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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060332
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】成膜装置及びそのクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20240424BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240424BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240424BHJP
   C23C 16/44 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/31 B
H01L21/302 101H
C23C16/44 J
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167641
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】300075751
【氏名又は名称】株式会社オプトラン
(74)【代理人】
【識別番号】100133411
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 龍郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067677
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 彰司
(72)【発明者】
【氏名】内田 利英
【テーマコード(参考)】
4K030
5F004
5F045
【Fターム(参考)】
4K030DA06
4K030EA04
4K030FA01
4K030JA06
4K030JA12
4K030KA45
5F004AA15
5F004BA03
5F004DA18
5F004DA26
5F004DB01
5F004DB03
5F004DB07
5F045AA08
5F045AB02
5F045AB32
5F045AB33
5F045AC01
5F045AC16
5F045BB14
5F045DP03
5F045EB06
5F045EF03
5F045EH18
(57)【要約】
【課題】真空チャンバ内を万遍なくクリーニングすることにより、基板の品質を確保することが可能な成膜装置及びその製造方法の提供。
【解決手段】本発明に係る成膜装置1は、真空チャンバ10と、プラズマを発生させるアプリケータ部20と、真空排気ポンプ50とを備えている。アプリケータ部20は、真空チャンバ10内にクリーニングガスを導入するガス導入口20Aと、プラズマ化されたクリーニングガスを吐出するガス吐出口20Dとを有し、真空チャンバ10の連通口10Aとガス吐出口20Dとを連結することより、真空チャンバ10と隣り合うように配置されている。連通口10Aにおける真空チャンバ10の内面側には、収容空間Sに延在するチューブ部材11が接続されている。クリーニングガスは、フッ素系ガスからなっている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に薄膜を形成する成膜装置であって、
前記基板を収容する収容空間と、該収容空間に連通する連通口とを有する真空チャンバと、
プラズマを発生させるプラズマ発生手段と、
前記収容空間を排気する排気手段と、
を備え、
前記プラズマ発生手段は、
前記真空チャンバ内に付着する付着物を除去するためのクリーニングガスを導入するガス導入口と、
プラズマ化された前記クリーニングガスを吐出するガス吐出口と、
を有し、
前記連通口における前記真空チャンバの外面側と前記ガス吐出口とを連結することより、前記真空チャンバと隣り合うように配され、
前記連通口における前記真空チャンバの内面側には、前記収容空間に延在する管状部材が接続され、
前記クリーニングガスは、フッ素系ガスからなる、成膜装置。
【請求項2】
前記クリーニングガスは、六フッ化硫黄(SF)を少なくとも含む、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記クリーニングガスは、前記六フッ化硫黄の含有率が80%以上である、請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
前記クリーニングガスは、前記六フッ化硫黄の含有率が100%である、請求項3に記載の成膜装置。
【請求項5】
前記クリーニングガスは、前記ガス吐出口から600mm離れた位置における洗浄速度が20μm/min以上となるような成分構成からなる、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項6】
前記管状部材は、該管状部材の周壁を径方向に貫通する貫通孔を有する、請求項1に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記管状部材は、前記連通口から延びる延在方向を回転中心として回動自在に構成され、
前記管状部材を回動可能な駆動手段を更に備える、請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記管状部材は、フッ素樹脂からなる、請求項1~7の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記薄膜は、ケイ素(Si)、窒化ケイ素(SiN)、ガラス、有機材料、及び酸化物材料のうちの何れか1つからなる、請求項1~7の何れか1項に記載の成膜装置。
【請求項10】
請求項1~7の何れか1項に記載の成膜装置のクリーニング方法であって、
前記プラズマ発生手段によって前記プラズマ化された前記クリーニングガスを前記真空チャンバ内に供給するクリーニングガス供給工程と、
前記排気手段によって前記真空チャンバ内に吐出された前記クリーニングガスを排気するクリーニングガス排気工程と、
