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  • 特開-インクジェット捺染用インク組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060198
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】インクジェット捺染用インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/328 20140101AFI20240424BHJP
   C09B 67/44 20060101ALI20240424BHJP
   D06P 5/30 20060101ALI20240424BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C09D11/328
C09B67/44 A
D06P5/30
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167405
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】小松 英彦
(72)【発明者】
【氏名】黄木 康弘
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼ 晋太郎
【テーマコード(参考)】
2C056
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FB03
2C056FC01
4H157AA02
4H157BA02
4H157BA24
4H157CA29
4H157CB19
4H157DA01
4H157GA06
4J039BE02
4J039BE09
4J039BE12
4J039CA03
4J039EA38
4J039EA41
4J039EA46
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】耐水性と目詰まり信頼性の両方に優れるインクジェット捺染用インク組成物を提供する。
【解決手段】色材と、水溶性有機溶剤と、水と、を含有し、前記色材は、式(1)で表される化合物Aと、式(2)で表される化合物Bと、を含み、前記化合物Bの含有量bに対する前記化合物Aの含有量aの質量比(a/b)が、1.0以上99以下である、インクジェット捺染用インク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と、水溶性有機溶剤と、水と、を含有し、
前記色材は、式(1)で表される化合物Aと、式(2)で表される化合物Bと、を含み、
前記化合物Bの含有量bに対する前記化合物Aの含有量aの質量比(a/b)が、1.0以上99以下である、
インクジェット捺染用インク組成物。
【化1】
【化2】
(式中、M1は、それぞれ独立して、Li、Na、K、又はNH4を示し、また、M2は、それぞれ独立して、Li、Na、K、又はNH4を示す。)
【請求項2】
前記質量比(a/b)が、1.0以上2.7以下である、
請求項1に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項3】
前記色材は、式(3)で表される化合物Cを含む、
請求項1に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【化3】
(式中、M3は、それぞれ独立して、Li、Na、K、又はNH4を示す。)
【請求項4】
前記化合物Cの含有量cに対する前記化合物A及び前記化合物Bの合計含有量(a+b)の質量比((a+b)/c)が、5.0以上9.0以下である、
請求項3に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項5】
前記水溶性有機溶剤が、ラクタム化合物を含み、
前記ラクタム化合物の含有量は、インク組成物の総量に対して、1.0質量%以上10質量%以下である、
請求項1に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【請求項6】
前記水溶性有機溶剤が、N-ヒドロキシエチルピロリドンを含む、
請求項1に記載のインクジェット捺染用インク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。その中で、発色性及び吐出安定性等について種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、ノズルの目詰まりや噴射曲がりの少ない吐出信頼性等に優れるインクジェット記録用インク提供することを目的として、着色剤として、液体クロマトグラフィーで展開した際、少なくとも2つのピークを持ち、高極性な第1のピーク面積S1に対する低極性な第2のピーク面積S2の比S2/S1が0.90未満であるC.I. Acid Orange 33を含有するインクジェット記録用インクが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-162863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載された、C.I. Acid Orange 33を含有するインク組成物は、耐水性及び目詰まり信頼性を両立させることは困難であることがわかってきた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のインクジェット捺染用インク組成物は、色材と、水溶性有機溶剤と、水と、を含有し、色材は、式(1)で表される化合物Aと、式(2)で表される化合物Bと、を含み、化合物Bの含有量bに対する化合物Aの含有量aの質量比(a/b)が、1.0以上99以下である。
