(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060207
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】通気機構付きバッテリーケースのシール構造
(51)【国際特許分類】
H01M 50/342 20210101AFI20240424BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20240424BHJP
H01M 50/271 20210101ALI20240424BHJP
【FI】
H01M50/342 201
H01M50/204 101
H01M50/271 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167417
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】茂田 佑樹
【テーマコード(参考)】
5H012
5H040
【Fターム(参考)】
5H012BB08
5H012CC10
5H012DD01
5H012DD17
5H012EE03
5H012FF08
5H012GG01
5H040AA33
5H040AT02
5H040AT06
5H040AY05
5H040AY08
5H040CC05
5H040CC23
5H040JJ03
5H040LL06
(57)【要約】
【課題】バッテリーから高温ガスが大量に発生したときでも、バッテリーケースを構成するケース部材の変形に伴う口開きを抑制ないし防止し得る通気機構付きバッテリーケースのシール構造を提供する。
【解決手段】通気機構付きバッテリーケースのシール構造は、複数のバッテリーを収容したバッテリーケースと、バッテリーケースの内外を連通させる通気機構を具備する。シール構造は、バッテリーケースを構成するロアケース部材及びアッパケース部材と、それら部材の周縁部同士の接合部位においてそれら部材の間に設けられたシール部材を備える。ロアケース部材及びアッパケース部材のうちの少なくとも一方のケース部材が、接合部位において、バッテリーケースの上下方向においてシール部と重なる位置、及びシール部材よりも内側の位置のうちの少なくとも一方の位置に膨張黒鉛部材を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバッテリーを収容したバッテリーケースと、前記バッテリーケースの内外を連通させる通気機構を具備した通気機構付きバッテリーケースのシール構造であって、
前記バッテリーケースを構成するロアケース部材及びアッパケース部材と、それら部材の周縁部同士の接合部位においてそれら部材の間に設けられたシール部材を備え、
前記ロアケース部材及び前記アッパケース部材のうちの少なくとも一方のケース部材が、前記接合部位において、前記バッテリーケースの上下方向において前記シール部材と重なる位置、及び前記シール部材よりも内側の位置のうちの少なくとも一方の位置に膨張黒鉛部材を有する
ことを特徴とする通気機構付きバッテリーケースのシール構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気機構付きバッテリーケースのシール構造に係り、さらに詳細には、バッテリーから高温ガスが大量に発生したときでも、バッテリーケースを構成するケース部材の変形に伴う口開きを抑制ないし防止し得る通気機構付きバッテリーケースのシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バッテリーケースの内部の気圧の変動を抑制してシール機能を確保することができるバッテリーパックが提案されている(特許文献1参照)。このバッテリーパックは、複数のバッテリーを下方から支持するバッテリー支持部材と、バッテリー支持部材にシール部材を介して結合されて複数のバッテリーの上方を覆う蓋部材とからなるバッテリーケースを備えており、蓋部材にバッテリーケースの内外を連通させる通気手段が設けられている。このようなバッテリーパックは、通気手段を備えているので、バッテリーから発生した高温ガスをある程度バッテリーケース外に排出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のようなバッテリーパックにおいては、バッテリーから高温ガスが大量に発生したときには、高温ガスをバッテリーケース外に迅速に排出することができず、バッテリー支持部材や蓋部材の変形によって口開きが起こってしまう可能性があるという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、バッテリーから高温ガスが大量に発生したときでも、バッテリーケースを構成するケース部材の変形に伴う口開きを抑制ないし防止し得る通気機構付きバッテリーケースのシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ケース部材が接合部位における所定の位置に膨張黒鉛部材を有することにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の通気機構付きバッテリーケースのシール構造は、複数のバッテリーを収容したバッテリーケースと、バッテリーケースの内外を連通させる通気機構を具備する。
