(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006037
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】地盤推定方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/00 20060101AFI20240110BHJP
G01V 1/00 20240101ALI20240110BHJP
【FI】
E02D1/00
G01V1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106578
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萩原 由訓
【テーマコード(参考)】
2D043
2G105
【Fターム(参考)】
2D043AA01
2D043AA09
2D043AB07
2D043BA10
2G105AA02
2G105BB01
2G105DD02
2G105EE02
2G105LL03
2G105LL04
2G105LL05
(57)【要約】
【課題】複数地点の地盤情報を活用して精度良く硬質基盤の深さを推定する。
【解決手段】地表面の下方の硬質基盤の深さを推定する地盤推定方法であって、第一地点のせん断波速度である第一せん断波速度Vs1を求める第一せん断波速度特定ステップと、第二地点のせん断波速度である第二せん断波速度Vs2を求める第二せん断波速度特定ステップと、前記第一せん断波速度と前記第二せん断波速度とから、前記硬質基盤の深さが未調査の第三地点のせん断波速度である第三せん断波速度Vs3を推定する第三せん断波速度推定ステップと、を有し、前記第三地点の卓越振動数をf3としたときに、前記第三地点の硬質基盤の深さH3を、H3=Vs3/(4×f3)で求める、地盤推定方法である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地表面の下方の硬質基盤の深さを推定する地盤推定方法であって、
第一地点のせん断波速度である第一せん断波速度Vs1を求める第一せん断波速度特定ステップと、
第二地点のせん断波速度である第二せん断波速度Vs2を求める第二せん断波速度特定ステップと、
前記第一せん断波速度と前記第二せん断波速度とから、前記硬質基盤の深さが未調査の第三地点のせん断波速度である第三せん断波速度Vs3を推定する第三せん断波速度推定ステップと、
を有し、
前記第三地点の卓越振動数をf3としたときに、前記第三地点の硬質基盤の深さH3を、H3=Vs3/(4×f3)で求める、
地盤推定方法。
【請求項2】
空間補間法により、前記第三せん断波速度Vs3を推定する、
請求項1に記載の地盤推定方法。
【請求項3】
前記第一せん断波速度Vs1を、当該第一地点の硬質基盤の深さH1及び卓越振動数f1に基づき、Vs1=4H1×f1により求め、
前記第二せん断波速度Vs2を、当該第二地点の硬質基盤の深さH2及び卓越振動数f2に基づき、Vs2=4H2×f2により求める、
請求項1又は2に記載の地盤推定方法。
【請求項4】
前記第一地点の卓越振動数f1及び前記第二地点の卓越振動数f2の少なくとも一方を、空間補間法により推定する、
請求項3に記載の地盤推定方法。
【請求項5】
前記第一せん断波速度Vs1及び前記第二せん断波速度Vs2を、各々PS検層により求める、
請求項1又は2に記載の地盤推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、地盤で測定した常時微動の測定結果から硬質基盤の深さを推定する地盤推定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の地盤推定方法では、複数地点における常時微動の測定結果等の地盤情報を活用して硬質基盤の深さを推定する際に、精度良く推定することが困難であった。
【0005】
