(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060245
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】分離方法及び分離装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/54 20060101AFI20240424BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B7/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167496
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康仁
(72)【発明者】
【氏名】山田 由香
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA02
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】集電体と電極合材とを効率よく且つ安定して高精度に分離する。
【解決手段】分離方法は、集電体と集電体上に形成された電極合材とを備えた処理対象電極を、酸溶液である処理水に浸漬させ、超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行い、集電体と電極合材とを分離する分離工程を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と前記集電体上に形成された電極合材とを備えた処理対象電極を、酸溶液である処理水に浸漬させ、超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行い、前記集電体と前記電極合材とを分離する分離工程を含む、
分離方法。
【請求項2】
前記処理水は、pH3以上の酸溶液である、請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
前記処理水は、酸解離定数pKaが4以上8以下の酸を含む酸溶液である、請求項1又は2に記載の分離方法。
【請求項4】
前記処理水は、炭酸、酢酸、プロピオン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1以上の酸を含む酸溶液である、請求項1又は2に記載の分離方法。
【請求項5】
前記処理水は、酸濃度が0.005mol/L以上である、請求項1又は2に記載の分離方法。
【請求項6】
前記処理水は、アルカリ金属イオン濃度が0.01mol/L以下で、ハロゲンイオン濃度が0.01mol/L以下である、請求項1又は2に記載の分離方法。
【請求項7】
前記分離工程では、前記処理対象電極に含まれる活物質1gあたり、前記処理水を5g以上200g以下の範囲で用いる、請求項1又は2に記載の分離方法。
【請求項8】
前記分離工程は、前記超音波処理後の前記処理水がpH3以上pH8以下となる条件で行う、請求項1又は2に記載の分離方法。
【請求項9】
前記分離工程では、(1)~(8)のいずれか1以上の条件で処理する、請求項1又は2に記載の分離方法。
(1)前記分離工程では、80kHz以上200kHz以下の基本周波数を中心として前記スイープを行う。
(2)前記分離工程では、基本周波数を中心に±3kHz以内のスイープ幅で前記スイープを行う。
(3)前記分離工程では、500スイープサイクル/秒以上のスイープレートで前記スイープを行う
(4)前記分離工程では、10分以内の範囲で前記超音波処理を行う。
(5)前記分離工程では、前記集電体と前記電極合材との接触面積をA[cm2]とし、前記超音波の出力をB[W]としたときに、B/Aで表される出力密度が10W/cm2以下となるように前記超音波処理を行う。
(6)前記分離工程では、前記集電体から前記電極合材を除去した除去率が98%以上であり、分離された前記電極合材中の前記集電体の成分の割合が0.1質量%未満である。
(7)前記分離工程では、非加熱環境下で前記超音波処理を行う。
(8)前記分離工程では、前記超音波処理をバッチ式又は連続式で行う。
【請求項10】
集電体と前記集電体上に形成された電極合材とを備えた処理対象電極を、酸溶液である処理水に浸漬させて超音波処理を行い、前記集電体と前記電極合材とを分離する分離部と、
超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行うように前記分離部を制御する制御部と、
を備えた分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、分離方法及び分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン電池のリサイクル手法としては、例えば、リチウムイオン電池を破砕し、得られた破砕物を篩別し、篩上に残った篩上物に対し、液体を用いて金属粉を剥離させて分離させ、金属粉および分離後液を得るものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この処理方法では、資源の更なる有効利用を図ることができる、としている。また、このようなリサイクル手法としては、第1の樹脂集電体であるリチウムイオン電池から、第1の樹脂集電体の少なくとも一部を除去し、第1の電極活物質を取り出す取出工程を有するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この処理方法では、高温加熱を必要とせず簡便な工程でリチウムイオン電池から電極活物質を得ることができる、としている。また、このようなリサイクル手法としては、正極をアルカリ水溶液に浸漬して正極集電体から正極活物質層を剥離し、剥離物に有機溶媒を添加して剥離物から結着材を抽出し、抽出処理物から導電材を含む上澄み部分と正極活物質を含む沈降部分とを分離するものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この処理方法では、リチウム電池から正極活物質を回収し、再利用することができる、としている。また、このようなリサイクル手法としては、リチウムイオン電池を放電させ、小片に細断して、陰極層で被覆された集電体及び陽極層で被覆された集電体の混合物を得たのち、これらの小片を極性溶媒に浸漬して異成分混合物を形成しこれをミキサーにより攪拌して、バインダー材料を溶解させ、処理された異成分混合物をふるい分けして、集電体を、陰極及び陽極材料から分離し、極性溶媒を加えて電極材料からなる懸濁物とし、懸濁物中の電極材料を極性溶媒から単離するものが提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-170223号公報
【特許文献2】特開2021-44180号公報
【特許文献3】特開2010-62105号公報
【特許文献4】特開2021-73375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したリサイクル手法では、集電体から電極合材を分離できたとしても集電体が損傷したり、あるいは、集電体の損傷が抑制されたとしても集電体に電極合材が残存したりすることがあった。また、上述したリサイクル手法では、長時間の処理が必要であったり、破砕などの前処理が必要であったりするなど、処理効率が低いことがあった。
