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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060027
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20240423BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20240423BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20240423BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20240423BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20240423BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240423BHJP
   H01L 29/41 20060101ALI20240423BHJP
   H01L 21/8234 20060101ALI20240423BHJP
   H01L 21/8249 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H01L29/78 652J
H01L29/78 657D
H01L29/78 652Q
H01L29/78 652P
H01L29/06 301G
H01L29/06 301V
H01L29/78 657A
H01L29/78 657F
H01L29/78 655G
H01L29/06 301R
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/91 F
H01L29/91 C
H01L29/78 658H
H01L29/91 J
H01L29/06 301F
H01L29/44 Y
H01L27/06 102A
H01L27/06 321A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024035840
(22)【出願日】2024-03-08
(62)【分割の表示】P 2022568089の分割
【原出願日】2021-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2020202647
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】上村 和貴
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ライフタイム制御領域を設けることによるトランジスタ動作の無効領域を抑制する。
【解決手段】半導体装置100は、トランジスタ部70及びダイオード部80を有する半導体基板10と、半導体基板のおもて面21の上方に設けられたエミッタ電極52及びゲート電極(ゲート導電部)とを備え、トランジスタ部は、ゲート電極と電気的に接続された複数のトレンチ部40と、半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域18と、ドリフト領域の上方に設けられた第2導電型のベース領域14と、ドリフト領域とベース領域との間に設けられ、ベース領域よりもドーピング濃度の高い第2導電型のトレンチボトムバリア領域75と、を有し、トレンチボトムバリア領域は、エミッタ電極と電気的に接続されている。
【選択図】図2B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタ部およびダイオード部を有する半導体基板と、
前記半導体基板のおもて面の上方に設けられたエミッタ電極およびゲート電極と
を備え、
前記トランジスタ部は、
前記ゲート電極と電気的に接続された複数のトレンチ部と、
前記半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、
前記ドリフト領域の上方に設けられた第2導電型のベース領域と、
前記ドリフト領域と前記ベース領域との間に設けられた、前記ベース領域よりもドーピング濃度の高い第2導電型のトレンチボトムバリア領域と
を有し、
前記トレンチボトムバリア領域は、前記エミッタ電極と電気的に接続されている
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)等のトランジスタ部と、ダイオード部とを同一基板に形成した半導体装置において、ヘリウムイオン等の粒子線を半導体基板の所定深さ位置に照射し、ライフタイムキラーを含むライフタイム制御領域を設ける技術が知られている(例えば、特許文献1および2)。
特許文献1 特開2017-135339号公報
特許文献2 特開2014-175517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような半導体装置では、ダイオード部のみならず、トランジスタ部のダイオード部隣接領域にもライフタイム制御領域を設けることにより、逆回復時における正孔注入を抑制する。しかしながら、トランジスタ部においてライフタイム制御領域が設けられた領域は、トランジスタとして動作しない無効領域となってしまうという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては、半導体装置を提供する。半導体装置は、トランジスタ部およびダイオード部を有する半導体基板と、半導体基板のおもて面の上方に設けられたエミッタ電極およびゲート電極とを備え、トランジスタ部は、ゲート電極と電気的に接続された複数のトレンチ部と、半導体基板に設けられた第1導電型のドリフト領域と、ドリフト領域の上方に設けられた第2導電型のベース領域と、ドリフト領域とベース領域との間に設けられた、ベース領域よりもドーピング濃度の高い第2導電型のトレンチボトムバリア領域とを有し、トレンチボトムバリア領域は、エミッタ電極と電気的に接続されている。
【0005】
トレンチボトムバリア領域は、半導体基板の上面視で、ダイオード部に隣接する領域に設けられてよい。
【0006】
複数のトレンチ部の配列方向におけるトレンチボトムバリア領域の幅は、2μm以上、100μm以下であってよい。
【0007】
トレンチボトムバリア領域の幅は、10μm以上、50μm以下であってよい。
【0008】
トレンチボトムバリア領域のドーピング濃度は、1E11cm-3以上、1E13cm-3以下であってよい。
【0009】
半導体基板の深さ方向において、トレンチボトムバリア領域の下端は、複数のトレンチ部の底部より下方に位置してよい。
【0010】
トランジスタ部は、トレンチボトムバリア領域の上方に、ドリフト領域よりもドーピング濃度の高い第1導電型の蓄積領域を有してよい。
【0011】
ドリフト領域および蓄積領域は、ダイオード部にさらに設けられてよい。
【0012】
トランジスタ部は、半導体基板のおもて面に設けられた、活性領域の外周を延伸する第2導電型のウェル領域と、半導体基板の上方に設けられた層間絶縁膜とをさらに有し、トレンチボトムバリア領域は、ウェル領域と接続され、ウェル領域は、エミッタ電極と電気的に接続されてよい。
