(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059871
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】コドン最適化補体因子I
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20240423BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240423BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240423BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240423BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240423BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240423BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240423BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N5/10
A61K35/76
A61K48/00
A61P27/02
A61P43/00 105
A61K38/48 100
【審査請求】有
【請求項の数】43
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024028022
(22)【出願日】2024-02-28
(62)【分割の表示】P 2021535270の分割
【原出願日】2019-12-20
(31)【優先権主張番号】1821089.8
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】520404610
【氏名又は名称】ジャイロスコープ・セラピューティクス・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル,ジョセフィーヌ ヘザー ルシエンヌ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】AMDなどの眼疾患を治療するための医薬組成物を提供する。
【解決手段】野生型配列と比較してCFIおよびFHL1タンパク質の実質的に増加された発現を可能にするコドン最適化補体因子I(CFI)をコードするヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド、このポリヌクレオチドを含むベクター、ならびに補体介在のおよび補体関連の障害(加齢性黄斑変性症(AMD)などの、眼疾患を含む)の治療または予防におけるそれらの使用を開示する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補体因子I(CFI)をコードするヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドであって、前記ヌクレオチド配列が、配列番号10に対し少なくとも85%の配列同一性を有する、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記CFIをコードするヌクレオチド配列が、配列番号10である、請求項1に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドが、その5’末端にアデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)を含み、その3’末端にAAV ITRを含み、好ましくは、前記AAV ITRが、AAV2またはAAV8 ITRであり、好ましくは、前記AAV ITRが、AAV2 ITRである、請求項1または2に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記CFIをコードするヌクレオチド配列が、プロモーターに作動可能に連結されており、好ましくは前記プロモーターがCMVプロモーターまたはCAGプロモーターである、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記プロモーターが、配列番号5もしくは配列番号13のヌクレオチド配列、または配列番号5もしくは配列番号13に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する、請求項4に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記CFIをコードするヌクレオチド配列が、WPRE調節エレメントに作動可能に連結されており、好ましくは、前記WPRE調節エレメントがWPRE3調節エレメントである、請求項1~5のいずれか一項に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記WPRE調節エレメントが、配列番号7もしくは配列番号15のヌクレオチド配列、または配列番号7もしくは配列番号15に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する、請求項6に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項8】
前記CFIをコードするヌクレオチド配列が、ポリAシグナルに作動可能に連結されており、好ましくは、前記ポリAシグナルがウシ成長ホルモンポリAシグナルである、請求項1~7のいずれか一項に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記ポリAシグナルが、配列番号6もしくは配列番号14のヌクレオチド配列、または配列番号6もしくは配列番号14に対して少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する、請求項8に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記CFIをコードするヌクレオチド配列が、CMVプロモーター、WPRE調節エレメント、およびポリAシグナルに作動可能に連結されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項12】
前記ベクターが、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである、請求項11に記載のベクター。
【請求項13】
前記ベクターが、ウイルスベクター粒子の形態である、請求項11または12に記載のベクター。
【請求項14】
前記AAVベクター粒子が、AAV2またはAAV8ゲノム、およびAAV2またはAAV8キャプシドタンパク質を含む、請求項13に記載のベクター。
【請求項15】
前記AAVベクター粒子が、AAV2ゲノムおよびAAV2キャプシドタンパク質(AAV2/2)、AAV2ゲノムおよびAAV8キャプシドタンパク質(AAV2/8)、またはAAV8ゲノムおよびAAV8キャプシドタンパク質(AAV8/8)を含む、請求項13に記載のベクター。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む細胞。
【請求項17】
請求項12~15のいずれか一項に記載のベクターで形質導入された細胞。
【請求項18】
薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、請求項12~15のいずれか一項に記載のベクター、または請求項16もしくは17に記載の細胞を含む医薬組成物。
【請求項19】
医薬の製造における、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、請求項12~15のいずれか一項に記載のベクター、または請求項16もしくは17に記載の細胞の使用。
【請求項20】
眼の補体介在性障害を治療するまたは予防するための医薬の製造における、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、請求項12~15のいずれか一項に記載のベクター、または請求項16もしくは17に記載の細胞の使用。
【請求項21】
前記障害が、加齢性黄斑変性症(AMD)または糖尿病網膜症、好ましくはAMDである、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記AMDが、乾性AMDである、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
地図状萎縮の形成が、防止されるもしくは低減される、かつ/または地図状萎縮の量が、低減される、請求項20~22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
地図状萎縮の進行が、減速される、請求項20~23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
同じ期間にわたる未治療の眼と比較して、対象の治療された眼への投与後12ヶ月にわたり地図状萎縮領域での増加における少なくとも10%の減少がある、請求項20~24のいずれか一項に記載の使用。
【請求項26】
前記ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞の投与が、任意により対象、またはその眼またはその網膜色素上皮(RPE)での正常レベルを超えるレベルに、対象での、または対象の(RPEでなどの)眼でのC3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性のレベルを増加させる、請求項20~25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
AMDなどの眼の障害に罹患している対象における読み取り速度を向上または回復させるための、および/またはAMDなどの眼の障害に関連する読み取り速度の低下を軽減するための医薬の製造における、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、請求項12~15のいずれか一項に記載のベクター、または請求項16もしくは17に記載の細胞の使用。
【請求項28】
光受容体および/または網膜色素上皮(RPE)の喪失を低減または防止するための医薬の製造における、請求項1~11のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、請求項12~15のいずれか一項に記載のベクター、または請求項16もしくは17に記載の細胞の使用。
【請求項29】
前記ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞が、眼内に投与される、請求項19~28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞が、網膜下、直接網膜、脈絡膜上または硝子体内注射により対象の眼に投与される、請求項19~29のいずれか一項に記載の使用。
【請求項31】
前記ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞が、網膜下注射により対象の眼に投与される、請求項19~30のいずれか一項に記載の使用。
【請求項32】
請求項1~11のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、請求項12~15のいずれか一項に記載のベクター、または請求項16もしくは17に記載の細胞を含む、眼の補体介在性障害を治療または予防するための医薬組成物。
【請求項33】
前記障害が、加齢性黄斑変性症(AMD)または糖尿病網膜症、好ましくはAMDである、請求項32に記載の医薬組成物。
【請求項34】
前記AMDが、乾性AMDである、請求項33に記載の医薬組成物。
【請求項35】
地図状萎縮の形成が、防止されるもしくは低減される、かつ/または地図状萎縮の量が、低減される、請求項32~34のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項36】
地図状萎縮の進行が、遅延される、請求項32~35のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項37】
同じ期間にわたる未治療の眼と比較して、対象の治療された眼への投与後12ヶ月にわたり地図状萎縮領域での増加における少なくとも10%の減少がある、請求項32~36のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項38】
前記医薬組成物の投与が、任意により対象、またはその眼またはその網膜色素上皮(RPE)での正常レベルを超えるレベルに、対象での、または対象の(RPEでなどの)眼でのC3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性のレベルを増加させる、請求項32~37のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項39】
請求項1~11のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、請求項12~15のいずれか一項に記載のベクター、または請求項16もしくは17に記載の細胞を含む、AMDなどの眼の障害に罹患している対象における読み取り速度を向上または回復させるための、および/またはAMDなどの眼の障害に関連する読み取り速度の低下を軽減させるための、医薬組成物。
【請求項40】
請求項1~11のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、請求項12~15のいずれか一項に記載のベクター、または請求項16もしくは17に記載の細胞を含む、光受容体および/または網膜色素上皮(RPE)の喪失を低減または防止するための医薬組成物。
【請求項41】
前記医薬組成物が、眼内に投与される、請求項32~40のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項42】
前記医薬組成物が、網膜下、網膜直接、脈絡膜上または硝子体内注射により対象の眼に投与される、請求項32~41のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項43】
前記医薬組成物が、網膜下注射により対象の眼に投与される、請求項32~42のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子治療で使用するための剤に関する。特に、本発明は、補体因子I(CFI)または補体因子H様タンパク質1(FHL1)をコードするポリヌクレオチド、このポリヌクレオチドを含むベクター、ならびに補体介在のおよび補体関連の障害(加齢性黄斑変性症(AMD)などの、眼疾患を含む)の治療または予防におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
黄斑は、眼の網膜中の小さい領域であり、サイズが約3~5ミリメートルであり、視神経に隣接している。これは網膜の最も敏感な領域であり、高い視力を可能にするくぼんだ領域である中心窩を含み、および色覚を担う光受容体である錐体の密集域を含む。
【0003】
加齢性黄斑変性症(AMD)は、先進国における50歳以上の人の機能的失明の最も一般的な原因である(Seddon,J.M.,Epidemiology of age-related macular degeneration.In:Ogden,T.Eら、編、Ryan S.J.,ed-in-chief.Retina Vol II.第3版、St.Louis,Mo.:Mosby;2001年:1039-1050)。AMDは、脈絡膜血管系から発生し網膜下腔中に延びる血管新生に関連する。さらに、AMDは、網膜、網膜色素上皮(RPE)、および下にある脈絡膜(網膜と強膜の間で、RPEの下にある血管の多い組織)の進行性変性を特徴とする。
【0004】
酸化ストレス、自己免疫成分の可能性を有する炎症、遺伝的背景(突然変異など)、喫煙および食事などの環境的要因または行動的要因を含む様々な要因が、AMDの病因に関与し得る。
【0005】
AMDの臨床的進行は、黄斑の変化に応じた段階で特徴づけられる。初期のAMDの特徴は、ドルーゼンの出現であり、ドルーゼンは、網膜の下の細胞外破片の蓄積であり、臨床検査中および眼底写真で網膜に黄色い斑点として現れる。ドルーゼンは、サイズにより小(<63μm)、中(63~124μm)、および大(>124μm)に分類される。それらはまた、眼科検査でのそれらの縁の外観に応じて、ハードまたはソフトと見なされる。ハードドルーゼンは明確に画定された縁を有するが、ソフトドルーゼンはそれほど画定されていない流動的な縁を有する。加齢性眼疾患研究(AREDS)眼底写真の重症度スケールは、この状態に使用される主要な分類システムの1つである。
【0006】
AMDは、「乾性」および「湿性」(滲出性または新生血管)の形態に分類されている。乾性AMDは湿性AMDよりも一般的であるが、乾性型は湿性型に進行する可能性があり、この2つはかなりの数の場合において同時に発生する。乾性AMDは典型的には、RPE層中の細胞、その上にある光受容体細胞、および多くの場合脈絡膜毛細血管層の基礎となる細胞の進行性アポトーシスを特徴とする。重なる光受容体萎縮を伴うRPE細胞死のコンフルエント領域は、地図状萎縮と呼ばれる。このAMD形態の患者は、中心視力において緩慢で進行性の悪化を経験する。