を含む、成膜装置のクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置及びそのクリーニング方法に関し、特に、基板に薄膜を形成する成膜装置及びそのクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、真空チャンバ内にマイクロ波プラズマを導入して、基板(例えば、ガラス基板)に薄膜(例えば、ケイ素(Si))を形成する技術が知られている。
このような真空チャンバでは、基板に薄膜を形成する処理(以下「成膜処理」という)を行った際に、内壁面等に成膜成分(以下「付着物」という)が付着し易く、これが原因で内部にパーティクルが発生しがちである。斯かる場合、良好な薄膜の形成を妨げる一因になるため、真空チャンバ内に存在する付着物を速やかに除去することが必要となる。
【0003】
そこで、真空チャンバ内をクリーニングするための技術が各種提案されている。このようなクリーニング技術として、例えば、特許文献1に記載のクリーニング方法がある。
【0004】
特許文献1に記載のクリーニング方法(Applied Materials(AMAT)社)は、(1)基板保持具上に配置されたガス供給部を介して、真空チャンバ内に、六フッ化エタン(C26)と酸素の混合ガスからなる、クリーニングガスを導入する、(2)プラズマ化されたクリーニングガスによって、基板保持具に付着した薄膜を除去する、といった手順でクリーニングを行うように構成されたものである。
このようなクリーニング方法によれば、基板保持具等に付着した付着物を有効に除去することができるため、パーティクルの発生を抑えつつ、成膜処理を連続的に行うことが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-131752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のクリーニング方法では、プラズマ化されたクリーニングガスを、主として、基板保持具に向けて吹き付けるように構成されているため、真空チャンバ内に万遍なく分布させることが困難である。
【0007】
すなわち、特許文献1に記載のクリーニング技術では、真空チャンバ内を万遍なくクリーニングし難い構成となっているため、成膜処理時に、上部内壁面等に付着した付着物が剥がれて成膜中の基板に落下(薄膜に混入)する虞が多分にあり、斯かる場合、基板の品質が低下するといった問題が生じる。
【0008】
この点、特許文献1に記載のクリーニング技術は、基板の品質を確保する面において、十分とはいい難く、未だ改善の余地があるものといえる。なお、このような問題は、近年の真空チャンバの大型化に伴って、顕著になっていくことが想定される。
【0009】
本発明は、このような課題を解消するためになされたものであり、真空チャンバ内を万遍なくクリーニングすることにより、基板の品質を確保することが可能な成膜装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、本発明に係る成膜装置によれば、基板に薄膜を形成する成膜装置であって、前記基板を収容する収容空間と、該収容空間に連通する連通口とを有する真空チャンバと、プラズマを発生させるプラズマ発生手段と、前記収容空間を排気する排気手段と、を備え、前記プラズマ発生手段は、前記真空チャンバ内に付着する付着物を除去するためのクリーニングガスを導入するガス導入口と、プラズマ化された前記クリーニングガスを吐出するガス吐出口と、を有し、前記連通口における前記真空チャンバの外面側と前記ガス吐出口とを連結することより、前記真空チャンバと隣り合うように配され、前記連通口における前記真空チャンバの内面側には、前記収容空間に延在する管状部材が接続され、前記クリーニングガスは、フッ素系ガスからなる、ことにより解決される。
【0011】
なお、前記成膜装置に係る発明においては、前記クリーニングガスは、六フッ化硫黄(SF6)を少なくとも含む、と好適である。
この場合、前記クリーニングガスは、前記六フッ化硫黄の含有率が80%以上である、ことが好適であり、100%である、ことがより好適である。
【0012】
また、前記成膜装置に係る発明においては、前記クリーニングガスは、前記ガス吐出口から600mm離れた位置における洗浄速度が20μm/min以上となるような成分構成からなる、と好適である。
【0013】
さらに、前記成膜装置に係る発明においては、前記管状部材は、該管状部材の周壁を径方向に貫通する貫通孔を有する、と好適である。
この場合、前記管状部材は、前記連通口から延びる延在方向を回転中心として回動自在に構成され、前記管状部材を回動可能な駆動手段を更に備える、とより好適である。
【0014】
また、前記成膜装置に係る発明においては、前記管状部材は、フッ素樹脂からなる、と好適である。
【0015】
さらに、前記成膜装置に係る発明においては、前記薄膜は、ケイ素(Si)、窒化ケイ素(SiN)、ガラス、有機材料、及び酸化物材料のうちの何れか1つからなる、と好適である。
【0016】
上記課題は、本発明に係る成膜装置のクリーニング方法によれば、前記プラズマ発生手段によって前記プラズマ化された前記クリーニングガスを前記真空チャンバ内に供給するクリーニングガス供給工程と、前記排気手段によって前記真空チャンバ内に吐出された前記クリーニングガスを排気するクリーニングガス排気工程と、を含む、ことにより解決される。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明に係る成膜装置及びその製造方法によれば、比較的簡易な構成でありながらも、真空チャンバ内を万遍なくクリーニングすることができ、ひいては、基板の品質を確実に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明に係る成膜装置の一実施形態を示す概要図である。
図2図2は、図1の成膜装置の作業プロセスを説明するためのフローチャートである。
図3図3は、真空チャンバの内部構造を説明するための斜視模式図である。
図4図4は、クリーニングガスのガス濃度とクリーニング速度との関係を示すグラフであり、クリーニングガスとして六フッ化硫黄を用いた場合と六フッ化エタンを用いた場合との比較を示す。
図5図5は、六フッ化硫黄の含有率とクリーニング速度との関係を示すグラフであり、ガス吐出口から150mm離れた位置で測定した場合と600mm離れた位置で測定した場合との比較を示す。
