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特開2024-60172異常予兆検知システム、異常予兆検知モデル生成方法および異常予兆検知モデル生成プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060172
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】異常予兆検知システム、異常予兆検知モデル生成方法および異常予兆検知モデル生成プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
G05B23/02 302M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167350
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高戸 直之
(72)【発明者】
【氏名】宮本 千賀司
(72)【発明者】
【氏名】青木 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】富永 真哉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 亮太
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223FF03
3C223FF04
3C223FF13
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF42
3C223FF45
3C223GG01
3C223HH03
(57)【要約】
【課題】誤検知を抑制して異常予兆検知機能の信頼性を向上させることができる異常予兆検知技術を提供する。
【解決手段】コンピュータ5は、補正の基準となる基準プロセス値31を選定し、実プロセス値30および基準プロセス値31から、実プロセス値30が基準プロセス値31と相関があるか否かを判定するための補正要否判定係数32を算出し、実プロセス値30および基準プロセス値31から、実プロセス値30を補正するための補正値34を算出し、補正要否判定係数32に基づいて、それぞれの実プロセス値30が基準プロセス値31と相関があるか否かを判定し、基準プロセス値31と相関があると判定された実プロセス値30を補正値34で補正し、補正値34で補正した補正後プロセス値35を含む学習用入力データを生成し、学習用入力データを異常予兆検知モデルに入力して機械学習を行う、ように構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象となる対象施設の異常または前記異常の予兆の少なくとも一方を検知する異常予兆検知モデルの機械学習を行う1つ以上のコンピュータを備え、
前記コンピュータは、
前記対象施設で発生する複数の実プロセス値を取得し、
複数の前記実プロセス値から、補正の基準となる少なくとも1つの基準プロセス値を選定し、
少なくとも1つの前記実プロセス値および前記基準プロセス値から、前記実プロセス値が前記基準プロセス値と相関があるか否かを判定するための補正要否判定係数を算出し、
少なくとも1つの前記実プロセス値および前記基準プロセス値から、前記実プロセス値を補正するための補正値を算出し、
前記補正要否判定係数に基づいて、それぞれの前記実プロセス値が前記基準プロセス値と相関があるか否かを判定し、
前記基準プロセス値と相関があると判定された少なくとも1つの前記実プロセス値を前記補正値で補正し、
前記補正値で補正した少なくとも1つの補正後プロセス値を含む学習用入力データを生成し、
前記学習用入力データを前記異常予兆検知モデルに入力して前記機械学習を行う、
ように構成されている、
異常予兆検知システム。
【請求項2】
前記補正要否判定係数は、決定係数を用いて算出される、
請求項1に記載の異常予兆検知システム。
【請求項3】
前記補正値は、線形回帰係数を用いて算出され、前記補正値に対し、加算、減算、積算、または徐算することにより、前記補正後プロセス値が生成される、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項4】
前記コンピュータは、前記基準プロセス値を選定するための外部からの入力を受け付ける、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項5】
前記コンピュータは、前記補正要否判定係数を算出するための外部からの入力を受け付ける、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項6】
前記コンピュータは、前記補正値を算出するための外部からの入力を受け付ける、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項7】
前記コンピュータは、前記補正値を補助的に調整するための外部からの入力を受け付ける、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項8】
前記コンピュータは、少なくとも1つの前記実プロセス値を前記補正値で補正するときに用いる演算法を指定するための外部からの入力を受け付ける、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項9】
前記コンピュータは、外部のデータベースから、前記実プロセス値を模して生成された学習用追加データを取得し、前記学習用追加データに基づいて前記学習用入力データを生成する、
請求項1または請求項2に記載の異常予兆検知システム。
【請求項10】
監視対象となる対象施設の異常または前記異常の予兆の少なくとも一方を検知する異常予兆検知モデルの機械学習を行う1つ以上のコンピュータを用いて行う方法であり、
前記対象施設で発生する複数の実プロセス値を取得し、
複数の前記実プロセス値から、補正の基準となる少なくとも1つの基準プロセス値を選定し、
少なくとも1つの前記実プロセス値および前記基準プロセス値から、前記実プロセス値が前記基準プロセス値と相関があるか否かを判定するための補正要否判定係数を算出し、
少なくとも1つの前記実プロセス値および前記基準プロセス値から、前記実プロセス値を補正するための補正値を算出し、
前記補正要否判定係数に基づいて、それぞれの前記実プロセス値が前記基準プロセス値と相関があるか否かを判定し、
