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特開2024-60025薬物送達のための拡張可能部材システムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060025
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】薬物送達のための拡張可能部材システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 29/04 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
A61M29/04
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024035707
(22)【出願日】2024-03-08
(62)【分割の表示】P 2021541275の分割
【原出願日】2020-01-17
(31)【優先権主張番号】62/794,363
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/745,110
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515246351
【氏名又は名称】インターセクト エント, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ジョセフ スタンクス
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムズ スー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】薬物結晶を重層化された拡張可能部材を用いて耳、鼻または咽喉の標的組織に活性な作用物質を送達するためのシステムおよび方法、ならびにそのようなシステムを製造するための方法を提供すること。
【解決手段】その拡張可能部材は、薄型の構成で標的組織に送達され、拡張されることにより、周囲組織と接触するおよび/または周囲組織を開大させることができる。拡張可能部材の拡張によって、薬物結晶が標的組織に移行し、次いでそれが、拡張可能部材を除去した後の所望の期間にわたって活性な作用物質の治療レベルの維持を可能にするインサイチュデポーとして作用する。単一の拡張可能部材の複数回の拡張を処置中に用いることができる。例えば、これらのシステムおよび方法は、単一の拡張可能部材で複数の副鼻腔を処置することが望まれるとき、有用であり得る。
【選択図】図1-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2019年1月18日出願の米国仮出願第62/794,363号に基づく優先権を主張する2020年1月16日出願の米国特許出願第16/745,110号に基づく優先権を主張する。これらの開示は、それらの全体が参照により本明細書に援用される。2016年1月22日出願の米国特許第10,441,757号と2019年6月10日出願の米国特許出願第16/436,363号の両方もまた、それらの全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
分野
本願は、概して、1つまたはそれを超える活性な作用物質を鼻、耳および咽喉の標的組織に送達するためのシステムおよび方法に関する。これらのシステムおよび方法は、拡張可能部材の外表面上に重層化された様々な量およびサイズの薬物結晶を使用する。拡張可能部材が拡張すると、薬物結晶が標的組織に移行し、鼻、耳または咽喉の症状を処置するのに有効な期間にわたる活性な作用物質の徐放のためのデポーを形成する。
【背景技術】
【0003】
背景
鼻副鼻腔炎は、副鼻腔炎および/または鼻炎を包含すると一般に理解されている一般的な副鼻腔症状である。通常、鼻副鼻腔炎は、鼻汁、鼻閉、顔面うっ血、顔面痛/顔面圧迫感、嗅覚消失、発熱および頭痛などの症候を特徴とする。別の一般的な副鼻腔症状であるアレルギー性鼻炎は、その症状を有する個体が、ちり、カビまたは動物の鱗屑などのアレルゲンを吸い込んだとき生じる、鼻を冒す症候群を伴う。アレルゲンは、ヒスタミンの放出を引き起こし、このヒスタミンの放出は通常、くしゃみ、目のかゆみおよび涙目、鼻水、鼻腔の腫脹および炎症、粘液産生の増加、ならびに一部の個体では蕁麻疹または他の発疹を引き起こす。
【0004】
これらおよび他の鼻の症状、ならびにある特定の耳および咽喉の症状に対する現行の処置は、主に薬学的なものである。丸剤の形態の薬物が広く利用可能であり、服用しやすいが、いくつかの欠点があり得る。経口投与される薬物は、全身で機能して有効になるにはかなりの時間が必要であり得、患者の日常生活に影響し得るマイナスの副作用を及ぼし得る。さらに、その薬物は、症候の緩和を継続するためには頻繁に服用する必要があり得る。鼻、耳および咽喉の局所的な薬物送達は、鼻、耳および咽喉の局所疾患を処置するための魅力的な代替アプローチである。しかしながら、液体または粉末の形態で、およびスプレーまたは直接的な(例えば、局所的な)付与によって、薬物を局所的に薬物送達するための現在の技術は、反復投与が必要であるとき患者の服薬遵守が不良であること、またはより遠位の副鼻洞、耳および咽喉の組織に薬物を送達する際の課題に起因して有効性が不良であることによって制約を受けることがある。
【0005】
局所的な薬物送達の別の課題は、鼻、耳または咽喉の症状が粘膜組織の処置を必要とするときに現れる。大抵の粘膜上皮組織は、糖タンパク質が豊富な粘液層で覆われている。この粘液層は、一般におよそ15~20分という代謝回転時間を有する絶えず変化している層である。局所送達される薬物は、この粘液層を通過しなければならず、標的組織部位から離れる前に粘膜上皮によって取り込まれなければならない。結晶形の薬物が、飽和溶解度、溶解速度および粘膜組織への接着性を高めることができることを考えると、ある特定の薬物、例えば、難溶性の薬物を粘膜組織に送達しようとするとき、結晶形の薬物が有益であり得る。
【0006】
したがって、鼻、耳または咽喉、例えば、副鼻腔の粘膜組織が冒されているとき、結晶形の薬物を使用する局所的処置を手に入れることが有益であり得る。さらに、薬物の送達と副鼻腔などの標的組織の開大(dilate)の両方を行うことができる処置を手に入れることも有用であり得る。また、単一のデバイスで複数の部位に薬物を送達できる処置を手に入れることも有用であり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
要旨
治療有効量の活性な作用物質を鼻、耳および咽喉の標的組織に局所送達するためのシステムおよび方法が本明細書中に記載される。それらのシステムおよび方法は通常、拡張して標的組織と接触すると活性な作用物質を送達する拡張可能部材を使用する。その活性な作用物質が粘液線毛流によって排除される前に標的組織への活性な作用物質の吸収または取り込みを促進するために、活性な作用物質は、標的組織の取り込みを促進する拡張可能部材上に、ある量およびサイズで薬物結晶として提供され得る。そして、標的組織によって取り込まれた薬物結晶は、所望の時間枠(例えば、数日間、数週間または数ヶ月間)にわたって治療レベルの薬物を維持できるようにする徐放デポーまたはレザバーとして機能する。その期間は、通常、耳、鼻または咽喉の症状を処置するのに有効な持続時間であり得る。用語「薬物」と「活性な作用物質」とが、全体を通して交換可能に使用されると理解される。拡張可能部材は、膨張可能バルーンであり得る。
【0008】
いくつかのバリエーションにおいて、治療有効量の活性な作用物質を標的組織に局所送達するためのシステムは、患者の耳、鼻または咽喉に留置するためのサイズおよび形にされた拡張可能部材を備え得、その拡張可能部材は、その外表面を少なくとも部分的に覆う薬物層を含み、その薬物層は、活性な作用物質の少なくとも約60%を薬物結晶として有し、その薬物結晶は、約80μm超の平均長を有する。薬物層が活性な作用物質の少なくとも約60%を薬物結晶として有するバリエーションでは、薬物結晶は、約90μm超、約100μm超、約110μm超、約120μm超または約130μm超の平均長も有し得る。薬物結晶が、約130μmの平均長を有するときは、薬物層が、活性な作用物質の少なくとも約65%を薬物結晶として有することが有益であり得る。より長い期間、例えば、少なくとも約30日間にわたる薬物放出が望まれるときは、約80μm超の平均長を有する薬物結晶を薬物層に含むことが有用であり得る。
【0009】
他のバリエーションにおいて、治療有効量の活性な作用物質を標的組織に局所送達するためのシステムは、患者の耳、鼻または咽喉に留置するためのサイズおよび形にされた拡張可能部材を備え、その拡張可能部材は、その外表面を少なくとも部分的に覆う薬物層を含み、その薬物層は、活性な作用物質の約60%未満を薬物結晶として有し、その薬物結晶は、約80μm未満の平均長を有する。薬物結晶が、約80μm未満の平均長を有するバリエーションでは、薬物層は、活性な作用物質の約55%未満、約50%未満、約45%未満、約40%未満、約35%未満、約30%未満、約25%未満または約20%未満を薬物結晶として有し得る。より短い期間、例えば、約14日間未満にわたる薬物放出が望まれるときは、約80μm未満の平均長を有する薬物結晶を薬物層に含むことが有用であり得る。
【0010】
本明細書中に記載される方法は、1)患者の耳、鼻または咽喉の内側の位置に拡張可能部材を進めることであって、その拡張可能部材は、薄型の構成および拡張した構成ならびにその拡張可能部材の外表面を少なくとも部分的に覆う薬物層を含み、その薬物層は、活性な作用物質を薬物結晶の形態で含む、こと;および2)拡張可能部材を薄型の構成(low-profile configuration)から拡張した構成に拡張させ、薬物結晶が、標的組織と接触し、鼻、耳または咽喉の症状を処置するのに有効な期間にわたって、活性な作用物質の徐放を提供するデポーを標的組織において形成することによって、標的組織に薬物結晶を送達すること、によって、治療有効量の活性な作用物質を標的組織に局所送達する工程を含み得る。拡張には、拡張可能部材の単回の拡張および圧潰、または同じ拡張可能部材の複数回の拡張-圧潰サイクル(例えば、膨張-収縮サイクル)が含まれ得る。薬物層が、活性な作用物質の約60%未満を薬物結晶として有するとき、その薬物結晶は、約80μm未満の平均長を有し得る。薬物層が、活性な作用物質の少なくとも約60%を薬物結晶として有するとき、その薬物結晶は、約80μm超の平均長を有し得る。薬物層における薬物結晶の量と平均薬物結晶長との他の組み合わせを用いることもできる。
【0011】
薬物層は、薬物結晶を含むことに加えて、非晶質形の活性な作用物質も含み得る。耳、鼻または咽喉の症状を処置するために使用される任意の活性な作用物質を薬物層に含めることができ、例えば、コルチコステロイドを使用できる。フロ酸モメタゾンは、鼻副鼻腔炎、ポリープ状浮腫、および標的部位における組織の一般的な炎症を処置する有用なコルチコステロイドであり得る。薬物層は、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリソルベート、ポリ(エチレングリコール)、プロピレングリコール、グリセロールカプロエートまたはそれらの組み合わせもしくは混合物などの賦形剤をさらに含み得る。1つのバリエーションにおいて、薬物層は、フロ酸モメタゾンの結晶、ポリソルベートおよびポリ(エチレングリコール)を含み得る。別のバリエーションにおいて、薬物層は、フロ酸モメタゾンの約60%未満を薬物結晶として、そしてポリソルベートおよびポリ(エチレングリコール)を含み得る。別のバリエーションにおいて、薬物層は、フロ酸モメタゾンの少なくとも約60%を薬物結晶として、そしてポリソルベートおよびポリ(エチレングリコール)を含み得る。
【0012】
上記システムおよび方法のいくつかのバリエーションは、実質的にすべての薬物結晶を単回の拡張で拡張可能部材から標的組織に移行させることを含む。他のバリエーションでは、上記システムおよび方法は、単一の拡張可能部材を使用して、複数の標的組織部位を処置することを含む。例えば、単一の拡張可能部材を使用して、患者における複数の副鼻洞(例えば、異なる6つの副鼻洞入口部)が処置され得る。この場合、その薬物層は、各拡張でその層の一部(および薬物結晶の一部)だけが移行されるように製剤化され得る。薬物層はまた、複数回の拡張にわたって1つまたはそれを超える薬物を移行させるように、例えば、複数の層(副層)として、構成され得る。様々な表面処理、例えば、プラズマ処理または親水性プライマー層も、薬物層の移行速度を操作するために拡張可能部材に適用され得る。拡張可能部材は、標的組織の開大と標的組織への薬物の送達の両方が有益であり得るシステムおよび方法においても使用され得る。
【0013】
拡張可能部材は、他の呼吸器系の構造の中でも鼻道および副鼻洞に存在する粘膜組織、例えば、粘膜線毛組織の炎症を処置するために使用され得る。いくつかのバリエーションにおいて、処置される症状は、術後炎症、鼻副鼻腔炎、鼻ポリープを伴うまたは伴わない慢性副鼻腔炎、ポリープ状浮腫、およびアレルギー性鼻炎を含む鼻炎からなる群より選択される鼻の症状であり得る。そのようなバリエーションにおいて、標的組織部位は、副鼻腔、副鼻洞入口部、下鼻甲介、中鼻甲介、上鼻甲介、鼻腔、中鼻道自然口ルート(osteomeatal complex)、鼻咽頭、咽頭扁桃組織またはそれらの組み合わせであり得る。
【0014】
他のバリエーションにおいて、処置される症状は、術後炎症、中耳炎、メニエール病、耳管機能障害および耳鳴からなる群より選択される耳の症状であり得る。そのようなバリエーションにおいて、標的組織部位は、耳管、外耳道または内耳であり得る。耳管の処置は、聴力損失、耳痛および眩暈の処置においても有益であり得る。
【0015】
他のバリエーションにおいて、処置される症状は、術後疼痛、食道癌、気道狭窄、例えば、気管狭窄または声門下狭窄、慢性喉頭炎、扁桃炎および喉頭蓋炎からなる群より選択される咽喉の症状であり得る。
【0016】
製造中、拡張可能部材、例えば、バルーンは、スプレーコーティング、ピペットコーティングもしくはシリンジコーティングまたはディップコーティングなどの方法によって薬物層製剤でコーティングされ得る。薬物層の接着を改善するために、拡張可能部材は、コーティングの前に溶媒でクリーニングされ得、乾燥され得る。さらに、クリーニングした後の不活性ガス(例えば、アルゴン)または酸素によるプラズマ処理は、拡張可能部材の表面の清浄性および湿潤性を高めることができ、それにより、薬物層の接着が高まり、粘膜組織部位で粘液と接触したときの薬物層の放出が改善される。いくつかのバリエーションにおいて、上記製造方法は、バルーン表面をクリーニングする工程および/またはバルーンをプラズマで処理する工程、バルーンを膨張させる工程、バルーンを薬物層製剤でスプレーコーティングする工程、バルーンコーティングを室温または高温で乾燥させる工程、ならびにバルーンを折り畳み直す工程を含み得る。他のバリエーションにおいて、上記製造方法は、バルーン表面をクリーニングする工程および/またはバルーンをプラズマで処理する工程、バルーンを膨張させる工程、バルーンを薬物層製剤でスプレーコーティングする工程、コーティングされたバルーンを溶媒蒸気に曝露する工程(溶媒蒸気アニーリング)、ならびにバルーンを折り畳み直す工程を含み得る。
【0017】
薬物層プロセス中の環境条件の変更は、拡張可能部材からの薬物放出速度に影響し得る。ある特定の条件が、結晶形または非晶質形の薬物に有利であり得る。いくつかのバリエーションでは、薬物層は、付与後に溶媒蒸気に曝露されて、層内の薬物の形態が改変され、例えば、より結晶性の(非晶質でない)薬物が生成される。したがって、様々な条件を操作することによって、薬物放出を、処置される特定の適応症および/または解剖学的構造に合わせることができる。
【0018】
以下の図面に照らして、本開示の例証的な態様を下記に詳細に記載する。本明細書中に開示される実施形態および図面は、限定的ではなく例証的であるとみなされると意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1-1】図1A~1Nは、拡張可能部材の例示的な形を示している。
図1-2】同上。
図1-3】同上。
【0020】
図2図2は、拡張可能部材をコーティングするための例示的なプロセスを図示しているフローチャートである。
【0021】
図3図3は、7日間の期間にわたって薬物層をヒツジの上顎洞に送達した後のフロ酸モメタゾンの血漿中濃度を図示しているグラフである。
【0022】
図4図4は、様々な量の結晶性フロ酸モメタゾンを有する拡張可能部材のインビトロ放出速度を比較しているグラフである。
【0023】
図5図5Aおよび5Bは、拡張可能部材を標的組織に配置している間に薬物層から薬物結晶が失われるのを防止する折り畳みを有する例示的な拡張可能部材の断面図を示している。図5Aは、折り畳まれた/ひだがつけられた薄型の構成の拡張可能部材を示しており、図5Bは、拡張した構成の拡張可能部材を示している。
【0024】
図6図6は、薬物でコーティングされた拡張可能部材を用いて治療を送達する例示的なプロセスを図示しているフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
薬物結晶を重層化された拡張可能部材を用いて活性な作用物質を耳、鼻または咽喉の標的組織に送達するためのシステムおよび方法が、本明細書に記載される。この拡張可能部材は、薄型の構成で標的組織に送達され、次いで拡張されて、周囲組織と接触かつ/または周囲組織を開大させることができる。拡張可能部材の拡張によって、薬物結晶が標的組織に移行し、次いでそれがインサイチュデポーとして作用することにより、拡張可能部材を除去した後の所望の期間にわたって活性な作用物質の治療濃度を維持することが可能になる。これらのシステムおよび方法は、粘膜組織、例えば、副鼻腔への薬物送達が望まれるとき、有用であり得る。製造方法も本明細書中に記載される。
【0026】
薬物結晶は、通常、拡張可能部材の外表面に配置された薬物層に含められる。薬物結晶がより大きい、例えば、約80マイクロメートル超(>80μm)の平均長を有するバリエーションでは、標的組織において活性な作用物質の治療有効量を達成するために、拡張可能部材が、活性な作用物質の少なくとも約60%を薬物結晶として有する薬物層を含むことが有益であり得る。薬物結晶がより小さい、例えば、約80マイクロメートル未満(<80μm)の平均長を有するバリエーションでは、活性な作用物質の約60%未満を薬物結晶として有する薬物層を含む拡張可能部材を使用して、標的組織において活性な作用物質の治療レベルが達成され得る。いくつかの場合において、拡張可能部材の約50%(またはそれ未満)を覆う薬物層における比較的小さい結晶は、製造プロセス中に成長し続けることができ、完成したデバイスでは結晶サイズが増大し、結晶の被覆のパーセンテージが上昇することが認識されるべきである。治療有効量は、送達される特定の活性な作用物質に基づいて変動し得る。フロ酸モメタゾンの場合、治療有効量は、通常、少なくとも0.1μg/gというフロ酸モメタゾンの組織中濃度である。
【0027】
拡張可能部材は、一度または複数回拡張されて、同じ標的組織または異なる標的組織に薬物を送達し得る。上記システムは、拡張可能部材を標的組織に進めるための送達デバイスをさらに備え得る。一般に、上記処置方法は、拡張可能部材を拡張させ、除去した後の所望の期間にわたって治療レベルの薬物を提供し得る。
【0028】