本発明は、複数地点の地盤情報を活用して精度良く硬質基盤の深さを推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の幾つかの実施形態は、地表面の下方の硬質基盤の深さを推定する地盤推定方法であって、第一地点のせん断波速度である第一せん断波速度Vs1を求める第一せん断波速度特定ステップと、第二地点のせん断波速度である第二せん断波速度Vs2を求める第二せん断波速度特定ステップと、前記第一せん断波速度と前記第二せん断波速度とから、前記硬質基盤の深さが未調査の第三地点のせん断波速度である第三せん断波速度Vs3を推定する第三せん断波速度推定ステップと、を有し、前記第三地点の卓越振動数をf3としたときに、前記第三地点の硬質基盤の深さH3を、H3=Vs3/(4×f3)で求める、地盤推定方法である。
【0007】
本発明の他の特徴については、後述する明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の幾つかの実施形態によれば、複数地点の地盤情報を活用して精度良く硬質基盤の深さを推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、第1実施形態の地盤推定方法の概要説明図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の基盤深さ分布の推定手順を示すフロー図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態において、判定地点(a~e)で卓越振動数を判定する様子を示す説明図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態において、調査地点(b,d)で基盤深さを測定し、せん断波速度を計算する様子を示す説明図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態において、敷地全体のせん断波速度分布を推定し、基盤深さ分布を推定する様子を示す説明図である。
【
図6】
図6は、逆距離加重法の説明図であり、
図6Aは、対象点及び周辺点の説明図であり、
図6Bは、逆距離加重法の計算式である。
【
図7】
図7は、実際の基盤深さ分布を示す一例である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の地盤推定方法により推定した基盤深さ分布を示す一例である。
【
図9】
図9は、第1変形例の地盤推定方法により推定した基盤深さ分布を示す一例である。
【
図10】
図10は、第2変形例の地盤推定方法により推定した基盤深さ分布を示す一例である。
【
図11】
図11は、第2実施形態の基盤深さ分布の推定手順を示すフロー図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態において、判定地点(a,c,e)で卓越振動数を判定し、敷地全体の卓越振動数分布を推定する様子を示す説明図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態において、調査地点(b,d)で基盤深さを測定し、せん断波速度を計算する様子を示す説明図である。
【
図14】
図14は、第2実施形態において、敷地全体のせん断波速度分布を推定し、基盤深さ分布を推定する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
後述する明細書及び図面の記載から、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
地表面の下方の硬質基盤の深さを推定する地盤推定方法であって、第一地点のせん断波速度である第一せん断波速度Vs1を求める第一せん断波速度特定ステップと、第二地点のせん断波速度である第二せん断波速度Vs2を求める第二せん断波速度特定ステップと、前記第一せん断波速度と前記第二せん断波速度とから、前記硬質基盤の深さが未調査の第三地点のせん断波速度である第三せん断波速度Vs3を推定する第三せん断波速度推定ステップと、を有し、前記第三地点の卓越振動数をf3としたときに、前記第三地点の硬質基盤の深さH3を、H3=Vs3/(4×f3)で求める、地盤推定方法が明らかとなる。
【0012】
このような地盤推定方法によれば、複数地点の地盤情報を活用して精度良く硬質基盤の深さを推定することができる。
【0013】
地盤推定方法では、空間補間法により、前記第三せん断波速度Vs3を推定する。
【0014】
これにより、硬質基盤の深さが未調査の地点のせん断波速度を精度良く推定できる。
【0015】
