(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060132
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】片面銅張積層板、プリント配線板、タッチパネル用電極フィルム、および電磁波シールドフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/18 20060101AFI20240424BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240424BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H05K3/18 E
H05K1/03 610N
H05K9/00 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167277
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 卓
【テーマコード(参考)】
5E321
5E343
【Fターム(参考)】
5E321BB23
5E321BB60
5E321GG05
5E343AA02
5E343AA03
5E343AA14
5E343AA15
5E343AA16
5E343AA17
5E343AA18
5E343AA40
5E343BB23
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB44
5E343BB71
5E343DD33
5E343FF16
5E343GG11
5E343GG20
(57)【要約】
【課題】生産性の良好な薄い金属層を設けた片面銅張積層板の製造方法を提供することである。さらにその片面銅張積層板を用いることを特徴とするプリント配線板、タッチパネル用電極フィルム、および電磁波シールドフィルムの製造方法を提供することも目的とする。
【解決手段】絶縁性樹脂基材を、両面粘着テープの両面に貼り合わせ積層体1を得る工程1、工程1の後、積層体1の両外面にある絶縁性樹脂基材の表面に無電解めっきによる金属層を形成する工程2、工程2の後に両面粘着テープを剥離し、2枚の、片面に金属層が設けられた片面銅張積層板を得る工程3を有することを特徴とする製造方法により、上記課題を解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性樹脂基材を、両面粘着テープの両面に貼り合わせ積層体1を得る工程1、工程1の後、積層体1の両外面にある絶縁性樹脂基材の表面に無電解めっきによる金属層を形成する工程2、工程2の後に両面粘着テープを剥離し、2枚の、片面に金属層が設けられた片面銅張積層板を得る工程3を有することを特徴とする片面銅張積層板の製造方法。
【請求項2】
両面粘着テープが、加熱により発泡する両面粘着テープであり、該両面粘着テープを発泡させることにより剥離することを特徴とする請求項1に記載の片面銅張積層板の製造方法。
【請求項3】
絶縁性樹脂基材が、ポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1に記載の片面銅張積層板の製造方法。
【請求項4】
絶縁性樹脂基材が、ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物を含む層Aを含み、該絶縁性樹脂基材を用い工程1により得た積層体1の両外面に層Aを配置することを特徴とする請求項1に記載の片面銅張積層板の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の片面銅張積層板を用いることを特徴とするプリント配線板、タッチパネル用電極フィルム、および電磁波シールドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片面銅張積層板、プリント配線板、タッチパネル用電極フィルム、および電磁波シールドフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁基板上に金属導体からなる回路を備えるプリント配線板は、プリント配線板上に各種電子部品が実装され、電子機器の機能を発現させる部品として広く使用されている。プリント配線板する為に、樹脂フィルム、ガラスクロス-樹脂複合材料等の絶縁材料の全面に金属層を設けた銅張積層板が一般に使用されている。銅張積層板には両面に金属層を設けた両面銅張積層板と、片面にのみ金属層を設けた片面銅張積層板があり、製造したいプリント配線板の層構造に応じ、どちらかが選択される、あるいは、両者組みあわせる等、適宜選択され、プリント配線板が製造される。
【0003】
他方、プリント配線板の回路ピッチはさらに狭ピッチ化することが市場から求められている。銅張積層板の導体層が薄いほど狭ピッチ回路形成には有利であることが知られており、絶縁材料の全面に薄い金属層を設けた銅張積層板が求められている。
本願は片面にのみ、薄い金属層を設けた、片面銅張積層板を生産性よく製造する方法に関する発明に関する。
【0004】
薄い金属層を設けた銅張積層板の製造方法として、特許文献1では、キャリア付き銅箔を絶縁基材と積層し、銅張積層板を得る方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の乾式めっきを用い、ベースフィルムの片面に金属層を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-50324
【特許文献2】特開2021-54031
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、上述のような従来技術は一長一短であり、以下に示すような改善の余地または問題点があることを見出した。
例えば、特許文献1では、キャリアとなる銅箔の上に形成された極薄銅箔層を絶縁基材と積層し、銅張積層板を得る方法が開示されており、極薄銅箔層の厚みは最も薄くて0.5ミクロンと記載されているが、現実的には品質、取扱い性の観点から、3ミクロン厚み程度の極薄銅箔が工業的に使用されており、例えば0.5ミクロン程度の極薄銅箔を工業的に使用するのには課題がある。キャリア付銅箔は高価な材料であり、安価に製造することが望まれている。また、絶縁基材と銅箔との密着性を確保するために意図的に銅箔表面に凹凸が形成されている。そのため、エッチングによって除去できない銅箔残渣が回路間に残留し絶縁性に悪影響がある。
【0008】
また、特許文献2に記載されている乾式めっきには、真空中で金属成分を気化もしくは昇華して基材表面に付着させる真空蒸着法、スパッタリングによりターゲット金属を基材の表面に付着させるスパッタリング法などがあり、その原理上、基材の片面ずつに金属薄膜を成膜する方法であり、片面銅張積層板を作る方法としては適している。また金属薄膜も100nmとすることも開示されており、薄い金属層を有する片面銅張積層板を得ることができる。しかしながら、下地層にニッケル、クロム、バナジウム、チタン、モリブデン等の金属を用いており、回路形成の際に銅用のエッチング液でエッチングしただけでは、ニッケル、クロム、チタン等の金属を完全には除去できず、完全に除去する為に別のエッチング液を用いる必要があり、工程上煩雑であるという問題があった。一方、真空系の装置は高価であり、得られる片面層張積層板が高価になる傾向があり、生産性よく、低コストで薄い金属層を有する片面銅張積層板を製造することが求められている。