拡張可能部材には、いくつかの用途があり得る。拡張可能部材は、耳、鼻または咽喉などにおける種々の使用法にサイズ、構成および材料を適合させることができる。拡張可能部材は、粘膜炎症を含む症状の処置に有用であり得る。いくつかのバリエーションにおいて、上記システムおよび方法は、1つまたはそれを超える副鼻洞または鼻の症状を処置するために使用され得、その症状としては、鼻炎、アレルギー性鼻炎、ポリープを伴うまたは伴わない急性副鼻腔炎および慢性副鼻腔炎、ならびにポリープ状浮腫が挙げられるがこれらに限定されず、これらの症状のすべてが、粘膜炎症性成分を有し得る。他のバリエーションにおいて、上記デバイスおよび方法は、開大手技中に実行され得る。例えば、副鼻洞および/または副鼻洞入口部のバルーン処置後、開大後または他の手術後の炎症を低減するために、1つまたはそれを超える薬物(例えば、コルチコステロイド)が送達され得る。他のバリエーションでは、1つまたはそれを超える薬物が、アレルギー症候を緩和するために副鼻洞および/または副鼻洞入口部に送達され得る。別の例では、膨張可能バルーンなどの拡張可能部材を使用して、アレルギー性鼻炎を処置するために薬物を下鼻甲介に送達し得る。なおも別の例では、拡張可能部材を使用して、機械的支持および永久インプラントが不要であり得るときを含む機能的篩骨手術(functional ethmoid surgery)後の炎症を低減するために抗炎症薬(例えば、コルチコステロイド)を送達することができる。
【0029】
他のバリエーションにおいて、上記システムおよび方法は、1つまたはそれを超える耳の症状を処置するために使用され得る。例えば、拡張可能部材は、バルーン処置後に薬物を耳管に送達して、耳管機能障害を処置することができる。別の例として、拡張可能部材は、急性中耳炎、慢性中耳炎またはスイマー耳に対して外耳道への薬物送達のために使用され得る。拡張可能部材は、中耳炎、メニエール病、耳鳴または他の該当症状を処置するための中耳および/または内耳への薬物送達のためにも使用され得る。
【0030】
他のバリエーションにおいて、拡張可能部材には、薬物送達が、扁桃摘出術後痛などの術後疼痛、または食道癌、気道狭窄(例えば、気管狭窄または声門下狭窄)、慢性喉頭炎、喉頭蓋炎、他の炎症性疾患および/または他の咽喉の症状に対する薬物送達であり得る、咽喉における用途もあり得る。
【0031】
デバイス
拡張可能部材
本明細書中で検討される拡張可能部材は通常、拡張したときに目的の組織部位に物理的に移行され得る治療薬(薬物)でコーティングされる。本明細書中に記載される拡張可能部材は通常、薄型の構成と拡張した構成との間で変わることができる。治療薬が移行した後、拡張可能部材は、圧潰され、除去され得る。薬物コーティングは、単回の拡張で移行されるように製剤化され得るか、または単一の拡張可能部材で複数回の拡張が行われるときは、各拡張で部分的に移行されるように製剤化され得る。拡張可能部材は、任意の好適な形、特に、標的の解剖学的構造または身体内腔にふさわしく構成された形を有し得る。耳管を処置するときは、円柱形、円錐形または先細形である拡張可能部材の形を有することが有用であり得る。他のバリエーションにおいて、拡張型デバイスは、ステントまたはスキャフォールドなどの移植可能デバイスと併用され得る。
【0032】
いくつかのバリエーションにおいて、拡張可能部材、および/または移植可能デバイスの構成要素は、全体的に生体吸収性、全体的に非生体吸収性、または部分的に生体吸収性、および非生体吸収性であり得る。生体吸収性であるように作られているとき、そのデバイスは、PLGA(ポリ(乳酸-co-グリコール酸))、PLLA(ポリ(L-乳酸))、PLA-PCL(ポリ(乳酸)-ポリカプロラクトン)、PGA(ポリ(グリコール酸))、PDLLA(ポリ(D,L-乳酸))またはそれらの組み合わせからなる群より選択される生体吸収性材料から形成され得る。部分的に生体吸収性であるように作られているとき、デバイス上のコーティングは、生体吸収性であり得、放出速度変更物質および/またはPEG(ポリエチレングリコール)などの可塑剤を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0033】
拡張可能部材は、拡張したとき、周囲組織との一様かつ一貫した接触および周囲組織の実質的な被覆を提供するように構成されている可撓性の膜を備え得る。いくつかのバリエーションにおいて、可撓性の膜は、管状の鞘の内表面に連結された機械システムを用いて拡張され得る管状の鞘に連結され得る。他のバリエーションにおいて、可撓性の膜は、流体を用いて拡張され得る膨張可能構造を有し得る。例えば、膨張可能構造は、バルーンであり得、そのバルーンは、液体(例えば、食塩水)または気体(例えば、空気)をバルーンの内部に送達することによって、拡張した構成に拡張され得る。いくつかのバリエーションにおいて、拡張可能部材は、上記膜をシャフトにつなぐハブを備え得る。
【0034】
薄型の構成は、圧潰された状態(または膨張していない状態)の拡張可能部材、すなわち、ひだがつけられた、折り畳まれたまたはそれ自体に巻き付いた拡張可能部材であり得る。ひだまたは折り畳みの数は、例えば、拡張可能部材の形、処置される標的組織および/または意図している拡張回数に応じて変動し得る。拡張可能部材のいくつかのバリエーションとしては、側面がアコーディオン様のひだまたは折り畳みが挙げられる。他のバリエーションにおいて、そのひだまたは折り畳みは、拡張可能部材の長軸方向に(すなわち、拡張可能部材の長さに沿って)配置される。なおもさらなるバリエーションでは、拡張可能部材は、図5Aに示されているように、圧潰された状態のとき6つのひだまたは折り畳み(502)を有する円柱形バルーン(500)である。これらのひだまたは折り畳みは、バルーンが標的組織に到達し、図5Bに示されているように拡張した状態に拡張されるまで、薬物層および薬物層に含まれている薬物結晶が失われるのを防止するのに役立ち得る。薬物層および薬物結晶は、拡張可能部材全体を均一にコートし得るか、拡張可能部材を部分的にコートし得るか、または拡張可能部材のひだもしくは折り畳みの内側だけに提供され得る。他の場合において、薄型の構成は、部分的に圧潰された(または部分的に膨張した)状態の拡張可能部材であり得る。拡張可能部材を覆うため、また、拡張可能部材を1つまたはそれを超える標的組織に進めている間に薬物層および薬物結晶が失われるのを防ぐために、鞘または他の覆いを使用することができる。1つのバリエーションにおいて、鞘またはカバーは、拡張可能部材を薄型の構成であるように強いることができる。このバリエーションにおいて、拡張可能部材は、自己拡張型であり得る。いくつかのバリエーションにおいて、拡張した構成への拡張は、流体または気体を用いた膨張を介して達成される。
【0035】
拡張可能部材は、ノンコンプライアント、セミコンプライアントまたはコンプライアントであり得る。コンプライアンスに関する以下の説明は、主にバルーンに対する説明であるが、この説明は、他の形態および構成の拡張可能部材にも当てはまり得る。バルーンコンプライアンスは、膨張圧に応じてバルーンの直径が変化する程度を記載するために通常使用される用語である。バルーンの膨張圧は、下記でさらに記載されるように、バルーンのタイプに応じて、約2atm~約25atmの範囲であり得る。薬物結晶を送達するためおよび/または副鼻洞入口部を開大させるために使用されるとき、膨張圧は、約2atm~約25atm、約2atm~約12atm、約6atm~約12atmまたは約6atm~約8atmの範囲であり得る。圧潰された状態から拡張した状態にバルーンを拡張し、組織に接触させて薬物結晶を送達するために用いられる膨張圧は、副鼻洞入口部を開大させるために用いられる膨張圧よりも低いことがある。したがって、その手技がバルーンの複数回の拡張を含むときは、異なる膨張圧が使用され得る。
【0036】
いくつかのバリエーションにおいて、拡張可能部材は、コンプライアントバルーンであり得る。コンプライアントバルーンは、低(例えば、ショアA)デュロメーターを有する材料(例えば、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリオレフィンおよび他のエラストマー)から作られ得、バルーンの膨張容積が大きくなるにつれてその直径を約100%~約600%大きくすることができ得る。コンプライアントバルーンは、通常、約16atm未満の膨張圧を有する。コンプライアントバルーンは、任意の好適な形、例えば、図1A~1Nに示されているような形を有し得る。いくつかのバリエーションにおいて、コンプライアントバルーンの形は、機械的開大なしの薬物送達が必要とされるとき有用であり得る球状の形を含み得る。コンプライアントバルーンは、他の形および幾何学的構成を有するように構成され得ると理解される。
【0037】
コンプライアントバルーンのバリエーションは、通常、低圧力であり得、弾性であり得、かなり膨らむことができ得る(例えば、最大600%)。いくつかの用途において、コンプライアントバルーンは、周囲組織の大きな表面積に接触するために、そのバルーンが拡張される体腔に適合するように構成され得る。拡張したときコンプライアントバルーンによって作用される圧力は、組織との接触を維持するほど十分であるが、望まれない損傷(例えば、骨折、組織損傷)または再形成(reshaping)(例えば、組織の置換)を引き起こさない圧力であり得る。これを達成するために、コンプライアントバルーン材料は、例えば、ラテックス、シリコーン、ポリウレタン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)および/または低デュロメーターPebax(登録商標)ポリエーテルブロックアミドから形成され得、1atm未満または約1atm~約2atmの膨張圧を有し得る。副鼻洞入口部の開大が意図されるときは、より高い圧力、例えば、約6atm~約16atmまたは約6atm~約10atmの範囲の膨張圧が使用され得る。コンプライアントバルーンは、例えば鼻腔もしくは副鼻洞腔または副鼻洞入口部において薬物を効果的に送達するために体腔の不規則な幾何学的形状に適合することができ得る。例えば、コンプライアントバルーンは、アレルギーを処置するために下鼻甲介と接触するために使用され得る。いくつかのバリエーションにおいて、コンプライアントバルーンは、好適な材料、例えば、上に記載された材料から成形され得る。薄型の送達構成を達成するために、コンプライアントバルーンは、ひだがつけられ得るか、折り畳まれ得るか、またはそれら自体に巻き付けられ得る。
【0038】
あるいは、拡張可能部材は、ノンコンプライアントバルーンであり得る。ノンコンプライアントバルーンは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、架橋ポリエチレンおよびナイロンポリマーなどのより高いデュロメーターを有する非弾性材料から作られ得る。ノンコンプライアントバルーンは、10atm~22atm、14atm~20atmまたは20atmもしくはそれより高い膨張圧を有し得、膨張したとき、約5%~約7%または約5%~約10%だけしか膨らむことができない。したがって、ノンコンプライアントバルーンは、通常、薬物結晶を標的組織に送達するために少なくとも約10atmの膨張圧まで膨張し、副鼻洞入口部の開大が望まれるときは、最大約25atmというより高い圧力まで膨張する。ノンコンプライアントバルーンは、例えば図1A~1Nに示されているような任意の好適な形を有し得る。いくつかのバリエーションにおいて、ノンコンプライアントバルーンの形は、円柱形の形を含み得る。ノンコンプライアントバルーンは、他の形および幾何学的形状を有するように構成され得ると理解される。
【0039】
ノンコンプライアントバルーンは、加圧下において所定のサイズおよび形を保持するノンコンプライアント材料から所望の膨張した幾何学的形状に成形され得る。薄型の送達構成を達成するために、ノンコンプライアントバルーンは、ひだがつけられ得るか、折り畳まれ得るか、またはそれ自体に巻き付けられ得る。膨張すると、そのバルーンは、展開して、所定の拡張した構成に拡張し得る。拡張したノンコンプライアントバルーンは、周囲組織を開大させることなくまたは損傷することなくその組織の大きな表面と接触し得る。
【0040】
さらなるバリエーションにおいて、拡張可能部材は、セミコンプライアントバルーンであり得る。セミコンプライアントバルーンは、通常、コンプライアント材料によって形成されるが、コンプライアントバルーンより高い膨張圧を有する。例えば、セミコンプライアントバルーンは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン6(ポリカプロラクタム)などのナイロンポリマーまたはPebax(登録商標)ポリエーテルブロックアミド(単層または二重層)から作られ得るが、10atm~20atmの膨張圧を有する。このようなバルーンは、膨張時に約18%~約30%膨らむことができ得る。他のセミコンプライアントバルーンは、約5%~約10%の拡大を許容し得、約8atm~15atm、より詳細には、約10atm~12atmの膨張圧を有し得る。したがって、セミコンプライアントバルーンは、通常、薬物結晶を標的組織に送達するために少なくとも約8atmの膨張圧まで膨張でき、副鼻洞入口部の開大が望まれるときは、最大約20atmというより高い圧力まで膨張する。セミコンプライアントバルーンは、膨張によって膨らむ場合と、膨張によって展開する場合の両方があり得る。セミコンプライアントバルーンおよびノンコンプライアントバルーンは、組織部位、例えば副鼻洞入口部の拡大または開大が必要とされるとき、有用であり得る。
【0041】
セミコンプライアントバルーンは、任意の好適な形、例えば、図1A~1Nに示されているような形を有し得る。セミコンプライアントバルーンは、他の形および幾何学的形状を有するように構成され得ると理解される。いくつかのバリエーションにおいて、セミコンプライアントバルーンは、好適な材料、例えば、上に記載された材料から成形され得る。薄型の送達構成を達成するために、セミコンプライアントバルーンは、ひだがつけられ得るか、折り畳まれる得か、またはそれら自体に巻き付けられ得る。
【0042】
バルーンのサイズおよび形は、特定の解剖学的形態および用途に合わせてデザインされ得る。例えば、いくつかのバリエーションでは、耳管機能障害または気管狭窄を処置するとき、キノコ形バルーン(図1M)またはデュアルバルーン(図1N)が有用であり得る。コンプライアントバルーンは、腔の特定の幾何学的形状に適合し得るが、このバルーンは、追加的または代替的に、その空間の一般的なサイズおよび形に合うように成形され得る。例えば、円柱形のコンプライアントバルーン、例えば直径3mm×長さ20mmのサイズを有するコンプライアントバルーンが、耳管の処置に(例えば、耳管の軟骨部分を処置するために)使用され得る。例えば約15mm~約50mmの直径を有する球状のノンコンプライアントバルーンが、下鼻甲介の処置に使用され得る。副鼻洞入口部の処置が望まれるときは、約4mm~約6mmの直径および約10mm~約25mmの長さを有するバルーンが使用され得る。小児患者に対しては、それより短い長さが使用され得る。上記サイズおよび形のノンコンプライアントバルーンが、膨張時に(組織に適合する能力を有さず)周囲組織を開大させることなく十分に接触できるように、それらのバルーンの成形は、配置位置(すなわち、腔)にさらに合わせる必要があり得る。いくつかのバリエーションにおいて、それらのバルーンは、多葉の形を有し得、ここで、それらの葉は、同じまたは異なる形を有し得る。
【0043】
図1A~1Nを参照すると、コンプライアントバルーン、ノンコンプライアントバルーンおよびセミコンプライアントバルーンは、円錐形(図1A)、先細形(図1J)、球形(図1B)、四角形(図1G)、円錐形の末端を有する四角形(図1H)、円錐形の末端を有する細長い四角形(図1C)、細長い球形(図1D)、円錐形の末端を有する細長い球形(図1I)、またはドッグボーン形(図1E)であり得る。あるいは、バルーンは、1段または高さの異なる複数段を有し得るか(図1K)、または特定の向きに拡張するように構成され得る(図1Fおよび1N)。指向性に拡張するバルーンは、例えば、薬物を鼻中隔ではなく下鼻甲介に送達することが望まれるとき、有用であり得る。別の有用なバルーンの形は、星に似た形であり得る。
【0044】
さらに、バルーンは、吸引、灌注、観察要素(例えば、光学的観察装置、磁気的撮影装置など)の配置、および/または内視鏡もしくは鼻鏡との使用のために構成された1つまたはそれを超えるポートを備え得る。それらのバルーンは、ガイドワイヤーに沿って、光ファイバーによる誘導を用いて、例えば、照光ガイドもしくは照光ガイドワイヤーを使用して、または適合性のシャフトを介して、送達され得る。いくつかのバリエーションにおいて、バルーンは、医師が片手で送達するように構成され得る。いくつかのバリエーションでは、同時係属中の米国特許出願第16/436,363号に記載されているシステムを用いてバルーンを送達することが有用であり得る。薄型の送達構成を達成するために、コンプライアントバルーン、ノンコンプライアントバルーンおよびセミコンプライアントバルーンは、ひだがつけられ得るか、折り畳まれ得るか、またはそれら自体に巻き付けられ得る。ひだまたは折り畳みの数は、先に述べたように、例えば、拡張可能部材の形、処置される標的組織および/または意図している拡張回数に応じて変動し得る。そのひだまたは折り畳みは、薬物層および薬物層に含まれる薬物結晶が失われるのを防止することにも役立ち得る。
【0045】
薬物層
本明細書中に記載される拡張可能部材は、通常、その外表面を少なくとも部分的に覆う薬物層を含む。薬物層は、結晶形、非晶質形またはそれらの組み合わせの活性な作用物質を含み得る。薬物層は、薬物に加えて、賦形剤または賦形剤の組み合わせも含み得る。好適な賦形剤としては、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリソルベート、ポリ(エチレングリコール)、プロピレングリコール、グリセロールカプロエートならびにそれらの組み合わせおよび混合物が挙げられるが、これらに限定されない。賦形剤は、拡張可能部材が拡張したときに薬物層が標的組織に移行する速度および/または量の調整において有用であり得る。1つのバリエーションにおいて、賦形剤は、ポリソルベートであり、使用されるポリソルベートは、ポリソルベート20、21、40、60、61、65、80、81、85および120のうちのいずれか1つまたはそれらの組み合わせであり得る。別のバリエーションにおいて、賦形剤は、ポリ(エチレングリコール)である。さらなるバリエーションにおいて、賦形剤は、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20、21、40、60、61、65、80、81、85もしくは120のうちのいずれか1つまたはそれらの組み合わせ)とポリ(エチレングリコール)との組み合わせである。いくつかのバリエーションにおいて、活性な作用物質は、少なくとも部分的に結晶形のフロ酸モメタゾンであり、賦形剤は、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20、21、40、60、61、65、80、81、85もしくは120のうちのいずれか1つまたはそれらの組み合わせ)とポリ(エチレングリコール)との組み合わせである。バリエーションにおいて、薬物層は、フロ酸モメタゾン、ポリ(エチレングリコール)、ポリソルベートの混合物を本明細書中に示される相対比で含み得る。いくつかのさらなるバリエーションにおいて、フロ酸モメタゾンの約60%が、薬物層に結晶形で提供され得る。
【0046】
