(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060211
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】スピーカの出力特性補正システム及び音響システム
(51)【国際特許分類】
H04R 29/00 20060101AFI20240424BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H04R29/00 310
H04R3/00 310
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167429
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099748
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 克志
(74)【代理人】
【識別番号】100103171
【弁理士】
【氏名又は名称】雨貝 正彦
(74)【代理人】
【識別番号】100105784
【弁理士】
【氏名又は名称】橘 和之
(74)【代理人】
【識別番号】100098497
【弁理士】
【氏名又は名称】片寄 恭三
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雄二
【テーマコード(参考)】
5D220
【Fターム(参考)】
5D220AB02
(57)【要約】
【課題】スピーカの出力音量の周波数特性をフラット化し非線形歪の発生を抑制する「スピーカの出力特性補正システム及び音響システム」を提供する。
【解決手段】制御部6は、計測したスピーカ2の振動系の変位に基づいて、スピーカモデルの非線形なパラメータを含む各パラメータを算定する。音源装置1はオーディオ信号Siを出力し、出力フラット化フィルタ3は、算定したパラメータを線形化したスピーカモデルに従って、スピーカ2の出力する音量の周波数特性がフラット化するように、オーディオ信号Siの各帯域のゲインを調整しオーディオ信号Smとして出力し、非線形逆フィルタ4は、非線形なパラメータを含むスピーカモデルに従って、スピーカ2の非線形歪が抑制されるように、出力フラット化フィルタ3のゲインに適合させた信号処理によって、オーディオ信号Smを補正し出力オーディオ信号Soとしてアンプ5を介してスピーカ2に出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源装置から出力されるオーディオ信号に対するスピーカの出力特性を補正するスピーカの出力特性補正システムであって、
前記音源装置から出力されるオーディオ信号を第1オーディオ信号として、当該第1オーディオ信号を入力とし、第2オーディオ信号を出力する出力フラット化フィルタと、
前記第2オーディオ信号を入力とし、出力が前記スピーカに向けて出力される非線形逆フィルタとを備え、
前記出力フラット化フィルタには、第1オーディオ信号に対する前記スピーカの出力する音量の周波数特性が平坦化するように、前記第1オーディオ信号の各帯域のゲインを調整するフィルタ特性が、当該出力フラット化フィルタのフィルタ特性として設定されており、
前記非線形逆フィルタには、前記スピーカの非線形特性の逆特性が、当該非線形逆フィルタのフィルタ特性として設定されていることを特徴とするスピーカの出力特性補正システム。
【請求項2】
請求項1記載のスピーカの出力特性補正システムであって、
前記スピーカの振動系の変位を計測する変位計測手段と、
所定のオーディオ信号を前記スピーカに出力している状態において前記変位計測手段が計測した変位に基づいて、非線形なパラメータを含む複数のパラメータをもつ、前記スピーカのスピーカモデルを算定するスピーカモデル算定手段と、
算定したスピーカモデルの各パラメータを線形化したスピーカモデルである線形近似スピーカモデルを算定し、算定した線形近似スピーカモデルに従って、前記スピーカの出力する音量の周波数特性が平坦化するフィルタ特性を求め、求めたフィルタ特性を前記出力フラット化フィルタに、当該出力フラット化フィルタのフィルタ特性として設定するフィルタ特性設定手段を有することを特徴とするスピーカの出力特性補正システム。
【請求項3】
請求項2記載のスピーカの出力特性補正システムであって、
前記出力フラット化フィルタは、
前記第1オーディオ信号を、当該第1オーディオ信号の各帯域毎の信号である、複数の帯域毎信号に分割する帯域分割手段と、
各帯域に対応して設けられた、当該帯域のゲインを算定するゲイン算定手段と、
各帯域に対応して設けられた、当該帯域の帯域毎信号に、前記ゲイン算定手段が算定した当該帯域のゲインを与えるゲイン調整手段と、
