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特開2024-60458熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイド及びその設計方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060458
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイド及びその設計方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 16/00 20060101AFI20240424BHJP
【FI】
C22C16/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167834
(22)【出願日】2022-10-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)ウェブサイトの掲載日 令和04年06月22日 ウェブサイトのアドレス <URL: https://arxiv.org/abs/2206.10859> (コーネル大学研究共用プラットフォーム arXiv.org 「Anomalous thermal expansion in a CuAl2-type superconductor CoZr2」) <資料>「Anomalous thermal expansion in a CuAl2-type superconductor CoZr2」 プリントアウト (2)ウェブサイトの掲載日 令和04年07月14日 ウェブサイトのアドレス <URL: https://arxiv.org/abs/2207.06747> (コーネル大学研究共用プラットフォーム arXiv.org 「Superconductivity of high-entropy-alloy-type transition-metal zirconide(Fe,Co,Ni,Cu,Ga)Zr2」) <資料>「Superconductivity of high-entropy-alloy-type transition-metal zirconide(Fe,Co,Ni,Cu,Ga)Zr2」 プリントアウト
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (3)ウェブサイトの掲載日 令和04年09月12日 ウェブサイトのアドレス <URL: https://doi.org/10.1088/2515-7639/ac8e34> (Journal of Physics: Materials J.Phys.Mater.5(2022)045001 「Superconductivity of high-entropy-alloy-type transition-metal zirconide(Fe,Co,Ni,Cu,Ga)Zr▲2▼」) <資料>「Superconductivity of high-entropy-alloy-type transition-metal zirconide(Fe,Co,Ni,Cu,Ga)Zr2」 プリントアウト (4)ウェブサイトの掲載日 令和04年09月21日 ウェブサイトのアドレス <URL: https://doi.org/10.7566/JPSJ.91.103601> (Journal of the Physical Society of Japan 91,103601(2022) 「Anomalous Thermal Expansion in a CuAl▲2▼-type Superconductor CoZr▲2▼」) <資料>「Anomalous Thermal Expansion in a CuAl▲2▼-type Superconductor CoZr▲2▼」 プリントアウト
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】水口 佳一
(72)【発明者】
【氏名】有馬 寛人
(57)【要約】
【課題】本発明は、低熱膨張性を示す遷移金属ジルコナイドおよびその設計方法の提供を目的とする。
【解決手段】本発明に係る低熱膨張性を示す遷移金属ジルコナイドは、CuAl構造を有する組成式TrZrで示される遷移金属ジルコナイドであり、結晶構造のTrサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置されたことを特徴とする。また、本発明に係る遷移金属ジルコナイドは、CuAl構造を有する組成式TrZrで示される遷移金属ジルコナイドであり、結晶構造のTrサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置され、さらに、前記Trサイトに、NiとGaのうち、1種または2種が位置されたことを特徴としてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuAl構造を有する組成式TrZrで示される遷移金属ジルコナイドであり、結晶構造のTrサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置されたことを特徴とする熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイド。
【請求項2】
CuAl構造を有する組成式TrZrで示される遷移金属ジルコナイドであり、結晶構造のTrサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置され、さらに、前記Trサイトに、NiとGaのうち、1種または2種が位置されたことを特徴とする熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイド。