【0013】
トレンチボトムバリア領域の上方に位置する複数のメサ部の一部が、層間絶縁膜に設けられたコンタクトホールを介してエミッタ電極と電気的に接続されてよい。
【0014】
トランジスタ部は、ドリフト領域とベース領域との間に設けられた、電気的に浮遊する第2導電型のフローティングバリア領域をさらに有してよい。
【0015】
複数のトレンチ部の配列方向において、トレンチボトムバリア領域とフローティングバリア領域との間の距離は、複数のトレンチ部のピッチ以上、10μm以下であってよい。
【0016】
複数のトレンチ部の延伸方向において、ウェル領域とフローティングバリア領域との間の距離は、ピッチ以上、10μm以下であってよい。
【0017】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係る半導体装置100の上面の一例を示す図である。
図2A図1における領域Aの一例を示す拡大図である。
図2B図2Aにおけるa-a'断面を示す図である。
図2C図2Aにおけるb-b'断面を示す図である。
図2D図2Aにおけるc-c'断面を示す図である。
図3A図1における領域Bの一例を示す拡大図である。
図3B図3Aにおけるd-d'断面を示す図である。
図4】逆回復時におけるコレクタ電流Icの時間変化を示すグラフである。
図5A図1における領域Aの他の一例を示す拡大図である。
図5B図5Aにおけるa-a'断面を示す図である。
図6A図1における領域Aの他の一例を示す拡大図である。
図6B図6Aにおけるe-e'断面を示す図である。
図6C図6Aにおけるf-f'断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0020】
本明細書においては半導体基板の深さ方向と平行な方向における一方の側を「上」または「おもて」、他方の側を「下」または「裏」と称する。基板、層またはその他の部材の2つの主面のうち、一方の面をおもて面、他方の面を裏面と称する。「上」、「下」の方向は、重力方向または半導体装置の実装時における方向に限定されない。
【0021】
本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する場合がある。直交座標軸は、構成要素の相対位置を特定するに過ぎず、特定の方向を限定するものではない。例えば、Z軸は地面に対する高さ方向を限定して示すものではない。なお、+Z軸方向と-Z軸方向とは互いに逆向きの方向である。正負を記載せず、Z軸方向と記載した場合、+Z軸およびZ軸に平行な方向を意味する。
【0022】
本明細書では、半導体基板のおもて面および裏面に平行な直交軸をX軸およびY軸とする。また、半導体基板のおもて面および裏面と垂直な軸をZ軸とする。本明細書では、Z軸の方向を深さ方向と称する場合がある。また、本明細書では、X軸およびY軸を含めて、半導体基板のおもて面および裏面に平行な方向を、水平方向と称する場合がある。
【0023】
本明細書において「同一」または「等しい」のように称した場合、製造ばらつき等に起因する誤差を有する場合も含んでよい。当該誤差は、例えば10%以内である。
【0024】
本明細書においては、不純物がドーピングされたドーピング領域の導電型をP型またはN型として説明している。本明細書においては、不純物とは、特にN型のドナーまたはP型のアクセプタの何れかを意味する場合があり、ドーパントと記載する場合がある。本明細書においては、ドーピングとは、半導体基板にドナーまたはアクセプタを導入し、N型の導電型を示す半導体またはP型の導電型を示す半導体とすることを意味する。
【0025】
本明細書においては、ドーピング濃度とは、熱平衡状態におけるドナーの濃度またはアクセプタの濃度を意味する。本明細書においては、ネット・ドーピング濃度とは、ドナー濃度を正イオンの濃度とし、アクセプタ濃度を負イオンの濃度として、電荷の極性を含めて足し合わせた正味の濃度を意味する。一例として、ドナー濃度をN、アクセプタ濃度をNとすると、任意の位置における正味のネット・ドーピング濃度はN-Nとなる。
【0026】
ドナーは、半導体に電子を供給する機能を有している。アクセプタは、半導体から電子を受け取る機能を有している。ドナーおよびアクセプタは、不純物自体には限定されない。例えば、半導体中に存在する空孔(V)、酸素(O)および水素(H)が結合したVOH欠陥は、電子を供給するドナーとして機能する。
【0027】
本明細書においてP+型またはN+型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が高いことを意味し、P-型またはN-型と記載した場合、P型またはN型よりもドーピング濃度が低いことを意味する。また、本明細書においてP++型またはN++型と記載した場合には、P+型またはN+型よりもドーピング濃度が高いことを意味する。
【0028】
本明細書において化学濃度とは、電気的な活性化の状態によらずに測定される不純物の濃度を指す。化学濃度は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS)により計測できる。上述したネット・ドーピング濃度は、電圧-容量測定法(CV法)により測定できる。また、拡がり抵抗測定法(SR法)により計測されるキャリア濃度を、ネット・ドーピング濃度としてよい。CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度は、熱平衡状態における値としてよい。また、N型の領域においては、ドナー濃度がアクセプタ濃度よりも十分大きいので、当該領域におけるキャリア濃度を、ドナー濃度としてもよい。同様に、P型の領域においては、当該領域におけるキャリア濃度を、アクセプタ濃度としてもよい。
【0029】
また、ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度分布がピークを有する場合、当該ピーク値を当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。ドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度がほぼ均一な場合等においては、当該領域におけるドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度の平均値をドナー、アクセプタまたはネット・ドーピングの濃度としてよい。
【0030】
SR法により計測されるキャリア濃度が、ドナーまたはアクセプタの濃度より低くてもよい。拡がり抵抗を測定する際に電流が流れる範囲において、半導体基板のキャリア移動度が結晶状態の値よりも低い場合がある。キャリア移動度の低下は、格子欠陥等による結晶構造の乱れ(ディスオーダー)により、キャリアが散乱されることで生じる。
【0031】
CV法またはSR法により計測されるキャリア濃度から算出したドナーまたはアクセプタの濃度は、ドナーまたはアクセプタを示す元素の化学濃度よりも低くてよい。一例として、シリコンの半導体においてドナーとなるリンまたはヒ素のドナー濃度、あるいはアクセプタとなるボロン(ホウ素)のアクセプタ濃度は、これらの化学濃度の99%程度である。一方、シリコンの半導体においてドナーとなる水素のドナー濃度は、水素の化学濃度の0.1%から10%程度である。