【0005】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、集電体と電極合材とを効率よく且つ安定して高精度に分離することができる分離方法及び分離装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、電極に対して、酸水溶液中で、超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行うと、集電体と電極合材とを、効率よく且つ安定して高精度に分離できることを見いだし、本開示を完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の分離方法は、
集電体と前記集電体上に形成された電極合材とを備えた処理対象電極を、酸溶液である処理水に浸漬させ、超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行い、前記集電体と前記電極合材とを分離する分離工程を含むものである。
【0008】
また、本開示の分離装置は、
集電体と前記集電体上に形成された電極合材とを備えた処理対象電極を、酸溶液である処理水に浸漬させて超音波処理を行い、前記集電体と前記電極合材とを分離する分離部と、
超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行うように前記分離部を制御する制御部と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の分離方法及び分離装置では、集電体と電極合材とを、効率よく且つ安定して高精度に分離することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。この分離方法及び分離装置では、有機溶剤や水溶液の化学的作用ではなく、超音波のキャビテーション効果を用いた物理的作用を利用しているため、有機溶剤などを用いることなく水で集電体と電極合材とを分離できる。そして、水は表面張力が大きく、有機溶剤よりキャビテーション効果を発生しやすいため、効率よく集電体と電極合材とを分離できる。更に、水中で、超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行うため、エネルギー分布が好適になり、集電体の損傷や電極合材の残存が抑制され、集電体と電極合材とを高精度に分離できる。更にまた、処理水中に電極を浸漬させると電極からイオンが溶出し、処理水のpHの過大化や電極成分の変質などがあり得るが、酸溶液を用いるため、処理水のpHが好適範囲に保たれ、例えば、電極を処理水に浸漬させたまま待機する待機時間がより長くても分離することができる。このため、例えば、大きな分離設備など、電極浸漬から超音波処理の開始まで所定の待機時間があっても、安定して高精度に集電体と電極合材とを分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】超音波処理前の分離装置10の構成の概略を示す説明図。
【
図4】超音波処理後の分離装置10の構成の概略を示す説明図。
【
図8】参考例20~28の浸漬待機時間と合材除去率との関係を示すグラフ。
【
図9】実験例1~9の超音波処理後の電極(集電箔)の外観写真。
【
図10】酸濃度と超音波後pHとの関係を示すグラフ。
【
図11】酸濃度と合材除去率との関係を示すグラフ。
【
図12】酸濃度と集電体質量あたりのAl溶解量との関係を示すグラフ。
【
図13】酸濃度と合材粉中のAl量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[分離方法]
本開示の分離方法は、処理対象電極を酸溶液である処理水に浸漬し超音波処理して集電体と電極合材とを分離する分離工程を含む。
【0012】
(処理対象電極)
処理対象電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材と、を備えている。処理対象電極は、リチウムイオン二次電池などのイオン二次電池や、電気二重層キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、疑似電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスの電極であり、使用済みの蓄電デバイスや劣化した蓄電デバイスから取り出したものとしてもよい。処理対象電極は、正極としてもよいし、負極としてもよいし、一方の面に正極合材が形成され他方の面に負極合材が形成されたバイポーラ電極としてもよい。このうち、処理対象電極は、キャリアイオンが溶出する観点から、正極であることが好ましい。処理対象電極は、蓄電デバイスから取り出したまま、細断していないものとしてもよく、例えば、面積が10cm2以上のものとしてもよく、30cm2以上のものとしてもよい。
【0013】
集電体の材質としては、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどが挙げられる。このうち、処理対象電極が正極である場合は、集電体はアルミニウムを含むことが好ましい。集電体の形状としては、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmである。
【0014】
電極合材は、電極活物質と結着材と必要に応じて導電材などを含むものとしてもよい。電極合材は、例えば、電極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものとしてもよい。電極合材は、集電体の片面に形成されていても両面に形成されていてもよい。
【0015】
電極合材に含まれる電極活物質としては、例えば、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn2O4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMncO2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV2O3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV2O5などとする遷移金属酸化物、リン酸鉄リチウムなど、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる活物質が挙げられる。なお、「基本組成式」とは、AlやMgなど他の元素を含んでもよい趣旨である。また、電極活物質としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類など、キャパシタやリチウムイオンキャパシタの正極及び/又は負極に用いられる活物質が挙げられる。また、電極活物質としては、例えば、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなど、リチウムイオン二次電池の負極に用いられる活物質が挙げられる。炭素質材料としては、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。電極合材に含まれる導電材としては、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などが挙げられる。
【0016】
