(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060327
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】車両用電源システム及び車両用電源システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240424BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20240424BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240424BHJP
H02J 1/00 20060101ALI20240424BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
B62D6/00
B60R16/02 660L
B62D5/04
H02J1/00 309B
H02J7/00 302C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167633
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】梶澤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐志
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 雄吾
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一馬
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼台 尭資
(72)【発明者】
【氏名】物部 魁士
(72)【発明者】
【氏名】安部 健一
(72)【発明者】
【氏名】山下 正治
(72)【発明者】
【氏名】高山 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】飯田 一鑑
(72)【発明者】
【氏名】洞 泰志
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】富澤 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】中島 信頼
(72)【発明者】
【氏名】田邊 隼希
(72)【発明者】
【氏名】林 豊大
(72)【発明者】
【氏名】岩名 毅
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
5G165
5G503
【Fターム(参考)】
3D232CC37
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5G165BB02
5G165DA04
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5G503CA11
5G503DA02
5G503DA15
(57)【要約】
【課題】バックアップ状態の間、出力制限状態が解除される状況に陥り難くすることができる車両用電源システム及び車両用電源システムの制御方法を提供する。
【解決手段】車両用電源システムは、電源制御装置と、操舵制御装置とを含む。電源制御部は、主電源の状態変化を検出する処理と、主電源及び補助電源に対する駆動回路の接続状態を切り替える処理とを実行する。接続状態を切り替える処理は、主電源の電圧低下発生に伴って、バックアップ状態となるように接続状態を切り替える処理と、主電源の電圧低下解消に伴って、正常状態に遷移するように接続状態を切り替える処理とを含む。操舵制御装置の転舵制御部は、主電源の電圧低下発生後、転舵側モータが出力可能なトルクを制限する出力制限状態を設定する。出力制限状態は、主電源の電圧低下解消に伴って、正常状態へ遷移するように電源制御部による接続状態の切り替え完了後に解除される。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された第1電源とは別に第2電源を有する電源制御装置と、前記第1電源に対して、前記電源制御装置を介して接続されるとともに、車両に搭載された操舵装置を制御対象とする操舵制御装置と、を含む車両用電源システムであって、
前記操舵制御装置は、前記第1電源及び前記第2電源の少なくともいずれかに接続されることで供給される電力をモータに供給するように駆動する駆動回路を含み、当該駆動回路の駆動を制御することで前記モータの動作を制御する操舵制御部を備え、
前記電源制御装置は、前記第1電源及び前記第2電源に対する前記駆動回路の接続状態を切り替える電源制御部を備え、
前記電源制御部は、
前記第1電源の状態変化を検出するための処理である状態検出処理と、
前記接続状態を切り替えるための処理である切替処理と、を実行するように構成されており、
前記切替処理は、
前記第1電源から電力が供給される前記接続状態を第1状態とする場合、前記状態検出処理を通じて前記第1電源の異常が検出されることに伴って、前記第2電源から電力が供給される状態である第2状態に遷移するように前記接続状態を切り替える処理と、
前記第1電源の異常が検出されることに伴って遷移された前記第2状態の場合、前記状態検出処理を通じて前記第1電源の異常からの復帰が検出されることに伴って、前記第1状態に遷移するように前記接続状態を切り替える処理と、を含み、
前記操舵制御部は、前記第1電源の異常が検出された後、当該異常の検出前に比べて前記モータが出力可能なトルクを制限するための出力制限状態を設定するように構成されており、
前記出力制限状態は、前記第1電源の異常が検出された後の設定中、前記第1電源の異常からの復帰が検出されることに伴って、前記第1状態へ遷移するように前記電源制御部による前記接続状態の切り替え完了後に解除されるように構成されている車両用電源システム。
【請求項2】
前記状態検出処理は、
前記第1電源の異常を検出する異常条件が成立するか否かを判定する異常条件判定処理と、
前記異常条件の成立後、当該異常条件が非成立になる異常解消条件が成立するか否かを判定する異常解消条件判定処理と、
前記異常解消条件の成立後、前記第1電源の異常から復帰したことを検出する復帰条件が成立するか否かを判定する復帰条件判定処理と、を含み、
前記異常条件は、前記第1電源の電圧状態を示す電圧パラメータに基づく条件を含み、
前記復帰条件は、前記異常条件の非成立を維持できる状態を示す状態パラメータに基づく条件を含む、請求項1に記載の車両用電源システム。
【請求項3】
前記電圧パラメータは、前記第1電源の出力電圧であり、
前記異常条件は、前記出力電圧と電圧閾値との大小比較の結果に基づく条件を含み、
前記状態パラメータは、前記異常解消条件が成立してからの経過時間であり、
前記復帰条件は、前記経過時間と時間閾値との大小比較の結果に基づく条件を含む、請求項2に記載の車両用電源システム。
【請求項4】
前記異常解消条件判定処理は、前記異常条件の成立後、前記復帰条件が成立しないなかで制限時間が経過するまでの間に限って実行される処理である請求項3に記載の車両用電源システム。
【請求項5】
前記異常解消条件判定処理は、前記異常条件の成立後、前記復帰条件が成立しないなかで継続的に実行される処理である請求項3に記載の車両用電源システム。
【請求項6】
前記電源制御部と前記操舵制御部とは、互いに通信可能に回線を介して接続され、
前記電源制御部は、前記第1状態又は前記第2状態へ遷移する場合に前記接続状態の切り替えが完了した旨を示す切替完了情報を、前記回線を通じて前記操舵制御部に対して出力し、
前記操舵制御部は、前記電源制御部から前記回線を通じて取得する前記切替完了情報に基づき前記電源制御部による前記接続状態の切り替えが完了したことを把握する請求項1に記載の車両用電源システム。
【請求項7】
前記出力制限状態は、前記モータに出力させるトルクが出力制限値を超えないように制限する状態であり、
前記出力制限値は、前記第2電源の電源容量又は出力電圧で規定される電源性能が前記第1電源と比べて低いことを前提として前記第2電源の前記電源性能の限界未満の値である請求項1~請求項6のうちいずれか一項に記載の車両用電源システム。
【請求項8】
車両に搭載された第1電源とは別に第2電源を有する電源制御装置と、前記第1電源に対して、前記電源制御装置を介して接続されるとともに、車両に搭載された操舵装置を制御対象とする操舵制御装置と、を含む車両用電源システムの制御方法であって、
前記車両用電源システムの制御方法は、
前記第1電源及び前記第2電源の少なくともいずれかに接続されることで供給される電力をモータに供給するように駆動する駆動回路の駆動を制御することで前記モータの動作を制御する前記操舵制御装置に備えられた操舵制御部が実行する処理と、
前記第1電源及び前記第2電源に対する前記駆動回路の接続状態を切り替える前記電源制御装置に備えられた電源制御部が実行する処理と、を含み、
前記電源制御部が実行する処理は、前記第1電源の状態変化を検出するための処理である状態検出処理を実行することと、前記接続状態を切り替えるための処理である切替処理を実行することと、を含み、
前記切替処理は、
前記第1電源から電力が供給される前記接続状態を第1状態とする場合、前記状態検出処理を通じて前記第1電源の異常が検出されることに伴って、前記第2電源から電力が供給される状態である第2状態に遷移するように前記接続状態を切り替える処理と、
前記第1電源の異常が検出されることに伴って遷移された前記第2状態の場合、前記状態検出処理を通じて前記第1電源の異常からの復帰が検出されることに伴って、前記第1状態に遷移するように前記接続状態を切り替える処理と、を含み、
前記操舵制御部が実行する処理は、前記第1電源の異常が検出された後、当該異常の検出前に比べて前記モータが出力可能なトルクを制限するための出力制限状態を設定する処理を含み、
