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特開2024-60333プログラム、情報処理装置及び情報処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060333
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】プログラム、情報処理装置及び情報処理方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
C12M1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167643
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】517448489
【氏名又は名称】合同会社H.U.グループ中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】山下 英俊
(72)【発明者】
【氏名】岡田 涼
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB02
4B029CC07
4B029HA02
4B029HA04
(57)【要約】
【課題】釣菌条件を自動的に推定することができるプログラム等を提供する。
【解決手段】プログラムは、コロニー画像を取得し、取得したコロニー画像、該コロニー画像中の細菌を釣菌する釣菌条件、及び該釣菌条件により釣菌した釣菌結果の評価に基づいて、新たな釣菌条件を推定する処理をコンピュータに実行させる。好適には、前記釣菌結果の評価は、釣菌量、釣菌時間、又はコンタミネーションの有無を含む。更に好適には、前記釣菌条件は、細菌の採取時の条件と、細菌の懸濁時の条件とを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロニー画像を取得し、
取得したコロニー画像、該コロニー画像中の細菌を釣菌する釣菌条件、及び該釣菌条件により釣菌した釣菌結果の評価に基づいて、新たな釣菌条件を推定する
処理をコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項2】
前記釣菌結果の評価は、釣菌量、釣菌時間、又はコンタミネーションの有無を含む
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
前記釣菌結果の評価は、蛍光強度、又は呈色反応による色若しくはグレースケールを含む
請求項1に記載のプログラム。
【請求項4】
前記釣菌条件は、細菌の採取時の条件と、細菌の懸濁時の条件とを含む
請求項1に記載のプログラム。
【請求項5】
前記細菌の採取時の条件は、釣菌針の種類、釣菌回数、釣菌針の水平方向の移動距離及び移動方向、釣菌針の垂直方向の深さ、釣菌針の引き上げ動作、又は釣菌針の滅菌処理を含む
請求項4に記載のプログラム。
【請求項6】
細菌の懸濁時の条件は、懸濁回数、釣菌針又は懸濁容器の振動の振幅、釣菌針又は懸濁容器の振動の懸濁速度、又は懸濁容器壁面への釣菌針の接触の有無を含む
請求項4に記載のプログラム。
【請求項7】
前記釣菌条件の許容範囲の設定を受け付け、
受け付けた許容範囲内で釣菌条件を推定する
請求項1に記載のプログラム。
【請求項8】
前記コロニー画像、釣菌条件、及び釣菌結果の評価のセットを対応付けて記憶し、
前記セットに基づき、釣菌条件を推定する
請求項1に記載のプログラム。
【請求項9】
前記コロニー画像、釣菌条件、及び釣菌結果の評価のセット群にベイズ最適化を適用することにより、新たな釣菌条件を推定する
請求項8に記載のプログラム。
【請求項10】
前記コロニー画像、釣菌条件、及び釣菌結果の評価のセット群に遺伝的アルゴリズムを適用することにより、新たな釣菌条件を推定する
請求項8に記載のプログラム。
【請求項11】
釣菌した細菌の種類を同定した同定結果を取得し、
前記コロニー画像の特徴量、釣菌条件、釣菌結果の評価、及び同定された細菌の種類に基づいて新たな釣菌条件を特定する
請求項1に記載のプログラム。
【請求項12】
制御部を備える情報処理装置であって、
前記制御部が、
コロニー画像を取得し、
取得したコロニー画像、該コロニー画像中の細菌を釣菌する釣菌条件、及び該釣菌条件により釣菌した釣菌結果の評価に基づいて、新たな釣菌条件を推定する
情報処理装置。
【請求項13】
コロニー画像を取得し、