地盤推定方法では、前記第一せん断波速度Vs1を、当該第一地点の硬質基盤の深さH1及び卓越振動数f1に基づき、Vs1=4H1×f1により求め、前記第二せん断波速度Vs2を、当該第二地点の硬質基盤の深さH2及び卓越振動数f2に基づき、Vs2=4H2×f2により求める。
【0016】
これにより、硬質基盤の深さを推定するのに際し、複数地点の地盤情報を活用することができる。
【0017】
地盤推定方法では、前記第一地点の卓越振動数f1及び前記第二地点の卓越振動数f2の少なくとも一方を、空間補間法により推定する。
【0018】
これにより、常時微動の測定を行うことができない地点でも、卓越振動数を推定することができる。
【0019】
地盤推定方法では、前記第一せん断波速度Vs1及び前記第二せん断波速度Vs2を、各々PS検層により求める。
【0020】
これにより、硬質基盤の深さを推定するのに際し、複数地点の地盤情報を活用することができる。
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を説明する。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。
【0022】
===第1実施形態===
図1は、第1実施形態の地盤推定方法の概要説明図である。
【0023】
<方向等の定義>
まず、
図1を参照しつつ、方向等を定義する。
【0024】
水平面に平行な方向を「水平方向」とし、水平面に垂直な方向を「鉛直方向」とする。なお、本実施形態では、後述するように、地表面2は、水平面に平行である。このため、本実施形態では、「水平方向」は、地表面2に平行な方向でもあり、「鉛直方向」は、地表面2に垂直な方向でもある。なお、鉛直方向のことを「上下方向」と呼ぶこともある。
【0025】
なお、上述した方向等の定義については、特記した場合を除き、本明細書の他の実施形態においても共通である。
【0026】
<地盤推定方法の概要>
【0027】
本実施形態の地盤推定方法を説明するために、地盤推定の対象となる地盤1について説明する。
図1に示すように、地盤1は、地表面2と、表層地盤3と、硬質基盤4とを有する。
【0028】
地表面2は、地盤1の表面部分である。本実施形態では、地表面2は、水平面に平行である。但し、地表面2は、水平面に平行でなくても良い。表層地盤3は、地表面2のすぐ下方(直下)に存在する層の地盤である。硬質基盤4は、表層地盤3の下方に存在する層の地盤である。硬質基盤4は、表層地盤3よりも硬い層の地盤である。
【0029】
以下の説明では、硬質基盤4のことを、単に「基盤4」と呼ぶことがある。本実施形態では、地表面2に対する硬質基盤4の深さは、水平方向における領域毎に異なっている。本実施形態では、
図1に示されるように、地表面2のa地点,b地点,c地点,d地点及びe地点の各々における硬質基盤4の深さを、それぞれ、Ha,Hb,Hc,Hd,及びHeとしている。なお、硬質基盤4の深さHa~Heの全てを指す場合や、硬質基盤4の深さHa~Heのいずれか一つのことを代表して、「Hx」と呼ぶことがある。
【0030】
ここで、「硬質基盤4の深さ」とは、地表面2から硬質基盤4の上面までの鉛直方向の距離を言う。言い換えると、硬質基盤4の深さは、表層地盤3の厚みである。なお、以下の説明では、「硬質基盤4の深さ」を、単に「基盤深さ」や、「深さ」と呼ぶことがある。また、「硬質基盤4の上面」を、単に「基盤の面」と呼ぶことがある。
【0031】
また、硬質基盤4の深さが「水平方向における領域毎に異なっている」とは、
図1に示されるa地点~e地点における深さHa~Heを用いて説明すると、深さHa~Heが互いに異なっている、ことを意味する。但し、a地点~e地点のうち、硬質基盤4の深さが等しい地点があっても良く、例えば、深さHaと深さHcとが等しくても良い。
【0032】
また、本実施形態では、
図1に示されるように、a地点,b地点,c地点,d地点及びe地点の各々の地中におけるせん断波速度を、それぞれ、Vsa,Vsb,Vsc,Vsd及びVseとする。なお、せん断波速度Vsa~Vseの全てを指す場合や、せん断波速度Vsa~Vseのいずれか一つのことを代表して、「Vsx」と呼ぶことがある。
【0033】
