素管の外周を囲むように、素管に対して素管の長手方向に直交する水平方向一方側に配置され、互いに連結された上下一対の孔型ロール11、12から構成される第1孔型ロール対1と、素管の外周を囲むように、前記水平方向他方側に配置され、互いに連結された上下一対の孔型ロール21、22から構成される第2孔型ロール対2と、第1孔型ロール対と第2孔型ロール対との水平方向の離隔距離を調整可能な拡縮手段3と、第1孔型ロール対と第2孔型ロール対との上下方向の離隔距離を調整可能な昇降手段4と、を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状に成形された板材からなる素管の両エッジを突き合わせて溶接することで電縫鋼管を製造するための電縫鋼管製造用ロール装置であって、
前記素管の外周を囲むように、前記素管に対して前記素管の長手方向に直交する水平方向一方側に配置され、互いに連結された上下一対の孔型ロールから構成される第1孔型ロール対と、
前記素管の外周を囲むように、前記素管に対して前記素管の長手方向に直交する水平方向他方側に配置され、互いに連結された上下一対の孔型ロールから構成される第2孔型ロール対と、
前記第1孔型ロール対と前記第2孔型ロール対との前記水平方向の離隔距離を調整可能な拡縮手段と、
前記第1孔型ロール対と前記第2孔型ロール対との上下方向の離隔距離を調整可能な昇降手段と、を備える、
ことを特徴とする電縫鋼管製造用ロール装置。
【請求項2】
前記第1孔型ロール対及び前記第2孔型ロール対をそれぞれ構成する各孔型ロールは、その円弧状の孔型プロファイルの中点を通る当該孔型プロファイルの垂線に略直交する回転中心を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電縫鋼管製造用ロール装置。
【請求項3】
前記第1孔型ロール対及び前記第2孔型ロール対をそれぞれ構成する上側の孔型ロールは、その円弧状の孔型プロファイルの中心角が40°以上50°以下である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電縫鋼管製造用ロール装置。
【請求項4】
前記第1孔型ロール対及び前記第2孔型ロール対をそれぞれ構成する上側の孔型ロールは、上側ハウジングに取り付けられ、前記第1孔型ロール対及び前記第2孔型ロール対をそれぞれ構成する下側の孔型ロールは、下側ハウジングに取り付けられ、前記上側ハウジングと前記下側ハウジングとが接続されることで、前記第1孔型ロール対及び前記第2孔型ロール対をそれぞれ構成する前記上側の孔型ロールと前記下側の孔型ロールとが連結されており、
前記上側の孔型ロールは、前記上側ハウジングに対して脱着可能に取り付けられた第1スペーサ及び第2スペーサを介して、前記上側ハウジングに取り付けられており、
前記第1スペーサは、その厚みに応じて、前記上側の孔型ロールの回転中心に直交する方向に沿った前記上側の孔型ロールの位置が調整されるように、前記上側ハウジングに取り付けられ、
前記第2スペーサは、その厚みに応じて、前記上側の孔型ロールの回転中心の方向に沿った前記上側の孔型ロールの位置が調整されるように、前記上側ハウジングに取り付けられる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電縫鋼管製造用ロール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状に成形された板材からなる素管の両エッジを突き合わせて溶接することで電縫鋼管を製造するための電縫鋼管製造用ロール装置に関する。特に、本発明は、電縫鋼管製造用ロール装置が備える孔型ロールの位置調整が容易で、高品質の電縫鋼管を製造可能な電縫鋼管製造用ロール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電縫鋼管(電気抵抗溶接鋼管、ERW鋼管ともいう)は、公知のように、造管ラインにおいて、コイルから巻き出された板材(鋼板)をロールで管状に成形し、管状に成形された板材(本明細書では、管状に成形された板材を「素管」と称する)の両エッジ(管状に成形された板材の長手方向に直交する方向の両エッジ、すなわち、素管の周方向の両エッジ)を突き合わせて溶接(電気抵抗溶接)することで製造される。この電気抵抗溶接は、高周波電力が印加されたインダクションコイルを用いて、素管の両エッジに渦電流を生成し、この渦電流によって加熱(誘導加熱)された素管の両エッジを孔型ロール(スクイズロールとも称する)で圧接する方法である。孔型ロールは、素管の外径に応じた曲率を有する円弧状の凹溝(孔型)が外面に形成されたロールであり、孔型ロールの孔型に素管の外面が接触することで、素管の両エッジが圧接される。
【0003】
電縫鋼管の溶接品質は、溶接時の素管の断面形状と、溶接時の素管のV角(孔型ロールの直近において平面視したときに素管の両エッジが成す角度であり、「溶接部収束角度」とも称する)とに大きく依存する。
溶接時の素管の断面形状が変動すると、素管の内外面における渦電流のバランスが崩れたり、溶融金属の排出が不安定(酸化物の巻き込みによる介在物起因の割れを誘発)になったりして、溶接品質が劣化する。また、適切なV角で溶接が行われないと、冷接(溶接部が剥がれやすい状態)や酸化物の巻き込みが生じて、溶接品質が劣化する。具体的には、V角が小さすぎると、低入熱による冷接と高入熱による酸化物の巻き込みの両方を発生させずに入熱制御可能となる範囲が狭くなる。溶接条件の悪さや、溶接条件の変動によって生じる冷接や酸化物の巻き込み等のことを総称して、本明細書では、「溶接欠陥」と称する。
【0004】
従来の電縫鋼管製造用ロール装置としては、例えば、特許文献1、2に記載の装置が提案されている。