【0007】
湿性AMDは、RPEおよび黄斑の下の脈絡膜血管(脈絡毛細管板)から成長した異常な血管からの出血および/または体液の漏出を特徴とし、それは、突然の視力喪失の原因であり得る。患者が経験する視力喪失の多くは、そのような脈絡膜血管新生(CNV)およびその二次的合併症によるものと推定されている。新生血管AMDのサブタイプは、網膜血管腫状増殖(RAP)と呼ばれる。ここで、血管腫状増殖は網膜から始まり、網膜下腔中に後方に広がり、最終的に場合によっては脈絡膜の新しい血管と連通する。
【0008】
補体系(CS)は、AMD患者の眼からのドルーゼン中のCS成分の同定に基づき、初期のAMD病因に関与している。AMDでは、様々なアポリポタンパク質タイプ(E、B、またはAーI)、いくつかのアミロイドペプチド(P、Aβ、またはSA-1)、TIMP-3、血清アルブミン、および細胞機能に関連する特定のタンパク質(例えば、ATPシンターゼβサブユニット、スカベンジャー受容体B2、およびレチノールデヒドロゲナーゼ)を含む、少なくとも129種類のドルーゼン沈着タンパク質が同定されている。AMD由来ドルーゼンは、調節タンパク質(CFH、補体受容体1(CR1)、ビトロネクチン、およびクラステリン)、CSの活性化および分解の産物(C1q、C3、C3a、C3b、およびC5a)、および分離された複雑な形態のMAC成分(すなわち、5、6、8(α、βおよびγ)および9)を含む末端CS経路のメンバーを含む、ほぼすべての補体タンパク質も含む。蓄積するドルーゼンは、CSを活性化し、炎症性メディエーターの局所的産生を引き起こし、白血球を引き付け、それが今度はAMDに存在する局所的な炎症状態を増強し得る。
【0009】
AMDの現在の治療オプションとしては、ベンゾポルフィリンによる光線力学療法(Arch Ophthalmol(1999年)117:1329-1345)および血管内皮増殖因子(VEGF)経路を標的とする複数の治療法が挙げられる。そのようなVEGF標的療法の例としては、アプタマーペガプタニブ(N Engl J Med(2004)351:2805-2816)ならびにラニビズマブ(N Engl J Med(2006)355:1432-1444)およびベバシズマブ(BMJ(2010)340:c2459)などの抗体が挙げられる。しかし、すべての患者が抗VEGF抗体による治療に応答するわけではなく、視力が回復しないか、または認定される失明に進行する。
【0010】
地図状萎縮の治療のための療法が開発され、第III相臨床試験で使用された。ランパリズマブは、補体因子Dに対するヒト化モノクローナル阻害抗体であり、硝子体内注射により投与されて、地図状萎縮の進行速度を停止する。しかし、906名の参加者が参加した第III相ランダム化臨床試験では、ランパリズマブは、48週間にわたる疑似と比較した場合、GAの拡大を減少させることができなかった。
【0011】
したがって、AMDなどの眼疾患を治療するための当技術分野における新しいアプローチに対する重要な必要性がある。
【0012】
補体系の遍在性のため、過活動のまたは不適切に機能する補体系は、それに対する治療の選択肢が存在しないか、または何年にもわたる定期的な介入による症状の管理を必要とする、多くの慢性炎症状態の病状に関係している。したがって、補体介在性および補体関連障害、特に慢性炎症状態、さらに特に補体C3bフィードバックサイクルの過活動に関連するものに対し新規のまたは代替の治療を提供する、遺伝子療法の治療を開発する一般的な必要性がある(
図1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
出願人は、野生型配列と比較してコードされたCFIおよびFHL1タンパク質の実質的に増加された発現を提供する、補体因子I(CFI)および補体因子H様タンパク質1(FHL1)のコドン最適化配列を同定した。
【0014】
出願人によって開発された改善されたCFIおよびFHL1をコードする配列は、より高用量のそれぞれのタンパク質が、投与されるベクターの量を増やすことなく、患者に送達されることを可能にする。本発明はしたがって、製造出力(すなわち、タンパク質送達が、生成されるより少ない量のベクターで達成できる)、薬剤の有効性、および安全性に関して改善をもたらす。特に、より高用量のコード化タンパク質が同じ量(例えば、容積)のベクターの送達で達成され得るので、ベクターが投与される組織への損傷のリスクが低減される。例えば、ベクターが網膜下注射により眼に送達される場合、大量の薬剤の注射により引き起こされる網膜への損傷または網膜剥離のリスクが低減される。さらに、隣接組織へ大量の薬剤が拡散されることにより生じるオフターゲット効果のリスクが軽減される。さらに、遺伝子治療における特許請求されたヌクレオチド配列の使用は、単回投与で治療を送達する可能性を有し、タンパク質の長期的で安定した発現を可能にし、かつ毎月または定期的な注射の必要性を回避する。本発明のヌクレオチド配列および組成物は、追加の利点を有し、したがって、それらは、繰り返しのまたは定期的な外科的介入を回避する、1回のまたは「単発の」療法を提供する可能性を有する。
【0015】
一態様では、本発明は、補体因子I(CFI)をコードするヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供し、ヌクレオチド配列は、配列番号10に対し少なくとも85%の配列同一性を有する。
【0016】
いくつかの実施形態では、CFIをコードするヌクレオチド配列は、配列番号10に対し少なくとも86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。好ましい実施形態では、CFIをコードするヌクレオチド配列は、配列番号10である。
【0017】
別の態様では、本発明は、補体因子H様タンパク質1(FHL1)をコードするヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチドを提供し、ヌクレオチド配列は、配列番号12に対し少なくとも75%の配列同一性を有する。
【0018】
いくつかの実施形態では、FHL1をコードするヌクレオチド配列は、配列番号12に対し少なくとも80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。
【0019】
好ましい実施形態では、FHL1をコードするヌクレオチド配列は、配列番号12である。
【0020】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは、1つ以上のアデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)を含む。好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドは、その5’末端にAAV ITRおよびその3’末端にAAV ITRを含む。
【0021】
いくつかの実施形態では、AAV ITRは、AAV2またはAAV8 ITRである。好ましい実施形態では、AAV ITRは、AAV2 ITRである。
【0022】
別の態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0023】
いくつかの実施形態では、ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、レンチウイルス、またはアデノウイルスベクターである。
【0024】
好ましい実施形態では、ベクターは、AAVベクターである。
【0025】
いくつかの実施形態では、ベクターは、ウイルスベクター粒子の形態である。
【0026】
いくつかの実施形態では、AAVベクターは、AAV2またはAAV8ゲノムを含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、AAVベクター粒子は、AAV2またはAAV8キャプシドタンパク質を含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、AAVベクター粒子は、AAV2ゲノムおよびAAV2キャプシドタンパク質(AAV2/2)を含む。他の実施形態では、AAVベクター粒子は、AAV2ゲノムおよびAAV8キャプシドタンパク質(AAV2/8)を含む。他の実施形態では、AAVベクター粒子は、AAV8ゲノムおよびAAV8キャプシドタンパク質(AAV8/8)を含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、CFIをコードするヌクレオチド配列は、CMVプロモーターに作動可能に連結される。いくつかの実施形態では、CFIをコードするヌクレオチド配列は、WPRE調節エレメントなどの、調節エレメントに作動可能に連結される。好ましい実施形態では、WPRE調節エレメントは、WPRE3調節エレメントである。いくつかの実施形態では、CFIをコードするヌクレオチド配列は、ウシ成長ホルモンポリAシグナルなどの、ポリアデニル化(ポリA)シグナルに作動可能に連結される。
【0030】
好ましい実施形態では、CFIをコードするヌクレオチド配列は、CMVプロモーター、WPRE調節エレメント(好ましくはWPRE3調節エレメント);およびウシ成長ホルモンポリAシグナルに作動可能に連結される。
【0031】
いくつかの実施形態では、FHL1をコードするヌクレオチド配列は、CMVプロモーターに作動可能に連結される。いくつかの実施形態では、FHL1をコードするヌクレオチド配列は、WPRE調節エレメントなどの、調節エレメントに作動可能に連結される。好ましい実施形態では、WPRE調節エレメントは、WPRE3調節エレメントである。いくつかの実施形態では、FHL1をコードするヌクレオチド配列は、ウシ成長ホルモンポリAシグナルなどの、ポリAシグナルに作動可能に連結される。
【0032】
好ましい実施形態では、FHL1をコードするヌクレオチド配列は、CMVプロモーター、WPRE調節エレメント(好ましくはWPRE3調節エレメント);およびウシ成長ホルモンポリAシグナルに作動可能に連結される。
【0033】
別の態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む細胞を提供する。
【0034】
別の態様では、本発明は、本発明のベクターで形質導入された細胞を提供する。
【0035】
別の態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を、薬学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて含む医薬組成物を提供する。
【0036】
特定の実施形態では、医薬組成物は、全身投与(例えば、末梢静脈からの注入による)に好適である。
【0037】
特定の実施形態では、医薬組成物は、局所投与(例えば、くも膜下腔内投与)に好適である。
【0038】
好ましい実施形態では、医薬組成物は、例えば、硝子体内注射、脈絡膜上注射または網膜下注射による、眼内投与用である。
【0039】
別の態様では、本発明は、治療において使用するための本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を提供する。
【0040】
特定の実施形態では、本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、補体介在性障害、特に慢性炎症状態、の治療に使用される。
【0041】
好ましい実施形態では、本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、補体C3bフィードバックサイクルの過活動に関連する障害の治療に使用される。
【0042】
別の態様では、本発明は、眼障害を治療するかまたは予防する際に使用するための本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を提供する。
【0043】
別の態様では、本発明は、補体介在性の眼の障害を治療するかまたは予防する際に使用するための本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を提供する。
【0044】
別の態様では、本発明は、眼の補体介在性障害を治療するかまたは予防する方法であって、それを必要とする対象に本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を投与することを含む、方法を提供する。
【0045】
別の態様では、本発明は、対象の眼に本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を送達することを含む、対象に補体因子I(CFI)および/または補体因子H様タンパク質1(FHL1)を提供する方法を提供する。
【0046】
いくつかの実施形態では、障害は、補体C3bフィードバックサイクルの過剰活性および/またはC3b分解サイクルの低活性に関連している(
図1を参照されたい)。
【0047】
いくつかの実施形態では、障害は、眼の補体介在性慢性炎症状態である。
【0048】
いくつかの実施形態では、障害は、加齢性黄斑変性症(AMD)または糖尿病網膜症である。他の実施形態では、障害は、緑内障、シュタルガルト病、中心性漿液性脈絡網膜症または網膜色素変性症である。
【0049】
好ましい実施形態では、疾患は、AMDである。いくつかの実施形態では、AMDは、乾性AMDである。
【0050】
いくつかの実施形態では、対象はAMDと診断されているか、AMDを得るリスクがある。
【0051】
いくつかの実施形態では、使用は、以下の対象において障害を治療するかまたは予防するためのものである:
(a)眼および/または血清中において通常よりも低い補体因子I活性または濃度を有し、好ましくは血清中0~30、0~20または0~10μg/mLの濃度または同等の活性を有する;および/または
(b)加齢性黄斑変性症(AMD)関連SNP、好ましくはまれな補体因子Iバリアントに対しヘテロ接合性またはホモ接合性である。
【0052】
いくつかの実施形態では、使用は、以下の対象において障害を治療するかまたは予防するためのものである:
(a)眼および/または血清中において正常レベル、好ましくは少なくとも30μg/mL、例えば血清中30~40μg/mLの補体因子I活性または濃度を有する;および/または
(b)まれな補体因子I変異対立遺伝子を保持していない。
【0053】
別の態様では、本発明は、加齢性黄斑変性症(AMD)を治療するかまたは予防する際に使用するための本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を提供する。好ましい実施形態では、AMDは、乾性AMDである。
【0054】
別の態様では、本発明は、糖尿病網膜症を治療するかまたは予防する際に使用するための本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を提供する。
【0055】
いくつかの実施形態では、地図状萎縮の形成が防止されるかもしくは低減される、かつ/または地図状萎縮の量が減少する。
【0056】
いくつかの実施形態では、地図状萎縮の進行が遅くなる。
【0057】
いくつかの実施形態では、同じ期間の未治療の眼と比較して、対象の治療された眼への投与後12ヶ月間にわたって、地図状萎縮領域の増加が少なくとも10%減少する。他の実施形態では、同じ期間の未治療の眼と比較して、対象の治療された眼への投与後12ヶ月間にわたって、地図状萎縮領域の増加が少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%減少する。
【0058】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞の投与は、対象において、または対象の網膜色素上皮(RPE)においてなどの、眼において、C3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性のレベルを、任意により対象、またはその眼またはRPEでの正常レベルを超えるレベルに、増加させる。
【0059】
別の態様では、本発明は、例えば、本明細書に開示される眼障害などの、眼障害に罹患している対象において、視覚または視力の改善または回復に使用するための本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を提供する。別の態様では、本発明は、視覚または視力の喪失、例えば、本明細書に開示される眼障害などの、眼障害に関連する視覚または視力の喪失の軽減に使用するための本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を提供する。
【0060】
別の態様では、本発明は、例えば、本明細書に開示される眼障害などの眼障害に罹患している対象において、読み取り速度の向上または回復に使用するための本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を提供する。別の態様では、本発明は、対象における読み取り速度の低下、例えば、本明細書に開示されている眼障害などの、眼障害に関連する読み取り速度の低下の軽減に使用するための本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を提供する。