図6図6は、管状部材を介して六フッ化硫黄を吐出させた際のクリーニング速度を示す表であり、ガス吐出口から貫通孔までの距離が100mmである場合と300mmである場合との比較を示す。
図7図7は、成膜装置の変形例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の成膜装置及びそのクリーニング方法を、その好ましい一実施形態に基づき図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る成膜装置1の概要を示す概要図、図2は成膜装置1の作業プロセスを説明するためのフローチャートである。
【0020】
<成膜装置1の全体構成>
図1に示すように、本実施形態に係る成膜装置1は、基板(例えば、ガラス基板、図示省略)に薄膜を形成する装置であり、真空チャンバ10と、アプリケータ部20と、マイクロ波生成部30と、クリーニングガス供給部40と、真空排気ポンプ50と、制御装置60とを含んで構成されている。なお、上記成膜装置1と、真空チャンバ10と、アプリケータ部20と、真空排気ポンプ50とが、それぞれ、特許請求の範囲に記載の「成膜装置」と、「真空チャンバ」と、「プラズマ発生手段」と、「排気手段」とに該当する。
【0021】
(真空チャンバ10)
本実施形態に係る真空チャンバ10は、ステンレス等の金属製部材からなり、基板を収容する収容空間Sが形成されたCVD(Chemical Vapor Deposition)容器である。収容空間Sには、基板を保持する基板保持具(図示省略、以下「付属部材」という)等が配置されている。なお、上記収容空間Sが特許請求の範囲に記載の「収容空間」に該当する。
本実施形態における基板への薄膜の形成は、公知のCVD法(化学気相成長法)を用いることにより行われる。詳しくは後述するが、このような薄膜は、収容空間Sにプラズマ化された成膜ガスを導入する処理(成膜処理)を行うことにより形成される。
【0022】
本実施形態において、薄膜は、ケイ素(Si)、窒化ケイ素(SiN)、ガラス、有機材料及び酸化物材料のうちの何れか1つからなり、成膜ガスは、このような薄膜を形成することが可能なガス、例えば、シラン(SiH4)、一酸化二窒素(N2O)及びアルゴン(Ar)からなる混合ガス等が用いられる。
【0023】
真空チャンバ10の上部側と下部側とには、それぞれ、収容空間Sに連通する連通口10Aと排気口10Bとが形成されている。なお、上記連通口10Aと、クリーニングガスとが、それぞれ、特許請求の範囲に記載の「連通口」と、「クリーニングガス」とに該当する。
【0024】
連通口10Aには、真空チャンバ10の外面側に、プラズマ化されたクリーニングガスを収容空間Sに導入するアプリケータ部20が直結される一方、その内面側に、チューブ部材11が連結されるようになっている。なお、上記チューブ部材11が特許請求の範囲に記載の「管状部材」に該当する。
クリーニングガスは、成膜処理を行った際に、収容空間Sを画成する真空チャンバ10の内面や、収容空間Sに収容される付属部材に付着する付着物、すなわち、薄膜を構成する成膜成分(ケイ素、窒化ケイ素、ガラス、有機材料及び酸化物材料)を除去するためのガスである。
本実施形態に係るクリーニングガスは、六フッ化硫黄(SF)を含有するフッ素系ガスが用いられる。
【0025】
チューブ部材11には、延在方向に沿って所定の間隔を空けて、複数(本実施形態では「4箇所」)の貫通孔11a~11dが形成されている(図1及び図3参照)。なお、上記貫通孔11a~11dが特許請求の範囲に記載の「貫通孔」に該当する。
本実施形態では、貫通孔11a~11dを介して、クリーニングガスが噴射されるように構成される。この点、貫通孔11a~11dは、クリーニングガスを噴射する噴射口として機能するものといえる。なお、図1及び図3に示す例では、チューブ部材11の延在端部が、閉塞されているものを示しているが、開放されていても構わない。
【0026】
チューブ部材11は、(1)クリーニングガス、プラズマ、高温環境等による変形等を抑制しつつ、(2)プラズマの失活を抑制したり、加工容易性を担保等する観点から、フッ素樹脂により形成されていることが好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTTE:polytetrafluoroethylene)により形成することがより好ましい。これにより、真空チャンバ10及び付属部材の形状、当該付属部材の配置位置等に応じて、クリーニングガスを噴射する貫通孔11aの数を増やしたり、チューブ部材11の長さを短くしたりする加工等を容易に行うことが可能になる。なお、チューブ部材11は、上記したフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン含む)に限られず、例えば、石英、セラミックスを用いて形成することも可能である。
【0027】
真空チャンバ10には、アプリケータ部20、マイクロ波生成部30及びクリーニングガス供給部40から構成される設備(以下「クリーニングガス供給設備」という)の他、成膜ガスを収容空間Sに供給するための設備(以下「成膜ガス供給設備」という)が接続されている。クリーニングガス供給設備(アプリケータ部20、マイクロ波生成部30、クリーニングガス供給部40)についての詳細な説明は後述する
このような成膜ガス供給設備は、収容空間Sに成膜ガスを供給することで基板に薄膜を形成することができれば、各種方式による設備を採用することができる。成膜ガス供給設備としては、例えば、(1)成膜ガスを収容空間Sに導入する前にプラズマ化する方式(例えば、本実施形態に係るクリーニングガス供給設備のような方式)のものや、(2)成膜ガスを収容空間Sに導入した後にプラズマ化する方式(例えば、上記先行技術文献(特開2001-131752号公報)のような方式)のものが挙げられる。
以下においては、説明の便宜上、成膜装置1に、前者の成膜ガス供給設備(図1の「成膜ガス供給部45」参照)が接続されていることを前提として説明する。成膜ガス供給設備(アプリケータ部20、マイクロ波生成部30、成膜ガス供給設備45)についての詳細な説明は後述する。
【0028】
