(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060189
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】マスク、及びマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
A41D 13/11 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
A41D13/11 B
A41D13/11 H
A41D13/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167393
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】平井 美幸
(57)【要約】
【課題】より簡素な構成で薬剤の機能を良好に発揮させ得るマスクを提供する。
【解決手段】本体と、前記本体の顔非対向側で横方向の各端部に接合されたシート状耳掛け部とを備えたマスクであって、前記本体が、少なくとも顔対向側の第1シートと顔非対向側の第2シートとが積層されてなり、前記第1シートの縦方向の少なくとも一方の端部が顔非対向側に折り返され接合されて折返し部が形成されており、前記本体の顔対向側に、平面視で前記折返し部に重ならない領域に薬剤が塗布されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と、前記本体の顔非対向側で横方向の各端部に接合されたシート状耳掛け部とを備えたマスクであって、
前記本体が、少なくとも顔対向側の第1シートと顔非対向側の第2シートとが積層されてなり、前記第1シートの縦方向の少なくとも一方の端部が顔非対向側に折り返され接合されて折返し部が形成されており、
前記本体の顔対向側に、平面視で前記折返し部に重ならない領域に薬剤が塗布されている、マスク。
【請求項2】
平面視で前記折返し部に重ならない領域の60%以上の面積を占める連続領域の全体にわたって薬剤が塗布され、且つ平面視で前記折返し部に重なる領域に実質的に薬剤が塗布されていない、請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
平面視で前記折返し部に重ならない領域の実質的に全体に薬剤が塗布されている、請求項1に記載のマスク。
【請求項4】
さらに、前記シート状耳掛け部の、装着時の顔対向側に薬剤が塗布されている、請求項1又は2に記載のマスク。
【請求項5】
前記シート状耳掛け部のうち、装着時に装着時の耳裏に配置される耳裏配置部に、前記薬剤が塗布されている、請求項4に記載のマスク。
【請求項6】
少なくとも第1シート及び第2シートを含む本体を形成し、
前記本体の顔非対向側の横方向の各端部にシート状耳掛け部を接合することを含む、マスクの製造方法であって、
前記本体の形成が、
第1シートの顔対向側に薬剤を塗布し、
前記第1シートの顔非対向側に少なくとも第2シートを積層し、当該第2シートは前記第1シートより縦方向の長さが小さく、
前記第1シートの縦方向の少なくとも一方の端部を、前記第2シートの顔非対向側に折り返して接合して折返し部を形成することによって形成することを含み、
前記薬剤が、平面視で前記折返し部に重ならない領域に塗布されている、マスクの製造方法。
【請求項7】
前記シート状耳掛け部を形成することをさらに含み、
前記シート状耳掛け部の形成が、
2枚の表面材を準備し、
前記2枚の表面材のうち、製造されるマスクの装着時の顔対向側に配置される表面材の顔対向側に薬剤を塗布し、
前記2枚の表面材によって伸縮性部材を伸長状態で挟んで接合して接合体を得て、弛緩させ、
前記接合体を所定形状に打ち抜くことを含む、請求項6に記載のマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク、及びマスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マスクの構成としては、装着者の顔を少なくとも部分的に覆うマスク本体と、マスク本体の横方向の端部にそれぞれ結合された一対の耳掛け部とを有するものが一般的である。
【0003】
さらに近年、マスクに対し所定の薬剤を利用して、マスクに機能を追加したり、マスクの元来の機能を向上させたりすることも知られている。例えば、特許文献1には、マスク本体の通気布帛部の内面に、化粧料等の液体を含侵させた液体含侵部を含む液体含侵手段が設けられた保湿マスクが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のマスクは、保湿作用が長期間持続するという利点があるが、液体含侵手段等の構成が複雑になり得るため製造上の手間及びコストがかかる。よって、より簡素な構成で薬剤の機能を良好に発揮させ得るマスクが求められている。
【0006】
上記に鑑みた本発明の一態様は、より簡素な構成で薬剤の機能を良好に発揮させ得るマスクを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の態様は、本体と、前記本体の顔非対向側で横方向の各端部に接合されたシート状耳掛け部とを備えたマスクであって、前記本体が、少なくとも顔対向側の第1シートと顔非対向側の第2シートとが積層されてなり、前記第1シートの縦方向の少なくとも一方の端部が顔非対向側に折り返され接合されて折返し部が形成されており、前記本体の顔対向側に、平面視で前記折返し部に重ならない領域に薬剤が塗布されている。
【0008】
上記第一の態様によるマスクは、マスク本体が顔対向側の第1シートと顔非対向側の第2シートとから少なくとも構成され、顔対向側の第1シートの縦方向の少なくとも一方の端部が顔非対向側に折り返され、接合されている。第1シートが折り返されていることで、第2シートの端縁を覆うことができるので、マスク本体の端縁に触れた時の感触が良好になる。また、第1シートの折返しによって縦方向の端部を補強することもできる。縦方向の端部はマスク装着時には折り曲げられることが多いので、本態様による構成によりマスク本体全体の堅牢性を向上できる。
【0009】