【0061】
別の態様では、本発明は、光受容体の喪失および/または網膜色素上皮(RPE)、例えば、光受容体の喪失および/または本明細書に開示される眼障害などの、眼障害に関連するRPEを低減するかまたは防止する際に使用するための本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞を提供する。
【0062】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、眼内投与される。
【0063】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、網膜下、直接網膜、脈絡膜上または硝子体内注射により対象の眼に投与される。
【0064】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、網膜下注射により対象の眼に投与される。
【0065】
いくつかの実施形態では、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターは、hAATプロモーターを含まない。いくつかの実施形態では、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターは、ApoRエンハンサーを含まない。他の実施形態では、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターは、2つのApoRエンハンサーを含まない。
【0066】
いくつかの実施形態では、本発明のベクターは、AAV2ゲノムおよびAAV8キャプシドタンパク質を含まない、すなわち、本発明のベクターは、AAV2/8ベクターではない。
【0067】
いくつかの実施形態では、本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、全身投与されない。他の実施形態では、本発明のポリヌクレオチド、ベクターまたは細胞は、静脈内投与されない。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【
図1】脊椎動物の補体の代替経路のC3bフィードバック(増幅)および分解(ダウンレギュレーション)サイクル(「I」=補体因子I;「H」=補体因子H;「B」=補体因子B;および「D」=補体因子D)。
【
図2】ARPE19細胞のコドン最適化CFIおよびFHL1プラスミドトランスフェクションからの上清のウエスタンブロット分析。
【
図3】ARPE19細胞のコドン最適化CFIプラスミドトランスフェクションからの上清のELISA分析。
【
図4】ARPE19細胞のコドン最適化FHL1プラスミドトランスフェクションからの上清のELISA分析。
【
図5】ARPE19細胞のコドン最適化CFI AAVベクター形質導入からの上清のELISA分析。
【
図6】ARPE19細胞のコドン最適化FHL1 AAVベクター形質導入からの上清のELISA分析。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本明細書で使用される「含まれている(comprising)」、「含む(comprises)」および「構成されている(comprised of)」という用語は、「含んでいる(including)」または「含む(includes)」、または「含んでいる(containing)」もしくは「含む(contains)」と同義であり、包括的またはオープンエンドであり、追加の、引用されていないメンバー、エレメント、またはステップを除外するものではない。「含まれている(comprising)」、「含む(comprises)」および「構成されている(comprised of)」という用語は、用語「からなる(consisting of)」も含む。
補体系
【0070】
補体系は、体液性免疫系の不可欠な部分であり、組織の炎症、細胞のオプソニン作用、および細胞溶解に関与している。補体系は、微生物に対する保護を提供し、宿主組織からの外因性および内因性の細胞破片のクリアランスを仲介する。
【0071】
補体系カスケードは、4つの活性化経路で構成されている。経路はすべて、最終的にはC3因子の中央切断と、その活性断片C3aおよびC3bの生成で終了する。C3aは、炎症細胞の動員および微小血管系の透過性の増加などの、様々な走化性および炎症誘発性応答を引き起こすアナフィラトキシンであり、一方でC3bは、C3bに共有結合した外来表面のオプソニン作用を担う。活性化されたC3断片(C3bおよびiC3b)によるオプソニン化は、3つの主要な機能:(i)食細胞(例えば、マクロファージまたはミクログリア)による細胞破片の除去および適応免疫系(B細胞およびT細胞)の刺激、(ii)表面結合C3転換酵素の形成を介した補体活性化の増幅、および(iii)C5転換酵素の集合、を果たす。
【0072】
C5転換酵素の集合は、C5切断を担い、これは、細胞膜に穿孔を生成できる細胞溶解膜侵襲複合体(MAC)の形成をもたらし、それにより細胞溶解および不要な細胞の排除を促進する。これらの活動のすべてを通じて、自然補体カスケードは、宿主組織の完全性を保護する免疫系の下流メカニズムの機能を支持し、促進する。全体として、補体系経路の活性化は、細胞溶解を媒介するMACの生成、炎症細胞を損傷部位に引き付けるためのケモカインの放出、および浸潤性白血球の血管外遊出を促進するための毛細血管透過性の増強を含む、炎症誘発性応答をもたらす。生理学的条件下では、補体の活性化は、可溶性および膜結合型の補体調節分子(CRM)の協調作用により効果的に制御される。C1阻害剤、アナフィラトキシン阻害剤、C4b結合タンパク質(C4BP)、補体因子H(CFH)、補体因子I(CFI)、クラステリン、およびビトロネクチンなどの可溶性補体調節因子は、カスケード反応の複数の部位で、ヒト組織における補体の作用を制限する。さらに、各々の個別の細胞は、補体受容体1(CR1、CD35)、膜補因子タンパク質(CD46)などの表面タンパク質、および崩壊促進因子(CD55)またはCD59分子などのグリコシルホスファチジルイノシトールアンカータンパク質により相同補体の攻撃から保護される。注目すべきことに、補体攻撃からの保護が不十分である宿主細胞および組織は、バイスタンダー細胞溶解を受ける可能性がある。
【0073】
本発明は、眼の補体介在性障害の治療または予防に関する。例えば、補体介在性障害は、代替経路調節の欠陥、特に補体C3bフィードバックサイクルの過剰活性および/またはC3b分解サイクルの低活性に関連する障害であり得る。
【0074】
いくつかの実施形態では、本発明のポリヌクレオチド、ベクター、細胞または医薬組成物の投与前に、対象は、低レベル(例えば、通常レベルよりも低い)の補体因子I活性、例えば、眼における低レベルの補体因子I活性、および/または低血清レベルの補体因子I活性を有する。補体因子I活性の正常より低いレベルは、正常に機能する補体因子Iの正常より低い発現、または補体因子Iの非機能的バリアントまたは亜機能的バリアントの少なくとも部分的な(例えばヘテロ接合の)発現(正常または正常より低いレベル)に起因し得る(このような対象は、AMD関連SNPの1つ以上のコピーを保有し得、例えば、対象は、以下でさらに説明するまれな補体因子Iバリアントの1つについてホモ接合またはヘテロ接合であり得る)。したがって、対象は、眼および/または血清中に低濃度(例えば、通常よりも低い濃度)の補体因子Iを有し得る。ヒト対象の場合、正常レベルの補体因子I活性(C3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性)は、対象の血清中の30~40μg/mLの補体因子Iにより提供されるものと同等であり得る。したがって、低活性の補体因子Iを有する対象では、血清中の補体因子I活性は、30μg/mL未満および0μg/mLを超える補体因子I(0~20または0~10μg/mLなど)に対応し得る(これらは補体因子Iの血清濃度の範囲であり、それは低濃度の補体因子Iを有する対象を含み得る)。
【0075】
したがって、本発明によって治療される対象は、AMD、より具体的には乾性AMDなどの補体介在性の眼の障害(例えば、地図状萎縮を特徴とする)に罹患し得るか、またはそのような障害を発症するリスクがあり得る。例えば、対象は、補体介在性障害に関連する1つ以上のSNPに対し感受性のあるホモ接合性またはヘテロ接合性であり得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、対象は、AMDを発症するリスクがある。例えば、対象は、AMDに関連する1つ以上のSNP、例えば、一般に血清補体因子Iレベルの低下をもたらす進行性AMDに関連する補体因子Iでのまれな突然変異に対し感受性のあるホモ接合性またはヘテロ接合性であり得る(Kavanaghら、(2015年)Hum Mol Genet 24:3861-3870)。特に、対象は、以下のまれな補体因子Iバリアントの1つ以上の1つまたは2つのコピーを保有し得る:rs144082872(P50Aをエンコード);4:110687847(P64Lをエンコード);rs141853578(G119Rをエンコード);4:110685721(V152Mをエンコード);4:110682846(G162Dをエンコード);4:110682801(N177Iをエンコード);rs146444258(A240Gをエンコード);rs182078921(G287Rをエンコード);rs41278047(K441Rをエンコード);およびrs121964913(R474をエンコード)。
【0077】
本発明は、例えば、対象が補体介在性障害に関連する1つ以上のSNPに対してホモ接合性またはヘテロ接合性感受性であるかを決定することにより(例えば、対象が上記のAMDに関連するまれな補体因子Iバリアントの1つ以上に対してホモ接合性またはヘテロ接合性感受性であるかを決定することにより)、対象が補体介在性障害(例えば、AMD)を発症するリスクがあるかを決定することをさらに含み得る。
【0078】
あるいは、対象は、例えば、眼および/または血清において、正常レベルの内因性補体因子I活性または濃度を有し得、かつ/またはまれなバリアント補体因子I対立遺伝子を保有しない場合がある。
【0079】
いくつかの実施形態では、本発明のポリヌクレオチド、ベクター、細胞または医薬組成物の投与はそれにより、対象の眼内におけるC3bを不活化するおよびiC3b分解の活性のレベルを増加させる。他の実施形態では、本発明のポリヌクレオチド、ベクター、細胞または医薬組成物の投与はそれにより、対象の眼におけるC3bを不活化するおよびiC3b分解の活性のレベルを、眼における正常レベルを超えるレベルに増加させる。より具体的には、C3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性のレベルは、眼のRPEにおいて増加する。
【0080】
本発明のポリヌクレオチドまたはベクターからの補体因子Iの発現後の対象におけるC3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性は、対象の内因性補体因子I(すなわち、ポリヌクレオチドまたはベクターからの発現により生成されない対象の補体因子I)からのC3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性、ならびに本発明のポリヌクレオチドまたはベクターからの発現により生成されるC3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性を含み得、それにより対象におけるC3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性の総レベルが正常レベルを超えることが、理解されよう。
【0081】
いくつかの実施形態では、対象における、例えば眼におけるC3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性のレベルは、正常レベルより少なくとも5%、10%、15%、20%または25%高いレベルに増加する。
【0082】
他の実施形態では、対象における、例えば眼におけるC3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性のレベルは、通常のレベルの最大で2倍、または通常のレベルの最大で80%、60%、40%、または20%のレベルに増加する。
【0083】
例えば、対象における、例えば眼におけるC3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性のレベルは、通常レベルの5~100%、5~80%、5~60%、5~40%、5~20%、10~100%、10~80%、10~60%、10~40%、10~20%、15~100%、15~80%、15~60%、15~40%、15~20%、20~100%、20~80%、20~60%、20~40%、25~100%、25~80%、25~60%または25~40%であるレベルに増加され得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、本発明のポリヌクレオチド、ベクター、細胞または医薬組成物の投与は、対象の血漿/血清中のC3bを不活化するおよびiC3b分解の活性のレベルを検出可能に増加させない。他の実施形態では、本発明のポリヌクレオチド、ベクター、細胞または医薬組成物の投与は、通常のレベルより高いレベルに対象の血漿/血清中のC3bを不活化するおよびiC3b分解の活性のレベルを検出可能に増加させない。
【0085】
前のセクションでは、明らかに適用できない場合を除いて、補体因子IおよびC3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性への言及は、補体因子Hまたは補体因子H様タンパク質1、および補体因子Iが媒介するC3bの切断の補因子として作用しかつC3転換酵素およびC5転換酵素の解離速度をそれぞれ増加させる能力に置き換えられ得る。いくつかの実施形態では、本発明のポリヌクレオチド、ベクター、細胞または医薬組成物の投与前に、対象は、低レベル(例えば、通常レベルよりも低い)の補体因子H、例えば、眼において低レベルの補体因子Hおよび/または低血清レベルの補体因子Hを有する。ヒト対象の場合、補体因子Hの正常レベルは、対象の血清中約200~500μg/mLであり得る。したがって、低レベルの補体因子Hを有する対象では、血清中のレベルは、200μg/mL未満、0μg/mLを超える場合があり、例えば、0~100μg/mLである。あるいは、対象は、例えば、眼および/または血清において、正常レベルの内因性補体因子Hを有し得る。
補体因子I(CFI)
【0086】
C3b/C4b不活性化因子としても公知である補体因子I(因子I、CFI)は、ヒトではCFI遺伝子によりコードされるタンパク質である。
【0087】
補体因子Iは、約35μg/mLの濃度にて、チモーゲン様状態で循環するセリンプロテアーゼである(Roversiら、(2011年)PNAS 108:12839-12844)(Nilssonら、(2011年)Mol Immunol 48:1611-1620)。補体因子Iタンパク質は、単一のジスルフィド結合により結合された2つのポリペプチド鎖からなる高度にN-グリコシル化されたヘテロダイマーである。重鎖(50kDa)は、N末端領域;FI膜侵襲複合体(FIMAC)ドメイン;CD5様ドメインまたはスカベンジャー受容体システインリッチ(SRCR)ドメイン;2つの低密度リポタンパク質受容体(LDLr)ドメイン;および種間において配列多様性の部位である不明の機能のC末端領域を含む(Roversiら、(2011年)PNAS 108:12839-12844)。軽鎖(38kDa)は、保存された触媒残基を有するセリンプロテアーゼ(SP)ドメインを含む(Goldbergerら、(1987年)J Biol Chem262:10065-10071)。
【0088】
補体因子Iは、C3bをiC3b、C3d、およびC3d、gに切断することによりC3bを不活性化し、同様の方法でC4bをC4cおよびC4dに切断することによりC4bを不活性化する。その機能を適切に実行するために、補体因子Iは、C4b結合タンパク質(C4BP)、補体因子H(CFH)、補体受容体1(CR1/CD35)、および膜補因子タンパク質(MCP/CD46)などの補因子タンパク質の存在を必要とする(Degnら、(2011年)Am J Hum Genet 88:689-705)。
【0089】
iC3bは因子Bと結合できず、そのため補体カスケードの増幅または代替経路を介した活性化を永続させることはできない。したがって、C3bがiC3bに切断されると、代替経路の開始も末端補体カスケードの活性化も発生しない。
【0090】
iC3bは、多形核白血球(主に好中球)、NK細胞、およびマクロファージなどの単核貪食細胞上の補体受容体3(CR3)(CD11b/CD18)に結合し、それを活性化することにより、炎症誘発作用を提供できる。
【0091】
補体因子Iは、補因子CR1を必要とするプロテアーゼ活性を介してiC3b,gをC3d,gにプロセシングできる。C3d,gは、CR3に結合できない。補体受容体CR3と反応するiC3bは、補体活性化が炎症を引き起こす主要なメカニズムであるため、iC3bのC3d,gへの分解は、補体誘発性炎症を軽減するために不可欠である(Lachmann(2009年)Adv.Immunol.104:115-149)。
【0092】
