(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006020
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ワイヤロープ
(51)【国際特許分類】
D07B 1/06 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
D07B1/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106552
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 烈
【テーマコード(参考)】
3B153
【Fターム(参考)】
3B153AA08
3B153AA15
3B153AA19
3B153AA39
3B153BB13
3B153CC52
3B153FF11
3B153GG03
3B153GG05
(57)【要約】
【課題】疲労耐久性および耐摩耗性に優れ、撚り癖が抑制されたワイヤロープを提供する。
【解決手段】本発明のワイヤロープ1は、複数本の素線2a、2b、2c、2dが撚り合わされた心ストランド2と、それぞれ複数本の素線3a、3bが撚り合わされた複数本の側ストランド3とが撚り合わされて構成された複撚り構造を有し、心ストランド2に複数本の側ストランド3がラング撚りで撚り合わされ、ワイヤロープ1の締め率が、3.5~9.5%である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の素線が撚り合わされた心ストランドと、
それぞれ複数本の素線が撚り合わされた複数本の側ストランドと
が撚り合わされて構成された複撚り構造を有するワイヤロープであって、
前記心ストランドに前記複数本の側ストランドがラング撚りで撚り合わされ、
前記ワイヤロープの締め率が、3.5~9.5%である、
ワイヤロープ。
【請求項2】
前記ワイヤロープの外周上に現れる前記側ストランドの側素線の延びる方向の前記ワイヤロープの軸方向に対する角度が、21~31°である、
請求項1に記載のワイヤロープ。
【請求項3】
前記側ストランドの側素線は、前記ワイヤロープの外周上に位置する部位において、前記ワイヤロープの径方向外側に面し、前記側素線の周方向の一部に設けられた平坦部が、前記側素線の延びる方向に沿って延びる平滑面を有し、
前記側素線の延びる方向における前記平滑面の長さが、前記側素線の径の4.5~9.0倍である、
請求項1に記載のワイヤロープ。
【請求項4】
前記ワイヤロープが、方向転換部材を介して駆動部と従動部との間で配索される操作用ワイヤロープである、
請求項1に記載のワイヤロープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動部の駆動力を従動部に伝達するために、たとえば特許文献1に開示されたワイヤロープが用いられる。特許文献1のワイヤロープは、複数本の素線が撚り合わされた芯ストランドと、それぞれ複数本の素線が撚り合わされた複数本の側ストランドとが撚り合わされた複撚り構造を有している。特許文献1のワイヤロープは、芯ストランドに複数本の側ストランドが普通撚りで撚り合わされ、ワイヤロープの締め率が2.5~8%となるように構成されている。特許文献1のワイヤロープは、普通撚り構造としながら、締め率を大きくすることで、形くずれを防止して、素線の2次曲げを抑制し、摺動しながら屈曲を受ける場合の疲労耐久性を向上させている。
【0003】
