(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060401
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】防氷性材料
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20240424BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240424BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240424BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20240424BHJP
【FI】
C09K3/18 104
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167744
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】内藤 昌信
(72)【発明者】
【氏名】宮本 賢一
(72)【発明者】
【氏名】西川 浩之
(72)【発明者】
【氏名】林 悠也
(72)【発明者】
【氏名】中谷 敏雄
【テーマコード(参考)】
4H020
4J038
【Fターム(参考)】
4H020AA03
4H020AB01
4H020BA32
4H020BA36
4J038CD102
4J038DL032
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4J038PA07
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4J038PB05
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4J038PC02
4J038PC03
4J038PC07
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】表面に氷が付着しにくい又は付着した氷を容易に除去可能な防氷性材料を提供する。
【解決手段】a)基材及びb)前記基材表面上に形成された機能層を含む材料であって、(1)機能層は、(1a)有機バインダと、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する充填材とを含み、かつ、前記充填材の針状部によって形成された凹凸表面を有する下地層と、(1b)前記凹凸表面上に形成された表層とを有し、(2)表層は、疎水性液剤の液膜から構成されていることを特徴とする防氷性材料に係る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)基材及びb)前記基材表面上に形成された機能層を含む材料であって、
(1)機能層は、(1a)有機バインダと、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する充填材とを含み、かつ、前記充填材の針状部によって形成された凹凸表面を有する下地層と、(1b)前記凹凸表面上に形成された表層とを有し、
(2)表層は、疎水性液剤の液膜から構成されている、
ことを特徴とする防氷性材料。
【請求項2】
下地層は多孔質構造を有し、かつ、その多孔質構造の空隙中に疎水性液剤が含まれている、請求項1に記載の防氷性材料。
【請求項3】
充填材は、核部から異なる4軸方向に伸長された針状部を備える無機粒子である、請求項1に記載の防氷性材料。
【請求項4】
疎水性液剤は、シリコーンオイル及びフッ素オイルの少なくとも1種である、請求項1に記載の防氷性材料。
【請求項5】
機能層は、機能層全体を100重量%として、前記充填材が8~60重量%及び前記疎水性液膜が10~80重量%である、請求項1に記載の防氷性材料。
【請求項6】
有機バインダは、樹脂、ゴム及びエラストマーの少なくとも1種である、請求項1に記載の防氷性材料。
【請求項7】
a)基材及びb)前記基材表面上に形成された機能層を含む防氷性材料を製造する方法であって、
(1)有機バインダと、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する充填材とを含む塗料を調製する工程、
(2)前記塗料を基材に塗工し、乾燥することにより下地層を形成する工程、及び
(3)前記下地層表面に疎水性液剤を塗工することにより機能層を形成する工程、
を含むことを特徴とする防氷性材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な防氷性材料に関する。特に、本発明は、表面に氷が付着しにくい又は付着した氷を容易に除去可能な防氷性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
降雪地帯においては、例えば屋根、トンネル坑口、カルバート等に積もった雪が集積されて次第に大きくなった雪塊が形成され、これを放置しておくと様々な問題が生じる。
【0003】
例えば、屋根の上に形成された雪塊は、天候の回復により太陽の放射熱や屋内からの伝導熱で下面が融けて、傾斜屋根面で雪崩現象を発生させ、その雪塊が軒先から落下して軒先の下にあるものを壊したり、通行人に当たる等の危害を発生させている。また、落下に至らないまでも、融水が雪塊の下面を傾斜に沿って移動して、雪塊の端部で外気にさらされて凍結し、軒先から危険なつらら又は雪庇となって垂れ下がり現象を起こし、直下の壁を押して破壊するという問題のほか、凍結するに至らない融水が軒先を伝い、すが漏れ(溶けた水が屋根材のすき間をぬって室内に侵入すること)を発生させる等の問題がある。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば雪塊の落下防止、つらら、雪庇等の発生を防止する技術のほか、すが漏れ、雪の巻き込みの発生を防止する技術が従来から数多く提案されている。これらの技術は、物理的な方法、化学的な方法等の種々のものがあるが、特に材料表面を改質する組成物でコーティングすることにより着氷を防止する方法も知られている。
