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  • 特開-鉄道車両用車軸軸受 図1
  • 特開-鉄道車両用車軸軸受 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006033
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】鉄道車両用車軸軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/62 20060101AFI20240110BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20240110BHJP
   F16C 33/60 20060101ALI20240110BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20240110BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20240110BHJP
   F16J 15/3256 20160101ALI20240110BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20240110BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240110BHJP
   B61F 15/26 20060101ALI20240110BHJP
   B61F 15/12 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
F16C33/62
F16C19/38
F16C33/60
F16C33/80
F16C33/78 D
F16J15/3256
F16J15/447
F16J15/3232
B61F15/26
B61F15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106570
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀井 庸児
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 美沙紀
(72)【発明者】
【氏名】張 冕
(72)【発明者】
【氏名】津組 杏佳
【テーマコード(参考)】
3J006
3J042
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE16
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE42
3J006CA01
3J042AA09
3J042AA12
3J042BA05
3J042CA10
3J042DA10
3J043AA16
3J043CA02
3J043CA05
3J043CB13
3J043CB20
3J043HA04
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB13
3J216BA01
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB04
3J216CB13
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC35
3J216CC41
3J216CC68
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA54
3J701BA70
3J701BA73
3J701EA02
3J701EA03
3J701FA31
3J701GA02
(57)【要約】
【課題】軸受内部の材料のはく離を抑制することができるとともに、高い信頼性と長寿命化を実現することができる鉄道車両用軸受を提供する。
【解決手段】複列円錐ころ軸受(鉄道車両用車軸軸受)20は、外輪21と、内輪23と、外輪21と内輪23との間に転動自在に配置される複数の円錐ころ(転動体)22と、を有し、鉄道車両の車輪が端部に取り付けられた車軸50を回転自在に支持する。外輪21は、高炭素クロム軸受鋼により構成され、内輪23は、浸炭軸受用鋼により構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に転動自在に配置される複数の転動体と、を有し、鉄道車両の車輪が端部に取り付けられた車軸を回転自在に支持する鉄道車両用車軸軸受において、
前記外輪は、高炭素クロム軸受鋼により構成され、
前記内輪は、浸炭軸受用鋼により構成されていることを特徴とする、鉄道車両用車軸軸受。