前記出力制限状態を設定する処理は、前記第1電源の異常が検出された後の実行中、前記第1電源の異常からの復帰が検出されることに伴って、前記第1状態へ遷移するように前記電源制御部による前記接続状態の切り替え完了後に前記出力制限状態を解除する処理を含む車両用電源システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電源システム及び車両用電源システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両には、特許文献1に記載の操舵装置が搭載される。特許文献1に記載の操舵装置は、車両のステアリングホイールと車両の転舵輪との間の動力伝達路が分離された、いわゆるステアバイワイヤ式の操舵装置である。操舵装置で必要な電力は、電源装置から供給される。電源装置は、メイン電源とバックアップ電源とを有する。操舵装置に対する給電状態は、主にメイン電源から電力が供給される状態とされている。メイン電源の故障等での失陥時、給電状態は、バックアップ電源から電力が供給されるバックアップの状態へと遷移する。つまり、バックアップ電源は、メイン電源による電力の供給をバックアップする。バックアップの状態の間、操舵装置は、出力制限処理を通じた出力制限状態を設定するように構成されている。出力制限状態は、操舵装置の構成要素である、例えば、転舵アクチュエータの出力を制限するための処理である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の出力制限状態は、バックアップの状態における操舵装置で必要な電力がバックアップ電源の性能限界を超えないよう設計されている。ここで、バックアップ状態の間は、出力制限状態が解除される状況に陥り難くするための工夫が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決し得る車両用電源システムは、車両に搭載された第1電源とは別に第2電源を有する電源制御装置と、前記第1電源に対して、前記電源制御装置を介して接続されるとともに、車両に搭載された操舵装置を制御対象とする操舵制御装置と、を含む。前記操舵制御装置は、前記第1電源及び前記第2電源の少なくともいずれかに接続されることで供給される電力をモータに供給するように駆動する駆動回路を含み、当該駆動回路の駆動を制御することで前記モータの動作を制御する操舵制御部を備え、前記電源制御装置は、前記第1電源及び前記第2電源に対する前記駆動回路の接続状態を切り替える電源制御部を備え、前記電源制御部は、前記第1電源の状態変化を検出するための処理である状態検出処理と、前記第1電源及び前記第2電源に対する前記駆動回路の接続状態を切り替えるための処理である切替処理と、を実行するように構成されており、前記切替処理は、前記第1電源から電力が供給される前記接続状態を第1状態とする場合、前記状態検出処理を通じて前記第1電源の異常が検出されることに伴って、前記第2電源から電力が供給される状態である第2状態に遷移するように前記接続状態を切り替える処理と、前記第1電源の異常が検出されることに伴って遷移された前記第2状態の場合、前記状態検出処理を通じて前記第1電源の異常からの復帰が検出されることに伴って、前記第1状態に遷移するように前記接続状態を切り替える処理と、を含み、前記操舵制御部は、前記第1電源の異常が検出された後、当該異常の検出前に比べて前記モータが出力可能なトルクを制限するための出力制限状態を設定するように構成されており、前記出力制限状態は、前記第1電源の異常が検出された後の設定中、前記第1電源の異常からの復帰が検出されることに伴って、前記第1状態へ遷移するように前記電源制御部による前記接続状態の切り替え完了後に解除されるように構成されている。
【0006】
また、上記課題を解決し得る車両用電源システムの制御方法は、車両に搭載された第1電源とは別に第2電源を有する電源制御装置と、前記第1電源に対して、前記電源制御装置を介して接続されるとともに、車両に搭載された操舵装置を制御対象とする操舵制御装置と、を含む車両用電源システムを制御する方法である。前記車両用電源システムの制御方法は、前記第1電源及び前記第2電源の少なくともいずれかに接続されることで供給される電力をモータに供給するように駆動する駆動回路の駆動を制御することで前記モータの動作を制御する前記操舵制御装置に備えられた操舵制御部が実行する処理と、前記第1電源及び前記第2電源に対する前記駆動回路の接続状態を切り替える前記電源制御装置に備えられた電源制御部が実行する処理と、を含み、前記電源制御部が実行する処理は、前記第1電源の状態変化を検出するための処理である状態検出処理を実行することと、前記第1電源及び前記第2電源に対する前記駆動回路の接続状態を切り替えるための処理である切替処理を実行することと、を含み、前記切替処理は、前記第1電源から電力が供給される前記接続状態を第1状態とする場合、前記状態検出処理を通じて前記第1電源の異常が検出されることに伴って、前記第2電源から電力が供給される状態である第2状態に遷移するように前記接続状態を切り替える処理と、前記第1電源の異常が検出されることに伴って遷移された前記第2状態の場合、前記状態検出処理を通じて前記第1電源の異常からの復帰が検出されることに伴って、前記第1状態に遷移するように前記接続状態を切り替える処理と、を含み、前記操舵制御部が実行する処理は、前記第1電源の異常が検出された後、当該異常の検出前に比べて前記モータが出力可能なトルクを制限するための出力制限状態を設定する処理を含み、前記出力制限状態を設定する処理は、前記第1電源の異常が検出された後の実行中、前記第1電源の異常からの復帰が検出されることに伴って、前記第1状態へ遷移するように前記電源制御部による前記接続状態の切り替え完了後に前記出力制限状態を解除する処理を含む。
【0007】
上記構成及び上記方法によれば、電源制御部は、第1電源の異常を検出することに伴って遷移された第2状態の場合、第1電源の異常から復帰したことを検出することに伴って、第1状態に遷移するように接続状態を切り替えるように構成されている。ここで、操舵装置に対する給電状態は、第1状態を給電状態の本来の状態とする場合、第2状態がバックアップの状態となる。つまり、バックアップの状態において、電源制御部は、第1電源が異常からの復帰を検出する場合、第1状態から第2状態へと接続状態の切り替えを完了することによって、給電状態を本来の状態へと復帰させることができる。この場合、操舵制御部は、給電状態が本来の状態へと復帰した後に、出力制限状態を解除することになる。これにより、出力制限状態は、第1電源の異常からの復帰が検出されたとしても給電状態が本来の状態への復帰が完了しない間は維持される。したがって、給電状態の本来の状態への復帰が完了しない間、出力制限状態が解除される状況に陥り難くすることができる。
【0008】
上記車両用電源システムにおいて、前記状態検出処理は、前記第1電源の異常を検出する異常条件が成立するか否かを判定する異常条件判定処理と、前記異常条件の成立後、当該異常条件が非成立になる異常解消条件が成立するか否かを判定する異常解消条件判定処理と、前記異常解消条件の成立後、前記第1電源の異常から復帰したことを検出する復帰条件が成立するか否かを判定する復帰条件判定処理と、を含み、前記異常条件は、前記第1電源の電圧状態を示す電圧パラメータに基づく条件を含み、前記復帰条件は、前記異常条件の非成立を維持できる状態を示す状態パラメータに基づく条件を含むことが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、電源制御部は、異常条件が非成立になって異常解消条件が成立する状況において、異常条件の非成立が一瞬の出来事ではなく、ある程度維持されることを条件として、復帰条件が成立することを判定することができる。これにより、異常条件が非成立になって異常解消条件が成立したとしても一瞬の出来事であれば、第1電源の異常からの復帰が検出されないようにすることができる。したがって、第1電源の異常の検出後、第1電源の異常からの復帰を検出することの精度を高めることができる。
【0010】
上記車両用電源システムにおいて、前記電圧パラメータは、前記第1電源の出力電圧であり、前記異常条件は、前記出力電圧と電圧閾値との大小比較の結果に基づく条件を含み、前記状態パラメータは、前記異常解消条件が成立してからの経過時間であり、前記復帰条件は、前記経過時間と時間閾値との大小比較の結果に基づく条件を含むことが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、復帰条件を判定するのに必要なパラメータを簡素化することができる。これは、復帰条件の判定に関わる処理を容易に実現するのに効果的である。
より詳しくは、上記車両用電源システムにおいて、前記異常解消条件判定処理は、前記異常条件の成立後、前記復帰条件が成立しないなかで制限時間が経過するまでの間に限って実行される処理であったり、前記復帰条件が成立しないなかで継続的に実行される処理であったりする。
【0012】
上記前者の構成によれば、電源制御部は、異常条件の成立後、制限時間の間に限ってしか異常解消条件判定処理を実行しない。これにより、第1電源の異常の検出後、異常解消条件判定処理に要する電力消費を抑えることができる。これは、第2電源の容量に限りがある場合に、第2電源の電力消費を抑えるのに効果的である。
【0013】
上記後者の構成によれば、異常解消条件判定処理は、異常条件の成立後、復帰条件が成立しないなかで継続的に実行されるので、第1電源の異常からの復帰の機会を増加させることができる。これは、第1電源が異常でない場合におけるモータの動作をなるべく持続するのに効果的である。
【0014】
上記車両用電源システムにおいて、前記電源制御部と前記操舵制御部とは、互いに通信可能に回線を介して接続され、前記電源制御部は、前記第1状態又は前記第2状態へ遷移する場合に前記接続状態の切り替えが完了した旨を示す切替完了情報を、前記回線を通じて前記操舵制御部に対して出力し、前記操舵制御部は、前記電源制御部から前記回線を通じて取得する前記切替完了情報に基づき前記電源制御部による前記接続状態の切り替えが完了したことを把握することが好ましい。
【0015】
上記構成の場合、操舵制御部は、電源制御部から回線を通じて取得する情報に基づき給電状態を判断することができる。これにより、操舵制御部は、給電状態を考慮して動作することができる。
【0016】
上記車両用電源システムにおいて、前記出力制限状態は、前記モータに出力させるトルクが出力制限値を超えないように制限する状態であり、前記出力制限値は、前記第2電源の電源容量又は出力電圧で規定される電源性能が前記第1電源と比べて低いことを前提として前記第2電源の前記電源性能の限界未満の値であることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、バックアップの状態において、第2電源の電源性能を超える状況に陥り難くすることができる。これにより、第1電源の異常が検出されたとしてもモータの動作を好適に継続することができる。これは、第2電源の電源性能が第1電源と比べて低い場合、特に有効である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両用電源システム及び車両用電源システムの制御方法によれば、バックアップの状態の間、出力制限状態が解除される状況に陥り難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1の実施形態にかかる操舵装置の構成を示す図である。
【
図2】第1の実施形態にかかる車両用電源システムの構成を示す図である。
【
図3】
図2の車両用電源システムの電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】
図2の電源制御装置の電源制御部が実行する処理を説明する図である。
【
図5】
図2の電源制御装置の電源制御部が実行する処理を説明する図である。
【
図6】
図2の操舵制御装置の転舵側制御部が実行する処理を示すブロック図である。
【
図7】
図6の制限制御部が実行する処理を説明する図である。
【
図8】
図6の制限制御部が実行する処理を説明する図である。
【
図9】第1の実施形態について、(a)は起動スイッチの状態、(b)は主電源出力電圧、(c)は電源制御装置の出力電圧、(d)は給電状態信号の送信状態、(e)は給電状態信号の受信状態、(f)は出力制限値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施形態>
第1の実施形態に係る車両用電源システムを説明する。