前記基準プロセス値と相関があると判定された少なくとも1つの前記実プロセス値を前記補正値で補正し、
前記補正値で補正した少なくとも1つの補正後プロセス値を含む学習用入力データを生成し、
前記学習用入力データを前記異常予兆検知モデルに入力して前記機械学習を行う、
処理を前記コンピュータが実行する、
異常予兆検知モデル生成方法。
【請求項11】
監視対象となる対象施設の異常または前記異常の予兆の少なくとも一方を検知する異常予兆検知モデルの機械学習を行う1つ以上のコンピュータで実行されるプログラムであり、
前記対象施設で発生する複数の実プロセス値を取得し、
複数の前記実プロセス値から、補正の基準となる少なくとも1つの基準プロセス値を選定し、
少なくとも1つの前記実プロセス値および前記基準プロセス値から、前記実プロセス値が前記基準プロセス値と相関があるか否かを判定するための補正要否判定係数を算出し、
少なくとも1つの前記実プロセス値および前記基準プロセス値から、前記実プロセス値を補正するための補正値を算出し、
前記補正要否判定係数に基づいて、それぞれの前記実プロセス値が前記基準プロセス値と相関があるか否かを判定し、
前記基準プロセス値と相関があると判定された少なくとも1つの前記実プロセス値を前記補正値で補正し、
前記補正値で補正した少なくとも1つの補正後プロセス値を含む学習用入力データを生成し、
前記学習用入力データを前記異常予兆検知モデルに入力して前記機械学習を行う、
処理を前記コンピュータに実行させる、
異常予兆検知モデル生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、異常予兆検知技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工知能(AI:Artificial Intelligence)を活用したプラント機器の異常予兆検知の実用化が進んでいる。異常予兆を検知する手法として、主に2つの手法が挙げられる。
【0003】
例えば、異常状態を特定できる場合、その異常状態を指標(教師)とし、異常検知したい対象が、指標とした状態と一致するデータを含む場合に異常予兆として検知する、教師あり学習がある。
【0004】
また、多種多様な異常状態があり得ることなどから、異常状態を事前に明確に特定することができない場合、指標(教師)とする異常状態を用いることなく、AIに学習させたデータからでは説明できない、例えば、学習用データと相違するデータを異常予兆として検知する、教師無し学習がある。
【0005】
教師無し学習の場合、AIに学習させる正常な状態のデータ量が不足すると、本来正常として扱うべき状態も異常として識別してしまうことになる。しかし、学習させるデータは、一般的に数多く存在するわけではない。このことから、現存するデータを変化させることでデータを増強する手法、所謂データオーギュメンテーションが、主に画像診断分野を中心として発展してきた。
【0006】
画像診断分野における一般的なデータ増強の手法としては、画像データに対し、「ノイズ成分を加える」、「回転・反転させる」、「引き延ばし・圧縮する」、「画像の周波数成分(位相・振幅)を変換する」ことなどが行われている。
【0007】
画像診断以外の分野では、離散的になる時系列データを取得するタイミング、つまり、サンプリング間隔を補完する目的で、周波数成分の位相を変化させてデータを再生する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2014/091955号
【特許文献2】国際公開第2020/178936号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
時系列データに対する異常予兆検知として、例えば、プラントから取得したデータに対しAIによる異常予兆検知技術を適用する場合、異常状態が無数に存在し、全てを予め特定することができない。このことから、教師無し学習が適用されている。
【0010】
しかし、学習用データとして用いる時系列データが取り得る正常状態は、様々な条件で変わり、無数の状態を取り得ることから、全ての実データを取得することは、現実的に非常に困難となることが多い。
【0011】
例えば、外気温・海水温度の季節変動に起因する条件は、同じ値を取ることは無い。また、この値の変動に重畳してプラントの出力が変更されるなど、過渡状態になるタイミングも異なる。
【0012】
また、主要運転状態の変化、例えば、電力系統要求など、外部制約条件に基づき、プラント出力などを変化させて運転させる場合がある。
【0013】
また、冗長系の機器の運転パターン、例えば、運転の組合せが無数にあるが、個々の機器に紐づくデータとしては全く異なる場合がある。
【0014】
また、既存の設備に新たにセンサを取り付けると新たなデータが追加されることになり、このセンサを追加する前後で、相関関係を見るべきデータが変化してしまう場合がある。
【0015】
従って、正常な運転状態にも関わらず、学習不足により今までに無かった運転状態、つまり、異常データとして認識されることになり、不要に異常予兆として検知してしまうおそれがある。また、新たなデータの追加になった場合など、データ不足ではなく、データ自体が欠如している場合は、異常予兆検知対象とすることができない。
【0016】
このような課題の対策のためにデータ増強を行うことが考えられる。しかし、時系列データに対し、従来技術のように、「ノイズ成分を加える」、「周波数成分を変化させる」ことは、データ増強に用いる価値があるが、その他の手法は活用することができない。例えば、外気温・海水温度は、どのような値も取り得るわけではなく、一定の範囲・時間周期で変化ことから、ノイズ成分が付加されること、または周波数成分が変化することでは、正常データを増強することができない。
【0017】
従って、従来技術を用いてデータ増強した場合においても、多数の異常を不要に検出することになる。このため、異常検知した際に対応する要員に対し、異常を特定するための不要な作業負荷を発生させてしまう。さらに、数多くの異常検知の中に真の異常が紛れてしまうことで、見落とし、対応の漏れなどが生じてしまうおそれがあり、異常予兆検知機能の信頼性が低下することになる。また、学習用データに含まれないデータに対し、異常予兆検知を行うこともできない。
【0018】