特許文献1に記載の装置は、素管の外周を囲むように、素管に対して素管の長手方向に直交する水平方向一方側及び他方側に(素管を挟んで左右に)それぞれ配置された一対の孔型ロール(スクイズロール11、12)を備える構成である。特許文献1に記載の装置のように、2つの孔型ロールを備える装置を、本明細書では、適宜「2方ロール装置」という。
特許文献2に記載の装置は、素管に対して素管の長手方向に直交する水平方向一方側及び他方側に(素管を挟んで左右に)それぞれ配置された上下一対の孔型ロール(サイドロール2、3、一対のトップロール4)を備える構成である。特許文献2に記載の装置のように、4つの孔型ロールを備える装置を、本明細書では、適宜「4方ロール装置」という。
【0005】
特許文献1に記載のような2方ロール装置では、1つの孔型ロールで、素管の外周の約半分(中心角が約180°の外周部分)を保持するため、素管が孔型ロールに到達する前の早い段階で、素管の両エッジの位置が孔型ロールに拘束される。このため、V角が小さくなり易く、溶接欠陥が生じ易い。
これに対して、特許文献2に記載のような4方ロール装置では、素管の外面が上側の孔型ロール(特許文献2においては一対のトップロール4)に接触するまで、素管の両エッジの位置は孔型ロールによって殆ど拘束されない。このため、2方ロール装置に比べて、V角を大きくすることができ、V角に起因する溶接品質を良好に安定化させ易いという利点がある。
【0006】
ここで、孔型ロールは、素管の外径に応じた曲率を有する円弧状の溝が外面に形成されているため、孔型ロールの回転中心の方向の位置によって、孔型ロールの外径が異なる。このため、孔型ロールの回転中心の方向の位置によって、孔型ロールの周速度(外周速度)が異なることになる。したがって、素管と孔型ロールとの接触点の位置(素管の周方向の位置)に応じて、孔型ロールの周速度に差が生じ、素管の長手方向の搬送速度と孔型ロールの周速度との差が大きくなる接触点において、素管の外面に疵(ロール疵)が発生するおそれがある。
【0007】
2方ロール装置では、前述のように、1つの孔型ロールで、素管の外周の約半分(中心角が約180°の外周部分)を保持する必要があるため、素管と孔型ロールとの接触点の位置に応じて孔型ロールの周速度の差が大きくなり、ロール疵が発生するおそれが高くなる。特に、素管の外径が大きくなるほど、素管と孔型ロールとの接触点の位置に応じた孔型ロールの周速度の差が大きくなるため、ロール疵が発生するおそれが顕著になる。
これに対し、4方ロール装置では、1つの孔型ロールが保持する素管の外周部分の中心角が、2方ロール装置に比べて小さくなるため、素管と孔型ロールとの接触点の位置に応じた孔型ロールの周速度の差が小さくなり、2方ロール装置に比べてロール疵が発生するおそれが低下する。
【0008】
また、2方ロール装置では、2つの孔型ロールの位置調整が容易であり、2つの孔型ロールの位置を所望する素管の断面形状に応じた適切な位置に調整することで、溶接時の素管の断面形状が安定化し、ひいては、素管の断面形状に起因する溶接品質を良好に安定化させ易い。
これに対し、4方ロール装置では、4つの孔型ロールの位置が個別に調整可能になっているのが一般的であるため、2方ロール装置に比べて、4つの孔型ロールの位置を所望する素管の断面形状に応じた適切な位置に調整することが難しい。このため、溶接時の素管の断面形状が所望する断面形状と異なるものになる結果、素管の断面形状に起因する溶接品質が安定しないおそれがある。また、素管の両エッジの突き合わせた面(溶接面)にラップと称される段差(高低差)が生じるおそれがある。
【0009】
以上に述べたように、2方ロール装置は、孔型ロールの位置調整が容易であるという利点を有するものの、V角が小さくなり易いため溶接欠陥が生じ易かったり、素管と孔型ロールとの接触点の位置に応じて孔型ロールの周速度の差が大きくなり、ロール疵が発生するおそれが高くなるという欠点を有する。
一方、4方ロール装置は、V角に起因する溶接品質を良好に安定化させ易かったり、ロール疵が発生するおそれが低下するという利点を有するものの、4つの孔型ロールの位置を所望する素管の断面形状に応じた適切な位置に調整することが難しく、素管の断面形状に起因する溶接品質が安定しないおそれがあったり、溶接面にラップが生じ易いという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5-69037号公報
【特許文献2】特許第5965096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、電縫鋼管製造用ロール装置が備える孔型ロールの位置調整が容易で、高品質の電縫鋼管を製造可能な電縫鋼管製造用ロール装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行った結果、従来の4方ロール装置を改良することで、孔型ロールの位置調整を容易にすることと、高品質の電縫鋼管を製造することの双方を両立可能であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、管状に成形された板材からなる素管の両エッジを突き合わせて溶接することで電縫鋼管を製造するための電縫鋼管製造用ロール装置であって、前記素管の外周を囲むように、前記素管に対して前記素管の長手方向に直交する水平方向一方側に配置され、互いに連結された上下一対の孔型ロールから構成される第1孔型ロール対と、前記素管の外周を囲むように、前記素管に対して前記素管の長手方向に直交する水平方向他方側に配置され、互いに連結された上下一対の孔型ロールから構成される第2孔型ロール対と、前記第1孔型ロール対と前記第2孔型ロール対との前記水平方向の離隔距離を調整可能な拡縮手段と、前記第1孔型ロール対と前記第2孔型ロール対との上下方向の離隔距離を調整可能な昇降手段と、を備える、ことを特徴とする電縫鋼管製造用ロール装置を提供する。
