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  • 特開-PtAu合金粉末の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060334
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】PtAu合金粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20240424BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240424BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240424BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240424BHJP
   C22C 5/04 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F1/00 K
B22F1/05
B22F1/14 500
B22F1/14 200
C22C5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167644
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】武田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 良介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠太
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐大
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA02
4K017CA07
4K017EJ01
4K017EJ02
4K017FB01
4K017FB03
4K017FB07
4K018AA02
4K018AB01
4K018AC01
4K018BA01
4K018BB04
4K018BC12
4K018BC19
4K018BD04
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】合金化度が高く、粒度分布が狭いPtAu合金粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】Pt化合物とAu化合物を含む水溶液を、還元剤を含む水溶液に加え、前記Pt化合物と前記Au化合物を還元して、PtAu還元粉末を得る還元工程と、前記PtAu還元粉末と酸化物粉末(焼結抑制剤)を混合し、350~1050℃で熱処理する熱処理工程とを含み、前記PtAu合金粉末中のAuが0.5~40wt%である、ことを特徴とするPtAu合金粉末の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pt化合物とAu化合物を含む水溶液を、還元剤を含む水溶液に加え、前記Pt化合物と前記Au化合物を還元して、PtAu還元粉末を得る還元工程と、
前記PtAu還元粉末と酸化物粉末(焼結抑制剤)を混合し、350~1050℃で熱処理する熱処理工程とを含み、
前記PtAu合金粉末中のAuが0.5~40wt%である、
ことを特徴とするPtAu合金粉末の製造方法。
【請求項2】
前記酸化物粉末(焼結抑制剤)が酸化亜鉛または酸化銅または酸化カルシウムを一種以上含む粉末であることを特徴とする請求項1記載のPtAu合金粉末の製造方法。
【請求項3】
前記PtAu合金粉末の合金化度が85%以上かつ平均粒径が0.5~10.0μm、粒度分布の狭さを表すスパン値が1.3~1.8であることを特徴とする請求項1または2記載のPtAu合金粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PtAu合金粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素センサー、COセンサー、NOxセンサー等の各種ガスセンサーのセンサー電極を構成するものとしてPtAuペーストをスクリーン印刷し、焼成した導電膜が利用されている。PtAuペーストの構成としては、PtAu合金粉末、前記PtAu合金粉末を基盤に密着させるためのセラミック粉末、有機ビヒクル等からなる。前記PtAu合金粉末は、センサー性能や耐久性の観点から粒度分布が狭く、偏析のない合金化度の高い粒子が望まれる。
【0003】
例えば、特許文献1には、貴金属化合物溶液の還元電位を調整することで、燃料電池の電極触媒に利用される合金化度の高いナノオーダーの合金ナノ粒子を得る製造方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1の製法では出発原料である貴金属化合物、還元温度、還元剤濃度を変えることで2種金属イオン間の酸化還元電位差を110mV以下に調整する必要がある。また、貴金属ペーストに利用できるマイクロオーダーの粒子を湿式還元にて得ると、粒子が凝集し、合金化度が低くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-263719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PtAu合金粉末は還元工程のみの従来技術では、粒子の凝集により粒度分布が広くなることと、合金化度が低下するという課題があったため、新しい製造方法が求められている。
【0007】
