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特開2024-6038廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法、ポリエチレンテレフタレートの再生方法、及びポリエチレンテレフタレートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006038
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法、ポリエチレンテレフタレートの再生方法、及びポリエチレンテレフタレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/12 20060101AFI20240110BHJP
   C07C 63/26 20060101ALI20240110BHJP
   C07C 63/30 20060101ALI20240110BHJP
   C07C 51/09 20060101ALI20240110BHJP
   C08G 63/183 20060101ALI20240110BHJP
   C08G 63/88 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C08J11/12 ZAB
C07C63/26 A
C07C63/30
C07C51/09
C08G63/183
C08G63/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106580
(22)【出願日】2022-06-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.刊行物名 令和3年度化学系学協会東北大会オンライン講演要旨集 2.発表日 令和3年9月27日 3.発表者 本宮拓実、吉田曉弘、阿布里提、渡辺壱、渡辺忠一、熊谷将吾、吉岡敏明 〔刊行物等〕 1.講演会名 令和3年度化学系学協会東北大会 2.発表日 令和3年10月3日 3.発表者 本宮拓実 〔刊行物等〕 1.刊行物名 第32回廃棄物資源循環学会オンライン講演要旨集 2.発表日 令和3年10月12日 3.発表者 本宮拓実、吉田曉弘、阿布里提、渡辺壱、渡辺忠一、熊谷将吾、吉岡敏明 〔刊行物等〕 1.講演会名 第32回廃棄物資源循環学会 2.発表日 令和3年10月25日 3.発表者 本宮拓実
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)NEDO先導研究プログラム、エネルギー・環境新技術先導研究プログラム「プラスチックの化学原料化再生プロセス開発」(2019年度~2021年度)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】521490133
【氏名又は名称】吉田 曉弘
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】590000455
【氏名又は名称】一般財団法人石油エネルギー技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】吉田 曉弘
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 将吾
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 敏明
(72)【発明者】
【氏名】高澤 隆一
【テーマコード(参考)】
4F401
4H006
4J029
【Fターム(参考)】
4F401AA04
4F401AA05
4F401AA09
4F401AA10
4F401AA11
4F401AA13
4F401AA22
4F401BA06
4F401CA22
4F401CA30
4F401CA67
4F401CA70
4F401DC01
4F401EA24
4F401FA01Z
4F401FA06Z
4F401FA07Z
4H006AA02
4H006AC46
4H006BC10
4H006BC19
4H006BJ50
4H006BM10
4H006BM72
4H006BS30
4J029AA03
4J029AB05
4J029BA03
4J029CB06A
4J029HB05
4J029KG01
4J029KG02
4J029KH05
(57)【要約】
【課題】ポリエチレンテレフタレート以外のプラスチック材料も含む複数種のプラスチック材料の雑多な混合物から、ポリエチレンテレフタレートのみをリサイクルすることを可能にする、廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック混合物を、気密容器中で、200℃以上330℃以下の温度にまで加熱することにより、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を分離する、廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック混合物を、気密容器中で、200℃以上330℃以下の温度にまで加熱することにより、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を分離する、廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法。
【請求項2】
前記廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーの存在量比が、1:8から8:1(重量比、ポリエチレンテレフタレート:塩素含有ポリマー)である、請求項1に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法。
【請求項3】
ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック混合物の、200℃以上330℃以下の温度での加熱時間が、2時間以上60時間以下である、請求項1又は2に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法。
【請求項4】