【請求項2】
前記外輪及び前記内輪における前記車軸の軸方向端部に装着された密封装置を有することを特徴とする、請求項1に記載の鉄道車両用車軸軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車軸を回転自在に支持する鉄道車両用車軸軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、鉄道車両の車軸の端部には鉄道車両用軸受ユニットが取り付けられており、車軸を回転自在に支持すると共に車両の重量を支えている。
【0003】
この種の鉄道車両用軸受ユニットは、一般的に、鉄道車両用車軸軸受の一例である複列円錐ころ軸受(以下、単に「軸受」ともいう。)を備えており、この軸受に鉄道車両の車軸が支持される。そして、この軸受は、単一の外輪と各列に個別に分割された2つの内輪とを備え、外輪と内輪の2列の軌道面間には、保持器に保持された複数の円錐ころが転動自在に配置される。この軸受の軸方向両端側には、前蓋及び後蓋(「バッキングリング」とも呼ばれる。)が内輪の軸方向端面と当接するように配置されている。
【0004】
上記のような構造を有する、例えば鉄道車両の台車で使用される軸受は、重要部品であることから、車両の定期検査時に軸受を分解して点検し、異常がない軸受は再度組立てて使用されている。しかしながら、近年の社会的な生産労働人口減少の影響から、鉄道車両の定期検査の周期を延長させる等の対応が求められる。したがって、更なる信頼性向上と長寿命化を実現した鉄道車両用軸受が要求されている。
【0005】
ここで鉄道車両用軸受は、グリース又は油により潤滑されており、これらの潤滑油の機能を保持し、比較的良好な潤滑環境を維持する方法として、適切な潤滑油を適切な密封構造と共に使用することが挙げられる。
【0006】
軸受に使用する潤滑油として、例えば特許文献1には、転動体の周囲に特定の耐水グリースを封入してなる鉄道車両用軸受が開示されている。上記特許文献1に記載の軸受によると、軸受に水が混入した場合であっても、油膜形成の阻害を起こす水分の働きを抑制することができ、転走面における金属接触が抑制されて、早期はく離を防止することができる。
【0007】
また、特許文献2には、後蓋の外周面にカバー部材を固定して設けた鉄道車両用車軸装置が提案されている。上記特許文献2に記載の車軸装置によると、転がり軸受内部への水の侵入を防止し、軸受の錆やはく離発生を防止することが可能となる。
【0008】
さらに、特許文献3には、後蓋を軸方向に並ぶ2つの分割後蓋に分割し、特定の位置に潤滑剤収容凹部を設けた鉄道車両用車軸軸受ユニットが記載されている。上記特許文献3に記載の軸受ユニットによると、軸受内輪の端面部でのフレッティング摩耗が軽減されるとともに、潤滑剤の封入量を多くすることができ、長期にわたって潤滑効果を得ることができる。
【0009】
上記特許文献1~3に記載の軸受は、潤滑剤を軸受内部に長期的に保持することにより、比較的良好な潤滑環境を維持し、軸受内部の材料のはく離発生を防止することができる。しかし、今後、軸受を長期にわたって使用するためには、材料の信頼性を向上させることも必要となる。
【0010】
鉄道車両の輪軸(車輪と軸)を支える車軸軸受は、車両の重量を支えて車輪を回転させる機能を有し、走行中の振動と共に高い荷重が与えられる。したがって、車軸軸受の損傷として最も懸念されるのは、軸受を構成する外輪、内輪及び転動体(ころ)の各部品が転がり接触する箇所でのはく離である。軸受のはく離発生には様々な要因があるが、比較的良好な潤滑環境下で使用される鉄道車両用軸受においては、内部起点型の疲労がはく離の要因として挙げられる。したがって、はく離を防止するためには、内輪、外輪及び転動体などの材料について、高い清浄度を有することが重要となる。
【0011】
従来の鉄道車両用車軸軸受においては、JIS G 4052で規定されるSNCM420などの浸炭軸受用鋼(肌焼鋼)が多く使用されてきた。また、近年では製鋼方法の進化により、JIS G 4805で規定されるSUJ2などの高炭素クロム軸受鋼の材料清浄度について、品質向上が認められている。
【0012】
また、軸受内部の材料についての従来技術として、例えば、特許文献4には、内輪が高炭素クロム軸受鋼で構成され、特定の浸炭層又は浸炭窒化層が軌道面に形成されているとともに、芯部の硬さや平均残留オーステナイト量が規定された転がり軸受が提案されている。上記特許文献4に記載の転がり軸受によると、優れた寸法安定性を得ることができ、高い嵌め合い応力が付加されても損傷が生じにくく、長寿命とすることができる。
【0013】
なお、上記特許文献3にも材料についての記載があり、軸受ユニットにおける軸受の内外輪は、軸受鋼または浸炭鋼製としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第4751808号公報