図1に示すように、操舵制御装置1は、操舵装置2を制御対象とする。操舵装置2は、ステアバイワイヤ式の車両用の操舵装置として構成されている。操舵装置2は、操舵ユニット4と、転舵ユニット6とを備えている。操舵ユニット4は、操舵部材である車両のステアリングホイール3を介して運転者により操舵される。転舵ユニット6は、運転者により操舵ユニット4に入力される操舵に応じて車両の左右の転舵輪5を転舵させる。本実施形態の操舵装置2は、例えば、操舵ユニット4と、転舵ユニット6との間の動力伝達路が機械的に常時分離した構造を有している。後述の操舵アクチュエータ12と、後述の転舵アクチュエータ31との間の動力伝達路は、機械的に常時分離した構造とされている。
【0021】
操舵ユニット4は、ステアリング軸11と、操舵アクチュエータ12とを備えている。ステアリング軸11は、ステアリングホイール3に連結されている。操舵アクチュエータ12は、操舵側モータ13と、操舵側減速機構14とを有している。操舵側モータ13は、ステアリング軸11を介してステアリングホイール3に対して操舵に抗する力である操舵反力を付与する反力モータである。操舵側モータ13は、例えば、ウォームアンドホイールからなる操舵側減速機構14を介してステアリング軸11に連結されている。本実施形態の操舵側モータ13には、例えば、三相のブラシレスモータが採用されている。本実施形態において、操舵側モータ13は、操舵アクチュエータ12の駆動源の一例である。
【0022】
転舵ユニット6は、ピニオン軸21と、ラック軸22と、ラックハウジング23とを備えている。ピニオン軸21とラック軸22とは、所定の交差角をもって連結されている。ピニオン軸21に形成されたピニオン歯21aとラック軸22に形成されたラック歯22aとを噛み合わせることによりラックアンドピニオン機構24が構成されている。ピニオン軸21は、転舵輪5の転舵位置である転舵角に換算可能な回転軸に相当する。ラックハウジング23は、ラックアンドピニオン機構24を収容している。本実施形態において、ラック軸22は、転舵軸の一例である。
【0023】
ピニオン軸21のラック軸22と連結される側と反対側の一端は、ラックハウジング23から突出している。ラック軸22の両端は、ラックハウジング23の軸方向の両端から突出している。ラック軸22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド25を介してタイロッド26が連結されている。タイロッド26の先端は、それぞれ左右の転舵輪5が組み付けられた図示しないナックルに連結されている。
【0024】
転舵ユニット6は、転舵アクチュエータ31を備えている。転舵アクチュエータ31は、転舵側モータ32と、伝達機構33と、変換機構34とを備えている。転舵側モータ32は、伝達機構33及び変換機構34を介してラック軸22に対して転舵輪5を転舵させる転舵力を付与する転舵モータである。転舵側モータ32は、例えば、ベルト伝達機構からなる伝達機構33を介して変換機構34に対して回転を伝達する。伝達機構33は、例えば、ボールねじ機構からなる変換機構34を介して転舵側モータ32の回転をラック軸22の往復動に変換する。本実施形態の転舵側モータ32には、例えば、三相のブラシレスモータが採用されている。本実施形態において、転舵側モータ32は、モータ、すなわち転舵アクチュエータ31の駆動源の一例である。
【0025】
操舵装置2では、運転者によるステアリング操舵に応じて転舵アクチュエータ31からラック軸22にモータトルクが転舵力として付与されることで、転舵輪5の転舵角が変更される。このとき、操舵アクチュエータ12からは、運転者の操舵に抗する操舵反力がステアリングホイール3に付与される。これにより、操舵装置2では、操舵アクチュエータ12から付与されるモータトルクである操舵反力により、ステアリングホイール3の操舵に必要な操舵トルクThが変更される。
【0026】
なお、ピニオン軸21を設ける理由は、ピニオン軸21と共にラック軸22をラックハウジング23の内部に支持するためである。操舵装置2に設けられる図示しない支持機構によって、ラック軸22は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオン軸21へ向けて押圧される。これにより、ラック軸22はラックハウジング23の内部に支持される。ただし、ピニオン軸21を使用せずにラック軸22をラックハウジング23に支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0027】
<操舵装置の電気的構成>
図1に示すように、操舵側モータ13と転舵側モータ32とは、操舵制御装置1に接続されている。操舵制御装置1は、各モータ13,32の作動を制御する。
【0028】
操舵制御装置1には、各種のセンサの検出結果が入力される。各種のセンサには、例えば、トルクセンサ41、操舵側回転角センサ42、転舵側回転角センサ43、及び車速センサ44が含まれる。
【0029】
トルクセンサ41は、ステアリング軸11におけるステアリングホイール3と操舵側減速機構14との間の部分に設けられている。トルクセンサ41は、運転者のステアリング操舵によりステアリング軸11に付与されたトルクを示す値である操舵トルクThを検出する。操舵トルクThは、ステアリング軸11の途中であって、ステアリング軸11におけるステアリングホイール3と操舵側減速機構14との間に設けられたトーションバー41aの捩じれに関わって検出される。操舵側回転角センサ42は、操舵側モータ13に設けられている。操舵側回転角センサ42は、操舵側モータ13の回転軸の角度である回転角θaを360度の範囲内で検出する。転舵側回転角センサ43は、転舵側モータ32に設けられている。転舵側回転角センサ43は、転舵側モータ32の回転軸の角度である回転角θbを360度の範囲内で検出する。車速センサ44は、車両の走行速度である車速SPDを検出する。
【0030】
<操舵制御装置の電気的構成>
図2に示すように、操舵制御装置1は、操舵側制御部50と、転舵側制御部60とを有している。操舵側制御部50は、操舵側モータ13に対する給電を制御する。転舵側制御部60は、転舵側モータ32に対する給電を制御する。操舵側制御部50と転舵側制御部60とは、シリアル通信等のローカルネットワーク70を介して情報の送受信を相互に行う。操舵側制御部50は、操舵ユニット4の一部を構成する。転舵側制御部60は、転舵ユニット6の一部を構成する。
【0031】
操舵側制御部50は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。CPU及びメモリは、処理回路であるマイクロコンピュータを構成する。これと同様、転舵側制御部60は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。CPU及びメモリは、処理回路であるマイクロコンピュータを構成する。メモリは、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)のようなコンピュータ可読媒体を含む。ただし、各種処理がソフトウェアによって実現されることは一例である。操舵側制御部50が有する処理回路は、少なくとも一部の処理をロジック回路などのハードウェア回路によって実現するように構成されてもよい。これは、転舵側制御部60についても同様である。
【0032】
操舵側制御部50の演算周期は、後述の電源制御部88の演算周期又は後述の専用の回線である信号線90の通信周期に基づき設定されている。例えば、操舵側制御部50の演算周期は、後述の電源制御部88の演算周期又は後述の専用の信号線90の通信周期の各周期と比べて小さい。
【0033】
操舵側制御部50は、各種の処理を実行するようにCPUとメモリとを組み合わせてなる2系統の制御系統を有する。2系統の制御系統は、メイン制御部50aからなる系統と、サブ制御部50bからなる系統とを含む。これは、転舵側制御部60についても同様である。つまり、転舵側制御部60は、各種の処理を実行するようにCPUとメモリとを組み合わせてなる2系統の制御系統を有する。2系統の制御系統は、メイン制御部60aからなる系統と、サブ制御部60bからなる系統とを含む。操舵側制御部50と、転舵側制御部60とは、ローカルネットワーク70を介した通信が可能に構成されている。
【0034】
操舵側制御部50は、各種情報に基づいて、反力制御量を演算する。各種情報は、例えば、上記各種センサの検出結果及び転舵側制御部60からローカルネットワーク70を介して得られる情報を含む。反力制御量は、操舵側モータ13を通じて発生させるべきステアリングホイール3の操舵反力の目標値である。操舵側制御部50は、上記反力制御量に基づいて、操舵側モータ13に対する給電を制御する。また、転舵側制御部60は、各種情報に基づいて、転舵制御量を演算する。各種情報は、たとえば、上記各種センサの検出結果及び操舵側制御部50からローカルネットワーク70を介して得られる情報を含む。転舵制御量は、転舵側モータ32を通じて発生させるべき転舵力の目標値である。転舵側制御部60は、上記転舵制御量に基づいて、転舵側モータ32に対する給電を制御する。
【0035】
<操舵装置に対する給電経路>
操舵装置2は、電源制御装置80を有している。電源制御装置80は、主電源45に接続されている。操舵制御装置1は、電源制御装置80を介して主電源45に接続されている。主電源45は、例えば、車両に搭載された直流電源である二次電池である。主電源45は、操舵装置2の構成要素である、例えば、操舵制御装置1、各モータ13,32、電源制御装置80等の動作に必要な電力の供給源である。つまり、操舵制御装置1、各モータ13,32、電源制御装置80等は、主電源45の電力を消費して動作する。主電源45は、オルタネータ等の発電機46に接続されている。発電機46は、車両の走行用駆動源であるエンジンの回転を動力源として交流電力を発電する。発電機46により発電される交流電力は直流電力に変換されて主電源45に蓄えられる。本実施形態において、主電源45は、第1電源の一例である。
【0036】
電源制御装置80は、2つの電源線L1,L2を介して主電源45に接続されている。電源線L2は、電源線L1の接続点P0から分岐している。電源線L2には、起動スイッチ47が設けられている。起動スイッチ47は、例えば、イグニッションスイッチあるいはパワースイッチである。起動スイッチ47は、車両の走行用駆動源を始動または停止させる際に操作される。起動スイッチ47の操作は、電源線L2の導通のオンオフを切り替えるトリガである。なお、電源線L1は、基本的に導通が常時オンとされている。ただし、操舵装置2は、起動スイッチ47の操作に連動して電源線L1の導通を内部的にオンオフする構成を有する。つまり、操舵装置2に対する給電状態は、起動スイッチ47の操作、すなわち車両の走行用駆動源の動作状態と連動する。
【0037】
メイン制御部50aは、電源制御装置80を介して各電源線L1,L2に接続されている。つまり、メイン制御部50aは、電源制御装置80及び各電源線L1,L2を介して主電源45に接続されている。これは、メイン制御部60aについても同様である。メイン制御部60aは、電源制御装置80を介して各電源線L1,L2に接続されている。つまり、メイン制御部60aは、電源制御装置80及び各電源線L1,L2を介して主電源45に接続されている。
【0038】
