特開 2024-60206 バッテリーケースのシール構造

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024060206

(43)【公開日】2024-05-02

(54)【発明の名称】バッテリーケースのシール構造

(51)【国際特許分類】

   H01M 50/204 20210101AFI20240424BHJP

   H01M 50/271 20210101ALI20240424BHJP

   H01M 50/28 20210101ALI20240424BHJP

   H01M 50/229 20210101ALI20240424BHJP

   H01M 50/227 20210101ALI20240424BHJP

   H01M 50/231 20210101ALI20240424BHJP

   H01M 50/282 20210101ALI20240424BHJP

   H01M 50/278 20210101ALI20240424BHJP

   F16J 15/14 20060101ALN20240424BHJP

【ＦＩ】

H01M50/204 101

H01M50/271 B

H01M50/28

H01M50/229

H01M50/227

H01M50/231

H01M50/282

H01M50/278

F16J15/14 C

F16J15/14 D

【審査請求】未請求

【請求項の数】3

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2022167416

(22)【出願日】2022-10-19

(71)【出願人】

【識別番号】000003997

【氏名又は名称】日産自動車株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100102141

【弁理士】

【氏名又は名称】的場 基憲

(74)【代理人】

【識別番号】100137316

【弁理士】

【氏名又は名称】鈴木 宏

(72)【発明者】

【氏名】茂田 佑樹

【テーマコード（参考）】

5H040

【Ｆターム（参考）】

5H040AA32

5H040AS07

5H040AT06

5H040AY05

5H040CC05

5H040LL04

5H040LL06

(57)【要約】

【課題】ケース部材の繊維強化樹脂層とシール部材との間のシール性を向上し得るバッテリーケースのシール構造を提供する。
【解決手段】バッテリーケースのシール構造は、複数のバッテリーを収納したバッテリーケースのシール構造である。バッテリーケースのシール構造は、バッテリーケースを構成するロアケース部材及びアッパケース部材と、それら部材の周縁部同士の接合部位においてそれら部材の間に設けられたシール部材を備える。ロアケース部材及びアッパケース部材のうちの少なくとも一方のケース部材が、接合部位におけるシール部材側の表面に繊維強化樹脂層を有する。繊維強化樹脂層が、シール部材側の表面に樹脂被覆層を有する。
【選択図】図３

【特許請求の範囲】

【請求項1】

複数のバッテリーを収納したバッテリーケースのシール構造であって、
前記バッテリーケースを構成するロアケース部材及びアッパケース部材と、それら部材の周縁部同士の接合部位においてそれら部材の間に設けられたシール部材を備え、
前記ロアケース部材及び前記アッパケース部材のうちの少なくとも一方のケース部材が、前記接合部位における前記シール部材側の表面に繊維強化樹脂層を有し、
前記繊維強化樹脂層が、前記シール部材側の表面に樹脂被覆層を有する
ことを特徴とするバッテリーケースのシール構造。

【請求項2】

前記アッパケース部材が、前記接合部位における前記シール部材側の表面に繊維強化樹脂層を有するシートモールディングコンパウンド成形部材からなることを特徴とする請求項１に記載のバッテリーケースのシール構造。

【請求項3】

前記樹脂被覆層が、インモールドコーティング層からなることを特徴とする請求項１又は２に記載のバッテリーケースのシール構造。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、バッテリーケースのシール構造に係り、さらに詳細には、ケース部材の繊維強化樹脂層とシール部材との間のシール性を向上し得るバッテリーケースのシール構造に関する。

【背景技術】

【0002】

従来、トレイ部材とカバー部材との接合部に設けるシール材がねじ部のトルク管理に影響を与えることを防止でき、かつ、トレイを成形する金型にインサート部材をセットすることが容易な電気自動車用バッテリーケースが提案されている（特許文献１参照）。特許文献１の図９に記載されたバッテリーケースにおいては、繊維によって強化された合成樹脂の一体成形品からなるカバー部材とトレイ部材とが、トレイ部材に液状の樹脂系シール材を塗布後に硬化してなるシール材を介して接合されている。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0003】