C3bのiC3bへの切断を促進し、かつiC3bの分解を加速させる補体因子Iの独自の能力は、治療効果のために送達される必要のある量に影響する、ヒト血清中の比較的低濃度と組み合わされて、特に有利な標的になる。
【0093】
いくつかの実施形態では、補体因子Iポリペプチドは、C3bを不活性な分解産物に切断できる。例えば、補体因子Iポリペプチドは、C3bをiC3bに切断し得る。
【0094】
いくつかの実施形態では、補体因子Iポリペプチドは、iC3bを不活性な分解産物にプロセシングできる。例えば、補体因子Iポリペプチドは、iC3bをC3d,gにプロセシングできる、
【0095】
好ましい実施形態では、補体因子Iポリペプチドは、C3bをiC3bに切断し、iC3bをC3d,gにプロセシングできる、
【0096】
好適には、補体因子Iの断片または誘導体は、天然の補体因子Iの少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または100%のC3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性を保持し得る。
【0097】
補体因子I、またはその断片または誘導体のC3bを不活性化するおよびiC3b分解の活性は、当業者に公知である任意の好適な方法を使用して決定され得る。例えば、補体因子Iのタンパク質分解活性の測定は、Hsiungら(Biochem.J.(1982年)203:293-298)に記載されている。CFI活性の溶血性および凝集性アッセイは両方とも、Lachmann PJ&Hobart MJ(1978年)「Complement Technology」(Handbook of Experimental Immunology第3版、DM Weir Blackwells Scientific Publications Chapter 5A p17)に記載されている。タンパク質分解アッセイも含む、より詳細な説明は、Harrison RA(1996年)により、「Weir’s Handbook of Experimental Immunology」(第5版、編;Herzenberg Leonore A’Weir DM,Herzenberg Leonard A&Blackwell C Blackwells Scientific Publications Chapter 75 36-37)に記載されている。凝集アッセイは高感度であり、固定されたC3bをiC3bに変換しコングルチニンとの反応性を獲得する両方の最初の(ダブル)クリップの検出のために、および固定されたiC3bから始めコングルチニンとの反応性の喪失を探すことにより、C3dgへの最終クリップを検出するために使用できる。溶血アッセイは、C3bからiC3bへの変換について使用され、タンパク質分解アッセイは、すべてのクリップを検出する。
【0098】
いくつかの実施形態では、補体因子Iは、ヒト補体因子Iである。
【0099】
ヒト補体因子Iタンパク質の例は、UniProtKBアクセッション番号P05156を有するヒト補体因子Iタンパク質である。この例示的配列は、長さが583アミノ酸(配列番号1として開示される)であり、そのアミノ酸1~18はシグナル配列を形成する。
【0100】
いくつかの実施形態では、補体因子Iのアミノ酸配列は、配列番号1である。他の実施形態では、補体因子Iのアミノ酸配列は、配列番号1の19位~583位として開示される配列である。
【化1】
(配列番号1)
【0101】
いくつかの実施形態では、補体因子Iのアミノ酸配列は配列番号9であり、NCBIアクセッション番号NP_000195に対応する。他の実施形態では、補体因子Iのアミノ酸配列は、配列番号9の19位~583位として開示される配列である。
【化2】
(配列番号9)
【0102】
補体因子Iをコードする例示的野生型ヌクレオチド配列は、配列番号2として本明細書に開示される、NCBIアクセッション番号NM_000204を有するヌクレオチド配列である。
【化3】
(配列番号2)
【0103】
本発明で使用される補体因子Iのヌクレオチド配列は、好ましくはコドン最適化される。異なる細胞は、それらの特定のコドンの使用法が異なる。このコドンバイアスは、細胞型における特定のtRNAの相対的な存在量のバイアスに対応する。それらが対応するtRNAの相対的な存在量と一致するように調整されるように配列中のコドンを変更することにより、発現を増加させることができる。同様に、対応するtRNAが特定の細胞型においてまれであることが公知であるコドンを意図的に選択することにより、発現を減少させることができる。したがって、追加の翻訳制御が利用可能である。
【0104】
補体因子Iをコードする好ましいヌクレオチド配列は、配列番号10として開示されるヌクレオチド配列である。
【化4】
(配列番号10)
【0105】
いくつかの実施形態では、補体因子Iをコードするヌクレオチド配列は、配列番号10に対し少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性を有する。好ましくは、ヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質は、配列番号1または9によって表されるタンパク質の機能的活性を実質的に保持する。
【0106】
いくつかの実施形態では、補体因子Iをコードするヌクレオチド配列は、配列番号10である。
【0107】
他の実施形態では、補体因子Iをコードするヌクレオチド配列は、配列番号10の55~1752位に対し少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。好ましくは、ヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質は、配列番号1または9によって表されるタンパク質の機能的活性を実質的に保持する。
【0108】
他の実施形態では、補体因子Iをコードするヌクレオチド配列は、配列番号10の55~1752位である。
【0109】
補体因子Iをコードするさらなる例示的なコドン最適化ヌクレオチド配列は、配列番号8である。
【化5】
(配列番号8)
【0110】
本発明の利点は、補体因子Iを精製タンパク質の形態で調製することが特に困難であることである。したがって、本発明者らは、例えば、補体因子Iをコードするヌクレオチド配列を含むAAVベクターの形態で補体因子Iを投与することにより、例えば加齢性黄斑変性症(AMD)の治療を可能にするために、補体系を調節する方法を考案した。AAVベクターは、補体因子Iポリペプチドのin situ翻訳を可能にするために、目的部位、例えば、眼に投与され得る。
補体因子H(CFH)
【0111】
補体因子H(因子H、CFH)は、補体制御タンパク質である。
【0112】
補体因子Hは、典型的な濃度200~300μg/mLでヒト血漿中に存在する、大きな(155kDa)可溶性糖タンパク質である(Hakobyanら、(2008年)49(5):1983-90)。補体因子Hの主要機能は、補体系の代替経路を調節することである。
【0113】
補体因子Hは、補体因子I介在性C3bの切断のための補因子活性を提供する。補体因子Hはまた、C3bBb複合体(C3転換酵素)および(C3b)NBB複合体(C5転換酵素)の解離速度を増加させ、それによって代替的補体経路の活性を低下させる。
【0114】
補体因子Hは、20の補体制御タンパク質(CCP)モジュール(ショートコンセンサスリピートまたはスシドメインとも呼ばれる)で構成され、短いリンカー(3~8のアミノ酸残基)により相互に接続され、拡張ヘッドからテール様式で配置される。CCPモジュールの各々は、1~3 2~4の配置で結合した4つのシステイン残基ジスルフィドを有する約60のアミノ酸と、ほぼ不変のトリプトファン残基の周りに構築される疎水性コアで構成される。CCPモジュールは、1~20の番号が付けられる(タンパク質のN末端から)。CCP1~4およびCCP19~20はC3bと結合し、CCP7およびCCP19~20はGAGおよびシアル酸に結合する(Schmidtら、(2008年)Journal of Immunology181:2610-2619)。
【0115】
補体因子Hを使用した遺伝子治療は、マウスにおいて誘発されたAMD様病状を改善できることが示されている(Cashmanら、(2015年)J.Gene Med.17:229-243)。マウスの網膜下に以下を同時注射した:(i)ヒトAMDの多くの病理学的特徴を再現することが以前に示された、補体成分C3を発現するアデノウイルスベクター;および(ii)補体因子Hを発現するアデノウイルスベクター。補体因子Hの代わりにGFPを受ける対照動物と比較して、補体因子Hを形質導入したマウスは、内皮細胞増殖の91%の減少およびRPE萎縮の69%の減弱を示した。網膜電図検査は、補体因子Hを投与されたマウスにおいて、網膜機能の改善を示し、ロドプシンおよびRPE65の免疫細胞化学は、そのような動物の光受容体およびRPEのレスキューと一致していた。
【0116】
いくつかの実施形態では、補体因子Hポリペプチドまたはその断片または誘導体は、補体因子I介在性C3bの切断の補因子として作用できる。いくつかの実施形態では、補体因子Hポリペプチドまたはその断片または誘導体は、C3転換酵素およびC5転換酵素の解離速度を上げることができる。
【0117】
好ましい実施形態では、補体因子Hポリペプチドまたはその断片または誘導体は、補体因子I介在性C3bの切断の補因子として作用でき、かつC3転換酵素およびC5転換酵素の解離速度を上げることができる。
【0118】
いくつかの実施形態では、補体因子Hは、ヒト補体因子Hである。
【0119】
ヒト補体因子Hタンパク質の例は、UniProtKBアクセッション番号P08603を有するヒト補体因子Hタンパク質である。この例示的配列は、長さが1231アミノ酸(配列番号3として開示される)であり、そのアミノ酸1~18は、シグナル配列を形成する。
【0120】
いくつかの実施形態では、補体因子Hのアミノ酸配列は、配列番号3である。他の実施形態では、補体因子Hのアミノ酸配列は、配列番号3の19~1231位である。
【化6】
(配列番号3)
【0121】
補体因子Hをコードするヌクレオチド配列の例は、NCBIアクセッション番号NM_000186を有するヌクレオチド配列である。
【0122】
いくつかの実施形態では、補体因子Hをコードするヌクレオチド配列は、配列番号4である。
【化7】
(配列番号4)
【0123】
いくつかの実施形態では、補体因子Hをコードするヌクレオチド配列は、配列番号4に対し少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。好ましくは、ヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質は、配列番号3によって表されるタンパク質の機能的活性を実質的に保持する。
【0124】
他の実施形態では、補体因子Hをコードするヌクレオチド配列は、配列番号4である。
【0125】
他の実施形態では、補体因子Hをコードするヌクレオチド配列は、配列番号4の55~3696位に対し少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。好ましくは、ヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質は、配列番号3によって表されるタンパク質の機能的活性を実質的に保持する。
【0126】
他の実施形態では、補体因子Hをコードするヌクレオチド配列は、配列番号4の55~3696位である。
【0127】
他の実施形態では、補体因子Hをコードするヌクレオチド配列は、配列番号3に対し、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする。好ましくは、アミノ酸配列は、配列番号3によって表されるタンパク質の機能的活性を実質的に保持する。
【0128】
他の実施形態では、補体因子Hをコードするヌクレオチド配列は、配列番号3のアミノ酸配列をコードする。
【0129】
他の実施形態では、補体因子Hをコードするヌクレオチド配列は、配列番号3の19~1231位に対し、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するアミノ酸配列をコードする。好ましくは、アミノ酸配列は、配列番号3によって表されるタンパク質の機能的活性を実質的に保持する。
【0130】
他の実施形態では、補体因子Hをコードするヌクレオチド配列は、配列番号3の19~1231位のアミノ酸配列をコードする。
補体因子H様タンパク質1(FHL1)
【0131】
補体因子H様タンパク質1(FHL1)は、補体因子Hの最初の7つのCCPと、それに続く4つのアミノ酸のカルボキシ末端テールを含む補体因子Hのスプライスバリアントである(Clark,S.J.ら、(2015年)J Clin Med 4:18-31)。
【0132】
いくつかの実施形態では、FHL1は、ヒトFHL1である。
【0133】
いくつかの実施形態では、FHL1のアミノ酸配列は、配列番号11である。
【化8】
(配列番号11)
【0134】
本発明で使用されるFHL1のヌクレオチド配列は、好ましくはコドン最適化される。
【0135】
FHL1をコードする好ましいヌクレオチド配列は、配列番号12である。
【化9】
(配列番号12)
【0136】
いくつかの実施形態では、FHL1をコードするヌクレオチド配列は、配列番号12に対し、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する。好ましくは、ヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質は、配列番号11によって表されるタンパク質の機能的活性を実質的に保持する。
【0137】
他の実施形態では、FHL1をコードするヌクレオチド配列は、配列番号12である。
ポリヌクレオチド
【0138】
本発明のポリヌクレオチドは、DNAまたはRNA、好ましくはDNAを含み得る。それらは、一本鎖または二本鎖であり得る。当業者であれば、遺伝暗号の縮重の結果として、多数の異なるポリヌクレオチドが同じポリペプチドをコードし得ることが理解されるであろう。さらに、当業者は、慣習的技術を使用して、本発明のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行って、本発明のポリペプチドが発現される任意の特定の宿主生物のコドン使用頻度を反映させる得ることが理解されよう。
【0139】
ポリヌクレオチドは、当技術分野において利用可能な任意の方法により修飾され得る。そのような修飾は、本発明のポリヌクレオチドのin vivo活性の増強または寿命の延長のために実施され得る。
【0140】
DNAポリヌクレオチドなどのポリヌクレオチドは、組換えにより、合成により、または当業者が利用できる任意の手段により生成され得る。それらはまた、標準的手法によりクローン化されてよい。
【0141】
より長いポリヌクレオチドは一般に、組換え手段を使用して、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)クローニング技術を使用して生成されるであろう。これは、クローン化が望まれる標的配列に隣接するプライマーの対(例えば、約15~30ヌクレオチド)を作成すること、プライマーを動物またはヒト細胞から得られたmRNAまたはcDNAと接触させること、所望の領域の増幅をもたらす条件下でポリメラーゼ連鎖反応を行うこと、増幅断片を単離すること(例えば、反応混合物をアガロースゲルで精製することにより)、および増幅DNAを回収することを伴う。プライマーは、増幅されたDNAが好適なベクターにクローン化され得るように、好適な制限酵素認識部位を含むように設計され得る。
眼の構造
【0142】
本明細書に開示される薬剤は、加齢性黄斑変性症(AMD)などの眼疾患の治療または予防に関連して、哺乳動物、好ましくはヒトの眼に送達され得る。
【0143】
眼の疾患の治療における当業者であれば、眼の構造を詳細にかつ完全に理解するであろう。しかし、本発明に特に関連する以下の構造を記載する。
網膜
【0144】
網膜は多層膜であり、それは眼の後眼房の内側を覆い、視神経を介して脳に伝達される視覚世界の画像を感知する。眼の内側から外側に向かう順に、網膜は、神経感覚網膜および網膜色素上皮の層を含み、脈絡膜は、網膜色素上皮の外側にある。
神経感覚網膜および光受容体細胞
【0145】
神経感覚網膜は、光を直接感知する光受容体細胞を保持する。神経感覚網膜は、次の層を含む:内境界膜(ILM);神経線維層;神経節細胞層;内網状層;内顆粒層;外網状層;外顆粒層(光受容体の核);外境界膜(ELM);および光受容体(桿体および錐体の内側および外側のセグメント)。
【0146】
当業者は、光受容体細胞の詳細な理解を有するであろう。簡潔に言えば、光受容体細胞は、光を生物学的信号に変換する網膜内に位置する特殊なニューロンである。光受容体細胞は、桿体細胞および錐体細胞を含み、網膜全体に異なって分布する。
【0147】
桿体細胞は、主に網膜の外側に分布する。それらの細胞は非常に感度が高く、低い光レベルで視力を提供する。正常なヒト網膜には、平均して約1億2500万個の桿体細胞が存在する。
【0148】
錐体細胞は網膜全体に見られるが、中心窩、すなわち中心の高解像度視力を担う神経感覚網膜のくぼみに特に集中している。錐体細胞は、桿体細胞よりも感度が低い。正常なヒト網膜には、平均して600~700万個の錐体細胞が存在する。
網膜色素上皮
【0149】