各ゲイン調整手段がゲインを調整した帯域毎信号を混合して前記第2オーディオ信号として出力する混合手段とを有し、
各帯域に対応する前記ゲイン算定手段は、
当該帯域の帯域毎信号を入力とする線形近似スピーカモデルと、
当該帯域の帯域毎信号を入力とするフラット化スピーカモデルと、
前記フラット化スピーカモデルの出力の実効値を前記線形近似スピーカモデルの出力の実効値で除算した値を、当該帯域のゲインとして出力するゲイン出力手段とを有し、
前記フィルタ特性設定手段は、
算定した前記線形近似スピーカモデルに基づいて、前記スピーカの出力する音量の周波数特性が前記線形近似スピーカモデルよりも平坦化するスピーカモデルを前記フラット化スピーカモデルとして算定し、
算定した前記線形近似スピーカモデルと前記フラット化スピーカモデルを、各帯域に対応する前記ゲイン算定手段に設定することにより、当該出力フラット化フィルタのフィルタ特性を設定することを特徴とするスピーカの出力特性補正システム。
【請求項4】
請求項3記載のスピーカの出力特性補正システムであって、
前記フィルタ特性設定手段は、当該前記線形近似スピーカモデルのパラメータを、共振周波数が、前記線形近似スピーカモデルの共振周波数よりも低域側に移動するように変更したスピーカモデルを前記フラット化スピーカモデルとして算定することを特徴とするスピーカの出力特性補正システム。
【請求項5】
請求項2、3または4記載のスピーカの出力特性補正システムであって、
前記フィルタ特性設定手段は、前記スピーカモデル算定手段の算定したスピーカモデルの各パラメータが示す当該スピーカモデルの非線形特性の逆特性に整合するフィルタ特性を、前記線形逆フィルタのフィルタ特性として設定することを特徴とするスピーカの出力特性補正システム。
【請求項6】
請求項1記載のスピーカの出力特性補正システムであって、
前記スピーカの振動系の変位を計測する変位計測手段と、
所定のオーディオ信号を前記スピーカに出力している状態において前記変位計測手段が計測した変位に基づいて、非線形なパラメータを含む複数のパラメータをもつ、前記スピーカのスピーカモデルを算定するスピーカモデル算定手段と、
前記スピーカモデル算定手段の算定したスピーカモデルの各パラメータが示す当該スピーカモデルの非線形特性の逆特性に整合するフィルタ特性を、前記線形逆フィルタのフィルタ特性として設定するフィルタ特性設定手段とを有することを特徴とするスピーカの出力特性補正システム。
【請求項7】
請求項6記載のスピーカの出力特性補正システムであって、
前記線形逆フィルタは、
線形近似スピーカモデルと同じ、もしくは、異なる線形なスピーカモデルに従って振動系の変位を予測し予測変位として出力する第1のブロックと、
前記第2オーディオ信号の実効値を前記音源装置から出力されるオーディオ信号の実効値で除算した値で示されるゲインで前記予測変位を調整する予測変位修正手段と、
前記予測変位修正手段で調整された予測変位から、非線形なスピーカモデルに従って非線形歪量を予測し、予測した非線形歪量に従って、非線形歪が生じないように前記第2オーディオ信号を補正し、前記スピーカに向けて出力する第2のブロックとを有し、
前記フィルタ特性設定手段は、前記スピーカモデル算定手段の算定したスピーカモデルの各パラメータに従った特性に、前記第1のブロックの特性と前記第2のブロックの特性を設定することにより、前記線形逆フィルタのフィルタ特性を設定することを特徴とするスピーカの出力特性補正システム。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、6または7記載のスピーカの出力特性補正システムと、前記スピーカと、前記音源装置とを有することを特徴とする音響システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカの出力特性を補正する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スピーカの出力特性を補正する技術としては、スピーカの周波数特性の逆特性を持つ逆フィルタを通してオーディオ信号をスピーカに出力することにより、スピーカの出力する音量の周波数特性をフラット化する技術が知られている(たとえば、特許文献1)。
【0003】
また、本発明に関連する技術としては、
図6に示すようなスピーカの等価回路が知られている(非特許文献1)。
図6において等価回路は、
Re; Electrical Resistance
Le(x、i);Electrical Inductance
Bl(x); Force factor
Fm(x、i); Reluctance Force
m