電極合材に含まれる結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、有機系溶剤に溶解して用いられる有機系結着材としてもよいし、水系溶剤に溶解して用いられる水系結着材としてもよいし、これらの混合物としてもよい。有機系結着材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)などが挙げられる。また、水系結着材としては、ポリビニルアルコール(PVA)やスチレンブタジエン共重合体(SBR)、ポリエチレンオキシド(PEO)、などが挙げられ、カルボキシメチルセルロース(CMC)を含むものとしてもよい。有機系溶剤としては、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。水系溶剤としては、水や各種水溶液などが挙げられる。電極合材に含まれる導電材は、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。
【0017】
(分離工程)
分離工程では、処理対象電極に対して、酸溶液である処理水に処理対象電極を浸漬させた状態で、超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行い、集電体と電極合材とを分離する。周波数をスイープさせるとは、例えば、
図1,2に示すように、周波数を周期的に変化させることである。
【0018】
分離工程では、基本周波数F
0を中心に最大周波数Fmaxと最小周波数Fminとの間を往復するように超音波の周波数を周期的に変化させてもよい(
図1及び
図2参照)。基本周波数F
0は、40kHz以上240kHz以下とすることが好ましく、80kHz以上200kHz以下とすることがより好ましい。超音波処理では、基本周波数F
0を中心とする周波数の変動幅をスイープ幅と定義したときに(
図2参照)、スイープ幅を±5kHz以内としてもよい。つまり、Fmax-F
0≦+5kHz、Fmin-F
0≧-5kHzとしてもよい。スイープ幅は、±3kHz以内としてもよく、±1kHz以内としてもよい。超音波処理では、最小周波数Fminとなる波の立ち上がりから最大周波数Fmaxとなる波の立ち下がりまでを1スイープサイクルと定義し(
図1参照)、1秒あたりのスイープサイクルの回数をスイープレートと定義したときに、スイープレートを500スイープサイクル/秒以上としてもよい。スイープレートは、700スイープサイクル/秒以上としてもよく、1000スイープサイクル/秒以上としてもよい。また、スイープレートは、2000スイープサイクル/秒以下としてもよい。なお、1スイープサイクルは、最小周波数Fminとなる波の立ち上がりから最小周波数Fminとなる次の波の立ち上がりまでの半分としてもよい。
【0019】
分離工程では、超音波処理を30分以内の範囲で行うことが好ましく、10分以内の範囲で行うことがより好ましく、300秒以内の範囲で行うことがさらに好ましく180秒以内の範囲で行うことが一層好ましい。分離工程では、超音波処理を1秒以上行うものとしてもよく、5秒以上行うものとしてもよく、15秒以上行うものとしてもよい。
【0020】
分離工程では、集電体と電極合材との接触面積をA[cm2]とし、超音波の出力(発振器の出力)をB[W]としたときに、B/Aで表される出力密度(電力密度)が30W/cm2以下となるように超音波処理を行うことが好ましい。出力密度B/Aは10W/cm2以下とすることが好ましく、5W/cm2以下としてもよい。出力密度B/Aは0.1W/cm2以上としてもよく、0.5W/cm2以上としてもよい。
【0021】
分離工程では、非加熱環境下で超音波処理を行うことが好ましい。分離工程では、例えば0℃以上30℃以下の温度範囲内で超音波処理を行ってもよいし、15℃以上25℃以下の温度範囲内で超音波処理を行ってもよい。
【0022】
この分離工程では、処理対象電極を浸漬する処理水として酸溶液を用いる。酸溶液は酸性である。酸溶液を用いると、電極からの溶出成分によるpHの過大化などをより抑制してpHを好適範囲に保つことによって、集電体と電極合材層との分離を確実に行うと共に、処理対象電極の浸漬から超音波処理の開始までの待機時間がより長くても分離することができる。待機時間は、なくてもよいが、例えば5分以上としてもよいし、10分以上としてもよいし、30分以上としてもよい。また、待機時間は、集電体と電極合材層との分離をより確実に行う観点からは短い方が好ましく、例えば60分以下としてもよく、30分以下としてもよく、10分以下としてもよい。
【0023】
分離工程では、pH3以上の酸溶液である処理水を用いることが好ましい。pH3以上の酸溶液を用いると、超音波処理後にもpHが比較的好適な範囲(例えばpH3以上pH8以下など)に保たれることなどにより、集電体成分の溶出をより抑制できる。処理水は、pH5以下であることが好ましく、pH4.4以下であることが好ましく、pH4.2以下であることがより好ましい。処理水は、pH2.5以上やpH2.8以上としてもよい。なお、本明細書において、処理水のpHとは、特に言及しない場合には、電極浸漬前の処理水のpHを示す。
【0024】
分離工程では、酸解離定数pKaが4以上の酸を含む酸溶液である処理水を用いることが好ましい。酸解離定数pKaが4以上の酸を含む酸溶液では、例えば酸濃度が0.005mol/L以上など、比較的高い酸濃度でもpH3以上を実現できる。pKaが4以上の酸としては、例えば、炭酸(pKa6.35)、プロピオン酸(pKa4.88)、酢酸(pKa4.76)、安息香酸(pKa4.00)などが挙げられる。これらの酸でpH3以上を実現可能な酸濃度は、炭酸では2.2mol/L以下、プロピオン酸では0.07mol/L以下、酢酸では0.05mol/L以下、安息香酸では0.01mol/L以下である。酸解離定数pKaは8以下が好ましく、7以下としてもよい。なお、酸解離定数pKaが5.5以上の酸(炭酸など)を含む場合、処理水はpH3.5以上pH5以下としてもよく、pH3.8以上pH4.3以下としてもよく、pH3.9以上pH4.2以下としてもよい。また、酸解離定数pKaが5.5未満の酸(酢酸、プロピオン酸、安息香酸など)を含む場合、処理水は、pH3以上pH4以下としてもよく、pH3以上pH3.5以下としてもよく、pH3以上pH3.2以下としてもよい。
【0025】
分離工程では、無機酸を含む処理水を用いてもよいし有機酸を含む処理水を用いてもよい。無機酸としては、例えば、炭酸などのオキソ酸を好適に用いることができる。有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、安息香酸などのカルボン酸を好適に用いることができる。処理水は、炭酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸からなる群より選ばれる1以上の酸を含む酸溶液としてもよい。処理水は、炭酸水であることがより好ましい。炭酸水のように、ガス状の酸を水に溶解させた処理水を用いた場合、処理水に対してガスバブリングを行うことなどにより、比較的容易に処理水から酸を除去できるため、好ましい。なお、処理水に含まれる酸は、塩酸などのハロゲン系の酸ではないことが好ましい。
【0026】
分離工程では、酸濃度が0.0001mol/L以上の処理水を用いるものとしてもよい。この酸濃度は、0.005mol/L以上が好ましく、0.008mol/L以上がさらに好ましく、0.01mol/L以上がより好ましい。酸濃度が高いほど、超音波処理後の処理液のpHを比較的低く(例えばpH8以下)保つことができることなどによって、集電体と電極合材層との分離をより確実に行うことができる傾向がある。酸濃度は、例えば、2mol/L以下としてもよく、1mol/L以下としてもよく、0.5mol/L以下としてもよい。
