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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060201
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び、制御方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240424BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240424BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240424BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167408
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱口 剛
(72)【発明者】
【氏名】西郷 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】菅本 周作
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232CC46
3D232DA03
3D232DA23
3D232DA25
3D232DA29
3D232DA33
3D232DA76
3D232DA84
3D232DA88
3D232DB11
3D232DC33
3D232DC38
3D232DD06
3D232EA01
3D232EB12
3D232EC12
3D232EC34
3D232EC35
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】制御の切り替えに伴う操舵トルクの変動を効果的に抑える。
【解決手段】所定の第1ゲインに基づいて操舵トルクを出力する第1制御と、第1ゲインとは異なる所定の第2ゲインに基づいて操舵トルクを出力する第2制御とを実行可能に構成された車両の制御装置であって、第1制御の実行中に、第2制御の開始条件が成立するまでの予測時間である開始予測時間を演算するとともに、開始予測時間が所定条件を満たす場合、第2制御を開始するよりも前に、第1制御の出力操舵トルクを0に近づける縮退制御を実行する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の第1ゲインに基づいて操舵トルクを出力する第1制御と、前記第1ゲインとは異なる所定の第2ゲインに基づいて操舵トルクを出力する第2制御とを実行可能に構成された車両の制御装置であって、
前記第1制御の実行中に、前記第2制御の開始条件が成立するまでの予測時間である開始予測時間を演算するとともに、前記開始予測時間が所定条件を満たす場合、前記第2制御を開始するよりも前に、前記第1制御の出力操舵トルクを0に近づける縮退制御を実行する
車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置であって、
前記第2ゲインは前記第1ゲインよりも大きいゲインであって、前記第2制御は前記第1制御よりも目標舵角に対する舵角追従性が高い操舵制御である
車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両の制御装置であって、
前記縮退制御の実行により前記第1制御の出力操舵トルクが0になるまでの予測時間である縮退予測時間を演算するとともに、前記縮退予測時間が前記開始予測時間よりも短い場合、前記所定条件を満たさないと判定する
車両の制御装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の車両の制御装置であって、
前記第1制御は、前記車両の周囲の状況に応じた運転者の操舵操作部に対する適正操作量を予測するとともに、当該適正操作量を含む適正操作範囲を設定し、前記運転者の操作量が前記適正操作範囲内となるように前記操舵操作部の反力特性を変更する反力制御であり、
前記第2制御は、前記車両の走行レーンからの逸脱を抑制するレーン逸脱抑制制御、又は、前記車両を走行レーンに維持するレーン維持支援制御、又は、前記車両と障害物との衝突を回避する操舵回避支援制御の何れかの操舵制御である
車両の制御装置。
【請求項5】
所定の第1ゲインに基づいて操舵トルクを出力する第1制御と、前記第1ゲインとは異なる所定の第2ゲインに基づいて操舵トルクを出力する第2制御とを実行可能に構成された車両の制御方法であって、
