(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005999
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】超音波プローブ、及び超音波システム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/00 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
A61B8/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106523
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 義雄
(72)【発明者】
【氏名】小島 力
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 紘斗
(72)【発明者】
【氏名】久保 景太
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601EE11
4C601FF01
4C601GA01
4C601GB06
4C601GB18
4C601GB20
4C601GB32
4C601GC03
4C601GD04
4C601LL26
(57)【要約】
【課題】長期に亘って対象に装着可能な超音波プローブを提供する。
【解決手段】超音波プローブは、対象に貼着して超音波測定を行う。超音波プローブは、超音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施する複数の超音波素子がアレイ状に配置された超音波素子アレイを含み、超音波素子アレイが第一面に配置される第一基板と、第一基板の第一面とは反対側の第二面に対向して配置された第二基板と、第一基板及び第二基板を内部に収容し、超音波素子アレイに対応する位置に超音波が通過する開口が設けられる筐体と、を備え、第二基板は、複数の超音波素子に接続され、他の端末装置と無線通信可能な通信部を含み、当該超音波プローブの重量が150g以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象に貼着して超音波測定を行う超音波プローブであって、
超音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施する複数の超音波素子がアレイ状に配置された超音波素子アレイを含み、前記超音波素子アレイが第一面に配置される第一基板と、
前記第一基板の前記第一面とは反対側の第二面に対向して配置された第二基板と、
前記第一基板及び前記第二基板を内部に収容し、前記超音波素子アレイに対応する位置に前記超音波が通過する開口が設けられる筐体と、を備え、
前記第二基板は、複数の前記超音波素子に接続され、他の端末装置と無線通信可能な通信部を含み、
前記超音波プローブの重量が150g以下である、超音波プローブ。
【請求項2】
前記第一面に直交する軸を第一軸として、前記筐体の前記第一軸に沿った寸法が10mm以下である、請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項3】
前記第二基板は、複数の前記超音波素子を制御する制御回路を備え、
前記制御回路は、複数の前記超音波素子を駆動させて前記超音波を送信させる駆動部と、複数の前記超音波素子が前記超音波を受信した際に出力する信号を処理する信号処理部と、を含む、請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項4】
前記筐体の前記開口に、前記超音波素子アレイから出力された前記超音波を所定の深度に収束させる音響レンズが設けられる、請求項1に記載の超音波プローブ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の超音波プローブと、
前記通信部を介して通信可能に接続される端末装置と、