薬物層に提供される結晶性および非晶質の薬物の量は通常、使用される活性な作用物質、処置される標的組織、標的組織において望まれる治療的な薬物レベル、および/または所望の薬物放出プロファイルに応じて変動する。例えば、薬物層における非晶質薬物と結晶性薬物との比は、約1:3、1:2、1:1、2:1または3:1であり得る。非晶質薬物の溶解度のほうが高いので、結晶性薬物に対する非晶質薬物の比が高いほど、組織吸収が速くなり得る。そして、非晶質薬物に対する結晶性薬物の比が高いほど、組織上での薬物の滞留時間が長くなり得る。例えば、図4は、薬物層が、活性な作用物質を非晶質形だけで含むとき(0%結晶)、フロ酸モメタゾン(MF)のインビトロ放出速度が最も速く、薬物層が、活性な作用物質を結晶としてのみ含むとき(100%結晶)、フロ酸モメタゾン(MF)のインビトロ放出速度が最も遅いことを示している。したがって、溶媒蒸気アニーリング(SVA)に供された薬物層の中程度のインビトロ放出速度によって図4に図示されているように、薬物層における非晶質薬物と結晶性薬物との組み合わせが、鼻、耳または咽喉の症状の処置を開始するための活性な作用物質の即時放出、ならびに標的組織への活性な作用物質の徐放を提供することができる。いくつかのバリエーションにおいて、薬物層は、活性な作用物質の約60%を薬物結晶として含むように形成される。1つのバリエーションにおいて、薬物層は、フロ酸モメタゾンを含むように形成され、ここで、そのフロ酸モメタゾンの約60%は、結晶形である。薬物層における結晶性薬物と非晶質薬物との比は、拡張可能部材上への薬物層形成プロセス中に、例えば、下記にさらに記載されるような溶媒蒸気アニーリングプロセス中に、または滅菌中に、調整され得る。
【0047】
薬物結晶のサイズも、使用される活性な作用物質、処置される標的組織、標的組織において望まれる治療的な薬物レベルおよび薬物層に存在する薬物結晶の量に応じて変更され得る。処置期間にわたって標的組織において活性な作用物質の治療有効量が達成されるように、結晶の平均長に基づいて薬物層における薬物結晶の量を調整することが有益であり得る。薬物結晶がより大きなバリエーションでは、例えば、薬物結晶が約80μm超の平均長を有するバリエーションでは、標的組織において活性な作用物質の治療有効量が達成されるように、拡張可能部材が、活性な作用物質の少なくとも約60%を薬物結晶として有する薬物層を含むことが有益であり得る。薬物結晶がより小さなバリエーションでは、例えば、薬物結晶が約80μm未満の平均長を有するバリエーションでは、活性な作用物質の約60%未満を薬物結晶として有する薬物層を含む拡張可能部材を使用して、標的組織において活性な作用物質の治療レベルが達成され得る。治療有効量は、送達される特定の活性な作用物質に基づいて変動し得る。フロ酸モメタゾンの場合、治療有効量は、通常、少なくとも0.1μg/gというフロ酸モメタゾンの組織中濃度である。
【0048】
より詳細には、薬物層が、活性な作用物質の少なくとも約60%を薬物結晶として含むとき、その薬物結晶は、約80μm超、約90μm超、約100μm超、約110μm超、約120μm超または約130μm超の平均長を有する。薬物結晶が、約130μmの平均長を有するとき、薬物層が、活性な作用物質の少なくとも約65%を薬物結晶として含むことが有益であり得る。
【0049】
さらに、薬物層が、約80μm未満の平均長を有する薬物結晶を含むとき、その薬物層は、活性な作用物質の約60%未満、約55%未満、約50%未満、約45%未満、約40%未満、約35%未満、約30%未満、約25%未満または約20%未満を薬物結晶として含み得る。
【0050】
例えば、表1に示されているように、約80μm超のサイズの少なくとも約60%のフロ酸モメタゾン(MF)結晶を含む薬物層を含む拡張可能部材(拡張型バルーン)は、少なくとも0.1μg/gという30日後の組織中濃度(ヒツジの前頭洞入口部において)を達成することができた。より小さい結晶、例えば、80μm未満のサイズの結晶を含むバルーンは、薬物層の60%未満が薬物結晶を含むとき、30日後に高いフロ酸モメタゾンの組織中濃度(約5.0μg/g)を達成することができた。入口部に移行されたフロ酸モメタゾンの量(総放出MF量)は、列挙される用量のフロ酸モメタゾン薬物結晶ならびに賦形剤としてポリ(エチレングリコール)およびポリソルベートを含む薬物層を有するバルーンの膨張後に測定された。
【表1】
【0051】
薬物層は、先に述べたように、拡張可能部材全体またはその一部を覆い得る。例えば、薬物層は、例えば、処置される解剖学的構造に応じて、拡張可能部材上に模様をつけ得るか、または拡張可能部材の特定の領域上に提供され得る。例えば、その模様としては、実線もしくは破線の薬物層、拡張可能部材上に点在する薬物層、または拡張可能部材の周りに巻き付いたらせんとして提供される薬物層などが挙げられ得る。いくつかのバリエーションにおいて、薬物層は、拡張可能部材のひだまたは折り畳みの尖部の内側に提供され得る。薬物層の厚さは、約10μm~約500μmの範囲であり得る。いくつかのバリエーションにおいて、薬物層の厚さは、一様でなくすることができ、例えば、拡張可能部材のいくつかの領域に他よりも厚くなるように構造化できる。他のバリエーションにおいて、薬物層の厚さは、複数回の拡張にわたって活性な作用物質が送達され得るように形成され、ここで、各拡張で薬物層の一部が送達される。薬物層は、拡張可能部材と類似のコンプライアンスを有し、拡張可能部材が膨らむときまたは折り畳みがほどけるときの破壊および剥離を防ぐ適切な延性を有するように製剤化され得る。薬物層製剤は、薬物に加えて、他の化合物または添加物(例えば、賦形剤、結合剤、可塑剤、溶媒、界面活性剤、キレート剤、浸透促進剤、粘膜接着剤、粘液溶解薬など)を含み得る。処置される部位が、粘膜組織または粘膜線毛組織を含むとき、粘液層を越えた薬物送達を高めるために、薬物層が、浸透促進剤、粘膜接着剤および/または粘液溶解薬などの賦形剤を含むことが有用であり得る。いくつかのバリエーションにおいて、1000Daまたはそれ未満の分子量を有する賦形剤が、粘膜組織を通過した薬物取り込みの向上に有益であり得る。
【0052】
拡張可能部材が配置されるまで薬物層を保護するため、または薬物の放出を促進するために、薬物層上に別の層(例えば、トップコート)を付与することができる(例えば、拡張可能部材の表面に親水性プライミング剤を下塗りすることによって、またはトップコートに親水性プライミング剤を含めることによって)。トップコートは、活性な作用物質を欠き得るが、いくつかの場合においては、少量の1つまたはそれを超える活性な作用物質を含み得る。いくつかのバリエーションにおいて、トップコートは、標的組織部位と接触したら溶解または分解するが拡張可能部材が拡張されるまでは溶解または分解しないように構成される。
【0053】
薬物層製剤は、コーティングを可塑化するためおよび/またはフィルムの完全性を高めるために賦形剤を含み得る。コーティングの延性および完全性を高めるために、自由選択の可塑剤を加えることができる。可塑剤の例としては、低分子量ポリ(エチレングリコール)、グリセロール、ポリソルベート、脂肪酸、セバケート、脂肪アルコール、脂質、レシチン、植物油などの油、グリコールエステル、プロピレングリコールおよびヒマシ油が挙げられ得る。可塑剤が使用されるとき、コーティング中の薬物、賦形剤および可塑剤は、それぞれ約0.5:1:0.1からそれぞれ10:1:1の範囲であり得る。いくつかのバリエーションにおいて、薬物と賦形剤と可塑剤との比は、それぞれ2:1:0.1からそれぞれ3:1:0.5の範囲であり得る。
【0054】
フィルムの形成およびコーティングの完全性を高めるために、賦形剤またはポリマーを薬物層製剤に加えることができる。これらの材料は、天然または合成の材料であり得る。天然のポリマーには、キトサン、コラーゲン、エラスチン、絹、シルクエラスチン、アルギネート、セルロース、デキストラン、ポリアルコアネート(polyalkoanates)、ヒアルロン酸、ゼラチンおよびジェランが含まれ得る。合成生体吸収型ポリマーには、ポリラクチド(PLA)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(L-ラクチド-co-ε-カプロラクトン)、ポリグリコリド、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリジオキサノン、ポリグラクチン、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリグリコネート、ポリ(グリコリド-co-トリメチレンカーボネート)、ポリ(セバシン酸)、ポリ(エステルウレタン)およびポリ(エステルウレタン)尿素が含まれ得る。
【0055】
ポリ(エチレングリコール)(PEG)が使用されるとき、その分子量は、重層化特性を改善するように調整することができる。一般に、使用され得るPEGの分子量は、約0.2kDa~約10kDaの範囲である(換言すれば、PEG200~PEG1000の範囲の様々なPEG)。いくつかの特定のバリエーションでは、使用されるPEGは、PEG600、PEG800、PEG1000、PEG1500、PEG2000、PEG3000、PEG3350、PEG4000、PEG6000またはPEG8000であり得る。いくつかのバリエーションでは、比較的低分子量のPEG(例えば、約1.2kDa未満)が、薬物放出の速度および粘膜組織の取り込みを増大させ得る。他のバリエーションでは、約1.2kDa超の分子量を有するPEGが、複数回の膨張にわたって薬物放出速度を低下させ得るかまたは粘膜組織の取り込みを遅らせ得る。いくつかの実行の場合、比較的高分子量のPEG、例えば、6kDaの分子量を有するPEGも使用され得る。あるいは、薬物層は、種々の分子量を有するPEGの層を含み得る。例えば、複数回の膨張が企図されるとき、層は、高分子量PEGと低分子量PEGを交互に含み得る。
【0056】
架橋バージョンの合成重層化賦形剤も使用され得、それらとしては、架橋PEG、ポリNIPAAM、PEG-PLAブロック共重合体、および熱的に架橋されたポロキサマー(polaxamers)(例えば、Pluronics)が挙げられるが、これらに限定されない。架橋PEGは、反応性のマルチアームPEGスクシンイミジル(succinimydyl)スクシネートとマルチアームPEGアミンとの混合物などの予め反応させた反応性PEGからなり得る。4アームPEGまたは8アームPEGを使用することにより、架橋密度および膨張比を制御することができる。PEGスクシンイミジルグルタレートなどの他のマルチアームPEG-NHS(N-ヒドロキシルスクシンイミド)エステルも使用することができる。セルロース誘導体もコーティング製剤に加えることができる。
【0057】
上記製剤は、薬物層の移行を増強するためもしくは遅らせるため、コーティングからの薬物放出を増強するためもしくは遅らせるため、および/または組織への接着を増強するための賦形剤も含み得る。賦形剤と薬物との特定の組み合わせが、コーティングが拡張可能部材の外膜から放出されることならびに粘液および/または粘膜組織に接着することを可能にするのに役立ち得る。粘膜接着特性を有する賦形剤が、有用であり得、それらとしては、キトサン、ポリアクリル酸、ポリグルタミン酸、カルボキシメチルセルロース、ヒアルロン酸ナトリウムおよびアルギン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかのバリエーションにおいて、コーティングは、組織部位を灌注する手技の間の流出を防ぐために疎水性であるように製剤化される。
【0058】
詳細には、いくつかの場合において、短時間の膨張の間に拡張可能部材からの薬物の迅速放出を増強するために、賦形剤に対する薬物の比が高いことが望ましいことがある。例としては、1:3もしくはそれを超えるか、または1:1もしくはそれを超える薬物と賦形剤との比が挙げられる。いくつかの場合では、送達後の体腔からの水分および/または粘液が、薬物層を柔らかくすることができ、薬物層が組織に移行できるようにするのに役立ち得る。他の場合では、賦形剤は、薬物との湿性および親油性の相互作用において拡張可能部材からの親水性放出を促進するために両親媒性(すなわち、親水性と親油性の両方の特性を有する)であり得る。両親媒性のポリマーおよび賦形剤の例としては、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、リン脂質、脂肪酸、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリソルベート、ポロキサマー、ヒドロキシプロピル-ベータ-シクロデキストリンおよびスクロース脂肪酸モノエステルが挙げられ得る。
【0059】
あるいは、薬物と賦形剤との比は、組織部位への薬物の放出を遅延させるまたは遅らせるように調整され得る。この場合、比較的高い親油性薬物と親水性賦形剤との比、例えば、1:1、2:1または3:1という比が、薬物の溶解、ひいては放出を遅らせるために使用され得る。これらの比は、単一の拡張可能部材を使用して複数の部位を処置するときおよび/または単一の拡張可能部材が複数回の拡張を受けるとき、有用であり得る。
【0060】
追加的または代替的に、薬物自体が、親油性であり得る。これらのバリエーションでは、拡張された拡張可能部材が、処置部位の組織を圧迫し、その組織に適合する場合、拡張可能部材の外面上のコーティングに含まれる薬物の親油性の性質が、その組織への移行およびその組織による吸収を促進し得る。体腔(例えば、副鼻洞、耳管、および本明細書中に記載される他の該当する身体構造)内の水分が、この移行を促進し得る。拡張可能部材(例えば、バルーン)からの薬物/薬物層の移行に影響し得る他の因子としては、拡張可能部材によって作用される接触圧の大きさ、組織部位への拡張可能部材の接触の量、および組織部位の表面に対する損傷の量が挙げられる。医師は、拡張可能部材からの薬物放出を増強するために、デバイスを配置する前に組織および/または拡張可能部材を灌注することもできる。
【0061】
先に述べたように、いったん薬物層が体腔内の組織、例えば粘膜組織に移行されると、その薬物層は、所望の時間枠にわたって薬物の局所の治療レベルを維持できるようにするインサイチュデポーとして作用し得る。いくつかの場合において、1つまたはそれを超える薬物を含む薬物層は、少なくとも部分的に生分解性および/または生体溶解性であり得る。薬物および/または薬物層が、所望の時間枠にわたって分解および/または溶解するにつれて、その薬物は、標的組織、および標的組織から遠位の解剖学的形態に放出され得る。いくつかのバリエーションでは、架橋された賦形剤を使用することにより、薬物が所望の時間枠にわたって標的組織部位において維持されるのに役立ち得る。他のバリエーションでは、高分子量の賦形剤を薬物層に含めることにより、標的組織部位における薬物の滞留時間を長くすることができる。なおもさらなるバリエーションでは、結晶形の薬物を薬物層に組み込むことにより、薬物送達の効率および/または標的組織部位における薬物の徐放を高めるのに役立ち得る。副鼻腔を処置するとき、薬物層が、活性な作用物質の少なくとも約60%をフロ酸モメタゾン薬物結晶として、そしてポリソルベートおよびポリ(エチレングリコール)を含むことが有益であり得る。そのような薬物層は、本明細書中に示されるような薬物と賦形剤との比で形成され得る。
【0062】
いくつかの場合において、ノンコンプライアントバルーンまたはセミコンプライアントバルーンを使用することにより(コンプライアントバルーンと対比して)、粘膜組織部位における薬物の取り込み効率を高めることができる。これは、バルーンを膨張させるために必要な高い圧力が、粘液層を押し退け、上皮組織の損傷をもたらし、そしてそれにより組織への薬物送達を増強できるからである。組織の損傷は、突起を有するバルーンまたはそのバルーンに成形もしくは接着させた粗面、あるいは組織に切れ目を入れること、組織を切ることおよび/または組織を裂くことができるバルーンを使用することによっても誘導され得る。
【0063】
他の場合では、粘膜接着性賦形剤の使用によって、組織部位における薬物送達効率を上昇させることができる。例示的な粘膜接着性賦形剤としては、カルボマー、モノオレイン酸グリセリル、ヒプロメロース、オレイン酸、ポリカルボフィル、ポリエチレンオキシド、ポリ(エチレングリコール)およびアルギン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。他の粘膜接着剤は、可溶性のコーティングまたはポリマーを濡らすこと、電荷による接着(例えば、アニオン性ポリマー、例えば、ポリアクリル酸、セルロース誘導体、キトサン、ジェラン、カーボポールなどの、電荷による接着)、および例えばPEG-NHSなどのタンパク質反応性ゲルを用いた共有結合性の接着によって、接着特性を得ることができるだろう。1つのバリエーションにおいて、粘膜接着剤は、ポリ(エチレングリコール)である。
【0064】
例えば、粘液層を通過した、および標的組織への、薬物送達を高めるために、浸透促進剤も薬物層製剤に含められ得る。例示的な浸透促進剤としては、ジメチルスルホキシド、モノオレイン酸グリセリル、グリコフロール、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ラノリン、軽油、リノール酸、メントール、ミリスチン酸、ミリスチルアルコール、オレイン酸、オレイルアルコール、パルミチン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシルグリセリド、ピロリドン、ラウリル硫酸ナトリウム、チモール、トリカプリリン、トリオレインならびにそれらの組み合わせおよび混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
拡張可能部材は、その所望の使用法に応じて、任意の好適な薬物または作用物質を含むことができる。その薬物または活性な作用物質には、例えば、診断薬または治療薬のうちの少なくとも1つが含まれ得る。好適な薬物クラスとしては、例えば、局所麻酔剤、鎮痛剤、血管収縮薬、殺菌剤、抗酸化剤、抗炎症剤、抗アレルゲン剤、抗コリン剤、抗ヒスタミン剤、抗感染薬、抗血小板剤、抗凝固薬、抗血栓剤、抗瘢痕剤、抗増殖剤、化学療法剤、抗悪性腫瘍剤、うっ血除去薬、治癒促進剤およびビタミン(例えば、レチノイン酸、ビタミンA、デクスパンテノール(depaxapanthenol)、ビタミンBおよびそれらの誘導体)、高浸透圧剤(hypersomolar agents)、免疫調節物質、免疫抑制剤、粘液溶解薬ならびにそれらの組み合わせおよび混合物が挙げられる。
【0066】
薬物でコーティングされた拡張可能部材、例えば、薬物でコーティングされたバルーンは、機能的内視鏡副鼻腔手術(FESS)などの手術もしくはバルーンによる薬物送達なしの副鼻洞バルーン開大を以前に受けた患者、または以前に手術を受けたことがない患者を処置するために使用され得る。鼻の症状の処置の場合、薬物が、抗炎症剤、抗感染症剤、抗ヒスタミン剤(antihistame)、うっ血除去薬、粘液溶解薬またはそれらの組み合わせもしくは混合物を含むことが有用であり得る。鼻、例えば、副鼻腔において使用するためのバルーンは、長い球形のバルーンとして成形され得る(例えば、図1Dを参照のこと)。耳の症状の処置の場合、薬物が、抗炎症剤、抗感染症剤またはそれらの組み合わせもしくは混合物を含むことが有用であり得る。耳において使用するためのバルーンは、キノコ形(例えば、図1Mを参照のこと)またはデュアルバルーン形(例えば、図1Nを参照のこと)を有し得る。咽喉の症状の処置の場合、薬物が、鎮痛剤、抗感染症剤、化学療法剤またはそれらの組み合わせもしくは混合物を含むことが有用であり得る。咽喉において使用するためのバルーンは、副鼻洞において使用されるバルーンよりも大きな直径および大きな長さを有する長い球形のバルーンであり得る。例えば、そのバルーンは、約16mmの直径および約40mmの長さを有し得る。
【0067】
いくつかのバリエーションでは、先に述べたように、粘液層をクリーニングするのを助けるために、粘液溶解薬が薬物層に含められる。その粘液溶解薬には、カルボシステイン、エルドステイン、アセチルシステイン、ブロムヘキシン(bromheksin)、エクスピゲン(expigen)シロップ(ソルビマクロゴールラウレート300および塩化アンモニウム)、グアイフェネシン、グリセリルグアヤコール塩(glyceryl guaicolate)、ヨウ化グリセロールまたはそれらの組み合わせもしくは混合物が含まれ得る。
【0068】