前記第1制御の実行中に、前記第2制御の開始条件が成立するまでの予測時間である開始予測時間を演算するとともに、前記開始予測時間が所定条件を満たす場合、前記第2制御を開始するよりも前に、前記第1制御の出力操舵トルクを0に近づける縮退制御を実行する
車両の制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制御装置及び、制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、外部環境に応じた運転者の操作量を予測するとともに、運転者の実際の操作量との乖離量を演算し、操作部の反力特性を乖離量に応じた反力特性に変更することにより、運転者の操作量の最適化を図るようにした運転支援装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-209844号公報
【発明の概要】
【0004】
運転支援として複数の操舵制御を実行可能な運転支援装置においては、実行中の操舵制御を他の操舵制御に切り替える場合がある。一般に、複数の操舵制御は目的が異なることから、目標舵角に対する舵角追従性も異なる。このため、実行中の操舵制御を舵角追従性が異なる他の操舵制御に切り替える場合には、制御の切り替えに伴い操舵トルクが急変し、運転者を含む車両の乗員に違和感を与えるといった課題がある。
【0005】
本開示の目的の一つは、制御の切り替えに伴う操舵トルクの変動を効果的に抑えることができる技術を提供することにある。
【0006】
本開示は、所定の第1ゲインに基づいて操舵トルクを出力する第1制御と、前記第1ゲインとは異なる所定の第2ゲインに基づいて操舵トルクを出力する第2制御とを実行可能に構成された車両の制御装置及び、制御方法であって、前記第1制御の実行中に、前記第2制御の開始条件が成立するまでの予測時間である開始予測時間を演算するとともに、前記開始予測時間が所定条件を満たす場合、前記第2制御を開始するよりも前に、前記第1制御の出力操舵トルクを0に近づける縮退制御を実行する。
【0007】
以上の制御装置及び、制御方法によれば、第1制御の実行中に、操舵制御を第1制御とはゲインが異なる第2制御に切り替える場合には、第2制御を開始するよりも前に、第1制御の出力操舵トルクを0に近づける縮退制御を実行する。これにより、制御の切り替えに伴う操舵トルクの変動を効果的に抑えることができ、車両の乗員に違和感を与えることも効果的に防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係る車両のハードウェア構成を示す模式図である。
図2】本実施形態に係る制御装置のソフトウェア構成を示す模式図である。
図3】走行レーン情報を説明する模式図である。
図4】本実施形態に係る切り替え制御を説明するタイミングチャートである。
図5】本実施形態に係る切り替え制御のルーチンを説明するフローチャートである。
図6】比較例の切り替え制御を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本実施形態に係る車両の制御装置及び、制御方法を説明する。
【0010】
[ハードウェア構成]
図1は、本実施形態に係る制御装置が適用された車両SVのハードウェア構成を示す模式図である。
【0011】
車両SVは、ECU(Electronic Control Unit)10を有する。ECU10は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13及びインターフェース装置14等を備える。CPU11は、ROM12に格納されている各種プログラムを実行するプロセッサである。ROM12は、不揮発性メモリであって、CPU11が各種プログラムを実行するために必要なデータ等を記憶する。RAM13は、揮発性メモリであって、各種プログラムがCPU11によって実行される際に展開される作業領域を提供する。インターフェース装置14は、外部装置と通信するための通信デバイスである。
【0012】
ECU10は、車両SVの運転者による運転操作を支援する運転支援を行う中枢となる装置である。ECU10は、運転支援として操舵介入の度合いが比較的小さい通常支援モードと、操舵介入の度合いが比較的大きい回避支援モードとを実行可能であり、通常支援モードと回避支援モードとを切り替えることができる。
【0013】
通常支援モードとは、運転者主体の運転支援を行うモードである。本実施形態においては、運転者の操舵操作量が適切な操作量となるように、操舵操作部の反力特性を変更する反力制御が行われる。回避支援モードとは、システム主体の運転支援を行うモードである。本実施形態においては、車両SVが走行レーンから逸脱することを抑制するレーン逸脱抑制制御(Lane Departure Alert Control:以下、LDA制御)が行われる。これら反力制御及び、LTA制御の詳細については後述する。