前記塩素含有ポリマーは、熱分解により塩化水素を発生するポリマーである、請求項1又は2に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法。
【請求項5】
熱分解により塩化水素を発生する前記ポリマーが、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、ポリクロロプレン、塩素化天然ゴムからなる群から選択される、少なくとも1種である、請求項4に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法。
【請求項6】
さらに、気密容器中に塩化水素を導入する、請求項4に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法。
【請求項7】
前記廃プラスチック混合物が、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーに加えて、少なくともポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリスチレンを更に含む、請求項1又は2に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法。
【請求項8】
請求項1に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法により得られる、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を、縮合する工程を有するポリエチレンテレフタレートの再生方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法により得られる、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を、縮合する工程を有するポリエチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項10】
ポリエチレンテレフタレートを含む廃プラスチック混合物を、塩素含有ガスの存在下で、気密容器中で、200℃以上330℃以下の温度にまで加熱することにより、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を分離する、廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法。
【請求項11】
前記塩素含有ガスが、塩化水素である、請求項10に記載のプラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法、ポリエチレンテレフタレートの再生方法、及びポリエチレンテレフタレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、家庭系のプラスチック廃棄物のリサイクルにおいては、家庭で使用される複数のプラスチック材料が混合された、廃プラスチック混合物としての状態でリサイクルに供されることが一般的である。また、家庭にて使用される一部のプラスチック容器については、そもそも、その容器における各部位の要求特性に合わせ、ひとつのプラスチック容器に複数種のプラスチック材料が用いられることもある。例えば、家庭用調味料のプラスチック容器は、ボトル部分はポリエチレンテレフタレートを成型したものを用いることが多いが、キャップや注ぎ口部分については、ポリオレフィン等の異なるプラスチック素材が使用されている。このように、プラスチック製品に含まれる、各種プラスチック素材の種類や含有量は製品ごとに多岐にわたるため、廃プラスチック材料をそのまま素材化する、マテリアルリサイクルを実施する上での妨げとなりうる。
【0003】
一方、ケミカルリサイクルの分野においては、従来、セメント製造時の焼却灰としての利用や、高炉還元剤・コークス炉化学原料としての利用等が試みられてきたが、これらの技術では廃プラスチック材料は最終的に二酸化炭素となるため、資源循環性の観点から問題があった。このため、近年では、廃プラスチック材料の更なる有効利用のための方策として、よりプラスチック材料に近い物質を生産する、燃焼を伴わない、ケミカルリサイクル技術の重要性も高まっている。
【0004】
廃プラスチック材料を構成するプラスチック材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、及びポリスチレン(PS)等の炭化水素系のプラスチック材料が大半を占めており、それ以外に塩素原子を含有するポリマー(塩素含有ポリマー)等が混入している場合もある。
【0005】
塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック材料の処理方法やそれに用いる処理装置としては、例えば、特許文献1に、脱塩素化炉と、発生ガス処理装置とを備え、脱塩素炉と発生ガス処理装置との間に、ヒータを有するガス排気管を設けたことを特徴とする廃プラスチック処理装置を使用した廃プラスチック材料の処理方法が開示されている。また、特許文献2には、塩素含有ポリマーの加熱、脱塩素処理に最適な、廃プラスチック材料の熱処理装置であって、廃プラスチックを受け入れる容器と、該容器底部の排出バルブから抜き出した溶融廃プラスチックを容器上部へ再装入する循環用配管と、排ガスの清浄手段と、熱媒体の供給手段とを備えた廃プラスチックの熱処理装置、及びこれを用いた廃プラスチック材料の処理方法が開示されている。さらに、特許文献3には、混合プラスチック廃棄物の粉砕物を、常温から330℃の範囲で段階的に昇温熱分解し、ガス生成物と融解固体物に分離することを特徴とする混合プラスチック廃棄物処理物を得るための処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-313887号公報
【特許文献2】特開2005-059549号公報
【特許文献3】特開平成05-245463号公報
【発明の概要】
【0007】
