(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060295
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 5/027 20060101AFI20240424BHJP
C03B 5/24 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C03B5/027
C03B5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167593
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 美奈
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AD04
(57)【要約】
【課題】溶融ガラスの液面を覆う被覆層の温度低下を抑制し、溶融ガラスの液面レベルを安定化させ、ガラス物品の生産効率を向上させる。
【解決手段】ガラス物品の製造方法は、溶融炉1内に収容された溶融ガラスGmに浸漬された電極3による加熱により、ガラス原料Grを溶解して溶融ガラスGmを得る溶融工程を含む。溶融炉1は、溶融炉1の天井壁1cを保温する断熱層8を備える。溶融工程では、溶融ガラスGmの液面LSを覆うバッチ層Ga及び泡層Gbを含む被覆層Gxを形成すると共に、断熱層8により天井壁1cの最低温度を600~1100℃に保温する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉の上流側から前記溶融炉内に収容された溶融ガラス上にガラス原料を供給する供給工程と、前記溶融ガラスに浸漬された電極による加熱により、前記ガラス原料を溶解して前記溶融ガラスを得る溶融工程と、前記溶融炉の下流側から前記溶融ガラスを排出する排出工程とを備えるガラス物品の製造方法であって、
前記溶融炉は、前記溶融炉の天井壁を保温する保温構造を備え、
前記溶融工程では、前記溶融ガラスの液面を覆うバッチ層及び泡層を含む被覆層を形成すると共に、前記保温構造により前記天井壁の最低温度を600~1100℃に保温することを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記保温構造は、前記天井壁の外側に設けられた断熱層を備える請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記保温構造は、抵抗加熱器を備える請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記保温構造は、誘導加熱器を備える請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
前記溶融工程は、前記天井壁の温度を測定する測定工程と、前記測定工程で測定された前記天井壁の温度に基づいて前記保温構造による保温温度を調整する調整工程とをさらに備える請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法
【請求項6】
前記天井壁の最低温度が、前記溶融炉の上流側よりも下流側で高い請求項1又は2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
溶融ガラスを内部に収容する溶融炉を備えるガラス物品の製造装置であって、
前記溶融炉は、前記溶融炉の前壁に設けられ、前記溶融ガラス上にガラス原料を供給する供給機と、前記溶融ガラスに浸漬され、前記ガラス原料を加熱して溶解する電極と、前記溶融炉の後壁に設けられ、前記溶融ガラスを排出する排出口と、前記溶融炉の天井壁を保温する保温構造とを備え、
前記保温構造は、前記天井壁の最低温度を600~1100℃に保温するように構成されていることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維や板ガラスなどのガラス物品の製造方法には、例えば、溶融炉の上流側から溶融炉内に収容された溶融ガラス上にガラス原料を供給する供給工程と、ガラス原料を溶解して溶融ガラスを得る溶融工程と、溶融炉の下流側から溶融ガラスを排出する排出工程とが含まれる。
【0003】