【0005】
この場合、特に、構造物等に対する氷塊又は雪塊の固着力(氷固着力)が大きくなると、氷塊が容易に離脱せず、氷塊等が巨大化・重量化したときに落下等の現象が起こる。このような現象が起これば、さまざまな事故を引き起こすおそれがある。そこで、最近では、構造物等に付着した氷塊又は雪塊が大きくならないうちに構造物から容易に離脱(落下、除去等)できるように、氷固着力を低減させる技術が提案されている。
【0006】
例えば、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物及び該加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種を含有する液状組成物を含む、着雪氷防止剤が知られている(特許文献1)。
【0007】
しかしながら、このような従来技術では、氷固着力の低減がなお十分とはいえず、その点において改良の余地が残されている。
【0008】
これに関し、自然の風雨等で成長して着氷した氷塊が自然落下するには、氷固着力が20kPa以下である必要があるという報告がある(非特許文献1)。ところが、実際に、本願発明者らが上記文献技術の部材を試作して着氷させて実験したところ、150~350kPaと高い氷固着力を示すことが確認されている。すなわち、熱エネルギー等によることなく、物体に付着した氷を除去するためには相当の力が必要となるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kreder Michael,Nat.Rev.Matter.,2016,1,15003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の主な目的は、表面に氷が付着しにくい又は付着した氷を容易に除去可能な防氷性材料を提供することにある。とりわけ、本発明は、より低い氷固着力を実現できる防氷性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成・構成を有する材料が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、下記の防氷性材料に係る。
1. a)基材及びb)前記基材表面上に形成された機能層を含む材料であって、
(1)機能層は、(1a)有機バインダと、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する充填材とを含み、かつ、前記充填材の針状部によって形成された凹凸表面を有する下地層と、(1b)前記凹凸表面上に形成された表層とを有し、
(2)表層は、疎水性液剤の液膜から構成されている、
ことを特徴とする防氷性材料。
2. 下地層は多孔質構造を有し、かつ、その多孔質構造の空隙中に疎水性液剤が含まれている、前記項1に記載の防氷性材料。
3. 充填材は、核部から異なる4軸方向に伸長された針状部を備える無機粒子である、前記項1に記載の防氷性材料。
4. 疎水性液剤は、シリコーンオイル及びフッ素オイルの少なくとも1種を含む、前記項1に記載の防氷性材料。
5. 機能層は、機能層全体を100重量%として、前記充填材が8~60重量%及び前記疎水性液剤が10~80重量%である、前記項1に記載の防氷性材料。
6. 有機バインダは、樹脂、ゴム及びエラストマーの少なくとも1種を含む、前記項1に記載の防氷性材料。
7. a)基材及びb)前記基材表面上に形成された機能層を含む防氷性材料を製造する方法であって、
(1)有機バインダと、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する充填材とを含む塗料を調製する工程、
(2)前記塗料を基材に塗工し、乾燥することにより下地層を形成する工程、及び
(3)前記下地層表面に疎水性液剤を塗工することにより機能層を形成する工程、
を含むことを特徴とする防氷性材料の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、表面に氷が付着しにくい又は付着した氷を容易に除去可能な防氷性材料を提供することができる。特に、より低い氷固着力を実現できる防氷性材料を提供することができる。特に、本発明では、特異な粒子形状を有する物質を含む下地層の表面に疎水性液剤の液膜が形成されているため、低い氷固着力を実現することができる。例えば、後記の実施例に示すように20kPa以下(特に19kPa以下、さらには4~18kPa)という低い氷固着力を達成することが可能である。これにより、本発明材料上に氷塊又は雪塊が形成されたとしても、その自重が比較的軽い段階(例えば危険な重さに至らない段階)で本発明材料から離脱させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の防氷性材料の層構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.防氷性材料
本発明の防氷性材料(本発明材料)は、a)基材及びb)前記基材表面上に形成された機能層を含む材料であって、
(1)機能層は、(1a)有機バインダと、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する充填材とを含み、かつ、前記充填材の針状部によって形成された凹凸表面を有する下地層と、(1b)前記凹凸表面上に形成された表層とを有し、
(2)表層は、疎水性液剤の液膜から構成されている、
ことを特徴とする。
【0017】