サブ制御部50bは、電源制御装置80を介さず各電源線L1,L2に直接接続されている。つまり、サブ制御部50bは、電源制御装置80を介さず主電源45に接続されている。これは、サブ制御部60bについて同様である。サブ制御部60bは、電源制御装置80を介さず各電源線L1,L2に直接接続されている。つまり、サブ制御部50bは、電源制御装置80を介さず主電源45に接続されている。本実施形態において、操舵側制御部50と転舵側制御部60とは、単一の電源制御装置80を共用する。電源制御装置80は、信号線90を介して操舵側制御部50と通信可能である。また、電源制御装置80は、信号線90を介して転舵側制御部60と通信可能である。
【0039】
図3は、給電経路の構成を詳しく示している。ここでは、転舵側制御部60に関わる構成を中心に説明する。なお、操舵側制御部50に関わる構成については転舵側制御部60に関わる構成と基本的に同一である。
【0040】
図3に示すように、メイン制御部60aは、駆動回路61aと、制御回路62aとを有している。サブ制御部60bは、駆動回路61bと、制御回路62bとを有している。各駆動回路61a,61bは、より大きい電力を取り扱う回路であって、例えば、主電源45の直流電力を交流電力に変換するインバータが含まれる。各制御回路62a,62bは、操舵側モータ13を制御するための回路であって、例えば、CPUやメモリが含まれる。
【0041】
主電源45の電力は、電源線L1の接続点P11から分岐している電源線L11を介して駆動回路61aに供給される。主電源45の電力は、電源線L2の接続点P12から分岐している電源線L21を介して制御回路62aへ供給される。主電源45の電力は、電源線L1の接続点P11から分岐している電源線L12を介して駆動回路61bに供給される。主電源45の電力は、電源線L2の接続点P12から分岐している電源線L22を介してサブ制御部60bの制御回路62bへ供給される。
【0042】
なお、操舵側制御部50は、転舵側制御部60に対応する構成を有している。すなわち、メイン制御部50aは、駆動回路61a及び制御回路62aに対応する構成を有している。また、サブ制御部50bは、駆動回路61b及び制御回路62bに対応する構成を有している。
【0043】
<電源制御装置の構成>
図3に示すように、電源制御装置80は、補助電源81と、電気回路82と、スイッチ83,84,85と、ダイオード86,87と、電源制御部88とを有している。
【0044】
補助電源81は、二次電池同様の機能を有する、例えば、キャパシタである。補助電源81は、操舵装置2の構成要素である、例えば、操舵制御装置1、各モータ13,32等の動作に必要な電力の供給源である。補助電源81は、主電源45が電力を供給するうち、各メイン制御部50a,60a、各モータ13,32、電源制御部88等に電力を供給する。つまり、各メイン制御部50a,60a、各モータ13,32、電源制御部88等は、主電源45の電力だけではなく、補助電源81の電力を消費して動作することもできる。
【0045】
補助電源81は、電源線L11の接続点P13から分岐している電源線L111を介して電源線L11の接続点P11に接続されている。また、補助電源81は、電源線L11の接続点P14から分岐している電源線L112を介して電源線L11の接続点P11に接続されている。ただし、接続点P14は、電源線L11における接続点P13よりも下流側、より詳しくは転舵側制御部60に近い側の接続点である。
【0046】
本実施形態において、操舵装置2に対する給電状態は、主に主電源45から電力が供給される状態とされている。主電源45の故障等での失陥時、給電状態は、補助電源81から電力が供給されるバックアップ状態へと遷移する。つまり、補助電源81は、主電源45による電力の供給をバックアップする。補助電源81は、主電源45が電力を供給するうち、各メイン制御部50a,60a、各モータ13,32、電源制御部88等の一部を対象に電力の供給をバックアップする。
【0047】
本実施形態の補助電源81は、例えば、電源容量及び出力電圧で規定される電源性能がそれぞれ主電源45と比べて低性能である。つまり、補助電源81は、充電量を示す電源容量が主電源45と比べて小さい。また、補助電源81は、供給電力の大きさを示す出力電圧が主電源45と比べて小さい。本実施形態において、補助電源81は、第2電源の一例である。
【0048】
次式(A)で表されるように、補助電源81の出力電圧V2は、各モータ13,32、各制御部50,60等を適切に動作させるために必要とされる電圧V0よりも高い、かつ主電源45の出力電圧V1よりも低い値に設定されている。
【0049】
V1>V2>V0 …(A)
主電源45の失陥は、主電源45の実際の出力電圧Vbの低下を条件として検出される。出力電圧Vbは、主電源45の電圧状態を示す電圧パラメータである。出力電圧Vbの低下は、主電源45が出力電圧V1を維持できない状態であることを示す。
【0050】
また、補助電源81の電源容量C2は、各モータ13,32、各制御部50,60等の適切な動作を安全に継続させるために必要とされる電源容量C0よりも大きい、かつ、主電源45の電源容量C1よりも小さい値に設定されている。
【0051】
電気回路82は、補助電源81の状態が充電、放電、又は保持となるように電源線L11に対する接続状態を切り替える。例えば、電気回路82は、補助電源81の状態を保持とする場合、補助電源81を切り離すように電源線L11に対する接続状態を切り替える。
【0052】
スイッチ83は、電源線L11の途中に設けられている。スイッチ83は、接続点P13よりも上流側、より詳しくは主電源45に近い側のスイッチである。スイッチ83は、電源線L11の導通をオンオフする。スイッチ84は、電源線L111の途中に設けられている。スイッチ84は、電源線L111の導通をオンオフする。スイッチ85は、電源線L112の途中に設けられている。スイッチ85は、電源線L112の導通をオンオフする。
【0053】
電源線L112には、接続点P15が設定されている。電源線L112の接続点P15と電源線L21の接続点P16との間は電源線L113により接続されている。
ダイオード86は、電源線L113の途中に設けられている。ダイオード86のカソードは、電源線L21の接続点P16に接続されている。ダイオード86のアノードは、電源線L112の接続点P15に接続されている。
【0054】
ダイオード87は、電源線L21の途中に設けられている。ダイオード87のカソードは、電源線L21の接続点P16に接続されている。ダイオード87のアノードは、電源線L21の接続点P12に接続されている。
【0055】
ダイオード86,87は、アノードからカソードへ向けた電力の流れを許容する一方、カソードからアノードへ向けた電力の流れを規制する。ダイオード86,87は、主電源45と補助電源81とのうちの供給する電圧の大きい方の電力を制御回路62aに供給するOR回路を構成する。ダイオード86,87により構成されるOR回路は、いわゆるワイヤードORである。ダイオード86,87により構成されるOR回路は、転舵側制御部60に対して電力を供給するべく主電源45と補助電源81とのうちの供給する電圧の大きい方の電力を選択する選択回路に相当する。本実施形態において、OR回路は、接続回路の一例である。
【0056】
<電源制御部の機能>
電源制御部88は、図示しない中央処理装置(CPU)やメモリを備えており、所定の演算周期ごとにメモリに記憶されたプログラムをCPUが実行する。CPU及びメモリは、処理回路であるマイクロコンピュータを構成する。メモリは、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)のようなコンピュータ可読媒体を含む。ただし、各種処理がソフトウェアによって実現されることは一例である。電源制御部88が有する処理回路は、少なくとも一部の処理をロジック回路などのハードウェア回路によって実現するように構成されてもよい。
【0057】
より詳しくは、電源制御部88は、電気回路82の接続状態の切り替えを制御するとともに、スイッチ83,84,85の開閉を制御する。電源制御部88は、主電源45の電圧を監視する。電源制御部88は、電源線L11を通じて電源制御装置80に供給される電力の電圧を、主電源45の出力電圧Vbとして検出する。出力電圧Vbは、電源線L11の接続点P11で検出される電圧である。
【0058】
電源制御部88は、次式(B)で表されるように、主電源45の出力電圧Vbが電圧閾値Vthよりも小さいとき、主電源45の出力電圧Vbが低下した旨判断する。電圧閾値Vthは、主電源45の電圧低下を判断する際の基準であって、各モータ13,32あるいは各制御部50,60を適切に動作させるために必要とされる電圧V0を基準として設定される。本実施形態において、電圧閾値Vthは、電圧V0と同じ値に設定される。
【0059】
Vb<Vth …(B)
電源制御部88は、主電源45の電圧の低下が検出されないとき、スイッチ83,84をオンした閉状態に維持するとともに、スイッチ85をオフした開状態に維持する。また、電源制御部88は、主電源45の電圧低下が検出されるとき、スイッチ83,84をオンした閉状態からオフした開状態へ切り替える。この後、電源制御部88は、スイッチ85をオフした開状態からオンした閉状態へ切り替える。
【0060】
より詳しくは、主電源45の出力電圧Vbが低下していない場合、スイッチ83,84はオンした閉状態に維持されるとともに、スイッチ85はオフした開状態に維持される。
例えば、転舵ユニット6について、主電源45からの電力は、電源線L11を介して駆動回路61aへ供給される。また、主電源45からの電力は、電源線L111を介して補助電源81に充電される。
【0061】
出力電圧Vbが低下していない場合、起動スイッチ47がオンされたとき、主電源45の電力は電源線L21を介して制御回路62aへ供給される。ちなみに、出力電圧Vbは、出力電圧V2よりも高い出力電圧V1に設定されているため、基本的には補助電源81の電力が電源線L113及び電源線L21の一部を介して制御回路62aへ供給されることはない。また、ダイオード86によって、電源線L21を経た主電源45の電力が電源線L113を介して補助電源81へ流れ込むことが規制される。
【0062】
主電源45が失陥することによって、出力電圧Vbが出力電圧V2を下回った場合、即時に補助電源81からの電力が電源線L113及び電源線L21の一部分を介して制御回路62aへ供給される。これは、出力電圧V2が電源線L2に生じる電圧よりも高くなるからである。主電源45が失陥することによって、たとえ主電源45から制御回路62aへの給電が途絶した場合であれ、制御回路62aに対する給電が補助電源81によってバックアップされる。
【0063】
出力電圧Vbがさらに低下することによって、出力電圧Vbが電圧閾値Vthを下回った場合、スイッチ83,84がオンした閉状態からオフした開状態へ切り替えられる。この後、スイッチ85がオフした開状態からオンした閉状態へ切り替えられる。これにより、補助電源81の電力が電源線L112及び電源線L11の一部分を介して駆動回路61aへ供給される。これは、主電源45が失陥することによって、出力電圧V2が電源線L11に生じる電圧よりも高くなるからである。したがって、出力電圧Vbが電圧閾値Vthを下回ったことによって、たとえ主電源45から駆動回路61aへの給電が途絶した場合であれ、駆動回路61aに対する給電が補助電源81によってバックアップされる。
【0064】