本発明の目的は、合金化度が高く、粒度分布が狭いPtAu合金粉末の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、熱処理による凝集を防ぐために、湿式還元により得られた粉末に焼結抑制剤として酸化物粉末を混合し、熱を加えることで合金粒子の粒成長を抑制し、上記の問題を解決し、粒度分布の狭く、合金化度の高いPtAu合金粉末を製造できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、Pt化合物とAu化合物を含む水溶液を、還元剤を含む水溶液に加え、前記Pt化合物と前記Au化合物を還元して、PtAu還元粉末を得る還元工程と、
前記PtAu還元粉末と、熱処理の際に焼結が進行しPtAu粒子が粒成長することを抑制する酸化物粉末(焼結抑制剤)を混合し、350~1050℃で熱処理する熱処理工程とを含み、
前記PtAu合金粉末中のAuが0.5~40wt%である、ことを特徴とするPtAu合金粉末の製造方法である。
【0010】
また、上記製造方法において、前記酸化物粉末(焼結抑制剤)が、酸化亜鉛、酸化銅、酸化カルシウムの何れか一種または二種以上含む粉末であるようにしてもよい。
【0011】
また、上記製造方法において製造した前記PtAu合金粉末は、合金化度85%以上、平均粒径が0.5~10.0μm、且つスパン値が1.3~1.8であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従うと、合金化度が高く、粒度分布が狭いPtAu合金粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例11の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図2】比較例1の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のPtAu合金粉末の製造方法について詳細に説明する。
【0015】
本発明は、Pt化合物とAu化合物を含む水溶液を、還元剤を含む水溶液に加え、Pt化合物とAu化合物を還元して、PtAu還元粉末を得る還元工程を含む。
【0016】
本発明では、Pt化合物とAu化合物を含む水溶液を用いる。
【0017】
Pt化合物は、例えば、ヘキサクロロ白金(IV)酸(H[PtCl])、テトラクロロ白金(II)酸(H(PtCl))、テトラアンミン白金(II)ジクロライド(Pt(NHCl)等が挙げられる。
【0018】
Au化合物は、例えば、テトラクロロ金(III)酸(H[AuCl])、亜硫酸金(I)ナトリウム(Na[Au(SO])、ジクロロ(1,10-フェナントロリン)金(III)クロライド(AuCl(C12)Cl)等が挙げられる。
【0019】
具体的には、Pt化合物を含む水溶液とAu化合物を含む水溶液を所定の比率で混合することで、貴金属化合物混合液を得る。PtAu合金粉末中のPtとAuの比率の調整は、Pt化合物とAu化合物の混合比を変えることで行うことができる。
【0020】
本発明では、pHを調整した還元剤を含む水溶液を用いる。還元剤の種類としては、硫酸ヒドラジンや塩酸ヒドラジン等のヒドラジン誘導体を用いることができる。
【0021】
pH調整剤としては、基本的にはアンモニア水が好ましいが、Au比を20%以上にする場合は、雷金の生成を防ぐため水酸化ナトリウム水溶液が望ましい。
【0022】
還元溶液の準備は、還元剤を純水に溶解させ、pHを調整し、加熱保持する。還元剤及びpH調整剤の反応液中での濃度は特に限定されないが、pH調整剤を少なくすると一次粒子径が増大する傾向があるため、目的とする一次粒子径に応じて適切なpHになるように添加量を調整することができる。還元剤を含む溶液のpHは7.5以上14.0以下が望ましい。好ましくは8.0以上10.0以下とする。
【0023】
Pt化合物とAu化合物を含む水溶液(貴金属化合物混合液)を、還元剤を含む水溶液に加えて撹拌する。還元工程では加熱保持した還元溶液に貴金属化合物混合液を添加することで、Pt化合物とAu化合物を還元し、PtAu還元粉末が得られる。
【0024】
得られたスラリーを洗浄、乾燥することでPtAu還元粉末を取り出す。
【0025】
本発明は、PtAu還元粉末と酸化物粉末(焼結抑制剤)を混合し、350~1050℃で熱処理する熱処理工程を含む。熱処理雰囲気は、例えば、大気中とすることができる。
【0026】
酸化物粉末(焼結抑制剤)の混合により、熱処理の際に焼結が進行し、PtAu粒子が粒成長することを抑制することができる。1050℃を超える温度で熱処理を行うと、Auが飛散する可能性があるため、1050℃以下での熱処理が望ましい。350℃を下回る温度で熱処理を行うと粉末の合金化度が低下する。熱処理時間は1~5時間程度が好ましい。
【0027】
本発明において、PtAu合金粉末中のAuが0.5~40wt%であることが好ましい。比率は、Pt化合物とAu化合物の混合比にて調整する。これよりAuの比率が高くなると、合金化度が低下する。
【0028】
酸化物粉末(焼結抑制剤)に用いる物質はPtAuと固溶せず、熱処理後に酸等の薬品処理で容易に除けるものであればよい。例えば、酸化物粉末(焼結抑制剤)は酸化亜鉛または酸化銅または酸化カルシウムのうち一種以上を含む粉末を使用することができる。すなわち、酸化物粉末(焼結抑制剤)は、酸化亜鉛、酸化銅、酸化カルシウムのうち何れか一種を含む粉末でもよく、あるいは、酸化亜鉛、酸化銅、酸化カルシウムのうち何れか二種以上を含む粉末でもよい。PtAu還元粉末とよく混ざり合うように、平均粒径0.3~10μmの酸化物粉末を用いることが好ましい。
【0029】
酸化物粉末の投入量は、例えば、PtAu還元粉末重量の1~15倍量加えることができる。好ましくは1.5~10倍量が望ましい。また、酸化物粉末の投入量を増やすことでPtAu合金粉末の平均粒径は小さくなる傾向がある。