【特許文献2】特開2016-8700号公報
【特許文献3】特開2001-301617号公報
【特許文献4】特開2006-71022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述のとおり、鉄道車両用軸受については、より一層信頼性の向上及び長寿命化が求められており、軸受の材料についての更なる検討が望まれている。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、軸受内部の材料のはく離を抑制することができるとともに、高い信頼性と長寿命化を実現することができる鉄道車両用軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の上記目的は、鉄道車両用車軸軸受に係る下記(1)の構成により達成される。
(1) 外輪と、内輪と、上記外輪と上記内輪との間に転動自在に配置される複数の転動体と、を有し、鉄道車両の車輪が端部に取り付けられた車軸を回転自在に支持する鉄道車両用車軸軸受において、
上記外輪は、高炭素クロム軸受鋼により構成され、
上記内輪は、浸炭軸受用鋼により構成されていることを特徴とする、鉄道車両用車軸軸受。
【0018】
また、鉄道車両用車軸軸受に係る本発明の好ましい実施形態は、以下の(2)に関する。
(2) 上記外輪及び上記内輪における上記車軸の軸方向端部に装着された密封装置を有することを特徴とする、(1)に記載の鉄道車両用車軸軸受。
【発明の効果】
【0019】
本発明の鉄道車両用車軸軸受によれば、はく離が発生しやすい外輪には、高炭素クロム軸受鋼を使用し、クリープが発生しやすい内輪には、浸炭軸受用鋼を使用しているため、軸受内部におけるはく離を抑制でき、長期間にわたって高い信頼性を維持ことができる鉄道車両用車軸軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施形態に係る鉄道車両用軸受を含む軸受ユニットを示す模式的断面図である。
図2図2は、図1のBの部分を拡大して示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る鉄道車両用車軸軸受について、図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る鉄道車両用軸受を含む軸受ユニットを示す模式的断面図である。また図2は、図1のBの部分を拡大して示す模式的断面図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の鉄道車両用軸受ユニット10は、鉄道車両用車軸軸受として複列円錐ころ軸受20を備え、この軸受20により鉄道車両の車軸50が回転自在に支持されている。また、車軸50の外端部(すなわち、図1において軸径が大きくなっている部分)には、鉄道車両における不図示の車輪が取り付けられている。そして、複列円錐ころ軸受20は、単一の外輪21と、各列に個別に分割された2つの内輪23,23と、外輪21と内輪23,23との2列の軌道面間に転動自在に配置される複数の円錐ころ(転動体)22と、複数の円錐ころ22を保持する保持器24と、を備える。なお、外輪21の軸方向中央部の適所には、軸受空間内にグリースを封入するための不図示のグリース供給口が形成されている。
【0023】
内輪23,23の軸方向両端側には、前蓋30及び後蓋27が、内輪23の軸方向端面とそれぞれ当接するようにして、車軸50の回りに配置されている。そして、内輪23,23、前蓋30及び後蓋27は、車軸50の外周面段差部51とナット11との間で挟みつけられ、車軸50の軸端52側からボルト13で固定されている。また、外輪21は、不図示のハウジングに固定されることにより、軸方向に位置決めされている。
【0024】
本実施形態においては、外輪21の材料として、高炭素クロム軸受鋼を使用しており、内輪23,23の材料として、浸炭軸受用鋼を使用している。高炭素クロム軸受鋼としては、JIS G 4805に記載の記号SUJ2、SUJ3、SUJ5や、SAE J 404に記載の記号52100等が挙げられる。また、浸炭軸受用鋼としては、JIS G 4053に記載の記号SCr415、SCr420、SCM420、SNCM220、SNCM815や、SAE J 404に記載の記号5120、8620、4320等が挙げられる。
【0025】
さらに、複列円錐ころ軸受20の両側、すなわち車軸50の軸方向端部には、接触型の密封装置29,29が装着されており、この密封装置29,29によって、複列円錐ころ軸受20内への異物の侵入や、軸受内部からの潤滑剤(グリース)の漏出が防止されている。
【0026】