本発明の実施形態は、このような事情を考慮してなされたもので、誤検知を抑制して異常予兆検知機能の信頼性を向上させることができる異常予兆検知技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の実施形態に係る異常予兆検知システムは、監視対象となる対象施設の異常または前記異常の予兆の少なくとも一方を検知する異常予兆検知モデルの機械学習を行う1つ以上のコンピュータを備え、前記コンピュータは、前記対象施設で発生する複数の実プロセス値を取得し、複数の前記実プロセス値から、補正の基準となる少なくとも1つの基準プロセス値を選定し、少なくとも1つの前記実プロセス値および前記基準プロセス値から、前記実プロセス値が前記基準プロセス値と相関があるか否かを判定するための補正要否判定係数を算出し、少なくとも1つの前記実プロセス値および前記基準プロセス値から、前記実プロセス値を補正するための補正値を算出し、前記補正要否判定係数に基づいて、それぞれの前記実プロセス値が前記基準プロセス値と相関があるか否かを判定し、前記基準プロセス値と相関があると判定された少なくとも1つの前記実プロセス値を前記補正値で補正し、前記補正値で補正した少なくとも1つの補正後プロセス値を含む学習用入力データを生成し、前記学習用入力データを前記異常予兆検知モデルに入力して前記機械学習を行う、ように構成されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の実施形態により、誤検知を抑制して異常予兆検知機能の信頼性を向上させることができる異常予兆検知技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態の異常予兆検知システムを示すブロック図。
図2】第1実施形態の前処理部を示すブロック図。
図3】実プロセス値から1つの補正後プロセス値を演算する態様を示すグラフ。
図4】実プロセス値から複数の補正後プロセス値を演算する態様を示すグラフ。
図5】第2実施形態の異常予兆検知システムを示すブロック図。
図6】第2実施形態の前処理部を示すブロック図。
図7】第2実施形態の設定受付部を示すブロック図。
図8】冗長化された機器を有する系統を示す構成図。
図9】冗長化された機器の補正後プロセス値を演算する態様を示すグラフ。
図10】第3実施形態の異常予兆検知システムを示すブロック図。
図11】第3実施形態の前処理部を示すブロック図。
図12】学習用追加データから補正後プロセス値を演算する態様を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、異常予兆検知システム、異常予兆検知モデル生成方法および異常予兆検知モデル生成プログラムの実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態について図1から図4を用いて説明する。
【0023】
図1の符号1は、第1実施形態の異常予兆検知システムである。この異常予兆検知システム1は、対象施設から得られるデータを入力データとして、対象施設の異常または異常の予兆を検知するものである。監視対象となる対象施設は、例えば、原子力発電プラント、火力発電プラント、工場設備、または生産設備などである。第1実施形態の対象施設としては、このようなプラント2を例示する。
【0024】
また、プラント2には、多数のセンサ3が設けられている。これらのセンサ3は、例えば、配管、ポンプ、弁などの所定の機器に取り付けられている所定の計測器である。また、センサ3は、これらの機器の状態を示す情報を含む測定値(実測値)を取得する。これらセンサ3から得られる多数の測定値を監視対象データと称する。さらに、それぞれの測定値が機械学習で扱える形式に変換されたものを実プロセス値30(図2)と称する。なお、機器を制御する制御装置から出力される制御信号も実プロセス値30に含まれる。また、弁の開度なども実プロセス値30に含まれる。
【0025】
異常予兆検知技術では、実プロセス値30の僅かな変化を検知することで、異常またはその予兆が検知される。このためには、プラント2の正常状態を高精度で判定することが必要である。誤った判定は、誤検知を起こし、運転員の不要な作業を発生させる。
【0026】
また、プラント2で取得される実プロセス値30は膨大な量になる。そこで、本実施形態では、この膨大な量の実プロセス値30から異常またはその予兆を判定するために、機械学習により実現される人工知能(AI)が用いられる。
【0027】
例えば、ニューラルネットワークによる機械学習により生成された学習モデル、その他の機械学習により生成された学習モデル、深層学習アルゴリズム、回帰分析などの数学的アルゴリズムを用いることができる。また、機械学習の形態には、クラスタリング、深層学習などの形態が含まれる。
【0028】
例えば、この異常予兆検知システム1は、ニューラルネットワークを備える1台のコンピュータで構成されてもよいし、ニューラルネットワークを備える複数台のコンピュータで構成されてもよい。
【0029】
ここで、ニューラルネットワークとは、脳機能の特性をコンピュータによるシミュレーションによって表現した数学モデルである。例えば、シナプスの結合によりネットワークを形成した人工ニューロン(ノード)が、学習によってシナプスの結合強度を変化させ、問題解決能力を持つようになるモデルを示す。さらに、ニューラルネットワークは、深層学習(Deep Learning)により問題解決能力を取得する。
【0030】
例えば、ニューラルネットワークには、複数層のレイヤーを有する中間層が設けられる。この中間層の各レイヤーは、複数個のユニットで構成されている。また、多層のニューラルネットワークに学習用データ(教師データ)を用いて予め学ばせておくことで、回路またはシステムの状態の変化のパターンの中に或る特徴量を自動で抽出することができる。なお、多層のニューラルネットワークは、ユーザインターフェース上で、任意の中間層数、任意のユニット数、任意の学習率、任意の学習回数、任意の活性化関数を設定することができる。
【0031】
本実施形態では、オートエンコーダ(エンコーダ・デコーダ・ネットワーク)を用いた異常予兆検知技術について説明する。本実施形態の学習モデルは、このオートエンコーダにより実現される。なお、オートエンコーダ以外のその他のアルゴリズムが本実施形態の機械学習に適用されてもよい。
【0032】
また、機械学習時において、複数の実プロセス値30間において互いに物理的に相関が無いにも関わらず、時系列での変化の傾向が偶然似る疑似相関が生じる。AIがこの疑似相関を学習してしまうことで、誤検知の原因となるが、本実施形態では、疑似相関の学習を回避し、プラント2の異常予兆を高精度で行うようにする。
