(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060419
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】杭状体の打設システムおよび打設方法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/10 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
E02D3/10 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167780
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591037373
【氏名又は名称】三菱長崎機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】飯田 宏
(72)【発明者】
【氏名】久木田 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】森田 祥志
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043DA03
(57)【要約】
【課題】高さ制限の厳しい現場であっても、杭状体を形成する一対のチェーンをコンパクトに収納しつつ、地盤に杭状体を作業効率よく打設できる杭状体の打設システムおよび打設方法を提供する。
【解決手段】
チェーン2の噛合っていない領域を、複数箇所が屈曲して延在した状態で収納する収納部20を設ける。回転軸12にスプロケット13とドラム14を設けて、ドラム14に巻装されている紐状体15の先端部をチェーン2の後端部2aに接続する。一対のチェーン2を長手方向先端側に移動させるときには、スプロケット13ともにドラム14を順方向に回転駆動させて紐状体15を繰り出し、チェーン2を長手方向後端側に移動させるときには、スプロケット13とともにドラム14を逆方向に回転駆動させて紐状体15を巻き取ることで、紐状体15を緊張した状態に維持する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のチェーンと、一対の前記チェーンの長手方向先端が連結された先端挿入部と、それぞれの前記チェーンが掛け回される一対のスプロケットと、それぞれの前記スプロケットを支持する一対の回転軸と、一対の前記回転軸を回転駆動させる駆動機構とを備えて、前記駆動機構により一対の前記回転軸を介して一対の前記スプロケットが順方向に回転駆動され、一対の前記チェーンが長手方向先端側に移動することにより、一対の前記チェーンどうしが互いに長手方向に沿って噛合い、この互いに噛合った領域では一対の前記チェーンが一体化した杭状体が構築されて、前記先端挿入部と前記杭状体とが地盤に挿入された状態となり、前記駆動機構により一対の前記回転軸を介して一対の前記スプロケットが逆方向に回転駆動され、前記杭状体を構築している一対の前記チェーンが長手方向後端側に移動することにより、一対の前記チェーンどうしの互いの噛合いが解除される構成の杭状体の打設システムにおいて、
それぞれの前記チェーンの噛合っていない領域を収納する一対の収納部と、それぞれの前記回転軸に支持された一対のドラムと、それぞれの前記ドラムに巻装されていて先端部がそれぞれの前記チェーンの後端部に接続された一対の紐状体とを備えて、
それぞれの前記収納部は、前記チェーンの噛合っていない領域の複数箇所が屈曲した状態で、前記チェーンの噛合っていない領域が延在して収納される構成であり、
一対の前記チェーンが長手方向先端側に移動するときには、一対の前記スプロケットに伴って一対の前記ドラムが前記順方向に回転駆動することにより、それぞれの前記ドラムから前記紐状体が繰り出されるとともに、前記ドラムと前記チェーンの後端部との間に延在する前記紐状体が緊張した状態に維持され、
一対の前記チェーンが長手方向後端側に移動するときには、一対の前記スプロケットに伴って一対の前記ドラムが前記逆方向に回転駆動することにより、それぞれの前記ドラムによって前記紐状体が巻き取られるとともに、前記ドラムと前記チェーンの後端部との間に延在する前記紐状体が緊張した状態に維持される構成であることを特徴とする杭状体の打設システム。
【請求項2】
前記ドラムと前記チェーンの後端部との間に延在する前記紐状体の張力を予め設定された所定範囲に維持する張力調整機構を備えた請求項1に記載の杭状体の打設システム。
【請求項3】
前記収納部に、前記紐状体を案内するガイドシーブが設けられている請求項1または2に記載の杭状体の打設システム。
【請求項4】
前記収納部を構成するガイドレールの前記チェーンと接触する部分に、前記ガイドレールと前記チェーンとの間の摩擦を低減させる低摩擦材が設けられている請求項1または2に記載の杭状体の打設システム。
【請求項5】
一対のチェーンの長手方向先端に先端挿入部を連結した状態で、それぞれの前記チェーンを掛け回した一対のスプロケットが支持されている一対の回転軸を駆動機構によって順方向に回転駆動させて、一対の前記チェーンを長手方向先端側に移動させることにより、一対の前記チェーンどうしを互いに長手方向に沿って噛合わせて、一対の前記チェーンが一体化した杭状体を構築しつつ、前記先端挿入部および前記杭状体を地盤に挿入し、前記杭状体を地盤から引き抜く際には、前記駆動機構により一対の前記回転軸を介して一対の前記スプロケットを逆方向に回転駆動させて、前記杭状体を構築している一対の前記チェーンを長手方向後端側に移動させることにより、一対の前記チェーンどうしの互いの噛合いを解除する杭状体の打設方法において、
それぞれの前記チェーンの噛合っていない領域を複数箇所が屈曲した状態で収納する一対の収納部を設け、
それぞれの前記回転軸に支持された一対のドラムを設けて、それぞれの前記ドラムに巻装されている一対の紐状体の先端部をそれぞれの前記チェーンの後端部に接続した状態とし、
一対の前記チェーンを長手方向先端側に移動させるときには、一対の前記スプロケットに伴って一対の前記ドラムを前記順方向に回転駆動させることにより、それぞれの前記ドラムから前記紐状体を繰り出すとともに、前記ドラムと前記チェーンの後端部との間に延在する前記紐状体を緊張した状態に維持し、
