(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060226
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】羽根車及び羽根車の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 41/26 20060101AFI20240424BHJP
F04D 29/30 20060101ALI20240424BHJP
F04D 29/28 20060101ALI20240424BHJP
B23P 15/04 20060101ALI20240424BHJP
F16H 41/28 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
F16H41/26
F04D29/30 J
F04D29/28 R
B23P15/04
F16H41/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167463
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】303025663
【氏名又は名称】株式会社日立ニコトランスミッション
(74)【代理人】
【識別番号】100091306
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 友一
(74)【代理人】
【識別番号】100174609
【弁理士】
【氏名又は名称】関 博
(72)【発明者】
【氏名】市橋 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】荒井 拓也
(72)【発明者】
【氏名】今井 章継
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA20
3H130AB40
3H130AB42
3H130AC30
3H130BA96C
3H130CB00
3H130EA01C
3H130EB01C
3H130ED01C
3H130ED02C
(57)【要約】
【課題】切削によるブレードと外殻の一体形成を行うにあたり、加工時間の短縮と加工精度の向上を図る事のできる羽根車の製造方法を提供する。
【解決手段】ハブ12とリング14との間に複数のブレード16,18を配置して成る羽根車10の製造方法であって、複数のブレード16,18のうちの半数が円周上に均等配置されるように切削してハブ12とブレード16とを一体形成する工程と、複数のブレード16,18のうちの残りの半数が円周上に均等配置されるように切削してリング14とブレード18とを一体形成する工程と、ハブ12と一体形成されたブレード16とリング14と一体形成されたブレード18とが、互いに隣接配置されたブレード16,18間に介入するように、ハブ12とリング14とを組み合わせる工程と、を有することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の円環状を成す外殻部材の間に複数のブレードを配置して成る羽根車であって、
前記複数のブレードのうちの半数を円周上に均等に立設させている第1外殻部材と、
前記複数のブレードのうちの残りの半数を前記円周と同じ直径の円周上に均等に立設させている第2外殻部材と、を有し、
前記第1外殻部材に立設された前記ブレードと前記第2外殻部材に立設された前記ブレードとが、互いに隣接して立設されたブレード間に介入するように、前記第1外殻部材と前記第2外殻部材とを組み合わせて構成されていることを特徴とする羽根車。
【請求項2】
前記ブレードの先端には突起が設けられ、前記第1外殻部材、及び前記第2外殻部材にはそれぞれ、前記突起が嵌合する凹部または貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の羽根車。
【請求項3】
一対の円環状を成す外殻部材の間に複数のブレードを配置して成る羽根車の製造方法であって、
前記複数のブレードのうちの半数が円周上に均等配置されるように切削して第1外殻部材と前記ブレードとを一体形成する工程と、
前記複数のブレードのうちの残りの半数が前記円周と同じ直径の円周上に均等配置されるように切削して第2外殻部材と前記ブレードとを一体形成する工程と、