【化1】
【化2】
(式中、M1は、それぞれ独立して、Li、Na、K、又はNH4を示し、また、M2は、それぞれ独立して、Li、Na、K、又はNH4を示す。)
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】本実施形態の組成物により記録を行う際、用いる記録装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0008】
1.インクジェット捺染用インク組成物
本実施形態に係るインクジェット捺染用インク組成物(以下、単に「インク組成物」又は「捺染用インク組成物」ともいう。)は、色材と、水溶性有機溶剤と、水と、を含有し、色材は、式(1)で表される化合物Aと、式(2)で表される化合物Bと、を含み、化合物Bの含有量bに対する化合物Aの含有量aの質量比(a/b)が、1.0以上99以下である。
【化3】
【化4】
(式中、M1は、それぞれ独立して、Li、Na、K、又はNH4を示し、また、M2は、それぞれ独立して、Li、Na、K、又はNH4を示す。)
【0009】
従来、式(1)で表される化合物A(以下、単に「化合物A」ともいう。)はオレンジ色の色材である。このような化合物Aを含むインク組成物を用いることにより、良好な耐光性や耐水性等を有する記録物が得られる。しかしながら、化合物Aを含むインク組成物を用いる場合、インクジェットヘッドのノズルが詰まりやすいという問題がある。従来はこのようなトレードオフの傾向にある耐水性及び目詰まり信頼性を両立させることが困難であった。
【0010】
そこで、本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討したところ、色材として、化合物Aと、式(2)で表される化合物B(以下、単に「化合物B」ともいう)とを含み、化合物Bの含有量を所定量に調整することにより、耐水性と目詰まり信頼性の両方に優れるインク組成物を調製できるようにしたものである。
【0011】
なお、本実施形態のインク組成物は、オレンジ色を呈するインク組成物として用いることができ、単独で用いてもよく、他の色を呈するインク組成物と混合して用いてもよい。以下、本発明のインク組成物について詳説する。
【0012】
1.1.色材
本実施形態のインク組成物は、色材として、式(1)で表される化合物Aと、式(2)で表される化合物Bと、を含み、化合物Bの含有量bに対する化合物Aの含有量aの質量比(a/b)は、1.0以上99以下である。化合物Aと化合物Bの含有量を上記範囲に調整することにより、インク組成物の耐水性及び目詰まり信頼性を両立することができる。同様の観点から、質量比(a/b)は、好ましくは、1.0以上60以下であり、1.0以上30以下であり、1.0以上10以下であり、1.0以上5.0以下であり、1.0以上2.7以下であり、1.0以上2.3以下であり、1.0以上1.9以下である。なお、色材としては、化合物A及び化合物B以外のものを含んでいてもよい。
【0013】
色材の含有量は、例えば、インク組成物の総量に対して1.0質量%以上15質量%以下である。本発明の効果を一層確実に奏する観点からは、色材の含有量がインク組成物の総量に対して、2.0質量%以上12.5質量%以下であると好ましく、3.0質量%以上10質量%以下であるとより好ましい。
【0014】
色材に用いる化合物の精製においては、必要に応じて更に逆浸透膜精製方法、ゲルろ過クロマトグラフィー精製方法、分取方式の高速液体クロマトグラフィー精製方法を適用することができる。
【0015】
1.1.1.式(1)の化合物A
インク組成物は、式(1)で表される化合物Aを含む。化合物Aはオレンジ色を呈する色材である。
【化5】
(式中、M1は、それぞれ独立して、Li、Na、K、又はNH4を示す。)
【0016】
化合物Aの含有量aは、インク組成物の総量に対して、0.5質量%以上12.5質量%以下と好ましく、1.0質量%以上10質量%以下であるとより好ましく、1.5質量%以上7.5質量%以下であると更に好ましく、2.0質量%以上5.0質量%以下であるとより更に好ましい。化合物Aの含有量が上記範囲内にあることで、得られる記録物の耐水性及びインク組成物の目詰まり信頼性が向上する傾向にある。
【0017】
1.1.2.式(2)の化合物B
インク組成物は、式(2)で表される化合物Bを含む。
