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特開2024-6021Azide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体及びその前駆体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006021
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】Azide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体及びその前駆体
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/06 20060101AFI20240110BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20240110BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240110BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20240110BHJP
   C08B 3/10 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08B15/06
A61K47/61
A61P35/00
A61K31/56
C08B3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106553
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上高原 浩
(72)【発明者】
【氏名】糸賀 汐里
(72)【発明者】
【氏名】西尾 直高
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
4C090
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB01
4C076CC27
4C076EE59
4C076FF31
4C086AA01
4C086AA03
4C086AA04
4C086DA08
4C086DA11
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZB26
4C090AA02
4C090AA05
4C090AA09
4C090BA25
4C090BA34
4C090BB53
4C090BB65
4C090BB73
4C090BB77
4C090BB94
4C090BD36
4C090DA23
(57)【要約】
【課題】CFGを含むAAC固定化多糖誘導体及び前駆体の提供。
【解決手段】Azide-Alkyne Cycloaddition(AAC)固定化多糖誘導体は、多糖類のグルコース環の2位、3位及び6位のいずれか又は全部にエステル基を介して結合したComplex functional group(CFG)を含む。このCFGは1,2,3-トリアゾ-ル環基を有している。AAC固定化多糖誘導体の前駆体は、グルコース環の2位、3位及び6位の水酸基のいずれか又は全部がアルキノイル基に置換されている多糖類である。AAC固定化多糖誘導体の製造方法は、CFGを含む化合物にアジド基を導入してアジド化誘導体を得ること、及び、このアジド化誘導体とアルキノイル化多糖誘導体とを反応させること、を含む。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類のグルコース環の2位、3位及び6位のいずれか又は全部にエステル基を介して結合したComplex functional groupを含み、
上記Complex functional groupが1,2,3-トリアゾ-ル環基を有している、Azide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体。
【請求項2】
上記Complex functional groupがベツリン構造を有しており、
上記Complex functional groupに結合したエステル基が平均置換度1.5以上で導入されている、請求項1に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体。
【請求項3】
上記グルコース環の水酸基の少なくとも一部がアシル基で置換されている、請求項1に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体。
【請求項4】
上記アシル基がアセチル基である、請求項3に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体。
【請求項5】
多糖類のグルコース環の2位、3位及び6位の水酸基のいずれか又は全部がアルキノイル基に置換されている、Azide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の前駆体。
【請求項6】
上記アルキノイル置換度が1.5以上である、請求項5に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の前駆体。
【請求項7】
アルキノイルセルロース、又は、アシル置換度が0.1以上1.4以下のアルキノイルセルロースアシレートである、請求項5に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の前駆体。
【請求項8】
アセチル置換度が0.4以上1.4以下のアルキノイルセルロースアセテートである、請求項5に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の前駆体。
【請求項9】
Complex functional groupを含む化合物にアジド基を導入してアジド化誘導体を得ること、
及び
上記アジド化誘導体と、アルキノイル化多糖誘導体とを反応させること
を含む、請求項1に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の製造方法。
【請求項10】
上記アルキノイル化多糖誘導体は、アルキノイル置換度が1.5以上である、請求項9に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の製造方法。
【請求項11】
上記アルキノイル化多糖誘導体が有するアルキノイル基の炭素数が3~10である、請求項9に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の製造方法。
【請求項12】
上記アルキノイル化多糖誘導体が、アルキノイルセルロース又はアルキノイルセルロースアシレートである、請求項9に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体を含む、腸内で薬効成分を放出する徐放性医薬。
【請求項14】
請求項1に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体を含む、抗腫瘍剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Azide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体に関する。詳細には、本開示は、アルキノイル基を有する多糖誘導体を前駆体として、Azide-Alkyne Cycloaddition(AAC)によりComplex functional group(CFG)を固定化したAAC固定化多糖誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セルロース等の多糖類に関して様々な誘導体が提案されている。多糖類誘導体の例として、多糖類エステルが挙げられる。多糖類のエステル化では、多くの場合、長鎖アルキル基、フェニル基等が導入されている。一方、生理活性等の機能は、複雑な構造を有する官能基、即ち、CFGによって発現されるが、多糖類へのCFGの導入は困難とされている。これは、多糖類が、グリコシド結合によって単糖分子が多数結合した嵩高い分子構造を有しており、嵩高いCFGが接近しにくいためである。