【0032】
図1は、本発明の一つの実施形態に係る半導体装置100の上面の一例を示す図である。図1においては、各部材を半導体基板10のおもて面に投影した位置を示している。図1においては、半導体装置100の一部の部材だけを示しており、一部の部材は省略している。
【0033】
半導体装置100は、半導体基板10を備えている。半導体基板10は、上面視において端辺102を有する。本明細書で単に上面視と称した場合、半導体基板10のおもて面側から見ることを意味している。本例の半導体基板10は、上面視において互いに向かい合う2組の端辺102を有する。図1においては、X軸およびY軸は、何れかの端辺102と平行である。またZ軸は、半導体基板10のおもて面と垂直である。
【0034】
半導体基板10には活性領域160が設けられている。活性領域160は、半導体装置100が動作した場合に半導体基板10のおもて面と裏面との間で、深さ方向に主電流が流れる領域である。活性領域160の上方にはエミッタ電極が設けられているが、図1では省略している。
【0035】
活性領域160には、IGBT等のトランジスタ素子を含むトランジスタ部70と、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子を含むダイオード部80の少なくとも一方が設けられている。図1の例では、トランジスタ部70およびダイオード部80は、半導体基板10のおもて面における所定の配列方向(本例ではX軸方向)に沿って、交互に配置されている。他の例では、活性領域160には、トランジスタ部70およびダイオード部80の一方だけが設けられていてもよい。
【0036】
図1においては、トランジスタ部70が配置される領域には記号「I」を付し、ダイオード部80が配置される領域には記号「F」を付している。本明細書では、上面視において配列方向と垂直な方向を延伸方向(図1ではY軸方向)と称する場合がある。トランジスタ部70およびダイオード部80は、それぞれ延伸方向に長手を有してよい。つまり、トランジスタ部70のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。同様に、ダイオード部80のY軸方向における長さは、X軸方向における幅よりも大きい。トランジスタ部70およびダイオード部80の延伸方向と、後述する各トレンチ部の長手方向とは同一であってよい。
【0037】
ダイオード部80は、半導体基板10の裏面と接する領域に、N+型のカソード領域を有する。本明細書では、カソード領域が設けられた領域を、ダイオード部80と称する。つまりダイオード部80は、上面視においてカソード領域と重なる領域である。半導体基板10の裏面には、カソード領域以外の領域には、P+型のコレクタ領域が設けられてよい。本明細書では、ダイオード部80を、後述するゲートランナーまでY軸方向に延長した延長領域も、ダイオード部80に含める場合がある。延長領域の下面には、コレクタ領域が設けられている。
【0038】
トランジスタ部70は、半導体基板10の裏面と接する領域に、P+型のコレクタ領域を有する。また、トランジスタ部70は、半導体基板10のおもて面側に、N型のエミッタ領域、P型のベース領域、ゲート導電部およびゲート絶縁膜を有するゲート構造が周期的に配置されている。
【0039】
半導体装置100は、半導体基板10の上方に1つ以上のパッドを有してよい。一例として、図1に示す半導体装置100はゲートパッドGを有するが、これは例示に過ぎない。半導体装置100は、アノードパッド、カソードパッドおよび電流検出パッド等のパッドを有してもよい。各パッドは、端辺102の近傍に配置されている。端辺102の近傍とは、上面視における端辺102と、エミッタ電極との間の領域を指す。半導体装置100の実装時において、各パッドは、ワイヤ等の配線を介して外部の回路に接続されてよい。
【0040】
ゲートパッドGには、ゲート電位が印加される。ゲートパッドGは、活性領域160のゲートトレンチ部の導電部と電気的に接続される。半導体装置100は、ゲートパッドGとゲートトレンチ部とを電気的に接続するゲートランナー48を備える。
【0041】
ゲートランナー48は、上面視において活性領域160と半導体基板10の端辺102との間に配置されている。本例のゲートランナー48は、上面視において活性領域160を囲んでいる。上面視においてゲートランナー48に囲まれた領域を活性領域160としてもよい。
【0042】
ゲートランナー48は、半導体基板10の上方に配置されている。本例のゲートランナー48は、不純物がドープされたポリシリコン等で形成されてよい。ゲートランナー48は、ゲートトレンチ部の内部にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート導電部と電気的に接続する。
【0043】
本例の半導体装置100は、活性領域160と端辺102との間に、エッジ終端構造部190を備える。本例のエッジ終端構造部190は、ゲートランナー48と端辺102との間に配置されている。エッジ終端構造部190は、半導体基板10のおもて面側の電界集中を緩和する。
【0044】
エッジ終端構造部190は、ガードリング92を有してよい。ガードリング92は、半導体基板10のおもて面と接するP型の領域である。なお、本例のエッジ終端構造部190は複数のガードリング92を有するが、図1では省略して1つのガードリング92のみが示されている。複数のガードリング92を設けることで、活性領域160の上面側における空乏層を外側に伸ばすことができ、半導体装置100の耐圧を向上できる。エッジ終端構造部190は、活性領域160を囲んで環状に設けられたフィールドプレートおよびリサーフのうちの少なくとも一つを更に備えていてもよい。
【0045】
また、半導体装置100は、ポリシリコン等で形成されたPN接合ダイオードである不図示の温度センス部や、活性領域160に設けられたトランジスタ部と同様な動作をする不図示の電流検出部を備えてもよい。
【0046】
図2Aは、図1における領域Aの一例を示す拡大図である。半導体装置100は、IGBT等のトランジスタ素子を含むトランジスタ部70と、還流ダイオード(FWD)等のダイオード素子を含むダイオード部80とを有する半導体基板を備える。
【0047】
本例の半導体装置100は、半導体基板のおもて面側の内部に設けられたゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15を備える。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、それぞれがトレンチ部の一例である。
【0048】
また、本例の半導体装置100は、半導体基板のおもて面の上方に設けられたゲート金属層50およびエミッタ電極52を備える。ゲート金属層50およびエミッタ電極52は、互いに分離して設けられる。ゲート金属層50とエミッタ電極52とは、電気的に絶縁される。
【0049】