一対の前記チェーンを長手方向後端側に移動させるときには、一対の前記スプロケットに伴って一対の前記ドラムを前記逆方向に回転駆動させることにより、それぞれの前記ドラムによって前記紐状体を巻き取るとともに、前記ドラムと前記チェーンの後端部との間に延在する前記紐状体を緊張した状態に維持することを特徴とする杭状体の打設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭状体の打設システムおよび打設方法に関し、さらに詳しくは、高さ制限の厳しい現場であっても、杭状体を形成する一対のチェーンをコンパクトに収納しつつ、地盤に杭状体を作業効率よく打設できる杭状体の打設システムおよび打設方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
埋立地などの変状の可能性がある軟弱地盤を改良する工法として、地盤にドレーン材を挿設し、ドレーン材を通じて地中に含まれている水分を地上に排水するドレーン工法が知られている。一般的にドレーン工法では、筒状の杭状体の内側にドレーン材を挿入した状態で、杭状体を地盤に打設する。そして、杭状体を地盤の所定深さまで打設した後に、杭状体のみを地盤から抜き取ることでドレーン材を地盤に挿設している。
【0003】
空港の近辺や高圧線下などの高さ制限が厳しい現場では、高い櫓を設置して一度に長い杭状体を打設することができない。そこで、従来では、一対のチェーンを互いに噛合わせることで、一対のチェーンが一体化した杭状体を構築し、その構築した杭状体を地盤に挿入する打設方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この杭状体を構築する一対のチェーン(リンク部材連結体)は一方側にしか屈曲しない構造になっている。そのため、高さ制限が厳しい現場で一対のチェーンをコンパクトに収納するには特別な工夫が必要となる。
【0004】
特許文献1に記載の地盤改良用伸縮装置では、チェーンを複数の分割体に分離した状態で収納装置に収納している。この地盤改良用伸縮装置では、杭状体の長さを変更する際に、分割体どうしを連結する作業や分離する作業を何度も繰り返し行う必要がある。そのため、杭状体の打設作業に多くの工数と時間を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高さ制限の厳しい現場であっても、杭状体を形成する一対のチェーンをコンパクトに収納しつつ、地盤に杭状体を作業効率よく打設できる杭状体の打設システムおよび打設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の杭状体の打設システムは、一対のチェーンと、一対の前記チェーンの長手方向先端が連結された先端挿入部と、それぞれの前記チェーンが掛け回される一対のスプロケットと、それぞれの前記スプロケットを支持する一対の回転軸と、一対の前記回転軸を回転駆動させる駆動機構とを備えて、前記駆動機構により一対の前記回転軸を介して一対の前記スプロケットが順方向に回転駆動され、一対の前記チェーンが長手方向先端側に移動することにより、一対の前記チェーンどうしが互いに長手方向に沿って噛合い、この互いに噛合った領域では一対の前記チェーンが一体化した杭状体が構築されて、前記先端挿入部と前記杭状体とが地盤に挿入された状態となり、前記駆動機構により一対の前記回転軸を介して一対の前記スプロケットが逆方向に回転駆動され、前記杭状体を構築している一対の前記チェーンが長手方向後端側に移動することにより、一対の前記チェーンどうしの互いの噛合いが解除される構成の杭状体の打設システムにおいて、それぞれの前記チェーンの噛合っていない領域を収納する一対の収納部と、それぞれの前記回転軸に支持された一対のドラムと、それぞれの前記ドラムに巻装されていて先端部がそれぞれの前記チェーンの後端部に接続された一対の紐状体とを備えて、それぞれの前記収納部は、前記チェーンの噛合っていない領域の複数箇所が屈曲した状態で、前記チェーンの噛合っていない領域が延在して収納される構成であり、一対の前記チェーンが長手方向先端側に移動するときには、一対の前記スプロケットに伴って一対の前記ドラムが前記順方向に回転駆動することにより、それぞれの前記ドラムから前記紐状体が繰り出されるとともに、前記ドラムと前記チェーンの後端部との間に延在する前記紐状体が緊張した状態に維持され、一対の前記チェーンが長手方向後端側に移動するときには、一対の前記スプロケットに伴って一対の前記ドラムが前記逆方向に回転駆動することにより、それぞれの前記ドラムによって前記紐状体が巻き取られるとともに、前記ドラムと前記チェーンの後端部との間に延在する前記紐状体が緊張した状態に維持される構成であることを特徴とする。
【0008】
本発明の杭状体の打設方法は、一対のチェーンの長手方向先端に先端挿入部を連結した状態で、それぞれの前記チェーンを掛け回した一対のスプロケットが支持されている一対の回転軸を駆動機構によって順方向に回転駆動させて、一対の前記チェーンを長手方向先端側に移動させることにより、一対の前記チェーンどうしを互いに長手方向に沿って噛合わせて、一対の前記チェーンが一体化した杭状体を構築しつつ、前記先端挿入部および前記杭状体を地盤に挿入し、前記杭状体を地盤から引き抜く際には、前記駆動機構により一対の前記回転軸を介して一対の前記スプロケットを逆方向に回転駆動させて、前記杭状体を構築している一対の前記チェーンを長手方向後端側に移動させることにより、一対の前記チェーンどうしの互いの噛合いを解除する杭状体の打設方法において、それぞれの前記チェーンの噛合っていない領域を複数箇所が屈曲した状態で収納する一対の収納部を設け、それぞれの前記回転軸に支持された一対のドラムを設けて、それぞれの前記ドラムに巻装されている一対の紐状体の先端部をそれぞれの前記チェーンの後端部に接続した状態とし、一対の前記チェーンを長手方向先端側に移動させるときには、一対の前記スプロケットに伴って一対の前記ドラムを前記順方向に回転駆動させることにより、それぞれの前記ドラムから前記紐状体を繰り出すとともに、前記ドラムと前記チェーンの後端部との間に延在する前記紐状体を緊張した状態に維持し、一対の前記チェーンを長手方向後端側に移動させるときには、一対の前記スプロケットに伴って一対の前記ドラムを前記逆方向に回転駆動させることにより、それぞれの前記ドラムによって前記紐状体を巻き取るとともに、前記ドラムと前記チェーンの後端部との間に延在する前記紐状体を緊張した状態に維持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、チェーンの噛合っていない領域を、複数箇所を屈曲させた状態で収納部に収納することで、高さ制限の厳しい現場であっても、杭状体を形成する一対のチェーンをコンパクトに収納できる。