を備える、超音波システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波プローブ、及び超音波システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体の所定部位に超音波を送信することで、人体の内部断層画像の撮像や所定組織の治療等の医療操作を行う超音波プローブが知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1に記載の超音波プローブは、ケーブルを介して装置端末に接続されている。また、超音波プローブは、超音波を出力する超音波トランスデューサーが収納された筐体を有し、筐体はプローブ本体と、プローブ本体に着脱自在なプローブヘッドとを有する。このような超音波プローブでは、操作者がプローブ本体を手に持ち、プローブヘッドを人体の肌(表面)に沿うように当接させることで超音波プローブを操作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような超音波プローブの操作は、専門的な知識を有するものが適正に超音波プローブを操作する必要があり、また、超音波を用いた各種処理を行っている間、操作者が超音波プローブのプローブ本体を握り、プローブヘッドが対象者の肌に触れるように姿勢を維持しなければいけない。したがって、例えば、長時間に亘って超音波プローブによる測定処理を実施したい場合には、常に操作者が超音波プローブを持ち続けなければいけないとの課題もあり、容易に利用することができない。
このような理由から、長期に亘って対象に装着可能な超音波プローブが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の第一態様の超音波プローブは、対象に貼着して超音波測定を行う超音波プローブであって、超音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施する複数の超音波素子がアレイ状に配置された超音波素子アレイを含み、前記超音波素子アレイが第一面に配置される第一基板と、前記第一基板の前記第一面とは反対側の第二面に対向して配置された第二基板と、前記第一基板及び前記第二基板を内部に収容し、前記超音波素子アレイに対応する位置に前記超音波が通過する開口が設けられる筐体と、を備え、前記第二基板は、複数の前記超音波素子に接続され、他の端末装置と無線通信可能な通信部を含み、前記超音波プローブの重量が150g以下である。
【0006】
本態様の超音波プローブにおいて、前記第一面に直交する軸を第一軸として、前記筐体の前記第一軸に沿った寸法が10mm以下であることが好ましい。
【0007】
本態様の超音波プローブにおいて、前記第二基板は、複数の前記超音波素子を制御する制御回路を備え、前記制御回路は、複数の前記超音波素子を駆動させて前記超音波を送信させる駆動部と、複数の前記超音波素子が前記超音波を受信した際に出力する信号を処理する信号処理部と、を含むことが好ましい。
【0008】
本態様の超音波プローブにおいて、前記筐体の前記開口に、前記超音波素子アレイから出力された前記超音波を所定の深度に収束させる音響レンズが設けられることが好ましい。
【0009】
本開示の第二態様の超音波システムは、上述したような超音波プローブと、前記通信部を介して通信可能に接続される端末装置と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施形態に係る超音波プローブ、及び超音波システムを示す概略斜視図。
【
図2】本実施形態の超音波プローブの外観を示す斜視図。
【
図3】
図2のA-A線で切断した際の超音波プローブの概略断面図。
【
図4】本実施形態の超音波基板の概略構成を示す平面図。
【
図5】
図4のB-B線で切断した際の超音波基板の概略断面図。
【
図6】本実施形態の第二基板を-Z側から見た際の各構成の配置例を示す図。
【
図7】本実施形態の超音波プローブの人体への装着例を示す図。
【
図8】医療用テープ102のテープ強度を計測する実験例を示す図。
【
図10】本実施形態の超音波システムのブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の超音波プローブ、及び超音波システムを示す概略図である。
超音波システム1は、
図1に示すように、超音波プローブ2と、超音波プローブ2と通信可能に接続された端末装置10と、を備える。
この超音波システム1は、超音波プローブ2が対象(例えば本実施形態では人体)の表面に接触された状態で、超音波プローブ2から人体内に超音波を送出する。また、生体内の器官にて反射された超音波を超音波プローブ2にて受信し、その受信信号に基づいて、例えば生体内の内部断層画像を取得したり、生体内の器官の状態(例えば血流等)を測定したり、所定の器官に超音波を収束させることで治療を行ったりする。