本態様では、マスク本体の顔対向側に薬剤が塗布されている。そのため、顔により近い位置で薬剤の機能を発揮させることができる。また、薬剤が塗布されている領域は、平面視で上記第1シートの折返し部に重ならない領域にあるので、薬剤が折返し部の接合の妨げとなることを防止できる。さらに、薬剤が、上記のように第1シートの折返し部に重ならない領域、すなわち、マスク本体の縦方向の端部でない領域に塗布されていることから、使用者の顔の形状、大きさ、装着の仕方等に関わらず、或いはマスク本体の顔に対する配置が多少ずれても、薬剤を、装着者の鼻孔及び口、並びに頬等に対向させることが可能となる。本態様で用いられる薬剤としては、鼻孔や口に対向させることで特に発揮される機能(マスク内湿度維持、清涼感付与、咽頭症状の緩和、加香等)を有する薬剤、肌に接触させることで特に発揮される機能(肌保湿、肌美容、かぶれ防止、平滑化若しくは摩擦低減等)を有する薬剤、及びその両方を有する薬剤が多いので、マスク本体における薬剤が、装着者の鼻孔及び口、並びにマスク本体と接触しやすい頬に対向できる範囲に配置されていることは好ましい。また、薬剤が、塗布された素材自体を柔らかくする機能を有する場合には、広い範囲でマスク本体の柔軟性を高め、装着感を向上させることができる。
【0010】
本発明の第二の態様では、平面視で前記折返し部に重ならない領域の60%以上の面積を占める連続領域の全体にわたって薬剤が塗布され、且つ平面視で前記折返し部に重なる領域に実質的に薬剤が塗布されていない。
【0011】
上記第二の態様によれば、折返し部に重ならない領域において所定面積を占める連続領域に薬剤が塗布されているため、薬剤を、装着者の鼻孔及び口、並びに頬等にわたる広い範囲で対向させることが可能となる。そのため、上述のような薬剤の機能をより一層有効に発揮できる。また、薬剤が折返し部の接合の妨げとなることを防止するという上記効果を一層向上できる。
【0012】
本発明の第三の態様では、平面視で前記折返し部に重ならない領域の実質的に全体に薬剤が塗布されている。
【0013】
上記第三の態様によれば、薬剤がマスク本体の顔対向側の、より一層広い範囲に配置され、マスク本体の横方向の端部付近にまで、すなわち、両頬に接触する位置まで確実に薬剤を配置できる。そのため、例えば肌に接触させて特に発揮される機能(肌保湿、肌美容、かぶれ防止、平滑化若しくは摩擦低減等の機能)を有する薬剤を用いた場合に特に、その機能を十分に発揮させることができる。また、薬剤が素材を柔らかくする機能を有する場合、より一層広い範囲で、両頬に接触する位置までマスク本体に柔軟性を付与できる。
【0014】
本発明の第四の態様では、さらに、前記シート状耳掛け部の、装着時の顔対向側に薬剤が塗布されている。
【0015】
上記第四の態様によれば、薬剤が、特に肌に接触させて特に機能を発揮できるものである場合、耳掛け部と接触する肌に対して薬剤の機能を十分に発揮できる。
【0016】
本発明の第五の態様では、前記シート状耳掛け部のうち、装着時に装着時の耳裏に配置される耳裏配置部に、前記薬剤が塗布されている。
【0017】
マスク装着時、耳掛け部の中でも耳裏配置部は、肌に押し付けられた状態で肌に密着する部分であり、また耳掛け部の位置を修正する際等に肌との摩擦が生じやすい部分である。そのため、上記第五の態様により、素材に柔軟性を付与し、且つ肌と接触して発揮される機能(肌保湿、肌美容、かぶれ防止、平滑化若しくは摩擦低減等)を有する薬剤を使用することで、特に耳掛け部の装着感の向上、ひいてはマスクの装着感の向上を図ることができる。
【0018】
本発明の第六の態様では、少なくとも第1シート及び第2シートを含む本体を形成し、前記本体の顔非対向側の横方向の各端部にシート状耳掛け部を接合することを含む、マスクの製造方法であって、前記本体の形成が、第1シートの顔対向側に薬剤を塗布し、前記第1シートの顔非対向側に少なくとも第2シートを積層し、当該第2シートは前記第1シートより縦方向の長さが小さく、前記第1シートの縦方向の少なくとも一方の端部を、前記第2シートの顔非対向側に折り返して接合して折返し部を形成することによって形成することを含み、前記薬剤が、平面視で、前記折返し部に重ならない領域に塗布されている。
【0019】
上記第六の態様によれば、上記第一の態様と同様の効果を奏する、マスクの製造方法を提供できる。
【0020】
本発明の第七の態様では、前記シート状耳掛け部を形成することをさらに含み、前記シート状耳掛け部の形成が、2枚の表面材を準備し、前記2枚の表面材のうち、製造されるマスクの装着時の顔対向側に配置される表面材の顔対向側に薬剤を塗布し、前記2枚の表面材によって伸縮性部材を伸長状態で挟んで接合して接合体を得て、弛緩させ、前記接合体を所定形状に打ち抜くことを含む。
【0021】
上記第七の態様によれば、上記第四の態様と同様の効果と同様の効果を奏する、マスクの製造方法を提供できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、より簡素な構成で薬剤の機能を良好に発揮させ得るマスクを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本実施形態によるマスクを顔非対向側から見た平面図である。
【
図2】
図1に示すマスクの顔対向側から見た平面図である。
【
図3】
図1に示すマスクの耳掛け部が側方へ開かれた後の状態の平面図である。
【
図4】
図3に示す状態のマスクを顔対向側から見た平面図である。
【
図7】本実施形態によるマスクの製造について説明するための図である。
【
図8】本実施形態によるマスクの製造について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳説する。なお、各図面において、特に説明がない限り、同一の又は対応する構成については同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0025】
本発明の一形態は、装着者の顔、より具体的には装着者の少なくとも鼻及び口を覆うことのできるマスクである。本形態によるマスクは、異物が顔に到達することを防止したり、装着者が発する飛沫が飛散することを防止したりする機能を有し得るものであって、衛生マスク又はサージカルマスクとも呼ばれる。マスクは、使い捨てのものであっても、洗濯によって繰り返し使用可能なものであってもよい。
【0026】
図1に、マスク1の平面図を示す。
図1は、マスク1を顔非対向側(外側)、すなわち装着時に顔に対向させず外部に露出させる面の側から見た図である。また、