ワイヤロープは、上述した疲労耐久性を満足するだけでは十分でなく、最近では、さらに、ダストなどが噴霧された環境下で摺動しながら屈曲を受ける場合の耐摩耗性を満足することも求められるようになってきている。ワイヤロープの耐摩耗性を向上させる方法として、側ストランドの側素線の撚り方向と側ストランドの撚り方向とが異なる普通撚りに代えて、側ストランドの側素線の撚り方向と側ストランドの撚り方向とが同じラング撚りを採用することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、ラング撚りで撚られるワイヤロープには、側ストランドの側素線の撚り方向と側ストランドの撚り方向とが同じであることで、その撚り方向とは反対の方向に撚りが戻ろうとする応力が生じるために、撚り癖と呼ばれる湾曲が生じてしまう。撚り癖が強いワイヤロープは、取付対象に取り付ける際の作業性が悪く、特に狭い空間での配索が求められる操作用ワイヤロープとして使用されていなかった。
【0006】
本発明は、疲労耐久性および耐摩耗性に優れ、撚り癖が抑制されたワイヤロープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のワイヤロープは、複数本の素線が撚り合わされた心ストランドと、それぞれ複数本の素線が撚り合わされた複数本の側ストランドとが撚り合わされて構成された複撚り構造を有するワイヤロープであって、前記心ストランドに前記複数本の側ストランドがラング撚りで撚り合わされ、前記ワイヤロープの締め率が、3.5~9.5%である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、疲労耐久性および耐摩耗性に優れ、撚り癖が抑制されたワイヤロープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るワイヤロープの断面図である。
【
図2】
図1のワイヤロープの側面図であり、見やすくするために、図中央の側ストランドにドットが付されている側面図である。
【
図3】ワイヤロープの疲労耐久性を評価するための疲労耐久性試験機の概略図である。
【
図4】ワイヤロープの耐摩耗性を評価するための耐摩耗性試験機の概略図である。
【
図5】ワイヤロープの撚り癖を評価する方法を説明するための説明図であり、(a)は、ワイヤロープの曲がり量を説明するための図であり、(b)は、ワイヤロープのうねり回数を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係るワイヤロープを説明する。ただし、以下に示す実施形態はあくまで一例であり、本発明のワイヤロープは、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
ワイヤロープ1は、
図2に示されるように、軸Xを中心として、軸Xに沿って延びる長尺状の部材である。ワイヤロープ1は、たとえば、駆動部と、駆動部から離れた位置にある従動部との間に配索され、駆動部の操作により生じた操作力により引き操作されることで、駆動部の操作力を従動部に伝達する。ワイヤロープ1は、たとえば、駆動部と従動部との間で、方向転換部材などの接触対象物に摺動しながら屈曲させられる用途に用いられる。特に、ワイヤロープ1は、方向転換部材、たとえば、回転せずにワイヤロープを案内する固定ガイドや回転軸まわりに回転するプーリなどを介して駆動部と従動部との間で配索される操作用ワイヤロープ(たとえばJIS G 3540:2012)として好適に用いられる。より具体的には、ワイヤロープ1は、たとえば、車両のウインドレギュレータや、パーキングブレーキ、フューエルリッドアクチュエータ、バイクアクセル、バイクスクリーンなどを操作するために用いることができる。ただし、本発明のワイヤロープは、車両以外の他の用途にも適用可能である。
【0012】
本実施形態のワイヤロープ1は、
図1および