【0014】
ECU10には、駆動装置20、制動装置21、操舵装置22、内界センサ装置30、外界センサ装置40等が通信可能に接続されている。
【0015】
駆動装置20は、車両SVの駆動輪に伝達する駆動力を発生させる。駆動装置20としては、例えば、電動モータ、エンジンが挙げられる。本実施装置において、車両SVは、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)、電気自動車(BEV)、エンジン車の何れであってもよい。制動装置21は、車両SVの車輪に制動力を付与する。
【0016】
操舵装置22は、車両SVの車輪に転舵力を付与する。操舵装置22は、ラックアンドピニオン式、或は、ステアリングバイワイヤ式の何れであってもよい。操舵装置22は、ステアリングホイールSW等を含む操舵操作部23を有する。また、操舵装置22は、ステアリングシャフト24に操舵トルクを付与する転舵用モータ25を備える。転舵用モータ25は、ECU10からの指令に応じて操舵トルクを発生する。この操舵トルクにより、車両SVの左右の操舵輪を転舵することができ、さらには、ステアリングホイールSWに運転者の操作に対する反力を付与することができる。なお、操舵操作部23は、ステアリングホイールSWに限定されず、操舵桿等、ホイール以外の形状であってもよい。
【0017】
内界センサ装置30は、車両SVの状態を検出するセンサ類である。具体的には、内界センサ装置30は、車速センサ31、操舵角センサ32、ヨーレイトセンサ33、加速度センサ34等を備えている。
【0018】
車速センサ31は、車両SVの走行速度(車速V)を検出する。操舵角センサ32は、車両SVの不図示のステアリングホイール又はテアリングシャフトの回転角、すなわち操舵角を検出する。ヨーレイトセンサ33は、車両SVのヨーレイトを検出する。加速度センサ34は、車両SVの加速度を検出する。内界センサ装置30は、各センサ31~34によって検出される車両SVの状態をECU10に所定の周期で送信する。
【0019】
外界センサ装置40は、車両SVの周囲の物標に関する物標情報を認識するセンサ類である。具体的には、外界センサ装置40は、レーダセンサ41、カメラセンサ42等を備える。ここで、物標情報としては、例えば、周辺車両、路面に描かれた白線等の区画線、縁石、ガードレール、壁等が挙げられる。外界センサ装置40は、取得した物標情報をECU10に所定の時間が経過する毎に繰り返し送信する。
【0020】
レーダセンサ41は、例えば、車両SVの前部に設けられており、車両SVの前方領域に存在する物標を検知する。レーダセンサ41には、ミリ波レーダ及び、又はライダが含まれる。ミリ波レーダは、ミリ波帯の電波(ミリ波)を放射し、放射範囲内に存在する物標によって反射されたミリ波(反射波)を受信する。ミリ波レーダは、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベル及び、ミリ波を送信してから反射波を受信するまでの時間等に基づいて、車両SVと物標との相対距離、車両SVと物標との相対速度等を取得する。ライダは、ミリ波よりも短波長のパルス状のレーザ光を複数の方向に向けて順次走査し、物標により反射される反射光を受光することにより、車両SVの前方に検知された物標の形状、車両SVと物標との相対距離、車両SVと物標との相対速度等を取得する。
【0021】
カメラセンサ42は、例えば、ステレオカメラや単眼カメラであり、CMOSやCCD等の撮像素子を有するデジタルカメラを用いることができる。カメラセンサ42は、例えば、車両SVのフロントウインドシールドガラスの上部に配設されている。カメラセンサ32は、車両SVの前方を撮像し、撮像した画像データを処理することにより、車両SVの前方の物標情報を取得する。物標情報は車両SVの前方に検知された物標の種類、車両SVと物標との相対距離、車両SVと物標との相対速度等を表す情報である。物標の種類は、例えば、パターンマッチング等の機械学習によって認識すればよい。
【0022】
[ソフトウェア構成]
図2は、本実施形態に係るECU10のソフトウェア構成を示す模式図である。図2に示すように、ECU10は、レーン認識部100、反力制御部110、LDA制御部120、切り替え制御部130等を機能要素として備える。これら各機能要素100~130は、ECU10のCPU11がROM12に格納されているプログラムをRAM13に読み出して実行することにより実現される。なお、各機能要素100~130は、本実施形態では一体のハードウェアであるECU10に含まれるものとして説明するが、これらの何れか一部をECU10とは別体の他のECUに設けることもできる。また、ECU10の各機能要素100~130の全部又は一部は、車両SVと通信可能な施設(例えば、管理センタ等)の情報処理装置に設けることもできる。