抗酸化剤の例としては、トコフェロール(ビタミンE)、アルファトコフェロール、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、クエン酸一水和物、エリソルビン酸、オレイン酸エチル、フマル酸、リンゴ酸、メチオニン、モノチオグリセロール(monothioglyceraol)、リン酸、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、クエン酸一水和物、酒石酸およびチモールが挙げられる。
【0069】
局所麻酔剤の例としては、ロピバカイン(ropivicaine)、メピバカイン(mepivicaine)、コカイン、プロカイン、リドカイン、ヒドロコドン、オキシコドンおよびフェンタニル、モルヒネが挙げられる。血管収縮薬の例としては、エピネフリン、レボノルデフリンおよびアドレナリンが挙げられる。
【0070】
抗感染症剤としては、一般に、抗菌剤、抗真菌剤、抗寄生虫剤、抗ウイルス剤、殺菌剤、ヨウ素(例えば、ポビドンヨウ素)、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、チメロサール(thimersol)、チモール、ブチレングリコール、ヤシ油およびバニリンが挙げられる。抗炎症剤としては、一般に、ステロイド性抗炎症剤および非ステロイド性抗炎症剤が挙げられる。
【0071】
記載される方法およびデバイスとの使用に好適であり得る抗アレルギー剤の例としては、ペミロラストカリウム(ALAMAST(登録商標),Santen,Inc.)、ならびにその任意のプロドラッグ、代謝産物、アナログ、ホモログ、同族体、誘導体、塩および組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。抗増殖剤の例としては、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、アクチノマイシンD、アクチノマイシンIV、アクチノマイシンI1、アクチノマイシンX1、アクチノマイシンC1およびダクチノマイシン(COSMEGEN(登録商標),Merck&Co.,Inc.)が挙げられるが、これらに限定されない。抗血小板剤、抗凝固剤、抗フィブリン剤および抗トロンビン剤の例としては、ヘパリンナトリウム、低分子量ヘパリン、ヘパリノイド、ヒルジン、アルガトロバン、フォルスコリン、バピプロスト、プロスタサイクリンおよびプロスタサイクリンアナログ、デキストラン、D-phe-pro-arg-クロロメチルケトン(合成アンチトロンビン)、ジピリダモール、糖タンパク質IIb/IIIa血小板膜レセプターアンタゴニスト抗体、組換えヒルジンおよびトロンビン阻害剤(ANGIOMAX(登録商標),Biogen,Inc.)ならびにそれらの任意のプロドラッグ、代謝産物、アナログ、ホモログ、同族体、誘導体、塩および組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。治癒促進剤(pro-healing agents)の例としては、ビタミンAが挙げられるが、これに限定されない。
【0072】
記載される方法およびデバイスとの使用に好適であり得る細胞分裂抑制剤または抗増殖剤の例としては、アンギオペプチン(angiopeptin)、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、例えば、カプトプリル(CAPOTEN(登録商標)およびCAPOZIDE(登録商標),Bristol-Myers Squibb Co.)、シラザプリルまたはリシノプリル(PRINIVIL(登録商標)およびPRINZIDE(登録商標),Merck&Co.,Inc.);カルシウムチャネル遮断薬、例えば、ニフェジピン;コルヒチン;線維芽細胞成長因子(FGF)アンタゴニスト、魚油(オメガ3-脂肪酸);ヒスタミンアンタゴニスト;ロバスタチン(MEVACOR(登録商標),Merck&Co.,Inc.);血小板由来成長因子(PDGF)レセプターに特異的な抗体を含むがこれに限定されないモノクローナル抗体;ニトロプルシド;ホスホジエステラーゼ阻害剤;プロスタグランジン阻害剤;スラミン;セロトニン遮断薬;ステロイド;チオプロテアーゼ阻害剤;トリアゾロピリミジンを含むがこれに限定されないPDGFアンタゴニスト;および一酸化窒素、ならびにそれらの任意のプロドラッグ、代謝産物、アナログ、ホモログ、同族体、誘導体、塩および組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0073】
記載される方法およびデバイスとの使用に好適であり得る抗菌剤の例としては、アミノグリコシド、アンフェニコール、アンサマイシン、ベータラクタム、β-ラクタム、例えば、ペニシリン、リンコサミド、マクロライド、ニトロフラン、キノロン、スルホンアミド、スルホン、テトラサイクリン、バンコマイシン、ならびにそれらの任意の誘導体またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。記載される方法およびデバイスとの使用に好適であり得るペニシリンの例としては、アムジノシリン、アムジノシリンピボキシル、アモキシシリン、アンピシリン、アパルシリン(apalcillin)、アスポキシシリン、アジドシリン、アズロシリン、バカンピシリン、ベンジルペニシリン酸、ベンジルペニシリンナトリウム、カルベニシリン、カリンダシリン、クロメトシリン、クロキサシリン、シクラシリン、ジクロキサシリン、エピシリン、フェンベニシリン(fenbenicillin)、フロキサシリン、ヘタシリン、レナンピシリン、メタンピシリン、メチシリンナトリウム、メズロシリン、ナフシリンナトリウム、オキサシリン、ペナメシリン、ペネタメートヨウ化水素酸塩(penethamate hydriodide)、ペニシリンGベネタミン、ペニシリンGベンザチン、ペニシリンGベンズヒドリルアミン、ペニシリンGカルシウム、ペニシリンGヒドラバミン、ペニシリンGカリウム、ペニシリンGプロカイン、ペニシリンN、ペニシリンO、ペニシリンV、ペニシリンVベンザチン、ペニシリンVヒドラバミン、ペニメピサイクリン、フェネチシリンカリウム、ピペラシリン、ピバンピシリン、プロピシリン、キナシリン(quinacillin)、スルベニシリン、スルタミシリン、タランピシリン、テモシリンおよびチカルシリンが挙げられるが、これらに限定されない。1つのバリエーションにおいて、抗菌剤は、シプロフロキサシンを含む。別のバリエーションにおいて、抗菌剤は、アモキシシリンを含む。
【0074】
記載される方法およびデバイスとの使用に適した抗真菌剤の例としては、アリルアミン、イミダゾール、ポリエン、チオカルバメート、トリアゾールおよびそれらの任意の誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。使用され得る抗寄生虫剤としては、アトバコン、クリンダマイシン、ダプソン、ヨードキノール、メトロニダゾール、ペンタミジン、プリマキン、ピリメタミン、スルファジアジン、トリメトプリム/スルファメトキサゾール、トリメトレキサートおよびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
記載される方法およびデバイスとの使用に適した抗ウイルス剤の例としては、アシクロビル、ファムシクロビル、バラシクロビル、エドクスジン、ガンシクロビル、ホスカメット(foscamet)、シドフォビル(cidovir)(ビスタイド)、ビトラセルト(vitrasert)、ホミビルセン(formivirsen)、HPMPA(9-(3-ヒドロキシ-2-ホスホノメトキシプロピル)アデニン)、PMEA(9-(2-ホスホノメトキシエチル)アデニン)、HPMPG(9-(3-ヒドロキシ-2-(ホスホノメトキシ)プロピル)グアニン)、PMEG(9-[2-(ホスホノメトキシ)エチル]グアニン)、HPMPC(1-(2-ホスホノメトキシ-3-ヒドロキシプロピル)-シトシン)、リバビリン、EICAR(5-エチニル-1-ベータ-D-リボフラノシルイミダゾール-4-カルボキサミン)、ピラゾフリン(pyrazofurin)(3-[ベータ-D-リボフラノシル]-4-ヒドロキシピラゾール-5-カルボキサミン)、3-デアザグアニン、GR-92938X(1-ベータ-D-リボフラノシルピラゾール-3,4-ジカルボキサミド)、LY253963(1,3,4-チアジアゾール-2-イル-シアナミド)、RD3-0028(1,4-ジヒドロ-2,3-ベンゾジチイン)、CL387626(4,4’-ビス[4,6-d][3-アミノフェニル-N,N-ビス(2-カルバモイルエチル)-スルホニルイミノ]-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ-ビフェニル-2-,2’-ジスルホン酸二ナトリウム塩)、BABIM(ビス[5-アミジノ-2-ベンゾイミダゾリル]-メタン)、NIH351およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
記載される方法およびデバイスとの使用に適した殺菌剤の例としては、アルコール、クロルヘキシジン(chlorhexidrine)、ヨウ素、トリクロサン、ヘキサクロロフェンおよび銀ベースの作用物質、例えば、塩化銀、酸化銀および銀ナノ粒子が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
抗炎症剤には、ステロイド性抗炎症剤および非ステロイド性抗炎症剤が含まれ得る。好適なステロイド性抗炎症剤の例としては、21-アセトキシプレグネノロン、アルクロメタゾン、アルゲストン、アムシノニド、ベクロメタゾン、ベタメタゾン、ブデソニド、クロロプレドニゾン、クロベタゾール、クロベタゾン、クロコルトロン、クロプレドノール、コルチコステロン、コルチゾン、コルチバゾール、デフラザコート、デソニド、デスオキシメタゾン、デキサメタゾン、ジフロラゾン、ジフルコルトロン、ジフルプレドナート、エノキソロン、フルアザコルト(fluazacort)、フルクロロニド(flucloronide)、フルメタゾン、フルニソリド、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、フルオコルチンブチル、フルオコルトロン、フルオロメトロン、酢酸フルペロロン、酢酸フルプレドニデン、フルプレドニソロン、フルランドレノリド、プロピオン酸フルチカゾン、ホルモコータル、ハルシノニド、プロピオン酸ハロベタソール、ハロメタゾン、酢酸ハロプレドン、ヒドロコルタメート、ヒドロコルチゾン、エタボン酸ロテプレドノール、マジプレドン、メドリゾン、メプレドニゾン、メチルプレドニゾロン、フロ酸モメタゾン、パラメタゾン、プレドニカルベート、プレドニゾロン、25-ジエチルアミノ酢酸プレドニゾロン、リン酸プレドニゾロンナトリウム、プレドニゾン、プレドニバル(prednival)、プレドニリデン、リメキソロン、チキソコルトール、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンベネトニド、トリアムシノロンヘキサセトニド、それらの任意の誘導体およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかのバリエーションでは、手術後の炎症を予防または低減するために、副鼻洞および本明細書中に記載される他の身体構造においてコルチコステロイドが使用される。そのコルチコステロイドは、通常、効力が高く、糖質コルチコイドレセプターへの結合性が高く、バイオアベイラビリティが低いものであり得る。例えば、いくつかのバリエーションにおいて、コルチコステロイドは、フロ酸モメタゾン、またはその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物、水和物、エステル、遊離塩基、エナンチオマー、ラセミ体、多形、非晶質形もしくは結晶形を含む。他のバリエーションにおいて、コルチコステロイドは、デキサメタゾン、またはその薬学的に許容され得る塩、溶媒和物、水和物、エステル、遊離塩基、エナンチオマー、ラセミ体、多形、非晶質形もしくは結晶形を含む。
【0078】
好適な非ステロイド性抗炎症剤の例としては、COX阻害剤が挙げられるが、これらに限定されない。これらのCOX阻害剤には、COX-1阻害剤またはCOX非特異的阻害剤、例えば、サリチル酸および誘導体、アスピリン、サリチル酸ナトリウム、トリサルチル酸コリンマグネシウム、サルサラート、ジフルニサル、スルファサラジンおよびオルサラジン;パラ-アミノフェノール誘導体、例えば、アセトアミノフェン;インドール酢酸およびインデン酢酸、例えば、インドメタシンおよびスリンダク;ヘテロアリール酢酸、例えば、トルメチン、ジクロフェナク(dicofenac)およびケトロラク;アリールプロピオン酸、例えば、イブプロフェン、ナプロキセン、フルルビプロフェン、ケトプロフェン、フェノプロフェンおよびオキサプロジン;アントラニル酸(フェナム酸)、例えば、メフェナム酸およびメロキシカム;エノール酸(enolic acids)、例えば、オキシカム(oxicams)(ピロキシカム、メロキシカム)およびアルカノン、例えば、ナブメトンが含まれ得る。COX阻害剤には、選択的なCOX-2阻害剤、例えば、ジアリール置換フラノン、例えば、ロフェコキシブ;ジアリール置換ピラゾール、例えば、セレコキシブ;インドール酢酸、例えば、エトドラクおよびスルホンアニリド、例えば、ニメスリド)も含まれ得る。
【0079】
本明細書に記載されるデバイスにおいて使用され得る化学療法剤/抗悪性腫瘍剤の例としては、抗腫瘍剤(例えば、癌化学療法剤、生物学的応答変更物質、血管新生化阻害剤、ホルモンレセプター遮断薬、寒冷治療薬、または新形成または腫瘍形成を破壊もしくは阻害する他の作用物質)、例えば、アルキル化剤、または癌細胞のDNAを攻撃することによって癌細胞を直接殺滅する他の作用物質(例えば、シクロホスファミド、イソホスファミド)、ニトロソ尿素、または細胞のDNA修復に必要な変化を阻害することによって癌細胞を殺滅する他の作用物質(例えば、カルムスチン(BCNU)およびロムスチン(CCNU))、代謝拮抗物質、またはある特定の細胞機能、通常、DNA合成を干渉することによって癌細胞の成長を阻止する他の作用物質(例えば、6-メルカプトプリンおよび5-フルオロウラシル(5FU)、抗腫瘍抗生物質、およびDNAに結合またはインターカレートしてRNA合成を防ぐことによって作用する他の化合物(例えば、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、マイトマイシン-Cおよびブレオマイシン)、植物(ビンカ)アルカロイド、および植物に由来する他の抗腫瘍剤(例えば、ビンクリスチンおよびビンブラスチン)、ステロイドホルモン、ホルモン阻害剤、ホルモンレセプターアンタゴニスト、およびホルモン応答性癌の成長に影響する他の作用物質(例えば、タモキシフェン、ハーセプチン、アロマターゼ阻害剤(ingibitors)、例えば、アミノグルテチミド(aminoglutethamide)およびフォルメスタン、トリアゾール(trriazole)阻害剤、例えば、レトロゾールおよびアナストラゾール(anastrazole)、ステロイド阻害剤、例えば、エキセメスタン)、抗血管新生タンパク質、小分子、遺伝子治療および/または腫瘍の血管新生もしくは血管新生化を阻害する他の作用物質(例えば、meth-1、meth-2、サリドマイド)、ベバシズマブ(Avastin)、スクアラミン、エンドスタチン、アンジオスタチン、アンギオザイム、AE-941(Neovastat)、CC-5013(Revimid)、medi-522(Vitaxin)、2-メトキシエストラジオール(2ME2、Panzem)、カルボキシアミドトリアゾール(CAI)、コンブレタスタチンA4プロドラッグ(CA4P)、SU6668、SU11248、BMS-275291、COL-3、EMD121974、IMC-1C11、IM862、TNP-470、セレコキシブ(Celebrex)、ロフェコキシブ(Vioxx)、インターフェロンアルファ、インターロイキン-12(IL-12)またはScience Vol.289,Pages 1197-1201(2000年8月17日)(参照により明確に本明細書中に援用される)において特定されている任意の化合物、生物学的応答変更物質(例えば、インターフェロン、カルメット・ゲラン菌(BCG)、モノクローナル抗体、インターロイキン2、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)など)、PGDFレセプターアンタゴニスト、ハーセプチン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、カルムスチン、クロラムブシル(cchlorambucil)、シタラビン、ダカルバジン、エトポシド、フルカルバジン(flucarbazine)、フルオロウラシル(flurouracil)、ゲムシタビン、ヒドロキシ尿素、イホスファミド(ifosphamide)、イリノテカン、ロムスチン、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキサート、チオグアニン、チオテパ、トムデックス(tomudex)、トポテカン、トレオスルファン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ミトアジトロン(mitoazitrone)、オキサリプラチン、プロカルバジン、ストレプトシン(streptocin)、タキソールまたはパクリタキセル、タキソテール、アザチオプリン、ドセタキセルアナログ/同族体、そのような化合物の誘導体、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
本明細書に記載されるデバイスおよび方法において使用され得るうっ血除去薬の例としては、エピネフリン、プソイドエフェドリン、オキシメタゾリン、フェニレフリン、テトラヒドロゾリン(tetrahydrozolidine)およびキシロメタゾリンが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載されるデバイスおよび方法において使用され得る粘液溶解薬の例としては、アセチルシステイン、ドルナーゼアルファおよびグアイフェネシンが挙げられるが、これらに限定されない。アゼラスチン、ジフェンヒドラミンおよびロラタジン(loratidine)などの抗ヒスタミン剤も、本明細書中に記載されるシステムおよび方法において使用され得る。
【0081】
本明細書に記載されるデバイスにおいて使用され得る好適な高浸透圧剤としては、フロセミド、塩化ナトリウムゲル、および水を組織から引き出す他の塩調製物または粘液層の容量オスモル濃度を直接もしくは間接的に変化させる物質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
本発明において有用な他の生理活性な作用物質としては、フリーラジカルスカベンジャー;一酸化窒素供与体;ラパマイシン;メチルラパマイシン;エベロリムス;タクロリムス;40-O-(3-ヒドロキシ)プロピル-ラパマイシン;40-O-[2-(2-ヒドロキシ)エトキシ]エチル-ラパマイシン;テトラゾール含有ラパマイシンアナログ、例えば、米国特許第6,329,386号に記載されているもの;エストラジオール;クロベタゾール;イドキシフェン(idoxifen);タザロテン;アルファ-インターフェロン;原核生物および真核生物、例えば、上皮細胞および遺伝的に操作された上皮細胞を含むがこれらに限定されない宿主細胞;デキサメタゾン;ボツリヌス毒素および他の神経毒;ならびにそれらの任意のプロドラッグ、代謝産物、アナログ、ホモログ、同族体、誘導体、塩および組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