本発明材料の層構成の一例を
図1に示す。
図1の防氷性材料10は、その基本構成としては、下方から順に、基材11及び機能層12を有するものである。機能層12は、下方から順に、下地層12a及び表層12bを有する。すなわち、下地層12aの基材11と接している反対側の面に表層12bが形成されている。通常は、本発明材料の最表面層として表層12bが形成される。
【0018】
なお、
図1では、基材11は、プレート状又はフィルム状となっているが、これに限定されず、各種の形状(立体的形状)を有する基材も採用することができる。
【0019】
ここで、下地層12aは、有機バインダと、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する充填材(以下「本発明充填材」ともいう。)とを含む組成を有している。従って、下地層12aでは、有機バインダを含む母材中に本発明充填材が分散し、固定された状態となっている。
【0020】
本発明充填材を構成する個々の粒子は、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する形状からなる。好ましくは、本発明充填材は、4本脚をもつ略テトラポッド状の形状を有する粒子(粒子群)である。この粒子の針状部(特に前記テトラポッド状の粒子における4つの脚に該当する部位)が下地層の表面に突出することで形成された複数の突出部pによって、基材11と反対側の下地層表面に一定の凹凸が形成される。
【0021】
このようにして形成されている下地層12aの凹凸表面に表層12bが形成されている。表層12bは、疎水性液剤の液膜(例えば油膜等)から構成されている。このため、表層12bの表面(すなわち、外気に露出される面)も凹凸表面となっている。そして、この液膜が本発明材料の最表面に配置されている。
【0022】
(1)基材
基材は、主として、本発明材料のベース(支持部材)となるものである。すなわち、防氷性材料に強度、コシ(剛性)等を付与する機能を有する。
【0023】
基材の種類は、特に限定されず、金属(合金を含む。)、樹脂、ゴム、繊維質材料、ガラス、セラミックス等又はこれらの複合材料を用いることができる。また、基材の形状は、限定的でなく、例えばシート状、フィルム状、板状又は箔状(以下、これらを総称して「シート状」ともいう。)等のほか、球状、直方体等の各種の三次元立体形状等のいずれであっても良い。
【0024】
特に、基材の形状がシート状である場合(例えば厚さ5μm~20mm程度)は、例えば金属板、金属箔、樹脂板、樹脂シート、不織布、ゴムシート、ゴム板、木片、合成紙、ガラス板、セラミックス板、樹脂被膜、金属皮膜等の少なくとも1種の材料を好適に用いることができる。
【0025】
上記金属板の種類は、特に限定されず、厚さ1mm以上10mm以下のアルミニウム板、鉄板、銅板、ステンレス鋼板等の少なくとも1種を好適に用いることができる。上記金属箔の種類も、特に限定されず、厚さ10μm以上500μm以下のアルミニウム箔、鉄箔、銅箔、ステンレス鋼箔等の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0026】
また、上記の樹脂板又は樹脂シートの種類も、特に限定されず、厚さ25μm以上2mm以下のポリエステル樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂)、ポリオレフィン樹脂(例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂)等の少なくとも1種を好適に用いることができる。
【0027】
これらの中でも、防氷性材料の強度、設置の容易性等の観点から、樹脂(特に合成樹脂)が好ましい。従って、例えば樹脂板、樹脂シート、樹脂フィルム等を基材としてより好適に用いることができる。
【0028】
(2)機能層
機能層は、基材の表面に形成されており、下地層及び表層の相乗的な作用によって防氷機能を発揮する層である。
【0029】
機能層は、(1a)有機バインダと、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する充填材とを含み、かつ、前記充填材の針状部によって形成された凹凸表面を有する下地層と、(1b)前記凹凸表面上に形成された表層とを有する。
【0030】
下地層
下地層は、有機バインダと、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する充填材とを含む組成から構成されている。下地層は、特に、疎水性液剤を保持し、所望の防氷性能を発揮させる機能を有する。下地層が形成されていない状態で基材に粘度が低い疎水性液剤を塗工した場合、基材上から疎水性液剤が流れ落ち、所望の塗工量を得ることができない。また、粘度が高い疎水性液剤を用いた場合にも、下地層がなければ、疎水性液剤が保持されず、表面にムラが生じて防氷性能を十分に発揮することができないおそれがある。
【0031】
本発明において有機バインダは、充填材を構成する粒子どうし、あるいは充填材と基材とを接着する機能を有する。有機バインダとしては、特に限定されず、樹脂、エラストマー及びゴムの少なくとも1種を含むことが望ましい。これらの有機バインダ中の固形分含有量は、例えば90~100重量%程度の範囲内とすることができるが、これに限定されない。
【0032】
樹脂としては、公知又は市販の合成樹脂を好適に採用することができる。例えば、ポリオレフィン樹脂例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等)、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、フッ素系樹脂、ポリエステル系樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等)、シリコーン樹脂等のほか、これらのブレンド樹脂、これら樹脂を構成するモノマー2種以上の組合せを含む共重合体、これらの変性樹脂等を用いることができる。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。