【0013】
本発明によれば、素管に対して水平方向一方側に配置された第1孔型ロール対が互いに連結された上下一対の孔型ロールから構成され、素管に対して水平方向他方側に配置された第2孔型ロール対が互いに連結された上下一対の孔型ロールから構成される。そして、拡縮手段によって、第1孔型ロール対と第2孔型ロール対との水平方向の離隔距離を調整可能である。換言すれば、第1孔型ロール対を構成する互いに連結された上下一対の孔型ロールを一体とし、第2孔型ロール対を構成する互いに連結された上下一対の孔型ロールを一体として、拡縮手段によって、両者の水平方向の離隔距離を調整可能である。また、昇降手段によって、第1孔型ロール対と第2孔型ロール対との上下方向の離隔距離を調整可能である。換言すれば、第1孔型ロール対を構成する互いに連結された上下一対の孔型ロールを一体とし、第2孔型ロール対を構成する互いに連結された上下一対の孔型ロールを一体として、昇降手段によって、両者の上下方向の離隔距離を調整可能である。
このため、所望する素管の断面形状に応じた適切な位置で、第1孔型ロール対及び第2孔型ロール対をそれぞれ構成する上下一対の孔型ロールを予め連結しておけば、拡縮手段によって、第1孔型ロール対と第2孔型ロール対との水平方向の離隔距離を調整し、昇降手段によって、第1孔型ロール対と第2孔型ロール対との上下方向の離隔距離を調整するだけで、4つの孔型ロールの位置を所望する素管の断面形状に応じた適切な位置に容易に調整可能である。4つの孔型ロールの位置を適切な位置に調整可能であるため、従来の4方ロール装置に比べて、素管の断面形状に起因する溶接品質を良好に安定化させ易いし、溶接面にラップが生じ難い。また、本発明は、4方ロール装置の一種であるため、V角に起因する溶接品質を良好に安定化させ易く、ロール疵が発生するおそれが低下する。
すなわち、本発明によれば、孔型ロールの位置調整を容易にすることと、高品質の電縫鋼管を製造することの双方を両立可能である。
【0014】
好ましくは、前記第1孔型ロール対及び前記第2孔型ロール対をそれぞれ構成する各孔型ロールは、その円弧状の孔型プロファイルの中点を通る当該孔型プロファイルの垂線に略直交する回転中心を有する。
【0015】
上記の好ましい構成において、「孔型プロファイル」とは、孔型ロールの回転中心を通る平面で孔型ロールを切断して得られる孔型(孔型ロールの外面に形成された凹溝)の断面の外縁形状を意味する。
また、「孔型プロファイルの垂線に略直交する」とは、孔型プロファイルの垂線と回転中心との成す角度が90°又はその近傍(90°±10°の範囲)であることを意味する。
上記の好ましい構成によれば、素管と孔型ロールとの接触点(素管の外面と孔型ロールの孔型との接触点)の位置に応じた孔型ロールの周速度の差がより一層小さくなるため、ロール疵が発生するおそれがより一層低下する。
【0016】
好ましくは、前記第1孔型ロール対及び前記第2孔型ロール対をそれぞれ構成する上側の孔型ロールは、その円弧状の孔型プロファイルの中心角が40°以上50°以下である。
【0017】
本発明者らの知見によれば、上側の孔型ロールの孔型プロファイルの中心角が40°未満の場合、孔型プロファイルの長さが短い(換言すれば、上側の孔型ロールの孔型に接触する素管の外周部分の長さが短い)ため、孔型ロールから素管に加わる単位周長当たりの加圧力が大きくなり、ロール疵が発生するおそれがある。
一方、上側の孔型ロールの孔型プロファイルの中心角が50°を超える場合、上側の孔型ロールの孔型プロファイルの両エッジのうち、下側の孔型ロールの孔型プロファイルに近接する側のエッジが、溶接前の素管の外面に最初に点接触し易くなる。そして、上側の孔型ロールの孔型プロファイルのエッジが素管の外面に点接触する場合には、孔型ロールからこの点接触する素管の部位に加わる加圧力が大きくなり、ロール疵が発生するおそれがある。また、点接触する場合には、ラップを制御し難いという問題もある。
上記の好ましい構成によれば、上側の孔型ロールの孔型プロファイルの中心角が40°以上50°以下であるため、上記のような問題が生じ難く、より一層高品質の電縫鋼管を製造可能である。
【0018】
好ましくは、前記第1孔型ロール対及び前記第2孔型ロール対をそれぞれ構成する上側の孔型ロールは、上側ハウジングに取り付けられ、前記第1孔型ロール対及び前記第2孔型ロール対をそれぞれ構成する下側の孔型ロールは、下側ハウジングに取り付けられ、前記上側ハウジングと前記下側ハウジングとが接続されることで、前記第1孔型ロール対及び前記第2孔型ロール対をそれぞれ構成する前記上側の孔型ロールと前記下側の孔型ロールとが連結されており、前記上側の孔型ロールは、前記上側ハウジングに対して脱着可能に取り付けられた第1スペーサ及び第2スペーサを介して、前記上側ハウジングに取り付けられており、前記第1スペーサは、その厚みに応じて、前記上側の孔型ロールの回転中心に直交する方向に沿った前記上側の孔型ロールの位置が調整されるように、前記上側ハウジングに取り付けられ、前記第2スペーサは、その厚みに応じて、前記上側の孔型ロールの回転中心の方向に沿った前記上側の孔型ロールの位置が調整されるように、前記上側ハウジングに取り付けられる。
【0019】
孔型ロールの孔型が使用によって摩耗した場合、費用削減のため、孔型を改削した孔型ロールを再利用することが一般的である。すなわち、摩耗した孔型ロールをハウジングから取り外し、孔型を改削した後、改削後の孔型ロールをハウジングに取り付けることが一般的である。