【0003】
生理活性を発現するCFGの例として、ベツリン構造を有する官能基が挙げられる。ベツリンはトリテルペン化合物の一種であり、生理活性を有し、抗菌性、抗ウィルス性、抗炎症性等種々の特性を示すと言われている。一方、ベツリン自体は親油性が高いため、生体に用いる医薬原料としての利用が限定されるという課題があった。また、CFGの他の例として、メトトレキサート構造又はフルオロウラシル構造を有する官能基が挙げられる。メトトレキサートは、免疫抑制剤に分類される薬剤であり、抗悪性腫瘍薬としても用いられているが、葉酸代謝拮抗機序を有しており正常細胞にも作用するため使いづらいという課題がある。
【0004】
ベツリンを多糖類に導入した例としては、Cellulose(2019)26:665-677(非特許文献1)挙げられる。この文献では、セルロースのグルコース単位の6位の水酸基を酸化してカルボキシル基を導入してメチルセルロースとした後、このカルボキシル基とベツリンの水酸基とを縮合反応させることにより、セルロース誘導体にエステル結合を介してベツリン構造を導入する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Cellulose (2019) 26 : 665-677
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
多糖類のグルコース単位の2位及び3位の水酸基が結合している炭素は第二級炭素であるため、カルボン酸に酸化することはできない。そのため、非特許文献1に開示された技術によってカルボキシル基が導入されるのはグルコース単位の6位のみである。グルコース単位の6位の水酸基はグルコース鎖から離れているため、嵩高いベツリンと反応させやすいが、得られる置換度に制限がある。その結果として、セルロース誘導体に導入される、ベツリンの結合したエステル基の置換度は、最大でも1.0である。また、非特許文献1では、ベツリンがエステル結合を介してセルロースに導入されており、さらに、グルコース環の6位のエステルは加水分解反応を受けやすいためベツリンが解離しやすく、長期安定性に劣るという課題がある。
【0007】
本開示の目的は、多糖類のグルコース環の2位、3位及び6位のいずれにも、複雑な構造を有する官能基であるCFGを導入することができる技術の提供である。詳細には、本開示の目的の一つは、Azide-Alkyne Cycloaddition(AAC)固定化により多糖類にCFGを導入したAAC固定化多糖誘導体及びその製造方法の提供である。本開示の目的の一つは、Azide-Alkyne Cycloaddition(AAC)固定化に用いる前駆体の提供である。本開示の目的の一つは、生体内で代謝され分解されることによりCFGを遊離して、腸内に薬効成分を送達する徐放性医薬の提供である。本開示の目的の一つは、生体内で代謝され分解されることにより抗がん作用を有する薬効成分を放出する、抗腫瘍剤の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係るAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体は、多糖類のグルコース環の2位、3位及び6位のいずれか又は全部にエステル基を介して結合したComplex functional groupを含んでいる。このComplex functional groupは、1,2,3-トリアゾ-ル環基を有している。
【0009】
他の観点から、本開示は、多糖類のグルコース環の2位、3位及び6位の水酸基のいずれか又は全部がアルキノイル基に置換されている、Azide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の前駆体に関する。
【0010】
さらに他の観点から、本開示は、前述のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体を含み、腸内で薬効成分を放出する徐放性医薬に関する。さらには、本開示は、前述のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体を含む、抗腫瘍剤に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、CFG、例えば、ベツリン構造のような複雑な官能基を高い割合で含むAAC固定化多糖誘導体を提供することができる。また、本開示のAAC固定化多糖誘導体は、多糖類骨格が生体内で分解されることによりCFGを遊離して、例えば腸内でその生理活性を発現することができる。さらに、本開示によれば、多糖類のグルコース環の2位又は3位にもCFGが導入されるため、エステル基を介して結合する場合であっても急激な加水分解による劣化が回避されうる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、CFG原料の一例であるベツリン(化合物1)の構造式である。
図2図2は、CFG原料の他の例であるメトトレキサート(化合物2)の構造式である。
図3図3は、CFG原料のさらに他の例であるフルオロウラシル(化合物3)の構造式である。
図4図4は、ベツリン(化合物1)にアジド基が導入されたアジド化誘導体(化合物4)の構造式である。
図5図5は、本開示の一実施態様で前駆体として用いられるアルキノイル化多糖誘導体(化合物5)の構造式である。
図6図6は、本開示の一例として、アルキノイル化多糖誘導体(化合物5)及びアジド化誘導体(化合物4)からAAC固定化多糖誘導体(化合物6)を生成する、AAC固定化反応を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好ましい実施形態に基づいて本開示が詳細に説明される。各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0014】
なお、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」の意味であり、略語「equiv.」は化学当量(chemical equivalent)の意味であり、特に注釈のない限り、試験温度は全て室温(28℃±5℃)である。また、本開示において、質量%は、weight percentを意味し、重量濃度Mass concentrationを意味するものではない。
【0015】
[多糖類]
多糖類は、本開示のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体又はその前駆体を得るための出発原料として使用することができる。ここで、多糖類とは、グルコース、マンノース等の単糖類が複数結合した物質の総称であり、広義には、10個以上の単糖類が結合した炭水化物を意味する。本開示における「多糖類」は、少なくとも10個の単糖類が連結した構造を有する物質として定義される。本開示の効果が得られる限り、多糖類の分子量は特に限定されない。多糖類が1万~数百万の分子量を有していてもよい。多糖類が、グリコシド結合を有していてもよく、β-グリコシド結合を有していてもよい。多糖類の具体例として、澱粉及びセルロースが挙げられる。加工澱粉のような澱粉誘導体を使用することもできる。β-グリコシド結合を有する多糖類が好ましく、セルロースがより好ましい。