溶融工程では、例えば、溶融ガラスに浸漬された電極による加熱(通電)により、ガラス原料を溶解して溶融ガラスを得る場合がある。このように電極による加熱を用いる場合、溶融炉の熱効率を向上させる観点から、溶融ガラスの液面をガラス原料に由来する被覆層で覆って、溶融ガラスからの放熱を抑制することがある(例えば、特許文献1を参照)。ここで、被覆層は、ガラス原料から形成されるバッチ層と、ガラス原料の溶解に伴って形成される泡層とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶融ガラスの液面を被覆層で覆う場合、被覆層は、ガラス原料を溶解する過程で、被覆層や溶融ガラス中から発生するガスが十分に抜ける温度(粘度)である必要がある。一方、ガラス物品の生産効率を向上させるためにガラス流量を増加させる場合、ガラス溶融炉へのガラス原料の供給量を多くする必要がある。
【0006】
しかしながら、ガラス原料の供給量を多くすると、溶融ガラスの液面を覆う被覆層が、温度の低い未溶解のガラス原料を必然的に多く含むことになる。その結果、被覆層の温度が低下し、被覆層からガスが抜けにくくなる。このように被覆層からガスが抜けにくくなると、溶融ガラスの液面レベルが不安定となり、ガラス物品の生産効率が悪くなるという問題が生じうる。
【0007】
本発明は、溶融ガラスの液面を覆う被覆層の温度低下を抑制し、溶融ガラスの液面レベルを安定化させ、ガラス物品の生産効率を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、溶融炉の上流側から溶融炉内に収容された溶融ガラス上にガラス原料を供給する供給工程と、溶融ガラスに浸漬された電極による加熱により、ガラス原料を溶解して溶融ガラスを得る溶融工程と、溶融炉の下流側から溶融ガラスを排出する排出工程とを備えるガラス物品の製造方法であって、溶融炉は、溶融炉の天井壁を保温する保温構造を備え、溶融工程では、溶融ガラスの液面を覆うバッチ層及び泡層を含む被覆層を形成すると共に、保温構造により天井壁の最低温度を600~1100℃に保温することを特徴とする。
【0009】
保温構造により天井壁の最低温度が600℃未満になると、溶融ガラスの液面を覆う被覆層の温度が低下し、被覆層からガスが抜けにくくなる。一方、保温構造により天井壁の最低温度が1100℃超となると、被覆層(例えば泡層)の一部が消失するなどして、溶融炉の熱効率が著しく低下するおそれがある。これに対し、保温構造により天井壁の最低温度を600~1100℃に保温すれば、被覆層を安定した状態で維持しつつ、天井壁の熱によって、被覆層の温度低下を抑制できる。したがって、溶融ガラスの液面レベルを安定化させ、ガラス物品の生産効率を向上させることができる。
【0010】
(2) 上記の(1)の構成において、保温構造は、天井壁の外側に設けられた断熱層を備えていてもよい。
【0011】
このようにすれば、天井壁を確実に保温し、天井壁の最低温度を管理しやすくなる。
【0012】
(3) 上記の(1)又は(2)の構成において、保温構造は、抵抗加熱器を備えていてもよい。
【0013】
このようにすれば、天井壁を確実に保温し、天井壁の最低温度を管理しやすくなる。
【0014】
(4) 上記の(1)~(3)のいずれかの構成において、保温構造は、誘導加熱器を備えていてもよい。
【0015】
このようにすれば、天井壁を確実に保温し、天井壁の最低温度を管理しやすくなる。
【0016】
(5) 上記の(1)~(4)のいずれかの構成において、溶融工程は、天井壁の温度を測定する測定工程と、測定工程で測定された天井壁の温度に基づいて保温構造による保温温度を調整する調整工程とをさらに備えることが好ましい。
【0017】
このようにすれば、天井壁の最低温度を緻密に管理しやすくなる。
【0018】
(6) 上記の(1)~(5)のいずれかの構成において、天井壁の最低温度が、溶融炉の上流側よりも下流側で高いことが好ましい。
【0019】
ガラス原料に起因して発生するガスは、バッチ層よりも泡層で抜けやすい。溶融炉の上流側から下流側に向かって未溶解のガラス原料は徐々に減少するため、溶融炉の下流側では、バッチ層は減少し、泡層が増加する傾向がある。したがって、天井壁の最低温度を溶融炉の上流側よりも下流側で高くすれば、溶融炉の下流側において、泡層を介してガスを効率よく抜くことができる。