【0033】
図1に示すように、異常予兆検知システム1は、データ入力用コンピュータ4と学習用コンピュータ5と検知用コンピュータ6とを備える。これらは、CPU、ROM、RAM、HDDなどのハードウェア資源を有し、CPUが各種プログラムを実行することで、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて実現されるコンピュータで構成される。さらに、本実施形態の異常予兆検知モデル生成方法は、各種プログラムをコンピュータに実行させることで実現される。
【0034】
データ入力用コンピュータ4は、プラント2に設けられたセンサ3で取得した多数の測定値である監視対象データを収集する。このデータ入力用コンピュータ4は、例えば、監視対象データを保存するためのサーバなどである。ここで、収集された監視対象データは、学習用コンピュータ5または検知用コンピュータ6に送られる。
【0035】
学習用コンピュータ5は、プラント2の異常またはその予兆の少なくとも一方を検知する異常予兆検知モデルを生成する。生成された異常予兆検知モデルは、検知用コンピュータ6に送られる。
【0036】
検知用コンピュータ6は、異常予兆検知モデルを用いてプラント2の異常またはその予兆の少なくとも一方を検知する。
【0037】
なお、異常予兆検知システム1の各構成が、それぞれ個別のコンピュータに搭載されているが、これらの構成は、必ずしも複数のコンピュータで実現される必要はない。例えば、1つのコンピュータで異常予兆検知システム1の各構成が実現されてもよい。
【0038】
学習用コンピュータ5は、入力部7と出力部8と通信部9と記憶部10と処理回路11とを備える。ただし、学習用コンピュータ5は、入力部7と出力部8と記憶部10とを備えていなくてもよい。
【0039】
入力部7には、学習用コンピュータ5を使用するユーザの操作に応じて所定の情報が入力される。この入力部7には、マウスまたはキーボードなどの入力装置が含まれる。つまり、これら入力装置の操作に応じて所定の情報が入力部7に入力される。
【0040】
出力部8は、所定の情報の出力を行う。例えば、学習用コンピュータ5には、解析結果の出力を行うディスプレイなどの画像の表示を行う装置が含まれる。つまり、出力部8は、ディスプレイに表示される画像の制御を行う。なお、ディスプレイはコンピュータ本体と別体でもよいし、一体でもよい。
【0041】
通信部9は、所定の通信回線を介してデータ入力用コンピュータ4または検知用コンピュータ6と通信を行う。なお、第1実施形態では、データ入力用コンピュータ4と学習用コンピュータ5と検知用コンピュータ6がLAN(Local Area Network)を介して互いに接続されている。なお、データ入力用コンピュータ4と学習用コンピュータ5と検知用コンピュータ6が、インターネット、WAN(Wide Area Network)または携帯通信網を介して互いに接続されてもよい。また、それぞれの装置がバスを介して互いに接続されてもよい。
【0042】
記憶部10は、異常予兆検知モデルの生成を行うときに必要な各種情報を記憶する。例えば、記憶部10は、データ入力用コンピュータ4から送られた実プロセス値30を記憶する。
【0043】
処理回路11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、専用または汎用のプロセッサを備える回路である。このプロセッサは、記憶部10に記憶した各種のプログラムを実行することにより各種の機能を実現する。また、処理回路11は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアで構成してもよい。これらのハードウェアによっても各種の機能を実現することができる。また、処理回路11は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて、各種の機能を実現することもできる。
【0044】
第1実施形態の処理回路11は、前処理部12と学習モデル生成部13とを含む。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0045】
前処理部12は、ニューラルネットワークに入力する学習用入力データ(入力用信号)の前処理を行う。例えば、プラント2で発生した複数の実プロセス値30に基づいて、学習用入力データが生成される。ここで、複数の実プロセス値30の少なくとも1つが補正される処理が実行される。
【0046】
この前処理部12は、実プロセス値取得部20と基準プロセス値選定部21と補正要否判定係数算出部22と補正要否判定部23と補正値算出部24と演算部25と信号選択部26とを含む(図2参照)。前処理部12で生成された学習用入力データは、学習モデル生成部13に入力される。
【0047】
なお、前処理部12の各構成は、最小の形態として1つずつ記載しているが、各構成が複数存在していてもよい。また、前処理部12の機能として、プラント2で発生する時系列のデータの中で欠損したデータを補間する機能などを有する場合もある。
【0048】
学習モデル生成部13は、前処理部12で生成された学習用入力データを異常予兆検知モデルに入力して機械学習を行う。学習モデル生成部13で生成された異常予兆検知モデルは、検知用コンピュータ6にセットされる。
【0049】
検知用コンピュータ6は、オートエンコーダを用いて異常予兆検知を行う。例えば、検知用コンピュータ6は、データ入力用コンピュータ4から送られる監視対象データを取得する。検知用コンピュータ6は、監視対象データから変換された複数の実プロセス値30を判定用入力データとして学習済みの異常予兆検知モデルの入力層に入力する。そして、検知用コンピュータ6は、判定用入力データの入力に応じて異常予兆検知モデルの出力層から出力され、複数の実プロセス値30の正常な状態が復元された判定用出力データを取得する。検知用コンピュータ6は、判定用入力データと判定用出力データとの差分に基づいて、プラント2の異常または異常の予兆の少なくとも一方の有無を判定する。本実施形態では、学習用データが十分に取得できない条件でオートエンコーダを用いて異常予兆検知を行う場合でも、誤検知を抑制して精度を向上させることができる。
【0050】