【0023】
レーン認識部100は、外界センサ装置40の検出結果に基づき、車両SVが走行中の走行レーンを認識する。ここで、走行レーンとは、路面に描かれた白線や黄色線等の区画線のみならず、縁石、ガードレール、壁等の構造物によって画定される走行領域をいう。なお、以下では、便宜上、これら区画線や構造物等によって画定される走行領域の境界を「境界線」と称する。
【0024】
レーン認識部100は、図3に示すように、左境界線LLと右境界線LRとを認識する。また、レーン認識部100は、これら左右境界線LL,LRの中央位置となる中央ラインLCのカーブ半径Rを演算するとともに、中央ラインLCの方向と車両SVの向いている方向とのずれ角θy(ヨー角θy)を演算する。さらに、レーン認識部100は、車両SVの左前輪と左境界線LLとの間、および、右前輪と右境界線LRとの間のそれぞれの道路幅方向の距離(以下、横偏差Δx)を演算する。図3は、左前輪と左境界LLとの間の横偏差Δxのみを示している。この場合、横偏差Δxは、左右2つ存在するが、後述するLDA制御にあたっては、車両SVが走行レーンから逸脱すると推定される方向、つまり、ヨー角θyによって示されている方向の横偏差Δxを用いればよい。以下、レーン認識部100によって演算される横偏差Δx、ヨー角θy及び、カーブ半径Rをまとめて走行レーン情報とも称する。
【0025】
反力制御部110は、運転支援が通常支援モードである場合に、運転者の主体感を維持しつつ、運転者のステアリングホイールSWの操作量が適切となるように操舵操作部23の反力特性を変更する反力制御を実行する。反力特性とは、ステアリングホイールSWに対する運転者の操作量に応じて、転舵用モータ25からステアリングシャフトSWに付与する反力の特性である。
【0026】
反力制御部110は、内界センサ装置30の検出結果及び、レーン認識部100により取得される走行レーン情報に基づき、運転者の適正操作量を予測する。適正操作量とは、運転者が車両SVの周囲の状況に対応して通常行うであろうステアリングホイールSWの操作量である。反力制御部110は、予想した適正操作量と、運転者の実際の操作量(実操作量)とを比較する。運転者の操作量は、操舵角センサ32の検出結果に基づいて取得すればよい。
【0027】
反力制御部110は、実操作量が適正操作量である場合、操舵操作部22の反力特性を所定の基準反力特性に維持する。一方、反力制御部110は、実操作量が適正操作量でない場合、操舵操作部22の反力特性を基準反力特性から主体感維持反力特性に変更する。主体感維持反力特性は、運転者の主体感を維持しつつ、実操作量を適正操作量に留まりやすくする反力特性であって、基準反力特性からの微小変更により設定することができる。主体感維持反力特性は、一例として、実操作量が適正操作量にあるときの反力変化量を、実操作量が適正操作量から乖離しているか、または乖離しそうなときの反力変化量よりも大きくすることにより設定することができる。
【0028】
反力制御部110は、反力特性を主体感維持反力特性に変更すると、主体感維持反力特性に基づいて反力制御の目標舵角(以下、反力目標舵角σA)を演算する。また、反力制御部110は、反力目標操舵角σAと、操舵角センサ32により取得される実舵角σDとの舵角差Δσに、所定のトルクゲイン(以下、反力トルクゲインτA)を乗じることにより、反力支援トルクτSA(=τA(σA-σD))を演算する。また、反力制御部110は、反力支援トルクτSAを表す情報を含んだ指令信号を操舵装置22に送信する。これにより、転舵用モータ25からステアリングシャフトSWに反力支援トルクτSAが伝達され、ステアリングホイールSWに所望の反力が付与される。
【0029】
LDA制御部120は、車両SVが走行レーンから逸脱しそうになると、車両SVの走行レーンからの逸脱を抑制するLDA制御を実行する。LDA制御部120は、レーン認識部100により取得される走行レーン情報(Δx,θY,R)に基づき、LDA制御の目標舵角(以下、LDA目標舵角σB)を演算する。LDA目標舵角σBは、車両SVが境界線LL,LRの外側に逸脱しないように設定される舵角である。
【0030】