【0009】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は生産性の良好な薄い金属層を設けた片面銅張積層板の製造方法を提供することである。さらにその片面銅張積層板を用いることを特徴とするプリント配線板、タッチパネル用電極フィルム、および電磁波シールドフィルムの製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、下記構成により上記課題を克服できることを見出した。
【0011】
1).絶縁性樹脂基材を、両面粘着テープの両面に貼り合わせ積層体1を得る工程1、工程1の後、積層体1の両外面にある絶縁性樹脂基材の表面に無電解めっきによる金属層を形成する工程2、工程2の後に両面粘着テープを剥離し、2枚の、片面に金属層が設けられた片面銅張積層板を得る工程3を有することを特徴とする片面銅張積層板の製造方法。
【0012】
2).両面粘着テープが、加熱により発泡する両面粘着テープであり、該両面粘着テープを発泡させることにより剥離することを特徴とする1)に記載の片面銅張積層板の製造方法。
【0013】
3).絶縁性樹脂基材が、ポリイミドフィルムであることを特徴とする1)または2)に記載の片面銅張積層板の製造方法。
【0014】
4).絶縁性樹脂基材が、ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物を含む層Aを含み、該絶縁性樹脂基材を用い工程1により得た積層体1の両外面に層Aを配置することを特徴とする1)~3)のいずれかに記載の片面銅張積層板の製造方法。
1)~4)のいずれかに記載の片面銅張積層板を用いることを特徴とするプリント配線板、タッチパネル用電極フィルム、および電磁波シールドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、積層体1の両面を同時に金属化した後、両面粘着テープを剥離する為、積層体1の面積の2倍の面積の片面銅張積層板を得ることができ、工業的に有利に生産性よく片面銅張積層板の製造が可能となる。また、無電解めっきにより形成した金属層は厚みが薄く狭ピッチ回路形成に適している。従い、生産性の良好な薄い金属層を設けた片面銅張積層板の製造方法を提供することができる。さらにその片面銅張積層板を用いることを特徴とするプリント配線板、タッチパネル用電極フィルム、および電磁波シールドフィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の片面銅張積層板の製造方法は、絶縁性樹脂基材を、両面粘着テープの両面に貼り合わせ積層体1を得る工程1、工程1の後、積層体1の両外面にある絶縁性樹脂基材の表面に無電解めっきによる金属層を形成する工程2、工程2の後に両面粘着テープを剥離し、2枚の、片面に金属層が設けられた片面銅張積層板を得る工程3を有することを特徴とする。
【0017】
〔絶縁性樹脂基材〕
本発明の絶縁性樹脂基材は、各種化学構造の樹脂フィルム、具体的には、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロプレンフィルム、ポリフェニレンサルファーフィルム等の樹脂フィルムを用いることが可能であり、また複合材料、具体的には、ガラス-エポキシ複合基材、ガラス-ポリイミド複合基材、紙-フェノール複合基材等も用いることが可能である。本発明の製造方法で得られる片面銅張積層板をプリント配線板用途で用いる場合、同用途で必要とされる耐熱性等を考慮するとポリイミドフィルム、ガラス-エポキシ複合基材、ガラス-ポリイミド複合基材、紙-フェノール複合基材等を好ましく使用可能である。これらの厚み、大きさ等に特に制限はない。シート状でも、ロール形状に巻かれたものでも構わない。また、絶縁性基材は複数の層を有する複層構成であっても構わない。
【0018】
〔両面粘着テープ〕
本発明では、絶縁性樹脂基材を、両面粘着テープの両面に貼り合わせ、積層体1を得(工程1)、次いで、積層体1の両外面にある絶縁性樹脂基材の表面に無電解めっきによる金属層を形成(工程2)、次いで、両面粘着テープを剥離し、2枚の、片面に金属層が設けられた片面銅張積層板を得る(工程3)ことができる。これらを実現する為には両面粘着テープが重要である。次に、各工程の説明をし、両面粘着テープに求められる要件、その他要件を記載する。
【0019】
〔工程1〕
工程1においては、絶縁性樹脂基材を、両面粘着テープの両面に貼り合わせ、積層体1を得る。貼り合わせる方法は絶縁性樹脂基材の形状、性状および両面粘着テープの形状、性状に応じて適宜選択可能である。例えば、絶縁性樹脂基材がシート状であれば、両面粘着テープもシート状に成型し貼り合わせに供することも可能であり、また絶縁性樹脂基材がロール状に巻き取られた絶縁性樹脂基材であれば、ロール状の両面粘着テープを使用することも可能である。貼り合わせには各種方法・装置を使用可能であり、ロールラミネート、真空ロールラミネート、真空ラミネート、プレス、真空プレス等々が使用可能である。また、貼り合わせの際に適切に温度制御することも可能である。
【0020】
〔工程2〕
工程2においては、積層体1の両外面にある絶縁性樹脂基材の表面に無電解めっきによる金属層を形成する。次に無電解めっきについて説明する。
【0021】
<無電解めっき>
無電解めっきにより得られる無電解めっき層(膜)は一般の銅箔と比較して厚みを薄くすることができる。前記無電解めっき層の厚さは、好ましくは0.01ミクロン~10.00ミクロン、より好ましくは0.10ミクロン~2.00ミクロン、更に好ましくは、0.20ミクロン~1.00ミクロンである。
【0022】
本発明の一実施形態の無電解金属めっきは化学反応を利用した還元型の無電解めっきを好ましく適用可能である。無電解金属めっきの金属種は銅、ニッケル、金、銀等を挙げる事ができ、いずれも本発明の一実施形態に適用可能である。これらの内、無電解銅めっきおよび無電解ニッケルめっきが好ましく、中でも無電解銅めっきはプリント配線板のスルーホールおよびヴィアの壁面の絶縁樹脂表面を導電化するプロセスとして広く一般に使用されている実績があり、最も好ましく使用可能である。換言すれば、本発明の一実施形態の無電解金属めっきが無電解銅めっきであることが好ましい。プリント配線板用に広く使用される無電解銅めっきプロセスはめっき薬液メーカー各社の薬液プロセスを利用することができる。また、無電解銅めっきの前にデスミア処理を行うことも一般に行われる。デスミア処理は本来、スルーホール形成工程、およびレーザーヴィア形成工程で生じた銅の表面に生じたスミアを除去する目的で行われる。デスミア処理は、本発明の一実施形態の樹脂フィルムの表面にも化学的な変化を与え、好ましく使用可能である。デスミアプロセスおよび無電解銅めっきプロセスは、それぞれ、複数の薬液で被めっき物を順に処理して行われる。例えばデスミアプロセスは、膨潤を担う薬液、エッチングを担う薬液、および還元を担う薬液で構成される。また無電解銅めっきプロセスは、クリーニングおよびコンディショナーを担う薬液、ソフトエッチングを担う薬液、プレディップを担う薬液、触媒付与を担う薬液、活性化を担う薬液、および無電解銅めっきを担う薬液など、一連の各役割を担う各々の薬液で構成されている。これらの一連のプロセスとしてめっき薬液メーカー各社の薬液プロセスを利用することができる。例えば、アトテック社製の薬液、奥野製薬工業株式会社製アドカッパーIW、上村工業株式会社製スルカップPEA、ロームアンドハース電子材料株式会社製の薬液、メルテックス株式会社製の薬液等、各薬液およびプロセスを適用可能であり、適宜組み合わせることも可能である。これらの無電解銅めっきには微量のニッケル成分が添加されていることがあるが、本発明の一実施形態の効果を損なわない範囲でこれらの無電解金属めっき(無電解銅めっき)を使用可能である。尚、層Aに対して無電解めっきをする場合、層Aに対して直接無電解めっきを施してもよいし、前処理として層Aに対してアルカリ処理、デスミア処理等の前処理を施した後、前処理後の層Aに対して無電解めっきを施してもよい。アルカリ処理のアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液および水酸化カリウム水溶液など、を一例として挙げることができる。