【0030】
焼結抑制剤を除去する酸としては、硝酸または塩酸または硫酸を用いることができる。例えば、希硝酸を撹拌しながら熱処理後の混合粉末を投入し、撹拌して焼結抑制剤を溶解させることでPtAu合金粉末(灰黒色粉末)が得られる。
【0031】
PtAu合金粉末の平均粒径は熱処理温度、酸化物粉末/PtAu還元粉末比で制御することができる。熱処理温度が350℃より低いと粒子内で金属原子の拡散が進行せず合金化度は小さくなり、熱処理温度が1050℃を超えると、粒子間の焼結により粒成長が促進され、平均粒径およびスパン値は大きくなる。本発明によれば、合金化度が85%以上、平均粒径が0.5~10.0μm、粒度分布の狭さを表すスパン値が1.3~1.8であるPtAu合金粉末が得られる。導電回路を形成する観点より平均粒径の上限は8.0μm以下が好ましく、さらに5.0μm以下が好ましい。下限は1.0μm以上が好ましい。
【0032】
本発明において、化合物の価数によらず合金化度の高いPtAu粉末が得られる。ただし、Pt化合物が4価のPt化合物であり、Au化合物が3価のAu化合物であることが好ましい。
【実施例0033】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、それらに限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
Pt28.5gを含むPt濃度200g/Lのヘキサクロロ白金(IV)酸(H[PtCl])水溶液と、Au1.5gを含むAu濃度400g/Lのテトラクロロ金(III)酸(H[AuCl])水溶液とを混合して、貴金属化合物混合液を用意した。
【0035】
室温にて純水5 Lに硫酸ヒドラジン200 g、28%アンモニア水150mLを加えpH8.5に調整し、撹拌しながら60℃に加温して、還元溶液を用意した。
【0036】
上記の還元溶液に貴金属化合物混合液を加えて撹拌すると、黒色粉末を得た。
【0037】
上記の黒色粉末を純水で洗浄・ろ過し、乾燥させた後、乾燥した黒色粉末をミキサー処理にて、解砕することでPtAu還元粉末29.4gを得た。
【0038】
次いで、平均粒径0.5μmの酸化亜鉛粉末をPtAu還元粉末重量の2倍量加え、さらにミキサー処理を行った。この処理で、PtAu還元粉末と酸化亜鉛粉末を混合し、混合粉末を得た。
【0039】
混合粉末をアルミナボートに入れ、大気中、1000℃で1時間熱処理を行った。
【0040】
20%硝酸水溶液3Lに熱処理後の混合粉末を投入し、2時間撹拌して酸化亜鉛を溶解させることでPtAu合金粉末(灰黒色粉末)を得た。
【0041】
そのPtAu合金粉末(灰黒色粉末)を純水にて洗浄・ろ過し、乾燥することで、平均粒径2.0μm、合金化率99.1%のPtAu合金粉末を得た。収率は93%であった。
【0042】
得られたPtAu合金粉末の粒径はレーザー回折散乱式粒度分布測定法で測定した。粒度分布の積算値が10%、50%、90%に相当するD10、D50、D90を求め、D50を平均粒径とした。また、粒径ばらつきの指標となるスパン値は以下の式より求められる。スパン値が小さいほど粒度分布が狭く、粒径の均一な粒子であることを示す。
スパン値={ (D90 ― D10) / D50 }
【0043】
得られたPtAu合金粉末の合金化度は、X線回折(XRD)測定により求めた。XRDスペクトルを測定し、PtAu合金粉末(220)面の回折ピークを、Pt(220)面、 Au(220)面、 PtAu合金(220)面の3つのローレンツ関数に分離することでフィッティングし、Pt(220)面のピーク面積x1、 Au(220)面のピーク面積x2、 PtAu合金(220)面のピーク面積 X、を得て以下の式より合金化度を算出した。
合金化度={ X / (x1 + x2 + X) } ×100
【0044】
(実施例2-15)
下記表1の記載事項に従い、Pt化合物、Au化合物、合金粉末のAu含有率、焼結抑制剤として使用する酸化物種、酸化物粉末/PtAu粉末重量比及び熱処理温度を変える以外、実施例1と同様にしてPtAu合金粉末を得た。
【0045】
(比較例1)
比較例1は、熱処理工程を行わない例である。
実施例1と同様にして、還元溶液に貴金属化合物混合液を加えて還元させ、洗浄、乾燥、解砕して比較例1のPtAu還元粉末を得た。
【0046】
(比較例2)
比較例2は、酸化物粉末(焼結抑制剤)を加えずに熱処理を行う例である。
酸化亜鉛(焼結抑制剤)粉末を加えずに熱処理を行う以外、実施例12と同様にして製造し、比較例2のPtAu合金粉末を得た。
【0047】
(比較例3)
比較例3はAu含有率を60%とする例である。Au化合物の混合比が60%であること以外、実施例1と同様にして製造し、比較例3のPtAu合金粉末を得た。
【0048】
実施例1~15及び比較例1~3のPtAu合金粉末の平均粒径、スパン値及び合金化度を測定し、その結果を表1に示す。また、実施例11及び比較例1の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図1、2に示す。
【0049】
下記表1及び図1、2の結果から明らかなように、本発明に従う実施例1~15は粒径が均一で合金化度の高い粒子が得られている。一方、比較例1は熱処理をしていないため合金化度が低い粒子であり、比較例2は粒子どうしの凝集が進行し、粒度分布が広く、比較例3は粒度分布が広く合金化度が低い粒子であることがわかる。
【0050】
粒度分布の狭さを比較すると、表1より酸化物粉末と混合せずに熱処理を行った比較例2のスパン値は2.0であるのに対し、実施例1のスパン値は1.5であり、粒度分布の狭い粒子が得られている。
【0051】
【表1】

図1
図2