【0027】
分離工程では、不純物の混入を抑制する観点から、アルカリ金属イオン濃度が低い処理水を用いることが好ましい。処理水のアルカリ金属イオン濃度は、例えば、0.01mol/L以下としてもよく、0.001mol/L以下としてもよい。また、分離工程では、ハロゲンイオンによるアルミニウム集電体の孔食を抑制する観点から、ハロゲンイオン濃度が低い処理水を用いることが好ましい。処理水のハロゲンイオン濃度は、例えば、0.01mol/L以下としてもよく、0.001mol/L以下としてもよい。
【0028】
分離工程では、処理対象電極に含まれる活物質1gあたり、あるいは集電箔100cm2あたり、処理水を5g以上200g以下の範囲で用いるものとしてもよく、50g以上150g以下の範囲で用いるものとしてもよい。また、分離工程では、集電体の表面積100cm2あたり、処理水を2.5g以上100g以下の範囲で用いるものとしてもよく、25g以上75g以下の範囲で用いるものとしてもよい。なお、集電体が集電箔の場合、集電箔の表面積は、集電箔の面積×2の式から求めればよい(以下、同様とする)。
【0029】
分離工程では、処理対象電極に含まれる活物質1gあたり、あるいは集電箔100cm2あたり、処理水に含まれる酸の量が0.00001mol以上となるようにしてもよく、0.0005mol以上としてもよく、0.001mol超過としてもよい。処理対象電極に含まれる活物質1gあたり、あるいは、集電箔100cm2あたり、処理水に含まれる酸の量は、0.1mol以下としてもよく、0.01mol以下としてもよい。また、分離工程では、集電体の表面積100cm2あたり、処理水に含まれる酸の量が0.00001mol以上となるようにしてもよく、0.0001mol以上となるようにしてもよく、0.0005mol超過となるようにしてもよい。集電体の表面積100cm2あたり、処理水に含まれる酸の量は、0.1mol以下としてもよく、0.01mol以下としてもよい。
【0030】
分離工程は、超音波処理後の処理水がpH3以上pH10.5以下となる条件で行うものとしてもよい。超音波処理後の処理水がpH3以上pH10.5以下に保たれることで、集電体成分の溶出をより抑制できる。条件は、経験的に定めることができ、例えば、処理水の組成や、浸漬待機時間、超音波処理の条件を調整することなどによって、超音波処理後の処理水のpHを調整できる。超音波処理後の処理水は、pH3.5以上としてもよいし、pH4以上としてもよい。超音波処理後の処理水はpH10以下が好ましく、pH8以下がより好ましく、pH7以下がさらに好ましい。なお、酸解離定数pKaが5.5以上の酸を含む場合、超音波処理後の処理水は、pH5以上pH10.5以下としてもよく、pH5.5以上pH9以下としてもよく、pH6以上pH6.5以下としてもよい。また、酸解離定数pKaが5.5未満の酸を含む場合、超音波処理後の処理水はpH3以上6以下としてもよく、pH3.5以上pH5.5以下としてもよく、pH4以上pH4.5以下としてもよい。
【0031】
以上説明した分離工程を行うと、集電体から電極合材が除去され、集電体から除去された電極合材は、水に溶解及び/又は分散されたり、沈殿したりする。こうして、超音波処理後には、集電体と電極合材とが分離され、集電体と、電極合材を含む合材含有水と、が得られる。また、酸溶液を用いるため、電極の分離を確実に行うに際して、処理対象電極を処理水に浸漬させて待機する待機時間をより長くしても分離することができる。
【0032】
分離工程で分離された電極合材に含まれる集電体の成分(集電体成分)の割合は、0.18%未満が好ましく、0.15%未満が好ましく、0.1%未満がより好ましい。また、分離工程で分離された集電体に含まれる電極合材の成分(電極合材成分)の割合は、0.36%未満が好ましく、0.3%未満が好ましく、0.2%未満がより好ましい。「電極合材に含まれる集電体成分の割合」は、例えば以下のように求めた値としてもよい。まず、分離工程で得られた合材含有水から水を除去して電極合材を得る。得られた電極合材中の集電体成分の質量を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)で分析する。そして、分析対象とした電極合材の質量に対する集電体成分の質量割合を求め、この質量割合を、電極合材に含まれる集電体成分の割合とする。「集電体に含まれる電極合材成分の割合」は、例えば以下のように求めた値としてもよい。まず、超音波処理後の電極(集電体)を取り出し、すすぎ及び乾燥を行う。すすぎ及び乾燥を行った電極について、ICP-OESにより電極合材成分の質量を分析し、分析対象とした電極の質量に対する電極合材成分の質量割合を求め、この質量割合を、集電体に含まれる電極合材成分の割合とする。あるいは、すすぎ及び乾燥を行った電極について、蛍光X線分析(XRF)のファンダメンタルパラメータ法(FP法)により、電極合材成分の質量割合を求め、この質量割合を、集電体に含まれる電極合材成分の割合とする。なお、集電体に含まれる電極合材成分の割合は、集電体に含まれる活物質成分の割合としてもよいし、活物質が遷移金属を含む場合には集電体に含まれる遷移金属(ただし、活物質に含まれる遷移金属)の割合としてもよい。遷移金属は、集電体(Alなど)を再溶解する際に集電体成分と合金化するおそれがあるため、集電体への残存が少ないことが望ましい。
【0033】
分離工程の前に、蓄電デバイスから電極を取り出す取出工程を行うものとしてもよい。取出工程で取り出した電極は、細断することなくそのまま、または、面積10cm2以上や、面積30cm2以上などに切断して、処理対象電極として用いてもよい。
【0034】
分離工程の後に、分離工程で分離された集電体を洗浄、乾燥する集電体処理工程を行ってもよい。集電体の洗浄は、洗浄液を流しながら行ってもよいし、洗浄液に浸漬して行ってもよい。洗浄液は、水が好ましい。集電体の乾燥は、送風乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、バレル乾燥、スピン乾燥、吸引乾燥、赤外線乾燥や、これらの組合せで行うものとしてもよい。分離工程の後に、分離工程で得られた合材含有水から、電極合材をろ別して乾燥させる合材処理工程を行ってもよい。合材処理工程では、電極合材のろ別中やろ別後に電極合材の洗浄を行ってもよい。洗浄液は、水が好ましい。電極合材の乾燥は、送風乾燥、加熱乾燥、真空乾燥、バレル乾燥、スピン乾燥、吸引乾燥、赤外線乾燥や、これらの組合せで行うものとしてもよい。なお、合材処理工程では、電極合材をろ別する代わりに、遠心分離や、蒸発乾固などの固液分離の手法により、合材含有水から電極合材を分離してもよい。
【0035】
分離工程や、集電体処理工程、合材処理工程は、バッチ式で行ってもよいし連続式で行ってもよい。分離工程や集電体処理工程を連続式で行う場合、ロールtoロール方式を採用してもよい。ロールtoロール方式で分離工程を行う場合、取出工程で取り出した電極を順次ロール状に巻き取り、これを処理対象電極として用いてもよい。なお、この分離方法では集電体や電極合材が得られるため、この分離方法は、集電体の製造方法でもあり、電極合材の製造方法でもある。
【0036】
[分離装置]
本開示の分離装置は、処理対象電極を酸溶液である処理水に浸漬させて超音波処理して集電体と電極合材とを分離する分離部と、分離部を制御する制御部と、を備えている。この分離装置では、上述した分離方法を行うものとしてもよく、上述した分離方法で説明した構成や条件を適用してもよい。
【0037】