0; Mechanical mass
Rm(v); Mechanical Resistance
K(x); Stiffness(剛性)
のパラメータを持つ。
【0004】
この等価モデルにおいてBl(x)、K(x)、Le(x、i)は非線形な特性となり、スピーカの非線形歪の発生の原因となる。
また、本発明に関連する技術としては、
図7に示す、Mirrorフィルタを用いてスピーカの非線形歪を補正する非線形歪補正システムが知られている(非特許文献2)。
ここで、
図7において、u(n)は入力オーディオ信号、Fsは入力オーディオ信号u(n)のサンプリング周波数である。また、Reはボイスコイルの直流抵抗であり
図6の等価回路のReに相当する。また、Rmは振動系の機械抵抗であり
図6の等価回路のRm(v)に相当する。また、m
0は振動系の等価質量であり、
図6の等価回路のm
0に相当する。また、K(x)はスチフネスであり
図6の等価回路のK(x)に相当する。また、Bl(x)は力係数であり、
図6の等価回路のBl(x)に相当する。また、A
0はアナログ部のゲインである。
【0005】
図7に示した非線形歪補正システムにおいて、Aのブロックは、線形なスピーカモデルに従って振動系の変位x(n)を予測するブロックであり、Bのブロックは、Aのブロックで予測した変位x(n)から、非線形なスピーカモデルに従って非線形歪量を予測し、予測に従って、非線形歪が生じないように入力オーディオ信号u(n)を補正し、補正したオーディオ信号u
L(n)を出力するブロックである。
【0006】
このような非線形歪補正システムによればスピーカの非線形特性の逆特性を入力オーディオ信号u(n)に施して、非線形歪が生じないオーディオ信号uL(n)を出力することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Klippel、 Wolfgang著、 "Modeling the large signal behavior of micro-speakers"、 133rd Audio Engineering Society Convention 2012、 Paper Number 8749、 October 25、 2012
【非特許文献2】梶川 嘉延(関西大学システム理工学部)著、「信号処理技術によるスピーカシステムの非線形歪補正」、日本音響学会誌67巻10号(2011)、pp.470475
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
スピーカに入力するオーディオ信号が大きくなるほど、スピーカの非線形性の影響が大きくなり、スピーカの出力の非線形歪が大きくなる。特に、同じ大きさの入力に対する振動が高域よりも大きくなる低域では、顕著に非線形歪が大きくなる。
そして、上述した逆フィルタを用いてスピーカの出力する音量の周波数特性をフラット化する技術によれば、低域の領域において音量が小さくなる特性をもつスピーカに対しては、低域の音をより大きくしたオーディオ信号をスピーカに出力することとなるため、この技術を適用した場合、より大きな非線形歪が発生してしまう。
【0010】
そこで、本発明は、スピーカの出力する音量の周波数特性をフラット化しつつ、スピーカの非線形歪の発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題達成のために、本発明は、音源装置から出力されるオーディオ信号に対するスピーカの出力特性を補正するスピーカの出力特性補正システムに、前記音源装置から出力されるオーディオ信号を第1オーディオ信号として、当該第1オーディオ信号を入力とし、第2オーディオ信号を出力する出力フラット化フィルタと、前記第2オーディオ信号を入力とし、出力が前記スピーカに向けて出力される非線形逆フィルタとを備えたものである。ここで、前記出力フラット化フィルタには、第1オーディオ信号に対する前記スピーカの出力する音量の周波数特性が平坦化するように、前記第1オーディオ信号の各帯域のゲインを調整するフィルタ特性が、当該出力フラット化フィルタのフィルタ特性として設定されており、前記非線形逆フィルタには、前記スピーカの非線形特性の逆特性が、当該非線形逆フィルタのフィルタ特性として設定されている。
【0012】
ここで、このようなスピーカの出力特性補正システムには、前記スピーカの振動系の変位を計測する変位計測手段と、所定のオーディオ信号を前記スピーカに出力している状態において前記変位計測手段が計測した変位に基づいて、非線形なパラメータを含む複数のパラメータをもつ、前記スピーカのスピーカモデルを算定するスピーカモデル算定手段と、算定したスピーカモデルの各パラメータを線形化したスピーカモデルである線形近似スピーカモデルを算定し、算定した線形近似スピーカモデルに従って、前記スピーカの出力する音量の周波数特性が平坦化するフィルタ特性を求め、求めたフィルタ特性を前記出力フラット化フィルタに、当該出力フラット化フィルタのフィルタ特性として設定するフィルタ特性設定手段を設けてもよい。