取得したコロニー画像、該コロニー画像中の細菌を釣菌する釣菌条件、及び該釣菌条件により釣菌した釣菌結果の評価に基づいて、新たな釣菌条件を推定する
処理をコンピュータが実行する情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プログラム、情報処理装置及び情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌検査の前処理工程において、寒天培地上に培養したコロニーを針で釣菌(採取)し、食塩水等に懸濁して懸濁液を作製する操作が行われる。しかしながら、この操作を人手で行うにしても、機械(釣菌装置)を使用するにしても、検査員の経験に基づく人為的な調整が必要となるため、検査結果が不安定になっている。
【0003】
例えば特許文献1には、コロニーの撮像画像からコロニーの面積を求め、懸濁液の濁度(濃度)とコロニーの総面積との関係を示すデータベースを参照して所望濁度の懸濁液の作製に必要なコロニー面積を求め、釣菌ツールにより当該面積のコロニーを釣菌する釣菌装置等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5618810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る発明は人手で作成されたルール(データベース)に従って釣菌を行うものであり、釣菌条件を自動的に推定するに至っていない。
【0006】
一つの側面では、釣菌条件を自動的に推定することができるプログラム等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの側面では、プログラムは、コロニー画像を取得し、取得したコロニー画像、該コロニー画像中の細菌を釣菌する釣菌条件、及び該釣菌条件により釣菌した釣菌結果の評価に基づいて、新たな釣菌条件を推定する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0008】
一つの側面では、釣菌条件を自動的に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】細菌検査システムの構成例を示す説明図である。
図2】端末の構成例を示すブロック図である。
図3】細菌検査工程を示す説明図である。
図4】ベイズ最適化に関する説明図である。
図5】端末の表示画面例を示す説明図である。
図6】端末が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態)
図1は、細菌検査システムの構成例を示す説明図である。本実施の形態では、細菌を釣菌するための釣菌条件を自動的に推定する細菌検査システムについて説明する。細菌検査システムは、端末1、撮像装置21、釣菌装置22、濃度測定装置23、菌種同定装置24を含む。
【0011】
端末1は、種々の情報処理、情報の送受信が可能な情報処理装置であり、例えばパーソナルコンピュータ等である。端末1は、釣菌装置22に釣菌条件を設定することで釣菌操作を実行させることができると同時に、各種機器から情報を取得可能に構成されている。後述の通り、端末1は、細菌のコロニーを撮像したコロニー画像と、細菌を釣菌する際の釣菌条件と、当該釣菌条件により釣菌した釣菌結果の評価とに基づいて、最適な釣菌条件を推定する処理を行う。具体的には、端末1は、ベイズ最適化等の逐次探索手法を用いて、複数の釣菌操作の設定パラメータの組み合わせの中から最適な釣菌条件を逐次探索する。
【0012】
なお、本実施の形態ではローカルコンピュータ(端末1)で一連の演算処理を行うものとするが、本実施の形態はこれに限定されるものではなく、クラウド上のサーバコンピュータを各種機器に接続し、当該サーバコンピュータ上で演算を行うようにしてもよい。
【0013】
撮像装置21は、コロニーを撮像するカメラである。後述の通り、端末1は、撮像装置21で撮像されたコロニー画像から細菌の位置及び種類を検出する。
【0014】
釣菌装置22は、釣菌針により細菌を自動的に釣菌する装置である。釣菌装置22は、端末1が設定する釣菌条件(釣菌回数、釣菌針を寒天培地に刺す際の深さ等)に従って釣菌針をコロニーに接触させることで細菌を釣菌し、細菌が付着した釣菌針を試験管中の液体培地や食塩水等に懸濁することで懸濁液を作製する。
【0015】
濃度測定装置23は、懸濁液に照射した光の吸光度を測定することにより、懸濁液の濁度(細菌濃度)を測定する装置である。端末1は、濃度測定装置23で測定される濁度に基づき、細菌の釣菌量を取得する。