【化6】
(式中、M2は、それぞれ独立して、Li、Na、K、又はNH4を示す。)
【0018】
化合物Bの含有量bは、インク組成物の総量に対して、0.01質量%以上10質量%以下と好ましく、0.05質量%以上8.0質量%以下であるとより好ましく、0.08質量%以上6.0質量%以下であると更に好ましく、0.1質量%以上4.0質量%以下であるとより更に好ましい。化合物Bの含有量が上記範囲内にあることで、得られる記録物の耐水性及びインク組成物の目詰まり信頼性が向上する傾向にある。
【0019】
1.1.3.式(3)の化合物C
本実施形態のインク組成物は、式(3)で表される化合物C(以下、単に「化合物C」ともいう。)を含むと好ましい。化合物Cを含むことにより、得られる記録物のメタメリズムが抑制される傾向にある。なお、一般にメタメリズムとは、分光分布の異なる二色が一定の照明条件等の下で等しい色に見え、照明条件等を変えると、この二色が異なった色に見える現象をいう。
例えば、D50光源や、D65を使用した照明は日中の太陽光に近いなだらかな波長分布の光源であるのに対して、3波長白色と呼ばれるF11光源(TL84)は、急峻なピーク波長の光源である為、条件等色を起こしやすい光源として知られている。
本明細書において、「得られる記録物のメタメリズムが抑制される」とは、照明条件が変化したとき、認識される色変化の程度が少ないことを意味する。特にオレンジは、イエローとレッドの光の吸収があり、光源によってメタメリズムを生じやすく、オレンジの染料である化合物Aを使用すると、光源の違いによって黄色っぽく見えてしまうことがある。これに対して、化合物Aと化合物Cを併用することで、このようなメタメリズムを改善することができる。化合物Cとしては、Acid Orange 94を用いることもできる。
【化7】
(式中、M3は、それぞれ独立して、Li、Na、K、又はNH4を示す。)
【0020】
インク組成物が化合物Cを含む場合、化合物Cの含有量cに対する上記化合物A及び化合物Bの合計含有量(a+b)の質量比((a+b)/c)が、1.0以上15以下であると好ましい。質量比((a+b)/c)が上記範囲内にあることで、得られる記録物のメタメリズムが抑制される傾向にある。同様の観点から、質量比((a+b)/c)は、3.0以上12以下であるとより好ましく、4.0以上10以下であると更に好ましく、5.0以上9.0以下であるとより更に好ましい。
【0021】
インク組成物が化合物Cを含む場合、化合物Cの含有量cはインク組成物の総量に対して、0.1質量%以上10質量%以下であると好ましい。含有量cが上記範囲にあることで、得られる記録物のメタメリズムがより抑制される傾向にある。同様の観点から、含有量cは0.3質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上1.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0022】
1.2.水溶性有機溶剤
水溶性有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールモノエーテル類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(HEP)等のラクタム化合物;メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、及びtert-ペンタノール等のアルコール類が挙げられる。なお、水溶性有機溶剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0023】
このなかでも、水溶性有機溶剤としてグリセリン、グリコール類、グリコールモノエーテル類、及びラクタム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むと好ましく、グリセリン、グリコール類、グリコールモノエーテル類、及びラクタム化合物を含むとより好ましい。水溶性有機溶剤として上記化合物を含むことにより、インク組成物の耐水性及び/又は目詰まり信頼性が向上する傾向にある。同様の観点から、N-ヒドロキシエチルピロリドン(HEP)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、グリセリン、及びトリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むと好ましく、少なくともN-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン(HEP)を含むとより好ましい。
【0024】
本実施形態のインク組成物は、水溶性有機溶剤としてラクタム化合物を含み、ラクタム化合物の含有量は、インク組成物の総量に対して、1.0質量%以上10質量%以下であると好ましい。ラクタム化合物の含有量を上記範囲にすることでインク組成物の耐水性及び/又は目詰まり信頼性が向上する傾向にある。同様の観点から、ラクタム化合物の含有量は、インク組成物の総量に対して、2.0質量%以上9.0質量%以下であるとより好ましく、3.0質量%以上8.0質量%以下であると更に好ましい。