【0012】
[1.端末装置10の構成]
端末装置10は、例えば、
図1に示すように、ボタンやタッチパネル等を含む操作部11と、表示部12と、を備える。また、端末装置10は、図示は省略するが、メモリー等により構成された記憶部と、CPU(Central Processing Unit)等により構成された演算部と、を備える。端末装置10は、記憶部に記憶された各種プログラムを、演算部に実行させることにより、超音波システム1を制御する。例えば、端末装置10は、超音波プローブ2の駆動を制御するための指令を出力したり、超音波プローブ2から入力された超音波信号に基づいて、生体の内部構造の画像を形成して表示部12に表示させたり、血流等の生体情報を測定して表示部12に表示させたりする。このような端末装置10としては、例えば、タブレット端末やスマートフォン、パーソナルコンピューター等の端末装置を用いることができ、超音波プローブ2を操作するための専用端末装置を用いてもよい。
【0013】
[2.超音波プローブ2の構成]
図2は、超音波プローブ2の外観を示す斜視図である。
図3は、
図2のA-A線で超音波プローブ2を切断した場合の超音波プローブ2の概略断面図である。
超音波プローブ2は、
図2及び
図3に示すように、筐体3と、筐体3に設けられた開口31に配置されて外部に露出する音響レンズ4と、筐体3の内部に収納される第一基板5、第二基板6と等を備える。
[2-1.第一基板5の構成]
第一基板5は、筐体3に設けられた開口31に対向して配置される基板である。この第一基板5は、超音波基板51と、デバイス基板52と、を備える。超音波基板51は、デバイス基板52よりも開口31側に配置されて、デバイス基板52に接合される。つまり、超音波基板51は、第一基板5において、開口31に対向する第一面を構成する。
【0014】
[2-1-1.超音波基板51の構成]
図4は、本実施形態の超音波基板51の概略構成を示す平面図である。また、
図5は、超音波基板51を
図4のB-B線で切断した際の概略断面図である。
図4に示すように、超音波基板51には、X方向及びY方向に沿って、複数の超音波素子(超音波トランスデューサーTr)が2次元アレイ状に配置されている。ここで、X方向及びY方向に直交する方向をZ方向とし、Z方向に平行なZ軸は、本開示の第一軸に相当する。
本実施形態では、Y方向に配置された複数の超音波トランスデューサーTrにより、1CH(チャンネル)の送受信列Ch(振動子)が構成される。また、当該1CHの送受信列ChがY方向に沿って複数並んで配置されることで、1次元アレイ構造の超音波素子アレイArが構成される。
なお、
図4は、説明の便宜上、超音波トランスデューサーTrの配置数を減らしているが、実際には、より多くの超音波トランスデューサーTrが配置されていてもよい。
【0015】
超音波基板51は、
図5に示すように、素子基板511と、素子基板511上に設けられる振動板512と、振動板512上に設けられる圧電素子513と、を備えて構成されている。
素子基板511は、例えばSi等の半導体基板により構成されている。この素子基板511は、各々の超音波トランスデューサーTrに対応した基板開口部511Aが設けられている。本実施形態では、各基板開口部511Aは、素子基板511の基板厚み方向(Z方向)を貫通した貫通孔であり、当該貫通孔の-Z側(デバイス基板52側)に振動板512が設けられる。
また、基板開口部511Aの振動板512が設けられない側(+Z)には、生体に近い音響インピーダンスを有する音響層515が充填されている。音響層515としては、例えば、シリコーン等の樹脂材を用いることができる。
そして、素子基板511の+Z側には、音響レンズ4が設けられている。音響レンズ4は、素子基板511に接して設けられていてもよく、素子基板511との間に音響層515が介在してもよい。この音響レンズ4は、上述したように、筐体3の開口31から露出され、超音波測定の実施時に人体に接する部分となる。当該音響レンズ4は、音響層515と同様、生体に近い音響インピーダンスを有する例えばシリコーン等により構成されており、X方向を軸としたシリンドリカル形状に形成されている。
【0016】