【0016】
菌種同定装置24は、例えばMALDI-TOF-MS(Matrix Assisted Laser Desorption / Ionization - Time of Flight - Mass Spectrometry)、PCR検査、数値同定法や微量テスト法を用いたキットや装置(例えば、IDテスト(日水製薬株式会社))等の手法により細菌の種類を同定する装置である。端末1は、菌種同定装置24から取得した菌種の同定結果に基づき、釣菌条件を推定する。
【0017】
図2は、端末1の構成例を示すブロック図である。端末1は、制御部11、主記憶部12、通信部13、表示部14、入力部15、及び補助記憶部16を備える。
制御部11は、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理装置を有し、補助記憶部16に記憶されたプログラムP1を読み出して実行することにより、種々の情報処理、制御処理等を行う。主記憶部12は、SRAM(Static Random Access Memory)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の一時記憶領域であり、制御部11が演算処理を実行するために必要なデータを一時的に記憶する。通信部13は、通信に関する処理を行うための通信モジュールであり、外部と情報の送受信を行う。表示部14は、液晶ディスプレイ等の表示画面であり、画像を表示する。入力部15は、キーボード、マウス等の操作インターフェイスであり、ユーザから操作入力を受け付ける。
【0018】
補助記憶部16は、大容量メモリ、ハードディスク等の不揮発性記憶領域であり、制御部11が処理を実行するために必要なプログラムP1(プログラム製品)、その他のデータを記憶している。また、補助記憶部16は、学習モデル50を記憶している。学習モデル50は、所定の訓練データを学習済みの機械学習モデルであり、コロニー画像を入力した場合に、コロニーの位置及び種類を出力するモデルである。
【0019】
なお、補助記憶部16は端末1に接続された外部記憶装置であってもよい。また、端末1は複数のコンピュータからなるマルチコンピュータであっても良く、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。
【0020】
また、端末1は、CD(Compact Disk)-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)-ROM等の可搬型記憶媒体1aを読み取る読取部を備え、可搬型記憶媒体1aからプログラムP1を読み取って実行するようにしても良い。
【0021】
図3は、細菌検査工程を示す説明図である。図3に基づき、本実施の形態の概要を説明する。
【0022】
本実施の形態では、以下の手順で細菌の検査を行う。まず端末1は、培地上のコロニーを撮像したコロニー画像を撮像装置21から取得する。そして端末1は、学習モデル50を用いて、コロニー画像から細菌の位置(座標)及び種類(菌種)を検出する。
【0023】
学習モデル50は、所定の訓練データを学習済みの機械学習モデルであり、例えばCNN(Convolutional Neural Network;畳み込みニューラルネットワーク)等のニューラルネットワークである。例えば端末1は、コロニー画像に対し、正解の細菌の位置及び種類が対応付けられた訓練データを学習済みのモデルを、学習モデル50として用意してある。端末1は、学習モデル50にコロニー画像を入力することで、細菌の位置及び種類を検出する。
【0024】
なお、本実施の形態では機械学習モデルを用いて細菌の位置及び種類を検出するものとするが、ルールベースの画像認識によって細菌を検出してもよい。また、機械学習モデルはCNNに限定されるものではなく、その他のモデル(例えばVision Transformer、オートエンコーダ等)であってもよい。
【0025】
次に端末1は、検出された細菌を釣菌装置22により釣菌し、食塩水に懸濁して懸濁液を作製する。ここで端末1は、釣菌条件として以下のパラメータを釣菌装置22に設定することにより、釣菌を行う。
【0026】
(細菌採取時の条件)
・釣菌針の種類
・釣菌回数
・釣菌針を寒天培地に接触させる際の水平方向の移動距離、移動速度及び移動方向
・釣菌針を培地に接触させる際の垂直方向の深さ
・細菌採取後の釣菌針引き上げ時の引き上げ距離、停止時間、及び引き上げ速度
・同一コロニーを複数回釣菌する場合の釣菌針のブラシ洗浄、エタノール滅菌、又は乾熱滅菌の実施有無及び実施程度(回数や操作時間、強度)