さらに、一対のスプロケットが支持されているそれぞれの回転軸にドラムを設けて、ドラムに巻装された紐状体の先端部をチェーンの後端部に接続している。一対のチェーンを長手方向に移動させるときには、一対のスプロケットに伴って一対のドラムが回転駆動することで、スプロケットによるチェーンの移動量に合わせて、それぞれのドラムから繰り出される紐状体の繰り出し長さが調整され、ドラムとチェーンの後端部との間に延在する紐状体が緊張した状態に維持される。収納部に収納されているチェーンが移動する際に、紐状体によってチェーンの後端部が引っ張られた状態になるので、チェーンが弛むことが抑制される。そのため、駆動機構により一対の回転軸を介して一対のスプロケットと一対のドラムを回転駆動させるだけで、杭状体の長さを円滑に変更することが可能になる。それ故、高さ制限の厳しい現場であっても、杭状体を形成する一対のチェーンをコンパクトに収納しつつ、地盤に杭状体を作業効率よく打設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の杭状体の打設システムの実施形態のスプロケット側を縦断面視で模式的に例示する説明図である。
【
図2】
図1の打設システムのドラム側を縦断面視で模式的に例示する説明図である。
【
図3】
図1の打設システムを平面視で模式的に例示する説明図である。
【
図4】
図1のスプロケット周辺を縦断面視で例示する説明図である。
【
図5】
図1の打設システムのチェーンを例示する説明図であり、
図5(a)はチェーンの噛合っていない領域の断面図であり、
図5(b)は一対のチェーンが噛合った領域の断面図である。
【
図6】
図2の状態からチェーンを長手方向に移動させて杭状体を地盤に挿入している状態を縦断面視で模式的に例示する説明図である。
【
図7】
図1の打設システムの収納部を構成する1段目のガイドレール上にチェーンが位置している状態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図8】
図1の打設システムの収納部を構成するガイドシーブに紐状体が掛け回された状態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図9】
図1の打設システムの収納部を構成する3段目のガイドレール上にチェーンが位置している状態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図10】
図1の打設システムを構成する張力調整機構を平面視で例示する説明図である。
【
図11】本発明の杭状体の打設システムの別の実施形態を縦断面視で模式的に例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の杭状体の打設システムおよび打設方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
本発明の杭状体の打設システムおよび打設方法は、地盤に杭状体を打設する様々な工法に採用できる。
図1~
図10に示す実施形態では、杭状体の打設システム1をドレーン工法に使用する場合を例示している。
【0013】
図1~
図4に例示するように、打設システム1は、一対のチェーン2と、一対のチェーン2の長手方向先端が連結された先端挿入部8と、それぞれのチェーン2が掛け回される一対のスプロケット13とを備えている。打設システム1は、さらに、それぞれのスプロケット13を支持する一対の回転軸12と、一対の回転軸12を回転駆動させる駆動機構9とを備えている。打設システム1は、さらに、それぞれのチェーン2の噛合っていない領域を収納する一対の収納部20と、それぞれの回転軸12に支持された一対のドラム14と、それぞれのドラム14に巻装されていて先端部がそれぞれのチェーン2の後端部2aに接続された一対の紐状体15とを備えている。この実施形態の打設システム1は、さらに、ドラム14とチェーン2の後端部2aとの間に延在する紐状体15の張力を予め設定された所定範囲に維持する張力調整機構30を備えている。
【0014】
一対のチェーン2はそれぞれ、複数の駒(噛合い駒4および非噛合い駒5)が直列的に連結ピン6を介して回動可能に連結された構造になっている。駆動機構9により一対の回転軸12を介して一対のスプロケット13が順方向に回転駆動され、一対のチェーン2が長手方向先端側に移動することにより、一対のチェーン2どうしが互いに長手方向に沿って噛合う。一対のスプロケット13は互いに反対方向に回動する。
図1に例示する紙面右側のスプロケット13の順方向は左回り(反時計回り)であり、紙面左側のスプロケット13の順方向は右回り(時計回り)である。一対のチェーン2が互いに噛合った領域では、一対のチェーン2が一体化した剛直な杭状体2Pが構築され、一対のチェーン2の駒4、5の回動が規制された状態となる。この互いに噛合った一対のチェーン2で構築された杭状体2Pは、内部の長手方向に連通する連通孔3を有する構造になっている。
【0015】
駆動機構9により一対の回転軸12を介して一対のスプロケット13が逆方向(順方向と逆の方向)に回転駆動され、杭状体2Pを構築している一対のチェーン2が長手方向後端側に移動することにより、一対のチェーン2どうしの互いの噛合いが解除される。
図1に例示する紙面右側のスプロケット13の逆方向は右回り(時計回り)であり、紙面左側のスプロケット13の逆方向は左回り(反時計回り)である。チェーン2の噛合っていない領域は、隣り合う駒4、5が相対的に回動可能な状態となり、チェーン2の噛合っていない領域は、一方側にのみ屈曲可能な状態になる。
【0016】
駆動機構9により一対の回転軸12を介して一対のスプロケット13を回転駆動させて、一対のチェーン2を長手方向に移動させることで、一対のチェーン2が互いに噛合う領域(杭状体2P)の長さを変化させ、一対のチェーン2が一体化した杭状体2Pの地盤Gへの打設と地盤Gからの引抜きを行う。
【0017】
この実施形態のそれぞれのチェーン2は、基本構造は同じであり、駒4、5の配置が長手方向にずれているだけである。詳述すると、
図4に例示するように、このチェーン2は、噛合部を有する噛合い駒4と、噛合部を有していない非噛合い駒5とが、連結ピン6を介して長手方向に交互に連結された構造になっている。噛合い駒4の長手方向両端面に噛合部が形成されていて、一対のチェーン2の互いの噛合い駒4の噛合部どうしが噛合うことで一対のチェーン2が一体化し杭状体2Pが構築される。
【0018】
図4や