【請求項3】
前記Trサイトに固溶された遷移金属の占有率が0%超~100%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイド。
【請求項4】
前記Trサイトに固溶された遷移金属の占有率が10%~100%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイド。
【請求項5】
CuAl構造を有する組成式TrZrで示される遷移金属ジルコナイドであり、結晶構造のTrサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置された熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドの設計方法であり、
前記Trサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上を固溶させる量を調整することにより、結晶のa軸とc軸が示す格子定数比を調整して熱膨張を調整することを特徴とする熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドの設計方法。
【請求項6】
前記Trサイトに固溶させる前記Fe、Co、Cu、Rh、Irのうち、1種または2種以上の遷移金属元素の添加量を選択する場合、固溶により正の熱膨張とする元素であるか、負の熱膨張とする元素であるかを把握した上で、熱膨張を0に接近させるように前記遷移金属元素の選択とその添加量を調整することを特徴とする請求項5に記載の熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドの設計方法。
【請求項7】
CuAl構造を有する組成式TrZrで示される遷移金属ジルコナイドであり、結晶構造のTrサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置され、さらに、前記Trサイトに、NiとGaのうち、1種または2種が位置された熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドの設計方法であり、
前記Trサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Ir、Ni、Gaの遷移金属元素のうち、1種または2種以上を固溶させる量を調整することにより、結晶のa軸とc軸が示す格子定数比を調整して熱膨張を調整することを特徴とする熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドの設計方法。
【請求項8】
前記Trサイトに固溶させる前記Fe、Co、Cu、Rh、Ir、Ni、Gaのうち、1種または2種以上の遷移金属元素の添加量を選択する場合、固溶により正の熱膨張とする元素であるか、負の熱膨張とする元素であるかを把握した上で、熱膨張を0に接近するように前記遷移金属元素の選択とその添加量を調整することを特徴とする請求項7に記載の遷移金属ジルコナイドの設計方法。
【請求項9】
前記遷移金属元素の選択とその添加量を調整することにより、結晶のc/aで示される格子定数比を調整し、熱膨張をゼロ熱膨張に近付けることを特徴とする請求項5~請求項8のいずれか一項に記載の遷移金属ジルコナイドの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイド及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの物質は昇温とともに結晶格子(格子定数)が増大し熱膨張する。希に、昇温とともに格子定数が減少する負の熱膨張を示す材料が存在し、現状ではタングステン酸化物(ZrW)や高温超伝導体のBSCCO(Bi系酸化物超伝導体)などが知られている。
負の熱膨張係数を示す材料は、相転移近傍の狭い温度範囲でのみ負の熱膨張係数を有することが多く、低温から高温まで広い温度範囲で負の熱膨張を示す材料として知られているのは、タングステン酸化物(ZrW)などに限られている。
タングステン酸化物については、非特許文献1に開示され、Bi系酸化物超伝導体については、非特許文献2に開示されている。
【0003】
一般的に、負の熱膨張を示す材料と正の熱膨張を示す材料を混ぜ合わせることでコンポジット材料を作製し、ゼロ熱膨張材料として利用しようとする試みが、様々なデバイスで研究されている。
【0004】
本発明者らは、これまでに、以下の非特許文献3に記載のようにCoZrなる組成の超伝導体において、遷移金属元素が占めるサイトに他の元素を置換することで結晶構造や臨界温度に及ぼす影響に関し、研究している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. A. MARY et al., "Negative Thermal Expansion from 0.3 to 1050 Kelvin in ZrW2O8", Science 272, 90 (1996).
【非特許文献2】S. V. Pryanichnikov, et al., "Negative thermal expansion coefficient in the high-temperature superconductor Bi2Sr2CaCu2O8+x", J. Exp. Theor. Phys. 107, 69 (2008).