【0027】
(細菌懸濁時の条件)
・懸濁回数
・釣菌針または懸濁容器の振動の振幅
・釣菌針または懸濁容器の振動の周波数(懸濁速度)
・懸濁容器壁面への釣菌針接触の有無
【0028】
なお、釣菌針の種類とは、針先端の形状を指し、釣菌針の先端はその種類に応じて円錐状のもの、球状のもの、環状のものなどがある。
【0029】
その後、細菌の評価工程に進む。具体的には、濃度測定装置23により懸濁液の濁度(濃度)を測定し、菌種同定装置24により正確な細菌の種類を同定し、更に細菌の特性評価(感受性検査等)を行う。
【0030】
上述の如く検査を行うにあたり、寒天培地から所望量の細菌を釣菌すべく、釣菌装置22に釣菌条件を設定する。しかしながら、細菌はその種類によって特性(水分含量、粘性等)が異なり、最適な釣菌条件に調整することは容易ではない。
【0031】
そこで本実施の形態では、目的変数(釣菌量等)を最適化する説明変数(釣菌条件)を逐次的に探索する逐次探索手法を用いて、最適な釣菌条件を探索する。具体的には、ベイズ最適化を用いて最適な釣菌条件を探索する。
【0032】
図4は、ベイズ最適化に関する説明図である。図4では、所定数のデータセットから、新たな探索点を逐次探索する様子を概念的に図示している。
【0033】
ベイズ最適化は、目的変数yとn個の説明変数xi(i=1,2,…n)とのデータセットにおいて、y=f(xi)の関数fが未知である場合に、関数fがガウス過程に従うと仮定し、目的変数yを最大化(又は最小化)する説明変数xiを探索する手法である。未知の関数fがガウス過程に従うと仮定することで、目的変数y及び説明変数xiが他の分布に従うと仮定する場合に比べて、簡易な処理で様々な目的変数yを高度に最適化することができる。
【0034】
図4に示すグラフは、横軸が説明変数を、縦軸が目的変数(説明変数の評価値)を示す。なお、実際は3次元以上の多次元空間で探索を行うが、図4では便宜的に2次元のグラフで図示している。
【0035】
まず、図4左側のグラフに示すように、n個のデータセットが与えられているものとする。ここで端末1は、当該データセットがガウス分布に従うと仮定し、目的変数が最大となる点を探索する。すなわち、データセットの分布から平均及び分散を推定し、ガウス過程回帰モデルを導出する。そして、図4中央のグラフに示すように、獲得関数(Acquisition function)と呼ばれる評価用の関数を用いて最適化を行い、目的変数が最大化する点を探索する。
【0036】
端末1は、探索された点を評価し、データセットに追加する。そして端末1は、最適と思われる説明変数を再度探索する。すなわち、図4右側のグラフに示すように、端末1は新たなデータセットの平均及び分散を推定し、獲得関数を更新する。そして端末1は、更新後の獲得関数から最適な点を再度探索する。端末1はこの探索を繰り返し、最適な説明変数、すなわち釣菌条件を探索する。
【0037】
図3に戻って説明を続ける。本実施の形態では、釣菌条件を評価する評価値(目的変数)として、以下の3種類のパラメータを用いる。
【0038】
・釣菌量
・釣菌時間
・コンタミネーションの有無
【0039】
本実施の形態では、これら3つのパラメータを、以下の式(1)に従って単一の変数M又はM’に変換する。
【0040】
M=t×(-T)+b×B+d×(-D),M’=t/b×(-T)+B+d/b×(-D) …(1)
【0041】
Tは釣菌時間を、Bは釣菌量を、Dはコンタミネーションの有無(0又は1の値)を表す。係数t、b、dは人為的に設定されるハイパーパラメータであり、係数tは釣菌時間の重みを、係数bは釣菌量Bの重みを、係数dはコンタミネーションの有無の重みをそれぞれ表す。釣菌回数を増やすほど釣菌量が増えるため、釣菌時間の負値と、釣菌量とを同時に最大化する制約条件を設ける。そこに更にコンタミネーションの有無を加え、目的変数M又はM’とする。
【0042】
端末1は、ユーザから上記の重み係数t、b、dの数値入力を受け付けることで、釣菌時間、釣菌量、及びコンタミネーションの有無それぞれの重みを規定する制約条件の設定を受け付ける。例えばユーザが釣菌時間よりも釣菌量を重視する場合はb>tであり、その逆であればb<tとなる数値を設定する。また、一般的にコンタミネーションによる被害が大きいことから、d/bは100等の大きな値に設定する。
【0043】