振動板512は、例えばSiO2及びZrO2の積層体等より構成され、素子基板511のデバイス基板52側全体を覆って設けられている。すなわち、振動板512は、基板開口部511Aを構成する隔壁511Bにより支持され、基板開口部511Aの-Z側を閉塞する。この振動板512の厚み寸法は、素子基板511に対して十分小さい厚み寸法となる。
【0017】
圧電素子513は、各基板開口部511Aを閉塞する振動板512上にそれぞれ設けられている。この圧電素子513は、例えば、振動板512から-Z側に向かって下部電極513A、圧電膜513B、及び上部電極513Cを積層した積層体により構成されている。
ここで、振動板512のうち、基板開口部511Aを閉塞する部分は振動部512Aを構成し、この振動部512Aと、圧電素子513とにより、1つの超音波トランスデューサーTrが構成される。
このような超音波トランスデューサーTrでは、下部電極513A及び上部電極513Cの間に所定周波数の矩形波電圧(駆動信号)が印加されることで、圧電膜513Bが撓んで振動部512Aが振動して+Z側に超音波が送出される。また、生体から反射された超音波(反射波)により振動部512Aが振動されると、圧電膜513Bの上下で電位差が発生する。これにより、下部電極513A及び上部電極513Cの間に発生する電位差を検出することで、受信した超音波を検出することが可能となる。
【0018】
本実施形態では、
図4に示すように、下部電極513Aは、Y方向に沿って直線状に形成されており、1CHの送受信列Chを構成する複数の超音波トランスデューサーTrを接続する。この駆動端子513Dは、例えば、フレキシブルプリント基板53(
図3参照)により第二基板6の配線回路に電気接続されている。
【0019】
また、上部電極513Cは、X方向に沿って直線状に形成されており、X方向に並ぶ超音波トランスデューサーTrを接続する。そして、上部電極513Cの±X側端部は共通電極線514に接続される。この共通電極線514は、Y方向に沿って複数配置された上部電極513C同士を結線し、その端部には、第二基板6の配線回路に電気接続される共通端子514Aが設けられている。この共通端子514Aは、例えば、フレキシブルプリント基板53(
図3参照)により、第二基板6に電気接続されている。
なお、
図3では、フレキシブルプリント基板53によって、駆動端子513Dや共通端子514Aが第二基板6に接続される例を示すが、例えば、リード線による接続を用いてもよく、デバイス基板52に設けられた貫通電極を用いた接続としてもよい。
また、本実施形態では、超音波基板51に、1次元アレイ構造の超音波素子アレイArが構成される例を示すが、X方向に配置される超音波トランスデューサーTr、Y方向に配置される超音波トランスデューサーTrをそれぞれ個別駆動させる構成として、2次元アレイ構造の超音波素子アレイを構成してもよい。
【0020】
[2-1-2.デバイス基板52の構成]
デバイス基板52は、超音波基板51とともに第一基板5を構成し、開口31に対向する超音波基板51の-Z側の面に接合される。つまり、デバイス基板52の-Z側の面は、第一基板5において第一面とは反対側の第二面を構成する。
デバイス基板52は、超音波基板51の振動板512側で、かつ基板厚み方向から見て隔壁511Bと重なる位置において、例えば樹脂等の固定部材により接合されて、超音波基板51を補強する。
【0021】
[2-2.第二基板6の構成]
第二基板6は、第一基板5の-Z側に配置される。第二基板6は、上述したようにフレキシブルプリント基板53によって駆動端子513Dや共通端子514Aが接続される。
図6は、第二基板6を-Z側から見た際の各構成の配置例を示す図である。
第二基板6には、
図6に示すように、-Z側の面に、ICチップ61、通信部62、及び電池設置部63が設けられている。
図6では、説明の簡略化のため1つのICチップ61が設けられる例を示すが、複数設けられていてもよい。1つ又は複数のICチップ61により制御回路80(
図10参照)が構成される。
ICチップ61と第二基板6との接続は、例えば、半田付けなどによりICチップ61の端子足を第二基板6に形成されたプリント回路(配線回路)に接合してもよい。
或いは、ICチップ61として、ベアチップを用いてもよく、この場合、ベアチップと第二基板6に形成されたプリント回路(配線回路)とをワイヤボンディングなどによって接続してもよい。ベアチップを用いる場合では、ICチップのパッケージ筐体が不要となるので、より薄型化を図ることができる。
【0022】