図2に示されるように、複数本の素線2a、2b、2c、2dが撚り合わされた心ストランド2と、それぞれ複数本の素線3a、3bが撚り合わされた複数本の側ストランド3とが撚り合わされて構成された複撚り構造を有している。ワイヤロープ1では、心ストランド2に複数本の側ストランド3がラング撚りで撚り合わされている。本実施形態では、ワイヤロープ1は、1本の心ストランド2のまわりに、8本の側ストランド3が撚り合わされた構造(W(19)+8×7)を有している。心ストランド2は、1本の心素線2aのまわりに、6本の側素線2bが撚られ、側素線2bのまわりに径の異なる6本の側素線2cおよび6本の側素線2dがそれぞれ交互に配置されるように撚り合わされたウォーリントン撚り構造を有している。また、側ストランド3のそれぞれは、1本の心素線3aのまわりに6本の側素線3bが撚り合わされて構成されている。ただし、本発明のワイヤロープは、少なくとも心ストランドに複数本の側ストランドがラング撚りで撚り合わされた複撚り構造を有していればよく、たとえば、心ストランドおよび側ストランドのそれぞれの撚り方や、側ストランドの数などは特に限定されることはなく、ワイヤロープが用いられる用途に応じて適宜変更が可能である。
【0013】
ワイヤロープ1の径D1は、用途に応じて適宜設定することができ、特に限定されることはない。ワイヤロープ1の径D1は、たとえば、ワイヤロープ1が、方向転換部材を介して駆動部と従動部との間で配索される操作用ワイヤロープとして使用される場合には、配索性や操作性の観点から、たとえば6mm以下、好ましくは4mm以下、さらに好ましくは2mm以下に、また、強度の観点から、たとえば0.8mm以上、好ましくは1.0mm以上、さらに好ましくは1.2mm以上に設定される。
【0014】
心ストランド2および側ストランド3のそれぞれを構成する素線としては、特に限定されることはなく、たとえば、亜鉛めっき鋼線、ステンレス鋼線などの鋼線を用いることができる。また、心ストランド2および側ストランド3のそれぞれを構成する素線の径や本数は、ワイヤロープが用いられる用途やワイヤロープの構造に応じて適宜設定が可能である。
【0015】
ワイヤロープ1は、上述したように、心ストランド2に複数本の側ストランド3がラング撚りで撚り合わされた複撚り構造を有している。心ストランド2に複数本の側ストランド3をラング撚りで撚り合わせることで、ワイヤロープ1表面に現れる側ストランド3の側素線3bが長くなるため、ワイヤロープ1表面が円滑となり、普通撚りで撚られる場合と比べて良好な耐摩耗性が得られることが期待される。ところが、以下の実施例でも示されるように、ワイヤロープ1においてラング撚りを採用することで、普通撚りを採用する場合と比べてワイヤロープ1の疲労耐久性が劣化してしまう。さらに、ワイヤロープ1においてラング撚りを採用することで、ワイヤロープ1に撚り癖が生じてしまう。本発明者は、鋭意検討した結果、ラング撚りで撚られるワイヤロープ1の締め率を、3.5~9.5%とすることで、優れた疲労耐久性および耐摩耗性を実現することができるとともに、ラング撚りに特有の撚り癖を抑制することができることを見出した。ここでいう「締め率」とは、複数本の素線の各素線外径の、ワイヤロープ1の直径方向の総和である計算外径から、ワイヤロープ1の外接円の直径である実測外径を引いた値を計算外径で除して得られる値の百分率で表される値である。締め率が大きければ大きいほど、実測外径が計算外径より小さくなり、締め率が小さければ小さいほど、実測外径が計算外径に近付く。
【0016】
ワイヤロープ1の締め率を3.5%以上とすることにより、ラング撚りを採用することにより劣化する疲労耐久性や撚り癖を改善することができるとともに、優れた耐摩耗性を実現することができる。同様の観点から、ワイヤロープ1の締め率は、3.8%以上であることが好ましく、4.1%以上であることがさらに好ましく、4.4%以上であることがよりさらに好ましい。また、ワイヤロープ1の締め率を9.5%以下とすることで、締め過ぎによる撚線時の素線の断線や素線表面の損傷を抑制することができる。同様の観点から、ワイヤロープ1の締め率は、9.0%以下であることが好ましく、8.5%以下であることがさらに好ましく、8.0%以下であることがよりさらに好ましい。締め率は、特に限定されることはなく、たとえば、撚線時の撚り圧力やダイスの圧迫圧力により調整することができる。