【0020】
(7) 上記の課題を解決するために創案された本発明は、溶融ガラスを内部に収容する溶融炉を備えるガラス物品の製造装置であって、溶融炉は、溶融炉の前壁に設けられ、溶融ガラス上にガラス原料を供給する供給機と、溶融ガラスに浸漬され、ガラス原料を加熱して溶解する電極と、溶融炉の後壁に設けられ、溶融ガラスを排出する排出口と、溶融炉の天井壁を保温する保温構造とを備え、保温構造は、天井壁の最低温度を600~1100℃に保温するように構成されていることを特徴とする。
【0021】
このようにすれば、既に述べた対応する構成と同様の作用効果を享受できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、溶融ガラスの液面を覆う被覆層の温度低下を抑制し、溶融ガラスの液面レベルを安定化させ、ガラス物品の生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るガラス物品の製造装置を示す断面図である。
【
図2】本発明の第二実施形態に係るガラス物品の製造装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、各実施形態において対応する構成要素には同一符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0025】
(第一実施形態)
図1に示すように、第一実施形態に係るガラス物品の製造装置は、溶融炉1と、フィーダ2と、図示省略の成形装置とを備える。
【0026】
溶融炉1は、底壁1aと、側壁1bと、天井壁1cとを備え、これらの各構成要素1a~1cで溶融ガラスGmを収容する空間を区画形成する。側壁1bは、上流側に位置する前壁1b1、下流側に位置する後壁1b2を含む。
【0027】
溶融炉1では、ガラス原料Grを溶解して溶融ガラスGmを形成する。ガラス原料Grは、天然原料、化成原料に加えて、カレットを含んでもよい。ガラス物品がガラス繊維である場合、溶融ガラスGmは、Eガラス、NEガラス、Cガラス、Sガラス、Tガラス、Dガラスとすることができる。また、ガラス物品がディスプレイ用のガラス基板である場合、溶融ガラスGmは、無アルカリガラスとすることができる。ガラス物品がディスプレイ等のカバーガラスである場合、化学強化用のアルミノシリケートガラスとすることができる。
【0028】
溶融炉1の底壁1aには、複数の棒状の電極3が設けられている。電極3は、棒状に限らず、板状やブロック状であってもよく、これらを組み合わせてもよい。また、電極3は、溶融炉1の側壁(例えば後述の流れ方向Fに沿って延びる側壁)に設けられてもよい。電極3は、例えば、モリブデン(Mo)から形成される。電極3は、溶融ガラスGmに浸漬されると共に、溶融ガラスGmを通電加熱してガラス原料Grを溶解する。電極3は、冷却機構(図示省略)を備えた筒状の電極ホルダ4に保持された状態で、底壁1dに設けられた貫通孔内に収容される。つまり、電極ホルダ4が底壁1dに保持され、電極3が電極ホルダ4に保持されている。この状態で、電極3は、溶融炉1内における電極3の突出長さは、溶融炉1内への電極3の挿入長さを変更することにより調整可能となっている。電極3の数や配置位置は、溶融炉1の大きさ等に応じて適宜変更できる。
【0029】
なお、本実施形態では、溶融炉1内における溶融ガラスGmの液面LSよりも上方空間において、ガラス原料Grを溶解するためのバーナー等の加熱手段は設けられていない。つまり、本実施形態は、後述する溶融工程において、電極3による通電加熱のみでガラス原料Grを溶解する、いわゆる全電気溶融方式である。なお、溶融工程を開始する前の立ち上げ工程(溶融炉を常温からガラス原料を溶解可能な温度まで昇温する工程)では、バーナーを用いてもよい。
【0030】
溶融炉1の前壁1b1には、ガラス原料Grを供給するための供給口5が設けられている。この供給口5には、供給機6が設けられている。本実施形態では、供給機6は、スクリューフィーダである。供給機6は、プッシャーや振動フィーダなどの他の公知の供給機であってもよい。供給機6の数や配置位置は、溶融炉1の大きさ等に応じて適宜変更できる。
【0031】