図2に、マスクを顔対向側(内側)、すなわち顔に対向させる面の側から見た平面図を示す。本形態では、マスク本体の顔対向側に薬剤が塗布されているが、
図1及び
図2においては、マスク1の基本構成についての説明を分かり易くするため、薬剤の図示は省略する。
【0027】
図1に示すように、本形態によるマスク1は、装着時に装着者の顔の正面に配置され、装着者の主として鼻及び口を覆うことができるマスク本体(以下、単に「本体」とも呼ぶ)10と、マスク本体10にそれぞれ接合された一対のシート状の耳掛け部20a、20aとを備えている。マスク1及びマスク本体10は、装着時に装着者の顔の上下方向に対応する上下方向(縦方向)D1と、装着時に装着者の顔の左右方向に対応する左右方向(横方向)D2とを有する。縦方向D1と横方向D2とは直交している。また、縦方向D1及び横方向D2の両方に直交する方向を厚み方向D3とする。
【0028】
図1及び
図2に示すマスク本体10は、横方向D2に長辺を有する長方形の平面視形状を有するが、マスク本体10の平面視形状は図示のものに限られない。また、
図1及び
図2に示すように、マスク本体10は、縦方向D1に並んで配置された複数の襞(プリーツ)によって形成されるプリーツ構造15を有している。プリーツ構造15の襞は、マスク本体10を構成するシートを横方向D2に沿った折り線にて折ることによって形成される。そして、複数の襞が形成された状態で、マスク本体10の横方向D2両端部が、ヒートシール、超音波シール、接着剤等によって固定されている。マスク1の使用時には、マスク1の横方向D2の中央付近のプリーツ構造15の襞を縦方向D1に広げることができる。それにより、マスク本体10の横方向D2中央が、縦方向D1でも横方向D2でもマスク1の顔非対向側に突出するように湾曲して、顔の立体形状に適合するような形状に変形し得る。マスク本体10は、横方向D2の中央で装着者の顔に接触しないようにすることもできる。プリーツ構造15の具体的な構成は特に限定されず、マスク本体に形成される公知の構成であってよいが、
図1及び
図2に示すように、縦方向D1の中央に箱襞が形成されているプリーツ構造であると、装着時にマスク本体10の縦方向D1の中央を顔から離れる方向に突出させやすいので好ましい。
【0029】
マスク本体10は、複数のシートが積層されてなる多層構造を有していてよい。マスク本体は、顔対向側の第1シート11と、顔非対向側の第2シート13とを少なくとも含む積層構造を有しており、より具体的には、第1シート11、中間シート、及び第2シート13が顔対向側から顔非対向側へとこの順で積層された3層積層構造を有すると好ましい(後に詳述)。
【0030】
図1に示すように、マスク本体10内には、横方向D2にわたって延びる、装着時に鼻の位置に対応する形状保持部材(ノーズフィット部材)NFが配置されていてよい。また、同様に横方向D2に亘って延びる、装着時に口の位置に対応する形状保持部材(マウスフィット部材)MFが配置されていてよい。鼻位置用形状保持部材NFも、口位置用形状保持部材MFも、扁平帯状の金属製又は樹脂製の部材であってよく、可撓性及び形状保持性を有する部材である。すなわち、使用者の手によって容易に変形でき、その変形された状態を維持することができる。よって、例えば鼻位置用形状保持部材NFを鼻付近の形状に沿って変形させることによって、マスク本体10の上部を顔(鼻の上部)に密着させ、隙間を減らすことができる。また、口位置用形状保持部材MFを、横方向D2中央で口から離れる湾曲に変形させることによって、マスク本体10を口から離して口とマスク本体10との間に空間を形成して、息苦しさを低減することができる。鼻位置用形状保持部材NFも口位置用形状保持部材MFも、マスク本体10の積層構造の内部に配置されている。
【0031】
なお、マスク本体10には、マスク本体10の外面及び内面の区別を可能にするマーク18を、エンボス加工、印刷、縫込み等によって形成してもよい。マーク18は、使用者が目視で認識できるものであれば、その形態は限定されない。マーク18は、
図1等に示すように、文字であってもよいし、数字、記号、図形、ロゴ等であってもよい。
【0032】
耳掛け部20aの形状は、マスク本体10に接合された状態で、環状の形状をなすものであれば、特に限定されない。よって、耳掛け部20aは、
図1に示すように連続した環状、より具体的には円環状又は四角環状であってよい。装着時には環の内側、すなわち耳掛け部20aの中央の開口29に装着者の耳が入るように耳掛け部20aを耳に掛けることができるようになっている。これにより、マスク本体10をその装着位置に保持することができる。
【0033】
また、
図1及び
図2に示すように、一対の耳掛け部20a、20aは、紐状又は糸状ではなく、シート状に形成されている。すなわち、一対の耳掛け部20a、20aはそれぞれ平面視で幅を有する帯状の環を形成しているので、マスク装着時に耳掛け部20aを耳に掛けた時に、耳の後ろの肌又は耳たぶの裏面に面で接触できるため、耳に掛かる負担を軽減することができる。そのため、長時間使用したとしても違和感を低減できる。
【0034】
図1及び
図2に示す形態では、一対の耳掛け部20a、20aは、横方向D2の中央で互いに分離可能に結合した単一シート状に、すなわち、耳掛け部シート20として形成されている。ここで、単一シートとは、連続した1枚のシートからなる形態を指す。この1枚のシートは、単層であってもよいし、複数の層が積層されてなる積層体であってもよい。一対の耳掛け部20a、20aが単一シート状になっていることで、製造時に耳掛け部20a、20aの位置決めを同時に行うことができ、マスクの製造がより容易になる。なお、本形態では、一対の耳掛け部20a、20aは必ずしも結合されていなくともよい。
【0035】
一対の耳掛け部20a、20aが共に単一の耳掛け部シート20を形成している場合、耳掛け部シート20は、所定位置で破断させることによって分離した一対の耳掛け部20a、20aを形成できるように構成されていてよい。
図1の形態では、一対の耳掛け部20a、20aは、結合部28にて結合されている。結合部28の結合形式は特に限定されないが、使用者の通常の力で引っ張ることによって分離可能な結合であることが好ましい。例えば