以下、分離装置の一例として、分離装置10について説明する。
図3、4に、分離装置10の構成の概略を示す説明図を示す。
図3は、超音波処理前の分離装置10の構成の概略を示す説明図である。
図4は、超音波処理後の分離装置10の構成の概略を示す説明図である。分離装置10は、分離部20と、制御部15とを備えている。この分離装置10では、集電体52と電極合材54とを備えた処理対象電極50に対して超音波処理を行い、集電体52と電極合材54とを分離する。処理対象電極50、集電体52及び電極合材54は、各々、分離方法で説明した処理対象電極、集電体及び電極合材と同様としてもよい。
【0038】
分離部20は、処理対象電極50に対して、酸溶液である処理水32中で超音波処理を行うものである。分離部20は、処理容器22と、振動子28と、発振器30と、pH検出部29とを備えている。処理容器22には、処理対象電極50及び処理水32が収容される。この処理容器22は、処理対象電極50が収容される内槽24と、内槽24が載置される載置台25と、内槽24及び載置台25が収容される外槽26と、を備えており、内槽24に処理水32が収容され、外槽26に超音波伝播媒体36が収容されている。処理水32としては、酸溶液が用いられる。処理水32は、水道水や、蒸留水、イオン交換水などを含むものとしてもよい。超音波伝播媒体36は、例えば水であり、処理水32とともに超音波を伝播する役割を果たす。処理容器22には、図示しない配管及びバルブが設けられており、処理水32の処理容器22への供給有無や供給量を調整できるようになっている。
【0039】
振動子28は、処理容器22に接触するように配置されている。発振器30は、振動子28に電力を供給し振動子28を発振させるものである。発振器30は、スイープ機能を有している。スイープ機能とは、例えば
図1,2に示すように、周波数を周期的に変化させる機能である。分離部20は、発振器30のスイープ機能を用いることで、振動子28から発生する超音波の周波数をスイープ(周期的に変化)させることができるように構成されている。pH検出部29は、処理水32のpHを測定するpHメータである。pH検出部29は、測定結果である処理水32のpHを制御部15へ出力する。
【0040】
制御部15は、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、図示しない記憶装置や入出力ポートなどを備えている。制御部15は、発振器30やpH検出部29に電気的に接続されており、これらのいずれかへ信号を出力し、これらのいずれかから信号を入力する。制御部15は、超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行うよう発振器30を制御するように構成されている。超音波処理の条件は、上述した分離方法と同様の条件を適用してもよい。
【0041】
分離装置10の動作の一例について説明する。まず、処理容器22に酸溶液である処理水32を収容し、処理水32に処理対象電極50を浸漬させる。酸溶液は、上記分離方法で説明したいずれかを用いるものとすればよい。制御部15は、処理対象電極50が処理水32に浸漬されたあと、所定の待機時間が経過する前に、発振器30を制御して振動子28に電力を供給させ、振動子28を発振させる。これにより、処理水32中の処理対象電極50に対して超音波処理が行われる。超音波処理にあたり、制御部15は、発振器30のスイープ機能を用い、例えば、基本周波数F0が40kHz以上240kHz以下、スイープ幅が±5kHz以内、スイープレートが500スイープサイクル/秒以上の条件で、周波数をスイープさせるように発振器30を制御する。また、制御部15は、例えば、出力密度B/Aが30W/cm2以下となる電力を出力するように発振器30を制御する。また、制御部15は、超音波処理を例えば1秒以上30分以内の範囲の所定時間実行するように発振器30を制御する。こうした超音波処理により、処理対象電極50の集電体52と電極合材54とが分離され、集電体52と電極合材54を含む合材含有処理水33とが得られる。
【0042】
以上説明した分離方法及び分離装置では、集電体と電極合材とを、効率よく且つ安定して高精度に分離することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。上述した分離方法及び分離装置では、集電体と電極合材との分離に、超音波のキャビテーション効果を用いた物理的作用を利用しているため、水で集電体と電極合材とを分離できる。そして、水は表面張力が大きく、有機溶剤よりキャビテーション効果を発生しやすいため、効率よく集電体と電極合材とを分離できる。さらに、水中で、超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行うため、エネルギー分布が好適になり、集電体の損傷や電極合材の残存が抑制され、集電体と電極合材とを高精度に分離できる。なお、上述した分離方法及び分離装置では、超音波のキャビテーション効果を用いた物理的作用を用いるため、電極合材に含まれる結着材が水系か有機系かにかかわらず、水で集電体と電極合材とを分離できるという効果も得られる。また、処理水を用いるため、処理液が比較的安価である、分離した集電体や電極合材からの処理液の除去が容易である、廃液の処理が容易であり環境負荷が小さい、といった効果も得られる。さらにまた、効率よく集電体と電極合材とを分離できるため、例えば40~240kHz(好ましくは80~200kHz)などの高周波(低エネルギー)でも、処理対象電極が比較的大きくても、非加熱環境下でも、集電体と電極合材とを高精度に分離できるという効果も得られる。
【0043】
また、処理水中に電極を浸漬させると電極からイオンが溶出し、処理水のpHの過大化や電極成分の変質などがあり得るが、酸溶液を用いるため、処理水のpHが好適範囲(Alの溶出が抑制される範囲であるpH3以上8以下など)に保たれ、例えば、電極を処理水に浸漬させたまま待機する待機時間をより長くしても分離することができる。このため、例えば、大きな分離設備など、電極浸漬から超音波処理の開始まで所定の待機時間があっても、安定して高精度に集電体と電極合材とを分離することができる。
【0044】
なお、本発明者らは、酸溶液のかわりに緩衝液を処理水に用いても、処理水のpH変化が抑制され、例えば、待機時間をより長くしても分離することができることを確認ずみである。ただし、緩衝液には、多くの場合、アルカリ金属やハロゲンの塩を用いるため、処理水のpH調整を繰り返し行った場合などには処理水の塩濃度が高まり、結果として、廃液の塩濃度が高くなったり、回収した電極合材に塩が不純物として含まれたりする可能性がある。これに対して、本願では、酸溶液を処理水に用いるため、廃液の塩濃度の上昇や、回収した電極合材に含まれる不純物の増加を抑制することができる。また、ガス状の酸(例えば炭酸)を用いて調製した処理水を使用すれば、超音波処理後の処理水に未反応の酸が残留したとしても、ガスバブリングなどで容易に除去できる。
【0045】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0046】
例えば、上述した実施形態では、分離装置10は、バッチ式で超音波処理を行うものとしたが、連続式で超音波処理を行うものとしてもよい。
【0047】