ここで、「せん断波速度」とは、地中を伝わるS波(「横波」又は「せん断波」とも言う)の伝播速度である。せん断波速度は、P波(「縦波」又は「粗密度」とも言う)速度と共に、弾性波速度の一つである。せん断波速度を含む弾性波速度は、物体(ここでは、地盤1)における固有の伝播速度であって、本実施形態の地盤1の動的性質を知る上での基本的定数となる。
【0034】
地盤1のa地点~e地点の各々におけるせん断波速度Vsxは、硬質基盤4の深さHxと、後述する卓越振動数fxとから計算により求めることができる。また、せん断波速度Vsxは、ボーリング孔を用いて行うPS検層により計測することもできる。
【0035】
また、本実施形態では、
図1に示されるように、a地点,b地点,c地点,d地点及びe地点における卓越振動数を、それぞれ、fa,fb,fc,fd及びfeとする。なお、卓越振動数fa~feの全てを指す場合や、卓越振動数fa~feのいずれか一つのことを代表して、「fx」と呼ぶことがある。
【0036】
ここで、「卓越振動数」とは、地盤1の固有振動数であり、地盤1の振動特性を示す一つの指標である。卓越振動数に基づいて、地震時における地盤1の揺れ易さなどの特性を推定することができる。地盤1における卓越振動数は、地盤1の常時微動を測定し、常時微動の測定結果を解析することにより判定することができる。
【0037】
卓越振動数は、より具体的には、常時微動の測定結果から算出するH/Vスペクトル比(H/Vスペクトル)が最も高い値をとる振動数を卓越振動数として判定することができる。
図1の上部には、a地点~e地点の各地点におけるH/Vスペクトル比と振動数との関係(グラフ)が示されている。このグラフに示されるように、H/Vスペクトル比のピークにおける振動数を卓越振動数として判定することができる。なお、卓越振動数は、他の方法により判定されても良い。
【0038】
ここで、「常時微動」とは、地盤1に常に発生している小さな振動である。一般的に、常時微動のうち、周期1秒よりも短周期の振動は人間の活動による人工的な振動源が原因であると考えられている。また、周期1秒よりも長周期の振動は波浪や気圧変化などの自然現象が原因であると考えられている。
【0039】
地盤1のa地点~e地点の各地点における常時微動を測定する際は、不図示の微動計を地盤1のa地点~e地点の各地点における地表面2に設置する。微動計は、各種のデータやプログラムを記憶する記憶部及び各種の演算を行う演算処理部を備えたコンピュータ(不図示)と通信可能に接続されており、常時微動の測定以外の処理は、当該コンピュータにて行う。
【0040】
ある地点において、未知の硬質基盤4の深さHxを、当該地点の既知のせん断波速度Vsxと、当該地点の既知の卓越振動数fxとから推定することができる。本実施形態の地盤推定方法によれば、後述するように、せん断波速度Vsxと卓越振動数fxとが既知である地点が複数存在する場合に、これらの複数地点における地盤情報(ここでは、せん断波速度Vsxや卓越振動数fx)を活用して、深さが未知の地点において、精度良く硬質基盤の深さを推定することができる。すなわち、複数地点における地盤情報を活用して、精度良く地盤1全体の基盤深さ分布を推定することができる。
【0041】
なお、
図1では、地盤1のa地点~e地点は、水平方向における、ある一つの方向に並んでいる。しかし、実際には、地盤1の地表面2を複数の格子状の区画に分割し、それぞれの区画においてせん断波速度Vsxが計算され、卓越振動数fxが判定される。本実施形態では、これらの複数の区画の一例として、
図1に示されるように、ある一つの方向に並んだ複数のa地点~e地点を取り上げている。
【0042】
<基盤深さ分布の推定手順>
図2は、第1実施形態の基盤深さ分布の推定手順を示すフロー図である。
図3は、第1実施形態において、判定地点(a~e)で卓越振動数を判定する様子を示す説明図である。
図4は、第1実施形態において、調査地点(b,d)で基盤深さを測定し、せん断波速度を計算する様子を示す説明図である。
図5は、第1実施形態において、敷地全体のせん断波速度分布を推定し、基盤深さ分布を推定する様子を示す説明図である。
【0043】
