(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060168
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】杭の応力算定モデルの設定方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167341
(22)【出願日】2022-10-19
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(74)【代理人】
【識別番号】100098246
【弁理士】
【氏名又は名称】砂場 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100208269
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 雅士
(72)【発明者】
【氏名】松浦 恒久
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046CA03
2D046CA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】杭頭部に接合鋼管、接合部にパイルキャップを含む柱基礎梁の接合構造の杭の応力算定において、簡略な解析モデルを設定する。
【解決手段】既製杭1の杭頭部1aを囲むように設けられる接合鋼管2とパイルキャップ3と基礎梁4と柱5とを接合してなる杭頭接合部の杭の応力算定モデルの設定方法において、応力算定モデルの接合鋼管2の杭埋込み部11と、接合鋼管2の定着部12にそれぞれ解析要素として回転ばねS
1、S
2を設定する。杭側下端部の回転ばねS
1の回転剛性kを補正し、回転ばねS
1、S
2を1つの回転ばねSに集約させ、杭1への作用モーメントの変化に応じた1つの回転ばねSの回転剛性を用いて杭1の応力算定のモデル設定を行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既製杭の杭頭部を囲むように設けられる接合鋼管とパイルキャップと基礎梁と柱とを接合してなる杭頭接合部の杭の応力算定モデルの設定方法において、
前記応力算定モデルの前記接合鋼管の杭側下端部位置と、前記接合鋼管の前記パイルキャップ側上端部位置にそれぞれ解析要素として回転ばねを設定し、
前記杭側下端部の回転ばねの回転剛性を前記パイルキャップ側上端部での回転ばねの剛性に対応するように所定の比率で補正し、
前記杭側下端部の回転ばねと前記パイルキャップ側上端部での回転ばねとを1つの回転ばねに集約させ、
前記杭への作用モーメントの変化に応じた前記1つの回転ばねの回転剛性を用いて前記杭の応力算定のモデル設定を行うようにしたことを特徴とする杭の応力算定モデルの設定方法。
【請求項2】
前記杭側下端部の回転ばねと前記パイルキャップ側上端部での回転ばねとを前記パイルキャップ側上端部での1つの回転ばねに集約させた請求項1に記載の杭の応力算定モデルの設定方法。
【請求項3】
前記の回転ばねと前記パイルキャップ側上端部での回転ばねとを前記杭側下端部での1つの回転ばねに集約させた請求項1に記載の杭の応力算定モデルの設定方法。
【請求項4】
前記接合鋼管は、剛体回転する解析要素である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の杭の応力算定モデルの設定方法。
【請求項5】
前記補正の比率は、杭頭の固定度αを考慮して拡張したChangの式をもとに、前記接合鋼管の上端部に対する下端部の深さに応じて得られる杭の曲げモーメントの比率である請求項1に記載の杭の応力算定モデルの設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は杭の応力算定モデルの設定方法に係り、杭基礎構造の杭頭接合部の杭、パイルキャップ、及び基礎梁を設計する際の杭の応力算定モデルにおいて、杭埋込み部、定着部の解析要素(回転ばね)についての杭の応力算定モデルの設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、杭基礎の杭頭部を囲むように設けられる接合鋼管、パイルキャップ、基礎梁、および柱が一体的に接合されて構成される接合構造(以下、単に接合構造あるいは接合部と記す。)と、従来工法に比べて小断面のパイルキャップからなる杭基礎構造(小断面パイルキャップ構造)を開発している(特許文献1)。この接合構造では、外殻鋼管付き高強度コンクリートパイル(以下、SC杭と記す。)やプレストレスト鉄筋高強度コンクリートパイル(以下、PRC杭と記す。)などの既製杭の頭部に接合鋼管および接合筋を配置し、杭中空部および接合鋼管と杭との隙間にコンクリートを充填することにより杭頭部を一体化する工法で構築され、杭に入力された力は、充填されたコンクリート、接合筋を介して小断面のパイルキャップに応力伝達が行われる。