溶融炉1の後壁1b2には、溶融ガラスGmを排出するための排出口7が設けられている。この排出口7にはフィーダ2が接続されており、溶融炉1からフィーダ2に溶融ガラスGmが順次供給されるようになっている。このような溶融炉1では、溶融ガラスGmが前壁1b1から後壁1b2に向かう流れ方向Fに沿って流動する。
【0032】
供給機6により供給されたガラス原料Grは、電極3による通電加熱により溶解され、溶融ガラスGmが連続的に生成される。溶融ガラスGmの液面LSは、被覆層Gxで覆われている。被覆層Gxは、ガラス原料Grから形成されるバッチ層Gaと、ガラス原料Grの溶解に伴って形成される泡層Gbとを含む。泡層Gbは、ガラス原料Grに起因して炭酸ガス(COやCO
2)、O
2ガス、SO
2ガスなどのガスXが発生するのに伴って形成される。このように被覆層Gxで溶融ガラスGmの液面LSを覆うことにより、溶融ガラスGmの放熱を抑制できる。その結果、溶融ガラスGmの温度を確実に保持できるため、省エネルギー化を図ることができる。なお、
図1では、泡層Gbは、溶融炉1の下流側のみに形成された状態を図示しているが、溶融炉1の上流側にも形成されうる。具体的には、例えば、溶融炉1の上流側において、泡層Gbがバッチ層Gaの幅方向(流れ方向Fと直交する方向)両側などに形成されうる。また、バッチ層Gaと溶融ガラスGmの液面LSの間にも泡層Gbが形成されうる。
【0033】
溶融炉1の天井壁1cには、天井壁1cを保温するための保温構造として、天井壁1cの外壁面の少なくとも一部を覆う断熱層8が設けられている。断熱層8は、ブランケット8aを一層又は複数層積層して構成される。なお、図示例は、ブランケット8aを三層積層した状態を例示している。
【0034】
ブランケット8aとしては、例えば、耐火性繊維材料からなるブランケットを使用できる。具体的には、1100℃以上(好ましくは1150℃以上)の温度に耐えうる耐熱性を備え、かつ、伸縮性を有するブランケットを使用できる。一例を挙げると、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維、及び、これらの混紡繊維等で構成されたブランケットを使用できる。
【0035】
本実施形態では、断熱層8は、天井壁1cの外壁面の上流側から下流側に至る全域を覆うように設けられているが、天井壁1cの下流側のみに設けるなど、その配置位置は適宜変更できる。
【0036】
溶融炉1の天井壁1cには、天井壁1cの温度を測定可能な温度計(例えば熱電対)9が設けられている。
【0037】
フィーダ2は、溶融炉1で形成された溶融ガラスGmをフィーダ2の下流側の成形装置まで移送するためのものである。フィーダ2は、必要に応じて、溶融ガラスGmを移送するための移送路、溶融ガラスGmに清澄処理を施す清澄室、スターラーによって溶融ガラスGmに攪拌処理を施す均質化室(攪拌室)などを含む。
【0038】
図示省略の成形装置は、フィーダ2によって供給される溶融ガラスGmからガラス物品を成形する。本実施形態では、ガラス物品はガラス繊維である。
【0039】
ガラス物品がガラス繊維である場合、成形装置としては、例えば、フィーダ2の底部に設けられるブッシングを用いることができる。ブッシングは、溶融ガラスを流出させてガラス繊維を成形する複数のノズルを備える。
【0040】
次に、本実施形態に係るガラス物品の製造方法を説明する。本方法では、上記の製造装置を用いる。
【0041】
図2に示すように、本方法は、供給工程と、溶融工程と、排出工程と、移送工程と、成形工程とを含む。
【0042】
供給工程では、溶融炉1の上流側に位置する供給機6から溶融炉1内に収容された溶融ガラスGm上にガラス原料Grを供給する。
【0043】
溶融工程では、溶融ガラスGmに浸漬された電極3による加熱により、ガラス原料Grを溶解して溶融ガラスGmを得る。この際、溶融ガラスGmの液面LSに、バッチ層Ga及び泡層Gbを含む被覆層Gxが形成されるように、電極3による加熱温度や、溶融炉1内における溶融ガラスGmの液面LSよりも上方空間の温度を調整する。なお、溶融工程では、補助的にバーナーによる燃焼加熱を用いてもよい。この場合、電極及びバーナーで発生する合計熱量に対して電極で発生する熱量が占める割合は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、100%であること、すなわち、全電気溶融方式であることがさらにより好ましい。