フリーラジカルスカベンジャーの例としては、2,2’,6,6’-テトラメチル-1-ピペリニルオキシ,フリーラジカル(TEMPO);4-アミノ-2,2’,6,6’-テトラメチル-1-ピペリニルオキシ,フリーラジカル(4-アミノ-TEMPO);4-ヒドロキシ-2,2’,6,6’-テトラメチル-ピペリデン-1-オキシ,フリーラジカル(TEMPOL)、2,2’,3,4,5,5’-ヘキサメチル-3-イミダゾリニウム-1-イルオキシメチルスルフェート,フリーラジカル;16-ドキシル-ステアリン酸,フリーラジカル;スーパーオキシドジスムターゼ模倣物(SODm)ならびにそれらの任意のアナログ、ホモログ、同族体、誘導体、塩および組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。一酸化窒素供与体としては、S-ニトロソチオール、亜硝酸塩、N-オキソ-N-ニトロソアミン、一酸化窒素シンターゼの基質、スペルミンジアゼニウムジオレートなどのジアゼニウムジオレート、ならびにそれらの任意のアナログ、ホモログ、同族体、誘導体、塩および組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
薬物のタイプ、薬物の形態(例えば、結晶および非晶質)、送達のタイミングおよび薬物の用量の選択は、意図された処置計画ごとに決定することができ、個々の患者の具体的なニーズを満たすようにさらに微調整することができる。薬物層の構成要素を変更することにより、薬物の放出速度および/または組織へのコーティングの移行速度を調整することができる。薬物層は、拡張可能部材が拡張したときに、薬物層の少なくとも25%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%または少なくとも90%が組織に移行されるように製剤化され得る。1つのバリエーションにおいて、拡張可能部材が拡張したとき、薬物層の少なくとも80%が移行される。
【0085】
拡張可能部材の1回または複数回の拡張で、所望の量の薬物層または薬物結晶の移行が達成され得る。いくつかのバリエーションにおいて、拡張可能部材は、1、2、3、4、5、6、7または8回の拡張で薬物結晶が標的組織に送達されるように構造化され得る。例えば、複数回の拡張が、単一のデバイスを用いて行われるとき、薬物結晶は、各拡張で部分的に移行されるように製剤化され得る。これは、複数の組織部位、例えば、複数の副鼻腔を処置するために単一のデバイスを使用するとき、有用であり得る。各拡張で薬物層を標的組織に部分的に移行することによって、薬物結晶の部分的な移行が達成され得る。例えば、薬物層が、複数の副層を含むとき、各副層が、各拡張で移行され得る。他のバリエーションでは、各拡張によって薬物層の部分的な移行がもたらされるように膨張圧を拡張ごとに調整することができ、例えば、拡張ごとに膨張圧を上げることができる。薬物層または薬物結晶の移行の量は、バルーンにおいて異なる数のひだまたは折り畳みを使用することによっても調整することができる。
【0086】
いくつかのバリエーションにおいて、薬物層または薬物結晶は、それらの移行が、各拡張で、例えば各バルーン膨張で線形になるように製剤化され得る。例えば、薬物結晶の25%が第1の膨張で移行され得、新たな25%が第2の膨張で移行され得、新たな25%が第3の膨張で移行され得、残りの25%が第4の膨張で移行され得る。他のバリエーションでは、薬物結晶は、1次型の移行を有するように製剤化され得る。大まかには、薬物結晶および薬物層は、結晶の40%±30%が、第1の膨張で移行され、結晶の30%±20%が第2の膨張で移行され、20±10%が第3の膨張で移行され、10%±5%が第4の膨張で移行される1次の移行プロファイルを有するように形成および製剤化され得る。1つの例において、結晶の約60%が、第1の膨張で移行され、結晶の約20%が、第2の膨張で移行され、約10%が、第3の膨張で移行され、約5%が、第4の膨張で移行される。別の例では、結晶の約60%が、第1の膨張で移行され、結晶の約40%が、第2の膨張で移行される。さらなる例では、結晶の約50%が、第1の膨張で移行され、結晶の約20%が、第2の膨張で移行され、約10%が、第3の膨張で移行される。さらに、薬物層または薬物結晶は、組織に対する目標回数の拡張の後(例えば、1、2、3、4、5または6回の拡張の後)の薬物移行の総量は、拡張可能部材上にロードされた最初の薬物の約96%またはそれを超えるように製剤化され得る。特定の実行では、最初の薬物ロード量の約4%またはそれ未満が、薬物を1つまたはそれを超える標的組織に送達する4回の膨張後に拡張可能部材上に残留し得る。いくつかの場合では、拡張可能部材の2回の拡張で標的組織を処置することが有益であり得る。実施例3にさらに記載されるように、2回の拡張での処置は、ある特定の標的組織において、活性な作用物質の治療レベルを得るのに十分であり得る。
【0087】
薬物層の構造を変更すること、薬物層製剤の構成要素および/もしくはその薬物層製剤における構成要素の量を変更すること、ならびに/または薬物層の製造プロセスの様々な工程を変更することによって、所望の移行タイプを得ることができる。例えば、線形移行が望まれるとき、薬物層は、拡張可能部材上に複数の層で提供され得、各拡張で1層が移行され得る。したがって、層の数は、通常、使用するために意図された拡張の回数に対応する。いくつかの場合では、薬物を含まないプライマーコーティングが、各薬物層の間に組み込まれ得る。他の場合では、膨張時間が長くなると、薬物層が複数回の拡張で1次型の放出を示すようになり得る。
【0088】
拡張可能部材の表面は、薬物層の移行を増強するようにまたは拡張中の薬物層の移行を遅らせるように重層化する前に処理され得る。例えば、膨張可能バルーンの表面が、プラズマ処理されるか、またはプライマーコーティングでコーティングされるとき、その処理のある特定のパラメータを変更することにより、移行速度を操作することができる。
【0089】
拡張可能部材の任意の単回の膨張によって薬物層が移行されるとき送達される薬物(例えば、フロ酸モメタゾン)の用量は、約0.1mg(100μg)~約20mg(20,000μg)の範囲であり得る。例えば、移行される薬物の用量は、約0.1mg(100μg)、約0.2mg(200μg)、約0.3mg(300μg)、約0.4mg(400μg)、約0.5mg(500μg)、約1.0mg(1,000μg)、約2.0mg(2,000μg)、約3.0mg(3,000μg)、約4.0mg(4,000μg)、約5.0mg(5,000μg)、約6.0mg(6,000μg)、約7.0mg(7,000μg)、約8.0mg(8,000μg)、約9.0mg(9,000μg)、約10mg(10,000μg)、約11mg(11,000μg)、約12mg(12,000μg)、約13mg(13,000μg)、約14mg(14,000μg)、約15mg(15,000μg)、約16mg(16,000μg)、約17mg(17,000μg)、約18mg(18,000μg)、約19mg(19,000μg)または約20mg(20,000μg)であり得る。
【0090】
いくつかのバリエーションにおいて、移行される用量の総量は、約0.1mg(100μg)~約1.5mg(1,500μg)の範囲である。他のバリエーションにおいて、移行される薬物用量の総量は、最大約3.0mg(3,000μg)である。さらなるバリエーションにおいて、移行される薬物用量の総量は、最大約6.0mg(6,000μg)である。用量密度(dose density)は、コーティングされる拡張型デバイスのサイズを考慮して、ならびに薬物が送達される標的組織を考慮して、設定され得、例えば、気管狭窄のためにデザインされたバルーンは、拡張可能部材の必要な表面積を占めるために最大約45.0mgまたはそれを超える薬物用量を有し得る。コーティング中の用量密度(すなわち、バルーンの作用長の表面積あたりの薬物の量)(例えば、フロ酸モメタゾン)を調整することにより、組織に送達される薬物の量を変化させることができ、その用量密度は、約5μg/mm~約600μg/mmの範囲であり得る。例えば、用量密度は、5μg/mm、6μg/mm、7μg/mm、8μg/mm、9μg/mm、10μg/mm、20μg/mm、20μg/mm、30μg/mm、40μg/mm、50μg/mm、60μg/mm、70μg/mm、80μg/mm、90μg/mm、100μg/mm、200μg/mm、300μg/mm、400μg/mm、500μg/mmまたは600μg/mmであり得る。いくつかのバリエーションにおいて、例えば、コーティングが、直径6mm×長さ20mmのバルーン上に提供されるとき、そのコーティングが、約1μg/mm~約10μg/mmまたは約4μg/mm(1500μg)~約8μg/mm(3000μg)という用量密度のフロ酸モメタゾンを含むことが有用であり得る。
【0091】
薬物送達のプロファイルは、薬物層における薬物の量、薬物層における非晶質薬物または結晶性薬物の量、薬物層における薬物の結晶サイズ、薬物層における薬物結晶の分布または密度、賦形剤および/または薬物層製剤の他の構成要素の量、拡張可能部材の形などを調整することによっても、適合またはカスタマイズされ得る。先に述べたように、薬物送達は、各拡張で線形であり得る(例えば、4つの副鼻洞のそれぞれに薬物用量の25%が送達される)か、各拡張で1次であり得る(例えば、第1の拡張で薬物用量の50%が送達され、第2の拡張で25%が送達され、第3の拡張で15%が送達され、第4の拡張で10%が送達される)か、または所望であれば2次であり得る。
【0092】
薬物層は、処置される症状、所望の薬物放出速度およびコーティング移行などに応じて、任意の好適な数または組み合わせの薬物および賦形剤を含み得る。薬物層は、1つ、2つ、3つ、4つもしくは5つの薬物、または5つを超える薬物を含み得る。2つの薬物が薬物層製剤に含められるとき、それらは、フロ酸モメタゾンおよび抗ヒスタミン剤、またはフロ酸モメタゾンおよび抗菌剤であり得る。同様に、薬物層は、1つ、2つ、3つ、4つもしくは5つの賦形剤、または5つを超える賦形剤を含み得る。処置される組織が粘膜線毛組織を含むとき、先に述べたように、薬物層が、1つまたはそれを超える浸透促進性、粘膜接着性または粘液溶解性の賦形剤を含むことが有益であり得る。例えば、薬物層は、薬物としてフロ酸モメタゾン、浸透促進剤としてポリソルベート、粘膜接着剤としてポリアクリル酸、および粘液溶解薬としてアセチルシステインを含み得る。薬物層は、約3:1~約1:3の範囲の薬物と賦形剤との比を含み得る。
【0093】
1つのバリエーションにおいて、薬物層製剤は、コルチコステロイドおよび粘膜接着性賦形剤を含む。別のバリエーションにおいて、薬物層製剤は、コルチコステロイドおよび粘液溶解性賦形剤を含む。なおもさらなるバリエーションにおいて、薬物層製剤は、コルチコステロイドおよび賦形剤として浸透促進剤を含む。薬物層製剤は、コルチコステロイド、粘膜接着性賦形剤および粘液溶解性賦形剤;またはコルチコステロイド、粘膜接着性賦形剤、粘液溶解性賦形剤および浸透促進剤も含み得る。上述の薬物層におけるコルチコステロイドは、フロ酸モメタゾンであり得る。他の薬物層製剤は、粘膜接着性賦形剤、粘液溶解性賦形剤および浸透促進剤のうちの1つまたはそれを超えるものとともに抗菌剤を含み得る。いくつかの場合において、粘液溶解薬は、薬物層における賦形剤ではなく、活性な薬物であり得る。
【0094】
薬物層製剤は、活性な作用物質としてフロ酸モメタゾン、ならびに賦形剤としてポリ(ビニルピロリドン)およびポリソルベートを含み得る。この薬物層バリエーションは、鼻の症状、例えば、鼻炎、副鼻腔炎、ポリープ状浮腫または粘膜炎症の処置において有用であり得る。鼻の症状を処置するための他の薬物層は、フロ酸モメタゾン、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリソルベートおよびポリ(エチレングリコール)を含み得る。あるいは、鼻の症状を処置するための薬物層は、活性な作用物質としてフロ酸モメタゾン、ならびに賦形剤としてポリ(エチレングリコール)およびポリソルベートを含み得る。大まかには、薬物層は、フロ酸モメタゾンと賦形剤とポリソルベートとを、約[0.5~10.0]:[1.0]:[0.1~1.0]の重量比で含み得る。これらの比の例は下記の表2に見られる。さらなるバリエーションにおいて、鼻の症状を処置するための薬物層は、活性な作用物質としてフロ酸モメタゾン、ならびに賦形剤としてポリ(ビニルピロリドン)およびプロピレングリコールを含み得る。活性な作用物質としてのフロ酸モメタゾンとともに含められ得る他の賦形剤の組み合わせは、ポリ(ビニルピロリドン)およびポリソルベート;ポリ(エチレングリコール)およびプロピレングリコール;ならびにポリ(エチレングリコール)およびグリセロールカプロエートである。
【0095】
いくつかのバリエーションにおいて、鼻の症状を処置する場合のコーティングは、活性な作用物質として抗菌薬、例えばアモキシシリン、および賦形剤としてポリソルベートを含む。他のバリエーションにおいて、鼻の症状を処置する場合のコーティングは、活性な作用物質として抗菌薬、例えばアモキシシリン、および賦形剤としてポリ(ビニルピロリドン)を含む。なおもさらなるバリエーションにおいて、鼻の症状を処置する場合のコーティングは、活性な作用物質として抗菌薬、例えばアモキシシリン、および賦形剤としてポリ(エチレングリコール)を含む。あるいは、鼻の症状を処置する場合のコーティングは、活性な作用物質として抗菌薬、例えばアモキシシリン、および賦形剤としてポリソルベートとポリ(ビニルピロリドン)とポリ(エチレングリコール)との組み合わせを含み得る。
【0096】
鼻の症状が、下鼻甲介の処置を必要とするとき、薬物層は、例えば、15mm~約50mmの直径を有する、球形のノンコンプライアントバルーン上に重層化され得、このバルーンは、約5秒間にわたって膨張される。鼻の症状が、1つまたはそれを超える副鼻洞入口部の処置を必要とするとき、薬物層は、例えば、約4mm~約6mmの直径および約10mm~約25mmの長さを有する、円柱形バルーン(コンプライアント、ノンコンプライアントまたはセミコンプライアント)上に配置され得る。この場合、そのバルーンは、約5秒間~約5分間にわたって膨張され得る。先に述べたように、単一のバルーンを、異なる標的組織部位(例えば、下鼻甲介または1つもしくはそれを超える副鼻洞入口部)のうちの同じ部位において複数回膨張させることができる。
【0097】
耳の症状が処置されるとき、薬物層製剤は、抗菌剤、抗炎症剤、例えば、デキサメタゾンなどのコルチコステロイド、またはそれらの組み合わせを、賦形剤または賦形剤の組み合わせに加えて含み得る。例えば、抗菌剤は、シプロフロキサシンまたはアモキシシリンを含み得、賦形剤は、ポリソルベート、ポリ(ビニルピロリドン)またはポリ(エチレングリコール)を含み得る。1つのバリエーションにおいて、薬物層製剤は、抗菌薬としてシプロフロキサシン、および賦形剤としてポリソルベートを含む。別のバリエーションにおいて、薬物層製剤は、抗菌薬としてとしてシプロフロキサシン、および賦形剤としてポリ(ビニルピロリドン)を含む。なおもさらなるバリエーションにおいて、薬物層製剤は、抗菌剤としてシプロフロキサシン、および賦形剤としてポリ(エチレングリコール)を含む。いくつかの場合では、薬物層製剤が、シプロフロキサシン、ならびに賦形剤としてポリソルベート、ポリ(ビニルピロリドン(vinyl pryrrolidone))およびポリ(エチレングリコール)を含むことが有用であり得る。
【0098】
耳の症状が、外耳または耳管の処置を必要とするとき、薬物層は、例えば、直径3mm×長さ20mmの寸法を有する、円柱形のコンプライアントバルーン上に重層化され得る。この場合、そのバルーンは、約5秒間~約5分間にわたって膨張され得る。いくつかの場合において、コーティングされたノンコンプライアントバルーンまたはセミコンプライアントバルーンが、耳の症状の処置において有用であり得る。他のバリエーションにおいて、耳管の処置は、直径6mm×長さ20mmのバルーンを、フロ酸モメタゾン、PEGおよびポリソルベートを含む薬物層製剤で全体的にコーティングすることを含み得る。そのコーティング製剤は、フロ酸モメタゾンを1500μgまたは3000μgで含み得る。そのバルーンは、膨張され、次いで直ちにしぼまされ得るか、または約5秒~約2分の範囲の時間にわたって膨張され得る。いくつかのバリエーションにおいて、外耳または耳管を処置するためのバルーンは、円錐形(図1H)、先細形(図1J)または段付きの形(図1K)であり得る。
【0099】
咽喉の症状が処置されるとき、薬物層製剤は、活性な作用物質として、鎮痛剤、麻酔薬、抗炎症剤、例えばコルチコステロイド、およびそれらの組み合わせを含み得る。この場合、その薬物層は、処置される特定の咽喉の症状に応じて、コンプライアントバルーン上、ノンコンプライアントバルーン上またはセミコンプライアントバルーン上に提供され得、そのバルーンは、約5秒間~約5分間膨張される。例えば、バルーンが食道狭窄を処置するために使用される場合、コンプライアントバルーンが選択され得、約5秒間にわたって複数回膨張され得る。
【0100】
他の例示的な薬物層製剤を、下記の表2に提供する。上に列挙されたまたは表2における組み合わせは、排他的でないまたは限定的でないこと、ならびに所望の適応症に対する任意の好適な薬物および賦形剤を薬物層製剤において使用できることが理解される。
【表2-1】

【表2-2】

フロ酸モメタゾン
【0101】
送達デバイス
本明細書に記載される拡張可能部材は、任意の好適な送達デバイスを用いて送達され得る。その送達デバイスは、拡張可能部材を送達するように構成され得、その送達デバイスを用いて、拡張可能部材を拡張した構成に変えることができる。拡張可能部材は、薄型の構成で送達デバイスに搭載され得、処置部位において送達デバイスから配置され得、次いで、拡張した構成に拡張され得る(例えば、拡張可能部材が膨張可能構造である場合、膨張され得る)。拡張可能部材の配置には、送達デバイスの遠位端を超えて拡張可能部材を遠位に進めることが含まれ得る。あるいは、拡張可能部材の配置には、送達デバイスを近位に後退させながら所望の位置で拡張可能部材を維持することが含まれ得る。様々なポート、例えば、灌注用のポートおよび/または観察要素もしくはイメージング要素を前進させるためのポートも、送達デバイスに備えられ得る。送達デバイスのいくつかのバリエーションは、送達デバイスから前進させるとき、拡張可能部材上に重層化された薬物が失われるのを防止する特徴を含み得る。例示的な送達デバイスは、同時係属中の米国特許出願第16/436,363に見られる。
【0102】
いくつかのバリエーションにおいて、例えば、挿入点から処置部位までの距離が比較的短い鼻腔路または副鼻洞腔において治療的処置が行われている場合、送達デバイスは、短くて堅いカテーテルを備え得る。他の送達デバイスは、前頭洞、蝶形骨洞または上顎洞へのアクセスの最適化に役立つ、柔軟な先端、例えば、最大約135度の曲げ角度の範囲を有する先端を備え得る。他のいくつかのバリエーションでは、送達デバイスは、小型のガイドカテーテル、照明付きカテーテルまたは照明付きガイドワイヤーを備え得る。例えば、拡張可能部材が耳管に送達されるバリエーションでは、送達デバイスは、耳管の軟骨部分にナビゲートするように構成され得、また、その送達デバイスは、耳管の骨部分を避けるように、およびいくつかの重大な動脈を妨げないようにそれらの動脈の位置を避けるように構成され、一定の大きさに作られた小型のガイドカテーテルを備え得る。さらなるバリエーションにおいて、拡張可能部材は、ガイドワイヤーに沿って標的組織に送達される。
【0103】
いくつかのバリエーションにおいて、本明細書中に記載されるシステムは、拡張可能部材を覆うように構成された鞘(sheath)を備え得る。その鞘は、送達カテーテルの代替物として、または送達カテーテルに加えて使用され得る。そのカテーテルおよび/または鞘は、送達前または送達中に薬物層がこそげ落ちるのを防止すること、配置されるまで薬物層を乾燥したまま維持すること、および/または拡張可能部材を薄型の構成で維持することができる。この鞘を、ノンコンプライアント拡張可能部材とともに用いることにより、デバイスを薄型の構成に戻すことができ、コーティング後にノンコンプライアント拡張可能部材にひだをつけることまたは折り畳み直すことが不要になる。先に述べたように、配置されるまで薬物層を保護するために、鞘の代わりにトップコートが薬物層上に重層化され得る。