図5の(a)に例示するように、この実施形態の噛合い駒4は互いに対向して離間配置された2枚の側板4aと、その2枚の側板4aを連結する中板4bとを有している。中板4bは、2枚の側板4aに対して垂直な向きで、側板4aの長手方向の一端面から他端面まで延在している。中板4bとそれぞれの側板4aは、複数のボルトで接合されている。側板4aには長手方向に間隔をあけて2つのピン挿入孔が形成されている。側板4aの長手方向の一方端面には半円状の凹部が形成されていて、長手方向の他方端面には凹部と同一寸法の半円状の凸部が形成されている。この半円状の凹部と凸部がそれぞれ凹状噛合部、凸状噛合部になっている。
【0019】
非噛合い駒5は互いに対向して離間配置された2枚の側板5aと、その2枚の側板5aを連結する中板5bとを有している。中板5bは、2枚の側板5aに対して垂直な向きで、側板5aの長手方向の一端面から他端面まで延在している。中板5bとそれぞれの側板5aは、複数のボルトで接合されている。側板5aには長手方向に間隔をあけて2つのピン挿入孔が形成されている。
【0020】
噛合い駒4の2枚の側板4aの間に非噛合い駒5が配置された状態で、噛合い駒4のピン挿通孔と非噛合い駒5のピン挿通孔を挿通する連結ピン6によって、噛合い駒4と非噛合い駒5とが連結されている。それぞれの連結ピン6には円筒状のカラー7が遊動可能に外嵌されている。非噛合い駒5の2枚の側板5aの間にカラー7が設けられている。チェーン2のそれぞれのカラー7が、スプロケット13の歯と歯の間に嵌る構成になっている。
【0021】
図4や
図5の(b)に例示するように、一対のチェーン2を互いに噛合わせた状態では、一方のチェーン2の噛合い駒4と、他方のチェーン2の非噛合い駒5とが対向し、一方のチェーン2の噛合い駒4の2枚の側板4aの間に、他方のチェーン2の非噛合い駒5が配置された状態となる。そして、一方のチェーン2の噛合い駒4の凹状噛合部と他方のチェーン2の噛合い駒4の凸状噛合部とが嵌合し、一方のチェーン2の噛合い駒4の側板4aの長手方向端面と、他方のチェーン2の噛合い駒4の側板4aの長手方向端面とが当接した状態となる。さらに、同じチェーン2を構成する噛合い駒4の中板4bの長手方向端面と非噛合い駒5の中板5bの長手方向端面とが当接した状態となる。それぞれのチェーン2の噛合い駒4どうしが噛合うことで構築された杭状体2Pでは、噛合い駒4の側板4aおよび中板4bと、非噛合い駒5の側板5aおよび中板5bとにより、連通孔3が形成される。
【0022】
図4に示すように、この実施形態の先端挿入部8は、三角柱状に形成されていて、内部に長手方向に挿通する貫通孔が形成されている。この実施形態では、ドレーン工法に適した構造の先端挿入部8を例示しているが、先端挿入部8は打設システム1を使用する用途に応じて、形状や構造を変えることができる。駒4、5、連結ピン6、カラー7および先端挿入部8を形成する材料は特に限定されないが、例えば、鉄鋼などの金属で形成される。
【0023】
図3に例示するように、駆動機構9は、モータ10と、モータ10に接続された減速機11とで構成されている。減速機11に一対の回転軸12が接続されていて、モータ10および減速機11により、それぞれの回転軸12が互いに反対方向に同じ速度で回転駆動する構成になっている。それぞれの回転軸12にスプロケット13とドラム14が支持されている。スプロケット13とドラム14は回転軸12の長手方向に間隔をあけて配設されている。同じ回転軸12に支持されているスプロケット13とドラム14は同じ速度で同じ方向に回転駆動する。
【0024】
ドラム14には、紐状体15が巻装されている。紐状体15は例えば、ワイヤロープや樹脂製のロープなどで構成される。紐状体15の先端部は、収納部20に収納されているチェーン2の後端部2aに接続されている。チェーン2の後端部2aの幅方向の中央に紐状体15の先端部が接続されている。ドラム14とチェーン2の後端部2aとの間に延在する紐状体15は緊張した状態(張った状態)になっている。回転軸12が回転駆動した際の、スプロケット13の回転駆動によるチェーン2の長手方向の移動距離と、ドラム14の回転駆動による紐状体15の移動距離とが概ね同一となるように、スプロケット13の直径とドラム14の紐状体15が巻装されている巻き芯部分の直径は、概ね同一の寸法に設定されている。
【0025】
一対のチェーン2が長手方向先端側に移動するときには、一対のスプロケット13に伴って一対のドラム14が順方向に回転駆動することにより、それぞれのドラム14から紐状体15が繰り出されるとともに、ドラム14とチェーン2の後端部2aとの間に延在する紐状体15(ドラム14から繰り出されている紐状体15)が緊張した状態に維持される。一対のチェーン2が長手方向後端側に移動するときには、一対のスプロケット13に伴って一対のドラム14が逆方向に回転駆動することにより、それぞれのドラム14によって紐状体15が巻き取られるとともに、ドラム14とチェーン2の後端部2aとの間に延在する紐状体15が緊張した状態に維持される構成になっている。
【0026】
この実施形態では、地盤Gの上に支台16が設置されている。支台16の上にそれぞれの回転軸12を軸支する一対の軸支部17が互いに間隔をあけて立設されている。モータ10および減速機11は、支台16の上に設置されている。それぞれの軸支部17の上部にスプロケット13が配置されている。軸支部17の下部には、一対のチェーン2で構築された杭状体2Pを所定の打設方向にガイドするガイド部が設けられている。ガイド部は例えば、杭状体2Pに接触した状態で回転するローラや杭状体2Pに摺接する板状部材などで構成できる。この実施形態では、ローラで構成された複数のガイド部が、杭状体2Pの打設方向(長手方向)に互いに間隔をあけて配設されている。
【0027】
それぞれのスプロケット13の側方にそれぞれ収納部20が設けられている。
図1および
図2では片側の収納部20のみを図示しているが、両側のスプロケット13の側方にそれぞれ同じ構成の収納部20が設けられている。それぞれの収納部20は、チェーン2の噛合っていない領域の複数箇所が屈曲した状態で、チェーン2の噛合っていない領域が延在して収納される構成になっている。
【0028】
より詳しくは、
図2に例示するように、それぞれの収納部20は、チェーン2の噛合っていない領域を案内する複数のガイドレール21(21a~21d)が、上下方向に互いに離間して配設された構造になっている。そして、先端挿入部8が地盤Gに挿入されていない状態では、チェーン2の噛合っていない領域の複数箇所が屈曲した状態で、チェーン2の噛合っていない領域がそれぞれのガイドレール21に沿って延在した状態となる構成になっている。