【0016】
[セルロース]
本開示における多糖類として、セルロースが用いられてもよい。セルロースは、β-βグリコシド結合を有しており、生体の消化器官中の消化酵素では代謝されない。そのため、結腸部分への薬効成分のデリバリーを目的とする場合には、多糖類としてセルロースが好適に用いられうる。結腸へのデリバリーではなく、上部消化器官へのデリバリーを目的とする場合は、消化器官で分解され易い澱粉等を多糖類又は多糖類誘導体として選択してもよい。
【0017】
本開示の効果が得られる限り、セルロースの種類は特に限定されない。市販の微結晶セルロースであってよく、セルロースアセテートを脱アセチル化して得られるセルロースであってよい。
【0018】
セルロースの重量平均分子量Mwも特に限定されないが、例えば、重量平均分子量Mwは10,000以上であってよく、20,000以上であってよく、30,000以上であってよく、また、500,000以下であってよく、400,000以下であってよく、300,000以下であってよい。セルロースの重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(GPC)測定(GPC-光散乱法)により測定することができる。
【0019】
[アシル化多糖類]
本開示のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体又はその前駆体を得るための出発原料として、アシル化多糖類を用いてもよい。アシル化多糖類とは、アシル基で誘導体化された多糖類として定義される。アシル化多糖類の製造方法としては、既知のアシル化(エステル化)の手法を用いることができる。
【0020】
アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブリチル基等が挙げられる。アシル化多糖類が、2種以上のアシル基により誘導体化されていてもよい。アシル化多糖類としては、セルロースをアシル化して得られるセルロースアセテートであってよく、澱粉をアシル化して得られる酢化澱粉(酢酸でんぷん、アセチル化でんぷん)、酪酸化澱粉等であってよい。
【0021】
セルロースアシレートの種類も特に限定はないが、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等が挙げられる。セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート及びセルロースアセテートブチレートが好ましく、セルロースアセテート及びセルロースアセテートブチレートがより好ましい。
【0022】
後述するアルキノイル基の導入を妨げないとの観点から、セルロースアシレートのアシル置換度は、2.0未満であってよく、1.5以下であってよく、1.0以下であってよく、0.8以下であってよく、また、0を超えてよく、0.1以上であってよく、0.2以上であってよい。アシル置換度は、13C-NMR法又はH-NMR法で分析することができる。
【0023】
本開示の効果が得られる限り、セルロースアシレートの分子量も特に限定されない。例えば、セルロースアシレートの重量平均分子量Mwは10,000以上であってよく、20,000以上であってよく、30,000以上であってよく、また、500,000以下であってよく、400,000以下であってよく、300,000以下であってよい。セルロースアシレートの重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(GPC)測定(GPC-光散乱法)により測定することができる。GPC測定の標準試料としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を用いることができる。
【0024】
セルロースアシレートは、主として、多数の腸内細菌が存在している大腸(結腸)において代謝される。セルロースアシレートを出発原料として得られるAAC固定化多糖誘導体は、薬効成分の腸内デリバリー手段として好適である。腸内デリバリー手段に適したセルロースアシレートとして、セルロースブチレート及びセルロースアセテートブチレートが挙げられる。酪酸化澱粉も、大腸で代謝される性質を有している。酢酸澱粉は、上部消化器官で代謝される割合が多くなるが、目的に応じて適宜使用することができる。
【0025】
酢化澱粉は、例えば、原料澱粉を糊化させてピリジンと混合した後、無水酢酸を加えて100℃で4時間反応させ、冷却後、エタノールに注入して得られる沈殿物を減圧乾燥することにより製造することができる。無水酢酸に替えて無水酪酸を使用することにより、酪酸化澱粉を得ることができる。
【0026】
[アルキノイル化多糖誘導体]
アルキノイル化多糖誘導体は、多糖類のグルコース環の2位、3位及び6位の水酸基のいずれか又は全部がアルキノイル基に置換された化合物であり、本開示のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の前駆体である。アルキノイル化多糖誘導体は、多糖類のグルコース環の水酸基にアルキノイック酸を作用させてエステル化し、末端に炭素-炭素三重結合を末端に有するアルキノイル基を導入することにより得ることができる。多糖類誘導体(例えば、アシル化多糖類)をアルキノイック酸でエステル化反応して、アルキノイル化多糖誘導体を得てもよい。
【0027】
アルキノイック酸によるエステル化反応は、溶媒中でおこなうことができる。溶媒の種類は特に限定されない。種々の高沸点溶媒が用いられてもよく、例えばピリジンを溶媒として用いてもよい。なお、多糖類としてセルロースを用いる場合の溶媒としては、ジメチルアセトアミド(DMAc)/塩化リチウム(LiCl)溶液や種々のイオン液体が例示される。多糖類として澱粉を用いる場合には、澱粉を誘導体化した後、溶媒に溶解してエステル化(アルキノイル化)してもよい。
【0028】
本開示のアルキノイル化多糖誘導体において、アルキノイル基の種類は特に限定されないが、例えばアルキノイル基の炭素数は3以上であってよく、4以上であってよく、また、10以下であってよく、9以下であってよい。このようなアルキノイル基としては、プロピノイル基、ブチノイル基、ペンチノイル基、ヘキシノイル基、ヘプチノイル基、オクチノイル基、ノニノイル基、デシノイル基等が挙げられる。直鎖状であってもよく、分岐を有していてもよいが、炭素-炭素三重結合を末端に有するアルキノイル基が好ましい。本開示の効果が得られる限り、2種以上のアルキノイル基が導入されてもよい。好適なアルキノイル基として、ペンチノイル基が挙げられる。以下特に注釈がない場合、本明細書における「アルキノイル基」については本段落の記載が参照される。
【0029】
アルキノイル化多糖誘導体におけるアルキノイル置換度によって、後述するCFGの導入量が調整される。アルキノイル化多糖誘導体のアルキノイル置換度は、1.0以上であってよく、1.2以上であってよく、1.5以上であってよい。アルキノイル置換度の上限は3.0であるが、3.0未満であってよく、2.9以下であってよい。以下特に注釈がない場合、本明細書における「アルキノイル置換度」については、本段落の記載が参照される。
【0030】
[アルキノイルセルロース]
アルキノイル化多糖誘導体(前駆体)の一例であるアルキノイルセルロースについて、以下に説明する。
【0031】
アルキノイルセルロースは、多糖類としてセルロースを出発原料として製造される。具体的には、セルロースにアルキノエートを作用させてエステル化反応することにより、アルキノイルセルロースが得られる。セルロースのエステル化反応としては、均一反応が好ましい。即ち、セルロースを良溶媒に溶解して、この溶液中でセルロースにアルキノイック酸を反応させてエステル化する方法が好ましい。例えば、セルロースをペンチノイック酸でエステル化することにより、セルロースのグルコース環の2位、3位及び6位の水酸基のいずれか又は全部がペンチノイル基に置換されたペンチノイルセルロースを得ることができる。