【0017】
ワイヤロープ1は、上述したように、心ストランド2に複数本の側ストランド3がラング撚りで撚り合わされた複撚り構造を有している。したがって、ワイヤロープ1では、
図2に示されるように、ワイヤロープ1の外周上に現れる側ストランド3の側素線3bの延びる方向Dは、ワイヤロープ1の軸Xに対して傾斜している。側ストランド3の側素線3bの延びる方向Dは、心ストランド2に側ストランド3がラング撚りで撚られることにより、ワイヤロープ1の軸Xに対して傾斜していればよく、ワイヤロープ1の軸Xに対する角度θは特に限定されない。ただし、ワイヤロープ1の外周上に現れる側ストランド3の側素線3bの延びる方向Dのワイヤロープ1の軸Xに対する角度θは、21~31°であることが好ましい。側ストランド3の側素線3bの角度θを21°以上とし、ワイヤロープ1の締め率を3.5~9.5%とすることで、より確実に、優れた疲労耐久性および耐摩耗性を実現することができるとともに、撚り癖を抑制することができる。同様の観点から、側ストランド3の側素線3bの角度θは、22°以上であることが好ましく、23°以上であることがさらに好ましく、24°以上であることがよりさらに好ましい。また、側ストランド3の側素線3bの角度θを31°以下とし、ワイヤロープ1の締め率を3.5~9.5%とすることで、ワイヤロープ1のうねりや曲がり等が抑制できる。同様の観点から、側ストランド3の側素線3bの角度θは、30°以下であることが好ましく、29°以下であることがさらに好ましく、28°以下であることがよりさらに好ましい。なお、側ストランド3の側素線3bの角度θは、
図2に示されるように、ワイヤロープ1を軸Xに対して垂直方向から見たときに、軸Xと交差する側ストランド3の側素線3bの軸X近傍における、軸Xに対する角度である。側ストランド3の側素線3bの角度θは、特に限定されることはなく、たとえば、ワイヤロープ1における側ストランド3のピッチ長さや、側ストランド3における側素線3bのピッチ長さにより調整することができる。
【0018】
ワイヤロープ1において、側ストランド3の側素線3bは、
図1および
図2に示されるように、ワイヤロープ1の外周上に位置する部位において、平滑面Pを有していてもよい。平滑面Pは、側ストランド3の側素線3bのうちワイヤロープ1の最外周の素線において、ワイヤロープ1の径方向外側に面して設けられ、側素線3bに沿って延びて設けられている。平滑面Pは、ワイヤロープ1の径方向外側に面し、側素線3bの周方向の一部に設けられた平坦部Fが側素線3bの延びる方向Dに沿って延びるように形成されている。平坦部Fは、側ストランド3の側素線3bのうち、側素線3bの周方向に沿って形成された平坦な部位である。
図1に示された例では、平坦部Fは、平坦部Fの一部とワイヤロープ1の中心とを結ぶ線を半径とする仮想円Cの半径と略同一の曲率半径を有する略円弧状の部位として示されている。しかし、平坦部Fが延びて形成される平滑面Pが、接触対象物(たとえば方向転換部材)に対して面接触するように平坦(平滑)に形成されていればよく、平坦部Fは、仮想円Cの半径とは異なる曲率半径を有する略円弧状に形成されていてもよいし、略直線状に形成されていてもよい。また、平坦部Fは、側素線3bの周方向の一部、すなわち側素線3bが延在する方向Dに対して垂直に切断した側素線3bの断面の外周上のうち、ワイヤロープ1の径方向外側に面する部位に設けられている。平坦部Fは、ワイヤロープ1が接触対象物に接触した際に接触対象物に対して面接触するように、ワイヤロープ1の径方向外側に面して設けられていればよく、必ずしも仮想円C上に位置していなくてもよい。平滑面Pは、
図2に示されるように、平坦部Fが、側素線3bが延びる方向Dに略平行に延びることで、接触対象物の接触対象部位(たとえば方向転換部材の摺動溝)に対して面接触可能に形成される。