【0023】
無電解めっき工程は、上記の通り、例えば、デスミアプロセスは、膨潤を担う薬液、エッチングを担う薬液、および還元を担う薬液で構成される。また無電解銅めっきプロセスは、クリーニングおよびコンディショナーを担う薬液、ソフトエッチングを担う薬液、プレディップを担う薬液、触媒付与を担う薬液、活性化を担う薬液、および無電解銅めっきを担う薬液など、一連の各役割を担う各々の薬液で構成されている。これらの各種薬液に、積層体1の全体を浸漬する為、積層体1の全ての表面に金属層が析出することができ、即ち、シート状の積層体1の場合、積層体1の面積の2倍の面積の片面銅張積層板を一度の作業単位で製造することができ、生産性よく片面銅張積層板を製造することができる。
【0024】
また、無電解めっき工程では、積層体1は各種薬液に浸漬・接触する為、両面粘着テープはそれら薬液に侵されることなく、かつ、一連の工程中でストレス等による剥離等の不具合を起こすことがなく、粘着性を保ち、かつ、薬液プロセスを汚染することなく、かつ、工程3において剥離できることが求められる。工程2の最初から最後までの間、両面粘着テープと絶縁性樹脂基材の界面は工程中でのストレスを受けても剥離しない程度以上に密着している必要があり、具体的な密着強度は、好ましくは0.1N/cm以上、更に好ましくは0.3N/cm以上である。
【0025】
〔工程3〕
工程3においては、工程2の後に両面粘着テープを剥離し、2枚の、片面に金属層が設けられた片面銅張積層板を得る。剥離の為にはいくつかの方法が適用可能である。即ち、物理的に剥離する方法、何らかの刺激を与えることによる粘着テープの粘着層の粘着力を低下させる方法、具体的には、加熱等による粘着層の発泡を利用した粘着力低下、加熱・放射線照射等による粘着材の変質による粘着力低下等が挙げられる。
工程3において剥離する段階では、両面粘着テープと絶縁性樹脂基材の界面はできるだけ密着強度が低いことが好ましい。密着強度が高すぎると、得られた片面銅張積層板が折れ曲る、皺が入る等の不具合が生じる。具体的な密着強度は、好ましくは0.1N/cm以下、更に好ましくは0.01N/cm以下である。尚、2枚の、との記述は、積層体1の面積の概ね2倍の、と同義である。
【0026】
〔両面粘着テープの具体例〕
これら要求を満たす両面粘着テープは工業的に入手可能なものを利用でき、微粘着タイプのソマール社製ソマタックWA、UV光照射により粘着層の硬化に基づく低粘着化を利用したソマール社製ソマタックUV、加熱により粘着層が発泡し、形状が変化し、密着面積が広くなり、低粘着化することを利用したソマール社製ソマタックTE等を好ましく利用可能である。中でも加熱より発泡し、粘着テープの粘着層の粘着力を低下する両面粘着テープが特に好ましく、具体例としては、ソマール社ソマタックPS-9053TEを好ましく利用可能である。
【0027】
〔層A〕
本発明においては絶縁性樹脂基材の表面に無電解めっきによる金属層を形成するが、絶縁性樹脂基材と無電解めっきによる金属層との密着性をあげる目的で絶縁性樹脂基材の表面に、ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物からなる層Aを設けることも好ましく実施可能である。層Aに含まれるポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物が無電解めっきプロセス中の前処理中のアルカリ性環境で、イオン性官能基を生成し、無電解めっき液中の金属イオンと結合した「フュームド金属酸化物」-「金属イオン」-「ポリイミド樹脂」の3成分に由来する化合物を生成し、該化合物が無電解めっき層を強固に密着すると考えている。従い、層Aを絶縁性樹脂基材の表面に設けることにより、層Aを介して絶縁性基材と無電解めっきによる金属層との密着性をあげることが可能となり、高い信頼性が必要とされる用途、例えばプリント配線板用途、電磁波シールド、タッチパネル用電極フィルムにおいて有効である。
【0028】
層Aは前記の各種絶縁性基材の表面に形成することができるが、絶縁性基材としては、前記のポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロプレンフィルム、ポリフェニレンサルファーフィルム等の樹脂フィルムを用いることが可能であり、また複合材料、具体的には、ガラス-エポキシ複合基材、ガラス-ポリイミド複合基材、紙-フェノール複合基材等も用いることが可能である。中でもポリイミドフィルムは好ましく使用可能である。
【0029】
層Aは絶縁性樹脂基材の片面だけに形成されていても、両面に形成されていてもどちらでも構わない。絶縁性樹脂基材の片面にだけ層Aを形成し、反対の面に層Aとは異なる層を形成することも可能である。例えば、絶縁性樹脂基材の片面にだけ層Aを形成したことで、全体がカールしてしまう等の不具合がある場合等に効果がある。
【0030】
<層Aのポリイミド樹脂>
層Aのポリイミド樹脂につき説明する。絶縁性樹脂基材が、ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物を含む層Aを含み、該絶縁性樹脂基材を用い工程1により得た積層体1の両外面に層Aを配置することを特徴とする。層Aは無電解めっき層と強固に密着することが特徴であり、層Aのポリイミド樹脂は、アルカリ性環境でイオン性官能基が耐熱性樹脂の高分子鎖に生成し、好ましく使用可能である。
【0031】
本発明の一実施形態の片面銅張積層板をプリント配線板用に使うことを想定した場合、層Aの耐熱性樹脂がその加工プロセス中の高温プロセスの温度、および部品実装される際の高温にも耐えることが好ましい。それ故、層Aのポリイミド樹脂はガラス転移温度が高いことが好ましく、また高温での弾性率が高い方が好ましく、これらが高いことにより、高温時における層Aと無電解めっき層との密着性を高く保つことができ好ましく、これにより高温プロセスの温度、および部品実装工程に耐えることが可能になり、好ましい。またこれらが高すぎることに特段の不都合はない。以上の視点より、耐熱性の指標となる耐熱性樹脂のガラス転移温度はできるだけ高いことが好ましく、例えば好ましくは180℃以上であり、更に好ましくは210℃以上、特に好ましくは230℃以上である。また、良好な半田耐熱性発現のためには層Aに用いる耐熱性樹脂は半田の融点近傍においても一定以上の弾性率を有していることが好ましい。具体的に、層A中に含まれる耐熱性樹脂は300℃における貯蔵弾性率が0.02×109Pa以上であることが好ましく、0.05×109Pa以上であることがより好ましく、0.08×109Pa以上であることがさらに好ましく、0.1×109Pa以上であることが特に好ましい。
【0032】
一方で、本発明者らは、鋭意検討過程で、層Aに用いるポリイミド樹脂の線膨張係数が密着性に影響し、具体的には30ppm/℃以上である場合に良好な密着性を示すことを独自に見出し、本発明の一実施形態に至っている。本明細書において、ポリイミド樹脂の線膨張係数は、層Aに用いるポリイミド樹脂をフィルム状にしたときの面方向の線膨張係数であり、ポリイミド分子鎖の層A内での面内配向の程度を反映したものである。ポリイミド樹脂の線膨張係数が小さいほどポリイミド分子鎖が面方向に配向していることを示し、逆に大きいほど厚み方向にもポリイミド分子鎖が配向していることを示している。