排気口10Bには、排気路51を介して真空排気ポンプ50が接続されている。これにより、本実施形態では、収容空間S内の成膜ガスやクリーニングガス等を外部に排気することができると共に、収容空間Sを真空状態にすることが可能になっている。
【0029】
(アプリケータ部20)
アプリケータ部20は、クリーニングガス供給部40から供給されるクリーニングガスや成膜ガス供給部45から供給される成膜ガスをプラズマ化するための装置である。以下においては、成膜ガス及びクリーニングガスを区別する必要がない場合を除き、これらを総称して「ガス」ということとする。
アプリケータ部20は、ガス導入口20Aと、マイクロ波導入口20Bと、空間部20Cと、ガス吐出口20Dとを含んで構成されている。なお、上記ガス導入口20Aと、ガス吐出口20Dとが、それぞれ、特許請求の範囲に記載の「ガス導入口」と、「ガス吐出口」とに該当する。
【0030】
ガス導入口20Aは、後述するガス供給路43に接続され、当該ガス供給路43を介して供給されるガスを空間部20Cに導入するための開口である。
マイクロ波導入口20Bは、後述する導波路34に接続され、当該導波路34を介して供給されるマイクロ波を空間部20Cに導波するための開口である。
空間部20Cは、ガス導入口20Aを介して導入されたガスに対して、マイクロ波導入口20Bを介して供給されたマイクロ波を照射する領域である。これにより、プラズマ化されたガス(以下「マイクロ波プラズマガス」ともいう)が生成(ガスのプラズマが励起)されることになる。
ガス吐出口20Dは、真空チャンバ10の連通口10Aに直結され、空間部20Cで生成されたマイクロ波プラズマガスを吐出する開口である。
【0031】
真空チャンバ10は、連通口10Aとガス吐出口20Dとを接続した状態で、真空チャンバ10の上部に隣り合うように配置される。この点、本実施形態に係る真空チャンバ10は、空間部20Cで生成されたプラズマ化されたガスを、チューブ部材11の貫通孔11a~11dを介して、すぐさま、収容空間Sに噴射できるように構成されたものといえる。
【0032】
なお、図1に示す例では、真空チャンバ10の連通口10Aに、アプリケータ部20のガス吐出口20Dを篏入させることでこれらを連結するように構成したが、これらを連結する連結態様はこれに限られるものではない。例えば、ガス吐出口20Dに連通口10Aを篏入させることでこれらを連結してもよく、別体の管状部材を介してこれらを連結しても構わない。
【0033】
(マイクロ波生成部30)
マイクロ波生成部30は、高電圧電源33(例えば、3~8kV)に接続されたマグネトロン(Magnetron)31と、高周波整合器32とを含んで構成されている。
マグネトロン31それ自体は、今や公知であるため、その構成や動作等についての詳しい説明を省略するが、本実施形態においても、所定周波数(例えば、2.45GHz)のマイクロ波を発生させ、これを出力するように構成されている。
本実施形態に係るマグネトロン31は、高周波整合器32を有する導波路34を介して、アプリケータ部20のマイクロ波導入口20Bに接続され、制御装置60から出力される電圧調整信号等に基づいて、マイクロ波出力を安定させるための電圧出力の調整等を行う。これにより、ガスが流通するアプリケータ部20の空間部20Cに、マイクロ波を照射することが可能になっている。
高周波整合器32は、アプリケータ部20から反射される反射マイクロ波を低減して、当該反射マイクロ波の電力を調整(インピーダンス整合)するように機能するものである。なお、このような高周波整合器32としては、例えば、公知のマッチャー(Matcher)を用いることが可能である。
【0034】
(クリーニングガス供給部40)
クリーニングガス供給部40は、アプリケータ部20にクリーニングガスを供給するための設備であり、クリーニングガス供給源41と、流量調整装置42とを含んで構成されている。
クリーニングガス供給源41は、ガス供給路43を介して、アプリケータ部20のガス導入口20Aに接続され、流量調整装置42は、ガス供給路43中の所定位置に取り付けられる。
流量調整装置42は、制御装置60から出力される流量調整信号等に基づいて、弁体の開閉やクリーニングガスの流量調整を行う。すなわち、本実施形態では、真空チャンバ10の収容空間Sをクリーニングするときに限って、クリーニングガスを、アプリケータ部20を介して収容空間Sに供給することが可能になっている。なお、流量調整装置42としては、例えば、マスフローコントローラー(MFC:Mass Flow Controller)を用いることが可能である。
【0035】
(成膜ガス供給部45)
成膜ガス供給部45は、アプリケータ部20に成膜ガスを供給するための設備である。
成膜ガス供給部45は、クリーニングガス供給部40と同様に、成膜ガス供給源46と、流量調整装置42´とを含んで構成されている。なお、図1に示す成膜ガス供給部45は、成膜ガス供給設備の一例にすぎないものであり、上記した他の方式の設備を採用することが可能である。
【0036】
図1に示す例では、アプリケータ部20と流量調整装置42とを接続する側のガス供給路43に分岐部44が設けられ、成膜ガス供給源46が分岐路47を介して分岐部44に接続されている。
流量調整装置42´は、分岐路47の途中位置に設けられ、流量調整装置42と同様に、制御装置60から出力される流量調整信号等に基づいて、弁体の開閉や成膜ガスの流量調整等を行う。なお、流量調整装置42´としては、流量調整装置42と同様に、マスフローコントローラーを用いることが可能である。
【0037】
図1に示す例では、このように構成されているため、流量調整装置42,42´をそれぞれ制御することによって、クリーニングガス及び成膜ガスの何れか一方を収容空間Sに供給することが可能になっている。
【0038】
なお、図1に示す例では、ガス供給路43に分岐路47を設け、クリーニングガス及び成膜ガスを(共通の)アプリケータ部20を介して収容空間Sに供給するように構成したが、これらガスを互いに異なるアプリケータを介して収容空間Sに供給することも可能である。このような構成は、例えば、(1)真空チャンバ10に連通口10Aとは異なる連通口を設け、(2)当該異なる連通口と成膜ガス用のアプリケータ部とを接続すると共に、(3)成膜ガス用のアプリケータ部と成膜ガス供給路とを接続する、ことにより実現することが可能である。このとき、成膜ガス用のアプリケータ部には、アプリケータ部20と同一のマイクロ波生成部30を接続してもよく、これとは別のマイクロ波生成部を接続しても構わない。