網膜色素上皮(RPE)は、神経感覚網膜のすぐ外側に位置する細胞の色素層である。RPEは、光受容体細胞への栄養素および他の物質の輸送、および視力を改善するための散乱光の吸収を含む、複数の機能を実行する。
脈絡膜
【0150】
脈絡膜は、RPEと眼の外強膜の間にある血管層である。脈絡膜の血管系は、網膜への酸素および栄養素の供給を可能にする。
加齢性黄斑変性症(AMD)
【0151】
加齢性黄斑変性症(AMD)の臨床的進行は、黄斑の変化に応じた段階で特徴づけられる。初期のAMDの特徴は、ドルーゼンの出現であり、ドルーゼンは、網膜の下の細胞外破片の蓄積であり、臨床検査中におよび眼底写真で網膜における黄色い斑点として現れる。ドルーゼンは、サイズによって小(<63μm)、中(63~124μm)、および大(>124μm)に分類される。それらはまた、眼科検査でのそれらの縁の外観に応じて、ハードまたはソフトと見なされる。ハードドルーゼンは明確に定義された縁を有するが、ソフトドルーゼンにはそれほど定義されていない流動的を有する。加齢性眼疾患研究(AREDS)眼底写真の重症度スケールは、この状態に使用される主要な分類システムの1つである。
【0152】
AMDは、「乾性」および「湿性」(滲出性または新生血管)の形態に分類される。乾性AMDは湿性AMDよりも一般的であるが、乾性型は湿性型に進行する可能性があり、2つはかなりの数の場合に同時に発生する。乾性AMDは典型的には、RPE層中の細胞、その上にある光受容体細胞、および多くの場合脈絡膜毛細血管層の基礎となる細胞の進行性アポトーシスを特徴とする。重なる光受容体萎縮を伴うRPE細胞死のコンフルエント領域は、地図状萎縮(GA)と呼ばれる。このAMD形態の患者は、中心視力においてゆっくりとした進行性の悪化を経験する。
【0153】
湿性AMDは、RPEおよび黄斑の下の脈絡膜血管(脈絡毛細管板)から成長した異常な血管からの出血および/または体液の漏出を特徴とし、これらは、突然の視力喪失の原因であり得る。患者が経験する視力喪失の多くは、そのような脈絡膜血管新生(CNV)およびその二次的合併症によるものと推定されている。
【0154】
本明細書に記載のAMDの治療または予防は、上記のAMD表現型の出現を低減するかまたは予防し得る。好ましくは、AMDの治療は、視覚機能の維持または改善を可能にする。
【0155】
いくつかの実施形態では、AMDの治療または予防は、地図状萎縮の形成の予防または減少をもたらす。他の実施形態では、AMDの治療または予防は、地図状萎縮の進行を遅らせる。例えば、それは、同じ期間の未治療の眼と比較して、対象の治療された眼への投与後12ヶ月間にわたりGA領域の増加の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%の減少をもたらす。他の実施形態では、AMDの治療または予防は、地図状萎縮の治療、例えば、地図状萎縮の量の減少をもたらす。
【0156】
いくつかの実施形態では、AMDの治療または予防は、ドルーゼンの形成の予防または減少をもたらす。他の実施形態では、AMDの治療または予防は、既存のドルーゼンの減少、例えば、既存のドルーゼンのサイズおよび/または数の減少をもたらす。
【0157】
いくつかの実施形態では、AMDの治療または予防は、補体沈着の予防または減少をもたらす。他の実施形態では、AMDの治療または予防は、既存の補体沈着の減少をもたらす。
【0158】
いくつかの実施形態では、AMDの治療または予防は、視覚または視力の改善または回復をもたらす。他の実施形態では、AMDの治療または予防は、視覚または視力の喪失を軽減する。
【0159】
いくつかの実施形態では、AMDの治療または予防は、対象の読み取り速度の改善または回復をもたらす。他の実施形態では、AMDの治療または予防は、対象の読み取り速度の低下の軽減をもたらす。
【0160】
いくつかの実施形態では、AMDの治療または予防は、光受容体および/または網膜色素上皮(RPE)の喪失の減少または予防をもたらす。
糖尿病網膜症
【0161】
糖尿病網膜症は、糖尿病に関連する高血糖値によって引き起こされる網膜の血管の損傷を特徴とする状態である。未治療のままでは、糖尿病網膜症は、失明を引き起し得る。
【0162】
軽度の糖尿病網膜症の対象は良好な視覚を有し得るが、2つの型の糖尿病網膜症、すなわち糖尿病黄斑浮腫(DMO)および増殖糖尿病網膜症(PDR)は、対象の視力を脅かし得る。
【0163】
糖尿病黄斑浮腫は、眼の後ろの損傷血管から体液が漏出することを特徴とする。漏出した液体は黄斑に蓄積し、それは膨張および霧視(blurred vision)をもたらす。これは最終的に中心視覚の低下をもたらし、読書または運転が不可能になり得る。側方の視覚は通常、正常なままである。
【0164】
増殖糖尿病網膜症は、網膜血管の閉鎖を特徴とし、これは、網膜の表面での異常で破壊しやすい血管の成長をもたらす。これは、眼内への出血、瘢痕化、および網膜剥離により、視覚の永久喪失をもたらし得る。
ベクター
【0165】
ベクターは、ある環境から別の環境へのエンティティの移送を可能にするまたは容易にするツールである。
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
【0166】
一態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むAAVベクターを提供する。
【0167】
好ましくは、AAVベクターは、AAVベクター粒子の形態である。
【0168】
AAVに由来するものなどの、ウイルスベクターおよびウイルスベクター粒子を調製し、改変する方法は、当技術分野において周知である。
【0169】
AAVベクターは、AAVゲノムまたはその断片または誘導体を含み得る。
【0170】
AAVは、最大で5.2kbのサイズのゲノムをパッケージ化できることが知られている(Dong,J.-Y.ら、(1996年)Human Gene Therapy 7:2101-2112)。
【0171】
AAVゲノムは、ポリヌクレオチド配列であり、それはAAV粒子の生成に必要な機能をコードし得る。これらの機能としては、AAVゲノムのAAV粒子へのキャプシド形成を含む、宿主細胞におけるAAVの複製およびパッケージ化サイクルにおいて操作される機能が挙げられる。自然に発生するAAVは、複製欠損であり、複製およびパッケージ化サイクルを完了するために、トランスでのヘルパー機能の提供に依存する。したがって、本発明のAAVベクターのAAVゲノムは、典型的には複製欠損である。
【0172】
AAVゲノムは、ポジティブセンスまたはネガティブセンスのいずれかの一本鎖形態、あるいは二本鎖形態であり得る。二本鎖形態の使用は、標的細胞中でのDNA複製ステップをバイパスでき、そのため導入遺伝子の発現を促進できる。
【0173】
AAVゲノムは、AAVの任意の天然由来の血清型、分離株、またはクレードに由来し得る。したがって、AAVゲノムは自然に発生するAAVの全ゲノムであり得る。当業者に公知であるとおり、自然界で発生するAAVは、様々な生物学的系に従って分類され得る。
【0174】
一般に、AAVは、それらの血清型の観点から称される。血清型はAAVのバリアント亜種に対応しており、それは、キャプシド表面抗原の発現プロファイルにより、他のバリアント亜種と区別するために使用できる独特の反応性を有する。典型的には、特定のAAV血清型を有するウイルスは、任意の他のAAV血清型に特異的な中和抗体と効率的に交差反応しない。
【0175】
AAV血清型は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10およびAAV11、ならびに霊長類の脳から近年同定された、Rec2およびRec3などの組換え血清型を含む。これらのAAV血清型のいずれかを本発明で使用できる。
【0176】
いくつかの実施形態では、AAVベクター粒子は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、Rec2またはRec3AAVベクター粒子である。
【0177】
いくつかの実施形態では、AAVは、AAV1、AAV2、AAV5、AAV7、またはAAV8血清型であってよい。
【0178】
いくつかの実施形態では、AAVは、AAV2またはAAV8血清型であってよい。
【0179】
いくつかの実施形態では、AAVは、AAV2血清型であってよい。他の実施形態では、AAVは、AAV8血清型であってよい。
【0180】
キャプシドタンパク質は、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2008/124724号に開示されるような突然変異キャプシドタンパク質であり得る。
【0181】
いくつかの実施形態では、AAVベクターは、Y733F突然変異を有するAAV8キャプシドを含む。
【0182】
AAV血清型のレビューは、Choiら(2005年)Curr.Gene Ther.5:299-310およびWuら(2006年)Molecular Therapy 14:316-27に見出される。本発明において使用するためのAAVゲノムの配列、またはITR配列、rep遺伝子もしくはcap遺伝子などのAAVゲノムのエレメントの配列は、AAV全ゲノム配列についての以下のアクセッション番号から誘導され得る:アデノ随伴ウイルス1 NC_002077、AF063497;アデノ随伴ウイルス2 NC_001401;アデノ随伴ウイルス3 NC_001729;アデノ随伴ウイルス3B NC_001863;アデノ随伴ウイルス4 NC_001829;アデノ随伴ウイルス5 Y18065、AF085716;アデノ随伴ウイルス6 NC_001862;トリAAV ATCC VR-865 AY186198、AY629583、NC_004828;トリAAV株DA-1 NC_006263、AY629583;ウシAAV NC_005889、AY388617。
【0183】
AAVは、クレードまたはクローンの観点からも参照され得る。これは、天然由来のAAVの系統発生関係を指し、典型的には、共通の祖先にまでさかのぼることができ、そのすべての子孫を含むAAVの系統発生グループを指す。さらに、AAVは、特定の分離株、すなわち自然界に見られる特定のAAVの遺伝子分離株の観点から参照され得る。遺伝的分離株という用語は、他の自然発生AAVとの制限された遺伝的混合を受けたAAVの集団を表し、それにより遺伝子レベルで認識できるように異なる集団を定義する。
【0184】
当業者であれば、一般的な知識に基づき、本発明で使用するためのAAVの適切な血清型、クレード、クローンまたは分離株を選択できる。例えば、AAV5キャプシドは、遺伝性色覚異常の矯正に成功したことからも明らかなように、霊長類の錐体光受容体を効率よく形質導入することが示されている(Mancusoら、(2009年)Nature 461:784-7)。
【0185】
AAV血清型は、AAVの感染(または向性)の組織特異性を決定する。したがって、本発明に従って患者に投与されるAAVで使用するための好ましいAAV血清型は、眼内の標的細胞の感染に対し自然な向性または高効率を有するものである。いくつかの実施形態では、本発明で使用するためのAAV血清型は、神経感覚網膜、網膜色素上皮および/または脈絡膜の細胞を形質導入するものである。
【0186】
典型的には、AAVの天然由来の血清型、分離株、またはクレードのAAVゲノムは、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)を含む。ITR配列は、シスで作用して複製の機能的起点を提供し、細胞のゲノムからのベクターの組み込みおよび切除を可能にする。好ましい実施形態では、1つ以上のITR配列が、補体因子IまたはFHL1をコードするヌクレオチド配列に隣接する。AAVゲノムはまた典型的には、AAV粒子のパッケージング機能をコードするrep遺伝子および/またはcap遺伝子などのパッケージング遺伝子も含む。Rep遺伝子は、タンパク質Rep78、Rep68、Rep52、およびRep40またはそれらのバリアントの1つ以上をコードする。cap遺伝子は、VP1、VP2、およびVP3またはそれらのバリアントなどの1つ以上のキャプシドタンパク質をコードする。これらのタンパク質は、AAV粒子のキャプシドを構成する。キャプシドバリアントについては、以下で説明する。
【0187】
プロモーターは、パッケージング遺伝子のそれぞれに作動可能に連結される。このようなプロモーターの具体例としては、p5、p19、およびp40プロモーターが挙げられる(Laughlinら、(1979)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:5567-5571)。例えば、p5およびp19プロモーターは一般に、rep遺伝子を発現するために使用され、p40プロモーターは一般に、cap遺伝子を発現するために使用される。
【0188】
上記のとおり、本発明のAAVベクターで使用されるAAVゲノムはしたがって、自然に発生するAAVの完全なゲノムであり得る。例えば、完全なAAVゲノムを含むベクターを使用して、in vitroでAAVベクターまたはベクター粒子を調製してもよい。しかし、そのようなベクターは原則として患者に投与できるが、これが実際に行われることはめったにないであろう。好ましくは、AAVゲノムは、患者へ投与する目的のために誘導体化されるであろう。そのような誘導体化は当技術分野で標準的であり、本発明は、AAVゲノムの任意の既知の誘導体、および当技術分野において公知である技術を適用することにより生成され得る誘導体の使用を包含する。AAVゲノムおよびAAVキャプシドの誘導体化は、Coura and Nardi(2007年)Virology Journal 4:99およびChoiら、およびWuら(上記参照)において概説されている。
【0189】
AAVゲノムの誘導体は、in vivoで本発明のAAVベクターからの導入遺伝子の発現を可能にする、AAVゲノムの任意の短縮型または改変型を含む。典型的には、最小限のウイルス配列を含みさらに上記の機能を保持するようにAAVゲノムを大幅に短縮できる。これは、安全上の理由から、野生型ウイルスとのベクターの組換えのリスクを低減し、標的細胞内のウイルス遺伝子タンパク質の存在による細胞性免疫応答の誘発を回避するために好ましい。
【0190】
典型的には、誘導体は、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)、好ましくは2つ以上のITR、例えば2つ以上のITRを含むであろう。ITRのうちの1つ以上は、異なる血清型を有するAAVゲノムに由来し得るか、またはキメラもしくは突然変異ITRであり得る。好ましい突然変異ITRは、trs(末端分解部位)の欠失を有するものである。この欠失は、ゲノムの継続的な複製を可能にし、コーディング配列および相補的配列の両方を含む一本鎖ゲノム、すなわち自己相補的AAVゲノムを生成する。これは、標的細胞中でのDNA複製のバイパスを可能にし、このため、導入遺伝子の発現を促進する。
【0191】
1つ以上のITRは好ましくは、いずれかの末端で補体因子IまたはFHL1をコードするヌクレオチド配列に隣接するであろう。1つ以上のITRを含むことは、例えば、宿主細胞DNAポリメラーゼの作用による一本鎖ベクターDNAの二本鎖DNAへの変換後に、宿主細胞の核における本発明のベクターのコンカテマー形成を助けるために好ましい。そのようなエピソームコンカテマーの形成は、宿主細胞の寿命の間、ベクターコンストラクトを保護し、それにより、in vivoでの導入遺伝子の長期発現を可能にする。
【0192】
好ましい実施形態では、ITRエレメントは、誘導体中の天然AAVゲノムから保持される唯一の配列である。したがって、誘導体は好ましくは、ネイティブゲノムのrep遺伝子および/またはcap遺伝子ならびにネイティブゲノムの任意の他の配列を含まない。これは、上記の理由から、またベクターが宿主細胞ゲノムに組み込まれる可能性を減少させるためにも好ましい。さらに、AAVゲノムのサイズを減少させることは、導入遺伝子に加えて、ベクター内に他の配列エレメント(調節エレメントなど)を組み込む際の柔軟性を高めることを可能にする。
【0193】
したがって、以下の部分は、本発明の誘導体において除去され得る:1つの逆方向末端反復(ITR)配列、複製(rep)遺伝子およびキャプシド(cap)遺伝子。しかし、いくつかの実施形態では、誘導体は、AAVゲノムの1つ以上のrep遺伝子および/もしくはcap遺伝子または他のウイルス配列をさらに含み得る。自然に発生するAAVは、ヒト19番染色体の特定の部位で高頻度で統合され、ごくわずかなランダムな統合頻度を示し、そのため、ベクター中での統合能力の保持は、治療環境において許容され得る。
【0194】
誘導体がキャプシドタンパク質、すなわちVP1、VP2および/またはVP3を含む場合、誘導体は、1つ以上の自然に発生するAAVのキメラ、シャッフル、またはキャプシド修飾誘導体であり得る。特に、本発明は、同じベクター(すなわち、疑似型ベクター)内のAAVの異なる血清型、クレード、クローン、または分離株からのキャプシドタンパク質配列の提供を包含する。
【0195】
キメラ、シャッフル、またはキャプシド修飾誘導体は典型的には、AAVベクターに1つ以上の所望の機能を提供するために選択される。したがって、これらの誘導体は、AAV2などの、自然に発生するAAVゲノムを含むAAVベクターと比較して、遺伝子送達の効率の向上、免疫原性の低下(体液性または細胞性)、向性範囲の変化、および/または特定の細胞型の標的化の改善を示し得る。遺伝子送達の効率の向上は、細胞表面での受容体または共受容体の結合の改善、内在化の改善、細胞内でのおよび核への輸送の改善、ウイルス粒子の脱コーティングの改善、および一本鎖ゲノムの二本鎖形態への変換の改善により影響され得る。効率の向上はまた、特定の細胞集団の向性範囲または標的化の変化に関連している可能性があり、これにより、ベクター用量は、必要とされない組織への投与により希釈されない。