図1に示すようにミシン目として形成されていてよい。また、シートの厚みを小さくすること、又はその他の手段によって、一対の耳掛け部20a、20aの境界を脆弱化したり、応力が掛かりやすくしたりすることによって、結合部28を形成してもよい。また、結合部28は、使用者がハサミ等の道具によって切断できるように構成されていてもよい。
【0036】
耳掛け部20a、20aは、少なくとも横方向D2に伸縮性を有する、好ましくはマスク本体10よりも高い伸縮性を有するものである。耳掛け部20a、20aを伸縮性とするための構成は特に限定されないが、耳掛け部20a、20a(若しくは耳掛け部シート20)は、伸縮性部材と、伸縮性部材の両面にそれぞれ配置された低伸縮性若しくは非伸縮性のシート状の表面材(表面シート)とを含む部材とから構成されていると好ましい。より具体的には、耳掛け部20a、20aは、伸縮性部材に引張り力を加えて伸長させた状態で、その各面にシート(表面材)を積層させ、伸縮性フィルムと表面材とを間欠的に固定した後、引張り力を解除して伸縮性部材の伸長を解くことによって形成されたものであってよい(後に詳述)。
【0037】
図1に示す例では、耳掛け部20aは連続する環状であり、その環のうち、マスク本体10の横方向D2外側において縦方向D1に延在する部分が、マスク本体10の横方向D2の端部の領域に接合されている。耳掛け部20aとマスク本体10とが接合されている領域を接合領域50と呼ぶ。なお、耳掛け部20aが環状でない場合、例えばC字形状である場合には、C字の2つの先端(C字の書き始め位置及び書き終わり位置)に相当する部分がマスク本体10の横方向D2の端部に接合されていてよい。
【0038】
耳掛け部20a、20a(耳掛け部シート20)がシート状であることで、耳掛け部20aとマスク本体10との接合領域50は、ある程度の面積を占めることになるので、わずかな面積でマスク本体に接続される紐状の耳掛け部のような構成と比較して、耳掛け部20a、20aとマスク本体10との接合を安定して維持できる。すなわち、過度に大きな力が掛かっても、耳掛け部20a、20aがマスク本体10から外れにくくなる。
【0039】
接合領域50を形成するための手段は、ヒートシール、超音波シール等の融着を伴う手段であってもよいし、接着剤等であってもよいが、融着を伴うエンボス加工、特にヒートシールであると、マスク本体10と耳掛け部20aとの間の接合がより確実となるので好ましい。
【0040】
接合領域50においては、接合領域50の全体において、マスク本体10と耳掛け部20aとが接合していてもよいが、
図1に示すように、微視的に見て、マスク本体10と耳掛け部20aとが接合されている複数の接合小部分50a、50a、…が、点在して形成されていてよい。接合小部分50a、50a、…同士が離隔して形成されていることで、接合領域50の剛性が過度に大きくなって使用時の肌触り若しくは手触りを損なうことを防止できる。
【0041】
耳掛け部20a、20aは、マスク本体10の顔非対向側に接合されていても、顔対向側に接合されていてもよい。但し、
図1及び
図2に示すように耳掛け部20a、20aがマスク本体10の顔非対向側に接合されていることによって、マスク1の使用開始時に耳掛け部20a、20a同士を分離させて横方向D2外方へ展開する動作(後に詳述)において、使用者がマスク本体10の顔対向側に触れる可能性を低減できるか、又はその可能性をなくすことができる。耳掛け部20a、20aを分離し、展開する動作を含むマスク1の使用方法について、以下に説明する。
【0042】
本形態によるマスク1の使用を開始する際には、使用者は、マスク1の装着前に、耳掛け部20a、20aのうちマスク本体10に接合されていない部分を側方へ(横方向D2へ)開くことができる。上述のように、耳掛け部20a、20a同士の結合部28で結合されている場合には、その結合を解除して、耳掛け部20a、20aを互いに分離させる。
【0043】
図3に、
図1のマスク1の耳掛け部20a、20aを展開した後の平面図を示す。また、
図4に、
図3に示すマスク1を裏返した状態の平面図(マスク本体10の顔対向側から見た図)を示す。
【0044】
なお、本形態によるマスク1は、例えば次のように使用できる。使用前(展開前)のマスク1をマスク本体10の顔非対向側(外側)を上にして配置されている状態から、使用者が耳掛け部20a、20aをそれぞれ手で把持して横方向D2外方へ開いた後、一対の耳掛け部20a、20aを把持したままマスク1を他人(装着者)の顔へと移動させる。そして、マスク本体10をその他人の顔の所望の位置へ配置した後、持ち方を変えることなく、耳掛け部20a、20aをそれぞれ、他人の耳に掛けることができる。よって、本形態によるマスク1は、例えば子供、病人等の、マスクを自らで装着することが困難である人にマスクを装着させる場合に、好適に使用できる。もちろん、使用者が装着者である場合には、一対の耳掛け部20a、20aのどちらか又は両方を持ってマスク1を自分の顔へと移動させ、マスク本体10の顔対向側を顔に対向させて一方の手で押さえたまま、他方の手で耳掛け部20a、20aを一つずつ耳に掛けることができる。
【0045】
耳掛け部20a、20aには、耳掛け部20a、20aを互いに分離して横方向D2外方に開く際に使用者が摘まむことができる摘み部25、25が形成されていてよい(
図1~
図4)。摘み部25、25は、平面視でマスク本体10の端縁から、好ましくはマスク1の下端(又はマスク本体10の下端)から突出していると好ましい。その場合、マスク本体10自体に、すなわちマスク本体10の顔対向側及び顔非対向側のどちらにも触れずに又はほとんど触れずに、使用者が両手で摘み部25、25を摘まむこともできる。よって、摘み部25、25のある構成は、使用者が手指の衛生に十分な配慮ができない状況でマスク1を自らに又は他人に装着するために、衛生的な観点から好適である。なお、上記摘み部25、25は、耳掛け部20a、20aを装着者の耳に掛ける時又は掛けた後に、耳掛け部20a、20aを引っ張って、耳掛け部20a、20aの位置や張り具合を調整するためにも使用できる。
【0046】
さらに、耳掛け部20a、20aがマスク本体10の顔非対向側にそれぞれ接合されていることで、マスク1の装着中、すなわち耳掛け部20a、20aを側方に開いて耳に掛けている状態で、マスク本体10の両側部が、耳掛け部20a、20aによって顔非対向側(外側)から顔に向かって押さえられやすくなる。これにより、マスク本体10の両側部においてマスク本体10と顔との隙間を小さくすることができ、マスクの機能、例えば異物を遮断する機能、装着者が発した飛沫を飛散させない機能等を向上できる。また、本体の両側部の顔対向側、すなわち顔側に、耳掛け部20aが接合されていないため、装着中に耳掛け部20aの端部が装着者の顔に直接接触しないため、違和感も低減される。