LDA制御部120は、LDA開始条件が成立するかを判定する。LDA開始条件としては、例えば、車両SVが境界線LL,LRに到達するまでの予測到達時間TRが所定の閾値時間Tvよりも短くなった場合が挙げられる(TR<Tv)。予測到達時間TRは、車両SVが境界線LL,LRに到達するまで等加速度直線運動をするものと仮定する以下の数式(1)に基づいて求めることができる。
【数1】
数式(1)において、Δxは横偏差、Vは車両SVの車速、YRは車両SVのヨーレイトである。
【0031】
LDA制御部120は、LDA開始条件が成立すると、LDA目標操舵角σBと、操舵角センサ32により取得される実舵角σDとの舵角差Δσに、所定のトルクゲイン(以下、LDAトルクゲインτB)を乗じることにより、LDA支援トルクτSB(=τB(σB-σD))を演算する。また、LDA制御部120は、LDA支援トルクτSBを演算すると、LDA支援トルクτSBを表す情報を含んだ指令信号を操舵装置22に送信する。これにより、転舵用モータ25からステアリングシャフトSWにLDA支援トルクτSBが伝達され、車両SVの操舵輪が転舵されることで、車両SVの走行レーンから逸脱が抑制される。
【0032】
ここで、運転支援が通常支援モードから回避支援モードに切り替わる場合、すなわち、操舵制御が反力制御からLDA制御に遷移する場合を想定する。反力制御は、目標舵角に対する舵角追従性が低い運転者主体の運転支援であり、LDA制御は、目標舵角に対する舵角追従性が高いシステム主体の運転支援である。一般に、トルクゲインが小さいほど、目標舵角に対する舵角追従性が低くなり、目標舵角と実舵角との舵角差は大きくなる。一方、トルクゲインが大きいほど、目標舵角に対する舵角追従性が高くなり、目標舵角と実舵角との舵角差は小さくなる。このため、操舵制御を舵角追従性の低い反力制御から、舵角追従性の高いLDA制御に切り替える場合には、目標舵角を徐々に変化させ、舵角を滑らかにつなぐことが考えられる。
【0033】
図6は、操舵制御を反力制御からLDA制御に切り替える際に、舵角を滑らかにつなぐ場合の一例を説明するタイミングチャートである。図6は、本開示の比較例である。図6の時刻t1~t2は、舵角を滑らかにつなぐために、目標舵角(σS参照)を反力目標舵角σAからLDA目標操舵角σBに向けて徐々に変化させる徐変期間を示している。LDA制御は反力制御よりも舵角追従性が高いため、LDAトルクゲインτBは反力トルクゲインτAよりも大きい関係にある(τA<τB)。このため、目標舵角を徐変させる徐変期間を設けたとしても、制御の切り替え前後で、出力操舵トルクが反力支援トルクτSA(=τA(σA-σD))からLDA支援トルクτSB(=τB(σB-σD))に大きく変化することで、トルク急変が発生する(図6中のα参照)。トルク急変が発生すると、運転者を含む乗員に違和感や不快感を与えるといった課題がある。また、徐変期間は、図6中に破線で示すLDA目標操舵角σBが実舵角σDから大きく乖離することで、LDA制御の舵角追従性を悪化させるといった課題もある(図6中のβ参照)。
【0034】
そこで、本実施形態の切り替え制御部130は、反力制御をLDA制御に切り替えるよりも前に、反力支援トルクτSAを0(ゼロ)に近づける事前縮退制御を実行することにより、制御の切り替えに伴うトルク急変を抑制するようにした。以下、事前縮退制御の詳細を図4に示すタイミングチャートに基づいて説明する。
【0035】
図4の時刻t0にて、運転支援は通常支援モードであり、反力制御が実行されているものとする。切り替え制御部130は、反力制御の実行中、反力目標操舵角σAと実舵角σDとの舵角差Δσを所定の周期で繰り返し演算する。また、切り替え制御部130は、現在時刻からLDA制御の開始条件が成立するまでの予測時間(以下、開始予測時間TB)を所定の周期で繰り返し演算する。開始予測時間TBは、現在時刻から前述の予測到達時間TRが閾値時間Tvよりも短くなるまでの時間である。
【0036】
切り替え制御部130は、予め設定したトルク漸減勾配τgrに基づき、現在の反力支援トルクτSAを略0(ゼロ)にするまでに要する予測時間(以下、縮退予測時間Td)を演算する。トルク漸減勾配τgrは、反力支援トルクτSAを0(ゼロ)まで漸減させるトルク変化率(単位時間当たりの変化量)であって、運転者に違和感を与えないか、或は、違和感を極小に抑えられる値を基準に設定される。トルク漸減勾配τgrは、固定値でもよく、或は、舵角差Δσに応じた可変値であってもよい。
【0037】
切り替え制御部130は、舵角差Δσをトルク漸減勾配τgrで除することにより縮退予測時間TD(=Δσ/τgr)を演算する。切り替え制御部130は、縮退予測時間TDが開始予測時間TB以上となったか否かを判定する。時刻t1にて縮退予測時間TDが開始予測時間TB以上となった場合(TD≧TB)、切り替え制御部130は、時刻t1から事前縮退制御を開始する。