【0033】
ポリイミド樹脂の線膨張係数は使用するモノマー種により制御することができることができる。ポリイミド樹脂の線膨張係数を小さくするためには、剛直な化学構造を有するモノマーを使用し、その組成比を高くすることが有効である。剛直な化学構造を有するモノマーを使用し、その組成比を高くすることにより、フィルム状に加工(成型)した際に面方向にポリイミド分子鎖が配向し、更にその分子鎖が厚み方向に堆積した状態が形成され得る。
【0034】
上述したように、層Aのポリイミド樹脂の線膨張係数が小さすぎる場合、樹脂フィルムと無電解めっき層との密着性が低下するという知見を、本発明者らは独自に見出した。この理由を以下のように推測している。剛直な化学構造を有するモノマーを使用し、当該モノマーの組成比を高くしたモノマー混合物から得られるポリイミドをアルカリ性薬液に晒した場合、表面近傍のポリイミド分子はイミド環の開裂反応によりポリアミド酸に変性し、面方向に配向したポリアミド酸分子が厚み方向に堆積した状態が形成される。ポリアミド酸分子鎖同士の凝集力はポリイミド分子鎖同士の凝集力と比較し弱い。その為、前記ポリイミドをアルカリ性薬液に晒して得られるフィルムの表面に無電解銅めっき層(膜)を形成し、密着性を評価した場合、凝集力が弱いポリアミド酸分子鎖間で層状に破壊した界面で剥離し、結果としてフィルムとめっき層(膜)との密着強度は低くなる傾向がある、と推測される。なお、本発明は、かかる推測になんら限定されるものではない。
【0035】
逆に、ポリイミド樹脂の線膨張係数を大きくするためには、柔軟な化学構造を有するモノマーを使用し、その組成比を高くすることが有効である。柔軟な化学構造を有するモノマーを使用し、その組成比を高くすることにより、フィルム状に成型した際にポリイミド分子鎖は面方向に配向するだけではなく、厚み方向にも配向する、つまりランダム配向を示す傾向がある。
【0036】
上述したように、層Aのポリイミド樹脂の線膨張係数が大きい(例えば、30ppm/℃以上)場合、樹脂フィルムと無電解めっき層との密着性が増強するという知見を、本発明者らは独自に見出した。この理由を以下のように推測している。柔軟な化学構造を有するモノマーを使用し、当該モノマーの組成比を高くしたモノマー混合物から得られるポリイミドをアルカリ性薬液に晒した場合、表面近傍のポリイミド分子はイミド環の開裂反応によりポリアミド酸に変性するが、厚み方向にも高分子鎖の共有結合が数多く存在しており、従い、分子鎖同士の凝集力が高い状態を保っている。それ故、前記ポリイミドをアルカリ性薬液に晒して得られるフィルムの表面に無電解銅めっき膜を形成し、密着性を評価した場合、上述のようにポリイミドの線膨張係数が小さく、面内分子配向が進んだポリイミドの場合のようにポリアミド酸分子鎖間で層状に剥離したりすることはなく、結果として無電解めっきとの密着強度は大きくなる傾向がある、と推測される。なお、本発明は、かかる推測になんら限定されるものではない。
【0037】
以上より、層Aに用いるポリイミド樹脂は、ポリイミド樹脂をアルカリ性薬液に晒してもポリイミド樹脂自身の凝集力を低下させないとの視点より、面内分子配向が進んだポリイミド樹脂よりも、ランダム配向した傾向のあるポリイミド樹脂、つまり等方的に分子配向している傾向があるポリイミド樹脂であることが好ましい。
【0038】
ポリイミド樹脂に関して、面内分子配向の程度と線膨張係数との間には相関がある。ポリイミド樹脂に関して、高度に面内分子配向が進んだ状態、結果として面配向した高分子鎖間の剥離強度も弱くなる状態の場合、線膨張係数は30ppm/℃よりも小さくなる。層Aに用いるポリイミド樹脂には面方向だけではなく、厚み方向にも配向している、ランダム配向傾向があることが好ましく、これにより無電解銅めっきとの密着性も向上する。ポリイミド樹脂の線膨張係数は30ppm/℃以上であることが好ましく、30ppm/℃よりも大きいことがより好ましく、35ppm/℃以上であることがより好ましく、40ppm/℃以上であると更に好ましく、45ppm/℃以上であることがより更に好ましく、50ppm/℃以上であることが特に好ましい。
【0039】
<層Aのポリイミド樹脂の耐熱性、ガラス転移温度および高温時弾性率>
層Aに用いるポリイミド樹脂の線膨張係数は30ppm/℃以上であることが好ましく、30ppm/℃よりも大きいことがより好ましい。ポリイミド樹脂の、線膨張係数が大きくなると、ポリイミド樹脂が熱可塑性を示す傾向がある。熱可塑性樹脂はある温度に達すると軟化し、そのことを利用して加工ができる、例えば銅箔と熱圧着できる等の利点がある。本発明の一実施形態の目的である無電解銅めっきとの密着性の改善の視点からは熱可塑性は必須要件ではない。
【0040】
<層Aのポリイミド樹脂の処方>
次に層Aに用いるポリイミド樹脂に用いるモノマー種、重合方法等につき説明する。ポリイミド樹脂は、ガラス転移温度、高温時の貯蔵弾性率、アルカリ性薬液環境でイオン性官能基の生成性等の物性を適切に制御することが好ましい。これら物性を適切な範囲に制御する手段としては、使用する原料モノマーの選定が挙げられる。ポリイミド樹脂の原料モノマーとしては柔軟な骨格を有するモノマーと剛直な骨格を有するモノマーと、があり、これらを適宜選択し、更に配合比を調整することにより、所望の物性を実現することが可能となる。
【0041】
柔軟な骨格を有するジアミンとしては、4,4'-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、2,2’-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルチオエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[3-(3-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、などが挙げられる。
【0042】
一方、剛直な骨格を有するジアミンとしては、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼン、1,2-ジアミノベンゼン、ベンジジン、3,3’-ジクロロベンジジン、3,3’-ジメチルベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、3,3’-ジメトキシベンジジン、2,2’-ジメトキシベンジジン、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、1,5-ジアミノナフタレン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、3,4’-ジアミノベンズアニリド、3,3’-ジアミノベンズアニリド、などが挙げられる。
【0043】