【0019】
平滑面Pは、上述したように、ワイヤロープ1が接触対象物(たとえばワイヤロープ1が案内される方向転換部材の案内溝の表面)に接触する際、接触対象物に対して面接触するように形成されている。したがって、ワイヤロープ1は、ワイヤロープ1と接触対象物との接触時における単位面積当たりの荷重を抑えることができ、それによってワイヤロープ1の摩耗や欠損を抑制することができる。なお、平滑面Pは、
図1および
図2に示された例では、仮想円Cと略同一の曲率半径を有するものとして示されている。しかし、平滑面Pは、ワイヤロープ1からの接触対象物への単位面積あたりの荷重が軽減されるように接触対象物と面接触するように形成されていていればよく、ワイヤロープ1の外周(仮想円C)と異なる曲率半径を有していてもよいし、曲面状ではなく平面状に形成されたものでもよい。平滑面Pが平面状である場合には、平滑面Pは、たとえば仮想円Cと接するように配置される。
【0020】
平滑面Pの大きさは、特に限定されることはないが、側素線3bの延びる方向Dにおける平滑面Pの長さLが、側素線3bの径D2の4.5~9.0倍であることが好ましい。側素線3bの延びる方向Dにおける平滑面Pの長さLは、
図2に示されるように、側素線3bの延びる方向Dにおける平滑面Pの両端間の長さのことであり、側素線3bの径D2は、
図1および
図2に示されるように、平滑面Pを有する側素線3bの外径のことである。平滑面Pの長さLを側素線3bの径D2の4.5倍以上とすることで、側素線3bと接触対象物との接触面積を大きく確保することができるので、側素線3bと接触対象物との接触時におけるワイヤロープ1の摩耗や欠損をより抑制することができる。同様の観点から、平滑面Pの長さLは、側素線3bの径D2の4.6倍以上であることが好ましく、4.7倍以上であることがさらに好ましく、4.8倍以上であることがよりさらに好ましい。また、平滑面Pの長さLを側素線3bの径D2の9.0倍以下とすることで、側素線3bの強度を高く維持することができるので、側素線3bの折損などを抑制することができる。同様の観点から、平滑面Pの長さLは、側素線3bの径D2の8.0倍以下であることが好ましく、7.0倍以下であることがさらに好ましく、6.0倍以下であることがよりさらに好ましい。平滑面Pの長さLは、特に限定されることはなく、たとえば、ワイヤロープ1の製造時において、心ストランド2および側ストランド3が撚り合わされた後、ダイスによる引抜加工、スウェージング加工やカセットローラダイス加工等の条件により調整することができる。
【0021】
平滑面Pは、側ストランド3の側素線3bの、ワイヤロープ1の外周上に位置する部位において、少なくとも1つ設けられていればよく、その数は特に限定されない。本実施形態のワイヤロープ1では、
図1および
図2に示されるように、複数の側ストランド3が、心ストランド2のまわりに螺旋状に撚り合わされ、側ストランド3の複数の側素線3bが、側ストランド3の心素線3aのまわりに螺旋状に撚り合わされている。これにより、複数の側素線3bにはそれぞれ、側素線3bの延びる方向Dに沿って、ワイヤロープ1の外周上に位置する部位と、ワイヤロープ1の外周(仮想円C)から径方向内側に位置する部位とが交互に繰り返して配置されることになる。複数の側素線3bはそれぞれ、ワイヤロープ1の外周上に位置する部位においては平滑面Pが形成される一方で、ワイヤロープ1の外周から径方向内側に位置する部位においては、平滑面Pが形成されることなく、側素線3bの断面が略円形となっている。ワイヤロープ1では、ワイヤロープ1の軸X方向および周方向にわたって、接触対象物に接触する可能性がある、ワイヤロープ1の外周上に位置する部位、すなわちワイヤロープ1の外周において露出する複数の側素線3bの部位(本実施形態では、外周に露出するすべての部位)において、複数の平滑面Pが形成されている。
【0022】