【特許文献1】特開２００９－８７６４５号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0004】

しかしながら、特許文献１の図９に記載されたようなバッテリーケースにおいては、繊維によって強化された合成樹脂の一体成形品からなるカバー部材の表面に繊維が飛出すなどしてその表面に凹凸があり、上述のシール部材を設けても、カバー部材とシール部材との間のシール性が十分なものとならないという問題点があった。

【0005】

本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、ケース部材の繊維強化樹脂層とシール部材との間のシール性を向上し得るバッテリーケースのシール構造を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0006】

本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、所定の繊維強化樹脂層のシール部材側の表面に樹脂被覆層を設けることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。

【0007】

すなわち、本発明のバッテリーケースのシール構造は、複数のバッテリーを収納したバッテリーケースのシール構造である。
このバッテリーケースのシール構造は、バッテリーケースを構成するロアケース部材及びアッパケース部材と、それら部材の周縁部同士の接合部位においてそれら部材の間に設けられたシール部材を備える。
ロアケース部材及びアッパケース部材のうちの少なくとも一方のケース部材が、接合部位におけるシール部材側の表面に繊維強化樹脂層を有する。
繊維強化樹脂層が、シール部材側の表面に樹脂被覆層を有する。

【発明の効果】

【0008】

本発明によれば、上述の繊維強化樹脂層のシール部材側の表面に樹脂被覆層を設けたため、ケース部材の繊維強化樹脂層とシール部材との間のシール性を向上し得るバッテリーケースのシール構造を提供できる。

【図面の簡単な説明】

【0009】

【図1】本発明のバッテリーケースのシール構造が適用されるバッテリーケースの一実施形態を模式的に示す斜視図である。

【図2】図１に示したバッテリーケースの分解状態を模式的に示す斜視図である。

【図3】本発明のバッテリーケースのシール構造の一実施形態の要部を模式的に示す部分断面図である。

【発明を実施するための形態】

【0010】

以下、本発明のバッテリーケースのシール構造について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。また、以下の図面におけるＦＲ、ＲＲは、電気自動車等に配置されるバッテリーケースの前後方向の前方、後方をそれぞれ示し、ＬＨ、ＲＨは、バッテリーケースの幅方向の左方、右方をそれぞれ示し、ＵＰ、ＤＮは、バッテリーケースの上下方向の上方、下方をそれぞれ示す。

【0011】

図１及び図２に示すように、本実施形態のバッテリーケースのシール構造（以下、単に「シール構造」ということがある。）１は、複数のバッテリー２０，・・・，２０を収納したバッテリーケース１０に適用される。ここで、バッテリー２０としては、リチウムイオン二次電池などの従来公知の二次電池を適用することができる。

【0012】

本実施形態のシール構造１は、バッテリーケース１０を構成するロアケース部材１２及びアッパケース部材１３と、それら部材１２，１３の周縁部同士１２ｅ，１３ｅの接合部位１１ａにおいてそれら部材１２，１３の間に設けられたシール部材１４を備えている。

【0013】

なお、本実施形態においては、バッテリーケース１０が、固定部材１０Ａ～１０Ｄを有している。これら固定部材１０Ａ～１０Ｄによって図示しない電気自動車等の車体構造に接合されることにより、バッテリーケース１０が車体構造に支持される。また、本実施形態においては、ロアケース部材１２は、前壁１２Ａ、後壁１２Ｂ、側壁１２Ｃ、底壁１２Ｄ、仕切り壁１２Ｅを有し、これらが組み合わされて形成されている。さらに、本実施形態においては、ロアケース部材１２とアッパケース部材１３とが、ボルト１６Ａをナット１６Ｂに挿入して締付けることにより接合されている。さらに、本実施形態においては、シール部材１４は、ロアケース部材１２に従来公知の液状シール材を塗布し、硬化してなるものである。