この異常予兆検知モデルは、入力層と中間層と出力層とを備える。入力層には、学習用入力データまたは判定用入力データが入力される。出力層は、判定用入力データの入力に応じて判定用出力データを出力する。中間層は、学習用入力データによってそのパラメータが機械学習されている。そして、異常予兆検知モデルは、判定用入力データと判定用出力データとの差分に基づいて、プラント2の異常または異常の予兆の少なくとも一方の有無を判定するように、検知用コンピュータ6を機能させるものである。
【0051】
次に、図1および図2を参照して、異常予兆検知システム1が実行する、学習用入力データを生成するまでの処理の流れを説明する。
【0052】
なお、図2中の矢印は、前処理部12で実行される処理の流れを示す一例であり、矢印以外の処理の流れがあってもよい。また、必ずしも、それぞれの処理の前後関係が固定されるものではなく、一部の処理の前後関係が入れ替わってもよい。また、一部の処理が他の処理と並列に実行されてもよい。さらに、異常予兆検知システム1には、図2に示す構成以外のものが含まれてもよいし、図2に示す一部の構成が省略されてもよい。
【0053】
図1に示すように、まず、プラント2に設けられたそれぞれのセンサ3が、このプラント2で発生するそれぞれの測定値を取得する。そして、これらセンサ3で取得された測定値が、データ入力用コンピュータ4に集められ、監視対象データとして学習用コンピュータ5に送られる。
【0054】
図2に示すように、学習用コンピュータ5の前処理部12において、実プロセス値取得部20は、データ入力用コンピュータ4から監視対象データを取得する。
【0055】
この監視対象データは、時系列データであり、アナログデータ、デジタルデータのいずれでも良い。実プロセス値取得部20は、監視対象データを、学習モデル生成部13に入力することができるデジタルデータ、つまり、実プロセス値30に変換する。
【0056】
例えば、実プロセス値取得部20は、監視対象データに含まれる複数の測定値のそれぞれに対し、センサ管理番号およびセンサ名称などを紐づけして、実プロセス値30として出力する。つまり、実プロセス値取得部20は、プラント2に関する複数の測定値のそれぞれを、異常予兆検知モデルの機械学習に用いられる形式に変換する。
【0057】
これらの実プロセス値30は、複数の目的に使用される。例えば、これらの実プロセス値30は、基準プロセス値選定部21と補正値算出部24と演算部25とに入力され、かつ学習モデル生成部13にも入力される。
【0058】
基準プロセス値選定部21は、複数の実プロセス値30から、データの補正の基準となる少なくとも1つの基準プロセス値31を選定する。選定された基準プロセス値31は、補正要否判定係数算出部22と補正値算出部24とに入力される。
【0059】
例えば、基準プロセス値31は、複数の実プロセス値30の間で相関関係を持つものとする。補正の要否を自動判定する場合は、実プロセス値30の間で最も多くの相関関係を持つものとすればよい。例えば、タービン発電機を有するプラント2において、発電用の蒸気を冷却して水に戻し、この水を再度熱源側に供給する給復水系が監視対象となる場合がある。この場合には、タービン発電機の出力および海水温度などが、給復水系にある複数の実プロセス値30の中で最も多くの相関関係を持つものとなる。なお、基準プロセス値31は、実プロセス値30ごとに個別に設定することができる。また、複数の実プロセス値30に対して同一の基準プロセス値31を設定することもできる。
【0060】
補正要否判定係数算出部22は、少なくとも1つの実プロセス値30および基準プロセス値31から、実プロセス値30が基準プロセス値31と相関があるか否かを判定するための補正要否判定係数32を算出する。算出された補正要否判定係数32は、補正要否判定部23に入力される。
【0061】
ここで、全ての実プロセス値30を補正してよいわけではなく、基準プロセス値31に対して相関のある実プロセス値30のみを補正する必要がある。このため、それぞれの実プロセス値30の補正の要否を判定するために、補正要否判定係数算出部22が補正要否判定係数32を算出する。なお、補正要否判定係数32を算出するときに、複数の実プロセス値30が用いられてもよい。
【0062】
ここで、補正要否判定係数32を算出する方法としては、決定係数などを用いる手法がある。このようにすれば、補正要否判定係数32を統計的に見て適切な尺度で算出することができる。
【0063】
補正要否判定部23は、補正要否判定係数32に基づいて、それぞれの実プロセス値30が基準プロセス値31と相関があるか否かを判定する。補正が必要であると判定された場合に、その判定結果を示す補正用判定フラグ33を設定する。設定された補正用判定フラグ33は、信号選択部26に入力される。
【0064】
ここで、判定方法としては、補正要否判定係数32に対して予め任意の閾値を設けておく手法がある。例えば、補正要否判定係数32が、閾値以上である場合に、実プロセス値30の補正の必要があると判定する。
【0065】
このような判定方法、例えば、判定に用いる閾値は、一意に設定される必要はなく、基準プロセス値31に合わせて変えられてもよい。例えば、タービン発電機を有するプラント2において、海水温を基準プロセス値31とした場合、復水器の真空度は、海水温と連動する。このことから、補正要否判定係数32が高く設定され、補正の必要があると判定される。これに対して、タービン発電機に入力される蒸気温度は、海水温と連動しない。このことから、補正要否判定係数32は低く設定され、補正の必要がないと判定される。
【0066】
補正値算出部24は、少なくとも1つ実プロセス値30および基準プロセス値31から、少なくとも1つの実プロセス値30を補正するための補正値34を算出する。算出された補正値34は、演算部25に入力される。
【0067】
ここで、補正値34を算出する手法としては、少なくとも1つの実プロセス値30と少なくとも1つの基準プロセス値31との線形回帰係数に基づき設定する手法がある。なお、補正値34を算出するときに、複数の実プロセス値30が用いられてもよい。
【0068】
例えば、タービン発電機を有するプラント2において、海水温を基準プロセス値31とした場合、この海水温の変動とともに変動する復水器の真空度の割合がある。この変動の割合が求められ、海水温の季節変動幅に基づき、復水器の真空度の補正値34が求められる。例えば、海水温が1℃変化したら、復水器の真空度が1mmHg変動するものとする。この場合に、海水温の季節変動幅が、±5℃であるとすると、復水器の真空度の補正値34は、±5mmHgとなる。
【0069】