本開示は、以下の[1]~[10]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 集電体と前記集電体上に形成された電極合材とを備えた処理対象電極を、酸溶液である処理水に浸漬させ、超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行い、前記集電体と前記電極合材とを分離する分離工程を含む、
分離方法。
[2] 前記処理水は、pH3以上の酸溶液である、[1]に記載の分離方法。
[3] 前記処理水は、酸解離定数pKaが4以上8以下の酸を含む酸溶液である、[1]又は[2]に記載の分離方法。
[4] 前記処理水は、炭酸、酢酸、プロピオン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1以上の酸を含む酸溶液である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の分離方法。
[5] 前記処理水は、酸濃度が0.005mol/L以上である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の分離方法。
[6] 前記処理水は、アルカリ金属イオン濃度が0.01mol/L以下で、ハロゲンイオン濃度が0.01mol/L以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の分離方法。
[7] 前記分離工程では、前記処理対象電極に含まれる活物質1gあたり、前記処理水を5g以上200g以下の範囲で用いる、[1]~[6]のいずれか1つに記載の分離方法。
[8] 前記分離工程は、前記超音波処理後の前記処理水がpH3以上pH8以下となる条件で行う、[1]~[7]のいずれか1つに記載の分離方法。
[9] 前記分離工程では、(1)~(8)のいずれか1以上の条件で処理する、[1]~[8]のいずれか1つに記載の分離方法。
(1)前記分離工程では、80kHz以上200kHz以下の基本周波数を中心として前記スイープを行う。
(2)前記分離工程では、基本周波数を中心に±3kHz以内のスイープ幅で前記スイープを行う。
(3)前記分離工程では、500スイープサイクル/秒以上のスイープレートで前記スイープを行う
(4)前記分離工程では、10分以内の範囲で前記超音波処理を行う。
(5)前記分離工程では、前記集電体と前記電極合材との接触面積をA[cm2]とし、前記超音波の出力をB[W]としたときに、B/Aで表される出力密度が10W/cm2以下となるように前記超音波処理を行う。
(6)前記分離工程では、前記集電体から前記電極合材を除去した除去率が98%以上であり、分離された前記電極合材中の前記集電体の成分の割合が0.1質量%未満である。
(7)前記分離工程では、非加熱環境下で前記超音波処理を行う。
(8)前記分離工程では、前記超音波処理をバッチ式又は連続式で行う。
[10] 集電体と前記集電体上に形成された電極合材とを備えた処理対象電極を、酸溶液である処理水に浸漬させて超音波処理を行い、前記集電体と前記電極合材とを分離する分離部と、
超音波の周波数をスイープさせながら超音波処理を行うように前記分離部を制御する制御部と、
を備えた分離装置。
【実施例0048】
以下には、本開示の分離方法を実施した例について説明する。なお、実験例1~8が実施例に相当し、実験例9が比較例に相当する。
【0049】
1.参考例1~19
まず、超音波処理を純水で行い、その好適な分離条件を参考例1~19で検討した。d参考例1~19は、以下のように行った。
【0050】
[処理対象電極の準備]
処理対象電極として、下記に示す正極A~C及び負極A~Bを準備した(表1参照)。
【0051】
正極Aは、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM、戸田工業製)を92質量%、アセチレンブラック(デンカ株式会社製)を5質量%、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、クレハ製)を3質量%の割合で含む正極合材を、N-メチルピロリドン(NMP)を用いてペースト状とし、20μm厚のアルミ集電箔の両面に塗工したものとした。
【0052】
正極Bは、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2(NCA、戸田工業製)を92質量%、アセチレンブラック(デンカ株式会社製)を5質量%、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、クレハ製)を3質量%の割合で含む正極合材を、NMPを用いてペースト状とし、20μm厚のアルミ集電箔の両面に塗工したものとした。
【0053】
正極Cは、LiFePO4(自社合成品)を92質量%、アセチレンブラック(デンカ株式会社製)を5質量%、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、クレハ製)を3質量%の割合で含む正極合材を、NMPを用いてペースト状とし、20μm厚のアルミ集電箔の両面に塗工したものとした。
【0054】
負極Aは、黒鉛(OMAC1.5s、大阪ガスケミカル製)を98質量%、カルボキシメチルセルロース(CMC、ダイセル製)を1質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR、JSR製)を1質量%の割合で含む負極合材を、水を用いてペースト状とし、10μm厚の銅集電箔の両面に塗工したものとした。
【0055】
負極Bは、黒鉛(SCMG-XR-s、昭和電工製)を98質量%、カルボキシメチルセルロース(CMC、ダイセル製)を1質量%、スチレンブタジエン共重合体(SBR、JSR製)を1質量%の割合で含む負極合材を、水を用いてペースト状とし、10μm厚の銅集電箔の両面に塗工したものとした。
【0056】
[超音波処理]
参考例1~19の超音波処理には、超音波装置(ブランソン製GCX-M-3FQ12、出力500W、外槽内容量20L)を用いた。具体的には、
図3、4に示すように外槽26内に水を入れ、ガラス容器(内槽24)に処理水32を40mL入れ、その中に処理対象電極50を浸漬し、外槽26の下の振動子28から超音波を印加した。超音波周波数のスイープ機能を使用する場合には、スイープ速度を1000スイープサイクル/秒とした。なお、電力密度は、超音波装置の出力(500W)を集電箔と電極合材層との接触面積(ここでは、電極面積×2)で除した値であり、電極面積を調整することで電力密度を調整した。
【0057】
参考例1では、処理対象電極として、40mm×100mmの正極Aを用いた。処理液は水、超音波周波数(基本周波数F0)は170kHz、スイープ条件(スイープ幅)は±1kHz、処理時間は60秒、電力密度は6.3W/cm2とした。
【0058】
参考例2では、処理対象電極として、40mm×100mmの負極Aを用いた。処理液は水、超音波周波数は170kHz、スイープ条件は±1kHz、処理時間は30秒、電力密度は6.3W/cm2とした。
【0059】
参考例3では、超音波周波数を120kHzとした以外は、参考例1と同様とした。参考例4では、処理時間を30秒とした以外は、参考例3と同様とした。参考例5では、電極サイズを40mm×200mmにすることで電力密度を3.1W/cm2にした以外は、参考例3と同様とした。参考例6では、処理対象電極を正極Bとした以外は、参考例3と同様とした。参考例7では、処理対象電極を正極Cとした以外は、参考例3と同様とした。
【0060】