エミッタ電極52およびゲート金属層50と、半導体基板のおもて面との間には層間絶縁膜が設けられるが、図1では省略している。本例の層間絶縁膜には、コンタクトホール49、54および56が、当該層間絶縁膜を貫通して設けられる。図1においては、それぞれのコンタクトホールに斜線のハッチングを付している。
【0050】
エミッタ電極52は、ゲートトレンチ部40、ダミートレンチ部30、ウェル領域11、エミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15の上方に設けられる。エミッタ電極52は、コンタクトホール54によって、半導体基板のおもて面におけるエミッタ領域12、ベース領域14およびコンタクト領域15と電気的に接続する。
【0051】
また、エミッタ電極52は、コンタクトホール56によってダミートレンチ部30内のダミー導電部と接続される。エミッタ電極52とダミー導電部との間には、不純物がドープされたポリシリコン等の、導電性を有する材料で形成された接続部25が設けられてよい。接続部25は、層間絶縁膜およびダミートレンチ部30のダミー絶縁膜等の絶縁膜を介して半導体基板のおもて面に設けられる。
【0052】
ゲート金属層50は、コンタクトホール49によってゲートランナー48と電気的に接続する。ゲートランナー48は、不純物がドープされたポリシリコン等で形成されてよい。ゲートランナー48は、半導体基板のおもて面において、ゲートトレンチ部40内のゲート導電部に接続する。ゲートランナー48は、ダミートレンチ部30内のダミー導電部およびエミッタ電極52には電気的に接続しない。
【0053】
ゲートランナー48とエミッタ電極52とは層間絶縁膜および酸化膜などの絶縁物により電気的に分離される。本例のゲートランナー48は、コンタクトホール49の下方から、ゲートトレンチ部40の先端部まで設けられる。ゲートトレンチ部40の先端部においてゲート導電部は半導体基板のおもて面に露出しており、ゲートランナー48と接続する。
【0054】
エミッタ電極52およびゲート金属層50は、金属を含む導電性材料で形成される。例えば、アルミニウムまたはアルミニウム-シリコン合金で形成される。各電極は、アルミニウム等で形成された領域の下層にチタンやチタン化合物等で形成されたバリアメタルを有してよい。
【0055】
各電極は、コンタクトホール内においてタングステン等で形成されたプラグを有してもよい。プラグは、半導体基板に接する側にバリアメタルを有し、バリアメタルに接するようにタングステンを埋め込み、タングステン上にアルミニウム等で形成されてよい。
【0056】
なおプラグは、コンタクト領域15またはベース領域14に接するコンタクトホールに設けられる。また、プラグのコンタクトホールの下にはP++型のプラグ領域17を形成し、コンタクト領域15よりドーピング濃度が高い。これは、バリアメタルとコンタクト領域15との接触抵抗を改善することができる。また、プラグ領域17の深さは約0.1μm以下であり、コンタクト領域15の深さと比べて10%以下と小さい領域を持つ。
【0057】
プラグ領域17は以下の特徴をもつ。トランジスタ部70の動作において、接触抵抗改善によりラッチアップ耐量が向上する。一方、ダイオード部80の動作においては、プラグ領域17がない場合はバリアメタルとベース領域14との接触抵抗が高く、導通損失、スイッチング損失が上昇するが、ダイオード部80にプラグ領域17を設けることにより、導通損失、スイッチング損失の上昇を抑制することができる。
【0058】
ウェル領域11は、ゲートランナー48と重なって、活性領域160の外周を延伸し、上面視で環状に設けられている。ウェル領域11は、ゲートランナー48と重ならない範囲にも、所定の幅で延伸し、上面視で環状に設けられている。本例のウェル領域11は、コンタクトホール54のY軸方向の端から、ゲートランナー48側に離れて設けられている。ウェル領域11は、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型の領域である。ゲートランナー48は、ウェル領域11と電気的に絶縁される。
【0059】
本例のベース領域14はP-型であり、ウェル領域11はP+型である。また、ウェル領域11は、半導体基板のおもて面から、ベース領域14の下端よりも深い位置まで形成されている。ベース領域14は、トランジスタ部70およびダイオード部80において、ウェル領域11に接して設けられている。よって、ウェル領域11はエミッタ電極52と電気的に接続される。
【0060】
トランジスタ部70およびダイオード部80のそれぞれは、配列方向に複数配列されたトレンチ部を有する。本例のトランジスタ部70には、配列方向に沿って1以上のゲートトレンチ部40が設けられている。本例のダイオード部80には、複数のダミートレンチ部30が、配列方向に沿って設けられている。本例のダイオード部80には、ゲートトレンチ部40が設けられていない。
【0061】
本例のゲートトレンチ部40は、配列方向と垂直な延伸方向に沿って延伸する2つの直線部分39(延伸方向に沿って直線状であるトレンチの部分)と、2つの直線部分39を接続する先端部41を有してよい。
【0062】
先端部41の少なくとも一部は、上面視において曲線状に設けられてよい。2つの直線部分39のY軸方向における端部同士を先端部41がゲートランナー48と接続することで、ゲートトレンチ部40へのゲート電極として機能する。一方、先端部41を曲線状にすることにより直線部分39で完結するよりも、端部における電界集中を緩和できる。
【0063】
他の例においては、トランジスタ部70は、配列方向に沿って1以上のゲートトレンチ部40と1以上のダミートレンチ部30とが交互に設けられてもよい。トランジスタ部70において、ダミートレンチ部30はゲートトレンチ部40のそれぞれの直線部分39の間に設けられる。それぞれの直線部分39の間には、1本のダミートレンチ部30が設けられてよく、複数本のダミートレンチ部30が設けられていてもよい。
【0064】
またそれぞれの直線部分39の間には、ダミートレンチ部30が設けられなくてもよく、ゲートトレンチ部40が設けられてもよい。このような構造により、エミッタ領域12からの電子電流を増大することができるため、オン電圧が低減する。
【0065】
ダミートレンチ部30は、延伸方向に延伸する直線形状を有してよく、ゲートトレンチ部40と同様に、直線部分29と先端部31とを有していてもよい。図2Aに示した半導体装置100は、先端部31を有するダミートレンチ部30のみが配列されているが、他の例においては、半導体装置100は、先端部31を有さない直線形状のダミートレンチ部30を含んでもよい。
【0066】
ウェル領域11の拡散深さは、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30の深さよりも深くてよい。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30のY軸方向の端部は、上面視においてウェル領域11に設けられる。つまり、各トレンチ部のY軸方向の端部において、各トレンチ部の深さ方向の底部は、ウェル領域11に覆われている。これにより、各トレンチ部の当該底部における電界集中を緩和できる。
【0067】