【0032】
例えば、セルロース及びジメチルアセトアミド(DMAC)を攪拌しながら加温する。その後、塩化リチウム(LiCl)を添加して、セルロースをDMAc/LiCl溶液に溶解した後、1-Ethyl-3-(3′-dimethylaminopropyl)carbodiimide ・ HCl及びアルキノイック酸を添加してエステル化する方法が挙げられる。他の方法としては、セルロースの良溶媒として、イオン液体と窒素系有機溶媒、又はイオン液体とジメチルスルホキシド(DMSO)を用いてもよい。これらの溶媒にセルロースを溶解した後、アルキノイック酸と反応させることにより、アルキノイルセルロースが得られうる。また、出発原料の多糖類として、セルロースII型結晶構造を有するセルロースを用いる場合には、高濃度のチオシアン酸ナトリウム水溶液を用いてセルロースを溶解した後、過剰量のアルキノイック酸を添加する方法により、アルキノイルセルロースを得ることができる。
【0033】
他の方法として、セルロースアシレート、特にはセルロースアセテートを出発原料としてアルキノイック酸でエステル化した後、アセチル基等のアシル基を脱離することにより、アルキノイルセルロースを得ることもできる。この方法によれば、セルロースを出発原料とする場合に比べて、溶媒の選択肢が増える。例えば、セルロースアセテートを出発原料とする場合、ピリジン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸エチル、酢酸メチル、メチレンクロライド等を溶媒として用いることができる。
【0034】
[アルキノイル化アシル化多糖誘導体]
本開示の効果が得られる範囲内で、アルキノイル化多糖誘導体は、多糖類のグルコース環の水酸基の少なくとも一部がアシル基で置換された、アルキノイル化アシル化多糖誘導体であってよい。このアシル基の具体例として、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基等の脂肪族アシル基;ベンゾイル基等の芳香族アシル基が挙げられる。脂肪族アシル基が好ましく、アセチル基、プロピオニル基及びブチリル基がより好ましく、アセチル基が特に好ましい。以下特に注釈がない場合、本明細書における「アシル基」については、本段落の記載が参照される。
【0035】
アルキノイル化アシル化多糖誘導体のアシル置換度は、1.0未満であってよく、0.8以下であってよい。アシル置換度の下限値は0であるが、0を超えてよく、0.1以上であってよい。以下特に注釈がない場合、本明細書における「アシル置換度」については、本段落の記載が参照される。
【0036】
アルキノイル化アシル化多糖誘導体は、前述のアルキノイル化多糖誘導体を既知の方法でアシル化することにより得られうる。アシル化の方法については特に限定はなく、例えば、ピリジン等の溶媒に溶解して無水カルボン酸類と反応させる方法が挙げられる。また、アシル化多糖類にアルキノイック酸を作用させて、グルコース環の水酸基の一部又は全部をアルキノイル基で置換(アルキノエート化)する方法により、アルキノイル化アシル化多糖誘導体を得ることもできる。例えば、前述したアシル化多糖類とアルキノイック酸との反応は、ピリジン等の溶媒中でアシル化多糖類とアルキノイック酸とを反応させてエステル化する方法であってもよい。
【0037】
[アルキノイルセルロースアシレート]
アルキノイル化多糖誘導体(前駆体)の他の一例であるアルキノイルセルロースアシレートについて、以下に説明する。
【0038】
アルキノイルセルロースアシレートは、多糖類としてセルロースを用いて、前述した方法で得たアルキノイルセルロースを既知の手法でアシル化することにより得られてもよく、また、多糖類としてセルロースアシレートを出発原料として、前述した方法によりアルキノイル化することにより得られてもよい。本開示のアルキノイル化多糖誘導体(前駆体)の一例であるペンチノイルセルロースアセテートの構造式が、図5に示されている。図示される通り、ペンチノイルセルロースアセテートは、多糖類のグルコース環の2位、3位及び6位の水酸基のいずれか又は全部がアルキノイル基又はアセチル基に置換されている。このペンチノイルセルロースアセテートは、例えば、ペンチノイルセルロースを無水酢酸でアセチル化することにより得ることができるし、また、セルロースアセテートをペンチノイック酸でエステル化して、ペンチノイル基を導入することにより得ることもできる。
【0039】
出発原料にセルロースアシレートを用いる場合、セルロースアシレートのアシル基の炭素数は2~4であってよい。この中でも特にアセチル基及びブチリル基が腸内細菌で代謝され易い点で好ましい。セルロースアシレートの平均アシル置換度は、0.1以上であればよく、0.3以上であってよく、0.4以上であってよく、また、平均アシル置換度は1.4以下であってよい。即ち、本開示において、アルキノイル化多糖誘導体(前駆体)は、アシル置換度が0.1以上1.4以下のアルキノイルセルロースアシレートであってよい。
【0040】
セルロースアシレートとしてセルロースアセテートを選択する場合、アセチル置換度は0.4~1.4であってよく、0.4~1.1であってよい。換言すれば、本開示のアルキノイル化多糖誘導体(前駆体)は、アセチル置換度が0.4以上1.4以下のアルキノイルセルロースアセテートであってよい。このようなセルロースアセテートとしては、WO2015/093067A1公報を参照することができる。
【0041】
セルロースアシレートとしてセルロースアセテートブチレートを選択する場合、アシル基による総置換度が0.3以上1.8以下であり、全アシル基中ブチル基による置換率が95%以上であり、6位置換率が40%以下である、セルロースアセテートブチレートが好ましい。このようなセルロースアシレートは、以下の方法により得ることができる。始めに、原料である天然セルロースを、溶媒であるピリジンに分散又は溶解した後、塩化トリチルを添加してセルロースのトリチル化をおこなうことにより、6位が優先的にトリチル化されたトリチルセルロースを得る。このトリチルセルロースをピリジンに分散又は溶解した後、塩化ブチリルを添加してセルロースの水酸基をブチリル化すると、6位に優先的にトリチル基を有し、2位及び3位に優先的にブチリル基を有する2,3-ブチリル-6-トリチルセルロースが得られる。この2,3-ブチリル-6-トリチルセルロースを、メタノールを含む溶媒に分散又は溶解した後、硫酸等の酸触媒を添加して、エステル交換又は加水分解して総置換度を0.3以上1.8以下に調整する。
【0042】
[Complex functional group(CFG)]
CFGとは、一般に嵩高い分子構造を有する官能基であり、本開示においては、特に、その構造により生理活性等の有用な物性を発現する官能基を意味する。多糖類又はアシル化多糖類との反応によって当初構造が変化するものであっても、反応後の構造によって所望の物性を発現できるものであれば、本開示におけるCFGに含まれる。例えば、多糖類又はアシル化多糖類とのエステル化反応によれば、CFG中の水酸基等も影響されることで所望の生理活性が阻害される場合があるが、後述するAzide-Alkyne Cycloaddition固定化(以下、「AAC固定化」)によれば、目的外の反応を回避することができる。
【0043】
CFGの出発原料としては特に限定はないが、AAC固定化に供するため、アジド基を導入できる構造を有する化合物が好ましい。アジド基は、多くの有機化合物に導入容易な官能基であり、基本的に安定である。CFGの出発原料をアジド化する方法は特に限定されず、アジ化ナトリウムを用いる方法であってよく、ジフェニルリン酸アジドを用いる方法であってもよい。