以下では、本実施形態の地盤推定方法の一例として、上述したa地点~e地点を含む地盤1の基盤深さ分布の推定手順を説明する。ここでは、b地点及びd地点を、硬質基盤4の深さが既知である地点とし、a地点,c地点及びe地点を、硬質基盤4の深さが未知である地点とする。すなわち、後述するように、基盤深さ調査地点として、b地点及びd地点における基盤深さを調査し、b地点の基盤深さHbと、d地点の基盤深さHdとを既知のデータとする。そして、これらの既知のデータを用いて、基盤深さ未調査地点のa地点,c地点及びe地点を推定する。つまり、既知のデータを用いて、地盤1の基盤深さ分布を推定する。
【0044】
本実施形態の基盤深さ分布の推定手順では、まず、地盤1のa地点~e地点の各々において、卓越振動数fxを判定する(S001)。a地点~e地点の各々における卓越振動数は、上述したように、常時微動の測定結果から算出するH/Vスペクトル比(H/Vスペクトル)が最も高い値をとる振動数を判定する。これにより、
図3に示されるように、a地点~e地点において、卓越振動数fa~feが判定される。
【0045】
次に、上述した基盤深さ調査地点であるb地点及びd地点において、b地点における基盤深さHb、及びd地点における基盤深さHdを測定する(S002)。
図4に示されるように、硬質基盤4の実際の基盤の面5までボーリング孔を形成し、基盤深さHb及びHdを測定する。
【0046】
次に、上述した基盤深さ調査地点であるb地点及びd地点において、b地点におけるせん断波速度Vsb、及びd地点におけるせん断波速度Vsdを計算する(S003)。
【0047】
ここで、地表面2の下方にある硬質基盤4の深さをHとし、せん断波速度をVsとし、卓越振動数をfとしたとき、基盤深さHは、次の数式1で表されるように、卓越振動数f及びせん断波速度Vsを用いて推定することができる。
【0048】
【0049】
ここで、数式1をせん断波速度Vsについて解くと、次の数式2で表される。
【0050】
【0051】
したがって、上述した数式2を用いて、b地点におけるせん断波速度Vsbは、
図4に示されるように、既知の基盤深さHb及び既知の卓越振動数fbを用いて、「4Hb×fb」として求めることができる。同様に、上述した数式2を用いて、d地点におけるせん断波速度Vsdは、
図4に示されるように、既知の基盤深さHd及び既知の卓越振動数fdを用いて、「4Hd×fd」として求めることができる。
【0052】
なお、b地点におけるせん断波速度Vsb及びd地点におけるせん断波速度Vsdは、上述した数式2を用いる方法ではなく、各々PS検層により求めることもできる。PS検層は、ボーリング孔を用いて、地盤1のせん断波速度を含む弾性波速度を求める物理探査法である。
【0053】
PS検層としては、地盤1の地表面2付近に振動源をおき、ボーリング孔内に受振器を入れる測定方法であるダウンホール法や、ボーリング孔内に振動源を入れ、地盤1の地表面2付近に受振器を設置する測定方法であるアップホール法を採用することができる。また、PS検層としては、振動源と複数の受振器が一体となった装置をボーリング孔内に入れ、孔壁に圧着させずに装置の深度を変えながら連続的に測定する測定方法である浮遊法を採用しても良い。
【0054】
次に、基盤深さが未調査の地点であるa地点,c地点及びe地点において、a地点におけるせん断波速度Vsa、c地点におけるせん断波速度Vsc、及びe地点におけるせん断波速度Vseを推定する(S004)。a地点,c地点及びe地点では、上述したように基盤深さが未調査であるので、上述した数式2を用いてせん断波速度Vsa,Vsc及びVseを求めることができない。そこで、本実施形態の基盤深さ分布の推定手順では、既知のb地点におけるせん断波速度Vsb、及び既知のd地点におけるせん断波速度Vsdを用いて、空間補間法により、
図5に示されるように、未知のせん断波速度Vsa,Vsc及びVseを推定する。
【0055】
空間補間法は、観測値などの既知のデータ(ここでは、既知のVsb及びVsd)を用いて、観測値の周辺にある未知のデータ(ここでは、未知のVsa,Vsc及びVse)を推測する際に用いる手法である。具体的には、本実施形態の基盤深さ分布の推定手順では、空間補間法の一つである逆距離加重法(IDW)を用いて、未知のVsa,Vsc及びVseを推定する。
【0056】
但し、基盤深さ分布の推定手順では、逆距離加重法以外の空間補間法、すなわち、クリギング、スプライン、自然近傍法(Natural Neighbor)、トレンド等の手法を用いても良い。また、基盤深さ分布の推定手順では、通常距離加重法(NDW)、三角形分割補間(TIN)、不整三角網等の空間補間法の手法を用いても良い。