このように、廃プラスチック材料を、いわゆる熱処理や熱分解により、より低分子量化して再利用する試みは従来から行われていたものの、ケミカルリサイクルの観点から、特定のプラスチック材料のみを、回収・分解し、これを当該プラスチック材料に再生した事例は、今まで知られていなかった。上述のとおり、通常、家庭系のプラスチック廃棄物には、ポリエチレンテレフタレート以外にも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の他のプラスチック材料も含まれており、このような複数種のプラスチック材料の雑多な混合物から、特定のプラスチック材料のみをリサイクルすることは、相応に困難なものであった。
【0008】
よって、本発明は、以上の課題にかんがみてなされたものであり、ポリエチレンテレフタレート以外のプラスチック材料も含む複数種のプラスチック材料の雑多な混合物から、ポリエチレンテレフタレートのみをリサイクルすることを可能にする、廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法を提供することを目的とする。
【0009】
本発明の発明者らは、上記課題にかんがみ、鋭意研究を行った。その結果、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック混合物を、気密容器中で、所定の温度にまで加熱し、得られた分解産物の混合物を分離することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
本発明の第1の態様は、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック混合物を、気密容器中で、200℃以上330℃以下の温度にまで加熱することにより、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を分離する、廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法である。
【0011】
本発明の第2の態様は、上記廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーの存在量比が、1:8から8:1(重量比、ポリエチレンテレフタレート:塩素含有ポリマー)である、上記第1の態様に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法である。
【0012】
本発明の第3の態様は、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック混合物の、200℃以上330℃以下の温度での加熱時間が、1時間以上60時間以下である、上記第1又は第2の態様に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法である。
【0013】
本発明の第4の態様は、上記塩素含有ポリマーは、熱分解により塩化水素を発生するポリマーである、上記第1から第3のいずれかの態様に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法である。
【0014】
本発明の第5の態様は、熱分解により塩化水素を発生する上記ポリマーが、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、ポリクロロプレン、塩素化天然ゴムからなる群から選択される、少なくとも1種である、上記第4の態様に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法である。
【0015】
本発明の第6の態様は、さらに、気密容器中に塩化水素を導入する、上記第4又は第5の態様に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法である。
【0016】
本発明の第7の態様は、上記廃プラスチック混合物が、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーに加えて、少なくともポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリスチレンを更に含む、上記第1から第6のいずれかの態様に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法である。
【0017】
本発明の第8の態様は、第1から第6のいずれかの態様に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法により得られる、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を、縮合する工程を有するポリエチレンテレフタレートの再生方法である。
【0018】
本発明の第9の態様は、第1から第6のいずれかの態様に記載の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法により得られる、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を、縮合する工程を有するポリエチレンテレフタレートの製造方法である。
【0019】
本発明の第10の態様は、ポリエチレンテレフタレートを含む廃プラスチック混合物を、塩素含有ガスの存在下で、気密容器中で、200℃以上330℃以下の温度にまで加熱することにより、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を分離する、廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法である。
【0020】
本発明の第11の態様は、前記塩素含有ガスが、塩化水素である、上記第10の態様に記載のプラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法である。
【0021】
本発明の廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法によれば、ポリエチレンテレフタレート以外のプラスチック材料の分解温度以下の温度でポリエチレンテレフタレートを分解して、その分解生成物を回収するので、複数種のプラスチック材料の雑多な混合物から、ポリエチレンテレフタレートのみをリサイクルすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実験例1で実施した、(A)4種類の廃プラスチック材料(PET、PE、PP、PS)の混合物、及び(B)5種類の廃プラスチック材料(PET、PE、PP、PS、ポリ塩化ビニル(PVC))の混合物についての熱分解試験の結果を示す図面である。