【0044】
溶融炉1内における溶融ガラスGmの液面LSのうち、被覆層Gxで覆われている部分の面積Aは、溶融炉1内における溶融ガラスGmの液面LSの全面積Bの80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。一方、面積Aの上限は、面積Bの100%以下とすることができ、98%以下であることがより好ましい。また、溶融炉1内における溶融ガラスGmの液面LSのうち、泡層Gbで覆われている面積Cは、溶融炉1内における溶融ガラスGmの液面LSのうち、バッチ層Gaで覆われている部分の面積Dの5~50%であることが好ましい。面積Cは、面積Dの10~40%であることがより好ましく、15~30%であることがさらに好ましい。
【0045】
また、溶融工程では、断熱層8により天井壁1cの最低温度を600~1100℃に保温する。ここで、断熱層8により天井壁1cの最低温度が600℃未満になると、溶融ガラスGmの液面LSを覆う被覆層Gxの温度(粘度)が低下し、ガラス原料Grの溶解に伴って発生するガスXが被覆層Gxから抜けにくくなる。一方、断熱層8により天井壁1cの最低温度が1100℃超となると、被覆層Gxの一部が消失するなどして、溶融炉1の熱効率が著しく低下するおそれがある。これに対し、断熱層8により天井壁1cの最低温度を600~1100℃に保温すれば、被覆層Gxを安定した状態で維持しつつ、天井壁1cの熱によって、被覆層Gxの温度低下を抑制できる。したがって、ガスXが被覆層Gxから上方空間に抜けやすくなる。その結果、溶融ガラスGmの液面LSのレベルが安定し、ガラス物品の生産効率を向上させることができる。
【0046】
天井壁1cの最低温度は、600~1000℃であることがより好ましく、600~800℃であることがさらに好ましい。また、天井壁1cの最高温度は、700~1100℃であることが好ましく、750~1050℃であることがより好ましく、800~1000℃であることがさらに好ましい。
【0047】
天井壁1cの最低温度は、溶融炉1の上流側よりも下流側で高いことが好ましい。ここで、「溶融炉1の上流側」は、例えば、溶融炉1内を流れ方向Fに半分に分割する位置よりも上流側の領域を意味し、「溶融炉1の下流側」は、例えば、溶融炉1内を流れ方向Fに半分に分割する位置よりも下流側の領域を意味する。ガスXは、バッチ層Gaよりも泡層Gbで抜けやすい。溶融炉1の上流側から下流側に向かって未溶解のガラス原料Grは徐々に減少するため、溶融炉1の下流側では、バッチ層Gaが減少し、泡層Gbが増加する傾向がある。したがって、天井壁1cの最低温度を溶融炉1の上流側よりも下流側で高くすれば、溶融炉1の下流側において、泡層Gbを介してガスXを効率よく抜くことができる。
【0048】
溶融炉の下流側における天井壁1cの最低温度T1と溶融炉1の上流側における天井壁1cの最低温度T2との温度差(T1-T2)は、溶融炉の長さ(流れ方向Fの寸法)によって大きく変化するが、例えば10℃以上であることが好ましく、15℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることがさらにより好ましい。一方、温度差の上限は例えば500℃以下であることが好ましく、450℃以下であることがより好ましく、400℃以下であることがさらにより好ましい。
【0049】
溶融工程において、天井壁1cの温度を熱電対9で測定し、その測定温度に応じて、断熱層8による保温温度を調整してもよい。断熱層8による保温温度の調整方法としては、例えば、ブランケット8aの積層枚数を変更したり、ブランケット8aの配置位置を変更したりすることが挙げられる。このようにすれば、天井壁1cの最低温度を正確に管理できる。
【0050】
排出工程では、溶融炉1の下流側の排出口7から溶融ガラスGmを排出し、フィーダ2に溶融ガラスGmを供給する。
【0051】
移送工程では、溶融炉1で形成された溶融ガラスGmをフィーダ2によって成形装置まで移送する。
【0052】
成形工程では、成形装置により、溶融ガラスGmからガラス物品としてのガラス繊維を成形する。
【0053】
(第二実施形態)
第二実施形態では、ガラス物品の製造装置及び製造方法における天井壁1cの保温構造の変形例を例示する。
図2に示すように、本実施形態では、保温構造として、天井壁1cの内部に加熱器21を設けている。