続いて図2に示すように、密封装置29は、外輪21の内径部に取付けられて外輪21から軸方向に延出したシール外環31と、このシール外環31の内径面に取付けられたシール内環32と、このシール内環32の内径面に取付けられた弾性シール材33とを有し、弾性シール材33が後蓋の外径面に設けられたスリーブ37に摺接する。ここで、スリーブ37は、軸受端部側に、軸受中央側へ向けて断面コ字状に折り返された折り返しリング部37aを有しており、後蓋27の外周面に圧入によって取り付けられている。さらに、シール外環31は、3段の段付き円筒状に屈曲した断面形状を有しており、先端部分31aは、後蓋27の幅面に形成された環状溝27aに遊嵌してラビリンスシール35を構成している。
【0027】
また、ラビリンスシール35は、車軸50の半径方向へ向かって開口しているが、この開口を覆うように樹脂製のカバー36が配置されている。カバー36には係合爪36aが設けられており、係合爪36aを後蓋の外周面に設けられた凹溝27bに係合させるなどの方法により、カバー36は後蓋27に固定されている。
【0028】
このように構成された本実施形態に係る鉄道車両用車軸軸受においては、外輪21及び内輪23,23を互いに異なる材料で形成している。このような構成による効果について、以下に詳細に説明する。
【0029】
一般的に、車軸軸受においては、軸受内部が与圧の状態ではなく、隙間を有する状態で使用される。したがって、外輪軌道面においてはく離が発生する可能性が最も高い。本実施形態においては、外輪21が、高清浄度材料である高炭素クロム軸受鋼により構成されているため、内部起点型はく離の発生を抑制する高い効果を得ることができる。
【0030】
また、一般的に、内輪23,23の内径面と車軸50の外径面とは、十分な締め代を持って接触している。大きな車両重量を支える上で、この締め代が十分でない場合には内輪23,23においてクリープが発生するため、このクリープの発生を防止するために、締め代を大きく設定することが重要となる。本実施形態においては、内輪23,23が、浸炭軸受用鋼により構成されており、この浸炭軸受用鋼は、浸炭熱処理によって表層部に圧縮応力が発生している。したがって、内輪23,23の材料として、車軸50の径方向に圧縮応力を有する浸炭軸受用鋼を使用することにより、締め代の許容値を高く設定することが可能となる。
【0031】
このように、本実施形態に係る鉄道車両用車軸軸受によると、軸受内部におけるはく離を抑制でき、長期間にわたって高い信頼性を得ることができる。
【0032】
なお、上述のとおり、比較的良好な潤滑環境を維持した状態で、軸受内部の材料を適切に選択すると、軸受を長期にわたって高い信頼性で使用することができる。本実施形態において、軸受20は、その軸方向の両端部に装着された密封装置29,29を有しているため、軸受20の内部への異物の侵入や、軸受20の内部からの潤滑剤の漏出を防止することができ、良好な潤滑環境を維持することができる。その結果、軸受の動作の信頼性をより一層向上させることができるとともに、長寿命化することができる。
【0033】
なお、本発明は上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。特に、密封装置の構造について、異物の侵入や潤滑剤の漏出を防止する効果を有する構造であれば特に限定されず、種々の構造の密封装置を使用することができる。
【0034】
また、本実施形態では、鉄道車両用車軸軸受として、複列円錐ころ軸受20が適用されているが、これに限定されず、他の形式の転がり軸受が適用されてもよい。
【0035】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0036】
[1] 外輪と、内輪と、上記外輪と上記内輪との間に転動自在に配置される複数の転動体と、を有し、鉄道車両の車輪が端部に取り付けられた車軸を回転自在に支持する鉄道車両用車軸軸受において、
上記外輪は、高炭素クロム軸受鋼により構成され、
上記内輪は、浸炭軸受用鋼により構成されていることを特徴とする、鉄道車両用車軸軸受。
この構成によれば、軸受内部の材料のはく離を抑制することができるとともに、高い信頼性と長寿命化を実現することができる。
【0037】
[2] 上記外輪及び上記内輪における上記車軸の軸方向端部に装着された密封装置を有することを特徴とする、上記[1]に記載の鉄道車両用車軸軸受。
この構成によれば、より一層高い信頼性と長寿命化を実現することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 鉄道車両用軸受ユニット
20 複列円錐ころ軸受(鉄道車両用車軸軸受)
21 外輪
22 円錐ころ(転動体)
23 内輪
24 保持器
29 密封装置
50 車軸
図1
図2