【0047】
図5に、
図3のI-I線断面図、すなわちマスク本体10を厚み方向D3で切った断面図を示す。
図5に示す例では、マスク本体10は、第1シート11、中間シート12、及び第2シート13を顔対向側から顔非対向側へとこの順で積層された積層体から構成されている。この積層体全体を、横方向D2に沿った折り線が形成されるように折り畳むことで、プリーツ構造15が形成されている。
【0048】
マスク本体10を構成する各シートは、不織布、織物、編物等の繊維含有層を含むことが好ましく、不織布を含むことがより好ましい。不織布としては、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、メルトブローン不織布、エアスルー不織布、ポイントボンド不織布等が挙げられる。中間シート12は、異物(塵、花粉、細菌、ウィルス等)を捕集する機能が高められたシートとすることが好ましいので、そのために、細い繊維を含み得るメルトブローン不織布が用いられることが好ましい。また、不織布を構成する繊維は樹脂繊維であると好ましく、樹脂繊維の樹脂の種類としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等が挙げられる。
【0049】
顔対向側の第1シート11及び顔非対向側の第2シート13の目付は、10~50g/m2であってよい。異物捕集性の高い中間シートの目付は、10~100g/m2であってよく、好ましくは10~50g/m2、より好ましくは15~30g/m2であってよい。
【0050】
また、
図5に示すように、第1シート11の縦方向D1のサイズは、中間シート12及び第2シート13の縦方向D1のサイズよりも大きくなっていてよい。すなわち、第1シート11が上端及び下端で、中間シート12及び第2シート13からはみ出すようになっていてよい。一方、中間シート12及び第2シート13のサイズは同様であってよい。そして、第1シート11の上側ではみ出した部分は、顔非対向側に、中間シート12及び第3シート13の上端縁を覆うようにして折り返されて、上折返し部11Uが形成されている。また、第1シート11の下側ではみ出した部分も、顔非対向側に、中間シート12及び第2シート13の下端縁を覆うようにして折り返され、下折返し部11Lが形成されている。上折返し部11Uの縦方向D1の長さは5~30mm、下折返し部11Lの縦方向D1の長さは5~20mmであってよい。
【0051】
なお、図示の例では、第1シート11の上側及び下側が共に折り返されているが、折返しは上側及び下側のどちらか一方であってもよい。その場合、上側及び下側のうち折り返さない側で、第1シート11の縦方向D1の端縁を中間シート12及び第2シート13の縦方向D1の端縁と揃えておくことができる。
【0052】
このように第1シート11が上側及び下側の少なくとも一方で折り返されていると、中間シート12及び第2シート13の上端縁及び/又は下端縁が第1シート11によって覆われる。シートの上端縁及び/又は下端縁は通常は切断縁であり、鋭くなっている場合があるが、上記のような折返しにより端縁が覆われることで、鋭い端縁が顔や手に触れにくくなり、装着感を向上できる。また、マスク本体10の縦方向D1の端部付近は、マスク装着時に折り曲げられることが多いので、上記折返しにより端部が補強され、マスク本体10の堅牢性を高めることができる。
【0053】
図5に示すように、鼻位置用形状保持部材NFは、上折返し部11Uと第2シート13との間に配置されていてよい。また、口位置用形状保持部材MFは、第2シート13と中間シート12との間、或いは中間シート12と第1シート11との間に配置されていてよい。
【0054】
上記の上折返し部11U及び下折返し部11Lはそれぞれ、上側及び下側で折り返された状態で、この折返し状態が維持されるよう接合されて固定されている。折返し部(上折返し部11U及び下折返し部11L)の接合は、マスク本体10と耳掛け部20aとの接合と同様の形式で形成されていてよい。すなわち、ヒートシール、超音波シール、接着剤等によって形成されていてよく、接合された部分の柔らかさを担保しつつ確実な接合形成が可能であることからヒートシールが好ましい。また、
図1及び
図3に示すように、上折返し部11Uは、点状に離隔して形成された複数の接合小部11Ua、11Ua、…からなっており、下折返し部11Lは、点状に離隔して形成された複数の接合小部11La、11La、…からなっていてよい。
【0055】
図3~
図5に示すように、本形態では、マスク本体10の顔対向側に薬剤8が塗布されている。薬剤8は、マスクの元来の機能(異物遮断、飛沫飛散防止、口鼻周辺空気の保湿等)を向上させるものであってもよいし、上記元来の機能に加え、追加的な機能を有するものであってもよい。また、薬剤8の機能としては、肌と非接触でも、肌、又は鼻や口、及び喉や気管に作用するもの(マスク内湿度維持、清涼感付与、咽頭症状の緩和、加香、温感付与、冷感付与等)、肌に接触させることで肌に作用するもの(肌保湿、肌美容、かぶれ防止等)、或いはその両方であってよい。また、薬剤8の機能として、塗布された素材自体へ作用するもの、例えば柔軟化、表面の平滑化(滑り向上)若しくは摩擦低減、静電気低減、繊維の毛羽立ち防止も挙げられる。このような素材自体への作用は、ひいては肌へ良好な作用を与えるものとなり得る。
【0056】
薬剤8の具体例としては、グリセリン、ジグリセリン、平均分子量200以上1000未満のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール、ワックス、MPCポリマー、グリシンベタイン、ピロリドンカルボン酸、ピロリドンカルボン酸塩、ソルビット、マルチトール、乳酸ナトリウム、ビタミン類、動植物性油脂、植物抽出エキス、脂肪酸エステル系化合物、石油系炭化水素、アルキルエトキシレート、ポリシロキサン、グリコサミノグリカンのうち1種以上を含むものが挙げられる。これらのうち、多価アルコール、特にグリセリンを含むことが好ましい。グリセリンは、肌に接触してなくともマスク内の湿度維持の機能を有し、また肌に接触した場合には肌に潤いを与えることができ(肌保湿)、さらにマスク本体10自体の柔軟性向上、滑り向上若しくは摩擦低減という機能も有する。