上記の好ましい構成によれば、上側ハウジングから取り外した上側の孔型ロールの孔型を改削した場合に、改削前に取り付けられていた第1スペーサの厚みに比べて厚みの大きな(改削量に応じた厚み分だけ大きな)第1スペーサに取り換え、この取り換えた第1スペーサを介して、改削後の上側の孔型ロールを上側ハウジングに取り付けることが可能である。これにより、上側の孔型ロールの上下方向位置(正確には、上側の孔型ロールの回転中心に直交する方向に沿った位置)が素管の中心に近づき、上側の孔型ロールの孔型と下側の孔型ロールの孔型とが同一円周上に位置し易くなるので、上側の孔型ロールの改削の影響を低減できる。
また、上記の好ましい構成によれば、下側ハウジングから取り外した下側の孔型ロールの孔型を改削した場合に、改削前に取り付けられていた第2スペーサの厚みに比べて厚みの小さな(改削量に応じた厚み分だけ小さな)第2スペーサに取り換え、この取り換えた第2スペーサを介して、上側の孔型ロールを上側ハウジングに取り付けることが可能である。これにより、上側の孔型ロールの水平方向(素管の長手方向に直交する水平方向)位置(正確には、上側の孔型ロールの回転中心の方向に沿った位置)が調整され、上側の孔型ロールの孔型と下側の孔型ロールの孔型とが同一円周上に位置し易くなるので、下側の孔型ロールの改削の影響を低減できる。その後、必要に応じて、第1孔型ロール対及び第2孔型ロール対の孔型の径が素管の外径に適合するように、拡縮手段によって、第1孔型ロール対と第2孔型ロール対との水平方向の離隔距離を縮小させる(第1孔型ロール対と第2孔型ロール対とを互いに近づける)ことが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、孔型ロールの位置調整が容易で、高品質の電縫鋼管を製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る電縫鋼管製造用ロール装置の概略構成を一部断面で模式的に示す正面図である。
図2図1に示す拡縮手段3によって、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との水平方向(Y方向)の離隔距離を拡大させた状態の一例を模式的示す正面図である。
図3図1に示す昇降手段4によって、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との上下方向(Z方向)の離隔距離を拡大させた状態の一例を模式的示す正面図である。
図4図1に示す第1孔型ロール対1を拡大して模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る電縫鋼管製造用ロール装置について説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る電縫鋼管製造用ロール装置の概略構成を一部断面で模式的に示す正面図(素管の長手方向から見た図)である。図1に示すX方向は素管の長手方向であり、Y方向は素管の長手方向に直交する水平方向であり、Z方向は上下方向である。他の図についても同様である。なお、図1に示す構成要素の寸法、縮尺及び形状は、実際のものとは異なっている場合があることに留意されたい。他の図についても同様である。
本実施形態に係る電縫鋼管製造用ロール装置100は、管状に成形された板材からなる素管P’の両エッジを突き合わせて溶接することで電縫鋼管Pを製造するための装置である。具体的には、電縫鋼管製造用ロール装置100は、長手方向(X方向)に搬送される素管P’の両エッジを誘導加熱するためのインダクションコイル(図示せず)の後段(素管P’の搬送方向下流側)に設置され、加熱された素管P’の両エッジを突き合わせて圧接することで電縫鋼管Pを製造する装置である。なお、図1に示す電縫鋼管Pの溶接部PWは、素管P’の両エッジを突き合わせて溶接することで生成される部分であり、電縫鋼管Pの上部中央に位置する。
図1に示すように、電縫鋼管製造用ロール装置100は、第1孔型ロール対1と、第2孔型ロール対2と、拡縮手段3と、昇降手段4と、を備えている。また、本実施形態に係る電縫鋼管製造用ロール装置100は、ハウジング5、6を備えている。以下、電縫鋼管製造用ロール装置100が備えるこれらの各構成要素について説明する。
【0024】
<第1孔型ロール対1>
第1孔型ロール対1は、素管P’(溶接部PW生成後は、電縫鋼管P)の外周を囲むように、素管P’に対して素管P’の長手方向(X方向)に直交する水平方向(Y方向)一方側(図1に示す例では左側)に配置され、互いに連結された上下一対の孔型ロール11、12から構成されている。
本実施形態の第1孔型ロール対1は、素管P’に対して水平方向(Y方向)一方側(図1に示す例では左側)に配置されたハウジング5に取り付けられている。ハウジング5は、上側ハウジング51と、下側ハウジング52と、を具備し、上側ハウジング51と下側ハウジング52とがボルト等の締結手段53によって接続され、一体化されている。第1孔型ロール対1を構成する上側の孔型ロール11は、上側ハウジング51に取り付けられ、第1孔型ロール対1を構成する下側の孔型ロール12は、下側ハウジング52に取り付けられている。前述のように、上側の孔型ロール11が取り付けられた上側ハウジング51と、下側の孔型ロール12が取り付けられた下側ハウジング52とが接続されて一体化されていることで、上側の孔型ロール11と下側の孔型ロール12も連結されて一体化されている。
【0025】
具体的には、第1孔型ロール対1を構成する上側の孔型ロール11は、支持軸111に対してベアリング112を介して回転可能に取り付けられている。支持軸111は、ホルダ7aに脱着可能に取り付けられている。ホルダ7aは、上側ハウジング51に対して脱着可能に取り付けられた第1スペーサ8a及び第2スペーサ9aを介して、上側ハウジング51に脱着可能に取り付けられている。例えば、ホルダ7aは、第1スペーサ8a及び第2スペーサ9aを挟んだ状態で、ボルト等の締結手段(図示せず)によって上側ハウジング51に取り付けられている。