前記第1外殻部材と一体形成された前記ブレードと前記第2外殻部材と一体形成された前記ブレードとが、互いに隣接配置されたブレード間に介入するように、前記第1外殻部材と前記第2外殻部材とを組み合わせる工程と、を有することを特徴とする羽根車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽根車に係り、特に高能率、高精度な加工を行いたい場合に好適な羽根車、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等における原動機と減速機との間に設けられるトルクコンバータを構成するポンプやタービン、ステータにはそれぞれ、複数の羽根(ブレード)が備えられている。こうしたポンプやタービン等の羽根車は、その形態の複雑性から、種々の製造方法が検討されている。羽根車の製造方法の一例としては、特許文献1に開示されているように、羽根車を構成するシェルやホイールと呼ばれる外殻部分と、ブレードとを鋳造により一体形成するというものが知られている。鋳造による一体形成は、短時間での形成が可能となる一方で、複雑な形状を高精度に仕上げる必要が生じるため、製造コストが非常に高くなってしまうといった実状がある。
【0003】
また、羽根車の製造方法としては、特許文献2に開示されているような、シェルやホイールに対してブレードをカシメや溶着により固定するといったものも知られている。この方法は、製造工程自体は簡易なものとなるが、多数のブレードを1つ1つシェルやホイールに固定するには多大な時間と労力を要することとなるといった課題がある。
【0004】
このため、こうした課題を軽減するために、特許文献3には、1枚のプレートをコ字状に曲げて2枚のブレードを形成し、この2枚一体のブレードをシェルやホイールに固定するといった方法が提案されている。また、その他の製造方法としては、切削によりブレードとホイールやシェル等の外殻を一体に削り出すという方法も知られているが、多くのブレードを備える羽根車ではブレードの間隔が狭く、削り出し加工が困難であったり、膨大な加工時間を要することとなるといった課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-245412号公報
【特許文献2】特開2005-76719号公報
【特許文献3】特開平9-257114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明では、切削によるブレードと外殻の一体形成を行うにあたり、加工時間の短縮と加工精度の向上を図る事のできる羽根車及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る羽根車は、一対の円環状を成す外殻部材の間に複数のブレードを配置して成る羽根車であって、前記複数のブレードのうちの半数を円周上に均等に立設させている第1外殻部材と、前記複数のブレードのうちの残りの半数を前記円周と同じ直径の円周上に均等に立設させている第2外殻部材と、を有し、前記第1外殻部材に立設された前記ブレードと前記第2外殻部材に立設された前記ブレードとが、互いに隣接して立設されたブレード間に介入するように、前記第1外殻部材と前記第2外殻部材とを組み合わせて構成されていることを特徴とする。
【0008】
また、上記のような特徴を有する羽根車における前記ブレードの先端には突起が設けられ、前記第1外殻部材、及び前記第2外殻部材にはそれぞれ、前記突起が嵌合する凹部または貫通孔が設けられているようにすることができる。このような特徴を有する事によれば、ブレードの剛性を高めると共に、第1外殻部材と第2外殻部材とを容易且つ高精度に組み合わせることが可能となる。
【0009】
また、上記課題を解決するための本発明に係る羽根車の製造方法は、一対の円環状を成す外殻部材の間に複数のブレードを配置して成る羽根車の製造方法であって、前記複数のブレードのうちの半数が円周上に均等配置されるように切削して第1外殻部材と前記ブレードとを一体形成する工程と、前記複数のブレードのうちの残りの半数が前記円周と同じ直径の円周上に均等配置されるように切削して第2外殻部材と前記ブレードとを一体形成する工程と、前記第1外殻部材と一体形成された前記ブレードと前記第2外殻部材と一体形成された前記ブレードとが、互いに隣接配置されたブレード間に介入するように、前記第1外殻部材と前記第2外殻部材とを組み合わせる工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記のような特徴を有する羽根車、及び製造方法によれば、切削によるブレードと外殻の一体形成を行うにあたり、加工時間の短縮と加工精度の向上を図る事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る羽根車の構成を示す平面図である。
【
図3】実施形態に係る羽根車を構成するハブとブレードの形態を示す平面図である。
【
図5】実施形態に係る羽根車を構成するリングとブレードの形態を示す平面図である。
【
図7】実施形態に係るリングとブレードを削り出す母材となる鍛造材の断面形状を示す図である。
【
図8】鍛造材からリングとブレードを削り出した状態を示す断面図である。
【
図9】鍛造材からリングとブレードを削り出す加工工程を示す部分拡大平面図である。