【0057】
図3~
図5に示すように、薬剤8が塗布されている領域(薬剤塗布領域ともいう)は、平面視で折返し部(上折返し部11U及び下折返し部11L)が重ならない領域内にある。よって、薬剤8は、マスク本体10の縦方向D1の端部ではなく、比較的中央の領域に塗布されるため、使用者の顔の形状、大きさ、装着の仕方等に関わらず、或いはマスク本体の顔に対する配置が多少ずれても、薬剤を、装着者の鼻孔及び口、並びに頬等に対向させることが可能となる。
【0058】
さらに、薬剤塗布領域は、平面視で折返し部が重ならない領域の面積の60%以上の面積占める連続領域であると好ましい。また、薬剤塗布領域の、平面視で折返し部が重ならない領域に対する面積の割合は、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上であってよい。薬剤塗布領域が、平面視で折返し部が重ならない領域に対する面積の100%の面積を占める、すなわち、薬剤塗布領域が、平面視で折返し部が重ならない領域である、別言すれば、薬剤8が、平面視で折返し部が重ならない領域の実質的に全体に塗布されていると、好ましい。
【0059】
薬剤8は、上記薬剤塗布領域の全体にわたって配置されているのであれば、薬剤8が薬剤塗布領域内で、隙間なく連続的に塗布(ベタ塗布)されていてもよいし、点状塗布されていてもよい。但し、点状塗布(ドット状塗布)の場合には、薬剤8が、薬剤塗布領域の60%以上、70%以上、80%以上、80%超、90%超で第1シート11の顔対向側の面に配置されていることが好ましい。本明細書において、所定領域に「実質的に全体に塗布」とは、ベタ塗布及び点状塗布に関わらず、所定領域の全体にわたって塗布工程が行われることを指し、製造において発生し得る誤差等により薬剤が塗布されてない部分が存在する場合も含む。また、上記の平面視で折返し部が重ならない領域の面積、及び上記連続領域の面積は、プリーツ15が広げられていない状態(
図3及び
図4に示すような状態)のマスク本体10の面積とすることができる。
【0060】
上述のように薬剤8は、マスク本体10の顔対向側において、広い範囲にわたる連続領域に全体的に塗布されている。そのため、装着時にマスク本体の顔に対する配置が多少ずれても、薬剤8を、装着者の鼻孔及び口、並びに頬等に及ぶ範囲に広く対向させることができ、その機能を十分に発揮させることができる。例えば、鼻孔や口に対向させることで特に発揮される機能(マスク内湿度維持、清涼感付与、咽頭症状の緩和、加香等)を有する薬剤の場合、その機能を十分に発揮させることができる。また、マスク本体10の顔対向側の面は、装着時には装着者の両頬、場合によっては顎の部分に接触する。そのため、薬剤8の塗布領域が装着者の両頬、顎に対向する領域をカバーできれば、装着者の頬、顎等に薬剤8をより確実に接触させることができる。これにより、肌に接触させることで特に発揮される機能(肌保湿、肌美容、かぶれ防止、平滑化若しくは摩擦低減等)を有する薬剤の場合、その機能を有効に発揮させることができる。
【0061】
また、マスク本体10における薬剤8が広い範囲にわたって配置されていることで、塗布された素材自体を柔らかくする機能を有する薬剤8の場合、広い範囲でマスク本体10の柔軟性を高め、装着感を向上させることができる。
【0062】
また、薬剤塗布領域は、平面視で折返し部(上折返し部11U及び/又は下折返し部11L)に重ならない領域であるので、折返し部の接合(ヒートシール等による上述の接合)を妨げることがない。さらに、薬剤8は、平面視で、折返し部に重なる領域には、実質的に塗布されていないことが好ましい。なお、本明細書において、所定領域に「実質的に塗布されていない」とは、所定領域に意図的に塗布されてないことを指し、通常の製造において発生し得る誤差等によって薬剤が付着していてもよいことを指す。
【0063】
なお、薬剤塗布領域において塗布されている薬剤8の目付は、0.01g/m2~1g/m2であると好ましく、0.05g/m2~0.5g/m2であるとより好ましい。当該範囲の目付とすることで、薬剤8の機能を十分に発揮させることができると共に、過剰な薬剤8によるベタつき等を抑えることができる。
【0064】
なお、薬剤8を塗布する手段は、接触式であっても、非接触式であってもよい。具体例としては、スプレー、刷毛、ブラシ、バーコーター、グラビアコーター、フレキソコーター、ロールコーター、インクジェット印刷等が挙げられる。このうち、より確実に所望の位置に薬剤8を塗布できること、安定した塗布量若しくは目付が得られること等から、フレキソコーターによる塗布が好ましい。
【0065】
さらに、本形態では、マスク本体10への薬剤8の塗布に加え、耳掛け部20a自体にも薬剤8が塗布されていてよい。
【0066】
図6に、
図3のII-II線断面図、すなわち耳掛け部20aを厚み方向D3で切った断面図を示す。
図6に示すように、また上記で簡単に説明したように、耳掛け部20aは、伸縮性部材23を、装着時に顔対向側となる表面材21と顔非対向側となる表面材22で挟んでなる構成を有する。
【0067】
伸縮性部材23としては、伸縮性フィルム、複数の糸ゴム等の弾性伸縮性部材を用いることができる。このうち、伸縮性フィルムは、糸ゴム等に比べて製造時の配置作業が煩雑にならず、また高い伸縮性が得られることから好ましい。伸縮性フィルムの材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリウレタン等が挙げられる。伸縮性フィルムの伸縮性は、引張試験機による測定で最大伸張率が自然長の3.5~4.0倍であるものが好ましい。なお、伸縮性フィルムは、湿気を通過させる機能を有してもよい。
【0068】