これらのうち、熱特性の制御ならびに工業的に入手しやすい点から、柔軟な骨格を有するジアミンとして、4,4’-オキシジアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、2,2’-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、ビス{4-(3-アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-ジアミノベンゾフェノンおよび4,4'-ジアミノベンゾフェノンからなる群から選択される1種以上が好ましく用いられ得る。特に、4,4'-オキシジアニリン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンおよび2,2’-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパンからなる群から選択される1種以上が好ましく用いられ得る。剛直な骨格を有するジアミンとしては、比較的少量で高分子鎖を固くする効果を発現する点、および工業的に入手しやすい点から、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)、1,3-ジアミノベンゼンおよび2,2’-ジメチルベンジジンからなる群から選択される1種以上が好ましく用いられ得る。特に、1,4-ジアミノベンゼン(p-フェニレンジアミン)および2,2’-ジメチルベンジジンの少なくとも一方が好ましく用いられ得る。これらのジアミンは一種を単独で用いてもよく、二種以上を混合して(組み合わせて)用いても良い。
【0044】
柔軟な骨格を有するテトラカルボン酸二無水物としては、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,4’-オキシジフタル酸無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)フタル酸無水物、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)などが挙げられる。
【0045】
一方、剛直な骨格を有するテトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0046】
これらのうち、熱特性の制御ならびに工業的に入手しやすい点から、柔軟な骨格を有するテトラカルボン酸二無水物として、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物および4,4’-オキシジフタル酸無水物からなる群から選択される1種以上が好ましく用いられ得る。中でも、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物がより好ましく、本発明の好ましい一実施形態で所望される各種物性、即ち無電解めっき膜との密着性、高温時の弾性率、ガラス転移温度、ポリイミド樹脂の線膨張係数等をバランスよく発現させるために有効に用いることができる。
【0047】
剛直な骨格を有するテトラカルボン酸二無水物としては、比較的少量で高分子鎖を固くする効果を発現する点、および工業的に入手しやすい点から、ピロメリット酸二無水物が好ましく用いられ得る。これらのテトラカルボン酸二無水物は二種以上を混合して用いても良い。
【0048】
本発明の一実施形態における密着性と層Aポリイミド樹脂化学構造との関係については不明な点も多く、明確な説明は難しい。本発明者らの鋭意検討の過程で得られた経験的にはポリイミド樹脂のイミド環の分極を低減する酸二無水物類とジアミン類とを組み合わせて用いることが良好な密着性を示す傾向がある。具体的には酸二無水物として4,4’-オキシジフタル酸二無水物および3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一方と、ジアミンとして2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンと、の組み合わせが有効である。好ましいジアミンおよび酸二無水物の組合せは特に限定されるわけではない。ジアミンとして2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4'-オキシジアニリン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンおよび2,2’-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、2,2’-ジメチルベンジジンからなる群から選択される1種以上と、酸二無水物として4,4’-オキシジフタル酸二無水物および3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の少なくとも一方との組み合わせを選択し、更に金属酸化物粒子を適切な種類と配合量で組み合わせることが好ましい。当該構成(組み合わせ)により、本発明の一実施形態の無電解銅めっき層との密着性を向上することができ、特に無電解銅めっき層形成後の初期状態を大きく改善することができ、好ましい。尚、高温時の弾性率、ガラス転移温度、線膨張係数等をバランスよく発現させるために、上述した好ましいジアミンおよび酸二無水物と共に、その他のジアミンおよび酸二無水物を併用することも好ましく実施可能である。
【0049】
層Aのポリイミドの前駆体であるポリアミド酸は、前記ジアミンと酸二無水物とを有機溶媒中で実質的に等モルまたは略等モルになるように混合し、これらを反応させることにより得られる。使用する有機溶媒は、ポリアミド酸を溶解できる溶媒であればいかなるものも用いることができる。前記有機溶媒としては、アミド系溶媒すなわちN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドの少なくとも一方が特に好ましく用いられ得る。ポリアミド酸の固形分濃度は特に限定されず、5重量%~35重量%の範囲内であればポリイミドとした際に十分な機械強度を有するポリアミド酸が得られる。
【0050】
原料であるジアミンおよび酸二無水物の添加順序についても特に限定されない。原料であるジアミンおよび酸二無水物の化学構造だけでなく、これらの添加順序を制御することによっても、得られるポリイミドの特性を制御することが可能である。
【0051】
また、原料として1,4-ジアミノベンゼンおよびピロメリット酸二無水物を用いる場合、両者が結合して得られるポリイミド構造はデスミア液に対する耐久性が低いため、1,4-ジアミノベンゼンおよびピロメリット酸二無水物の添加順序を調整して両者が直接結合した構造を形成しないようにすることが好ましい。
【0052】
層Aは、樹脂成分として、上述したポリイミド樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。層Aに含まれる樹脂成分中のポリイミド樹脂の含有比率は、多いことが好ましい。例えば、層Aに含まれている樹脂成分100重量%中、ポリイミド樹脂が50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることが更に好ましく、95重量%以上であることがより特に好ましい。層Aに含まれている樹脂成分100重量%中、ポリイミド樹脂が100重量%であることが最も好ましく、換言すれば、層Aは、樹脂成分としてポリイミド樹脂のみを含むことが最も好ましい。
【0053】
<層Aのフュームド金属酸化物>
本発明のフュームド金属酸化物はシリカ、アルミナ、チタニア、銅、鉄、ジルコニア、マグネシウム、バリウム等を主成分とする金属酸化物であり、一次粒子が凝集した構造体が構造単位となっているフュームド金属酸化物が使用可能である。
【0054】
層Aのフュームド金属酸化物はポリイミド樹脂とともに層Aを構成するが、
フュームド金属酸化物は構造的に複雑な形状しており、ポリイミド樹脂と強固に密着しており、また比表面積が大きい為、無電解めっきのプロセス中で生成する官能基の数が増える為、無電解めっき層との密着性が高くなる傾向があり、好ましく使用可能である。
【0055】