【0057】
図6は、逆距離加重法の説明図であり、
図6Aは、対象点及び周辺点の説明図であり、
図6Bは、逆距離加重法の計算式である。
【0058】
図6Aでは、データが既知の点(すなわち、周辺点)を●(黒丸の印)で表している。すなわち、周辺点xi(i=0,1,・・・N)では、周辺点xiにおける値u(xi)を既知のデータとする。このとき、データを推定したい対象点xの未知の値u(x)は、
図6Bに示される式に従って求めることができる。ここで、d(x,xi)は、対象点xと周辺点xiとの距離であり、pは、重みづけのパラメータである。
【0059】
したがって、本実施形態の基盤深さ分布の推定手順では、基盤深さが未調査の地点であるa地点,c地点及びe地点のせん断波速度Vsa,Vsc及びVseを推定することができる。すなわち、地盤1の敷地全体のせん断波速度分布を推定することができる(S004)。
【0060】
最後に、本実施形態の基盤深さ分布の推定手順では、地盤1の敷地全体の基盤深さ分布を推定する(S005)。すなわち、基盤深さが未調査の地点であるa地点,c地点及びe地点において、上述した数式1を用いて、基盤深さHa,Hc,Heを推定する。具体的には、a地点における基盤深さHaは、
図5に示されるように、推定されたせん断波速度Vsa及び既知の卓越振動数fbを用いて、「Vsa/4fa」として求めることができる。同様に、c地点における基盤深さHcは、
図5に示されるように、推定されたせん断波速度Vsc及び既知の卓越振動数fcを用いて、「Vsc/4fc」として求めることができる。同様に、e地点における基盤深さHeは、
図5に示されるように、推定されたせん断波速度Vse及び既知の卓越振動数feを用いて、「Vse/4fe」として求めることができる。
【0061】
図7は、実際の基盤深さ分布を示す一例である。
図8は、第1実施形態の地盤推定方法により推定した基盤深さ分布を示す一例である。
図7及び
図8に示される「標高」は、基盤深さに相当する。
【0062】
図7及び
図8を見比べると、実際の基盤深さ分布と、推定した基盤深さ分布との間に顕著な差が見られず、精度良く硬質基盤の深さを推定できていることがわかる。つまり、本実施形態の地盤推定方法では、複数地点の地盤情報を活用して精度良く硬質基盤の深さを推定することができる。
【0063】
<変形例>
図9は、第1変形例の地盤推定方法により推定した基盤深さ分布を示す一例である。
【0064】
前述した本実施形態の基盤深さ分布の推定手順では、既知のb地点におけるせん断波速度Vsb、及び既知のd地点におけるせん断波速度Vsdを用いて、空間補間法により、未知のせん断波速度Vsa,Vsc及びVseを推定した(
図2のS004)。しかし、既知のせん断波速度Vsb、及び既知のせん断波速度Vsdとから平均せん断波速度Vaveを求め、平均せん断波速度Vsaveを、敷地全体のせん断波速度の推定値とすることもできる。つまり、第1変形例の基盤深さ分布の推定手順では、敷地全体のせん断波速度として、一律の平均せん断波速度Vsaveを、基盤深さHxを推定するために用いることになる。
【0065】
但し、平均せん断波速度Vsaveは、b地点のせん断波速度Vsd、及びd地点のせん断波速度Vsdとは、異なる場合がある。このため、上述した数式1におけるせん断波速度Vsには、実際とは異なる平均せん断波速度Vsaveを用いて基盤深さHを推定することになる。このため、推定される地盤1の敷地全体の基盤深さ分布も、実際の地盤1の敷地全体の基盤深さ分布と異なることがある。
【0066】
図7及び
図9を見比べると、実際の基盤深さ分布と、推定した基盤深さ分布との間には、顕著な差が見られないが、
図8に示される空間補間法を使用した場合と比べると、差が大きく、広い敷地の場合は、不自然な分布となってしまう。したがって、不自然な分布となることをある程度許容できる場合や、狭い敷地の場合には、第1変形例の基盤深さ分布の推定手順の場合でも、複数地点の地盤情報を活用して精度良く硬質基盤の深さを推定することができる。
【0067】
図10は、第2変形例の地盤推定方法により推定した基盤深さ分布を示す一例である。
【0068】