【0033】
また、エラストマー及びゴムとしては、公知又は市販のものを使用することができる。例えば、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-イソプレンブロック共重合体、及びこれらブロック共重合体の水添物等のポリスチレン系エラストマー、ジイソシアネートと短鎖ジオール(いわゆる鎖延長剤)、及びポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等の長鎖ポリオールとジイソシアナートからなるポリウレタン系エラストマー、ポリイソブチレン、ブチルゴム(イソブチレン-イソプレン共重合体、及び該重合体の変性物)、ポリブテン等のオレフィン系エラストマーのほか、ポリクロロプレンゴム、ニトリルゴム等の合成ゴムが挙げられる。これらは、1種又は2種以上で用いることができる。
【0034】
下地層中の有機バインダの含有量は、限定的でないが、通常は5~90重量%程度とし、特に10~80重量%とすることが好ましく、その中でも30~75重量%とすることが最も好ましい。
【0035】
本発明充填材としては、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する粒子(粒子群)を用いる。本発明では、特に、核部と、核部から異なる4軸方向に伸びた針状部とを有する立体形状を有する粒子であることが好ましい。とりわけ、上記核部を重心とする正四面体を観念したとき、各針状部が、上記核部を重心とする正四面体の4つの頂点方向に延在する形状であることがより好ましい。具体例としては、一般に「テトラポッド状」と呼ばれる立体形状(核部と、核部から異なる4軸方向に伸びた針状部とを有する立体形状)を有する粒子が好ましい。
【0036】
上記針状部の形状は、針状又はそれに近似した形状(棒状、円錐状等)であれば特に制限されないが、アスペクト比が3以上であることが好ましい。また、各針状部の長さは、特に制限されないが、略同一であることが好ましい。針状部の長さは、特に制限されないが、平均長さとして、通常1~50μm程度であることが好ましく、特に5~30μmであることがより好ましい。
【0037】
本発明充填材の材質としては、特に制限されず、公知の無機材料を好適に用いることができる。無機材料としては、例えばアルミナ、チタン酸カリウム、ウォラストナイト、酸化亜鉛、ホウ酸アルミニウム等の金属酸化物、クロム、銅、鉄、ニッケル等の金属単体又はこれらの合金、炭化ケイ素、黒鉛、窒化ケイ素等の金属以外の無機材料のほか、これらの複合体が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果をより確実に得られるという点で、金属酸化物が好ましく、特に上記針状部のそれぞれが金属酸化物の単結晶から構成されている粒子であることがより好ましい。
【0038】
下地層中における本発明充填材の含有量は、特に制限されないが、通常は5~95重量%程度とし、特に20~90重量%とすることが好ましく、その中でも25~70重量%とすることが最も好ましい。本発明充填材が少なすぎると、疎水性液剤が機能層表面の凹凸部において十分にいきわたらず、防氷性が低下するおそれがある。また、本発明充填材が多すぎると、混合物の粘度が高くなり、基材表面に機能層を均一に積層することができないおそれがあると共に、機能層表面に凹凸部が形成されなくなるおそれがある。
【0039】
また、本発明の効果を妨げない範囲内において、下地層中には他の添加剤が含まれていても良い。例えば、本発明充填材以外の充填材、顔料、沈降防止剤、消泡剤、硬化促進剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、表面調整剤、粘度調整剤、レベリング剤、分散剤、可塑剤、及び、防腐剤等が挙げられ、いずれも公知又は市販のものを使用することができる。これらを配合する場合の添加量は、例えば合計で5重量%以下程度とすることができるが、これに限定されない。
【0040】
本発明では、下地層は、充填材の針状部によって形成された凹凸表面を有する。すなわち、下地層の表面(表層が積層される面)が所定の凹凸表面となっている。これにより撥水性の付与および機能層の保持という効果を得ることができる。凹凸の程度は、限定的でないが、通常は表面粗さで2~50μm程度であることが好ましく、特に5~30μm程度であることがより好ましい。本発明における表面粗さは、株式会社東京精密社製「サーフコム1400D」で測定した算術平均粗さの値である値である。
【0041】
さらに、本発明材料では、下地層は、多孔質構造を有することが望ましい。特に、本発明充填材どうしが絡み合うことで空隙が効果的に形成され、これにより多孔性の三次元網目構造を創り出すことができる。これにより、多孔質構造の空隙中に疎水性液剤を滞留させることができる結果、凹凸部表面の液膜が剥がれても、多孔質構造中の空隙に存在する疎水性液剤が毛細管現象等により凹凸部表面に滲み出て、自己修復作用を発現することが期待される。従って、本発明では、下地層を構成する多孔質構造の空隙に、疎水性液剤の少なくとも一部が含浸されていることが好ましい。
【0042】
下地層が多孔質構造をとる場合、その空隙率は特に限定されないが、通常は10~70%程度の範囲内であることが好ましい。空隙率が上記範囲にあることで、よりいっそう高い防氷効果等を得ることができる。なお、下地層の空隙率の測定方法としては、例えば比表面積測定、断面観察及び断面観察からの画像解析の方法を採ることができる。
【0043】
表層