通信部62は、配線回路を介して、ICチップ61や駆動端子513Dに接続されており、無線通信により端末装置10と通信する。通信部62の通信方式としては特に限定されず、例えば、Bluetooth(登録商標)、赤外線、無線LAN等を用いることができる。
電池設置部63には、電池が設置される。電池としては、例えば充電池を用いることができる。
そして、本実施形態では、これらのICチップ61、通信部62、電池設置部63は、第二基板6の-Z側の面で同一平面状に配置されており、Z方向において重なり合わない。
【0023】
[3.筐体3の構成と、人体への超音波プローブ2の貼着]
筐体3は、+Z側の一面に開口31を有し、開口31から露出する音響レンズ4が設けられる。そして、筐体3の内部には、第一基板5、及び第二基板6等が配置され、第一基板5及び第二基板6が+Z側から-Zに向かって積層される。
このような構成の筐体3では、厚み方向(Z方向)の寸法を最小にでき、超音波プローブ2の小型化を図れる。具体的には、筐体3のZ方向の厚みは、10mm以下に形成される。
このように、筐体3の厚みを10mm以下とすることで、超音波プローブ2を人体に貼着した際に、利用者に違和感を与えることなく、超音波プローブ2を肌表面と衣服との隙間に収めることができる。
【0024】
また、本実施形態では、筐体3は、Z方向から見た形状が略矩形状に形成される。なお、短軸及び長軸を有する矩形状の筐体3を例示するが、例えば楕円型や多角形型などの形状であってもよく、また正方形状であってもよい。ここで、筐体3のZ方向からの平面視において長軸の方向の長さ(矩形であれば長辺)が50mm以下で、短軸の長さが25m以上に形成されていることが好ましい。
人体の表面は曲面が多く、50mmを超えるサイズとなる場合、開口31から露出する音響レンズ4を含む超音波通過面を人体に一様に密着させることが困難となる。長軸方向の長さを50mm以下とすることで、人体の表面に対して、一様に密着させることができ、例えば人体内の内部断層画像を撮像する場合等において、適正に超音波を所望の範囲に送信することが可能となる。
また、筐体3の短軸の長さが15mmより小さい場合、筐体3に収納される超音波素子アレイArの面積も小さくなる。この場合、測定可能な範囲や深度、超音波の音圧も小さくなる。これに対して、筐体3の短軸方向の長さを15mm以上とすることで、適正な測定を実施可能なサイズの超音波素子アレイArを筐体3の開口31から露出させることができる。
【0025】
図7は、本実施形態の超音波プローブ2の人体への装着例を示す図である。
図7に示すように、本実施形態の超音波プローブ2では、超音波プローブ2と人体Oとの間に、音響インピーダンスを整合させるゲル101を介在させたうえで、超音波プローブ2を人体Oに密着させ、医療用テープ102を用いて超音波プローブ2を人体に貼着する。
用いる医療用テープ102は、一般的に肌に損傷を与えることなく、貼着及び取外しができるような粘着力に設定されている。
医療用テープ102を用いて超音波プローブ2を人体に固定する場合、超音波プローブ2の外側に引き延ばされる医療用テープ102の貼着長さHと、医療用テープ102の幅L(
図7参照)とによって、テープが剥がれる強度が変化する。
また、このような医療用テープ102を用いた超音波プローブ2の固定では、可能な限り人体への貼着面積を少なくし、テープ長さも短くすることが好ましい。これにより、医療用テープ102による肌への刺激を抑制でき、かつテープコストの削減をも図れる。テープの長さを短くするためには、医療用テープ102の幅方法を筐体3の長軸方向に合わせ、筐体3の短軸方向に沿って医療用テープ102を引き延ばして貼着する。
本実施形態では、超音波プローブ2の筐体3は、長軸方向の長さが50mm以下であり、短軸方向の長さが15mm以上である。したがって、医療用テープ102としては、テープ幅Lは、筐体3の長軸に対応して50mm以上とすることが好ましい。
【0026】
図8は、医療用テープ102のテープ強度を計測する実験例を示す図であり、
図9は、その結果、つまり、医療用テープ102の強度を示す図である。
つまり、本実施形態の超音波プローブ2と同一形状を有する錘体9を、医療用テープ102を用いて人体Oに対して貼着させた際に、医療用テープの短軸方向の貼着長さHを変化させて、錘体9が落ちる貼着長さHを計測した。これを、錘体9の重さ(荷重)を変化させて複数回の実験を行うことで、
図9に示すような関係図が得られた。
ここで、本実施形態では、超音波プローブ2は、総重量が150g以下となるように形成されている。この場合、