配列方向において各トレンチ部の間には、メサ部が設けられている。メサ部は、半導体基板の内部において、トレンチ部に挟まれた領域を指す。一例としてメサ部の深さ位置は、半導体基板のおもて面からトレンチ部の下端までである。
【0068】
本例のメサ部は、X軸方向において隣接するトレンチ部に挟まれ、半導体基板のおもて面においてトレンチに沿って延伸方向(Y軸方向)に延伸して設けられている。図2Bで後述するように、本例では、トランジスタ部70にはメサ部60が設けられ、ダイオード部80にはメサ部61が設けられている。本明細書において単にメサ部と称した場合、メサ部60およびメサ部61のそれぞれを指している。
【0069】
それぞれのメサ部には、ベース領域14が設けられる。それぞれのメサ部には、上面視においてベース領域14に挟まれた領域に、第1導電型のエミッタ領域12および第2導電型のコンタクト領域15の少なくとも一方が設けられてよい。本例のエミッタ領域12はN+型であり、コンタクト領域15はP+型である。エミッタ領域12およびコンタクト領域15は、深さ方向において、ベース領域14と半導体基板のおもて面との間に設けられてよい。
【0070】
トランジスタ部70のメサ部は、半導体基板のおもて面に露出したエミッタ領域12を有する。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40に接して設けられている。ゲートトレンチ部40に接するメサ部には、半導体基板のおもて面に露出したコンタクト領域15が設けられている。
【0071】
メサ部におけるコンタクト領域15およびエミッタ領域12のそれぞれは、X軸方向における一方のトレンチ部から、他方のトレンチ部まで設けられる。一例として、メサ部のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿って交互に配置されている。
【0072】
他の例においては、メサ部のコンタクト領域15およびエミッタ領域12は、トレンチ部の延伸方向(Y軸方向)に沿ってストライプ状に設けられていてもよい。例えばトレンチ部に接する領域にエミッタ領域12が設けられ、エミッタ領域12に挟まれた領域にコンタクト領域15が設けられる。
【0073】
ダイオード部80のメサ部には、エミッタ領域12が設けられていない。ダイオード部80のメサ部の上面には、ベース領域14が設けられてよい。ベース領域14は、ダイオード部80のメサ部全体に配置されてよい。
【0074】
それぞれのメサ部の上方には、コンタクトホール54が設けられている。コンタクトホール54は、その延伸方向(Y軸方向)においてベース領域14に挟まれた領域に配置されている。本例のコンタクトホール54は、コンタクト領域15、ベース領域14およびエミッタ領域12の各領域の上方に設けられる。コンタクトホール54は、メサ部の配列方向(X軸方向)における中央に配置されてよい。
【0075】
ダイオード部80において、半導体基板の裏面と隣接する領域には、N+型のカソード領域82が設けられる。半導体基板の裏面において、カソード領域82が設けられていない領域には、P+型のコレクタ領域22が設けられてよい。図2Aにおいては、カソード領域82およびコレクタ領域22の境界を点線で示している。
【0076】
カソード領域82は、Y軸方向においてウェル領域11から離れて配置されている。これにより、比較的にドーピング濃度が高く、且つ、深い位置まで形成されているP型の領域(ウェル領域11)と、カソード領域82との距離を確保することにより、ウェル領域11からのホール注入を抑制できるため、逆回復損失を低減できる。本例のカソード領域82のY軸方向における端部は、コンタクトホール54のY軸方向における端部よりも、ウェル領域11から離れて配置されている。他の例では、カソード領域82のY軸方向における端部は、ウェル領域11とコンタクトホール54との間に配置されていてもよい。
【0077】
トランジスタ部70は、後述するドリフト領域とベース領域14との間に、ベース領域14よりもドーピング濃度の高い第2導電型のトレンチボトムバリア領域75を有する。本例のトレンチボトムバリア領域75は、P型である。図2Aにおいては、トレンチボトムバリア領域75の範囲を点線で示している。
【0078】
本例のトレンチボトムバリア領域75は、半導体基板の上面視で、ダイオード部80に隣接する領域に設けられている。ダイオード部80に隣接する領域とは、トランジスタ部70の配列方向(X軸方向)における端部領域であり、延伸方向(Y軸方向)に延びるダイオード部80との境界において、ダイオード部80と直接接する領域を指す。また、トレンチボトムバリア領域75は、Y軸方向端部においてウェル領域11と接する。
【0079】
図2Bは、図2Aにおけるa-a'断面を示す図である。a-a'断面は、コンタクト領域15、ベース領域14、並びにゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30を通るXZ面である。本例の半導体装置100は、a-a'断面において、半導体基板10、層間絶縁膜38、エミッタ電極52およびコレクタ電極24を有する。
【0080】
層間絶縁膜38は、半導体基板10のおもて面21に設けられている。層間絶縁膜38は、ボロンまたはリン等の不純物が添加されたシリケートガラス等の絶縁膜である。層間絶縁膜38はおもて面21に接していてよく、層間絶縁膜38とおもて面21との間に酸化膜等の他の膜が設けられていてもよい。層間絶縁膜38には、図2Aにおいて説明したコンタクトホール54が設けられている。
【0081】
エミッタ電極52は、半導体基板10のおもて面21および層間絶縁膜38の上面に設けられる。エミッタ電極52は、層間絶縁膜38のコンタクトホール54によって、おもて面21と電気的に接続する。コンタクトホール54の内部には、タングステン(W)等のプラグが設けられていてよい。コレクタ電極24は、半導体基板10の裏面23に設けられる。エミッタ電極52およびコレクタ電極24は、金属を含む材料またはそれらの積層膜で形成される。
【0082】
半導体基板10は、シリコン基板であってよく、炭化シリコン基板であってよく、窒化ガリウム等の窒化物半導体基板等であってもよい。本例の半導体基板10はシリコン基板である。
【0083】
半導体基板10は、第1導電型のドリフト領域18を有する。本例のドリフト領域18は、N-型である。ドリフト領域18は、半導体基板10において他のドーピング領域が設けられずに残存した領域であってよい。
【0084】
ドリフト領域18の上方には、Z軸方向に一つ以上の蓄積領域16が設けられてよい。蓄積領域16は、ドリフト領域18と同じドーパントが、ドリフト領域18よりも高濃度に蓄積した領域である。蓄積領域16のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。
【0085】
本例の蓄積領域16は、N型である。蓄積領域16は、トランジスタ部70のみに設けられていてもよく、トランジスタ部70およびダイオード部80の両方に設けられていてもよい。蓄積領域16を設けることで、キャリアの注入促進効果(IE効果)を高めて、オン電圧を低減できる。
【0086】