【0025】
水溶性有機溶剤の合計含有量は、インク組成物の総量に対して、10質量%以上50質量%以下であると好ましく、15質量%以上40質量%以下であるとより好ましく、20質量%以上35質量%以下であると更に好ましい。水溶性有機溶剤の合計含有量が上記範囲内にあることで、インク組成物の耐水性及び/又は目詰まり信頼性が向上する傾向にある。
【0026】
1.3.水
本実施形態のインク組成物は、水を含む。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水のような純水、及び超純水が挙げられる。
【0027】
水の含有量は、本発明の効果を一層確実に奏する観点から、インク組成物の総量に対して、30質量%以上95質量%以下であることが好ましく、40質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、50質量%以上80質量%以下であることが更に好ましく、55質量%以上75質量%以下であることがより更に好ましい。
【0028】
1.4.界面活性剤
インク組成物は、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。本発明の効果を一層確実に奏する観点からは、界面活性剤としてアセチレングリコール系界面活性剤を用いることが好ましい。なお、界面活性剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0029】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0030】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。
【0031】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0032】
界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、0.1質量%以上3.0質量%以下であると好ましく、0.2質量%以上2.0質量%以下であるとより好ましく、0.3質量%以上1.0質量%以下であると更に好ましい。界面活性剤の含有量が上記範囲内にあることで、本発明の効果が一層確実に奏される。
【0033】
1.5.pH調整剤
インク組成物は、pH調整剤を含んでいてもよい。pH調整剤としては、特に限定されないが、例えば、無機酸(例えば、硫酸、塩酸、硝酸等)、無機塩基(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等)、有機塩基(トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン)、有機酸(例えば、アジピン酸、クエン酸、コハク酸等)等が挙げられる。本発明の効果を一層確実に奏する観点からは、pH調整剤としてトリイソプロパノールアミンを含むと好ましい。pH調整剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
pH調整剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、0.05質量%以上5.0質量%以下であると好ましく、0.10質量%以上3.0質量%以下であるとより好ましく、0.15質量%以上2.0質量%以下であると更に好ましい。pH調整剤の含有量が上記範囲内であると本発明の効果が一層確実に奏される。
【0035】
1.6.防腐剤
インク組成物は、防腐剤を含んでいてもよい。防腐剤としては、例えば、ProxelCRL、ProxelBDN、ProxelGXL、ProxelXL-2、プロキセルIB、又はプロキセルTN等が挙げられる。本発明の効果を一層確実に奏する観点からは、防腐剤としてProxelXL-2を用いると好ましい。防腐剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
防腐剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、0.05質量%以上5.0質量%以下であると好ましく、0.1質量%以上3.0質量%以下であるとより好ましく、0.2質量%以上2.0質量%以下であると更に好ましい。pH調整剤の含有量が上記範囲内であると本発明の効果が一層確実に奏される。
【0037】
1.7.キレート剤
インク組成物は、キレート剤を含んでいてもよい。キレート剤は、イオンを捕獲する性質を有するものである。キレート剤としては、特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン四酢酸又はその塩類(例えば、エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩)、3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジコハク酸又はその塩類(例えば、3-ヒドロキシ-2,2’-イミノジコハク酸四ナトリウム)、イミノジコハク酸又はその塩類(例えば、イミノジコハク酸四ナトリウム)が挙げられる。本発明の効果を一層確実に奏する観点からは、キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム塩を用いると好ましい。