図2】実験例2で実施した、PET-PVC混合物(重量比、PET:PVC=4:1)の熱分解試験の様子を示す写真である。
図3】実験例2で実施した熱分解試験から得られた昇華物の構造の、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC/MS)による分析結果を示す図面である。
図4】実験例3で実施した、PET-PVC混合物の熱分解において、投入したPVCの物質量と回収した昇華固体中のテレフタル酸の物質量との関係を示すグラフである。
図5】実験例3で得られた昇華固体についてH NMRを実施することにより行った、昇華固体に含まれる各成分の分析の結果を示す図面である。
図6】実験例6のPET-PVC混合物の熱分解昇華物の再重合実験で得られた重合物(A)と、市販のPET(B)をゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)で分析した結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
<ポリエチレンテレフタレートの分解方法>
本実施形態のポリエチレンテレフタレートの分解方法は、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック混合物を、気密容器中で、200℃以上330℃以下、好ましくは260℃以上330℃以下、より好ましくは280℃以上330℃以下の温度にまで加熱することにより、ポリエチレンテレフタレートを分解し(分解工程)、分解された分解産物の混合物として、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を分離するものである(分離工程)。テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物については、これに所定の処理を施すことによりポリエチレンテレフタレートを再製できるので、これまで困難であった、ポリエチレンテレフタレートのケミカルリサイクルが可能となる。なお、本実施形態のポリエチレンテレフタレートの分解方法は、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック混合物を所定の条件で分解処理することにより実施されるが、通常、家庭系のプラスチック廃棄物である廃プラスチック混合物には、これらのプラスチック材料に加えて、少なくともポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリスチレンも含まれていることが一般的である。しかしながら、本実施形態のポリエチレンテレフタレートの分解方法の処理条件下においては、これらの、他のプラスチック材料は、容易に分解されないため、本実施形態のポリエチレンテレフタレートの分解方法においては、ポリエチレンテレフタレートの分解産物のみを優先的に得ることができる。ちなみに、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩素含有ポリマーは、いわゆるラップ類の構成材料として、廃プラスチック混合物中で一般的に見出されるプラスチック材料である。
【0025】
即ち、塩素含有ポリマーの存在下においては、200℃以上330℃以下の温度でポリエチレンテレフタレートの分解が起こるが、このような温度条件では、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリスチレン等の他のプラスチック材料は容易に分解されない。このため、塩素含有ポリマーの存在下で、200℃以上330℃以下の温度でポリエチレンテレフタレートを加熱することにより、続く分解工程においても、ポリエチレンテレフタレートの分解産物を容易に得ることができる。
【0026】
[分解工程]
上述のとおり、分解工程においては、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック混合物を、気密容器中で、200℃以上330℃以下、好ましくは260℃以上330℃以下、より好ましくは280℃以上330℃以下の温度にまで加熱することにより、ポリエチレンテレフタレートを分解する。上記廃プラスチック混合物中におけるポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーの存在量比は、1:1から8:1(重量比、ポリエチレンテレフタレート:塩素含有ポリマー)であることが好ましい。より具体的には、上記の存在量比は、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、又は7:1(重量比、ポリエチレンテレフタレート:塩素含有ポリマー)である。本発明は、如何なる理論にも拘束されるものではないが、上記廃プラスチック混合物中の塩素含有ポリマーは、加熱により、塩化水素を発生し、これが、ポリエチレンテレフタレートのエステル開裂反応による分解を促すものと推測される。よって、廃プラスチック混合物中におけるポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーの上記存在量比を、上記範囲内で調整することにより、ポリエチレンテレフタレートの効果的な分解を促すとともに、塩素含有ポリマーの分解産物の残存を必要最低限に止めることができる。
【0027】