この通気機構付きバッテリーケースのシール構造は、バッテリーケースを構成するロアケース部材及びアッパケース部材と、それら部材の周縁部同士の接合部位においてそれら部材の間に設けられたシール部材を備える。
ロアケース部材及びアッパケース部材のうちの少なくとも一方のケース部材が、接合部位において、バッテリーケースの上下方向においてシール部と重なる位置、及びシール部材よりも内側の位置のうちの少なくとも一方の位置に膨張黒鉛部材を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ケース部材が接合部位における所定の位置に膨張黒鉛部材を有するため、バッテリーから高温ガスが大量に発生したときでも、バッテリーケースを構成するケース部材の変形に伴う口開きを抑制ないし防止し得る通気機構付きバッテリーケースのシール構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の通気機構付きバッテリーケースのシール構造が適用されるバッテリーケースの一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1に示したバッテリーケースの分解状態を模式的に示す斜視図である。
【
図3】本発明の通気機構付きバッテリーケースのシール構造の第1実施形態の要部を模式的に示す部分断面図である。
【
図4】第1実施形態の通気機構付きバッテリーケースのシール構造において口開きが防止される様子を示す説明図である。
【
図5】第2実施形態の通気機構付きバッテリーケースのシール構造の要部を模式的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の通気機構付きバッテリーケースのシール構造について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。また、以下の図面におけるFR、RRは、電気自動車等に配置されるバッテリーケースの前後方向の前方、後方をそれぞれ示し、LH、RHは、バッテリーケースの幅方向の左方、右方をそれぞれ示し、UP、DNは、バッテリーケースの上下方向の上方、下方をそれぞれ示す。
【0011】
(第1実施形態)
図1及び
図2に示すように、本実施形態の通気機構付きバッテリーケースのシール構造(以下、単に「シール構造」ということがある。)1は、複数のバッテリー20,・・・,20を収容したバッテリーケース10と、バッテリーケース10の内外を連通させる通気機構30を具備した通気機構付きバッテリーケースに適用される。ここで、バッテリー20としては、リチウムイオン二次電池などの従来公知の二次電池を適用することができる。また、通気機構としても弁などの従来公知の通気機構を適用することができる。
【0012】
本実施形態のシール構造1は、バッテリーケース10を構成するロアケース部材12及びアッパケース部材13と、それら部材12,13の周縁部同士12e,13eの接合部位11aにおいてそれら部材12,13の間に設けられたシール部材14を備えている。
【0013】
なお、本実施形態においては、バッテリーケース10が、固定部材10A~10Dを有している。これら固定部材10A~10Dによって図示しない電気自動車等の車体構造に接合されることにより、バッテリーケース10が車体構造に支持される。また、本実施形態においては、ロアケース部材12は、前壁12A、後壁12B、側壁12C、底壁12D、仕切り壁12Eを有し、これらが組み合わされて形成されている。さらに、本実施形態においては、ロアケース部材12とアッパケース部材13とが、ボルト16Aをナット16Bに挿入して締付けることにより接合されている。さらに、本実施形態においては、シール部材14は、ロアケース部材12に従来公知の液状シール材を塗布し、硬化してなるものである。
【0014】
そして、本実施形態のシール構造1においては、
図3に示すように、アッパケース部材13が、接合部位11aにおいて、バッテリケース10の上下方向においてシール部材14と重なる位置に接着された膨張黒鉛部材15を有する。
【0015】
なお、本実施形態においては、ロアケース部材12及びアッパケース部材13において、周縁部12e,12eがフランジ状に形成されている。
【0016】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態においては、アッパケース部材13が、接合部位11aにおいて、バッテリーケース10の上下方向においてシール部材14と重なる位置に膨張黒鉛部材15を有するので、バッテリー20から高温ガスが大量に発生したときでも、バッテリーケース10を構成するケース部材11の変形に伴う口開きを抑制ないし防止できる。また、本実施形態のシール構造1は、後述する第2実施形態のシール構造2と比較して、比較的狭い接合部位11aにおけるシール部材14と膨張黒鉛部材15の位置決めが容易であるという副次的な利点がある。さらに、実施形態のシール構造1は、後述する第2実施形態のシール構造2と比較して、膨張黒鉛部材の使用量を低減できるという副次的な利点もある。
【0017】
ここで、本実施形態の通気機構付きバッテリーケースのシール構造において口開きが防止される様子を図面を用いて説明する。
図4の左側図は、通常時の本実施形態のシール構造1を示している。
図4の右側図は、バッテリー20から高温ガスGが大量に発生したときの本実施形態のシール構造1を示している。