【0038】
切り替え制御部130は、事前縮退制御の実行により、舵角差Δσが0(ゼロ)になったか否かを判定する。切り替え制御部130は、時刻t2にて、舵角差Δσが0(ゼロ)となり、これに伴い、反力支援トルクτSAも略0(ゼロ)になると、事前縮退制御を終了するとともに、LDA制御を開始、すなわち、操舵制御を反力制御からLDA制御に切り替える。このように、反力支援トルクτSAが略0(ゼロ)の状態で、LDA制御を開始することで、これら反力制御及びLDA制御の舵角追従性(トルクゲインτA,τB)が異なる場合であっても、切り替えに伴うトルク変動の発生を効果的に抑えることが可能になる。また、LDA制御を舵角差Δσが0(ゼロ)の状態から開始することで、LDA制御の舵角追従性も効果的に確保することが可能になる。さらに、反力支援トルクτSAが略0(ゼロ)になるまでの時間が残されている限り、反力制御を継続することで、反力制御の作動時間を最大限確保することも可能になる。
【0039】
図5は、ECU10のCPU11による切り替え制御のルーチンを説明するフローチャートである。本ルーチンは、反力制御の実行により開始される。
【0040】
ステップS100では、ECU10は、反力制御が実行中であるか否かを判定する。反力制御が実行中の場合(Yes)、ECU10は、ステップS110の処理に進む。一方、反力制御が実行中でない場合(No)、ECU10は、本ルーチンをリターンする。
【0041】
ステップS110では、ECU10は、反力目標操舵角σAと実舵角σDとの舵角差Δσを演算するとともに、現在時刻からLDA制御の開始条件が成立するまでの開始予測時間TBを演算する。次いで、ステップS120では、ECU10は、舵角差Δσをトルク漸減勾配τgrで除した縮退予測時間TD(=Δσ/τgr)が開始予測時間TB以上になったか否かを判定する。縮退予測時間TDが開始予測時間TB以上になった場合(Yes)、ECU10は、ステップS130の処理に進む。一方、縮退予測時間TDが開始予測時間TBよりも短い場合(No)、ECU10は、ステップS100の判定処理に戻る。
【0042】
ステップS130では、ECU10は、反力支援トルクτSAをトルク漸減勾配τgrに基づき略0(ゼロ)に近づける事前縮退制御を実行する。次いで、ステップS140では、ECU10は、事前縮退制御の実行により、舵角差Δσが0(ゼロ)になったか否かを判定する。舵角差Δσが0(ゼロ)になっていない場合(No)、ECU10は、ステップS130の処理に戻り、事前縮退制御を継続する。一方、舵角差Δσが0(ゼロ)になった場合(Yes)、ECU10は、ステップS150の処理に進み、LDA制御を開始する。その後、ECU10は、本ルーチンをリターンする。
【0043】
以上、本実施形態に係る車両の制御装置及び、制御方法について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0044】
例えば、上記実施形態において、切り替え制御部130は、運転支援を通常支援モードから回避支援モードに切り替える場合、すなわち、操舵制御を反力制御からLDA制御に遷移させる場合に事前縮退制御を実行するものとしたが、運転支援を回避支援モードから通常支援モードに切り替える場合、すなわち、操舵制御をLDA制御から反力制御に遷移させる場合も事前縮退制御を実行することが可能である。この場合も、制御の切り替えに伴うトルク急変(急減)を抑えることができ、運転者に違和感を与えることを効果的に防止することが可能になる。
【0045】
また、回避支援モードは、LDA制御に限定されず、レーン維持支援制御(LTA制御)、操舵回避制御(PCS制御)等、操舵介入の度合いが比較的大きい他の操舵制御であってもよい。
【0046】
また、本開示の適用は、操舵制御に限定されず、パワートレーン等の一般的なアクチュエータの制御において、一つのアクチュエータに対しゲインが異なる2以上の制御を切り替える場合にも適用することが可能である。このような制御の一例としては、例えば、電動モータの回生ブレーキ力をより強いブレーキ力に切り替える制御等が挙げられる。
【0047】
また、車両SVは、自動運転と手動運転とを切り替え可能な車両であってもよい。この場合、手動運転時に本開示の制御を実行すればよい。
【符号の説明】
【0048】
10…ECU,20…駆動装置,21…制動装置,22…操舵装置,30…内界センサ装置,40…外界センサ装置,100…レーン認識部,110…反力制御部,120…LDA制御部,130…切り替え制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6