トランジスタ部70において、ベース領域14の上方には、おもて面21に接してエミッタ領域12が設けられる。エミッタ領域12は、ゲートトレンチ部40と接して設けられる。エミッタ領域12のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。エミッタ領域12のドーパントは、一例としてヒ素(As)、リン(P)、アンチモン(Sb)等である。
【0087】
ダイオード部80には、おもて面21に露出したベース領域14が設けられる。ダイオード部80のベース領域14は、アノードとして動作する。
【0088】
ドリフト領域18の下方には、第1導電型のバッファ領域20が設けられてよい。本例のバッファ領域20は、N型である。バッファ領域20のドーピング濃度は、ドリフト領域18のドーピング濃度よりも高い。バッファ領域20は、ベース領域14の下面側から広がる空乏層が、コレクタ領域22およびカソード領域82に到達することを防ぐフィールドストップ層として機能してよい。
【0089】
トランジスタ部70において、バッファ領域20の下方にはコレクタ領域22が設けられる。コレクタ領域22は、裏面23においてカソード領域82と接して設けられていてよい。
【0090】
ダイオード部80において、バッファ領域20の下方にはカソード領域82が設けられる。カソード領域82は、トランジスタ部70のコレクタ領域22と同じ深さに設けられてよい。ダイオード部80は、トランジスタ部70がターンオフする時に、逆方向に導通する還流電流を流す還流ダイオード(FWD)として機能してよい。
【0091】
半導体基板10には、ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30が設けられる。ゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、おもて面21からベース領域14および蓄積領域16を貫通して、ドリフト領域18に到達するように設けられる。トレンチ部がドーピング領域を貫通するとは、ドーピング領域を形成してからトレンチ部を形成する順序で製造したものに限定されない。トレンチ部を形成した後に、トレンチ部の間にドーピング領域を形成したものも、トレンチ部がドーピング領域を貫通しているものに含まれる。
【0092】
ゲートトレンチ部40は、おもて面21に設けられたゲートトレンチ、ゲート絶縁膜42およびゲート導電部44を有する。ゲート絶縁膜42は、ゲートトレンチの内壁を覆って設けられる。ゲート絶縁膜42は、酸化膜または窒化膜で形成してよい。ゲート導電部44は、ゲートトレンチの内部においてゲート絶縁膜42よりも内側を埋め込むように設けられる。ゲート導電部44の上面は、おもて面21と同じXY平面内にあってよい。ゲート絶縁膜42は、ゲート導電部44と半導体基板10とを絶縁する。ゲート導電部44は、不純物がドープされたポリシリコン等で形成される。
【0093】
ゲート導電部44は、深さ方向においてベース領域14よりも長く設けられてよい。ゲートトレンチ部40は、おもて面21において層間絶縁膜38により覆われる。ゲート導電部44に所定の電圧が印加されると、ベース領域14のうちゲートトレンチに接する界面の表層に、電子の反転層によるチャネルが形成される。
【0094】
ダミートレンチ部30は、XZ断面においてゲートトレンチ部40と同一の構造を有してよい。ダミートレンチ部30は、おもて面21に設けられたダミートレンチ、ダミー絶縁膜32およびダミー導電部34を有する。ダミー絶縁膜32は、ダミートレンチの内壁を覆って設けられる。ダミー絶縁膜32は、酸化膜または窒化膜で形成してよい。ダミー導電部34は、ダミートレンチの内部においてダミー絶縁膜32よりも内側を埋め込むように設けられる。ダミー導電部34の上面は、おもて面21と同じXY平面内にあってよい。ダミー絶縁膜32は、ダミー導電部34と半導体基板10とを絶縁する。ダミー導電部34は、ゲート導電部44と同一の材料で形成されてよい。
【0095】
本例のゲートトレンチ部40およびダミートレンチ部30は、おもて面21において層間絶縁膜38により覆われている。なお、ダミートレンチ部30およびゲートトレンチ部40の底部は、下側に凸の曲面状(断面においては曲線状)であってよい。
【0096】
トランジスタ部70において、ダイオード部80に隣接する領域には、P型のトレンチボトムバリア領域75が設けられている。本例のトレンチボトムバリア領域75は、蓄積領域16より下方に設けられている。トレンチボトムバリア領域75のドーピング濃度は、1E11cm-3以上、1E13cm-3以下である。
【0097】
トレンチボトムバリア領域75のX軸方向における幅Wは、2μm以上、100μm以下である。トレンチボトムバリア領域75の幅Wは、10μm以上、50μm以下であってもよい。図2Bでは、トレンチボトムバリア領域75のX軸方向正側(ダイオード部80側)の端部は、カソード領域82およびコレクタ領域22の境界と一致しているが、これよりもダイオード部80側に延伸していてもよく、トランジスタ部70内に後退していてもよい。
【0098】
半導体基板10の深さ方向において、トレンチボトムバリア領域75の下端は、ゲートトレンチ部40の底部より下方に位置する。換言すると、トレンチボトムバリア領域75は、ゲートトレンチ部40の底部を覆っている。
【0099】
なお、ダイオード部80において、ライフタイムキラーを含むライフタイム制御領域が、ドリフト領域18に局所的に設けられていてもよい。ライフタイム制御領域は、ダイオード部80のターンオフ時にベース領域14で発生する正孔とカソード領域82から注入される電子との再結合を促進し、逆回復時のピーク電流を抑制する。ライフタイム制御領域は、おもて面21または裏面23からプロトンまたはヘリウムを照射することにより形成されてよい。
【0100】
図2Cは、図2Aにおけるb-b'断面を示す図である。b-b'断面は、トランジスタ部70のトレンチボトムバリア領域75が設けられた領域において、メサ部60を通るXZ面である。b-b'断面は、活性領域160およびエッジ終端構造部190にまたがる領域の断面である。本例のエッジ終端構造部190は、ガードリング構造およびチャネルストッパ構造を有する。
【0101】
ガードリング構造は、複数のガードリング92を含んでよい。本例のガードリング構造は5つのガードリング92を含む。各ガードリング92は、おもて面21において活性領域160を囲むように設けられてよい。
【0102】
ガードリング構造は、活性領域160において発生した空乏層を半導体基板10の外側へ広げる機能を有してよい。これにより、半導体基板10内部における電界集中を防ぐことができる。それゆえ、ガードリング構造を設けない場合と比較して、半導体装置100の耐圧を向上させることができる。
【0103】
ガードリング92は、おもて面21近傍にイオン注入により形成されたP+型の半導体領域である。ガードリング92は、フィールドプレート94と電気的に接続される。フィールドプレート94は、ゲート金属層50またはエミッタ電極52と同じ材料であってよい。
【0104】
複数のガードリング92は、層間絶縁膜38によって互いに電気的に絶縁される。ガードリング92の底部の深さは、ウェル領域11の底部と同じ深さであってよい。ガードリング92の底部の深さは、ゲートトレンチ部40の底部の深さより深くてよい。