なお、本実施形態のポリエチレンテレフタレートの分解方法において、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック混合物から、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物が生成する際には、上述のように、塩素含有ポリマーそのものがポリエチレンテレフタレートと反応しているわけではなく、塩素含有ポリマーの分解産物である塩化水素ガス等がポリエチレンテレフタレートと反応しているものと推察される。よって、本発明は、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック混合物から、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物が生成する態様のみに限定されるものではなく、ポリエチレンテレフタレートと塩素含有ガス(例えば、塩化水素)から、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を生成させてもよい。また、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーを含む廃プラスチック混合物から、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物が生成させる態様においても、ポリエチレンテレフタレートに対する、塩素含有ポリマーの存在量に応じ、適宜、反応容器に塩素含有ガス(例えば、塩化水素)を添加して、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物の収量を高めてもよい。
【0028】
上記廃プラスチック混合物を混合する際には、200℃以上330℃以下の温度での加熱時間が、1時間以上60時間以下であることが好ましく、より具体的には、上記の加熱時間は、2時間、5時間、10時間、15時間、20時間、25時間、30時間、35時間、40時間、45時間、50時間、及び55時間である。加熱時間を上記の範囲内のものとすることにより、廃プラスチック混合物中の塩素含有ポリマーの分解が十分に進行して、塩化水素等の塩素含有ガスが十分量発生し、ポリエチレンテレフタレートを効果的に分解することができる。
【0029】
本実施形態のポリエチレンテレフタレートの分解方法においては、塩素含有ポリマーは、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、ポリクロロプレン、塩素化天然ゴムからなる群から選択される、少なくとも1種であることが好ましい。これらの塩素含有ポリマーは、熱分解により塩化水素を発生させることが知られているため、ポリエチレンテレフタレートと加熱することにより、ポリエチレンテレフタレートを効果的に分解することができる。なお、塩素含有ポリマーは、塩化水素等を発生させることにより、ポリエチレンテレフタレートの分解を促しているため、ポリエチレンテレフタレートと、塩素含有ポリマーとは、同じ反応容器に存在していれば、必ずしも密に接触している必要はなく、ポリエチレンテレフタレート及び塩素含有ポリマーの混合物の均一性を高める必要もない。なお、本実施形態のポリエチレンテレフタレートの分解方法は、塩化水素ガス等を反応容器内に充満させ、ポリエチレンテレフタレートと塩化水素ガス等との接触効率を高める観点から、密閉容器内で反応を実施することが好ましい。
【0030】
[分離工程]
本実施形態のポリエチレンテレフタレートの分解方法においては、上記の分解工程において得られたポリエチレンテレフタレートの分解産物を分離して、回収する。本発明の発明者らは、塩素含有ポリマーの存在下、200℃以上330℃以下、好ましくは260℃以上330℃以下、より好ましくは280℃以上330℃以下の温度でポリエチレンテレフタレートを加熱した場合、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物が得られることを始めて見出した。なお、特に、分離工程における加熱温度が280℃前後の高温になる場合には、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)は、分解反応の反応容器中に昇華物として得られ、分離が容易となるので、280℃以上の温度による分離工程の実施は特に好ましい。この場合、廃プラスチック混合物に含まれる他の材料は、ポリマーとして存在しているため、これらの他の材料が、上記昇華物に混入するおそれがなく、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)のみ含む、比較的純度の高い昇華物が得られる。ただし、上記の化合物を昇華させないとしても、その他の慣用の化合物の分離方法により、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を分離することもできるため、本発明は、上記分離工程を280℃以上の温度で実施する態様に限定されるものではない。
【0031】
<ポリエチレンテレフタレートの再生方法>
本実施形態のポリエチレンテレフタレートの再生方法は、廃プラスチック混合物中のポリエチレンテレフタレートの分解方法により得られる、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)の混合物を縮合する工程(「縮合工程」)と、を有する。
【0032】
[縮合工程]
縮合工程においては、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)を含有する混合物である、上記の昇華物を適宜、脱水ピリジン等の溶媒に溶解し、100℃以上130℃以下の温度で、50時間以上100時間以下加熱することにより、縮合することができる。化学量論的には、テレフタル酸ビス(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸を1:1の比率で混合して加熱することにより、ポリエチレンテレフタレートが生成するし、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)を単独で加熱することにより、ポリエチレンテレフタレートが生成するが、上記の昇華物は、もともと、ポリエチレンテレフタレートと塩化水素との反応により生じた、テレフタル酸、テレフタル酸モノ(2-クロロエチル)、及びテレフタル酸ビス(2-クロロエチル)を含有する混合物であるので、これらが完全に反応すれば、ポリエチレンテレフタレートが再生することとなる。生成したポリエチレンテレフタレートは、必要に応じ、酢酸エチルで洗浄し、乾燥させることが好ましい。
【0033】
<ポリエチレンテレフタレートの製造方法>
ポリエチレンテレフタレートの製造方法は、実質的に、ポリエチレンテレフタレートの再生方法と同一の工程を実施することにより実施される。ポリエチレンテレフタレートの製造方法の詳細については、上記のポリエチレンテレフタレートの再生方法に関する説明を参照されたい。