上述したように、ワイヤロープ1のうち、接触対象物と接触することがない、ワイヤロープ1の外周に露出していない部位においては、側ストランド3の側素線3bは、平滑面Pが形成されることなく、断面が略円形に形成されている。側ストランド3の側素線3bは、側ストランド3の心素線3aのまわりに螺旋状に撚り合わされているために、側素線3bには、ワイヤロープ1の外周に露出している部位と、ワイヤロープ1の外周より径方向内側に位置する部位とが、側素線3bの延びる方向Dに沿って交互に繰り返して配置されている。したがって、側ストランド3の複数の側素線3bのそれぞれは、平滑面Pが形成された部分と、断面が略円形の部分とが、側素線3bの延びる方向Dに沿って交互に繰り返して形成されている。このように、側ストランド3の側素線3bにおいて、平滑面Pが形成されたワイヤロープ1の外周上に位置する部位以外は断面略円形であるので、側素線3bの強度の低下を抑制することができる。したがって、ワイヤロープ1は、ワイヤロープ1が、たとえば方向転換部材によって方向が転換されて屈曲させられても、側素線3bの全長に亘って平滑面Pが形成される場合と比べて、側素線3bが切断する起点となるような場所が生じにくいので、疲労耐久性の低下を抑制することができる。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されない。なお、上記した実施形態は、以下の構成を有する発明を主に説明するものである。
【0024】
(1)複数本の素線が撚り合わされた心ストランドと、
それぞれ複数本の素線が撚り合わされた複数本の側ストランドと
が撚り合わされて構成された複撚り構造を有するワイヤロープであって、
前記心ストランドに前記複数本の側ストランドがラング撚りで撚り合わされ、
前記ワイヤロープの締め率が、3.5~9.5%である、
ワイヤロープ。
【0025】
(2)前記ワイヤロープの外周上に現れる前記側ストランドの側素線の延びる方向の前記ワイヤロープの軸方向に対する角度が、21~31°である、
(1)に記載のワイヤロープ。
【0026】
(3)前記側ストランドの側素線は、前記ワイヤロープの外周上に位置する部位において、前記ワイヤロープの径方向外側に面し、前記側素線の周方向の一部に設けられた平坦部が、前記側素線の延びる方向に沿って延びる平滑面を有し、
前記側素線の延びる方向における前記平滑面の長さが、前記側素線の径の4.5~9.0倍である、
(1)または(2)に記載のワイヤロープ。
【0027】
(4)前記ワイヤロープが、方向転換部材を介して駆動部と従動部との間で配索される操作用ワイヤロープである、
(1)~(3)のいずれか1つに記載のワイヤロープ。
【実施例0028】
以下、実施例および比較例を挙げて、本実施形態のワイヤロープ1により得られる効果を具体的に説明する。ただし、本発明のワイヤロープは、これらの実施例に限定されることはない。
【0029】
(実施例1~8)
鋼線(材質:JIS G 3506 SWRH62A)に亜鉛めっきを施した外径1.0mmの母材を伸線加工して、表1に示される径を有する素線を得た。これらの素線を撚り合わせて、計算外径が1.61mmで、
図1に示される構造(W(19)+8×7)を有するワイヤロープ1を作製した。実施例1~8のワイヤロープ1は、表2に示されるように、ワイヤロープ1における側ストランド3の撚り方向および側ストランド3における側素線3bの撚り方向を互いに同じにすることで、ラング撚り構造とした。また、ワイヤロープ1の締め率(表2中では、締め率(%))、側ストランド3の側素線3bの延びる方向Dの軸Xに対する角度θ(表2中では、側素線角度(°))、側ストランド3の側素線3bの径D2に対する平滑面Pの長さLの倍率(表2中では、平滑面長さ倍率(倍))は、ダイスによる引抜加工の条件や、ワイヤロープ1における側ストランド3の撚りピッチ(ワイヤロープピッチ)および側ストランド3における側素線3bの撚りピッチ(側ストランドピッチ)を調整することにより、表2に示される値になるように調整した。