【非特許文献3】Md. R. Kasem, et al., "Anomalous broadening of specific heat jump at Tc in high-entropy-alloy-type superconductor TrZr2", Supercond. Sci. Technol. 34, 125001 (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に示すように広い温度範囲で負の熱膨張を示す材料は限られており、他に負の熱膨張を示す材料が見つかると、様々な電子デバイスに応用可能なゼロ熱膨張材料の開発に繋がる利点がある。
本発明者の前述の研究に基づき、CoZrおよび関連する遷移金属ジルコナイドTrZr(Tr:遷移金属)において、結晶のa軸が幅広い温度域で正の熱膨張を示すのに対し、c軸が幅広い温度域で負の熱膨張を示す物質の合成に成功した。また、この物質の合成に伴い、結晶構造の調整によりa軸とc軸の熱膨張の変化率を制御する技術について研究した結果、a軸とc軸の変化率を制御することが可能となり、熱膨張を調整した材料の製造ができるようになった。
【0007】
本発明は上述の背景に基づきなされたもので、広い温度範囲で加熱による体積変化を低く抑えることができ、組成に応じて0に近い体積変化を示す、熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドとその設計方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本形態に係る熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドは、CuAl構造を有する組成式TrZrで示される遷移金属ジルコナイドであり、結晶構造のTrサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置されたことを特徴とする。
(2)本形態に係る熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドは、CuAl構造を有する組成式TrZrで示される遷移金属ジルコナイドであり、結晶構造のTrサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置され、さらに、前記Trサイトに、NiとGaのうち、1種または2種が位置されたことを特徴とする。
【0009】
(3)本形態に係る熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドにおいて、前記Trサイトに固溶された遷移金属の占有率が0%超~100%であることが好ましい。
(4)本形態に係る熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドにおいて、前記Trサイトに固溶された遷移金属の占有率が10%~100%であることが好ましい。
【0010】
(5)本形態に係る熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドの設計方法は、CuAl構造を有する組成式TrZrで示される遷移金属ジルコナイドであり、結晶構造のTrサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置された熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドの設計方法であり、前記Trサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上を固溶させる量を調整することにより、結晶のa軸とc軸が示す格子定数比を調整して熱膨張を調整することを特徴とする。
(6)本形態に係る熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドの設計方法において、前記Trサイトに固溶させる前記Fe、Co、Cu、Rh、Irのうち、1種または2種以上の遷移金属元素の添加量を選択する場合、固溶により正の熱膨張とする元素であるか、負の熱膨張とする元素であるかを把握した上で、前記遷移金属元素の選択と添加量に応じて最終的な熱膨張を0に接近させるように前記遷移金属元素とその添加量を調整することが好ましい。
【0011】
(7)本形態に係る熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドの設計方法は、CuAl構造を有する組成式TrZrで示される遷移金属ジルコナイドであり、結晶構造のTrサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置され、さらに、前記TrサイトにNiとGaのうち、1種または2種が位置された熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドの設計方法であり、前記Trサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Ir、Ni、Gaの遷移金属元素のうち、1種または2種以上を固溶させる量を調整することにより、結晶のa軸とc軸が示す格子定数比を調整して熱膨張を調整することを特徴とする。
(8)本形態に係る熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドの設計方法において、前記Trサイトに固溶させる前記Fe、Co、Cu、Rh、Ir、Ni、Gaのうち、1種または2種以上の遷移金属元素の添加量を選択する場合、固溶により正の熱膨張とする元素であるか、負の熱膨張とする元素であるかを把握した上で、熱膨張を0に接近させるように前記遷移金属元素の選択とその添加量を調整することが好ましい。