【実施例0034】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、以下の実施例は、例示による説明のために記載されており、本発明は、以下に説明する実施例に何ら限定されるものではない。
【0035】
<実験例1:パイロライザーを用いた小スケール実験>
4種類の廃プラスチック材料(PET、PE、PP、PS)の混合物0.66mg(混合重量比:PET10.5%、PE42.1%、PP26.3%、PS21.1%)、及び5種類の廃プラスチック材料(PET、PE、PP、PS、ポリ塩化ビニル(PVC))の混合物0.63mg(混合重量比:PVC5%、PET10%、PE40%、PP25%、PS20%)について、パイロライザー(PY-3030D(商品名)、フロンティア・ラボ株式会社製)を用い、100℃から600℃の温度範囲で熱分解試験を実施した。結果を図1に示す。
【0036】
図1から明らかなように、4種類の廃プラスチック材料(PVC非存在下)での熱分解試験においては、390℃から430℃の温度でPETが分解している様子が観察された。一方、5種類の廃プラスチック材料の混合物(PVC添加)では、PVCの分解のピークに合わせる形で、280℃から350℃の温度でPETが分解している様子が確認された。以上の結果から、PVCの存在下でPETを加熱することにより、より低温でのPETの分解が促進されることが示唆された。なお、PVCに変えて塩化水素ガスなどを用いた場合、280℃を下回る温度でのPETの分解が起こることも想定される。
【0037】
<実験例2:ガラス封管内でのPET-PVC混合物の熱分解試験>
PVC存在下でのPETの分解反応の生成物を回収し、詳細な分析を実施するため、ガラス管内にPET-PVC混合物2g(重量比、PET:PVC=4:1を封入して真空状態とし、熱分解試験を実施した。このガラス管を330℃で2時間保持したところ、ガラス管の冷部(非加熱部)に白色の昇華物が析出するとともに、加熱部に茶色から黒色の残留物が生成した(図2)。冷部に付着した昇華物の構造を、ガスクロマトグラフィー-質量分析(GC/MS)により分析したところ、テレフタル酸誘導体が生成していることが確認された(図3)。分離された生成物を、アルカリ加水分解処理してテレフタル酸に分解し、HPLCで定量した結果、昇華固体のテレフタル酸収率は17.4%、底部残留固体のテレフタル酸収率は69.7%となった(表1)。
【表1】
【0038】
<実験例3:異なるPET-PVC混合比率での熱分解試験>
PVC添加量一定の条件下でPETの配合量を変更し、PET-PVC混合物の重量比を、PET:PVC=4:1から、3:1及び2:1に変更した点以外は、実験例2と同様に熱分解試験を実施した。なお、対照群としてPET単独でも同様に熱分解試験を実施した。結果を表2に示す。表2の結果から明らかなように、昇華固体中でのテレフタル酸収率は、PVCの混合比率が増加するほど増大し、加熱部付着固体でのテレフタル酸収率は、PVCの混合比率が増加するほど低減した。なお、PET-PVC混合比率が2:1の場合、テレフタル酸の大半が昇華固体として回収された。なお、図4に示すように、PET-PVC混合物の熱分解において、投入したPVCの物質量と回収した昇華固体中のテレフタル酸の物質量との関係は、PVC/PETモル比が0以上1以下のときは、PVC/PETモル比に対する、テレフタル酸収率の比はほぼ1となり、PVC/PETモル比が1を超える場合、テレフタル酸収率は90%以上に収束し、それ以上PVCの含有比率を増やしてもテレフタル酸の収率は上昇しなかった。
【表2】
【0039】
<実験例4:PET-PVC非接触下の熱分解>
PETとPVCの非接触下におけるPETの分解可否を検討するため、蓋部が開放されたガラスバイアル(10mL容)中にPVCを収容した状態で、PETを収容した試験管中に封入し、330℃で4時間又は60時間加熱してテレフタル酸の収率を測定した。なお、対照群として、PET-PVCを混合物として封入した試験管を用いて、同様の試験を行った。結果を表3に示す。
【表3】
【0040】
<実験例5:PET-PVC混合物の熱分解反応物とその生成比の検討>
実験例3で得られた昇華固体について、H NMRを実施し、昇華固体に含まれる各成分の分析を行った。その結果、7.5ppmから9.0ppmの、芳香環由来の水素原子に対応する領域中、8.09ppm、8.14ppm、及び8.04ppmの位置に合計3本のピークが認められ、単離した各生成物のNMRスペクトルとの比較から、それぞれ、モノ(2-クロロエチル)テレフタレート(MCET)、ビス(2-クロロエチル)テレフタレート(BCET)、及びテレフタル酸(TPA)であると推定された(図5;残渣白色粉末、分画したMCET、分画したBCET)。各化合物の生成量は、モル換算でおおよそ2:1:1であった(図5;昇華物)。以上の結果から、PVCとPETは、物質量換算で、1:1にて反応しているものと推察される。
【0041】
<実験例6:PET-PVC混合物の熱分解昇華物のPETへの再重合実験>
実験例3で得られた未分画の昇華固体0.9804gを脱水ピリジン3mLに溶解し、これを115℃で60時間加熱した。得られた溶液にメタノール10mLを加えて攪拌し、析出した粉末をフィルターでろ過して分離した。分離された固体をメタノールで洗浄し、真空乾燥した。これらの操作の結果、0.1991gの固体が得られた。得られた個体について、ゲル濾過クロマトグラフィ装置HLC-8420GPC(東ソー株式会社製)、カラムTSKgel Super AWM-H(6.0 mmI.D.×15cm)×2本(東ソー株式会社製)、検出器示唆屈折率計(RI検出器、Polarity=(+))を用い、溶離液として、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(富士フイルム和光純薬株式会社製)及び10mM CFCOONa(富士フイルム和光純薬株式会社製)を流速0.3mL/min、40℃、試料濃度1mg/mLで用いて重合の有無を確認した。結果を図6に示す。
【0042】
図6より明らかなように、GPCの結果から2000から15000程度の分子量の重合物が認められており、実験例3で得られた昇華固体を加熱することにより、重合反応が生じてPETが再生・生成したことが推定された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6