一方、第1孔型ロール対1を構成する下側の孔型ロール12は、支持軸121に対してベアリング122を介して回転可能に取り付けられている。支持軸121は、下側ハウジング52に脱着可能に取り付けられている。
【0026】
<第2孔型ロール対2>
第2孔型ロール対2は、素管P’(溶接部PW生成後は、電縫鋼管P)の外周を囲むように、素管P’に対して素管P’の長手方向(X方向)に直交する水平方向(Y方向)一方側(図1に示す例では右側)に配置され、互いに連結された上下一対の孔型ロール21、22から構成されている。図1に示す状態では、第2孔型ロール対2は、想定される素管P’の中心POを通って上下方向(Z方向)に延びる仮想線である基準線Lを基準として、第1孔型ロール対1と線対称に配置されている。
本実施形態の第2孔型ロール対2は、素管P’に対して水平方向(Y方向)他方側(図1に示す例では右側)に配置されたハウジング6に取り付けられている。ハウジング6は、上側ハウジング61と、下側ハウジング62と、を具備し、上側ハウジング61と下側ハウジング62とがボルト等の締結手段63によって接続され、一体化されている。第2孔型ロール対2を構成する上側の孔型ロール21は、上側ハウジング61に取り付けられ、第2孔型ロール対2を構成する下側の孔型ロール22は、下側ハウジング62に取り付けられている。前述のように、上側の孔型ロール21が取り付けられた上側ハウジング61と、下側の孔型ロール22が取り付けられた下側ハウジング62とが接続されて一体化されていることで、上側の孔型ロール21と下側の孔型ロール22も連結されて一体化されている。
【0027】
具体的には、第2孔型ロール対2を構成する上側の孔型ロール21は、支持軸211に対してベアリング212を介して回転可能に取り付けられている。支持軸211は、ホルダ7bに脱着可能に取り付けられている。ホルダ7bは、上側ハウジング61に対して脱着可能に取り付けられた第1スペーサ8b及び第2スペーサ9bを介して、上側ハウジング61に脱着可能に取り付けられている。例えば、ホルダ7bは、第1スペーサ8b及び第2スペーサ9bを挟んだ状態で、ボルト等の締結手段(図示せず)によって上側ハウジング61に取り付けられている。
一方、第2孔型ロール対2を構成する下側の孔型ロール22は、支持軸221に対してベアリング222を介して回転可能に取り付けられている。支持軸221は、下側ハウジング62に脱着可能に取り付けられている。
【0028】
<拡縮手段3>
拡縮手段3は、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との水平方向(Y方向)の離隔距離を調整可能な手段である。
本実施形態の拡縮手段3は、回転軸31と、ギア32~35と、ねじ軸36、37と、基台38と、を具備する。基台38は、ハウジング5(具体的には、下側ハウジング52)及び昇降手段4(具体的には、後述の基台41)を支持している。
回転軸31は、所定の取付部材(図示せず)によって、基台38に対して水平方向(Y方向)周りに回転可能に取り付けられている。回転軸31の回転の向きは正逆の何れも可能とされている。
ギア32は、外面に歯が形成されており、回転軸31の水平方向(Y方向)一方側(図1に示す例では左側)の端部に固定されている。ギア33は、外面に歯が形成されており、回転軸31の水平方向(Y方向)他方側(図1に示す例では右側)の端部に固定されている。回転軸31が水平方向(Y方向)周りに回転することで、ギア32、33も水平方向(Y方向)周りに回転軸31と同じ向きに回転する。
【0029】
ギア34、35は、それぞれ所定の取付部材(図示せず)によって、基台38に対して水平方向(Y方向)周りに回転可能に取り付けられている。ギア34、35は、外面に歯が形成され、内面に雌ねじが形成されている。
ギア34の外面は、ギア32の外面と噛み合っており、ギア32が水平方向(Y方向)周りに回転することで、ギア34は水平方向(Y方向)周りにギア32と逆向きに回転する。例えば、水平方向(Y方向)の何れかの向きから見たときに、ギア32が時計回りに回転する場合には、ギア34は反時計回りに回転し、ギア32が反時計回りに回転する場合には、ギア34は時計回りに回転する。
同様に、ギア35の外面は、ギア33の外面と噛み合っており、ギア33が水平方向(Y方向)周りに回転することで、ギア35は水平方向(Y方向)周りにギア33と逆向きに回転する。例えば、水平方向(Y方向)の何れかの向きから見たときに、ギア33が時計回りに回転する場合には、ギア35は反時計回りに回転し、ギア33が反時計回りに回転する場合には、ギア35は時計回りに回転する。
【0030】
ねじ軸36は、外面に雄ねじが形成され、その一端がハウジング5(下側ハウジング52)に回転不能に固定されている。ねじ軸36の外面は、ギア34の内面と噛み合っている。
ねじ軸37は、外面に雄ねじが形成され、その一端がハウジング6に連結された昇降手段4(具体的には、後述の基台41)に回転不能に固定されている。ねじ軸37の外面は、ギア35の内面と噛み合っている。
ねじ軸36に形成された雄ねじと、ねじ軸37に形成された雄ねじとは、互いに逆回りに形成された逆ねじ関係を有する。このため、ねじ軸36と噛み合うギア34の内面に形成された雌ねじと、ねじ軸37と噛み合うギア35の内面に形成された雌ねじも、互いに逆回りに形成された逆ねじ関係を有する。
【0031】
以上に説明した構成を有する拡縮手段3によって、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との水平方向(Y方向)の離隔距離を調整するには、回転軸31を水平方向(Y方向)周りに回転させる。回転軸31の回転は、例えば、回転軸31の一端にハンドル(図示せず)を取り付けて手動で行う態様を採用してもよいし、回転軸31の一端に正逆回転可能なモータを取り付けて自動で行う態様を採用してもよい。