【0196】
キメラキャプシドタンパク質は、自然に発生するAAV血清型の2つ以上のキャプシドコード配列間の組換えにより生成されたものを含む。これは、例えば、ある血清型の非感染性キャプシド配列を異なる血清型のキャプシド配列と同時トランスフェクトする、マーカーレスキューアプローチにより実施されてよく、指示された選択を使用して、所望の特性を有するキャプシド配列を選択する。異なる血清型のキャプシド配列は、細胞内で相同組換えによって変更されて、新規キメラキャプシドタンパク質を生成できる。
【0197】
キメラキャプシドタンパク質はまた、キャプシドタンパク質配列を操作して、特定のキャプシドタンパク質ドメイン、表面ループ、または特定のアミノ酸残基を2つ以上のキャプシドタンパク質間で、例えば、異なる血清型の2つ以上のキャプシドタンパク質間で移送することにより生成されるものを含む。
【0198】
シャッフルされたまたはキメラのキャプシドタンパク質もまた、DNAシャッフリングによりまたはエラープローンPCRにより生成され得る。ハイブリッドAAVキャプシド遺伝子は、関連するAAV遺伝子の配列、例えば複数の異なる血清型のキャプシドタンパク質をコードするものをランダムに断片化すること、およびその後、自己プライミングポリメラーゼ反応で断片を再構築することにより作成でき、これはまた、配列相同性の領域でクロスオーバーを発生し得る。いくつかの血清型のキャプシド遺伝子をシャッフルすることによるこのように作成されたハイブリッドAAV遺伝子のライブラリーをスクリーニングして、所望の機能を有するウイルスクローンを同定できる。同様に、エラープローンPCRを使用して、AAVキャプシド遺伝子をランダムに変異させて、バリアントの多様なライブラリーを作成し、それを所望の特性に合わせて選択できる。
【0199】
キャプシド遺伝子の配列はまた、天然の野生型配列に関して特定の欠失、置換または挿入を導入するために遺伝子改変されてもよい。特に、キャプシド遺伝子は、キャプシドコード配列のオープンリーディングフレーム内に、またはキャプシドコード配列のN末端および/またはC末端で、関係のないタンパク質またはペプチドの配列を挿入することにより改変されてよい。
【0200】
関係のないタンパク質またはペプチドは有利には、特定の細胞型のリガンドとして作用し、それにより、標的細胞への改善された結合をもたらすか、または特定の細胞集団へのベクターの標的化の特異性を改善するものであり得る。例としては、網膜色素上皮での取り込みをブロックしそれにより周囲の網膜組織の導入を促進するRGDペプチドの使用を挙げることができる(Croninら、(2008年)ARVO Abstract:D1048)。関係のないタンパク質はまた、産生プロセスの一部としてウイルス粒子の精製を支援するもの、すなわち、エピトープまたは親和性タグであってもよい。挿入部位は典型的には、ウイルス粒子の他の機能(ウイルス粒子の内在化、輸送など)を妨害しないように選択される。当業者であれば、一般的な知識に基づいて、挿入に好適な部位を特定できる。特定の部位は、上で参照したChoiらに開示される。
【0201】
本発明はさらに、ネイティブAAVゲノムのものとは異なる順序および構成でAAVゲノムの配列を提供することを包含する。本発明はまた、1つ以上のAAV配列または遺伝子を、別のウイルスからの配列または2つ以上のウイルスからの配列から構成されるキメラ遺伝子で置き換えることを包含する。そのようなキメラ遺伝子は、異なるウイルス種の2つ以上の関連するウイルスタンパク質からの配列から構成され得る。
【0202】
本発明のAAVベクターは、AAVゲノムまたはその誘導体、ならびに補体因子I、またはFHL1導入遺伝子またはその誘導体をコードする配列を含むヌクレオチド配列の形態をとってよい。
【0203】
本発明のAAV粒子は、ある血清型のITRを有するAAVゲノムまたは誘導体が異なる血清型のキャプシドにパッケージされるトランスキャプシド形態を含む。本発明のAAV粒子はまた、2つ以上の異なる血清型からの未修飾キャプシドタンパク質の混合物がウイルスキャプシドを構成するモザイク形態を含む。AAV粒子はまた、キャプシド表面に吸着されたリガンドを担持する化学的に修飾された形態を含む。例えば、そのようなリガンドは、特定の細胞表面受容体を標的にするための抗体を含み得る。
【0204】
したがって、例えば、本発明のAAV粒子としては、AAV2ゲノムおよびAAV2キャプシドタンパク質を有するもの(AAV2/2)、AAV2ゲノムおよびAAV5キャプシドタンパク質を有するもの(AAV2/5)、およびAAV2ゲノムおよびAAV8キャプシドタンパク質を有するもの(AAV2/8)、ならびにAAV2ゲノムおよび複数の血清型のキャプシドタンパク質を有するものが挙げられる。
【0205】
AAVベクターは、本明細書で言及されるヌクレオチド配列の複数のコピー(例えば、2、3など)を含み得る。
プロモーターおよび調節配列
【0206】
本発明のポリヌクレオチドまたはベクターはまた、in vitroまたはin vivoで補体因子IまたはFHL1導入遺伝子の発現を可能にするエレメントを含み得る。これらは、発現制御配列とも呼ばれ得る。したがって、ポリヌクレオチドまたはベクターは典型的には、導入遺伝子をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結された発現制御配列(例えば、プロモーター配列)を含む。
【0207】
任意の好適なプロモーターを使用でき、その選択は当業者が容易に行い得る。プロモーター配列は、構成的に活性である(すなわち、任意の宿主細胞バックグラウンドにおいて作動可能である)、あるいは特定の宿主細胞環境でのみ活性であり得、したがって特定の細胞型(例えば、組織特異的プロモーター)における導入遺伝子の標的発現を可能にする。プロモーターは、別の因子、例えば宿主細胞に存在する因子の存在に応答して誘導性発現を示し得る。いずれの事象においても、ベクターが治療のために投与される場合、プロモーターは標的細胞のバックグラウンドにおいて機能的であることが好ましい。
【0208】
いくつかの実施形態では、プロモーターは、導入遺伝子が網膜細胞集団でのみ発現され得るようにするために、網膜細胞特異的発現を示すことが好ましい。したがって、プロモーターからの発現は、網膜細胞特異的であり得、例えば、神経感覚網膜および網膜色素上皮の細胞のみに限定され得る。
【0209】
網膜細胞特異的ではない、好ましいプロモーターとしては、任意によりサイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーエレメントと組み合わせた、ニワトリベータアクチン(CBA)プロモーターが挙げられる。本発明で使用するための例示的なプロモーターは、CAGプロモーター、例えば、rAVE発現カセットで使用されるプロモーターである(GeneDetect.com)。
【0210】
好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドまたはベクターは、CMVプロモーターを含む。
【0211】
CMVプロモーター配列の例は、次のとおりである:
【化10】
(配列番号13)
【0212】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドまたはベクターは、配列番号13に対し少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有するプロモーターを含む。好ましくは、ヌクレオチド配列は、配列番号13によって表されるプロモーターの機能的活性を実質的に保持する。
【0213】
他の実施形態では、ポリヌクレオチドまたはベクターは、配列番号13のヌクレオチド配列を有するプロモーターを含む。
【0214】
さらなるプロモーター配列の例は、次のとおりである:
【化11】
(配列番号5)
【0215】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドまたはベクターは、配列番号5に対し少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有するプロモーターを含む。好ましくは、ヌクレオチド配列は、配列番号5によって表されるプロモーターの機能的活性を実質的に保持する。
【0216】
他の実施形態では、ポリヌクレオチドまたはベクターは、配列番号5のヌクレオチド配列を有するプロモーターを含む。
【0217】
網膜特異的遺伝子発現を誘導するヒト配列に基づくプロモーターの例としては、桿体および錐体のロドプシンキナーゼ(Alloccaら、(2007年)J.Virol.81:11372-80)、錐体のみのPR2.1(Mancusoら、(2009年)Nature461:784-7)および/または網膜色素上皮のRPE65(Bainbridgeら、(2008年)N.Engl.J.Med.358:2231-9)またはVMD2(Esumiら、(2004年)J.Biol.Chem.279:19064-73)が挙げられる。
【0218】
本発明のポリヌクレオチドまたはベクターはまた、転写前または転写後に作用し得る1つ以上の追加の調節配列を含み得る。調節配列は、天然の導入遺伝子遺伝子座の一部であり得るか、または異種の調節配列であり得る。本発明のポリヌクレオチドまたはベクターは、天然の導入遺伝子転写物からの5’-UTRまたは3’-UTRの一部を含み得る。
【0219】
調節配列は、導入遺伝子の発現を容易にする、すなわち、転写物の発現を増加させる、mRNAの核外輸送を改善する、またはその安定性を向上させるように作用する、任意の配列である。そのような調節配列としては、例えば、エンハンサーエレメント、転写後調節エレメント、およびポリアデニル化部位が挙げられる。
【0220】
好ましいポリアデニル化部位は、ウシ成長ホルモンポリA(bGHポリA)シグナルである。
【0221】
ウシ成長ホルモンポリA(bGHポリA)シグナルの例は次のとおりである:
【化12】
(配列番号14)
【0222】
ウシ成長ホルモンポリA(bGHポリA)シグナルのさらなる例は次のとおりである:
【化13】
(配列番号6)
【0223】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドまたはベクターは、配列番号14または6に対し少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有するポリアデニル化シグナルを含む。好ましくは、ヌクレオチド配列は、配列番号14または6によって表されるポリアデニル化シグナルの機能的活性を実質的に保持する。
【0224】
他の実施形態では、ポリヌクレオチドまたはベクターは、配列番号14または6のヌクレオチド配列を有するポリアデニル化シグナルを含む。
【0225】
本発明のポリヌクレオチドまたはベクターの文脈において、そのような調節配列はシス作用性である。しかし、本発明はまた、追加の遺伝子コンストラクト上に位置するトランス作用性調節配列の使用を包含する。
【0226】
本発明のAAVベクターで使用するための好ましい転写後調節エレメントは、ウッドチャック肝炎転写後調節エレメント(WPRE)またはそのバリアントである。
【0227】
WPREの例は、次のとおりである:
【化14】
(配列番号7)
【0228】
WPREは、ガンマ、アルファ、ベータエレメントを所与の順序で含む、三部からなるエレメントである。最小限のガンマエレメントおよびアルファエレメントのみを含むWPREの短縮型(WPRE3とも称される;Choi,J.-H.ら、(2014年)Molecular Brain7:17)が、本発明において使用されてもよい。
【0229】
WPRE3配列の例は以下のとおりである:
【化15】
(配列番号15)
【0230】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドまたはベクターは、配列番号15または7に対し少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する転写後調節エレメントを含む。好ましくは、ヌクレオチド配列は、配列番号15または7によって表される転写後調節エレメントの機能的活性を実質的に保持する。
【0231】
他の実施形態では、ポリヌクレオチドまたはベクターは、配列番号15または7のヌクレオチド配列を有する転写後調節エレメントを含む。
【0232】
本発明のポリヌクレオチドまたはベクターで使用され得る別の調節配列は、足場付着領域(SAR)である。追加の調節配列は、当業者によって容易に選択され得る。
投与方法
【0233】
本発明のポリヌクレオチドまたはベクターは、全身に(例えば、末梢静脈注入により)投与され得、かつ局所的に(例えば、髄腔内注射によりCNS系に)投与され得る。好ましい実施形態では、ポリヌクレオチドまたはベクターは、眼内に投与される。
【0234】
「眼内」という用語は、眼の内部を指し、したがって眼内投与は、対象の眼の内部への投与に関連する。
【0235】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドまたはベクターは、網膜下、直接網膜、脈絡膜上または硝子体内注射により対象の眼に投与される。いくつかの実施形態では、上記の投与は、ロボットにより実行される。
【0236】
注射される薬剤組成物の容量は、例えば、約10~500μL、例えば、約50~500、100~500、200~500、300~500、400~500、50~250、100~250、200~250または50~150μLであってよい。容量は、例えば、約10、50、100、150、200、250、300、350、400、450または500μLであり得る。好ましくは、注射される薬剤組成物の容量は、100μLである。
【0237】
当業者は、個々の網膜下、直接網膜、脈絡膜上または硝子体内注射に精通しており、それらを十分に実行できるであろう。
【0238】
好ましくは、ポリヌクレオチドまたはベクターは、網膜下注射により投与される。
【0239】
いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチド、ベクターまたは医薬組成物は、対象の生涯の間に、1回以下、または2回以下で投与される。
網膜下注射
【0240】
網膜下注射は、網膜下腔、すなわち神経感覚網膜の下への注射である。網膜下注射の間、注射される材料は、光受容体細胞および網膜色素上皮(RPE)層に向けられ、それらの間に空間を作り出す。
【0241】
小さい網膜切開術により注射が行われる場合、網膜剥離が生じ得る。注射された材料により生成される網膜の剥離した隆起層は、「ブレブ」と呼ばれる。
【0242】
網膜下注射により作り出される穴は、注射された溶液が投与後に硝子体腔に著しく逆流して戻らないように十分に小さくなければならない。このような逆流は、薬剤の効果が標的区域から離れる方向に向けられるため、薬剤が注射されるときに特に問題であるであろう。好ましくは、注射は、神経感覚網膜に自己密封式入口点を作り出す。すなわち、注射針が取り外されると、針により作成された穴は、注射された材料が穴から放出されることがほとんどまたは実質的にないように再密封される。
【0243】
このプロセスを容易にするために、専門の網膜下注射針が市販されている(例えば、DORC 41G Teflon網膜下注射針、Dutch Ophthalmic Research Center International BV,Zuidland,The Netherlands)。これらは網膜下注射を実行するために設計された針である。
【0244】
注射中に網膜への損傷が発生しない限り、および十分に小さい針が使用される限り、実質的にすべての注射された材料は、網膜剥離の局在部位で剥離した神経感覚網膜とRPEの間に局在したままである(すなわち、硝子体腔に逆流しない)。実際に、短い時間枠にわたるブレブの典型的な持続は、注射された材料の硝子体への逃げが通常ほとんどないことを示す。ブレブは、注射された材料が吸収されると、より長い時間枠で消散し得る。
【0245】
眼、特に網膜、の可視化は、例えば光コヒーレンストモグラフィーを使用して、術前に行うことができる。
【0246】
注射される薬剤組成物の容量は、例えば、約10~500μL、例えば、約50~500、100~500、200~500、300~500、400~500、50~250、100~250、200~250または50~150μLであってよい。容量は、例えば、約10、50、100、150、200、250、300、350、400、450または500μLであり得る。好ましくは、注射される薬剤組成物の容量は、100μLである。より大きな容量は、網膜が伸長するリスクを増加し得るが、より小さな容量は、見えづらいであろう。
2段階網膜下注射
【0247】
本発明のポリヌクレオチドまたはベクターは、第1の溶液の網膜下注射により局在的な網膜剥離を生じさせる2段階の方法を使用することにより、精度および安全性を高めて送達され得る。第1の溶液は、ポリヌクレオチド、またはベクターを含まない。第2の網膜下注射を次に使用して、ポリヌクレオチド、またはベクターを含む薬剤を、第1の網膜下注射により作られたブレブの網膜下液に送達する。薬剤を送達する注射は網膜を剥離するために使用されないので、特定の容量の溶液が、この第2のステップにおいて注射され得る。