【0039】
(真空排気ポンプ50)
真空排気ポンプ50は、制御装置60から出力される排気量調整信号等に基づいて、収容空間Sを所望の真空度に減圧することが可能な装置であり、真空チャンバ10の排気口10Bに排気路51を介して接続されている。真空排気ポンプ50としては、例えば、ドライポンプ(Dry Pump)やターボ分子ポンプ(Turbo Molecular Pump)を用いることができる。
【0040】
(制御装置60)
制御装置60は、例えば、公知のパーソナルコンピュータシステム(Personal Computer System)からなり、中央処理部(CPU:Central Processing Unit)や記憶部等を有している。本実施形態に係る制御装置60は、マグネトロン31、流量調整装置42,42´及び真空排気ポンプ50等と電気的に接続されている。
中央処理部は、記憶部に記憶された各種プログラムを読み込み、所定の演算処理を実行して、表示部(図示省略)に所定の画像を表示等させる制御を行う。これに加え、中央処理部は、例えば、(1)マグネトロン31に電圧調整信号等を出力して、マイクロ波出力を安定させるための電圧出力の調整をすると共に、(2)流量調整装置42(流量調整装置42´)に流量調整信号等を出力して、クリーニングガス(成膜ガス)の流量の調整をする他、(3)真空排気ポンプ50に排気量調整信号等を出力して、収容空間Sを真空状態にするためのモータの発停や回転数の調整等をする制御などを行う。
【0041】
<成膜装置1の作業プロセス>
次に、成膜装置1による作業プロセスについて図1及び図2を参照しつつ説明する。
なお、以下においては、説明の便宜上、(1)成膜処理を行う際に、基板が基板保持具に自動的に保持されること、(2)成膜処理を行った後、基板が収容空間Sから自動的に搬出されること、を前提として説明する。
【0042】
図2に示すように、本実施形態に係る成膜装置1の作業プロセスは、成膜工程S100と、クリーニング工程S200とを含んで構成されている。なお、成膜装置1により行われる上記クリーニング工程S200が特許請求の範囲に記載の「成膜装置のクリーニング方法」に該当する。
【0043】
(成膜工程S100)
図1及び図2に示すように、成膜工程S100では、基板保持具(図示省略)に保持された基板に薄膜を形成する処理を行う。
具体的に、成膜工程S100では、収容空間Sを真空状態にする処理(以下「減圧処理」という)を行った後、成膜処理を行うように構成される。
【0044】
減圧処理は、真空チャンバ10を封止した状態、例えば、流量調整装置42,42´のそれぞれを閉塞した状態で、真空排気ポンプ50を駆動することにより行われる。
真空排気ポンプ50は、制御装置60から出力される制御信号(例えば、排気量調整信号)に基づいて、モータの発停や回転数の調整等の制御を行う。
【0045】
成膜工程S100は、収容空間Sが所定の真空度になった後、その状態が安定したことを条件に開始される。なお、本実施形態では、成膜処理が完了するまで、真空排気ポンプ50を駆動することによって、収容空間Sの真空度が維持されるように構成となっている。
具体的に、成膜工程S100では、アプリケータ部20へのクリーニングガスの流出を停止させた状態(流量調整装置42を閉止した状態)で、(1)マグネトロン31を駆動して、アプリケータ部20に所定周波数(例えば、2.45GHz)のマイクロ波を供給すると共に、(2)流量調整装置42´を制御して、アプリケータ部20に成膜ガスを供給する処理を行う。このようなマグネトロン31の駆動や流量調整装置42´の制御は、上記したように、制御装置60から出力される制御信号に基づいて行われる。これにより、アプリケータ部20で生成されたマイクロ波プラズマガス(成膜ガス)が、チューブ部材11の貫通孔11a~11dを介して収容空間Sに導入され、基板に所定膜厚の薄膜が形成されることとなる。
なお、本実施形態に係る成膜ガスは、上記したように、ケイ素(Si)、窒化ケイ素(SiN)、ガラス、有機材料、及び酸化物材料のうちの何れか1つからなる薄膜を基板に生成するためのガス、例えば、シラン(SiH4)、一酸化二窒素(N2O)及びアルゴン(Ar)からなる混合ガスが用いられる。
【0046】
成膜工程S100は、基板に所定膜厚の薄膜が形成されると、マグネトロン31の駆動を停止すると共に、アプリケータ部20への成膜ガスの供給を停止して終了する。
なお、成膜工程S100を行うと、上記した成膜成分は、基板以外にも、収容空間Sを画成する真空チャンバ10の内壁面や収容空間Sに配置される付属部材にも付着する。このような付着物は、成膜工程S100を行った際に、基板に形成される薄膜に混入する虞があり、斯かる場合、基板の品質が低下するといった問題が生じる。そこで、本実施形態では、このような問題を解消するべく、成膜工程S100を行った後、後述するクリーニング工程S200を行うように構成されている。
【0047】
(クリーニング工程S200)
クリーニング工程S200では、クリーニングガスを用いて、収容空間S内で付着した付着物(成膜成分)を除去する処理を行う。
本実施形態に係るクリーニングガスは、上記したように、六フッ化硫黄(SF)を含有するフッ素系ガスが用いられる。なお、図2に示す例では、成膜工程S100を行った後、続けて、クリーニング工程S200を行うようにしているが、成膜処理S100を所定回数(例えば「5回」)行った後に、クリーニング処理S200を行うようにすることも可能である。
【0048】
図2に示すように、クリーニング工程S200は、クリーニングガス供給工程S201と、クリーニングガス排気工程S202とを含んで構成されている。なお、上記クリーニングガス供給工程S100と、クリーニングガス排気工程S200とが、特許請求の範囲に記載の「クリーニングガス供給工程」と、「クリーニングガス排気工程」とに該当する。
【0049】
(クリーニングガス供給工程S201)
クリーニングガス供給工程S201では、プラズマ化されたクリーニングガスを収容空間Sに供給する処理を行う。