図9に示すように、医療用テープ102の貼着長さHが5mm程度であっても、超音波プローブ2の落脱を抑制できる。
つまり、本実施形態の超音波プローブ2は、総重量が150g以下となるため、医療用テープ102の人体Oへの貼着面積を小さくでき、人体の肌への影響を抑制できる。そして、医療用テープの貼着長さHを5mm~10mmの短い寸法とした場合であっても、超音波プローブ2の落脱を抑制でき、貼着長さHを短くできる分、コストダウンにもつながる。
【0027】
[4.超音波システム1のシステム構成]
次に、本実施形態の超音波システム1のシステム構成について説明する。
図10は、本実施形態の超音波システム1のブロック図である。
本実施形態では、上述したように、第二基板6の複数のICチップ61により制御回路80が構成されている。この制御回路80には、
図10に示すように、マルチプレクサ(MUX81)、送信回路82、遅延回路83、受信回路84,整相加算回路85、プロセッサー86等を含む。
MUX81は、超音波素子アレイArの各超音波トランスデューサーTr、送信回路82、及び受信回路84に接続される。MUX81は、プロセッサー86からの駆動切替信号に基づいて制御され、超音波トランスデューサーTrと送信回路82とを接続する送信接続、及び、超音波トランスデューサーTrと受信回路84とを接続する受信接続を切り替える。
【0028】
送信回路82は、送信接続の際に、各超音波トランスデューサーTrに対して、所定の駆動電圧の駆動信号を出力し、各超音波トランスデューサーTrから超音波を送信させる。
遅延回路83は、プロセッサー86により制御され、送信回路82から各超音波トランスデューサーTrに出力される駆動信号の出力タイミングを設定する。本実施形態では、複数の超音波トランスデューサーTrにより1CHの送受信列Chが構成され、当該1CHの送受信列Chから送信された超音波は、音響レンズ4によって所定の深度に収束される。遅延回路83によって、複数の送受信列Chを遅延駆動させることで、X方向に超音波ビームを振ることができ、XZ面に沿った面内の内部断層画像を測定可能な超音波測定を実施することができる。
なお、送信回路82及び遅延回路83により本開示の駆動部が構成される。
【0029】
受信回路84は、プロセッサー86の制御の元、受信接続時に各チャンネルから出力される受信信号を処理する。例えば、受信信号の信号強度を増幅した上で、AD変換処理を行う。
整相加算回路85は、プロセッサー86の制御の元、受信回路84から出力された受信信号の整相加算処理を行って、超音波信号を出力する。
なお、受信回路84及び整相加算回路85により本開示の信号処理部が構成される。
【0030】
プロセッサー86は、各回路の動作を制御するとともに、通信部62を制御して端末装置10と通信し、各種情報を送受信する。
具体的には、プロセッサー86は、端末装置10から超音波測定を実施する旨の測定指令を受信することで、送信回路82、遅延回路83、受信回路84,及び整相加算回路85を制御して、超音波プローブ2による超音波測定を実施する。そして、プロセッサー86は、整相加算回路85から出力された超音波信号を通信部62から端末装置10に送信する。
【0031】
端末装置10は、演算部が、記憶部に記憶された各種プログラムを実行することで、例えば
図10に示すように、無線送受信部111、画像処理部112、画像表示部113として機能する。
無線送受信部111は、ユーザーの操作等に基づいて、超音波プローブ2に対して測定指令信号を送信し、超音波プローブ2から超音波信号を受信する。
画像処理部112は、得られた超音波信号に基づいて対象物(人体)の内部断層画像を生成する。
画像表示部113は、生成された内部断層画像を表示部12に表示させる。
【0032】
[5.本実施形態の作用効果]
本実施形態の超音波プローブ2は、超音波の送受信を実施する複数の超音波トランスデューサーTrがアレイ状に配置された超音波素子アレイArを含み、超音波素子アレイArが第一面(+Z側の面)に配置される第一基板5と、第一基板5の第一面とは反対側の第二面(-Z側の面)に対向して配置された第二基板6と、第一基板5及び第二基板6を内部に収容し、超音波素子アレイArに対応する位置に超音波が通過する開口31が設けられる筐体3と、を備える。第二基板6は、複数の超音波トランスデューサーTrに接続され、端末装置10と無線通信可能な通信部62を含む。そして、超音波プローブ2の重量は、150g以下となる。