本発明材料における表層は、疎水性液剤の液膜から構成されている。これが、凹凸形状と相まって、優れた防氷性を発揮することができる。
【0044】
疎水性液剤としては、常温・常圧下で液体であれば特に制限されないが、特にフッ素オイル及びシリコーンオイルの少なくとも1種を含むことが好ましい。これら成分の含有量は、例えば疎水性液剤中90~100重量%程度の範囲内とすることができるが、これに限定されない。
【0045】
フッ素オイルとしては、含フッ素モノマーの低重合体を好適に使用することができる。例えば、三フッ化塩化エチレンの低重合体、パーフルオロポリエーテル、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。分子量に応じて軽油状、中油状、重油状等があるが、いずれも使用することができる。
【0046】
シリコーンオイルとしては、例えばジメチルポリシロキサン、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルのようなストレートシリコーンオイルのほか、反応性シリコーンオイル又は非反応性シリコーンオイルのような変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0047】
前記反応性シリコーンオイルとしては、例えばアミノ変性、エポキシ変性、カルボキシ変性、カルビノール変性、メタクリル変性、フェノール変性、メルカプト変性等の変性シリコーンオイルが例示される。また、前記非反応性シリコーンオイルとしては、高級脂肪酸含有、高級脂肪酸エステル変性、アルキル変性、メチルスチリル変性、ポリエーテル変性等の変性シリコーンオイルが例示される。
【0048】
また、本発明の効果を妨げない範囲内において、その他の鉱物油、動物性油、植物性油等を含んでいても良い。これらは、公知又は市販のものを使用することもできる。
【0049】
疎水性液剤の粘度(25℃)は、常温・常圧下で液体であり、凹凸部に所定の液膜が形成される限りは特に限定されないが、通常は動粘度で100~10000mm2/s程度とすれば良い。
【0050】
疎水性液剤は、上記のように、少なくとも下地層の凹凸表面上に液膜として存在しているが、下地層が多孔質構造である場合はその空隙中にも疎水性液剤が含まれていることが望ましい。下地層中の空隙に疎水性液剤が含浸されていることにより、本発明材料の使用時において機能層表面の液膜一部が氷塊とともに脱落しても、下地層の空隙中に含まれる疎水性液剤が下地層表面に滲み出るように供給されることにより、防氷効果を持続させることができる。下地層の凹凸部に疎水性液剤がいきわたっていれば十分であるが、下地層において充填材どうしが絡み合うことで空隙を維持して互いに結合し、これにより三次元網目構造を備え、この空隙に疎水性液剤が含まれていても良い。これにより、前記のとおり、凹凸部表面の疎水性液剤が剥離又は脱落しても、下地層中の空隙に存在する疎水性液剤が毛細管現象等により凹凸部表面に滲み出て、自己修復作用を発現することができる。
【0051】
液膜の形成量は、例えば所望の防氷性、用いる疎水性液剤の種類等に応じて適宜設定することができるが、通常は1.0~40g/m2程度の範囲とすることが好ましい。
【0052】
また、本発明では、有機バインダ、本発明充填材及び疎水性液剤の合計量を100重量%とした場合、それぞれの割合は特に限定されないが、充填材:8~60重量%程度、疎水性液剤:10~80重量%程度、有機バインダ:30~90重量%程度とすることが好ましい。特に、疎水性液剤の含有量が10重量%未満の場合は、下地層表面全体に液膜が行き渡らず、十分な防氷性を得ることができないおそれがある。また、疎水性液剤の含有量が80重量%を超える場合は、過剰な疎水性液膜が液膜として固定化されることなく系外へ流れ出す(防氷性材料から脱落する)おそれがある。
【0053】
2.防氷性材料の製造方法
本発明材料を製造する方法は、限定的ではないが、特に、下記の製造方法によって好適に製造することができる。すなわち、a)基材及びb)前記基材表面上に形成された機能層を含む防氷性材料を製造する方法であって、
(1)有機バインダと、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する充填材とを含む塗料を調製する工程(塗料調製工程)、
(2)前記塗料を基材に塗工し、乾燥することにより下地層を形成する工程(下地層形成工程)、及び
(3)前記下地層表面に疎水性液剤を塗工することにより機能層を形成する工程(機能層形成工程)、
を含むことを特徴とする防氷性材料の製造方法を好ましく採用することができる。
【0054】
塗料調製工程
塗料調製工程では、有機バインダと、核部及び前記核部から少なくとも2以上の異なる方向に伸長された針状部を有する充填材とを含む塗料を調製する。
【0055】
有機バインダと充填材と溶剤とを所定量用意し、これを混合する工程である。機能層形成用塗布物を調製する工程とも換言される。
【0056】
塗料を調製するに際し、必要に応じて有機溶剤を使用することもできる。有機溶剤は、有機バインダと本発明充填材とを効果的に分散させ、基材上に塗料を均一に塗布させる効果がある。防氷性材料としては、乾燥して溶剤が除去されていることが好ましいが、その一部が防氷性材料の機能層中に残存じていても良い。
【0057】
有機溶剤としては、特に制限されないが、例えばトルエン、キシレン、エチルベンゼン、シクロペンタン、オクタン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン(MCH)、エチルシクロヘキサン、ホワイトスピリット等の脂肪族炭化水素類又は芳香族炭化水素類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸ベンジル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;メチルエチルケトン(MEK)、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;n-ブタノール、プロピルアルコール等のアルコール等を挙げることができる。これらの有機溶剤は、単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0058】