出力電圧Vbが電圧閾値Vthを下回った後、出力電圧Vbが電圧閾値Vth以上になった場合、スイッチ85がオンした閉状態からオフした開状態へ切り替えられる。その後、スイッチ83,84がオフした開状態からオンした閉状態へ切り替えられる。これにより、主電源45の電力が電源線L11を介して駆動回路61aへ供給される。なお、即時に主電源45からの電力が電源線L113及び電源線L21の一部分を介して制御回路62aへ供給されるわけではない。これは、電圧閾値Vth以上になった出力電圧Vbがさらに出力電圧V2を超えるまで、出力電圧V2が電源線L2に生じる電圧よりも高くなるからである。したがって、出力電圧Vbが電圧閾値Vthを下回る状態から復帰したことによって、駆動回路61aへの給電が復帰した場合、主電源45から駆動回路61aへの給電が復帰する。
【0065】
ちなみに、電源線L112にはスイッチ85に代えてダイオードを設けることが考えられる。このようにすれば、主電源45の失陥時、補助電源81の電力が即時に駆動回路61aへ供給される。しかし、ダイオードでは電力損失が発生する。このため、補助電源81の消耗を抑える観点から、より大きい電力が要求される駆動回路61aに対して給電するための電源線L112にはダイオードではなくスイッチ85が設けられている。
【0066】
また、電源線L113にはダイオード86に代えてスイッチを設けることも考えられる。しかし、この場合、つぎのようなことが懸念される。すなわち、主電源45が失陥することによって、主電源45からの電力の供給が途絶えてから電源線L113のスイッチがオフからオンへ切り替わるまでには、わずかながらにも時間を要する。このため、電源線L113のスイッチがオフからオンへ切り替わるまでの期間、制御回路62aへの給電が瞬間的に途絶えることによって制御回路62aがリセットされるおそれがある。この点、電源線L113にダイオード86を設けるようにすれば、主電源45の失陥時、補助電源81の電力が電源線L113及び電源線L21の一部分を介して制御回路62aへ即時に供給される。制御回路62aへの給電が途絶えることがないため、制御回路62aがリセットされることもない。
【0067】
<電源制御部による監視について>
電源制御部88は、出力電圧Vbの検出を通じた主電源45の状態変化を監視する。これにより、電源制御部88は、主電源45の状態変化に応じて、主電源45及び補助電源81に対する駆動回路61aの接続状態を切り替える。主電源45の状態変化は、出力電圧Vbの検出結果に基づき判断される。電源制御部88は、出力電圧Vbが電圧閾値Vth以上であることを検出する場合、主電源45の電圧低下未発生、すなわち正常を判断する。また、電源制御部88は、出力電圧Vbが電圧閾値Vthを下回っていることを検出する場合、主電源45の電圧低下中、すなわち異常を判断する。本実施形態において、主電源45の電圧低下中は、主電源45から駆動回路61aへの給電が可能かどうかを基準に判断される。つまり、電源制御部88は、主電源45が失陥したとしても、出力電圧Vbが電圧閾値Vth以上であれば主電源45の電圧低下未発生を判断する。本実施形態において、出力電圧Vbを検出することによって、主電源45の状態変化を監視するための電源制御部88の処理は、状態検出処理の一例である。また、主電源45の状態変化に応じて、主電源45及び補助電源81に対する駆動回路61aの接続状態を切り替えるための電源制御部88の処理は、切替処理の一例である。
【0068】
より詳しくは、
図4は、出力電圧Vbが電圧閾値Vth以上の状態からの主電源45の状態変化を示す。電源制御部88は、主電源45の電圧低下未発生を判断する。接続状態は、スイッチ83,84がオンした閉状態、スイッチ85がオフした開状態であって、主電源45から駆動回路61aに対して電力が供給される接続状態である。
【0069】
図4に示すように、出力電圧Vbが電圧閾値Vth以上であることを検出する場合、電源制御部88は、主電源45の電圧低下未発生の判断を維持する。電源制御部88は、スイッチ83,84がオンした閉状態、スイッチ85がオフした開状態の接続状態を維持する。接続状態は、主電源45から駆動回路61aに対して電力が供給される操舵装置2に対する給電状態の本来の状態である正常状態である。本実施形態において、主電源45から駆動回路61aに対して電力が供給される接続状態は、第1状態の一例である。
【0070】
同図に示すように、出力電圧Vbが電圧閾値Vthを下回っていることを検出する場合、電源制御部88は、主電源45の電圧低下発生を判断する。電源制御部88は、スイッチ83,84がオフした開状態、スイッチ85がオンした閉状態の接続状態へ切り替える。接続状態は、補助電源81から駆動回路61aに対して電力が供給される操舵装置2に対する給電状態のバックアップ状態である。本実施形態において、補助電源81から駆動回路61aに対して電力が供給される接続状態は、第2状態の一例である。また、出力電圧Vbが電圧閾値Vthを下回っていることは、異常条件の成立の一例である。また、出力電圧Vbを検出することによって、主電源45の電圧低下未発生又は電圧低下発生を判断するための電源制御部88の処理は、異常条件判定処理の一例である。
【0071】
また、
図5は、出力電圧Vbが電圧閾値Vthを下回っている状態からの主電源45の状態変化を示す。電源制御部88は、主電源45の電圧低下中を判断する。接続状態は、スイッチ83,84がオフした開状態、スイッチ85がオンした閉状態であって、補助電源81から駆動回路61aに対して電力が供給される接続状態である。
【0072】
図5に示すように、出力電圧Vbが電圧閾値Vthを下回っていることを検出する場合、電源制御部88は、主電源45の電圧低下中の判断を維持する。電源制御部88は、スイッチ83,84がオフした開状態、スイッチ85がオンした閉状態の接続状態を維持する。つまり、電源制御部88は、給電状態をバックアップ状態に維持する。
【0073】
同図に示すように、出力電圧Vbが電圧閾値Vth以上であることを検出する場合、電源制御部88は、主電源45の電圧低下解消を判断する。電源制御部88は、電圧閾値Vth以上の出力電圧Vbの検出が維持された状態を合せて判断する。本実施形態において、出力電圧Vbが電圧閾値Vthを下回っている状態からの主電源45の状態変化として、出力電圧Vbが電圧閾値Vth以上であることは、異常条件の非成立である異常解消条件の成立の一例である。また、出力電圧Vbを検出することによって、主電源45の電圧低下解消を判断するための電源制御部88の処理は、異常解消条件判定処理の一例である。
【0074】
電源制御部88は、主電源45の電圧低下解消を判断し、かつ、判断時間Tstが時間閾値Tth1に達していない場合、主電源45の電圧低下からの復帰を判断しない。判断時間Tstは、電源制御部88が電圧閾値Vth以上の出力電圧Vbの検出が維持された時間である。時間閾値Tth1は、電圧閾値Vth以上の出力電圧Vbの検出が一瞬の出来事ではないとして実験的に求められる範囲の値である。電源制御部88は、スイッチ83,84がオフした開状態、スイッチ85がオンした閉状態の接続状態を維持する。つまり、主電源45の電圧低下解消を判断したとしても判断時間Tstが時間閾値Tth1に達していない間、電源制御部88は、給電状態をバックアップ状態に維持する。
【0075】
一方、電源制御部88は、主電源45の電圧低下解消を判断し、かつ、判断時間Tstが時間閾値Tth1に達した場合、主電源45の電圧低下からの復帰、すなわちバックアップ状態解除を判断する。電源制御部88は、スイッチ83,84がオンした閉状態、スイッチ85がオフした開状態の接続状態へ切り替える。つまり、主電源45の電圧低下解消を判断してからの判断時間Tstが時間閾値Tth1に達した以後、電源制御部88は、給電状態をバックアップ状態から正常状態へ復帰させる。
【0076】
本実施形態において、判断時間Tstは、主電源45の電圧低下解消を維持できる状態を示す状態パラメータの一例である。また、主電源45の電圧低下解消の判断後、判断時間Tstが時間閾値Tth1に達することは、復帰条件の一例である。また、判断時間Tstが時間閾値Tth1に達したか否かを判断することによって、電圧閾値Vth以上の出力電圧Vbの検出が維持された状態を判断するための電源制御部88の処理は、復帰条件判定処理の一例である。
【0077】
また、同図に示すように、出力電圧Vbが電圧閾値Vthを下回っている状態からの経過時間Terが制限時間Tth2に達した以後、電源制御部88は、電圧低下解消を判断するための処理を実行しない。経過時間Terは、電源制御部88が電圧閾値Vthを下回っている出力電圧Vbの検出が維持された時間である。制限時間Tth2は、補助電源81が転舵側モータ32に対して供給できる電力の妨げにならない観点で、時間閾値Tth1よりも大きい値である。電源制御部88は、スイッチ83,84がオフした開状態、スイッチ85がオンした閉状態の接続状態を維持する。つまり、主電源45の電圧低下発生からの経過時間Terが制限時間Tth2に達した以後、電源制御部88は、主電源45の電圧低下中を判断し、かつ、給電状態をバックアップ状態に維持する。
【0078】
また、電源制御部88は、主電源45の状態変化に応じて、主電源45及び補助電源81に対する駆動回路61aの接続状態を切り替える場合、その切り替え完了後の給電状態を示す給電状態信号FLGを生成する。
【0079】
より詳しくは、
図4中に示すように、電源制御部88は、主電源45の電圧低下未発生を判断する間、給電状態信号FLGnmを生成する。また、電源制御部88は、主電源45の電圧低下発生を判断する場合、スイッチ83,84,85のバックアップ状態への切り替え完了後、給電状態信号FLGbuを生成する。この場合の給電状態信号FLGbuは、スイッチ83,84,85のバックアップ状態への切り替え完了を示す切替完了情報に相当する。
【0080】
また、
図5中に示すように、電源制御部88は、主電源45の電圧低下中を判断する間、給電状態信号FLGbuを生成する。また、電源制御部88は、主電源45の電圧低下解消を判断する場合、スイッチ83,84,85の正常状態への切り替え完了後、給電状態信号FLGnmを生成する。この場合の給電状態信号FLGnmは、スイッチ83,84,85の正常状態への切り替え完了を示す切替完了情報に相当する。
【0081】
電源制御部88は、給電状態信号FLGを生成すると、当該生成した信号を信号線90に対して出力する。こうして出力された給電状態信号FLGは、信号線90を介して転舵側制御部60、すなわちメイン制御部60aに送信される。なお、電源制御部88は、主電源45の電圧低下中を判断する間、給電状態信号FLGbuを継続的に出力する。また、電源制御部88は、主電源45の電圧低下未発生を検出する間、給電状態信号FLGnmを継続的に出力する。メイン制御部60aは、給電状態信号FLGを受信することによって、主電源45及び補助電源81に対する駆動回路61aの接続状態、すなわち給電状態が正常状態であるかバックアップ状態であるかを把握する。
【0082】
<転舵側制御部のメイン制御部の機能>
図6に、転舵側制御部60がメイン制御部60aの制御回路62aを通じて実行する処理の一部を示す。
図6に示す処理は、メモリに記憶されたプログラムをCPUが実行することで実現される処理の一部を、実現される処理の種類毎に記載したものである。本実施形態において、駆動回路61a及び制御回路62a、これらを含むメイン制御部60a、すなわち転舵側制御部60は、操舵制御部の一例である。
【0083】