なお、本実施の形態では目的変数として釣菌時間、釣菌量、及びコンタミネーションの有無を挙げたが、本実施の形態はこれに限定されるものではない。具体的には、遺伝子組み換えDNA導入微生物をスクリーニングするような、産業有用微生物をスクリーニングする目的の場合には、目的変数が変化する。
【0044】
例えば蛍光蛋白質をコードするDNAを微生物に遺伝子導入した場合、蛍光強度が目的変数になる。また、寒天培地中の基質や酵素と呈色反応する蛋白質をコードするDNAを微生物に遺伝子導入した場合、呈色反応による色又はグレースケール(X-galの青色や、ファージが感染したプラーク(色の無い斑点))が目的変数となる。
【0045】
このように、検査目的に応じて種々の目的変数が採用され得る。
【0046】
上記の目的変数に対し、説明変数としては、上述の釣菌条件のほか、コロニー画像を説明変数として用いる。より具体的には、説明変数として、コロニー画像の特徴量(例えばCNNである学習モデル50の畳み込み層で抽出される画像特徴量)、釣菌条件、及び細菌の種類を採用する。
【0047】
端末1は、以上で述べた説明変数及び目的変数に基づく逐次探索を行うことで、最適な釣菌条件を推定する。具体的にはまず、端末1は、説明変数の各パラメータについて許容範囲(上限値及び下限値)の設定入力をユーザから受け付ける。
【0048】
次に端末1は、設定した範囲内でランダムな値を生成し、釣菌条件の初期値とする。端末1は、釣菌条件の初期値を釣菌装置22に設定し、釣菌を行わせて懸濁液を作製する。
【0049】
なお、本実施の形態では初期値としてランダムな値を設定するものとして説明するが、予め最適と思われる値を用意して初期値に設定してもよい。
【0050】
端末1は、作製された懸濁液の濁度を濃度測定装置23により測定することで、細菌の釣菌量Bを取得する。また、端末1は、タイマ(不図示)により釣菌時間Tを測定する。コンタミネーションの有無Dは、例えば菌種同定装置24により測定する。端末1は、式(1)に従って釣菌結果の評価値M又はM’を算出する。
【0051】
また、端末1は、菌種同定装置24から、細菌の正確な種類を同定した同定結果を取得する。
【0052】
端末1は、コロニー画像と、釣菌条件と、釣菌結果の評価値M又はM’とに基づき、次に設定すべき新たな釣菌条件を推定(探索)する。より具体的には、端末1は、学習モデル50(CNN)の畳み込み層で抽出されるコロニー画像の特徴量と、菌種同定装置24で同定した細菌の種類と、釣菌条件と、釣菌結果の評価値とに基づき、新たな釣菌条件を推定する。
【0053】
端末1は、推定した釣菌条件を釣菌装置22に再度設定し、釣菌を行わせる。そして端末1は、上記と同様に釣菌結果の評価値を算出する。
【0054】
端末1は、新たな説明変数(コロニー画像の特徴量、細菌の種類、及び釣菌条件)と目的変数(評価値)とのペアをデータセットに追加し、新たな釣菌条件を推定する。端末1は当該処理を、例えば評価値が十分収束するまで繰り返し実行する。これにより、最終的に端末1は最適な釣菌条件を推定する。
【0055】
なお、例えば端末1は、最適解の探索回数の最大値を予め決めておき、当該探索回数に達した場合は処理を終了するなどしてもよい。
【0056】
図5は、端末1の表示画面例を示す説明図である。図5では、端末1が表示する分析画面例を図示している。当該画面は、コロニー画像51、分析欄52を含む。コロニー画像51は、撮像装置21で撮像された画像である。
【0057】
分析欄52は、コロニー画像中の各コロニーの分析結果を示す一覧表である。例えば端末1は、分析欄52に各コロニーの菌種、菌量などを表示するほか、備考欄において、最適な釣菌条件として推定された各パラメータの値を表示する。
【0058】
以上より、本実施の形態によれば、コロニー画像と、釣菌条件と、釣菌結果の評価とに基づいて新たな釣菌条件を推定し、当該釣菌条件の下で釣菌を行わせる。そして端末1は、釣菌結果の評価を再取得し、コロニー画像、釣菌条件、及び釣菌結果の評価のデータをデータセットに追加して、釣菌条件を再度推定する。当該処理を繰り返すことで、端末1は釣菌条件の最適解を探索する。このように、本実施の形態によれば、釣菌条件を自動的に推定することができる。
【0059】
図6は、端末1が実行する処理手順の一例を示すフローチャートである。図6に基づき、端末1が実行する処理内容について説明する。
端末1の制御部11は、寒天培地上のコロニーを撮像したコロニー画像を撮像装置21から取得する(ステップS11)。制御部11は、コロニー画像を学習モデル50に入力することで、細菌の位置及び種類を検出する(ステップS12)。
【0060】