【0029】
この実施形態の収納部20は、水平方向に延在する4本のガイドレール21(21a~21d)と、上下方向に延在する3本のガイドレール21(21e~21g)と、上下方向に延在してガイドレール21を支持する複数の支持フレーム25と、水平方向に延在する連結フレーム26とを有して構成されている。水平方向に延在する4本のガイドレール21(21a~21d)は、上下方向に互いに離間して配設されている。
【0030】
以下では、最も上方に配置されている1段目のガイドレール21を第1のガイドレール21aとし、第1のガイドレール21aの下方に配置されている2段目のガイドレール21を第2のガイドレール21bとする。第2のガイドレール21bの下方に配置されている3段目のガイドレール21を第3のガイドレール21cとし、最も下方に配置されている4段目のガイドレール21を第4のガイドレール21dとする。上下方向に延在する3本のガイドレール21をそれぞれ第5~第7のガイドレール21e~21gとする。また、以下では、それぞれの収納部20のスプロケット13側(
図1では紙面右側、
図2では紙面左側)を一方側とし、その反対側(
図1では紙面左側、
図2では紙面右側)を他方側とする。
【0031】
地盤G上に複数の支持フレーム25が水平方向に互いに間隔をあけて立設されていて、それらの複数の支持フレーム25によって第1~第4のガイドレール21a~21dが支持されている。第1のガイドレール21aの上端部は、スプロケット13の上端部と同じ高さに位置している。
【0032】
第2のガイドレール21bの他方側に第5のガイドレール21eが配設されている。第2のガイドレール21bの他方側の端部に第5のガイドレール21eの上部が連結されている。第5のガイドレール21eの上端部は、第2のガイドレール21bの上端部と同じ高さに位置している。第5のガイドレール21eの下端部と第3のガイドレール21cの上端部は離間している。第5のガイドレール21eの他方側は円弧状(半円状)に形成されていて、第3のガイドレール21cの他方側の上端部も円弧状に形成されている。円弧状に形成されている第5のガイドレール21eの下端部と第3のガイドレール21cの上端部との間にチェーン2が嵌り込む構成になっている。
【0033】
第2のガイドレール21bと第3のガイドレール21cの一方側に、第6のガイドレール21fが配設されている。第2のガイドレール21bの一方側の端部に第6のガイドレール21fの上部が連結されていて、第3のガイドレール21cの一方側の端部に第6のガイドレール21fの下部が連結されている。第6のガイドレール21fの上端部は、第2のガイドレール21bの上端部と同じ高さに位置している。第6のガイドレール21fの下端部と第4のガイドレール21dの上端部は離間している。第6のガイドレール21fの一方側の上部と下部はそれぞれ円弧状に形成されていて、第4のガイドレール21dの一方側の上端部も円弧状に形成されている。円弧状に形成されている第6のガイドレール21fの下端部と第4のガイドレール21dの一方側の上端部との間にチェーン2が嵌り込む構成になっている。
【0034】
第1のガイドレール21aと第3のガイドレール21cの他方側に、第7のガイドレール21gが配設されている。第7のガイドレール21gは、第5のガイドレール21eよりも他方側に配置されている。第1のガイドレール21aの他方側の端部に第7のガイドレール21gの上部が連結されていて、第3のガイドレール21cの他方側の端部に第7のガイドレール21gの下部が連結されている。第7のガイドレール21gの上端部は、第1のガイドレール21aの上端部と同じ高さに位置している。第7のガイドレール21gの下端部と第4のガイドレール21dの他方側の上端部は離間している。第7のガイドレール21gの他方側の上端部と下端部はそれぞれ円弧状に形成されていて、第4のガイドレール21dの他方側の上端部も円弧状に形成されている。円弧状に形成されている第7のガイドレール21gの下端部と第4のガイドレール21dの他方側の上端部との間にチェーン2が嵌り込む構成になっている。
【0035】
第2のガイドレール21bと第3のガイドレール21cの間に連結フレーム26が配設されている。連結フレーム26の一方側の端部は第6のガイドレール21fに連結されていて、連結フレーム26の他方側の端部は第5のガイドレール21eに連結されている。連結フレーム26の一方側に張力調整機構30が配設されている。
【0036】
チェーン2の噛合っていない領域は、後端部2a側から先端部側(先端挿入部8側)にかけて、第3のガイドレール21c、第5のガイドレール21e、第2のガイドレール21b、第6のガイドレール21f、第4のガイドレール21d、第7のガイドレール21g、第1のガイドレール21aの順で、それぞれのガイドレール21a~21gに沿って延在した状態となる。チェーン2の噛合っていない領域は、第5のガイドレール21eの他方側と、第6のガイドレール21fの上部および下部と、第7のガイドレール21gの下部および上部とで、それぞれ屈曲した状態となる。先端挿入部8が地盤Gに挿入されていない状態では、チェーン2の後端部2aは、張力調整機構30よりも他方側に位置した状態となる。先端挿入部8が地盤Gに挿入されていない状態では、チェーン2の噛合っていない領域が第1~第7のガイドレール21a~21gに沿って正面視で渦巻状に延在して収納された状態となる。
【0037】
チェーン2の噛合っていない領域が屈曲した状態となる、第5のガイドレール21eの他方側と、第6のガイドレール21fの上部および下部と、第7のガイドレール21gの下部および上部にはそれぞれ、紐状体15を案内するガイドシーブ24が設けられている。
図6に例示するように、チェーン2が長手方向先端側に移動してチェーン2の後端部2aがガイドシーブ24を通過すると、そのガイドシーブ24に紐状体15が掛け回された状態になる。
【0038】
収納部20においてチェーン2が移動する経路と、紐状体15が移動する経路は、同じ経路に設定されている。チェーン2が長手方向先端側に移動して、チェーン2の後端部2aが、第3のガイドレール21c、第5のガイドレール21e、第2のガイドレール21b、第6のガイドレール21f、第4のガイドレール21d、第7のガイドレール21g、第1のガイドレール21aの順で移動すると、紐状体15も同様に、第3のガイドレール21c、第5のガイドレール21e、第2のガイドレール21b、第6のガイドレール21f、第4のガイドレール21d、第7のガイドレール21g、第1のガイドレール21aの順で、それぞれのガイドレール21a~21gに沿って延在した状態となる。