図6に示すように、制御回路62aには、起動信号Sigが入力される。起動信号Sigは、起動スイッチ47のオンオフ状態を示す信号である。制御回路62aは、起動信号Sigに基づき起動スイッチ47のオンオフ状態を判断する。制御回路62aは、起動スイッチ47のオフ状態を判断する場合、転舵側モータ32を動作させるための制御を無効、すなわち停止状態にする。起動スイッチ47がオフ状態の場合、転舵ユニット6の状態は、操舵ユニット4の状態を反映させることができない状態である。
【0084】
また、制御回路62aは、起動スイッチ47のオン状態を判断する場合、転舵側モータ32を動作させるための制御を有効、すなわち実行状態にする。起動スイッチ47がオン状態の場合、転舵ユニット6の状態は、操舵ユニット4の状態を反映させることができる状態である。つまり、制御回路62aは、ステアバイワイヤ式の操舵装置2について通電時の転舵側制御を実行することになる。この場合、制御回路62aは、以下に説明する処理を実行する。
【0085】
<通電時の転舵側制御>
制御回路62aには、起動信号Sigの他、車速SPD、回転角θb、転舵側実電流値Ib、操舵角θs、出力電圧Vbps、及び給電状態信号FLGが入力される。
【0086】
転舵側実電流値Ibは、駆動回路61aから得られる情報である。駆動回路61aは、図示しない電流センサを有している。電流センサは、駆動回路61aと、転舵側モータ32の各相のモータコイルとの間の接続線を流れる転舵側モータ32の各相の電流値から得られる転舵側実電流値Ibを検出する。電流センサは、転舵側モータ32に対応して設けられる駆動回路61aが含むインバータにおいて、スイッチング素子のそれぞれのソース側に接続されたシャント抵抗の電圧降下を電流として取得する。
【0087】
操舵角θsは、ローカルネットワーク70を通じて操舵側制御部50から得られる情報である。操舵側制御部50は、回転角θaを、たとえば、車両が直進しているときのステアリングホイール3の位置であるステアリング中立位置からの操舵側モータ13の回転数をカウントすることにより、360度を超える範囲を含む積算角に換算する。操舵側制御部50は、換算して得られた積算角に操舵側減速機構14の回転速度比に基づき換算係数を乗算することで、操舵角θsを演算する。
【0088】
出力電圧Vbpsは、電源制御装置80から得られる情報である。制御回路62aは、主電源45の出力電圧Vbに応じて変化する電源制御装置80の出力電圧Vbpsを監視する。制御回路62aは、電源線L11を通じて駆動回路61aに供給される電力の電圧を、電源制御装置80の出力電圧Vbpsとして検出する。出力電圧Vbpsは、電源線L11の接続点P14で検出される電圧である。
【0089】
制御回路62aは、車速SPD、回転角θb、転舵側実電流値Ib、操舵角θs、出力電圧Vbps、及び給電状態信号FLGに基づいて、駆動回路61aの駆動を制御する。
より詳しくは、制御回路62aは、ピニオン角演算部101と、ピニオン角フィードバック制御部(図中「ピニオン角F/B制御部」)102と、制限制御部103と、通電制御部104とを有している。
【0090】
ピニオン角演算部101には、回転角θbが入力される。ピニオン角演算部101は、回転角θbを、例えば、車両が直進しているときのラック軸22の位置であるラック中立位置からの転舵側モータ32の回転数をカウントすることにより、360°を超える範囲を含む積算角に換算する。ピニオン角演算部101は、換算して得られた積算角に、伝達機構33の回転速度比と、変換機構34のリードと、ラックアンドピニオン機構24の回転速度比に基づく換算係数を乗算することで、ピニオン軸21の実際の回転角であるピニオン角θpを演算する。こうして得られたピニオン角θpは、ピニオン角フィードバック制御部102に出力される。なお、ピニオン角θpは、操舵側制御部50にも出力される場合がある。
【0091】
ピニオン角フィードバック制御部102には、車速SPD、操舵角θs、及びピニオン角θpが入力される。ピニオン角フィードバック制御部102は、ピニオン角θpをピニオン目標角θp*に追従させるべくピニオン角θpのフィードバック制御を通じて転舵側モータトルク指令値Tt*を演算する。ピニオン目標角θp*は、操舵角θsに対して、操舵角θsとピニオン角θpとの比率である舵角比を考慮したピニオン角θpのスケールに変換された角度として演算される。なお、舵角比は、例えば、車速SPDが低い場合に高い場合よりも、操舵角θsの変化に対するピニオン角θpの変化を大きくするように変化する。こうして得られた転舵側モータトルク指令値Tt*は、通電制御部104に出力される。
【0092】
制限制御部103には、出力電圧Vbps及び給電状態信号FLGが入力される。制限制御部103は、出力電圧Vbps及び給電状態信号FLGに基づいて、出力制限値Ilimを演算する。出力制限値Ilimは、転舵側モータ32へ供給する電流量を制限するための値である。つまり、出力制限値Ilimは、転舵側モータ32に出力させるトルクを制限するための値である。出力制限値Ilimは、主電源45及び補助電源81に対する駆動回路61aの接続状態、すなわち電源制御装置80の給電状態に応じて変化するように演算される。こうして得られた出力制限値Ilimは、通電制御部104に出力される。
【0093】
通電制御部104には、転舵側モータトルク指令値Tt*、回転角θb、転舵側実電流値Ib、及び出力制限値Ilimが入力される。通電制御部104は、転舵側モータトルク指令値Tt*に基づき転舵側モータ32に対する電流指令値Ib*を演算する。通電制御部104は、電流指令値Ib*を出力制限値Ilimに基づいて制限するように制限処理を実行する。通電制御部104は、電流指令値Ib*と出力制限値Ilimとを比較する。通電制御部104は、電流指令値Ib*の絶対値が出力制限値Ilimを超える値である場合、電流指令値Ib*の代わりに、当該電流指令値Ib*を出力制限値Ilimに制限して得られる値を最終的な電流指令値Ib*として演算する。また、通電制御部104は、電流指令値Ib*の絶対が出力制限値Ilim以下の値である場合、転舵側モータトルク指令値Tt*に基づき演算して得られる値を最終的な電流指令値Ib*として演算する。
【0094】
また、通電制御部104は、最終的な電流指令値Ib*と、転舵側実電流値Ibを回転角θbに基づき変換して得られるdq座標上の電流値との偏差を求め、当該偏差を無くすように駆動回路61aを駆動させるための駆動信号Smを演算する。駆動信号Smは、駆動回路61aが含むインバータの各スイッチング素子のオンオフ状態を規定するゲートオンオフ信号である。こうして得られた駆動信号Smは、駆動回路61aに出力される。転舵側モータ32には、駆動回路61aから駆動信号Smに応じた駆動電力が供給される。これにより、転舵側モータ32は転舵側モータトルク指令値Tt*に応じた角度だけ回転する。
【0095】
<制限制御部の機能>
制御回路62aにおいて、制限制御部103は、出力電圧Vbpsの検出を通じて電源制御装置80の状態変化を監視する。これにより、制限制御部103は、電源制御装置80の状態変化に応じて、出力制限値Ilimを切り替える。電源制御装置80の状態変化は、出力電圧Vbpsの検出結果と給電状態信号FLGの受信状態とに基づき判断される。
【0096】
制限制御部103は、次式(C)で表されるように、出力電圧Vbpsが出力電圧V2以下の場合、給電状態が正常状態でないことを判断する。
Vbps≦V2 …(C)
制限制御部103は、出力電圧Vbpsが出力電圧V2よりも大きいことを検出する場合、給電状態がバックアップ状態でないことを判断する。
【0097】
本実施形態において、正常状態でないことが判断される給電状態は、主電源45の電圧低下中が判断されているなかで、給電状態が正常状態からバックアップ状態への切り替え途中であるバックアップ遷移中を含む。バックアップ遷移中は、補助電源81から駆動回路61aに対して電力が供給される接続状態へのスイッチ83,84,85のバックアップ状態への切り替え際中である。また、バックアップ状態でないことが判断される給電状態は、主電源45の電圧低下解消が判断されるなかで、給電状態がバックアップ状態から正常状態への切り替え途中である正常遷移中を含む。正常遷移中は、主電源45から駆動回路61aに対して電力が供給される接続状態へのスイッチ83,84,85の正常状態への切り替え際中である。
【0098】
より詳しくは、
図7は、出力電圧Vbpsが出力電圧V2よりも大きい状態からの電源制御装置80の状態変化を示す。電源制御装置80の給電状態は、正常状態である。信号線90を介して給電状態信号FLGnmが送信される。つまり、給電状態信号FLGbuは、信号線90を介して未送信であるので、制限制御部103において未受信である。制限制御部103は、最大値Imaxである出力制限値Ilimを演算する。最大値Imaxは、転舵側モータ32で出力可能なトルクの限界の値、例えば、定格電流値である。これにより、制御回路62aは、転舵側モータ32が出力可能なトルクを、制限制御部103が転舵側モータ32の定格電流値である最大値Imaxまで許容する制限無の通電時の転舵側制御を実行する。
【0099】
図7に示すように、出力電圧Vbpsが出力電圧V2よりも大きいことを検出する場合、制限制御部103は、正常状態の判断を維持する。制限制御部103は、最大値Imaxである出力制限値Ilimを維持する。これにより、制御回路62aは、制限無の通電時の転舵側制御の実行を維持する。
【0100】
同図に示すように、出力電圧Vbpsが出力電圧V2以下を検出する場合、制限制御部103は、正常状態でないことを判断する。制限制御部103は、給電状態信号FLGbuの受信状態を合せて判断する。
【0101】
制限制御部103は、正常状態でない、かつ、給電状態信号FLGbuの未受信を判断する場合、バックアップ遷移中を判断する。制限制御部103は、最小値Iminである出力制限値Ilimを演算する。最小値Iminは、補助電源81が転舵側モータ32に対して十分な電力を供給できないことを考慮して、例えば、「0(ゼロ)」値である。これにより、制御回路62aは、転舵側モータ32が出力可能なトルクを、制限制御部103が「0」である最小値Iminに制限する出力制限状態を設定するなかで通電時の転舵側制御を実行する。
【0102】
一方、制限制御部103は、正常状態でない、かつ、給電状態信号FLGbuの受信済を判断する場合、バックアップ状態を判断する。つまり、制限制御部103は、バックアップ状態への切り替え完了を判断する。制限制御部103は、バックアップ中制限値Ibuである出力制限値Ilimを演算する。バックアップ中制限値Ibuは、補助電源81が転舵側モータ32に対して供給できる電力の観点で、最小値Iminよりも大きい、かつ、最大値Imax以下の値である。これにより、制御回路62aは、転舵側モータ32が出力可能なトルクを、制限制御部103がバックアップ中制限値Ibuに制限する出力制限状態を設定するなかで通電時の転舵側制御を実行する。なお、バックアップ中制限値Ibuは、操舵装置2の状態を考慮して適切な値が演算される。操舵装置2の状態は、操舵制御装置1の内部温度、転舵側モータ32の動作状態や補助電源81の残りの電力等である。
【0103】
また、
図8は、出力電圧Vbpsが出力電圧V2以下の状態からの電源制御装置80の状態変化を示す。電源制御装置80の給電状態は、バックアップ状態である。信号線90を介して給電状態信号FLGbuが送信される。つまり、給電状態信号FLGnmは、信号線90を介して未送信であるので、制限制御部103において未受信である。制限制御部103は、バックアップ中制限値Ibuである出力制限値Ilimを演算する。これにより、制御回路62aは、出力制限状態を設定するなかで通電時の転舵側制御を実行する。