参考例8では、超音波周波数を120kHzとした以外は、参考例2と同様とした。参考例9では、処理時間を10秒とした以外は、参考例8と同様とした。参考例10では、電極サイズを40mm×200mにすることで電力密度を3.1W/cm2にした以外は、参考例8と同様とした。参考例11では、処理時間を60秒とし、電極サイズを40mm×715mmにすることで電力密度を0.9W/cm2にした以外は、参考例8と同様とした。参考例12では、処理対象電極を負極Bとした以外は、参考例8と同様とした。
【0061】
参考例13では、超音波周波数を80kHzとした以外は、参考例1と同様とした。参考例14では、超音波周波数を80kHzとした以外は、参考例2と同様とした。
【0062】
参考例15では、スイープ条件をスイープなしとした以外は、参考例3と同様とした。参考例16では、スイープ条件をスイープなしとした以外は、参考例8と同様とした。
【0063】
参考例17では、処理液をNMPとした以外は、参考例3と同様とした。参考例18では、超音波周波数を40kHzとし、処理時間を30秒とした以外は、参考例17と同様とした。
【0064】
参考例19では、超音波周波数を40kHzとした以外は、参考例1と同様とした。
【0065】
[合材中の集電箔成分の割合の分析]
参考例1~19について、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES,日立ハイテクサイエンス製PS3520UVDDII II)により、合材中の集電箔成分の割合を求めた。具体的には、まず、超音波処理後の合材粉を含む溶液(合材含有処理液)をメンブレンフィルター(メルクミルポアJGWP0.45μm)を用いて純水で洗浄しながら加圧ろ過し、50℃、1時間で乾燥し、合材粉を得た。合材粉中の集電箔成分(アルミニウム又は銅)の質量をICPで分析し、合材粉全体質量に対する集電箔成分の質量割合を求めた。これを合材中の集電箔成分の割合とした。そして、0.1%未満を「A(優)」、0.1%以上0.18%未満を「B(良)」、0.18%以上を「F(不可)」として評価した。
【0066】
[集電箔中の合材成分の割合の分析]
参考例1、3~7、13、15、17~19(正極)について、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)により、集電箔中の合材成分の割合を求めた。具体的には、まず、超音波処理後の電極を取り出し、水ですすいだ後に自然乾燥させた。この電極について、ICP-OESにより合材成分(合材中の遷移金属成分。正極AではNi、Co及びMn)の質量を求め、電極全体質量に対する合材成分の質量割合を求めた。これを、集電箔中の合材成分の割合とした。参考例2、8~12、14、16(負極)について、蛍光X線分析(XRF)のファンダメンタルパラメータ法(FP法)により、集電箔中の合材成分の割合を求めた。具体的には、まず、超音波処理後の電極を取り出し、水ですすいだ後に自然乾燥させた。この電極について、XRFのFP法により、φ30mmの分析範囲にてC量(質量割合)を求めた。なお、XRFのFP法では、検出された元素全体で100%に規格化して定量値を算出する。また、片面さらに表層でのC量の検量となる。こうして求めたC量を、集電箔中の合材成分の割合とした。そして、0.2%未満を「A(優)」、0.2%以上0.36%未満を「B(良)」、0.36%以上を「F(不可)」として評価した。
【0067】
(結果と考察)
参考例1~19について、合材中の集電箔成分の割合及び集電箔中の合材成分の割合を、表2にまとめた。また、参考例8、参考例16、参考例3、参考例15について、超音波処理後の電極(集電箔)の外観写真を
図5に示した。また、参考例11について、超音波処理後の電極(集電箔)の外観写真を
図6に示した。
【0068】
表2に示すように、処理液を水とし、スイープ機能を用いた超音波処理を行った参考例1~14及び参考例19では、合材中の集電箔成分の割合及び集電箔中の合材成分の割合の評価がいずれもA又はBであり、合材と集電箔とを精度よく分離できることがわかった。また、60秒以下の短時間の超音波処理で、合材と集電箔とを精度よく分離できることがわかった。また、6.3W/cm2以下の低電力密度で、合材と集電箔とを精度よく分離できることがわかった。さらに、正極の結着材(PVDF)は有機系、負極の結着材(SBR)は水系であるが、どちらの結着材を用いても水による超音波処理で、合材と集電箔とを精度よく分離できることがわかった。
【0069】
これに対して、処理液を水とし、スイープ機能を用いずに超音波処理を行った参考例15,16では、集電箔上に合材が多く残存した。
【0070】
また、処理液をNMPとし、スイープ機能を用いた超音波処理を行った参考例17,18でも、集電箔上に合材が多く残存した。有機系の結着材はNMPにより溶解することから、処理液を水とした参考例3や参考例19よりも、処理液をNMPとした参考例17や参考例18の方が合材が多く除去されると推察されたが、実際には、処理液を水とした方が合材が多く除去された。これは、NMPを用いた場合には、超音波によるキャビテーション効果が弱いためと推察された。また、参考例17,18のうち、超音波周波数を40kHzとした参考例18では集電箔中の合材成分の割合が多くなるだけでなく、合材中の集電箔成分の割合も多くなり、集電箔の損傷が大きくなることがわかった。なお、参考例19でも、超音波周波数を40kHzとしたが、処理液が水であるためか、集電箔の損傷が参考例18よりも抑制された。
【0071】
以上より、処理液を水とし、かつ、スイープ機能を用いた超音波処理を行うことで、集電体と電極合材とを効率よく高精度に分離できることがわかった。
【0072】
【0073】
【0074】
2.参考例20~28
上記の超音波処理による分離の前に、水中への電極、特に正極を浸漬した待機時間が長くなると、集電体と電極合材とが分離しにくくなる事象が確認された。この点を、参考例20~28として示した。参考例20~28では、処理水として、純水(pH=6)を用いた。参考例20~28は、以下のように行った。
【0075】
[処理対象電極]
処理対象電極として、上述した正極Aを用いた。なお、正極中の合材の割合は74重量%であった。
【0076】
[超音波処理]
超音波装置(ブランソン製GCX-M-3FQ12、出力500W、洗浄槽内容量20L)を用い、洗浄槽(外槽)内に水(純水、pH6)を入れ、内槽のガラス容器に50mlの水溶液を入れ、その中に面積40mm×100mmの正極を入れ、所定の時間浸漬した。その後、外槽下の振動子から超音波を印加した。超音波処理の条件は、周波数120kHz、スイープ幅±1kHz、スイープ速度1000スイープサイクル/秒で、処理時間60秒で実施した。
【0077】
[分析]
図7に示すタイミングで、正極の重量測定を実施し、重量測定結果から合材除去率を導出した。合材除去率は、分離工程前後での正極の重量減少率を正極中の合材の重量率74%で除して百分率で表した値であり、Al箔が損傷し、その重量が減少する場合は、その分も計算上、合材除去率に含まれる。
【0078】
(結果と考察)
図8は、参考例20~28の、浸漬待機時間と合材除去率との関係を示すグラフである。
図8に示すように、純水を用いた参考例20~28では、待機時間がより長くなると、電極合材の剥離性が低下する傾向が示された。この理由は以下のように推察された。処理水として純水を用いた場合、水中へ正極を浸漬することで、正極活物質に含まれるLiの溶出により、水がアルカリ性に変化する。アルカリ性に変化することで、集電体のアルミニウムが水溶液に溶出し、それに伴い、合材とアルミニウム間に化合物を形成する、または、結着材のPVdFがアルカリにより変質し、分離を阻害し、合材がAl箔上に残存する現象が生じうるものと推察された。なお、アルミニウムが溶出すると、分離後の合材粉にアルミニウムが混入したり、金属アルミニウムの回収率が低下するおそれがあり、こうした観点からも、アルミニウムの溶出を抑制することが望ましいと推察された。