具体的に、クリーニングガス供給工程S201では、アプリケータ部20への成膜ガスの流出を停止させた状態(流量調整装置42´を閉止した状態)で、(1)マグネトロン31を駆動して、アプリケータ部20に所定周波数(例えば、2.45GHz)のマイクロ波を供給すると共に、(2)流量調整装置42を制御して、アプリケータ部20にクリーニングガスを供給する処理を行う。このようなマグネトロン31の駆動や流量調整装置42の制御は、制御装置60から出力される制御信号に基づいて行われる。これにより、アプリケータ部20で生成されたマイクロ波プラズマガス(クリーニングガス)が、チューブ部材11の貫通孔11a~11dを介して収容空間Sに導入されることとなる。
詳しくは後述するが、収容空間S内に存在する付着物は、プラズマ化されたクリーニングガスと接触した際に、スパッタ作用により分解除去(ガス化)される。
【0050】
(クリーニングガス排気工程S202)
クリーニングガス排気工程S202では、収容空間Sを減圧した状態で排気する処理を行う。
具体的に、クリーニングガス排気工程S202では、制御装置60から出力される排気量調整信号に基づいて、真空排気ポンプ50のモータ回転数を調整等して収容空間Sに存在する各種ガスを外部に排出する処理を行う。これにより、クリーニングガス供給工程S201で分解除去された付着物が外部に排出されることとなる。
【0051】
本実施形態に係るクリーニング工程S200は、収容空間Sを排気しつつ減圧した状態で、プラズマ化されたクリーニングガスを収容空間Sに導入するように構成されている。
この点、本実施形態では、クリーニングガス排気工程S202を行った状態で、クリーニングガス供給工程S201を行うように構成されたものといえる。なお、クリーニングガス供給工程S201及びクリーニングガス排気工程S202を行う順番、期間等は、これに限られたものではなく、例えば、クリーニングガス供給工程S201を行った後に、クリーニングガス供給工程S202を行ってもよい。
【0052】
ここで、プラズマ化されたクリーニングガスによる付着物の分解除去について、理解を容易にするため、付着物(成膜成分)が「ケイ素(Si)」、クリーニングガスが「六フッ化硫黄(SF)」(含有率(ガス濃度)100%)である場合を例にとって説明する。
「六フッ化硫黄(SF)」からなるクリーニングガスは、アプリケータ部20の空間部20Cでマイクロ波が照射されると、そのエネルギーによって、「六フッ化硫黄(SF)」におけるS-F結合が解離され、「フッ素(F)」が生成される。
そして、このようなガスが、収容空間Sに存在する付着物(Si)に接触すると、「フッ素(F)」が「Si(ケイ素)+4F(フッ素)→SiF4(四フッ化ケイ素)」といった化学反応をするため、その進行に応じて、付着物(成膜成分)が徐々に分解除去(ガス化)される。なお、このようにして分解除去された付着物は、真空排気ポンプ50によって吸引され、外部に排出されることとなる。
【0053】
このように、本実施形態では、真空チャンバ10の連通口10Aとアプリケータ部20のガス吐出口20Dとを連結することによって、アプリケータ部20が、真空チャンバ10と隣り合うように配置されている。
このため、本実施形態では、プラズマ化されたクリーニングガス(フッ素系ガス)を、収容空間Sにダイレクトに供給することができるので、アプリケータ部20で生成されたフッ素(F)ラジカルを、活性化した状態のまま、収容空間Sに存在する付着物(成膜成分)に効率良く接触させることが可能である。その結果、収容空間S内に存在する付着物を効率的に分解除去することが可能なため、真空チャンバ10を確実かつ短時間にクリーニングすることができる。
【0054】
また、本実施形態では、アプリケータ部20でプラズマ化されたクリーニングガスが、収容空間Sに延在するチューブ部材11を流通した後、貫通孔11a~11dから噴射されることによって、収容空間Sに供給されるように構成されている。
すなわち、本実施形態では、プラズマ化されたクリーニングガスを、所望の位置を目掛けて吹き付けることができる他、効率的に拡散することができるので、収容空間S内で万遍なく分布させることが可能である。その結果、大型の真空チャンバであっても、プラズマ化されたクリーニングガスを付着物に良好に接触させることが可能なため、その内部を効率良くクリーニングすることができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、クリーニングガスを収容空間Sに導入している間中(クリーニングガス供給工程S201)、収容空間Sが真空排気ポンプ50により排気されるように構成されている(クリーニングガス排気工程S202)。
すなわち、本実施形態では、分解除去(ガス化)された付着物を外部に随時排出することができるため、収容空間S内を円滑にクリーンな状態とすることが可能である。
【0056】
また、本実施形態では、収容空間Sにクリーニングガスを導入しつつ排気するように構成されているため、当該クリーニングガスを収容空間S内で良好に攪拌・分布等させることが可能である。
すなわち、本実施形態によれば、収容空間Sに存在する付着物(成膜成分)に、クリーニングガスを、より効率的に接触させることが可能なため、クリーニングガスによるクリーニング効果を更に高めることができる。
【0057】
<試験>
なお、本実施形態では、クリーニングガスとして、六フッ化硫黄(SF)を含有するフッ素系ガスを用いたが、その含有率は、80%以上であることが好ましく、100%であることが好ましい。
以下、その理由について、成膜装置1を用いて行った試験結果に基づき、図1及び図3図6を参照しつつ説明する。
【0058】
本試験では、クリーニングガスによるクリーニング効果を検証するため、「試験1」及び「試験2」の2つの試験を行った。
「試験1」は、六フッ化硫黄を含有するクリーニングガスを用いてクリーニングした際のクリーニング速度(μm/min)と、六フッ化エタンを含有するクリーニングガスを用いてクリーニングをした際のクリーニング速度とを比較するための試験である。なお、六フッ化エタンは、クリーニングガスとして広く一般的に用いられるものである(例えば、上記「先行技術文献」参照)。
「試験2」は、ガス吐出口20Dから150mm離れた位置をクリーニングした際のクリーニング速度と、ガス吐出口20Dから600mm離れた位置をクリーニングした際のクリーニング速度とを比較するための試験である。なお、上記クリーニング速度が特許請求の範囲に記載の「洗浄速度」に該当する。