【0104】
いくつかのバリエーションにおいて、鞘は、弾性であり得、下記に記載されるように、薬物層を移動させるまたは破壊することなく拡張可能部材上および拡張可能部材の周りに設置されるように拡張され得る。鞘には、切れ目が入れられ得るか、穴があけられ得るか、または拡張可能部材が処置部位に来たら鞘が拡張可能部材から取り外されるように構成され得る。
【0105】
拡張可能部材が膨張し、薬物が拡張可能部材から組織に移行した後、いくつかのバリエーションでは、送達デバイスは、処置部位から拡張可能部材を取り出すためにも使用され得る。いくつかのバリエーションでは、拡張可能部材を薄型の構成にしぼませるために膨張流体が拡張可能部材から除去され得る。送達デバイスは、拡張可能部材を超えてカテーテルを遠位に進めるかまたは拡張可能部材を近位に後退させることによって、しぼませた拡張可能部材を除去するために受け取ることができる。
【0106】
方法
本明細書に記載される拡張可能部材は、鼻、耳または咽喉の標的組織に送達され得、それらの組織を冒す症状を処置するために使用され得る。先に記載されたように、いくつかのバリエーションにおいて、拡張可能部材は、副鼻洞腔、副鼻洞入口部、副鼻腔、篩骨洞、下鼻甲介、中鼻甲介、中鼻道自然口ルートおよび/または鼻腔に送達され得る。上記方法は、例えば、術後炎症、鼻副鼻腔炎および/またはアレルギー性鼻炎を含む粘膜炎症ならびにポリープ状浮腫などの鼻の症状を処置するための方法であり得る。他のバリエーションにおいて、拡張可能部材は、耳管、外耳道および/または内耳に送達され得る。上記方法は、術後炎症、中耳炎、メニエール病および/または耳鳴などの耳の症状を処置するための方法であり得る。なおも他のバリエーションでは、拡張可能部材は、扁桃摘出術後痛などの術後疼痛、または腫瘍(例えば、食道癌)、気道狭窄、慢性喉頭炎、または喉頭蓋炎を処置するために咽喉に送達され得る。拡張可能部材は、活性な作用物質を標的組織に局所送達するように、および所望の時間にわたって治療レベルの活性な作用物質の徐放または持続放出を提供するように構成された薬物層を含み得る。いくつかのバリエーションでは、薬物結晶または薬物結晶と非晶質薬物との組み合わせが、デポー効果を提供するためまたは薬物放出動態を調整するために薬物層に含められる。
【0107】
本明細書中に記載される方法は、1)患者の耳、鼻または咽喉の内側の位置に拡張可能部材を進めることであって、その拡張可能部材は、薄型の構成および拡張した構成ならびに拡張可能部材の外表面を少なくとも部分的に覆う薬物層を含み、その薬物層は、薬物結晶の形態の活性な作用物質を含む、こと;および2)拡張可能部材を薄型の構成から拡張した構成に拡張させ、薬物結晶が、標的組織と接触し、鼻、耳または咽喉の症状を処置するのに有効な期間にわたって、活性な作用物質の徐放を提供するデポーを標的組織において形成することによって、標的組織に薬物結晶を送達すること、によって、治療有効量の活性な作用物質を標的組織に局所送達する工程を含み得る。
【0108】
薬物層が、活性な作用物質の約60%未満を薬物結晶として含むとき、その薬物結晶は、約80μm未満の平均長を有し得る。薬物層が、活性な作用物質の少なくとも約60%を薬物結晶として含むとき、その薬物結晶は、約80μm超の平均長を有し得る。より詳細には、薬物層が、活性な作用物質の少なくとも約60%を薬物結晶として含むとき、その薬物結晶は、約80μm超、約90μm超、約100μm超、約110μm超、約120μm超または約130μm超の平均長を有し得る。薬物結晶が、約130μmの平均長を有するとき、その薬物層が、活性な作用物質の少なくとも約65%を薬物結晶として含むことが有益であり得る。薬物層における薬物結晶の量と平均薬物結晶長との他の組み合わせも使用され得る。
【0109】
さらに、薬物層が、約80μm未満の平均長を有する薬物結晶を含むとき、その薬物層は、活性な作用物質の約60%未満、約55%未満、約50%未満、約45%未満、約40%未満、約35%未満、約30%未満、約25%未満または約20%未満を薬物結晶として含み得る。
【0110】
薬物層は、薬物結晶を含むことに加えて、非晶質形の活性な作用物質も含み得る。鼻、耳または咽喉の症状を処置するために使用される任意の活性な作用物質を薬物層に含めることができ、例えば、コルチコステロイドを使用できる。フロ酸モメタゾンは、鼻副鼻腔炎、ポリープ状浮腫、および粘膜炎症などの組織炎症の処置に有用なコルチコステロイドであり得る。薬物層は、賦形剤、例えば、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリソルベート、ポリ(エチレングリコール)、プロピレングリコール、グリセロールカプロエートまたはそれらの組み合わせもしくは混合物をさらに含み得る。
【0111】
上記システムおよび方法のいくつかのバリエーションは、単回の拡張で実質的にすべての薬物結晶を拡張可能部材から標的組織に移行させることを含む。他のバリエーションにおいて、上記システムおよび方法は、単一の拡張可能部材を使用して複数の標的組織部位を処置することを含む。例えば、単一の拡張可能部材が、患者の複数の副鼻洞(例えば、異なる6つの副鼻洞入口部)を処置するために使用され得る。この場合、薬物層は、その層の一部(および薬物結晶の一部)だけが各拡張で移行されるように製剤化され得る。薬物層は、例えば複数の層(副層)として、複数回の拡張にわたって1つまたはそれを超える薬物を移行させるようにも構成され得る。薬物層の移行速度を操作するために、様々な表面処理、例えば、プラズマ処理または親水性プライマー層も拡張可能部材に適用され得る。拡張可能部材は、標的組織の開大と標的組織への薬物の送達の両方が有益であり得るシステムおよび方法においても使用され得る。
【0112】
一般に、拡張可能部材は、侵襲性が最小限の形式で送達され得る。これらの場合では、拡張可能部材は、薄型の構成で送達され得る。拡張可能部材を、送達デバイス内または送達デバイス上に予め搭載することができるが、その必要はない。一般に、送達デバイスの少なくとも一部が、身体内に挿入され得る。いくつかのバリエーションにおいて、送達デバイスは、身体の天然の開口部、例えば鼻孔に挿入され得る。他のバリエーションにおいて、送達デバイスは、1つまたはそれを超える手技を介して身体に形成された開口部(例えば、外科的に形成された開口部)に挿入され得る。これらのバリエーションのうちのいくつかでは、人工的に作製された開口部は、送達デバイスとは別個の1つまたはそれを超えるツールを用いて予め形成され得る。いくつかのバリエーションでは、送達デバイスの1つまたはそれを超える部分を用いて、開口部を作製することができる。他のバリエーションでは、拡張可能部材の1つまたはそれを超える部分を用いて、開口部を作製することができる。
【0113】
送達デバイスが身体内に挿入されると、その送達デバイスの少なくとも一部が、標的位置に進められ得る。いくつかのバリエーションにおいて、この前進は、直接的な可視化の状態で行うことができる。この直接的な可視化は、送達デバイスに対して外付けのデバイス(例えば、内視鏡)によって達成され得るか、あるいは送達デバイスとは別個の1つまたはそれを超える可視化デバイスによって達成され得るか、あるいは送達デバイスに取り付けられたまたは送達デバイスの1つもしくはそれを超える部分(すなわち、カニューレの内腔)の内側に配置された1つもしくはそれを超える可視化デバイスによって達成され得る。いくつかのバリエーションでは、電磁的追跡技術によるナビゲーションを可能にするために、電磁的ローカライザー要素が、拡張可能部材上または送達デバイス上に備えられ得る。追加的または代替的に、上記前進は、間接的な可視化の状態(例えば、透視、超音波またはコンピュータ画像による誘導)で行うことができる。他のバリエーションにおいて、送達デバイスは、処置される標的組織または標的領域(例えば、副鼻洞)に対してデバイスの位置を照らす光ファイバーを備え得る。この照明は、患者の外側から見ることができる。中鼻甲介への送達のいくつかの場合などのさらなるバリエーションでは、拡張可能部材は、直接的または間接的な可視化なしで送達され得る。
【0114】
拡張可能部材が、標的位置に送達された後、その拡張可能部材は、拡張した構成に拡張され得る。拡張可能部材が、1またはそれを超える力または刺激に応答して拡張可能であるバリエーションでは、1またはそれを超える適切な力の刺激を拡張可能部材に適用して、拡張可能部材を拡張した構成に拡張することができる。例えば、拡張可能部材が、膨張可能構造(例えば、バルーン)であるとき、その膨張可能構造は、膨張可能構造の内部に液体または気体を送達することによって、拡張した構成に拡張され得る。拡張可能部材がコンプライアントであるバリエーションでは、その拡張可能部材は、膨張によって拡張した構成に膨らむことができる。他のバリエーションでは、例えば、拡張可能部材にひだがつけられるか、拡張可能部材が折り畳まれるかまたは包まれることにより、薄型の構成をとるとき、その拡張可能部材は、膨張すると展開して、拡張した構成に拡張することができる。なおも他のバリエーションでは、例えば、拡張可能部材がセミコンプライアントであるとき、拡張可能部材は、膨張によって膨らむ場合と、膨張によって展開する場合の両方があり得る。拡張した構成の拡張可能部材は、図1A~1Nに示されているような形をとり得る。処置される特定の解剖学的構造に合わせた他の形を使用することもできると理解される。
【0115】
拡張可能部材は、薬物層の移行、組織の開大またはその両方のために1回または複数回拡張され得る。拡張可能部材は、拡張されると、身体構造の形に少なくとも部分的に適合するように、および身体構造に実質的に接触するように構成され得る。例えば、拡張可能部材は、副鼻洞または鼻腔に適合し得、かつ副鼻洞または鼻腔の壁に実質的に接触し得る。腔壁と接触する拡張可能部材の表面積のパーセンテージは、薬物層を移行するのに十分であり得、組織への1つまたはそれを超える薬物の適切な送達を提供するのに十分であり得る。例えば、拡張可能部材の表面積の約10%~約100%、約20%~約100%、約30%~約100%、約40%~約100%、約50%~約100%、約60%~約100%、約70%~約100%、約80%~約100%または約90%~約100%が、副鼻洞または鼻腔の壁と接触し得る。いくつかの場合において、拡張可能部材の拡張は、組織に逆らってまたは組織の中に拡張可能部材を繋ぎ留めるように作用し得る。他の場合では、拡張の向きを制御して、処置のための特定の領域を標的化することが有用であり得る。指向性の拡張は、指向性バルーン(例えば、図1Fおよび1Lに示されているような)を用いて、または標的化された拡張および組織接触のため、または接触を増加させるために組織に逆らって拡張可能部材を指向性に繋ぎ留めるために拡張可能部材の意図された表面積だけを露出させることができる開口部または切り抜き部を有する回転可能な鞘を送達系の部分として備えることによって、達成することができる。
【0116】
上で述べたように、拡張したときの拡張可能部材の圧力は、副鼻洞もしくは鼻の粘膜または本明細書中に記載される他の身体構造に対して表面の接触を維持するほど十分であるが、望まれない損傷または再形成を引き起こさない圧力であり得る。例えば、拡張可能部材が、コンプライアントバルーンであるとき、そのコンプライアントバルーンの膨張圧は、約2atm~16atm、より詳細には、約4atm~6atmであり得る。
【0117】
拡張可能部材は、任意の好適な長さの時間にわたって適所に放置され得る。拡張可能部材が、薬物層を移行するのに十分な時間および1つまたはそれを超える薬物を組織に送達するのに十分な時間にわたってその場に放置されることが望ましい場合がある。先に記載されたように、薬物層は、短時間の膨張の間の拡張可能部材からの迅速な放出を増強するために高い薬物対賦形剤比で製剤化され得る。薬物の取り込みを増加させるために、1分未満から数時間までの範囲の拡張時間(例えば、膨張時間)が、耳および経鼻適用で使用され得る。例えば、いくつかのバリエーションにおいて、拡張可能部材は、約5秒間~約2時間、約30秒間~約2時間、約5分間~約1時間、約30秒間~5分間、約5秒間~約5分間または約10分間~約30分間、その場に放置され得る(拡張され得る)。いくつかのバリエーションにおいて、拡張可能部材および/または薬物層は、医師が、拡張時間(例えば、膨張時間)を制御することによって送達されるコーティング(ひいては薬物)の量を制御できるように構造化される。換言すれば、送達される薬物の量は、1つまたは複数の組織部位、例えば、1つまたはそれを超える副鼻腔における拡張の持続時間に基づき得る。別のバリエーションにおいて、拡張可能部材は、約5秒間、その場に放置される。さらなるバリエーションにおいて、5秒未満の拡張の持続時間で薬物の即時移行が達成される。拡張時間が短いほど、粘膜損傷を全体的に少なくできるので、複数の副鼻洞または標的部位への薬物送達が行われるとき、より短い拡張時間が有益であり得る。いくつかのバリエーションでは、1回の来院の間に全手技を行うことができる。他のバリエーションでは、拡張可能部材が、より長い時間(例えば、1~2時間)にわたって拡張された状態でその場に放置される場合、その拡張可能部材は、医院の外で患者が自身でゆるめることができる圧力弁を備え得る。
【0118】
さらなるバリエーションでは、複数のコーティング層を単一または複数の組織部位に放出するために、同じ拡張可能部材の複数の拡張-圧潰サイクル(例えば、膨張-収縮サイクル)が使用され得る。各膨張-収縮サイクルは、同じまたは異なる持続時間であり得る。いくつかの場合では、単一の拡張可能部材を繰り返し拡張して、複数の/異なる副鼻洞を処置することができる。例えば、単一の拡張可能部材を使用して、2~8つの副鼻洞を処置することができる。詳細には、バルーンなどの単一の拡張可能部材を拡張し、それを使用して、薬物層を2つの副鼻洞、3つの副鼻洞、4つの副鼻洞、5つの副鼻洞、6つの副鼻洞、7つの副鼻洞または8つの副鼻洞に、それぞれ合計2回のバルーン膨張、3回のバルーン膨張、4回のバルーン膨張、5回のバルーン膨張、6回のバルーン膨張、7回のバルーン膨張または8回のバルーン膨張で送達することができる。1つのバリエーションでは、単一の拡張可能部材を使用して、2つの前頭洞および2つの上顎洞および/または2つの蝶形骨洞を処置することができる。他のバリエーションでは、複数回の拡張を用いて、下鼻甲介および中鼻甲介に薬物を移行することができる。
【0119】
薬物層が拡張可能部材から組織に移行されたら、送達デバイスおよび拡張可能部材は、除去され得る。除去する前に、拡張可能部材は、圧潰され得るか、またはその他の方法で薄型の構成に戻され得る。上に記載されたように、拡張可能部材が膨張可能デバイスを含むバリエーションでは、膨張流体を拡張可能部材から抜き取り、拡張可能部材を薄型の構成にしぼませることができる。複数回の膨張を行うとき、膨張可能デバイスは、ひだがつけられた/折り畳まれた状態に素早くしぼませるまたは圧潰することにより、残っている薬物が失われるのを防ぐように構成され得る。次いで、送達デバイスを用いて拡張可能部材を受け取り、その拡張可能部材および送達デバイスを身体から除去し得るか、または送達デバイスを使用せずにもしくは別個のデバイスを使用して拡張可能部材を除去し得る。
【0120】
薬物層が組織に移行した後、活性な作用物質は、長い時間にわたって徐々に溶出され得る。例えば、薬物層は、数日間、数週間または数ヶ月間にわたって活性な作用物質の治療レベルでの徐放を提供する薬物結晶を含み得る。いくつかのバリエーションにおいて、治療レベルの薬物送達は、特定の処置適用に応じて、最大5日間、最大14日間、最大30日間、最大45日間、最大60日間、最大75日間または最大90日間提供され得る。他のバリエーションにおいて、処置時間は、約2ヶ月~約3ヶ月の範囲であり得る。例えば、上記方法が、アレルギー性鼻炎適用の処置を意図しているとき、アレルギーシーズンの期間(例えば、約2ヶ月~約3ヶ月)にわたって治療レベルの薬物を維持することが望ましいことがある。薬物が、機能的内視鏡副鼻腔手術(FESS)の後に送達されるとき、その製剤は、約14~28日間にわたって薬物を放出するように構成され得る。薬物が、バルーンサイナプラスティー(balloon sinuplasty)のみの後に送達されるとき、その製剤は、約7~14日間にわたって薬物を放出するように構成され得る。
【0121】
いくつかの場合において、処置方法は、複数回の処置を含み得る。例えば、中耳炎などの慢性の症状に苦しむ患者または毎年1つより多いアレルギーシーズン(例えば、種々のアレルゲンに起因して)を経験する患者は、1年間で複数の処置を受け得る。これは、症状を治癒させる際の継続的な治療処置および/またはその症状に伴う症候の持続的な緩和を提供し得る。
【0122】
長期間の機械的な支持が望ましい適用の場合、本明細書中に記載される方法は、移植可能デバイスと併用され得る。例えば、本明細書中に記載される方法は、スキャフォールドまたはステントの留置と併用され得る。いくつかのバリエーションにおいて、そのスキャフォールドまたはステントは、薬物溶出型であり得る。いくつかのバリエーションにおいて、そのスキャフォールドまたはステントは、拡張型(例えば、バルーン拡張型または自己拡張型)であり得る。いくつかのバリエーションにおいて、そのスキャフォールドまたはステントは、生体吸収型であり得る(例えば、生体吸収型の合成の生体高分子を含む)が、そうである必要はない。
【0123】
本明細書中に記載される方法が、移植可能デバイスと併用されるとき、本明細書中に記載される拡張可能部材は、インプラントの植え込みの前に薬物を送達するために使用され得るか、またはインプラントの植え込み後に使用され得る。拡張可能部材が1番目に使用されるバリエーションでは、このデバイスは、インプラントの送達および植え込みのしやすさを改善するために入口部を予め開大させるのに役立ち得る。拡張可能部材が2番目に使用されるバリエーションでは、このデバイスは、並置を改善するためにインプラントを後で広げる(post-dilate)のに役立ち得る。有効な局所用量の薬物を送達するのに役立つことに加えて、本明細書に記載される方法は、スキャフォールドまたはステントと併用されるとき、例えば、副鼻洞腔の開存性を維持することができ、治癒途中の粘膜表面間または炎症性の粘膜表面間の接着によって引き起こされる閉塞を予防するのに役立ち得る。
【0124】
いくつかのバリエーションにおいて、上記方法は、図6に記載されているプロセスを含む。図6は、薬物でコーティングされた拡張可能部材を用いて治療を患者に送達する例示的なプロセスを図示しているフローチャートである。工程(600)では、拡張可能部材が標的の副鼻洞または入口部に送達されるように、拡張可能部材用の送達デバイスをある方向に構成する。工程(602)では、その送達デバイスを用いて、拡張可能部材を標的の副鼻洞または入口部に配置する。反復可能な工程である工程(604)では、標的の副鼻洞または入口部に治療を送達する。治療の送達は、以下の工程を含む:工程(606)において、薬物でコーティングされた拡張可能部材の外面が標的組織と接触するように、その拡張可能部材を膨張させ;工程(608)において、拡張させた拡張可能部材を所定の時間にわたって適所に保持し、それにより、拡張可能部材から接触した組織に薬物を移行させ;工程(610)において、拡張可能部材をしぼませる。工程(604)の治療送達は、任意の所与の標的の副鼻洞または入口部において1回またはそれを超えて行われ得る。判定工程(612)では、さらなる標的の副鼻洞または入口部に治療を送達する必要があるか否かの判断を行う。「はい」である場合、このプロセスは、工程(600)に戻り;「いいえ」である場合、このプロセスは、工程(614)に進み、拡張可能部材を患者から完全に抜き取り、治療の送達を終える。