制御部11は、釣菌結果の評価値M又はM’のハイパーパラメータ(制約条件)と、説明変数である釣菌条件の各種パラメータの許容範囲(上限値及び下限値)との設定入力を受け付ける(ステップS13)。制御部11は、当該許容範囲内で釣菌条件の初期値を設定する(ステップS14)。釣菌装置22は、当該初期条件の下で釣菌を行う。
【0061】
制御部11は、釣菌結果の評価(釣菌量、釣菌時間、及びコンタミネーションの有無)を取得する(ステップS15)。制御部11は、コロニー画像と、設定した釣菌条件と、取得した釣菌結果の評価とに基づき、新たな釣菌条件を推定する(ステップS16)。具体的には、制御部11はガウス過程回帰モデルに従い、コロニー画像の特徴量と、釣菌条件と、評価と、ステップS12で検出した細菌の種類とに基づいて、新たな釣菌条件を推定する。釣菌装置22は、推定された新たな釣菌条件の下で釣菌を行う。
【0062】
制御部11は、釣菌結果の評価を再度取得する(ステップS17)。制御部11は、ステップS16で推定した釣菌条件と、ステップS17で取得した釣菌結果の評価と、コロニー画像とのセットを対応付けて保存する(ステップS18)。制御部11は、これまでに保存されたデータセットに基づき、ガウス過程回帰モデルを更新する(ステップS19)。
【0063】
制御部11は、所定の終了条件を満たすか否かを判定する(ステップS20)。例えば制御部11は、評価値M又はM’が十分に収束したか否かを判定する。終了条件を満たさないと判定した場合(S20:NO)、制御部11は処理をステップS16に戻す。終了条件を満たすと判定した場合(S20:YES)、制御部11は一連の処理を終了する。
【0064】
なお、上記では最適解の探索手法としてベイズ最適化を用いたが、ベイズ最適化に代えて遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm)を用いてもよい。遺伝的アルゴリズムは、生物の進化を模した最適化の手法であり、評価、選択、遺伝的操作(交叉、突然変異等)を繰り返すことで関数を最適化するアルゴリズムである。
【0065】
遺伝的アルゴリズムを用いる場合、端末1はまず、第1世代の個体群であるN個の個体(釣菌条件等のデータセット)を用意する。次に端末1は、各個体の適応度を算出する。例えば端末1は、上記の変数M又はM’を適応度として算出する。
【0066】
端末1は、各個体について算出した適応度に基づき、第2世代のN個の個体を生成する。例えば端末1は、第1世代から選択された2つの個体それぞれの一部のパラメータを交換する交叉、第1世代の個体に含まれるパラメータをランダムに変更する突然変異等の方法で第2世代の個体を生成する。
【0067】
更に端末1は、第2世代の個体それぞれの適応度を算出し、第3世代の個体を生成する。端末1は当該処理を繰り返し、最終的に最適解に近い解を取得する。
【0068】
このように、端末1はベイズ最適化に代えて遺伝的アルゴリズムを適用してもよい。
【0069】
また、ベイズ最適化、遺伝的アルゴリズムを例に挙げたが、最適解の探索手法はこれに限定されるものではなく、例えば強化学習を用いて探索を行うようにしてもよい。
【0070】
また、本実施の形態では釣菌装置22により自動的に釣菌を行うものとしたが、本実施の形態はこれに限定されるものではなく、釣菌を手動で行うものであってもよい。すなわち、端末1は、手動で釣菌を行う際の条件を推定し、ユーザに提示するようにしてもよい。
【0071】
以上より、本実施の形態によれば、釣菌条件を自動的に推定することができる。
【0072】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0073】
各実施の形態に記載した事項は相互に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した独立請求項及び従属請求項は、引用形式に関わらず全てのあらゆる組み合わせにおいて、相互に組み合わせることが可能である。さらに、特許請求の範囲には他の2以上のクレームを引用するクレームを記載する形式(マルチクレーム形式)を用いているが、これに限るものではない。マルチクレームを少なくとも一つ引用するマルチクレーム(マルチマルチクレーム)を記載する形式を用いて記載しても良い。
【符号の説明】
【0074】
1 端末(情報処理装置)
11 制御部
12 主記憶部
13 通信部
14 表示部
15 入力部
16 補助記憶部
P1 プログラム
50 学習モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6