【0014】

そして、本実施形態のシール構造１においては、図３に示すように、アッパケース部材１３が、接合部位１１ａにおけるシール部材１４側の表面１３ａに、繊維強化樹脂層１３Ｆを有するシートモールディングコンパウンド成形部材からなることが好ましい。さらに、本実施形態においては、繊維強化樹脂層１３Ｆが、シール部材１４側の表面１３Ｆａにインモールドコーティング層からなる樹脂被覆層１５を有することが好ましい。

【0015】

なお、本実施形態においては、ロアケース部材１２において、周縁部１２ｅがフランジ状に形成されている。また、本実施形態においては、ロアケース部材１２とアッパケース部材１３とが、ボルト１６Ａをボルト孔１６ａ及びナット１６Ｂに挿入して締付けることにより接合されている。

【0016】

次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態においては、アッパケース部材１３の繊維強化樹脂層１３Ｆが、シール部材１４側の表面１３（１３Ｆａ）に表面１５ａが平坦な樹脂被覆層１５を有するので、アッパケース部材１３の繊維強化樹脂層１３Ｆとシール部材１４との間のシール性を向上させることができる。

【0017】

さらに、本実施形態においては、アッパケース部材１３が上述のシートモールディングコンパウンド成形部材からなるので、アッパケース部材１３が例えばバルクモールディングコンパウンド形成部材からなる場合と比較して繊維の飛出しやピンホールなどが少なく、シール部材１４側の表面１３（１３Ｆａ）、さらには樹脂被覆層１５の表面１５ａをより確実に平坦化できる。これにより、アッパケース部材１３の繊維強化樹脂層１３Ｆとシール部材１４との間のシール性をより確実に向上させることができる。

【0018】

さらに、本実施形態においては、樹脂被覆層１５がインモールドコーティング層からなるので、樹脂被覆層が繊維強化樹脂層に形成されたスプレー塗布層からなる場合や樹脂被覆層が繊維強化樹脂層に接着された他の樹脂片からなる場合よりもシール部材１４側の樹脂被覆層１５の表面１５ａをより確実に平坦化できる。これにより、アッパケース部材１３の繊維強化樹脂層１３Ｆとシール部材１４との間のシール性をより確実に向上させることができる。また、本実施形態においては、樹脂被覆層１５がインモールドコーティング層からなるので、樹脂被覆層が繊維強化樹脂層に接着された他の樹脂片からなる場合よりも繊維強化樹脂層と樹脂被覆層との間の密着性を向上させることができるという副次的な利点がある。

【0019】

ここで、上述した実施形態における構成要素の材質や仕様について詳細に説明する。

【0020】

（ロアケース部材及びアッパケース部材）
上述した実施形態においては、アッパケース部材１３が接合部位におけるシール部材側の表面に繊維強化樹脂層を有しているシートモールディングコンパウンド成形部材からなる場合を例示して説明したが、本発明においては、これに限定されない。

【0021】

本発明においては、例えば、ロアケース部材１２及びアッパケース部材１３のうちの少なくとも一方のケース部材が、接合部位におけるシール部材側の表面に繊維強化樹脂層を有していればよい。このような表面に繊維強化樹脂層を有するケース部材としては、例えば、バルクモールディングコンパウンド、シートモールディングコンパウンドなどの繊維強化樹脂からなるもの、繊維強化樹脂にインサート材として高張力鋼などの鋼、アルミニウム合金を組み合わせたものを適用することができる。繊維強化樹脂としては、例えば、ガラスや炭素などの連続又は非連続繊維を強化材とし、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂やポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするガラス繊維強化樹脂や炭素繊維強化樹脂を挙げることができる。他方のケース部材としては、例えば、バルクモールディングコンパウンド、シートモールディングコンパウンドなどの繊維強化樹脂からなるものを適用してもよく、繊維強化樹脂に高張力鋼などの鋼、アルミニウム合金を組み合わせたものを適用してもよく、高張力鋼などの鋼、アルミニウム合金自体を適用してもよい。また、ケース部材の各部位における要求性能に応じて上述の材料を適宜組み合わせることも可能である。また、ロアケース部材でバッテリーを支持する場合には、ロアケース部材の強度をアッパケース部材の強度よりも高くすることが好ましい。