【0030】
(比較例1~6)
表1に示される素線を撚り合わせて、計算外径が1.61mmで、
図1に示される構造(W(19)+8×7)を有するワイヤロープ1を作製した。比較例1~4のワイヤロープ1は、表2に示されるように、ワイヤロープ1における側ストランド3の撚り方向および側ストランド3における側素線3bの撚り方向を互いに逆にすることで、普通撚り構造とした。比較例5~6のワイヤロープ1は、ワイヤロープ1における側ストランド3の撚り方向および側ストランド3における側素線3bの撚り方向を互いに同じにすることで、ラング撚り構造とした。また、ワイヤロープ1の締め率、側ストランド3の側素線3bの延びる方向Dの軸Xに対する角度θ、側ストランド3の側素線3bの径D2に対する平滑面Pの長さLの倍率は、ダイスによる引抜加工の条件や、ワイヤロープ1における側ストランド3の撚りピッチおよび側ストランド3における側素線3bの撚りピッチを調整することにより、表2に示される値になるように調整した。
【0031】
【0032】
【0033】
(疲労耐久性評価)
ワイヤロープ1の疲労耐久性を、
図3に示される疲労耐久性試験機FMにより評価した。疲労耐久性試験機FMにおいて、ワイヤロープ1は、ワイヤロープ1の一端1aおよび他端1bをそれぞれエアシリンダFM1およびウエイトFM2(10kg、98N)に連結し、エアシリンダFM1とウエイトFM2との間に配索した。ワイヤロープ1は、エアシリンダFM1とウエイトFM2との間で、回転式方向転換部材(30mm径の回転プーリ)FM3および固定式方向転換部材(40mm径の固定ガイド)FM4により方向転換させ、ストッパFM5を貫通させて配索した。疲労耐久性評価では、エアシリンダFM1によりワイヤロープ1を方向A1に牽引し、ストッパFM5にウエイトFM2が当接した状態で、ワイヤロープ1に490Nの荷重を0.5秒間負荷し、その後ワイヤロープ1を方向A2に移動させる動作を繰り返した(往復動作)。その際、ワイヤロープ1のストロークを150mmとし、動作速度を20往復/分とした。疲労耐久性評価は、ワイヤロープ1が破断するまでの往復回数を測定し、ワイヤロープ1が破断するまでの往復回数が、10万回以上の場合に「◎」、6万回以上で10万回未満の場合に「○」、3万回以上で6万回未満の場合に「△」、3万回未満の場合に「×」とした。
【0034】
(耐摩耗性評価)
ワイヤロープ1の耐摩耗性を、
図4に示される耐摩耗性試験機AMにより評価した。ワイヤロープ1は、ワイヤロープ1の一端1aおよび他端1bをそれぞれエアシリンダAM1およびウエイトAM2(10kg、98N)に連結し、エアシリンダAM1とウエイトAM2との間に配索した。ワイヤロープ1は、エアシリンダAM1とウエイトAM2との間で、2つの回転式方向転換部材(30mm径の回転プーリ)AM3および1つの固定式方向転換部材(40mm径の固定ガイド)AM4により方向転換させて、2つの回転式方向転換部材AM3の間に配置された摺動板AM5に接触(摺動)するように配索した。ワイヤロープ1は、2つの回転式方向転換部材AM3の間以外の場所では、アウターケーシングAM6内に摺動可能に収容した。摺動板AM5には、ワイヤロープ1が接触(摺動)する面が凸となるように湾曲した亜鉛めっき鋼板を用いた。耐摩耗性は、ダスト噴霧器AM7により摺動板AM5上にダストを噴霧しながら、エアシリンダAM1によりワイヤロープ1を方向A1、A2で往復動作させたときの、ワイヤロープ1の減径率(=(試験前の径-試験後の径)/試験前の径×100)により評価した。その際、ワイヤロープ1のストロークを300mmとし、動作速度を1往復/分とした。また、ダストの噴霧では、ダストとして試験用ダスト(JIS Z 8901:2006)1種、2種、7種、水を1:2:1:12の割合で混合したものを用い、噴霧量は1g/分とした。耐摩耗性評価は、ワイヤロープ1を20000往復動作させた後のワイヤロープ1の減径率を測定し、減径率が4%未満の場合に「◎」、4%以上で5%未満の場合に「○」、5%以上の場合に「×」とした。また、上記減径率に関わらず、最外層の素線が切損した場合にも、耐摩耗性評価を「×」とした。なお、疲労耐久性評価において破断回数が6万回未満のワイヤロープ1については、耐摩耗性評価は行わなかった。