【0044】
以下、本開示において、CFGを含む化合物にアジド基を導入したものをCFG誘導体と称する。抗腫瘍作用を有する出発原料から得られるCFG誘導体が好ましい。このような出発原料として、ベツリン(Betulin)、メトトレキサート(Methotrexate)、フルオロウラシル(5-fluorouracil、5-FU)、カペシタビン(Capecitabine)、SN-38等が挙げられる。
【0045】
[ベツリン]
本開示において好適なCFGとして、図1に化合物1として示されるベツリン(Lup-20(29) ene-3,28-diol)が例示される。ベツリンは、シラカバ樹皮中に約20~25%含まれるトリテルペン化合物の1種である。ベツリンは生理活性物質であり、抗菌性、抗ウィルス性、抗炎症性等種々の特性を示すことが知られている。また、C3及びC28に位置する水酸基を官能基変換したベツリン誘導体は、抗がん作用及び抗HIV活性を示すとされている。
【0046】
本開示の効果が得られる限り、ベツリンは、既知の手段を用いて樹皮から抽出して用いてもよく、試薬として市販されているものをそのまま、若しくは精製して用いてもよい。樹皮から抽出する場合、含有量の多いカバノキ属の樹皮であってよく、シラカバの樹皮であってよい。
【0047】
[メトトレキサート]
CFGの他の例として、図2に化合物2として示されるメトトレキサート(Methotrexate、MTX (S)-2-(4-(((2,4-diaminopteridin-6-yl)methyl)methylamino)benzamido)pentanedioic acid)が挙げられる。メトトレキサートは、葉酸代謝拮抗機序を有し、免疫抑制剤に分類される薬剤である。抗悪性腫瘍薬(抗がん剤)、抗リウマチ薬、妊娠中絶薬等として使用される。メトトレキサートは葉酸と類似の構造をしており、葉酸を活性型葉酸にする酵素の働きを阻止することにより、核酸合成を阻止し、細胞増殖を抑制する。このため、抗がん作用は強いものの、同時に新陳代謝が活発な粘膜等の組織への副作用も高い抗がん剤である。メトトレキサートは胃及び小腸で吸収され、80~90%は未変化体のまま主に腎臓から排泄されることが知られている。そのため、患者の腎機能によって体内動態が変動する可能性がある。このような性質を有するメトトレキサートをCFGとして含む本開示のAAC固定化多糖誘導体によれば、メトトレキサートが大腸の腸内細菌で代謝されるため、患者に対する負担が軽減されると期待できる。さらには、大腸癌に対しても葉酸代謝拮抗機序による効果が期待できるので有用である。
【0048】
[フルオロウラシル]
CFGのさらに他の例として、図3に化合物3として示されるフルオロウラシル(fluorouracil、5-フルオロウラシル、5-Fluoropyrimidine-2,4(1H,3H)-dione、5-FU)が挙げられる。フルオロウラシルは、体内でリン酸化され、活性本体である「5-フルオロデオキシウリジン-5’-一リン酸(fluorodeoxyuridine-5'-monophosphate :FdUMP)」となり、補酵素で還元型葉酸として存在する「5,10-メチレンテトラヒドロ葉酸(N-5,10-methylenetetrahydrofolate)」の存在下で、チミジル酸シンターゼ(TS)と三元共有結合複合体(ternary complex)を形成することで、TS活性を阻害する。TS活性が阻害されるとチミンの合成が阻害され、DNAが作れなくなる。また、FdUMPがDNAに組み込まれることでも、DNA合成が阻害される。これにより腫瘍増殖を抑制する。フルオロウラシルは座薬として投与されてS状結腸・直腸癌の自覚的及び他覚的症状の緩解に使用される他は、注射薬として投与されており患者の負担が大きい。直腸癌及び結腸癌の抗がん剤として有用なフルオロウラシルをCFGとして含む本開示のAAC固定化多糖誘導体によれば、結腸(大腸)に直接フルオロウラシルをデリバリーすることができるので治療効果が期待できる。
【0049】
[CFG誘導体]
前述した通り、CFG誘導体は、CFGを含む化合物にアジド基を導入したものである。所望のCFGを含む化合物にアジド基を導入したCFG誘導体を、前駆体であるアルキノイル化多糖誘導体又はアルキノイル化アシル化多糖誘導体と反応させることにより、本開示のAAC固定化多糖誘導体を製造することができる。換言すれば、CFG誘導体もまた、本開示のAAC固定化多糖誘導体の前駆体である。
【0050】
アジド基は、例えば、CFGの出発原料である化合物の炭素-炭素間二重結合(以下、「アルケン部位」と称する)に導入してもよい。また、メチル基等の水素原子の一つをハロゲン原子に置換した後、アジド化することにより導入してもよい。この場合、ハロゲン原子に置換された部位が、後述のAAC固定化反応によって1,2,3-トリアゾ-ル環基となる部位である。
【0051】
[ベツリン誘導体]
図1に示される通り、ベツリンは、C20とC29との間に炭素-炭素間二重結合(以下、「アルケン部位」と称する)を有している。ベツリンの酸化反応、又は、ベツリンと求電子剤、ルイス酸等との反応によって、このアルケン部位に種々の反応性官能基を導入することができる。本開示のベツリン誘導体は、ベツリンのアルケン部位に導入されたアジド基を含んでいる。
【0052】
アルケン部位にアジド基が導入されたベツリン誘導体(以下、「アジド化ベツリン」と称する)の構造が、図4に化合物4として示されている。アジド化ベツリンは、例えば、Leggansら(Org. Lett. 2012, 14 (6), 1428-1431)を参照して調製することができる。Leggansらでは、Fe3+/NaBHが介在してアルケン部位に水素が付加されることにより生成したアルキルラジカルに対し、アジ化ナトリウム(NaN)が作用してアルケン部位にアジド基(-N)が導入されるという機構が提案されている。
【0053】
具体的には、テトラヒドロフラン/水の混合溶媒中に、ベツリン、シュウ酸鉄(III)六水和物、水素化ホウ素ナトリウム及びアジ化ナトリウムを添加して反応させることにより、アジド化ベツリンを得ることができる。各試薬の添加量、反応温度及び反応時間は、適宜変更することができる。ベツリン1当量に対し、シュウ酸鉄(III)六水和物、水素化ホウ素ナトリウム及びアジ化ナトリウムの添加量を、それぞれ、12当量、58当量及び18当量とし、5℃で20時間反応させることによって、収率98%でアジド化ベツリンが得られうる。本開示の効果が得られる限り、アジド化ベツリンが、構造異性体(位置異性体)を副生成物として含んでもよい。
【0054】
アルケン部位へのアジド基の導入は、FT-IR、H-NMR及び13C-NMRにより確認することができる。
【0055】
アジド化ベツリンのFT-IRスペクトルでは、ベツリンのアルケン部位による吸収が観測されず、アジド基による吸収が2101cm-1に観察された。アジド化ベツリンのH-NMRスペクトルでは、ベツリンのアルケン部位に由来するピーク(4.68ppm及び4.58ppm)は観察されず、メチル基に帰属される1.31ppm及び1.22ppmに観察された。当該ピークのメチル基への帰属は、二次元NMR(gHSQC)により確認することができる。この結果は、ベツリンのC20にアジド基が導入され、これに付随する水素付加によりC29がメチル基に変化したことを示す。また、アジド化ベツリンの13C-NMRスペクトルにおいて、ベツリンのC20(150.45ppm)及びC29(109.67ppm)のピークが消失することによっても確認することができる。
【0056】
[メトトレキサート誘導体]