これらの中でも、本発明材料がより確実に得られる等の点において、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ケトン類及びエステル類の少なくとも1種の有機溶剤を用いることが望ましい。
【0059】
塗料中における有機溶剤の使用量としては、一般に固形分が1~30質量%程度となるように調整されることが好ましいが、これに限定されない。
【0060】
混合の方法は、公知のいずれの方法を用いても良く、例えば自転公転式ミキサー、遊星式撹拌機、撹拌脱泡機等のような材料を混ぜるミキサーで、材料を入れた容器を傾け、高速で自転と公転(太陽の周りを惑星が回るような動き、惑星運動、遊星運動)をさせることで発生した遠心力による材料対流とせん断応力で混合する機械又はジェットアジター、ハイシアーミキサー等の撹拌機、又は超音波を用いることができる。また、これらを組み合わせることによって、より均一な分散を短時間で行うことが可能となる。
【0061】
塗料中における有機バインダと充填材と溶剤との割合は、特に限定されず、例えば充填材が5~50重量%程度、有機バインダが2~50重量%程度、残部が有機溶剤とすることができる。
【0062】
下地層形成工程
下地層形成工程では、前記塗料を基材に塗工し、乾燥することにより塗膜を形成する。
【0063】
基材の材質としては、前記のように、特に限定されず、例えば合成樹脂、ゴム、金属、セラミックス、繊維質材料(紙、不織布、織物等)、これらの複合材料等のいずれでも良い。また、基材は、製品(最終製品)、半製品又はそれらの原材料のいずれであっても良い。前記製品として、防水、着氷、着雪等の防止のために屋外で使用されるような製品(建材、自動車部品等) 又はそのための材料等にも適用することができる。
【0064】
基材への塗料の塗布方法としては、限定的でなく、例えばドクターブレード、バーコーター、刷毛、ローラー、スプレーガン等によって実施することができる。また、塗工に際し、本発明では、所定の厚みを得るために、上記の塗布及び乾燥を2回以上繰り返すこともできる。
【0065】
塗料の塗布厚みは、例えば硬化膜の用途等に応じて適宜設定することができる。例えば、硬化膜の厚みが0.1~50μm程度となるように調整することができるが、これに限定されない。
【0066】
塗料を基材に塗布した後に、乾燥のために熱処理を行い、溶剤を除去する。熱処理の程度は、前工程の塗料の塗布量、塗料中に含まれる溶剤量等によって変更できる。例えば、目視、臭気等で溶剤が揮発し終えたかどうか判断しても良い。熱処理が不十分である場合は、硬化不良を生じるおそれがある。このため、熱処理する場合は、例えば50~160℃程度で実施することが望ましいが、これに限定されない。また、熱処理時間も、乾燥するのに十分な時間とすれば良く、例えば熱処理温度、基材の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0067】
機能層形成工程
機能層形成工程では、前記下地層表面に疎水性液剤を塗工することによって機能層を形成する。すなわち、本工程により、下地層上に疎水性液剤の液膜が形成された機能層を得ることができる。
【0068】
疎水性液剤としては、前記で説明したような各種の疎水性液剤を使用することができる。この場合、必要に応じて有機溶剤等を配合することもできる。
【0069】
下地層表面への疎水性液剤の塗工方法は、特に限定されず、例えば浸漬、ドクターブレード、バーコーター、刷毛、ローラー、スプレーガン等によって実施することができる。また、塗工に際し、本発明では、所定の液膜形成量を得るために、上記の塗布及び乾燥を2回以上繰り返すこともできる。
【0070】
疎水性液剤の塗工量は特に限定されないが、前記のように、通常は1.0~40g/m2程度の範囲で塗工されることが好ましい。本工程により、下地層表面に疎水性液剤による液膜が形成されてなる機能層を形成できる。
【0071】
3.本発明材料の使用
本発明材料は、表面に氷が付着しやすい環境下で使用される材料又は物品に適用することができる。
【0072】
本発明材料の実施形態としては、例えばa)本発明材料を他の材料又は物品の表面に配置することによって用いる方法、b)既製の物品の表面部材を基材とし、その上に機能層を形成して用いる方法等が挙げられる。
【0073】
前記a)の他の材料としては、特に限定されず、さまざまな材質、形状等をもつ材料に本発明材料を適用することができる。その配置方法も、限定されず、例えば接着剤、粘着剤、固定部材等を用いて他の材料の表面等に配置し、固定することができる。
【0074】
前記b)の方法にあっては、前記物品は、例えば部品、半製品、最終製品等のいずれであっても良い。より具体的には、屋根、壁材、塀、支柱、樋、柵、カルバート、街灯、信号機、電光掲示板、道路標識、看板、ビニールハウス、鉄塔、灯台、ガードレール等の建材又は構造物;自動車、自転車、車椅子、船舶、航空機等の輸送機関又は車両;電線、アンテナ等の通信部材;給湯器、エアコン室外機、発電装置(太陽電池、風力発電装置等)等の電気装置等のように、主として屋外で使用される材料又は物品に好適に用いることができる。
【実施例0075】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0076】
[実施例1]