【0035】
(撚り癖評価)
ワイヤロープ1の撚り癖を、
図5(a)、(b)に示されるように、1000mmのワイヤロープ1の一端1aを固定して、ワイヤロープ1の他端1bを鉛直方向の下方に垂らしたときの、ワイヤロープ1の曲がり量(
図5(a))とうねり回数(
図5(b))により評価した。ワイヤロープ1の曲がり量は、ワイヤロープ1の一端1aが固定された位置から下した垂線PLに対して、ワイヤロープ1の他端1bが水平方向に変位した長さDLとした。ワイヤロープ1のうねり回数は、ワイヤロープ1の一端1aと他端1bとの間で、ワイヤロープ1の一端1aが固定された位置から下した垂線PLに対してワイヤロープ1が水平方向に変位した回数とした。
図5(b)に示された例では、うねり回数は3回である(図中、矢印を参照)。撚り癖評価は、曲がり量が100mm未満であり、かつ、うねり回数が1回以下の場合に「○」、曲がり量が100mm以上であるか、またはうねり回数が2回以上の場合に「×」とした。
【0036】
(評価結果)
表2を参照すると、ラング撚り構造を有し、締め率が3.5~9.5%の範囲内の実施例1~8については、優れた疲労耐久性および耐摩耗性が得られているとともに、撚り癖が抑制されていることが分かる。それに対して、普通撚り構造を有し、締め率が3.5~9.5%の範囲内の比較例1~3については、撚り癖は抑制されているものの、実施例1~8と比べて耐摩耗性が劣り、要求される性能が得られていないことが分かる。特に、普通撚り構造を有し、締め率が3.5~9.5%の範囲外の比較例4については、比較例1~3と比べても、疲労耐久性が劣ることが分かる。なお、比較例1~4は、側素線角度が、21~31°の範囲外にあり、平滑面長さ倍率が、4.5~9.0倍の範囲外であった。その点もまた、十分な疲労耐久性および耐摩耗性が得られない要因となっていると考えられる。また、ラング撚り構造を有するものの、締め率が3.5~9.5%の範囲外の比較例5~6については、実施例1~8と比べて疲労耐久性が劣るとともに、撚り癖が生じていることが分かる。
【0037】
また、ラング撚り構造を有し、締め率が3.5~9.5%の範囲内の実施例1~8の中で比較すると、側素線角度が21~31°の範囲外にある実施例5および6については、要求される疲労耐久性および耐摩耗性が得られているものの、側素線角度が21~31°の範囲内にある実施例1~4の方が、さらに優れた疲労耐久性および耐摩耗性が得られていることが分かる。また、平滑面長さ倍率が4.5~9.0倍の範囲外にある実施例7および8については、要求される疲労耐久性および耐摩耗性が得られているものの、平滑面長さ倍率が4.5~9.0倍の範囲内にある実施例1~4の方が、さらに優れた疲労耐久性および耐摩耗性が得られていることが分かる。
【0038】
以上に示したように、ワイヤロープ1を、心ストランド2に複数本の側ストランド3がラング撚りで撚り合わされた複撚り構造とし、ワイヤロープ1の締め率を3.5~9.5%の範囲内とすることにより、優れた疲労耐久性および耐摩耗性を得ることができ、撚り癖を抑制することができる。さらに、側ストランド3の側素線3bの延びる方向Dの軸Xに対する角度θを21~31°の範囲内とすることで、さらに優れた疲労耐久性および耐摩耗性を得ることができる。また、側ストランド3の側素線3bの径D2に対する平滑面Pの長さLの倍率を、4.5~9.0倍の範囲内とすることで、さらに優れた疲労耐久性および耐摩耗性を得ることができる。