【0038】
キレート剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、0.001質量%以上1.0質量%以下であると好ましく、0.005質量%以上0.5質量%以下であるとより好ましく、0.008質量%以上0.1質量%以下であると更に好ましい。pH調整剤の含有量が上記範囲内であると本発明の効果が一層確実に奏される。
【0039】
1.8.その他の添加剤
インク組成物は、必要に応じて、防黴剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、又は溶解助剤、その他、通常のインクにおいて用いることができる各種添加剤を含んでもよい。なお、各種添加剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0040】
1.9.捺染用インク組成物の製造方法
本実施形態の捺染用インク組成物を製造する方法は、特に制限されず、化合物Aと、化合物Bと、水溶性有機溶剤と、水と、必要に応じてその他の成分とを、混合する方法が挙げられる。
【0041】
2.捺染方法
インク組成物の捺染方法は、本実施形態のインク組成物を被染色媒体に着色させることができる方法であれば特に限定されず、公知の捺染方法を用いてもよい。例えば、処理液組成物を布帛に付着させる処理液付着工程と、上記処理液組成物が付着した上記布帛に、上記捺染用インク組成物を付着させる捺染インク付着工程と、を含む、捺染方法が挙げられる。
【0042】
2.1.処理液付着工程
処理液付着工程は、布帛に対して処理液組成物を付着させる工程である。処理液組成物を布帛に付着させる方法としては、特に限定されないが、例えば、処理液組成物を含侵させた布帛をローラーで絞ること等により布帛中に処理液組成物をしみ込ませるパッド法、処理液組成物をスプレーにより布帛に対して噴射する方法、及びインクジェット法により布帛に対して付着させる方法等が挙げられる。
【0043】
処理液組成物は、多価金属塩又はカチオンポリマーと、水と、を含み、必要に応じてその他の成分を含んでいてもよい。多価金属塩又はカチオンポリマーは捺染用インク組成物の凝集剤として作用し、発色性に優れる記録物を得ることができる。
【0044】
2.2.捺染インク付着工程
捺染インク付着工程は、上記処理液組成物が付着した上記布帛に、捺染用インク組成物をインクジェットヘッドから吐出して布帛に付着させる工程である。具体的には、インクジェットヘッド内に設けられた圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填された捺染インクジェットインク組成物をノズルから吐出させる。このような吐出方法をインクジェット法ともいう。なお、布帛の同一の領域に対して1種のインク組成物を付着させてもよく、2種以上のインク組成物を1回又は複数回に分けて付着させる工程を備えていてもよい。
【0045】
また、捺染インク付着工程は、処理液付着工程を同時に行ってもよい。すなわち、処理液組成物とインク組成物とを、同一の主走査により、布帛の同一の走査領域に対して付着させる形で行ってもよい。
【0046】
インク組成物をインクジェット記録装置により記録面に付着させる際、用いるインクジェット記録装置としては、特に限定されず、シリアル型、及びライン型のいずれでも使用することができる。インクジェット記録装置の一例として、図1に、シリアル型記録装置の斜視図を示す。図1に示すように、シリアル型記録装置10は、搬送部120と、記録部130とを備えている。搬送部120は、シリアル型記録装置に給送された記録媒体Fを記録部130へと搬送し、記録後の記録媒体をシリアル型記録装置の外に排出する。具体的には、搬送部120は、各送りローラーを有し、送られた記録媒体Fを副走査方向T1へ搬送する。
【0047】
また、記録装置における記録部130は、搬送部120から送られた記録媒体Fに対してインク組成物を吐出するノズルを有するインクジェットヘッド131を搭載するキャリッジ134と、キャリッジ134を記録媒体Fの主走査方向S1、S2に移動させるキャリッジ移動機構135を備える。ここで、記録媒体Fは、被染色媒体であってもよいし、中間転写媒体であってもよい。
【0048】
また、記録装置における記録部130は、インク組成物を吐出するノズルを有する。
【0049】