【0013】
また、この場合、前記出力フラット化フィルタを、前記第1オーディオ信号を、当該第1オーディオ信号の各帯域毎の信号である、複数の帯域毎信号に分割する帯域分割手段と、各帯域に対応して設けられた、当該帯域のゲインを算定するゲイン算定手段と、各帯域に対応して設けられた、当該帯域の帯域毎信号に、前記ゲイン算定手段が算定した当該帯域のゲインを与えるゲイン調整手段と、各ゲイン調整手段がゲインを調整した帯域毎信号を混合して前記第2オーディオ信号として出力する混合手段とより構成してよい。ここで、各帯域に対応する前記ゲイン算定手段には、当該帯域の帯域毎信号を入力とする線形近似スピーカモデルと、当該帯域の帯域毎信号を入力とするフラット化スピーカモデルと、前記フラット化スピーカモデルの出力の実効値を前記線形近似スピーカモデルの出力の実効値で除算した値を、当該帯域のゲインとして出力するゲイン出力手段とを設ける。そして、前記フィルタ特性設定手段において、算定した前記線形近似スピーカモデルに基づいて、前記スピーカの出力する音量の周波数特性が前記線形近似スピーカモデルよりも平坦化するスピーカモデルを前記フラット化スピーカモデルとして算定し、算定した前記線形近似スピーカモデルと前記フラット化スピーカモデルを、各帯域に対応する前記ゲイン算定手段に設定することにより、当該出力フラット化フィルタのフィルタ特性を設定する。
【0014】
また、この場合、前記フィルタ特性設定手段は、フラット化スピーカモデルを算定する際に、当該前記線形近似スピーカモデルのパラメータを、共振周波数が、前記線形近似スピーカモデルの共振周波数よりも低域側に移動するように変更したスピーカモデルを前記フラット化スピーカモデルとして算定してもよい。
【0015】
また、以上のスピーカの出力特性補正システムに、前記スピーカの振動系の変位を計測する変位計測手段と、所定のオーディオ信号を前記スピーカに出力している状態において前記変位計測手段が計測した変位に基づいて、非線形なパラメータを含む複数のパラメータをもつ、前記スピーカのスピーカモデルを算定するスピーカモデル算定手段と、前記スピーカモデル算定手段の算定したスピーカモデルの各パラメータが示す当該スピーカモデルの非線形特性の逆特性に整合するフィルタ特性を、前記線形逆フィルタのフィルタ特性として設定するフィルタ特性設定手段とを備えてもよい。
【0016】
また、このようにしたスピーカの出力特性補正システムは、前記線形逆フィルタを、線形近似スピーカモデルと同じ、もしくは、異なる線形なスピーカモデルに従って振動系の変位を予測し予測変位として出力する第1のブロックと、前記第2オーディオ信号の実効値を前記音源装置から出力されるオーディオ信号の実効値で除算した値で示されるゲインで前記予測変位を調整する予測変位修正手段と、
前記予測変位修正手段で調整された予測変位から非線形歪量を予測し、予測した非線形歪量に従って、非線形歪が生じないように前記第2オーディオ信号を補正し、前記スピーカに向けて出力する第2のブロックとより構成し、前記フィルタ特性設定手段において、前記スピーカモデル算定手段の算定したスピーカモデルの各パラメータに従った特性に、前記第1のブロックの特性と前記第2のブロックの特性を設定することにより、前記線形逆フィルタのフィルタ特性を設定するようにしてよい。
【0017】
また、併せて、本発明は、以上のスピーカの出力特性補正システムと、前記スピーカと、前記音源装置とを備えた音響システムも提供する。
以上のようなスピーカの出力特性補正システムや音響システムによれば、出力フラット化フィルタを用いて、スピーカの出力する音量の周波数特性をフラット化しつつ、非線形逆フィルタを用いて、スピーカの非線形歪の発生を抑制することができる。