回転軸31の回転に伴い、ギア32も回転し、ギア32と噛み合うギア34も回転する。同様に、回転軸31の回転に伴い、ギア33も回転し、ギア33と噛み合うギア35も回転する。ギア34の回転の向きとギア35の回転の向きとは同一である。
前述のように、ねじ軸36に形成された雄ねじと、ねじ軸37に形成された雄ねじとは、互いに逆回りに形成された逆ねじ関係を有する。そして、ねじ軸36の一端及びねじ軸37の一端が回転不能に固定されている。このため、ギア34及びギア35が同一の向きに回転することに伴い、ねじ軸36及びねじ軸37は、水平方向(Y方向)に、互いに逆向きに移動することになる。
例えば、水平方向(Y方向)の何れかの向きから見たときに、回転軸31が時計回りに回転することで、ギア34、35が反時計回りに回転すると、ねじ軸36及びねじ軸37は、互いに遠ざかるように、ねじ軸36がギア34に対して左側に移動し、ねじ軸37がギア35に対して右側に移動する場合を考える。この場合、回転軸31が反時計回りに回転することで、ギア34、35が時計回りに回転し、ねじ軸36及びねじ軸37は、互いに近づくように、ねじ軸36がギア34に対して右側に移動し、ねじ軸37がギア35に対して左側に移動することになる。
【0032】
図2は、拡縮手段3によって、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との水平方向(Y方向)の離隔距離を拡大させた状態(第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2とを図1に示す状態から互いに遠ざけた状態)の一例を模式的示す正面図である。図2では、素管P’(電縫鋼管P)の図示を省略している。後述の図3及び図4についても同様である。
図2図1とを対比すれば分かるように、図2に示すねじ軸36は、図1に示す状態からギア34に対して左側に移動し、図2に示すねじ軸37は、図1に示す状態からギア35に対して右側に移動している。ねじ軸36が左側に移動することで、ねじ軸36の一端が固定されたハウジング5も基台38上を左側に移動し、ハウジング5に取り付けられた第1孔型ロール対1も左側に移動することになる。また、ねじ軸37が右側に移動することで、ねじ軸37の一端が固定された昇降手段4も基台38上を右側に移動し、昇降手段4に連結されたハウジング6も右側に移動する。これにより、ハウジング6に取り付けられた第2孔型ロール対2も右側に移動することになる。
【0033】
以上に説明した拡縮手段3の動作によって、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との水平方向(Y方向)の離隔距離が拡大する。第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との水平方向(Y方向)の離隔距離を縮小させる場合には、回転軸31の回転の向きを離隔距離を拡大させる場合と逆にすればよい。
本実施形態では、ギア32、33の外面に形成された歯のピッチが互いに同一である。また、ギア34、35の外面に形成された歯のピッチが互いに同一である。さらに、ギア34、35の内面に形成された雌ねじのピッチ(ねじ軸36、37の外面に形成された雄ねじのピッチ)が互いに同一である。このため、ねじ軸36、37の移動量、ひいては第1孔型ロール対1の移動量と第2孔型ロール対2の移動量とは互いに同一となる。したがって、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との水平方向(Y方向)の離隔距離を調整する前に、図1に示すように、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2とが基準線Lを基準として線対称に配置されていれば、拡縮手段3によって、両者の水平方向(Y方向)の離隔距離を調整した後にも、線対称の関係が維持されることになる。
【0034】
<昇降手段4>
昇降手段4は、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との上下方向(Z方向)の離隔距離を調整可能な手段である。具体的には、本実施形態の昇降手段4は、第2孔型ロール対2の上下方向(Z方向)の位置を調整可能な手段である。
本実施形態の昇降手段4は、基台41と、ボルト部42と、ナット部43と、を具備する。
ボルト部42は、外面に雄ねじが形成されており、基台41に対して上下方向(Z方向)周りに回転可能に取り付けられている。ボルト部42の回転の向きは正逆の何れも可能とされている。ボルト部42の雄ねじは、基台41の内部に形成された空洞411内に挿入されている。
ナット部43は、内面に雌ねじが形成されており、ハウジング6(具体的には、下側ハウジング62)に対して回転不能に固定されている。ナット部43は、基台41の空洞411内に配置されており、ナット部43の内面がボルト部42の外面と噛み合っている。
【0035】
以上に説明した構成を有する昇降手段4によって、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との上下方向(Z方向)の離隔距離を調整するには、ボルト部42を上下方向(Z方向)周りに回転させる。ボルト部42の回転は、例えば、ボルト部42の上端にハンドル(図示せず)を取り付けて手動で行う態様を採用してもよいし、ボルト部42の上端に正逆回転可能なモータを取り付けて自動で行う態様を採用してもよい。