【0125】
製造
本明細書中に記載されるデバイスは、任意の好適な様式で製作することができる。一般に、モールドを使用して、特定の解剖学的形態に対してデザインされた拡張可能部材を形成することができ、その拡張可能部材のために選択される材料は、特定の用途に対する所望のコンプライアンスに基づき得る。
【0126】
図2は、拡張可能部材をコーティングするための例示的なプロセスを図示しているフローチャートである。準備工程(200)では、拡張可能部材(例えば、バルーン)を、折り畳まれた構成、圧潰された構成、部分的に膨張した構成、完全に膨張した構成、または部分的にしぼませた構成で提供し得る。工程(202)では、任意の医薬品有効成分を拡張可能部材の表面に適用する前に、拡張可能部材をクリーニングする。必要に応じて、工程(204)では、拡張可能部材の表面をさらにクリーニングできるプラズマ処理プロセスに拡張可能部材をさらに供し得る。工程(206)では、拡張可能部材上にスプレーされる薬物コーティングを調製する。工程(208)では、クリーニングされた拡張可能部材に、調製した薬物コーティングをスプレーする。拡張可能部材に薬物コーティングをスプレーした後、その拡張可能部材を、工程(210)に示されるように室温で乾燥させ得る。あるいは、拡張可能部材に薬物コーティングをスプレーした後、工程(212)に示されるように溶媒蒸気アニーリングプロセスに供し得る。必要に応じて、溶媒蒸気アニーリングの後に、薬物コーティングを有する拡張可能部材を室温でさらに乾燥させ得る。工程(214)では、室温での乾燥および溶媒蒸気アニーリングのいずれかまたはその両方の後に、拡張可能部材にしわをつける(または折り畳み直す)。上に示されたプロセスは、下記でさらに詳細に記載される。
【0127】
活性な作用物質は、完全に膨張したときか、部分的に膨張したときか、または折り畳まれたときの拡張可能部材上に重層化(例えば、コーティング)され得る。バルーンなどの拡張可能部材を、膨張させた状態でコーティングし、次いでそのバルーンをしぼませ、圧潰された状態で標的組織部位に送達することにより、薬物送達および組織被覆を最大限にすることができる。拡張可能部材が折り畳まれるバリエーションでは、薬物は、拡張可能部材を折り畳んだときに保護されるようになる拡張可能部材の領域上に重層化され得る。これは、送達している間または送達デバイスもしくは鞘に搭載する間の薬物層の保護に役立ち得る。ひだの数、長さおよび形などのひだの幾何学的形状は、折り畳み直している間の所望の大きさの薬物被覆範囲に合わせて調整することができる。例えば、直径6ミリメートル(6mm)および6つのひだを有する細長い円柱形のバルーンが、バルーン送達の間および折り畳み直す間の薬物損失を最小限に抑えるのに有用であり得る。直径6mmのバルーンで用いられる4つのひだとは対照的に、5つまたは6つのひだなどのより多いひだを用いることは、圧潰された状態に折り畳み直すのに有益であり得るので、バルーンの複数回の拡張の間、薬物層をバルーン上に維持すること(および薬物の損失を最小限に抑えること)に役立ち得る。きっちりと薄型に折り畳み直すことは、送達中であるが膨張させる前の薬物損失を約10%未満に維持することにおいて有益であり得る。さらなる態様では、きっちりと薄型に折り畳み直すことは、送達中であるが膨張させる前の薬物損失を薬物ロード量の約5%未満に維持することにおいて有益であり得る。この選択的な重層化は、重層化されないように望まれる領域をマスキングすることによって達成され得る。他のバリエーションにおいて、薬物は、標的腔内の所望の処置領域に基づいて拡張可能部材の一部に重層化され得る。例えば、鼻腔において使用することを意図された拡張可能部材は、薬物を鼻甲介に送達するために1つの側にコーティングまたは重層化され得るが、鼻中隔への薬物送達を最小限に抑えるため(例えば、その鼻中隔の任意の変質を防ぐため)に第2の側にはコーティングされない。複数の処置部位において使用されるおよび/または複数回拡張される拡張可能部材には、複数の薬物層が提供され得る。
【0128】
いくつかの実行において、プラズマ処理は、酸素(O)などの気体、アルゴン(Ar)などの不活性ガス、またはそれらの組み合わせを用いて、真空下で行われ得る。プラズマ処理プロセスに対する制御パラメータとしては、プラズマ処理のサイクル数、プラズマ処理のサイクルの持続時間および総持続時間、プラズマアークを作用させる電力、ならびにプラズマ処理に使用される1種またはそれを超える気体の流速が挙げられ得る。例えば、プラズマ処理プロセスは、拡張可能部材の表面をプラズマに曝露する1つまたはそれを超えるサイクルを有し得る。いくつかの態様において、プラズマ処理の各サイクルは、約3分間~約15分間、またはその範囲内の時間にわたって続き得る。他の態様において、プラズマアークの電力は、約40~約400ワット(40~400W)の範囲、またはその範囲内の増分もしくは勾配の電力(例えば、50W、100W、150W、200W、250W、300Wまたは350W)で作用され得る。様々な態様において、プラズマアークトーチの電源は、AC、DCまたはRFであり得る。さらなる態様において、1種またはそれを超える気体の気体流速はそれぞれ、毎分約5~約50立法センチメートル(5~50cc/分)の速度、またはその範囲内の増分もしくは勾配の気体流速(例えば、10cc/分、15cc/分、20cc/分、25cc/分、30cc/分、35cc/分、40cc/分または45cc/分)であり得る。プラズマ処理の一部として2種またはそれを超える気体が流される構成では、それらの気体は、同時に、交互に、または連続的に使用され得、それらの2種またはそれを超える気体は、同じ流速または異なる流速で作用され得る。他の実行において、プラズマ処理は、大気プラズマを用いるリアルタイムプロセスまたは「ジャストインタイム」プロセスであり得ることから、プラズマのコンディショニングを通じて供給される拡張型デバイスの連続的な処理が可能になる。
【0129】
いくつかのバリエーションにおいて、薬物層は、例えば、処置される解剖学的構造または特定の標的組織部位に応じて、拡張可能部材上に模様をつけ得るか、または拡張可能部材の特定の領域上に提供され得る。例えば、その模様としては、実線もしくは破線の薬物層、拡張可能部材上に点在する薬物層、または拡張可能部材の周りに巻き付いたらせんとして提供される薬物層などが挙げられ得る。薬物層の厚さは、約10μm~約500μmの範囲であり得る。いくつかのバリエーションにおいて、薬物層の厚さは、一様でなくすることができ、例えば、拡張可能部材のいくつかの領域に他よりも厚くなるように構造化できる。
【0130】
薬物層は、スプレーコーティング、ピペットコーティングもしくはシリンジコーティングまたはディップコーティングなどの方法によって拡張可能部材上に形成され得る。スプレーコーティングは、組織の取り込みおよび薬物送達の均一性を改善し得る。スプレーコーティングは、コーティング中に薬物を均一に分布させ得る。スプレーコーティングのいくつかの実行において、薬物または他の医薬品有効成分(「API」)を、スプレーコーティングシステムを介して液体または気体として適用できるように、その薬物または他のAPIは、適切な溶媒に溶解され得る。いくつかの実施形態において、スプレーコーティングシステムは、空気噴霧システム、加熱流体/気体流システム、超音波システム、加圧空気または圧縮空気システム、油圧作動型システム、電気作動型システム、マニホールドノズルシステムもしくは個別ノズルシステム、またはそれらの組み合わせであり得る。スプレーコーティングシステムを介した薬物または他のAPIの流速は、約0.005ml/分~約1.000mL/分の範囲またはその範囲内の1回あたりの容積増分であり得る。スプレーコーティングシステムは、拡張可能部材が定位で保持されつつ、スプレーで十分にコーティングされるようにセットアップされ得る。あるいは、スプレーコーティングシステムは、拡張可能部材が、全外表面をスプレーコーティングに曝すように回転させながら、および/またはその他の方法で移動させながらもしくは操作されながら、スプレーで十分にコーティングされるようにセットアップされ得る。
【0131】
これらの製造手法によって拡張可能部材上に形成される薬物層における薬物の総量は、約0.1mg(100μg)~約20mg(20,000μg)または最大45mg(45,000μg)であり得る。これらの製造手法によって拡張可能部材全体に分配される薬物層における薬物の密度は、約1μg/mm~約11μg/mmであり得る。
【0132】
薬物層の接着を改善するために、拡張可能部材は、コーティングの前に溶媒でクリーニングされ、乾燥され得る。さらに、クリーニング後の、アルゴンまたは酸素などの不活性ガスによるプラズマ処理によって、拡張可能部材の表面の清浄性および湿潤性を高めることができ、それにより、コーティングの接着、および粘膜組織部位の粘液と接触したときのコーティングの放出を増加させることができる。プラズマ処理の1つまたはそれを超えるパラメータを変更することにより、薬物放出を所望の速度に調整することができる。例えば、電力、不活性ガスの流速、サイクル時間およびサイクル数を操作することにより、薬物放出速度を調整することができる。いくつかのバリエーションでは、拡張可能部材に親水性賦形剤を下塗りすることにより、薬物放出を増強することができる。他のバリエーションでは、拡張可能部材に疎水性(親油性)賦形剤を下塗りすることにより、薬物放出を遅らせることができる。賦形剤の親水性から親油性の特性は、より速いまたはより遅い放出速度のいずれかのために選択される。下塗りは、単独で、またはクリーニングおよびプラズマ処理に加えて行われ得る。
【0133】
拡張可能部材、例えば、バルーンのコーティング後、その拡張可能部材を、高温、例えば、摂氏約50度、摂氏約60度、摂氏約70度または摂氏約80度で、約5分間、約30分間または約1時間、折り畳み直すことにより、薄型を達成することができる。いくつかのバリエーションでは、バルーンを、内部容積に真空を適用しながら減圧かつ低温の真空下で折り畳み直す(またはしわをつける)ことにより、薄型を得ることができる。拡張可能部材を折り畳み直した後、鞘に納め、アルゴン、窒素または他の不活性ガスとともにホイルパウチ(foil pouch)の中に包装し、ガンマ線照射または電子線を使用して滅菌することができる。
【0134】
いくつかのバリエーションにおいて、上記製造方法は、上に記載されたような、バルーン表面をクリーニングする工程および/またはバルーンをプラズマで処理する工程、バルーンを膨張させる工程、バルーンを薬物層製剤でスプレーコーティングする工程、バルーンのコーティングを室温または高温で乾燥させる工程、ならびにバルーンを折り畳み直す工程を含み得る。
【0135】
他のバリエーションにおいて、上記製造方法は、上に記載されたような、バルーン表面をクリーニングする工程および/またはバルーンをプラズマで処理する工程、バルーンを膨張させる工程、バルーンを薬物層製剤でスプレーコーティングする工程、コーティングされたバルーンを溶媒蒸気に曝露する工程(溶媒蒸気アニーリング)、ならびにバルーンを折り畳み直す工程を含み得る。これらの製造プロセスは、図2に概説されている。好適な溶媒蒸気としては、水、アセトン、メタノール、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール、直鎖アルコール、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルイソ-ブチルケトン、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、N-メチルピロリドン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジフルオロメタン、フルオロホルム、フレオン、ベンゼン、トルエン、キシレン、それらの混合物およびそれらの組み合わせが挙げられ得るが、これらに限定されない。好ましい蒸気は、拡張型デバイスの薬物層および表面の組成などのいくつかの変数に依存し得る。さらなるバリエーションにおいて、上記製造方法は、バルーンの薬物層を室温で乾燥させる工程および重層化されたバルーンを溶媒蒸気に曝露する工程を含む。
【0136】
溶液中の最初の薬物濃度および薬物層の薬物密度に加えて、薬物層を乾燥させる様式、滅菌化の形式、および/または溶媒蒸気への曝露が、薬物層における結晶化の量に影響し得る。したがって、これらのパラメータのうちの1つまたはそれを超えるパラメータを製造中に操作することにより、薬物層における結晶形の薬物の量を変化させることができる。例えば、使用される特定の溶媒蒸気、溶媒蒸気アニーリングの温度、溶媒蒸気曝露の持続時間、溶媒蒸気の圧力、ならびに/または薬物の重層化中および重層化後の蒸発速度(例えば、より遅い乾燥)を用いて、薬物の結晶化度を制御することができる。いくつかのバリエーションでは、薬物の結晶化度を高めるために、アセトン蒸気をSVAプロセスに使用することができる。さらなるバリエーションは、90:10比のアセトン:イソプロピルアルコール(IPA)から50:50比のアセトン:IPAの範囲のアセトンとIPAとの混合物を含み得る。電子線への曝露も、薬物の結晶化を惹起するために使用され得る。薬物送達時間をより短くする必要があるバリエーションでは、より迅速な乾燥、溶媒蒸気へのより短時間の曝露、または特定の溶媒蒸気を用いることにより、より多くの非晶質薬物をコーティング中に提供することができる。したがって、いくつかの場合では、上記製造方法は、結晶形の薬物を含む薬物層を提供するように適合させることができる。他の場合では、上記製造方法は、非晶質形の薬物を含む薬物層を提供するように適合させることができる。なおもさらなる場合では、上記製造方法は、結晶形および非晶質形の薬物の混合物を有する薬物層を提供するように適合させることができる。
【0137】
いくつかの実行において、SVAプロセスは、約30.0℃±0.5℃~約50.0℃±0.5℃という操作温度で、またはその範囲内の増分もしくは勾配の温度(例えば、31.0℃、32.5℃、33.3℃、35.0℃、36.9℃、38.8℃、40.0℃、45.0℃、48.4℃など)で実行され得る。当然のことながら、特定の溶媒は、30.0℃未満または50.0℃超というSVAの操作温度を有し得る。いくつかの実行において、溶媒蒸気への曝露の持続時間は、約15分~約240分またはその範囲内の増分もしくは勾配の時間(例えば、30分、45分、60分、90分、120分、150分、180分など)であり得る。SVAプロセスにおいて使用される溶媒の体積は、処置するための拡張可能部材のサイズおよび決定されたSVAプロセスの持続時間に少なくとも依存し得る。いくつかの実行において、拡張型デバイスの乾燥または拡張型デバイスの表面上への蒸気の定着の持続時間は、約15分~約240分またはその範囲内の増分もしくは勾配の時間(例えば、30分、45分、60分、90分、120分、150分、180分など)であり得る。
【0138】
例えば、上記製造方法は、約100%の非晶質薬物、約5%~約10%の結晶性薬物(および約90%~約95%の非晶質薬物)、約20%~約25%の結晶性薬物(および約75%~約80%の非晶質薬物)、約50%の結晶性薬物(および約50%の非晶質薬物)、約60%の結晶性薬物(および約40%の非晶質薬物)、約70%の結晶性薬物(および約30%の非晶質薬物)または約75%の結晶性薬物(または約25%の非晶質薬物)を含む薬物層を提供するように操作され得る。1つのバリエーションにおいて、薬物層は、活性な作用物質の少なくとも約60%を薬物結晶として含む。別のバリエーションにおいて、薬物層は、活性な作用物質の約60%未満を薬物結晶として含む。鼻または粘膜の症状を処置する場合、薬物層が、フロ酸モメタゾンを結晶形もしくは非晶質形または結晶形と非晶質形との組み合わせで提供することが有用であり得る。いくつかのバリエーションでは、フロ酸モメタゾンの約25%~約75%が、結晶形で薬物層に提供される。
【0139】
ある具体例では、20個の拡張型バルーンのバッチに適用された、上記で特定されたパラメータ内でアセトンを用いるSVAプロセスにより、58.9%±3.7%の結晶性薬物を有する薬物層が生成され、ここで、形成された結晶の長軸は、103.8μm±8.7μmの平均長を有し、形成された結晶の短軸は、59.5μm±5.5μmの平均長を有した。より大まかには、本明細書中に記載されるプロセスに従って拡張型デバイス上に形成される結晶は、標的デバイスの表面積の少なくとも50%を覆うと予想され得、95μm~120μmの長軸長および50μm~70μmの短軸長を有すると予想され得る。
【0140】
実際のSVAプロセスの後(および拡張可能部材を折り畳み直す前)に結晶形成のための安定化時間を設けることにより、拡張型デバイス上での結晶成長および被覆がさらに促進され得ることが認識され得る。換言すれば、拡張型デバイス上で形成された結晶は、SVAの直後に成長および/または相互接続を続けることができ、その結果、結晶形である薬物層の表面積のパーセンテージが上昇し、結晶の平均長径および平均短径も長くなる。
【0141】
拡張可能部材の表面を粗くすることおよび結晶化の開始剤を使用することなどの拡張可能部材(例えば、バルーン)に対する他の製造条件も、結晶性薬物層によって覆われる拡張可能部材の外表面の量、結晶のサイズおよび結晶の幾何学的形状に影響し得る。拡張可能部材の表面を粗くすることは、サンドブラストなどのプロセス、粗面のモールドで拡張可能部材を形成すること、または化学的処理によって達成され得る。他のバリエーションでは、薬物層に欠陥(例えば、微小亀裂、層間剥離)を作ることによって、薬物の結晶化を増強することができる。拡張可能部材がバルーンであるとき、これは、薬物層プロセスの後にバルーンを収縮および膨張することによって達成され得る。薬物または賦形剤の結晶の1次コーティングによるバルーン表面へのシード添加も、結晶化を促進することができる。
【0142】
バルーンなどの高圧部材からの機械的送達に加えて、バルーンのコーティング内に薬物結晶を使用することにより、バルーンが最初に拡張されたとき、バルーンからの急速放出を超えた薬物の放出およびインビボ曝露を延長することができる。いくつかのバリエーションにおいて、薬物でコーティングされたバルーンを拡張するために使用される膨張圧を用いて、薬物送達が調整される。この場合、膨張圧は、約2atm~約12atmまたは約10atm~約12atmの範囲であり得る。他のバリエーションにおいて、薬物送達は、バルーンの外径の関数となるように調整され得る。そのバルーンの膨張圧および/または外径を用いることにより、バルーン開大による機械力によって薬物結晶を鼻の粘膜に埋め込むことができる。そして、そのバルーン開大により、バルーンの収縮後に組織に保持される薬物結晶を粘膜に沈着させる微小な裂傷を鼻の粘膜に作ることができる。
【0143】
薬物層製剤の特定の構成要素に加えて、本明細書中に記載される製造方法は、処置部位への送達中の薬物損失を最小限に抑えることならびに膨張時および組織との接触時の薬物送達を最大限にすることに役立ち得る。
【実施例0144】
以下の実施例は、単に例証的であって、決して本開示を限定すると解釈されるべきでない。
実施例1:薬物結晶を重層化した拡張型デバイスの製造
【0145】
6mm×20mmのセミコンプライアントバルーンを薬物層製剤でスプレーコーティングすることによって、拡張可能部材を製作した。薬物層製剤は、1500μgまたは3000μgのいずれかの用量のフロ酸モメタゾン、ポリ(エチレングリコール)およびポリソルベートを含んだ。次いで、薬物を重層化したバルーンをアセトン溶媒蒸気に30分間曝露した。これらの製造条件下で得られた薬物の結晶化特性(平均バルーン結晶被覆(薬物層における結晶としての活性な作用物質のパーセント)および平均結晶長)を下記の表3に提供する。
【表3】