【
図10】羽根車を構成するハブとリングをボルトにより係合する変形例の断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の羽根車及びその製造方法に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態は、本発明を実施するにあたっての好適な形態の一部であり、その効果を奏する限りにおいて、構成の一部に変更を加えたとしても、本発明の一部とみなすことができる。
【0013】
[構成]
まず、
図1から
図6を参照して、本実施形態に係る羽根車の構成について説明する。なお、図面において
図1は、実施形態に係る羽根車の構成を示す平面図であり、
図2は、
図1におけるA-A断面を示す図である。また、
図3は、実施形態に係る羽根車を構成するハブとブレードの形態を示す平面図であり、
図4は、
図3におけるB-B断面を示す図である。さらに、
図5は、実施形態に係る羽根車を構成するリングとブレードの形態を示す平面図であり、
図6は、
図5におけるC-C断面を示す図である。
【0014】
本実施形態では羽根車の一例として、トルクコンバータ用のタービンホイールを例に挙げて説明する。本実施形態に係る羽根車10は、第1外殻部材としてのハブ12と、第2外殻部材としてのリング14、及びハブ12とリング14との間に配置された複数のブレード16,18を基本として構成されている。ハブ12は、動力系の回転伝達軸(不図示)に固定可能とする円環状の外殻部材である。本実施形態では、
図3、
図4に示すように、ハブ12の一方の主面(図示しないトルクコンバータ不図示の内側に配置される面)に、複数のブレード16が立設されている。本実施形態に係る羽根車10には、56枚のブレード16,18が備えられている。これに対してハブ12には、その半数の28枚のブレード16が備えられている。ブレード16は、予め定められた円周上に均等に配置されている。
【0015】
また、本実施形態では、各ブレード16の先端に、トラニオンと呼ばれる突起16aを設けるようにしている。ハブ12に対向配置されるリング14に設けられる貫通孔22に突起16aを嵌合させることで、ブレード16の剛性を高めると共に、ブレード18に対する位置関係の誤差を少なくし、容易に組み合わせることが可能となるからである。
【0016】
従来、ブレードの端部に設ける突起は、個別に形成されたブレードを外殻部材に取付けるための要素として利用されてきた。このため、突起とこの突起を嵌入させる貫通孔、あるいは凹部を多角形(例えば四角)とすることで、ブレードの取り付け角度を定めることを可能としていた。これに対し本実施形態では、ブレード16が削り出しによりハブに一体形成されることとなるため、取り付け角度を定める必要が無く、回転によるズレが生じる恐れもない。このため、突起16aの断面形状を円形とすることができる。突起16aの断面形状を円形とした場合には、受け側の貫通孔22あるいは凹部(不図示)も円形とすることが可能となり、受け孔(凹部)の加工性を向上させることが可能となる。
【0017】
ハブ12には、隣接するブレード16の間に、詳細を後述するリング14に備えられるブレード18の先端に設けられる突起18aを嵌入させる貫通孔20が設けられている。貫通孔20は、ブレード16の突起16aが位置する円周上であって、隣接配置されている2つの突起16aの中点となる位置が中心となるように設けられている。
【0018】
また、ブレード16は、羽根車10の用途や回転方向などによってその形態や配置角度を異ならせることとなるが、
図3に示す形態では、内周側に最大翼厚を有する前縁が位置し、外周側に後縁が位置するように設けられている。そして、各ブレード16には、ハブ12を平面視した場合において、ハブの内周側から外周側に流体が流れた場合に、ハブを時計回りに回転(図中右回転)させる力が働くように傾斜角が与えられている。
【0019】
リング14は、ハブ12に対向して配置され、ハブ12と共にブレード16,18を挟み込む円環状の外殻部材(第2外殻部材)である。リング14には、ハブ12と同様に、その一方の主面(ハブ12に対向配置される側の主面)複数のブレード18が立設されている。リング14に立設されるブレード18の数は、ハブ12に立設されたブレード16の残りの半数(
図5に示す例では28枚)である。また、ブレード18の立設は、ハブ12に設けられているブレード16が配置されている円周と同じ直径の円周上に均等に成される。なお、リング14に設けられているブレード18の先端にも、ハブ12に設けられているブレード16と同様に突起18aが設けられている。
【0020】
また、リング14にもハブ12と同様に、隣接配置されているブレード18間に貫通孔22が設けられている。貫通孔22は、ブレード18の突起18aが位置する円周上であって、隣接配置されている2つの突起18aの中点となる位置が中心となるように設けられている。