前述のように、ボルト部42の外面とナット部43の内面とが噛み合い、ナット部43がハウジング6に対して回転不能に固定されているため、ボルト部42が回転することに伴い、ナット部43は、基台41の空洞411内をボルト部42に対して上下方向(Z方向)に移動することになる。例えば、上下方向(Z方向)の何れかの向きから見たときに、ボルト部42が時計回りに回転することで、ナット部43が上昇する場合には、ボルト部42が反時計回りに回転することで、ナット部43は下降することになる。
【0036】
図3は、昇降手段4によって、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との上下方向(Z方向)の離隔距離を拡大させた状態(第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2とを図1に示す状態から互いに遠ざけた状態)の一例を模式的示す正面図である。
図3図1とを対比すれば分かるように、図3に示すナット部43は、図1に示す状態からボルト部42に対して上側に移動している。ナット部43が上側に移動することで、ナット部43が固定されたハウジング6も上側に移動し、ハウジング6に取り付けられた第2孔型ロール対2も上側に移動することになる。
以上に説明した昇降手段4の動作によって、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との上下方向(Z方向)の離隔距離が拡大する。第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との上下方向(Z方向)の離隔距離を縮小させる場合には、ボルト部42の回転の向きを離隔距離を拡大させる場合と逆にすればよい。
【0037】
以上に説明したように、本実施形態に係る電縫鋼管製造用ロール装置100によれば、所望する素管P’の断面形状に応じた適切な位置で、第1孔型ロール対1及び第2孔型ロール対2をそれぞれ構成する上下一対の孔型ロール11~22を予め連結しておけば、拡縮手段3によって、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との水平方向(Y方向)の離隔距離を調整し、昇降手段4によって、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対1との上下方向(Z方向)の離隔距離を調整するだけで、4つの孔型ロール11~22の位置を所望する素管P’の断面形状に応じた適切な位置に容易に調整可能である。4つの孔型ロール11~22の位置を適切な位置に調整可能であるため、従来の4方ロール装置に比べて、素管P’の断面形状に起因する溶接品質を良好に安定化させ易いし、溶接面にラップが生じ難い。また、電縫鋼管製造用ロール装置100は、4方ロール装置の一種であるため、V角に起因する溶接品質を良好に安定化させ易く、ロール疵が発生するおそれが低下する。
すなわち、本実施形態に係る電縫鋼管製造用ロール装置100によれば、孔型ロール11~22の位置調整を容易にすることと、高品質の電縫鋼管Pを製造することの双方を両立可能である。
【0038】
図4は、第1孔型ロール対1を拡大して模式的に示す正面図である。
図4に示すように、第1孔型ロール対1を構成する上側の孔型ロール11は、その回転中心C1(本実施形態では、支持軸111の中心線に相当)と、その円弧状の孔型プロファイルP1の中点M1(孔型プロファイルP1の両エッジE1a、E1bの中間に位置する点)を通る孔型プロファイルP1の垂線N1とが、素管P’の長手方向(X方向)から見たときに、角度θ1を成すように配置されている。
また、第1孔型ロール対1を構成する下側の孔型ロール12は、その回転中心C2(本実施形態では、支持軸121の中心線に相当)と、その円弧状の孔型プロファイルP2の中点M2(孔型プロファイルP2の両エッジE2a、E2bの中間に位置する点)を通る孔型プロファイルP2の垂線N2とが、素管P’の長手方向(X方向)から見たときに、角度θ2を成すように配置されている。
【0039】
そして、本実施形態では、角度θ1、θ2が、いずれも90°又はその近傍(90°±10°の範囲)に設定されている。換言すれば、第1孔型ロール対1を構成する各孔型ロール11、12は、その孔型プロファイルの中点を通る孔型プロファイルの垂線に略直交する回転中心を有する。
図4では図示を省略するが、第2孔型ロール対2についても同様に、第2孔型ロール対2を構成する各孔型ロール21、22は、その孔型プロファイルの中点を通る孔型プロファイルの垂線に略直交する回転中心を有する。
本実施形態の第1孔型ロール対1及び第2孔型ロール対2は、上記の好ましい構成を有するため、素管P’と孔型ロール11~22との接触点(素管P’の外面と孔型ロール11~22の孔型との接触点)の位置に応じた孔型ロール11~22の周速度の差がより一層小さくなり、ロール疵が発生するおそれがより一層低下する。
【0040】
また、図4に示すように、第1孔型ロール対1を構成する上側の孔型ロール11は、点Cを中心とする円弧状の孔型プロファイルP1が、中心角αを有する。
そして、本実施形態では、中心角αが40°以上50°以下に設定されている。
図4では図示を省略するが、第2孔型ロール対2を構成する上側の孔型ロール21についても同様に、その孔型プロファイルの中心角が40°以上50°以下に設定されている。
本実施形態の第1孔型ロール対1及び第2孔型ロール対2は、上記の好ましい構成を有するため、ロール疵の発生やラップが制御し難くなるという問題が生じ難く、より一層高品質の電縫鋼管Pを製造可能である。
【0041】