実施例2:耳管におけるバルーン拡張後のフロ酸モメタゾンの組織中濃度
【0146】
1500μgのフロ酸モメタゾンを含む薬物層を有するバルーンカテーテルを用いて、8頭のメンヨウの耳管に経鼻的にアクセスした。それらのバルーンカテーテルは、実施例1に記載したように製作した。単一の(singe)バルーンカテーテルを12atmの圧力まで拡張して、フロ酸モメタゾン結晶を耳管組織に送達し、反対側の各耳管をその近位開口部で開大させた。それらの動物をバルーン拡張の7日後または30日後に屠殺し、各耳管から粘膜を回収し、凍結した。次いで、フロ酸モメタゾンの濃度を、液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)を用いて定量した。フロ酸モメタゾンの最高組織中濃度が、7日後は47μg/gであり、30日後は0.2μg/gであることが見出されたことから、フロ酸モメタゾンの治療的な組織レベル(すなわち、少なくとも0.1μg/g)を30日間の処置期間にわたって維持できることが実証された。
実施例3:前頭洞入口部における2回のバルーン拡張後のフロ酸モメタゾンの組織中濃度
【0147】
薬物重層化バルーンの2回の拡張後に、標的組織部位において治療レベルのフロ酸モメタゾンを得ることができる。この実施例では、薬物重層化バルーンを実施例1に従って製作し、それを使用して、ヒツジの前頭洞入口部を開大させた。下記の表4に示されるように、3000μgの用量のバルーンを2回拡張すると、30%という平均フロ酸モメタゾン(MF)放出パーセント/膨張がもたらされた(試験群1)。血性のヒツジ前頭洞入口部に留置したときは(試験群2)、得られた平均MF放出パーセント/膨張は28%であったことから、このバルーンからのインビボ放出率がその前頭洞に存在する血液によって影響されないことが示された。次いで、MFの平均組織中濃度(1時点あたり8つの前頭洞入口部を試験した)を、表4に対して行われた拡張の結果として得て、両試験群に対するその結果を表5に示す。前頭洞入口部に対するMFの平均組織中濃度は、すべての時点において治療レベルまたはそれを超える濃度であった。
【表4】

【表5】
【0148】
1500μgというフロ酸モメタゾン用量を含むバルーンをヒツジの前頭洞入口部において拡張したとき、平均MF放出パーセント/膨張は、2回の拡張にわたって3000μg用量のバルーンと似ていた。下記の表6に示されるように、平均MF放出パーセント/膨張は、約23%であった。両試験群についての2回の拡張の30日後に得られた4つの前頭洞および血漿に対する平均ヒツジ前頭洞MF濃度を表7に提示する。試験された前頭洞入口部に対するMFの平均組織中濃度は、30日後に0.1μg/gという治療レベルを超える濃度であったが、血漿レベルは、定量下限未満であったことから、薬物送達が処置期間の間、前頭洞内に局所的にとどまることが示された。
【表6】

【表7】

a.BLQ=定量下限未満(≦20.0pg/mL);分析範囲は20.0~1000.0pg/mLである。
実施例4:炎症およびポリープ状浮腫に対する治療の臨床効果
【0149】
前向き多施設無作為化盲検臨床試験を、以前にFESSを受け、前頭洞にポリープ状浮腫を有する患者集団(N=70、年齢≧18歳)において行った。各患者の2つの前頭洞のうちの片方を、フロ酸モメタゾン(3000μg用量)、ポリ(エチレングリコール)およびポリソルベートを含む、薬物でコーティングされたバルーンで開大させた(処置した)。好都合なことに、各患者の他方の前頭洞を、患者内コントロールとして用いるために、薬物でコーティングされていないバルーン(その他の点では構造的に同じバルーンを使用する)で開大させた。
【表8-1】

【表8-2】
【0150】
特に、薬物でコーティングされたバルーンの患者に対する効果を判断するために経時的に測定および/または追跡した表8に示されたような3つの測定基準は、臨床的有意性と統計的有意性の両方を示した。第1に、患者内のポリープ状浮腫のグレードを14日目に独立評価者が測定し、次いで、ポリープ状浮腫のグレードを30日目に独立評価者と各臨床研究者の両方がさらに測定した。第2に、炎症スコアを30日目に独立評価者と臨床研究者の両方が測定した。最後に、経口ステロイド介入の必要性を30日目に独立評価者が判定した。
【0151】
様々な臨床研究者と比較して独立評価者が行った測定結果の差は、それぞれの評価の立場の違いに帰する可能性がある。一般に、独立評価者は、臨床結果を評価するとき、より客観的で盲検の見方を有すると考えられているが、しかしながら、本試験における独立評価者は、術後の映像による評価(2次元評価のみ)に限定された。対照的に、臨床研究者は、どのバルーンに薬物がコーティングされているかについて盲検のままであるが、触覚調査および機器による反応とリアルタイム映像とを組み合わせて結果を評価することができた(3次元評価)。さらに、臨床研究者は、臨床研究に参加しているそれぞれの患者についても熟知していることから、臨床研究者は、時間の経過とともに個々の改善の印象を受ける。
【0152】
前頭陥凹/前頭洞入口部におけるポリープ状浮腫のグレードは、以下のような4点スケールに基づいた:正常な粘膜であり、目に見えるポリープ/粘膜浮腫がないことを示す「0」;最小量のポリープ/粘膜浮腫を示す「1」;中程度の量のポリープ/ポリープ状浮腫を示す「2」;および広範な量のポリープ/ポリープ状浮腫を示す「3」。したがって、この4点スケールにおいて、0.4点という相対差は、抱えているポリープ状浮腫のおよそ10%の差に相当し得る。
【0153】
表8に示された結果は、薬物でコーティングされたバルーンによる処置が、ポリープ状浮腫を実質的に改善することを示しており、これは、以下のように要約される。処置された前頭洞のポリープ状浮腫のスコアは、独立評価者が測定したとき、14日目においてコントロール前頭洞と比べて約0.3低く、抱えているポリープ状浮腫が相対的に14.5%減少した。処置された前頭洞のポリープ状浮腫のスコアは、独立評価者が測定したとき、30日目においてコントロール前頭洞と比べて約0.3低く、抱えているポリープ状浮腫が相対的に16.7%減少した。さらに、処置された前頭洞のポリープ状浮腫のスコアは、臨床研究者が測定したとき、30日目においてコントロール前頭洞と比べて約0.4低く、抱えているポリープ状浮腫が相対的に27.9%減少した。
【0154】
炎症スコアは、100点スケールに基づき、10点という相対差は、炎症重症度の10%の差に相当し得る。
【0155】
表8に示された結果は、薬物でコーティングされたバルーンによる処置が、ポリープ状浮腫を示す標的組織における組織炎症を実質的に改善することを示しており、これは、以下のように要約される。処置された前頭洞の炎症スコアは、独立評価者が測定したとき、30日目においてコントロール前頭洞と比べて約7.7低く、炎症が相対的に16.2%減少した。処置された前頭洞の炎症スコアは、臨床研究者が測定したとき、30日目においてコントロール前頭洞と比べて約13.9低く、炎症が相対的に30.2%減少した。
【0156】
鼻ポリープ除去手技では、その手技の後に患者に経口ステロイドを投与することが多い。経口ステロイドは、一般に、局所的ではなく実質的に全身性であり、処置される標的組織以外の身体部分を冒す望ましくない副作用を及ぼし得る。したがって、ここでは副鼻洞手術後の状況における、経口ステロイド処置の必要性の減少が、患者にとって意味のある利点であると考えることができる。
【0157】
表8に示された結果は、薬物でコーティングされたバルーンによる処置が、患者における経口ステロイド介入(処方)の必要性を実質的に減少させることを示している。詳細には、経口ステロイド介入の必要性は、独立評価者が30日目に評価したとき、約33%減少した。
【0158】
実施例4に記載された臨床試験の結果は、薬物でコーティングされたバルーンの製造プロセスをさらに洗練させること、薬物でコーティングされたバルーンの送達デバイスを改良すること、ならびに薬物でコーティングされたバルーンの使用および処置手技の洗練に関する医師の訓練および経験を改善することによって改善できると予想することが合理的である。さらに、患者の解剖学的構造および/または手術歴のばらつきが、改善された(またはより有益でない)結果につながり得ると予想される。
【0159】
したがって、本開示のいくつかの実施形態では、薬物でコーティングされたバルーンでポリープ状浮腫を処置することにより、ポリープサイズを少なくとも10%を減少させることができ、より詳細には、抱えているポリープ状浮腫を約14%~約35%減少させることができる。同様に、本開示のいくつかの実施形態では、薬物でコーティングされたバルーンでポリープ状浮腫を処置することにより、ポリープ状浮腫を示す標的組織の炎症を少なくとも10%減少させることができ、より詳細には、炎症を約16%~約35%減少させることができる。さらに、本開示のいくつかの実施形態では、薬物でコーティングされたバルーンでポリープ状浮腫を処置することにより、術後の経口ステロイド介入の必要性を約33%~約50%減少させることができる。
【0160】
前述の発明は、明確にすることおよび理解させることを目指して、例証および例示としていくらか詳細に記載してきたが、一定の変更および改変を行うことができ、それらは添付の請求項の範囲内に含まれると意図されることが明らかである。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
患者の耳、鼻または咽喉に留置するためのサイズおよび形にされた拡張可能部材を備える、治療有効量の活性な作用物質を標的組織に局所送達するためのシステムであって、前記拡張可能部材は、その外表面を少なくとも部分的に覆う薬物層を含み、前記薬物層は、前記活性な作用物質の少なくとも約60%を薬物結晶として含み、前記薬物結晶は、約80μm超の平均長を有する、システム。
(項目2)
前記活性な作用物質が、コルチコステロイドを含む、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記コルチコステロイドが、フロ酸モメタゾンを含む、項目2に記載のシステム。
(項目4)
前記薬物層におけるフロ酸モメタゾンの用量密度が、約4μg/mm~約8μg/mmの範囲である、項目3に記載のシステム。
(項目5)
前記標的組織が、前頭洞、上顎洞、蝶形骨洞、篩骨洞、副鼻洞入口部、下鼻甲介、中鼻甲介、上鼻甲介、鼻腔、中鼻道自然口ルート、鼻咽頭、咽頭扁桃組織、耳組織またはそれらの組み合わせである、項目1に記載のシステム。
(項目6)
前記標的組織が、耳管、外耳道または中耳である、項目1に記載のシステム。
(項目7)
前記標的組織が、扁桃、食道、気管、喉頭または喉頭蓋である、項目1に記載のシステム。
(項目8)
前記拡張可能部材が、膨張した構成および薄型の構成を有するバルーンである、項目1に記載のシステム。
(項目9)
前記システムが、
a)前記膨張した構成の前記バルーンをプラズマ処理に供すること;
b)前記膨張したバルーンの外表面の少なくとも一部に前記薬物層を付与すること;
c)前記薬物層を含む前記膨張したバルーンを溶媒蒸気に曝露すること;および
d)前記バルーンを減圧下で前記薄型の構成に折り畳み直すこと
によって製作される、項目8に記載のシステム。
(項目10)
前記バルーンが、前記薄型の構成から前記膨張した構成への複数回の遷移にわたって前記活性な作用物質を送達するように構成されている、項目8に記載のシステム。
(項目11)
前記薬物層が、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリソルベート、ポリ(エチレングリコール)、プロピレングリコール、グリセロールカプロエートまたはそれらの組み合わせもしくは混合物をさらに含む、項目1に記載のシステム。
(項目12)
前記拡張可能部材および前記薬物層が、患者のポリープ状浮腫、患者の粘膜炎症またはそれらの組み合わせを処置するように構成されている、項目5に記載のシステム。
(項目13)
患者の耳、鼻または咽喉に留置するためのサイズおよび形にされた拡張可能部材を備える、治療有効量の活性な作用物質を標的組織に局所送達するためのシステムであって、前記拡張可能部材は、その外表面を少なくとも部分的に覆う薬物層を含み、前記薬物層は、前記活性な作用物質の約60%未満を薬物結晶として含み、前記薬物結晶は、約80μm未満の平均長を有する、システム。
(項目14)
前記活性な作用物質が、コルチコステロイドを含む、項目13に記載のシステム。
(項目15)
前記コルチコステロイドが、フロ酸モメタゾンを含む、項目14に記載のシステム。
(項目16)
前記薬物層におけるフロ酸モメタゾンの用量密度が、約4μg/mm~約8μg/mmの範囲である、項目15に記載のシステム。
(項目17)
前記標的組織が、前頭洞、上顎洞、蝶形骨洞、篩骨洞、副鼻洞入口部、下鼻甲介、中鼻甲介、上鼻甲介、鼻腔、中鼻道自然口ルート、鼻咽頭、咽頭扁桃組織、耳組織またはそれらの組み合わせである、項目13に記載のシステム。
(項目18)
前記標的組織が、耳管、外耳道または中耳である、項目13に記載のシステム。
(項目19)
前記標的組織が、扁桃、食道、気管、喉頭または喉頭蓋である、項目13に記載のシステム。
(項目20)
前記拡張可能部材が、膨張した構成および薄型の構成を有するバルーンである、項目13に記載のシステム。
(項目21)
前記システムが、
a)前記膨張した構成の前記バルーンをプラズマ処理に供すること;
b)前記膨張したバルーンの外表面の少なくとも一部に前記薬物層を適用すること;
c)前記薬物層を含む前記膨張したバルーンを溶媒蒸気に曝露すること;および
d)前記バルーンを減圧下で前記薄型の構成に折り畳み直すこと
によって製作される、項目20に記載のシステム。
(項目22)
前記バルーンが、前記薄型の構成から前記膨張した構成への複数回の遷移にわたって前記活性な作用物質を送達するように構成されている、項目21に記載のシステム。
(項目23)
前記薬物層が、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリソルベート、ポリ(エチレングリコール)、プロピレングリコール、グリセロールカプロエートまたはそれらの組み合わせもしくは混合物をさらに含む、項目13に記載のシステム。
(項目24)
前記拡張可能部材および前記薬物層が、患者のポリープ状浮腫、患者の粘膜炎症またはそれらの組み合わせを処置するように構成されている、項目17に記載のシステム。
(項目25)
患者のポリープ状浮腫を処置するための方法であって、前記方法は、
前記患者の鼻の内側の位置に拡張可能部材を進める工程であって、前記拡張可能部材は、薄型の構成および拡張した構成ならびに前記拡張可能部材の外表面を少なくとも部分的に覆う薬物層を有するバルーンを含み、前記薬物層は、薬物結晶の形態のフロ酸モメタゾンを含む、工程;および
前記拡張可能部材を前記薄型の構成から前記拡張した構成に拡張させ、前記薬物結晶が、前記標的組織と接触し、前記ポリープ状浮腫を処置するのに有効な期間にわたって、前記フロ酸モメタゾンの徐放を提供するデポーを前記標的組織において形成することによって、鼻の中の標的組織に前記薬物結晶を送達する工程
を含む、方法。
(項目26)
拡張させることが、前記拡張可能部材の複数回の拡張を含む、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記拡張可能部材が、副鼻腔、副鼻洞入口部、下鼻甲介、中鼻甲介、上鼻甲介、鼻腔、中鼻道自然口ルート、鼻咽頭、咽頭扁桃組織、耳組織およびそれらの組み合わせからなる群より選択される複数の標的組織において拡張される、項目25に記載の方法。
(項目28)
ポリープ状浮腫を処置することが、1つまたはそれを超える鼻ポリープのサイズを縮小させる、項目25に記載の方法。
(項目29)
患者の粘膜炎症を処置するための方法であって、前記方法は、
前記患者の鼻の内側の位置に拡張可能部材を進める工程であって、前記拡張可能部材は、薄型の構成および拡張した構成ならびに前記拡張可能部材の外表面を少なくとも部分的に覆う薬物層を有するバルーンを含み、前記薬物層は、薬物結晶の形態のフロ酸モメタゾンを含む、工程;および
前記拡張可能部材を前記薄型の構成から前記拡張した構成に拡張させ、前記薬物結晶が、前記標的組織と接触し、前記粘膜炎症を処置するのに有効な期間にわたって、前記フロ酸モメタゾンの徐放を提供するデポーを前記標的組織において形成することによって、鼻の中の標的組織に前記薬物結晶を送達する工程
を含む、方法。
(項目30)
拡張させることが、前記拡張可能部材の複数回の拡張を含む、項目29に記載の方法。
(項目31)
前記拡張可能部材が、副鼻腔、副鼻洞入口部、下鼻甲介、中鼻甲介、上鼻甲介、鼻腔、中鼻道自然口ルート、鼻咽頭、咽頭扁桃組織、耳組織およびそれらの組み合わせからなる群より選択される複数の標的組織において拡張される、項目29に記載の方法。
(項目32)
治療有効量の活性な作用物質を患者の標的組織に送達するための方法であって、前記方法
は、
前記患者の耳、鼻または咽喉の内側の位置に拡張可能部材を進める工程であって、前記拡張可能部材は、薄型の構成および拡張した構成ならびに前記拡張可能部材の外表面を少なくとも部分的に覆う薬物層を含み、前記薬物層は、薬物結晶の形態の活性な作用物質を含む、工程;および
前記拡張可能部材を前記薄型の構成から前記拡張した構成に拡張させ、前記薬物結晶が、前記標的組織と接触し、鼻、耳または咽喉の症状を処置するのに有効な期間にわたって、前記活性な作用物質の徐放を提供するデポーを前記標的組織において形成することによって、前記標的組織に前記薬物結晶を送達する工程
を含み、前記薬物結晶が、約80μm超の平均長を有するとき、前記薬物層は、前記活性な作用物質の少なくとも約60%を薬物結晶として含む、方法。
(項目33)
前記拡張可能部材を、送達デバイスを使用して耳、鼻または咽喉の内側の位置に進める、項目32に記載の方法。
(項目34)
拡張させることが、前記拡張可能部材の複数回の拡張を含む、項目32に記載の方法。
(項目35)
前記活性な作用物質の約25%が、各膨張によって前記標的組織に送達される、項目34に記載の方法。
(項目36)
前記拡張可能部材が、複数の標的組織において拡張される、項目32に記載の方法。
(項目37)
前記標的組織が、副鼻腔、副鼻洞入口部、下鼻甲介、中鼻甲介、上鼻甲介、鼻腔、中鼻道自然口ルート、鼻咽頭、咽頭扁桃組織、耳組織またはそれらの組み合わせである、項目32に記載の方法。
(項目38)
前記活性な作用物質が、コルチコステロイドを含む、項目32に記載の方法。
(項目39)
前記コルチコステロイドが、フロ酸モメタゾンを含む、項目38に記載の方法。
(項目40)
前記薬物層におけるフロ酸モメタゾンの用量密度が、約4μg/mm~約8μg/mmの範囲である、項目39に記載の方法。
(項目41)
前記拡張可能部材が、膨張可能バルーンである、項目32に記載の方法。
(項目42)
前記薬物層が、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリソルベート、ポリ(エチレングリコール)、プロピレングリコール、グリセロールカプロエートまたはそれらの組み合わせもしくは混合物をさらに含む、項目32に記載の方法。
(項目43)
前記鼻の症状が、術後炎症、鼻甲介肥大、鼻副鼻腔炎および鼻炎からなる群より選択される、項目32に記載の方法。
(項目44)
前記鼻の症状が、ポリープ状浮腫である、項目32に記載の方法。
(項目45)
前記鼻の症状が、粘膜炎症である、項目32に記載の方法。
(項目46)
前記耳の症状が、中耳炎、メニエール病、耳管機能障害および耳鳴からなる群より選択される、項目32に記載の方法。
(項目47)
前記咽喉の症状が、術後疼痛、食道癌、気道狭窄、慢性喉頭炎、扁桃炎および喉頭蓋炎か
らなる群より選択される、項目32に記載の方法。
(項目48)
前記徐放の期間が、少なくとも約30日間である、項目32に記載の方法。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】