本発明の一実施形態で用いるフュームド金属酸化物は、気相合成により得られる金属酸化物粒子であることが好ましい。気相合成により得られる場合、その製法上の特徴から、得られるフュームド金属酸化物は、一次粒子が凝集した構造体が構造単位となっているという特徴がある。換言すれば、フュームド金属酸化物は、一次粒子が凝集した構造体が構造単位となっている(例えば、ブドウの房のような凝集構造を有する)ことが好ましい。フュームド金属酸化物は耐熱性樹脂と混合され本発明の一実施形態の層Aを構成する。本発明者らの種々検討の結果、層Aは、(i)空隙が低い状態でフュームド金属酸化物の構造単位が耐熱性樹脂中に埋没しており、(ii)当該構造単位が層Aの表面および/または表面近傍からバルク方向にかけて存在し、かつ(iii)当該構造単位が層A中に均等に存在および分散している状態、であることが好ましく、そのような状態が本発明の一実施形態の目的である密着性発現に有効であると考えている。
【0056】
耐熱性樹脂とフュームド金属酸化物との配合において、フュームド金属酸化物の配合比率を高くすると層A中の空隙率があがる傾向がある。層A中の空隙率が高すぎない場合、耐熱性樹脂とフュームド金属酸化物との結着力が低下することが無く、層A自体の強度が良好となる傾向を示し、結果として無電解銅めっきとの密着性が良好となる傾向がある。そのため、耐熱性樹脂とフュームド金属酸化物と配合において、フュームド金属酸化物の配合比率は、高すぎないことが好ましい。耐熱性樹脂とフュームド金属酸化物と配合において、逆にフュームド金属酸化物の配合比率が低くなると空隙率は低くなる傾向がある。層A中の空隙率が低すぎない場合、無電解銅めっきとの十分な密着性を発現し易くなり好ましい。これはフュームド金属酸化物の比率が低すぎないために、「フュームド金属酸化物」-「金属イオン」-「ポリイミド樹脂」の3成分に由来する化合物の生成量が充分量となることが理由と考えている。なお、本発明は、かかる推測に限定されるものではない。
【0057】
以上より、良好な密着性発現の為には耐熱性樹脂とフュームド金属酸化物との配合比率を適切な範囲に制御することが好ましい。一方、フュームド金属酸化物には一次粒子径、一次粒子が凝集した構造体の構造および表面処理種が異なる各種グレードがあり、これらも影響した適切な配合比率が存在すると考えている。
【0058】
<フュームド金属酸化物の一次粒子径および比表面積>
無電解銅めっきプロセスの薬液により、表面近傍のフュームド金属酸化物は一部が溶解するが、溶解しても層Aの表面粗度が大きくなり過ぎないことが好ましい。その為に、フュームド金属酸化物の一次粒子径は小さいことが好ましく、具体的に、好ましくは5ナノメートル以上1,000ナノメートル以下、より好ましくは5ナノメートル以上100ナノメートル以下、更に好ましくは5ナノメートル以上50ナノメートル以下、更に好ましくは10ナノメートル以上20ナノメートル以下である。また、フュームド金属酸化物の比表面積も一次粒子径を表現する物性値であり、一次粒子径が大きいほど比表面積は小さくなる。フュームド金属酸化物の比表面積は30平方メートル/グラム以上400平方メートル/グラム以下であることが好ましく、より好ましくは100平方メートル/グラム以上250平方メートル/グラム以下である。
【0059】
<フュームド金属酸化物の見掛比重>
フュームド金属酸化物は一次粒子径が凝集した構造体であり、フュームド金属酸化物の構造の状態を表す指標として見掛比重を用いることができる。フュームド金属酸化物の見掛比重が小さければ、フュームド金属酸化物の構造体は嵩張った構造を有しており、空隙が大きいことを表す。逆に、フュームド金属酸化物の見掛比重が大きければ、フュームド金属酸化物の構造体は嵩張りの程度が低い構造を有しており、空隙は小さいことを表す。
【0060】
フュームド金属酸化物の一次粒子径が凝集した構造体が有する空隙を耐熱性樹脂成分で満たすことにより、空隙率の小さい層Aを作製することができる。フュームド金属酸化物の見掛比重が小さいなるほど、フュームド金属酸化物の構造体の空隙が多く、多くの耐熱性樹脂成分を使用することで当該空隙を満たすことが可能となる。フュームド金属酸化物の見掛比重が大きくなるほど、少量の耐熱性樹脂成分でもフュームド金属酸化物の構造体の空隙を満たすことが可能となる。逆に表現すると、ある一定量の耐熱性樹脂にフュームド金属酸化物を配合して空隙率の小さい層Aを作製するにあたり、(i)見掛比重が小さいフュームド金属酸化物の場合、フュームド金属酸化物の配合量の上限は低くなり、逆に(ii)見掛比重が大きいフュームド金属酸化物の場合、多くのフュームド金属酸化物を配合することができ、すなわちフュームド金属酸化物の配合量の上限は高くなる。先にも記載したがフュームド金属酸化物の配合量が多すぎない場合、層A中に過剰な空隙が発生する虞がない。その結果、耐熱性樹脂とフュームド金属酸化物との結着力が低下することが無く、層A自体の強度が良好となる傾向を示し、結果として無電解銅めっきとの密着性も良好となる傾向、および層Aと層Bとの密着性も良好となる傾向がある。そのため、耐熱性樹脂とフュームド金属酸化物と配合において、フュームド金属酸化物の配合比率は、高すぎないことが好ましい。逆にフュームド金属酸化物の比率が低すぎない場合、無電解銅めっきとの十分な密着性を発現し易い。つまり、耐熱性樹脂とフュームド金属酸化物と配合において、フュームド金属酸化物を配合量の上限付近で配合することが、良好な密着性の発現に効果的である。
【0061】
空隙率の小さい層Aを作るための、ある一定量の耐熱性樹脂に対するフュームド金属酸化物の配合量の上限は、フュームド金属酸化物の見掛比重および表面処理種により変わる。つまり、フュームド金属酸化物の見掛比重および表面処理種に応じて、ある一定量の耐熱性樹脂に対するフュームド金属酸化物の配合量を調節することにより、密着性をさらに向上させることができる。本発明の一実施形態において、フュームド金属酸化物の見掛比重は20グラム/リットル以上250グラム/リットル以下であることが好ましく、20グラム/リットル以上220グラム/リットル以下であることがより好ましい。また、フュームド金属酸化物の見掛比重が大きいほど、フュームド金属酸化物の配合量の上限があがり、密着性もより改善される傾向がある。その為、フュームド金属酸化物の見掛比重が50グラム/リットルより大きく250グラム/リットル以下であることがより好ましく、60グラム/リットル以上250グラム/リットル以下であることがより好ましく、70グラム/リットル以上250グラム/リットル以下であることが更に好ましく、70グラム/リットル以上220グラム/リットル以下であることがより更に好ましい。尚、フュームド金属酸化物の見掛比重は、フュームド金属酸化物に対して機械的にせん断等の応力を加えることによるフュームド金属酸化物の構造改質により、変化させることも可能である。
【0062】
フュームド金属酸化物に対し、各種表面処理が可能である。フュームド金属酸化物の表面状態としてシラノール(未処理)、ジメチルシリル、オクチルシリル、トリメチルシリル、ジメチルシロキサン、ジメチルポリシロキサン、アミノアルキルシリル、メタクリルシリル等があり、いずれも工業的に入手可能である。フュームド金属酸化物の表面処理種とポリイミド樹脂成分の極性とが近い場合、フュームド金属酸化物の配合量の上限は高くなる傾向がある。また、フュームド金属酸化物が表面未処理の場合、無電解銅めっきプロセス中のアルカリ性薬液との濡れ性が良すぎる為、フュームド金属酸化物の溶解量が多くなり、層Aの表面粗度が大きくなる傾向がある。それ故、フュームド金属酸化物の表面は、適度な疎水性処理がなされているのが好ましい。尚、フュームド金属酸化物の見掛比重はISO787/XIにより測定することが可能である。
【0063】
<フュームド金属酸化物の具体例>