【0248】
いくつかの実施形態では、ベクターの網膜下注射は、
(a) 網膜を少なくとも部分的に剥離して網膜下ブレブを形成するのに有効な量で網膜下注射により対象に溶液を投与するステップであって、溶液は、ポリヌクレオチド、またはベクターを含まない、投与するステップと、
(b) ステップ(a)により形成されたブレブ中へ網膜下注射により薬剤組成物を投与するステップであって、薬剤は、ポリヌクレオチド、またはベクターを含む、投与するステップ、
を含む。
【0249】
網膜を少なくとも部分的に剥離するためにステップ(a)において注射される溶液の容量は、例えば、約10~1000μL、例えば、約50~1000、100~1000、250~1000、500~1000、10~500、50~500、100~500、250~500μLであってよい。容量は、例えば、約10、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900または1000μLであってよい。
【0250】
ステップ(b)で注射される薬剤組成物の容量は、例えば、約10~500μL、例えば、約50~500、100~500、200~500、300~500、400~500、50~250、100~250、200~250または50~150μLであってよい。容量は、例えば、約10、50、100、150、200、250、300、350、400、450または500μLであってよい。好ましくは、ステップ(b)で注射される薬剤組成物の容量は100μLである。より大きな容量は、網膜が伸長するリスクを増加し得るが、より小さな容量は、見えづらいであろう。
【0251】
薬剤を含まない溶液(すなわち、ステップ(a)の「溶液」)は、以下に記載されるように、薬剤を含む溶液と同様に配合され得る。薬剤を含まない好ましい溶液は、平衡塩類溶液(BSS)であるかまたは網膜下腔のpHおよび浸透圧に適合した同様の緩衝液である。
手術中の網膜の可視化
【0252】
特定の状況下、例えば末期の網膜変性の間に、網膜を特定することは困難である。なぜなら網膜は薄く、透明でありかつ網膜が置かれている破壊された厚い色素上皮に対し見ることが難しいためである。青い硝子体色素(例えば、BrilliantPeel(登録商標)、Geuder;MembraneBlue-Dual(登録商標)、Dorc)の使用は、網膜剥離手順(すなわち、本発明の2段階網膜下注射法の手順(a))用に作られた網膜穴の同定を容易にし、その結果薬剤を、硝子体腔に逆流して戻るリスクなしに、同じ穴を通して投与できる。
【0253】
青い生体色素の使用はまた、厚い内境界膜または網膜上膜が存在している網膜の任意の領域を同定する。なぜならこれらの構造のいずれかを介する注射は、網膜下腔への明瞭なアクセスを妨げるからである。さらに、手術直後の期間におけるこれらの構造のいずれかの収縮は、網膜入口穴の伸長をもたらす可能性があり、それは、硝子体腔への薬剤の逆流をもたらし得る。
脈絡膜上注射
【0254】
本発明のポリヌクレオチドまたはベクターは、マイクロカテーテルを利用するab externoアプローチを使用して脈絡膜上腔に送達され得る(例えば、Pedenら(2011年)PLoS One6(2):e17140)。この方法では、角膜輪部結膜周囲切開を行って裸の強膜を露出させ、その後強膜切開を行って裸の脈絡膜を露出させる。マイクロカテーテル(任意によりiLuminレーザーダイオードベースのマイクロ照明システム(iScience Interventional)などの照明システムに接続された、iScience InterventionalのiTrack250Aなど)を脈絡膜上腔に導入し、視神経乳頭に向かって後方に進める。所望の位置へのマイクロカテーテルの先端の操作後に、ポリヌクレオチド、またはベクターの注射は、網膜および脈絡膜内にブレブを形成する。
【0255】
したがって、いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドまたはベクターは、(i)脈絡膜上腔へのマイクロカテーテルの導入、(ii)先端が網膜の患部領域の近くになるまで、脈絡膜上腔内でマイクロカテーテルを前進させること、および(iii)マイクロカテーテルの先端からポリヌクレオチド、またはベクターを注入してブレブを形成すること、を含む方法によって脈絡膜上に送達される。
【0256】
いくつかの実施形態では、上の投与手順は、ロボットにより直接実行される。
医薬組成物および注射溶液
【0257】
本発明の薬剤、例えば、ポリヌクレオチドまたはベクターは、医薬組成物に配合され得る。これらの組成物は、薬剤に加えて、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、緩衝液、安定剤、または当技術分野で周知である他の材料を含み得る。そのような材料は無毒でなければならず、有効成分の有効性を妨げてはならない。担体または他の材料の正確な性質は、投与経路、例えば、網膜下、直接網膜、脈絡膜上または硝子体内注射などの投与経路に従って当業者によって決定され得る。
【0258】
医薬組成物は典型的には、液体形態である。液体医薬組成物は、一般に、水、石油、動物油または植物油、鉱油または合成油などの液体担体を含む。生理食塩水、塩化マグネシウム、デキストロースまたは他の糖類溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコールが含まれ得る。場合によっては、プルロン酸(PF68)0.001%などの界面活性剤を使用してもよい。
【0259】
罹患部位での注射の場合、有効成分は、パイロジェンを含まず、かつ好適なpH、等張性および安定性を有する、水溶液の形態であり得る。当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射、リンガー注射、または乳酸リンガー注射などの等張ビヒクルを使用して、好適な溶液を十分に調製できる。必要に応じて、防腐剤、安定剤、緩衝液、酸化防止剤および/または他の添加剤を含めてもよい。
【0260】
遅延放出の場合、薬剤は、当技術分野において公知である方法による生体適合性ポリマーから形成されたマイクロカプセル中にまたはリポソーム担体システムでなど、徐放用に配合された医薬組成物に含まれ得る。
治療方法
【0261】
本明細書における治療へのすべての言及は、治癒的、緩和的および予防的治療を含み、本発明の文脈において、予防への言及は、より一般的には予防的治療に関連することを理解されたい。治療は、疾患の重症度の進行を阻止することも含み得る。
【0262】
哺乳動物、特にヒトの治療が好ましい。しかし、ヒトの治療および動物の治療の両方が、本発明の範囲内である。
バリアント、誘導体、類似体、相同体および断片
【0263】
本明細書で言及される特定のタンパク質およびヌクレオチドに加えて、本発明はまた、それらのバリアント、誘導体、類似体、相同体および断片の使用を包含する。
本発明の文脈において、任意の所与の配列のバリアントは、問題のポリペプチドまたはポリヌクレオチドがその機能を実質的に保持するように、残基の特定の配列(アミノ酸または核酸残基であるかどうか)が修飾された配列である。バリアント配列は、自然に発生するタンパク質に存在する少なくとも1つの残基の付加、欠失、置換、修飾、置換、および/または変化によって得ることができる。
【0264】
本発明のタンパク質またはポリペプチドに関して本明細書で使用される「誘導体」という用語は、得られたタンパク質またはポリペプチドがその内因性機能の少なくとも1つを実質的に保持することを条件として、その配列からまたはその配列への1つ(または複数)のアミノ酸残基の置換、改変、修飾、置換、欠失および/または付加のいずれかを含む。
【0265】
ポリペプチドまたはポリヌクレオチドに関して本明細書で使用される「類似体」という用語は、任意の模倣物、すなわち、模倣するポリペプチドまたはポリヌクレオチドの内因性機能の少なくとも1つを保有する化合物を含む。
【0266】
典型的には、アミノ酸置換は、改変された配列が必要な活性または能力を実質的に保持するという条件で、例えば、1、2または3~10または20の置換を行うことができる。アミノ酸置換は、自然に発生しない類似体の使用を含み得る。
【0267】
本発明で使用されるタンパク質はまた、サイレント変化を生じ、かつ機能的に同等のタンパク質をもたらす、アミノ酸残基の欠失、挿入または置換を有し得る。内因性機能が保持される限り、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、および/または両親媒性の性質の類似性に基づいて、意図的なアミノ酸置換を行うことができる。例えば、負に帯電したアミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられ、正に帯電したアミノ酸としては、リジンおよびアルギニンが挙げられ、同様の親水性値を有する非荷電極性頭部基を有するアミノ酸としては、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、およびチロシンが挙げられる。
【0268】
保存的置換は、例えば、以下の表に従って行われてよい。第2の列の同じブロック、好ましくは第3の列の同じ行のアミノ酸が互いに置換され得る:
【表1】
【0269】
本明細書で使用される「相同体」という用語は、野生型アミノ酸配列および野生型ヌクレオチド配列と特定の相同性を有するエンティティを意味する。「相同性」という用語は、「同一性」と同等であってよい。
【0270】
相同配列は、対象配列に対し少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%または90%同一である、好ましくは少なくとも95%または97%または99%同一であり得るアミノ酸配列を含み得る。典型的には、相同体は、対象のアミノ酸配列と同じ活性部位などを含むであろう。相同性は、類似性(すなわち、類似の化学的性質/機能を有するアミノ酸残基)の観点からも考慮できるが、本発明の文脈において、配列同一性の観点から相同性を表すことが好ましい。
【0271】
相同配列は、対象配列に対し少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%または90%同一である、好ましくは少なくとも95%または97%または99%同一であり得るヌクレオチド配列を含み得る。相同性は、類似性の観点からも考慮できるが、本発明の文脈において、配列同一性の観点から相同性を表すことが好ましい。
【0272】
好ましくは、本明細書に詳述される配列番号のいずれか1つに対しパーセント同一性を有する配列への言及は、言及される配列番号の全長にわたり記載されたパーセント同一性を有する配列を指す。
【0273】
相同性の比較は、眼で、またはより一般的には、すぐに利用できる配列比較プログラムの助けを借りて行うことができる。これらの市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列間の相同性または同一性のパーセンテージを計算できる。
【0274】
相同性のパーセンテージは、隣接する配列にわたり計算され得る。すなわち、一方の配列を他方の配列と整列し、一度に1残基ずつ、一方の配列中の各アミノ酸を他方の配列内の対応するアミノ酸と直接比較する。これは「非ギャップ」アラインメントと呼ばれる。典型的には、このような非ギャップアラインメントは、比較的短い数の残基に対してのみ行われる。
【0275】
これは非常に単純でかつ一貫性のある方法であるが、例えば、他の点では同一の配列ペアでは、ヌクレオチド配列中の1つの挿入または欠失により、次のコドンがアライメントから外れ得ることを考慮に入れていない。このため、グローバルアラインメントを実施したときに、パーセント相同性が大きく低下する可能性がある。その結果、ほとんどの配列比較方法は、全体的な相同性スコアに過度のペナルティを課すことなく、可能な挿入および欠失を考慮した最適なアラインメントを生成するように設計されている。これは、配列アラインメントに「ギャップ」を挿入して、局所的な相同性を最大化しようとすることにより達成される。
【0276】
しかし、これらのより複雑な方法は、アラインメントで発生する各ギャップに対し「ギャップペナルティ」を割り当て、そのため、同数の同一アミノ酸について、2つの比較された配列間のより高い関連性を反映する、可能な限りギャップが少ない配列アラインメントは、多くのギャップを有するものよりも高いスコアを達成する。「アフィンギャップコスト」は典型的には、ギャップの存在に対し比較的高いコストを課し、かつギャップ中の後続の各残基に対しより小さなペナルティを課すために使用される。これは、最も一般的に使用されるギャップスコアリングシステムである。高いギャップペナルティは当然、ギャップの少ない最適化されたアライメントを生じる。ほとんどのアライメントプログラムは、ギャップペナルティが変更されることを認める。しかし、このようなソフトウェアを配列比較に使用する場合は、デフォルト値を使用することが好ましい。例えば、GCGウィスコンシンベストフィットパッケージを使用する場合、アミノ酸配列のデフォルトのギャップペナルティは、ギャップに対し-12、各エクステンションに対し-4である。
【0277】
最大パーセンテージ相同性の計算はしたがって最初に、ギャップペナルティを考慮する、最適なアラインメントの作成を必要とする。このようなアライメントを実行するための好適なコンピュータプログラムは、GCGウィスコンシンベストフィットパッケージである(University of Wisconsin,U.S.A.;Devereuxら、(1984年)Nucleic Acids Res.12:387)。配列比較を実施できる他のソフトウェアの例としては、これに限定されないが、BLASTパッケージ(Ausubelら、(1999年)同上-第18章)、FASTA(Atschulら、(1990年)J.Mol.Biol.403-410)および比較ツールのGENEWORKS suiteが挙げられる。BLASTおよびFASTAは、いずれもオフラインおよびオンライン検索に利用できる(Ausubelら、(1999年)同上、ページ7-58~7-60を参照されたい)。しかし、一部のアプリケーションでは、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。BLAST2配列と呼ばれる別のツールも、タンパク質とヌクレオチド配列とを比較するために利用できる(FEMS Microbiol.Lett.(1999年)174:247-50;FEMS Microbiol.Lett.(1999年)177:187-8を参照されたい)。
【0278】
最終パーセント相同性は、同一性の観点から測定できるが、アラインメントプロセス自体は典型的には、all-or-nothingペアの比較に基づかない。代わりに、化学的類似性または進化距離に基づいて各ペアワイズ比較にスコアを割り当てる、スケーリングされた類似性スコアマトリックスが一般的に使用される。一般的に使用されるこのようなマトリックスの例は、BLOSUM62マトリックスであり、これはBLAST 一連のプログラムのデフォルトマトリックスである。GCGウィスコンシンプログラムは通常、パブリックデフォルト値または提供されるならばカスタムシンボル比較表のいずれかを使用する(詳細については、ユーザーマニュアルを参照のこと)。いくつかのアプリケーションでは、GCGパッケージのパブリックデフォルト値を使用するか、他のソフトウェアの場合は、BLOSUM62などのデフォルトマトリックスを使用することが好ましい。
【0279】
ソフトウェアが最適なアラインメントを生成すると、パーセント相同性、好ましくはパーセント配列同一性を計算できる。ソフトウェアは典型的には、配列比較の一部としてこれを実行し、数値結果を生成する。
【0280】
全長補体因子IまたはFHL1の「断片」もバリアントあり、この用語は典型的には、機能的に、または例えば、アッセイにおいて目的のあるポリペプチドまたはポリヌクレオチドの選択された区域を指す。「断片」はしたがって、完全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチドの一部であるアミノ酸または核酸配列を指す。
【0281】
このようなバリアントは、部位特異的変異導入などの標準的な組換えDNA技術を使用して調製され得る。挿入が行われる場合、挿入部位のいずれかの側の自然に発生する配列に対応する5’および3’隣接領域と共に、挿入をコードする合成DNAを作製できる。隣接領域は、自然に発生する配列中の部位に対応する簡便な制限部位を含み、その結果、配列は、適切な酵素(複数可)により切断され、その切断部に合成DNAが連結され得る。次に、DNAを本発明に従い発現させて、コードされたタンパク質を作製する。これらの方法は、DNA配列を操作するための当技術分野において公知である多数の標準技術を例示にすぎず、他の既知の技術が使用されてもよい。
【0282】
当業者であれば、開示された本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示された本発明のすべての特徴を組み合わせてよいことを理解するであろう。
【0283】
本発明の好ましい特徴および実施形態をここで、非限定的な例として記載する。
【0284】