(9)本形態に係る熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドの設計方法において、前記遷移金属元素の選択とその添加量を調整することにより、結晶のc/aで示される格子定数比を調整し、熱膨張をゼロ熱膨張に近付けることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、広い温度範囲で熱膨張性が極めて小さいか、0に近い熱膨張性を示す遷移金属ジルコナイドを提供できる。
また、本発明によれば、広い温度範囲で熱膨張性が極めて小さいか、0に近い熱膨張性を示す遷移金属ジルコナイドの設計方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るCoZrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイドの結晶構造を示す構成図。
図2】同遷移金属ジルコナイド結晶の単位胞を示す構成図。
図3】実施例において作製したCoZrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料の中性子粉末回折結果を示すグラフ。
図4図3に示す回折結果において2θ=40゜近傍から2θ=48゜近傍までの範囲における回折ピークを拡大して示す図。
図5】実施例において製造したCoZrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料のX線粉末回折結果を示すグラフ。
図6図3図5に示す回折ピークの解析から得られるa軸の格子定数の温度変化を示すグラフ。
図7図3図5に示す回折ピークの解析から得られるc軸の格子定数の温度変化を示すグラフ。
図8図6に示す結果と図7に示す結果から得られる格子体積の温度依存性を示すグラフ。
図9】(Fe,Co,Ni)Zrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、a軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ。
図10】(Fe,Co,Ni)Zrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、c軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ。
図11図9に示す結果と図10に示す結果から得られる格子体積の温度依存性を示すグラフ。
図12】(Fe,Co,Ni,Rh,Ir)Zrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、a軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ。
図13】(Fe,Co,Ni,Rh,Ir)Zrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、c軸の格子定数におおける温度依存性を示すグラフ。
図14図12に示す結果と図13に示す結果から得られる格子体積の温度依存性を示すグラフ。
図15】NiZrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、a軸とc軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ。
図16】NiZrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、格子体積の温度依存性を示すグラフ。
図17】RhZrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、a軸とc軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ。
図18】RhZrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、格子体積の温度依存性を示すグラフ。
図19】(Co,Rh,Ir)Zrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、a軸とc軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ。
図20】(Co,Rh,Ir)Zrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、格子体積の温度依存性を示すグラフ。
図21】(Co,Ni,Cu,Rh,Ir)Zrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、a軸とc軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ。
図22】(Co,Ni,Cu,Rh,Ir)Zrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、格子体積の温度依存性を示すグラフ。
図23】NiZr、CoZr、RhZr、(Fe,Co,Ni)Zr、(Co,Rh,Ir)Zr、(Fe,Co,Ni,Rh,Ir)Zr、(Co,Ni,Cu,Rh,Ir)Zr、(Fe,Co,Ni,Cu,Ga)Zrのいずれかの組成式で示される各試料におけるΔa/aの温度依存性を示すグラフ。
図24】NiZr、CoZr、RhZr、(Fe,Co,Ni)Zr、(Co,Rh,Ir)Zr、(Fe,Co,Ni,Rh,Ir)Zr、(Co,Ni,Cu,Rh,Ir)Zr、(Fe,Co,Ni,Cu,Ga)Zrのいずれかの組成式で示される各試料におけるΔc/cの温度依存性を示すグラフ。