【0039】
図7に例示するように、それぞれのガイドレール21は、チェーン2の幅方向に離間して配置された一対のレール板部22を有して構成されている。一対のレール板部22は、非噛合い駒5を構成する一対の側板5aどうしの間に配置されている。第1のガイドレール21a、第2のガイドレール21b、第5のガイドレール21e、第6のガイドレール21f、および、第7のガイドレール21gでは、チェーン2を構成するカラー7が、一対のレール板部22の端部に当接した状態で、ガイドレール21に沿ってチェーン2が長手方向に移動する構成になっている。
【0040】
ガイドシーブ24は、一対のレール板部22の間に配置されている。ガイドシーブ24の回転軸は、一対のレール板部22に支持されている。ガイドシーブ24は溝部とその両側に設けられた一対のフランジを有している。ガイドシーブ24は、正面視で一対のフランジの外周端部が、チェーン2が接触するガイドレール21の端部と同じ位置になるように配置されている。
図8に例示するように、チェーン2が長手方向先端側に移動してチェーン2の後端部2aがガイドシーブ24を通過すると、そのガイドシーブ24に紐状体15が掛け回された状態となる。ガイドシーブ24に紐状体15が掛け回された状態では、ガイドシーブ24の溝部に紐状体15が収まることで、紐状体15のガイドシーブ24に掛け回されている部分がガイドシーブ24の外側にはみ出さない構成になっている。紐状体15は一対のレール板部22どうしの間に位置した状態になるので、ガイドレール21と紐状体15とが互いに干渉しない構造になっている。
【0041】
図9に例示するように、第3のガイドレール21cと第4のガイドレール21dでは、チェーン2を構成する非噛合い駒5の中板5bが、一対のレール板部22の端部に当接した状態で、ガイドレール21上をチェーン2が長手方向に移動する構成になっている。この実施形態では、一対のレール板部22の非噛合い駒5の中板5bと接触する部分に、レール板部22とチェーン2(中板5b)との間の摩擦を低減させる低摩擦材23が設けられている。
【0042】
ガイドレール21やガイドシーブ24、支持フレーム25、連結フレーム26を形成する材料は特に限定されないが、例えば、鉄鋼やアルミニウム合金などの金属で形成される。低摩擦材23は、例えば、摩擦抵抗の小さいフッ素樹脂や銅合金などで形成される。低摩擦材23は、任意に設けることができる。例えば、低摩擦材23の代わりにガイドレール21にローラを設けた構成や、ガイドレール21にグリスなどの潤滑材を塗布した構成にすることもできる。
【0043】
図10に例示するように、張力調整機構30は、第1シーブ31、固定具32、第2シーブ33、連結具34、スライド部35およびシリンダ36を有して構成されている。シリンダ36は例えば、エアシリンダや油圧シリンダなどで構成される。連結フレーム26に固定具32が固定されていて、固定具32に第1シーブ31が回転可能に支持されている。連結フレーム26にスライド部35が設けられていて、スライド部35に対して連結具34が、連結フレーム26の長手方向にスライド移動可能に接続されている。連結具34には第2シーブ33が回転可能に支持されている。連結フレーム26にシリンダ36が設けられていて、シリンダ36のロッドの先端部に連結具34が固定されている。ドラム14から繰り出されている紐状体15は、第1シーブ31、第2シーブ33の順で掛け回されていて、第2シーブ33から繰り出されている紐状体15の先端部がチェーン2の後端部2aに接続されている。
【0044】
紐状体15の張力によって第2シーブ33に作用する応力の大きさに応じて、シリンダ36のロッドが進退移動する構成になっている。シリンダ36のロッドが進退移動すると、連結具34および第2シーブ33が、スライド部35に沿って連結フレーム26の長手方向にスライド移動する。紐状体15の張力によって第2シーブ33に作用する応力の大きさが予め設定した基準値であるときには、シリンダ36のロッドは進退移動せずに、第2シーブ33は基準位置で静止した状態となる。
【0045】
紐状体15の張力によって第2シーブ33に作用する応力の大きさが基準値よりも大きくなった場合には、シリンダ36のロッドが後退し、第2シーブ33が紐状体15の張力を低減させる方向に移動する。逆に、紐状体15の張力によって第2シーブ33に作用する応力の大きさが予め設定した基準値よりも小さくなった場合には、シリンダ36のロッドが前進し、第2シーブ33が紐状体15の張力を増加させる方向に移動する。この張力調整機構30では、前述したように、紐状体15によって第2シーブ33にかかる張力の大きさに応じて、第2シーブ33がスライド移動することで、ドラム14とチェーン2の後端部2aとの間に延在する紐状体15の張力が予め設定された所定範囲に維持される構成になっている。
【0046】
より詳しくは、スプロケット13およびドラム14の寸法や収納部20の構造は、スプロケット13が回転駆動することによるチェーン2の長手方向の移動距離と、ドラム14が回転駆動することによる紐状体15の移動距離との差が極力小さくなるように設計されているが、チェーン2の移動距離と紐状体15の移動距離とを完全に一致させることは難しい。チェーン2の移動距離に対して紐状体15の移動距離が短くなるほど、紐状体15の張力は大きくなり、チェーン2の移動距離に対して紐状体15の移動距離が長くなるほど、紐状体15の張力は小さくなる。
【0047】
そのため、この実施形態では、張力調整機構30を設けて、紐状体15の張力によって第2シーブ33にかかる応力の大きさに応じて、第2シーブ33がスライド移動することで、チェーン2と紐状体15との誘導長(移動距離)の差を吸収する構成にしている。これにより、ドラム14とチェーン2の後端部2aとの間に延在する紐状体15の張力が予め設定された所定範囲に維持され、ドラム14から繰り出されている紐状体15が張った状態に維持されるとともに、紐状体15に過大な張力がかかることが抑制される。
【0048】
この実施形態では、さらに、ドレーン材Dを供給するドレーン供給機構40が設けられている。ドレーン供給機構40は、例えば、ドレーン材Dが巻装されたドラムと、ドレーン材Dを杭状体2Pの連通孔3にガイドするシーブとで構成される。ドレーン材Dの先端部には、ドレーン材Dを地中の所定位置に定着させるアンカーAが取り付けられる。
【0049】