第2変形例の基盤深さ分布の推定手順では、既知のb地点におけるせん断波速度Vsb、及び既知のd地点におけるせん断波速度Vsdを使用しつつ、b地点及びd地点以外の敷地全体のせん断波速度を、平均せん断波速度Vaveとすることもできる。言い換えると、第2変形例の基盤深さ分布の推定手順では、敷地全体のせん断波速度として、上述した一律の平均せん断波速度Vsaveを用いつつ、b地点及びd地点については、既知のせん断波速度Vsb及びVsdを用いて、基盤深さHxを推定する。
【0069】
第2変形例の基盤深さ分布の推定手順では、第1変形例の基盤深さ分布の推定手順と比べると、平均せん断波速度Vsaveがb地点のせん断波速度Vsd、及びd地点のせん断波速度Vsdと異なる場合であっても、b地点及びd地点については、既知のせん断波速度Vsb及びVsdで補間することができる。
【0070】
図7及び
図10を見比べると、実際の基盤深さ分布と、推定した基盤深さ分布との間には、顕著な差が見られないが、
図8に示される空間補間法を使用した場合と比べると、依然として差が大きく、広い敷地の場合は、不自然な分布となってしまう。したがって、不自然な分布となることをある程度許容できる場合や、狭い敷地の場合には、第2変形例の場合でも、複数地点の地盤情報を活用して精度良く硬質基盤の深さを推定することができる。
【0071】
===第2実施形態===
図11は、第2実施形態の基盤深さ分布の推定手順を示すフロー図である。
図12は、第2実施形態において、判定地点(a,c,e)で卓越振動数を判定し、敷地全体の卓越振動数分布を推定する様子を示す説明図である。
図13は、第2実施形態において、調査地点(b,d)で基盤深さを測定し、せん断波速度を計算する様子を示す説明図である。
図14は、第2実施形態において、敷地全体のせん断波速度分布を推定し、基盤深さ分布を推定する様子を示す説明図である。
【0072】
上述した第1実施形態の基盤深さ分布の推定手順では、地盤1のa地点~e地点の各々において、卓越振動数fxを判定していた(
図2のS001)。しかし、地盤1のa地点~e地点のうち、常時微動の測定を行うことができない場合がある。本実施形態のように、地盤1のb地点及びd地点において、例えば、地点上に建物が存在しており、常時微動の測定を行うことができない場合がある。このため、地盤1のb地点及びd地点においては、常時微動の測定による卓越振動数fxの判定を行うことができない。
【0073】
そこで、本実施形態の基盤深さ分布の推定手順では、b地点の卓越振動数fbと、d地点の卓越振動数fdとを、空間補間法により推定する。
【0074】
本実施形態の基盤深さ分布の推定手順では、まず、地盤1のa地点,c地点及びe地点の各々において、卓越振動数fxを判定する(S101)。a地点,c地点及びe地点の各々における卓越振動数fa,fc及びfeは、上述したように、常時微動の測定結果から算出するH/Vスペクトル比(H/Vスペクトル)が最も高い値をとる振動数を判定する。これにより、
図12に示されるように、a地点,c地点及びe地点において、卓越振動数fa,fc及びfeが判定される。
【0075】
次に、b地点の卓越振動数fbと、d地点の卓越振動数fdとを、空間補間法により推定する(S102)。なお、b地点の卓越振動数fbと、d地点の卓越振動数fdとを、卓越振動数fa,fc及びfeの平均により求めても良い。
【0076】
次に、上述した基盤深さ調査地点であるb地点及びd地点において、b地点における基盤深さHb、及びd地点における基盤深さHdを測定する(S102)。
図13に示されるように、硬質基盤4の実際の基盤の面5までボーリング孔を形成し、基盤深さHb及びHdを測定する。
【0077】
次に、上述した基盤深さ調査地点であるb地点及びd地点において、b地点におけるせん断波速度Vsb、及びd地点におけるせん断波速度Vsdを計算する(S103)。
【0078】
したがって、上述した数式2を用いて、b地点におけるせん断波速度Vsbは、
図13に示されるように、既知の基盤深さHb及び推定された卓越振動数fbを用いて、「4Hb×fb」として求めることができる。同様に、上述した数式2を用いて、d地点におけるせん断波速度Vsdは、
図13に示されるように、既知の基盤深さHd及び推定された卓越振動数fdを用いて、「4Hd×fd」として求めることができる。
【0079】