【0003】
上述した杭頭接合部を構成する杭、パイルキャップ、及び基礎梁の設計における杭の応力算定は、一般的に上部構造と基礎構造をそれぞれ分離した解析モデルにより行っている。まず杭の応力算定において、
図5に示すように、杭頭を固定(α=1.0、基礎梁下を固定端)として、杭頭接合部に作用する曲げモーメントを算定し、次いで、杭頭部に作用するモーメントM
0とせん断力Q
0を用いて基礎梁の高さ方向中心位置での作用モーメントを算定して、基礎梁の断面設計を行っている。
【0004】
この設計では、杭頭を固定としているために、弾性範囲を超える外力が作用する場合には作用モーメントを過大評価することになる。このため、合理的な設計を行うには、杭頭部固定とした解析モデルでなく、適切なM-θ関係を反映させた回転ばねを杭頭部の解析要素として用いる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この解析要素としての回転ばねの設定において、上述した杭頭接合部の接合鋼管の杭側下端部位置(杭埋込み部)と、接合鋼管のパイルキャップ側上端部位置(定着部)とでは曲げモーメントM-回転角θ関係は、それぞれ異なるトリリニア関係を示す。このため、その折れ線における各折れ点の回転剛性kθを考慮した2つの回転ばねを設定する必要があり、解析モデルが煩雑になるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は上述した従来の技術が有する問題点を解消し、標準的な杭の解析プログラムが使用でき、解析モデルの構築の時間が低減できるという効果を有する。また、杭頭固定とした解析の場合に比べ、杭頭接合部、基礎梁などの部材の断面設計を合理的に行えるようにした杭の応力算定モデルの設定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の杭の応力算定モデルの設定方法は、既製杭の杭頭部を囲むように設けられる接合鋼管とパイルキャップと基礎梁と柱とを接合してなる杭頭接合部の杭の応力算定モデルの設定方法において、前記応力算定モデルの前記接合鋼管の杭側下端部位置と、前記接合鋼管の前記パイルキャップ側上端部位置にそれぞれ解析要素として回転ばねを設定し、前記杭側下端部の回転ばねの回転剛性を前記パイルキャップ側上端部での回転ばねの剛性に対応するように所定の比率で補正し、前記杭側下端部の回転ばねと前記パイルキャップ側上端部での回転ばねとを1つの回転ばねに集約させ、前記杭への作用モーメントの変化に応じた前記1つの回転ばねの回転剛性を用いて前記杭の応力算定を行うようにしたことを特徴とする。
【0009】
前記杭側下端部の回転ばねと前記パイルキャップ側上端部での回転ばねとを前記パイルキャップ側上端部あるいは前記杭側下端部での1つの回転ばねに集約させることが好ましい。
【0010】
前記接合鋼管は、剛体回転する解析要素とすることが好ましい。
【0011】
前記補正の比率は、杭頭の固定度αを考慮して拡張したChangの式をもとに、前記接合鋼管の上端部に対する下端部の深さに応じて得られる杭の曲げモーメントの比率とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のような断面性能が異な杭頭接合部における杭の応力算定において、2つの回転ばねで構成される杭頭接合部の解析モデルの要素として1つに集約した回転ばねを設定することにより、標準的な杭の解析プログラムが使用でき、解析モデルの構築の時間が低減できるという効果を有する。また、杭頭固定とした解析の場合に比べ、杭頭接合部、基礎梁などの部材の断面設計を合理的に行えるという効果も有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の杭の応力算定モデルの設定方法における回転ばねの集約の例を示した模式モデル図。
【
図2】杭頭接合部に作用する曲げモーメントMにより生じる回転角θiと深さ方向での曲げモーメントの変化グラフ。
【
図3】杭埋込み部での回転ばねの剛性kの補正手順を示したM-θ関係折れ線図。
【
図4】各変形過程における回転ばねの集約手順及び変形全体を通じての回転ばねの剛性変化を示した折れ線図。
【
図5】杭頭を固定とした、杭頭接合部に作用する曲げモーメントの状態を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の杭の応力算定モデルの設定方法における回転ばねの設定内容について添付図面を参照して説明する。
【0015】
[回転ばねの集約]