伸縮性フィルムの両面に配置される表面材21、22は、互いに同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、表面材21、22は繊維構造体、より具体的には不織布、織物、編物等であると好ましい。これらのうち、肌触り、通気性が良く、装着感の向上に寄与することから、不織布が好ましい。不織布としては、エアスルー不織布、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、ケミカルボンド不織布等が挙げられる。このうち、毛羽立ちがなく、強度の高いスパンボンド不織布、柔らかさのあるエアスルー不織布等を適宜選択することができる。また、不織布に含まれる繊維は樹脂繊維であると好ましく、樹脂繊維の樹脂の種類としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等が挙げられる。表面材21、22が不織布である場合、不織布の目付は、5~50g/m2であってよく、特に8~25g/m2が好ましい。
【0069】
耳掛け部20a、20a(耳掛け部シート20)は、伸縮性部材23を伸長させた状態で、その両面に表面材21、22を配置し、間欠的に固定することで製造できる。この間欠的な固定は、超音波シール、ヒートシール等の融着手段、或いは接着剤等を利用して形成することができるが、確実な固定が可能であること、小面積の融着が可能で、得られる耳掛け部20aの通気性を向上できること等から超音波シールによって形成することが好ましい。伸縮性部材23と表面材21、22とが間欠的に固定されているため、伸縮性部材(伸縮性フィルム)23の伸長が解かれた際に、表面材21、22の、伸縮性フィルム23に固定されていない部分が伸縮性フィルム23から離れる方向に隆起するので、耳掛け部20a、20aの表面(両面)には、複数の襞が形成されることになる。より具体的には、伸縮性フィルムの伸縮方向に直交する方向に沿って延びる襞の山が複数、伸縮性フィルムの伸縮方向に並んで形成され得る。このような耳掛け部20aの表面の多数の襞によって、耳掛け部20aの表面が肌に接した時、耳掛け部20aの素材が肌の全面に接触するのではなく、耳掛け部20aと肌との間に空間が形成されるので、肌にべったり張り付くような感覚を低減でき、装着感を向上させることができる。
【0070】
耳掛け部20a(耳掛け部シート20)全体の目付は、20~150g/m2であってよい。耳掛け部20aの厚みは、100~3,000μmであってよい。
【0071】
図3、
図4及び
図6に示すように、薬剤8は、耳掛け部20aに装着時に顔対向側となる面、すなわち装着時に顔対向側となる表面材21の顔対向側の面に、少なくとも塗布することができる。耳掛け部20aに塗布される薬剤8の例は、マスク本体10に塗布される薬剤8の上述の例と同様であってよい。また、薬剤8は、マスク本体10に塗布された薬剤と同じものを用いてもよいし、違うものを用いてもよい。
【0072】
耳掛け部20aは、装着時には顔の肌に密着する部分が多いので、耳掛け部20aの顔対向側となる面に薬剤8が塗布されていることで、特に肌と接触して機能を発揮する薬剤の場合に、その機能を有効に発揮できる。また、薬剤8は、耳掛け部20aの装着時に顔対向側となる面全体に塗布してもよいが、部分的に塗布されていることで、伸縮性部材23と表面材21、22との接合の強度低下を防止することができる。
【0073】
薬剤8は、耳掛け部20aのうち、装着時に耳たぶの裏側及び/又は耳より後方の部位に配置される耳裏配置部27に設けられていると好ましい。耳裏配位部27は、
図1、
図3、及び
図4に示す例では、耳掛け部20aの環形のうち、マスク本体10と接合されている位置から(接合領域50)から離れた位置にある、凡そ縦方向D1に延在する部分である。耳裏配置部27は、装着時に肌と密着し、またマスク1の位置を直す際には、肌に対して擦れやすい。そのため、耳裏配置部27の、装着時に顔対向側となる表面材21に薬剤8、特に素材の柔軟性若しくは滑り性を向上させる機能を有する薬剤を塗布することで、装着感を向上させることができる。また、顔の部位の中でも、耳たぶの裏側及び/又は耳より後方の部位は、物との接触によりかゆみやかぶれ等が生じやすい部位でもあるので、薬剤8として、肌に接触して機能(肌保湿、肌美容等)を発揮する薬剤を用いることで、肌の状態を良好にすることができ、肌トラブルも防止できる。よって、耳掛け部20aに塗布する薬剤8も、多価アルコール、特にグリセリンを含むことが好ましい。
【0074】
本形態では、薬剤8は、耳裏配置部27の全体に塗布されていても、一部に塗布されていてもよいが、少なくとも耳裏配位部27の縦方向D1の中央を含むように塗布されていると好ましい。さらに、耳掛け部20aの環の内縁の輪郭上において曲率半径が極小となる上側の位置P1と、同様に曲率半径が極小となる下側の位置P1との間の縦方向D1の範囲内に塗布されていると(
図4)、上述のように物との接触によってかゆみやかぶれ等が生じやすい耳たぶの裏側及び/又は耳より後方の部位に対向する領域に、薬剤8が確実に塗布されるので、マスク1の長時間の着用においても、肌状態を良好に保つことができる。
【0075】
耳掛け部20aに塗布される薬剤8の目付も、マスク本体10に塗布される薬剤8の目付と同様に、0.01g/m2~1g/m2であると好ましく、0.05g/m2~0.5g/m2であるとより好ましい。当該範囲の目付とすることで、薬剤8の機能を十分に発揮させることができると共に、過剰な薬剤8によるベタつき等を抑えることができる。また、薬剤8を塗布する手段も、マスク本体10に塗布される薬剤8の塗布手段と同様であってよい。
【0076】
図7及び
図8に、マスク1の製造例を説明するための模式図を示す。
図7には、上段に、耳掛け部20a(若しくは耳掛け部シート20)の製造の上流工程を、下段に、マスク本体10の製造における上流の工程を示す。また、
図8には、
図7の下流の工程であって、マスク1を得るまでの工程を示す。
【0077】
図5を参照して上述したように、マスク本体10は、顔対向側から顔非対向側へと、第1シート11、中間シート12、及び第2シート13をこの順で有するものである。マスク本体10の製造のためには、
図7の下段に示すように、例えば、第1シート11となる第1シート長尺体(第1シートの資材)11A、中間シート12となる中間シート長尺体(中間シートの資材)12A、及び第2シート13なる第2シート長尺体(第2シートの資材)13Aが、それぞれ繰り出されて積層される。ここで、第1シート長尺体11Aの幅、すなわち搬送方向(長尺体の長手方向)Dtに直交する直交方向Dvの長さは、中間シート長尺体12Aの幅及び第2シート長尺体13Aの幅よりも短くなっていてよい。
【0078】