シリアル型記録装置の場合には、インクジェットヘッド131として記録媒体の幅より小さい長さであるヘッドを備え、ヘッドが移動し、複数パス(マルチパス)で記録が行われる。また、シリアル型記録装置では、所定の方向に移動するキャリッジ134にヘッド131が搭載されており、キャリッジの移動に伴ってヘッドが移動することにより記録媒体上にインク組成物を吐出する。これにより、2パス以上(マルチパス)で付着が行われる。なお、パスを主走査ともいう。パスとパスの間には記録媒体を搬送する副走査を行う。つまり主走査と副走査を交互に行う。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0051】
1.印捺物の作製
1.1.インク組成物の調製
表1~3に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらに10μmのメンブランフィルターでろ過することにより各例のインクジェットインク組成物を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。また、表中において、pH調整剤及びキレート剤の数値は、固形分の質量%を表す。
【0052】
表1~3で使用した略号や製品成分の詳細は以下のとおりである。
[染料]
・化合物A(下記、化合物Aの合成に記載の方法で得ることができる。)
【0053】
(化合物Aの合成)
化合物Aで表される色材(染料)は、以下の方法で得ることができる。
4,4’-ジアミノジフェニルシクロヘキサン塩酸塩を10℃以下に保ちながら、亜硝酸ナトリウム水溶液を加え、ジアゾ化した。続いて、得られたジアゾ化合物と、4,4’-ジアミノジフェニルシクロヘキサン塩酸塩と等モル量の2-ナフトール-6,8-ジスルホン酸との共役化を行った。次に、フェノールを添加し、0~3℃で1時間反応させた後、pH=10になるまで炭酸ナトリウムを加えて10時間反応を続けた。反応物を濾別した後、熱湯を加えて溶解し、炭酸カリウムを添加して塩を作製し、高温でろ過後、限外濾過で生成した塩の除去、乾燥することで、化合物Aを得た。なお、化合物Aの生成においては、分取方式の高速液体クロマトグラフィー精製方法により、2-ナフトール-6,8-ジスルホン酸が付加していない化合物及び2-ナフトール-6,8-ジスルホン酸が2つ付加した化合物等の副生成物を除く精製を行った。化合物Aは式(1)で表されるカリウム塩の化合物である。
【0054】
・化合物B(下記、化合物Bの合成に記載の方法で得ることができる。)
(化合物Bの合成)
化合物Bで表される色材(染料)は、以下の方法で得ることができる。
4,4’-ジアミノジフェニルシクロヘキサン塩酸塩を10℃以下に保ちながら、亜硝酸ナトリウム水溶液を加え、ジアゾ化した。続いて、得られたジアゾ化合物と、4,4’-ジアミノジフェニルシクロヘキサン塩酸塩と2倍モル量の2-ナフトール-6,8-ジスルホン酸との共役化を終点まで行った。反応物を濾別した後、熱湯を加えて溶解し、炭酸カリウムを添加して塩を作製し、高温でろ過後、限外濾過で塩の除去、乾燥することで、化合物Bを得た。なお、化合物Bの生成においては、分取方式の高速液体クロマトグラフィー精製方法により、2-ナフトール-6,8-ジスルホン酸が付加していない化合物及び2-ナフトール-6,8-ジスルホン酸が1つ付加した化合物等の副生成物を除く精製を行った。化合物Bは式(2)で表されるカリウム塩の化合物である。
【0055】
・化合物C(Acid Orange 94)
【0056】
[水溶性有機溶剤]
・HEP(N-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン)
・TEGmBE(トリエチレングリコールモノブチルエーテル)
・グリセリン
・トリエチレングリコール
[界面活性剤]
・オルフィンPD002W(商品名、アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業株式会社製)
[pH調整剤]
・トリプロパノールアミン
[防腐剤]
・Proxel XL-2(ベンゾチアゾリン-3-オン、SCジョンソン株式会社製)
[キレート剤]
・EDTA(エチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム二水和物)
【0057】
1.2.処理液の調製
ポリオキシエチレンジイソプロピルエーテル(オキシエチレン=30モル)を5質量部、エーテル化カルボキシメチルセルロースを5質量部、尿素を100質量部、m-ベンゼンスルホン酸ナトリウム10質量部をよく混合した後、1000質量部のイオン交換水を少量ずつ添加しながら60℃下で30分攪拌した。その後、炭酸ナトリウム30質量部を攪拌されている溶液にさらに加えて10分攪拌し、この溶液を孔径10μmのメンブレンフィルターで濾過することにより処理液を得た。
【0058】
1.3.印捺方法
上記のようにして得られた処理液を布帛に塗布して、マングルにてピックアップ率20%で絞って乾燥させた。次いで、インクジェットプリンター(セイコーエプソン社製、製品名「PX-G930」)のカートリッジに上記で調製した各インク組成物を充填した。そのプリンターを用いて、上記で調製した処理液によって前処理を行った布帛(絹100%;坪量90g/m2)に各インク組成物を付着させて画像を記録した。印刷解像度720×720dpi。打ち込みDuty100%のベタパターンで、布帛に画像を形成して捺染物を製造した。