次に、この打設システム1を使用した杭状体の打設方法を説明する。この実施形態では、杭状体2Pを上下方向に打設して、帯状のドレーン材Dを地盤Gに挿設する場合を例示する。
【0050】
図2に例示するように、先端挿入部8を地面よりも上方に配置した状態で、ドレーン材Dを先端挿入部8の貫通孔を挿通させて、ドレーン材Dの先端を先端挿入部8の下方に配置したアンカーAに連結する。それぞれのチェーン2の先端側は対応するスプロケット13に掛け回し、チェーン2の後端部2a側は対応する収納部20に収納した状態にする。チェーン2の噛合っていない領域は、それぞれのガイドレール21(21a~21g)に沿って延在させた状態にする。
【0051】
次いで、ドラム14に巻装している紐状体15の先端側を、張力調整機構30の第1シーブ31と第2シーブ33に掛け回し、紐状体15の先端部をチェーン2の後端部2aに接続する。ドラム14から繰り出している紐状体15は緊張させた状態にする。ドラム14から繰り出している紐状体15を緊張させた状態にすると、紐状体15によってチェーン2の後端部2aが引っ張られた状態になるので、チェーン2の噛合っていない領域に弛みが生じていない状態になる。チェーン2の噛合っていない領域は、第1~第7のガイドレール21a~21gに沿って正面視で渦巻状に延在して収納された状態となる。以上により打設作業前のセッティングが完了する。
【0052】
打設作業時には、駆動機構9(モータ10および減速機11)によって一対の回転軸12を順方向に回転駆動させることで、一対のスプロケット13と一対のドラム14を順方向に回転駆動させる。一対のスプロケット13を順方向に回転駆動させると、それぞれのチェーン2のカラー7が、回転駆動するスプロケット13の歯と歯の間に嵌った状態で移動することにより、一対のチェーン2が長手方向に移動する。一対のスプロケット13の間を上方から下方に通過した一対のチェーン2は互いに噛合い杭状体2Pとなる。杭状体2Pは伸長しながら、地盤Gに向かって移動する。そして、杭状体2Pが自重と駆動機構9による圧力によって先端挿入部8から地盤Gに挿入され、杭状体2Pが地盤Gに打設される。この実施形態では、杭状体2Pに伴いアンカーAとドレーン材Dも地盤Gに挿入される。そして、アンカーAが所望の深さに達するまで、一対のスプロケット13を順方向に回転駆動させる。
【0053】
この際、それぞれのチェーン2の噛合っていない領域は、収納部20を構成するそれぞれのガイドレール21(21a~21g)に沿って長手方向先端側に移動する。一対のチェーン2を長手方向先端側に移動させるときには、一対のスプロケット13に伴って一対のドラム14が順方向に回転駆動することにより、それぞれのドラム14から紐状体15が繰り出されるとともに、ドラム14とチェーン2の後端部2aとの間に延在する紐状体15が緊張した状態に維持される。
【0054】
この際、紐状体15の張力によって張力調整機構30の第2シーブ33にかかる応力の大きさに応じて、第2シーブ33がスライド移動することで、チェーン2と紐状体15との誘導長(移動距離)の差が吸収され、ドラム14とチェーン2の後端部2aとの間に延在する紐状体15の張力が、予め設定された所定範囲に維持される。
図6に例示するように、チェーン2が長手方向先端側に移動してチェーン2の後端部2aがガイドシーブ24を通過すると、ガイドシーブ24に紐状体15が掛け回された状態となる。
【0055】
杭状体2Pを地盤Gから引き抜く際には、駆動機構9によって一対の回転軸12を逆方向に回転駆動させることで、一対のスプロケット13と一対のドラム14を逆方向に回転駆動させる。一対のスプロケット13を逆方向に回転駆動させると、一対のチェーン2が長手方向後端側に移動することで、地盤Gに打設されていた杭状体2Pが上方移動して地盤Gから引き抜かれる。この際、杭状体2Pとともに地盤Gに挿入されたアンカーAは地中に残留し、地盤Gにドレーン材Dが挿設された状態となる。杭状体2Pを構築していた一対のチェーン2は、一対のスプロケット13の間を下方から上方へ通過すると互いの噛合いが解除されて分離した状態になる。
【0056】
この際、それぞれのチェーン2の噛合っていない領域は、収納部20を構成するそれぞれのガイドレール21(21a~21g)に沿って長手方向後端側に移動する。一対のチェーン2を長手方向後端側に移動させるときには、一対のスプロケット13に伴って一対のドラム14が逆方向に回転駆動することにより、それぞれのドラム14によって紐状体15が巻き取られるとともに、ドラム14とチェーン2の後端部2aとの間に延在する紐状体15が緊張した状態に維持される。
【0057】
この際、紐状体15の張力によって張力調整機構30の第2シーブ33にかかる応力の大きさに応じて、第2シーブ33がスライド移動することで、チェーン2と紐状体15との誘導長(移動距離)の差が吸収され、ドラム14とチェーン2の後端部2aとの間に延在する紐状体15の張力が、予め設定された所定範囲に維持される。
【0058】
打設システム1は移動させることができるので、複数箇所にドレーン材Dを挿設する場合には、打設システム1の設置位置を変えて同様の手順で施工を行う。
【0059】
このように本発明では、チェーン2の噛合っていない領域を、複数箇所を屈曲させた状態で収納部20に収納することで、空港の近辺や高圧線下などの高さ制限の厳しい現場であっても、杭状体2Pを形成する一対のチェーン2をコンパクトに収納できる。さらに、一対のスプロケット13が支持されているそれぞれの回転軸12にドラム14を設けて、ドラム14に巻装された紐状体15の先端部をチェーン2の後端部2aに接続している。そして、一対のチェーン2を長手方向に移動させるときには、一対のスプロケット13に伴って一対のドラム14が回転駆動することで、スプロケット13によるチェーン2の移動量に合わせて、それぞれのドラム14から繰り出される紐状体15の繰り出し長さが機械的に調整され、ドラム14とチェーン2の後端部2aとの間に延在する紐状体15が緊張した状態に維持される。
【0060】
収納部20に収納されているチェーン2が移動する際に、緊張した状態の紐状体15によってチェーン2の後端部2aが引っ張られた状態になるので、チェーン2が長手方向先端側に移動する際にも、チェーン2が長手方向後端側に移動する際にも、チェーン2が弛むことが抑制される。これにより、チェーン2の噛合っていない領域をそれぞれのガイドレール21a~21gに沿って円滑に移動させることが可能になる。チェーン2の噛合っていない領域が弛むことを抑制できることで、スプロケット13とチェーン2との噛み合い位置がずれる不具合や、一対のチェーン2どうしの?合わせ位置がずれる不具合が発生するリスクも低減できる。チェーン2の噛合っていない領域がガイドレール21a~21gの中途で引っ掛かって弛むリスクも低減できる。回転軸12の回転を急に停止させた場合にも、チェーン2が弛むことをより確実に防ぐことができる。