演算部25は、基準プロセス値31と相関があると判定された少なくとも1つの実プロセス値30を補正値34で補正し、補正後プロセス値35を算出する。算出された補正後プロセス値35は、信号選択部26に入力される。
【0070】
ここで、実プロセス値30を補正する演算法としては、例えば、四則演算がある。その他にも、補正値34と実プロセス値30の関数が算出されるものでもよい。
【0071】
補正値34は、線形回帰係数を用いて算出され、この補正値34に対し、加算、減算、積算、または徐算することにより、補正後プロセス値35が生成される。このようにすれば、補正値34を実際の運用状態に近い値で算出し、実際の運用に近似した補正後プロセス値35を生成することができる。
【0072】
信号選択部26は、補正値34で補正した少なくとも1つの補正後プロセス値35を含む学習用入力データを生成する。
【0073】
例えば、信号選択部26は、補正用判定フラグ33が設定された実プロセス値30の情報、つまり補正後プロセス値35の情報を含む信号の出力の可否の選択を行う。この補正後プロセス値35の情報を含む信号が、信号選択部26から出力され、実プロセス値取得部20から出力される実プロセス値30の情報を含む信号に追加される。これら補正後プロセス値35と実プロセス値30とを含む学習用入力データが学習モデル生成部13に入力される。
【0074】
なお、補正の必要が無い場合、つまり補正用判定フラグ33が設定されていない実プロセス値30の情報を含む信号の場合は、この信号がそのまま学習モデル生成部13に入力される。
【0075】
このように、前処理部12から学習モデル生成部13に学習用入力データが入力されると、学習モデル生成部13は、学習用入力データを異常予兆検知モデルに入力して機械学習を行う。
【0076】
ここで、演算部25における補正イメージの一例を図3に示す。演算部25は、実プロセス値30に対し、補正値34で演算を行い、補正後プロセス値35を算出する。図3の波形の場合は、実プロセス値30に対し、減算することで、補正後プロセス値35が算出されている。
【0077】
この補正後プロセス値35が、信号選択部26で選択されることで学習モデル生成部13に入力される。これにより、プラント2から取得した実データ(実プロセス値30)には無い追加データ(補正後プロセス値35)を、機械学習に使用するデータとして追加することができる。
【0078】
次に、演算部25における補正イメージの他の例を図4に示す。演算部25は、1つの実プロセス値30に対し、複数の補正値34,34’を使用して、複数の補正後プロセス値35,35’を算出する。図4の波形の場合は、1つの実プロセス値30に対し、それぞれの補正値34,34’で加算および減算することで、2つの補正後プロセス値35,35’が算出されている。
【0079】
第1実施形態の異常予兆検知システム1は、機械学習時に、時系列データに対する正常データを適切に増強できる。そして、異常予兆検知モデルは、実プロセス値30の波形に加えて、補正後プロセス値35の波形も正常状態として識別することができる。このため、プラント2の運用時に、実プロセス値30が補正後プロセス値35まで変動した場合においても、異常として検出する可能性を減らすことができる。つまり、総検知数を減らすことにつながり、検知性能である「真の異常検知/総検知数」を向上させることができる。言い換えれば、プラント2の運転中に、検知用コンピュータ6が、不要に“今までと違う”運転であることを検出すること、つまり誤検知することを抑制することができる。
【0080】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について図5から図9を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0081】
図5に示すように、第2実施形態の異常予兆検知システム1Aの処理回路11は、前処理部12と学習モデル生成部13とに加えて、設定受付部14を含む。これらは、メモリまたはHDDに記憶されたプログラムがCPUによって実行されることで実現される。
【0082】
図7に示すように、設定受付部14は、基準プロセス値設定部40と係数設定部41と判定設定部42と補正値設定部43と補正値算出補助部44と演算法指定部45とを含む。
【0083】
基準プロセス値設定部40は、基準プロセス値31を選定するための外部からの入力、例えば、ユーザの入力操作を受け付ける。このようにすれば、ユーザが任意に基準プロセス値31を選定することができる。
【0084】
ここで、基準プロセス値31の選定は、自動的に行うこともできるが、ユーザの入力操作により、基準プロセス値31を任意に選定することもできる。例えば、基準プロセス値31として海水温が自動的に選定されるときに、プラント2の熱源出力を基準プロセス値31として選定したい場合には、基準プロセス値31の設定をユーザが行うことで、この熱源出力が、基準プロセス値選定部21(図6)において、基準プロセス値31として優先的に選定されるようになる。
【0085】
係数設定部41は、補正要否判定係数32を算出するための外部からの入力、例えば、ユーザの入力操作を受け付ける。このようにすれば、ユーザが任意に補正要否判定係数32の算出のための設定を行うことができる。
【0086】
ここで、補正要否判定係数32は、自動的に算出することもできるが、ユーザの入力操作により、補正要否判定係数32を任意に設定することもできる。この設定をユーザが行うことで、補正要否判定係数算出部22(図6)において、ユーザが設定した補正要否判定係数32が優先的に設定されるようになる。
【0087】
判定設定部42は、補正の要否を判定するための外部からの入力、例えば、ユーザの入力操作を受け付ける。このようにすれば、ユーザが任意に補正の要否を判定するための設定を行うことができる。
【0088】
ここで、補正の要否を判定は、自動的に行うこともできるが、ユーザの入力操作により、任意に行うこともできる。この設定をユーザが行うことで、補正要否判定部23(図6)において、ユーザが設定した判定結果が優先的に得られるようになる。
【0089】
補正値設定部43は、補正値34を算出するための外部からの入力、例えば、ユーザの入力操作を受け付ける。このようにすれば、ユーザが任意に補正値34の算出のための設定を行うことができる。
【0090】