図25】NiZr、CoZr、RhZr、(Fe,Co,Ni)Zr、(Co,Rh,Ir)Zr、(Fe,Co,Ni,Rh,Ir)Zr、(Co,Ni,Cu,Rh,Ir)Zr、(Fe,Co,Ni,Cu,Ga)Zrのいずれかの組成式で示される各試料におけるc/aの温度依存性を示すグラフ。
図26】NiZr、CoZr、RhZr、(Fe,Co,Ni)Zr、(Co,Rh,Ir)Zr、(Fe,Co,Ni,Rh,Ir)Zr、(Co,Ni,Cu,Rh,Ir)Zr、(Fe,Co,Ni,Cu,Ga)Zrのいずれかの組成式で示される各試料における(Δc/ΔT×10-4)の値(Å/K)とc/aの値(室温)の関係を示すグラフ。
図27】(Fe,Co,Ni,Cu,Ga)Zrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイドの結晶構造の一例を示す構成図。
図28】(Fe,Co,Ni,Cu,Ga)Zrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、a軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ。
図29】(Fe,Co,Ni,Cu,Ga)Zrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料において、c軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ。
図30図28に示す結果と図29に示す結果から得られる格子体積の温度依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る熱膨張性を制御した遷移金属ジルコナイドおよびその設計方法について説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合がある。
【0015】
図1図2は、本実施形態に係る低熱膨張性を示す遷移金属ジルコナイドの結晶構造の一例を示す図であり、本実施形態に係る遷移金属ジルコナイドは、遷移金属元素(以下Trと略記することがある)とZrにより、CuAl型結晶構造を有する。組成式で記載するとなると、TrZrと表記することができる。Trは以下に説明する遷移金属元素の1種または2種以上を示す。
Trで示す遷移金属元素として本実施形態では、Fe、Co、Cu、Rh、Irのうち、1種または2種以上を選択して適用することができる。
また、本実施形態では、遷移金属としてFe、Co、Cu、Rh、Irのうち、1種または2種以上を選択して適用し、さらに、NiとGaのうち、1種または2種を選択することができる。
【0016】
図1に示すようにZr原子が3次元的に配列されている格子のTrサイトに例えばCo原子などの遷移金属原子が固溶され、配置されている。
遷移金属ジルコナイドの結晶の格子単位を図2に示す実線で囲む直方体形状に表すことができ、格子定数a、aと格子定数cがそれぞれの単位格子の一辺を表している。
図2に示す結晶構造において、300Kにおける線熱膨張係数α(例えばc軸)は、α=(Δc/ΔT)・(1/c(300K))の式で示すことができる。
本実施形態の遷移金属ジルコナイドの結晶において、a軸については正の熱膨張性を示すが、c軸については組成に応じて負の熱膨張性を示す。
遷移金属ジルコナイドの結晶を考慮した場合、単位格子の体積はa×a×cで表記できるので、a軸かc軸の一方が負の熱膨張性を示し、他方が正の熱膨張性を示すと、ゼロ熱膨張材料を提供可能であると推定できる。
【0017】
CuAl型結晶構造のTrサイトに固溶させる元素としてFe、Co、Cu、Rh、Irのうち、1種または2種以上を選択した場合、Trサイトの数に対し0%超~100%の範囲でこれら元素の1種または2種以上を固溶することができる。
CuAl型結晶構造のTrサイトに固溶させる元素の占有率として、10%~100%の範囲を選択することがより好ましい。
別の例として、Trサイトに固溶可能なFe、Co、Cu、Rh、Ir、Ni、Gaの7つの元素のうち、主要とする元素を除いて他の6つの元素を0.1%ずつ固溶させ、主要とする元素を99.4%固溶させる組成とすることもできる。
【0018】
Trサイトに具体的に遷移元素を固溶させた構成の一例として、NiZr、CoZr、RhZr、(Fe,Co,Ni)Zr、(Co,Rh,Ir)Zr、(Fe,Co,Ni,Rh,Ir)Zr、(Co,Ni,Cu,Rh,Ir)Zr、(Fe,Co,Ni,Cu,Ga)Zrのいずれかの組成式で示す遷移金属ジルコナイドを例示することができる。
例えば、NiZrで示す遷移金属ジルコナイドに含まれているNiの一部をFe、Co、Cu、Rh、Ir、Gaのうち、1種または2種以上で置換することができる。
CoZrで示す遷移金属ジルコナイドに含まれているCoの一部をFe、Ni、Cu、Rh、Ir、Gaのうち、1種または2種以上で置換することができる。
RhZrで示す遷移金属ジルコナイドに含まれているRhの一部をFe、Ni、Cu、Co、Ir、Gaのうち、1種または2種以上で置換することができる。
【0019】
上述の具体的な遷移金属ジルコナイドにおいて、NiZrはc軸方向に正の熱膨張性を示し、CoZrとRhZrはc軸方向に負の熱膨張性を示す。CoZrとRhZrの熱膨張の値は、RhZrの方がCoZrよりも0に近く、同じ負の熱膨張を有するといえども、それぞれ値が異なる。
具体的な組成として、例えば、(Fe1/3Co1/3Ni1/3)Zrは、c軸方向に負の熱膨張性を示す。
(Fe0.2Co0.2Ni0.2Rh0.2Ir0.2)Zrは、c軸方向に負の熱膨張性を示す。
(Co1/3Rh1/3Ir1/3)Zrは、c軸方向に負の熱膨張性を示す。
(Co0.2Ni0.1Cu0.1Rh0.3Ir0.3)Zrは、c軸方向に負の熱膨張性を示す。