以下、本発明の一実施形態において好ましく使用可能なフュームド金属酸化物について具体例を示すが、これらに限らない。見掛比重を含む各種特性の要件を満たすフュームド金属酸化物が、本発明の一実施形態においてより好適に使用可能である。一次粒子径、比表面積、表面処理種、見掛比重および金属酸化物種の異なる各種グレードのフュームド金属酸化物を日本アエロジル社、旭化成ワッカーシリコーン社およびキャボット社から入手可能であり、好ましく使用可能である。以下日本アエロジル社製品のフュームド金属酸化物を例として具体的に説明する。見掛比重以外は略同等であるアエロジルR972、R972CF、R972Vなどを好ましく使用可能であり、この中で見掛比重の高いR972(50グラム/リットル)をより好ましく使用可能である。同様に、見掛比重以外は同等であるアエロジルR974、R9200、VP RS920などを好ましく使用可能であり、この中で見掛比重の高いアエロジルR9200(200グラム/リットル)およびアエロジルVP RS920(80グラム/リットル以上120グラム/リットル以下)をより好ましく使用可能である。また、これら以外にも本発明の一実施形態の好ましい物性の一つである見掛比重が比較的低く、70グラム/リットル以下の日本アエロジル社製フュームド金属酸化物として、アエロジルNX130、RY200S、R976、NAX50、NX90G、NX90S、RX200、RX300、R812、R812S等を好ましく使用可能である。また、見掛比重が比較的高く、70グラム/リットル以上の日本アエロジル社製フュームド金属酸化物として、アエロジル200V、AEROIDE TiO2 P90、AEROIDE TiO2 NKT90、OX50、RY50、RY51、AEROIDE TiO2 P25、R8200、RM50、RX50、AEROIDE TiO2 T805、R7200等も好ましく使用可能である。尚、アエロジルVP RS920は、2021年11月以降、「アエロジルE9200」という名称で販売されている。
また、「アエロジル」または「AEROSIL」は、エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハーの登録商標である。また、フュームド金属酸化物としては、気相合成で合成されたものであり、それにより一次粒子径が凝集した構造体を有するフュームド金属酸化物が、好ましく使用可能である。
【0064】
これらのフュームド金属酸化物の中でも、アエロジルR972、972V、NX130、R9200、VP RS920、R974,R976、R8200等のフュームドシリカが、アルカリ性環境での溶解により形成される層Aの表面形状が良好で、表面粗度も適切な範囲となる点で好ましい。
フュームド金属化合物以外に球状または不定形形状の金属酸化物粒子も使用可能であり、具体例としては、アドマテックス株式会社製アドマナノ、アドマファイン、アドマフューズの各種製品等を好ましく使用可能である。
【0065】
<金属酸化物粒子の配合部数>
層Aの耐熱性樹脂100重量部に対し、金属酸化物粒子の配合部数が10重量部以上130重量部以下であることが好ましい。金属酸化物粒子がフュームド金属酸化物の場合、上述の通り、層Aの耐熱性樹脂に対するフュームド金属酸化物の好ましい配合部数はフュームド金属酸化物の見掛比重によりある程度調整できるが、フュームド金属酸化物の表面処理の影響等もあり、明確なことは言えない。ここでは指標として、フュームド金属酸化物の好ましい配合部数につき記載する。
【0066】
フュームド金属酸化物の見掛比重が20グラム/リットル以上70グラム/リットル以下の場合のフュームド金属酸化物の配合部数は、耐熱性樹脂100重量部に対し、15重量部以上80重量部以下が好ましく、より好ましくは20重量部以上60重量部以下である。
【0067】
フュームド金属酸化物の見掛比重が70グラム/リットル以上250グラム/リットル以下の場合のフュームド金属酸化物の配合部数は10重量部以上130重量部以下が好ましく、より好ましくは15重量部以上120重量部以下、更に好ましくは20重量部以上100重量部以下である。
【0068】
上述の通り、フュームド金属酸化物の見掛比重により好ましい配合部数は変わり、当該見掛比重が大きいフュームド金属酸化物であるほど、その配合量を多くすることが可能となり、好ましい配合量も多くなる傾向がある。耐熱性樹脂の前駆体100重量部に対しフュームド金属酸化物を上述の範囲で配合することにより、密着強度をより良好に発現させることが可能となり、特に無電解銅めっき膜形成後の初期状態においてより強固に密着させることが可能となる。尚、一次粒子径、比表面積、表面処理種、見掛比重、金属酸化物種等の異なる複数種類のフュームド金属酸化物を混合して(組み合わせて)用いることも可能である。
【0069】
<耐熱性樹脂と金属酸化物粒子の混合方法、層Aの作製方法>
層Aの製造方法は、耐熱性樹脂の特徴に応じて適切な方法を選択することができる。i)耐熱性樹脂が溶媒可溶性を示す場合、金属酸化物粒子を有機溶媒に分散させ、同分散液を耐熱性樹脂の溶液に添加した層A分散液を得たのち、適当な支持体上に層A分散液を塗工し、乾燥し、層Aを得る方法、ii)耐熱性樹脂が熱可塑性を示す場合、金属酸化物粒子を耐熱性樹脂の融点以上の温度で混錬し、層A樹脂バルクを得たのち、加熱・加圧しながら、または溶融押出機を用いる方法でフィルム状に成型し、層Aを得る方法があげられる。
【0070】
高密着強度を発現させるために金属酸化物粒子は均一に分散していることが好ましく、特に金属酸化物粒子にフュームド金属酸化物を用いる場合は、一次粒子が凝集した構造体の構造単位まで分散させることが好ましく、用いる耐熱性樹脂、金属酸化物粒子の種類・性状に合わせ適切な方法を選択することが好ましい。
【0071】
i)の方法の場合、分散の方法はディスパー、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ビーズミル、自転公転ミキサー、ロール、ニーダー、高圧分散機、超音波、レゾルバ等が挙げられる。ii)の方法の場合、スクリュー押出機、溶融混錬機等の装置を挙げることができる。
【0072】
尚、本発明の一実施形態の効果が得られる限り、フュームド金属酸化物を前記構造単位まで分散しなくても構わない。尚、フュームド金属酸化物を前記構造単位まで分散できている場合、層A中でフュームド金属酸化物が固まって存在することがなくなり、その場合、層Aの表面粗度が小さく、本発明の一実施形態の狙いである微細配線形成性に有利となり好ましい。また、フュームド金属酸化物の構造単位をさらに小さくする条件で分散および粉砕することも可能である。有機溶媒はポリアミド酸の重合に用いる溶媒などを用いることができアミド系溶媒すなわちN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどが好ましく用いられ得るが、これに限定されない。
【0073】
層Aのポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸の溶液をフュームド酸化物と混合・分散せしめ、次いで支持体に塗布・加熱することでポリアミド酸をポリイミド樹脂にイミド化することも好ましく使用可能である。この場合、絶縁性樹脂基材の表面に塗布・加熱イミド化を行うことも好ましく実施可能である。
【0074】
<プリント配線板>
本発明の一実施形態に係る片面銅張積層板の製造方法により得られた片面銅張積層板を用いたプリント配線板の製造方法もまた、本発明の一実施形態である。以下、本発明の一実施形態の片面銅張積層板を用いてプリント配線板を製造する方法につき説明する。本発明の一実施形態の片面銅張積層板は厚みの薄い無電解めっきによる金属層が設けられており、厚みの薄い金属層を利用して、狭ピッチ回路形成が可能である。サブトラクティブ法およびアディティブ法を問わず、狭ピッチ回路形成が可能である。また、ボンディングシート、ガラスエポキシプリプレグ等の多層化の為の材料を、本発明の片面銅張積層板の金属層のない面側に配置し、積層プレスし、狭ピッチ回路形成を行うことにより、狭ピッチ回路を有する多層プリント配線板、多層フレキシブルプリント配線板、多層ビルドアップ配線板、リジッドフレックス基板、チップオンフィルム基板等を製造可能である。