第1シート長尺体11Aの顔対向側の面(マスク1が完成した際に顔に対向させることになる面)には、薬剤8が塗布される。中間シート長尺体12A及び第2シート長尺体13Aは、第1シート長尺体11Aの薬剤8が塗布された面と反対側の面に配置される。薬剤8の塗布範囲は、後続の工程で第1シート11の上端及び下端が折り返されても、顔非対向側に薬剤8が露出しないような範囲とすることができる。また、薬剤8の塗布範囲は、後続の工程でプリーツ15が形成されても、プリーツ15が広げられていない状態で、より好ましくはプリーツ15が広げられた状態でも、平面視で折返し部(上折返し部及び下折返し部)と重ならない領域の60%以上の面積を占める連続領域の全体にわたって薬剤8が塗布されているような範囲とすることができる。
【0079】
また、
図6を参照して上述したように、耳掛け部20a、20a(耳掛け部シート20)は、装着時の顔対向側から顔非対向側へと、表面材21、伸縮性部材23、及び表面材22が積層されてなる。耳掛け部20a、20a(耳掛け部シート20)の製造のためには、
図7の上段に示すように、例えば、表面材21となる表面材長尺部21A、伸縮性部材23となる伸縮性部材長尺体23A、及び表面材22となる表面材長尺部22Aが積層される。
図7に示すように、表面材長尺部21Aの表面、より具体的には表面材長尺部21Aの装着時に顔対向側となる面に、薬剤8が塗布されていてよい。
【0080】
表面材長尺部21A、伸縮性部材長尺体23A、及び表面材長尺部22Aの積層は、伸縮性部材長尺体23Aを搬送方向Dtに伸長して、その伸長状態で表面材長尺体21Aと表面材長尺体22Aとで挟むことによって行われる。そして、上記伸長状態を維持したまま、超音波シール等によって間欠的に接合し、さらに弛緩させる。
図7においては、伸長、接合、弛緩の工程の図示は省略する。上記弛緩工程後には、得られた積層体を耳掛け部20a、20aの所定形状に打ち抜き、耳掛け部シート長尺体20Aが得られる。
【0081】
なお、図示の例では、マスク本体10の製造においても、耳掛け部20a、20a(耳掛け部シート20)の製造においても、用いられる資材の、直交方向Dvの端部に薬剤8が塗布されていない。このため、印刷等による薬剤8の塗布時に薬剤8が資材からはみ出て製造装置に付着すること等が防止される。
【0082】
さらに、
図8に示すように、第1シート長尺体11A、中間シート長尺体12A、及び第2シート長尺体13Aを積層して積層体を形成した後、当該積層体を、すなわち3つのシートを共に折り畳み、プリーツ構造15を形成することができる。さらに、中間シート長尺体12A及び第2シート長尺体13Aから、直交方向Dvにはみ出している内第1シート1長尺体1Aの両縁を、搬送方向Dtに沿った折り線にて、直交方向Dvに第2シート長尺体13A側へ、すなわち顔非対向側へと折り返して、上折返し部11U及び下折返し部11Lを形成することで、マスク本体長尺体10Aを得ることができる。上記の折返しは、薬剤8が、マスク本体長尺体10Aの顔非対向側(
図8における紙面手前側)に露出しないように行う。別の言い方をすると、第1シート11の顔対向側における薬剤8の塗布を、第1シート11の上端及び下端の折返しにおいて薬剤8が塗布されている領域が折り返されないような範囲で行う。
【0083】
このようにマスク本体長尺体10Aが形成された後、
図7の上段を参照して説明したように得られた耳掛け部シート長尺体20Aを、マスク本体長尺体10Aの顔非対向側に重ねる。そして、耳掛け部シート長尺体20Aに含まれる耳掛け部シート20、20同士の境界を跨るようにして、マスク本体長尺体10Aと耳掛け部シート長尺体20Aとを厚み方向に接合し、切断前接合領域50Aが形成される。さらに、積層され接合されたマスク本体長尺体10A及び耳掛け部シート長尺体20Aを共に、耳掛け部シート20、20同士の境界にて切断し、マスク1を得ることができる。
【0084】
図7及び
図8に示す例によって得られるマスク1は、マスク本体10の顔対向側、及び耳掛け部20a、20aの装着時の顔対向側に、薬剤8が塗布されたものとなっている。
【0085】
よって、本形態によるマスクの製造方法は、少なくとも第1シート及び第2シートを含む本体を形成し、前記本顔非対向側の横方向の各端部にシート状耳掛け部を接合することを含む製造方法であって、前記本体の形成が、第1シートの顔対向側に薬剤を塗布し、前記第1シートの顔非対向側に少なくとも第2シートを積層し、当該第2シートは前記第1シートより縦方向の長さが小さく、前記第1シートの縦方向の少なくとも一方の端部を、前記第2シートの顔非対向側に折り返して接合して折返し部を形成することによって形成することを含み、前記薬剤が、平面視で、前記折返し部に重ならない領域に塗布されている、方法であってよい。薬剤は、好ましくは、折返し部に重ならない領域の60%以上の面積を占める連続領域の全体にわたって塗布されている。
【0086】
上記製造方法は、前記シート状耳掛け部を形成することをさらに含み、前記シート状耳掛け部の形成が、2枚の表面材を準備し、前記2枚の表面材のうち、製造されるマスクの装着時の顔対向側に配置される表面材の顔対向側に薬剤を塗布し、前記2枚の表面材によって伸縮性部材を伸長状態で挟んで接合して接合体を得て、弛緩させ、前記接合体を所定形状に打ち抜くことを含む。
【実施例0087】
薬剤が、シート表面の滑り性に及ぼす作用について検証を行った。顔対向側のシート(第1シート、
図5等)として用いられる不織布(スパンボンド不織布、目付30g/m
2)に、薬剤(55質量%のグリセリン水溶液)をフレキソ印刷により、目付0.2g/m
2となるようにベタ塗布した。塗布前後で表面の滑らかさを、摩擦測定機(トリニティラボ社製TL201Tt、端子:触覚接触子、条件:荷重50.0gf、速度1mm/s、距離30mm)にて、不織布のMD方向及びCD方向の両方について動摩擦係数の平均偏差(MMD)を測定した。
【0088】
【表1】
表1の測定値は、5回の測定で得られた値の算術平均値である。
【0089】
表1に示すように、グリセリンを含む薬剤の塗布によって、不織布のMD方向及びCD方向の両方で、滑り性が向上することが分かった。
【0090】
以上、本発明を具体的な実施形態に基づき説明したが、本発明はこれらの実施形態によって限定されるものではない。また、上記実施形態は、特許請求の範囲に記載された範囲内において、様々な変更、修正、置換、付加、削除、及び組合せ等が可能であり、それらも本発明の技術的範囲に属する。