ここで、補正値34は、自動的に算出することもできるが、ユーザの入力操作により、補正値34を任意に設定することもできる。この設定をユーザが行うことで、補正値算出部24(図6)において、ユーザが設定した補正値34が優先的に設定されるようになる。
【0091】
補正値算出補助部44は、補正値34を補助的に調整するための外部からの入力、例えば、ユーザの入力操作を受け付ける。このようにすれば、補正値算出部24(図6)において、ユーザが任意に補正値34を調整することができる。
【0092】
演算法指定部45は、少なくとも1つの実プロセス値30を補正値34で補正するときに用いる演算法を指定するための外部からの入力、例えば、ユーザの入力操作を受け付ける。このようにすれば、ユーザが任意に演算法を指定することができる。
【0093】
ここで、演算法の指定は、自動的に算出することもできるが、ユーザの入力操作により、演算法を任意に設定することもできる。この設定をユーザが行うことで、演算部25(図6)において、ユーザが設定した演算法が優先的に設定されるようになる。
【0094】
第2実施形態では、外部からの入力により各種の設定がされることで、冗長系機器の運転パターンを補正する際などに、その効果が発揮される。
【0095】
まず、冗長系機器の誤判定の例について説明する。図8に示すように、例えば、第1配管51と第2配管52が途中で合流し、第3配管53となっている系統があるとする。第1配管51には、第1ポンプ54とその吐出圧力を測定する第1圧力計55が設けられている。第2配管52には、第2ポンプ56とその吐出圧力を測定する第2圧力計57が設けられている。第3配管53には、その流量を測定する流量計58が設けられている。
【0096】
第1ポンプ54と第2ポンプ56とにより、系統の冗長化が図られているものとする。第1ポンプ54と第2ポンプ56は、運転員により冗長運転の条件が選択される。例えば、学習期間において、常時、片側の第1ポンプ54(稼働側ポンプ)のみが運転される。また、その学習期間において、他方の第2ポンプ56(停止側ポンプ)は、停止し続けた状態となっている。
【0097】
学習期間において、第1ポンプ54のみが運転されていた場合、運転状態を示す第1ポンプ54の吐出圧力と、系統全体の動きを示す第3配管53の流量との間の相関が学習される。一方、学習期間において、停止していた第2ポンプ56の吐出圧力は変動が無いため、第1ポンプ54の吐出圧力および第3配管53の流量との相関が学習されないことになる。
【0098】
ここで、例えば、監視期間で冗長運転の条件が運転員の選択により変化し、第1ポンプ54が停止され、第2ポンプ56のみが運転する状態となる場合がある。この場合において、第2ポンプ56の吐出圧力と連動する第3配管53の流量により、これと相関が学習された第1ポンプ54の吐出圧力の予測値が誤連動を起こす。また、第3配管53の流量の予測値も影響されるようになり、誤連動を起こす。
【0099】
つまり、第1ポンプ54の吐出圧力および第3配管53の流量の予測値(判定用出力データ)が、実測値(判定用入力データ)と異なるようになる。これにより、実際の第1ポンプ54の吐出圧力および第3配管53の流量には、異常が無いにも関わらず、異常があるものと誤判定されてしまう。
【0100】
図9に示すように、第2実施形態では、第1圧力計55から取得される実データが補正に使用する実プロセス値30Aとされ、第2圧力計57から取得される実データが補正対象の実プロセス値30Bとされる。ここで、第2ポンプ56が稼働した場合の実データを補強する必要がある。そこで、補正対象の実プロセス値30Bが補正値34で補正され、補正後プロセス値35が算出される。
【0101】
この場合、係数設定部41は、補正対象の実プロセス値30Bに対応する補正要否判定係数32を高くする。例えば、補正要否判定係数32が“1”に設定される。または、判定設定部42は、補正対象の実プロセス値30Bに対応する補正用判定フラグ33を“補正要”に設定する。このようにすれば、補正対象の実プロセス値30Bを補正することを確定させることができる。
【0102】
ここで、補正値設定部43は、補正に使用する実プロセス値30Aに基づいて、補正値34を算出する設定を行う。つまり、補正に使用する実プロセス値30Aと補正対象の実プロセス値30Bとの差分が補正値34として設定される。そして、演算法指定部45は、演算法として“加算”を指定する。すると、補正対象の実プロセス値30Bが補正後プロセス値35として補正される。
【0103】
停止していた第2ポンプ56が、補正後プロセス値35のように、稼働していたとみなされる。この補正後プロセス値35が、追加データとして機械学習で用いられる。
【0104】
図7に示すように、第2実施形態では、補正値算出補助部44が設けられる効果として、補正値34を算出するために必要な実データを監視対象のプラント2以外から入手できることが挙げられる。
【0105】
例えば、前述の第1実施形態で海水温の変動幅に基づき、補正値34を算出する事例を説明したが、プラント2の実データから海水温の変動幅が入手できないことも有り得る。この場合、国家機関が公開するデータなどの外部データに基づき、補正値34が設定され
ることで、より適切な補正値34が設定されるようになる。
【0106】
第2実施形態によれば、プラント2以外の外部の知見を取り込むことができ、より適切に時系列データに対する正常データを増強することができる。
【0107】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について図10から図12を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0108】
図10および図11に示すように、第3実施形態の異常予兆検知システム1Bは、第2実施形態の構成に加えて、外部データベース60を備える。なお、第3実施形態の処理回路11の構成は、第2実施形態の処理回路11と同一である。設定受付部14の説明は、前述の図7を適宜参照する。
【0109】
第3実施形態の学習用コンピュータ5は、外部データベース60から、実プロセス値30を模して生成された学習用追加データを取得し、この学習用追加データに基づいて学習用入力データを生成する。このようにすれば、任意の設計値、モデルベースの理論値、またはAIにより新たに算出した予測値などを学習用のデータとして用いることができる。
【0110】