【0059】
「試験1」及び「試験2」では、以下の条件の成膜装置1を用いて、クリーニング速度の測定を行った。
・クリーニングガスの圧力:110Pa
・クリーニングガスの流量:1000sccm
・マグネトロン31の消費電力:2000W
・真空チャンバ10の収容空間Sのサイズ:幅1100mm(図3の「幅W」)、奥行き750mm(図3の「奥行きD」)、高さ700mm(図3の「高さH」)
【0060】
また、「試験1」及び「試験2」では、外面にケイ素(Si)等の付着物(成膜成分)が付着した試料、例えば、薄膜が形成された基板に相当する基板相当品を用いて、クリーニング速度を測定している。
【0061】
(試験1)
図4は、「試験1」の測定結果を示すグラフであり、六フッ化硫黄を含有するガスを用いた場合のクリーニング速度と、六フッ化エタンを含有するガスを用いた場合のクリーニング速度との比較結果をグラフ化したものである。
「試験1」は、以下の試験条件でクリーニング速度を測定した。
・試料の配置位置:アプリケータ部20のガス吐出口20Dから150mm離れた位置
・クリーニングガス1:六フッ化硫黄(SF)及び酸素(O)の混合ガス(六フッ化硫黄の含有率が100%である場合を除く)
・クリーニングガス2(比較例):六フッ化エタン(C26)及び酸素(O)の混合ガス(六フッ化エタンの含有率が100%である場合を除く)
・クリーニング速度の測定:六フッ化硫黄及び六フッ化エタンの各所定含有率毎
【0062】
図4に示すグラフからは、六フッ化硫黄を含有するガスを用いた場合、含有率が80%を超えると、クリーニング速度が45~50μm/minといった比較的高い値で推移していることが読み取れる。これに対し、六フッ化エタンを含有するガスを用いた場合、クリーニング速度が、含有率が50%のときに最も高い値(5μm/min程度)を示し、全般的に低い値(0~5μm/min)で推移していることが読み取れる。
【0063】
このように、図4に示すグラフによれば、六フッ化硫黄と六フッ化エタンとは、クリーニング速度の各最高値を比較しても明らかなように、前者が50μm/min(含有率80%等)であるのに対し、後者が前者の1/10倍の5μm/min(含有率50%)であることが分かる。この点、「試験1」によれば、六フッ化硫黄は、六フッ化エタンよりもクリーニング効果が高いものといえる。
【0064】
(試験2)
図5は、「試験2」の測定結果を示すグラフであり、六フッ化硫黄を用いて、ガス吐出口20Dから150mm離れた位置をクリーニングした場合のクリーニング速度と、ガス吐出口20Dから600mm離れた位置をクリーニングした場合のクリーニング速度との比較結果をグラフ化したものである。
「試験2」は、以下の試験条件でクリーニング速度を測定した。
・試料の配置位置:アプリケータ部20のガス吐出口20Dから150mm離れた位置と600mm離れた位置
・クリーニングガス:六フッ化硫黄(SF)及び酸素(O)の混合ガス(六フッ化硫黄の含有率が100%である場合を除く)
・クリーニング速度の測定:試料の配置位置毎、六フッ化硫黄の所定含有率毎
【0065】
図5に示すグラフからは、ガス吐出口20Dから試料までの距離が150mmである場合、六フッ化硫黄の含有率が80%を超えると、クリーニング速度が45~50μm/minといった比較的高い値で推移していることが読み取れる。これに対し、ガス吐出口20Dから試料までの距離が600mmである場合、六フッ化硫黄の含有率が80%以下であると、クリーニング速度が5μm/minといった比較的低い値で推移するが、その含有率が80%を超えると、クリーニング速度が急激に上昇し、100%に達すると、クリーニング速度が20μm/minまで上昇することが読み取れる。
【0066】
このように、図5に示すグラフによれば、六フッ化硫黄の含有率が、80%以上、より好ましくは100%である場合、アプリケータ部20のガス吐出口20Dからクリーニング対象までの距離の大小を問わず、クリーニング効果を確実に発揮できるといった評価結果を得ることができた。
【0067】
ところで、図5に示すグラフからは、アプリケータ部20のガス吐出口20Dから試料までの距離が150mmの場合と600mmの場合とでは、後者の方が、全般的にクリーニング速度(クリーニング効果)が低いことが読み取れる。すなわち、六フッ化硫黄が非含有のフッ素系ガスであっても、後者のクリーニング速度と同様なクリーニング速度を得ることができれば、六フッ化硫黄が含有されたガスと同様のクリーニング効果(図5参照)が期待することができる。
そこで、後者の試験結果をみると、六フッ化硫黄の含有率が100%のとき、クリーニング速度が一番速い20μm/minであった。この点、クリーニングガスとして、六フッ化硫黄が非含有のフッ素系ガスを用いる場合、アプリケータ部20のガス吐出口20Dから600mm離れた位置におけるクリーニング速度が20μm/min以上、といった条件を満たすことが好ましいといえる。
【0068】
(試験3)
上記したように、本実施形態では、クリーニングガスが、チューブ部材11の貫通孔11a~11dから噴射されて収容空間Sに導入されるように構成されている。
そこで、チューブ部材11を介したクリーニングガスのクリーニング効果を検証するため、上記「試験1」及び「試験2」に加え、「試験3」を行った。
「試験3」では、「試験1」及び「試験2」と同一の成膜装置1、例えば、真空チャンバ10であれば、収容空間Sが、幅D:1100mm、奥行きD:750mm、高さH:700mmの大きさに形成されたものを使用した(図3参照)。
また、「試験3」では、クリーニングガスとして、六フッ化硫黄の含有率が100%のガスを使用した。
【0069】
「試験3」では、以下の形状等のチューブ部材11を使用した(図3参照)。
・材質:ポリテトラフルオロエチレン(PTTE)
・形状・直管形状
・サイズ:全長400mm,外径40mm,内径23mm
・貫通孔11a~11dの孔径:12mm
・上端部から貫通孔11aの距離(高さh1)、貫通孔11a,11b間の距離(高さh2):50mm
・貫通孔11b,11c間の距離(高さh3)、貫通孔11c,11d間の距離(高さh4)、貫通孔11dから延設端部の距離(高さh5):100mm