【0059】
画像が印刷された布帛に対して100℃で20分間スチーミングを行った後、ラッコールSTA(明成化学株式会社製製品名の界面活性剤)を0.2質量部含む水溶液を用いて55℃で10分間洗浄し、乾燥させて捺染物を得た。ここで、「ベタパターン」とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録するパターンを意味する。
【0060】
2.評価方法
2.1.耐水性
得られた各捺染物について、JIS L 0846:2004に記載の方法に従い、耐水性試験を実施した。なお、試験に使用した添付白布は、第1添付白布、第2添付白布とも同一布とし、JIS L 0803記載の綿(3-3号)を使用した。これら添付白布は日本規格協会より購入した。JIS L 0801の箇条10のa)視感法に基づいて等級を、下記評価基準により耐水性を評価した。下記基準による評価結果を表1~3に示す。耐水性がB以上の場合、良好と判定した。
(評価基準)
A:耐水性が4級以上である
B:耐水性が3級以上4級未満である
C:耐水性が2級以上3級未満である
D:耐水性が2級未満である
【0061】
2.2.目詰まり信頼性
製造した各例の水系インクジェット捺染インク組成物をそれぞれインクジェットプリンター(製品名「PX-G930」、セイコーエプソン株式会社製)のヘッド全列に充填し、全列正常に吐出することを確認した。その後、記録ヘッドを待機位置からずらして印字領域にて停止させた状態で、40℃、20%RH環境に14日間放置した。放置後、記録ヘッドを待機位置に戻して、クリーニング動作を行い、吐出が回復するまでにかかったクリーニング回数を数えた。下記基準による評価結果を表1~3に示す。目詰まり信頼性がD以上の場合、良好と判定した。
(評価基準)
A:1回以下のクリーニングで全ノズルが回復した
B:2回以上3回以下のクリーニングで全ノズルが回復した
C:4回以上5回以下のクリーニングで全ノズルが回復した
D:6回以上9回以下のクリーニングで全ノズルが回復した
E:10回のクリーニングでも回復しなかった
【0062】
2.3.メタメリズム
(評価方法)
各インク組成物で印字した布帛をD65光源の照明と、F11光源の照明とで、順に照らして光源の違いによるメタメリズムの発生状況を目視で観察する。
(評価基準)
A:印字した布帛をD65光源の照明と、F11光源の照明で照らして、目視観察で見比べても、殆どメタメリズムが確認されない
B:印字した布帛をD65光源の照明と、F11光源の照明で照らして、目視観察で見比べると若干色相の違い(メタメリズム)が確認される
C:各インクで印字した布帛をD65光源の照明と、F11光源の照明で照らして、目視観察で見比べると色相の違い(メタメリズム)が確認されるが、許容可能なレベルである
D:各インクで印字した布帛をD65光源の照明と、F11光源の照明で照らして、目視観察で見比べると色相の違い(メタメリズム)が確認され、許容できないレベルである
【0063】
2.4.耐光性
Xenon耐光性試験機(株式会社スガ試験機、製品名「XL-75s」)を用い、23℃、相対湿度50%RH、照度70000luxの条件のもと、各実施例の捺染物を10日間暴露した。暴露前後のサンプルの色相を、分光濃度計(商品名「Spectrolino」、X-RITE社製)を用い、光源:D65、ステータス:DIN_NB、視野角:10度、フィルタ:UVの条件で各捺染物のL*、a*、b*値を測定し、下記計算式に基づいて印捺前後(初期と10日目)の印捺物の色相差(ΔE*)を算出し、下記評価基準により耐光性を評価した。
ΔE*={(ΔL*2+(Δa*2+(Δb*21/2 ・・・(数式2)
ΔL*=L* 1-L* 2 ・・・(数式3)
Δa*=a* 1-a* 2 ・・・(数式4)
Δb*=b* 1-b* 2 ・・・(数式5)
但し、L* 1、a* 1、b* 1は初期の捺染物の測定値を示し、L* 2、a* 2、b* 2は10日間暴露した後の測定値を示す。下記基準による評価結果を表1~3に示す。
(評価基準)
A:ΔE*が10未満
B:ΔE*が10以上12.5未満
C:ΔE*が12.5以上15未満
D:ΔE*が15以上17.5未満
E:ΔE*が17.5以上
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
3.評価結果
表1~3に、各例で用いたインクの組成、並びに評価結果を示した。表1~3から、色材と、水溶性有機溶剤と、水と、を含有し、色材は式(1)で表される化合物Aと、式(2)で表される化合物Bとを含み、化合物Bの含有量bに対する前記化合物Aの含有量aの質量比(a/b)が1.0以上99以下である、インクジェット捺染用インク組成物は、耐水性と目詰まり信頼性の両方に優れることがわかる。
【符号の説明】
【0068】
10…シリアル型記録装置、120…搬送部、130…記録部、131…インクジェットヘッド、134…キャリッジ、135…キャリッジ移動機構、F…記録媒体、S1,S2…主走査方向、T1…副走査方向。
図1