メトトレキサートは、葉酸に類似の立体構造を有することで薬効を生じる。従って、葉酸と類似の構造を残してアジド化する必要がある。この観点から、メチル基の水素原子の一つをハロゲン化した後、銅触媒存在下でアジ化ナトリウム(NaN)等と反応させることによりアジド基を導入する方法が好適である。例えば、塩素ガス中でメトトレキサートに光照射することにより、メチル基の水素原子をハロゲン化することができる。この方法であれば、官能基許容性にも優れており、カルボン酸を保護することなく所望のメトトレキサート誘導体を得ることができる。
【0057】
[フルオロウラシル誘導体]
フルオロウラシルは、ウラシルに類似の構造を有することで転写阻害作用を有している。従って、ウラシルの5位水素原子がフッ素原子に置換した構造を維持する必要がある。この観点から、例えば、3-chloro-5-fluoro-1H-pyrimidine-2,4-dione として塩素原子を1原子導入した後、銅触媒存在下でアジ化ナトリウム(NaN)等と反応させることによりアジド基を導入する方法が好適である。
【0058】
[Azide-Alkyne Cycloaddition固定化(AAC固定化)]
アジド基はアルキン部位を持つ化合物と環化付加反応をおこなって、1,2,3-トリアゾ-ル環基を形成する。この反応は、所謂クリック化学として知られている反応である。以下、本開示において、この反応を、Azide-Alkyne Cycloaddition固定化反応と称する。単に「AC固定化」と称する場合がある。
【0059】
アジド基とアルキン部位とは反応性が高いため、温和な条件で高収率のカップリング反応が可能である。従って、所望の化合物にアルキン部位を導入して、前述のCFG誘導体とクリック反応するにより、種々の化合物にCFGを導入することができる。例えば、セルロース又はセルロースアシレートは、前述したようにグルコース環の2位、3位及び6位の水酸基の一部又は全部をアルキノイル基に置換することができる。高置換度でアルキノイル基を含むセルロース誘導体をCFG誘導体と反応させることにより、グルコース環の所望の部位に高含有量でCFGを導入したAAC固定化セルロース誘導体を得ることができる。
【0060】
図6は、図5に例示されるペンチノイル化セルロース誘導体(化合物5)と、アジド化ベツリン(化合物4)とのAAC固定化反応を示す模式図である。この反応で得られるAAC固定化セルロース誘導体(化合物6)は、エステル基を介して、1,2,3-トリアゾ-ル環基を有するCFG(ベツリン残基)が結合されている。換言すれば、本開示のAAC固定化多糖誘導体とは、Azide-Alkyne Cycloaddition固定化によりCFGが導入された多糖誘導体を意味する。
【0061】
[Azide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体(AAC固定化多糖誘導体)]
本開示のAAC固定化多糖誘導体は、多糖類のグルコース環の2位、3位及び6位のいずれか又は全部にエステル基を介して結合したComplex functional group(CFG)を含む。このCFGは、アジド基とアルキン部位とのAzide-Alkyne Cycloaddition固定化反応により形成された1,2,3-トリアゾ-ル環基を有している。
【0062】
以下、CFG原料としてベツリンを使用し、多糖類としてセルロースを使用した場合を例にして、本開示のAAC固定化多糖誘導体を説明する。このAAC固定化多糖誘導体では、CFGがベツリン構造を有している。以下、このAAC固定化多糖誘導体を「ベツリン固定化セルロース誘導体」と称する。ベツリン固定化セルロース誘導体は、グルコース環の2位、3位及び6位のいずれか又は全部にエステル基を介して結合したベツリン残基を含む。このベツリン残基は、1,2,3-トリアゾ-ル環基を有している。ベツリン残基は、ベツリンのアルケン部位に導入されたアジド化ベツリンに由来するものであってよい。ベツリン固定化セルロース誘導体は、グルコース環の2位、3位及び6位のいずれか又は全部に、エステル基を介して、1,2,3-トリアゾ-ル環基を有するベツリン残基が結合したものであってよい。
【0063】
本開示の効果が得られる限り、AAC固定化されたCFGの含有量は特に限定されない。本開示において、CFGの含有量は、グルコース単位当たり、CFGに結合したエステル基で置換された水酸基の平均個数(即ち、平均置換度)として表記されうる。CFGに結合したエステル基による平均置換度は1.0以上であってよく、1.2以上であってよく、1.5以上であってよく、その上限値は3.0であるが、CFGに結合したエステル基による平均置換度は、2.9以下であってよく、2.8以下であってよい。CFGに結合したエステル基による平均置換度は、H-NMR又は13C-NMRにより測定される。例えば、ベツリン固定化セルロース誘導体の場合、ベツリン構造を含むCFGに結合したエステル基が平均置換度1.5以上で導入されていてもよい。
【0064】
本開示のAAC固定化多糖誘導体は、グルコース環の2位、3位及び6位の水素の一部がアシル基で置換されていてもよい。CFGが有効量含まれるとの観点から、アシル置換度は1.0未満であってよく、0.8以下であってよく、また、0.1以上であってよい。AAC固定化多糖誘導体におけるアシル置換度は、H-NMR又は13C-NMRにより測定される。
【0065】
グルコース環の2位、3位及び6位の水素の一部がアシル基で置換されたAAC固定化多糖誘導体において、アシル基の種類は特に限定されないが、例えば、アシル基の炭素数は2以上であってよく、3以上であってよく、4以上であってよく、また、10以下であってよく、8以下であってよい。2種以上のアシル基を置換基として有してもよい。また、アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、カルボキシル基、カルボキシメチル基、2-ヒドロキシエチル基、2-ヒドロキシプロピル基、メチル基等が挙げられる。アセチル基及びブチリル基が好ましく、アセチル基がより好ましい。
【0066】
本開示の効果が得られる限り、AAC固定化多糖誘導体の分子量及び分子量分布は特に限定されず、用途に応じて適宜選択することができる。AAC固定化多糖誘導体の分子量及び分子量分布は、主として、出発原料である多糖類又はアシル化多糖類に依拠する。分子量分布は、として定義される。AAC固定化多糖誘導体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mn並びに分子量分布Mw/Mnは、サイズ排除クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0067】
[AAC固定化多糖誘導体の製造方法]
前述したAAC固定化多糖誘導体は、CFGを含む化合物(以下、CFG原料)にアジド基を導入してアジド化誘導体を得ること、及び、このアジド化誘導体とアルキノイル化多糖誘導体とを反応させること、を含む製造方法により得られうる。この「アジド化誘導体」は、ベツリン等のCFGを含む化合物をアジド化して所定の部位にアジド基を導入したものであり、前述したCFG誘導体を参照することができる。例えば、CFG原料であるベツリンのアルケン部位にアジド基を導入してアジド化ベツリンを得ること、及びアジド化ベツリンとアルキノイルセルロース又はアルキノイルセルロースアシレートとを反応させること、を含む製造方法により、1,2,3-トリアゾ-ル環基を有するベツリン残基が、エステル基を介して、グルコース環の2位、3位及び6位のいずれか又は全部に結合されたベツリン固定化セルロース誘導体が得られる。
【0068】