【0061】
このように、この打設システム1では、駆動機構9により一対の回転軸12を介して一対のスプロケット13と一対のドラム14とを回転駆動させるだけで、スプロケット13の回転駆動によるチェーン2の長手方向の移動距離と、ドラム14の回転駆動による紐状体15の移動距離とを概ね一致させることができ、杭状体2Pの長さを円滑に変更することが可能になる。例えば、一対のスプロケット13と一対のドラム14とを別々の駆動機構で回転駆動させる場合には、一対のスプロケット13の回転速度と一対のドラム14の回転速度とが一致するように、それぞれの駆動機構の出力を制御する必要があるが、この打設システム1では前述したような制御が不要となる。それ故、この打設システム1は比較的簡素な構成でありながら、空港の近辺や高圧線下などの高さ制限の厳しい現場であっても、杭状体2Pを形成する一対のチェーン2をコンパクトに収納しつつ、地盤Gに杭状体2Pを作業効率よく打設することができる。
【0062】
この実施形態のように、ドラム14とチェーン2の後端部2aとの間に延在する紐状体15の張力を予め設定された所定範囲に維持する張力調整機構30を設けると、紐状体15を張った状態に維持しつつ、紐状体15に過大な張力がかかることをより確実に回避できる。それ故、杭状体2Pの打設作業中に紐状体15が破断してチェーン2が弛むリスクを低減するにはより有利になる。
【0063】
収納部20に、紐状体15を案内するガイドシーブ24を設けると、収納部20における紐状体15の移動経路がより安定するので、紐状体15を安定した状態で移動させるにはより有利になる。紐状体15をガイドシーブ24に掛け回して、ガイドレール21に干渉しない構造にすることで、紐状体15がガイドレール21に接触して摩耗することや、紐状体15がガイドレール21の角等に引っ掛かって損傷することを抑制できる。
【0064】
ガイドレール21を、非噛合い駒5を構成する一対の側板5aどうしの間に配置された一対のレール板部22を有する構成にすると、簡素な構成でありながら、ガイドレール21に沿ってチェーン2を非常に安定した状態で移動させることができる。ガイドレール21(レール板部22)の端部にチェーン2を構成するカラー7が当接する構成にすると、ガイドレール21上をチェーン2が長手方向に移動する際に、連結ピン6に対してカラー7が回転することで、ガイドレール21とチェーン2との間で大きな摩擦が生じ難くなる。それ故、ガイドレール21に沿ってチェーン2を円滑に移動させるには有利になり、ガイドレール21およびチェーン2の摩耗や損傷を抑制するにも有利になる。
【0065】
チェーン2を構成する非噛合い駒5の中板5bが当接するガイドレール21では、ガイドレール21(レール板部22)のチェーン2と接触する部分に低摩擦材23を設けると、ガイドレール21とチェーン2との間の摩擦をより低減させることができるので、ガイドレール21に沿ってチェーン2を円滑に移動させるには有利になる。ガイドレール21およびチェーン2の摩耗や損傷を抑制するにも有利になる。なお、カラー7が当接する構成のガイドレール21に低摩擦材23を設けた場合にも、同様の効果を奏することができる。
【0066】
図11に本発明に係る別の実施形態の打設システム1を例示する。
【0067】
図11に例示するように、この実施形態では、台船50に打設システム1を搭載し、水底の地盤Gに杭状体2Pを打設する構成になっている。台船50には上下方向に延在する貫通孔51が設けられていて、その貫通孔51に、互いに噛合った一対のチェーン2で構築された杭状体2Pが挿通する構成になっている。その他の構成は、
図1~
図10に例示した実施形態の打設システム1と同じである。
【0068】
この実施形態のように、水上で動揺する台船50などの船舶や水上構造物などに打設システム1を搭載した場合にも、駆動機構9により一対の回転軸12を介して一対のスプロケット13と一対のドラム14を回転駆動させるだけで、杭状体2Pの長さを変更できるので、水底の地盤Gに杭状体2Pを安定した状態で作業効率よく打設できる。さらに、この打設システム1は、一対のチェーン2を収納部20にコンパクトに収納することができ、重心位置も低くできるので、台船50などの船舶や水上構造物にも非常に安定した状態で搭載できる。それ故、この打設システム1は、水底の地盤Gに杭状体2Pを打設する施工においても非常に有用である。
【0069】
上記では、杭状体2Pを上下方向に打設する場合を例示したが、打設システム1は設置する向きを変えることで、杭状体2Pを斜め方向や水平方向に打設することも可能である。また、打設システム1は、先端挿入部8に掘削機構(例えば、ドリル)などの他の機構を設けることで、ドレーン工法や地盤改良工法の他にも様々な工法に活用することができる。
【0070】
一対のチェーン2を構成する駒4、5の形状や構造は、上記で例示した実施形態に限定されず他の構成にすることもできる。また、収納部20は、チェーン2の噛合っていない領域の複数箇所が屈曲した状態で、チェーン2の噛合っていない領域が延在して収納される構成であれば、この実施形態に限定されず、他にも様々な構成にすることができる。例えば、収納部20を構成するガイドレール21の数や構造、ガイドシーブ24の数や配置などを異なる構成にすることもできる。例えば、ガイドレール21の中途にガイドシーブ24を設けることもできる。例えば、ガイドシーブ24を設けずに、紐状体15がガイドレール21に接触した状態となる構成にすることもできる。
【符号の説明】
【0071】
1 打設システム
2 チェーン
2a 後端部
2P 杭状体(一対のチェーンが噛合った領域)
3 連通孔
4 噛合い駒
4a 側板
4b 中板
5 非噛合い駒
5a 側板
5b 中板
6 連結ピン
7 カラー
8 先端挿入部
9 駆動機構
10 モータ
11 減速機
12 回転軸
13 スプロケット
14 ドラム
15 紐状体
16 支台
17 軸支部
20 収納部
21、21a~21g ガイドレール
22 レール板部
23 低摩擦材
24 ガイドシーブ
25 支持フレーム
26 連結フレーム
30 張力調整機構
31 第1シーブ
32 固定具
33 第2シーブ
34 連結具
35 スライド部
36 シリンダ
40 ドレーン供給機構
50 台船
51 貫通孔
D ドレーン材
A アンカー
G 地盤