【0104】
図8に示すように、出力電圧Vbpsが出力電圧V2以下を検出する場合、制限制御部103は、バックアップ状態の判断を維持する。制限制御部103は、バックアップ中制限値Ibuである出力制限値Ilimを維持する。これにより、制御回路62aは、出力制限状態を設定するなかで通電時の転舵側制御の実行を維持する。
【0105】
同図に示すように、出力電圧Vbpsが出力電圧V2よりも大きいことを検出する場合、制限制御部103は、バックアップ状態でないことを判断する。制限制御部103は、給電状態信号FLGnmの受信状態を合せて判断する。
【0106】
制限制御部103は、バックアップ状態でないこと、かつ、給電状態信号FLGnmの未受信を判断する場合、正常遷移中を判断する。制限制御部103は、バックアップ中制限値Ibuである出力制限値Ilimを維持する。これにより、制御回路62aは、出力制限状態を設定するなかで通電時の転舵側制御を実行する。
【0107】
一方、制限制御部103は、バックアップ状態でない、かつ、給電状態信号FLGnmの受信済を判断する場合、バックアップ状態からの復帰を判断する。つまり、制限制御部103は、正常状態への切り替え完了を判断する。制限制御部103は、最大値Imaxである出力制限値Ilimを演算する。これにより、制御回路62aは、出力制限状態を解除することによって、制限無の通電時の転舵側制御を実行する。
【0108】
なお、制御回路62aは、制限制御部103の処理を通じて、出力制限状態を設定する場合、警告信号BEを出力する。制御回路62aは、CAN等の車載ネットワークを介して車両側の他の制御装置に警告信号BEを送信する。一方、制御回路62aは、制限制御部103の処理を通じて、出力制限状態を解除する場合、警告信号BEの出力を停止する。車両側の他の制御装置は、例えば、車両の走行に係る駆動系を制御する装置や車両の制動に係るブレーキ系を制御する装置等である。警告信号BEは、出力制限状態の設定中であることを示す情報である。なお、制御回路62aは、出力制限状態の設定中、警告信号BEを継続的に出力することになる。こうして送信された警告信号BEは、車両側の他の制御装置によって受信される。車両側の他の制御装置は、警告信号BEを受信すると、出力制限状態の設定中であることを報知する動作を制御する。この報知する動作は、例えば、情報を運転者の視覚に訴えて報知する表示装置、情報を運転者の聴覚に訴えて報知する警報装置、あるいは情報を運転者に対して体感的に報知する体感発生装置の動作である。
【0109】
<出力制限値について>
給電状態信号FLGbuは、バックアップ遷移中であることを制限制御部103が判断し始めるタイミングに対して、若干遅れた入力タイミングで制限制御部103に受信され始める。これと同様、給電状態信号FLGnmは、正常遷移中であることを制限制御部103が判断し始めるタイミングに対して、若干遅れた入力タイミングで制限制御部103に受信され始める。
【0110】
専用の信号線90の通信は、例えば、回線の経路又は通信周期に起因する通信時間を要する。これに関わって、給電状態信号FLGは、信号線90に送信されて制限制御部103に受信され始めるまでに、通信周期等に基づく通信時間を要する。また、電源制御部88は、電圧低下発生又はバックアップ状態解除を判断することに伴ってスイッチ83,84,85の切り替えを完了するのに、複数の演算周期を要する。これに関わって、電圧低下発生又はバックアップ状態解除が判断されてからスイッチ83,84,85の切り替え完了後の接続状態を示す給電状態信号FLGが送信され始めるまでに、複数の演算周期(例えば「数十ms程度」)に基づく処理時間を要する。なお、スイッチ83,84,85の切り替え開始は、電圧低下発生又はバックアップ状態解除を電源制御部88が判断するタイミングとほぼ一致する。電圧低下発生又はバックアップ状態解除を電源制御部88が判断するタイミングは、バックアップ遷移中であること又は正常遷移中であることを制限制御部103が判断し始めるタイミングとほぼ一致する。
【0111】
これにより、給電状態信号FLGbuの入力タイミングは、バックアップ遷移中であることを制限制御部103が判断し始めるタイミングに対して、上記「通信時間」と「処理時間」との合計時間だけ遅れる。これと同様、給電状態信号FLGbuの入力タイミングは、正常遷移中であることを制限制御部103が判断し始めるタイミングに対して、上記「処理時間」と「通信時間」との合計分の遅延時間だけ遅延する。
【0112】
図7中に示すように、制限制御部103は、出力電圧Vbpsが出力電圧V2以下を検出したとしても、直ちにはバックアップ状態であることを判断しない。その代わりに制限制御部103は、出力電圧Vbpsが出力電圧V2以下を検出した場合、一旦はバックアップ遷移中であることを判断する。このバックアップ遷移中であることを判断する時間が上記遅延時間に相当する。これにより、制限制御部103は、出力電圧Vbpsが出力電圧V2以下を検出したならば、直ちに最小値Iminである出力制限値Ilimを演算することができる。つまり、制限制御部103は、出力電圧Vbpsが出力電圧V2以下を検出したならば、バックアップ状態への切り替えが完了しない間は最大値Imax又はバックアップ中制限値Ibuである出力制限値Ilimを演算しないように構成されている。
【0113】
また、
図8中に示すように、制限制御部103は、出力電圧Vbpsが出力電圧V2よりも大きいことを検出したとしても、直ちには異常からの復帰であることを判断しない。その代わりに制限制御部103は、出力電圧Vbpsが出力電圧V2よりも大きいことを検出した場合、一旦は正常遷移中であることを判断する。この正常遷移中を判断する時間が上記遅延時間に相当する。これにより、制限制御部103は、出力電圧Vbpsが出力電圧V2よりも大きいことを検出しても、一旦はバックアップ中制限値Ibuである出力制限値Ilimを維持することができる。つまり、制限制御部103は、出力電圧Vbpsが出力電圧V2よりも大きいことを検出しても、正常状態への復帰の切り替えが完了しない間は最大値Imaxである出力制限値Ilimを演算しないように構成されている。
【0114】
なお、サブ制御部60bは、主電源45が失陥しないならば、制御回路62bと同様、制御回路62bの処理を通じて通電時の転舵側制御を実行する。サブ制御部60bは、主電源45が失陥することによって、出力電圧Vbが低下して電圧閾値Vthを下回ると、通電時の転舵側制御を停止する。これは、サブ制御部60bが補助電源81に対して接続されていないからである。
【0115】
また、操舵側制御部50は、メイン制御部60aと同様の制限制御部を含んで構成されるメイン制御部50aを有していてもよいし、当該制限制御部を含まないで構成されるメイン制御部50aを有していてもよい。メイン制御部50aは、メイン制御部60aと同様の制限制御部を含んで構成される場合、主電源45が失陥しないならば、メイン制御部60aと同様の制限制御部の処理を通じて通電時の操舵側制御を実行すればよい。また、サブ制御部50bは、メイン制御部50aと同様、主電源45が失陥しないならば、通電時の操舵側制御を実行する。サブ制御部50bは、主電源45が失陥することによって、出力電圧Vbが低下して電圧閾値Vthを下回ると、通電時の転舵側制御を停止する。これは、サブ制御部50bが補助電源81に対して接続されていないからである。
【0116】
<本実施形態の作用>
例えば、
図9(a)~(c)は、起動スイッチ47がオン状態における、出力電圧Vbの検出結果と、出力電圧Vbpsの検出結果との経時変化を示す。出力電圧Vbは、電源制御部88の検出結果である。出力電圧Vbpsは、制御回路62aの検出結果である。起動スイッチ47がオン状態の場合、主電源45が失陥していなければ、出力電圧Vbと、出力電圧Vbpsとは、出力電圧V1が検出される。
【0117】
この場合、
図9(d)に示すように、給電状態信号FLGの送信状態は、給電状態信号FLGnmを継続的に送信中である。これは、電源制御部88が主電源45の正常を判断することによって、給電状態信号FLGnmを出力するからである。これと同様の理由から、
図9(e)に示すように、給電状態信号FLGの受信状態は、給電状態信号FLGnmを継続的に受信中である。
【0118】
また、
図9(f)に示すように、出力制限値Ilimは、最大値Imaxである。これは、制限制御部103が正常状態を判断するからである。
続いて、
図9(b),(c)に示すように、出力電圧Vbと、出力電圧Vbpsとは、主電源45の失陥後さらに低下することによって、それぞれ電圧閾値Vthを下回って、例えば、「0(ゼロ)」まで低下する(図中「電圧低下発生」)。出力電圧Vbが電圧閾値Vthを下回ると、電源制御部88がスイッチ83,84,85のバックアップ状態への切り替えを開始する。
【0119】
この場合、
図9(d)に示すように、給電状態信号FLGの送信状態は、「電圧低下発生」から遅れて(図中「処理時間」)、給電状態信号FLGbuを送信し始める。これは、電源制御部88がスイッチ83,84,85のバックアップ状態への切り替え開始から切り替え完了(図中「バックアップ開始」)するのに「数十ms程度」の時間を要するからである。この理由に加えて、通信周期等に基づく遅れから、
図9(e)に示すように、給電状態信号FLGの受信状態は、「バックアップ開始」からさらに遅れて(図中「通信時間」)、給電状態信号FLGbuを受信し始める。
【0120】
また、
図9(f)に示すように、出力制限値Ilimは、「電圧低下発生」から給電状態信号FLGbuが受信され始めるまでの間、最小値Iminである(図中「出力制限状態設定」)。これは、「電圧低下発生」から給電状態信号FLGbuが受信され始めるまでの間、制限制御部103がバックアップ遷移中を判断するからである。
【0121】
同図に示すように、出力制限値Ilimは、給電状態信号FLGbuが受信され始めた後、バックアップ中制限値Ibuである。これは、給電状態信号FLGbuが受信され始めることによって、制限制御部103がバックアップ状態を判断(図中「バックアップ制限開始」)するからである。
【0122】
続いて、
図9(b),(c)に示すように、出力電圧Vbと、出力電圧Vbpsとは、主電源45が失陥から復帰することによって、それぞれ電圧閾値Vth以上に達する(図中「電圧低下解消」)。出力電圧Vbが電圧閾値Vth以上で時間閾値Tth1だけ維持されると、電源制御部88がスイッチ83,84,85の正常状態への切り替えを開始する(図中「バックアップ解除」)。
【0123】
この場合、
図9(d)に示すように、給電状態信号FLGの送信状態は、「バックアップ解除」から遅れて(図中「処理時間」)、給電状態信号FLGnmを送信し始める。これは、電源制御部88がスイッチ83,84,85の正常状態への切り替え開始(図中「バックアップ解除」)から切り替え完了するのに「数十ms程度」の時間を要するからである。この理由に加えて、通信周期等に基づく遅れから、
図9(e)に示すように、給電状態信号FLGの受信状態は、「バックアップ解除」からさらに遅れて(図中「通信時間」)、給電状態信号FLGnmを受信し始める。
【0124】
また、