(Fe0.2Co0.2Ni0.2Cu0.2Ga0.2)Zrは、ほぼゼロ熱膨張性を示す。
【0020】
例えば、後述する実施例において詳細に説明するが、図26に示すように、室温における遷移金属ジルコナイド結晶のc軸の格子定数とa軸の格子定数の比であるc/aの値を横軸に示し、縦軸に温度(T)によるc軸の変化量である(Δc/ΔT×10-4)(Å/K)を示すグラフを描くことができる。なお、図26で略記した遷移金属ジルコナイドの詳細組成は、上の段落において具体的な組成として表記した組成に対応する。
図26に示すグラフから、NiZrは室温においてc軸方向に正の熱膨張性を示し、CoZrとRhZrは室温においてc軸方向に負の熱膨張性を示し、c/aの値もそれぞれ異なる値を示すことがわかる。また、NiZrとCoZrとRhZrにおいて、遷移金属元素を複数の他の遷移金属元素に置換することで、c軸方向の格子定数の変化とc/aの値も種々異なることがわかる。
【0021】
図26に示す結果から判ることは、NiZrとCoZrとRhZrにおいて、それぞれの遷移金属元素を複数の他の遷移金属元素に置換し、それらの置換量を調整することにより、c軸方向の熱膨張性を室温において0に近い極めて低い範囲(-2.0~+1.0Å/K)に制御することができること、また、c/aの値も0.8~0.88の範囲で制御できることである。図26に示す例では、具体的に熱膨張性を-1.6~+0.6Å/Kの範囲に制御し、c/aを0.81~0.87の範囲に制御することができている。
例えば、(Fe0.2Co0.2Ni0.2Cu0.2Ga0.2)Zrであれば、c軸方向にほぼゼロ熱膨張の材料を得ることができることを意味する。
このようにc軸方向にほぼゼロ熱膨張の材料を提供できるならば、様々な電子デバイスに応用可能な有望なゼロ熱膨張材料の提供ができることとなる。また、ゼロ熱膨張材料は光学分野における構造材にも好適に適用できる。
【0022】
「遷移金属ジルコナイドの製造方法」
実施形態に係る遷移金属ジルコナイドを製造するには、目的とする組成比となるように遷移金属元素粉末とジルコニウムシートを原料として混合し、アーク溶解法により溶解して合金溶湯を作製し、この合金溶湯を急冷して合金鋳塊として得ることができる。急冷は数℃/s程度の割合で冷却する冷却速度を採用することができる。
アーク溶解法ではアルゴン雰囲気中などの不活性ガス雰囲気に調整し、出力電流0-50Aで溶解し、この溶解を3回~5回程度繰り返すことが望ましい。
目的の組成比に原料を混合し、繰り返し溶解と急冷を繰り返すことにより、例えば、遷移金属としてCoを用いた場合に図1に示す結晶構造を有する遷移金属ジルコナイドを得ることができる。
【0023】
図1に示す結晶は、CoZrで示す遷移金属ジルコナイドの結晶であるが、これに代えて、Coの一部をFeとNiで置換した遷移金属ジルコナイドとする場合は、原料としてのCo粉末の一部を目的の組成に合わせてFe粉末とNi粉末に置き換えた原料とし、ジルコニウムシートの上に混合金属粉末のペレットとして置き、一緒に溶解するアーク溶解を行えば良い。
例えば、(Fe1/3Co1/3Ni1/3)Zrとする場合は、原料として先に用いたCo粉末の1/3をFe粉末に、Co粉末の1/3をNi粉末に置換してアーク溶解に用いることができる。
例えば、(Co1/3Rh1/3Ir1/3)Zrとする場合は、原料として先に用いたCo粉末の1/3をRh粉末に、Co粉末の1/3をIr粉末に置換してアーク溶解に用いることができる。
【0024】
換言すると、結晶構造のTrサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置され、さらに、Trサイトに、NiとGaのうち、1種または2種が位置された遷移金属ジルコナイドを製造する場合、
Trサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Ir、Ni、Gaの遷移金属元素のうち、1種または2種以上を固溶させる量を調整することにより、結晶のa軸とc軸が示す格子定数比を調整し、熱膨張を調整した遷移金属ジルコナイドを得ることができる。
【0025】
Trサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置され、さらに、Trサイトに、NiとGaのうち、1種または2種が位置された遷移金属ジルコナイドを製造する場合、
Trサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Ir、Ni、Gaの遷移金属元素のうち、1種または2種以上を固溶させる量を調整することにより、結晶のa軸とc軸が示す格子定数比を調整し、熱膨張を調整した遷移金属ジルコナイドを製造することができる。
【0026】
また、Trサイトに固溶させるFe、Co、Cu、Rh、Ir、Ni、Gaのうち、1種または2種以上の遷移金属元素の添加量を選択する場合、固溶により正の熱膨張とする元素であるか、負の熱膨張とする元素であるかを把握し、それぞれ添加した場合のc軸の負の熱膨張性を把握した上で、a軸の正の熱膨張と合わせて熱膨張を0に接近するように遷移金属元素の選択とその添加量を調整することで、ゼロ熱膨張性の遷移金属ジルコナイドを得ることができる。
例えば、後述する図26に示すようにΔc/ΔT×10-4(Å/K)とc/a(室温)の関係を求め、Δc/ΔT×10-4の値が正の値を示す組成と、負の値を示す組成でバランスしてゼロ膨張に近づくように組成を選択することにより、ゼロ熱膨張を示す遷移金属ジルコナイドを設計できる。
【実施例0027】