例えば、プラント2の運用において、機能性・監視性の改善などを目的として、監視対象データ自体が追加されることがある。例えば、運用性改善のために系統のバイパスラインを追加し、そのバイパスラインの流量を追加して計測する場合がある。この場合、追加したデータに対する学習用入力データが存在しないことから、検知用コンピュータ6が、“いつもと違う”ことを監視することができない。
【0111】
この場合、任意の設計値、モデルベースの理論値、またはAIにより新たに算出した予測値などを学習用入力データとして用いることが考えられる。しかし、実設備としての相関性、特に、過渡変化時の影響、ノイズの影響などが考慮できないことから、必ずしも正しい学習用入力データとならない可能性がある。
【0112】
第3実施形態は、データを増強することで、この課題を解決することができる。例えば、任意の設計値、モデルベースの理論値、またはAIにより新たに算出した予測値などが、学習用追加データとして設定される。そして、この学習用追加データが実プロセス値取得部20に入力される。基準プロセス値設定部40(図7)は、学習用追加データに対して補正したい特性を持つ基準プロセス値31を選定する設定を行う。
【0113】
ここで、学習用追加データの補正イメージを図12に示す。基準プロセス値設定部40(図7)の設定により選定された基準プロセス値31が、補正に使用するプロセス値である。また、学習用追加データは、設計値を想定して一定値36として例示されている。
【0114】
補正用判定フラグ33は、係数設定部41(図7)と判定設定部42(図7)の少なくとも一方により、“補正要”に設定される。また、補正値算出部24または補正値設定部43(図7)は、補正値34を、補正に使用する基準プロセス値31の平均値からの変動幅(差分)としたものとして、設定している。また、演算法指定部45(図7)は、演算法として“加算”を指定する。そして、学習用追加データ(一定値36)に対し、補正値34を加算することで、107.補正後プロセス値35が算出される。
【0115】
第3実施形態では、異常予兆検知の対象を追加することができ、実機ならではの特性を有する追加データを学習用の正常データとして適切に増強することができる。
【0116】
異常予兆検知システム1(1A,1B)が第1実施形態から第3実施形態に基づいて説明されているが、いずれかの実施形態において適用された構成が他の実施形態に適用されてもよいし、各実施形態において適用された構成が組み合わされてもよい。
【0117】
なお、前述の実施形態では、実プロセス値取得部20の機能が、学習用コンピュータ5に設けられているが、その他の態様でもよい。例えば、実プロセス値取得部20の機能が、データ入力用コンピュータ4に設けられている構成でもよい。この場合、学習用コンピュータ5に実プロセス値取得部20の機能が必要なく、データ入力用コンピュータ4で処理された複数の実プロセス値30が、学習用コンピュータ5に入力され、その後の処理がなされる。
【0118】
前述の異常予兆検知システム1は、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、CPU(Central Processing Unit)および専用のチップなどのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)およびSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスおよびキーボードなどの入力装置と、通信インターフェースとを備える。この異常予兆検知システム1は、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。
【0119】
なお、異常予兆検知システム1で実行されるプログラムは、ROMなどに予め組み込んで提供される。追加的または代替的に、このプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)などのコンピュータで読み取り可能な非一時的な記憶媒体に記憶されて提供される。
【0120】
また、この異常予兆検知システム1で実行されるプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータに格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。つまり、クラウドを介してプログラムが提供されてもよい。また、クラウド上のサーバがプログラムを実行し、その処理結果のみがクラウドを介して提供されてもよい。また、この異常予兆検知システム1は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワークまたは専用回線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【0121】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、基準プロセス値31と相関があると判定された少なくとも1つの実プロセス値30を補正値34で補正することにより、誤検知を抑制して異常予兆検知機能の信頼性を向上させることができる。
【0122】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態またはその変形は、発明の範囲と要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0123】
1,1A,1B…異常予兆検知システム、2…プラント、3…センサ、4…データ入力用コンピュータ、5…学習用コンピュータ、6…検知用コンピュータ、7…入力部、8…出力部、9…通信部、10…記憶部、11…処理回路、12…前処理部、13…学習モデル生成部、14…設定受付部、20…実プロセス値取得部、21…基準プロセス値選定部、22…補正要否判定係数算出部、23…補正要否判定部、24…補正値算出部、25…演算部、26…信号選択部、30,30A,30B…実プロセス値、31…基準プロセス値、32…補正要否判定係数、33…補正用判定フラグ、34,34’…補正値、35,35’…補正後プロセス値、36…一定値、40…基準プロセス値設定部、41…係数設定部、42…判定設定部、43…補正値設定部、44…補正値算出補助部、45…演算法指定部、51…第1配管、52…第2配管、53…第3配管、54…第1ポンプ、55…第1圧力計、56…第2ポンプ、57…第2圧力計、58…流量計、60…外部データベース。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12