図9(f)に示すように、出力制限値Ilimは、「電圧低下解消」から給電状態信号FLGnmが受信され始めるまでの間、バックアップ中制限値Ibuである。これは、「電圧低下解消」から給電状態信号FLGnmが受信され始めるまでの間、制限制御部103が正常遷移中を判断するからである。
【0125】
同図に示すように、出力制限値Ilimは、給電状態信号FLGnmが受信され始めた後、最大値Imaxである。これは、給電状態信号FLGnmが受信され始めることによって、制限制御部103が正常状態を判断(図中「出力制限状態解除」)するからである。
【0126】
本実施形態によれば、バックアップ状態において、電源制御部88は、主電源45の電圧低下解消を判断する場合、バックアップ状態から正常状態へと接続状態の切り替えを完了することによって、給電状態を本来の状態へと復帰させることができる。この場合、制御回路62aは、給電状態が本来の状態へと復帰した後に、最大値Imaxである出力制限値Ilimを演算することによって、出力制限状態を解除することになる。
【0127】
<実施形態の効果>
(1-1)出力制限状態は、主電源45の電圧低下解消が判断されたとしても給電状態の本来の状態への復帰が完了しない間は継続される。したがって、給電状態の本来の状態への復帰が完了しない間、出力制限状態が解除される状況に陥り難くすることができる。
【0128】
(1-2)電源制御部88は、主電源45の電圧低下解消を判断する状況において、電圧低下解消が一瞬の出来事ではなく、ある程度維持されることを条件として、主電源45の電圧低下からの復帰を判断することができる。これにより、主電源45が電圧低下解消したとしても一瞬の出来事であれば、主電源45の電圧低下からの復帰が判断されないようにすることができる。したがって、主電源45の電圧低下発生の判断後、主電源45の電圧低下からの復帰を判断することの精度を高めることができる。
【0129】
(1-3)電源制御部88は、出力電圧Vbと、判断時間Tstとに基づいて主電源45の電圧低下からの復帰を判断する。つまり、主電源45の電圧低下からの復帰を判断するのに必要なパラメータを簡素化することができる。これは、主電源45の電圧低下からの復帰の判断に関わる処理を容易に実現するのに効果的である。
【0130】
(1-4)電源制御部88は、主電源45の電圧低下発生の判断後、制限時間Tth2の間に限ってしか電圧低下解消を判断するための処理を実行しない。これにより、主電源45の電圧低下発生の判断後、電圧低下解消を判断するための処理に要する電力消費を抑えることができる。これは、本実施形態のように、補助電源81の容量に限りがある場合に、補助電源81の電力消費を抑えるのに効果的である。
【0131】
(1-5)制御回路62aは、電源制御部88から信号線90を通じて取得する情報に基づき給電状態を判断することができる。これにより、制御回路62aは、電源制御装置80の給電状態を考慮して動作することができる。
【0132】
(1-6)本実施形態では、バックアップ状態において、補助電源81の電源性能を超える状況に陥り難くすることができる。これにより、主電源45の電圧低下発生が判断されたとしても転舵側モータ32の動作を好適に継続することができる。これは、補助電源81の電源性能が主電源45と比べて低い場合、特に有効である。
【0133】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態に係る車両用電源システムを説明する。なお、説明の便宜上、上記第1の実施形態と同一の構成については上記第1の実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0134】
本実施形態にかかる電源制御部88は、主電源45の電圧低下発生を判断した以後、経過時間に関係なく、主電源45の電圧低下解消を判断するための処理を実行する。つまり、主電源45の電圧低下解消の判断は、主電源45の電圧低下発生が判断された以後、主電源45の電圧低下解消が判断されないなかで継続的に実行される。これにより、電源制御部88は、主電源45の電圧低下発生を判断した以後、上記第1の実施形態の経過時間Terが制限時間Tth2を超えていても、主電源45の電圧低下解消を判断することができる。
【0135】
<本実施形態の効果>
以上説明した第2の実施形態によれば、上記第1の実施形態に準じた作用が得られるとともに、上記第1の実施形態の(1-1)~(1-3),(1-5),(1-6)に準じた効果が得られる。また、第2の実施形態によれば、さらに以下に記載する効果が得られる。
【0136】
(2-1)主電源45の電圧低下解消の判断は、主電源45の電圧低下発生が判断された以後、主電源45の電圧低下解消が判断されないなかで継続的に実行されるので、主電源45の電圧低下からの復帰の機会を増加させることができる。これは、転舵側モータ32の動作をなるべく持続するのに効果的である。
【0137】
<他の実施形態>
上記各実施形態は次のように変更してもよい。また、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
【0138】
・上記各実施形態において、ダイオード86,87は、転舵側制御部60、すなわち操舵制御装置1の内部において、OR回路を構成するようにしてもよい。このようにしても主電源45と補助電源81とのうちの供給する電圧が大きい方として選択された電力が転舵側制御部60へと供給されることになる。
【0139】
・上記各実施形態において、補助電源81の電源性能は、主電源45と同程度の性能であってもよいし、主電源45と比べて高くてもよい。例えば、補助電源81の電源容量は、主電源45と同程度であってもよいし、主電源45と比べて大きく設定されていてもよい。例えば、補助電源81の出力電圧V2は、主電源45の出力電圧V1と同程度の値に設定してもよいし、主電源45の出力電圧V1よりも大きく設定してもよい。
【0140】
・上記各実施形態において、補助電源81には、電気二重層キャパシタ又は二次電池を採用してもよい。
・上記各実施形態において、電源制御装置80は、主電源45による電力の供給をバックアップすることに加えて、主電源45による電力を昇圧して供給することができてもよい。
【0141】
・上記各実施形態において、給電状態信号FLGに関する構成は削除してもよい。例えば、制限制御部103は、主電源45の電圧低下発生を判断後、スイッチ83,84,85のバックアップ状態への切り替えを電源制御部88が完了すると想定される時間経過時、バックアップ状態を判断するようにしてもよい。また、制限制御部103は、電圧閾値Vth以上の出力電圧Vbpsを検出する場合、バックアップ状態を判断するようにしてもよい。
【0142】
・上記各実施形態において、時間閾値Tth1は、操舵装置2の消費電力等のシステム状態を考慮して可変としてもよい。
・上記各実施形態において、電源制御部88は、主電源45の電圧低下解消を判断する場合、電圧閾値Vth以上の出力電圧Vbの検出が維持された状態の代わりに、発電機46の発電量等の動作状態を合せて判断することもできる。発電機46の動作状態は、車両側の他の制御装置から得ることができる。発電機46の動作状態は、主電源45の電圧低下解消を維持できる状態を示す状態パラメータである。
【0143】
・上記各実施形態において、電源制御部88は、主電源45の電圧低下解消を判断する場合、即座に主電源45の電圧低下からの復帰、すなわちバックアップ状態解除を判断してもよい。
【0144】
・上記各実施形態において、制限制御部103は、出力電圧Vbpsを検出する代わりに、出力電圧Vbを検出することによって、電源制御装置80の状態変化を監視することもできる。この場合、制限制御部103は、給電状態信号FLGの受信状態を合せて判断すればよい。
【0145】
・上記各実施形態において、各制御部50,60は、メイン制御部50a,60aのそれぞれ1系統のみの構成であってもよい。この場合、例えば、メイン制御部60aは、上記各実施形態と同様の機能を有していればよい。
【0146】
・上記各実施形態において、各制御部50,60において、サブ制御部50b,60bは、主電源45に対して電源制御装置80を介してそれぞれ接続されていてもよい。
・上記各実施形態において、制限制御部103は、出力制限値Ilimを変化させる場合、当該変化前後で出力制限値Ilimを徐変させることもできる。これは、変化前後で出力制限値Ilimが大きくなる場合にのみ採用してもよい。これにより、出力制限値Ilimの変化が車両に挙動に与える影響を抑えて、車両の乗員の快適性を確保することができる。
【0147】
・上記各実施形態において、制限制御部103は、主電源45の電圧低下発生以外の原因に応じた複数の値の候補のうちから1つを選択して出力制限値Ilimを演算してもよい。例えば、制限制御部103は、複数の値の候補のうちの最小値を選択して出力制限値Ilimを演算すればよい。
【0148】
・上記各実施形態において、電源制御装置80は、操舵ユニット用の電源制御装置と、転舵ユニット用の電源制御装置とを含んでいてもよい。例えば、操舵部ユニット用の電源制御装置は、操舵側制御部50を含む操舵ユニット4にのみ接続されていればよい。また、転舵ユニット用の電源制御装置は、転舵側制御部60を含む転舵ユニット6にのみ接続されていればよい。
【0149】
・上記各実施形態において、各制御部50,60は、操舵側モータ13を動作させる機能と転舵側モータ32を動作させる機能とを集約した機能を有する単一の制御部を構成してもよい。
【0150】
・上記各実施形態において、運転者が車両を操舵するために操作する操作部材としては、ステアリングホイール3に限らない。例えば、ジョイスティックであってもよい。
・上記各実施形態において、ステアリングホイール3に機械的に連結される操舵側モータ13としては、3相のブラシレスモータに限らない。例えば、ブラシ付きの直流モータであってもよい。
【0151】
・上記各実施形態において、転舵ユニット6は、転舵側モータ32の回転を伝達機構33を介して変換機構34に伝達したが、これに限らず、例えば、転舵側モータ32の回転を歯車機構を介して変換機構34に伝達するように構成してもよい。また、転舵側モータ32が変換機構34を直接回転させるように転舵ユニット6を構成してもよい。さらに、転舵ユニット6が第2のラックアンドピニオン機構を備える構成とし、転舵側モータ32の回転を第2のラックアンドピニオン機構にてラック軸22の往復動に変換するように転舵ユニット6を構成してもよい。
【0152】
・上記各実施形態において、転舵ユニット6としては、右側の転舵輪5と左側の転舵輪5とが連動している構成に限らない。換言すれば、右側の転舵輪5と左側の転舵輪5とを独立に制御できるものであってもよい。
【0153】
・上記各実施形態において、操舵装置2は、操舵ユニット4と転舵ユニット6との間が機械的に常時分離したリンクレスの構造としたが、これに限らず、例えば、クラッチにより操舵ユニット4と転舵ユニット6との間が機械的に分離可能な構造としてもよい。また、操舵装置2は、ステアバイワイヤ式の操舵装置に限らず、モータのトルクをステアリング軸11又はラック軸22に付与する電動パワーステアリング装置であってもよい。
【符号の説明】
【0154】
1…操舵制御装置
2…操舵装置
32…転舵側モータ(モータ)
45…主電源(第1電源)
47…起動スイッチ
60…転舵側制御部(制御部)
60a…メイン制御部(制御部)
61a…駆動回路
62a…制御回路
80…電源制御装置
81…補助電源(第2電源)
88…電源制御部
90…信号線
103…制限制御部