【0105】
チャネルストッパ構造は、チャネルストッパ96およびフィールドプレート94を有する。チャネルストッパ96は、層間絶縁膜38の開口を通じてフィールドプレート94と電気的に接続する。チャネルストッパ96の導電型は、第1導電型であっても、第2導電型であってもよい。本例のチャネルストッパ96の導電型は、N+型である。チャネルストッパ96は、活性領域160において発生した空乏層を半導体基板10の外側端部において終端させる機能を有する。
【0106】
トレンチボトムバリア領域75は、Y軸方向端部において、ウェル領域11と接続されている。ウェル領域11の底部の深さは、トレンチボトムバリア領域75の下端より深くてよい。
【0107】
トレンチボトムバリア領域75は、Y軸方向端部において、ベース領域14に接している。ベース領域14は、Y軸方向端部において、ウェル領域11と接続されている。
【0108】
また、ゲートランナー48の下面とウェル領域11との間には、層間絶縁膜、ゲート絶縁膜等の絶縁膜が設けられており、ゲートランナー48とウェル領域11とは電気的に接続しない。
【0109】
図2Dは、図2Aにおけるc-c'断面を示す図である。c-c'断面は、トランジスタ部70のトレンチボトムバリア領域75が設けられた領域において、ゲートトレンチ部40の長手方向(延伸方向)を通るXZ面である。図2Dにおいて、ゲートトレンチ部40以外の要素は図2Cと共通である。
【0110】
ゲートトレンチ部40のY軸方向負側端部は、ウェル領域11に覆われている。また、ウェル領域11よりY軸方向正側において、ゲートトレンチ部40の底部は、全体的にトレンチボトムバリア領域75に覆われている。
【0111】
図3Aは、図1における領域Bの一例を示す拡大図である。領域Bは、図2Cに示す領域と同様に、活性領域160およびエッジ終端構造部190にまたがる領域である。図3Aでは、活性領域160のX軸方向端部領域を中心に説明する。
【0112】
ウェル領域11は、活性領域160の外周を延伸し、上面視で環状に設けられる。本例の半導体装置100では、トランジスタ部70とダイオード部80とがX軸方向に交互に配列されているが、X軸方向の最も外側(正側または負側の端部領域)にはトランジスタ部70が配置されている。図3Aは、X軸方向正側において最も外側のトランジスタ部70-1を示す。トランジスタ部70-1は、上面視において、X軸方向正側の端部およびY軸方向両側の端部でウェル領域11に接している。
【0113】
トランジスタ部70-1において、ウェル領域11側の領域にはエミッタ領域12が設けられていない。トランジスタ部70-1においてエミッタ領域12が設けられていない領域は、例えば、X軸方向端部から5本目のゲートトレンチ部40まで、おもて面21に露出したベース領域14の間にコンタクト領域15が設けられている。
【0114】
図3Bは、図3Aにおけるd-d'断面を示す図である。d-d'断面は、エミッタ領域12、コンタクト領域15およびウェル領域11を通るとともに、ゲートトレンチ部40を配列方向に横断するXZ面である。図3Bでは、X軸方向正側において最も外側のトランジスタ部70-1を中心に説明する。
【0115】
トランジスタ部70-1において、ウェル領域11と隣接しない領域では、ベース領域14の上方には、おもて面21に接してエミッタ領域12が設けられる。ただし、X軸方向端部から5本目のゲートトレンチ部40までは、エミッタ領域12の代わりにコンタクト領域15が設けられている。
【0116】
このように、トランジスタ部70-1のウェル領域11側では、エミッタ領域12と接しないゲートトレンチ部40は無効化する(トランジスタとして機能しない)ので、トランジスタ部70の実働領域(トランジスタとして機能する領域)とウェル領域11との間に間隔が生じる。また、配列の周期性を乱すことにより、活性領域160の端部における電界集中を緩和し、安全性を高めることができる。さらに、エミッタ領域12を設けない領域にコンタクト領域15を設けることにより、過剰な正孔を掃き出すことができる。
【0117】
なお、トランジスタ部70-1のウェル領域11側には、ドリフト領域18の上方にトレンチボトムバリア領域75が設けられていてもよい。トランジスタ部70-1のウェル領域11側にトレンチボトムバリア領域75を設ける場合、トランジスタ部70-1のダイオード部80側および他のトランジスタ部70にトレンチボトムバリア領域75を設けるプロセスと同じプロセスで形成されてよい。
【0118】
図4は、逆回復時におけるコレクタ電流Icの時間変化を示すグラフである。図4のグラフにおいて、実線は、トレンチボトムバリア領域を有さない半導体装置におけるコレクタ電流Ic、破線は、トレンチボトムバリア領域75を有する本例の半導体装置100におけるコレクタ電流Icの挙動を示す。
【0119】
時間t1にトランジスタ部をターンオフし、ダイオード部が導通すると、カソード領域からアノード層として動作するベース領域に電子電流が流れ、逆回復電流が発生する。電子電流がベース領域に到達すると電導度変調が起き、アノード層から正孔電流が流れる。さらに、トランジスタ部のベース領域14へも、カソード領域82から電子電流が拡散する。
【0120】
トランジスタ部に向かって拡散した電子電流により、ベース領域よりドーピング濃度の高いコンタクト領域からの正孔注入が促進され、半導体基板の正孔密度が増大するので、ダイオード部のターンオフに伴って正孔が消滅するまでに時間がかかる。このため、逆回復ピーク電流Irpが増大するとともに、逆回復損失が大きくなる。
【0121】
ここで、トレンチボトムバリア領域を有さない半導体装置におけるコレクタ電流Icは、時間t2において逆回復ピーク電流Irpとなった後で漸減し、時間t3付近でほぼゼロとなる。逆回復ピーク電流Irpが大きいと電流がゼロになるまで時間がかかるため、発熱が増大し、逆回復損失が増大する。
【0122】
一方、本例の半導体装置100は、トランジスタ部70のダイオード部80に隣接する領域において、トレンチボトムバリア領域75を有する。トレンチボトムバリア領域75はエミッタ電極52と電気的に接続されているため、正孔注入を抑制し、電流を遮断する。
【0123】
このようなトレンチボトムバリア領域75がゲートトレンチ部40の底部を覆うことにより、トランジスタ部70からダイオード部80への正孔注入が抑制される。このように、本例の半導体装置100では、トレンチボトムバリア領域を有さない半導体装置と比較して逆回復ピーク電流Irpが小さく、電流がゼロになるまでの時間も短くなるため、逆回復損失が低減される。
【0124】
ところで、正孔注入を抑制する技術として、ダイオード部からトランジスタ部の一部にわたって、ライフタイムキラーを含むライフタイム制御領域を設けることが知られている。ライフタイム制御領域は、ターンオフ時の正孔消滅を促進し、逆回復損失を低減させる。
【0125】
一般に、トランジスタ部に設けられるライフタイム制御領域は、ターンオフ時に注入される正孔を消滅させるために、ダイオード部側の境界から約100~150μmの幅を有する必要がある。ただし、トランジスタ部において、ライフタイム制御領域が設けられた領域は、トランジスタとして動作しない無効領域となってしまう。