【0079】
3.実験例1~9
集電体(例えばAl)と電極合材とを超音波処理により分離する方法において、処理水を酸溶液とすることにより、溶出成分の影響をより低減させ、処理水へ浸漬した待機時間の長さによらず、安定して分離処理できることを、実験例1~9で確認した。処理水、正極材料、超音波処理、分析は下記の条件とした。
【0080】
[処理水]
<炭酸水:実験例1~5>
炭酸水は純水(アルカリ金属イオン濃度10μg/L未満、ハロゲンイオン濃度10μg/L未満)に炭酸ガスを吸収させて作製した。作製した炭酸水のpHを測定し、炭酸の酸解離定数を用いて下記式(A)(B)より炭酸濃度を算出し、以下に示した。
(A):H2CO3+H2O⇔H3O++HCO3
-
Ka1=([H+][HCO3
-])/([H2CO3])=4.45×10-7
pKa1=6.35
(B):HCO3
-+H2O⇔H3O++CO3
2-
Ka2=([H+][CO3
2-])/([HCO3])=4.7×10-11
pKa2=10.33
・実験例1:炭酸水(1):pH3.99、炭酸濃度0.024mol/L
・実験例2:炭酸水(2):pH4.14、炭酸濃度0.012mol/L
・実験例3:炭酸水(3):pH4.29、炭酸濃度0.0059mol/L
・実験例4:炭酸水(4):pH4.49、炭酸濃度0.0024mol/L
・実験例5:炭酸水(5):pH4.71、炭酸濃度0.00086mol/L
<酢酸水溶液:実験例6~7>
・実験例6:酢酸(99.7%)3.0gを純水で1Lに希釈し、0.05mol/L酢酸水溶液を作製した。その時のpHは3.03であった。
・実験例7:酢酸(99.7%)0.60gを純水で1Lに希釈し、0.01mol/L酢酸水溶液を作製した。その時のpHは3.08であった。
<安息香酸水溶液:実験例8>・
実験例8:安息香酸(99.5%)1.22gを純水で1Lに希釈し、0.01mol/L安息香酸水溶液を作製した。その時のpHは3.12であった。
<純水:実験例9>
酸を溶解していない純水をそのまま処理液として用いた。pHは5.5であった。実験例1と同様に炭酸濃度を算出したところ、微量(Tr)であった。
【0081】
[処理対象電極]
集電箔に20μm厚のAl箔を用いた。電極合材層には、正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2(NCM:戸田工業製)、導電材としてアセチレンブラック(デンカ株式会社製)、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF:クレハ製)を質量比で92:5:3で混合したものを用いた。集電箔の両面に上記電極合材層を塗工したものを正極として用いた。正極中の活物質量は1g/100cm2であった。
【0082】
[超音波処理]
超音波装置(ブランソン製GCX-M-3FQ12、出力500W、外槽内容量20L)を用い、洗浄槽(外槽)内に水を入れ、内槽のガラス容器に50mLの処理水を入れ、その中に面積5cm×10cm(50cm
2)の正極を入れ、所定の待機時間(ここでは30分)に亘って正極を浸漬した。その後、外槽下の振動子から超音波を印加した。超音波処理の条件は、周波数120kHz、スイープ幅±1kHz、スイープ速度を1000スイープサイクル/秒とし、処理時間60秒で実施した。
図7に示すタイミングで処理水のpH測定、正極の質量測定、ICP分析を実施した。なお、
図7の液ICP-OES測定は、処理液から合材粉をろ過したろ液を用いて測定した。
【0083】
[分析]
超音波処理後の処理水は、孔径0.2μm親水性テフロン製メンブランフィルター(テフロンは登録商標)でろ過した。フィルターに保持された正極合材は80℃で乾燥した。処理水中および正極合材粉中のアルミをICP-OESにより定量して、正極集電体の質量あたりのアルミの溶解量と正極合材粉中のAlの割合を求めた。測定は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES,日立ハイテクサイエンス製PS3520UVDDII II)を用いて行った。
【0084】
(結果と考察)
表3に、実験例1~9の各処理液の種類、調製後のpH、調製後の酸濃度、超音波処理後のpHを示した。また、合材除去率、集電体質量あたりのAl溶解量、合材粉中のAl量を示した。
【0085】
図9は、超音波処理後の各電極(集電箔)の外観写真である。
図10は、酸濃度と処理後pHとの関係を示すグラフである。
図11は、酸濃度と合材除去率との関係を示すグラフである。
図12は、酸濃度と集電体質量あたりのAl溶解量との関係を示すグラフである。
図13は、酸濃度と合材粉中のAl量との関係を示すグラフである。実験例1、2では超音波剥離試験後の合材層の除去率はいずれも100%であり、処理後の溶液のpHは、実験例1は6.10、実験例2は6.35であった。そして、アルミ集電体の溶解量および合材粉中のアルミ量はいずれも0.01%以下であった。実験例3では合材除去率は98%、処理後のpHは6.93、アルミ集電体の溶解量は0.01%以下、合材粉中のアルミ量は0.03%であった。実験例4では合材除去率は92%、処理後のpHは9.39、アルミ集電体の溶解量は0.03%、合材粉中のアルミ量は0.05%であった。実験例5では合材除去率は94%、処理後のpHは10.34、アルミ集電体の溶解量は0.12%、合材粉中のアルミ量は0.10%であった。実験例6では合材除去率は100%、処理後のpHは4.14、アルミ集電体の溶解量は0.01%以下、合材粉中のアルミ量は0.01%であった。実験例7では合材除去率は99%、処理後のpHは5.52、アルミ集電体の溶解量は0.01%以下、合材粉中のアルミ量は0.04%であった。実験例8では合材除去率は99%、処理後のpHは5.48、アルミ集電体の溶解量は0.01%以下、合材粉中のアルミ量は0.02%であった。実験例9では合材除去率は94%、処理後のpHは10.88、アルミ集電体の溶解量は0.29%、合材粉中のアルミ量は0.10%であった。実験例1~8では、実験例9よりも処理後のpHが低く、処理によるpH上昇が抑えられ、それに伴ってアルミ集電体の溶解量と合材粉中のアルミ量も少なかった。特に、pHが8以下の実験例1、2、3、6、7、8は、アルミ集電体の溶解は認められず、合材除去率が98%以上となり集電体と合材層を効率よく分離できた。その時の酸濃度は0.005mol/L以上であった。
【0086】
なお、今回の実施例では活物質量0.5g(正極50cm2)に対して50mLの処理液を用いて処理を行った。実電池に適用する場合には、例えば酸濃度が0.005mol/Lの処理液を用いる場合には活物質質量0.5に対して処理液を50以上の質量にすることが好ましいと推察された。さらに、処理する正極重量や酸濃度を変えた場合には活物質1g(正極100cm2)に対して酸の量を0.0005mol以上になるように調製した酸溶液を用いることが好ましいと推察された。
【0087】
10 分離装置、15 制御部、20 分離部、22 処理容器、24 内槽、25 載置台、26 外槽、28 振動子、29 pH検出部、30 発振器、32 処理水、33 合材含有処理水、36 超音波伝播媒体、50 処理対象電極、52 集電体、54 電極合材。