図4の右側図に示すように、シール部材14付近に達したときに200℃程度になる高温ガスGに膨張黒鉛部材15が曝されると、膨張黒鉛部材15が膨張して膨張部15Aが形成される。これによって、バッテリーケース10を構成するアッパケース部材13の変形に伴う口開きを防止できる。
【0018】
(第2実施形態)
図5に示すように、本実施形態のシール構造2は、アッパケース部材13が、接合部位11aにおいて、シール部材14よりも内側の位置に膨張黒鉛部材15を有すること以外は、第1実施形態のシール構造1と同じ構成を有している。
【0019】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態においては、アッパケース部材13が、接合部位11aにおいて、シール部材14よりも内側の位置に膨張黒鉛部材15を有するので、バッテリー20から高温ガスが大量に発生したときでも、バッテリーケース10を構成するケース部材11の変形に伴う口開きを抑制ないし防止できる。
【0020】
ここで、上述した実施形態における構成要素の材質や仕様について詳細に説明する。
【0021】
(ロアケース部材及びアッパケース部材)
ロアケース部材12及びアッパケース部材13の材料としては、例えば、高張力鋼などの鋼、アルミニウム合金、バルクモールディングコンパウンド、シートモールディングコンパウンドなどの繊維強化樹脂、繊維強化樹脂にインサート材として高張力鋼などの鋼、アルミニウム合金を組み合わせたものを挙げることができる。繊維強化樹脂としては、例えば、ガラスや炭素などの連続又は非連続繊維を強化材とし、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂やポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とするガラス繊維強化樹脂や炭素繊維強化樹脂を挙げることができる。また、ケース部材の各部位における要求性能に応じて上述の材料を適宜組み合わせることも可能である。また、ロアケース部材でバッテリーを支持する場合には、ロアケース部材の強度をアッパケース部材の強度よりも高くすることが好ましい。さらに、アッパケース部材13がシートモールディングコンパウンド成形部材からなる場合、アッパケース部材を金型で成形する際に、金型の所定の位置に膨張黒鉛部材を配置することによって、これらを効率よく一体化することができる。
【0022】
(シール部材)
上述した実施形態においては、シール部材14が、従来公知の液状シール材を塗布し、硬化してなるものである場合を例示して説明したが、本発明においては、これに限定されない。本発明においては、例えば、シール部材14としては、従来公知のゴム状のシール部材を適用することもできる。
【0023】
(膨張黒鉛部材)
膨張黒鉛部材15の材料としては、例えば、従来公知の炭素の六角板状結晶が層になった構造を有する鱗片状黒鉛の層間に化学反応を利用して酸化剤を押し込んだ層間化合物を挙げることができる。この膨張黒鉛は、例えば200℃に加熱すると、層間物が分解されガス化し、この圧力によって六角板状結晶の垂直軸方向に大きく膨張する。また、膨張黒鉛部材は、バッテリーケースのシール性向上の観点からは、シート状であることが好ましい。また、シート状の膨張黒鉛部材の厚さは、1mm以下であることが好ましい。さらに、上述のように、シートモールディングコンパウンからなるケース部材を金型で成形する際に膨張黒鉛部材も同時に一体化する場合、膨張黒鉛の膨張開始温度200℃を考慮して、成形温度を150℃程度とすることが好ましい。
【0024】
以上、本発明を若干の実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0025】
本発明においては、バッテリーから高温ガスが大量に発生したときでも、バッテリーケースを構成するケース部材の変形に伴う口開きを抑制ないし防止するべく、ケース部材が接合部位における所定の位置に膨張黒鉛部材を有する構造を採用したことを骨子とする。
【0026】
よって、本発明においては、ロアケース部材が、接合部位において、バッテリーケースの上下方向においてシール部と重なる位置、又は、シール部材よりも内側の位置に膨張黒鉛部材を有していてもよい。さらに、ロアケース部材及びアッパケース部材の双方のケース部材が、接合部位において、バッテリーケースの上下方向においてシール部と重なる位置、及びシール部材よりも内側の位置のうちの少なくとも一方の位置に膨張黒鉛部材を有していてもよい。
【0027】
さらに、例えば、上述した構成要素は、上述した実施形態に限定されるものではなく、ロアケース部材、アッパケース部材、シール部材、膨張黒鉛部材等の仕様の細部を変更することや、各好適形態を適宜組み合わせて適用することも可能である。
【符号の説明】
【0028】
1,2 通気機構付きバッテリーケースのシール構造
10 バッテリーケース
10A,10B,10C,10D 固定部材
11 ケース部材
11a 接合部位
12 ロアケース部材
12A 前壁
12B 後壁
12C 側壁
12D 底壁
12E 仕切り壁
12e 周縁部
13 アッパケース部材
13e 周縁部
14 シール部材
15 膨張黒鉛部材
15A 膨張部
16A ボルト
16B ナット
20 バッテリー
30 通気機構
G 高温ガス