【0033】
このような超音波プローブ2では、医療用テープ102を用いて人体に貼着した際に、超音波プローブ2の重量による医療用テープ102の剥がれを抑制できる。
特に、人体に対して超音波プローブ2を貼着する場合、人体に対して適切に超音波の送信部分を密着させるためには、筐体3の長軸の長さが50mm以下とすることが好ましい。また、適正な超音波測定を実施するためには、十分な数の超音波トランスデューサーTrを用いてビームフォーミングを行うことが好ましく、短軸の長さが15mm以上とすることが好ましい。このような超音波プローブ2を人体に装着する場合に、医療用テープ102の貼着量をできるだけ抑えるためには、短軸方向に沿って医療用テープ102を引き延ばして筐体3を人体に貼着する。この際、本実施形態では、超音波プローブ2が150g以下の重量であるため、医療用テープ102を筐体3の外方に5mm程度伸ばして人体に貼着させるだけで、超音波プローブ2の脱落を抑制できる。
また、超音波プローブ2が通信部62によって無線通信により端末装置10と通信する構成であるため、超音波プローブ2に有線が接続されていない。このため、超音波プローブ2を長期装着した場合でも、有線が邪魔になるような不都合がなく、また、有線の引っ掛かり等によって医療用テープ102がはがれるといった不都合も生じない。
【0034】
本実施形態の超音波プローブ2では、筐体3のZ方向に沿った寸法(厚み)が10mm以下である。
これにより、人体に超音波プローブ2を貼着した場合でも、超音波プローブ2を人体と衣服の間に十分入り込ませることができる。したがって、超音波プローブ2を長時間人体に貼着させた場合でも、普段の生活に支障が出る不都合を抑制できる。
【0035】
本実施形態の超音波プローブ2では、第二基板6は、複数の超音波トランスデューサーTrを制御する制御回路80を備え、制御回路80は、複数の超音波素子を駆動させて超音波を送信させる送信回路82及び遅延回路83を備える。また、制御回路80は、複数の超音波トランスデューサーTrが超音波を受信した際に出力する信号を処理する受信回路84及び整相加算回路85を備える。
これにより、超音波プローブ2と通信可能に接続される端末装置10は、超音波プローブ2に対して超音波測定を実施する旨の測定指令を出力し、超音波プローブ2から得られた超音波信号を受信して画像を形成するだけでよい。つまり、端末装置10として、超音波ビームのフォーカスを行うための回路や、受信信号の整相加算処理等を行う回路等が不要であり、スマートフォン、タブレット端末等の汎用コンピューターにより超音波システム1を構築することができる。
【0036】
本実施形態の超音波プローブ2では、筐体3の開口31に、超音波素子アレイArから出力された超音波を所定の深度に収束させる音響レンズ4が設けられる。
これにより、1Chの送受信列Chから所定の深度に収束する超音波ビームを容易に形成することができる。
【0037】
本実施形態の超音波システム1では、超音波プローブ2と、通信部62を介して超音波プローブ2と通信可能に接続される端末装置10と、を備える。
これにより、超音波プローブ2と端末装置10とが無線で通信可能となり、ユーザーは、超音波測定中に端末装置10で測定結果を確認することができる。この際、超音波プローブ2と端末装置10とが有線で接続されていないので、有線の引っ掛かり等によって超音波プローブ2が脱落したり、超音波プローブ2の装着時に有線が邪魔になったりする不都合を防止できる。
【0038】
[変形例]
なお、本発明は上述の各実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良、及び各実施形態を適宜組み合わせる等によって得られる構成は本発明に含まれるものである。
【0039】
上記実施形態において、超音波素子アレイArを複数の送受信列ChがX方向に並ぶ1次元アレイ構造としたが、各々が独立して駆動可能な複数の超音波トランスデューサーTrをX方向及びY方向に配置した2次元アレイ構造の超音波素子アレイを構築してもよい。この場合、音響レンズ4を不要にできる。
【0040】
上記実施形態では、超音波プローブ2に設けられる制御回路80が、送信回路82、遅延回路83、受信回路84,及び整相加算回路85を備え、超音波信号を端末装置10に送信するように構成した。これに対して、さらに、プロセッサー86が、超音波信号に基づいて画像を形成し、生成された画像を端末装置10に送信するようにしてもよい。