【0070】
「試験3」では、上記「試験1」及び「試験2」と同一の試料を使用した(図3の「試料SP1,SP2」参照)。
試料SP1は、貫通孔11bから水平距離で150mm(図3の「幅w1」参照)の位置に設ける一方、試料SP2は、貫通孔11dから水平距離150mm(図3の「幅w2」参照)の位置に設けた。
すなわち、「試験3」では、アプリケータ部20のガス吐出口20D(図1参照)から試料SP1までの距離(ガス供給距離)を250mm(h1+h2+w1)、試料SP1までの距離を450mm(h1+h2+h3+h4+w2)に設定して、クリーニング速度の測定を行った(図3及び図6参照)。
【0071】
図6は、「試験3」の測定結果を示す表である。
図6に示すように、「試験3」を行った結果、試料SP1ではクリーニング速度14.84μm/min、試料SP2ではクリーニング速度12.96μm/minという測定結果を得ることができた。
このような結果から、チューブ部材11を介してクリーニングガスを収容空間Sに供給した場合でも、何ら遜色なく、高いクリーニング効果を確保できることを実証することができた。
【0072】
以上のように、本実施形態では、真空チャンバ10の連通口10Aとアプリケータ部20のガス吐出口20Dとを連結することによって、アプリケータ部20が、真空チャンバ10と隣り合うように配置されている。
このため、本実施形態では、プラズマ化されたクリーニングガス(フッ素系ガス)を、収容空間Sにダイレクトに供給することができるので、アプリケータ部20で生成されたフッ素ラジカルを、活性化した状態のまま、収容空間Sに存在する付着物に効率良く接触させることが可能である。その結果、収容空間S内に存在する付着物を効率的に分解除去することが可能なため、真空チャンバ10を確実かつ短時間にクリーニングすることができる。
【0073】
さらに、本実施形態では、アプリケータ部20でプラズマ化されたクリーニングガスが、収容空間Sに延在するチューブ部材11を流通した後、貫通孔11a~11dから噴射されることで、収容空間Sに供給されるように構成されている。
すなわち、本実施形態では、プラズマ化されたクリーニングガスを、所望の位置を目掛けて吹き付けることができる他、効率的に拡散することができるので、収容空間S内で万遍なく分布させることが可能である。その結果、大型の真空チャンバであっても、プラズマ化されたクリーニングガスを付着物に良好に接触させることが可能なため、その内部を効率良くクリーニングすることができる。
【0074】
このように、本実施形態によれば、成膜処理を行う真空チャンバ10を常にクリーンな状態に維持することが可能なため、基板の品質を確実に確保することができる。
【0075】
なお、図1及び図3に示す例では、チューブ部材11を直管状に形成したが、その他の形状、例えば、L字状、分岐部を有するT字状、湾曲状に形成することもできる。
また、その内径は、同一に形成する必要はなく、例えば、延在端部に向けて漸次縮径又は拡径させることも可能である。
さらに、図1及び図3に示す例では、チューブ部材11に貫通孔を4つ形成したが、3つ以下であってもよく、5つ以上であっても構わない。
また、貫通孔を複数形成した場合にあっては、図1及び図3に示すように、延設方向に沿って1列に形成する必要はなく、ランダムに形成することも可能である。
【0076】
さらに、チューブ部材11は、真空チャンバ10の連通口10Aに、着脱自在に構成することが好ましい。このように構成すれば、チューブ部材11が破損・損傷等した際に容易に交換することができるばかりか、所望の形状等のチューブ部材(例えば、上記したL字状のチューブ部材)を連通口10Aに取り付けることで、真空チャンバ10内を効果的にクリーニングすることが可能になる。
【0077】
また、チューブ部材11は、真空チャンバ10に回動可能に構成することもできる。このような構成は、例えば、図7に示すように、
・パイプ状の真空シャフト12を、真空チャンバ10の連通口10Aに気密良く回転自在に取り付ける、
・真空シャフト12の一端部を、アプリケータ部20のガス吐出口20D(図1参照)に気密良く回転自在に取り付けると共に、その他端部を、チューブ部材11に内挿固定する、
・真空チャンバ10の外部において、駆動部13(例えば、モータ)を配置する、
・真空シャフト12と、駆動部13の回転軸13aとを無端ベルト14(例えば、タイミングベルト)を用いて接続する、
といった作業を行うことにより実現することが可能である。
【0078】
このように構成すれば、所望の方向にクリーニングガスを吐出させることが可能なため、収容空間Sにクリーニングガスをより万遍なく分布させることもでき、その結果、真空チャンバ10内を効果的にクリーニングすることができる。なお、上記駆動部13が特許請求の範囲に記載の「駆動手段」に該当する。
【0079】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述および図面により、本発明は限定されるものではない。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実例および運用技術等はすべて本発明の範疇に含まれることはもちろんであることを付け加えておく。
【符号の説明】
【0080】
1 成膜装置
10 真空チャンバ
10A 連通口
10B 排気口
11 チューブ部材(管状部材)
11a~11d 貫通孔
11e 鍔部
12 真空シャフト
13 駆動部
13a 回転軸
14 無端ベルト
20 アプリケータ部(プラズマ発生手段)
20A ガス導入口
20B マイクロ波導入口
20C 空間部
20D ガス吐出口
30 マイクロ波生成部
31 マグネトロン
32 高周波整合器
33 高電圧電源
34 導波路
40 クリーニングガス供給部
41 クリーニングガス供給源
42,42´ 流量調整装置
43 ガス供給路
44 分岐部
45 成膜ガス供給部
46 成膜ガス供給源
47 分岐路
50 真空排気ポンプ(排気手段)
51 排気路
60 制御装置
S 収容空間
SP1,SP2 試料
W,w1,w2 幅
D 奥行き
H,h1~h5 高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7