ポリオレフィン樹脂を主成分とする熱可塑性塗料タナカケミカル株式会社、不揮発分:20重量%、「290628-2(試作品名)」)10.0重量部、テトラポッド形状を有する針状酸化亜鉛結晶粉末(パナソニック、「パナテトラ WZ-0501(製品名)」)0.86重量部、混合有機溶剤(MCHとMEKが1:1の重量比で混合された有機溶剤)3.4重量部をそれぞれ計量し、自公転可変式ミキサー(マゼルスター KK-400(製品名))を用い、自転:9、公転:9、攪拌時間:120秒の条件で混合し、塗料を得た。
得られた塗料を用い、厚み25μmのPETフィルムに#32のバーコーターを用いて塗工し、100℃にて1分間オーブンで加熱することによって塗料に含まれる有機溶剤を揮発させ、下地層付きフィルムを得た。このとき、下地層には14%程度の空隙が生じ、下地層の表面の凹凸部は5μmであった。この下地層付きフィルムに10cm角の当て板を用いて、10cm角サンプルを得た。
さらに、シリコーンオイル(信越化学工業株式会社、「KF-96-100CS(製品名)」)に、この10cm角サンプルを約1分間浸漬させた後に取り出し、前記サンプルを垂直に吊り下げた状態で常温1昼夜(約16時間)静置し、余分なシリコーンオイルを除去するとともに、基材裏面に付着したシリコーンオイルを拭き取ることにより、防氷性材料サンプルを得た。このとき、シリコーンオイル量は10cm角サンプルあたり50mgであった。
【0077】
[実施例2]
塗料の配合量を変えて、ポリオレフィン樹脂を主成分とする熱可塑性塗料(タナカケミカル株式会社、不揮発分:20重量%、「290628-2(試作品名)」)を10.0重量部、テトラポッド形状を有する酸化亜鉛(パナソニック、「パナテトラ WZ-0501(製品名)」)を2.0重量部、混合有機溶剤(MCHとMEKが1:1の重量比で混合された有機溶剤)を8.0重量部、混合して得られたものを用いた以外は、実施例1と同様にして防氷性材料サンプルを得た。なお、下地層には32%程度の空隙が生じ、下地層の表面の凹凸部は8μmであり、シリコーンオイル量は10cm角サンプルあたり72mgであった。
【0078】
[実施例3]
塗料の配合量を変えて、ポリオレフィン樹脂を主成分とする熱可塑性塗料(タナカケミカル株式会社、不揮発分:20重量%、「290628-2(試作品名)」)を10.0重量部、テトラポッド形状を有する酸化亜鉛(パナソニック、「パナテトラ WZ-0501(製品名)」)を4.7重量部、混合有機溶剤(MCHとMEKが1:1の重量比で混合された有機溶剤)を18.7重量部、混合して得られたものを用いた以外は、実施例1と同様にして防氷性材料サンプルを得た。なお、下地層には47%程度の空隙が生じ、下地層の表面の凹凸部は14μmであり、シリコーンオイル量は10cm角サンプルあたり120mgであった。
【0079】
[実施例4]
塗料の配合量を変えて、ポリオレフィン樹脂を主成分とする熱可塑性塗料(タナカケミカル株式会社、不揮発分:20重量%、「290628-2(試作品名)」)を10.0重量部、テトラポッド形状を有する酸化亜鉛(パナソニック、「パナテトラ WZ-0501(製品名)」)を17.9重量部、混合有機溶剤(MCHとMEKが1:1の重量比で混合された有機溶剤)を71.4重量部、混合して得られたものを用いた以外は、実施例1と同様にして防氷性材料サンプルを得た。なお、下地層には63%程度の空隙が生じ、下地層の表面の凹凸部は23μmであり、シリコーンオイル量は10cm角サンプルあたり140mgであった。
【0080】
[実施例5]
浸漬させるオイルとして、シリコーンオイル(信越化学工業株式会社、「KF-96-1000CS(製品名)」)を用いた以外は、実施例3と同様にして防氷性材料サンプルを得た。なお、下地層には47%程度の空隙が生じ、下地層の表面の凹凸部は14μmであり、シリコーンオイル量は10cm角サンプルあたり150mgであった。
【0081】
[実施例6]
浸漬させるオイルとして、シリコーンオイル(信越化学工業株式会社、「KF-96-10000CS(製品名)」)を用いた以外は、実施例3と同様にして防氷性材料サンプルを得た。なお、下地層には47%程度の空隙が生じ、下地層の表面の凹凸部は14μmであり、シリコーンオイル量は10cm角サンプルあたり340mgであった。
【0082】
[実施例7]
塗料の配合量を変えて、ポリオレフィン樹脂を主成分とする熱可塑性塗料(タナカケミカル株式会社、不揮発分:20重量%、「290628-2(試作品名)」)を10.0重量部、テトラポッド形状を有する酸化亜鉛(パナソニック、「パナテトラ WZ-0501(製品名)」)を4.0重量部、混合有機溶剤(MCHとMEKが1:1の重量比で混合された有機溶剤)を16.0重量部、混合して得られたものを用いた以外は、実施例1と同様にして防氷性材料サンプルを得た。なお、下地層には51%程度の空隙が生じ、下地層の表面の凹凸部は14μmであり、シリコーンオイル量は10cm角サンプルあたり110mgであった。
【0083】
[実施例8]
塗料として、溶剤型2液硬化型シリコーン樹脂(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社、不揮発分:30重量%、「剥離紙用シリコーン TPR6722(製品名)」)を10.0重量部、テトラポッド形状を有する酸化亜鉛(パナソニック、「パナテトラ WZ-0501(製品名)」)を6.0重量部、トルエンを29.0重量部、硬化剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社、「CM670(製品名)」)を0.1重量部、混合して得られたものを用いた以外は、実施例1と同様にして防氷性材料サンプルを得た。なお、下地層には50%程度の空隙が生じ、下地層の表面の凹凸部は15μmであり、シリコーンオイル量は10cm角サンプルあたり110mgであった。
【0084】
[実施例9]