さらに、図4に示すように、第1スペーサ8aは、その厚みに応じて、第1孔型ロール対1を構成する上側の孔型ロール11の回転中心C1に直交する方向(図4に示すD1方向)に沿った上側の孔型ロール11の位置が調整されるように、上側ハウジング51に取り付けられている。具体的には、第1スペーサ8aの厚み(D1方向の寸法)が大きくなると、ホルダ7aの位置がD1方向に沿って素管P’の中心に近づくことになる。これにより、上側の孔型ロール11の位置もD1方向に沿って素管P’の中心に近づくことになる。逆に、第1スペーサ8aの厚みが小さくなると、ホルダ7aの位置がD1方向に沿って素管P’の中心から離れることになる。これにより、上側の孔型ロール11の位置もD1方向に沿って素管P’の中心から離れることになる。
【0042】
また、図4に示すように、第2スペーサ9aは、その厚みに応じて、第1孔型ロール対1を構成する上側の孔型ロール11の回転中心C1の方向(図4に示すD2方向)に沿った上側の孔型ロール11の位置が調整されるように、上側ハウジング51に取り付けられている。具体的には、第2スペーサ9aの厚み(D2方向の寸法)が大きくなると、ホルダ7aの位置がD2方向に沿って右側に移動することになる。これにより、上側の孔型ロール11の位置もD2方向に沿って右側に移動することになる。逆に、第2スペーサ9aの厚みが小さくなると、ホルダ7aの位置がD2方向に沿って左側に移動することになる。これにより、上側の孔型ロール11の位置もD2方向に沿って左側に移動することになる。
【0043】
なお、図4では図示を省略するが、第2孔型ロール対2を構成する上側の孔型ロール21に関して取り付けられている第1スペーサ8bも、その厚みに応じて、上側の孔型ロール21の回転中心に直交する方向に沿った上側の孔型ロール21の位置が調整されるように、上側ハウジング61に取り付けられている。また、第2スペーサ9bも、その厚みに応じて、上側の孔型ロール21の回転中心の方向に沿った上側の孔型ロール21の位置が調整されるように、上側ハウジング61に取り付けられている。
【0044】
なお、第1スペーサ8a、8b及び第2スペーサ9a、9bとしては、これに限られるものではないものの、例えば、所定厚みのシム板を積層した構成を採用可能である。第1スペーサ8a、8b及び第2スペーサ9a、9bとして、シム板を積層した構成を採用すれば、積層するシム板の枚数を変更することで、第1スペーサ8a、8b及び第2スペーサ9a、9bの厚みを容易に変更することが可能である。
【0045】
本実施形態に係る電縫鋼管製造用ロール装置100は、上記の好ましい構成を有するため、上側ハウジング51、61から取り外した上側の孔型ロール11、21の孔型を改削した場合に、改削前に取り付けられていた第1スペーサ8a、8bの厚みに比べて厚みの大きな(改削量に応じた厚み分だけ大きな)第1スペーサ8a、8bに取り換え、この取り換えた第1スペーサ8a、8bを介して、改削後の上側の孔型ロール11、21を上側ハウジング51、61に取り付けることが可能である。これにより、上側の孔型ロール11、21の上下方向(Z方向)位置(正確には、上側の孔型ロール11、21の回転中心に直交する方向に沿った位置)が素管P’の中心に近づき、上側の孔型ロール11、21の孔型と下側の孔型ロール12、22の孔型とが同一円周上に位置し易くなるので、上側の孔型ロール11、21の改削の影響を低減できる。
また、下側ハウジング52、62から取り外した下側の孔型ロール12、22の孔型を改削した場合に、改削前に取り付けられていた第2スペーサ9a、9bの厚みに比べて厚みの小さな(改削量に応じた厚み分だけ小さな)第2スペーサ9a、9bに取り換え、この取り換えた第2スペーサ9a、9bを介して、上側の孔型ロール11、21を上側ハウジング51、61に取り付けることが可能である。これにより、上側の孔型ロール11、21の水平方向(Y方向)位置(正確には、上側の孔型ロール11、21の回転中心の方向に沿った位置)が調整され、上側の孔型ロール11、21の孔型と下側の孔型ロール12、22の孔型とが同一円周上に位置し易くなるので、下側の孔型ロール12、22の改削の影響を低減できる。その後、必要に応じて、第1孔型ロール対1及び第2孔型ロール対2の孔型の径が素管P’の外径に適合するように、拡縮手段3によって、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との水平方向(Y方向)の離隔距離を縮小させる(第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2とを互いに近づける)ことが可能である。
【0046】
なお、本実施形態では、昇降手段4として、第2孔型ロール対2の上下方向(Z方向)の位置を調整可能な手段を例示したが、本発明はこれに限るものではなく、第1孔型ロール対1の上下方向(Z方向)の位置を調整可能な手段を昇降手段として用いることも可能である。
また、本実施形態で説明した拡縮手段3及び昇降手段4の具体的構成は、あくまでも例示であって、本発明はこれに限るものではない。第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との水平方向(Y方向)の離隔距離を調整可能である限りにおいて、種々の構成を有する拡縮手段を採用可能である。また、第1孔型ロール対1と第2孔型ロール対2との上下方向(Z方向)の離隔距離を調整可能である限りにおいて、種々の構成を有する昇降手段を採用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1・・・第1孔型ロール対
2・・・第2孔型ロール対
3・・・拡縮手段
4・・・ 昇降手段
5、6・・・ハウジング
8a、8b・・・第1スペーサ
9a、9b・・・第2スペーサ
11、21・・・上側の孔型ロール
12、22・・・下側の孔型ロール
51、61・・・上側ハウジング
52、62・・・下側ハウジング
100・・・電縫鋼管用ロール装置
P’・・・素管
P・・・電縫鋼管
図1
図2
図3
図4