【0075】
<タッチパネル用電極フィルム>
本発明により製造される片面銅張積層板の絶縁性樹脂基材にA層を設けた場合、A層と無電解めっき層の界面に「フュームド金属酸化物」-「金属イオン」-「ポリイミド樹脂」の3成分に由来する化合物が生成し、絶縁性樹脂基材と無電解めっき層を強固に密着させることができるが、該化合物は反射率が低い黒い化合物であることが分かっている。タッチパネル用電極フィルム用途の内、銅メッシュ方式の場合、絶縁性樹脂フィルム上に金属回路が形成されており、同金属回路は絶縁性樹脂フィルムと強固に密着していること、金属回路の樹脂フィルムと接触している側の表面が黒く、反射率が小さいことが求められており、本発明により製造される片面銅張積層板を好ましくタッチパネル用電極フィルムに好適に使用可能である。
【0076】
<電磁波シールドフィルム>
本発明により製造される片面銅張積層板の製造方法により得られた片面銅張積層板を用いた電磁波シールドフィルムの製造方法もまた、本発明の一実施形態である。特に、本発明により製造される片面銅張積層板の絶縁性樹脂基材にA層を設けた場合、A層と無電解めっき層の界面に「フュームド金属酸化物」-「金属イオン」-「ポリイミド樹脂」の3成分に由来する化合物が生成し、絶縁性樹脂基材と無電解めっき層を強固に密着させることができ、信頼性が高く、また軽量性に優れており、本発明により製造される片面銅張積層板を好ましく電磁波シールドフィルムに好適に使用可能である。
【実施例0077】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明の一実施形態について更に具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0078】
(密着強度1;絶縁性樹脂基材と両面粘着テープの密着性)
実施例および比較例で作製した積層体および構成体の界面の密着強度を評価した。密着強度はクロスヘッドスピード50mm/分および剥離角度180°で剥離し、その荷重を測定した。
【0079】
(密着強度2;金属層と絶縁性樹脂基材との密着性)
実施例および比較例で作製した片面銅張積層板の無電解めっき層に対し、電解銅めっき法で厚さ30ミクロンの銅層を形成し、金属層と絶縁性樹脂基材との密着強度を評価した。密着強度はクロスヘッドスピード50mm/分および剥離角度180°で剥離し、その荷重を測定した。
【0080】
(合成例1)
(合成例1;層Aのポリイミド前駆体の合成)
容量2000mlのガラス製フラスコにN,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう)を322.3gおよび1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(以下、TPE-Rと称することもある)を33.9g加えた。次いで、フラスコ内の溶液を、窒素雰囲気下で撹拌しながら、フラスコ内に3,3‘、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAと称することもある)33.6gを添加し、フラスコ内の溶液を25℃で1時間撹拌した。0.51gのBPDAを9.7gのDMFに溶解させた溶液(以下、BPDA溶液(1)と称することもある)を別途調製した。BPDA溶液(1)を前記反応溶液に、粘度に注意しながら徐々に添加し、フラスコ内の反応溶液の撹拌を行った。反応溶液の粘度が1000poiseに達したところでBPDA溶液(1)の添加および反応溶液の撹拌をやめた。かかる操作により、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸溶液を得た。
【0081】
(調合例1)
(調合例1;層A用のフュームド金属酸化物の分散液)
日本アエロジル株式会社製アエロジルVP RS 9200を20gとDMF80gとを混合した。得られた混合物を、回転刃式ホモジナイザー(回転刃直径は20mm)にて回転数10,000rpmで5分間攪拌を行いフュームド金属酸化物の分散液を得た。
【0082】
(実施例1)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液40gと調合例1の分散液17gとを混合し、得られた混合物に更にDMF40gおよびルチジン2gを混合し、層A分散液を得た。当該層A分散液を非熱可塑性ポリイミドフィルム(アピカルFP、厚み17ミクロン、株式会社カネカ製)の片面に最終の片面の層Aの厚みが4ミクロンとなるように塗布し、120℃×2分の条件で層A分散液の乾燥を行い、次いで残る面にも同様の手順で前記層A分散液を塗布および乾燥した。続いて、層A分散液が塗布された非熱可塑性ポリイミドフィルムを450℃で12秒間加熱して層Aのポリアミド酸をイミド化させ、層A(ポリイミド樹脂とフュームド金属酸化物とを含む)/非熱可塑性ポリイミドフィルム/層Aがこの順で積層してなる構成の絶縁性樹脂基材を得た。
【0083】
両面テープとして、ソマール社ソマタックPS-9053TEを用い、その両面に、前記絶縁性樹脂基材を貼り合わせ、積層体を得た。尚、貼り合わせはロールラミネーターを用い、常温で行った。この積層体の絶縁性樹脂基材と両面粘着テープの密着性は0.5N/cmであった。(めっき加工前密着性)
【0084】
前記積層体に対し、表1~2に示す条件でデスミア処理、無電解銅めっきを行い、片面銅張積層板/両面粘着テープ/片面銅張積層板なる構成の構成体を得た。この構成体の絶縁性樹脂基材と両面粘着テープの密着性は0.6N/cmであり、また剥離等の不具合はなかった。(めっき加工後密着性)
【0085】
前記構成体を130℃の熱風オーブンに5分投入して、取り出したところ、両面粘着テープが熱により発泡しており、2枚の片面銅張積層板と発泡した両面粘着テープに分離していた。この状態での絶縁性樹脂基材と両面粘着テープの密着性は評価できず、密着性は0N/cmと判断した(加熱後密着性)。以上のプロセスにより、皺の発生などの不具合なく、前記構成体の面積の2倍の片面銅張積層板を得ることができた。組成および評価結果を表4に示す。
前記片面銅張積層板を用い、金属層と絶縁性樹脂基材との密着性を評価したところ、17N/cmの密着性を示した。
【0086】
(実施例2)
実施例1で用いた絶縁性樹脂基材をアピカルNPI(厚み25ミクロン)にした以外は実施例1と同様の操作を行った。組成および評価結果を表4に示す。
【0087】
(実施例3)
実施例1で用いた絶縁性樹脂基材をピクシオFRS142(厚み25ミクロン)にした以外は実施例1と同様の操作を行った。組成および評価結果を表4に示す。
【0088】
(比較例1)
実施例1と同じ絶縁性樹脂基材を用い、両面テープを用いた積層体を作らずに、絶縁性樹脂基材をそのまま表1~2に示す条件でデスミア処理、無電解銅めっきを行った。絶縁性樹脂基材の両面に無電解めっき層が形成されていた。片面銅張積層板を得るためには片方の面の無電解めっき層を除去する必要があった。例えば片方の無電解めっき層をマスキングして反対面の無電解めっき銅層をエッチング等の方法により除去、更にマスキング材料除去する必要があり生産に劣った。
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】