【0126】
これに対し、本例のトレンチボトムバリア領域75は、電流を遮断して正孔注入を抑制するので、ライフタイム制御領域の幅より小さい幅でよい。このように、トレンチボトムバリア領域75は、トランジスタ部70にライフタイム制御領域を設ける場合と比べて無効領域を減少させることにより、素子特性を向上させ、発熱を抑制することができる。
【0127】
図5Aは、図1における領域Aの他の一例を示す拡大図である。図5Bは、図5Aにおけるa-a'断面を示す図である。なお、図5Aにおけるb-b'断面およびc-c'断面は、それぞれ図2Cおよび図2Dで示したものと同様であってよいので、ここでは説明を省略する。
【0128】
本例では、トランジスタ部70のトレンチボトムバリア領域75が設けられた領域において、一部のメサ部60の上方にのみコンタクトホール54が設けられ、他のメサ部60の上方にはコンタクトホール54が設けられていない。この点で図5Aおよび図5Bは、それぞれのメサ部の上方にコンタクトホール54が設けられている図2Aおよび図2Bと異なる。図5Aおよび図5Bに示すように、トレンチボトムバリア領域75の上方には、コンタクトホール54が1本だけ設けられていてよい。
【0129】
つまり、本例では、トレンチボトムバリア領域75の上方に位置する複数のメサ部60のうち、一部のメサ部60のみがコンタクトホール54を介してエミッタ電極52と電気的に接続され、他のメサ部60は層間絶縁膜38で覆われている。
【0130】
このように、トレンチボトムバリア領域75の上方に位置する複数のメサ部60の一部のみをエミッタ電極52と電気的に接続し、正孔の引き抜き効果を持たせることによって、ターンオフ時の正孔消滅を促進し、逆回復損失を低減させる。
【0131】
図6Aは、図1における領域Aの他の一例を示す拡大図である。本例の半導体装置100は、トランジスタ部70において、フローティングバリア領域77を有する。ここでは、図2Aと共通する要素については説明を省略する。
【0132】
フローティングバリア領域77は、ドリフト領域18とベース領域14との間に設けられた、電気的に浮遊する第2導電型の領域である。図6Aにおいては、フローティングバリア領域77の範囲を点線で示している。
【0133】
電気的に浮遊するとは、エミッタ電極52のような既定の電位に電気的に接続されていないことを意味する。フローティングバリア領域77は、半導体基板10の上面視で、トレンチボトムバリア領域75およびウェル領域11から離間している。トレンチボトムバリア領域75およびウェル領域11は、エミッタ電極52と電気的に接続している。
【0134】
本例のフローティングバリア領域77は、P型である。フローティングバリア領域77のドーピング濃度は、ベース領域14のドーピング濃度よりも高い。フローティングバリア領域77のドーピング濃度は、トレンチボトムバリア領域75のドーピング濃度と同じであってよい。フローティングバリア領域77は、トレンチボトムバリア領域75を設けるプロセスと同じプロセスで形成されてよい。
【0135】
トランジスタ部70のターンオン時、ダイオード部80における電圧の時間変化dV/dtは、トランジスタ部70のゲート抵抗Rgに依存する。本例では、トランジスタ部にフローティングバリア領域77を設けることにより、dV/dtのゲート抵抗Rgに対する依存性を低下させる、つまり、小さいゲート抵抗Rgでの駆動が可能となる。ゲート抵抗Rgが小さくなると、ターンオン時の消費電力が低減される。
【0136】
図6Bは、図6Aにおけるe-e'断面を示す図である。トランジスタ部70において、ダイオード部80に隣接する領域にはトレンチボトムバリア領域75が設けられ、トレンチボトムバリア領域75から離間して、フローティングバリア領域77がさらに設けられている。
【0137】
X軸方向において、トレンチボトムバリア領域75とフローティングバリア領域77との間の距離D1は、ゲートトレンチ部40のピッチ以上、10μm以下であってよい。ここで、ゲートトレンチ部40のピッチは、ゲートトレンチ部40間の距離を示す。ゲートトレンチ部40のピッチは、例えば、2.3μmである。
【0138】
半導体基板10の深さ方向において、フローティングバリア領域77は、蓄積領域16より下方に設けられている。フローティングバリア領域77の下端は、ゲートトレンチ部40の底部より下方に位置する。つまり、フローティングバリア領域77は、トレンチボトムバリア領域75と同様に、ゲートトレンチ部40の底部を覆っている。フローティングバリア領域77の深さ方向位置は、トレンチボトムバリア領域75の深さ方向位置と同じであってよい。
【0139】
図6Cは、図6Aにおけるf-f'断面を示す図である。フローティングバリア領域77は、ウェル領域11から離間している。ウェル領域11の底部の深さは、フローティングバリア領域77の下端より深くてよい。Y軸方向において、ウェル領域11とフローティングバリア領域77との間の距離D2は、ゲートトレンチ部40のピッチ以上、10μm以下であってよい。
【0140】
このように、本例のフローティングバリア領域77は、十分な面積を確保しつつ、エミッタ電位のトレンチボトムバリア領域75およびウェル領域11から影響を受けないように離間する。これにより、フローティングバリア領域77は、ダイオード部80におけるdV/dtのゲート抵抗Rgに対する依存性を低下させ、小さいゲート抵抗Rgでの駆動を可能とすることにより、ターンオン特性を改善することができる。
【0141】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0142】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0143】
10・・・半導体基板、11・・・ウェル領域、12・・・エミッタ領域、14・・・ベース領域、15・・・コンタクト領域、16・・・蓄積領域、17・・・プラグ領域、18・・・ドリフト領域、20・・・バッファ領域、21・・・おもて面、22・・・コレクタ領域、23・・・裏面、24・・・コレクタ電極、25・・・接続部、29・・・直線部分、30・・・ダミートレンチ部、31・・・先端部、32・・・ダミー絶縁膜、34・・・ダミー導電部、38・・・層間絶縁膜、39・・・直線部分、40・・・ゲートトレンチ部、41・・・先端部、42・・・ゲート絶縁膜、44・・・ゲート導電部、48・・・ゲートランナー、49・・・コンタクトホール、50・・・ゲート金属層、52・・・エミッタ電極、54・・・コンタクトホール、56・・・コンタクトホール、60・・・メサ部、61・・・メサ部、70・・・トランジスタ部、75・・・トレンチボトムバリア領域、77・・・フローティングバリア領域、80・・・ダイオード部、82・・・カソード領域、92・・・ガードリング、94・・・フィールドプレート、96・・・チャネルストッパ、100・・・半導体装置、102・・・端辺、160・・・活性領域、190・・・エッジ終端構造部
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C