塗料として、合成ゴム(タナカケミカル株式会社、不揮発分:15.7重量%、「合成ゴム020907(試作品名)」)を10.0重量部、テトラポッド形状を有する酸化亜鉛(パナソニック、「パナテトラ WZ-0501(製品名)」)を3.1重量部、トルエンとメチルエチルケトンとを重量比で1:1にて混合した有機溶剤を10.4重量部、混合して得られたものを用いた以外は、実施例1と同様にして防氷性材料サンプルを得た。なお、下地層には47%程度の空隙が生じ、下地層の表面の凹凸部は15μmであり、シリコーンオイル量は10cm角サンプルあたり110mgであった。
【0085】
[実施例10]
塗料として、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー(桜宮化学株式会社、不揮発分:20重量%、「SE-P1(製品名)」)を10.0重量部、テトラポッド形状を有する酸化亜鉛(パナソニック、「パナテトラ WZ-0501(製品名)」)を3.1重量部、トルエンを16重量部、混合して得られたものを用いた以外は、実施例1と同様にして防氷性材料サンプルを得た。なお、下地層には45%程度の空隙が生じ、下地層の表面の凹凸部は12μmであり、シリコーンオイル量は10cm角サンプルあたり105mgであった。
【0086】
[実施例11]
塗料として、熱可塑性ポリウレタン樹脂ジメチルホルムアミドドープ液状タイプ(オカダエンジニアリング株式会社、不揮発分:15重量%、「ARMH-9100-32 15%ドープ(DMF)(試作品名)」)を10.0重量部、テトラポッド形状を有する酸化亜鉛(パナソニック、「パナテトラ WZ-0501(製品名)」)を3.1重量部、ジメチルホルムアミド(DMF)を9.5重量部、混合して得られたものを用いた以外は、実施例1と同様にして防氷性材料サンプルを得た。なお、下地層には50%程度の空隙が生じ、下地層の表面の凹凸部は14μmであり、シリコーンオイル量は10cm角サンプルあたり110mgであった。
【0087】
[実施例12]
塗料として、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(タナカケミカル株式会社、不揮発分:10重量%、「エラストマー020907-1(試作品名)」)を10.0重量部、テトラポッド形状を有する酸化亜鉛(パナソニック、「パナテトラ WZ-0501(製品名)」)を2.0重量部、トルエン、ジメチルアセトアミド混合溶剤を3.0重量部、混合して得られたものを用いた以外は、実施例1と同様にして防氷性材料サンプルを得た。なお、下地層には49%程度の空隙が生じ、下地層の表面の凹凸部は13μmであり、シリコーンオイル量は10cm角サンプルあたり110mgであった。
【0088】
[比較例1]
実施例1のシリコーンオイル浸漬前の下地層付きフィルムを、そのまま防氷性材料サンプルとした。
【0089】
[比較例2]
実施例2のシリコーンオイル浸漬前の下地層付きフィルムを、そのまま防氷性材料サンプルとした。
【0090】
[比較例3]
実施例3のシリコーンオイル浸漬前の下地層付きフィルムを、そのまま防氷性材料サンプルとした。
【0091】
[比較例4]
実施例4のシリコーンオイル浸漬前の下地層付きフィルムを、そのまま防氷性材料サンプルとした。
【0092】
[比較例5]
実施例7のシリコーンオイル浸漬前の下地層付きフィルムを、そのまま防氷性材料サンプルとした。
【0093】
[比較例6]
実施例8のシリコーンオイル浸漬前の下地層付きフィルムを、そのまま防氷性材料サンプルとした。
【0094】
[比較例7]
実施例9のシリコーンオイル浸漬前の下地層付きフィルムを、そのまま防氷性材料サンプルとした。
【0095】
[比較例8]
実施例10のシリコーンオイル浸漬前の下地層付きフィルムを、そのまま防氷性材料サンプルとした。
【0096】
[比較例9]
実施例11のシリコーンオイル浸漬前の下地層付きフィルムを、そのまま防氷性材料サンプルとした。
【0097】
[比較例10]
実施例12のシリコーンオイル浸漬前の下地層付きフィルムを、そのまま防氷性材料サンプルとした。
【0098】
[試験例1]
各実施例及び比較例の防氷性材料サンプルについて、それぞれの氷固着力を下記のようにして測定した。
防氷性材料サンプルを約20mm×40mmにカットし、フィルム裏面がオイルで湿潤している場合はウエス等でぬぐって除去し、スライドグラス(松浪硝子工業 S7224(型番))の上に試験面が上になるように載せた。防氷性材料サンプルとスライドグラス間に水を垂らし、密着させた。次いで、スライドグラスと一体となった防氷性材料サンプル上に、底に約2mmの穴をあけた吸光度測定用ディスポセル(内容量4.5mL、ポリスチロール製)を逆さ向けに乗せて、約-18℃の冷凍庫で約5分冷却した。約5分後にマイクロピペットを用いて、ディスポセルにあけた穴から1.0mL、水を入れた。続けて、約-18℃の冷凍庫で約6時間冷却することで、防氷性材料サンプルとスライドグラスが強固に氷の層で密着し、かつ、防氷性材料サンプル上に1平方cm接した1立方cmの氷を形成させた。
内部に氷ができあがったディスポセルをそのまま、冷凍庫内にデジタルフォースゲージ(IMADA製 DST-50N(品番))を入れ、デジタルフォースゲージで押して、氷が防氷性材料サンプルから剥離するときの力を計測した。この力の値を、氷の接触面積(0.0001m2)で除することで、氷固着力(単位:kPa)を算出した。その結果を表1に示す。
【0099】
【0100】
表1の結果からも明らかなように、実施例1~12は、それぞれ比較例に比べ、氷固着力が1/10程度になっていることがわかる。また、これらの実施例は、いずれも氷固着力が20kPa以下と極めて小さな値となっており、前述のように、自然の風雨で付着した氷が除去できる値を示した。すなわち本発明の防氷性材料は、表面に氷が付着しにくい、又は付着した氷を容易に除去可能である。