AAC固定化の反応条件は特に限定されず、反応原料である化合物の種類、物性等に応じて適宜選択されてよい。例えば、アジド化ベツリンと、アルキノイルセルロース又はアルキノイルセルロースアシレートとでは、アジド基とアルキニル基とのHuisgen 1,3-双極子環化付加反応(クリック反応)により、1,2,3-トリアゾール環を形成して結合する。この結合により、エステル基を介して、1,2,3-トリアゾ-ル環基を有するベツリン残基が結合されたベツリン固定化セルロース誘導体が得られる。この反応例が、図6に示されている。クリック反応では、溶媒中で混合するだけで、温和な条件で選択的にアジド基とアルキニル基とが反応して、高収率で反応生成物が得られる。そのため、反応温度は、30℃以下であってよく、20℃以下であってよく、10℃以下であってよい。反応時間は、反応温度に応じて適宜選択される。
【0069】
[用途]
本開示のAAC固定化多糖誘導体は、CFGに由来する様々な機能を発現することができる。例えばベツリン固定化セルロース誘導体であれば、ベツリンに由来する抗菌性、抗ウィルス性、抗炎症性、抗腫瘍性等の特性と、セルロース誘導体に由来する成形性、親水性等の特性とを有している。このベツリン固定化セルロース誘導体によれば、生理活性を有した繊維、フィルム等が得られうる。
【0070】
また、AAC固定化多糖誘導体は、ヒト又は動物の腸内に存在する一部の腸内細菌によって分解される場合がある。例えば、多糖類誘導体が、酢化澱粉、酪化澱粉、セルロースアセテート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート等の場合には、腸内細菌による分解が顕著である。この性質を利用して、AAC固定化多糖類誘導体を医薬としてヒト又は動物に経口投与した場合、特に大腸における腸内細菌によって分解され、CFGが遊離して腸内に放出される。なお、大腸以前の上部消化器官での放出を期待する場合には、酢化澱粉を多糖類誘導体として選択してもよい。このように、本開示のAAC固定化多糖誘導体は、大腸においてCFGを放出する徐放性医薬として利用することができる。換言すれば、本開示の徐放性医薬は、AAC固定化多糖誘導体を含み、大腸においてCFGを遊離して薬効成分を放出する作用を有する。この徐放性医薬により放出される薬効成分は、大腸において抗腫瘍作用を有するものであってよい。他の観点から、本開示は、AAC固定化多糖誘導体を含む抗腫瘍剤である。
【実施例0071】
以下、より具体的な実験例によって本開示の効果が明らかにされるが、これらの記載に基づいて本開示が限定的に解釈されるべきではない。
【0072】
[実験例1]
(微結晶セルロースのペンチノイル化)
一晩120℃で真空乾燥した微結晶セルロース1.0000g(6.173mmol AGU)を、撹拌しながら、超脱水ジメチルアセトアミド25mlに添加した後、オイルバスを用いて110℃に加熱した。ここへ、145℃で4時間真空乾燥した塩化リチウム1.4979gを添加した後、室温になるまで放冷して微結晶セルロースを溶解させた。続いて、氷冷下で、EDC塩酸塩4.7187g(24.62mmol、AGU当たり4.0equiv.)、4-Pentynoic acid1.8061g(18.41mmol、AGU当たり3.0equiv.)、及び、4-ジメチルアミノピリジン3.008g(24.62mmol、AGU当たり4.0equiv.)を添加した後、80℃で24時間、続いて、60℃で26時間反応させた。
【0073】
その後、得られた反応液を、メタノール/蒸留水(容量比1/1)の混合溶媒に注ぎいれ、生じた沈殿物を遠心分離で捕集した。この沈殿物を、メタノールで8回洗浄した後、80℃で7時間、続いて、室温で4日間真空乾燥することにより、粗生成物1.7974gを得た。この粗生成物の全量を、テトラヒドロフラン11mlに溶解した後、溶解液をメタノール/蒸留水(容量比1/1)の混合溶媒約350mlに注ぎ入れ、生じた沈殿物を吸引濾過により捕集した。さらに沈殿物を、メタノール/蒸留水(容量比1/1)の混合溶媒約200mlで洗浄した後、80℃で24時間真空乾燥することにより、ペンチノイルセルロース1.7096gを得た。
【0074】
(ペンチノイル置換度の測定)
ペンチノイルセルロース201.6mgをピリジンに溶解した。このピリジン溶液2mlに、2mlの無水酢酸及び0.1107mgの4-ジメチルアミノピリジンを添加して、室温で19時間撹拌した後、50℃に昇温してさらに6時間撹拌した。得られた反応液を、ミキサーで激しく撹拌した蒸留水約150mlに注ぎ入れた後、吸引濾過をおこなって沈殿物を捕集した。この沈殿物を蒸留水及びエタノールで順次洗浄した後、80℃で88時間真空乾燥させて、H-NMR測定に供した。その結果、ペンチノイル置換度はあり、グルコース環の2位、3位及び6位にそれぞれペンチノイル基が導入されていることを確認した。なお、NMR測定には、300-MHz NMR装置(Varian社製、商品名「INOVA300」)を使用した。試料は、重水素化クロロホルム(内部標準物質:テトラメチルシラン)に溶解して測定した。
【0075】
(アジド化ベツリンの調整)
始めに、シュウ酸鉄(III)六水和物(Sigm Aldrich社製、98%、2.0equiv.)を蒸留水(0.89ml/equiv.)に添加して溶解した後、0~5℃に冷却して10分間脱気した。その後、アジ化ナトリウム(ナカライテスク社製、3.0wquiv.)及びテトラヒドロフラン(ナカライテスク社製、4.4ml/equiv.)を添加した。続いて、テトラヒドロフラン(6.4ml/equiv.)に溶解したベツリン(Angene社製、98%、0.022mmol、1equiv.)を滴下した。その後、水素化ホウ素ナトリウム(和光純薬社製、92%、6.4equiv.)を数回に分けて添加し、添加終了後から5℃で24時間反応させた後、反応液にアンモニア水(ナカライテスク社製、28-30%、3.6ml/equiv.)を添加して反応を停止させた。反応液を酢酸エチル(ナカライテスク社製)で抽出し、油相を蒸留水で3回以上、続いて飽和塩化ナトリウム水溶液で1回以上洗浄した後、硫酸ナトリウム(和光純薬社製、無水)で脱水した。その後、油相をロータリーエバポレーターで濃縮し、室温下、真空乾燥させることにより、粗生成物を得た。試料濃度は0.014mol/lとした。
【0076】
得られた粗生成物を、酢酸エチル/ヘキサン(容量比1/4)の混合溶媒を用いて、分取薄層クロマトグラフィーで精製することにより、ベツリン誘導体として、アジド化ベツリンを得た(収率67%)。
【0077】
(アジド化ベツリンとペンチノイルセルロースとの反応)
得られたアジド化ベツリンとペンチノイルセルロースのクリック反応をおこなって、ベツリン残基がエステル基を介してグルコース環に結合したベツリン固定化セルロース誘導体を得た。
【0078】
得られたベツリン固定化セルロース誘導体は、嵩高いベツリン残基の導入によって溶解性が大きく変化したため、クロロホルム及びテトラヒドロフランに溶解しなかった。
【0079】
[実験例2]
(セルロースアセテートのペンチノイル化)
実験例1において、微結晶セルロースを、セルロースアセテート(ダイセル社製の商品名「L50」、酢化度55%、置換度2.4、6%粘度110(10-3Pa・s))に変更してペンチノイル化をおこなった。
【0080】
攪拌機、冷却管を備えた500mL丸底フラスコに、ピリジン160gを入れ、攪拌を開始した。このフラスコに、ダイセル社製のセルロースアセテート(商品名「L-50」、アセチル置換度2.44;105℃で2時間乾燥し、水分量を0.5重量%以下としたもの)を27.5g(0.105mol)添加して、シリコーン油浴で60℃まで昇温し、溶解するまで攪拌した。攪拌を継続しながら、4-ペンチノイルクロライド(シグマアルドリッチ社製)14.6g(0.125mol)を滴下ロートから60分かけて滴下した後、80℃に昇温し、4時間攪拌を継続した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、攪拌しながらメタノール1000gを加え、沈殿を形成させた。沈殿物を吸引ろ過により採取して、セルロースアセテートペンチノエートのウェットケーキを得た。H-NMRを測定したところ、得られたセルロースアセテートペンチノエートは、アセチル置換度が2.4、ペンチノイル置換度が0.6であることを確認した。