また、振動系の変位等を計測して、前記スピーカのスピーカモデルを算定し、算定したスピーカモデルに従って出力フラット化フィルタや非線形逆フィルタの特性を設定するようにした場合には、経年変化などによるスピーカの特性の変化があった場合にも、計測を行ってスピーカのスピーカモデルを更新し、更新したスピーカモデルに従った特性の設定を行うことにより、以降、適正に、スピーカの出力する音量の周波数特性をフラット化や非線形歪の発生の抑制を行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、スピーカの出力する音量の周波数特性をフラット化しつつ、スピーカの非線形歪の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る音響システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る振動検出の構成を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るフラット化スピーカモデル設定例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る出力フラット化フィルタを示す図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る非線形逆フィルタを示す図である。
【
図7】公知の非線形歪補正システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1に、本実施形態に係る音響システムの構成を示す。
図示するように、音響システムは、音源装置1、スピーカ2、出力フラット化フィルタ3、非線形逆フィルタ4、アンプ5、制御部6を備えている。
図2aに、スピーカ2の構成を示す。
図示するように、スピーカ2は、ヨーク201、磁石202、トッププレート203、ボイスコイルボビン204、ボイスコイル205、フレーム206、ダンパ207、振動板208、エッジ209、ダストキャップ210、変位検出用磁石211、磁気角度センサ212を有する。
【0021】
今、図における上方をフロントスピーカの前方、下方をフロントスピーカの後方として、ヨーク201は、中央部に前方に突出した凸部2011を有し、当該凸部2011の外周部に環状の磁石202が設けられており、磁石202の上には環状のトッププレート203が設けられている。そして、このトッププレート203は、鉄等の導電性を有する部材によって構成される。そして、これらヨーク201、磁石202、トッププレート203によって磁気回路220が形成される。
【0022】
ボイスコイルボビン204は中空の円筒形状を有し、アンプ5からの信号が印加されるボイスコイル205が外周に巻かれている。また、ヨーク201の凸部2011は、ボイスコイルボビン204がヨーク201に対して前後に移動可能なようにボイスコイルボビン204の中空に後方より挿入されており、ボイスコイル205はヨーク201の凸部2011とトッププレート203との間の、磁気回路220によってトッププレート203の内周端間に発生する磁束が通過する位置に配置されている。
【0023】
振動板208は、おおよそフロントスピーカの前後方向を高さ方向とする円錐台の側面と同様な形状を有し、その外周端部がエッジ209でフレーム206の前端部に連結されている。また、振動板208の内周端部は、ボイスコイルボビン204の前端部に固定されている。
【0024】
このようなスピーカ2の構成において、アンプ5から信号がボイスコイル205に印加されると、磁気回路220から発生する磁束と、ボイスコイル205を流れる信号との電磁作用によって、信号の振幅に応じて、ボイスコイルボビン204が前後に振動する。そして、ボイスコイルボビン204が振動すると、ボイスコイルボビン204に連結されている振動板208が振動し、アンプ5からの信号に応じた音が発生する。
【0025】
変位検出用磁石211は、ボイスコイルボビン204と共に上下動するようにボイスコイルボビン204の外周側に固定されており、磁気回路220が発生する磁束と直交する方向の磁束を発生する。
磁気角度センサ212は、
図2bに示すように、磁気回路220から作用する磁束ベクトルQcと、変位検出用磁石211から作用する磁束ベクトルQsの合成ベクトルQの角度のアークタンジェントQs/Qcを磁気角度として検出し出力する。ボイスコイルボビン204の変位に伴う変位検出用磁石211の変位によって、磁気角度センサ212に作用する変位検出用磁石の磁束ベクトルは変化するので、この磁気角度は、ボイスコイルボビン204の変位量に従った値となる。
【0026】
ここで、図示を省略したが、スピーカ2には入力電圧や入力電流を検出する検出部が備えられており、検出部は検出した入力電圧や入力電流の情報を制御部6に出力する。
図1に戻り、音源装置1はオーディオ信号Siを出力する、出力フラット化フィルタ3はスピーカ2の出力する音量のオーディオ信号Siに対する周波数特性がフラット化(平坦化)するようにオーディオ信号Siの各帯域のゲインを調整し、中間オーディオ信号Smとして出力する。非線形逆フィルタ4は、スピーカ2の非線形歪が抑制されるように、出力フラット化フィルタ3のゲインの調整に適合させた信号処理によって、中間オーディオ信号Smを補正し、出力オーディオ信号Soとして、アンプ5を介してスピーカ2に出力する。