以下に実施例について詳細に説明し、本発明に係る遷移金属ジルコナイドについて更に詳しく説明する。なお、本発明に係る遷移金属ジルコナイドは、以下の実施例に示す遷移金属ジルコナイドに制約されるものではなく、実施例に示していない遷移金属の組合せ、添加量を上述した範囲で適宜選択できるのは勿論である。
遷移金属ジルコナイドの作製のために、Fe粉末(純度99.9%)、Co粉末(99%)、Ni粉末(99.9%)、Rh粉末(99.9%)、Ir粉末(99.9%)、Cu粉末(99.9%)、Ga粉末(99.9999%)とジルコニウムプレート(99.2%)を用意した。
アルゴン雰囲気中で行う真空アーク溶解により、前述のCo粉末とジルコニウムプレートを溶解し、溶解後は水冷した銅製の試料台座上で急冷する処理を3~5回繰り返すことにより遷移金属ジルコナイドの粒状試料を製造した。急冷処理により、溶解温度である約2000℃から水温となるまで、数秒で冷却している。
【0028】
図3は、CoZrなる組成式で示される遷移金属ジルコナイド試料の粉末中性子回折結果を示すグラフであり、図4は、図3に示す回折結果において2θ=40゜近傍から2θ=48゜付近までの回折ピークを拡大して示す図である。図5は同試料の粉末X線回折結果を示す。
図3図4に示すように、7K、50K、100K、170K、293Kの何れの温度においても同様な回折ピークが得られた。図5に示すように得られたX線回折ピークから、この遷移金属ジルコナイド試料は、CoZr(79%)、CoZr(16%)、CoZr(5%)を含む試料であると推定できる。
【0029】
次に、図3図5に示す回折ピークの解析から得られるa軸の格子定数の温度変化を図6に示し、図3図5に示す回折ピークの解析から得られるc軸の格子定数の温度変化を図7に示す。
さらに、図6に示す結果と図7に示す結果から得られる格子体積の温度依存性を図8に示す。なお、図6図7において、低温側(7K~293K)は粉末中性子回折法(NPD)を用いた回折に基づく解析結果であり、高温側(300K~600K)は粉末X線回折法(XRD)を用いた回折に基づく解析結果である。このため、低温側と高温側の境界領域において測定値にずれを生じているが、回折法が異なるためのずれであり、この程度のずれは通常の範囲内である。
図6図7から、温度が上昇するとa軸の格子定数が増加し、c軸の格子定数は小さくなることが判る。また、図8に示すように300K~500K前後の広い温度範囲において格子体積変化が極めて少ないか、ほぼ0となる遷移金属ジルコナイドを得ることができることが判る。
【0030】
図9図11は、前述のFe粉末とCo粉末とNi粉末とジルコニウムプレートを用いてアーク溶解により作製した(Fe1/3Co1/3Ni1/3)Zrなる組成の遷移金属ジルコナイド試料の解析結果を示す。
図9は前述の組成の遷移金属ジルコナイド試料に関するa軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ、図10はc軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ、図11は格子体積の温度依存性を示すグラフである。
図9図10は、先に図3図5で示したような粉末中性子線回折と粉末X線回折による回折ピークを試料に対し温度毎に測定し、それらの結果から先に説明した場合と同様に得られる。図11に示す格子体積の結果についても先の場合と同様に図9図10に示す結果から得られる。図9図10に示す結果において、先に説明した図6図7の場合と同様に回折法の違いにより300K付近の領域に測定値のずれを生じている。
図11に示すように、300K~500Kの広い温度範囲において、格子体積変化が極めて少ないか、ほぼ0となる遷移金属ジルコナイドを得られることが判る。
【0031】
図12図14は、前述のFe粉末とCo粉末とNi粉末とRh粉末とIr粉末とジルコニウムプレートを用いてアーク溶解により作製した(Fe0.2Co0.2Ni0.2Rh0.2Ir0.2)Zrなる組成の遷移金属ジルコナイド試料の解析結果を示す。
図12は前述の組成の遷移金属ジルコナイド試料に関するa軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ、図13はc軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ、図14は格子体積の温度依存性を示すグラフである。
図14に示すように、150K~400Kの広い温度範囲において、格子体積変化が極めて少ないか、ほぼ0となる遷移金属ジルコナイドを得られることが判る。
【0032】
図15は、前述のNi粉末とジルコニウムプレートを用いてアーク溶解により作製したNiZrなる組成の遷移金属ジルコナイド試料における、a軸とc軸の格子定数の温度依存性を示す。図16は、同試料の格子体積における温度依存性を示す。
図16に示す解析結果から、NiZrなる組成の遷移金属ジルコナイド試料は300K~600Kの温度範囲において正の熱膨張を示す遷移金属ジルコナイドであることが判る。
【0033】
よって、遷移金属ジルコナイドのTrサイトに固溶する遷移金属元素を選択する場合、Ni単独で100%固溶させると、低熱膨張性の遷移金属ジルコナイドを作製できないことがわかる。なお、本発明者の他の試験により、熱膨張に関し、GaもNiと同じ傾向を有することが判明している。
このため、Trサイトに固溶可能な遷移金属元素として選択可能とするFe、Co、Cu、Rh、Ir、Ni、Gaの7元素のうち、Fe、Co、Cu、Rh、Irの5元素については、Trサイトに100%まで固溶可能である。これにより、低熱膨張性を示す遷移金属ジルコナイドを提供できる。
しかし、NiとGaについては、低熱膨張性を得るためには、Fe、Co、Cu、Rh、Irの5元素のうち、1種または2種以上を必須成分としてTrサイトに固溶させた上で必要量のNiとGaをTrサイトに固溶させる必要がある。