【0081】
[実験例3]
(置換度0.8のセルロースアセテートの合成)
置換度0.8のセルロースアセテートを、特許第5921762号に準ずる方法で合成する。具体的には、セルロースアセテート(ダイセル社製、商品名「L-50」、アセチル総置換度2.4)40.0g(0.152mol)に対して、106gの酢酸及び42gの水を加え、混合物を3時間攪拌してセルロースアセテートを溶解する。この溶液に2.6g(0.027mol)の硫酸を添加し、得られた溶液を95℃に保持して、加水分解をおこなう。加水分解反応の時間は2.5時間であり、加水分解中にセルロースアセテートが沈殿するのを防止するために、反応液に40gの水を2回に分けて添加する。加水分解後、系の温度を室温(約25℃)まで冷却し、反応混合物に300gの沈殿溶媒(メタノール)を加えて沈殿を生成させる。固形分率15重量%のウェットケーキとして沈殿を回収し、160gのメタノールを加え、固形分15重量%まで脱液することにより洗浄する。これを3回繰り返し、乾燥して置換度0.8の低置換度セルロースアセテートを得る。
【0082】
(セルロースアセテートのペンチノイル化)
攪拌機、冷却管を備えた500mL丸底フラスコに、ピリジン160gを入れ、攪拌を開始する。このフラスコに、得られた低置換度セルロースアセテート21.0g(0.11mol)を加え、シリコーン油浴で60℃まで昇温し、溶解するまで攪拌する。攪拌を継続しながら、4-ペンチノイルクロライド(シグマアルドリッチ社製)17.5g(0.15mol)を滴下ロートから60分かけて滴下した後、80℃に昇温し、4時間攪拌を継続する。得られた反応混合物を室温まで冷却し、攪拌しながらメタノール1000gを加え、沈殿を形成させる。沈殿物を吸引ろ過により回収し、セルロースアセテートペンチノエートのウェットケーキを得る。H-NMRにより、セルロースアセテートペンチノエートが、アセチル置換度が0.8、ペンチノイル置換度が1.2であることを確認することができる。
【0083】
[実験例4]
(アジド化ベツリンとペンチノイルセルロースアセテートとの反応)
実験例1で得たアジド化ベツリンと、実験例2及び3で得られるセルロースアセテートペンチネートとのクリック反応(AAC固定化)により、ベツリン固定化セルロース誘導体を得る。
【0084】
(まとめ)
実験例1-4に示されるように、本開示によれば、多糖類のグルコース環にエステル基を介してCFGを固定化することができる。これにより、グルコース骨格を含む種々の化合物に、CFGに由来する優れた特性を付与することができる。以上の実験結果から、本開示の優位性は明らかである。
【0085】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0086】
[項目1]
多糖類のグルコース環の2位、3位及び6位のいずれか又は全部にエステル基を介して結合したComplex functional groupを含み、
上記Complex functional groupが1,2,3-トリアゾ-ル環基を有している、Azide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体。
【0087】
[項目2]
上記Complex functional groupがベツリン構造を有しており、上記Complex functional groupに結合したエステル基が平均置換度1.5以上で導入されている、項目1に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体。
【0088】
[項目3]
上記グルコース環の水酸基の少なくとも一部がアシル基で置換されている、項目1又は2に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体。
【0089】
[項目4]
上記アシル基がアセチル基である、項目3に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体。
【0090】
[項目5]
多糖類のグルコース環の2位、3位及び6位の水酸基のいずれか又は全部がアルキノイル基に置換されている、Azide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の前駆体。
【0091】
[項目6]
上記アルキノイル置換度が1.5以上である、項目5に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の前駆体。
【0092】
[項目7]
アルキノイルセルロース、又は、アシル置換度が0.1以上1.4以下のアルキノイルセルロースアシレートである、項目5又は6に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の前駆体。
【0093】
[項目8]
アセチル置換度が0.4以上1.4以下のアルキノイルセルロースアセテートである、項目5から7のいずれかに記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の前駆体。
【0094】
[項目9]
Complex functional groupを含む化合物にアジド基を導入してアジド化誘導体を得ること、
及び
上記アジド化誘導体と、アルキノイル化多糖誘導体とを反応させること
を含む、項目1から4のいずれかに記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の製造方法。
【0095】
[項目10]
上記アルキノイル化多糖誘導体は、アルキノイル置換度が1.5以上である、項目9に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の製造方法。
【0096】
[項目11]
上記アルキノイル化多糖誘導体が有するアルキノイル基の炭素数が3~10である、項目9又は10に記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の製造方法。
【0097】
[項目12]
上記アルキノイル化多糖誘導体が、アルキノイルセルロース又はアルキノイルセルロースアシレートである、項目9から11のいずれかに記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体の製造方法。
【0098】
[項目13]
項目1から4のいずれかに記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体を含む、腸内で薬効成分を放出する徐放性医薬。
【0099】
[項目14]
項目1から4のいずれかに記載のAzide-Alkyne Cycloaddition固定化多糖誘導体を含む、抗腫瘍剤。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上説明されたAAC固定化多糖誘導体の前駆体は、アジド基を有する種々の化合物、さらには、アジド基を導入された種々の化合物との反応に供することができる。これにより、生理活性等の機能を発現する構造をCFGとして含むAAC固定化多糖誘導体が得られうる。これらAACによりCFGが固定化された材料は、ベツリン固定化セルロース誘導体と同様、医薬品原料、繊維、フィルム、界面活性剤等種々の分野に適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6