【0027】
ここで、オーディオ信号Si、中間オーディオ信号Sm、出力オーディオ信号Soは、デジタルのオーディオ信号であり、アンプ5は、出力オーディオ信号Soをアナログ信号に変換しスピーカ2に印加する。
また、出力フラット化フィルタ3と非線形逆フィルタ4の特性は制御部6が設定する。
出力フラット化フィルタ3と非線形逆フィルタ4の特性を設定するために、制御部6は、フィルタ特性設定処理を行う。
フィルタ特性設定処理は、音響システムの初期調整時に行う他、定期的に行ったり、利用者の指示に応じて行ったりすることができる。
フィルタ特性設定処理において、制御部6は、まず、
図6に示したスピーカ2の等価回路の各パラメータを算定する。
すなわち、制御部6は、出力フラット化フィルタ3と非線形逆フィルタ4の動作を停止し、入力をそのまま出力するスルー動作を行うように出力フラット化フィルタ3と非線形逆フィルタ4の双方を設定した状態で、音源装置1に所定のテスト信号を出力させながら、スピーカ2の入力電圧や入力電流や磁気角度センサ212で検出した磁気角度が示す振動系の変位xのデータを収集し、収集したデータを解析し
図6のスピーカ2の等価回路の各パラメータを算定する。
【0028】
次に、算定した各パラメータから、スピーカ2の等価回路を線形近似したスピーカモデルである線形近似スピーカモデルを算定する。
図6に示したスピーカ2の等価回路のパラメータLe(x、i)、Bl(x)、Rm(v)、K(x)を、変位x、振動系の速度v、スピーカ2の入力電流iに依存する部分を除いてLe、Bl、Rm、kに線形化すると、以下の2つの方程式が成立する。パラメータの線形化は、たとえば、パラメータをn次式で近似し、n次式の1次の項を、線形化したパラメータとすることなどより行うことができる。
u=Re・i+Le・di/dt+Bl・v
Bl・i=m
0・d
2x/dt
2+Rm・v+k・x
そこで、この2つの方程式を変位xについて解くことで、入力uに対する変位xを示す線形近似スピーカモデルを算定する。
【0029】
次に、制御部6は、入力uに対する変位xを示すスピーカモデルであって、入力uに対するスピーカ2の出力音量の周波数特性がフラットとなるスピーカモデルをフラット化スピーカモデルとして算定する。
ここで、一般的に、スピーカ2の変位振幅の周波数特性は、
図3aに示すように共振周波数ω
0より低域側が平坦な特性となり、音量の周波数特性が
図3bのように低域側で音量が下降する特性となる。
一方、
図3cに示す変位振幅の周波数特性のように、共振周波数ω
0がより低域側にあれば、
図3dに示す音量の周波数特性のように低域側で音量が下降することを抑制することができる。
そこで、制御部6は、線形近似スピーカモデルのパラメータを共振周波数ω
0が、より低域側に移動するように調整したスピーカモデルをフラット化スピーカモデルとして算定する。
すなわち、共振周波数ω
0=(k/m
0)
1/2となるので、線形近似スピーカモデルのkとm
0のうちのいずれか、もしくは、双方をk/m
0が小さくなるように変更したスピーカモデルをフラット化スピーカモデルとして算定する。
【0030】
次に、制御部6は、フィルタ特性設定処理において、以上のように算定した線形近似スピーカモデルとフラット化スピーカモデルを、出力フラット化フィルタ3に設定する。
ここで、
図4に、出力フラット化フィルタ3の構成を示す。
図示するように出力フラット化フィルタ3は、音源装置1から入力するオーディオ信号Siを、周波数帯域毎に分割し、n個の分割信号Si_jを出力する帯域分割部31、n個の分割信号Si_jに1対1に対応して設けた、対応する分割信号Si_jのゲインを調整するn個の可変ゲイン乗算器32、n個の分割信号Si_jに1対1に対応して設けたn個のゲイン算出部33、n個の可変ゲイン乗算器32の出力を混合して、出力フラット化フィルタ3の出力である中間オーディオ信号Smとして出力するミキシング部34を備えている。
【0031】
また、各ゲイン算出部33は、フラット化スピーカモデル331、実効値計算部332、線形近似スピーカモデル333、実効値計算部334、除算器335を備えている。
そして、制御部6は、フィルタ特性設定処理において、上述のように算定したフラット化スピーカモデルをフラット化スピーカモデル331として設定し、上述のように算定した線形近似スピーカモデルを線形近似スピーカモデル333として設定する。
j番目のゲイン算出部33のフラット化スピーカモデル331と線形近似スピーカモデル333には、対応する分割信号Si_jが入力する。実効値計算部332は、フラット化スピーカモデル331の出力の実効値RMS_C_jを算定し、実効値計算部334は、線形近似スピーカモデル333の出力の実効値RMS_L_jを算定する。