本発明の実施は、他に示されない限り、当業者の能力の範囲内である、化学、生化学、分子生物学、微生物学および免疫学の従来の技術を使用する。そのような技術は文献において説明されている。例えば、Sambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniatis,T.(1989年)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel,F.M.ら(1995年および定期的補足)Current Protocols in Molecular Biology、第9章、第13章および第16章、John Wiley&Sons;Roe,B.,Crabtree,J.and Kahn,A.(1996年)DNA Isolation and Sequencing:Essential Techniques,John Wiley&Sons;Polak,J.M.and McGee,J.O’D.(1990年)In Situ Hybridization:Principles and Practice,Oxford University Press;Gait,M.J.(1984年)Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;およびLilley,D.M.and Dahlberg,J.E.(1992年)Methods in Enzymology:DNA Structures Part A:Synthesis and Physical Analysis of DNA,Academic Pressを参照のこと。これらの一般的なテキストのそれぞれは、参照により本明細書に組み込まれる。
実施例
実施例1
コドン最適化
【0285】
補体因子I(CFI)および補体因子H様タンパク質1(FHL1)をコードするヌクレオチド配列を、表1に要約される一連のアプローチを使用してコドン最適化した。
【表2】
【0286】
「基本的な」コドン最適化のために、CFIまたはFHL-1の配列を、5つのオンライン10コドン最適化ツールに入力した。
1.GeneArt(https://www.thermofisher.com/uk/en/home/life-science/cloning/gene- synthesis/geneart-gene-synthesis/geneoptimizer.html)
2.GenScript(https://www.genscript.com/quick_order/gene_services_gene_synthesis)
3.IDT(https://eu.idtdna.com/CodonOpt)
4.JCat(http://www.jcat.de/)
5.COOL
(http://cool.syncti.org/setup_input_sequence_create_wf1.php?=Start+Using+Codon+ Optimization+On-Line+%3E%3E%3E)
【0287】
標準のヒトの遺伝暗号を、すべてのツールに使用した。
【0288】
上記のツール1~4について、1つの配列を、各ツールから生成した。
【0289】
ツール5では、デフォルト設定を使用し、標的発現宿主をホモサピエンスに設定した。さらに、RPEで高発現される39の遺伝子(表2)を、ツールに入力した
(Booij,J.C.ら(2010年)PLoS One5:e9341の表4に基づく)。
【表3】
【0290】
ツール5は、CFI用に70の最適化された配列を生成し、FHL-1用に55の最適化された配列を生成し、最上位の配列を使用した。
【0291】
「手動」コドン最適化では、上で生成された5つの基本的なCFIおよびFHL-1コドン最適化配列を手動最適化して、クリプティックスプライス部位、マイクロRNA結合部位を排除し、タンデム重複コドンを除去し、かつGC含量を確認した。
クリプティックスプライス部位の除去
【0292】
クリプティックスプライス部位を、www.Fruitfly.orgツールを用いて同定した。カットオフ値0.4を分析に使用したが、0.75を超えるスコアの配列のみを変更した。
【0293】
スプライス部位を、可能な限りドナー部位のGTまたはアクセプター部位のAGを変更することにより除去した。不可能な場合(バリンをコードする配列など)、5’隣接塩基を変更した。
【0294】
変更されたすべての配列を次に、www.Fruitfly.orgツールで分析して、すべてのスプライス部位が除去されたかしきい値0.75未満に減少したことを確認した。
マイクロRNA結合部位の除去
【0295】
マイクロRNAを、www.Genecards.orgツールを使用して同定した。
【0296】
CFIについて、次のmiRNA結合部位を同定した:hsa-mir-335-5p、hsa-mir-181a-5p、hsa-mir-26b-5p。
【0297】
FHL-1について、次のmiRNA結合部位を同定された(補体因子H、CFHの配列に基づく):hsa-mir-146a-5p。
【0298】
各コドン最適化配列(必要に応じてスプライス部位を除去した後)を次に、STarMirツール(http://sfold.wadsworth.org/cgi-bin/starmirtest2.pl)に通過させて、miRNA部位が依然として存在するかを確認した。ロジスティック確率が0.75を超えると同定されたmiRNA部位を、すべて変更した。
タンデム重複コドンの除去
【0299】
すべての配列を、タンデム重複コドンについて手動で確認した。これらが見つかった場合、2番目のコドンを、ホモサピエンスで次に最も一般的に使用されるコドンに変更した(SnapGeneコドン使用表を使用)。
【0300】
野生型およびコドン最適化配列の詳細を以下に示す:
GT005:CFI野生型配列:
【化16】
(配列番号16)
RC001:FHL-1野生型配列:
【化17】
(配列番号17)
RC128:CFI GeneArt-基本的:
【化18】
(配列番号18)
RC129:CFI GeneArt-手動で最適化:
【化19】
(配列番号19)
RC130:CFI Genscript-基本的:
【化20】
(配列番号20)
RC131:CFI Genscript-手動で最適化:
【化21】
(配列番号21)
RC132:CFI IDT-基本的:
【化22】
(配列番号22)
RC133:CFI IDT-手動で最適化:
【化23】
(配列番号23)
RC134:CFI JCat-基本的:
【化24】
(配列番号24)
RC135:CFI JCat-手動で最適化:
【化25】
(配列番号25)
RC136:CFI COOL-基本的:上記の配列番号10を参照のこと。
RC137:CFI COOL-手動で最適化:
【化26】
(配列番号26)
RC138:FHL-1 GeneArt-基本的:
【化27】
(配列番号27)
RC139:FHL-1 GeneArt-手動で最適化:
【化28】
(配列番号28)
RC140:FHL-1 Genscript-基本的:
【化29】
(配列番号29)
RC141:FHL-1 Genscript-手動で最適化:
【化30】
(配列番号30)
RC142:FHL-1 IDT-基本的:
【化31】
(配列番号31)
RC143:FHL-1 IDT-手動で最適化:
【化32】
(配列番号32)
RC144:FHL-1 JCat-基本的:
【化33】
(配列番号33)
RC145:FHL-1 JCat-手動で最適化:
【化34】
(配列番号34)
RC146:FHL-1 COOL-基本的:上記の配列番号12を参照のこと。
RC147:FHL-1 COOL-手動で最適化:
【化35】
(配列番号35)
プラスミドの生成
【0301】
10のコドン最適化配列すべてを合成し、AAVベクターバックボーンにクローン化した。ベクターはまた、修飾されたCBA/CAGプロモーター(CMVエンハンサーを有するニワトリベータアクチン;「CBA」)に隣接するAAV-2の左および右の逆方向末端反復(ITR)を含んだ。プロモーターは、コドン最適化されたFHL1またはCFIの発現を駆動する。さらに、導入遺伝子の下流に、修飾されたウッドチャック肝炎ウイルスの転写後調節エレメント(WPRE)配列およびcDNAの3’側に提供されるウシ成長ホルモンポリA(bGHポリA)配列が続いた。
トランスフェクション
【0302】
20のプラスミドすべてを、以下の手順を使用してARPE19細胞にトランスフェクトした。
1日目:ARPE19細胞を分離し、ViCellを使用してカウントした。細胞を48ウェルプレートにウェルあたり500μL DMEM、10%FBSで、6x104細胞/ウェルで播種した。
2日目:コンフルエンシーを確認し、70~80%であることを見出した。細胞を次に、2連で1:3のDNA:PEI比でPEIを使用して、0.25μgのプラスミドDNAでトランスフェクトした。
1.2x0.25μgのDNAを、2x5μLのPBSで希釈した。
2.2x0.75μLPEIを、2x5μLPBSで希釈した。
3.PEIミックスを、DNAミックスに滴下し、混合し次いで室温で20分間インキュベートした。
4.2x250μLDMEM/Glutamax/10%FBSを、混合物に添加した。
5.培地を細胞から除去し、250μL/ウェルのDNA/PEI複合体と交換した。
3日目:培地を除去し、125μLの無血清DMEM/Glutamaxと交換した。
5日目:培地を、回収し、14000rpmで10分間、4℃で遠心分離し次いで上清を、新しいチューブに移した。
ウエスタンブロット
【0303】
トランスフェクションの上清を、ウエスタンブロットにより分析した(CFIおよびFHL-1に対する一次抗体:ヤギ抗血清CFI 1:3000;Quidel A312 1:3000;および二次抗体ウサギ抗ヤギHRP1:5000を使用した)。
【0304】
ウエスタンブロット分析結果を、
図2に示す。
CFI ELISA
【0305】
トランスフェクションからの上清を、以下の手順を使用してCFIのELISAにより分析した:
1日目:ELISAプレートを、1xコーティングバッファーで4000分の1に希釈した1ウェルあたり50μLのヒツジ抗CFIポリクローナル抗体でコートした。プレートを、4℃で一晩保存した。
2日目:プレートをウェルあたり200μLのPBS-Tween(0.05%)で3回洗浄し、次いでティッシュにブロットした。200μLのPBS-Tween(0.05%)中の1%BSA画分Vを、各ウェルに適用し、室温で2時間ブロックした。
【0306】
サンプルおよび検量線を、ブロッキングインキュベーション中に作成した。標準曲線を、DMEM 2%FBSで希釈した精製CFIタンパク質(Sigma C5938-1MG)から作成した。サンプルを、DMEM2%FBSで1:10、1:20、および1:40に希釈した。
【0307】
2時間のブロッキング後、プレートを上記のとおり3回洗浄し、次に50μLのサンプルまたは標準を各ウェルにロードし、室温で1時間インキュベートした。
【0308】
1時間後に、プレートを上記のように洗浄し、次に抗CFI(0x21)抗体をDMEM5%FBSで2000分の1に希釈し、50μLを、各ウェルに適用し、室温で1時間インキュベートした。
【0309】
1時間後に、プレートを上記のように洗浄し、次にロバ抗マウス-HRP抗体をDMEM5%FBSで5000分の1に希釈し、50μLを、各ウェルに適用し、室温で1時間インキュベートした。
【0310】
1時間後に、プレートを上記のように洗浄し、次に100μLのTMB試薬を、各ウェルに適用し、室温で暗所にて約15分間インキュベートした。十分な青色が得られたら、100μLの1M硫酸を、各ウェルに添加して反応を停止させた。
【0311】
A450を次に記録し、データを、処理し、分析のためにMicrosoftExcelに転送した。
【0312】
CFI ELISAの結果を、
図3に示す。
FHL1 ELISA
【0313】
形質導入からの上清を、以下の手順を使用して、FHL1用のELISAにより分析した:
1日目:ELISAプレートを、100mM炭酸塩/重炭酸塩バッファー(pH9.6)で5μg/mLに希釈した50μL/ウェルの抗FHL-1抗体(Biorad、AbD33594.1)でコートした。プレートを、4℃で一晩保存した。
2日目:プレートを、ウェルあたり200μLのPBS-Tween(0.05%)で3回洗浄し、次いでティッシュにブロットした。200μLのPBS-Tween(0.05%)中の1%BSA画分Vを各ウェルに適用し、室温で2時間ブロックした。
【0314】
サンプルおよび検量線を、ブロッキングインキュベーション中に作成した。標準曲線を、DMEM+2%FBSで希釈したFHL1-Hisタンパク質から作成した。サンプルを、ブロッキング溶液で1:5、1:10、および1:30に希釈した。
2時間のブロッキング後に、プレートを上記のとおり3回洗浄し、次に50μLのサンプルまたは標準を、各ウェルにロードし、室温で1時間インキュベートした。
【0315】
1時間後に、プレートを上記のように洗浄し、次に抗CFH抗体(0x24、Santa Cruz Biotechnologies,sc-53067)を、DMEM5%FBSで3000分の1に希釈し、50μLを、各ウェルに適用し、室温で1時間インキュベートした。
【0316】
1時間後に、プレートを上記のように洗浄し、次に抗マウス-HRP抗体を、DMEM5%FBSで5000分の1に希釈し、50μLを、各ウェルに適用し、室温で1時間インキュベートした。
【0317】
1時間後に、プレートを上記のように洗浄し、次に100μLのTMB試薬を、各ウェルに適用し、室温で暗所にて約15分間インキュベートした。十分な青色が得られたら、100μLの1M硫酸を、各ウェルに添加して反応を停止させた。
【0318】
A450を次に、記録し、データを、処理し、分析のためにMicrosoftExcelに転送した。
【0319】
FHL1 ELISAの結果を、
図4に示す。
AAV2ベクターの作製
【0320】
最良の4つ(CFI)および5つ(FHL1)の配列を、AAVを使用する研究に進めた。
HEK293細胞を、典型的なトリプルトランスフェクションプロトコルに従って、pRepCapおよびpHelperと共に、選択されたコドン最適化プラスミドでトランスフェクトした。
1日目:HEK293細胞を、分離し、ViCellを使用してカウントした。細胞を、10cmディッシュに6x105細胞/cm2で10mL DMEM10%FBS/ディッシュに播種した。
2日目:コンフルエンシーを確認し、70~80%であることを見出した。
【0321】
培地を、5%FBSを含む10mL DMEM/Glutamaxに交換した。
【0322】
4時間後に、細胞を、DNA:PEI比1:3でPEIを使用して、5μgのプラスミドでトランスフェクトした。
3日目:15mM酪酸を、各プレートの11mL培地に添加した。
5日目:上清を、回収し、1000rpmで10分間遠心分離して細胞の破片を除去した。
【0323】
上清を、新しいチューブに移し、1/5容量のAAVanced(AAV110A-1、Cambridge Bioscience)試薬を、添加した(11mL中2.75mL)。
【0324】
混合物を次に、4℃で保存した。
8日目:上清/AAVanced混合物を、1000rpmで30分間4℃で遠心分離した。
【0325】
上清を廃棄し、ペレットを、500μLのPBSに再懸濁した。これを次に、1.5mLチューブに移し、1500gで3分間遠心分離した。
【0326】
上清を廃棄し、残りのペレットを、元の容量の1/100に再懸濁した(すなわち、上清11mLあたり100μL)。
ベクターを、-80℃で保存した。
ARPE19細胞の形質導入
【0327】
ARPE19細胞を、コドン最適化導入遺伝子を含むベクターで形質導入した。
1日目:ARPE19細胞を分離し、ViCellをカウントし次いで200μL DMEM/Glutamax+10%FBS中ウェルあたり1x105細胞で播種した。
2日目:ベクターを、細胞に加えた。
3日目:培地を、無血清培地に交換した。
4日目:上清を回収し、14000rpmで10分間、4℃で遠心分離し、次いで新しいチューブに移した。
【0328】
総タンパク質濃度を、ブラッドフォードアッセイにより評価した。
CFI ELISA
【0329】
形質導入からの上清を、上記のプロトコルに従いCFIについてELISAにより分析した。
【0330】
CFI ELISAの結果を、
図5に示す。
FHL-1 ELISA
【0331】
形質導入からの上清を、上記のプロトコルに従いFHL1についてELISAにより分析した。
【0332】
【0333】
RC136(CFI;配列番号10)およびRC146(FHL-1;配列番号12)はそれぞれ、野生型配列および試験した他のコドン最適化配列よりも高い導入遺伝子の発現を与える。
【0334】
上記の明細書に記載されているすべての刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の開示された剤、組成物、使用および方法の様々な改変および変形は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、当業者に明らかであろう。本発明は、特定の好ましい実施形態に関連して開示されているが、特許請求される本発明は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際、当業者に明らかである、本発明を実施するための開示された態様の様々な改変は、以下の特許請求の範囲内にあることが意図されている。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-03-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】