【0054】
加熱器21としては、例えば、抵抗加熱器や、誘導加熱器を用いることができる。加熱器21を複数設ける場合、抵抗加熱器及び誘導加熱器を併用してもよい。抵抗加熱器には、例えばSiCヒータや二珪化モリブデンヒータ、金属ヒータなどを用いることができる。金属ヒータには、例えば鉄合金やクロム合金、ニッケル合金、アルミニウム合金、白金、白金合金、タングステン等のヒータを用いることができる。
【0055】
加熱器21は、溶融工程において、天井壁1cの最低温度を600~1100℃に保温する。溶融工程において、天井壁1cの温度を熱電対9で測定し、その測定温度に応じて、加熱器21による加熱温度(保温温度)を調整してもよい。
【0056】
本実施形態では、加熱器21は、天井壁1cの外壁面の下流側のみに設けられているが、天井壁1cの上流側及び下流側の両方に設けるなど、その配置位置は適宜変更できる。
【0057】
加熱器21の配置態様は、天井壁1cを保温できれば特に限定されない。例えば、天井壁1cの内部に設けられた加熱器21の一部が、天井壁1cの内側(炉内)に露出していてもよい。あるいは、加熱器21は、天井壁1cの外側(炉外)に設けられていてもよい。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、上記した作用効果に限定されるものでもない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0059】
上記の実施形態において、天井壁1cの保温構造として、ブランケット8aを含む断熱層8と、加熱器21とを併用してもよい。
【0060】
上記の実施形態では、ガラス物品が、ガラス繊維である場合を説明したが、ガラス物品は、例えば、ガラス球、ガラス管、ガラスブロック、板ガラス、ガラスロールなどとすることができ、これら以外の任意の形状であってもよい。ガラス物品が板ガラスやガラスロールである場合、成形装置としては、例えば、オーバーフローダウンドロー法などのダウンドロー法、フロート法などを実施可能な装置を用いることができる。
【0061】
上記の実施形態において、天井壁1cの外壁面を覆うブランケット8aの積層枚数を、溶融炉1の上流側よりも下流側で多くしてもよい。あるいは、天井壁1cの外壁面の上流側から下流側までをブランケット8aで覆うと共に、天井壁1cの下流側のみに加熱器21を設けてもよい。このようにすれば、天井壁1cの最低温度を溶融炉1の上流側よりも下流側で高くしやすくなる。
【実施例0062】
以下、本発明に係るガラス物品について実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例は単なる例示であって、本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0063】
比較例1では、溶融炉の天井壁に保温構造を設けていない。一方、実施例1では、溶融炉の天井壁の保温構造として、天井壁の外壁面全体を覆うように一層のブランケット(シリカ繊維)を設けた(
図1を参照)。実施例2では、溶融炉の天井壁の保温構造として、溶融炉の下流側における天井壁のみに抵抗加熱器を設けた(
図2を参照)。実施例3では、溶融炉の天井壁の保温構造として、天井壁の外壁面全体を覆うように三層のブランケット(シリカ繊維)を設けた(
図1を参照)。
【0064】
比較例1及び実施例1~3のそれぞれについて、供給工程、溶融工程及び排出工程を行うと共に、この際の天井壁の温度、溶融ガラスの液面レベルの標準偏差、及び溶融ガラスの相対流量を測定した。溶融ガラスの相対流量は、比較例1の流量を基準として測定した。溶融ガラスの流量は、得られたガラス物品から算出した。これらの測定結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
天井壁に保温構造を設けていない比較例1では、天井壁の最低温度が600℃未満となった。これに対し、天井壁に保温構造を設けた実施例1~3では、天井壁の最低温度を600~1100℃の範囲に維持できた。そして、すべての実施例1~3において、比較例1よりも溶融ガラスの液面レベルの変動が抑制された。また、実施例1~3において、天井壁の最低温度が増加するに連れて、溶融ガラスの流量を漸次増加させることもできた。