【0032】
そして、j番目のゲイン算出部33の除算器335は、j番目の可変ゲイン乗算器32のゲインG_jを、G_j=RMS_C_j/RMS_L_jに制御する。
次に、制御部6は、フィルタ特性設定処理において、以上のように算定した
図6のスピーカ2の等価回路の各パラメータから定まる特性を非線形逆フィルタ4に設定する。
ここで、
図5に、非線形逆フィルタ4の構成を示す。
図示するように、非線形逆フィルタ4としては、
図7に示した、公知のMirrorフィルタを用いた非線形歪補正システムを、ほぼそのまま用いる。そして、これにより非線形逆フィルタ4において、スピーカ2の非線形特性の逆特性を中間オーディオ信号Smに施すことにより、非線形歪が生じない出力オーディオ信号Soを生成する。
【0033】
図5の非線形逆フィルタ4と、
図7に示した非線形歪補正システムの異なる点は、実効値計算部41と、実効値計算部42と、除算器43と、可変ゲイン乗算器44が、
図7に示した非線形歪補正システムに対して追加されている点である。
実効値計算部41は、音源装置1が出力するオーディオ信号Siの実効値RMS_Siを算定し、実効値計算部42は、出力フラット化フィルタ3が出力する中間オーディオ信号Smの実効値RMS_Smを算定する。除算器43は、可変ゲイン乗算器44のゲインGaをGa=RMS_Sm/RMS_Siに制御する。
【0034】
可変ゲイン乗算器44は、非線形歪補正システムのゲインG0のゲイン乗算器の出力する変位x(n)をゲインGaで調整し、ゲイン乗算器G0の出力に代えて出力する。
ここで、このような非線形逆フィルタ4においても、Aのブロックが、線形なスピーカモデルに従って振動系の変位x(n)を予測するブロックとなり、Bのブロックが、Aのブロックで予測した変位x(n)から、非線形なスピーカモデルに従って非線形歪量を予測し、予測に従って、非線形歪が生じないように入力オーディオ信号Smを補正し、補正したオーディオ信号Soを出力するブロックとなる。
そして、以上のように可変ゲイン乗算器44でゲインGa=RMS_Sm/RMS_Siで、ゲイン乗算器G0の出力を調整するのは、非線形歪補正システムのゲインG0が、G0=Bl0・A0/Re・m0と、オーディオ信号のゲインA0に比例するため、出力フラット化フィルタ3で中間オーディオ信号Smに加えたゲイン分、ゲインG0のゲイン乗算器の出力である変位x(n)を補正して、非線形歪量の予測に誤差が生じないようにするためである。
【0035】
制御部6は、フィルタ特性設定処理において、算定した
図6のスピーカ2の等価回路の非線形パラメータを含む各パラメータからか定まる特性に、非線形逆フィルタ4の
図7に示した非線形歪補正システムと重複する部分の各ゲイン乗算器や可変ゲイン乗算器32の特性を設定することにより、非線形逆フィルタ4の特性を設定する。
【0036】
さて、制御部6は以上のようなフィルタ特性設定処理によって、出力フラット化フィルタ3と非線形逆フィルタ4の特性を設定したならば、出力フラット化フィルタ3と非線形逆フィルタ4の動作停止を解除し、設定した特性に従った動作を開始させる。
以上、本発明の実施形態について説明した。
以上のように、本実施形態によれば出力フラット化フィルタ3を用いて、スピーカ2の出力する音量の周波数特性をフラット化しつつ、非線形逆フィルタ4を用いて、スピーカ2の非線形歪の発生を抑制することができる。また、フィルタ特性設定処理において、振動系の変位等を計測して、スピーカのスピーカモデルを算定し、算定したスピーカモデルに従って出力フラット化フィルタと非線形逆フィルタの特性を設定するので、経年変化などによるスピーカの特性の変化があった場合にも、適宜、フィルタ特性設定処理を行うことにより、以降、適正に、スピーカ2の出力する音量の周波数特性をフラット化しつつ非線形歪の発生を抑制することができるようになる。
【符号の説明】
【0037】
1…音源装置、2…スピーカ、3…出力フラット化フィルタ、4…非線形逆フィルタ、5…アンプ、6…制御部、31…帯域分割部、32…可変ゲイン乗算器、33…ゲイン算出部、34…ミキシング部、41…実効値計算部、42…実効値計算部、43…除算器、44…可変ゲイン乗算器、201…ヨーク、202…磁石、203…トッププレート、204…ボイスコイルボビン、205…ボイスコイル、206…フレーム、207…ダンパ、208…振動板、209…エッジ、210…ダストキャップ、211…変位検出用磁石、212…磁気角度センサ、220…磁気回路、331…フラット化スピーカモデル、332…実効値計算部、333…線形近似スピーカモデル、334…実効値計算部、335…除算器、2011…凸部。