図1(a)は、解析プログラムにおける解析モデルの簡略化のために、例示した杭基礎の杭1の杭頭部1aを囲むように設けられる接合鋼管2、パイルキャップ3、基礎梁4、および柱5が一体的に接合されて構成された杭頭接合部10の模式構造図と、その応力算定モデルにおいて、杭埋込み部11と定着部12に設けられた、解析要素としての2つの回転ばねS
1、S
2を1つの回転ばねSとして集約し、同等の杭の応力算定を行えるようにしたモデル図とを示している。同図に示したように、応力算定モデルにおいて、杭埋込み部11、定着部12に相当する2つの回転ばねS
1、S
2は上下方向に直列に接合されているため、2つの回転ばねS
1、S
2を1つの回転ばねSに集約した際の合成回転剛性k
iは(式1)で求められる。なお、本明細書では、応力算定モデルにおいて、「杭埋込み部」は接合鋼管2の杭1側下端部位置を、「定着部」は、接合鋼管2のパイルキャップ3側上端部位置を指すものとする。また、1つの回転ばねSは、
図1(b)に示したように、杭埋込み部11位置に集約することもできる。この場合、接合鋼管2は上部構造(パイルキャップ3、基礎梁4、柱5)に対して剛体回転するものとして取り扱う。
【0016】
ここに、k
0は定着部の回転剛性、k
1は杭埋込み部の回転剛性である。
【0017】
[回転ばねの剛性の補正]
上下方向に直列に配置された2つの回転ばねS1、S2を1つの回転ばねSに集約する場合、その回転ばねSの剛性kiは(式1)により算定できるが、M-θ曲線の各折れ点の曲げモーメント(強度)が異なり、第2勾配の設定が困難で、集約した回転ばねSの初期剛性をもとに回転ばねSの剛性変化をトリリニアの折れ線でモデル化することは難しい。そこで、杭埋込み部11の回転ばねSを応力算定位置である定着部12に作用する曲げモーメントと回転角の関係に対応するように所定の比率をかけて補正する。
【0018】
既製杭1に作用するモーメントは(式2)の杭頭の固定度αを考慮して拡張した
Changの式を用いて略算的に算出する。
【0019】
ここに、X:杭頭からの深さ,β:杭の特性値,Q:杭頭のせん断力
(式2)について、固定度α=1における杭頭部の曲げモーメントQ/2βで無次元化すると曲げモーメントは、(式3)のように表される。
【0020】
【0021】
杭埋込み部11の回転ばねSの各折れ点の曲げモーメントは、
図2に示したように、杭埋込み部11、定着部12間においてその位置(深さX)により変化する。そこで、(式3)により算定した曲げモーメント分布をもとに、(式4)による係数η(杭埋込み部11(X=L
0)と定着部12(X=0)に作用する曲げモーメントの比率)を乗じて、杭埋込み部11での回転ばねSの各折れ点での曲げモーメントを、
図3(a)、(b)に示したように、kc→kc’(曲げひび割れ発生時の剛性)、k
y→k
y'(曲げ終局強度時の剛性)と補正する。なお、定着部12は剛体回転するものとし、短期許容曲げ強度時の剛性k
a、終局強度時の剛性k
uについての補正は行わない(
図3(c))。
【0022】
【0023】
[回転ばねの剛性の変化]
補正された杭埋込み部11のモデル及び定着部12のモデルにおけるM-θ関係の変化に基づく集約された回転ばねの剛性の変化について、
図4各図を参照して説明する。
図4(a)は、曲げひび割れ発生時の埋込み部の補正剛性k
c'と定着部12の短期許容曲げ強度時の剛性k
aとを集約した第1剛性k
1を得るための関係折れ線を示している。(式1)から、このときの集約モデルの第1剛性k
1は、(式5)となる。
【0024】
【0025】
さらに、
図4(b)は、杭頭接合部の変形が進行した杭埋込み部11の鋼管の定着部12の短期許容曲げ強度時に相当するモーメント時の補正剛性k
yaと定着部12の短期許容曲げ強度時の剛性k
aとを集約した第2剛性k
2を得るための関係折れ線を示している。(式1)から、このときの集約モデルの第2剛性k
2は、(式6)となる。
【0026】
【0027】
図4(c)は、杭頭接合部の変形が進行した杭埋込み部11の鋼管の定着部12の曲げ終局強度時に相当するモーメント時の補正剛性k
yuと定着部12の曲げ終局強度時の剛性k
uとを集約した第3剛性k
3を得るための関係折れ線を示している。(式1)から、このときの集約モデルの第3剛性k
3は、(式7)となる。
【0028】
【0029】
図4(d)は、M-θ関係の変化に応じて変化する回転ばねの剛性k
i(i=1~3)を統合して表示した折れ線図である。図示したように、所定の折れ角位置となる回転角θ
i(i=1~3)において、第1~3剛性k
i(i=1~3)を適用した解析モデルを、標準的な杭の解析プログラムに適用することができる。
【0030】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0031】
1 杭
2 接合鋼管
3 パイルキャップ
4 基礎梁
5 柱
10 杭頭接合部
S 集約された回転ばね