【0021】
リング14に設けられているブレード18は、内周側に前縁、外周側に後縁が位置するように設けられている点においてハブ12に設けられているブレード16と一致する。一方で、付与される傾斜角は、ハブ12に設けられているブレード16と逆向きとなるように構成されている。互いのブレード16,18が向き合うようにハブ12とリング14を対向させた際、ブレード16,18の傾斜方向が一致することとなるようにするためである。
【0022】
このような構成のハブ12とリング14は、互いに立設されているブレード16,18のうち、隣接配置されているブレード16,18間に、相手方に立設されているブレード18,16が介入するように対向配置して組み合わされている。そして、ハブ12とリング14の組み合わせにより互いに形成された貫通孔20,22から他方の面に突出した突起16a,18aは、その先端部が潰されるようにカシメられることで抜け止めが図られ、ハブ12とリング14の係合状態が維持されることとなる。
【0023】
[製造方法]
次に、上記のような羽根車の製造方法について、
図7から
図9を参照して説明する。
図7は、リング14とブレード18の母材となる鍛造材30(丸鍛造材からブレード削り出し前までの加工を行ったもの)である。本実施形態に係るリング14とブレード18(ハブ12とブレード16も同様)は、このような余肉を有する鍛造材30を切削することで、一体形成されることとなる(
図8参照)。リング14と共に削り出されるブレード18は上述したように、予め定められた円周上に位置するように形成される。なお、ブレード18の先端に設けられる突起18aが位置する円周上には、ハブ12のブレード16の先端に形成される突起16aが嵌入する貫通孔22が形成される。
【0024】
ここで、本実施形態に係るリング14(ハブ12も同様)には、羽根車10全体の半数のブレード18を設ける構成としている。このため、全数のブレードを並べて配置する場合に比べて隣接配置されるブレード18間の間隔が広くなる。このため、直径の大きな工具を用いて切削を行う事が可能となる。
図9に示す例では最大でφdの切削工具を用いる事が可能となる。これに対し、全数のブレードを並べて配置した場合には、隣接配置されるブレードの間隔が狭くなるため、使用可能な切削工具の直径は、φ1/2dよりも小さなものとなる。
【0025】
切削工具は、その直径が小さくなると剛性が低くなると共に、チップ型の工具であれば1回転中に設けられる刃の数も少なくなる。このため、切削工具の直径が大きくなった場合には、1回の送りで切削できる範囲が広くなることはもちろん、送り速度や、切り込み量の許容範囲も大きくなり、加工速度を各段に向上させることができるようになる。また、切削工具の剛性が高まる事により、切削時に生じる工具の逃げが少なくなる。このため、加工精度の向上を図る事もできる。
【0026】
母材からのリング14とブレード18の削り出しと前後、あるいは同時に、ハブ12とブレード16の削り出しも行われる。ハブ12とブレード16の削り出しについては図示しないが、リング14とブレード18の削り出しと同様に、複数のブレード16が予め定められた円周上に均等配置されることとなるように形成される。また、隣接配置されたブレード16間に位置するハブ12には、リング14のブレード18の先端に設けられた突起18aが嵌入する貫通孔20が形成される。
【0027】
[効果]
上記のような構成の羽根車10を上記のような方法で製造することによれば、切削によるブレードと外殻の一体形成を行うにあたり、加工時間の短縮と加工精度の向上を図る事が可能となる。
【0028】
[変形例]
上記実施形態では、ハブ12とリング14の係合について、貫通孔20,22から突出させた突起16a,18aをカシメる事により成す旨記載した。しかしながら、ハブ12とリング14の係合は、
図10に示すように、ボルト32による係合としても良い。このような方法であってもハブ12とリング14を確実に係合させることができるからである。なお、ボルト32による係合を行う場合には、ブレード16,18の先端に突起16a,18aを設ける必要は無く、突起16a,18aの代わりに雌ネジ穴16b,18bを設けるようにする。
【産業上の利用可能性】
【0029】
上記実施形態では、羽根車10についてトルクコンバータ用と説明していたが、本発明に係る羽根車は、隣接配置されるブレードの隙間が小さくなる羽根車全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
10………羽根車、12………ハブ、14………リング、16,18………ブレード、16a,18a………突起、16b,18b………雌ネジ穴、20,22………貫通孔、30………鍛造材。