従って、低熱膨張性を示す遷移金属ジルコナイドを得ようとする場合、Trサイトに、Fe、Co、Cu、Rh、Irの遷移金属元素のうち、1種または2種以上が位置され、さらに、前記Trサイトに、NiとGaのうち、1種または2種が位置されることを要する。
【0034】
図17は、前述のRh粉末とジルコニウムプレートを用いてアーク溶解により作製したRhZrなる組成の遷移金属ジルコナイド試料における、a軸とc軸の格子定数の温度依存性を示す。図18は、同試料の格子体積における温度依存性を示す。
図18に示す結果から、RhZrなる組成の遷移金属ジルコナイド試料は300K~500K前後の温度範囲において格子体積変化が極めて小さいか、ほぼ0となる遷移金属ジルコナイドを提供可能であると推定できる。
【0035】
図19は、前述のCo粉末とRh粉末とIr粉末とジルコニウムプレートを用いてアーク溶解により作製した(Co1/3Rh1/3Ir1/3)Zrなる組成の遷移金属ジルコナイド試料における、a軸とc軸の格子定数の温度依存性を示す。図20は、同試料の格子体積における温度依存性を示す。
図20に示す解析結果から、(Co1/3Rh1/3Ir1/3)Zrなる組成の遷移金属ジルコナイド試料は300K~450K前後の温度範囲において格子体積変化が極めて小さいか、ほぼ0となる遷移金属ジルコナイドを提供可能であると推定できる。
【0036】
図21は、前述のCo粉末とNi粉末とCu粉末とRh粉末とIr粉末とジルコニウムプレートを用いてアーク溶解により作製した(Co0.2Ni0.1Cu0.1Rh0.3Ir0.3)Zrなる組成の遷移金属ジルコナイド試料における、a軸とc軸の格子定数の温度依存性を示す。図22は、同試料の格子体積における温度依存性を示す。
図22に示す解析結果から、(Co0.2Ni0.1Cu0.1Rh0.3Ir0.3)Zrなる組成の遷移金属ジルコナイド試料は350K~450K前後の温度範囲において格子体積変化が極めて小さいか、ほぼ0となる遷移金属ジルコナイドを提供可能であると推定できる。
【0037】
図23は、NiZr、CoZr、RhZr、(Fe1/3Co1/3Ni1/3)Zr、(Co1/3Rh1/3Ir1/3)Zr、(Fe0.2Co0.2Ni0.2Rh0.2Ir0.2)Zr、(Co0.2Ni0.1Cu0.1Rh0.3Ir0.3)Zr、(Fe0.2Co0.2Ni0.2Cu0.2Ga0.2)Zrのいずれかの組成式で示される各試料におけるΔa/aの温度依存性を示すグラフである。図24は、図23に示す結果を求めた各組成試料に対応するΔc/cの温度依存性を示すグラフである。
図23図24に示す結果から判るように、NiZrを除く他の全ての遷移金属ジルコナイド試料は、a軸の格子定数が温度の上昇とともに増加するが、c軸の格子定数は温度の上昇とともに減少する傾向を示している。
【0038】
図25は、前述の各組成試料におけるc/aの温度依存性を示し、図26は前述の各組成試料における(Δc/ΔT×10-4)(Å/K)の値と室温におけるc/aの値の関係を示す。
図26に示すように、(Fe0.2Co0.2Ni0.2Rh0.2Ir0.2)Zrなる組成の遷移金属ジルコナイド試料は、室温において(Δc/ΔT×10-4)(Å/K)の値がほぼ0となる試料であることが判る。
この試料は、Trサイトに適切な遷移金属元素を適切な量だけ固溶した結果、室温においてほぼゼロ熱膨張を示す遷移金属ジルコナイドであることがわかった。
また、各組成の試料は、室温におけるc/aの値が0.81~0.87の範囲に分散しており、かつ、(Δc/ΔT×10-4)(Å/K)の値が-1.7~+0.6の範囲に分散している。
本願明細書において低熱膨張性と規定する範囲として、(Δc/ΔT×10-4)(Å/K)の値が-2.0~+1.0の範囲であることが望ましく、-1.6~0.6の範囲であることがより望ましい。
【0039】
図27は、Zrと遷移金属元素が構成するCuAl型結晶構造のTrサイトに、Fe、Co、Ni、Cu、Gaが固溶していることを示した結晶構造の模式図である。
図28図30は、前述のFe粉末とCo粉末とNi粉末とCu粉末とGa粉末とジルコニウムプレートを用いてアーク溶解により作製した(Fe0.2Co0.2Ni0.2Cu0.2Ga0.2)Zrなる組成の遷移金属ジルコナイド試料の解析結果を示す。
【0040】
図28は前述の組成の遷移金属ジルコナイド試料に関するa軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ、図29はc軸の格子定数における温度依存性を示すグラフ、図30は格子体積の温度依存性を示すグラフである。
図29に示すように、100K~200Kの広い温度範囲において、c軸方向の格子定数変化が極めて少ないか、ほぼ0となる遷移金属ジルコナイドを得られることが判る。
図29に示す遷移金属ジルコナイドであれば、c軸方向に100K~200Kの温度範囲においてほとんど熱膨張を示さない素材を提供できる。この素材はバルクとしてc軸方向に熱膨張しない素材であるので、この温度範囲でc軸方向に熱膨張しない熱膨張に関するリファレンス体を構成する素材に応用できる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る遷移金属ジルコナイドは、熱膨張性を極めて小さくすることができ、ゼロ熱膨張材料として提供可能であり、コンポジット材料ではなくとも単一材としてのゼロ熱膨張材料を提供可能とする。従って、様々な電子デバイスに応用可能であり、熱膨張が少ないか、ゼロであることを要望する光学分野の構成材料として有効に活用でき、産業の発展に寄与する。
図1
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