【0041】
上記実施形態では、各超音波トランスデューサーTrは、超音波の送信及び受信を実施するものとしたが、例えば、超音波の送信のみを行ってもよい。すなわち、上記超音波システム1では、超音波プローブ2により実施した超音波測定によって、人体の内部断層画像を得るものであるが、人体の所定の部位(期間)に対して超音波を送信することで、当該部位の治療を行う超音波治療装置として機能させてもよい。この場合、超音波の受信処理が不要となり、受信回路84や整相加算回路85を不要にできる。
【0042】
上記実施形態では、超音波プローブ2を人体に貼着する例を示すが、その他の対象に貼着してもよい。超音波プローブ2を貼着する対象としては、例えばペット等の生体、コンクリート構造体等の無機物等を例示できる。
【0043】
[本開示のまとめ]
本開示の第一態様の超音波プローブは、対象に貼着して超音波測定を行う超音波プローブであって、超音波の送信及び受信の少なくとも一方を実施する複数の超音波素子がアレイ状に配置された超音波素子アレイを含み、前記超音波素子アレイが第一面に配置される第一基板と、前記第一基板の前記第一面とは反対側の第二面に対向して配置された第二基板と、前記第一基板及び前記第二基板を内部に収容し、前記超音波素子アレイに対応する位置に前記超音波が通過する開口が設けられる筐体と、を備え、前記第二基板は、複数の前記超音波素子に接続され、他の端末装置と無線通信可能な通信部を含み、前記超音波プローブの重量が150g以下である。
【0044】
このような構成の超音波プローブでは、一般的な医療用テープを用いて人体等の対象に貼着した際に、超音波プローブの重量による医療用テープの剥がれが抑制され、長時間にわたって超音波プローブを対象に貼着させることができる。また、端末装置と接続するために有線が用いられていないので、有線のひっかかりによる超音波プローブの脱落等を抑制できる。
【0045】
本態様の超音波プローブにおいて、前記第一面に直交する軸を第一軸として、前記筐体の前記第一軸に沿った寸法が10mm以下であることが好ましい。
これにより、人体に超音波プローブを貼着した場合でも、超音波プローブを人体と衣服の間に入り込ませることができる。したがって、超音波プローブを長時間人体に貼着させた場合でも、普段の生活に支障が出る不都合を抑制できる。
【0046】
本態様の超音波プローブにおいて、前記第二基板は、複数の前記超音波素子を制御する制御回路を備え、前記制御回路は、複数の前記超音波素子を駆動させて前記超音波を送信させる駆動部と、複数の前記超音波素子が前記超音波を受信した際に出力する信号を処理する信号処理部と、を含むことが好ましい。
これにより、超音波プローブ単体により、超音波測定を実施することができる。また、端末装置としては、超音波測定に係る各種回路が不要となり、汎用的なコンピューターを端末装置として利用できる。
【0047】
本態様の超音波プローブにおいて、前記筐体の前記開口に、前記超音波素子アレイから出力された前記超音波を所定の深度に収束させる音響レンズが設けられることが好ましい。
これにより、音響レンズによって超音波素子から出力される超音波を所定の焦点に収束させることができる。したがって、超音波を収束させるための遅延駆動が不要となり、超音波プローブの駆動に係る回路構成を簡素化できる。
【0048】
本開示の第二態様の超音波システムは、上述したような超音波プローブと、前記通信部を介して通信可能に接続される端末装置と、を備える。
これにより、超音波プローブと端末装置とが無線で通信可能となり、ユーザーは、超音波プローブを対象に装着した状態で、端末装置を用いて超音波プローブを制御できる。この際、超音波プローブと端末装置とが有線で接続されていないので、有線の引っ掛かり等によって超音波プローブが脱落したり、超音波プローブの装着時に有線が邪魔になったりする不都合を防止できる。
【符号の説明】
【0049】
1…超音波システム、2…超音波プローブ、3…筐体、4…音響レンズ、5…第一基板、6…第二基板、10…端末装置、31…開口、51…超音波基板、52…デバイス基板、53…フレキシブルプリント基板、61…ICチップ、62…通信部、63…電池設置部、80…制御回路、81…MUX、82…送信回路、83…遅延回路、84…受信回路、85…整相加算回路、86…プロセッサー、101…ゲル、102…医療用テープ、Tr…超音波トランスデューサー。