【0022】

（シール部材）
上述した実施形態においては、シール部材１４が、従来公知の液状シール材を塗布し、硬化してなるものである場合を例示して説明したが、本発明においては、これに限定されない。本発明においては、例えば、シール部材１４としては、従来公知のゴム状のシール部材を適用することもできる。

【0023】

（樹脂被覆層）
上述した実施形態においては、樹脂被覆層１５がインモールドコーティング層からなる場合を好適例として説明したが、本発明においては、これに限定されない。

【0024】

本発明においては、例えば、樹脂被覆層の表面の平坦度向上によるシール性向上の観点からは、樹脂被覆層が、繊維状や球状の強化材を含まないもの、つまり強化材未含有樹脂被覆層であることが好ましい。また、上記シール性向上の観点からは、樹脂被覆層の厚みは、例えば、０．０５ｍｍ～０．３ｍｍであることが好ましい。さらに、シール部材のシール性をより効果的に発揮させてシール性を向上させる観点からは、樹脂被覆層は、シール部材よりも硬いことが好ましい。また、本発明においては、例えば、樹脂被覆層と繊維強化樹脂層との密着性向上によるシール性向上の観点からは、繊維強化樹脂層の表面に飛出した繊維が樹脂被覆層の樹脂に囲まれ、繊維強化樹脂層のピンホールに樹脂被覆層の樹脂が充填されて、樹脂被覆層と繊維強化樹脂層との間に隙間がないことが好ましい。また、樹脂被覆層の樹脂は、繊維強化樹脂層における樹脂と同一であってもよく、異なってもよい。例えば、樹脂被覆層の樹脂と繊維強化樹脂層における樹脂とが同一であると、樹脂同士の濡れ性が良く、樹脂同士の熱膨張率が同じであるので、層同士の密着性を向上させることができる。

【0025】

上述のような材質や仕様の樹脂被覆層は、所定の金型中のシートモールディングコンパウンド成形部材からなるケース部材に対して樹脂被覆層を形成する樹脂を所定の位置にインモールドコーティングすることによって得ることができる。

【0026】

以上、本発明を若干の実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。

【0027】

本発明においては、ケース部材の繊維強化樹脂層とシール部材との間のシール性を向上させるべく、上述の繊維強化樹脂層のシール部材側の表面に樹脂被覆層を設けたことを骨子とする。

【0028】

よって、本発明においては、ロアケース部材が接合部位におけるシール部材側の表面に繊維強化樹脂層を有し、繊維強化樹脂層がシール部材側の表面に樹脂被覆層を有していてもよい。さらに、本発明においては、ロアケース部材及びアッパケース部材の双方のケース部材が、接合部位におけるシール部材側の表面に繊維強化樹脂層を有し、双方の繊維強化樹脂層がシール部材側の表面に樹脂被覆層を有していてもよい。

【0029】

さらに、例えば、上述した構成要素は、上述した実施形態に限定されるものではなく、ロアケース部材、アッパケース部材、シール部材、樹脂被覆層等の仕様の細部を変更することや、各好適形態を適宜組み合わせて適用することも可能である。

【符号の説明】

【0030】

１ バッテリーケースのシール構造
１０ バッテリーケース
１０Ａ，１０Ｂ，１０Ｃ，１０Ｄ 固定部材
１１ ケース部材
１１ａ 接合部位
１２ ロアケース部材
１２Ａ 前壁
１２Ｂ 後壁
１２Ｃ 側壁
１２Ｄ 底壁
１２Ｅ 仕切り壁
１２ｅ 周縁部
１３ アッパケース部材
１３ａ 表面
１３ｅ 周縁部
１３Ｆ 繊維強化樹脂層
１３Ｆａ 表面
１４ シール部材
１５ 樹脂被覆層
１５ａ 表面
１６Ａ ボルト
１６Ｂ ナット
１６ａ ボルト孔
２０ バッテリー

【図1】

【図2】

【図3】