なお、b地点におけるせん断波速度Vsb及びd地点におけるせん断波速度Vsdは、上述した数式2を用いる方法ではなく、各々PS検層により求めることもできる。
【0080】
次に、基盤深さが未調査の地点であるa地点,c地点及びe地点において、a地点におけるせん断波速度Vsa、c地点におけるせん断波速度Vsc、及びe地点におけるせん断波速度Vseを推定する(S104)。なお、本実施形態の基盤深さ分布の推定手順でも、既知のb地点におけるせん断波速度Vsb、及び既知のd地点におけるせん断波速度Vsdを用いて、空間補間法により、
図14に示されるように、未知のせん断波速度Vsa,Vsc及びVseを推定する。
【0081】
したがって、本実施形態の基盤深さ分布の推定手順でも、基盤深さが未調査の地点であるa地点,c地点及びe地点のせん断波速度Vsa,Vsc及びVseを推定することができる。すなわち、地盤1の敷地全体のせん断波速度分布を推定することができる(S104)。
【0082】
最後に、本実施形態の基盤深さ分布の推定手順では、地盤1の敷地全体の基盤深さ分布を推定する(S105)。すなわち、基盤深さが未調査の地点であるa地点,c地点及びe地点において、上述した数式1を用いて、基盤深さHa,Hc,Heを推定する。具体的には、a地点における基盤深さHaは、
図14に示されるように、推定されたせん断波速度Vsa及び既知の卓越振動数fbを用いて、「Vsa/4fa」として求めることができる。同様に、c地点における基盤深さHcは、
図14に示されるように、推定されたせん断波速度Vsc及び既知の卓越振動数fcを用いて、「Vsc/4fc」として求めることができる。同様に、e地点における基盤深さHeは、
図14に示されるように、推定されたせん断波速度Vse及び既知の卓越振動数feを用いて、「Vse/4fe」として求めることができる。
【0083】
===まとめ===
地表面2の下方の硬質基盤4の深さを推定する地盤推定方法である。地盤推定方法は、第一地点(例えば、b地点)のせん断波速度である第一せん断波速度Vs1(Vsb)を求める第一せん断波速度特定ステップを有する。また、地盤推定方法は、第二地点(例えば、d地点)のせん断波速度である第二せん断波速度Vs2(Vsd)を求める第二せん断波速度特定ステップを有する。また、地盤推定方法は、第一せん断波速度と第二せん断波速度とから、硬質基盤4の深さが未調査の第三地点(例えば、c地点)のせん断波速度である第三せん断波速度Vs3(Vsc)を推定する第三せん断波速度推定ステップを有する。第三地点の卓越振動数をf3(fc)としたときに、第三地点の硬質基盤4の深さH3(Hc)を、H3=Vs3/(4×f3)で求める。
【0084】
このような地盤推定方法によれば、複数地点の地盤情報を活用して精度良く硬質基盤4の深さを推定することができる。
【0085】
地盤推定方法では、空間補間法により、第三せん断波速度Vs3を推定する。これにより、硬質基盤4の深さが未調査の地点のせん断波速度を精度良く推定できる。
【0086】
地盤推定方法では、第一せん断波速度Vs1を、当該第一地点の硬質基盤4の深さH1(Hb)及び卓越振動数f1(fb)に基づき、Vs1=4H1×f1により求め、第二せん断波速度Vs2を、当該第二地点の硬質基盤4の深さH2(Hd)及び卓越振動数f2(fd)に基づき、Vs2=4H2×f2により求める。これにより、硬質基盤4の深さを推定するのに際し、複数地点の地盤情報を活用することができる。
【0087】
地盤推定方法では、第一地点の卓越振動数f1及び第二地点の卓越振動数f2の少なくとも一方を、空間補間法により推定する。これにより、常時微動の測定を行うことができない地点でも、卓越振動数を推定することができる。
【0088】
地盤推定方法では、第一せん断波速度Vs1及び第二せん断波速度Vs2を、各々PS検層により求める。これにより、硬質基盤の深さを推定するのに際し、複数地点の地盤情報を活用することができる。
【0089】
===その他===
前述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更・改良され得ると共に、本発明には、その等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0090】
1 地盤
2 地表面
3 表層地盤
4 硬質基盤(基盤)
5 実際の基盤の面
6 推定された基盤の面